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atsushi3110

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ちゃぶ台の上に適当に置かれた紙袋。 おそ松あたりがパチンコで交換してきたのだろうその中には、珍しくもない菓子が詰まっていた。 スルメ、ポテトチップス、クッキー、缶ジュース、チョコレート。 片づけられていないもの、名前の書いていないものはこの家では共用となっているので、しまうのが面倒だし適当に食べろよという意思表示のようなそれに手を伸ばす。 そう言えば最近甘いものを食べていなかったなと思って、チョコレートを手に取る。 メーカーの名前が描かれたありきたりな板チョコ。 包装紙をはがして銀色の包み紙ごとパキンと砕く。 「っん……。」 口の中に広がる濃い甘さを知らないわけではなかったが、なんだかひどく美味く感じて、カラ松はもうひとかけら、もうひとかけらと口に放り込む。 ぽくっと割れる歯ごたえと、そのあとに舌にとろりと絡むチョコレート。 鼻に抜ける匂い、咥内で柔らかくなっていくその感触までが脳を痺れさせる。 「……おいしい。」 ぱきん、ぱきん、溝にそって丁寧に折っては舌に乗せる。 あんまりたくさん食べるのもよくないだろうとわかっているから、まだ足りないという思いはあったが半分ほど残して包み紙で適当に包んだ。 「なんか、……幸せだな。」 最近なんとなく感じていた鬱屈した気分が晴れて行くようで、ひどく気分がいい。 今日は久しぶりに屋根でギターでも弾こうか。 怪我をしてからというものギプスが取れるのに時間がかかってしまい、すこし体力が落ちてしまったので屋根に上ることもしていなかった。 カラ松はお腹のポケットに残りのチョコレートを突っ込むと、愛用のギターを担いで屋根に上った。 日差しもぽかぽか暖かくて、気分良くごろんと転がる。 いつだったかは猫に鳴かれて落ちたことがあるので、今日はすこし慎重に。 ギターと一緒に持ってきた大きなバスタオルを敷いくと、その上で横になるって目を閉じる。 車が行きかう振動、誰かが家を出て行く音、帰って来た声。 そんなのを聞きながらうつらうつらまどろんでいると、気がつくとこの屋根を見上げていた。 「……っえ……？」 自分は屋根から落ちたのだろうか、焦って周囲を見回そうとしたら、なんだかやけに体が窮屈だ。 「んっ……、あ……？……ぁ、あっ、ぅあぁっ、っぁあああっ！！！」 見上げた自分の家、二階の窓、怒った５つの顔。 あぁ嫌だ、これは嫌な瞬間。 身を捩っても動けないのは、ぎゅぅぎゅぅに縛られているせいだ。 みんなが不機嫌な顔をして自分をみているから、上手く言葉が出てこない。 記憶にある衝撃を耐えようとぐっと歯を食いしばって目を瞑る。 「っはぁあっ！！！……ぅ、……ぁ、あっ……は、ぁ……。」 一気に覚醒して目を開ける。 そこはのどかな昼下がり、屋根の上。 柔らかなタオルを引き千切りそうになるほどしがみついて、カラ松は震えていた。 「ぁ……な、んだ……夢、か……。」 言葉に出して自分を安心させる。 あの日は過去のことで、いまさらどうということもない。 怪我も治ったし、兄弟とは相変わらずの関係を続けている。 こんな悪夢を見るほど気にしているのは自分だけのはず。 とっとと忘れてしまえばいいのに、なんともしつこく恨みがましいことだ。 カラ松は太い眉を歪めてわらうと、もう一度ごろりと転がった。 すっかりギターを弾く気は失せてしまった。 まぁ、もとよりかき鳴らす気などなかったのだが。 前はここで歌うのが好きだったが、兄弟からの評判はまぁ散々だったので。 ここまでギターをもってきたのだって、弾くためじゃない。 ちょっとだけ気にいっているものを抱きしめてすごせたらと思っただけなのだ。 そっとケースを撫でて、ごめんなと謝る。 楽器は弾いてあげなくては可哀想だと思うのだが、当分弾くつもりはなかった。 でも、それでよかった。 自分だってあんまり頻繁に批判されしまうと悲しくなってしまう。 だったらなんにもしなければいい、カラ松はそっとそんなことを考えていた。 ころんと寝がえりを打った時、ポケットの中のものを思いだす。 「さっき食べたばっかりだけど……。」 まだ半分残っているチョコレート。 さっき食べた時の味が忘れられなくて、食べ過ぎかなと思いながらまた銀色の包みを破いた。 「んぅ……、ん、うまいなぁ……。」 口の中で溶けているのが幸せで、思わず頬を押さえてしまう。 もうひとつ、もうひとつだけ……。 我ながら意志が弱い、呆れながら最後のひとかけらを口に入れてしまった。 「おいしぃなぁ……。」 口の中でとろける快感にうっとりしてしまう。 こんなに手軽に幸せを感じられるなんてすごいな、そう思うと、なくなってしまったことがひどく残念だった。 カラ松は少し考えて、家に戻った。 「なにこれ誰の？なんでこんなにいっぱいあるの？」 さっそくトド松に指摘されて、俺のだと答える。 「たくさんあるし、ほしければ食っていいぞ。」 「え～いらないよ、ただの板チョコじゃん。生チョコがいい～。」 「トッティ―、今度ケーキ食べにいこっ！！」 新しいお店できてるの見つけたよと笑う十四松に、トド松が嬉しそうに誘いに乗る。 「そ、……そうか……。」 自分にとってはとても幸せを感じることができるものだったのに、弟には地味でつまらない菓子だったのだろう。 じわり……しみるように広がるものを閉じ込める様に、カラ松はポケットからチョコレートを取り出してぽくりとひとかけら割る。 あれからすぐにチョコレートを買いにいって、ストックはたくさんある。 チョコレートは甘いし食べ過ぎは良くないだろうと思って夜ごはんは少し少なめにしておいた。 開いた時間を見つけて体のリハビリも兼ねてランニングもすることにした。 カラ松はそこまでしてでも、チョコレートが食べたくてしょうがなかった。 話を遮られたり、聞いてもらえなかった時。 喧嘩に巻き込まれて物をぶつけられた時。 食べようとしていたおかずを取られてしまった時。 お気に入りの服をひどく批判された時。 じわじわと滴るように溢れるものを深呼吸で呑み込んだときに、甘いモノをひとかけら。 とろりと溶ける快感がたまらない。 美味しい、気持ちいい、幸せ。 なかなか上手く気持ちを伝えられなくて呑み込むことの多かったカラ松にとって、まるで優しくされているような悦びをくれるチョコレートは最高のドラッグだった。 悲しいことがあっても、ひとかけらかじるだけで忘れることができる。 そうしてポケットに常にチョコレートを入れて持ち歩くようになってからは、カラ松は以前よりも一層無口になった。 なにか言いたいことがあってもチョコレートを食べればそれで満足できた。 兄弟がわいわいしゃべっているのをみながら、以前だったらどのタイミングで入っていこうか思い悩んで焦ってばかりだったが、今はそんなことは気にしない。 貧乏ゆすりのかわりに、ポケットの中の銀色の包みを撫でる。 ぱきん、ぱきんと折るたびに、別のものも折れてしまっている気がしたがそれは見ないふりをした。 「ねぇ、ちょっとこれおかしくない？」 チョロ松が冷蔵庫を覗き込んで呟くのに、おそ松は「ん～」と曖昧に答える。 「これ全部カラ松のだろ？……多すぎるでしょ。あいつ毎日どんだけ食ってんのコレ。」 日に日に増える板チョコのストックに、お茶を飲もうとしていたチョロ松が反応した。 ぎっしり詰め込まれているそれらがどのくらいの頻度で減っているのか。 そういえばたいして気にしていなかったが、初めは数枚だったはずのそれが、気がつけば必ず10枚は冷蔵庫に押し込まれているのをみてさすがに異変に気付いた。 兄弟が多いので多少おやつのストックが多い時はあったが、こうも常時買い置きがあるのはあまりなかったことだ。 「全部カラ松が食べてるんでしょ……、あれ？……なにこれ？」 「どした～？」 チョロ松がひとつを取り出して、じぃ……っと見つめている。 「……なんだろ、これ。」 不思議そうに首をかしげているのをみて、おそ松もそれを覗き込む。 「なに、なんかあった？」 「うん……ここ、ほら、なにか……書いてある。……数字？」 チョロ松が指さしたところには、確かに小さく数字が書かれていて、並びからして日付の様だ。 「誰の字？」 「小さすぎてさすがにわかんないよ。」 ２人してうーんと首をかしげる。 「他のには書いてねぇの？」 おそ松が冷蔵庫の在庫を指させば、チョロ松が残りを全部確認する。 ……うわ、全部に書いてあるよ……日付と、枚数かなぁ、順番が書いてある。」 「……あ、っそ。」 「あぁ、……うん。」 なんとなく、キモチワルイ。 キモチワルイのに、連想される兄弟が一人。 「一松かな？」 「一松だろうねぇ。」 数えてんの？え、兄弟が食べるチョコレートの枚数を？？？ やり方がもうストーカーレベルだ、すごく気持ち悪い。 「カラ松、気付いてると思う？」 チョロ松はげんなりした顔でチョコレートを元通りにしまう。 「どうだろうなぁ、まぁ、どっちにしたところでカラ松は気にしないだろ。あいつ、自分のことになるととんと鈍感だからなぁ。」 ちょっとこじらせている四男の丸まった背中を思い浮かべながら溜息を吐く。 「……心配してるの、これで？」 「どうしたの兄さんたち？」 スマホを弄りながら飲み物を取りに来た末の弟にチョコレートの管理状況について教えてやる。 「あぁ、最近カラ松にいさんずっと食べてるよね。……あのね、チョコレートとか甘いものが好きな人って、寂しがり屋だったりするんだよ。」 「寂しがり屋って……、カラ松もともとそんなに甘いもの好きじゃなかっただろ。」 「だから、最近なにか、寂しいのかもね。」 ドライな末弟はチョコレートを一枚手に取ると、パキンとかじって呟いた。 「あ、あれ？」 銭湯から帰ってすぐに台所へ向かったカラ松は、冷蔵庫を開けてうろたえる。 すっかり姿を消したチョコレート。 確かに昼には８枚あったはずのそれが、全部なくなっている。 最近はきらさずにずっとあったものが見つからなくて思わずポケットの残りをかじってしまう。 甘くてとろけるチョコレート。 じぃん……と染みるような快感にうっとりするが、今食べたひとかけらで手持ちが尽きてしまった。 誰かが食べてしまったんだろうか。 それにしても全部というのは解せない。 別に誰にも食べられないように隠していたわけではないし、ときどき誰かが一枚二枚おやつにしているのは知っていた。 だからこそ少し多めにストックしておいたはずなのに。 とられてしまったんだろうか。 わざと？ 誰かチョコレート全部たべてしまったのか？ 少しだけ考えて、でも結局口からは出てこない。 落ち着かなく何度か冷蔵庫を開けたり閉めたり。 それでも探したところで突然現れるわけもなくて、カラ松は溜息をついた。 「明日、買いに行こう……。」 みんなで布団を敷いて、おやすみなさい。 電気を消して、なんやかんや、みんながしゃべっているのには入れなかった。 カラ松の頭の中はチョコレートでいっぱいだ。 どうしてなかったんだろう。 チョコレートが食べたい、こんなときこそチョコレートを食べたいのに。 落ち着かなくて何度も何度も寝がえりを打つ。 隣りからはうっとうしがるような気配がして、ギシリと体が固まる。 （どう……しよ……、食べたい……いらいらする……。） 不安になったり落ち込んだ時にはアレを食べれば気持ちが楽になるのに。 苛々唇を噛んで無理やり寝ようと目を瞑るのに上手くいかない。 チョコレートが食べたい、我慢できない。 どうしてなかったんだろう、ちゃんと買っておいたのに、たくさんしまっておいたのに。 思考が散漫になって、とにかくないことに耐えられない。 お腹がすいているわけでもないのに、もう食べたくて食べたくて頭をかきむしる。 気を高ぶらせた様子に気付いた一松がそっと目を開けておどおど手を伸ばしたが、カラ松はその指先に気付きもせずにごそごそ起き上がった。 無理、我慢できない。 「ぇ……？」 掠れた声を上げる弟に気付くことなく、カラ松は部屋を出て行ってしまう。 （チョコレート……食べたい……。） あの甘さが欲しい、舌の上でゆっくり溶ける感触が忘れられない。 わずかなお金をぽけっとにねじ込んで、パジャマの上に上着だけ羽織って家を出る。 「……ねぇ、クソ松、おかしくない？」 暗闇に呟けば、いくつもの溜息が聞こえる。 「チョコレート全部隠したの、一松兄さんでしょ？」 トド松の呆れた声に沈黙が肯定する。 チョコレートに番号を振って一日どれだけ食べていたのかチェックするだけに飽き足らず、よりどころにしていたらしいそれを奪うという強硬手段に出た四男を非難するものはいなかった。 「まぁなぁ、最近さすがにちょっと、なぁ。」 一松の行動がよかったかどうかはさておき、異常なくらい甘いモノに依存していることは判明した。 「どうするの？」 「どうするって言っても……、あいつ、なんにも言わないし。」 「おそ松兄さんと違ってカラ松は案外あれで気むずかしいからなぁ。」 「お、チョロ松くん随分あいつの肩もつねぇ。」 「……ねぇ……背中側が怖いからやめて……。」 トド松がおそ松の方を向きながら涙声になれば、布団のはじから鋭い舌打ちが聞こえてくる。 忌々しいですとありあり顔に描いた一松がトド松の背中越しに見える。 こんな空気の中で眠れるのは十四松くらいなもので、布団の左右で天と地ほども温度差を感じる。 「とりあえず、ちょっと、……要注意な。」 「はぁ～い。」 長男のひとまずの案に、しぶしぶと言ったふうに返事がかえる。 「一松、ストーカー行為はしてもいいから、強引なことはするな。」 「……。」 ぶわっと膨らんだ負のオーラにトド松がぴゃっと悲鳴をあげておそ松に縋りついた。 「いいか～、とにかく寝るぞ～。あ、でも３０分たってもカラ松が帰ってこなかったら探しに行くからな～。」 「あいあ～い……。」 「……クソ松がデブになる前になんとかする……。」 ひとのことより自分の腹をどうにかせよとトド松に指摘されて、一松はふんとそっぽを向いた。 ２０１６年３月２日

『ピグマリオンコンプレックス』（　<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6289329">novel/6289329</a></strong>　）には、評価、コメント本当にありがとうございました。個人的にはこの時の話と同列で書いたつもりですが、あまり細かいことは考えていません。<br />色松タグつけましたがほんとにうっすらとだけ、というか一松→→カラ松っぽいです。<br />チョコレートの溶ける快感はキスの何倍も気持ちいいとかなんとか。<br /><br />表紙はおかりしました<br /><strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/52189294">illust/52189294</a></strong>

チョコレートホリック（カラ松事変後）

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6492798#1

1 本当にあった怖くないななし 本当なんなのあいつら… 2 本当にあった怖くないななし スレタイどういうことｗｗ 3 本当にあった怖くないななし >>2Get☆ 4 本当にあった怖くないななし >>3 残念ｗｗｗｗｗｗｗｗ 5 本当にあった怖くないななし とりあえずなにがあったし？ 6 本当にあった怖くないななし 幽霊ってことはホラー系？ でも幽霊逃げてってどういうことよ？ 7 六男 とりあえず簡単なスペック 六男：スレ主。一番オシャレで兄弟の中ではルックス担当。イメージカラーはピンク 以下登場人物 長男：僕らのリーダー。クズ。小6メンタルの奇跡の馬鹿。イメージカラーは赤 次男：ナルシストを通り越したサイコパス。イタい。ファッションセンスがやばい。イメージカラーは青 三男：ツッコミ役のドルオタ。ダサい。自意識ライジング。イメージカラーは緑 四男：猫好きのドＭ。でもドＳにもなれる。よく露出する。イメージカラーは紫 五男：何を考えてるかわかんない。天使。なんかもうわかんない。イメージカラーは黄色 とりあえずこんな感じ。 特定されたくないからあんまり詳しいところにツッコまないでね。 8 本当にあった怖くないななし 中々に個性的な兄弟だな 9 本当にあった怖くないななし 六人兄弟って言うと歳も結構離れてんだろうな 10 本当にあった怖くないななし 六人て両親頑張ったな 11 六男 >>9 あんまり離れてはないよ で、ここからが本題。 実は僕たち霊感がかなり高くてしょっちゅう心霊体験に遭遇する。 普通なら幽霊に会うなんて怖いよね？ 僕なんかホラー映画も怖くて無理。いまだにトイレにひとりで行けないくらい無理なのに霊感あるから幽霊と遭遇なんて本当やめてって感じ。 12 本当にあった怖くないななし まあそりゃそうだろうな 13 本当にあった怖くないななし あー、あいつらもやっぱり反応あるほうに行くよなー その方が面白いし 14 本当にあった怖くないななし でも六男の話ぶりやスレタイからすると心霊体験して怖い！って感じじゃなさそうだな 15 本当にあった怖くないななし まさか…… 16 六男 そのまさか うちの兄さんたちは、心霊体験してもまったく怖がるとかそう言うのがない。 むしろ時々除霊（物理）とかしてる…… ほんとうなんなのあいつら！！？ 17 六男 例えばこの間のことなんだけど 長男「幽霊って愛想悪いよなー 　　　こないだも、こんちわーって言ったら気まずそうにうつむいてよ 　　　ちょっとムッとしたから、挨拶も出来ねーのかよって小声で言ったら 　　　ひきつった顔でコンニチワって言ってきた」 なに幽霊に挨拶してんだよこの長男！ 18 本当にあった怖くないななし ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 19 本当にあった怖くないななし 予想以上に強いｗｗｗｗｗｗｗ 霊に挨拶するなしｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 20 本当にあった怖くないななし 全然怖くねえｗｗｗｗｗｗ心霊体験なのに全然怖くねえｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 21 本当にあった怖くないななし 霊に挨拶する長男がおもしろいｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 22 本当にあった怖くないななし まあ挨拶は大事だよなｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 23 本当にあった怖くないななし 幽霊もまさか死んでからそんな注意されるなんて思ってもみなかっただろうな 24 本当にあった怖くないななし 俺が幽霊でもびっくりするな 25 六男 今更だけど、このスレはそんな感じの話しかしないから もうあの兄たちやだ 誰にも言えないことだからこんなとこでしか言えない それでも良ければ聞いてってよ 26 本当にあった怖くないななし これは良スレの予感 27 本当にあった怖くないななし オカ板で爆笑するはめになるとはな… さあこい！ 28 本当にあった怖くないななし 早くしてくれこの季節に全裸は辛いんだ 29 本当にあった怖くないななし >>28 脱ぐなよｗｗｗｗｗｗ つネクタイ 30 本当にあった怖くないななし つブーメランパンツ 31 本当にあった怖くないななし つ靴下 32 本当にあった怖くないななし つ革靴 33 本当にあった怖くないななし >>29>>30>>31>>32完全に変質者ｗｗｗｗｗｗｗｗ 34 本当にあった怖くないななし 変態紳士だなｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 35 六男 話進めていい？ 36 本当にあった怖くないななし あ、はい 37 本当にあった怖くないななし どうぞどうぞ 38 六男 じゃあとりあえず全員分一個ずつ書く エピソードは色々あるけどインパクトが強い奴をのっけるね 下開けといて 39 六男 ありがと じゃあまずは五男兄さんの話 五男「この間寝てたら金縛りに会ってね、首締められたんだけど 　　　マジで息ができないの！で、なんかどんどん腹が立って来て 　　　思い切って目を開いたら、半透明のおっさん幽霊がビックリしてた！ 　　　ほんとに、うわって顔になってて、首を締めた手を引っ込めて、 　　　スーっと、窓をすり抜けて出て行ったんだけど 　　　妙に表情が人間くさくて、今思いだすとすっげー面白かった！」 面白くないよ五男兄さん…… 40 本当にあった怖くないななし 笑ってる場合じゃねえｗｗｗｗｗｗｗｗ 41 本当にあった怖くないななし 余裕だな五男ｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 42 本当にあった怖くないななし 首は大丈夫だったのか？ あざとかさ 43 六男 くっきりついてた でも誰も気にしてなかった…… 長男兄さんも「とりあえず後で締めとくか」って言っただけ 44 本当にあった怖くないななし 長男なにやるつもりｗｗｗｗｗｗｗｗ 45 六男 次は四男兄さん 夜中の3時ごろに寝ているとき四男兄さんの体にいきなり重い何かがのしかかってくる感覚がして息苦しくなったらしい 普通の人なら幽霊キタ―！(・∀・)と反応するなりｶﾞｸﾌﾞﾙ(((;ﾟдﾟ)))震えるなりするんだけど 生憎四男兄さんは低血圧で寝ている所を邪魔されると怒るタイプだった その時の四男兄さんは圧し掛かる気配に対して｢人がせっかく気持ち良く寝ている所を起こしやがって！｣と 心の中でブチぎれ、同時に気配に向けて強烈な右の裏拳を放った。 ド　ム　ッ　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　｢ぐぇっっ！？｣ 拳が肉にめり込む確かな手応え、そして誰かの発した蛙が潰れた時のような悲鳴 それと同時に身体に圧し掛かる気配は消え、勝った気分もそのままに四男兄さんは再び眠りについたらしい 「本当に勘弁してほしいよ」って言ってたけどなんでそんなことできるのかが不思議だよ！ 46 本当にあった怖くないななし 四男ｗｗｗｗｗｗまさかの物理的除霊ｗｗｗｗｗｗ 47 本当にあった怖くないななし まさか殴られるとは思ってもなかっただろｗｗｗｗｗｗｗ 48 本当にあった怖くないななし 五男といい四男といいｗｗｗｗｗｗ まだ三人分もあんのかよｗｗｗｗｗｗｗｗ 49 六男 あるんだよ… つぎ三男兄さん 三男兄さんがバイトした時の話。 残業代が出されるからと夜遅くまで働いてて帰る前に少し休んでたそうだ。 一人でボーッしていると、照明が点滅、パシパシと言うラップ音が。 しかも何故か耳元で『ふんふんふーん♪』と言う鼻歌が聞こえた。 店内には誰もおらず、有線も切れている。 しかし怪奇現象に慣れてる上、やる時はやる三男兄さん。 調子っぱずれの上に嫌いなORANG〇 RANGEの歌っぽい鼻歌にイラっとした三男兄さんは、咄嗟に側にあった油の一斗缶を蹴り飛ばした。 空の一斗缶はカーン！と言う予想以上によい音を立てた。 三男兄さんはそこで『失格！帰れ！』と一喝。 ラップ音も鼻歌もピタリと止まったそうだ。 気持ちはわかるけどさあ… 50 本当にあった怖くないななし ORANG〇 RANGEとか関係なく調子っぱずれの鼻歌は確かにイラッと来るな 51 本当にあった怖くないななし 好きな歌でもイラッと来るのに嫌いな歌だもんな 52 本当にあった怖くないななし というか怪奇現象起きてる中で真っ先にしたのが空の一斗缶蹴り上げってそうとう怪奇現象慣れてるだろｗｗｗｗ 53 本当にあった怖くないななし 幽霊「あ、人間が一人…よっしゃビビらせたろｗｗｗｗｗ」 ↓ 怪奇現象 ↓ 鼻歌にぶちぎれ 三男「失格！帰れ！」 ↓ 幽霊「(´・ω・｀)」 54 本当にあった怖くないななし ビビらせようとしたら返り討ちにあったでござるｗｗｗｗｗｗｗｗ 55 六男 次、次男兄さんね その日兄さんは誰もいない部屋の真ん中で昼寝をしてたんだけど、何かの気配がしたんだって それらがだんだん近寄ってきてしまいには真後ろに寄ってきた 寝ぼけてた次男兄さんはなぜかわからないが勢いよく足を振り上げた 急所にヒットしたような鈍い手ごたえと共に 　　　　　　「ぅぉぉぉおおお！！」 という絶叫が ビックリして飛び起きたが何もいなかったらしい… 56 本当にあった怖くないななし いってええええええええ！！！！ 57 本当にあった怖くないななし それ絶対もう一度死んだな 58 六男 >>57 僕も聞いた時そう思った 59 本当にあった怖くないななし 全員ことごとく返り討ちしてるｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 60 本当にあった怖くないななし もうこの時点でスレタイの幽霊逃げてを理解 確かにこれは逃げてとも言いたくなるわｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 61 本当にあった怖くないななし 次長男か 六男はやくはやく次をプリーズ！！ 62 本当にあった怖くないななし ﾊﾞﾝﾊﾞﾝﾊﾞﾝﾊﾞﾝﾊﾞﾝﾊﾞﾝﾊﾞﾝ ﾊﾞﾝ　　　　 ﾊﾞﾝﾊﾞﾝﾊﾞﾝ ﾊﾞﾝ (∩`･ω･)　ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ 　＿/_ﾐつ/￣￣￣/ 　　　＼/＿＿＿/￣￣ 63 本当にあった怖くないななし 　 ﾊﾞﾝ　　　はよ ﾊﾞﾝ (∩`･ω･) ﾊﾞﾝ はよ 　　/ ﾐつ/￣￣￣/ 　￣￣＼/＿＿＿/ 64 本当にあった怖くないななし まて！そんなことをしたら 65 本当にあった怖くないななし 　　 ;　'　 ; 　　　　　＼,( ⌒;;) 　　　　　(;;(:;⌒)／ 　　　　(;.(⌒ ,;))' 　(´･ω((:,( ,;;), 　( ⊃ ⊃/￣￣￣/ 　￣￣＼/＿＿＿/￣￣ 66 本当にあった怖くないななし いわんこっちゃない…… 67 六男 　　　　　　 ／＼ 　　　　　 ／　／| 　　　　 ∴＼／ ／ 　　　　 ゜∵|／ 　 (ノ･ω･)ノ 　 /　　/ 　￣￣￣￣￣￣￣￣￣ 68 本当にあった怖くないななし ﾎﾟﾁﾎﾟﾁﾎﾟﾁﾎﾟﾁﾎﾟﾁﾎﾟﾁﾎﾟﾁ ﾎﾟﾁ　　　　 ﾎﾟﾁﾎﾟﾁﾎﾟﾁ ﾎﾟﾁ (∩`･ω･)　ﾎﾟﾁﾎﾟﾁ 　＿/_ﾐつ/￣/ 　　　　/＿/￣￣￣￣ 69 本当にあった怖くないななし こいつ…タブレットに…っ っておい六男ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 70 本当にあった怖くないななし なにしれっと混ざってんだよ六男ｗｗｗｗｗｗｗ 71 六男 ついやってみたくて(ゝω・)ﾃﾍﾍﾟﾛ じゃ、最後に長男兄さんの話 長男兄さんが玄関のドア見ながらうんうんうなってて一体どうしたんだろって思ってたんだ。 皆そう思ってたみたいで居間でみんな揃った時に聞いてみたの。 そしたら 「それがさ、一昨日からドアの向こうにでてる「子供の手」どうすっかなーって思って。だんだん腕→肩と見えてきたとかなら怪談だけど、ずっと手だけなんだよな。見えてんの俺だけみたいだし」 「いや十分怪談だから！！」って三男兄さんのツッコミはいった。 皆顔青ざめてたよ。僕も。 だって本当に何もなかったんだよ！ 72 本当にあった怖くないななし それ長男がお前らをからかったとかじゃないよな？ 73 六男 そう思いたかったけど、長男兄さん僕らの中で一番霊感強いんだ 霊的なものに対する処理能力も高くてよく小遣い稼ぎに幽霊退治してるくらい 一番撃墜数高くてゴキ殺す感覚で退治してる 74 本当にあった怖くないななし 幽霊退治が小遣い稼ぎってすげえな 75 本当にあった怖くないななし 害虫退治レベルで幽霊退治すんなｗｗｗｗｗｗｗ 76 本当にあった怖くないななし 長男「悪霊退散！」スリッパ叩き 77 本当にあった怖くないななし で、その手はどうなった？ 78 六男 長男兄さんが責任もって持ち主探して送ってったらしい しばらく僕たちドアを直視できなかったよ…… 79 本当にあった怖くないななし たしかに直視しにくいな 80 六男 さて、これで兄さんたちのインパクト強い話は終わり 次はみんな大好き安価で誰のエピソード聞きたいか聞いてみるよー >>90 81 本当にあった怖くないななし よっしゃ！ 82 本当にあった怖くないななし 安価キター！！ 83 本当にあった怖くないななし って安価近いｗｗｗ 安価なら次男 84 本当にあった怖くないななし 安価なら四男 85 本当にあった怖くないななし 安価なら五男 86 本当にあった怖くないななし 長男 87 本当にあった怖くないななし 安価なら三男で 88 本当にあった怖くないななし 三男で 89 本当にあった怖くないななし 次男 90 本当にあった怖くないななし ところで霊に対して強い弱いとかあんの？ 91 本当にあった怖くないななし >>90　オイ 92 本当にあった怖くないななし >>90 なに安価とってんだよ 93 六男 >>90 なに安価とっちゃってんの？ まあいいや。 単純に幽霊に対して強い順だと ・長男 ・五男 ・次男 ・三男 ・四男 ・僕 って感じ 霊感に関しては長男兄さんが一番強い あと撃墜数も一番多いのが長男兄さん 僕含めて皆自分で対処できなかったら最終的に長男兄さんに頼むくらいには強い 94 本当にあった怖くないななし 長男すげーな 95 本当にあった怖くないななし てゆうかお前ら全員除霊できるんだ そこが気になった 96 六男 ほとんど除霊（物理）だけどね 僕も何回かできちゃったことある とりあえず再安価ね >>110 97 本当にあった怖くないななし できちゃうものなのか…？ 98 本当にあった怖くないななし まあ偶然できちゃった話とかあるしな 99 本当にあった怖くないななし 今度の安価はそこそこあいてるな てゆうか撃墜数数えられるほど幽霊に遭遇してるとか俺なら怖くて無理だわ 100 本当にあった怖くないななし 長男本当に何者なんだろうな 101 本当にあった怖くないななし そろそろ安価近いかな？ 102 本当にあった怖くないななし にしても六男も怖がってる割に慣れてるな 103 本当にあった怖くないななし 確かにな 安価なら長男 104 本当にあった怖くないななし 安価なら三男でおねがいします！ 105 本当にあった怖くないななし 長男の話を聞きたい！ 106 本当にあった怖くないななし 猫好き四男で！ 107 本当にあった怖くないななし よくわかんない五男！ 108 本当にあった怖くないななし ドルオタ三男を！ 109 本当にあった怖くないななし ナルシスト次男！ 110 本当にあった怖くないななし ドＭ四男でおねがい！ 111 本当にあった怖くないななし お 112 本当にあった怖くないななし 決まったな 113 本当にあった怖くないななし 四男だな 114 六男 四男兄さんね 書きだしてくる 115 六男 四男兄さんは猫が大好き。てゆうか猫しか友達いない闇人間。 よく野良猫に餌揚げたり家の中にいれたりしてるんだけど、見慣れない顔した猫が居たからってしょっちゅう餌やったりしてた で、気づけばもう家の中でも見かけるようになったんだけどある日から扉を開けてないにもかかわらずいつの間にか部屋の中に居たり壁から出てくるところを目撃したりしたらしい その時にやっと四男兄さんは「あー、こいつ幽霊だったのか」って思ったんだと 116 本当にあった怖くないななし 気付くの遅すぎだろｗｗｗｗｗｗｗｗ 117 本当にあった怖くないななし てか四男猫しか友達いないの？ 118 六男 >>117 猫しか友達いない 一応人付き合いするけど深く入り込むのは怖いらしい 兄弟には心開いてるけど開きすぎてドSプレイかましてくる 一回みんな調教されかけた 次　>>127 119 本当にあった怖くないななし 兄弟にすることじゃねえだろｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 120 本当にあった怖くないななし 兄弟相手に調教とか闇深すぎだろｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 121 本当にあった怖くないななし つか安価近い！ 安価なら三男！ 122 本当にあった怖くないななし どんな状況になったら兄弟が調教してくるんだよ 安価なら長男 123 六男 兄弟全員風邪ひいた 健康な一人が看病してくれたんだけど 四男兄さんはなんでか調教がついてきた 124 本当にあった怖くないななし >>123　どういうことなのいったいｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 125 本当にあった怖くないななし 2行目と3行目の間に何があったｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 安価なら次男 126 本当にあった怖くないななし 五男をプリーズ！ 127 本当にあった怖くないななし 三男でお願いします！ 128 本当にあった怖くないななし 三男か 129 本当にあった怖くないななし ドルオタか 130 本当にあった怖くないななし ドルオタ三男お願いしますね六男！ 131 六男 ドルオタ三男兄さんの話ね 三男「さっき部屋にオッサンでたから思わず「誰だてめえ！！」って叩いたらオッサン泣きそうな顔して消えた」 132 本当にあった怖くないななし おっさんｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 133 本当にあった怖くないななし オッサンかわいそうにｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 134 本当にあった怖くないななし 出た場所が悪かったなオッサンｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 135 本当にあった怖くないななし オッサンまだ何もしてないのにぶっ叩かれるとかかわいそすぎるｗｗｗｗｗｗｗｗ 136 本当にあった怖くないななし なんでぶっ叩いたし三男ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 137 六男 三男「だって怖くない？」だそう 次　>>145 138 本当にあった怖くないななし お前が怖いわｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 139 本当にあった怖くないななし 確かにいきなり知らないオッサン現れたら怖いけどｗｗｗｗｗｗｗｗ 140 本当にあった怖くないななし いきなりオッサン現れたからって殴るなよｗｗｗｗｗｗ 気持ちはわかるけどさあｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 141 本当にあった怖くないななし 通りすがっただけかもしれないのにオッサン不憫ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 安価なら次男 142 本当にあった怖くないななし 安価なら長男 143 本当にあった怖くないななし 五男！五男を！ 144 本当にあった怖くないななし もう一回四男！ 145 本当にあった怖くないななし 五男！ 146 六男 五男兄さんか…… さっきでた話なんだけど 五男「さっき昼寝してたら金縛りにあったんだー 　　　なんかもう体と布団が強力な磁石でくっついてる感じ！ 　　　で、追い打ちかけるように人の気配！ 　　　金縛りと気配にビクビクしてたら頭の中に声が直接響いたんだけど 　　　『通りまーす！すいませんねぇ、通りますよー！』 　　　ってなんかアンタッチャブルの顎が割れてるほうみたいな感じで言われたー 　　　しばらくしたら動けるようになったんだけど昼寝邪魔されムカつく」 147 本当にあった怖くないななし 取れたてほやほや！ っておいｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 148 本当にあった怖くないななし アンタッチャブルのせいでまったく怖くないｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 149 本当にあった怖くないななし >>146 　 ｡｡ 　ﾟ●゜ 　　　　　　 ｡｡ 　　　　　　ﾟ●゜ 　　　 ｡｡ 　　　ﾟ●゜ 　　　　　　　　 ｡｡ 　　　　　　　　ﾟ●゜ 『通りまーす！すいませんねぇ、通りますよー！』 150 本当にあった怖くないななし すいません､ ちょっと通りますよ… 　　 ／⌒ヽ 　　/´_ゝ`) 　 ｜　　 / 　 ｜/｜ | 　 //　|｜ 　Ｕ　 Ｕ 151 本当にあった怖くないななし 通り過ぎｗｗｗｗｗｗｗｗ 152 本当にあった怖くないななし おっさん「ちょっと通りますよ」 153 本当にあった怖くないななし >>152 三男「誰だてめえ！！」ｺﾞｯ 154 本当にあった怖くないななし >>153 容赦なさすぎｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 155 本当にあった怖くないななし >>146 もしかしてそれ三男のとこのオッサンじゃね？ 前通ろうとしたら三男に殴られたから今度は殴られないように金縛って頭の中に 「今から通ります」と注意喚起 そして安心して通る 156 本当にあった怖くないななし だとしたら五男とばっちりすぎるｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 157 六男 それだったら本当にとばっちりすぎ！ 三男兄さんに言っておかなきゃ！ 僕が寝てたらどうするつもりだったの(｀×´) ﾌﾟﾝﾌﾟﾝ!! 次　>>166 158 本当にあった怖くないななし 兄思いの弟だなと思ったらｗｗｗｗｗ 兄の心配してやれよ！ｗｗｗｗｗ 159 六男 だって五男兄さんだったから大丈夫かと思って 160 本当にあった怖くないななし だとしてもｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 161 本当にあった怖くないななし つか安価近いｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 安価なら次男 162 本当にあった怖くないななし 次男で 163 本当にあった怖くないななし 安価なら長男だ！ 164 本当にあった怖くないななし 次男！ 165 本当にあった怖くないななし 長男！ 166 本当にあった怖くないななし 次男 167 六男 次男兄さんかあ… この前長男兄さんと二人で飲んでて遅くなり、二人で足元フラフラしながら暗い路地（近道）を通っていたらフラフラと歩いてる女の人とすれ違ったらしい。 「そのレディー白目をむいててビックリしたな。まるで何か悪霊に憑かれてるみたいだった」 「そうだなｗ」 って二人で笑いながら話してる なんで笑えるか全くわかんない 168 本当にあった怖くないななし >>167 それ憑かれてるっていうかその人自体が…… 169 本当にあった怖くないななし いや、生きてる人でも人とすれ違うときに相手が変質者とかだったら怖いから白目剥いて歩いたりしてる奴もいるらしいからそれの可能性も… 170 本当にあった怖くないななし それはそれでこええよｗｗｗｗｗｗｗｗｗ こええよ…… 171 六男 あの時酔っ払ってるから二人ともテンションおかしかったね 起きたらさっぱり忘れてんの腹立つ 次　>>177 172 本当にあった怖くないななし 近いですよ安価！ 長男で！ 173 本当にあった怖くないななし ここまで来たら長男しかねえ！ 174 本当にあった怖くないななし あえて四男！ 175 本当にあった怖くないななし 三男！ 176 本当にあった怖くないななし 五男！ 177 本当にあった怖くないななし 長男 178 六男 長男兄さんねー 正直一番ネタあるの長男兄さんなんだよね 179 本当にあった怖くないななし 安価なら…て長男か 180 本当にあった怖くないななし 最強の長男の逸話プリーズ！ 181 六男 何年か前の話 田舎のおばあちゃんち行ったときに近くの山で山菜が取れるので兄弟全員強制的に山菜取りのイベント発生 で、山菜取ってる時にくねくねに似たものを四男兄さんが見て、無言でくねくねし始めた やばい！これやばいよどうしよう！って皆パニックになる中長男兄さんはくねくねし続ける四男兄さんに 思いきりボディーブローをくれた かなりいい音と威力で喰らった四男兄さんはその場でのたうち回ってげーげー吐いたけどしばらくして正気を取り戻した 「長いこと見続けるとよくないからショック療法で治した」 四男兄さんは今も無事に猫と戯れてる 182 本当にあった怖くないななし あっぶねえ！！四男無事でよかった！！ 183 本当にあった怖くないななし いや、これは無事で済むのか？ >>その場でのたうち回ってげーげー吐いた 184 本当にあった怖くないななし >>183 正気を取り戻したのなら問題ないだろ 185 本当にあった怖くないななし うんうん、問題ないな 186 本当にあった怖くないななし てゆうかボディブローとかショック療法にもほどがあるだろｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 187 本当にあった怖くないななし 長男「四男から出ていけ！悪霊退散！」ボディーブロー 188 本当にあった怖くないななし >>187 除霊（物理）ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 189 六男 その後家に帰った四男兄さんは聖水だが塩水だか飲まされてさらに吐かされた でも夜になる頃には無事に戻ってご飯食べてた くねくねも怖いし、くねくねし始めた四男兄さんも怖いけど、即座にボディーブローを食らわせた長男兄さんもある意味怖かった 次　>>200 つかれた

心霊現象にあいまくり、撃退しまくって疲れたトド松がスレを立てたようです<br />相変わらずのコピペ改変で笑える霊体験よりお借りしております<br />余談ですがうちの大学は心霊現象が頻繁に起こるのですが、うちのゼミの教授は幽霊を捕まえてペットのように飼ってやろうかと常々言っている

【幽霊逃げて】もうやだこの兄たち【超逃げて】

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[chapter:由比ヶ浜検定始めました] いつもの部室いつもの部員、いつものまったり空気。 そしていつものようにやってくるお悩みメール。 着信のあったメールを雪ノ下が開くと、中にはこう記されていた。 『妹の中学で検定遊びが流行っており、ネタを提供してとせがんできます。 何か良い題材ありませんか？』 「だそうよ。」 「ふーん。じゃあ今流行りのアーティストとか映画とかは？」 「そう言うメジャーどころはもうやっちまったんじゃないか？」 「そうかも知れないわね。では妹さん達が興味を引きつつも、 まだ手がつけられていない題材を考えて見ましょうか。」 そうして幾つか案を出して厳選したあと何問か具体例を添えて返信した。 ひとまずはこれで終了だ。 もしお気に召さないと返事が来れば、第２候補をまた提供すれば良い。 しかし、検定ね･･･。 漢字検定、英検、マナー検定、エトセトラエトセトラ。 世の中には多くの検定が存在し、 仕事に生かすものから趣味のものまで多種多様だ。 そう言えば昔、あなたの愛は本物ですか？ってフレーズの検定があったな。 確か、アニメ検定だったか？（イエス！アスミス！） それにしても、本物の愛ね･･･。 「ん？なに？」 「な、なんでもねーよ」 気が付くと由比ヶ浜を見つめていたらしく、不思議そうに聞いてくる。 緩くウェーブのかかった柔らかそうな髪が軽やかに揺れ、 吸い込まれそうな綺麗な瞳がこちらを写している。 その瞳から、俺は慌てて視線を逸らした。 何故か心臓がトゥンクトゥンクいっている。やだ病気かしら。 ドキがムネムネしちゃう！ 「そうだ。あたし達も何か検定作ってやってみようよ！暇なんだしさ。」 「例えばどんなのだ？」 「例えば･･･由比ヶ浜検定とか！あたしのことを二人がどれだけ知っているかクイズ！」 由比ヶ浜がドヤ顔で提案してくる。お前、自分で言ってて恥ずかしくないのかよ･･･。 「はぁ、くだらないわね。 そんなクイズやらなくても私は充分由比ヶ浜さんのことを知ってるわ」 と雪ノ下は興味を失い目の前の文庫本に視線を戻す。 「ゆきのん、自信ないの？」 と、由比ヶ浜がナチュラルに聞いてしまう。あ、お前そんなこと言うと･･･｡ ぱたり、と本を閉じた雪ノ下が由比ヶ浜を見据える。 案の定雪ノ下のまとう空気が変わり、背後から冷気を感じさせるオーラを放ち始めた。 「･･･いいでしょう。その安い挑発に乗ってあげるわ。 比企谷くんよりも私の方が由比ヶ浜さんに詳しいと言うことを証明してあげる。 さぁ由比ヶ浜さん、出題して頂戴。」 なにその僕が一番上手くガンダムを扱えるんだ的ノリは。 まぁ、仕方がない。二人がその気ならつきあうしかあるまい。 さて、どんな問題が出るのやら。 つづく [newpage] [chapter:なかがき・ルール説明] 今回は趣向を変えクイズ形式のSSを取り入れてみました。何事にもチャレンジ！ 我こそはと思うガハマさん好きのガハマイスターの皆様に是非挑戦して貰いたいです。 最初は簡単な問題ですが次第に難易度があがり、 こんなん知るかボケ！と言いたくなるレベルまでご用意させて頂きます。 出題範囲も原作アニメだけでなく、徐々にゲームＯＶＡ、キャラソン果てはラジオ、 資料集さらにその先まで広げる予定です。 出題は次回から始まり、 入門編、初級編、中級編、上級編、極級編と続々とＵＰしていきます！ さて皆さんは本物級までたどり着けるかな？ ＜ルール説明＞ 問題はそれぞれ１０問で一問一点。 合格点はレベルと級によって異なります。 原作アニメ等を見ながら、または検索しながらの回答はＮＧとします。 規定の点数に達している場合そのレベルの検定に合格したものとみなします。 飛び級挑戦もOKです。

本シリーズはSSとクイズを合体させた特殊なお話しです。<br />作中で問題が提出されますので、<br />是非皆様で由比ヶ浜検定に挑戦して頂ければと思います。<br />今回は前フリで次回から検定が始まります。<br />次回作はこちら「LV１入門編」<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6499930">novel/6499930</a></strong><br /><br />許可を頂き、みり様の『くしくし』イラストを表紙として使用しております。<br />ありがとうございます！<strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/49884897">illust/49884897</a></strong><br /><br />2016年03月03日付の[小説] 男子人気ランキング27位<br />に本作がランクインし、また50users入りを達成したしました。<br />いつも応援ありがとうございます！

由比ヶ浜検定始めました

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　どうしてこんなことになったのだろうか。 　考えても考えても答えは出ない。俺に一切の責任はないはずだ。 　あるとしたらいつもどっかを放浪している、俺の姉貴にあるだろう。 　そう思うと考えるのが無駄な気がしてきた。ああ、そうだ、無駄なら考えるのをやめよう。 　無駄なことはやらない、やらなければいけないことは手短に、だ。 　俺、折木奉太郎は今、知らない人たちの前に一人立たされている。ようやく二年に進級し、より面倒臭くなるだろうと憂鬱だったのだが、今は想像のそれを遥かに超えていた。 「じゃあ、自己紹介から始めてくれ。まあ、新しいクラスになったばかりだから、途中から入るよりは馴染みやすいだろう」 　中年の男子教員が、豪快に笑いながら促してくる。 　自己紹介からってことはその後に何かしなくちゃいけないんですかね。 　くだらないことを考えながら言われた通りに自己紹介をする。 「あー、えっと、今日からこの学校に転校することになった折木奉太郎です。また来年には元の学校に戻るという不規則な形となりますが、今年一年宜しくお願いします」 　クラスからはポツポツとやる気のない拍手が送らてきた。 　まあ当然だ。別に男子が転校してきたって興味を持つ人はそう多くない。イケメンなら別かもしれないが、俺はそんなバラ色の青春は望んじゃいないし、望んでもできないだろう。 「ということで、まあみんな仲良くしてやってくれ。うし、それじゃあ転校生の自己紹介も終わったし、お前らも自己紹介始めろ」 　進級したばかりだと、クラスが同じとか授業で一緒だったとかがない限り、見たことはあるけど名前は……みたいな人が多くなる。 　したがって初日の最初は自己紹介が行われるのが普通だ。 　席順も初めは出席番号順。窓側一番前の恐らくこのクラスで出席番号一番であろう女子生徒がはーい！と手を挙げ立ち上がった。 「出席番号順一番、一色いろはでーす。いろいろあって生徒会長やることになったので知ってる人も多いと思います。今年は修学旅行もあるし、楽しみたいのでみんなよろしくお願いしまーす」 　そう言った一色はどうやら俺の前の席らしい。"い"と"お"だから、確かに違いが、伊藤とか、いそうなものなんだが。 　一色の自己紹介が終わると何人かの男子生徒が興奮気味に話しているのが聞こえてきた。 　それに対し女子生徒が呆れを露わにし、大きなため息をついていた。 　なるほど、一色はそういう立ち位置にいるのだと俺は勝手に推測する。 　そんなことを考えている俺に、 「ああ、折木の席は一色の後ろだから座ってくれ」 　明らかに席一つだけ開いてたからわかっていたけども、どうしてそれを早く言ってくれないのか。人分の自己紹介を立って聞くという無駄なエネルギーを使ってしまった。ただでさえ大勢の前で話すという神経すり減らすことをしているんだから、節約させて欲しいものだ。 　まあ、座れと言われたからには座るしかあるまい。 　みんなの視線を感じながら椅子を引き、腰を下ろす。 　自然と力が抜けていくのがわかる。 　ああ、何て素晴らしい。椅子最高。もうずっとこのままでもいられるな。 「ねえ、折木くんだったよね」 「ん、ああ」 　椅子に意識を委ねそうになっていた俺は一色の声で現実に呼び戻された。 「何でこの時期に急に転校してきたの？親の都合とか？」 　体を半身に構え、正面からは顔を向けない。その上、若干上目遣いに話しかけてくる。 「い、いや別に親の都合とかってわけじゃない。俺の姉貴……姉が勝手に決めたらしい」 　思わずわずかにたじろいでしまった。それでもこの程度に収まったのは千反田のお陰かもしれない。千反田は基本的に天然だから、こんなことが多々あった。 　それによって免疫がついたようだ。 　俺の反応が自分の想像と違ったのか少し不満そうな顔をする一色。 「俺の反応が不満だったみたいだな」 「えっ！？別にそんなこと思ってないよ。ただそうなんだって思っただけで」 　わざとらしく体の前で手をブンブンと振る。 　本人がそう言うなら俺はこれ以上何か言うつもりはない。 　そうか、と答え他の人の自己紹介に耳を傾けるフリをする。 　どうせ一日でクラス全員を、しかも転校初日で覚えるなんて不可能だ。どこぞの農家のお嬢様だったり、自称データベースのあいつなら覚えられるかもしれないが、俺のような頭もよろしくない平凡な人間には不可能極まりない。 　それにどうせこの後会うであろう質問攻めに耐えられるだけのエネルギーを溜めておかねば。 　一色も俺のそんな様子を見て、大人しく正面に体を向け、肘を立てて頬杖をつく。 　それから自己紹介はざっと十五分程度行われた。それからは学級委員決めや、年間スケジュールの説明、先生の武勇伝を永遠聞かされた。 　そして、ようやく昼休み、待ちに待った、しかし地獄であろう昼休み。 　案の定予想通り、それぞれが立ち上がり俺の席に向かってくる。 　絶望を覚悟した時、まさかのところから救いの手が差し伸べられた。 「みんな、ごめん。実は先生から折木くんに学校を案内するように言われてるんだ。だから昼休みは折木くん借りるね」 　下をぺろっと出しながらパチッとウインクする。 「なんだ、そうだったんだ。じゃあ仕方ないか。話そうと思ってたけど放課後まで待つか」 「そうね、早く学校に馴染める方がいいだろうしね。放課後にしましょう」 　そう言いながら自席に戻っていく中に、殺意のこもった視線が俺を貫いた。 　その視線だけでもなにが言いたいのかわかる。 『くそ、俺たちのいろはちゃんを独り占めしやがって。いい気になってんじゃねえぞこの野郎』 　とか思ってるんだろうな。 　それに、クラスのみんなも気をつかってくれんなら、今日は勘弁してください。もう、放課後が辛いです。 「それじゃ、行こっか」 「ああ、頼む」 　一色は言っていた通りに学校の案内をしてくれた。男子にとって最も重要な購買の場所もきっちりと。 　案外いいやつなのかもしれない、と思いかけたが、どうやら別の目的があったようだ。 　別に今日教える必要のない、理科準備室に案内され、なぜか中に入るように言われた。 「なあ、案内してもらって悪いんだけど、ここは別に今日じゃなくてもよかったんじゃないか？」 「まあ、そうなんだけどね、ちょっとお願いがあるっていうか、相談があるっていうか」 「ちょっと待ってくれ！なんで俺なんだ？今日初めて会ったばかりだろう？」 「そうなんだけど……なんか、ちょっと雰囲気が先輩に似てるからかな。あっ、でも先輩よりは目死んでないけど」 　このワードで、一色が言っている先輩が誰かわかってしまうあたり、俺も大概失礼だな。 「実は……私好きな人がいるんだけど、告白しても振られちゃうし、どうしたらいいのかって考えてたけど全然いい考え浮かばないし、どうしたらいいと思う？」 　俺は一瞬考える。おかしい点はたくさんあったが、それを考える前に、一色の質問を終わらせることができる答えを俺は知っていた。 　ならばそれを言って終わりにしよう。 「なんで俺に聞くのかとか、こっちから聞きたいことはあるが結論を言おう。一色、考えるな……諦めろ」 　短く俺の告げた言葉に鳩が豆鉄砲食らうように目を丸くし驚いていた。 「えっ………！？」 　わずかに時差があり、一色が声を上げる。 　狭い準備室ないに反響する声は壁に、空気に吸収されスッと消えていった・・・ 　

俺ガイルと氷菓のクロスです。一応前回的な話のリンクを貼っておきます。<br /><strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4960929">novel/4960929</a></strong><br />今回は簡単な導入なので短めです。<br />今後はちゃんと八幡や雪乃、結衣も出していきます。<br />舞台が総武高校なだけに古典部メンバーの出番はほとんどないかと思いますが、先の話には出したいところがあるのでそこで出すつもりです。

考えるな、諦めろ

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「小町、来月の3日は暇か？」 　2月も終わろうとしているある日、お兄ちゃんはポツリと小町にそんな事を言った。今お兄ちゃんと小町は引越しに向けて部屋の片付けをしていて、いきなりそんな事を言われてちょっとびっくりしてしまう。どうしたんだろう急に。 「うん。一応今のところ何も予定はないよ」 　友達が何人かで小町の誕生日会をしようって言ってくれてたけど、日にちの都合で誕生日当日には集まらない。だから、3日自体は一日暇だったりするのだ。 「そうか。なら一日空けておいてくれ」 「あれー？ もしかしてデートのお誘い？ あ、小町的に今のポイント高い！」 　からかったつもりで言ってみたけど、お兄ちゃんは少し弱々しく笑いながら「まぁそんな感じだ」って言って黙ってしまう。 　なんかその背中がちょっと小さく見えて、小町も何も言えなくなってしまう。 　でも、本当にどうしたんだろう。 　確かに3日は小町の誕生日だけど、今までそんな誘いは一回もなかった。 　一応毎年気持ち悪いくらいに全力でお祝いはしてくれてたけど、何か今年のお兄ちゃんはちょっと違うように見えてしまう。 　何か様子が変だなって思う。 　でも、本当に久しぶりにお兄ちゃんと2人きりで出かけられる。それだけで、小町としては少し気分が良くなってくる。 　お兄ちゃんも大概シスコンだけど、小町もやっぱりブラコンなんだよね。 　少し来月の3日を楽しみに思いながら、小町はお兄ちゃんの片付けの手伝いを再開した。 ――――― 「誕生日おめでとう、小町」 「あ、ありがとうお兄ちゃん。珍しく早いね」 「おう。今日は特別な日だからな」 　迎えた3月3日。 　朝早く起きたら、珍しくお兄ちゃんが朝ご飯を作ってくれていた。 「うわー、美味しそう」 「まぁな。専業主夫志望舐めるなよ」 　トーストと、オムレツとウインナーにサラダ。 　いつもと変わらない朝ご飯なのに、お兄ちゃんが作ってくれたと思うととても嬉しくて、すごく美味しそうに見えた。 　実際美味しいし、やっぱりお兄ちゃんも家事スキル高いなって思う。 「これからは、もう作ってやれるか分からんしな……」 「あ……」 　小さい声でお兄ちゃんが言った言葉に、小町も少し気が落ち込んでしまう。 　そっか。もしかしたらこれがお兄ちゃんと一緒に食べられる最後の朝ご飯かもしれないんだよね。 　そう思うと、少し食べるのが勿体無く感じた。 　だってもう直ぐお兄ちゃんは、一人暮らしのために出て行ってしまうのだから―――。 ――――― 『八幡。お前も大学生になるんだから、一回くらいは一人暮らしを経験しておきなさい』 『はぁ？』 　お兄ちゃんの受験が終わったある日の事。 　お父さんが唐突に言ったその言葉は、比企谷家で家族会議に発展するほどの大事になった。 　お兄ちゃんはひたすらに一人暮らしを拒否していて、別に家から通える距離だろとお父さんに猛反発していた。 　お母さんはどちらでも良い派な感じで、残すは小町だけとなっていた。 　正直、お兄ちゃんが一人暮らしだなんて考えられなくて、全く実感が湧かなかった。 　でも、そろそろお兄ちゃんだって妹離れをしなくちゃいけない時期だと思って。 　ずっと小町にばっかりべったりじゃいけないと思ったから。 　だから、小町はお父さんについた。お兄ちゃんに一人暮らしして欲しいと。 　結局2対1となって、お兄ちゃんの一人暮らしは決まってしまった。 　最後までお兄ちゃんは小町と一緒にいるって言ってくれてたの、結構小町的にポイント高かったけど、お父さんの決定には逆らえないもんね。 ――――― 　昼。 　朝ご飯を食べ終わると、千葉の方へと2人で買い物に出てきた。 　こうしてお兄ちゃんと買い物なんて、最近じゃずっとなかったなぁ。受験で忙しかったしね。 「何か欲しいものあるか小町？ あまり高いのは無理だが好きなの買ってやるぞ、誕生日だし」 　そう言ってくれるお兄ちゃんを見て、小町もどうしようかなって思う。 　勿論欲しいものはたくさんある。服とかも沢山買いたい。 　でも、お兄ちゃんにして欲しいのはそんなものじゃない気がする。 「うーん……。あ、そうだ！ 小町はお誕生日プレゼントとしてお兄ちゃんとプリクラを取りたいのです！」 「プ、プリクラ？ お前そんなので良いのか？」 「だってお兄ちゃん昔の写真とか全部捨てちゃってるじゃん。だから小町はちゃんとしたお兄ちゃんとの写真が欲しいのです」 「ま、まぁお前が欲しいなら別にそれでも良いが……」 　ちょっと困惑してるお兄ちゃんを引きずりこんで、兄妹で初めてのプリクラ撮影をする。 　うーん。プリクラにしてもお兄ちゃんの目って腐ったままだなぁ。でもまぁ良いか。実は初めてこうして2人で撮った写真だもんね。 　出来上がったプリクラを携帯の裏側に貼り付ける。 　うん、良い誕生日プレゼントもらえたなぁ。 　お兄ちゃんは他に欲しいものとかないのかって言ってくれてたけど、小町にとってはこの写真がこれ以上ないくらい欲しかったものだから、もうないよって伝えておく。 　これから先、もう撮れるかわからないもんねこういうの。 　そう思うと、どこかその写真が寂しく感じた。うーん、小町も大分重症ですなぁこれは……。 ――――― 　 　夕方。 　公園で手を繋いでゆっくり散歩しながら、お兄ちゃんの横顔を見る。 　その表情は何処か寂しそうで、思わず聞いてしまいたくなる。お兄ちゃんの本心を。 「ねぇお兄ちゃん、やっぱり一人暮らしするの寂しいの？」 「……まぁな。こうして小町に毎日会えなくなるんだ。考えただけでも震えが止まらないな」 「う、うっわー。流石にそのシスコンは引くよお兄ちゃん……」 　でも心の中ではすっごい嬉しかったりするのは内緒。 　本当にお兄ちゃんは小町離れが出来ないんだもんなぁ。 「そういう小町はどうなんだ？」 「え？」 「俺がいなくなっても、寂しかったりしないか？」 「あ……」 　そっか。そういう事なんだ……。 　お兄ちゃんが一人暮らし始めるってことは、小町もお家に一人ぼっちになっちゃうんだ。 　きっとお兄ちゃんは、その事を心配してくれてるんだ。 　だからこうして、今日一日小町と一緒にいてくれたんだ。誕生日だからって訳じゃなくて。 　ずっと昔、小町が家出しちゃった時の事を知ってるから。小町が寂しいのを嫌ってるって知ってるから。 　思い出せば、あの時からずっとお兄ちゃんは小町が望めば家に居てくれた。 　小町が寂しい想いをしないように、『ただいま』って帰ったらお兄ちゃんは『おかえり』って言ってくれていた。 　でももう少ししたら、そんな日常もなくなっちゃうんだ。 　お兄ちゃんは、家を出ていっちゃうから。 「……小町だって、もう子供じゃないよ」 　出せたのはイエスでもノーでもない返事。 　16年間、ずっと近くにいてくれたお兄ちゃんがいなくなるなんて、今の小町には全く想像が出来ない。 　きっと大丈夫って言いたいけど、どうしてもその言葉が出てこない。 「そうか。そうだよな」 　握られてる手に、少し力が込められる。 　小さい頃は、良くこうやって手を繋いで一緒にお家に帰ってたっけ。 　ううん。小学生になっても、中学生になっても、こうして高校生になっても、お兄ちゃんはずっとこうやって小町の手を握ってくれてるんだよね。 　小町が寂しい想いをしないように、お兄ちゃんはいっつも優しく守ってくれてたんだ。 　……でも、こうして小町がお兄ちゃんに甘えるのはもうお終い。 　お兄ちゃんだって、もう子供じゃないんだ。 　お兄ちゃんの為にも、まず先に小町が兄離れをしないといけない。 「ん、大丈夫だよお兄ちゃん」 　小町も少し力を込めてお兄ちゃんの手を握り返す。 　もう直ぐなくなってしまうその温もりを、絶対に忘れないように。小町には、大切なお兄ちゃんがいるって事を、絶対に忘れないように―――。 ――――― 「こうやって2人で台所に立つなんて久しぶりだね」 「そうだな。最近はずっと小町が一人でやってくれてたからな」 　公園デートから帰ってきた後は、お兄ちゃんと２人で夕食作り。 　お兄ちゃんが中学生くらいの頃は、２人で良く一緒に台所でご飯を作ってた。でも、お兄ちゃん受験を境に段々と小町が作る比率が大きくなって、今ではほとんど一人で作るようになった。 「昔は包丁で指切ったりして本当見てられなかったのに、いつの間にか上手になったな」 「ふふーん。小町だって成長するのです。今じゃお兄ちゃんよりずっと包丁捌き上手い自信あるよ」 「全くだ。もうそわそわして見る心配もねぇし、本当に安心だよ」 　まな板で野菜を刻む姿を見られて、ちょっと照れくさい。 　もう、こうやって偶に捻くれずにストレートに来られると困っちゃうよ、もう。 　でも、成長した姿見せれて少し嬉しいな。 　小さい頃は、良く指切って泣いてたもんなぁ。その度にお兄ちゃんに痛いの痛いのとんでけーってやってもらったけ。 　本当、色々な事があったなぁ……。 ――――― 「お、お兄ちゃんこのケーキどうしたの！？」 「……焼いた」 「や、焼いた！？ お、お兄ちゃんが！？」 「ま、まぁ、雪ノ下に色々教わってな……」 　ガシガシと照れ臭そうに頭を掻いてるお兄ちゃんと、その出されたケーキを交互に見比べる。 　夕食後に、まだもう一つあるって出されたのが中央に『小町、誕生日おめでとう』ってデコレートされたホールケーキだった。 　ところどころ焦げたりしてて、それが手作りですって小町に強く伝えてくれていた。 「……う、うぇ」 　嬉しすぎて、鼻の奥がツーンとしてくる。 　今までたくさん誕生日プレゼント貰ったけど、こんなに嬉しかったのは生まれて初めてだった。 　今にも泣き出してしまいそうなくらい、目がウルウルしてくる。 「ち、ちょっと待っててお兄ちゃん。小町少し顔洗ってくる」 「お、おい？」 　頑張って誤魔化しながら、一旦台所から外に出る。 　こうやって特別な事をしてくれるのが、お兄ちゃんがもう直ぐいなくなっちゃうことを強く実感してしまう。 　ずるいよ、本当にずるいよお兄ちゃん。 　こんな事されたらお別れできないじゃん。馬鹿……。 ――――― 「……お兄ちゃん、もう寝ちゃった？」 「……まだ起きてるぞ」 　夜。 　小町の我侭で一緒に寝たいと伝えたら、お兄ちゃんは苦笑いしながら受け入れてくれた。 　今はお兄ちゃんの部屋で、一緒に布団を被ってる。 　因みにケーキはとっても美味しかった。あまりに美味しすぎてほとんど1人でホール食べ切っちゃったのは内緒。太っちゃうかもしれないけど、今日ばかりは許して欲しいなって思う。 「そっか。……昔を思い出すね、こうやって添い寝してると」 「まぁな。小さい頃のお前、暗闇怖がっていっつも俺の布団に入りこんできてたからな」 「うー……。仕方ないじゃん、本当に怖かったんだもん」 「ま、冬場は温かくて良かったけどな。お前と寝てると」 「むー。なんか今の小町的にポイント低い……」 　ムギュッっとお兄ちゃんの胸に顔を埋めると、すこしゴツゴツした感触がする。 　なんか、男の人って感じだなぁ……。 　お兄ちゃんももう18歳なんだもんね。兄妹2人とも、どんどん成長してるんだ。 「……こうやって一緒に寝るのも、これで最後なのかな」 「ま、そうだろうな。お前も俺ももう子供じゃなくなるからな。大の大人2人で一緒の布団なんて、もうありえんだろうな」 「そっか……、そうだね……」 　なんか寂しくなってぎゅっとお兄ちゃんのパジャマを掴めば、応えるようにくしゃりと手が頭に当てられる。 　本当、お兄ちゃんってこういうところがずるい。 　小町のして欲しい事を、こうやって直ぐにしてくれるんだから。 「……お兄ちゃん、今日はありがとね。16年間で一番嬉しくて、楽しかったよ」 「ん」 　クシャリともう一度小町の頭を撫でて、お兄ちゃんは目を瞑る。 　少ししてお兄ちゃんの方から小さな寝息が聞こえてきた。 　顔を上げればその静かな寝息が鼻にかかってくる。 　目を瞑ればそこそこかっこ良いお兄ちゃんの顔が近くにある。なんだか、不思議な感覚。 　その顔をずっと見ていると、たくさんの思い出が蘇ってくる。 　ずっと小町のために優しくしてくれたお兄ちゃん。 　辛い事があっても、悲しい事があっても、それでも一緒にいてくれた。 　口に出しては言わない。 　いっつもポイント高いって言って誤魔化してるけど、今だけはちゃんと伝えたいなって思う。 　もうすぐいなくなってしまうお兄ちゃんに。 　目が腐ってて、捻くれてて、素直じゃなくて。 　シスコンで、馬鹿で、ボケナスで。 　それでも―――、 　それでもこうやって小町に最高の誕生日をくれて―――。 　それでもこうやって小町の我侭を聞いてくれて―――。 　それでも優しいお兄ちゃんへ―――。 　大好きだよって―――。 ――――― 「じゃあな小町。行ってくるわ」 「うん。行ってらっしゃいお兄ちゃん。一人暮らし頑張ってね」 　旅立ちの朝。 　何処か寂しそうなお兄ちゃんの背中をぽんと押す。 　小町だってやっぱり寂しい。近くに住んでるとはいえ、もうこれからは毎日会えないんだ。 「寂しくなったらちゃんと言えよ？ 直ぐに飛んで帰ってくるから。あ、今の八幡的にポイント高いよな？」 「いやぁ、そのシスコンっぷりはちょっと引くけど」 　お兄ちゃんと2人で小さく笑う。 　こんなやり取りも、もう簡単には出来なくなるんだ。 　ふぅと一息ついたお兄ちゃんが、やっぱり寂しげな笑顔を向けてくる。 「……じゃあ、本当に行ってくるな」 「……うん、行ってらっしゃいお兄ちゃん」 　クシャリと小町の頭を小さく撫でると、お兄ちゃんは振り向いて歩き出してしまう。 　そうして家から段々と遠ざかっていく背中を、小町はずっと家の前で見続けた。 　 　いつも歩いているはずの道を進んでいくお兄ちゃんを。 　振り向くことなく歩いていくお兄ちゃんを。 　段々と遠くへ行ってしまうお兄ちゃんを。 　その背中が見えなくなるまで、小町はずっと見続けた。 　やがてその背中が見えなくなると、小町は小さく膝をつく。 「やっぱり、寂しいなぁ……」 　ずっと我慢していた小町のそんな呟きは、誰の耳にも届くことはなかった―――。 End.

比企谷小町さん、誕生日おめでとうございます。<br /><br />トナカイさんが俺ガイルのキャラの中で一番好きかもしれない子。それが小町。<br /><br />八幡と一緒にいる事でこそ輝くこの子のちょっとシリアスなお話を書きました。<br /><br />3月は別れの季節。<br />トナカイさんも3月生まれなので、自分の誕生日には良い思い出より悲しい思い出が多かったりします。<br />小町もいずれはこんな日が来てしまうと思うと、ただ泣けてきます。<br /><br />では、ごゆるりと。<br /><br />甘いお話は、他の誰かに任せます。<br /><br />※因みにこの話の後日分岐ルートが駄目乃シリーズの小町という台無しな設定があったりなかったりします。

それでも優しいお兄ちゃんへ

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「好きだよ、カラ松兄さん！」 砂で煤けた白球がまっすぐ俺の元へと届く。 スパン！と小気味良い音が、夕暮れの河川敷に響いた。 相変わらず力強くていい球を投げるなぁと思いながら、俺も負けじと投げ返す。 「俺も大好きだぜ、十四松！」 球が弟の胸の中心へと吸い込まれるのを見届け、うん今のは彼に負けない良い球だったと密かに自賛する。 返投に備え、再びグローブを構えた。 が、彼はなぜかボールを受けた体勢のまま固まって動かない。 「十四松ー？」 どこか痛めたのだろうか？ 少し不安になって声をかける。 「カラ松兄さん」 心配に反して、返されたしっかりした声音にホッと安堵しつつ、ボールをぎゅうと握りしめたままの彼の顔を窺う。 夕焼けに赤く染まる弟の顔。 折良く五時を告げる音楽が流れ始めた。 ああ、もうこんな時間か。 夕飯食いっぱぐれる前に切り上げて帰らなくては。 そう口を開きかけたが、それは「じゃあ、」と遅れて投げ返された白球に遮られた。 「俺と付き合ってくれる？カラ松兄さん」 まるで告白にでも聞こえかねない言い回しにクスリと笑いながら、俺は最後の一球を投げ返した。 「勿論だ！」 最近妙な違和を感じる。 いや、これは少し大袈裟な言い方かもしれない。 違和感というかなんというか、不自然というか、まぁ、ストレートに言うなら、十四松との距離がおそろしく近い。 近いというより最早パーソナルスペースゼロだ。 兄弟でパーソナルスペースも何もないのかもしれないが、いやでもそれにしても。 （これは恋人繋ぎってやつじゃないだろうか） 俺の右手を握る、弟の案外しっかりした左手を眺める。 ここのところ、十四松はふたりで出掛ける時決まって手を繋いでくる。 野球に行くとき然り、買い物に行くとき然り。 いつも完全に彼の手を覆っているだるんと伸びた袖をわざわざ捲り、指を絡めて繋ぐのだ。 別に、嫌ではない。 例えもうおててつないで歩くような歳じゃないとしても、俺はブラザーを愛しているから。っていうか弟に構われるの嬉しい。 嫌ではないけれど、普段の兄弟達からの対応から考えてもやはり首を傾げる事態だ。 俺の隣で歩幅を合わせるように歩く十四松が、くるんとこちらに顔を向ける。 「兄さんの手はあったかいね」 そうにぱっと笑いながら、繋いだ手をにぎにぎと動かす。ここで、俺の疑問はするっと剥がれた。 なるほど、暖を取っていたのか。 一時期よりだいぶ過ごしやすくなったとは言え、まだまだ寒さの残るこの季節。何故か一年中短パン（ずっと気になっていたがこれは海パンじゃないだろうか。ツッコめない）姿の十四松は特に寒いだろう。 確かに、服越しよりも肌と肌を合わせた方が暖かいと聞いたことがある。 「十四松の手もあったかいぜ」 そういうことなら納得だ。 謎は全て解けた。 謎は再来した。 その日はなかなかいい天気だったが、外に出る気分じゃなかった俺は部屋でのんびり雑誌に目を通して過ごしていた。 「ふぁー…、トイレ」 「あカラ松、ついでに飲み物取ってきて〜」 「いたのかおそ松」 「酷くない？」 兄のものぐさを片手で払い、階段を降りたところで目の前をドタドタと黄色が横切った。 「十四松、野球か？」 いつものユニフォームに身を包み、靴に履き替える背中に声をかける。 「ううん！ちょっと走り込み！」 十四松のちょっと走り込みはありえない距離をありえない速度で行われる。こればかりは体力自慢の俺もさすがに付き合えない。多分速さ自慢のチョロ松も無理だ。 「そうか、怪我しないように気をつけるんだぞ」 なので笑顔で見送る。 すると、靴を履き終えた十四松がじっと俺の顔を見つめてきた。 「どうした十四松？」 まさか付き合ってと言われるのだろうか。野球に付き合ってと言われた時は勿論と答えたが、それは付き合えないぞ。 「行ってらっしゃいって言って、カラ松兄さん！」 ん？なんだそんなことか。 フッ、お安い御用だ。 「行ってらっしゃい、十四松」 その台詞に、ぱあっと笑顔を咲かせる十四松。 可愛いなぁ、俺の弟。 そう思った刹那、その笑顔がぐんっと目の前に迫っていた。 ちゅっ。 「行ってきマッスル！！！」 ピシッと敬礼した後、彼は目にも留まらぬ速さで玄関から飛び出していった。 「……………………………ん？」 ちゅーされたぞ、今。 唇に。唇で。 マウストゥーマウスで。 「フッ…これが噂の、行ってきますのちゅーってやつか…」 いやいや。 果たしてそれは兄弟でするものだろうか。 初体験だ。 少なくとも俺は。 （…あ、なるほどもしかして） この謎を解明すべく、俺はアマゾンの奥地ーーーではなく居間へ向かった。 襖を開けると、案の定一松が定位置で猫を撫でながら寛いでいる。どうやら十四松が出かけてひとりになったようだ。 一松は居間に入ってきた俺を一瞥し、特に何も言わずに再び膝の猫へ視線を戻した。が、俺がずかずかと歩み寄り一松の目の前に腰を下ろしたところで、怪訝な顔を上げる。 何、なんか用？と目で訴える一松に。 ぐいっと顔を近付けた。 「！？？！？は！？なになになに！、？」 思い切り仰け反って避けられた。 「あれ？」 「あれ？じゃないんですけど、は！？何、なんなのいきなり！！？」 仰け反って崩れた体勢のまま、真っ赤な顔で怒鳴られる。うん？おかしいな、予想と違う。 「お前、十四松とこういうことしないか？」 「は！？十四松！？するわけない！！！なんで！！？」 なんでと言われると…。 てっきり、十四松と一松は一番仲が良いからいつも行ってきますのちゅーをしてて、それを今日は俺にしたってことだとアタリをつけたんだが。 一松のこの反応だと、どうやら違ったらしい。 「いや、俺の見当違いだったようだ。すまないな一松」 〝俺が知らないだけで兄弟での行ってきますのちゅーは普通〟説は消えてしまった。うーん。この謎は一筋縄ではいかなそうだ。 「………なんっだよ今の期待しただろボケェェエーーー！！！」 後手に閉めた襖の向こうで響いた一松の絶叫は、思考の渦に呑み込まれた俺の耳には届かなかった。 結局謎が解けないまま、数日後の今日。 母さんの手伝いをして手に入れた臨時収入で服を新調する為、買い物に出掛けようと玄関に下りた時、扉の向こうからギャンギャン騒ぐ声が近付いてきた。 「は〜〜、俺の財布ついに野口すらいなくなったんですけど〜〜」 「なに全額スってんの！？やめればいいだろダメだと思った時点で！」 おそ松とチョロ松の声だ。 あいつまた負けたのか。本当懲りないな。 「一万回ダメでヘトヘトになっても一万一回目は何か変わるかもしれないだろ！？」 「ギャンブルでその発言はただのクズだよ！！謝れドリ◯ムに！！！」 ガラッと玄関が開き、声の主が現れる。 「あ、カラ松。ただいま」 「おかえりチョロ松」 「たっだいま〜カラ松どっか行くの？」 「おかえり兄さん。買い物だ」 革靴をカツンと鳴らし、立ち上がる。うん、今日の俺も決まってるぜ。 「お前さぁ、いっつもそんな金どこにあんのよ〜。その服も靴も無駄に高そうだけど、どこでいくらで買ってくるわけ？」 靴を雑に脱ぎ捨てながら、おそ松がさして興味なさそうに顎で俺のファッションを差してくる。 「フッ。クールな男はそんなことひけらかさないのさ」 「アタタタタタタ」 「いや全野口ドブに捨ててるクズの方がよっぽどイタイわこのパチンカス」 おそ松も痛いのか。ギルトガイ仲間だな。 俺は頑丈だからか痛くならないが。 「てか買い物って、また服買いに行く気ィ？そんな金あんならお兄ちゃんに軍資金恵んでちょーだいよ〜〜」 パチンカスに玄関先から逃がさないとばかりにのしかかられた。なるほど、ちょっと痛いかもしれない。肩が。 「兄貴にやる金は一銭もない」 「よく言ったカラ松見直した」 「酷くない？」 きっぱり言ってやったのに、おそ松はまったく俺を離す気配がない。小銭しか入ってない財布じゃさすがにパチンコには行けないから、切羽詰まってるんだろう。やばい、このままじゃずるずるこいつのペースに乗せられて金を掠めとられる。嫌だ、これは俺の労働（皿洗いとおつかい）への報酬だ。 「離せ兄貴、やらないって言ってるだろ」 「え〜〜いいじゃんケチ！ちょっとだけ！ちょーっとだけ！悪いようにはしないって！」 「いや悪いようにしかならねぇだろどう考えても！行かせてやれよもう！」 パァンッ 突如、悲鳴をあげた玄関扉に三人揃ってビクッと振り返る。 「……あー、びっくりした」 弾けとぶんじゃないかという勢いで扉を開け放った張本人が、俺たちを見た後、そう零した。 いや、いやいや。 「いやびっくりしたのどう考えてもこっちだからね十四松！？」 「お前玄関壊す趣味でもあんの十四松！？」 弾かれたように声を張り上げるチョロ松とおそ松。俺もびっくりしたぞ十四松。 十四松はたはーごめんごめんと笑いながら歩み寄ると、俺の首に絡みついていたおそ松の腕をべりべりと容赦なく剥がしていく。オーマイリル十四松！俺の財布を助けてくれるのか十四松！ ところが解放された俺は、なぜか今度は十四松の腕に抱き寄せられた。腰を。 うん？なんだこの男前な抱き寄せ方。 疑問符を浮かべながら十四松の顔を伺うと、その目はまっすぐ、おそ松を射抜いていた。 「俺のカラ松兄さんに変なことしてんのかと思って、びっくりしちゃった」 ぴし。 空気の固まる音がした。 「え、」 「え？」 「えっ」 一拍置いて発せられた三人の「え」は見事ハモったが、どうもそれぞれ意味合いが違ったらしい。 「待て待て待て十四松、俺のってどゆこと？」 「いやまず変なことって何！？」 「いやそれもだけど俺のって何！！？」 おそ松とチョロ松が慌てて畳み掛ける。 十四松は横目でチラ、と俺の目を見て、さらに腰を抱き寄せた。 「カラ松兄さんは俺と付き合ってるから、俺のだよ」 「「…えぇええ！？？！？」」 えええええ！？？ 隣から発された衝撃発言に、ワンテンポ遅れでおそらく誰より驚く、俺。 付き合ってるって何！？ チョロ松が目でどういうこと！？と訴えてきてるのが分かるが、俺が！説明してほしい！ 「聞いてない！！お兄ちゃん聞いてないよ！！いつ！？いつから！？」 おそ松の動揺を隠せない声に、んーとねと笑顔で応じる十四松。 「こないだ野球のとき！付き合ってって言ったら、オーケーもらった！」 ああなんて幸せそうな顔で笑うんだ十四松！ いや、見覚えあるぞこの笑顔。そうだ、数日前また野球に付き合ってと言われて勿論と答えた後に見た笑顔だ。 んんん？いや待て、待て、付き合ってと言われた。確かに言われた。まるで告白されてるみたいだと、思っ……… （……ああぁあ！！ちがぁう！！！『野球に』とは言われてない！！！） 一気に理解した。 手を繋いできた理由も、行ってきますのちゅーの謎も判明した。 『俺と付き合ってくれる？』 あの日十四松は正真正銘愛の告白をしてきたのだ。 そして俺は『勿論だ』と応えた。 エンダー！イヤー！ 謎はすべて解けた。 「いやいやいやいや！！！！絶対こいつよく分からず返事してるからそれ！！！間違いなくベタな勘違いしてるから！！！愛の告白だと思ってないから！！！」 さすがチョロ松、よく分かったな。 しかし勘違いとはいえ、OKしてしまったのは事実だ。 どうしよう、今更間違いでしたなんて言えば十四松を傷付けてしまうんじゃないか？あんなに喜んでくれていたというのに。愛する弟の笑顔を曇らせるなんて、ちょっとこれは、罪深すぎてギルトガイとか言ってられない。 おそるおそる、横目で隣を盗み見る。 と、同じタイミングでこちらに目を向けてきた十四松に、思わずびくっと肩が揺れた。 「カラ松兄さん」 「な、なんだ？」 なんだ？じゃない。 謝らなくては。やっぱり、勘違いと気付いてそのまま言わずにいるのは、嘘をついてるのと同じことだ。 言いづらい、すごく言いづらいけど。 謝らなくては。 「ごめんね！」 今まさに口から押し出そうとした謝罪が、何故か十四松の口から飛び出してきた。 「え？」 面食らって、十四松に向き直る。十四松は、両袖をぱふんっと擦り合わせ、俺に頭を下げてきた。 「カラ松兄さんが勘違いしてるの知っててやってた！ごめんね」 「………えっ？」 知ってた？ 謝るタイミングを完全に逃した俺は、ぽかんと十四松を見つめる。視界の端では、おそ松とチョロ松も似たような顔で彼を見つめていた。 十四松は、合わせた袖の奥から少しだけ顔を覗かせる。 「カラ松兄さん俺のこと弟としか見てないの分かってたから、ちょっとずつ気付いてもらおうと思って」 ちょっと、ずつ。 「…あ…手繋いだりしたやつか」 確かに、あれで俺もちょっとずつおかしいなと思い始めた。十四松の狙い通りだったのか。 「うん。ちゅーしたのも、怒られたら告白オッケーしてくれたから！ってめんざいふにしよーと思って」 「めんざいふ」 まさか十四松の口からそんな単語が飛び出すとは…意外と計算高い男だったんだな、ブラザー…。 でも別にちゅーされたくらいで怒ったりは 「ちょっと待ってお兄ちゃんそれ聞き捨てならないなぁ！？十四松！カラ松にちゅーしたの！？」 「したよ！スゲー柔らかかった！」 「はぁ！？はぁぁあ！？ふざっけんな！！？」 なんでお前が怒るんだおそ松。 …ん…？ いや、普通は怒るのか？ 弟にいきなりちゅーされたら、ふざけんな！って思うのが普通か？ あれ？ でも、全然。 「嫌じゃなかったな…」 「え、カラ松？」 何だかわーわー騒いでいるおそ松と十四松を余所目に、チョロ松が戸惑ったような目で俺を見つめてくる。何する気？とでも言いたそうな目だ。 すまない、正直今俺にも俺が分からない。 ので、確かめてみようと思う。 俺は黄色い肩を掴みぐらんぐらんと揺するおそ松を軽く殴って退け、十四松の前に割り込んだ。 「ヘイ十四松」 「アイ！兄さ……」 ちゅ。 「「…ちょぉおおぉお！？？！？」」 背後で見事に悲鳴がハモるのを聞きながら、そっと目を開く。 視界一面に、固まった十四松のどアップ。 そっと唇を離し、ぺろ、と自分の下唇を舐めた。 「…やっぱ嫌じゃないな…」 試しにあの日された行ってきますのちゅーより長めに唇を重ねてみたが、びっくりするほど嫌悪感が湧かない。 むしろ、これどこまでいけるのか試してみたい気すらしてきた。 ずっと可愛い弟だと思っていたけれど。 ちょっと深めのちゅーもしてみたいかもと思うのは、多分弟に対する感情じゃない。 じゃあ一体何に対する感情なんだ？ この謎は、ぜひ解明しなくては。 「なぁ十四松、もう一度ちゅーしてみても………って十四松！！？十四まぁあつ！？！？」 全身真っ赤になってぶっ倒れた十四松を涙目で抱えながら助けを求め振り返ると、真っ白になって固まったチョロ松と、真っ青になって泡を吹くおそ松が見え、俺は恐怖のあまり号泣した。

謎を謎のままにできない次男の十カラ。<br /><br />と、ほのかに香る程度のおそカラ・一カラ。<br /><br />五男目線も書いてみました→【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6652792">novel/6652792</a></strong>】

臨時収入の使い道を考え直さなくては

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「眠れないの？」 かかると思っていなかった声が耳に届き、驚きに肩を揺らした。 ゆっくりと声の方へと体ごと視線を持っていくと、月明かりが薄く差し込む室内に光る銀髪と、クリムゾンの瞳が目に入った。ベッドの上で半身を起こした彼女は、僕の方をじっとほんの少し不安げに見つめていた。 「すまないアイリ。起こしてしまったか？」 「いいえ、気にしないで」 彼女は僕の声を聞くと安心したかのように小さく息を吐き、瞼を伏せて首を振りそう言った。 純白の雪に囲われるこの城では、わずかな月の光でも反射され、室内を照らす。雪によって青白く輝く月明かりが作り出す雰囲気は、広々とした部屋に一層の孤独を引き出し、ひどく冷え切っていた。 「何か、悪い夢でも見たの？」 ゆるく首を傾げて問いかけてくるアイリに、僕は小さく首を振り、気にしないでくれと伝える。眠っているベッドこそ別々であったが、互いの距離はそう離れておらず、薄暗い室内でもその表情も十分に確認できるほどだった。 僕の言ったことが気に食わなかったようで、穏やかだったアイリの表情が、ほんの少し崩れる。 「貴方がうなされるようにして起きてから、もう一時間以上もたっているのに、気にするな、なんて無茶にも程があるわ」 アイリは僅かに眉間に皺をよせ、その眼光を鋭くした。彼女の言葉を聞くと、どうやら自分が起きた時から彼女はずっと起き続けていたらしい。そう聞くと申し訳なさが増した。 「随分と考えさせられる夢だったの？」 彼女の問いに無言で応える。それしかできなかったのだ。言葉にすれば、頑丈な囲いがたちどころに崩れてしまいそうだったから。自分の中で秘め続けてきた感情を、漏れ出さぬようにと囲っていたそれが。 沈黙を貫く僕に、アイリは呆れたように息を吐いた。 「僕には構わずに、君は眠ってくれ。僕もすぐに眠るよ」 そう言い放って、僕はアイリに背を向け、横になった。 恐らく、今晩は眠れない。そのことは過去の経験から良くわかっていた。 目を閉じるだけで、先程まで夢で見ていた場景が浮かぶ。脳裏に焼き付いて、決して薄れることは無い戦場の記憶。耳に届いた怒声や悲痛な叫び声も、鼻を刺した火薬の匂い、そして死の香り。それらも同時に鮮烈なまでによみがえってくる。 ただの戦場の記憶ならば、まだいいものを。こうやって、夢にまで見て追いかけてくるのは、自身が犠牲にした、自分の正義に従った結果、天秤から零れ落ちて行った者たちの記憶だ。 どんな時も、最善だと思ってやってきた行為だ、故に、後悔はない。しかし、どう抗っても襲いくる記憶と、蝕むような感情だけはいつまでもしがみ付いてきた。 この類の夢は、ほんの僅かでも見ると、それをきっかけに途端に様々な不安が渦を巻くように湧き上がり、心を追い詰めていく。そして、今すぐにでも逃げ出したくなるのだ。 もう、いやだ。と。自身が望んで始めたことにも関わらず、襲い掛かる重圧に耐え切れない。途端に情けない感情があふれ出るのを感じた。 薄青い光が差し込む部屋が、そんな気持ちにより拍車をかけた。冷えたシーツが体に纏わりつく感触すら、冷え切った絶望が体を覆っているのではないかと錯覚してしまう。それほどまでに、冷たく深く心は暗闇へと落ちてゆくのだ。 「今夜は、とても冷えるわね」 再び静寂に落ち着いていた室内を、アイリの声がためらいも無く破った。 「ねえ、切嗣」 背にかかるアイリの声は冷たく寂しい室内に、やけに優しく、柔らかく響いた。 「こんなに冷えた夜は、夢見が良くなさそうだわ。私、怖い夢を見るのは嫌なの」 だから、と言ってそっと肩に何かが触れた。 それがアイリの冷えた指先であると気が付くのにそう時間はかからなかった。置かれた指先につられて、ゆっくりと首を回せば、月明かりに煌々と照らされたアイリの美しい笑みが視界に現れる。 「だから、今晩は私と一緒に眠ってくれないかしら？」 首を傾げそう言った後、少々照れくさそうにアイリは笑った。 それは突然に湧き上がった感情であった。そしてその感情は、急激な表れとは裏腹に、まるで赤子を愛でるかのようにやんわりと僕の腹の奥底に溜まる黒く冷え切った部分を撫でた。けして、記憶が消えたわけでも、不安が掻き消されたわけでもない。抱える気持ちは先ほどと変わらない重量を保っているにもかかわらず、何故だが途端に絶望が影を潜めた気がした。 アイリが浮かべる、その無垢な笑みに思わず目頭が熱くなり、泣き出しそうになってしまう。 あまりにもその笑みが美しくて、優しくて、まるで救われたかのような気持ちになったから。 僕は決して許されることが無いのに、救われるだけの存在でもなくなってしまったのに。 そっと僕の頬を撫でるアイリの指先を捉え、そのまま腕を引き、あまりにも軽く薄い体を引き寄せ、胸に閉じ込めた。 アイリが驚いたように息を呑み、身を固めたのが腕越しに伝わる。 ただ抱きしめたかったのだ。他意はないと伝えるため、僕にしては随分と優しい手つきで髪を梳くかのようにアイリの頭を撫でた。 そうすれば、うまく僕の意思をくみ取ってくれたアイリのその体から徐々に強張りがとれ、おずおずとその腕を僕の背に回してきた。 背に回される腕の確かな感触、胸に抱くその存在が、孤独を感じさせる冷え切った空間に、一人ではないことを確かに伝えてくれた。 じわりじわりと互いに移り、混ざり合う体温と、かすかに伝わる鼓動に、そんなことは決してありはしないのに、僕の黒化していた心が端から浄化されていくような錯覚を覚えてしまう。 「アイリ」 声をかければゆっくりとアイリは顔を上げた。何時も陶器の様に白く、赤みの無い頬が、ほんのわずかに朱に染まっているのを見て、自然と笑みがこぼれた。 「僕も、怖い夢を見たくないんだ」 そう言えば、アイリは一瞬面を食らったかのように目を丸くさせたが、その後すぐに目を細め、まるで愛おしむかのような笑みを浮かべ、良かった。と小さく零し、再び僕の胸に顔を埋めた。

別々のベッドがあるのに一つのベッドで寝るってきゅんとする。っていう妄想です。この夫婦は本当にいい夫婦ですね。アイリさんがいい妻すぎてキュンとしました。[追記]閲覧、評価、沢山のブクマ有難うございます！こんなにたくさんのブクマに嬉しくてゴロンゴロンしました(＾＾)頂いたブクマコメントもコメント欄にて返信いたしました。有難うございました！

あなたの夢を、ひとかじり

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ずっと探していた ずっとずっと探していた ずっとずっとずっと探していた俺の主 あの時、あの慟哭を叫び呪詛を放ちなお、貴方を求めていた。 裏切られたとは思っていない。 唯俺が思った事は、お守りできなかった自分の不甲斐なさと卑劣なセイバーのマスターに一矢報いる事が出来なかった己への空しさ。 だから探した。 ずっと、ずっと貴方だけを探し求めた。 貴方は時に獣に、時に花に、美しく儚く姿を変え俺の掌から零れて行った。 愛しい、愛しい俺の主・・・！ 嗚呼、嗚呼！ これがあの時主を守れなかった罰だというのならもう許して欲しい！ あの時、あの婚約者殿の言う事など聞かずずっと主の御傍に居れば俺はもっと幸せであった筈だ・・・！ 例え憎まれ疎まれても、愛しい人の為に殉じられたのならば、もっと、・・・！ 主が居ない 主が居ない 愛しい、愛しい、俺の、俺だけの主が、居ない・・・ 泣いてしまいたい程の切なさの中、ふ・・・っ、と覚えのある気配を感じる。 時に獣に、時に花に、美しく儚く姿を変え俺の掌から零れて行った切なくも愛しい気配。 この気配を俺が違える事は無い。 嗚呼、嗚呼、主、俺の主よ・・・！ 願わくは今世こそ、長く貴方の目に留まりたい・・・ 愛しい御方の気配を頼りにその場へと赴くとそこには大変愛らしい赤子がスヤスヤと眠っている。 何とお小さく頼りない存在なのだろう・・・ この世一身の愛情を受け取るに足る愛しい存在、我が主よ、貴方の下僕は今ここに参上いたしました。 今世こそ、貴方を守り抜き、愛し抜きます故、どうか俺が傍に侍るのをお許しください・・・！ そう念話で語りかけ霊体のまま柔らかな主の薔薇色の頬に口付けた。 だが、この愛しい俺の主は今世では家族には恵まれなかったようだ。 生まれて早々にその生を否定され更には半身の麻痺を理由に家督を剥奪された我が主。 何と言う傲岸な一家であるか。 我が主の素晴らしさを勝手に否定し勝手に価値を決めつける等、俺には到底許せる気にはなれなかった。 だが、カラコロと車椅子の車輪を転がしながら寂しそうに、羨ましそうに、だが幸せそうに己が含まれない御家族の団欒を眺める幼い主を前にしては、もう少し魔力に耐えられる年齢までは御傍に現れるのを控えるべきだという考えは捨て去っていた。 嗚呼、そんな目が溶けそうな程切ない顔をしないでください。 己を不必要だと思わないでください。 俺には貴方が必要です、 貴方だけが必要なのです。 他には何もいりません、ですから貴方を俺に下さい・・・！ 「泣いて、居られるのですか？」 「！」 「驚かないでください、俺は貴方の僕です、どうか俺を貴方の手なり、足なりとしてお使いください」 「・・・どうせ、父上が付けたのだろう」 「いいえ、俺は俺の意思で貴方に侍る事を決めたのです」 「こ、こんな、こんな不具に己の意思で付き従う者等いるものかっ！！」 泣き叫びそうな悲鳴は正に主の心の痛みなのだろう。 俺はソレを癒すかのように幼い背をあやす様に撫で擦り、ふっくらとしている唇を奪った。 ちゅっ・・・とどこか間抜けなリップ音が主の可愛らしさを増長させる 「俺は貴方を愛しているのです、貴方だけを愛しているのです・・・我が主よ・・・どうか、どうか・・・！」 きょとん・・・とする主は一瞬で顔を赤く染め可愛らしく俯いた。 愛されることを知らない我が主。 愛され方を知らない我が愛しの主。 お願いです、お願いです、どうか、どうか、俺を受け入れて下さい・・・！ 俺を、愛してください・・・！ 初めて与えられたであろう口付けに戸惑っていらっしゃる主を抱きしめる。 赤子の頃にさえ与えられなかった抱擁を俺が与えられる愉悦。 腕の中で微かに震える愛しい愛しい俺の主。 何でも致します。 貴方が欲しい物は俺が与え、貴方が不要なる者は俺が片付けましょう、 ですから、どうか俺を・・・俺を、 「・・・お前の、名は、なんだ・・・？」 「ハッ！我が真名はディルムッド・オディナ。我が唯一の主、ケイネス殿に全てを捧げ奉る下僕に御座います」 幼い指が恐る恐る俺の頬を名です。 嗚呼・・・！何と柔らかく、何と甘やかな・・・！ 「・・・許す、この私、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに仕えることを喜びに思うがいい」 幼い口から発せられたのは、今世では全く関わりのない家名。 今自分が言った家名に覚えがないのだろう我が愛しのケイネス殿はきょとん・・・とした表情で首を傾げている。 だが俺の心は歓喜に染まり今にも爆発しそうだった。 此処には貴方を称えた世界が無い、貴方が想った御方もいない、俺だけが貴方の世界に存在している。 「愛していますケイネス殿・・・ケイネス・エルメロイ・アーチボルト殿・・・今世は何処までも、貴方に、貴方の為だけに付き従います・・・！」 そう言って跪き、今はもうない令呪をなぞるかのように恭しく幼く白い繊手に口付けた。

<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=647675">novel/647675</a></strong>の続き的な・・・ディルバージョンです。マジ連投とか落ち着け自分と思いつつも熱が冷めるまでは好き勝手書き散らかそうかと思います。取りあえずディルケイ幸せになれ！

愛を捧げる

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玉狛第二・三雲隊。 『白い悪魔』と呼ばれる新人離れした戦闘能力を持つ、空閑遊真。 『トリオンモンスター』と称されるほどの膨大なるトリオンを有する雨取千佳。 この2人は今やボーダーで知らぬ者はいないほど。 日々、A級、B級部隊から勧誘が来るほどの注目度。 しかし、2人は決して首を縦には振らない。 それには、隊長である『三雲修』が関わってくる。 彼女、三雲修は『弱い』。 あの隊員に、なぜこの隊長？ 誰もが一度ならず幾度も思う。 だが、2人は決してその事には口を開かない。 それが余計に周囲の『三雲修』に向けられる感情が『負』のものへと変わっていった。 [newpage] 「B級ランク戦ラウンド1！ 実況は私、武富桜子と解説は嵐山隊の佐鳥先輩でお送りします！」 「よろしく〜」 観客席は全て埋まり、立ち見の者も大勢溢れるランク戦会場。 そのほとんどが、『玉狛第二』を目当てに来ている。 「今回の目玉は何と言っても、あの超大型新人『玉狛第二』ですね！ 1人は『白い悪魔』と称される新人離れの空閑遊真隊員！ もう1人はボーダーNo.1のトリオンを持つ雨取千佳隊員！ 2人の初戦に注目が高まります！」 「隊長の三雲さんも2人をまとめる隊長としてどう動くか気になるね〜」 「おっと転送完了！いよいよ戦闘開始です！」 「よし！やるぞ！空閑！千佳！」 「「了解！」」 修が一歩踏み出した時、それは起こった。 「うわっ！！」 まるでバナナでも踏んだかのように、修は地面と平行になった。 静寂が訪れる。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「な、なんと！三雲隊長、開始直後に転んでしまった！」 「あははは！綺麗にこけたね〜」 観客からも笑いが起こる。 そして、観客たちから発せられる声は修を中傷するものばかりだった。 『何で何もないところで転ぶんだよ』 『やっぱり弱すぎ』 「あんなボンクラ隊長といる2人の気が知れないな』 『アイツ、いる意味なくね？』 止める声がないからか、それはエスカレートしていった。 誰も、修の瞳に怪しげな光が宿っているとも知らずに。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 結果として言えば、三雲隊は勝利した。 8得点という類を見ない大勝利を収め、ランク戦は幕を閉じた。 点を取ったのは全て遊真だった。 それを繋いだのは千佳だった。 はっきり言って、修は何の行動も起こさなかった。 ただ端でオロオロしながら傍観するだけ。 そんな修に正隊員、訓練生共に非難が集中した。 [newpage] 時は流れ、三雲隊はB級上位にまで食い込んだ。 そして、 「B級ランク戦ラウンド4！ 実況を努めます、綾辻です！解説は風間隊の風間隊長と加古隊の加古隊長でお送りします！」 「「どうぞよろしく」」 B級上位ランク戦。 会場はもはや入りきらないのではというほどの混雑っぷり。 「何と言っても注目は今まで3戦連続勝利の『玉狛第二』！ 空閑遊真隊員と雨取千佳隊員の2人はもはや脅威としか言いようがありません！」 「隊員の2人に比べて三雲はあまり目立たないな」 「今までの試合では無得点で終わっていますね。 その実力は平均レベルとも聞きますが・・・」 「んー・・・見た感じ弱いとしか印象を受けないけど・・・ なんか違和感、みたいなのがあるのよね」 加古の一言を気にとめるものはいなかった。 「さぁ、始めようか」 「あぁ」 「うん」 修は今までにないほど怪しく、不敵に微笑んだ。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「・・・信じられない」 あの場所で、笑みを浮かべながら立っているのは誰だ？ 誰もがそう思った。 開始直後に真っ先に狙われた修。 そして、そこで修は退場するはずだった。 しかし、それはただの妄想にしか過ぎなかったのだ。 放たれた攻撃をさらりとかわすと、放たれた方角にアステロイドを放つ。 隙を突かれた相手はなす術なく、星へと変わる。 警戒をするのも無駄。 そう思われていた修が一撃で相手を仕留めた。 それも精密で、反撃の時にも対処できるよう体勢は崩さず。 洗練されたその動きに、誰もが目を離せなかった。 そして、今になって気がついたのである。 これまでの戦闘で、彼女がかすり傷さえ負ったことが一度もないことに。 [newpage] せてーい〜 三雲修(15)♀ 最強無敵なメガネ中学生隊長。 普段は弱いにもほどがあるってレベルを装っている。 いつかの大舞台で思いっきり実力見せつけてやろうとして、大成功した。 そんなこと考えてる時点で、どこか黒い。多分腹部辺り。 実のところの戦闘能力はA級上位レベル。 頭脳なんてもうシャレになんない。 弱いくせに〜的な嫌がらせを受けていたが、問題ナシ。 『仕掛けてくる勇気もないクズに時間を作ることさえ勿体無い』だそうです。 お強い。非常にお強い。 空閑遊真(15)&雨取千佳(14) 修ちゃんの実力と性格を知っているため、三雲隊を絶対抜ける気はない。 修ちゃんLOVE。 原作よりも過剰評価されまくり。 おかげで鬱陶しくて、修ちゃんにぶちまけて頭を撫でてもらう。 こちらもお強い。非常にお強い。 修ちゃんLOVE。 ホントの実力隠した上で、一気にバラされたよ〜 それがめちゃ鬼強だったよー バカにしてたモブ共プギャー的な。 今日はお休み 眠いんで寝ます・・・。

修ちゃんが中々の策士でございます。<br />そして、えがつない。なんか黒い。<br /><br />見た目は弱々！頭脳は最強！<br /><br />その名も三雲修！<br /><br />的な流れですのでご注意を。<br /><br />ルーキーランキング12位→34位に！<br />そ、そんなに良いんですかコレが・・・(°_°)<br />(28.3.3→28.3.4)

能あるメガネは爪を隠す

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キャプション必読です 1 はーい、第1回一松愛され攻め会議ーーーどんどんぱふぱふーー 3 え？？？なにこれ 2 ﾌｯ 5 やきう！？一松兄さんとやきう！？ 6 野球じゃないよ十四松兄さん 1 はい、みんな一言ずつ喋ったから参加な 3 何そのルール知らない知らない 6 いぇーーい♡ここまで来たら乗っかるしかないよ、後で何されるかわかんないし 1 ふぅートド松分かってるねぇ！ 3 いや、まずそもそもなに？これ 5 一松兄さんについてっすか！ 1 んー、そうそう 2 どうしたんだおそ松……My little brotherがどうかし 5 どぅーーーーーううん！！！！！！ 2 えっ 1 実はなぁ、兄ちゃんちょっと不満があるんだ 3 一松に？なに？ 1 一松にっていうか… 6 珍しいね、国宝級のバカ松兄さんに考えることがあるとか 1 いやdisるねー！さすが俺の弟だわ 2 日々カラ松Girlsにつ 3 で？その不満って何？ 2 扱いがちが 1 そう！それが本題だよな！実はな 2 …… 1 カラ一多くね？ 2 え？ 3 は？ 6 分かるうううううう！！！！ 5 めっちゃ分かりマッスル！！！ 1 だよなぁ！やっぱそうだよな！！ 3 いやええええええ！！？？そんな事で僕ら叩き起こされたの！！？？ふざけんなよクソ長男！！！！※午前2:00 1 こらチェリシコ松！一松起きちゃうだろ！ 3 誰だよチェリシコ松！チョロだっつーの！『チ』しか合ってねーよ！？ 6 童貞クソ鬼畜兄さん静かにしてよ 3 お前はただ罵倒してるだけだろトド松 1 そうだぞ！チョロ一のDVの多さすげえぞ！？ 3 そうだけども！そうなんだけども！ 5 おそ松兄さんもでっせー 1 俺は……俺もだねうんごめん 5 おそ松兄さんはDVってかクズ！！！ 1 笑顔で言われたら流石に俺でもきゅっとくるかな？？？ 6 僕なんてそもそも少なすぎて統計も取れねーよちくしょう 2 さすが†神に選ばれし俺†……まったくだぜ… 6 イッタいよね！！ 5 俺はね俺はねーー、めっちゃ平和だよーー 1 だってそこはさ天使じゃん二人とも 5 俺はともかく、一松兄さんは天使だよ！ 6 十四松兄さんもじゅーぶん天使だよ♡ 1 はい出ました〜十四松と一松贔屓〜 6 うっざその語尾！ 3 でも十四松も隠れS説出てるじゃん？ 1 おっ、チョロちゃん乗ってきたね 3 これやんなきゃ寝れないんでしょ…僕も結構溜まってたし 1 元気だね、チョロちゃんも息子も 3 そっちは溜まってねーよバカいや嘘溜まってるわボケ 1 いやそれ逆ギレ 2 まぁ俺と一松が結ばれるのはディスティニー、つまり運命…！ 1 結構真面目に殴っていい？ 6 しょうがないよ、王道一カラの逆CPなんだから 1 王道の裏も王道ってか？ 5 話戻るけど、俺じゃなくてチョロ松兄さんとおそ松兄さんの方がSの描写多いっすよ！ 6 確かにねー 3 んなこと言ったらドライモンスター、お前もだろ？ 6 うるせえドルヲタ、しかもカラ松兄さんもサイコパスでしょ？ 1 見た目1番オス臭いのカラ松だしな 5 カラ松兄さんもドSっすか！ 3 そうなると6人中5人がドSとか壮絶すぎてケツ燃えるわ 6 5:1で丁度いいんじゃない？ 3 何がだよ、全然良くねーよ 1 1:5で5人ドMがいるよりましだろ 3 それ言われたら頷くしかないわ 2 俺はサイコパスなのか？ 6 え？まだそこだったの？ 5 時間差パネェっす兄さん！！ 2 俺はただ一松を愛しているだけなんだが… 1 そのセリフからして、なんかもうサイコパスみを感じるね 3 1番ヤンデレっぽいね 2 ヤン……でれ？ 1 ヤンデレっつーかデレデレやん 3 え？関西弁？ 1 間違えたデレデレヤン……え？くだらなくない？おいチョロ松 6 それチョロ松兄さんも言えなくない？ 1 無視かよ 5 兄さん潔癖だよねー！！ 3 いや潔癖かもしれないけど、一松は別だから 1 へぇ、まぁ興味無いけど 3 3発で許す 1 ごめん 6 僕はほら、可愛がられてるからさ 5 俺も！頭撫でてくれる！！ 6 弟組は平和だからさ 1 まぁ！？でも！？兄ちゃん頭なでる権利あるし！？ 2 弟相手にムキになるなんて、かっこ悪いぜおそ松 1 腹立つー！！！いいなぁ！俺も『押すスイッチの入ったおそ松』タグ広めたい！ 3 『雄スイッチ』な、それなんか普通のスイッチ 6 そこら辺は僕とカラ松兄さんとかの役目だからさ、安心しておそ松兄さんはクズになっててよ 1 知ってる？俺お前の兄貴なんだぜ？ 3 俺と十四松は安全地帯だからね 1 玉置〇二か！ってなにツッコませてんだよ！ 3 今のは知らねーよ！？お前が勝手にしたんだろ！？ 6 どうでもいい話してないで、なんか別の話しよ？ 1 聞いた？こいつどうでもいい話っつったよ！ 5 喧嘩松の話したいっす！ 1 俺はチートなお兄ちゃんな 3 順応性高いな 2 俺は怪力の筋肉バカだろう 3 カラ松ようやく喋ったな……俺は生徒会に知られないように喧嘩してるやつ 1 あっなんかそれかっこいい 5 俺はバット振り回すやつ！ 6 僕は鉄パイプ振り回してボコした後、写真撮ってSNSのせるやつ 5 うおートッティ忙しいね！ 2 My purity catは、その名の通り猫のようにしなやかに身体を曲げながら空中で舞うんだな…… 3 あーうんなんか言いたいことは分かった 6 あれでしょ？一松兄さんが猫をかばってぼこられてる所に、僕らが颯爽と駆けつけるんだよね 3 それでそん時のセリフが 1 『俺の弟がお世話になりました』だろ？ 5 うえーーーい！！おそ松兄さんかっけーー！！ 1 だろ？だろ？もっと言っていいぜ！ 2 『俺らとも遊んでくれないか？』もセットだな 1 あっ、いいねぇそれ！珍しくカラ松冴えてる！ 2 珍しく？ 1 俺が兄弟最強だろ？ 3 何でもいいと思うわ…速さは僕が一番ね 2 力は俺が一番だな 5 俺は？俺は？ 6 十四松兄さんは術じゃない？僕はうーん…効率の良さ？一松兄さんは柔軟性だよねー 1 一松と柔軟性って言葉、並べただけでエロいな 3 黙れクソチート最強長男 1 めっちゃ褒められてる怖い怖い 2 俺的にはマフィアがいいんだが… 1 あーーーマジわかるお前まじお前 2 ちょっとよく分からんが気に入ってもらえて何よりだ 3 ボスはおそ松兄さんね、はいはい 1 なにそのぞんざいな扱い！！さっきめっちゃ褒めてたのに！ 6 僕ハッカーがいいー 5 俺はね、俺はなんか強ぇーやつ！！ 3 僕も情報関係の奴かな 2 俺は闇に制裁を加えるや 3 そもそもマフィアが闇だからね 1 それぞれの色のネクタイとかしちゃって？ 6 あっいいねー、一松兄さんはなんだろ、お色気担当？ 2 そっそっ、そんな破廉恥な！ 3 カラ松、キャラおかしい 5 うっひょーーやっべえ！ 1 やべー、想像しただけで勃ったわー 6 げっ、引くわ 1 辛辣〜 3 てか話逸れてない？ 1 あ、ほんとだ 6 想像はかどっちゃったねー 5 はいはーーい！カラ一多いってとこまでいった！ 3 それに関してはどうなの？ 2 まぁ当然だろう 1 腹立つね 6 でもサイコパスホモだから一松兄さんがかわいそー 2 そうでもないぞ？一松は襲い受けや誘い受けでもいけるが、純情もいけるからな 1 さっきまで静かだったのに、ここぞとばかりに言いまくるな 3 でも実際一松がカラ松ボーイズ(公式)だからな… 1 でも、と見せかけておそ松ボーイズじゃね？ 3 なんで？ 1 だってあいつテンパッたとはいえ、俺に告白してきたんだからさー 5 でも俺の方がよく一緒にいるっすよ！ 3 それなら僕だって抱き合ったし 6 僕は……『おかえり』って言われた！ 1 それは……いいのかな？ 6 うるさいよ！僕が一番一松兄さんとの絡み少ないんだもん！！ 3 ドンマイトッティ 6 黙れドゥティ 3 普通に言えよ ……力尽きた(笑顔)

☆キャラ崩壊激しめ<br />☆一松不在<br />☆一松愛され総受け<br />☆会話文のみ<br />☆兄組比較的不憫(大好き、愛もある)<br /><br />それでOKならばどうぞ<br />おそ松→1<br />カラ松→2<br />チョロ松→3<br />十四松→5<br />トド松→6<br />で表記してます(特に意味は無い)

一松会議【一松愛され】

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「留美、これはどこに運ぶんだ？」 引越し屋が運んできた『留美』と書かれた段ボールを持って留美に問う 「それ私の部屋に。私の部屋は昔と同じだから」 「はいよ」 階段を上がって留美の部屋へと段ボールを運ぶん。留美が引っ越す前よく遊びに来ていたこの家。この家は留美達が引っ越していらい誰も住んでいないので、所々ほこりがたまっている 「八幡く～ん」 下の階から美和さんが呼んでいる。下の階に降りると..... 「おお、八幡くん。こんにちは。久しぶりだね」 「千早さん、お久しぶりです」 「うんうん、数年会わない内に立派になったね？」 「そうでもないですよ？」 「はっはは.......だが、いくら八幡くんでも留美は渡せないよ」ｽﾞｲ 「はい！？」 いきなり何言ってんのこの人？って近い近いよ 「俺の愛娘の留美に手を出したら、ゆるさ....ドスッ...ぐはぁ！」 美和さんの肘鉄が千早さんのみぞおちに入る。千早さんはうずくまって、う～と唸っている 「ごめんなさい。うちの千早が....」 「い、いえ別に.....他にやることはありますか？」 そうねっと少し考える素振りを見せる。 「.....じゃあ、買い物に行って来てくれないかしら？段ボールとかはあらかた運び終わったから、このメモの物を買ってきてくれないかな？」 そう言ってサラサラとメモに書き込み俺に渡す 「わかりました。千早さんはどうしますか？」 うずくまっている千早さんを見る 「いいのいいの、私が殺っとく」 あれ？空耳だろうか？殺っとくって聞こえた気がする。 「あ、小町ちゃんと留美にも手伝ってもらったら？」 「ええ、そうします」 階段を上がって留美の部屋のドアをノックする コンコン 「留美、小町、ちょっといいか？」 『うん、いいよ』 留美の了解を得て 部屋へと入る 「留美、小町、今から買い物行くんだが、手伝ってくれないか？」 「買い物の？」 俺はメモを留美と小町に見せる 「数が多いから手伝ってほしいんだが？」 「うん。いいよ。留美ちゃんも行くよね」 「私も行く」 「頼む」 ・・・・・・・・ 「よし先ずは日用品からな」 家から近いデパートにやって来た。 「小町と留美は洗剤とか頼む。俺の他のを担当する」 「アイアイサー」「わかった」 二人は頷き洗剤とかのコーナに走っていった 数分後 「よし！あとは食料品だけだ」 メモの8割ぐらい終了している 「え～と蕎麦とめん汁と......」 「ねぇ、お兄ちゃん」 「ん？」 服の袖を引っ張る小町 「あのさ～引越しの時って蕎麦をあげたり、食べたりするよね？」 「ああ、それは江戸時代ぐらいの話で、当時蕎麦は結構安くて、細く長く近所付き合いよくするって意味を込めて近所に配ったとかいう説がある」 「「へ～そうなんだ」」 「なるほど～」 「物知りだね～」 「ん？」 小町と留美に対して話してたつもりだったのだが....気がつくと人だかりが出来ていて、なるほどと頷きながら聞いている。は、恥ずかしい！ 「い、行くぞ二人とも」 急いでその場から逃げるように離れる ・・・・・・ 買い物が全て終わり、家に戻ってきた。 「帰りました」 「お疲れさま」 買ってきた買い物袋を渡す 「じゃあ、昼御飯を作っちゃうから、留美を手伝ってあげて」 「わかりました」 留美の部屋へと向かう コンコン 「留美、入っていいか？」 『いいよ』 ドアを開けて中へ入る 「何かやることあるか？」 「え～と、ベットの位置変えるの手伝って」 「はいよ」 せーのの掛け声でベットを持ち上げ、位置を移動させる。 「ここでいいのか？」 「うん、ありがとう」 「.........ん？」 一枚の写真がヒラッと落ちる 「なんだ、これ？」 写真を見ると、小さい頃撮った俺と留美が写っている 「懐かしいな」 無意識に呟く 「はっ！八幡！？何見てんの！」 留美が写真を取り戻そうと近づいてくる 「返せ！」 留美が飛び付いてきた 「うわぁ！？」 その勢いで押し倒される体勢になった。 「っ！？..........はっ！？」 目を開くと......留美の顔が目の前に！？ 「........八幡」 お互いの呼吸が聞こえる 「私は.......」 とその時 「留美、八幡くん蕎麦出来たから、降りてきて」 下から美和さんの声で留美は自分の状況を確認して赤くなる 「ご、ごめん」ｶｰｯ 赤らめて俯く 「大丈夫だ。ほら、早く蕎麦食いに行くぞ」 留美の手を引く 「........うん」 留美と共に下に降りる。赤らめた留美を見た小町はムッとむくれ、美和さんはあらあらと微笑み、千早はおのれと怒りが見えたが美和さんの肘鉄でまたしても沈黙した 「ほら二人ともほら座って」 と席着かせる。何故か小町と留美に挟まれる形になっている。しかも両方の距離が近い。 「あの～二人とも......近くないか？」 「いつもと同じでしょ？お兄ちゃん」 「普通じゃない？」 「いや絶対ちか....ドスッ...痛っ！？」 なぜ足を踏むんだ！こいつら足踏みやがった 「「はぁ～.........お兄ちゃん(八幡)のバカ～」」ﾎﾞｿｯ 何故か二人が呆れられるのを感じた。結局、蕎麦の味もわからず時間だけが過ぎていく ・・・・・・・・ 週明けの月曜日。やはりこの月曜は俺にとって、つらい曜日だ。やる気でない。体が動かない。家出たくない。これだけの理由をつければ休めんじゃなかろうか？時計を見ると、すでに9時を過ぎていた 「.......はっ！？」 体を起こす。 「あれ？小町は？めぐり姉は？静姉は？」 ん？そう言えば 『お兄ちゃん、遅刻するよ？めぐりお姉ちゃんと静お姉ちゃんは先に行っちゃったよ』ﾕｻﾕｻ 『うう～......もう少し寝かせてくれ』ﾓｿﾞﾓｿﾞ 『もう～小町行くからね。静お姉ちゃんに怒られても知らないからね』 バタン 「9時か～もう間に合わないよな？」 誰もいない部屋で一人呟く 「よし！......寝よう！」 バサッと布団を被る。布団の温もりに包まれ、再度眠りに落ちようとする プルルルる！！ 携帯の画面を見ると『静姉』と表示されている。無視無視 プルルル！！ 無視無視 そのうち電話が切れる。よし！これで眠れ..... ﾋﾟｺﾝ こんどはLINEが来た 『おい！電話出ろよ』 『起きてるだろ？』 『寝てんのか？』 などすごい勢いでメッセージが来る。そして極めつけは 『電話』 文章打つのめんどくさくなって単語で送ってきた！？ プルルル！！ 「ひっ！？」 画面には『静姉』の二文字が ピッ 「もしもし.....」 「...................」 「もしもし.......」 「....................」 「静姉？...........」 「...................」 「いや、無言はマジで恐い！何か言ってくれ」 「..................」 無言。うっすら聞こえる何かの音。無言は人に不安感を抱かせる 「今すぐ........」 「えっ？」 「学校に来い.....以上」 プープー 電話が切れた。やばい、かなりやばい。スーパーマジギレ静になる寸前だ！ 「はぁ～.........行くしかないか」 いつの間にか部屋に入るって来たカマクラがざまぁ！と言ってる気がした ・・・・・・・・・ なぜだ！？なぜこの人がこの時間、ここにいる？ 「さぁ～て、理由を聞こうか？」 「え、え～と....その前になぜ平塚先生がここに？このじかんは英語のはずじゃ.....」 「英語の石毛先生が風邪をひいてな。自習の監督として私がここに来たと言うわけだ。さて、遅刻した理由を聞こうか？」 「それは、重役しゅ...「重役出勤とか言わないよな？」...寝坊です」 先に言われてしまった。しかし.... 「しかし、遅刻は悪であろうか？答は否！警察だって事件が起こってから動くし、ウルトラマン、仮面ライダー、ヒーローと呼ばれる者たちは人が被害を受けてから遅れてやって来る。つまり、遅刻することを悪としてしまったら、この世界に正義のヒーローなんていなくなってしまう！」 「「おお！！」」 「したがって、ここにおいて遅刻した俺が悪いのではなく、遅刻を悪とする学校、しいてはこの世界が間違っているのであって俺は悪くない」ドーン 「「おお！」」 「......ご清聴ありがとうございました」 パチパチパチパチ 俺としたことがつい熱くなっちまった 「............言いたい事はそれだけか」 その瞬間.......俺は目の前に起こらせてはいけない人物の事を忘れてしまっていた 「い、いやちょっと待って！」 「三秒待ってやる。神と私に懺悔しろ」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ ヤバい！背景にｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞって見える。これ.....死ぬんじゃね？ 「.....1」ﾄﾞｺﾞﾝ 静姉の拳が俺の腹にめり込むのがわかる 「ｸﾞｯﾌｫ！？」 足からちからが抜け、意識が遠退く。薄れゆく意識のなか 「2と3はどこに.......」ﾊﾞﾀﾝ 覚えているのはここまでだ

8話目です

総武高校の比企谷八幡くん8

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[chapter:【暴虎】] ●戊寅（つちのえとら）　 昭和13年　平成10年 この生れの人は、暴虎といいます。 非常に暴れることがすきな虎です。 波風をたたて問題を大きくしたり、消えかかった問題に油をそそぎ大問題に発展させたりする事が多くあります。 人の成功を妬んだり、執念深い部分があります。 けんかや口論は日常茶飯事です。 反面、人情もろく世話好きで、頼まれると責任を果たすためよく努力します。 また逆に温厚な人もいます。 温厚な場合には、度が過ぎて意気地なしのように見える場合もあります。 暴飲暴食によって、胃腸の病気になる人が多い。 ＜参考＞ こちらのサイトよりコピペさせていただきました。 http://tobifudo.jp/index.html [newpage] [chapter:愛しの暴虎・前編] はるか昔のお話。 世界には魔獣やアヤカシが存在していた。 魔獣やアヤカシにとって人間は寿命が短く、群れてなければ生きていけない弱い生き物だった。故に人間は魔獣やアヤカシに怯え、怒りを納めるために神と称えもした。 しかし人間は力をつけた。 元々人間には霊能力があった。だがその当時の人間は一時的な祓いしかできなかった。 それは力の使い方を研究してこなかったから。 人間も動物。 感情を持った動物。 学ぶということを知っている知恵のある動物。 霊能力の使い方を研究しついに人間はアヤカシと戦うことができるようになったのである。 以降人間にちょっかいをかけた魔獣やアヤカシは人間によって退治、或いは封印されるようになっていき人間はアヤカシ達と境界線を貼る事に成功した。 やがて一部の人間を除き、人々は魔獣やアヤカシの存在を忘れてしまったのである。 それから長い月日が流れた。 大きな災害、厄災を繰り返し再びアヤカシ達が人々に認知されるようになった。 また近年霊能力を操る人間が減ったことも災いし、アヤカシ達はその活動を活発化させている。 非公式だが妖怪や魔獣被害は年々増加傾向で、既存の組織では対応できないところまできていた。 そしてついに国が動いた。 妖怪や魔獣に対抗するため退魔師という仕事が国家レベルで創設されたのである。 国家の名の下に国民を守る妖怪、魔獣専門の自衛隊。 それが退魔師である。 俺、松野一松にとってそれ以上でもそれ以下でもない情報。 ただ興味がないのだ。 妖怪？魔獣？それを退治する退魔師？ 国家レベルの組織で尚且つ生まれ持った才能がなければなれない職業に興味なんて沸くわけない。 俺達はニートで今までどおり楽しく過ごせると思っていた。 そんなことを思っていたある日。松野家に来訪者があった。 黒いスーツに身を包んだ男。 国家公務員らしく、対応した母さんが男の名刺を見るや否や顔色を変えた。 俺達は強制的に居間に集められ、男と向かい合う形で座った。 男は俺達にこういった。 「退魔師になりませんか？」 男はスカウトマンだった。 才能のある人を探していたところ俺達を見つけたらしい。 ただスカウトされたのは松野家の六つ子のうちの五人。 長男おそ松。 三男チョロ松。 五男十四松。 六男トド松。 そして俺、四男一松。 四人は面白そうやら仕事に就けるやら様々な理由でその話に乗った。 まあ元々ニートだったわけだし、好都合の展開なのだろう。 それに霊能力を持った人間はアヤカシに好かれたり狙われたりすることが多い。自分の身を守るためにも退魔師としての修行はするべき努力だ。 でも俺は即答で断った。 皆が勿体無いというが、興味がない。 スマウトマンもなかなか粘ってきたが、一蹴した。ここまでくると、うざい。 そして次男カラ松はスカウトされなかった。カラ松は特に何も思っていないらしく皆に「おめでとう」といい、俺には「本当にそれでいいのか？」と聞いてきた。胸倉を掴んで黙らせた。 そんなこんなであれだけ騒がしかった家には俺とカラ松だけになった。 俺が退魔師を断った理由。 興味がないなんて嘘。 本当は違う。 俺は前から退魔師の勉強をしていた。でもそれは俺のためでも国家のためでもない。 ただ、カラ松のためにしていた。 カラ松自身が気づいてないことがある。 俺が気づいたのは本当に偶然だった。公園で一人で遊んでいたとき変なものに襲われたんだ。今ならそれがアヤカシだと分かるが当時は知らなかった。俺は何もできずに震えていた。そんな俺を助けたのがカラ松だ。 虎耳が生え、目付きが変わった。 一睨みでアヤカシを追い払った。 それはほんの一瞬の出来事だったけど、俺は今でも鮮明に覚えてる。 アヤカシ付き。 なのだと当時は思った。だが月日が流れるにつれ“それは違う”と思うようになった。 そこで俺は一つの結論に辿り着く。 “松野カラ松は初めからアヤカシだった” という結論に。 初めは否定した。 何故なら俺達は間違いなく六つ子で六人とも母の身体から生まれたんだ。写真もあるし、母さんも父さんも当時の助産師さんだって見てる。それにもしカラ松がアヤカシだったとしたら、俺達はずっとアヤカシとともに育ったことになる。この二十数年誰にも気づかれずそんなことができるだろうか？ そんな不安からカラ松にきつく当たったこと数知れず。 今ではそれがデフォルトになってしまった。 だが俺は受け入れた。 カラ松は初めからアヤカシだったという自分の結論を。 そして俺は決意した。 退魔師からカラ松を守るという決意を。 兄弟が退魔師の訓練施設で寮生活をするようになったおかげで堂々と家でアヤカシについて調べられるようになった。 以前は興味があることも知られたくなかったから、図書館などでこそこそ調べていた。 カラ松のこともあるし。 まあ所謂独学ってやつ。 それにあれだけ騒がしい毎日がなくなり、退屈になったのもあった。 それはカラ松も同じらしい。 兄弟がどんなものと関わるのか興味があるようで、珍しく図書館で本を借りていた。 俺も独学でやっていはいるが、やはり種類が多い。 猫又。九尾。カッパ。鬼。 調べ始めると意外と楽しい。 カラ松と二人図鑑を見ながら時々雑談をし、猫科のアヤカシで新しい記述があればすぐにチェックする。 「アヤカシでも猫なんだな一松は」 そんな俺を微笑ましく見ながらカラ松は言った。 (誰のせいだと･･･) 口に出しかけて、その言葉は飲み込んだ。 多分こいつも知らないだろうから。 そんなある日。 暴虎の記述を見つけた。 虎のアヤカシらしい。 俺は興味を惹かれ何度も何度も暴虎のページを読み返した。 妬みや嫉妬心を増長させる魔獣。 それ以外に特に詳しい記述はないが、どうやらかなりの力を持ったアヤカシだったようだ。 横から見ていたカラ松がぼそりという。 「なんて可哀想なんだ」 「え、なんで？」 俺は不思議そうにカラ松を見た。 カラ松は苦笑した。 「逆に考えれば妬みや嫉妬心でアヤカシになったってことだろう？寂しかったんじゃないかなこの暴虎っていう虎のアヤカシは･･･」 カラ松は自分の胸を掴み苦しそうに言った。 そんなカラ松を見ていられなくて俺はカラ松の背中をさすった。 さすりながらカラ松が暴虎じゃないことを祈った。 こうして月日が流れ、兄弟が帰ってきた。 四人とも無事退魔師になれたらしい。 どうやら世間一般的にクズな俺らは退魔師的にみれば優秀らしい。 四人で一チームで赤塚に赴任だそうだ。 「チッ」 兄弟の目の前で舌打ちしたのは言うまでもない。 「そんな対応ないだろうニートの一松く～ん♪」 おそ松兄さんのうざい絡みを適当にあしらいながらこれからの事を考えた。 カラ松はアヤカシだ。 本人は気づいていないだろうが間違いないだろう。 つまり退魔師である兄さん達にとって退治すべき敵である。 そして俺にとっては大事な兄弟だ。 守らなければならない。 この退魔師四人からカラ松を。 前々から準備はしており、カラ松の衣服や食事に細工をしてきた。 どうかこのままカラ松が何も知らず、笑って暮らせますように。 そんな願いをこめて。 だが相手は退魔師四人。新人とはいえ優秀な成績で訓練施設をでてきた相手である。 正直、舐めていた。 クズの兄弟をみてきたせいで舐めきっていた。 独学の俺なんて四人の足元にも及ばなかったのだ。 俺はその日猫の餌やりにでかけていた。 何事もなく餌やりを終え帰路に着いた。家に近づくにつれ、異様な力を感じた。そしてそれが自分の家からだと気づいた瞬間俺は走り出した。 (まさか･･･そんなはずない！！細工だって完璧だったはずだ！！) 玄関が見えた。玄関には知らない人間が立っていた。 恐らく退魔師で見張りなのだろう。 「一松くんだね。今は家に入ってはいけない」 案の定俺を制止してくる。 「どけっ！！邪魔だっ！！」 俺は容赦なく退魔師に殴りかかり、そのままの勢いで居間に駆け込んだ。 「･･･っ！！」 目の前に広がる光景を夢だと思いたかった。 今にも退魔されそうになっているカラ松。そしてそれを行っている四人の兄弟。 「一松！危ないから下がってろ！！」 おそ松兄さんが叫ぶ。 「あんたこそ何してんだよ！！」 俺はそう叫ぶと躊躇うことなく退魔の札を引き千切った。 [newpage] 退魔師として帰って来た兄弟達が居間の出入り口を塞いでいた。 そればかりではない。あたりに札とかなにやら色々貼っていてここで何かをしようとしているのは明白だった。 この日一松は猫の餌やりに出かけていて俺はいつもどおりちゃぶ台で鏡を見ていた。 だが兄弟達の異様な雰囲気に顔を上げみんなを見た。 兄弟はまるで異物を見るように俺を見ている。 怖い。 兄弟にこんな感情を感じるなんておかしいだろうが、このとき俺は本能的に感じた。身の危険を。 「ど、どうしたんだブラザー、怖い顔して？」 沈黙が怖くて恐る恐る声をかける。 俺の問いにおそ松はため息を零した。それに続くようにチョロ松、十四松、トド松もため息を零す。 緊張しているのか深く深呼吸をしていた。 「なあ、カラ松。俺らなんで家に帰って来たと思う？」 唐突にそんな質問をしてきた。 そんなこと決まっているだろう。 「家が恋しいからだろう」 何言ってるんだと笑いながら返すとおそ松は首を横に振った。 「違う」 そういったのは十四松だった。 「え？じゃあ･･･なんで？」 不思議そうにみんなを見た。 俺なら間違いなく「家が恋しい」なのに、なんでお前らは違うんだ。そう訴えるように。 兄弟は俺と視線を合わせるのが嫌なのか皆伏し目がちで、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。 「あのさ･･･カラ松。僕達･･･僕達対アヤカシ特殊部隊赤塚地区第三班は松野家にいるアヤカシの調査、討伐の任務できたんだ」 チョロ松が声を震わせながら言う。 「･･･信じられない」 俺は首を横にふる。 この家にアヤカシがいるだって？ 俺はずっとこの家に居たが気づかなかった。 ただ才能がなくて気づかなかっただけかもしれないが、一松には退魔師の才能があったはずだ。その一松が気づいていないはずはない。 なあこんな冗談はやめよう。 兄弟でもこんな冗談は笑えないぜ。だから･･･だから誰か早く「ドッキリでした」って言ってくれ。 だって今ここで俺だけに言うってことは･･･。 「お前がそのアヤカシだ」 おそ松が淡々と告げた言葉に俺は驚愕した。 「･･･冗談だろ？」 震えた声を搾り出すが兄弟達は何も答えない。 信じられないものをみるように兄弟を見た。縋りたかった。でもすぐにそれは不可能だと悟った。 おそ松のチョロ松の十四松のトド松の目は真剣そのものだった。 「僕だってね、信じたくないんだよカラ松兄さん」 「ぼくねこの任務きいたときほんとびっくりしたんだ。だってぼくたちずっとアヤカシと生活していたことになるから」 「最初は一松だと思ったんだ。退魔師になるのを拒んでいたし、動物が好きだからどこかでもらってきたんだって、時々変な姿になってたし･･･そう思ってたんだ」 「でも違った。一松はどちらかというとシャーマンみたいな力の特性だ。無意識に猫と憑依合体している。それがあの猫化の真実だ。そして、悪い猫とは憑依していない。あいつは猫には優しいかったから、愛されているんだろう。だから･･･」 全員が俺を取り囲んだ。 「残るはカラ松。お前だけだった」 普段から一松ににらまれてはいるが、兄弟そして四人から殺意をもって睨まれたことは一度もない。 おそ松の言葉に俺はただ震えるしかなかった。 できればもう何も話さないでくれ。 いっそ今これが夢だったらなんて思いながら兄弟を見回す。 兄弟全員が俺をアヤカシと見ているのは明白だった。 鋭い視線に俺は萎縮する。 「カラ松の服や食事に細工されていた。あれはアヤカシを隠すための細工。アヤカシでは作ることはできない。だからやったのは一松でしょ」 「なんのことだか俺には･･･！！」 俺は震える自分に叱咤しながら声を出す。 ここで反論しなければもっと疑われるような気がした。 何より兄弟に信じてほしかった。 だがこれは逆効果だった。 この行為が疑惑を確信に変えてしまった。 「テメェ、一松をどうやって虜にした、この化け物！！」 おそ松の言葉と同時に全員が構えた。 うろたえる俺を他所に包囲網が狭まっていく。 「何言ってるんだ！俺はそんなことはしていない！！」 そう叫ぶを俺を軽蔑するように兄弟は見た。 「俺の弟を何処にやった？」 凄みのある声でおそ松が言い放つ。 「俺には何がなんだかわからない！！」 だが兄弟はもう俺の言葉に耳を貸す気はないらしい。 「トド松」 「十四松」 「チョロ松」 「おそ松」 名前を呼んでも誰も俺に見向きもしない。 完全に俺をアヤカシだと思っている。 アヤカシを見る退魔師。 自分がアヤカシで退魔される側でなければ立派になった兄弟の姿を喜んだはずだ。 歯がガチガチと音を立て後ずさるも、出入り口はふさがれ俺の後ろは壁にしかない。 「俺の弟から消えろ、アヤカシ！！」 そう言うと無情にもおそ松を俺に退魔符を放った。 このとき悟った。 俺はもうおそ松兄さんの弟ではないんだって。 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ！！！！！！！！！」 全身に激痛が走った。 痛い、痛い、痛い、痛い！！ 全身が焼けるように痛い！！ 俺は悲鳴をあげながら、その場で蹲る。 なんだよ、これ！？ ただの札なのに、なんでこんなにも痛いんだ！！ 「それが効いてるということは、お前がアヤカシという証拠だよ」 チョロ松の声が上から聞こえた。 言い返す言葉もでず、蹲りすすり泣く。 (俺がアヤカシ･･･？) そんなはずない。 そう思ってるはずなのに、痛みと同時に何かが自分の中から湧き上がってくるのを感じた。 一匹の虎と胴衣を着ている男性。 これは･･･ 俺の記憶？ いや違う。 これは･･･松野カラ松ではない昔の俺の記憶だ。 自然と涙が溢れてきた。 どうやら痛みで記憶が蘇ってきたらしい。 だがもう遅い。 退魔が進んでしまっている。 この状態では対抗できる術がない。 松野カラ松が終わる。 終わる。 「カラ松っ！！」 カラ松の身体から引き離されそうになったとき、一松の声が聞こえた。 そしてすぐに身体が楽になった。 顔を上げると一松が退魔符を握り潰していた。 「カラ松！！」 一松が荒い息で俺の名前を呼び、強く抱きしめた。 「大丈夫？」 背中をさすりながら優しく尋ねてくる。 「･･･あ･･･ぅ･･･」 俺は「大丈夫」と答えたかったが、声が出なかった。せめて目で訴えようと一松に微笑む。 「カラ松･･･」 一松はもう一度強く俺を抱きしめる。 ずっとこうしてほしかったが一松の後ろにいる兄弟はそれを許さない。 俺の肌から一松の温もりが消えた。 眉間に皺を寄せ、躊躇うことなく兄弟達を睨みつけた。 「なにやってんだよ！カラ松は兄弟なのに！！」 そして俺を守るように兄弟と対峙した。 「一松兄さん、早くそいつから離れて！！」 トド松が絶叫する。 「それはカラ松兄さんじゃないんだ、アヤカシなんだよ。一松兄さんだってわかっているはずだ。しかも多分ランクが高い上級なアヤカシなんだ。早くカラ松兄さんから離さないと、カラ松兄さんが消えちゃうんだよ！！」 「そんなことない！！」 今度は一松がトド松に一喝する。 「ここにいるカラ松こそ、松野カラ松だ！そんなこともわからなくなったのかよ！！」 「本当にそう思ってるの、一松兄さん･･･」 「ああ、そうだ！！」 はっきり一松は言う。 「一松、お前洗脳されているのか？」 チョロ松がそう言うと、一松は「は？」と怪訝そうな顔をした。 「訳が分からない･･･そんな顔だな一松･･･。まあ、お前も保護が必要だからな。十四松、一松を保護しろ」 「あいあい！！」 「はあ？なんで保護なんか･･･ちょ･･･十四松、離せっ！！離せっ！！！」 十四松はあっという間に俺から一松を離す。一松も抵抗しているが相手は十四松。力では敵いっこない。 すぐにでも助けたいが俺の前にはおそ松とチョロ松が立ちはだかる。 「一松は関係ないだろッ･･･！！」 「お兄ちゃんの言うことを聞かない悪い子にはお仕置きが必要だろ？」 一松は尚も抵抗を続けている。 「ふざけるな！洗脳されているわけがない！俺は自分の意思でカラ松を守ろうとしたんだよ！」 「確かに凄いよね、一松兄さん。独学であんなことしちゃうなんて」 耳元で十四松が淡々と言う。 「本当にね。おかげさまで感知するのに時間かかっちゃったよ」 面倒なことしてくれたよね。そういわんばかりに盛大にため息をつく。 「そんじゃ、一松をはがしたことだし、そろそろカラ松を返していただくとしようぜ！」 おそ松の言葉を合図に一松を抑えてる十四松以外が退魔符を構えた。 「･･･おそ松兄さん、俺はもう弟じゃないのか？」 溢れる涙を必死に堪えながら俺は聞く。 拒絶しないで･･･そう訴えるように。 「お前は弟じゃない、アヤカシだ。何度も言わせるな化け物」 冷たい目で睨みつけられ、俺は動けなかった。 何より二十数年ともに過ごした兄弟に拒絶されたショックが大きかった。 (俺はここで終わるのか･･･) 兄弟の手によって。 退魔符を放とうとしている兄弟の姿を見ながら俺はただ泣くしかなかった。 「カラ松！！」 その声で俺は我にかえった。 「一松！」 「させるかッ！！」 一松がそう叫ぶと辺りに閃光が走った。身体が光り輝き力の風が吹き荒れる。 力の風が一松を包み全身を巡り、そして一気に開放をした。 一松を抑えていた十四松と近くにいたトド松が衝撃で吹き飛ばされる。 「ちっ。猫化か･･･！！」 「落ち着いて一松！！」 猫化した一松は迷うことなく退魔符を構えるおそ松とチョロ松に向かっていく。 びりっと服が破ける音とドンっと何かと何かがぶつかる音。キンッと高い音を響かせ一松は宙で一回転して再び俺の守るように兄弟と対峙した。 「逃げろ！！」 そう叫ぶと同時におそ松に飛び掛る。 「いい加減にしろ、一松！！」 おそ松は一松の爪を避け蹴りを入れようとする。それを読んでいた一松は宙を舞うようにジャンプをし尻尾で思いっきりおそ松の顔を殴った。 「がはっ！！」 おそ松が倒れるとチョロ松と対峙する。 「何してんだ、早くしろ！！」 叫びながらチョロ松の攻撃を必死に防ぐ。 「よそ見している暇はないよ一松！！」 「んぐっ！！」 足払いをかけられ一松は床に叩きつけられる。暴れて逃れようとする一松をチョロ松が必死に押さえ込んで寝技に持っていこうとしていた。 このままでは一松が危ない。 だが俺の身体は動かない。 突然のことでどう動けばいいのかわからず呆然とその光景を眺めていた。 そんな俺を叱咤激励するように一松は俺を見た。 チョロ松に押さえ込まれ苦しそうに、でも優しく笑みを浮かべながら。 「カラ松兄さん･･･大好きだよ。だから逃げて。早く･･･俺が押さえている間に･･･」 「一松･･･」 「さっさといけよ、クソ松！！！！」 次の瞬間俺は素早く窓を開けて飛び出した。 俺を助けようとした一松をおいて。 俺の目からは涙が留まることなく溢れ続けた。 [newpage] 「松野一松。退魔師の活動及び行動を妨害した罪で拘留する」 俺は退魔師の行動を妨害した為、拘留された。 所謂公務執行妨害って奴だ。 退魔師は妖怪、魔獣専門の自衛隊だ。つまり国家公務員。 それを邪魔した俺は当然こうなる訳だ。 まあ俺はかえって居心地がいい。 何故ならここは警察署だからだ。前科者にはなったが、俺のやったことを考えると本来ここよりも退魔師のいる施設に送られてもおかしくはない。 おかげでクズ退魔師どもと顔を会わせる機会が少ない。 まあまったくないというわけではないのだが。 暫くここでのんびりしたいなぁ･･･そんなことを思っていたら追い出された。 「俺ここに住んでいいぐらいなんだけど？」 「ここは住む場所じゃない」 そりゃそうだけど。 「なんで特に取り調べもしてないのに釈放なわけ？」 「防衛省からの通達だよ。アヤカシに狙われている可能性があるから然るべき場所で保護するそうだ」 何も知らない警察官は俺に「よかったな」と言う。 恐らくは兄弟の働きかけだろう。 本当は全然よくないのに･･･。 そんなことを思いながら舌打ちをした。 迎えはチョロ松兄さんが車できていた。 「元気そうだね。まったくお前って奴は･･･」 俺の顔を見るや否や小言をぶつけてくるがガン無視した。 「とりあえず自宅で保護になったから家にかえるよ。あと不要な外出は禁止ね」 守るはずない。 誰がお前達の言うことなんて聞くか。 反抗的な目でチョロ松兄さんを睨みつける。 チョロ松兄さんは呆れ顔でそれを受け流した。 その呆れ顔が癪に障り、俺はずかずかとチョロ松兄さんが準備した車の横を通り過ぎる。 「一松、乗らないの？」 無視して歩き続ける俺を諌めるようにチョロ松兄さんが肩を掴む。 「･･･」 横目でその手を見た。 白くて他の兄弟に比べて少し小さいチョロ松兄さんの手。 だがこの手はカラ松を殺そうとした。 そう思うと気持ち悪くて俺は振り払った。 そして何事もなかったかのようにまた歩き出す。 「兄を無視するなんていい度胸だな。お前のことで僕達がどれだけ怒られたと思ってるんだ！」 チョロ松兄さんが怒気を強めて言う。 そんなこと俺が知ったことか。 「俺にはもう、カラ松以外の兄はいない･･･」 とだけ言葉を返す。 「･･･一松」 チョロ松兄さんは絶句していた。そしてそれ以上何も言わずただ俯いた。 それから家に帰る気もなく、当てもなくフラフラした。 十四松やトド松も「一緒に家に帰ろう」と迎えにやってきた。 弟を無視するのは心が痛むが、俺はチョロ松兄さん同様二人をガン無視した。 二人は今にも泣きそうな顔をしているが、あの時のカラ松はもっと辛そうな顔をしていた。 その後もあてもなくフラフラと徘徊を続けたが、結局おそ松兄さんに抱えられて帰宅した。 退魔師の力を使って痺れさせられたのだ。 「アヤカシ以外に使っちゃだめなんじゃないのその力は」 「アヤカシに狙われる可能性がある人間の保護に使ったから問題なーし！！」 (クソ長男め･･･！！) その日の晩御飯は手羽先だったが、俺は食べる気になれなくて何も食べなかった。 カラ松のいない晩御飯を終え、お風呂も入った。 「トド松そっちもって」 「はぁーい」 兄弟は何事もなかったかのようにいつもの布団で寝る準備をしていた。 長い特注の布団。 六つ子の俺達のための布団。 でももうここに六人が揃うことはない。 枕も五つしかない。 「一松兄さん、寝ようよ」 十四松が声をかけてくる。 俺は無視して一階に降りる。 「ちょっと昼間からずっと無視ってひどくない。僕達心配してるんだよ。ちょっと聞いてるの一松兄さん！！」 階段の上からトド松が罵声を浴びせるが、俺は遮断するように襖を閉めた。 俺は居間で、カラ松の手鏡を見つめる。 カラ松がしていたように。 暫くしておそ松兄さんとチョロ松兄さんが説教をしに降りてきた。 「お前の気持ちも分かるよ。でもなあれはカラ松じゃないんだ」 おそ松兄さんが諭すように言う。 分かるものか、俺の気持ちなんて。 「カラ松のいない布団で寝れない」 俺はそれだけ告げるとちゃぶ台に頬杖をついた。 梃子でも動き気はない。 結局兄さん達は諦めて二階に上がっていった。 誰もいなくなった居間で時計の針の音だけを聞いて過ごす。 こんなにも一分一秒が長く感じたのはいつ以来だろうか。 この家はこんなにも退屈で居づらいものだっただろうか。 あの日この家は変わってしまった。 いやあのスカウトマンが来た日から俺達の運命は決まっていたのかもしれない。 次の日の朝方、俺は黙って家を出た。 カラ松にいないこの家では、生きている心地がしなかった。 俺は路地裏に住み着いた。 所謂ホームレスだ。 ダンボールを地面に引いて寝る。公園のベンチで寝たこともあったがあそこは警察の見回りもあるし、イヤミやチビ太に会うことがあったのでもうやめた。 最初は兄弟の誰かが二十四時間交代で俺を見張っていたが、今では一日一回差し入れを持ってきて安否確認をするだけになった。 差し入れはすぐにゴミ箱消えた。 こんな燃えないゴミにそんなことするぐらいなら、カラ松に何かしてあげればいいのに。 そう独り言を呟き、苦笑した。 幼いころの公園の一件もあったが、俺がカラ松兄さんのこと“人じゃないかもしれない”と思うようになったのは中学生のころだった。 夜に虎耳、虚ろな目でカラ松は何処かへ出かけたことがあったのだ。しかも裸足で。 俺は気になって追いかけた。 だが追いつけなかった。見失った。 何故なら外に出たカラ松は尋常ではない脚力でビルの上まで飛び、夜の街へ消えてしまったのだ。 俺はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。 そして次の日、クラスメイトの何人かが怪我をしていた。 放課後、彼らは俺に謝罪をして荷物を返してくれた。 「今更何で？」 俺が聞く。 「虎の化け物がくるんだよ･･･！！この化け物･･･！！」 彼らはそう言うと俺から逃げ出した。 俺はあのころいじめにあっていた。無視や仲間はずれはいつものこと。ついには物までなくなりこれには流石の俺も困っていた。 いくら兄弟が六人いて貸し借りできるとはいえど、あの兄弟にずっと借り続けるのは気が引ける。そのうちお金も請求されそうだ。 だがなくなったものは返ってきた。 俺には心当たりがある。 昨日の夜のカラ松だ。 家に帰った後さり気なくカラ松に聞くも不思議そうに俺を見ただけだった。 どうやらその間の記憶はないらしい。 「荷物が返ってきてよかったな」 最初は否定したくて、カラ松に辛く当たった。 俺がどうしようもない餓鬼だったから気持ちが追いつかなかったんだ。今では悪い事をしたと思っている。 嫌われたって仕方のない事をした。 でもカラ松はそんな俺を否定もせずただ「信じてるぜ」と言ってくれる。そんなカラ松に俺は安心したんだ。 結局カラ松兄さんはカラ松兄さんなんだ。 優しくて鈍感で騙されやすくて。兄弟のことが大事な俺の兄さん。 アヤカシでもいいじゃないか。 これまで過ごした日々は嘘なんかじゃない。 人じゃなくてもいい。 徐々に俺はそう思えるようになっていった。 そして決めた。 その時に決めたんだ。 決めたのに･･･。 カラ松兄さんを守るって。 カラ松がカラ松で居たくなくなるまで、カラ松は俺が守るって。 ごめんなさい、カラ松兄さん。 ごめんなさい。 「･･･ごめんなさい」 いつの間にか声に出して、俺はカラ松に謝罪していた。 ぐしゃぐしゃになった顔を腕で覆い、唇をかみ締め嗚咽を零した。 その様子を少しはなれたところで一匹の虎猫が聞いていた。 家を出て十日がたった。 俺は特にすることもなく毎日猫と戯れていた。 まあやっていることは家に居たころとあまり大差がないけどね。 猫たちといると不安と恐怖と怒りで壊れそうな自分を忘れられるからかもしれない。 だから今日も俺は猫と戯れる。 「にゃ～」 何も変わらない一日。 猫の頭をなでながら変わらない一日を過ごすと思っていた。 「フー、フー！！」 「･･･っ！？」 まず猫が威嚇を始めた。 一瞬何が起こったのかわからなかったが、すぐに異様な雰囲気を感じてその場に凍り付いてしまった。 なんだろう･･･これは･･･まるで･･･。 (殺気だ･･･) 恐る恐る後ろを振り返ると、そこには鬼のアヤカシがいた。 猫たちはその姿を確認するや否や一斉に逃げ出す。 対する僕の身体は動かない。 退魔師の勉強を独学でしていたとはいえ、本物のアヤカシと一人で対峙するのは初めてだ。何より俺はカラ松を守るために勉強していたから、アヤカシと戦う方法なんてそもそも知らない。ましてや鬼なんて･･･！！ 鬼は弱いものでもランクで言えば中級ぐらいの力を持つものが大半だと、この間読んだ本に書いてあった。 (失念してた･･･) 退魔師の才能があるものはアヤカシに好かれる。 凶悪なアヤカシだと力を持つ人間は捕食の対象にされる。つまりこいつにとって俺はご馳走だ。 じゃあ何故今まで俺達六つ子がアヤカシに襲われることがなく普通に暮らせたのか。 それはカラ松の縄張りにいたからだ。 本人は無自覚だったが、カラ松は上級ランクのアヤカシだ。知らず知らず俺達を守っていたのだろう。 だがもうカラ松はいない。 俺はカラ松の加護から離れてしまった。 そしてここには他の兄弟もいない。 いるのは素人同然の俺だけ。 恐らく兄弟達が見に来ない時間を見計らっていたのだろう。 (こいつ･･･知性の高いタイプか･･･！！) 知性が高いと言う事は退魔師に目をつけられたくないから人が多いところでは襲ってこないはずだ。 俺は人通りへ逃げようと駆け出した。 だが相手は知性をもったアヤカシ。 「ガアアアアアアアッ！！」 咆哮とともにアヤカシの妖力で道があっという間に塞がれる。 「･･･クソッ！！」 塞がれた道を素手で殴って見るがびくともしない。 そうしている間にも鬼は俺に一歩、また一歩と近づいてくる。 「あ･･･ああ･･･！？」 どうしよう。どうすればいい？ こんなことならもっと力の使い方を学んでおけばよかった。 札とか頑張れば自力で作れたかもしれない。 でももうだめだ。 俺は何もできずアヤカシに食われる！ 俺は覚悟を決め目を閉じた。 だがくるはずの痛みはこなかった。 恐る恐る目を開けると一匹の虎猫が俺を守るように立ちふさがっていた。 体格は圧倒的に鬼のほうが上だ。 だが虎猫から出る異様な妖力は鬼を圧倒していた。 鬼は虎猫に恐れをなして逃げていく。 同時に塞がれていた道が開いた。 だがもう逃げる必要はない。鬼はもうここにはいない。ここにいるのは虎猫と俺だけ。 姿は小さい。 でも一目で分かった。 「カラ松･･･」 そう問いかけると、虎猫は振り返った。 「一松、大丈夫か？」 振り返った虎猫は顔の部分だけがカラ松の顔だった。その姿に俺は吹き出してしまった。 カラ松が不思議そうな顔で下から俺を顔を覗いてくる。 「おい、クソ松。顔だけかよ！」 おもしろ可愛すぎて、笑いが止まらない。 「変か･･･？」 「･･･いや、可愛い！」 俺は笑いながらカラ松を抱きしめた。 久々に抱きしめたカラ松は暖かくてふさふさで気持ちよかった。 俺はカラ松を寝床としている場所へ連れて行った。 「こんなとこで寝て･･･風邪を引いたらどうするんだ」 カラ松がぶつぶつと文句を言う。 「自分だって野宿のくせに･･･」 「俺はアヤカシだからいいんだ」 一々むかつくが小さな虎猫の姿のカラ松に言っても仕方ない。 俺はカラ松を膝に乗せて、カラ松が逃げた後の話をした。 俺の話しを聞き終えるとカラ松は俺に謝罪してきた。 「すまない、一松」 「いいよ、自分で決めたことだから後悔してない」 そう言うとカラ松の頭を撫でた。 暫くお互い無言で俺はカラ松の頭を撫で続けた。 撫でながら考えていた。 聞くべきか･･･聞かないで置くべきか。 だが興味のほうが勝った。 それに知る権利ぐらいあるだろう、兄弟なのだから。 思い切って口を開く。 「記憶･･･戻ったの？その･･･カラ松じゃないカラ松の記憶」 「ああ、戻った」 カラ松がはっきり答える。 そうか戻ったのか。 じゃあもうカラ松はカラ松でなくなるのか。 でもそれは仕方のないことだ。 カラ松がカラ松で居たくなくなるまで守る。そう決めていた。だからカラ松がカラ松で居たくないなら俺に引き止める資格はない。何しろカラ松を殺そうとしたのは間違いなく自分の兄弟だから。 「これから･･･どうするの？」 俺の問いかけにカラ松は罰の悪そうな顔をした。 やっぱり出て行くんだ。 覚悟はしていたが、いざさよならを言われると思うと胸が苦しい。 俺は気持ちを落ち着かせようと小さく深呼吸をした。 そしてカラ松が話し出すのを待った。 暫くしてカラ松は一言一言をかみ締めるようにゆっくり話し出した。 「路地裏で一松の独り言･･･聞いた。一松の独り言を聞いたとき、赤塚を去ろうと思った。これ以上大好きな兄弟が傷つくところは見たくなかったから。だけど俺のために頑張って一人傷付いてくれた一松に何も言わず出て行くことはできなかった」 カラ松は俺の目を見て、目尻に涙を溜めて言った。 「ありがとう、一松。今まで兄弟でいてくれてありがとう」 今生の別れの言葉。 カラ松にとっても辛い言葉。 だが腑に落ちない。 俺はカラ松がカラ松で居たくないなら仕方ないと受け入れるつもりだった。 なのに･･･なんだよありがとうって。 認めない。 こんな言葉は認めない。 認めない！！ 「ふざけるなッ！！」 思わず叫んだ。 膝の上でカラ松は突然の大声にビクッと震えたのがわかった。 だがそんなことに構っている暇はない。 本当に鈍感でバカだこの男は。 俺は･･･。 俺は･･･！ 「お前がアヤカシでもいいだよ！誰がなんと言おうとカラ松は俺の兄さんだよ！！今まで兄弟でとか言うのよ、これからだって俺達は兄弟だろ！！」 「俺はただのアヤカシじゃない。妬みや嫉妬を増幅させる魔獣暴虎といわれる奴なんだ、だから･･･！！」 「暴虎がなんだ！そんなことどうでもいいだろ！！」 「いや･･･どうでもよくは･･･」 「どうでもいいんだよ、そんなこと！！」 俺は喚き散らす。 まるで長兄のように自分から目をそらしてほしくなくて、必死にアピールをする。 暫くそんな言葉の応酬を繰り返しついにカラ松が折れた。 「･･･まったく」 カラ松は苦笑した。 「俺の負けだよ･･･一松。以外に口が達者だな」 カラ松は俺の膝から降りた。そして人の姿になった。 その耳には虎耳、虎の尻尾が生えていた。 (可愛い･･･) そう思ったのは内緒である。 人の姿になったカラ松は俺の頭を撫でると真剣なまなざしで真っ直ぐ俺を見た。 そして言う。 「本物の松野カラ松のことを話そう。これが真実だ」 「本物の松野カラ松は産まれて六日目の夜に死んだ」 「死んだ･･･？」 「ああ、元々六つ子を産むことは難しい。一人いや或いは母子含めて全員が死んでもおかしくない命がけの出産だったはずだ」 「･･･」 「俺は元々玉に封印されていたんだが、ある男がそれを盗んだ。そして盗んだ男は運悪く車に跳ねられお前達が入院する病院へ搬送された。その時の衝撃で玉が傷付き俺もぼろぼろになった。俺は力と傷を癒す為に死んだばかりのカラ松の中に入ったんだ。だが俺の予想以上に損傷が激しかったんだろうな。そのまま記憶をなくし、二十年以上人として育ったんだ」 魔獣暴虎なのにな。 そういわんばかりに苦笑する。 「そこは魔獣もかわらないってことだろ」 俺が笑いながら言う。 「そうかな」 「そうなんじゃない」 カラ松も笑った。 笑い終わった後カラ松は寂しそうに俯いた。 これ以上に何か言いにくいことでもあるのだろうか。 意味も無く指を動かして言葉を選んでいる。そんな様子のカラ松を俺は黙って見守った。 急かすつもりは無い。 カラ松のペースでいいから、はぐらかさないで言ってほしい。 俺の気持ちが通じたのかカラ松は顔をあげて不安そうに聞く。 「なあ一松。そんな奴だけど、それでもお前の兄だろうか？」 なんだそんなことか。 俺は笑いながら答える。 「何度も同じ事を言わせるな、クソ松」 カラ松が鼻を啜る音がした。 目には涙が溢れていたが、うれし泣きだとすぐにわかった。 対する俺も本当のことを話してくれたことが嬉しくて泣いていた。 そしてカラ松の両頬に手を当て、お互いの額と額をあわせてずっと言いたかった言葉を口にした。 「俺と一緒にいて･･･ずっと･･･ずっと･･･」 その言葉にカラ松が息を呑む。 アヤカシとずっと一緒にいたい。それはとても危険な行為なのだ。 カラ松は諭すように俺に言う。 「一松、アヤカシに近づきすぎるとアヤカシに変質する人間もいる。特にシャーマンタイプはそうなる可能性が高い。俺といるということは人を捨てることになるかもしれない」 アヤカシとしての記憶が戻ってもカラ松はカラ松のままでほっとした。 何より兄弟を大事に思ってくれている姿が嬉しかった。 だが同時に寂しかった。 俺はいつまでたってもカラ松にとって弟でしかないことに。 自分の中でずっと隠してきた感情があふれ出してくるのわかる。俺はもうそれを止めるつもりはない。 俺はカラ松が好きだ。 兄弟だからずっと隠してきた。 墓まで持って行くつもりだった。 兄弟で同じ顔で恋愛なんて叶う筈ないし、受け入れられはずない。拒絶されたらもう生きていけない。 でももういい。 全て吐き出してしまおう。 「いいよ。カラ松さえいれば」 俺は躊躇うことなくカラ松の虎耳を甘噛みする。そして何かを言おうとするカラ松の口を自分の口で塞いだ。 「･･･ん」 触れるだけの優しいキス。 ずっとずっとほしかったカラ松の唇。 「一松･･･？」 「さっきからさその容姿、誘われている気がして仕方ないんだけど？もしかして俺の趣味しらないのかな、カラ松は」 顔を真っ赤にしながら高圧的に言う。 カラ松も俺の言葉に顔をトマトのように真っ赤にして、俯いた。 だが尻尾は正直だ。 ちょこちょこと動いて可愛い。 もう我慢の限界だった。 いやもう我慢なんてしない。俺はカラ松と入れるなら人間だってやめてやる。 俺はカラ松の顔を無理やり上げると深く口付けをして、そのまま押し倒した。 続く。

カラ松がけも松(※アヤカシ)、一松(人間)の一カラです。<br /><br />※注意※<br />・カラ松だけけも松。<br />・アヤカシがいる世界設定<br />・兄弟同士で戦う<br /><br />苦手な方は回り右してくだいお願いします＞＜<br /><br />＊＊＊<br /><br />他の小説を書いていて詰まって。<br />悶々していたら「一回違うのかいてみたら？」とアドバイスという名の悪魔のささやきが聞こえたので一カラです。<br />全後半で終わる予定です(ΦωΦ)<br /><br />原案、プロットは双子の妹です。<br />「こんなの思いついたー。」と報告が来て「やべー萌え死ぬ」とか言ってたら「書いて」とか言ってきた。<br />プロットくれたらやってやるよ！<br />って言ったらメールで届きました(￣□￣;) !!<br />ありがたいけど君のおかげでおそ松さんの小説のストックがマジやばいんですが。<br />消化できるのかこれ。<br />でもどれも「書きたい」という願望というか欲望が止まらないのでゆっくり消化していきたいな！とか悠長なことを言って終わる。<br /><br />表紙素材お借りしました<br /><strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/32894273">illust/32894273</a></strong><br /><br />◇20140317追記･･･閲覧、評価、ブクマありがとうございます。2016年03月03日付デイリーランキング78位、2016年03月04日付デイリーランキング41位に入りました。読んで頂きありがとうございました。<br /><br />続き【愛しの暴虎・中編<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6550930">novel/6550930</a></strong>】<br />全後半で分けるつもりでしたが後半が長くなりそうだったので中編を間にはさむことになりました＞＜

愛しの暴虎・前編

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[chapter:危機一髪] 　ライダーが投げてきたクッキーは3つ、俺はマスターのを壊すしかできないが、セイバーのマスターと間桐はどうすんだろうか。 八幡｢マスター、しゃがめ。｣ 　俺は剣でクッキーを砕いた、セイバーはつかんで向こうのマスターに投げ返し口の中へホールインワン。そして最後の１つは間桐の口の中に入った。 士郎｢桜がやられた。無関係の妹を手にかけるとは、この人でなし。｣ 桜｢せ、ん、ぱ、い、わ、た、し、は、だ、い、じょ、う、ぶ、death。｣ 　絶対に最後のですの言い方違ったよな何てツッコミはしないからな。そういえば、ライダーのマスターどうなったんだろうか？ 慎二｢遠坂に衛宮、お前らはこの結界の中で物を食べたら誰であろうとその味の不味さで気絶すると思っているようだが、僕は違う！！ 　だって、僕は何度もそんな目に合っているから体に耐性が付いたんだよ。｣ 　もしかしたら、こいつは俺の同胞の気がしてきた。あいつの料理を食べて死にかけたんだろうな。思い出したら、寒気がしてきた。 慎二｢ライダー僕らの目的のためにも、先ずはセイバーからやっちまえ。｣ ライダー｢(ごめんね、ゆきのん。) 　　　　　[[rb:聖母による負の晩餐 > マリア・ザ・ダークマター]] 　　　　　　　　　　　　 フェイズ2開始。｣ 　何だ、ライダーの周りに魔力が集まり、それを纏い始めたぞ。これは、気を引き締めなきゃならんな。 　走り出しロープを投げ、こちらの攻撃を妨害してくるライダーに対して、セイバーは唯唯防御に徹しこの場から離れようとしてる。なら俺たちは、こう行動するのが一番だ。 八幡｢マスター、間桐をこの場から運ぶぞ。｣ 士郎｢あぁ、分かった。遠坂はセイバーたちの方を頼む。｣ 凜｢分かったわ。保健室に運んだら直ぐこっちに向かってちょうだい。｣ 　 　保健室 士郎｢桜、少しここで休んでてくれ。終わったら迎えにくるから。｣ 八幡｢セイバーたちは、グランドに行ったようだ。直ぐに向かうぞ、マスター。｣ ？？｢そんなに、急がなくても良いんじゃない、アサシン？｣ 　しまった、他にもいたのか。この声嫌な予感しかしない。 ？？｢改めて、ハロハロ、アサシンのマスター君。私はキャスターのサーヴァント。あなたたちにはあの戦いに参加して欲しくないから、私の結界の中で遊んでてもらうね。｣ 　風景が捻れ変わった場所は、明かりはあるが広さがどれだけあるのか分からん場所だ。 士郎｢ここから出しやがれ、キャスター。｣ 八幡｢落ち着けマスター。一応、武器を構えおいてくれ。｣ 　そう言ったすぐに、ゾンビが現れた。 キャスター｢サービスで言っておいてあげるけど、結界から出る方法は、次から次へと出てくるゾンビを一万体倒すことだから。じゃあね、ヒキタニ君。Music start♪｣ ダラダンダ、ダラダラダンダン、ダッダダラダラダンダン、ダッダダダダン 　このBGMはまさか(ガタガタ ゾンビ達｢やらないか。｣ 　 士郎｢なんでさーーーー｣ [newpage] [chapter:氷帝vs犬騎手] 　全くさっきから何度斬ってもロープが再生してこちらを捕らえるために飛んでくる。 　正直言って面倒だわ。それに何だか強度が上がってないかしら？ ライダー｢セイバー、どうしてロープが強くなってると思ってるでしょ？このロープはあたしがもつ宝具の１つで、その名も、 　　　　　[[rb:獲物を捕らえる猟犬 > ハンティング・ハウンド]] 　この宝具は獲物を捕らえるまで何度もその首を狙い追いかけ、壊されて再生する度に頑丈になっていくんだし。｣ セイバー｢通りでさっきから壊すのが大変なのね。でもそれなら、その宝具を使えなくすればいいのよね。[[rb:完全に凍結させる柩 > アブソリュート・コフィン]]｣ 　真名解放と共に、この場の気温が数度下がり、ライダーの宝具は氷付けにされ動かすことができなくなってしまった。 セイバー｢これでその宝具は使えないわ、私が氷を溶かすまでわね。加えて言うなら、もうチェックメイトよライダー。｣ 　動きを封じられていたのは、宝具だけでなく、ライダーの足もだった。宝具だけでなくその担い手まで凍らせるとは、流石はセイバー、私たちにデキナイコトヲ平然とやってのける。そこにしびれる、憧れる。 慎二｢何やってんだよ、ライダー。その氷を早く溶かせ。｣ ライダー｢分かってるよマスター。さあ、出番だよサブレ。｣ －－－－－－－－－－－－－－－－－－－－ 　その頃、士郎たちは 　やらないかやらららいかやらやらかいかい ゾンビ達｢もっとドキドキ止められない｣ 　もっとドラマチック☆恋☆ハレルヤ ゾンビ達｢二人だけで、やらないか｣ 士郎・八幡｢｢誰がやるか💢💢｣｣ 　この地獄の中でまさに死ぬ気で戦っていた。結界破壊まで後5000体。 [newpage] [chapter:氷剣vs愛犬] 　サブレと叫んでライダーが召喚したのは皆さんご存じのあの可愛らしいミニチュアダックスフンドではなく、体長3メートル位の狼のような犬だった。 ライダー｢サブレ、この氷を溶かして。｣ 　返事なのか、一度雄叫びを挙げてから氷を口から炎を吐きながら溶かし始めた。そして氷は溶けて、 ライダー｢これでサブレに乗ることができる。いくよセイバーこっからがあたしの本気だからね。｣ 　ライダーを乗せたサブレが走り出しセイバーに激突しようとするが、間一髪セイバーはそれを回避。だが、その直後尻尾で地面に叩きつけられる。 セイバー([[rb:完全に凍結させる柩 > アブソリュート・コフィン]]をまた使おうにも的を絞れないわ。それにあの狼？神獣か何かかしら、おそらく魔力耐性は高いわね。そんなことを考える前に今は少しでも攻撃を避けないと) 　サブレの爪による攻撃が何度も空を切る間セイバーはどう対抗するかを考えていた。 　爪で引っ掻きにかかるのに大振りになるタイミングを作りながら避け続け、やっとできたそのタイミングでセイバーはサブレを剣で一度斬ってから距離を取った。 　サブレは何十回も攻撃したのに対してセイバーは今の一回しかまだ攻撃できていない。それにサブレの攻撃は致命傷とまではいかないが少しずつセイバーの体力を削っている。 セイバー(これだけ距離が離れていれば攻撃がきてもカウンターの準備はできる。) ライダー｢セイバーあまいよ、サブレ。｣ 　サブレは口を上に向けて空け魔力を溜め始め、溜め終わったのと同時にセイバーに向かって放出した。それは水晶のように綺麗で大きさはカボチャの一回りほど大きい。だが、その大きさに似合わない魔力が込められていた。 　その魔力玉をセイバー何とか剣で切り裂いて消滅させたがあんなのを何発も相殺できるほどセイバーの体力は残っていない。 凜｢何なのよあの攻撃、込められている魔力が尋常じゃないわよ。｣ 　 慎二｢良いぞライダー、その調子で頑張れ。｣ 　時間が掛かればセイバーに不利なこの状況なら、セイバーに残された方法はあと１つ。 セイバー｢マスター、あの宝具の使用許可を｣ 凜｢分かったわ、でも間違っても校舎にぶつけてはダメよ。｣ 慎二｢ライダー、何か仕掛けて来るぞフルパワーでさきに止めをさせ。｣ ライダー｢サブレ、いくよ。｣ 　セイバーに向かって走り出す構えをとるサブレ。だが、その体は先程よりも濃い魔力を纏い始めている。 ライダー｢これがあたし達が今出せる全力だよ。　　　[[rb:神獣の彗星 > サブレ]]｣ 　走り出したサブレを様々な色の魔力が覆いその姿は彗星のように綺麗に見えるだろう。 セイバー｢ここが広い所で他より高い所で良かったわ、これで私も本気を出せる。全魔力解放そして放出用意 　　　　　　[[rb:絶対零度を司る剣 > アブソリュート・ゼロ]]　　　　｣ 　かの騎士王の聖剣が発するフレアとは真逆の全てを氷付かせるブリザードがライダーたちに襲う。 [newpage] [chapter:消滅] 士郎｢これで最後だ。｣ ゾンビ｢やらないか｣ 　最後のゾンビを倒したことによって結界が解除されて、俺たちは元いた場所に戻ってきた。 八幡｢マスター、グラウンドに急ぐぞ。｣ 士郎｢あぁ、待ってろよ遠坂。(早く戻ってくるからな桜)｣ 　グラウンドにたどり着いた俺たちが見た光景は、ライダーの宝具とセイバーの宝具が衝突している真っ最中だった。 　このままいけば、現在圧してるセイバーが勝つとその場に居た者はそう考えただろう。 　そんなとき、セイバーが黒い影みたいなものに飲み込まれ始めた。そして担い手が取り込まれ始めたことによってセイバーの宝具の威力が落ち始め、結果ライダーの宝具が勝りセイバーにダメージを与え、完全にセイバーは影に飲み込まれ消滅した。 凜｢何よこれ、慎二あんたまさか何かしたの？なら私は容赦しないわよ。｣ 慎二｢待て待て、遠坂これは僕じゃない。それは誓ってもいい。｣ 士郎｢念のために教会に報告した方が良いだろう。それで、慎二まだ戦いを続ける気か？｣ 慎二｢こんな状況で続けられかよ。僕はこれで帰るよ。それにライダーの結界はもう解いてある。病院で診てもらえば全員軽い食あたりだって言われるさ。じゃあな衛宮、遠坂。｣ 八幡(雪ノ下が最初に脱落したか、それと) 　八幡はライダーを見たが、その顔はとても笑顔からはかけ離れた顔だった。 八幡(だが、これで俺の目的に一歩近づいた。絶対に俺は勝ち残ってみせる。) 士郎｢遠坂、.........｣ 凜｢お願い、今は少しだけ肩を貸して、｣ 士郎｢あぁ。｣ 　　サーヴァント　セイバー 　　　　　　　　影に飲み込まれリタイア [newpage] [chapter:あとがき] 　無事ライダー編を終えることが出来ました。次からはキャスターとの戦いになるかも知れません、でもその前にキャスターのマスターや凛がこれからどうするのかを書いていきたいです。 　セイバー、影に飲まれましたね。これは皆さんお気付きのフラグかも知れませんよ。 　次の章辺りからハルガメッシュ動き出すかな？それに士郎も強くなり始めますよ。 　士郎についてアンケートがあるのでご協力お願いします。 　次のページはライダーのステータスと宝具の紹介です。 [newpage] 　クラス名　ライダー 　真名　由比ヶ浜結衣 　ステータス　筋力D/耐久C/敏速A/魔力B/ 　　　　　　幸運C/宝具B～A 　クラススキル　対魔力B　騎乗C- 　保有スキル　悪夢の料理A　聖母の包容力A 　　　　　　　仕切り直しB 　宝具 　[[rb:聖母による負の晩餐 > マリア・ザ・ダークマター]] 　対人宝具　ランクB 　生前どれだけやっても料理が上達することがなくそれどころか、彼女が台所に立つだけて料理の味が変わったというある事件が消化されて生れた宝具。 　フェイズ１が、結界内で物を食べた者をその不味さで気絶させる。フェイズ２で、気絶した者から食べたことで得られるカロリー分の魔力を自分に加えることができる。 　[[rb:獲物を捕らえる猟犬 > ハンティング・ハウンド]] 　対人宝具　ランクB 　本編で説明が合った通りで、狙った獲物を捕らえるまで何度も再生しその度に強化されるロープ。獲物が変わるとそれまで強化された分は消えて無くなる。 　[[rb:神獣の彗星 > サブレ]] 　対軍宝具　ランクA 　サブレという名の狼のような犬を召喚しそれに股がりサブレの操縦をしながら戦う。普段はミニチュアダックスフンドの姿で現界している。また、大きな姿で召喚されたときは神獣というランクになる。口から炎を吐く以外の芸当もある。また、[[rb:獲物を捕らえる猟犬 > ハンティング・ハウンド]]を用いて操縦すると、空も飛べる。

今回でライダー編終了です。最後にライダーのステータスを公開します。遅くなってすいません、卒業式やらなんやらで時間がなくて中々書けませんでした。

決着

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俺、大倶利伽羅広光には好きな人がいる。 それは… 「おはよう、大倶利伽羅。」 「おはよう…。」 この、お世辞にもお洒落とは言えない瓶底眼鏡の燭台切光忠だ。 髪の毛はちゃんと整えてくるし、服だって毎日アイロンかけましたみたいな綺麗な物を選んで着てくる。 持ち物は大事にされているのだというのが見て分かるくらいに綺麗に整理されているし、使い込んでいるだろうに古さを感じさせない。 成績は優秀で運動神経も悪くない、そして何よりとても優しい。 クラスメイトは【中身は良いと思うけど】と恋愛対象からは外していた。 人は外見ではなく中身で勝負ではないのだろうか…そうは思ったが、ライバルがいないのはとても気楽だった。 いや、ライバルがいなくても俺を好いてもらえなければ終わりなのだが。 「それ、また持ってきてくれたのか。」 「うん、やっぱり綺麗な花があると気持ちも明るくなるよね。」 光忠は定期的に綺麗な花を教室に持ってきてくれる。 そして、俺はそれを生ける花瓶を定期的に洗っていた。 せっかく綺麗に咲いた花なのだから、綺麗な花瓶に生けてやりたいという俺の気持ちだ。 こっそり洗っていたのに光忠は全部知っていたようで、 －いつもありがとう。花も喜んでるよ。－ と笑顔で言われた時には赤面した顔をどう隠そうか俯いて悩んだものだ。 悲しい話、俺に赤面だの笑顔だのは似合わない。 昔から感情表現というものが苦手でほぼ一年中無表情、笑うのは家族といる時くらいだ。 正直、笑っていると疑問を持たれる程に表情に変化がないのはスルー。 一人称も【俺】だし、スカートだって指定の制服でなければ誰がはくものか。 何処までも女子というものからかけ離れた女子だった。 「あれ？花瓶変わった？」 「前の花瓶はヒビが入っていたから新しい物を持ってきたんだ。」 「そうなんだ。ありがとう。」 しかし、そんな女子でも恋はするのだ。 ださい瓶底眼鏡を相手に熱くなる顔が制御できない。 「大倶利伽羅は優しいね。」 「そんな事は…ない。」 あぁ、こいつの笑みがいけないんだ。 ださい眼鏡をかけているくせに、その上からでも分かってしまう爽やかで甘くて優しい笑みが悪い。 そんな笑みを向けられたら、甘いチョコレートのように蕩けてしまいそうだ。 「ふふ、照れてるの？可愛いね。」 「そ、そういう言葉は望んでいないっ！」 「本心からの言葉だよ。」 あぁもうっ！！ 光忠の馬鹿！ 俺の学校ではよく男女ペアの形をとらされる。 そして生徒達の中では、それがある意味勝負の場でもあったりするのだ。 特に女子が強く意識しており、誰がイケメンと組めるか…を競うのだとか。 馬鹿らしくて俺は参戦した事もないし、しようとも思わない。 それに、俺はちゃんと決めた相手がいるんだ。 「大倶利伽羅、僕、残っちゃったんだけど…」 「俺も残った、から。」 「本当？じゃあ、僕と組んでくれないかい？」 「あぁ、勿論。」 その戦いの中でいつも最後まで残る光忠。 俺はいつだって、光忠が残るのを待っている。 俺から誘えばいい話と思うだろうが、そんな事、恥ずかしくて無理に決まっている。 自分から誘うだなんて、恥ずかしすぎて死んでしまう。 「大倶利伽羅はどうして最後まで残るんだろう？」 「お前もな。」 「僕は…大体予想がつくからなぁ。」 クスクスと困ったように笑う光忠。 あぁ、そんな表情も嫌いじゃない、いや、好きだ。 光忠はそういう事を気にしない奴だから疑問に思うのかもしれないが、女子が特にすごいというだけで勝負は男子の中でも行われているんだ。 どれだけ可愛い、綺麗な女子と組めるかどうかを。 その対象の中に俺は含まれない、こんな可愛げのない俺を選ぶ奴なんて何処にもいないんだ。 だけど、そのおかげでいつも俺は光忠と組む事が出来ているんだから幸せ者だと思う。 「実は、さ。」 「ん？」 ボソッと光忠が呟く。 「最後まで残れば、大倶利伽羅をペアに誘う口実になるな…って、思って、たり。」 「えっ…」 「あ、や、やっぱり気持ち悪いかな？ごめんね？」 「いや…別に…。」 まさか、まさか光忠からそんな言葉が出るなんて思わなかった。 心臓がバクバクとうるさい音をたてる、あぁ、早く静まれ、鎮まれ。 もしかして、俺もここで言うべきなんだろうか…俺も同じ事を考えていたんだと。 言っても良いんだろうか。 「あ、お…」 「ん？」 「俺も…」 「ペア組めたかー？今日の内容を発表するぞー！」 タイミングの悪さに泣いてしまいたくなる。 俺は光忠に「なんでもない」と告げると、先生の声に耳を傾けた。 光忠も首を傾げながらゆっくりと先生に身体を向けた。 そういう真面目なところも好きだ。 「大倶利伽羅さんと燭台切君って、いつも一緒だよね。」 「もしかして、そういう関係なのかな？」 「え、本当に？ふふっ…お似合いなんじゃない？」 そんな女子の会話を聞いたのは数日後。 花瓶を洗い終え、教室に入ろうとドアに手をかけた時だった。 俺と光忠の名前が出て思わずドアを開ける手を止めてしまう。 まさか自分の知らないところで、俺と光忠の事が噂されているなんて思わなかった。 たとえ皮肉が込められているのだとしても光忠との噂なら嬉しいと感じてしまう。 「まぁ、燭台切君は分かるけどさー…いい人だし。」 「うん。」 「大倶利伽羅さんが…ねぇ？」 ………俺がどうしたというのだろうか。 「可愛気が無いっていうかさ…本当に女の子なの？って思っちゃうよね。」 「燭台切君も大倶利伽羅さんは友達止まりが希望でしょ。」 「せっかくお似合いなのにねー！可哀想！」 そこで俺は現実というものを目の当たりにしてしまったのだ。 今までは何を言われても何も感じなかったし、言わせたい奴には言わせておけばいいと思っていた。 だが、今回はそんな言葉では済まされない。 俺は知らない間に好きな相手に迷惑をかけていたのか、嫌な思いをさせていたのか。 背後の窓ガラスに微かに映る自分の姿。 「…。」 あぁ、確かにこんな女と噂されるのは嫌かもしれない。 鏡から目をそらし、たった今教室に戻ってきましたという表情でドアを開ける。 さっきまで話していた女子はパッと口を閉じ、数秒して違う話題に花を咲かせ始めた。 いい性格をしているようで。 「あ、花瓶！ありがとう。」 花瓶を定位置に置き、水を張ったバケツに移していた花を戻す。 後ろから声をかけられた。 振り向かなくても誰だか分かる。 「あぁ…」 －燭台切君も大倶利伽羅さんは友達止まりが希望でしょ。－ 「気にするな。」 「えっ。」 振り向こうとした時に先程の女子の言葉が蘇った。 俺は光忠に顔を向ける事なく、少しだけ早歩きで席まで戻る。 そして声をかけるなというかのように鞄からイヤホンを取り出し装着した。 ちらりと見えた光忠はただただ戸惑っているようで、内心謝りながらも俺は曲に集中した。 その日、俺は何度も何度も光忠の事を無視した。 「待って！」 帰り道、ゆっくりと歩いていると後ろから声をかけられた。 振り向かなくても分かる声に俺は走り出す。 すると、若干聞こえ辛いが後ろの足音も走り出したようだ。 捕まってたまるか、こんな所を見つかったら、また、噂されてしまう。 また…！ 「大倶利伽羅！」 なんて事だ。 光忠の運動神経が抜群な事はよく知っていたし、足が速い事も知っていたが、追いかけられる側になると速さへの認識が更新された。 俺だって運動神経はかなり良い方だし、足の速さなら同学年女子の中でも一番だ。 それでも勝てないとかどんだけ速いんだこいつ。 ただ、そんなギャップも良いものだとときめいたのは言わないでおく。 「…っ、放せ！」 掴まれた腕を乱暴に振りほどく。 手首を握っても余裕で指が重なる程の大きな手とかずるいだろかっこいい馬鹿。 地面からゆっくりと光忠に視線を上げていくと、寂しそうな辛そうな表情が見える。 そんな顔をさせてすまない、だけど、俺は… 「大倶利伽羅…」 お前のために… 「僕と噂されるの…そんなに嫌だった…？」 …え？ 「な、何を…」 「今日、女子が話してたもんね。僕も聞こえてたんだ。大倶利伽羅、ドアの前で聞いてたよね。」 なんだ、見えてたのか。 「それから大倶利伽羅、僕の事を無視し始めたから、もしかしてって思って…。」 「…俺、は…」 「僕は…君と噂をされて、嬉しかったんだけど、な…。」 「……えっ？」 「ごめんね。大倶利伽羅さんだって、僕とは嫌に決まってるよね…。」 「あ…。」 「彼女達はあんな事を言ってたけどさ、僕は…」 光忠の寂しそうで優しい笑みが俺を見つめる。 「大倶利伽羅が一番可愛くて、素敵な女性だと思うよ。」 優しくて、甘い声。 目だけは瓶底眼鏡のせいで分からないけど、きっと優しい目をしているのだろう。 俺は一人で勘違いをして、光忠の事を傷つけてしまったのだ。 その現実に、罪悪感に、後悔に自然と涙が一粒零れた。 「大倶利伽羅！？ど、どうしたの！？どこか痛…」 「俺、も…」 「え？」 あぁ、俺は馬鹿だった。 人が、他人の気持ちを理解するなんて一生できるわけがないのに。 俺の思い込みのせいで、こんな顔をさせてしまった。 「俺も、嬉しかった…光忠、と…噂、され、て…」 「えっ…。」 全てを言おう。 俺の気持ちを、考えを全て、彼に分かってもらうために。 「ずっと…好き、だった…」 「………えっ！？」 「でも、俺…可愛いとは、無縁だからっ…男みたいだから、お前は嫌なんだって…」 「…僕がいつ、そんな事を言ったかな。勘違いだよ。」 しっかりとした腕が俺の身体を優しく抱きしめる。 光忠が、俺を、抱きしめてる。 「さっき言った通り、大倶利伽羅は誰よりも可愛いよ。」 耳元でそう囁かれ、肩がびくんっと跳ねた。 抱きしめていた光忠もそれを感じていたのだろう、くすっと笑い声が聞こえる。 俺は少しだけ悔しくなり、何か仕返しできないかと背中に手を回す。 「お前も…誰よりも格好良くて…素敵だと思う。」 そう言ってちらりと光忠の顔を見上げる。 計画通り、彼の顔は真っ赤に染まっていた。 [newpage] 次の日、花瓶を拭いていると光忠に後ろから声をかけられた。 挨拶を交わすと、それまで普通だった光忠が急に背筋を伸ばした。 そして、 「大倶利伽羅広光さん、好きです！僕と付き合ってください！！」 他の生徒の前だというのに大きな声でお辞儀をし、手を前に出しながら告白してきた。 教室を静寂が包み込み、数秒後、歓声があがる。 「おめでとう」ではなく、面白そうという意味が含まれているのはすぐに分かった。 俺はぽかんと口を開けたまま光忠を見つめる。 「…だ、駄目？」 なかなか手を握らない俺に不安を感じたのか、光忠がちらっと見上げてくる。 なんだその動作可愛すぎだろ。 そう素で思った直後、俺は我に返る。 「み、光忠…？」 「こ、こうやって皆がいる所で告白した方が、今後、牽制になるかなって思って。」 多分、今、お前以外の人間が「まず狙わねぇよ」って思ったぞ、光忠。 お前、変なとこでずれてるんだな…。 そう思いながら俺は逆に俺の方が牽制できて助かるなと思いながら手を握った。 光忠の顔がバッと上がる、驚いた。 「あっ…え、嘘、え、本当！？」 むしろ昨日のアレがあって駄目だと思う方がおかしいと思う。 ちゃんと俺はお前の事が好きだと伝えたはずなんだが。 「きゃー！おめでとう二人ともー！！」 「良かったな燭台切！！」 その言葉に周りを見渡せば、やはりそこには祝福ではなく面白いという感情が滲み出ていた。 素直に祝う事もできないのか、こいつらは。 いや、こんな奴らに心から祝われてもどうとも思わないから良いんだが。 他のクラスからも見に来ている奴がいて、そこにも同じ感情が見えた。 せっかく幸せな気持ちなのに萎えそうで、ゆっくりと光忠に視線を戻す。 そして驚きに目を見開いた。 「み、光忠…？」 光忠の眼鏡の下から透明な液体が大量に流れだしている。 いや、涙だ、これは涙だな、うん。 俺は慌ててハンカチを取り出し、光忠に手渡す。 「な、泣くな…何で…」 「ご、ごめん…す、すごく、嬉しくて…うっ…」 そう言いながら光忠が涙を拭おうと瓶底眼鏡を外す。 直後、再び静寂が教室を包み込み… 「ええええええええええええええ！！？」 驚きの声が一斉に上がった。 いや、正直、俺が大きな声をあげない人間というだけでかなり驚いている。 それもそのはずだ、今まで見た事のなかった光忠の眼鏡の下。 素顔が…今まで目にした誰よりも綺麗で格好良かったのだから。 「ありがとう、大倶利伽羅。」 「えっ…あ、あぁ、い、いや、気にする…な？」 瓶底眼鏡の下にこんな素顔が隠れているなんて誰が思うだろうか、いや誰も思わない。 「み、光忠…お前…なんで、そんな眼鏡を…」 「えっ、今更？まぁいいか…僕、眼鏡が似合わなくてさ…違和感あるの嫌だから、だったらもう格好悪いの我慢して全部隠しちゃおうって思ってね。」 「…。」 「今ではもう慣れたけど、最初は格好悪い格好悪いって学校に行くのも嫌だったんだよ。はは、恥ずかしいなぁ。」 何だその理由は。 お前の顔ならどんな眼鏡だって似合うだろう、いやもうそんな事よりお前は本当にあの燭台切光忠で良いんだよな？ 顔で選ぶというわけではなかったが、あまりにも格好良すぎて戸惑う。 「大倶利伽羅が僕の素顔気に入ってくれたなら、明日からでもコンタクトにするけど…？」 「えっ…あ、えっと…」 じっと見ていたからバレてしまったんだろう。 ニィッと少し意地の悪い笑みを向けられる。 そんな顔も、できるのか…と新しく見えた一面に胸が高鳴る。 「し、心臓が…」 「ん？」 「心臓が…爆発しそう、だから…駄目…。」 その返事にぽかんと光忠が口を開いたまま固まる。 そして、くっくっと笑い出した。 「…何だ。」 「いや、大倶利伽羅、可愛いなぁって思って…。」 「は？」 「そんなに可愛い顔をしてもらえるなら、今日帰って練習しようかな。持ってはいるんだけど勇気が出なくてね。」 コンタクトを入れるのが怖いとか、可愛すぎだろう。 練習する光忠を想像してまた胸が高鳴るのを感じた。 「ねぇ、大倶利伽羅、いい？」 「あ…う…す、好きに…」 好きにしろ。 そう言いかけて誰かに後ろに突き飛ばされた。 さっきまで席について俺達を面白そうに見ていた女子の数人だ。 光忠を囲んでいる。 「燭台切君、絶対にコンタクトの方が良いよー！」 「やだぁ、超かっこいー！！」 「性格も良くて顔も格好良いとか、王子様みたーい！」 …今まで性格しか褒めてなかった奴らが今更何を言い出すのか。 呆れすぎて何も言えない…そう思って眺めていると、 「ありがとう。でもごめん、僕は大倶利伽羅に聞いてるんだ。」 光忠が女子をかわして俺に歩み寄ってきた。 ぐいっと顔を近づけてくる。 「ねぇ、良いかな？」 「……っ…す、好きにしろ。」 「ふふ、やった。」 燭台切光忠は、クラス一ださい男から校内一のイケメンへと姿を変えたのだった。 格好良い光忠と歩くのはなかなか大変だった。 周囲の視線が光忠に注がれてしまうのだ。 あのイケメンは誰だとか、あんなにイケメンだったのかとか、完全に別人じゃないかとか。 今まで目立った事のない自分にとっては居心地が悪く、いつも隠れるように隣にいた。 光忠もそれに気づいているようで俺の事も視線から守ってくれるように歩いてくれた。 「ごめんね。」 なんて、お前が謝る事でもないのに。 まぁ、本人は皆が物珍しさから自分を見ているのだと思い込んでいるから仕方ない。 確かに男子生徒からはそれで間違いないが女子は完全に狙っているだろう。 俺という恋人を蹴落として、自分が恋人になるのだと。 顔が良いと分かった途端、距離を縮めたいだなんて自分勝手にも程がある。 「光忠。」 「何？」 「…手を繋ぎたいとか、言ったら…面倒くさいか？」 「……嬉しすぎるよ。」 俺の手が大きな手に包まれる。 見ろ、光忠と手を繋げるのは俺だけだ、光忠は俺の恋人だ、お前らなんかのじゃない。 俺は自然に見えるように振る舞い、繋いだ手を見せ付けるように歩いた。 「光忠君、可哀想。」 それは、ある日の放課後の事だった。 他のクラスの、学年一の美少女と呼ばれていた奴が光忠に言った言葉だ。 他に数人女子がいる。 ちなみに俺はまたドアの前で固まっている。 「光忠君、大倶利伽羅さんに騙されてる。」 は？ 俺が光忠を騙しているだと？ 何を言っているんだこの女は。 お前だってその化粧で素顔を騙しているんだろうが。 とは思うが言葉にはしない、無駄な争いは増やさない主義だ。 「僕が大倶利伽羅に騙されてる？」 「だってあの子、光忠君の顔ばかり見てるんだもん。」 「あれはどう見ても顔目当てだよねー！」 「光忠君の中身を見てあげれないとか本当に最低。」 何だそれは、自己紹介か？ 顔しか見ていないのはお前達だろうが、勝手な事を言うな。 学年一の美少女か何だか知らないが、あの日までは光忠に一切近づこうともしなかったくせに。 というか、男一人に声かけるのに女子複数を連れなきゃかけれないのか。 自分は臆病者ですと情けない奴ですと言ってるようにしか見えないが、何故ドヤ顔なんだ？ 「…そうなの？」 あまりにも勝手な女子達の言葉に脳内で反抗していると、光忠がぼそっと呟いた。 身体の中がスッと冷えるのを感じた。 まさか、そんな丸分かりの嘘を信じるわけじゃないよな…光忠？ 「そうだよ、だって前にお話した時に大倶利伽羅さん『男は顔だ』って言ってたもん。」 おいおい、冗談は顔だけにしてくれ。 俺はお前と一度も話した事がないぞ、それは多分俺じゃなくて他人の空似だ。 光忠、頼む、信じないでくれ。 「そうなんだ…。」 信じ、ないで… 「だから私にしなよ。私だったら中身もちゃんと見てあげられるよ？悲しい思いさせないよ？」 「へぇ、本当に？」 やだ、光忠… 何でそんな事… 「私の事も考えてみてくれる？」 「そうだね。」 これ以上聞きたくなくて、逃げようと思い足に力を入れる。 そして走り出そうとした時、 「じゃあ、先に大倶利伽羅に謝罪してもらっていい？」 光忠の冷たい声が聞こえた。 そのあまりの冷たさにドア越しに聞いていた俺でさえも恐怖に足が竦む。 目の前で聞いてしまった彼女達はどんな気持ちなのだろう。 「え…何で…」 美少女とやらが震える声で光忠に反論する。 ああいう奴はメンタルも強いのかと何処かで感心する俺がいた。 「大倶利伽羅は外見で好き嫌いを判断するような人じゃないよ。勝手な事を言わないでくれ。」 「ほ、本当に言ってたんだもん！」 「っていうか、顔で判断するのは君達だよね？僕、会話するの初めてだし。」 「ク、クラス違うから…ずっと話してみたいとは思ってたんだよ？」 「何、その上目遣い。他の男子は皆それに騙されてきたの？軽いね。そんな軽い男にチヤホヤされて楽しかったの？いい気分だったの？馬鹿みたい。」 「光忠く…」 「僕、前に君とすれ違った事あるけど距離とられたの覚えてるよ。まさか忘れたとは言わせないし、忘れてて実はあれは無意識でしたとかなら更にタチ悪いよ。」 「…。」 「僕、顔だけで近づいてくる女とか大嫌いなんだよね。もう近寄ってこないでね。」 今までどんな男にも好かれてきた女の無様な姿を見た。 光忠は一人ずつに冷たい視線を向け、俺のいる方のドアに歩み寄ってくる。 あぁ、早く何処かに隠れなければ。 そう思ったがドアが開く方が早かった。 きょとんとした光忠と目が合う。 「あっ、良かった！一緒に帰ろう？」 そう言って俺の手を握る光忠。 俺はさっきまでとは別人だなと思いながらも、ゆっくりと頷く。 手を軽く握り締めると、それはそれは嬉しそうに微笑んでいた。 「聞いてたんでしょ。」 「…何を。」 「見えてたよ。」 「うっ…。」 帰り道、光忠が楽しそうにニヤつきながら先程の話題を持ち出してきた。 光忠の手を握る力を強めてしまう。 「僕の事、信じられなかった？」 「……あの女は、可愛いと評判だったから…心配だった。」 光忠の事だから嘘をついてもすぐバレてしまうだろう。 それなら素直に不安だった事を告げた方が、彼は喜んでくれる。 案の定、光忠の顔は少しニヤけている。 「可愛いなぁ、大倶利伽羅は。」 「喧嘩売ってるのか。」 「え！？売ってないよ！？何で！？」 「顔がむかつく。」 「酷い！……でも、僕は大倶利伽羅にしか興味ないから。」 …そんなの、さっきの光景を見れば分かる。 「あまり…ああいう声は出してやるな…怖がってたぞ。」 「だって、大倶利伽羅の事、悪く言ってた。許せないよ。それに、ああいうのは無意識。」 むすっと唇を突き出し、拗ねる光忠。 その表情が可愛くて、愛しくて、 「俺は、お前にさえ好いてもらえればそれでいい。」 尖った唇に自分のそれを重ねた。 目を見開いていた光忠は、幸せそうに目を細め 「僕も君にさえ見てもらえれば良いんだ。僕には君しかいないよ。」 優しく甘い口付けを返してくれた。 クラス一ださかった男、燭台切光忠は、世界一の恋人へと姿を変えた。

■現パロで二人は同じクラス。瓶底眼鏡をかけた光忠と、女性らしくない大倶利伽羅の話。<br />■大倶利伽羅女体化。<br />■大倶利伽羅の一人称は【俺】です。名前は広光。<br />■展開早すぎるくらい早い。

ださい男

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一色と葉山へのデートプラン参考及び計画的脅迫フラグデートの際に行ったあの喫茶店で一色と話をしたことを思い出す。 ×　×　× 一色はあたかも何かを思い出したかのように俺に振り向く。 「そういえば先輩。」 「なんだよ。」 「先輩は結局のところどっちが好きなんですか。」 …何の話だ。主語が無いから何のことだかさっぱり分からん。少なくとも何かしらの選択肢ということか…。おいおいギャルゲーかよ。まぁいいか。どっちということは選択肢は二つ…？　俺は先まで一緒に行ったデート内容を思い出す。卓球…ラーメン…喫茶店…ああ、そうかこの三つの中から二つに絞ることが出来るぞ。つまり飲食店が二つあるという規則性が生まれる。この飲食店二つのどちらが好きなのか、俺に聞いているわけだ。 「そうだな。まぁ、こういうところも悪くはないんだがな、やっぱり、なりたけの方が好きかな。でも一色、ラーメン店と喫茶店は比較できるようなものではないぞ。」 そういうと一色は呆れたような目をしながら言った。 「は？　何言ってるんですか…。違いますよ、あれですよ…その…。」 と、徐々に声が小さくなっていく。 「…何？　トイレならあっちだぞ。」 「違いますよ！　先輩デリカシーなさ過ぎです！」 今度は声がかなり大きく周りの客も俺たちを見ている。 後輩のいうことをききなさい！　ってか。 「お、落ち着け…。違うんだったらなんだよ。」 どうどう。 一色は落ち着きを取り戻すと、アッサムを飲みながら一息ついた。アッサムってどこぞのゲームモンスターみたいだよね。野生のアッサムがあらわれた。とかなんかありそう。違和感仕事しろよ。そんなことを思っている俺の思考を遮るように一色はどこか真剣な目で話しかけてくる。 「私が言っているのは恋の話です。」 「は？　コイ？」 「そうです。恋です。恋。先輩の恋の話です。」 「は？　どゆこと？　魚のコイ？　…俺のコイ…？」 下ネタか？　コイの下ネタって聞いたこと無いから違うだろうけど。 「だから！　先輩は！　由比ヶ浜先輩と！　雪ノ下先輩の！　どちらが！　好きなのか！　ってことですよ！」 「ふぁ？」 断言しよう。今まで生きてきた中で一番気の抜けた変な声が出た。 「何を言ってるんだお前。」 ため息交じりにそう返事をすると一色はやれやれと頭を振った。 これはあれだ。ヤレヤレ系主人公ならぬヤレヤレ系後輩って感じだ。「ヤレヤレこれだから先輩は…」とか言って実は…みたいな。うわ、なにこれ強烈にやばいな。こんなキャラ対応に困るわ。…後輩キャラ全般的にこんなんだっけ？　何それ後輩怖い。 とその思考を遮るセリフが俺の頭に突き刺さる。 「先輩…私は分かってますよ。先輩があの二人のどちらかが好きだということを。」 …。 ……。 いやいやいや。無いから。全然ないから。 なんだよ、その私分かってるアピール！　全然分かってねーよ。 なんだよその恋愛脳！　お前の頭はピンク一色なのか！　一色だけにな！ とそんなことを言いたいのだがまぁ…店なので大声も出すことも出来ず…。 「はぁ…これだから恋愛脳は…。」 と、皮肉と「違うよ」という意味を込めて言ったつもりのセリフだったんだがどういう訳か一色は意味を取り違えた。 「やっぱり！　恋しちゃってたんですね。私の目に狂いはありませんでした。」 狂ってるよ！　紛うことなく狂ってます。 今度は、はっきり分かるように言わねば。 だが、一色は俺が喋ることを遮った。 「そうなら言ってくれれば良かったのに！　私ばかり先輩に協力してもらう訳には行きませんからね。先輩！　私、全力で協力します！」 「いや、あのね、ちがうん―」 「あ、私ちょっと――。」 と一色は席を外した。恐らくお手洗いだ。 逃げた。というか、どんだけ恋愛脳なんですか。 その後、「さっきのはお前の勘違いだ。」と言ったのだが、相手にもされずそのままその誤解は解けることが無かった。 ×　×　×　回想終了。 ……どうしてこうなった。 俺は、部屋で一人ベッドに横たわっていた。 勘違いも甚だしいぞ。 つまり一色は俺が由比ヶ浜か雪ノ下のどちらかに好意を抱いていると勘違いしているわけだ。 …ん？ いやしかし…よくよく考えると、それは悪いことではないのかもしれない。由比ヶ浜はかわいいし、いい子だ。雪ノ下は清楚で美しい。 そんな彼女らと付き合えるならそれは…。 いや、だめだ。 それはありえないことだ…一色。奉仕部は三人なんだ。そんな関係になってしまったら奉仕部は自然消滅するかもしれない。というかそれ以前に、俺が問題だ。別に恋なんてしたくないし、うん。別にそんなん必要ないもん。それから…俺は何故だか分からんが、そんなこと想像つかない。きっとやっぱり、彼女らに抱く感情は恋とは違うような気がする。 まるで人生に悩んでいるようで頭がくらくらしてきた。某ライトノベルと便座カバーが大人気の作品と妹が可愛くないとかいう作品を見て人生とはなんなのか学ばなければならない気がしてきた。 頭がくらくらしてきて、最終的に考えがまとまらないと判断した俺はすぐさま消灯しました。 次の日の放課後。 とんでも無いことになった。 一色が暴走し始めた。 あ、いや、これだと語弊があるかもしれんな。訂正。一色が活動限界を超えた。ん？　余計わかんねーか？　つまりどういうことかといえば、一色の努力が目に見える。普段一色は俺の目の前では一生懸命に何か物事を取り組んだりはしない。いつも密かに、影ながら努力している。現に俺は一色が生徒会で何をしているのか把握していない。人の目のつかない所で真剣に頑張っているはずだ。 …つまり結論から言えば、俺の…恋とやらに協力する体制が異常なのだ。何かあれば俺と由比ヶ浜、あるいは雪ノ下をくっつけようとしたり二人きりにしたりしようとする。 正直鬱陶しい…。 というか、あからさま過ぎて二人とも気づいてるよ！ 「一色さん…なんなのかしらさっきから。」 「いろはちゃん…どしたの？」 …ほらこの通り…。一色らしくないのは二人にも見え見えだ。 「…いえ、別に何でもないですよ。」 嘘をつくなと言いたくなったが…まぁ、勘違いとはいえ俺のためではあるのだし…黙っておこうと、紅茶と一緒にそのセリフを飲み込む。 すると一色はそれに反応した。 「おーっと。雪ノ下先輩が入れた紅茶を先輩が飲んだー！　それも由比ヶ浜先輩が用意したコップに口をつけて！」 「いや、いつものことだろ…。というか口つけないと飲めねーから。」 と瞬時につっこむ。しかし、女子二人はその言葉を聞いた途端下を向く。 おい…どうしたんだよ。 「え、いつものことだよね。」 不安だったのでそう聞くと 「え、ええ。そうね。いつも私の…私のお茶を飲んでいるわね。」 そっぽを向く雪ノ下。 「…いろはちゃん…言い方がなんか生々しくてなんか変だよ。」 手で顔を隠す由比ヶ浜。 …なんだその反応。二人ともどうした。 すると一色は二人の反応を見るや俺に近づいてくる。二人に聞こえないように耳元で囁く。 「先輩！　二人とも脈ありかもです。」 「あ、そう…そのことなんだがな――――。」 「あ、先輩、後で話があるので残ってください。」 おふっ。また遮られた。人の話は最後まで聞こうね。 その会話は二人には聞こえていなかったようだが、気になっていたようだ。 「なにかあったのかしら？」 雪ノ下がそう問うと一色は前から準備していたような返答をする。 「あ、先輩がお金貸してほしいって言うから。」 おい…。 「比企谷君…。後輩にそんなこと頼んでいたの…」 「ヒッキー…なんかカツアゲみたいだよ。」 「…え…いや、借りてないから…。」 おい一色よ。これはどういうつもりだ。 「だから私、先輩には貸すお金は無いですって言いました。」 …聞いてくれ。俺は被害者だ。そうだろ？　ああ。まず被害者で間違いない。 しかも奴は自分だけ無害でいるつもりだ。一色…恐ろしい子。 「……。」 雪ノ下がすごい目で見下してくる。まるで汚物でも見るような目で…。ヒャッハー。 「ヒッキー…。」 由比ヶ浜は俺を哀れんでいるようだ。ひゃっはー…。 「いや、俺は何も悪くないぞ！」 だからさ、皆！　人の話はちゃんと聞こうね！　おにいさんとの約束だよ！ と、内心思いつつも慌てふためきながら、俺は誤解を解いた。 しかし、雪ノ下は念を押すように「本当なのね！」とか「やっぱり怪しいわね。」と聞き返す。そんな雪ノ下を宥める由比ヶ浜。しかし由比ヶ浜も「まぁまぁゆきのん。…まぁいいたいことは分かるけど…。」とやはり納得していないようだ。 そんなに信用ないのか俺は。 だがまぁ二人とも「そうね、確かに二人は金を貸し借りするような仲ではなかったし、それに、比企谷くんに金を貸し借りする友達なんて…いや人間なんていないものね。まぁ実際のところは友達でもお金の貸し借りはあまりしない方がいいのだけれど。」とか「ヒッキーがカツアゲとかありえないよね。やっぱり。」と、一応納得してくれた。それにしても一人毒が強すぎませんかね？ だがまぁ、これ以上なにも言えないので、俺はカバンから取り出した文庫本を読むことにした。ていうかこの話題をだした当の本人一色は私関係ありませんから…とでもいうような態度でいた。つまりは、手鏡で髪を整えていた。 おい、君…。 …。叱る気力も、何か一言言う気力もない。 俺は本を読み始めた。 奉仕部は今日も無事に終わった。 そういえば今日…なんかし忘れてる気がするんだが…なんだっけ。…まぁいいか。 雪ノ下が解散の合図を出すと同時に俺はふと違和感を覚える。 いそいそと片付け、あるいは帰りの支度をする女子三人。 …そういえば一色はなんでここにいるんだ。 今更すぎる違和感だった。 本来、奉仕部は三名。 雪ノ下と由比ヶ浜と…まぁ俺の三人で一色は生徒会の人間だ。 ここしばらく部室に顔を出していたからつい違和感を察することが出来なかった。 こいつ溶け込んでやがる。 雪ノ下が部室の鍵をかけると一色は何か思い出したかのような仕草をしながら言った。二人に一色がどう見えているのか知らないがこの仕草はなんともわざとらしい。 「あ、そういえば職員室に用事があるのでついでに鍵返しますよ。」 「…そう。でも、いいのかしら…。」 「問題ないですよ！」 「…そう、なら頼もうかしら。」 「はい！」 そういうと一色は雪ノ下から鍵を預かった。 さて、帰ろう。 雪ノ下と由比ヶ浜が帰路に着く。 俺も帰ろうと一歩足を踏み出すと後ろから引っ張られる。 さらに耳元から小さな声が聞こえた。 「先輩残ってくださいって言いましたよね？」 「…お、おう。」 忘れてた…とは言えない。 振り向くと、声のトーンがものすごく黒々しいというか禍々しいというか、棘のある声なのに対していい笑顔なのがなんとも怖い。 すると前から声がかかる。 「なにしてるのー？」 由比ヶ浜の声だ。 二人はこちらを振り向き俺を待っているようだった。そして由比ヶ浜は、ハッと何かに気づいたかのような素振りを見せると 「も、もしかしてやっぱりさっきの話って…。」 「ち、違うぞ。」 俺は一色に言った。 「…何か知らんが話すなら手短に話せ。なんか今日の俺、信用されてなさ過ぎだから。これ以上信頼度を下げると今後の生活に支障をきたしかねん。」 「…分かりました。ならばスマホで話しましょ。先輩メアドか電話番号かあるいはSNS の…」 「分かった。俺の携帯で…ほれ。交換だ。…やり方が分かんないから、頼む。」 「…そうですね。これをこうして、フリフリって振るだけですよ。」 交換が完了したようで一色から携帯を返してもらった。俺は一色に「じゃあな」と言うと一色は返しに「はい、今夜連絡します。」と言った。 奉仕部二人をこれ以上誤解させないために、俺は何事も無かったかのように一歩踏み出すと後ろから声が聞こえてきた。 「いろいろ作戦失敗しちゃったけど…結果オーライかな。…それにしても…。」 ざわざわと騒がしいことから、後ろに何人か生徒がいるようだ。 その意味の分からない言葉がはたして一色の声なのかどうか、俺は確認することも無く帰路に着くのだった。 さて。帰ろう。 ……と思ったのだが。俺は自販機の前で立ち止まる。 そう。今日し忘れていたことを思い出したのだ。 マッカンを飲まねば。 そう思うや否や、俺は足早に自販機に近づき金を用意する。 すると自販機の近くにあったベンチに人影を察知し反射的にその人影を見る。 その人影の正体は――― ――――平塚先生だった。 「先生、こんなところで何やってんすか…。」 「ん？　ああ、比企谷か。いや、外の空気を吸いたくてね…。」 「はぁ…」 「ついでに言えば…冷たい風に当たりたかっただけだよ。」 平塚先生はそういうと両手で持っていたブラックコーヒーを片手で飲む。 「何かあったんですか？」 「…ああ。聞いてくれ…」 あ、これは… 察したが続きを聞くことにした。 「実はな…町内のくじ引きを当てたんだが…どうやら私はあの遊園地に愛されているようだ。いや、遊ばれていると言った方が正しいのか。『ディスティニィーランド』…また当ててしまった。今私は非常に忙しい。だからこのチケットを利用できん。あと一ついいか。…これはペアチケットだ。…なんだかペアチケットと聞いたら心がものすごく痛くなってな…というか身体がすごく重たくなった。まるで私だけ重力が十倍になったのかとおもったよ。」 今なら平塚先生、界王拳とか使えそうだ。とか言ってる場合か。 誰か！　本当に！　貰ってあげないと！　もう先生のライフは限りなくゼロに近いのよ！　もうこれ以上見てられないわ！ コーヒーを飲みながらフフフとかわらっている先生を尻目に俺はマッカンを買う。 「それどうするんすか？」 念のため聞くと 「行きたくても行けん。さっきも言ったが忙しいからな。そうだな。破って捨てるか。」 「いやいやそこまでしなくても…。」 現実逃避か。 「そうだ、比企谷。また君にあげよう。私は行きたい時には金を出していくさ。」 「また…ですか。いいんですか。」 「ああ。破るのは勿体無いし、だからといって私の目の前にあるのも困る。クリスマスの時はまぁ私が助けたとして、今回は偶然通りかかった君の運が良かったということにしといてくれたまえ。私を助けると思って受け取ってくれ。」 …断る理由もないし…。 むしろこれで平塚先生の助けになるというのであれば、断ってはならない気もする。 「では遠慮なく…。」 そういって受け取ると、平塚先生は「うむ。」といって缶をゴミ箱にいれると手を振りながら去っていった。それも若干千鳥足で。疲れきった少年のような歩き方だった。 …俺はマッカンを飲みながらそのチケットを見る。 …これどうしようか。 小町と一緒に行くか…それとも小町にあげるか…そんぐらいしか使い道はなさそうだな。 でも小町受験シーズンだからな…。 夜。 小説を読んでいるとふと携帯が振動し始めた。 ああ、何かお知らせメールでもきたのかと軽い気持ちで見ると一色だった。 そういえば夜連絡するといっていたな。 「いろいろ作戦失敗しちゃったけど…結果オーライかな。…それにしても…。」 ふとその言葉を思い出す。一色が言ったのかどうか確認していないが…、まぁ一色で間違いないだろう。声的に…。 だが、意味が分からない。作戦とはなんなのか、そして失敗とは？　だがそれが結果オーライで…。 よく分からない。 そうしていると今度は電話が来た。 おっと、既読スルーのままだった。 「あ、先輩！　読んだのなら連絡してくださいよ。さっきからスタンプしてたのにスルーじゃないですか。」 「ああ、悪い。考え事してたわ。…んで、用事かなんかあるんだっけ？」 「あ、そうです。本題は…ええとなんでしたっけ。」 「…切るぞ。」 「え、あ、あの、」 「…落ち着け。冗談だ。」 「あ、はぁ。」 さぞ慌てていたのだろうか。ため息が深い。 「で、何だ？」 「あ、はい。先輩。またデートしましょう。」 ×　×　× 例のアレだ。 要するに葉山とデートするために一味違うデートプランを考えるための参考デート。略して『葉山デート』 わわわ。何それ。葉山くんとデートしてるみたい。きゃー。 …やべぇよ。海老名さんが喜びそうでやべぇ。いやマジで。 …とにかく、一色の、一色による、一色のためのデートであって俺はつまりおまけみたいなもんだ。だからこれはデートであってデートではない。 前回の反省を生かし、待ち合わせは店の中にした。そのほうが落ち着いて待ってられるし…。 …あ。前回の反省で思い出したが…デートプランを考えていなかった。…まぁ前回行けなかったところを行けばいいかな。 そうこうしているうちに一色がぴったり待ち合わせ時間になってやってきた。 「すみません。少し遅れました。」 「おっｓ……いや、今来たところだ。」 これも前回の反省から生かしてそれっぽく振舞って見る。まぁ前半本音が漏れたが…。 だが、一色はその返しが意外だったのか目を丸くしていた。 「…先輩…なんかいいことでもありました？　ノリノリというか…。」 「…前回の反省を生かしたまでだ。どうだ成長しただろ。」 「ああ、今のそのセリフを言っちゃうあたり駄目ですね。雰囲気が台無しです。」 …なるほど。雰囲気大事。 「前回の反省を生かしているなら…デートプランも考えてきたんですか？」 「あー…それはしていない。」 「…ここでも一つ注意するべきなのかも知れませんが…まぁ今回はよしとしましょう。なぜなら私がプランを考えたからです！　前回のを元に私なりに考えてみたんですが、どうでしょう？」 と、一色は実に女の子らしい手帳を取り出しプランが書かれたページを開いた。 一色が考えたプラン…なんか大変そうだ。 どれどれ。 カラオケ…映画…ショッピング…なりたけ…卓球…ボウリング…カフェ… ……。 前回一緒に行ったところが邪魔しているような…。 卓球の後にボウリング…結構ハードだな。 一般的な…王道的デートといえば映画とかショッピングとか、観光地、遊園地…とかなんではなかろうか。 葉山を振り向かせるために普通とは違った店に行きたいとか行ってたけど… なりたけ…とか卓球ってなんか葉山に似合わんだろ。 んまぁ…卓球はいけるかも知れんが葉山になりたけってどうも合わない気がする。 だが、それは先入観の話であってきっと葉山はそれなりに馴染むのだろう。 いや、むしろ葉山がなりたけのおいしさにやられるに違いない。 そういう意味ではなりたけもありだな。 ありありだ。 あーだこーだ考えていると一色が上目使いで自信なさげに聞いてきた。 「駄目ですか？」 「あー…正直な話、マイナーというか特殊すぎる。それだと逆に引かれるぞ。」 「え…でも前回行った感じに…。」 「前回のはあまり考えるな。前回の時点で既に特殊すぎたのかもしれん。」 一色も少し引いてたし。 …デートとか詳しくないもん。 「そ、そうですか…。」 「俺に言わせりゃ、なりたけのチョイスはありだが、前回のは食べたいのを食べたって感じだからな。俺に近い考え方ではあるが…」 「んん。ではどうしましょう。」 「ああ。そうだな。なりたけは今度別の日に行こう。」 「え？　それって次のデートがあるってことですかすみません先輩うれしいけどまだ私の気持ちが落ち着いてないので無理です。」 「あーはいはい」と軽く返事で受け流す。というか早口すぎて何言ってるのかあまり理解できなかった。 「ではなりたけは今回無しでいいですか。」 「ああ。」と頷く。もちろん今からでも食べたいんだが…。 「ではなりたけ無しのプランで行きましょう。」 「いや、待て。」 「へ？」 …。 あとは卓球にボウリング…というハードなプランが要らんよな。 どっちか一つでよくないか？ あれか、今回はボウリングにしようと思ったけど卓球も案外楽しかったってパターンか。 まさかな。 ……。 …。 ふむ。 王道なデートといえば映画とかショッピングとか、観光地、遊園地…。 一色の考えたデートプランを否定しているわけではない。 ただ、葉山対策を考えるとやはりこのままほったらかすのもあれだ。 ここは一つ。 「俺にいい考えがある。」 「？　なんですか？」 「すこし、手間だが、一回俺の家に来い。」 もしかしたら今日のデートは無しになるかもだが。それはそれで好都合だ。 「も、もしかして自宅デートですか！」 「それはない。」 絶対にない。 帰宅。といっても玄関前だが。 このまま部屋に行って寝てしまいたい。 だが後ろの子がそうはさせないだろうし、小町の邪魔になるのも良くないから手っ取り早くことを済ませよう。 「いいか。こま…妹は今受験勉強中なんだ。入ってもいいが騒ぐんじゃないぞ。」 「…分かりました。…けど何しに来たんですか？」 「実は平塚先生から遊園地のチケットを貰ってな。それを取りにきた。」 「なるほどです。」 …それだけで納得するのは早い。 「貰ったはいいんだがそれがどこにあるのか忘れてしまってな。探すのを手伝って欲しい。」 「ええ。」 一色が思いっきり嫌な顔をした。 …そんなはっきり表情を出さなくてもいいじゃないか。 さてと……小町に渡したんだっけ…。 本当どうしたっけな。 静かに玄関を開ける。泥棒と間違われそうなくらい慎重に入る。しかし、その行為は意味が無かった。目の前に小町がいたからだ。 「あれ、おにいちゃん…おかえり…。」 最早疲れているのが声から分かった。なんか全部平仮名っぽい喋り方だし。 「お、おう。」 「あれ？　帰るの早かったね…ってあれ？　後ろにいる人は誰？」 ギクッ！ 漫画ならそういったオノマトペが付いていただろう。俺は小町に一色の姿を見せる気は無かった。だから一生懸命一色を身体で隠していたんだが、一色は俺の家の中が見たいのかキョロキョロと顔を動かすので隠すに隠せなかった。 一色は小町に誰と聞かれると俺の腕を掴みながら自己紹介を始めた。 「一色いろはです！　後輩です！」 …随分とざっくりとした説明だが…俺の腕を掴む必要があるのか…。 「え…お兄ちゃん…この人…一色さん…とどんな関係なの…？」 …ほんと最近誤解尽くしで疲れる。 「ただの後輩だよ。」 「…そういう風には見えないけど…。」 小町と話していると一色がまたしても適当なことを言う。 「先輩の彼女です！」 「え！」 小町は手に持っていた菓子の袋を落とす。それほどの衝撃を受けたのだろう。 一色は随分満足したような顔をしていた。 ああ。この顔は年下の子をからかって楽しんでいる人の顔だ。 俺はため息混じりに言った。 「小町…嘘だからな。」 「へ？」 鳩が豆鉄砲を食らったような顔している。随分と珍しい小町だ。 希少種小町亜種と言ったところか。 小町のためにも確認を取る。 「一色…」 「はい。冗談です。てへ。」 いや、「てへ」じゃねーよ。 「ちょいとこいつの手伝いをしててな、家の中にその手伝いに役立ちそうなのがることを思い出して今来たところだ。」 随分と遠まわしに話したのに一色がストレートを放つ。 「あ、要するにデートです。」 駄目だ。話が進まない。 小町に事情を話し（遠まわしに説明）、且つ一色に小町で遊ぶなと注意した。 そのまま小町は勉強へ。 チケットを探すのに一時間もかかった。結局あった場所は本の間だった。そういえば小説を読んだ時にたまたま近くにあったチケットをしおり代わりにしていたことを今更ながら思い出す。 「先輩…疲れました。」 「そうだな、お茶にしようか。一色はコーヒーとお茶どっちがいい？」 「え？　先輩が入れてくれるんですか？　では…コーヒーで…いけます？」 「なんだ、その「意外！」って反応。これでもよく自分でコーヒー入れたりするから問題ないが…。」 「いえ、先輩のことだからてっきり家では何もしないのかと思っていました。」 「舐めんなよ。その気になれば俺は動く男だ。」 コーヒーを入れ終わり、小町の部屋にもコーヒーを持っていったところで再びリビングに戻りコーヒーを口に含み一息つく。 「さて、こいつが見つかった訳だが、これに行こうか。」 俺は一色の答えを待たずに続ける。 「と言いたいんだが、探すのにすこし時間がかかりすぎた。しかも疲れたんだろう？　つー訳でこれをお前にやるから、今回の参考デートは終了な。あとはうまく葉山を誘うことだな。」 完璧な計画だ。と思っていたのだが一色は期待していた反応は見せなかった。苦虫を噛み潰したような不機嫌そうな顔をした。それはコーヒーの苦味から来るものなのか、はたまた別のものなのか分からない。 「…葉山先輩と…あの遊園地…ですか…。…なんかこわいです…。また……。」 何とも弱弱しい声だ。まるで何かに怯えているような声だ。 そうだ。そうだった。思い出した。 あの遊園地で何があったのかを俺は愚かにも今思い出した。 ああ。やってしまった。 一色に嫌な過去を思い出させてしまった。 だが…だが、この参考デートとやらは葉山とのデートのためであって結局は葉山とデートする予定なんだし…今怖がってどうする…とはとても言えなかった。 それは心の奥にしまいこんで変わりに俺は言った。 「…じゃあ…これは…破るか。」 平塚先生が言ってたように。 「え？　勿体無いですよ！」 まぁ普通そんな反応するよな。 「そうか？」 わざとらしく聞くと 「そうですよ。それなら先輩と行きましょう。」 「え？」 また行くの？　あの人が多いところに？ 「一人ではまだあの遊園地には行きたくはないですけど先輩となら大丈夫な気がします。」 「…冗談だろ。」 「残念ですが、本気です。」 …俺は今回のような結果にならないように確認をする。 「…これは参考デートでいいんだよな。つまり、ここに行くことで葉山との関係が近づく鍵を手に入れることができるだろうとそういうことだよな。」 「まぁ…はい。そうです。」 返事に元気がないが続ける。 「分かった。つまり、これも参考デートの一環ということでいいんだな。」 「はい。」 「はぁ。これで最後だからな。」 なんで俺こいつのこと面倒見てんだっけ。 暇だったからだっけ。 違う気がするが…まぁいいか。暇なのは事実だし。 「はい！」 一色は元気よく返事をした。 コーヒーで一息つく。マッカンを飲みたいのだが、たまにはブラックコーヒーも飲みたくなる。一色はミルクやら砂糖やらを入れて甘くして飲んだ。 コトッとコップを机に置くと一色は二ヒヒと笑って言った。 「結局お家デートみたいになっちゃいましたね。」 「…なったのか？　なってないだろ。」 ていうかお家デートって何？　 「まぁ、でも妹さんの迷惑になるのもあれなんで、今日はもう失礼しますね。」 「あー…」 …何かを言おうとした。 それはしかし、あまりにも俺らしくない言葉だったことを俺は知っていた。だからか、それを言うことは出来なかった。のどの辺りで止まった。 「そうか、ん、そんじゃ、また今度な。」 「はい。楽しみにしてます。」 そして数日後。一色とのメールのやり取りで遊園地には来週の日曜に行くことになった。 人が多そうだと思ったのだが、なぜかそれはあまり気にならなかった。 [newpage] [chapter:■比企谷八幡は変わり始める。] 日曜日。 日曜日と言えば何か。 もちろん日曜日の朝から放送しているアニメおよび特撮の時間であって日曜日の朝はそれのために存在するといってもいいだろう。 最後の放送枠だ。つまりは女の子がプリティでキュアキュアした感じで熱い展開があって見るもの全てを涙にするというまさに完璧なアニメのことなのだが、残念ながら、今日は見ることが出来ない。 それがしかも一色とのデートでと言うのだ。ああ。人間関係って難しい。自分の楽しみを犠牲にしてまで人と接することなど意味があるのだろうか。 とかなんとか言いつつ俺は外に出る準備を進める。まぁ要するに暇なのであって、楽しみな時間と言うほどのことでも…あるのだがまぁ仕方が無い。一色に嫌われると後々会長としての力で俺をボコボコにしそうで怖いし。俺は覚悟を決めると待ち合わせの時間に遅れないように、早めに出た。 待つ。待つ。待つ。 待ち合わせの場所で待つこと二十分。 一色は遅れてやってきた。 「…やけに遅かったな。」 「…すみません。人が多くて流れに逆らえませんでした。」 てへへと笑いながら「でも先輩、男子は女の子に遅かったなとかいうもんじゃないって教えたじゃないですか。」と言えるほどの余裕はあるようだった。 今は駅。 ここから乗り継いで、乗り継いで、遊園地に行くのだが、にしても人が多い。通勤ラッシュほどではないが。 …帰りたい。 「んー人が多いなぁ。」 とキョロキョロ周りを見回していると一色は頬を膨らませて何か言いたげだったが今は無視。まぁかわいいのは認めてやるけど。 右行って左行って上って降りて、いつの間にか遊園地の前だ。 「やっと…ついた。」 人は多い。だが、ギュウギュウ詰めというほどでもなく自由に移動できる程度であってうんざりするほどではない。 一色はどうなのだろうと一色の方に目をやると俺は今日初めて一色を目にした。 つまりは一色の私服に先まで気づいてなかった。 あー、この服俺知ってるわ。あれな。青い鳥の呟く世界で話題になった童貞を殺す服ってやつだねこれ。それに近い服装だ。 まぁつまりは、聖杯戦争に出てくる金髪碧眼の彼女の服にそっくりということだ。 じっくり一色の服を見てしまった。もちろん一色は俺が服に釘付けになっていたことに気づいていた。 「先輩、ジロジロ見すぎです。」 「す、すまん。」 と、慌てて視線を逸らすと一色はキシシと笑った。どこか満足したような笑い方だった。 遊園地ではいろいろ乗った。絶叫マシンで色んな意味で髪が逆立ち、コーヒーカップで目を回し、４Ｄとやらで感動し、再び絶叫マシンに乗っていろんな思考をぶっ飛ばし、シューティングゲームのようなアトラクションに熱心になったり、ショーを見て「おお。お金使ってんな…。」と思ったりしていた。 最後は観覧車。 夕方。もうそろそろ帰ろうかと言う時に一色が観覧車に乗りたいと言い出したのだ。 観覧車先輩居たんだ。気づかなかった。 観覧車の中は静まり返っていた。ただ観覧車が動く音がしていただけだった。 観覧車の中と言うのはなんとも落ち着かない。 一色もそうなのか知らないが俯いたり、外を見たりしていた。 俺は沈黙が嫌いではないのだが一色に話しかけていた。 「今日は何か収穫あったか？」 急に言い出したのが悪かったのか、一色はびっくりしたらしい。声が裏返っていた。 「はぇ。あ、はい。…そうですね。…」 「そうか…。」 会話は続かなかった。 一色の様子がおかしいぞと思っていると一色は俺の目を見て言ってきた。 「先輩。」 一色の目には何か覚悟を決めたようなものがあった。 「先輩は、私のこと嫌いになりましたか？」 「は？」 「私は先輩に迷惑ばかりかけています。このデートだってそうですし、海浜高校の合同クリスマスイベントのときもそうでした。いつも先輩に頼ってばかりです。先輩は面倒臭がるだろうなとか思って相談すると真剣に考えてくれて、でも先輩って捻くれてますから、そう簡単には動かないからあれやこれやと考えて先輩の力を借りてきました。」 …策士め。 「先輩に甘えてたんですね。だから奉仕部に溶け込んでましたし。」 …新たなキマシタワー的な展開を期待していたのは内緒にしておこう。 「それに先輩は私の恋も応援してくれました。葉山先輩と私を近づけるためにいろいろと…。」 そのセリフに関して俺は黙って聞いてはいられなかった。 「…いや、今だから言えることだが、生徒会長になると葉山とより親しくなれるかもという考えは後付けというか、お前を生徒会長にするための…。」 「分かってます。でも、その考えは確かにいい考えで、私の頭の中にはないものでした。先輩は本当やさしいし、頭もいいですよね。」 「そんなことねぇよ。」 「でも、結局葉山先輩に振られました。」 「ここから挽回するんだろ。」 「いいえ。あれは嘘です。」 「…嘘？　じゃあこのデート計画は？」 「これも嘘。本当は先輩から嫌われるための計画です。」 「嫌われるための計画？」 「はい。今日は休日。日曜日です。さらに行く場所は人が多い場所。家から出たくない 先輩にとってはかなり嫌な日になるのではと、そしてそのままその計画を考えた私を嫌ってくれるのではと考えたんです。」 …嫌ってくれる？ 嫌って欲しいのか？ 「まて、一色。話が見えてこない。お前は俺に嫌われて欲しいのか。」 そう問うと一色は言った。 「はい。そうです。ついでに言えば先輩には誰か好きな人がいればより完璧ですよ。」 彼女の頬には一粒の涙が伝っていた。 彼女は嫌って欲しいと言った。 それは…それはどういうことなのだろうか。 俺が彼女を嫌いになることで、あるいはそう表現することで彼女に何か特があるのだろうか。分からない。 「俺は…お前のこと…。」 観覧車は無限に乗れるものではない。いつの間にか一周していてドアは開かれた。 一色は涙を拭うと何事も無かったように降りた。 俺も続いて降りる。 降りてすぐに一色は言った。 「先輩。今日はもう解散にしましょう。明日また学校で会いましょう。」 「……。」 俺は何も答えることは出来なかった。 どうやって帰ってきたのか覚えていない。 頭は一色のことでいっぱいだった。 なにより一色の声が頭から離れない。 ―――――先輩は、私のこと嫌いになりましたか？ ―――――嫌いになってくれるのではと考えたんです。 一色にそう言われる事がショックだったわけではない。むしろ一色に出会ったときの印象からしてあまりいいものではなかったし、こう、冗談交じりに聞いてくるのであれば、嫌いだと答えるし、そもそも元は嫌いなタイプだった。 だが、それは矛盾だ。嫌いなのであれば極力話さないのが基本だ。話さないといけないわけでもないのに、むしろ俺から一色に話かける。デート的な約束もしたし、何より協力的だ。ここから考えると、俺は一色のことを嫌ってなどいない。 その事実に驚いたのだ。 ああ、俺って案外一色のこと嫌ってないなと。 だが、一色は嫌って欲しいらしい。 正直いきなり嫌って欲しいと言われて驚いたのもある。 しかしな、嫌いでもない奴のことを嫌うというのも無理がある。というか、面倒だ。嫌いじゃないのに嫌わないといけないというのがまず無茶だし、面倒。 リビングには小町が居た。 俺は小町に言ってみた。 「お前、俺のこと嫌いか？」 ふぇ？　とやる気のない返事が返ってきたがすぐにその答えは返ってきた。 小町はソファに寄りかかりながら後ろにいる俺を見るために少し仰け反る感じになりながら言った。 「好きだけど…ん？　何これ？」 …うん。俺も何言ってんだろう。 けど、付き合ってくれる小町にも悪いし、もう少し話は続けよう。 「それだと少し軽いな。どっちの「好き」なんだ。つまりライクとラブ」 「もちろんラブだよ。兄妹愛って奴だね。今の小町的に点数高い。」 「…。」 いつもだったらポイント高いが点数高いになってる。試験のことで頭がいっぱいなのね。 部屋で漫画を読んでいた。 ホントに一色は何が言いたかったのだろうか。 ふと一色の声が蘇る。 「先輩は、私のこと嫌いになりましたか？」 …。 「俺は…お前のこと…。」 …。 どう思っているのだろうか。 お節介な後輩？ 裏がありそうな後輩。 いろんな意味でいい性格をしている後輩。 …。 普段一色は俺の目の前では一生懸命に何か物事を取り組んだりはしない。いつも密かに、影ながら努力している。現に俺は一色が生徒会で何をしているのか把握していない。人の目のつかない所で真剣に頑張っている…そんな女の子。 俺はその子に手伝いをした。葉山を振り向かせたいというその願いを叶えるべくできる限り協力した。 なぜか。 …暇だったから。 本当にそうなのだろうか。 何故だかわからないが、その『暇』という言葉そのものに苦しさを感じた。 動かなくてもいいのに俺は動いているように思う。 今朝もそうだ。 自分のやりたい時間を犠牲にして一色に会いに行った。 嫌ではなかった。むしろ彼女と会うのが楽しみだった気もする。 そうだ。だから俺は早めに家を出たんだ。あの時の一色が怖いだのというのは自分に都合のいい理由をでっち上げただけだ。 …『暇』もそうさ。俺は暇だといって自分の気持ちを誤魔化していたんだ。 …実際暇だけど。 自分の気持ちに向き合った時俺はあっさりと答えが出た。 一色が何故嫌いになって欲しいのかなんてのは、どうでも良くなっていた。 今の俺の頭の中は過去のことでぐるぐる回転していた。 一色と初めて会った時。 あざとく俺に迫ってくる一色。 助けを求める一色。 楽しんでいる一色。 頑張っている一色。 かわいい一色。 ああ。思い出すとどんどん俺が、俺という存在が変わっているようなそんな感覚だった。 四月の俺はきっとこんなことを思っても自分にはそんな資格など到底ないのだと、思ったり、相手を信用してないからこんな感情なんて生まれなかっただろう。 俺は一色のことが好きなんだ。 ああ。そうだ。 きっとそうなんだろう。 雪ノ下。勝負はお前の勝ちのようだ。 俺は変わった。 あの時の俺は少々頭が固かったようだ。 負けを認めよう。何でも命令と言うのはなんとも怖いものだが、まぁ雪ノ下も雪ノ下ですこし前よりも毒が……抜けてねぇ…。 まぁいいや。勝負のことは黙っておこう。 自分の気持ちに気づいたのは夜中のことだった。 …葉山対策の参考デートの日はこうして幕を閉じた。 葉山という言葉を思い浮かべるとイラっとしたことは寝ることで忘れることにした。 月曜日というのはたいてい長く感じやすいのだが、今日はやけに短く感じた。 あっという間に放課後だ。 俺はホームルームが終わるや足早に生徒会室に向かう。 俺はこんなに動かない。そんな俺にばったり生徒会室の前で一色に会う。一色は珍しいものを見たような顔をすると今度は声を荒げて言った。 「何で！　何で！　ここに！　くるんですか！」 「俺はお前に言わなければならないことがある。」 ここで説明しておかなければならないのは、俺は一色に告白する気は無い。 そう。変化したとはいえ、性格はそうそう変わらないのである。 俺は一色のためを思い、屋上に誘導した。 屋上にはもちろん誰もいない。 「…それで、なんですか？　先輩。」 声に覇気がない。 …俺はその問いに返す。 「ああ。一色。俺はもうお前に協力はしない。」 「え？」 「今後一切、俺の前―――」 最後まで言うことは出来なかった。 一色は俺の言葉に重ねて言ってきたからだ。 「つまり、先輩は私のこと嫌いになったんですね！」 …一色は泣いていた。だが、その顔は笑っている。無理やり作った笑顔だ。 「違う！　話を聞け！」 「聞きたくありません！」 くっ！ 「葉山じゃなくて俺をみろ！」 久しぶり…あるいは初めてかもしれない。俺は大声を出した。 「…。」 ひっくひっくと一色は肩を震わせている。 「最後まで聞いてくれよ一色。俺は、さっきお前に、今後一切俺の前では葉山を使わないで欲しいっていったんだ。」 「…。」 「なんかこう葉山って聞くとなんかわかんねーけどイライラするんだ。だからこれ以上そのデートも出来ればしたくないんだ。葉山について考えるお前が見たくないんだ。」 「…駄目です。これじゃ駄目なんですよ！　先輩。私はもっともっと葉山先輩のこと考えて、それで先輩には雪ノ下先輩か由比ヶ浜先輩のこと考えないと…。」 「なんでそんなこと！」 「そうしないと！　私…！　先輩のこと諦められなくて！」 「！」 「私が先輩を諦めないと…いろいろまずくて！　…だってあの二人が…。」 涙のせいか言いたいことがあまり言えてない一色だった。 そんな彼女を見ているとなんだか口がどんどん開いてゆく。 いうつもりは無かったんだ。 全く持ってなかった。 だが、自然と出てしまった。 「俺は一色のことが好きだ。」 時間が止まったのかと思った。 沈黙が苦しい。 俺はすぐさま続ける。 「だから、周りのことを考えるよりもまず自分の事を考えようぜ？　とりあえず返事を聞かせて欲しい。」 「…その…それはライクなんですか？　それとも…。」 「…もちろん後者だ。何言ってんだ恋愛脳のくせして。」 一色は泣き止んでいた。 「だって先輩まるで告白したことがあるようで、なんというか自然な感じだったんで。どっちの意味かわかんなくって。」 「ふふん。俺は実は人生経験豊富な男なんだぜ。そりゃもちろん人に告白した事もあるさ。」 「そうなんですか？」 「ああ。振られたけど。」 「駄目じゃないですか。」 一色は笑った。やっと 「んで、お前はどうなんだ？」 [newpage] [chapter:■俺の青春ラブコメは間違っている。] 本日は晴天なり。 こういう日にはうってつけの日だ。 公園で暢気に小説なんか読んでると一色がやってくる。 今日は一色とデートなのだが一色は俺のことが不満らしい。 例えば、映画館で見たいものがそれぞれ違ったら別々にしようとしたり、…いや、これ以上思い出すのは野暮だ。 とにかく、今回は色々と一色が俺の捻くれた思考を正してくれるらしい。 不安だ。 彼女曰く俺の青春ラブコメは間違っているらしい。 現実に青春ラブコメ的なものがあるのかどうか分からんが。 「さて、先輩。今日は水族館に行きましょう。」 「水族館か。」 サメとか見てみたいな。 「ここの水族館の中にある和菓子が超おいしいって有名らしいんですよ！　しかも格安で！」 え？　そこなのメイン…。格安て。 …お前の考えも青春ラブコメとしては間違っている気がする。 まぁいいんだけどね。 了

気付けば2016年。<br />カレンダーを見ると三月。<br />ハッと気付く。<br />いろはす成分たんねーし…ていうか俺ガイル成分そのものがなくなりつつある。<br /><br />いろはす成分を補給するために書いたような物語です。<br />前回も似たようなこと書いたんですけど、話は違うんで。

一色√α

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俺は手塚光。 父は手塚純夫。図書館協会の会長だ。 八つ違いの兄の名は [chapter:手塚慧]兄貴は『図書館未来企画』なるものを主宰している。 そんな兄には五年以上会っていない。 元は同じ方向を向いていた父と兄。 ところが兄が図書館に配属されて三年が経つ頃。 『図書館は中央集権型の国家機関になるべきだ』 何を考えてるのか兄貴は急にそう言い出したのだ。その発言は、国の行う検閲を認めるということで。 父には到底応じられる意見ではない。 父はショックを受け、兄と毎日言い争うようになり、母は心労で体調を崩した。 家族で唯一意見の食い違う兄貴は当然のように家を出て行き、高校生だった俺は母親の看病と受験勉強に明け暮れた。何もかも必死に熟すしかない毎日だったんだ。 俺は家族をメチャクチャにしたまま放っている兄貴が心底許せない。 そんなアイツは時々気が向いたように俺の電話を鳴らす。俺は完全無視だ。こないだ笠原の前でも電話が鳴って焦った。 出ない俺に笠原は必要以上には踏み込んでこず、「男の人ってストラップとかつけないよね〜」などとあからさまに気を遣われた。あいつに気を遣わせるなんて俺もまだまだだ。 一向に電話に出ない俺に兄貴は手を変えてきた。 俺の携帯ではなく寮にかけてきたんだ。 寮監室の前で電話のいざこざを見せるようなことは好まない。会わなくなって五年も経つのにまだそういう俺の性格をよくわかってることに舌打ちしたくなる。 あいつの用件は久々の再会要求だった。 断りたかったが、先頃小牧二正が良化隊に捕まった時にアイツを頼ってしまった借りがある。大変に不本意だが。 だから、応じたんだ。 五年ぶりの兄貴は言った。 「光、未来企画に参加しないか」 やっぱりだ。変わってない。所詮俺を利用することしか考えてないんだな。 五年も放っておいたのに、父さんのことも母さんのことも、一言も気にかけないんだな。 俺がお前についていくはずないだろう？ ──でも、少しだけ気持ちが疼いたなんて…気のせいだ。 俺は取り付く島も与えず、兄貴と別れる。 ここでもっとマシな答えを言っていたら…あいつを……迂闊な俺のバディを…巻き込まずに済んだんだろうか。 しばらくして、先日『一刀両断レビュー』という批評コラムをしていた同室の砂川が査問会にかけられることになった。 やつは兄貴の未来企画に参加していて、兄貴に心酔してるようだった。 聞いてもないのに兄貴についてペラペラと喋ってくる砂川は、所謂空気の読めない奴。 そいつが荷物を運ぶのを笠原と一緒に手伝って、笠原が砂川にキレていたのは記憶に新しい。 そんな時だった。 査問会から笠原への出頭命令が下る。 ──砂川が共謀者として笠原の名前をあげた。 おい、お前…俺のバディに何してんだよ。 兄貴に心酔してんだかなんだか知らないが、この山猿がお前の共謀者？は？寝言は寝て言えよ！ 「砂川にどういうつもりか問い質します！」 立ち上がった俺に、堂上二正は 「砂川は心身症の診断が出て自宅療養だ。もう帰宅してるはずだ。砂川への査問は復帰まで延期される」 そう静かに声を投げてきた。 なんだそれっ！お前今朝までそんなことお首にも出してなかっただろうが！いつもと変わらずヘラヘラ笑って「おはよう」って言ってたろうっ！ 「自分の身代わりに笠原差し出して逃げたんだ！不自然です！」 俺の訴えは、笠原の為に自重しろと突っぱねられた。 でも… 査問会から帰ってきた笠原が隠し持たされたUSBレコーダーの録音を聞いて俺は怒りに震えた。 あいつ、やっぱりあの時のことを。 あの行為が共謀になるんなら、俺だって共謀者だろう！？ 「何でこの展開で俺の名前が出てないんですか！」 当たりどころがわからない。 この人達に声を荒げたって仕方ないのに…。 普通なら同室の俺だろう？俺が共謀者だって訴えた方が自然だろう！？ なんでいつも上官に食って掛かるようなバカなやつに、なんだかんだ泣き虫なこいつになすりつけてんだよ砂川！ふっざけんな！ その後、２回目の査問で俺のことも笠原が報告したが、３回目も俺に出頭命令が下ることはない。 おいおい、なんだよ？俺のことは無視か？ 早く俺を呼べよ査問会！ ３回目の査問会に向かう笠原が、なんだか鳩尾辺りを押さえてる気がした。 そうか…山猿じゃなくてお前だって人間だもんな…。 やっぱり胃痛には牛乳だろ？ そろそろ帰って来る頃に笠原の机に牛乳を1パック置いた。 牛乳を凝視する笠原に焦って思わず変な咳払いが出たけど、チラっと視線だけ俺の方に向けて一度だけ瞑った。 ──あ、伝わった。 早く俺だってお前を助けたいのに。 俺が出ていけばお前の濡れ衣はすぐ晴れるのに。 その後も一向に呼び出しがかからない。 そういえば、笠原が携帯につけてるストラップ。 あれと似た物を堂上二正の部屋で見た気がするのは気のせいか？ まさか堂上二正がそんなわけ…ないよな。 あっ俺の視線に気付いたのか小牧二正が吹き出した。 まさかな…。 その後も笠原が呼び出される度、疲弊してくのが目に見える。 あいつは平気なフリして笑ってるけど、お前俺をなんだと思ってんだ。お前のバディだぞ？ お前の頭で隠し通せると思うな！ とりあえず訓練の時に全てにおいてあいつが追いつけないくらい全力を出してやった。 負けず嫌いのあいつはやっぱり食らいついてきて、一心不乱に汗まみれになっていた。 訓練の間だけでも忘れさせられたならそれでいい。 後で堂上二正の視線が少し鋭かった気がするのは気のせいか？ 小牧二正が腹を抱えながら堂上二正の肩を叩いていた。 あのお二人はやはり目指すべき目標だな。 やはり俺に査問会からの呼び出しはかからない。 おかしくないか？いくら笠原の方が攻略しやすそうだからって、笠原は俺が一緒にいたことを再三証言してるんだぞ？ これは何か裏がある。何かの圧力がかかっている。 砂川… 未来企画… [chapter:手塚慧…] ま…さか…あいつが？ 俺が参加を断ったから？ まさか俺を手に入れるために、笠原を…？ そうか！焚書もあいつの…全て兄貴の指示か！ くそっ！なんでもっと早く気付かなかったんだ！ 俺は堂上二正の部屋を尋ねた。 [newpage] 堂上の部屋には、小牧、手塚が集まっている。 珍しく手塚から集まって欲しいとの誘いだ。 いつも通りビールを出すが手を付ける様子はない。足も崩さず、正座をして手を綺麗に添えている。普段は部屋飲みの時は手塚も足を崩しているのにだ。 いつもと違う手塚の様子に 「話ってなんだ？」 堂上が切り出すと、 「俺には兄が一人居ます」 予想と違う答えが返ってきた。 その後しばし黙った手塚は、意を決したように口を開いた。 「笠原が…あいつが狙い撃たれたのは俺……のせいかもしれません…」 そこから手塚は自分の兄が中央集権主義者であること。 父と兄の対立。 兄が手塚を未来企画に欲していること。 言葉を選ぶように、だが迷うことなく説明した。 「少し飛躍しすぎな気もするけど…他に根拠は？」 小牧が聞くと、手塚は尚も重ねた。 砂川が未来企画所属だということ。 砂川の心身症診断を出した病院が兄の友人だということ。 そして 「俺は…砂川の起こした隠蔽事件自体が兄の指示だと思っています…！」 「「っ！」」 手塚の発言に上官二人が驚いた時だった。 男子寮内に突風が吹いた。 ガチャッ 突然ドアが開く。 「失礼します!!」 その声はおよそここでは聞き得ない女の声。 図書隊の華こと柴崎麻子だ。 「し、柴崎！？おまっ！ここ、ここをどこだと」 狼狽える堂上に、 「堂上教官のお部屋だと思いましたが？」 柴崎はシレッと答えた。 「そうじゃなくて、男子寮だ！どうやって入った！」 「ここにあたしが微笑んで通れない場所があるとお思いですか！？ そもそも電話かけてんのに繋がらないのが悪い!! 皆さんお揃いなら丁度いいわ。お話があります!!」 美人の剣幕はすごい迫力だ。 小牧が堂上の携帯を確認すると充電が切れていた。 しかし、美人故の弊害もあるようで。 「柴崎さん、ここでは話せないよ。自分の影響力考えるべきだったね」 堂上の部屋の前には今や黒山の人だかりである。 図書隊の高嶺の花が、女人禁制のタブーを犯して一男性隊員の部屋を訪ねてきたのだから、それもそのはずである。 柴崎と三人は共有スペースの談話室に移動すると、柴崎が皆の目の前のテーブルに一枚のメモ用紙を叩きつけるように置いた。 『手塚のお兄さんに呼び出されたので食事に行ってきます。研究会の勧誘だそうです。門限までには帰ります』 それを見て最初に顔色を変えたのは手塚だ。 女性らしい綺麗な文字は、三人が一番見覚えのある女性の字。 今一番心配している堂上班のもう一人。 「笠原をどうしてくれるんですか！？これ未来企画が仕掛けてきたっていうことですよね！」 「おまえっその情報どこから？…俺たちだって今さっき知ったばかりなのに」 堂上が慄いていると 「あたしを誰だと思ってるんですか！？」 柴崎はにべも無い。 「行くなら幹部御用達の高級イタリアン。あの店しかありませんよ。 笠原、ドレスコード気にしていったみたいでベッドの上に選ばれなかった服が散乱してましたし。あの子が持ってる中で一番高いバッグがありませんでしたから。 そして門限までに帰れる範囲の高級店はあそこだけです」 柴崎がそう告げると手塚がすぐに動いた。 「俺が行きます！」 その手を小牧が瞬時に掴む。 「手塚はダメだよ。お兄さんと揉めない自信あるの？幹部御用達のお店なんだよ」 小牧に言われて手塚は押し黙るしかなかった。 「どうする堂上？」 「──っ！」 あいつは…辛い査問にも一人で耐えてる。 大丈夫かと聞けば大丈夫と返ってくる。 でも、それが強がりだって…………ここにいる皆、いや特殊部隊の全員がわかってるんだ。 「…手塚の話を信じないわけじゃない。だが…」 「証拠がないよね。あくまで推論の域を出ない」 いつも正論の同期が繋ぐ。 それでもあいつは…あの時泣いていた。 あいつは猫の時にしか素直になれないけれど…確かに俺の前で泣いたんだ！ ──あいつの涙を拭くのは誰だ？俺しかいないだろう？ 堂上が自問自答する間、誰も一言も発しない。 ──あいつが手塚の兄貴に揺さぶられて、万が一… 「…あいつが変身したら事だろう。俺が行く!!」 言うが早いか堂上は談話室を飛び出した。 「全く、素直じゃないんだから…」 「まぁ、あれが今のあいつの精一杯じゃない？許してあげてよ」 柴崎の呟きに小牧が答える。 「俺も…やっぱり俺も行きます!!」 そう言って飛び出そうとした手塚だが、それは小牧の全力の制止に阻まれた。 「手塚、良い子だから大人しくココで待ってようね」 「あんたが行っても本当の意味であの子を救うことにならないわ」 「…それはどういう？」 「今はわからなくていいよ」 ニッコリと笑う小牧の顔は妙な迫力を纏っていたので、手塚は不本意ながら二人に従った。 バタバタバタッ!!! 派手な足音に三人が目を向けると、そこには真っ白い制服に身を包み、一目散に駆けていく堂上がいた。 真っ白い制服とは、入隊時に自腹で買わされる公式行事などでしか着用しないものだ。 「……なんで制服？」 呆気に取られる小牧に、柴崎は不敵に笑った。 「あら、王子様出陣ですね」 「？？」 ついていけない手塚のことは放っておいて、何やら知ってるような二人は顔を見合わせて笑ったのだった。 [newpage] ──手塚にソックリ… 郁は目の前にいる人物をチラチラと窺いながら、食べ慣れないフルコースに悪戦苦闘していた。 「くくっ会わない間に光も随分くだけたみたいだな」 「て、手塚には内緒でお願いします！」 最近は弟に会えていないという慧に郁がいくつか話した手塚のエピソードは案外慧にウケた。 それにしても郁にはこの店が落ち着かない。 綺麗めな服装でと言われたのでそれなりの店は想像していたが、まさか幹部御用達の高級レストランに入るとは思わなかった。 『無理です！ここで割り勘とかあたし出来ません!!』 『はははっ光のガールフレンドなんだから勿論ご馳走するよ』 『違います！』 そんな一悶着が入店前にあったが、結局は慧に押し切られた。 なんだか自分の意見を押し通してくるタイプのようで断りきれなかったのだ。 「あのぅお話よろしいんでしょうか」 残りはデザートと食後のコーヒーいう段階になって郁はようやく切り出した。 今日は慧が主宰している研究会の誘いだと言われて会っているのだから。 「笠原さんは検閲についてどう思う？」 「絶対反対です」 「検閲は社会からなくなるべきだと思わないか」 「思います」 「どうしたら社会から検閲がなくなるか、そういうことを考える研究会なんだよ」 ──え！検閲をなくせる？ 郁の興味は一気に持っていかれた。 その後慧が説明する言葉は難しくて、郁の頭に半分も入らなかった。 だが、一つ理解出来たのは [chapter:検閲を無くすには一度検閲を受け入れろ] 何年かかるかわからないが、そうすれば将来的に検閲は根絶出来ると慧は言う。 え？だからなに？ 例え将来検閲がなくなっても、今読みたい本たちはどうなるの？ 検閲がなくなるまでに抹消されてしまう本たちを誰もが『仕方ない犠牲』だと割り切ることが出来るの？ 答えは決まっている。 「ごめんなさい。あたしバカだから難しいことはわからないけど、そういうお話なら参加することは出来ません。他の人を誘ってください。 あたしには今本を読みたい人達に『未来の為に我慢しろ』なんて言えません。 今検閲されていく本を見過ごすことなんて出来ません。本を守る事、一冊も漏らさずに後世に遺す事、皆の読む自由を守る事、図書隊の活動はあたしの誇りです」 慧から目を逸らさずにシッカリと郁は告げた。 「く…あはははっ！なるほど、参ったよ。だから感覚派って苦手なんだよなぁ。 どれだけこっちが理を尽くして説明しても、最後の最後には『よく分かんないけどイヤだからイヤ』で全部ひっくり返しちゃうんだよ」 何だかよくわからないがすごくバカにかれたような…。 郁がむぅっと唇を尖らしていると、慧は郁に身を乗り出してきた。 「よし、じゃあ正直に言おう。 俺は別に君が欲しいわけじゃないんだ。俺が欲しいのはね… [chapter:光だけだよ]あいつに伝えてくれないか？ 『お前がなびいてくれるなら笠原さんへの査問を止めさせた上で潔白を証明し解放する』 砂川くんは未来企画の会員でね、隠蔽図書を運ぶのを君たちに手伝わせるところから全部…俺が仕掛けたんだよ」 ──え…？ 頭が真っ白になるとはこのことか。 組んだ手の上に顎を乗せ、ニヤニヤと笑う目の前の手塚慧を呆然と見ることしか出来ない。 「いい条件だろう？」 「…ひどい」 かろうじてそう呟いた。 「君には申し訳ないと思ってるよ。でも光を手に入れるためにはどんな手段も厭わないんだ」 「ちが…」 ひどいのは弟の手塚に対してだ。 兄弟だろう？ あんたたちは兄弟なんだろう？ あたしが兄からこんな仕打ちを受けたら心底許せない。腸が煮えくりかえる。 でも── 絶対に嫌いにはなれないんだ。 それをどうしてこの人は… 可哀想な人。 「君も辛い状況なんだろう？俺が言えばすぐにでも査問を止めさせる事が出来るんだよ。君もいい加減楽になりたいだろう？」 ぐらり 憤りが傾いだ。 辛くないわけがない。 誰も目を合わせてくれない寮。たまに目が合うとそれは好奇か軽蔑の眼差し。 あたしが通ると開く何十センチもの人との隙間。 挨拶なんてしてもらえればいいほうだ。 通り過ぎるとすぐに始まる聞こえよがしな下品な詮索。 負けたくなくて顔を上げて通るけど、ずっと前からあたしの心は負けていて、閉じこもることが多くなってた。 今なら…楽になれ…るの？ バディのあいつに…これを伝えるだけで…… 駄目だ！流されるな！考えろ！ 案件は脳みそまで持ってけってあの人は言った。 考えろ考えろ考えろ考えろ。 あたしじゃなければどうする？ 例えば他の人が同じ立場になったら── そう思った時、郁の座っている席に面した窓が大きく鳴った。 ビクッと郁がそちらを向くと。 ──あ… 正に今思い浮かべた相手が、窓を叩いていた。あの人は肩で息をしながら口を開く。 『今行く』 声は聞こえなくてもそう読めた。 それを見て郁は背筋を正した。慧に向き直る。 「あたしには言えません。言いたかったらご自分でどうぞ。お兄さんにこんなひどいことされてる手塚に、あたしの信頼出来る仲間に、あたしが重ねてひどいこと出来ません。 お兄さんがこんな仕打ちをしてるってあたしの口から伝えるなんて、友達を傷付けるなんて絶対にイヤ！ 手塚はあたしの大事なバディだ!!ふざけんな!! 査問上等！かかってこい！」 そこまで一気に啖呵を切ると、後ろから駆けてくる足音。 手塚慧は何の感情も読み取れない表情でただ郁を見ていた。 「俺の部下だ！返してもらおう！」 現れた堂上は、白い制服を身に着けている。 ──まるで王子様みたいだ… 堂上は慧を睨むと、郁の手を握った。 「帰るぞ」 郁を立ち上がらせる際、堂上は制服のポケットから掴み出した札を二枚テーブルに叩きつけた。 カツカツカツカツ 訓練速度で郁は手を引かれる。 「きょーかん…」 カツカツカツカツ 「教官！手！手が痛いです！」 郁の声にようやくそのことに気付いた様子の堂上は、振り払うように手を離した。 「なんで、制服なんですか…」 「スーツ全部クリーニングに出してた！普段着じゃ入れないような店に連れこまれやがって」 苦々しい顔をする堂上は、「何言われた」と続けた。 「断りましたよ、全部聞いてから。わざわざ迎えに来なくてもちゃんと帰ったのに…」 俯いて郁は伝えた。 「俺が迎えに来たのは俺の都合だ！今のお前を心配して何が悪い！」 ──うわぁ…今そんなこと言うのズルい… 堂上の手が伸びてきた。いつもならぽんと乗るところが途中で止まる。 「お前…何踵の高い靴履いてんだ！撫でにくいっ！」 「ぷっ！あははははっ！」 「わ、笑うな！」 郁は泣きながらボロボロと涙を流した。 「あははっ…じゃあ、堂上教官の訓練速度で慣れないヒールに靴擦れしちゃったから、後はお願いしようかな」 「は？」 まだ泣き笑いの顔で郁はそう言うと、堂上の手を引き裏路地に入る。 「な、なにをっ」 「失礼します…」 郁は狼狽える堂上の背中に手を回し、一度深呼吸すると 「隠しててくださいね」 と言った。 お前が何をしたいのか、わかった。そうか。 「了解」 堂上は郁の体を包み込んだ。 ペタ ポスン 丸まって気持ち良さそうにしている郁猫を散らばった服で包み込むと、堂上は皆の待って寮に帰って行った。 [newpage] 寮の談話室にはまだ三人が残っていた。 ギィッ 扉の開く音に顔を向けると、制服姿の堂上。 手には布を丸めたものを持っている。 そのまま談話室に入ると、包みを椅子の上に置いた。 「俺が着替えてくるまで小牧と手塚は待っててくれ。柴崎はこいつの私服持ってきて、後で公共棟のトイレまで付き添い頼む」 「了解」 柴崎は軽快に女子寮へ向かった。 手塚と小牧はしばらく郁猫の見守り役だ。 さっきまで彼女が着ていたであろう服にくるまれた郁猫はスヤスヤと眠る。 「気持ち良さそうに寝てるね」 「そうですね」 「なんだか、こっちが癒やされるね」 「そうですね」 「堂上に行ってもらって良かったでしょ」 「はい…俺には猫化はさせられません」 「ぶっ！」 二人で郁猫を撫ぜる。 郁猫の尻尾の先が少しだけパタパタと動いた。 戻ってきた堂上が不機嫌になったのは言うまでもない。 つづく

今回、前半主に手塚です。<br />そんなつもりなかったのに、書き始めたら手塚のやつグイグイ来る。<br />そうだよね、あんたにも言いたいこと一杯あったよね。<br /><br />私で上手く書けるかわからないけど、そんなあんたの気持ちを少しでも代弁出来たら嬉しいな。<br /><br />さぁ、ようやく査問終わりますよ！<br /><br />[お知らせ]<br />下の子が熱出しまして…幸いインフル陰性だったけど、何せ甘えん坊将軍なものですからしばらく更新頻度落ちるかもしれません。<br /><br />※郁猫シリーズにマイピク様限定話がいくつかありますが、読まなくても本編にはほとんど影響はありません。でも読んだらチョロッと楽しめることが増えてお得な気分になるかも？(笑)<br /><br />そんな小話で良ければいつでもマイピク申請くださいませ♪<br /><br />あと、一気に申請来たときなど、うっかり『マイピクになる』ボタンをポチするのを忘れることがあります。<br />今のところ拒否することはありませんので、24時間以内に承認されない場合は御手数ですがもう一度申請していただけると助かりますm(_ _)m<br /><br />忘れてしまった方、本当に申し訳ありませんでした。<br /><br />表紙を素敵絵師かおにゃんこさん<strong><a href="https://www.pixiv.net/users/17001202">user/17001202</a></strong>に描いてもらいました♡素敵～!!(2016/5/10）<br /><br />2016年03月03日付の[小説] 女子に人気ランキング 31 位入り<br />2016年03月03日付の[小説] デイリーランキング 68 位入りありがとうございます！

笠原郁…時々“いく„　その１１

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毎晩の日課である、柴崎とテレビを見ていたときのことだ。 ここ数年、各地で起きる災害に日本人も随分敏感になった。 公共施設での災害時の訓練、マニュアル作成。 家庭でも意識は向上し、ホームセンターでは当たり前のように災害対策コーナーが置かれ当たり前のように買い求める人々。 武蔵野第一図書館でも検閲だけでなく、災害マニュアルを元に想定した訓練が年に数回行われ、数百人単位の水と災害用食料が倉庫に備蓄されている。 テレビでは過去の災害、現在に残る爪跡、予測される災害地や規模など多岐にわたり放送していた。 番組の司会者が発した言葉が、郁の心に深く残った。 『大規模な災害がいつ起きてもおかしくないですね。最後の最後、皆さんは誰と一緒に過ごしたいですか？』 共同出資の菓子箱から煎餅を取り出し、柴崎がバリッと音をたてて噛み砕いた。 ｢最近、多いわよね～。地震に火山噴火に局地的豪雨。数年前まではこんなに多発してなかった気がするけど、他人事じゃないわね。温暖化の影響も少なからずあるし｣ ｢本当怖いよね｣ ｢昔、日本が沈没する映画やってたじゃない。当時は映画の中の出来事って思ってたけど、今はけっこう現実味あるわ｣ 昭和の年号に空前のベストセラーになった小説が元だ。 小説はいくつかの賞を受賞し、日本におけるSFの浸透に一役買ったとも言われる。 何回か映画やテレビなどでリメイク版があったが、郁達の世代では日本を代表するアイドルグループの一人が主演し話題になった。 海外の映画なら理解するが、それが日本に標準を合わせ下手したら全滅、国外逃亡しか手段はなく、まさに逃げ場がないパニック映画は今も覚えているひともいることだろう。 この本は内容が社会を混乱させる、過激だと、メディア良化委員会から検閲対象図書に指定されたが、人気がありときには予約で待つほどだ。 ｢ねぇ柴崎は明日、日本が沈むってことになったら最後誰と一緒にいたい？｣ ｢あたしは全財産持って海外へ逃げるわ｣ ｢確かにあんたはそうしそうだけどーーーもしもの仮定としてっ｣ ｢もしもねぇ……｣ 柴崎は番組が終わり、CMに切り替わったテレビを見ながらお茶を飲んだ。 考えているのか、しばし無言になった。 ｢あたしは家族かしらね。最後まで一緒にいたいというほどの異性もいないし｣ ｢へぇ。家族なんだ｣ 意外な気がした。 実家の話をあまりしない柴崎にそういう感覚があったとは。 まぁ自分も家族(主に母親)はタブーの内の一つに入っているので、ひとのことは言えないが。 ｢そういうあんたはどうなのよ｣ ｢へ？｣ ｢家族と過ごしたいか訊いてるの｣ ｢それはない｣ きっぱり即答すると柴崎が苦笑した。 ｢言うと思った。あんたが大人しく茨城に帰るとは思えないし。でもあのお母さんなら実力行使でここまで迎えにきそう｣ ｢やだやだ、やめてよ！そういうの！噂は影を呼ぶって言うじゃない。現実に起きたらどうすんのっ｣ 郁は体を震えさせて、自分の両腕を抱き締めた。 最後の最後まで母親に縛り付けられるのは正直勘弁してほしい。 こんな風に考える自分は親不孝者だと思う。 だが長い間凝り固まった確執は、そうそう簡単には解れてくれない。 身内の溝は第三者が考えてる以上に深いものだ。 ｢親の心子知らずね｣ 柴崎がため息をついた。 ｢お母さんのことは嫌いじゃないけど……まだ素直に一緒にいたいって思えない｣ ｢あんたも意外に頑固だし、お母さんも頑固そうだし、昨日今日で和解できるような関係じゃないか。ある意味、これ以上はないってくらい似た者同士なんじゃない？｣ ｢う｣ 柴崎の見解に郁が固まった。 反論できないところが悔しい。 確かに自分は母親に似ていなくもない。 考え方とかそっくりだ。 似ている、と断言されると、苦手意識がある相手だけに心境は複雑だ。 『王子様』発言然り『ロマンスがありそう』発言然り、自分のキャラの根源が母かと思うと仕方がないことだが遺伝子を恨みたくなる。 ｢家族じゃなきゃ誰と一緒にいたいのよ？｣ ｢えっ……｣ 一瞬、頭の中に眉間に皺が定着している上官の顔が浮かんだ。 つい先日、手塚慧から『王子様暴露』という爆弾を貰った。 そのとき気付いた。 あたし、堂上教官が好きなんだ 一度認めると胸の中で張り裂けるくらい、想いが大きくなった。 けれど大きくなっていく想いとは反比例して、客観的に冷静に見てしまう。 堂上は『王子様』の話をするのを嫌がっていた。 今なら分かる。 あの挙動不審の数々、その真意が示すものは。 あたしはーーー堂上教官に嫌われてるんだ。 それなら『王子様』の正体は教官には言わない。 只でさえ、新隊員のとき｢これに女を感じるほど飢えてない｣って言われてるし。 女として認識されてない。 でも『部下』なら傍にいられる。 教官の視界に入れる。 ずっと上官部下のままでもあたしは幸せ。 心に嘘はつけないから、好きになる気持ちは止められない。 嫌われても女として見られなくても……部下として認めてくれればいい。 あの広い背中を間近で見られて、頑張れば褒めてくれて頭を撫でられる。 それ以上は、何も望まない。 尊敬から好きに変化した気持ちは、親友と思っている同室にはまだ言ってない。 『あたしが堂上教官と付き合いたいって言ったらどうする？』 入隊してすぐ堂上を『男』として見ていた柴崎。 その言動は最初からはっきり出ていた。 郁が、チビで性格の悪いクソ教官と言っていたときから。 男に対して手厳しい意見の柴崎が、唯一認めた堂上。 上官から何を聞いたのか知らないが、斜め前思考で郁に交際を申し込んだ手塚。 そのとき、柴崎が｢こんな美人を振るなんて｣と堂上への告白を匂わせていた。 柴崎は今も……堂上教官が好き、なのかな？ 堂上への想いは柴崎に遠慮して口に出せなかった。 遠慮？ ううん……あたしは、自信がないんだ。 柴崎と比べられたら何一つ勝てるものがない。 女としての容姿もそつなくこなす性格も。 一緒に立って歩いているだけで、あたしは柴崎の引き立て役で。 自分のことは自分が一番理解している。 引き立て役って分かってるけど、それで落ち込むなんて馬鹿らしい。 あたしらしくない。 柴崎といると自分の劣等感に嫌気がさす。 でも、それ以上に皮肉屋で天の邪鬼な癖に優しい同室を親友だと思ってる。 だからあたしはいつも笑う。 あっけらかんと。 空を向いて。 ーーーそれが、自分を守る方法だと知ってるから。 でも……でも。 同じひとを好きになったら？ 上を向くはずの顔が地面を向く。 堂上教官も柴崎を選ぶ、だろうな……。 あたしが男ならそうする。 間違っても自分より身長がデカい、がさつな女は選ばない。 分かってる。 分かってた。 だから……柴崎には言えない。 告白しても良いことなんて一つもない。 親友と尊敬できる上官、二つも失うなんてーーー怖くてあたしにはできないよ……。 自分の想いを隠せば、この均衡は保たれる。 弱虫でもいい。 堂上からは頭を撫でられ、柴崎には親友として甘えれる。 それが誰も傷付かず、一番平和なんだ。 ｢あたしは……特殊部隊、かな。一緒に戦ってきたメンバーだし｣ それには堂上も含まれている。 このくらい言ってもいいよね？ ｢ーーーそう｣ ｢何か喉渇いちゃったなぁ。ジュースでも買ってくる！｣ 目の前にお茶があるのに、郁は財布を持って部屋を飛び出した。 郁の目の縁が赤く、潤んでいたのを柴崎は見逃さなかった。 ｢特殊部隊ねぇ……バレバレなのよ、笠原｣ こたつの天板に頬杖を付きながら、柴崎の独り言が部屋に響いた。 郁は昼休み、珍しく同期の男女数人に誘われ中庭の芝生でバレーボールをしていた。 館外は一般利用者もいるが、図書館とは反対にある独身寮寄りの中庭は図書隊員しか通らない。 空は雲一つない快晴で、爽やかな風が仄かに汗をかいた肌に心地良い。 午後の課業が始まる15分前。 業務部や防衛部にそれぞれ散っていった同期と別れ、一人特殊部隊の庁舎玄関へと向かう。 事務室に戻ったらお茶でも飲もう、などと考えていたとき。 ｢どうしてなんですか！？｣ 玄関に入る寸前、甲高い悲鳴を聞き付け郁の足が止まった。 声がする方に足を向ける。 庁舎の建物からそっと目だけ出して覗いてみた。 玄関から離れた庁舎脇の芝生に、明らかに業務部員と思われる女子二人と堂上がいた。 業務部員は何となく見覚えがある……多分、去年入隊してきた子達だ。 堂上班班長として日々多忙な堂上だが、上層部に頼まれて、時々臨時に新隊員の訓練や座学を受け持っていた。 つまり、堂上の目の前にいる女子二人も教え子に入る。 ｢この子がこんなに好きになったの初めてで、応援してあげたいんです！もう一度聞きます。堂上教官は、付き合ってるひとはいないんですよね？それなら、この子と付き合ってあげてください！｣ どうやら、友達が告白を代弁したらしい。 引っ込み思案な子に強気な親友。 女子の世界では代弁もないこともない。 郁も高校生の頃、頼まれて同じようなことをしたことがある。 自分の場合は明らかに後者の役割で、結局上手くいかなかった。 女の世界では普通でも、男からしてみるとあまり良く思わないらしい。 告白なら本人が言えばいいのにーーー愚痴ってる話を耳にしたこともあった。 本人を前にすると緊張して言葉が出てこない女子も存在するのだ。 だから、親友を通しての代弁が成り立つ。 ｢何度も言うが、無理だ。付き合ってる彼女がいないから付き合えって傲慢な言い方だな。俺は上官だし、お前は部下で教え子だ。手を出すなんて100年経ってもありえん｣ 淡々と言う堂上に、郁の胸が一気に締め付けられた。 あたしもあの子と同じ立場なんだ。 部下で教え子。 ーーー100年経っても付き合うのはありえない……。 そうだよね。 堂上教官にはたくさん教え子がいて、特別な感情なんて持つことはないんだ。 ああ……一生、あたしは片想いのままなんだ。 この想いが教官に届くことはないんだ。 そう思ったら泣きそうになった。 過去、失恋は散々した。 告白する前に『お前っていい女友達だよな』そう言われて何度玉砕したことだろう。 失恋しても、よく食べて一晩ぐっすり眠れば次の日普通に話せた。 この恋は……違う。 5年間『王子様』と思っていたひとが実は堂上で、それからも好きは止まらなかった。 簡単には片付けれない、真剣な恋。 だから今まで通りのーーー玉砕が怖い。 ｢あの、堂上教官。部下じゃなくなったら、付き合っていただけますか？｣ 俯いていた引っ込み思案な方の女子が、おずおずと提案した。 ｢どういう意味だ｣ ｢部下で教え子じゃなければいいのであれば……私が図書隊を辞めて部下という立場を捨てます。そしたら、堂上教官と付き合えますか？私を一人の女として見てくれますか？｣ そこまで、この子は堂上教官が好きなんだ。 負けたと思った。 自分は図書隊を辞めてまで堂上を振り向かせようなんて思わない。 図書隊員である自分が好きだし、何より本を守ることを誇りに思っている。 辞めるなんて考えたことがなかった。 それなのに……この子はあっさり言う。 堂上に振り向いてもらえるならば。 気持ちは痛いほど分かる。 だが、図書隊を辞めるのは理解できない。 堂上は大きくため息をついた。 ｢お前が図書隊を辞めても部下だった、教え子だったという事実は消えない。そんな軽い気持ちで図書隊を辞めると言ったお前を俺は軽蔑する。浮ついた態度で本に関わってほしくない。特殊部隊、防衛部員が命をかけて守っている本を。図書隊を辞めるのは勝手だが、俺のせいにするな。付きまとうのも金輪際やめてくれ。迷惑だ｣ 堂上が踵を返してこちらに向かってきた。 盗み聞きしてたのがバレる！ 郁は玄関脇の植え込みに隠れた。 植え込みは玄関から庁舎に沿って伸びていた。 ちょうど腰まであるので、しゃがみ込めば緑と同化する。 玄関に駆け込めば良かったと思ったが、もう後の祭りだ。 ひとの告白を覗いているという後ろめたさを感じながらも、結局好奇心が勝った。 しかも自分の好きなひとに告白している場面だ。 気になってしまうのは仕方がない、と割り切る。 ｢待ってください！｣ 強気な女子が堂上に声をかけた。 郁はこちらに来ないのを確認するとゆっくり腰を落としたまま建物の角を直角に折れ、植え込みの内側を移動する。 緑の隙間から覗いた。 泣き出した友達の背中を擦りながら、彼女は立ち止まった堂上の後ろ姿に問いかけた。 ｢堂上教官にとって笠原一士は特別なんですか！？｣ 息が詰まって呼吸がうまくできない。 な、なんであたしのことを出すの……？ 引き合いに出される意味が全く分からない。 堂上がゆっくり振り返った。 ｢笠原はーーー｣ これ以上聞いたら……あたしはきっと壊れる。 壊れてーーーもう教官の前で笑えなくなる。 お願い……答えないで。 背筋が凍る。 耳を塞ぎたいのを我慢した。 ……体が金縛りにあったように動かない。 ｢笠原は部下だ｣ ｢なぜ笠原一士だけ優しくするんですか！？皆、噂してます！えこひいきだって｣ 堂上の顔が一瞬にして険しくなった。 眉間にくっきりと皺が宿る。 ｢笠原は特殊部隊唯一の女だ。防衛部にも女はいるが、弾薬補給などで最前線には出ない。あいつは重い銃を持って男と一緒になって戦う。笠原は一度だって自分が『女』だからと弱音を吐いたことがない。全力で、全身全霊で立ち向かう。どんな危険な局面に直面してもだ。それを庇ってやったらえこひいきと言われるのか！？部下だが命をかける仲間を守って何が悪い。あいつは自分のことよりも、本を守る役目に一生懸命なだけなのに｣ ｢……分かりました。最後に一つだけ。笠原一士はただの部下ですか｣ ｢ーーーああ。俺にとって大事なかけがえのない『ただの』部下だ｣ 堂上が去って行った。 特殊部隊庁舎の玄関に消えた。 業務部員二人も仕事に戻るようで、郁の前を気付かず通り過ぎていく。 落ち込む親友を強気な女子が必死に宥めていた。 ｢堂上教官だけが男じゃないって。元気だしなよ、あんな男見返すくらい頑張ればいいしさ｣ 次第に声が遠ざかっていく。 人気は完全になくなった。 だが郁は、植え込みから立てなかった。 しゃがみ込み、口元を両手で押さえている。 涙が……溢れて止まらない。 嗚咽が喉の奥から這い上がってくる。 涙は頬を伝い口を押さえた手を伝い、植え込みの渇いた土にポタポタと吸い込まれていく。 例え『ただの部下』だとしても、大事でかけがえのないなんて言葉、好きなひとに言われたら嬉しい……。 これだけ『部下』として大事に思われてるのに、不満なんて思ったら罰が当たる。 堂上教官はあたしを見ていてくれる。 あたしの頑張りを『上官』として、今までも、これからも。 教官を好きになって良かった。 この想いは表には出せないけど。 ーーーそれでも。 涙を手の甲で拭い、立ち上がった。 午後の課業を知らせる5分前のチャイムが鳴り、郁は玄関から庁舎に入った。 長い廊下の途中で、何かの用事か堂上が男性業務部員と立ち話をしている。 片手を上げ、業務部員が去って行く。 郁の足音に気付き、堂上が後ろを振り返った。 ｢笠原か、もうすぐ始まるぞーーーどうした？目が赤い｣ ｢っ！……あくびが出たんですっ。昨日読書して夜更かししちゃったんで｣ ｢そうか、体調管理も仕事のうちだ。気を付けろ。いつも5分前行動とれって言ってるだろうが。もっと早く来い｣ ｢教官だって一緒じゃないですか｣ 郁が頬を膨らませると、堂上が呆れた。 ｢毎回、遅刻ギリギリのお前と一緒にするな。不本意だが俺はヤボ用だ。上官の俺が遅刻したらカッコつかないだろ……ほら、行くぞ｣ 郁の後頭部を大きな掌で軽く押す。 優しい穏やかな表情に、郁の胸がキュンと鳴った。 一歩先を歩く堂上を見る。 自分よりやや低い肩がなだらかな稜線を描き、広い背中は出会った日と同じく逞しい。 この背中に、惚れた。 堂上教官 堂上教官 あたし、死ぬときはあなたと一緒がいいです 最後の最後まで『部下』として一緒にいたいです そう思うくらい、許されますか？ 大切に大切に育んできた想いを『部下』という真綿で包んで、胸の底にそっと落とす。 誰にも言わない。 想いは自分だけの秘密。 けれどもう偽(いつわ)らない。 この恋は一生ものだから。 言えない気持ちを胸に秘めて、今日も『ただの部下』に徹しよう。 廊下の窓から空を見上げる。 眩しいほどの青空が泣いた瞳に痛いほど沁みて、郁は目を細めた。 了

※災害に関しての描写が少し入っています。<br />無理な方は回避をお願いします。<br /><br />フライングのようなタイトルですがフライングではありません。<br />テーマはタグにある通り、｢切ない片想い｣です。<br />時期的に手塚慧の手紙が届き、郁ちゃん恋心に気付いたオイシイ時期です。<br />小牧教官にも相談しておらず、堂上さんを投げ飛ばしてもいません。<br />一人悶々と悩む乙女な郁ちゃん。<br />一部捏造しております。<br />｢ん？｣と思っても原作通りではないのでご容赦を。<br />これを読んで切なくなっていただけたら、私の作戦勝ちということで(笑)<br /><br />ブックマーク、コメント、評価、タグ付け、フォロー、メッセージ、マイピク申請、閲覧どうもありがとうございます！<br /><br />駄文ですが、よければしばし私の妄想話にお付き合いくださいませ。<br /><br />レッツラ妄想～♪

死ぬときはあなたと一緒がいい

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階段を一気に駆け上がる音。 凛月と嵐が屋上への階段を上っていた音だ。 屋上の扉を前に、2人は一度足を止める。 凛月「はぁっはぁっ…はぁ…」 嵐「凛月ちゃん、大丈夫？」 嵐がひどく息切れしている凛月の背中をさする。 凛月「はぁぁ…久々に走ったから…ね…くったくたなんだけどぉ…げほっ」 嵐「やだもう、ほら落ち着いて息吸って！凛月ちゃんったら前にも同じようなこと言ってたわよォ？」 凛月「はぁ…ナッちゃんこそ…なんでそんなに元気なの…けほっ」 嵐「そりゃ陸上部だもの…」 凛月の呼吸が落ち着くまで、嵐は優しく凛月の背中をさすり続けた。 凛月「はぁ…ありがとナッちゃん。もう大丈夫」 嵐「いいえ、よかったわ。行きましょうか」 凛月が扉を開ける。 そこには予想通りの光景が広がっていた。 凛月「…セッちゃ」 泉「なぁにぃゆうくん、ゆうくんから俺のこと呼んでくれるなんて珍しいじゃない♡しかも屋上から叫んでくれるなんてさぁゆうくんだいたーん♡」 普段なら信じられないような甘くとろとろな顔でベタベタと金髪の少年にまとまりつく泉がそこにいる。 凛月の目がぐるぐると回った。 金髪の少年は遊木真。輝かんばかりのさらさらの金髪に、すっと通った鼻筋が支える青ぶちの眼鏡の奥に見える、エメラルドのような大きな瞳。すらりと細く長い手脚。美しい。その一言に尽きるほど、綺麗な少年だった。 今更説明するほどのことでもないかもしれないが、泉はモデル時代の【元】後輩である真をずいぶんと気に入っており、ゆうくんゆうくんと常に追い掛け回しているのである。 真「ひいっ…」 真の顔は頬をピンクに染めた泉とは逆で真っ青になっている。 目の端には涙が滲み、泉に対する恐怖丸出しなのだが、泉はそんなことお構いなしに真に頬ずりしている。 凛月「〜っセッちゃん！」 しびれを切らしたように凛月が叫ぶ。 その声に、泉が持っていたビニール袋を揺らして振り向いた。 泉「ん？なんだくまくんになるくんじゃん。ちょっとぉ邪魔しないでくれる？今、俺とゆうく」 嵐「(凛月ちゃん落ち着いて…！)」 凛月「…セッちゃん。ス〜ちゃん知らない？」 嵐の心の声が聞こえたのか、凛月はなるべく冷静を装い泉に問いかける。 泉「…は？知らないけど…何、いないの」 凛月「うん。連絡もつかない」 泉「…わかった」 凛月「？」 ふぅ、と息をつき泉は真に向き直ってにっこり笑う。 泉「ごめんねぇゆうくん。せっかく呼んでくれたのに、俺行かなくちゃ」 皆「えっ！？」 泉「そんな残念そうな顔しないでぇ…また後で構ってあげるからさぁ♡」 真「いやあの」 泉「ゆうくんのことも大事だけど、あのクソガキも大事なんだぁ…またねぇ♡」 そう言った泉の顔は、真を見る時とは違った。凛月と嵐は、慈しむような優しい表情を浮かべた泉の持っている、学院の近所のコンビニのビニール袋の中身を見てはっとする。 (あれは…) 司の最近のお気に入りのチョコレート菓子。 美味しいんですよ、食べてみてください！と、口元にわずかにチョコをつけながら、メンバーに勧めてきた司の姿が目に浮かぶ。 泉「2人とも何モタモタしてんの。さっさと探しに行くよぉ！」 嵐「ちょっ、ねえ泉ちゃん！」 泉「何！？」 凛月「セッちゃん…その袋の中身って…」 泉「はぁ？…あんたたちも知ってるでしょ。かさくんが好きなやつ。今日は星夜祭の練習はないけど真面目なあいつのことだからねぇ。どうせKnightsのスタジオで自主練でもするだろうと思って。差し入れにしてやろうと思ってさっき買ってきたの。かさくんのだからあんたたちにはあげないよぉ？」 凛月と嵐が学院内を走り回っても泉を見つけられなかった理由がわかった。 そもそも、学院内にいなかったからなのである。 いつも頑張っている司のために、司の好きなものを、文句を垂れながらも差し入れして、練習に付き合おうと思っていたのだろう。 嵐「もう…泉ちゃんったら…」 嵐の声が少し震えている。 泉「だから何よ」 凛月「ううん、何でもないよ。早く探しに行こうっ」 凛月の顔に笑顔が戻る。 いきなり走り出した凛月に、泉は訳がわからないと言うような顔をするが、黙って走り出した。 呆然とする真に嵐が向き直る。 嵐「ありがとうね、真ちゃん！」 にっこり笑って嵐も2人のあとを追いかけ走って行った。 嵐の目に安堵の涙が少しだけ見えた気がして、真は小さく呟いた。 真「…役に立てた…のかな？」 プルルルルルル… 台風のように過ぎていった今の出来事から真を現実に引き戻すように、彼のスマートフォンが鳴る。 液晶に映し出された名前は「衣更くん」 真と同じTrickstarのメンバー、衣更真緒のことで、生徒会の役員を務めている。しっかり者で誰からも頼りにされるが、相当な世話焼きの性格がいつも自分の首を絞めている。ずいぶんと苦労人な真の大切な仲間のひとり。 この電話も、真の身を案じたものだろう。真は慌てて画面をなぞり、電話に出る。 真「あ、もしもし衣更くん？…あぁやっぱりそのことね…大丈夫だよ、むしろ…よかったんじゃないかな」 真は3人が出て行った開けっ放しの扉を見つめて、ふふ、と笑った。 [newpage] その頃、ガーデンテラスでは、あの身長も性格も凸凹コンビ、英智&忍ペアが司を探し回っていた。 英智「朱桜くーん」 忍「朱桜殿ー！いるなら返事してでござるー！」 返事はない。もちろん今のは初めての呼び声ではなく、もう何回も叫んでいる。 英智「やっぱり反応なし、か。まあ、素直に出てくるとも思ってないけれどね」 忍「…やっぱり、他の場所なんでござろうか…あっ、もしかしたらその辺の茂みにでも隠れてるかもでござる」 英智「確かに彼の華奢な体格ならいけるね…忍くん」 忍「！？」 英智に名前を呼ばれて忍はビクッとする。未だに緊張しているようだ。 英智は屈んで忍と目線を合わせる。 英智「君の忍者としての力を見込んで頼みたいことがあるんだ」 忍「に、忍者でござるか！？喜んででござる！」 忍者と聞いた瞬間、忍の右目がキラキラと輝く。単純だ。それが英智には可愛くて仕方がないのだろう、どう見てもニヤついている。 よかったですね…他に誰もいなくて… 英智「君のその磨き上げられた身のこなしで、茂みの合間を縫うように探してみてほしいんだ。ただ、ここ一帯の茂みはほとんどバラで、怪我もしやすいけれど…君なら大丈夫だろう？僕ももう一度回ってみるから。お願いできるかい？」 忍「も、もちろんでござる！行って参るー！！」 英智「ありがとう。気をつけてね」 英智に頼られたことがやはり嬉しいのか、忍は素早く、そして難なく、茂みの隙間から中へ入っていった。 英智「…さて」 忍を見送ると、英智は辺りを見渡し考え込む。 (ガーデンテラスは大方探した…多少なりとも時間はたっているのに何の連絡もない。他のペアもまだ見つけられていないなんて…これは相当苦戦を強いられるかもしれないな…) 英智も、茂みの隙間を覗き込んだりとしてみるが、司の姿は見当たらない。 季節は冬だ。校内にいないとして外にいるとすると、風邪をひいてしまう。 日が落ちるのも早い。 太陽はもうだいぶ傾いている。 また違う茂みに英智が手を伸ばしたその時だった。 忍「会長殿…！」 忍の遠慮した声が英智を呼んだ。 英智「どうかしたかい？」 忍「朱桜殿を見つけたでござる…！」 本当に茂みの中にいるとは。 しかもバラの茂みの中。 本気のかくれんぼだ。 英智は苦笑する。 英智「…本当にいたんだね…で、どうしてそんなに声を潜めているんだい？」 忍「…おねんねでござる。目の周りを真っ赤に腫らして…」 忍の声まで泣きそうだ。 英智の心が痛む。 英智「泣き疲れ、って奴かな。忍くん、こっちに凛月くんがよく寝床にしている場所があるんだ。朱桜くんを起こさずにそこから出してあげられる？」 忍「了解でござる！」 英智「僕は毛布と濡れタオルを持ってくるから、よろしくね」 忍「お任せを！」 とりあえず司を忍に任せ、英智は毛布と濡れタオルを用意するためにその場を離れ、スマートフォンを取り出す。 電話をかける相手はもちろんKnightsのリーダー、月永レオである。 英智「…あ、月永くん？見つけたよ、Knightsの新星。うん。泣き疲れて寝ちゃってるみたいだけど。うん。わかった、何も言わずに待ってる。じゃあね」 簡潔に状況を伝え、電話を切る。 毛布を取り出し、ハンドタオルを水で濡らす。 英智「まったく、本当に世話がやけるねぇ」 そう呟き、忍が待つ凛月愛用の寝床へ歩いて行った。 [newpage] 一方、奏汰、渉ペアは校舎裏を探し回っていた。 奏汰「つかさ〜…でてきてください〜つかさ〜…」 渉「ダメですね…さっぱり見つかりません。連絡もありませんし、他のペアも苦戦しているのでしょう」 奏汰「つかさ…やっぱりあのとき、ぼくたちにつよがってうそをついたんですね…」 悲しそうにうつむく奏汰の背中を、渉が軽く叩いた。 渉「大丈夫ですよ、奏汰。Knightsは…瀬名くんは、仲間を愛するあまりに不器用なだけなのです。私たちは、あの誇り高き騎士たちの末っ子を見守ってあげましょう。兄たちに必死でついていく、可愛い後輩をね…♪」 そしてまたその頃、なずな&創ペアはプール脇を移動し、校舎内を再度捜索していた。 なずな「あ〜…本当夢ノ咲のデカさが嫌になるろ〜…」 創「あっに〜ちゃん疲れちゃいましたか？おんぶしましょうか？」 なずな「何言い始めるんらよ創ちん！そんにゃこちょにゃい！」 創「ご、ごめんなさい…」 なずな「あっ創ちんごめん…それにしても、本当どこ行っちゃったんら…？どこのペアからも連絡きてないぞ〜？」 創「…」 なずな「創ちん？」 創「…司くん、本当にぼくが瀬名先輩にほめられたことで傷ついたとしたら、ぼくがその話をした時…どんな気持ちだったんだろうって…」 創が、自分の手を握りしめる。 肩で揃えられた髪が、ふるふると揺れた。 なずな「創ちん…」 司「あの時の司くんの顔が忘れられないんです…だって司くんはKnightsのメンバーですもん…ぼくよりずっとダンスも歌も上手くて優秀で…そんな思いしてるだなんて、考えもしなかったんです…」 創の瞳から、またぼろぼろと涙がこぼれ、しゃくり上げ始める。 なずな「…うん」 創「司くんが、私はKnights失格ですって叫んで走って行った時、びっくりしちゃって…なんで追いかけなかったんだろうって…でも追いかけたところでもっと司くんを傷つけたかもしれないって…ぼく…どうすればよかったんでしょうか…」 また泣き出してしまった創を、なずなはそっと抱きしめ、背中をさすった。 創はこれ幸いと更に泣き始める。 創「皆さん、ぼくは悪くないって言ってくださいます…でも絶対ぼくにも非はある…何も知らないことは、時に罪になるんです…そして今、涙が出るのが一番悔しいんです…一番つらいのはぼくじゃない、司くんなのに…」 自分を責め続ける創に、なずながようやく口を開いた。 なずな「なあ創ちん。よく聞けよ。今、創ちんが言ったことも正しいよ。そうだな、創ちんにも非があるかもしれない。けどな？過ぎたことをくよくよしても仕方がないんだ。むしろ、創ちんがそうやって気に病むことで、朱桜のプライドは更に傷つけられるかもしれない。そんなの嫌だろ？だから、もう泣くな。泉ちんにほめられたことをずっと誇りに思っていればいい。それに…実は、泉ちんはな、朱桜のこと本当に可愛がってるんだ。ノロケかっ！ってくらい。朱桜とかKnightsの話をする時、真ちんのことを話す時とはまた違う顔をするんだ、泉ちんのやつ。だから、おれもノロケ返しにお前たちの話するんだ」 創「に〜ちゃん…？」 創がなずなの顔を見つめた。 無垢で、透き通った穢れない瞳。 なずな「創ちん。おれ、創ちんも友ちんも光ちんも大好きだよ。本当に大好きで、大事なおれの可愛い弟。ってかむしろおれが泉ちんに嫉妬してる。おれがほめた時、創ちんそんなに喜んでくれてるかな〜って。だいぶ妬いてるんだけど？」 創「えっ！？そっそんな、いやあの瀬名先輩にほめられたのもすっごく嬉しいですけど、もちろんに〜ちゃんにほめられた時もすごく嬉しいですよ！？」 なずな「どっちが嬉しい？」 創「えぇっ！？えっと、えっと…ええっとぉ…」 創の顔がまたくしゃりと歪む。 そろそろやめてやるか、となずなはいたずらっぽく笑った。 なずな「うーそっ！創ちん絶対決められないだろ〜？に〜ちゃんは、わかってるぞ！創ちんは、ちゃーんとおれのこと好きでいてくれてるって！」 創「うっ、嘘なんですかぁ！？そ、そんな、ぼく、すっごく悩みました…」 なずな「あーもう！本当かわいいな〜？だからRa*bitsは最高なんらよ〜♪」 なずなはぎゅうっと創を抱きしめた。 創の腕が、少し申し訳なさげになずなを抱きしめ返す。 創「…あの、に〜ちゃん」 なずな「んー？」 創「大好きですっ」 なずなの顔が赤く染まる。 自分では何回も言っているのに、こうまっすぐ言われると照れてしまう。 見ると、創も耳まで真っ赤にして照れているようだ。 (可愛い可愛い、おれの後輩。おれの宝物だよ、3人とも) なずな「おれもだぞ！」 そう言って、もう一度創を抱きしめた。嬉しそうに笑う声が聞こえる。 (この子たちは、おれが絶対守るんだ。純粋な心が、いつまでも壊れないように) なずなは、この場所にはいないあと2人のメンバーの顔を思い浮かべる。 (今度、友ちんと光ちんにも、大好きだって言って抱きしめてあげよう。言葉にするって簡単なようで本当はすごく難しい。でもとても大切なこと。2人も、言ってくれるかな…？) なずなと創は、司探しを再開した。 しっかりと手をつないで。 [newpage] 忍「あ、会長殿。申し訳ないでござる」 戻ってきた英智に忍が駆け寄る。 この様子だと、もうほとんど恐怖心は薄れたようだ。忍者として頼りにされて、本当に嬉しかったのだろう。 英智「これくらい何てことないよ。はい毛布、かけてあげて。濡れタオルも。冷たいよ」 忍が言われた通りに濡れタオルを司の目に当て、毛布をかける。 司のわずかに開いた口から、小さく吐息が漏れた。 忍「…よいしょと。にしても、相当ショックだったんでござろうか。朱桜殿は、いつも冷静で大人びてて同い年とは思えないような御仁でござるよ」 英智「まあ、あのKnightsのメンバーだからねぇ」 忍「何だかすごく意外なんでござるよ。本当に、大好きなんでござろうな、先輩方が」 瞳の中が揺れている。自分の先輩のことを思い出しているのだろうか。 忍「さっき…Knightsのリーダーの月永殿が言っていたでござるな。言葉にしないから、こういうことになったって。拙者も、今度隊長殿たちに会ったら言いたいでござる。いつもありがとうって、大好きだって」 英智「…そうだね。きっと、千秋たち喜ぶと思うよ」 忍の頭をそっと撫でる。 忍「会長殿は…言わないのでござるか？」 英智「ううん。僕も言いたい。言わなきゃね、大好きだって」 忍と英智が微笑み合った時 レオ「あ、いたいた」 レオが現れ、英智たちの元へ早足で駆け寄ってくる。 英智「おや、早かったね」 レオ「場所的にそんな遠くなかったから。スオ〜は？」 英智「まだ寝てるよ。ただでさえ星夜祭の練習では渉と深海くんを相手にしている訳だし、それに加えてこれじゃあね…」 レオ「…そっか。ごめんなスオ〜。おれたち、お前のためだって言いながらお前のこと全然考えられてなかった。たまには休ませてやらなきゃいけないのにな」 レオの顔が苦しげに歪んだ。 司の髪を撫でる手も、心なしか震えているように見えた。 忍「…あの」 レオ「ん？」 普段なら人見知りを爆発させているだろう忍がレオに話しかけた。 忍「朱桜殿は…先輩方のことが大好きでござるよ」 レオ「…？」 忍「ジャッジメント以来は特に、会話の内容はKnightsのことばっかりでござる。厳しくても耐えられるのは、楽しいから。Knightsが、先輩方が大好きだからって」 両手を握りしめ、訴えるように。 忍「…そう、言ってたでござる」 レオ「…そっか。ありがと。スオ〜はこんなおれたちでも慕ってくれるんだな」 英智「…呼ぶ？」 レオ「うん。セナを呼んでくれ」 英智がスマートフォンで文字を打ち始める。 その間、レオはじっと司の寝顔を見つめていた。 ピロンピロン♪ 凛月のスマートフォンが鳴った。 凛月「あ。エッちゃんからなんかきたよ、一斉送信で」 泉「何て言ってんの。かさくん見つかったの？」 凛月「全員ガーデンテラス前に集合。泉だけ、中に入っておいで。静かにね、だって」 泉「はぁ！？なんで俺だけ？ってかかさくんは？」 凛月「さぁね。とりあえず行くよ。全速力で」 泉「わかったよもう！」 また泉と凛月が競争でもするかのように走り出す。 陸上部なのだから本気を出せばすぐ2人を追い抜かしてあっという間にガーデンテラスに到着できるであろう嵐は、あえて2人を追い抜かずにいた。 嵐「(大丈夫よね、絶対)」 凛月「うわっナッちゃんやっぱ速…」 やはり性に合わなかったのか、さっと2人を追い抜かす。 嵐「(こういう時くらい、全力で走らなくちゃね)」 泉「ちょっクソオカマ！」 嵐「遅いわよォ2人とも！オカマに負けてどうするの！？」 それからすぐに、嵐の姿は凛月と泉の視界から消えた。 [newpage] 英智「あ、きた」 やはり一番乗りは嵐である。 少し遅れて凛月と泉が息を切らしながら到着した。 泉「はあっはあっ…ちょっとぉ！なんで俺！？…って王さまじゃん。どうしたの、いつになく真面目な顔しちゃってさ」 レオ「…一応、おれはKnightsのリーダーだから」 泉「何を今更。かさくんは？」 レオ「…」 泉「なんで黙るの」 黙り込んだレオに、泉はあからさまに不機嫌になる。 そんな泉の後ろから、小さな声がかけられた。 創「あっあの瀬名先輩…！」 気づけば全員が揃っている。 何も知らない泉はぽかんとしながら、声の主に向き直った。 泉「ん？紫之くんじゃん。どうしたの」 創「あの…司くんは…頑張ってます」 泉「はぁ？何いきなり」 創「が、頑張ってるんです！大好きな先輩たちに追いつくために、上手くいかないことも叱られることもあるけど、それでも必死で頑張っ」 泉「知ってるよ」 創「…え」 儚げで焦りを感じさせる創の小さな声。 しかし、どれだけ小さかろうと、昨日泉を虜にしたその声が紡ぐ必死の言葉は、泉の耳にしっかりと届いていた。 泉「知らないわけないでしょぉ？…かさくんは俺の大事な…弟なんだから」 創「瀬名先輩…」 瀬名「ただ…」 凛月「ただ？」 泉の表情が曇る。 泉「…かさくん最近すごく伸びてるから…調子がいいんだって思って俺も厳しくしすぎた」 嵐「泉ちゃん…」 泉「…お兄ちゃん失格かな」 罪悪感と自分への怒りが収まらないのか、綺麗な顔を苦々しくしかめる。 爪が食い込むほど手を握りしめてうつむいた。 レオ「…セナ」 真「泉さん！」 重苦しい空気を大きな声が切り裂く。 先程別れたはずの真だった。 おまけに真が真自身の意思で自分のところに来るなんて。さすがの泉でも動揺は隠せない。 泉「えっ！？ゆうくん！？なんでここにいr」 真「泉さんの…ぶぁぁーーーかっ！！！！」 泉「ゆうくん！？」 真「簡単なことでしょっ！何らしくない顔しちゃってんの！？いつも僕に言うみたいに朱桜くんに言うこと言えばいいだけじゃん！」 真の言葉に、泉の中で何かがブチッと切れた音がした。 ちっ、と小さく舌を打つ。 泉の冷えた瞳が、真を射抜く。 その視線に、真だけは物怖じせず泉を睨み返す。 真の目に、すっと瞳を細めて、泉が笑う。 泉「なぁにぃ？ゆうくんのくせに生意気じゃない。何様なわけぇ？」 真「…泉さんだって何様だよ！いつもいつも！泉さんは本当に大事なことは言わないんだ！馬鹿じゃないのっ！？」 泉「さっきから馬鹿馬鹿うるさいなぁ…馬鹿って言う方が馬鹿なんだよぉゆうくん。そろそろ黙らないとそのクソ生意気な口縫い合わせちゃうよぉ？」 泉の瞳が更に真を冷たく睨みつけるが、真は少しも怯えを見せない。 耐えきれなくなったのか、嵐が凛月に助けを請うかのように囁いた。 嵐「(ちょっと凛月ちゃん！泉ちゃんかなりヤバいわよ…この笑顔はマジギレよ…！)」 凛月「(わかってるけどさぁ…)」 嵐「(もう！呑気ねぇ凛月ちゃん…どうするのよ！)」 凛月「(ナッちゃんは慌てすぎ。ちょっと見てなよ)」 真「できるもんならどうぞ！泉さんの大好きな僕の顔は無残なことになるからね！」 泉「ふぅん？言うようになったじゃん？ねえ」 真「…」 泉「ゆうくん？」 いきなり黙ってしまった真に、泉は拍子抜けする。 その場にいた者全てが、ぽかんと2人を見つめた。 真「…泉さんに、そんなしけた顔されても、みんな困るだけなんだよ」 泉「…ゆうく」 真「いつも清々しいくらい偉そうで、上から目線な泉さんじゃなきゃ」 泉「…」 真「…でも、たまにはその泉さんも休憩させなきゃ。周りの人も休憩させなきゃ。もちろん、朱桜くんも」 泉「…」 真「行ってらっしゃい。Knightsの…ううん、みんなのお兄ちゃん」 真が優しく微笑んだ。 泉が愛してやまない、あの綺麗な顔で。泉も切なげに、真に微笑む。 泉「…うん」 泉が中へ入って行き、彼の背中が見えなくなる。 彼の後ろ姿を黙って見つめていた真に、嵐がそっと声をかけた。 嵐「…真ちゃん？」 真「はぁぁぁぁぁ…怖かったっ…」 真は腰が抜けたようにへなへなとその場に座り込んだ。 相当怖かったのだろうか、少し涙が浮かんでいる。 なずな「まっ真ちん〜！」 忍「かっこよかったでござる！」 嵐「重ね重ねありがとうね真ちゃん。あなたのおかげよォ」 嵐の素直な感謝の言葉に、真は照れくさそうに、いつも通りのふにゃりとした笑顔を浮かべる。 真「ううん…ものすごい怖かったけど、僕もちょっとスッキリしちゃった」 忍「にしても、遊木殿があの人に対してそんな風に考えていたとは驚きでござるよ」 真「うーん…実際、モデル時代、あの人のおかげでこなせた仕事もあるからねぇ。尊敬はしてるんだ、泉さんのこと」 凛月「…へぇ」 真「…ぼ、僕ユニット練習あるから！もう行くね！じゃあ！」 忍「えっ遊木殿！？」 なずな「忍ちん」 忍「え…」 なずな「いーの」 なずなが忍を諭すように引き止める。 忍も意図を理解したのか、少し笑って走っていく真を見送った。 凛月「思ってることを言わないのは、あいつも同じようなもんだよねぇ…」 嵐「凛月ちゃん、それは言ってやらないの！」 英智「何はともあれ…いい方向に進みつつあるね」 渉「Amezing…♪この感動の瞬間に立ち会えたことそのものが幸せですねぇ！皆さんも声高らかに叫びましょう！Amezingと♪」 なずな「渉ちんのせいでその感動が薄れつつあるんら…」 奏汰「ぷかぷか…♪」 先程までとは違う、和やかな空気の中、ペンを走らせる音が響く。 その音にいち早く気づいた凛月が、音の持ち主に問うた。 凛月「王さま何やってんの？」 レオ「インスピレーションわいた」 嵐「王さまにしては随分静かな作曲ねえ」 凛月「…ねえ王さま、俺もセッちゃんとデュエットしたいなぁ」 嵐「あらっ！じゃあ私は司ちゃんとしたいわねェ、いいでしょ王さま？」 お願〜い、と強請る2人に、レオは明るく笑う。 レオ「いいぞ！でもまずスオ〜とセナの曲が先な！」 わいわいとレオの作曲を見守る中、なずなは驚きを隠せずにいた。 なずな「(Knightsは…変わったんだな。バラバラで個人主義で、利害の一致だけで組んでいる、そんな冷たい愛のないユニットから)」 レオ「そうだセナとリッツの曲はかっこいいラブソングがいい！ピアノとかバイオリンとか使って！」 凛月「いいねーそのピアノ俺がやる〜」 なずな「(あったかい、家族に)」 レオ「逆にナルとスオ〜はKnightsのイメージを一新する感じ…そうだちょっと可愛いっていうかウブな感じとかいいな！」 ナル「あら嬉しい！楽しみ！」 なずな「…(変わってきてるんだな。夢ノ咲も)」 なずなは沈みかけた夕日を見つめる。 (卒業する前に…俺も、何か変われるかな？) 夕日に染まって、なお赤く煌めく瞳を細める。視界に英智、渉、奏汰が映り彼らを見つめると、彼らもなずなを見て微笑む。 なずなには、その笑顔で彼らが自分と同じことを考えていたのがわかった。 (嬉しいな、こういうの) なずなもまた、彼らに微笑んだ。 [newpage] 泉「かさくーん。どこにいんのー。そろそろかくれんぼやめようよ？」 司の名を繰り返し呼びながら、泉はガーデンテラスを歩き回る。 さすが、天祥院家の寄付ありきの夢ノ咲、とでも言うべきか。一言で表すならとにかく巨大だ。 英智のお気に入りかつ紅茶部の活動場所というだけあって、特別豪勢な場所に思える。 花を愛する英智の趣味だろうか、楽園を具現化したかのように、美しい花が咲き乱れていた。 (そういえば、紫之くんが毎日お世話してるって言ってたなぁ) どの花も大切に育てられているのが一目でわかる。 その中でアメジストのような紫の花に目を奪われた。 小さな花でまだ蕾が目立つが、健気に一生懸命咲こうとしている。 指先でそっと触れると花は、綺麗でしょう？と泉に話しかけるように小さく揺れて。 その時、泉の目の裏に、花と同じ色の瞳を輝かせて笑う後輩の姿が映った。 (かさくんみたいな花だなぁ) 花を優しく撫でると、また見に来ようと決めて、再び歩き出した。 が。 (ったく、ここ広すぎ！どんだけ探しても見つからないじゃん！) 元々短気な泉のことだ。 この馬鹿でかい花園で1人で司を探そうなんざ、大試練に決まっている。 ああもう、と髪をかきあげたその時だった。 司「…」 泉「…」 花々に埋もれて、横たわる1人の少年の姿が見える。 (…うわぁ…) ふせられた長い睫毛。 艶やかな赤い髪。 ほんのり染まった頬と柔らかそうな唇。 手を丁寧に組み、暖かそうな毛布がかけられている。 (趣味悪ぅ…) 間違いなく司だったが、静かだ。 まるで本当に死んでいるかのよう。 王子様を待つお姫様のように。 ぴくりとも動かない。 泉「…えっ死んでるの！？かさくん！ちょ、起きてよぉ！」 全く動かない司に焦ったのか、泉は司の体を揺り動かす。 司「…すぅ」 泉「って寝てるだけかよ！！」 泉の顔が真っ赤になる。 大声を出したからだろうか、地味に息を切らし、司を睨みつけた。 泉「〜っ、花に埋もれてご丁寧に手まで組まされちゃってさ、眠り姫なの？王子を待つ姫かっての。絶対クソ皇帝の仕業だな…えいくんめ、どこまでも意地汚い割にガキなんだから」 司「…」 泉「俺がここまで1人でうるさくぶつくさ言っても起きないんだ…お疲れだねぇ」 泉は司のそばに腰を下ろし、司のためのお菓子を枕元に置いた。 司を守っていた花がかさりと音を立てる。 司「…」 眠ったままの司の頬を、泉の手がそっと撫でる。 長い睫毛を伏せ、小さく呟いた。 泉「…かさくん。ごめんね」 瀬名泉の懺悔が始まった。 [newpage] 司「…」 泉「…たまには、俺の話を聞いてよねぇ」 眠ったままの司を眺めながら、泉がぼそぼそと話し始めた。 泉「ねえかさくん。俺、言ってないだけで、ちゃんとかさくんのこと認めてるんだよ？」 司「…」 泉「俺、ちゃんと状況理解できてないからさ、何が何でこんな大事になってるんだかさっぱりなんだけどさぁ…」 司「…」 1人、話し続ける泉だが、司が目を覚ます様子はない。 かすかに聞こえる寝息だけが、彼が生きている証拠だった。 泉「星夜祭のメンツが勢揃いしてる辺り、俺が紫之くんの歌をベタぼめしたことでしょ？」 司「…」 泉「本当にうまかったよ。ちょっとナメてた。あの子をちゃんと素直にほめたのは、学年も部活もユニットも違うから、そうやって先輩として認める機会が他にないから」 泉はそっと、司の手を握る。 自分よりも一回り小さくて、すべすべしている。まだ骨ばっていなくて柔らかい白い手を、自分の手で包み込む。 温かかった。 泉「でもさ、俺バカだねぇ。かさくんはいつでもほめてあげられるのに、褒めなかったんだもん」 司「…」 泉「俺ね、かさくんに期待してる。Knightsがジャッジメントで勝てたのは、あんたのおかげ。そもそも今のKnightsがあるのはかさくんのおかげなんだよ」 泉がためらうように口をつぐむ。 Knightsの壮絶な過去を振り返っているのだろうか。 司はまだ目を覚まさない。 泉「いつからかなぁ。やっぱり五奇人と生徒会がドンパチやった頃かな。あの時からKnightsは狂い始めた、壊れた王さまを失って、強豪の肩書きさえ似合わなくなって。そんな落ちぶれたKnightsが手に入れた最後の希望が、かさくん、あんただったんだよぉ？」 優しい声色。 司が日々信じて待ち続けた、優しい笑顔がそこにある。 眠ったままなのが、本当に惜しい。 司「…」 泉「あの頃から、ちょっとずつKnightsは動き始めたんだ。俺も、くまくんもなるくんも、かさくんっていう希望の光にすがりついて、離したくないって思ったから」 司「…」 泉「必死にすがりついてるのはかさくんじゃない。むしろ…俺たちなんだよ」 鼻にかかった甘ったるい泉の声が、心なしか、わずかに震え始めた。 司「…」 泉「最初、なずにゃんが言ったんだよ。Knightsの1年は他の1年より実力があるから、泉ちん1人で平気だろって。あんたは他のユニットからも認められてるんだ。あの俺たちの存続を脅かした、ナイトキラーズのメンバー…Ra*bitsのリーダーにね」 司「…」 泉「でも、かさくんのためにならないって思ってねぇ。あえて二奇人に突っ込ませたんだ。かさくんはちょっと常識に凝り固まる所があるからさぁ、いい刺激かなって」 司「…」 泉「でも、今のかさくんに本当に必要だったのは、かさくんがほしかったのは、そんなことじゃなかったんだよねぇ…」 泉の手が司の髪を撫でる。 すぐ壊れてしまいそうなほど繊細な宝石に触れるように、遠慮がちに。 その手はやはり、少し震えていた。 司「…」 泉「かさくんはすごいよ。何がすごいって、人間に一番大切なものをちゃんと持ってる。俺は、持ってないからさぁ。何だと思う？」 もちろん、眠ったままの司が答えることはない。 泉は苦笑し、その答えを自分から司に述べた。 泉「素直さと優しさ、だよ」 司「…」 泉「ほら、俺には縁遠い言葉でしょぉ？…それはちゃんと強さになるのにね」 泉のふせられた睫毛の先に、小さな輝きが現れる。 泉は即座に指の先でそれを拭い去った。悲しそうな微笑み。 司「…」 泉「そんな俺でもできることがあると思ってた。卒業する前に、かさくんを一人前に育て上げるのが、俺の役目だって思ってた。嫌われてもいい。何があってもまた立ち上がる、ちょっとやそっとのことじゃ挫けない、強い子にね。でも、これを持ってない俺には、そんなことさえできないんだねぇ…傷つけることしかできない。俺こそ、Knightsのお荷物…捨て駒なんだよ」 捨て駒。 プライドが高くて、自信満々な彼が漏らした悲痛な本音。 今しがた、自らの指先で拭ったそれさえも誰かの前で見せることを許さない。 ほとんどの人が認知している瀬名泉ではない、弱さをさらけ出した人間がそこにいた。 司「…」 泉「今まで、かさくんのためって思ってやってきたつもりだったけど、全部俺の自己満だったねぇ…ごめんねぇ。本当…」 司「…ぐすっ…」 泉「ん？」 司「いい加減にしてください瀬名先輩」 泉「…あー…幻聴が聞こえる。帰って寝ようかな」 司「瀬名先輩！」 司が起き上がる。 泉を呼ぶも、彼は司の方を見ようとしない。 泉「ダメだ。俺、今度こそ終わりかも。死ぬのかも」 司「瀬名先輩！！」 泉「起きてたのかよ！いつから起きてたんだよ！」 司「最初からです！！」 泉「最初からかよ！寝たふりして聞いてるとか性格悪すぎなんだけどぉ！？」 司「瀬名先輩に言われたくありません！」 泉「何だとこのクソガk」 司「瀬名先輩は！！お荷物なんかじゃありません！！」 泉「っ」 司の言葉に、泉が黙り込む。 司「自己満足でもありません…」 泉「…」 司のアメジストの瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれ始めた。 胸に、泉が司のために買ったお菓子を抱きしめて。 司「私が愚かでした。瀬名先輩が、sadistで口が悪くて暴言しか出てこなくて、素直じゃなくて、意地悪で、性格も悪くて…」 泉「…」 司「おまけに遊木先輩を常にstalkingしていて、蛇のようにしつこくてタチの悪い人で…」 泉「ちょっとぉ！？」 司「それでいて！誰よりも優しい人だってわかってたのに…！」 泉「…」 司「認めてくれていると信じていました。先輩が本当にたまに見せてくれる笑顔が」 司がしゃくりあげる。 近寄ろうと足をあげかけた泉だが、それをためらった。 これ以上、傷つけるわけにはいかない。 泉「…」 そんな泉にはお構いなしに、司が続けた。綺麗な顔を、溢れる涙でぐしゃぐしゃにして。 司「本当の兄のように…優しかったから…」 泉「かさくん…」 司「たまにはほめてほしい、そう思いつつも、それが瀬名先輩だと割り切って…けれど、瀬名先輩に創くんが驚くほどほめられたと聞いて、悔しかったんです…私は、ほめられたことなんてほとんどないのに」 司がその場に膝をついた。 涙はさらに流れ続ける。 泉の足が、無意識に司の元へ歩み寄っていった。一歩一歩、少しずつ。 司「ただの子供の嫉妬です。笑ってください。でも、大好きで、心から慕う兄を一瞬にして取られた気分でした。同時に、Knightsに居場所が無くなったように思えて…悲しかったんです、怖かったんです、帰る場所を、Knightsを、家族を失いたくなかったんです…」 司のそばまで来て、泉もそこで膝をつき、司の顔を覗き込む。 司が泉のブレザーを力なく掴んだ。 司「でも、それは私の思い違いで…」 泉「…」 司「瀬名先輩は、私を認めてくださっていた、私をKnightsのメンバーとして、あなたの弟として、ちゃんと認めてくださっていたのに…こんなことで友人に嫉妬して、泣き喚いて…恥ずかしくて合わせる顔もありません」 合わせる顔もない、その言葉通りに司がうつむいた。 泉「…」 司「私は…未熟です。先輩方の足元にも遠く及ばない。まだ、誰かを必要としなければ生き延びていけない雛鳥なのです。だから…」 泉「…」 司「私を先輩方のそばにおいてください。私だって、まだ先輩方を失うわけにはいかないんです！お願いします…！」 司が必死に泉に訴えた。 止まる気配を見せない涙。 ブレザーを掴む手に力が入る。 泉「ねえかさく」 司「私を…！捨てないでください…」 泉「…」 司「…leaderも…鳴上先輩も…凛月先輩も…瀬名先輩も…私にとって必要不可欠なんです！Knightsは私の…大切な居場所なんです…」 司の声は、だんだんと小さくなっていった。 ひっく、ひっくと小刻みに震える細い背中、小さな体。 泉「…かさくん」 司「…」 泉「ほんっと…馬鹿だねぇ」 泉がそっと、司を抱きしめる。 その顔はとても穏やかで、優しく司の髪を撫で、小さな子供をあやすように背中をとんとんと叩く。 その手はもう震えてはいなかった。 司「…え」 泉「こんなところに置いてきぼりにしたら、他の奴らの迷惑になるでしょぉ？どこまでも手がかかるねぇ、チョ〜うざぁい…♪」 司「瀬名先輩…」 泉「ほらぁ、いつまで泣いてるわけぇ？せっかくの顔が台無しだよぉ？俺の弟なんだから、いつでも綺麗な顔でいてよねぇ」 泉の細く長い指が、司の目元をくいっと拭う。 司「あ、あの」 泉「なに」 司「今…なんて？」 おそるおそる問いかけた司に、泉はニヤァ…と笑って言った。 泉「今のかさくんの顔、チョ〜ブッサイク」 司「そんなこと言ってませんでした！」 泉「だって本当にブスだよぉ見る？」 司「くぁぁっ結構です！」 泉「ほらほら怒らないの。もっとブスになるよ」 司「〜〜っ💢」 泉「ははっ、ほっぺまん丸。雪見だいふくみたい」 司の膨らんだ頬を泉が指先でちょん、とつつくと、ぷすー、と小さな音を立てて頬がしぼんだ。 司「…💢」 いじけ始めた司に、泉はさも今思い出したかのような口ぶりで呟いた。 泉「あー…そうだ。この前仕事の打ち合わせで使ったカフェのケーキ、すごい美味しかったんだよねぇ」 司「！」 一瞬で目を輝かせた司に、泉も嬉しそうに笑う。 泉「食べに行こうか。好きなだけ食べさせてあげる。お兄ちゃんが奢ってあげるよぉ」 司「えっ」 泉「…何その珍しそうな顔」 司「瀬名先輩が奢ってくださるだけでなく甘い物を自ら口にしようだなんて信じられなくて」 泉「そこかよ」 司「だ、だって」 泉「今日は弟を甘やかしてあげたい気分なの。その代わり、今度からみっっちりやるけどねぇ。どうする、行くの？」 ぱぁぁっと司の顔に笑顔が戻る。 よく言えば素直。悪く言えば現金。 司「行きます！行きたいです！」 そんな可愛い後輩の喜ぶ顔は、泉にとっても、非常に心地よいものだった。 泉「頑張れるぅ？」 司「もちろんです！」 泉「よし。じゃあさっさと行くよぉ。もう日が暮れちゃうからねぇ」 その時だった。 凛月「…セッちゃ〜ん♪」 後ろから聞こえる、ねっとりとした声。普段はファンを魅了している砂糖菓子のような吸血鬼の甘い声は、今の泉には悪魔の声にしか聞こえなかった。 泉「あー…なんか嫌な予感」 嵐「泉ちゃん♪アタシたちもそのケーキ食べたいわねェ♪」 ぞろぞろと出てきたのは、凛月、嵐、レオの3人だった。 泉「あんたらに奢る筋合いはないんだけどぉ…？」 凛月「何言っちゃってんの？誰のせいでこんなことになったと思ってんのかなぁ？」 泉「うっ…」 凛月が泉の痛いところを的確に突く。 レオ「セナ！その店モンブランある！？」 泉「…あるけどさぁ…」 レオ「ヤッフゥ⤴︎⤴︎」 泉「ちょっとぉ！？」 嵐「泉ちゃん泉ちゃん！アタシ、ティラミスが食べたいわァ♪」 凛月「俺、フレジェがいいー♪」 3人は完全に奢ってもらうモードだ。 泉は深くため息をつく。 泉「ハァ…わかったよ、もう。今日だけね」 3人「やった〜♪」 泉「ちっ…ったく…ちょっとかさくん。何笑い堪えてんの。やめてくれるぅ？」 司「だ、だって…ププッ…」 耐えきれない、といったように吹き出した司に、泉が冷たい眼差しを向ける。 泉「ふぅん？生意気な。そういうクソガキにはケーキ奢ってやんなぁい」 司「えぇっ！？そ、そんなぁ…」 レオ「スオ〜ガチ凹みだ！ウケる！」 司「leader！💢」 嵐「はいはい司ちゃん怒らないの。さっき泉ちゃんにも怒ったらブスになるって言われたでしょ？」 司の顔が、え？とでも言いたげに嵐を見つめる。 泉「ちょっと待てクソオカマ。なんでそれ言ったこと知ってんの」 泉「あらヤダ」 凛月「も〜ナッちゃ〜ん」 レオ「言うなよな〜最初から聞いてたこと隠すって約束だったろ〜？」 泉「隠す気さらさらなかったでしょ💢チョ〜うざぁい💢」 凛月「まあまあセッちゃん」 泉「うるさいくまくん！くまくんも盗み聞きしてたくせに！」 凛月「してたけどさぁ…まあ結果オーライじゃん？」 泉「まあ…」 凛月「でしょ？」 凛月に見事に言いくるめられる。 こういう部分は凛月には敵わない、わかってはいるものの、泉は何だかもやもやした気分だった。 司「…cake…」 司が涙目になっている。 レオが司の背中をバンバンと叩いた。 レオ「おいまだ落ち込んでんのかスオ〜？あんなんセナの冗談に決まってるだろ〜？」 司「冗談！？」 嵐「司ちゃんガチだと思ってたのね…」 凛月「ス〜ちゃんらしいって言ったら、らしいけどねぇ」 司「…もう私をおもちゃにするのはやめてくださると助かります…」 4人「無理」 司「即答ですか…」 凛月「いーじゃん。ス〜ちゃんは俺たちの可愛い弟なんだからさぁ♪」 凛月が司を後ろから抱きしめて、司に頬ずりし始める。 凛月の紅の瞳が、今の司にはいつもより優しく見えた。 司「…凛月先輩」 嵐「そうよォ♪存分に可愛がってあげなくちゃ意味ないわァ♪」 嵐が司を凛月ごと抱きしめた。 普段から司には甘い嵐だが、今日は甘いというよりは、とても温かみを感じさせる。 司「鳴上先輩…」 レオ「そうだぞスオ〜！今日はいっぱい甘えさせてやるからな！ほら！さっきできたお前とセナのデュエット曲！星夜祭終わったら練習始めるから持っとけ！！」 レオが司の手にできたばかりの楽譜を押し付ける。 瀬名先輩とのデュエット曲。 司は、自分でも驚くほど、その言葉に心を躍らせた。 司「leader…」 泉「…ほら、司」 司「えっ」 いつも《かさくん》と自分の名前をもじって呼んでくる泉が、自分を正しい名前《司》と呼んでいる。 きょとんとしている司の頭を、泉は少し乱暴にわしゃわしゃと撫でた。 泉「…いつもの呼び名には不満そうだからねぇ。今日限定で司って呼んであげる」 凛月「じゃあ俺も〜司〜大好きだよ〜♪」 凛月が便乗し、おまけに照れるような言葉も添えて、更に司をぎゅうぅっと抱きしめる。 少し苦しいし、普段なら抵抗しているところだが、今日の司には、それが嬉しくてたまらなかった。 嵐「アタシいつもちゃん付けてるだけだけど…まあ今日はいいわ、司♪大好きよ♪」 レオ「なんだ！？面白いな！俺もやる！司ー！愛してるぞー！」 嵐や、なかなか新入り！から抜け出させてくれなかったレオまでもが《司》と呼んで、自分を好きだと言ってくれる。 こんなにも愛されていたのに、それに気付けなかった自分が恥ずかしい。 自分の名前を呼ばれることに、ここまで幸せな気持ちを覚えたことはないし、自分の名前をここまで愛せたこともなかった。 司「…」 泉「ちょっとぉ、呼んでるのに無視？」 司「えっ？はい！」 泉「ダメ。やり直し」 司「ええぇ！？」 返事はしたはずなのに、何がダメなのだろうか、司の頭にハテナマークが飛び交う。 泉「俺らは司の何なんだっけぇ？」 司「えっいや」 泉「ほらぁ、突っ立ってないで行くよぉ、司」 司「…」 泉「司ぁ？」 泉の意図が読めた。 なんだ。瀬名先輩も私と同じなのですね。 私が先輩方に、瀬名先輩に、弟だと思ってもらいたかったように。 あなたも。同じだったのですね。 司「…はい！お兄さま！」 少し先に歩き始めた、4人の兄の元へ。 またひとつ成長した末っ子は、走り出す。 少しずつでいい。 (少しずつ、けれど確実に、追いつけるように頑張りますから。見守っていてくださいね、お兄さま) 司のためにあけられた、真ん中のスペースに飛び込み、5人並んで歩く。 そこで司が兄たちに伝えたのは、やはりあの言葉だった。 「私も大好きですよ、お兄さま」 [newpage] …俺もだよぉ、かさくん。 fin.

ヒィィィあんなド素人丸出しのでしょっぱなから捏造甚だしい作品を、たくさんの方に読んでいただいたり、いっぱいブクマしていただいたり…本当に恐れ多い限りです…<br />そしてすごく幸せです…<br />本当に本当にありがとうございます！<br /><br />しかも…<br />小説ルーキーランキングで、2月22日〜28日付で14位、23日〜29日付で13位をいただきました！<br />あれもこれも全部皆様のおかげでございます！！嬉しいです！！<br /><br />なんだかとっても楽しくなってきちゃったので…(調子に乗ってるの間違い)また思いついては書いて投稿していこうかな？って考えてます。<br />何かを書くのはやっぱり好きなので…<br />その時は、またお付き合いいただければ幸いです。<br />あ〜…ヒマ…っていう時の暇つぶしにでも！暇つぶしになれるかもわかりませんが！どうぞよろしくお願い致します。<br /><br />さて、後編になりますが…<br /><br />司はいったいどこへ行ってしまったのか…ヒントは…そうですね、泉だったら間違いなくハァ！？ってなると思…いや、誰でもなりますね、ごめんなさいヒントになりませんでした。<br /><br />クライマックス？的なシーンは、私もすごくお気に入りで、書いてて楽しかったです。<br /><br />Knightsって最高ですね…<br />なんていうかもう…家族って素敵。<br />ありがとうあんさんぶるスターズ！…<br />ありがとう読者の皆様…<br /><br />作者の雑談はここまでにして…では、最後までお楽しみいただければと思います。<br />行ってらっしゃい！(某夢の国風)<br /><br />そして次の作品の参考にしたいなぁ…と思いアンケートを設置させていただきましたところ、3月6日現在、たくさんの投票をいただきました、ありがとうございます！<br />司受けがやっぱり強い、強い…。<br />その次に、これの続きが票を多くいただいております。<br />という訳なので、次はこの物語の続きとして、いずつか要素をもーちょい強くしたほんわりなストーリーを書こうかな〜と。<br />同じシリーズにくっつけますので、お時間のある方やご興味を持っていただけた方は、ぜひ…。<br /><br />ごめんなさいたぶんまだR18は書けないです…表現の知識が皆無すぎる…。<br /><br />投票やご意見などはまだまだ募集しておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。<br /><br />もし、これじゃなくてさー？っていうご要望がありましたら、遠慮なくコメントいただければ頑張ります！<br /><br />では、今度こそ本当に…<br />行ってらっしゃい！！<br /><br /><span style="color:#f97ff8;">追記。<br />あらし姉、お誕生日おめでとう！<br />2016.03.03.Thu</span>

お兄さま、たまには私をほめてください 2

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これは盲目の剣客とその剣客に魅入られた若い農民の奇譚である。 隣町へ行くために山道を歩くチョロ松の目の前にはチンピラが三人いる。 　チンピラはそれぞれ武器を持っていた。刀である。それも血糊がついたまま手入れされずに錆びた刀。 いつも美しい刃を見ているからチョロ松の目は肥えている。 一目見てわかった。この男たちの実力を。 「よう、兄ちゃん。命がほしけりゃ、有り金全部だしな」 チンピラたちは自分たちの勝利を確信している。命という言葉を使えば言うことを聞くと思い込んでいるのであろう。 既に抜刀しているあたりで金を渡した後でチョロ松に斬りかかろうとする魂胆なのだろう。チョロ松は推測する。 それに金を多く持っている風情に見えるのだろうか。 笠をかぶり、緑色の着物を着込み紺色の袴をはいている。草履はボロくなったため、買い直されたばかりだ。 緑色の着物はアイツが買った上等なものだ。これは商人や大名ではなければ買える代物ではない。アイツはそんなもんじゃないけれど。 金を持っているように見えるな。うん。 チョロ松は冷静になる。 「俺は金なんて持ってないのでお引き取りください」 本当のことだ。農家である自分に金はない。あるとするならばアイツの方だ。 チンピラはチョロ松の答えに顔をしかめる。すると残りの二人がチョロ松を押さえ込んだ。 触るな。気持ち悪い。 叫びたかったがそろそろアイツが来るはずだから黙っていよう。 チョロ松は耐えた。 「へぇ…兄ちゃん…金がなきゃ、身体で払ってもらおうか…」 「顔はキッツい顔してるが、いい身体してるぜ…吸い付くような白い肌…」 やはり自分は男受けする身体をしているらしい。 異性の方が好みであるチョロ松には心外だった。 チンピラの手が分け目の中に入ってくる。 汚い手。鳥肌が立つ。吐きそうだ。 チンピラたちの鼻息が荒い。チョロ松の身体に興奮していた。 「金がないんじゃあしょうがねぇなぁ…。兄ちゃんの身体、堪能」 させてもらう。 そう言おうとしたのだろうが叶わなかった。 背後に男がいた。チンピラの左胸に刃が貫通している。二人のチンピラはチョロ松の身体に夢中で気づいていなかった。 ある男の存在を。 「おせぇよ、馬鹿」 文句を言ってやると男は口角を上げる。両目を閉じている男はそのままチンピラの左胸から刃をゆっくり抜く。血飛沫がチョロ松とチンピラ二人に飛び散った。 　ああ、また着物を買い直さなければ。 　緑の着物に血飛沫が飛んだ。一見、模様のようにも見える。だが鉄の匂いがチョロ松の鼻について気分が悪い。 「て、てめぇっ!」 チンピラが一人、両手で刀を振り上げて男に飛びかかる。男は右手で刀を握り直し、左手で鞘を持ったままチョロ松を抱き寄せ、下から上へ男の身体を斬り上げた。 最後に残ったチンピラは腰を抜かし、失禁していた。仲間だった者が屍になっているのを目の当たりにして涙と鼻水を垂らしながら奥歯をガタガタ震えさせている。 それを見たチョロ松は戦意喪失していると判断した。 「もう行こうよ」 「お前が言うのなら」 チョロ松を抱き締めたまま、刀をゆっくりと上から下へ鞘に収める。 鞘に収めるとそれは一見杖に見えた。いわゆる仕込み刀である。 男が刀を収めるとチョロ松は離れた。二人はチンピラを放置し、そのまま歩き出す。 「あぁ…ごめん。せっかく買ってくれたのに」 「ん?」 「血飛沫で汚れた…てか、お前のせいじゃん。だから安物でいいって毎回言ってるのに」 「美しいものを着飾るには金がいるからな」 「目が見えてないのによくそんなこと言えるね。ブスってよく言われるよ」 そんな会話をしながら歩く。 二人の後ろ姿を見ていたチンピラは刀を持ち、立ち上がる。 「ふざけやがって」 そのまま走り出し、チョロ松目掛けて刀を降り下ろす。 チョロ松が振り向く前にチンピラは息絶えた。 胸に血を滲ませて倒れこむ。 一度収めた刀を再び抜き、振り向きもせずに自分の左脇の間からチンピラの胸を刺した。 すぐに刀を抜きゆっくりと鞘に収める。 無駄がない動き。綺麗だ。 チョロ松は毎回感心する。 「さぁ、山を抜けたら宿を取ろうか」 「その前に川探ささなきゃ。水浴びしたいし、着物も洗いたい」 チョロ松は腰を抱き寄せられる。男はダメだ、という。拒否されてきょとんとしてしまった。 「どうして?」 「早くお前を抱きたい」 率直に言われてしまい、頬を赤らめる。 この男、盲目の剣客カラ松は変わっていた。 かつて自分の村をヤクザたちに占領され金を巻き上げられる日々を過ごしていた。しかし、突如現れたカラ松一人の力でヤクザたちを皆殺しにした。根絶やしにしたのだ。 礼がしたいという村の人々を無視し、カラ松は農民であるチョロ松を欲した。 報酬はお前だ。 これが礼だ、とカラ松が言う。戸惑う村人たち。 なぜ自分なんだろうと考えた。村を助けるきっかけを作ったのはチョロ松だ。ヤクザの幹部に強姦されそうになったところをカラ松に助けられた。 事情を説明すると、カラ松はすぐさまヤクザ達のアジトへ向かい彼らを抹殺する。 盲目なのにも関わらずまるで見えいているのではないかと思うくらい精密で無駄のない剣捌き。怪我一つしないで何十人ものヤクザたちを切り刻んでいく。彼らの血でカラ松の身体は血まみれだ。 その時、チョロ松は共に行動しており、屋敷の影でその姿をずっと見ていた。その姿にチョロ松は不覚にも魅入ってしまう。信じたくなかった。その時、ヤクザ達を斬り殺していくカラ松の姿を見て勃起していた自分に。 　すべてが終わりカラ松の傍に行くと返り血塗れの姿のまま、カラ松に抱きしめられる。手探りで頬を撫でられ、下半身を密着し、舌を絡め長い時間接吻を強いられた。 　異性が好きなのに男の口づけで感じている。チョロ松は認めたくなかった。　 　この男は同性が好きなのだ。 　でも自分は異性が好きだ。借金の為に色町へ売られていったレイカのことをまだ想っている。 　これ以上、この男と傍にいたら壊れてしまう。チョロ松はカラ松を突き飛ばし逃げて行った。 　なのにカラ松はチョロ松を欲したのだ。 性欲処理のために使われるのかとチョロ松は思っていた。チョロ松はあまり気乗りがしなかったが村を救った者の願いを無視はできない。条件を飲んだ。 実際は、頭の天辺から足の爪先まで愛でられたのだ。 優しい愛撫、接吻、時間をかけてゆっくりと快楽の海に沈められ初な身体はどろどろに溶けるまで愛された。 初めてなのに挿入されてすぐに達してしまったことは未だに思い出しても恥ずかしい。 抱かれる度に同じように愛でられると思えば、時には酷く乱暴に、時には朝まで挿入されずに焦らされ続けたこともある。 　どんどん開発させられていく。この男好みの身体となっていく。 目が見えていないのに、とチョロ松はいつも思う。 「やはりお前の隣で歩かせてはくれないか。一人になればすぐに目をつけられる」 「悪かったな…弱そうで…」 足が速いだけで喧嘩が弱いチョロ松。逃げるのは得意だ。 でもカラ松が助けてくれることをわかっているから逃げる必要がなくなった。 どんどん離れがたくなってくる。いつかカラ松が自分に飽いたら、と考えると心が痛んだ。 そのときまではどうかそばにいさせて欲しい。 さぁ、町はすぐそこだ。 【おわり】 [newpage] 【町にて】 　「てぇへんだ！てぇへんだ！てぇへんだ！」 　岡っ引きであるチビ太はある男を探すため、町を走り回っていた。 　蕎麦屋を通るとようやく目的の人物に会うことができた。仕事中なのにも関わらず呑気に蕎麦を啜っている。啜った後で「美味しいよぉ」と看板娘である女に話しかけデレデレ状態だ。 　「てやんでぃ！バーロー！ちくしょう！」 　「んだよ、チビ太」 　「あら、チビ太じゃないの」 　「トト子ちゃん！って、おい！おそ松！仕事サボってんじゃねぇぞ！」 　チビ太もトト子の顔を見て顔を緩ませるがすぐにおそ松を睨みつける。おそ松の方は相変わらず蕎麦を啜っていた。 　「だってなんもねぇんだもん。いいじゃん、平和が一番で」 　それに働きたくねぇし。 　チビ太はおそ松の呑気さに腹を立てるが頭を切り替える。仮にも自分の上司である。 　同心であるおそ松は岡っ引きに指示を与える役割を持っている。しかし、基本的に働きたくないスタンスであるおそ松はあまりその役割をしていない。 　「また人斬りだぜ」 　「ふぅん」 　「多分丹伊賭組を壊滅させた奴の仕業だ」 　「でもそいつは善良な農民や町民を襲わないんだろ。悪行ばっか働いてる奴らばかりを狙う。いい奴じゃん。俺らの仕事も減るしいいこと尽くめ」 　麺を食べ終え椀を持つ。汁まで美味しい。流石はトト子ちゃん家の魚で作った鰹節。おそ松は感心する。 　「でも上は納得してねぇみたいだぜ」 　「言わせとけばいいじゃん。まぁ、俺には関係ないけどね。トト子ちゃんご馳走様。今度デートしようね！」 　「えぇ？じゃあ、奢ってね」 　「うんうん！」 　呑気なもんだぜ。 　女にデレデレな上司を見てチビ太は呆れてしまう。しかし、このおそ松の本質と実力を知っているチビ太は彼を無下にはできなかった。 　蕎麦屋を出て、おそ松は歩き出す。勿論、仕事をする気はない。商人であるイヤミでもからかいに行くか、どんなことをしようかとおそ松は脳内で作戦を練る。 　町は賑やかだ。人もたくさんおり、よくぶつかることもあるのだ。 　「いてっ」 　案の定、ぶつかってしまう。ぶつかった相手は手に持っているものを地面に落としてしまう。杖だ。隣にいた青年が代わりに拾い上げた。 　「すみません。この人、目が見えなくて」 　自分はぶつかっていないのに代わりに謝る。おそ松は気にしていないという意味で手を振った。ぶつかった男を見ると両目を閉じている。確かに盲目なのだろう。 　でも、違う。ただの盲目の浪人ではない。 　「すまなかった。怪我はないか？」 　「大丈夫大丈夫。人がいっぱいいるから気を付けろよ」 　「ありがとう」 　男の肩を叩くおそ松。青年は頭を下げて男に着いて行く。笠で前を隠していたように見えた。気のせいだろうか。 　二人の後ろ姿を見送るおそ松。 　あの杖、仕込み刀か。 　この仕事をしていると鼻が敏感になるらしい。 　あの二人から微かに血の匂いがする。 　――また人斬りだぜ 　――多分丹伊賭組を壊滅させた奴の仕業だ 　チビ太の言葉を思い出す。 　「よう、一松」 　「なに？」 　「さっきの二人、ちぃっと探ってきてくれね？」 　「いいけど……、それ、人にものを頼む態度？」 　「お願いします。一松様。どうかこの哀れでクズな雄豚野郎を助けてください」 　「ヒヒッ、りょーかい」 　町民に変装し常におそ松の近くにいた忍、一松は一瞬で姿を消した。あまりに速すぎて町民には気づかれていない。 　「さぁて、どうしたもんかな」 　おそ松は、顔のにやけが直らない。 　久々に楽しいことが始まりそうだからだ。 　さぁ、どうなる。 【終わり】 　

いつも評価、ブクマ等々ありがとうございます。励みにしております。カラチョロ騎●位の日に勢いであげたものですが、全然関係ないです。時代劇おそ松さんの風来坊の元ネタということでパロディを書いてしまいました。ですが未視聴のため、Wiki先生のあらすじを見たり、つべさんで殺陣シーンを見たりとしただけです。なので作中は流血シーンありです。六つ子にタップダンスしてほしいです。では、楽しんでいただけたら幸いです。<br />すみません。いつも続きを待機していただきとても光栄で恐れ多いですが、なかなか話を作ることが下手くそな人間のため、続きが書けないのです（致命傷である）。脳味噌の中で出来てはいるのですが、形に出来ないことがもどかしいです。

座.頭.市なカラチョロ（時代劇BL松）

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周囲を見渡しても真っ白で何もない空間の中で、明里は立ち尽くしていた。 　何時から此処にいたのかはわからないが、自分にも何故此処にいるのかもわからない。その中で何度も何度も振り返り、見渡す。 「どこなんだろここ……いつからここにいたんだっけ……？」 　このまま止まっていても埒があかないと思い、明里は一歩前に踏み出す。 　その時、踏み出した右足が着いた場所から足下が薄氷のように崩れていく。 「きゃっ！ 何……！？」 　崩れた足場は底の見えない深淵のような深い穴となる。 　崩れる範囲は徐々に拡がっていき、下がって行く余裕も無くなっていく。 　ついには足を揃えなければ立っていられない程の小ささにまで崩れた。 「何これ……なんなの……？」 　いつ足下が崩れ落ちるかわからない恐怖の中、明里は下を見るよりも上を見た方が恐怖が和らぐと思い、頭を上に向ける。 　すると、天から二本の腕が伸びていくのが見える。明里にはその二本の腕には覚えがあった。 「お母さん……お父さん……！」 　足下への恐怖を省みず、勇気を振り絞って、天からの腕に手を伸ばす。もう少しで届くところだったその時、最後の足場が崩れさり、明里共々落下していく。 「やだ……だめ……いや……！！」 　明里は勢い良くソファーから飛び起きた。息を切らせ、掛け布団の端を力強く握り締めて、急角度のジェットコースターから降りる直前のような状態になっていた。 　起き上がった勢いで、明里の寝顔を覗きに来たクランの顔に額が命中し、顔を手で覆いながら痛みで床を転げ回る。 「はぁ……はぁ……ゆ、夢……？」 「ごぉぉぉ……痛ったい！！ 何するんだ明里くん！」 「あ、えっと……なんだかごめんなさい。」 「オハヨウゴザイマス、明里サン。」 　お盆の上に器に入った卵粥を乗せて、明里の目の前までやってくるエステル。スプーンで一杯掬い、明里の口元まで持っていく。 「スグニ食ベマスカ？」 「えっと……それじゃあちょっと……うっ、いたた……」 　スプーンに口を持っていこうとしたその時、胸元に痛みが走る。フラッシュのような一瞬の痛みの後に、じわじわとのしかかるような痛みがやってきた。 「あまり無理するなよ。僅かにだが、骨にヒビが入っていたんだからな。卵粥はテーブルの上に置いておいてくれ。」 「カシコマリマシタ。オ大事ニ明里サン。」 　手元のお盆を言われた通りにテーブルに置き、一礼をしてその場から去っていく。 「さてと、先日はご苦労だったな。何の力もない一般人がモンスター退治なんて、世が世ならスクープ物だぞ？」 「いえ……こんな事態のために乾燥剤を用意してくれてたクランさんのおかげですよ。……あれ？ でも先日って？」 「ああそういえばそうか、明里君はざっと３日間程気を失っていたんだ。」 「３日間も……？」 　3日間という言葉の実感が出てこず、研究所の室内をボーっと見回す。 「そうだ、あの電話の後でエステルにクラリスと一緒に運んで貰ったんだ。それで念のためレントゲンとか撮ったら、さっき言ってたような状態だった……というわけだ。」 　ソファーの後ろに腰を預け、アイスココアを飲みつつ明里が気を失っている間の話を明かしていく。 「そうだったんですか……クラリスさんは大丈夫なんですか！？」 「もちろんだ。内部回路がイカれたところも多かったが、今は問題ない。ちょっと起動までにはもう少しかかるがな。」 「いやー、明里っちが倒れたって聞いた時はホントどうなることかと思ったッスよ……」 「あはは……って、ええっ！？ な、なんでここに……？？」 　部屋を見回した時にはいなかった孝太郎の声が背後から聞こえてくる。幻聴かとも考えたが、すぐに孝太郎本人の姿が視界の中に入ってきた。 「やっぱ綺麗な最新のトイレっていいッスねー。」 「そうだろう？ 話がわかるじゃないか。」 　明里をそっちのけでトイレ話で盛り上がる二人。知り合うことはないだろうと思っていた二人の人物が目の前で会話をしている様子に、これもまた夢なのではと疑わざるを得なかった。 「ああ、こいつとはつい昨日知り合ってな。クラリスの記憶から存在を知って、短時間の看病を頼むためにエステルに連れてきてもらったんだ。」 「尖った耳の子に無理矢理連れ去られた時はホントどうなることかと思ったッスよ～！」 　半ば拉致のような状況を笑い話のように語る。 　孝太郎は息を大きく吐いて、改まったように声を出してクランの顔を見る。 「よし！ 明里っちの目も覚めたことだし、俺はそろそろ行きますわ。約束は守ってくれるッスよね？」 「ああもちろんだとも。協力してくれてありがとう孝太郎くん。ちょっとの間エステルをよろしくな。」 　クランの言葉に応えるように後ろ向きのまま手を上げ、孝太郎はそのまま研究所の外へと向かう。 「あの、エステルさんがどうかしたんですか？」 「ああ、明里くんを看病する代わりにエステルを借りたいそうだ。なんでも、今いる店の地下を掘ってスペースを作りたいらしい。」 「へぇ……でも、なんで掘る力を持ってることを知ってるんですか？」 「私が話したからな。」 「ああ……。」 　話に一区切りがついたところで、身体を再びソファーに預けて掛け布団を肩までかける。溜め息をつき、スライムと戦った時の事を思い出しながら死ななかったことに感謝して肩の力を抜く。 「まあ、しばらくはこっちでゆっくりしていきなよ。いずれにせよ、すぐには家には戻れないんだし。」 「はい、そうさせてもらいます……。あと、クランさん、少し相談があるんですが……？」 「ん、どうした？ 私がなんとかできる範囲で聞こう。」 　緊張した面持ちで唾を飲み込み、強い眼差し向けて、一拍置いたところで話を続ける。 「私……ちゃんとモンスターと戦える力が欲しいです！ 今のままじゃ私はクラリスさんの足手まといになってしまいます……だから！」 「ふふん、そう言うと思ったよ。」 　明里の言葉を途中で遮り、これでもかという程のドヤ顔でクラン側から話を進めていく。 　予想外の割り込みに、緊張した顔と手が少しだけ緩む。 「明里くんとの電話で、USBの中には明里くんに必要な物が入っていると言ったのは覚えてるかな？」 「はい、言ってましたけど……それがどうかしたんですか？」 「あの中には武器の設計図も入っている。身体が治ったら確かめてみるといい。」 　クランからの返答に、屈託のない満面の笑顔を見せる明里。自分が今うまく動けないことへの悔しさよりも、動けるようになった後の期待と嬉しさが今上回った。 「PCは明里くんの家から持ってきておいたからな。ついでに今まで分解してきた部品や道具とかその他諸々もあるから安心したまえ。」 「はい！ ……あれ？ どうしてこっちに持ってきたんですか？」 「あんな荒れ放題の家にこのまま住み続けるわけにはいかないだろう？ ちなみに、君の家は今スライムの巣になっているぞ。」 「…………えええええええええええ！！？？」 　明里は大声を出した後に、胸の痛みと共に咳き込んだ。 　 　[newpage]　 　明里が目覚めてから数日後の朝、動いてもほとんど気にならない程度に胸の痛みが引いてきた。身体に自由が利くようになり始めたことを感じ、大きく背伸びをする。 「う……うーーーん……ふぅっ！ やっぱり動けるっていいですね！」 「おっ、おはよう明里くん。 ついに復活か！」 「まだ痛みは残っていますけどね……でも、このくらいならもう動けますよ！」 　胸に手を当てて、以前よりも意思の強さが増した眼差しでクランを見つめる。 「そりゃいいことだ。それじゃあ快気祝いとして朝飯としようじゃないか。おーい！ エステルー！」 「カシコマリマシタ、マスター。」 　孝太郎のいるコンビニから用事を終えて戻っていたエステルは、手早く無駄の無い手付きと動作で、調理を始める。新しく朝食を作っている間に、冷蔵庫から作り置きらしき鍋を取り出して温めている。 「……ところでクランさん、なんだか前よりエステルさんの喋りが滑らかになってませんか？」 「アップデートしたからな。科学は日々進歩ということだ。」 「なるほど……」 　調理を終えたエステルは、てきぱきと料理を皿の上に載せていき、二人が座るテーブルの上に寸分の狂いも無く同じように綺麗に並べる。 　二人の前には、作り置きらしき具沢山のポトフ、溶け始めたバターを乗せた食パン、ふわふわのスクランブルエッグ、エステルの手で搾られたオレンジジュースが揃えられた。 「おいしそう……いただきます！」 「いただきます。」 　サクッとした食感と食パンの甘味、バターの動物性油脂の味わいが明里の歯と下の上を駆け抜ける。 　その味わいを残したまま、コンソメやウインナー、ベーコンの旨味、人参や玉ねぎ、キャベツの甘味旨味が染み出し、崩れたじゃがいものざらざらした舌触りを含んだスープで舌を潤しながら刺激を加える。 「ううう……おいしい！ すごくおいしいですよ！」 「アリガトウゴザイマス、明里サン。」 「いやあ、日頃の健康はこういうところからだねぇ、うんうん。」 「マスターハ、深夜ニスナック菓子ヲ食ベルコトヲオヤメクダサイ。」 「あれは私の燃料だよ！ あれは私の精神の健康でもあるんだからな！」 「あはは……そういえば、クラリスさんは今どうなんですか？」 「クラリスはこの後改めて稼働予定だ。スライムの生体がある程度わかったから、その対策を施しておいた。それと、クラリスの剣も新調してある。」 　クラリスがさらに強くなり、モンスター相手の心配が減ったことに安堵すると同時に、この短期間でクラリスの武装を強化することに成功しているクランの技術力にただただ驚嘆した。 「クラリスを稼働させるところ、改めて見ていくか？」 「はい！ お願いします！」 　今のクラリスへの期待と心配、機械への情愛等、様々な感情が入り混じった輝く瞳で快く返事を返した。  　以前にも見た光景、調整台の上で人形のように横たわるクラリスが目の前にいた。 　しかし、数日前とは違う箇所がいくつかあった。 　まず、全裸ではなく、Tシャツと下着が既に履かされている。どんな意図があるのかはわからないが、余計なことは考えないようにした。 　そして、明里には何よりも気になる箇所があった。 「……気のせいかもしれませんが、クラリスさんの身体が大きくなってませんか？」 　明里が最後にクラリスの姿を見た時よりも、僅かに、だかパッとみてもわかる程度に身長や胸なども含めて、全体的に身体が大きくなっていた。 「さすがはクラリスの相棒。新たに機構や武装を追加するにあたって、そろそろ限界が来そうだったんでな……しかし、その分武装以外にも出力その他の面でもパワーアップしているぞ！」 　作ったオモチャの説明をする子供のような声色で嬉々として明里に絡んでいくクラン。 　説明のし過ぎで事が進まないことにハッと我に返り、改めてクラリスを起動させる準備に移る。 「話が長くなってすまなかった。それじゃあ起動させるぞ……！」 　コンソールを操作し、クラリスを起動させる。 「信号を受け付けました。人型対策兵器クラリス、起動します。」 　一度見た起動時の様子と全く同じように、システムメッセージや小さく鳴る駆動音、電子音が耳に入ってくる。 「起動しました。続けて擬似人格を起動します。」 　以前と全くシステムメッセージを喋り終え、再び目を瞑る。 数秒経った後に再び目が開き、光が 宿ったクラリスの顔が戻ってきた。 「よかったクラリスさん、無事だっ……？」 　目覚めた友達に駆け寄ろうとしたが、先に動いて明里を抱き締めたのはクラリスだった。 　人体の負担にはならない程度の力で抱き締め、震える声で話しかける。 「明里殿！！ 心配していました……明里殿がスライムに襲われながらも、勇敢に戦って勝利したと。しかし、明里殿も気を失って目覚めなかったと……！ 私の不覚のせいで……。」 「ううん、気にしないでクラリスさん。クラリスさんは何も悪くないんだからは。」 「し、しかし……」 「明里くんもこう言ってるんだし、素直に受け止めたらどうだ？」 「御主人……わかりました。次はこんなことにならぬよう、私の全てを尽くしてお守りします！」 　二人の前で膝を付き、完璧に護衛をするという誓いを立てる。 　それを了承するように、クラリスの右手を両手で握って笑顔で返す明里。 （これで二人とも回復はしたというわけだな……研究サンプルも手に入ったし、私も頑張らなければ。） 　[newpage]　 　「よし、それじゃあ行きましょうか！」 　数日ぶりの日の光を浴び、上機嫌の明里。家がスライムに侵略されて服がほぼ全てお陀仏になったため、新しくクランから用意された服を着ての外出となった。 「明里殿、本当に体調は大丈夫なのですか？ それと、その……足の露出に抵抗は……」 　恥ずかしそうに視線を反らし、チラチラとスカートを見ながら質問する。 「もうそこまで痛くもないし平気だよ。もしかして……クラリスさんスカートを見たことないの？」 「うっ……だ、大丈夫ならも、問題ありません！ いきましょう明里殿！」 　 　機械的な物とはまた違ったぎこちない歩きで太陽の下を歩き始める。 「意外な一面見ちゃったかも……あれ？」 　ふとクラリスが移動した方向とは反対側の方に視線を向けると、今まで出会ったことの無い人影が目に映る。 　遠くからでは断定は出来ないが、黒い長髪で純白のワンピースを着た少女のようなシルエットが確認できた。 「ねえねえクラリスさん、ちょっと……」 「なっ、ななななんでしょうか明里殿！ 私はその服には何も！」 「そうじゃなくて！ あれ……」 「ん、幼い少女があんなところで何を……？」 　二人はしばらく少女を観察していると、少女は周囲を何度もキョロキョロと確認しながら移動している事が見受けられた。どうやら何かから逃げるように動いているようだ。 　その後もしばらく動向を伺っていると、側にある駅ビルの中へと入り込んで行った。 「ちょっと気になるよねあの子。」 「うむ、何かから逃げているならば、私達が保護したほうが良い可能性もある。」 「それじゃあ行ってみようか。」 　二人は少女を追いかけて、廃墟となった駅ビルへと走って向かった。 　かつては無数の人が行き交い、ショッピングや娯楽や流行が巡っていた駅ビルの中も、今では商品棚が壊され、割れたガラスやモニターが散乱し、商品が無惨な姿で残る荒れ果てた地となっていた。 　廃墟となった駅ビルの中へと入り込んで二人は、ゆっくりと注意深く周囲を確認しながら探索をしていく。 「事件の後から初めて入ったけど、酷い荒れ模様だね……」 「ああ、私はここに来たことはないが、たくさん人がいたんだろうということは理解できる。」 「モンスターが潜んでたりするかもしれないから、早いところ見つけないと……」 　停止したエスカレーターから階上へ上がって行き、左右を確認しつつ再び歩き出す。 「見つからないなあ……確かに入って行くのは見えたんだけど。」 「意外と素早いのかもしれないな……ん？」 　エスカレーターから十数歩歩いたところで、クラリスは再び上ったエスカレーターの方向に振り返る。そこには、下の階へ降りようとしている少女らしき人影が映った。 「明里殿！ さっきの少女です！」 「えっ？」 「…………！？」 　気づかれたことを察知した少女は、足早にエスカレーターを降りて行く。その後を二人が走って追いかける。 　少女は追い付かれないように、壊れた無数の半開きの自動ドアを通って、時間を稼ぎつつ距離を離していく。 「鎧が引っ掛かって通れないな……こじ開けるしかない！」 「じゃあ私は外から回り込んできます！」 　無数の壊れた半開き自動ドアからの追跡はクラリスに任せ、明里は外から大きく回り込んで挟み撃ちにする作戦に出る。 「このっ……程度の……扉などっ！」 　自動ドアの隙間に両手を入れ、フルパワーで無理矢理こじ開けるクラリス。以前よりも出力が上がり、パワーが必要な行動も容易に行えるようになった。 　逃げる背後から聞こえる音に、後ろをチラ見して驚く少女。しかし、このままなら逃げ切れると止まらず走り続けていると、正面からスカートを履いた少女が両手を大きく広げて立ち塞がった。 「止まって！ もう逃げなくて大丈夫だよ。 私達味方だから……ね？」 　諭すように少女に話しかけるが、少女の表情からは警戒心が解けている様子は見られない。 　すると、少女は右腕を明里へ突きだし、左手で右腕の二の腕部分を掴む。 　「落ち着いて、私達は味方だから……」 「明里殿！ 危ない！」 　全ての自動ドアをこじ開けたクラリスが、少女の後方から声のボリュームを上げて叫ぶ。 　その直後、少女の右腕が明里めがけて弾丸のように放たれた。 　放たれた腕は明里の顔の横を掠め、そのまま地面に落ちる。 「貴様……モンスターか！」 「待ってクラリスさん！ その子に攻撃しないで！」 「……明里殿？」 　後ろ姿で表情は見えないが、少女が後退りしながら怯えて震えていることはクラリスからでも確認できた。 　よく見ると、少女のワンピースの下から断続的に石ころや細かい砂のようなものがこぼれ落ちているのが見受けられる。 　少女は膝をつき、糸が切れたように腕をぶら下げて抵抗をやめる。 　それを見逃さずに、明里は少女の元に駆け寄り、肩を掴んで話しかける。 「安心して、私達は味方だから。だから顔を上げて……」 　明里の撫でるような声色に警戒心を解いたのか、少女は顔を上げて明里の顔と向かい合う。 　少女の顔はところどころにひびが入り、そこからぽろぽろと土や石の欠片が落ちていった。今にも泣き出しそうな表情で、少女は明里の胸に飛び込む。 「うんうん、もう大丈夫だよ。」 「明里殿、その子は……」 「……多分、モンスターの一種か何かだと思う。でも、いい子だと思うの。だから……ね？」 「……仕方ない。」 　剣を納め、少女の後ろで膝を着いて待機する。 　明里の胸でしばらく甘えるうちに落ち着いたのか、顔を離して明里に自分から話始める。 「私、あなた、信用、する。ありがとう。」 「ううん、これくらい当たり前だよ。もしよければ、名前を教えてもらってもいいかな？」 「……わかった。あたし、クロム。あたし、種族、ゴーレム。」 「ゴーレムだと……？ 私が知っているゴーレムとは姿形がまるで違うようだが。」 「姿、形、変えられる。あたし、この姿、大好き。……お姉ちゃん、あたし、同じ、仲間？」 　クロムの言葉に何を言っているんだと表すような表情で返答するクラリス。言葉と共に向けられた視線は、全身を舐め回すようなじっくりと熱い物だった。 「お姉ちゃん、女騎士、典型的、……薄い本？」 　おおよそゴーレムの少女から出てくるとは思えない予想外の単語に思わず口を押さえて後ろを向く明里。 　対照的に、単語の意味がわからず首を傾げるクラリス。 　会話を交わしてある程度打ち解けたところで、左手を持って駅ビルの中から離れようとする。しかしクロムは明里の手を引っ張り、移動しようとしない。 「ん、どうしたのクロムちゃん？ 」 　首を横に振り、不安そうな顔を明里に向ける。 「どこ、行くの？」 「うーん、今私達が暮らしてるところかな。」 「そこ、安全？」 「うん、今のところは安全だよ。」 「……わかった、ついていく。」 　質問への返答に安堵したようで、クロムは立ち上がって明里と共に移動することを決意した。 　その束の間、クロムが足のバランスを崩して、明里を巻き込み倒れ込んだ。見た目以上の重さに、明里は動くことが出来ない。 「大丈夫ですか明里殿！？ こ、これは……」 　倒れた二人に駆け寄るクラリス。クラリスの目に最初に入り込んだのは、右足首から下が崩れて大きな石塊となったクロムの姿だった。 「大丈夫なのか？ これでは動けないのでは……」 「お、お腹、すいた……。何か、食べたい。」 「……ゴーレムが食事を行うのか？」 「ゴーレム、食事、から、力、蓄える。最近、何も、食べられ、なかった……。」 　必死に捻り出すような声で説明する。右足首が崩れてからはクロムの表情はとても苦しそうな苦悶の表情となっていた。 「クラリスさん！ クロムちゃんを運んでください！ 私じゃ持ち上げることは……」 「了解した。私がクロム殿を背負って行こう。」 　少しずつ身体をずらし、クラリスが腕を肩に回せるように場所と位置を確保しつつ離れて行く明里。 　クラリスが背負う準備を行っている間に、明里は射出した右手と、崩れた右足首をかき集めてリュックサックの中に入れたビニール袋へと移した。 　クロムを背負い、立ち上がったクラリスと明里は、急いで研究所へと走り出した。 　三人が駅ビルを離れて間もなく、二体のゴブリンが首輪を持って駅ビルの中へとやってきた。 　つい十数分前にいた二人と同じように建物内を探し回り、収穫がないと判断すると、舌打ちや地団駄で苛立ちを表しながらその場を去って行った。 　[newpage]　 「……で、このモンスターを連れてきたと。」 「ちゃんとクロムちゃんって名前があるんですからそう呼んでください！」 　無事に研究所へとたどり着いた三人は、入って最初に出会ったエステルに事情を話し、大量のスナック菓子とジュースを運び出してもらっていた。 　クロムは今、ソファーの上でひたすらスナック菓子の袋やペットボトルのキャップを開けながら身体の中へと流し込んでいる。 　その後にやってきたクランは、自分のスナック菓子が貪られていることに酷くショックを受けてやさぐれてしまい、その状態で明里から事情説明を聞いているため、どこか突慳貪な返答になってしまっていた。 「コノヨウナ食事デヨロシカッタデショウカ？」 「はい、2週間ぶり、食事、ありがとう。」 「私の貴重な燃料を貪りおってぇ……！」 「まあまあ、そういえばクロムちゃん、手足は大丈夫なの？」 「忘れてた。明里さん、拾ってた、崩れた、右足と、右手、持ってきて。」 　言われた通りにリュックサックから石塊が入った袋と右手を取りだし、クロムの目の前まで持ってくる。 「持ってきたけど……どうするの？」  「それ、あたしの、右足、くっつけて。右手は、自分で、やる。」 　ソファーの上で体勢を変え、明里がくっつけやすいように、右足を大量に散乱した菓子袋を退けて、伸ばし差し出す。足の動きとワンピースが連動し、僅かに妖しい雰囲気を醸し出す。 「くっつけるって言ってもどうすれば……」 「押さえつけて、とりあえず。」 「う、うん。」 　正解がわからない明里は、とりあえず言われた通りに石塊を足首部分に押さえつける。 　すると、石塊は独りでに足にくっつき、徐々に音を立てながら形を変えていった。乱雑な石塊が次第に形を整え、人間の足のような形に近づいていく。 「すごい……なんだこれは……！」 　目の前の光景にただただ驚嘆するクラン。我慢できずに手元の携帯を取り出して動画を撮影する。 　くっ付けてから1分程で、石塊はすっかりと元の足の形を取り戻した。 　それから同じように、左手に持った右手を押すようにくっ付けてしばらくすると、離れていたはずの右手が動き出した。 「元に、戻った、助かった、ありがとう。」 「はえ～……なんてことだ……」 　右足首を子供がオモチャを触るようにベタベタを触れるクラン。人間とは明らかに違う固い感触があるが、人肌のような柔らかさもほんの少し兼ね備えている、そんな肌をしていた。 　クランは神妙な面持ちで、質問を投げ掛ける。 「クロム君、是非とも尋ねたいんだが……この変化は魔法で行ってるのかな？」 「違う。これ、ゴーレム、生態。私達、岩石、砂、土を、媒介、身体を、変化、 出来る。食事は、生きる、ため、そして、力の、源。」 「なるほど……それも解析すれば或いは……」 「魔法、なら、軽い、物、なら。」 「本当か！？ 是非とも見せてくれ！」 　ギラギラと目を輝かせ、両手を握り懇願する。断っても何時までも頼むだろうという予測と、そもそも今いる場所の所有者ともなると、逃げることはできないだろうという諦めから溜め息をついた。 「わかった、でも、期待、しないで。」 「どんなものでも構わんよ！ こういうのはまず最初の一例が必要なんだ！」 「……それじゃ、ここに。」 　指をソファー横のテーブルに起き、視線を注目させる。 　クロムは口を開き、口の中に白い光の球を作り始めた。光の球は徐々に大きさを増し、親指程の大きさになった。 　クロムは頭を前に軽く突きだし、光の球をテーブルの指差したポイントめがけて飛ばした。光の球はテーブルにあたり破裂。着弾点にはほんの軽い焦げ跡が出来ている。 「……私が、出来る、のは、これくら……」 「素晴らしいーー！！ よくぞ我が家に来てくれたクロムくん！ 私は君を歓迎するぞーー！！」 　飛び込むようにクロムに抱きつき、擦りきれそうな勢いで頭をわしゃわしゃと撫でていく。 「ずっと不思議に思っていたんだよ。このような現象が起こるならば、魔法や魔力の類いが扱えるモンスターも現れるはずだと。やはり存在した！ これで私の研究が進むーー！！」 　歓喜に満ちた笑顔でクロムを抱きしめ、褒め殺しのレベルで感謝の言葉を浴びせ続けた。 　そのすぐ側で、足に石塊をくっつけた張本人の明里と、スナック菓子類を運んだエステルはただただその様子を眺め続けるしかなかった。 「……すごいね、ハイテンションのクランさん。」 「周リガ見エナイ状態デス。」 　その頃クラリスは、調整室で一人、新しい剣の感触を確かめていた。 「私が授かった新たな剣、私に使いこなせるだろうか……いや、使いこなしてみせる！ はぁっ！ あっ、ぶつけた……」 「さてと、そろそろ本題に入りましょうか。」 　ソファーに明里、クロム、クラン、前のテーブルの周りにクラリス、エステルの並びで話し合いの形態を取る。 　クラリスは正座で、調整室の機材にうっかり傷をつけてしまった事を怒られ、落ち込んだ顔を見せていた。 「クロムくんは周囲を気にしつつあの駅のビルに入っていったらしいが、何かから逃げていたのか？」 　質問が始まると、うつ向いた顔をして、これまでよりも暗く弱い声色で話し始める。 「はい。あたし、オーク、ゴブリン、グール、集団で、作った、根城、から、逃げた。」 「ほう、それはそのモンスター共が自分達の巨大な住処を作っているということで間違いないんだな？」 　クロムは黙って頷き、両手をぎゅっと握り直す。 「そうなると、奴等はそれを作るだけの知能もあるということだな。ところで、君は私達が言うモンスターのくくりで間違いないと思うのだが、そいつらの仲間ではないのか？」 「――っ！！ 違う！ あたし、あいつら、仲間、なんか、じゃない！！」 　沈んでいた表情から一転、激情を感じさせる表情をクランに向け、声からもはっきりと怒りと否定をぶつける。 「わ、悪かった……謝るよ。しかしそれなら、モンスターは私達を襲ってくる者ばかりが来るわけではないということになるのか。」 「ねえクロムちゃん、もし大丈夫ならなんだけど……何があったか聞かせてもらってもいいかな？ 私達でよければ協力できることもあるかもしれないし。」 「…………だったら、今から、話す。けど、その代わり、これを、聞いたら、あたしに、力を、貸して。」 「うん！ もちろんだよ！」 「おい明里くん何を勝手に」 　優しくしてくれた少女の言葉に安堵したのか、表情を崩して明里にうるんだ瞳と共に感謝の意も込めた微笑みを向ける。 　決心をつけ、クロムはもう一度両手を握って話を再開する。 「あたし、皆の、言う通り、モンスター。私も、他の、奴等、同じ、ように、こっちに、いつの間にか、来ていた。」 「ふんふん、なるほど。」 　興味深いと感じたのか、シャープペンシルとメモ帳で発言を大ざっぱにまとめるクラン。 「パパ、ママ、いなくて、あたし、どうしたら、いいか、わからなくて、ずっと、さ迷ってた。途中、石、投げられたり、してた。そこに、あたしに、興味、持った、人間、いた。母親と、娘、二人、怖がらず、近づいて、くれた。」 「ふんふん、なるほどなるほど。」 「クランさん、少し静かに。」 　注意され、しょんぼりとした顔をしながら再びメモを取る。 「娘、名前、友希。友希、一緒に、暮らしたい、言って、くれた。あたし、二人に、ついて、いった。色んな、こと、教えて、くれた。日本語、食べ物、マンガ、アニメ、ネット、絵、同人誌、カップリング。一緒に、読んだ、マンガ、可愛い子、気に入った、だから、同じ、容姿に、変えた。」 「ほぉ……ん？」 「楽しい人と巡りあったんだね。」 「…………」 　楽しそうに今の世界にやってきてからの出来事を話し、明里の言葉にも軽くはにかんで頷くが、次第に顔が曇り始め、下を向く。 「でも、ある日、あいつら、襲って、きた。友希も、母親も、そいつらに、抵抗、して、殺された。あたし、逃げようと、した。でも、捕まって、連れて、いかれた。そこで、無理矢理、働かされた。瓦礫、運んで、積み上げたり、食べ物、運んだり。憂さ晴らしのため、殴られたり。」 　身体を前に傾け、両腕を交差させて肩を手に置き、凍えているように震え始める。声もだんだん弱り始め、震え声になっていく。 「ゴーレム、だからって、途中、から、食べ物、くれなくなった。土、食ってればいいって……。遊びで、他の、人間も、殺して、それから……」 「クロムちゃん、もう話さなくてもいいよ。無理に話さなくても大丈夫。」 「なんだ、まだ色々聞けそうだったのに～～」 　明里が震えているクロムを、話を中断させるように抱きしめる。震えが少しずつ治まり、身体の重みを少しだけ明里に預けた。 　クランは話を途中で遮られ、不満げな表情と声を晒す。両腕を縦に振って不満を表現している。 「大丈夫だよクロムちゃん、大丈夫……今は私達がついてるからね……」 「うん…………あり……がとう、明里、さん。」 　涙声になりながらお礼を言い、涙を拭って身体を落ち着ける。 「あたしの、話、これで、終わり。あとは、知っての、通り、耐えきれず、逃げてきた。」 「なるほどな。しかし、今の話を聞いて思ったのだが、奴等は人間を連れ去って労働力にしているのか？」 「そう。奴等、人間を、奴隷のように、使って、力を、誇示、している。抵抗、すると、殺される。」 「酷い……。何か力になれないかな？」 「あたしが、頼みたい、のは、それ。あたしは、今から、奴等に、復讐、したい。そして、捕まってる、みんなも、助けたい。その為に、力、貸してほしい。」 「自分の力だけではどうにもならないから、私達の力を……ということただな？」 　怒りを込めた眼差しでこくりと頷き、他の四人に対して深々と頭を下げる。 「あたしの、力、だけでは、到底、太刀打ち、できない、だから……」 「ご主人！ ここは私達が力を合わせてモンスター達を成敗するべきではないでしょうか！？ 死力を尽くしてここまで必死の思いで逃げてきたクロム殿の意思を無駄には出来ません！」 　クラリスの正義感が籠められたような発言に、クランは唸りながら考えるようなポーズをとる。数秒ほどたって、ポーズを解き、目と口を開く。 「仕方ない、実物の魔法を見せてくれたお礼もある。ここは協力しようじゃないか。」 　クロムの表情に光が戻る。希望に満ちた声でお礼を言おうとしたところを遮り、クランは言葉を続ける。 「ただし！ クロムくんにはもうちょっとだけ私の研究に付き合ってもらおう。クラリス達が君を助けたことと保護したこと、そしてモンスターへの復讐への協力への対価が魔法を見せたことだけでは釣り合わないだろう？」 「もちろん、あたしに、出来ること、なら、なんでも、協力、する。」 「よしきた交渉成立だ！ それじゃあ準備を始める必要があるが、クロムくんが言う場所にはどれ程のモンスターがいるのかな？ 出来れば種類まで詳細に。」 「えっと、詳しくは、わからない、けど、ゴブリン、たくさん、オークと、グール、そこそこ、トロールが、一応、ボス。」 　クロムが説明したモンスターの種類と大雑把な数字の説明をメモに書き留め、シャープペンシルを顎に当てて再び唸り始める。 （沢山と言えるほどの数がいるならばそれなりの大きさの場所にいるということだな。十数体程度ならば問題はないのだろうが、数で押しきられる可能性があるとすればエステルも連れていかせるべきだかさて……） 「あと、魔法、使う、ゴブリンも、いる。そいつが、実質、本当の、ボス。私、よりも、強い、魔法、使う。」 「よし、エステルも連れていけ。そのゴブリンは絶対に連れてこい。殺してでも構わん。」 　魔法を使うゴブリンというワードが聞こえた瞬間に即断し、誰の見た目にもわかる通り張り切った表情と声色になった。 「よし、明日にでも叩き潰すために今から準備をするぞ！ 来いエステル！」 「カシコマリマシタマスター。」 　エステルを引き連れて調整室に移動し、クランはそのまましばらくの間籠り続けた。 「す、すごい行動の早さだね……」 「これも、明里さんの、おかげ、ありがとう。」 「ううん、クロムちゃんの意思が強いからだよ。私も力を貸すからね！」 「私も、モンスター共に私達人間は屈しないということを見せつけてやりましょう！」 　厄が抜け落ちたように明るい笑顔を二人に見せるクロム。出会ってからどこかにずっと感じていた心配の要素が晴れ、明里の心に安心と落ち着きが取り戻された。 　張り詰めた空気と緊張感が解けたところで、明里の頭の中にふとクランが喋っていたUSBの内容の事を思い出す。 「そういえば、武器の設計図が入ってるって言ってたっけ……よし！」 　胸の前で拳を軽くぎゅっと握り、部屋の隅に即席感溢れる仕切りと、椅子とセットのシンプルな机と共に設置された明里のPCへと歩き出す。その足取りは、どこか今までの明里には無い強さが備わっているように見えた。 　それぞれの準備で散り散りになったため、ソファー周辺で取り残されることになったクラリスとクロム。お互いにじっと見つめ合い、喋る内容も思い付かないまま2分程経ったところでクラリスが口を開く。 「…………私と一緒に風呂でも入るか？」 「うん！ あたし、風呂、一緒に、入りたい！」 「私から言い出したのに聞くのはおかしいが、ゴーレムがお湯に入っても平気なのか？ 溶けだしたりしないのか？」 「大丈夫、ゴーレム、実は、水、平気。」 「そうだったのか……」 　意外な事実と、自分の中にあったゴーレムの知識やイメージから離れたゴーレム本人からの回答に、ゆっくり首を小さく縦に振って感心した。 　二人はそのまま流されるように巨大な風呂がある浴室へと歩いていった。 　PCを起動させた明里は、繋いだままのUSB内のデータを開く前に想像を巡らせていた。 「どんな武器なんだろう……入れておいたって言うくらいだから私が使えるくらいの武器なのかもしれないけど……」 　スタンガンや簡単な爆弾など、色んな武器を想像しながらも、このままだと無駄に時間を使ってしまいそうと我に返り、粛々USBのデータを開く。 　USBの中には二つのファイルがあり、一つは色んな武器という名前で、もう一つはおまけという名前がつけられていた。 「おまけ……？ ううん、今は先に武器の方を確認しなきゃ。」 　一瞬湧き出てきた誘惑に流されず、色んな武器ファイルを開くと、中にはこと細かに作り方や使用方法、注意点が記された複数の設計図画像がテキストファイルと共に用意されていた。 「すごい…… こんなにも用意してくれてたなんて……！ それなら、私もこの期待に応えなくちゃ！」 　明里は自分を鼓舞するように意思を声に出し、やる気を引き出すように小さくガッツポーズをとった。 　 　[newpage]　 　かつてはその巨大さを活かして様々なイベントや個人ごとの趣味趣向が盛んだった公園も、今ではモンスター達が蔓延るこの世の地獄のような場所となり、連れ去られた人間達が日々奴隷として働かされ、虐げられるモンスターのための小さな王国となっていた。 「はぁ……はぁ……誰か……助け……」 　瓦礫を運搬する役目を負わされた男の一人が倒れ、その男の周囲にグールとゴブリンが集まって来る。 　ゴブリン達が男を殴る蹴るの暴行を好き放題に行い、男の具合を確かめるが、抵抗するどころか動く気配すらなかった。 　動かない男を見て笑みを浮かべたグール達が、男の腕を掴んでどこかへと引きずり去って行った。 　その様子を、山のように積み上げられた瓦礫の上に座すフードを被ったゴブリンメイジと、オークの二倍はあろうかという巨体を持つトロールがじっと見つめている。 「耐エキレズ死ヌ人間ガ増エテキタナ。モウソロソロ人間狩リノ頃合イカ。」 「ソウカ、オデニハワカラナイガ、オマエガイウノナラソウナンダロウ。」 「人間ハ労働力ニモナリ餌ニモナル有益ナ資源。コッチノ人間ハマダマダ狩リ尽クシテハイナイハズダカラナ。」 「よおお前ら、調子はどうだ？」 　瓦礫の山の下に、大きな悪魔の羽を背中に生やした人間の姿をした者が現れた。 　その者は流暢にトロール達に馴れ馴れしく話しかける。 「非常ニ快適ニ過ゴシテオリマスベルア様。」 「そいつぁよかったな。向こうの世界で人間共を飼い慣らしたお前らがこっちに来た時に何やるか見ものだったが、結局やること変わらずか。」 「根付イタ習慣ハ無理ニ変エル必要ハアリマセン。」 「ホネノアルヤツイナイ、ドイツモヨワイ。」 「まあそうだろうな。こっちには魔法を扱える奴はいねえみたいだし、軍隊とやらも俺が封じている。だからお前らは好きに暴れてろ。」 　ベルアは捨てるように言葉を吐いて、翼を広げて飛びたった。 「ナンダアイツ、オデタチノミカタカ？」 「イイヤ違ウ、奴ハ誰ノ味方デモナイ……タダノ悪魔ダ。」 　夜の空を翼を広げて高く舞い上がり、高空から東京を見下ろす。その眼は襲われ殺される人々、どこかへ連れ去られる人々を映していた。 「ここまで発展した人間の街でも、こういう事態になったら脆いもんだなぁおい。さて、せっかくこっちに連れてこられたんだから、俺のオモチャ共でもっと遊ばせてもらうぜ！ ハーッハッハッハ！」 　ベルアは月を背にし、自身の欲望を満たしてくれる玩具が溢れたこの世界への狂喜の笑いと共に、夜空を飛び回り続けていた。 　[newpage]　 　モンスター達が巣食う場所への攻勢を決意した次の日の正午過ぎ、明里、クラリス、エステル、クロムの四人はひと塊となって道路の上を歩いていた。 　車がほとんど通らず、信号も機能することが少ない現在は、アスファルトの道路も大きな歩行路のようなものとなっている。 　リュックサックを背負っている明里は、いつもよりも姿勢が若干前のめりになり、少しだけ辛そうな顔で歩いている。 「大丈夫ですか明里殿？ 私が荷物を持った方が……」 「ううん、私が持っていくって決めたものなんだから自分で持たなきゃね。私でもちょっと重さを考えてなかったかなって思うけど……」 　平気平気と顔に書いたような笑顔をクラリスに返す。その意思を尊重し、クラリスは再び正面を向いて歩き出す。 　クロムはエステルの後ろについて歩いているが、他の三人に比べて腹回りや太ももを露出した服装のエステルのことが気になっていた。 　エステルの太ももと腹には、目立たないようにある程度カモフラージュされているが、うっすらと継ぎ目が確認できる。 「エステル、さんの、格好、すごく、特殊。なんと、いうか、エルフ、らしくない、かも。」 「私ノコノ格好ハ、マスターガ私ノ戦闘スタイルニ合ワセタ結果ダト仰ッテイマシタ。」 「エステル、さんの、戦闘、スタイルって？」 「接近戦デス。」 「そう、なんだ……」 　エルフの見た目と実態とはほど遠いキメラのような存在になっているエステルに、クロムは感心とも困惑とも取れない、肯定寄りの不思議な感情に包まれていた。 　公園の入り口の門周辺に近づく頃には、日は落ちて辺りはすっかりと暗くなっていた。 　気づかれないように静かに明里が門の様子を見に行くと、ニ体のオークが門番として立ちはだかっている。 「正面にはしっかり見張りがいますね。二体のオークです。」 「よし、それだけならば正面からの攻勢は可能そうだな。エステル、準備はいいか？」 「ハイ、作戦ノ準備ハ完了シテイマス。」 「エステル、さん。よろしくお願いします。」 「カシコマリマシタ。行動ヲ開始シマス。」 　エステルは門番の視界には入らない程度に離れた場所の柵から高くジャンプし、公園内に侵入する。その後、木の上で待機し、再度行動するその時を伺う。 　着地した際の音に反応したのか、門番のオーク二人がどこかそわそわとし始めた。 　「エステルさんの準備が出来ました。」 「よし、突入するぞ！！」 　明里はリュックサックから小型の火炎放射機を、クラリスは剣を、クロムは両手を頭よりも大きい石器の斧に変化させ、門番へと正面から攻め込んだ。 「せやああああ！！」 　反応が遅れた一体のオークは、棍棒を構えることすら間に合わず、一撃で首を跳ね飛ばされた。 　もう一体のオークはその様子に怖じ気づいたのか、棍棒をその場に滑り落とし、けたたましい豚にも似た悲鳴を上げて公園の中へと走り出した。 　 　「作戦、通り……！」 　出発する1時間程前に、クランが立てた作戦を説明する様がクロムの中で改めて再生される。 『いいか、おそらくこの中でもっとも身軽に動けるのはエステルだ。エステルには捕らえられた奴らを助ける役割を負ってもらおう。周囲を警戒しつつ安全な場所まで連れていけ。』 『カシコマリマシタ。』 『あとの三人はそこにいるボスを含めたモンスターの殲滅だ。明里くんは大丈夫かわからないし、クロムくんの実力もわからないが、少なくとも今のクラリスなら雑魚は数えるにも値しないだろう。』 『お褒めの言葉を預かり光栄です。』 『モンスター共をおびき寄せていけば倒す効率は上がるが、そこは現地についたら各自で判断してくれ。例を挙げるなら……適当な奴を痛めつけた後で逃がして騒ぎを起こす……とかだな。私の考えた作戦はこんなところだが、いけるな？』 『はい！ やれるだけやってみます！』 『あたしも、頑張る。』 『よしよし…………こういう作戦立案みたいなのは専門外なんだがな……』 　例に挙げた作戦の通り、逃げたオークの叫び声に反応した公園内のモンスター達が一斉に門の方向に視線を向ける。 　そのタイミングを見計らい、クラリスが右手で剣を正面に突きだし、オークの首を左手に持って声のボリュームを上げて叫ぶ。 「刮目しろモンスター達よ！ 私達は貴様らのような穢れた者達を倒しに来た！ 一人残らずかかってくるがいい！」 　クラリスの声を聞き、挑発だと受け取ったモンスター達は、叫び声を上げて門に向かって走り出す。ゴブリン、オーク、グールの集団はまさに百鬼夜行の様相を呈していた。 「す、すごい数……！ 大丈夫なんでしょうか……？」 「大丈夫、なんとか、なる……はず。」 「大丈夫です、私が倒してみせます。少し下がっていてください。」 　二人に下がるように頼んだ後、クラリスは切っ先が空を指すように左手で剣を握り、目を瞑って右手の掌を剣の鍔にあたる部分に施された球体のプラスチックのカバーに当てる。すると、カバーと掌の機構が同時に開き、互いに接続するためのノズルが現れた。 「我が炎に応えよ、炎を纏いて、総てを斬り焦がす刃と成れ！」 　剣とクラリスが接続され、剣の中へクラリスの中の燃料が注ぎ込まれていく。 　注入が終わり、再び右手に剣を握ると、刃から炎が少しずつ溢れだして炎を纏う剣となった。 　それを見た突撃途中のモンスターは一部たじろぐも、ハッタリだと意に介さずクラリスへと突撃するゴブリンが三匹。大きく飛びかかり、上から攻撃を被せようとしたが、クラリスの一閃で三匹まとめて上半身と下半身が離ればなれになり、引火した。 「さあ来い！ 私達は貴様らには決して屈しない！」 「モンスター達ノ誘導ヲ確認、行動ヲ開始シマス。」 　木の葉を隠れ蓑にして雑木林の上で待機していたエステルは、公園内のモンスターが一斉に移動して内部が手薄になったのを見計らって移動を開始する。 　木と木の間を高速で走り抜け、途中ですれ違うモンスターには顔に直接鉄拳を加え入れて一撃でダウンさせた。 　ある程度の距離を走ったところで、エステルの視界の先、雑木林の中に開けた広場を発見する。 その広場には公園内の人間が集められており、周囲に見張りのオーク達が点在していた。 「捕ラエラレタ人間達ト共ニ監視役ノオークヲ確認。数ハ…………六体。殲滅可能ナ数ト判断。行動開始シマス。」 　右足を曲げて踏み込んだ姿勢を取り、勢いをつけて一番近い場所にいるオークめがけて走り出す。 　見張りのオークの視界内に突然人型のような影が入ってきたが、はっきりと認識した頃には視線が空を向き、そのまま意識がブラックアウトした。 　後方からドサッと何かが倒れる音を聞き、一斉に見張りのオークが振り替えると、頭を大きく後ろに曲げられ、口から泡を吹いて絶命したオークの死体が目に入り込んだ。 　オーク達は突然の事態に慌てふためき、監視されている人間達も何が起きたのかがわからずただ震えることしか出来なかった。 　続けてもう一体、鳴き声を上げて倒れる。今度は胸に貫いてはいないが深い穴が出来ており、心臓を潰されて息耐えた。 　この異常事態に残りのオーク達は臨戦態勢を取り、外からの不意討ちに備えて鋭く目を光らせる。 　そして三体目、正面から高速で接近してくる何かに反応し、とっさに前屈みになって防御体勢を取る。それが幸いしたか、数十センチ程後方まで吹き飛び、両腕が二本折れる程度で耐えることが出来た。しかし生きている分痛みが伴い、三体目のオークは悲鳴を上げた。 　オークと人間達は攻撃が発生した方向に一斉に目を向けると、そこには腹と太ももが出た露出度の高い服装に、金髪と尖った耳を持つ無表情の少女が立っていた。 「一撃デノ殺害ニ失敗、殲滅対象ニ捕捉サレマシタ。戦闘プログラム変更、コレヨリ、通常戦闘ニ移項シマス。」 　敵にはっきりと確認されたと認識したエステルは、ファイティングポーズを取って残りの三体に狙いをつける。 　三体のオークは一度固まってひそひそ声で何か意思疎通らしきものを行い、エステルの方に向き直す。そして、三体同時に走り出した。 「総力戦ノ選択ト判断。一体ズツ殲滅シマス。」 　向かってくるオークのうち一体に狙いをつけ、そのまま正面から疾走する。 　横並びに走ってくるオークのうち、真ん中の一体の頭めがけて右手で殴り抜ける、走ってくるオークとエステル本人の速さが相乗して威力が増し、防ぐこともままならないまま骨が砕ける音と共に身体が宙を一回転し、倒れた。 　殴り抜けた後の硬直した僅かな隙を狙って、残り二体のオークが脳天から棍棒を振り下ろす。しかしエステルは、左腕で後ろからの棍棒をガードし、正面からの棍棒は右腕で振り払うように叩き折った。 　武器を破壊され、耐えられたことに怯んだ隙を狙い返し、正面のオークには心臓に一撃を、背後のオークには身体を捻りつつ前進する勢いをつけてぶん殴り、さらに後方まで吹き飛ばした。 「対象ノ全滅ヲ確認。戦闘終了シマス。」 　耐性を整えて、捕らえられた住民達の方を向き直す。左腕の棍棒の攻撃を喰らった部分は、わずかに人工皮膚が剥げて中身が見えていた。それを隠すように左腕は背中に回す。 「オ待タセ致シマシタ。私ハアナタ達ノ救出ニ参リマシタエステルト申シマス、ヨロシクオ願イ致シマス。」 　礼儀正しく住民達に一度頭を下げて、要件を簡単に説明する。 「お、俺たちを……助けに来てくれたのか？」 「私達、助かるの……？」 　思わぬ幸運が舞い降りた住民達が、ざわざわと騒ぎ出す。住民達のボロボロになった衣服が、捕まってからの歳月を感じさせる。 「落チ着イテクダサイ。現在私ノ仲間達ガ残リノモンスター達ト戦闘中デス。ココカラ出ル安全ガ保証サレ次第移動ヲ開始シマス。ソレマデハ一度建物ヘト移動シテ待機シテクダサイ。」 「あ、ああわかったよ。」 「ソレデハ移動ヲ……」 「――っ！？」 　それまでの希望を見出だした表情から一変、住民達の表情が絶望に染まる。エステルの目の前にいる男が、震える手でエステルの後方を指差す。 　その指の先を確かめるために振り向くと、そこにはオークを超える巨体と棍棒を持ち、激しく呼吸をするトロールの姿があった。 トロールは周囲を見渡し、殺されたオークを見て絶叫する。 「ウオオオオォォォ！！ オデ、ツヨイヤツトタタカイタイ！オマエツヨイヤツ！？」 　一人だけ無表情で動揺する様子がないエステルに一直線に視線を向け、戦いたいという本能を言葉に出してぶつける。 「皆サン、コノ先へ避難シテクダサイ。モンスターノ存在ハ確認サレナカッタノデ、ココヨリ安全カト思ワレマス。」 「わ、わかった……！ おーい！ みんな！ ここは危ないからもっと後ろの方に逃げるぞ！！」 　先頭の男はエステルの言葉を聞き、住民達に大声で聞こえるように喋り移動を促す。そしてそのまま住民達はエステルとトロールがいる場所から離れていった。 「エルフノオンナ、オマエツヨイヤツ！？」 「対象ヲトロールト推測、データ不足ニヨリ対象ノ強サノ判断ガ不可能。」 「オデニモナマエアル！ オデ、グルドロ！ グルドロトヨベ！」 「クロムサンガ仰ッテイタボスノ可能性ガ非常ニ高イデス。警戒レベル上昇。」 「ウオオ！！ バカニシテルノカ！！」 　痺れを切らしたグルドロは、右手に持った巨大な棍棒をエステルの脳天に振り下ろす。オークの攻撃とは比べ物にならないほどパワーがあり、周囲に強烈な風が巻き起こる。 （パワー、想定以上。ガードハ危険ト判断。） 　右方向に地面を蹴って棍棒を避けるが、地面に棍棒が当たった風圧と衝撃でエステルの足元をよろめかせる。 　地面を殴った棍棒を、そのまま引きずるように振り回してエステルを薙ぎ払う。 　叩きつけよりも姿勢や腕の位置等の影響で威力は大幅に下がったものの、エステルは大きく吹き飛ばされ、雑木林の中へと突っ込んだ。 「危険性増大、破壊ノ可能性大幅上昇。戦闘プログラム変更シマス。」 　[newpage]　 「どうした！ 貴様らの実力はその程度が！！」 　最初は圧倒的に数の差をつけていたモンスター達も、今ではすぐに数えられるほどの数になり、クラリス達の足元にはモンスターの死体が大量に横たわっていた。 　クラリスはこまめに剣へ燃料を補充し、剣の炎を保っている。 　明里は火炎放射器の燃料が切れてしまったため、装備をネイルガンに変更して近づいてくるモンスターへと牽制を行っている。 　クロムは、長いこと斧についたモンスターの血への嫌悪感と戦いながら明里のサポートを行う。 　疲れがはっきりと表に現れている明里とクロムとは対照的に、クラリスは未だ衰える気配がない。 「うう、死体が多すぎるよ……」 「もう、ちょっとの、辛抱……！」 　軽くフラつきながらも、しっかりと気を保って戦闘を続ける二人。 　その時、明里の視界の先にこちらに向かってくる三人程の人影が見える。遠くにいるのではっきりとしないが、人間が着る衣服だと確信した。 「あれは、もしかしてここに捕まってた……？ おーい！ こっちですよ！ 急いで！」 　明里は人影に向かって手を振り、ここに来れば助かるというアピールを示す。 「明里、さん……？」 　戦闘中の突然の行為に、クロムは明里が向いた同じ方向を見る。クロムにも同様に走ってくる人間が見えたが、どこか違和感を覚えた。 　近づいてくる人間を注視し、観察する。すると、あと数秒でたどり着くというところで違和感の正体に気づく。やってきた人間の腕の皮膚に、被せられたような不自然な皺が見受けられた。 「明里、さん！ 構えて！」 「へっ？」 　クロムが叫び、明里の前へ走り出して腕の斧を人間に振り下ろす。 　すると、人間が出すとはおおよそ思えないような叫び声をあげて倒れた。それまで人間と思われていた者は、皮膚が剥げて本性のグールの姿を表す。 「なに……これ……！」 「グール、殺した、人間に、化ける、こと、できる。」 「それじゃ、この人達も……！？」 　残り二人が突然立ち止まり、大きく口角を上げて鳥肌が立つような不気味な笑みを浮かべる。その後、縦に皮膚が裂けて、同じようにグールが現れ、二人に向かって高く飛びかかってきた。 　二人のほぼ真上を取り、体勢によって対空攻撃を取りづらい上に太陽の光で視界が遮られた。 「眩しい……！」 　迎撃を諦め、防御の体勢を取って目を瞑る二人。その後にやってきたのはグールの悲鳴だった。 　目を開けると、先程まで空中にいたグールは地面に叩きつけられ、その叩きつけられた場所にクラリスが剣を向けて立っていた。 「危なかったな二人共。」 　なんとか逃げ出そうと暴れるグールだが、その抵抗も虚しく胸元を突かれて絶命した。 「あ、ありがとうございます。」 「助かった、クラリスさん。」  「気にするな、助けるのは当然のことだ。」 　グール達を最後に、三人に襲ってくるモンスターはいなくなった。 　三人の周囲には大量のモンスターの死骸が散らばり、血の臭いが立ち込めている。 「うっ……ちょっとこの臭いきついですね……」 「そういえば、エステル、さんは、大丈夫？」 「急いで向かおう。」 　三人がエステルがいると思われる場所へ向かおうとしたその時、先頭のクラリスの足元めがけて火球が着弾する。 　再度警戒しつつ、火球が飛んできたと思われる方向に目を向けると、フードを被ったゴブリンと思われる人物が立っていた。 　そのゴブリンはゆっくりと少しずつ三人に近づいていき、30メートル程の距離で立ち止まり口を開く。 「部下達ヲ殺シタノハ貴様ラカ？」 「喋った！？」 「ああそうだ！」 　明里はゴブリンが喋ったことに驚き、クラリスは平然と質問に答え、クロムは苦虫を噛み潰したような表情でゴブリンを見つめる。 「ソウカ、人間二人ニゴーレム一人カ……相当ナ実力ヲ持ッテイルヨウダガ、ワタシニハ勝テンゾ！」 　ゴブリンは右の掌を上に向けて、手の中から炎を出し、振り払うようにして炎を飛ばす。 　クラリスは炎を斬り払って防御した。 「そうか、貴様が魔法を使うゴブリンとやらか。しかし、魔法ならば私も使える！ 力よ迸れ……猛き熱炎よ！」 　ゴブリンめがけて左手を突きだし、火炎放射の詠唱を行うが、手から炎が出る様子は無く、ノズルが見えるのみだった。剣へと燃料を何度も注入したことで、既に燃料が底を尽きてしまったようだ。 　 「しまった、魔力切れか……だが、炎が無くても直接！」 　クラリスは遠距離からの攻撃を諦めて剣を構え直し、正面から一直線に攻める。 　その後ろを、明里とクロムが一緒になって走り出す。 「人間デハナク機械人形ダッタカ、シカモ中々酔狂ナ。ダガ正面カラ来るナラバ！」 　ゴブリンの両手が光り、地面に両手を置くと、クラリスの目の前に大きな土壁が地面から生えてきた。クラリスは足止めをくらい、一旦停止してから土壁を回り込む。 　 「くっ、こしゃくな真似を……！」 　土壁を回り込むと、目の前にゴブリンが待ち構えていた。右手には電撃を纏っており、バチバチと音が鳴っている。敵の至近距離からの不意打ちに、体勢を整える時間が遅れてしまった。 「貴様ノヨウナ者ガ何ニ弱イカハ知ッテイル！」 　クラリスの胸に右手を当て、電撃を炸裂させる。電撃により、周囲には火花が飛び散る。 「なんだと……があああアｱｱaaAaあぁァ！！？？」 　目と口を大きく見開き、仰け反りながら全身を痙攣させる。 　ゴブリンが手を離すと、クラリスは膝をついて頭から倒れてシステムメッセージを喋り始めた。 「内部回路に予期せぬ障害ガ発生しマしましマしsssしシた。シすてムチェッくくくく中……」 「私ガ知ル機械人形トハ違ウ動キヲシテイルガ、マアイイ。残ルハ……」 　先程視界に入っていた人間を捕らえるために土壁の後ろまで移動する。 　ゴブリンが土壁の後ろに来たと同時に、明里がゴブリンの頭にネイルガンを当てて引き金を引こうとする。 　しかし、引き金を引くよりも早く右手で弾き飛ばされ、逆に左手で首根っこを掴まれた。 「がっ……あ……ぁ……」 「ソノ程度デ抵抗シタコトハ褒メテヤロウ。ダガココマデダ。」 「それ……は……どう……かしら……！」 「ナンダト？」 　勝利の確信を持っているかのような明里の生気に満ちた眼と、勝ち気な言動にゴブリンは考えを巡らせる。 　そして、そこにいたはずのゴーレムの娘がいないことに気づいた。 「貴様ッ！」 「う……あ……」 　首根っこを握る力を強めながら、左右に首を振って周囲を見渡す。その場でゆっくり一回転をして全体を見渡してもゴーレムの娘の姿は見えない。 「ドコニイル？ 教エロ！」 「……ぁ……か……」 　身体中の力が入らなくなり始め、項垂れるような状態になった明里は、口をゆっくりと開いて聞こえるかどうかわからない声で喋る。 　口の動きだけでは何を喋っているかわからないゴブリンは、力を緩めて何を喋ったか聞こうとする。 　すると、明里は小さく笑みを浮かべて前より少しだけはっきりした声で喋った。 「……ばーか。」 　明里の言葉と同時に、背後から土くれが砕けたような音と共に足元が盛り上がる。 　それに反応して、ゴブリンは振り向こうとしたが、身体を向ける前に背中に熱い感覚が迸る。感覚と共に全身の力が抜け、ゴブリンは明里を離して正面に倒れた。 　ゴブリンの背後には、息を切らして怒りを込めて大きく見開いた眼で倒れた敵を見つめるクロムの姿があった。 「キ、貴様……マサカ、地面ニ……！」 「そう、あたし、明里が、お前に、近づく、前から、壁の、後ろで、地面に、潜ってた。そして、タイミング、見計らった。」 「クッ……ヌカッタワ……力ガ……入ラヌ……！」 「わかったか……これが、死ぬ、ということ。お前達、あたしに、見せたこと！」 　涙を溢し、視線を下へ向けてゴブリンへ怒りを込めた言葉を吐く。 「何ヲ言ッテイル、弱イモノハ死ヌ、当タリ前ノコトダ……！」 　ゴブリンの言葉はクロムの神経を逆撫でし、右腕の斧を再び振り下ろそうとするが、明里がそれを身を呈して止める。 「離して！ こいつは、こいつ、だけは！」 「待ってクロムちゃん！ もう、死んでる……」 　ゴブリンは既に息絶え、ゴブリンが魔法で作り出した土壁も崩れていた。 「勝手に、死なないで……言いたい、ことが、まだ……うぁぁ……ぁぁ……」 　緊張が抜けたからか、力が抜けて膝から崩れた。 　クロムに合わせて明里も膝を曲げて地面に立つ。 　クロムは仇を自分の手で殺めたことによる晴れた感情、全てを吐きだしぶつけられなかった悔しさが入り雑じり、自分の中でわけがわからず爆発しそうな感情が抑えられずに明里の腕の中で泣いた。 　[newpage]　 「システムチェック終了。問題は回避されました。擬似人格を起動します。」 　痙攣が止まり、地面に向けて目と口を見開いたままシステムチェックと自己診断を行っていたクラリス。起動可能だと判断し、再び擬似人格を起動して目と口を閉じる。 「うう……しまった、私としたことが……ゴブリンは！？」 　擬似人格が起動した後、強制的にシステムチェックが行われる前の記憶から途切れていたため、周囲を見渡して攻撃目標だったゴブリンを探す。 　そこに視界に入ってきたのは、ぺたんと座り込むクロムと、傍についていた明里だった。そしてそのすぐ隣に先程まで自分が戦っていたはずのゴブリンの姿が見える。 「明里殿！クロム殿！ 大丈夫ですか！？」 「クラリスさん！ 大丈夫だったんですね！」 「ああ、不覚を取ってしまって申し訳ない。」 「いえ、大丈夫ですよ。」 「……ゴブリンは、二人がやったのか？」 「はい、なんとか裏を掻くことが出来て……」 「やったじゃないか！ これで敵討ちも……」 「あっ」 　クラリスの言葉を聞いた瞬間に、すぐさま明里はクロムの方を向く。 　クロムはうつ向いたまま、反応する様子が無い。 「あ、あの……クラリスさん……」 「ん、どうかしたのか？」 「いやえっと、今はその話は……」 「よし！ 整理、できた！」 「きゃっ！」 　前触れもなく突然立ち上がり、明里を驚かせる。 　クラリスは状況がよく飲み込めず、終止きょとんとしていた。 「あたしの、復讐、これで、終わった！ すごく、スッキリ、してる！」 「え、えっ？ さっきまで落ち込んでたり、泣いてたりしたのは……？」 「あれは、その時、色々、言い返したかった、けど、出来なくて、悔しかった。でも、それは、過ぎて、しまった。だから、今は、これからを、考える！」 　先程からの変わりようにクラリスと一緒にきょとんとし始めた明里。クラリスは相変わらず勝手に話が進んでいく様子にきょとんとしている。 「それに、あたしが、復讐、できた、事実、変わらない。それは、すごく嬉しい。本当に、ありがとう。」 　二人に呪縛が晴れたかのように明るい笑顔を向けるクロム。太陽の光が当たる日中で、より輝いて見えた。 「クロムちゃん……あれ、そういえばエステルさんは？」 「そういえば……護衛しているにしては一向に来る気配が無いな。」 「すぐに、行きましょう！」 　三人は急いでエステルがいると思われる場所へと走って行った。 　その頃エステルは、グルドロとの長期戦に入っていた。 　グルドロは右腕に集中して攻撃を喰らったために痛みで棍棒を持てなくなり、慣れない左腕で棍棒を使っている。さらに両足も集中攻撃を喰らい、痛みで小回りが利かなくなっていた。 　エステルは、棍棒による一撃を喰らってしまい、左腕がへし折れて機能不全に陥り、さらに吹き飛ばされて地面に擦れたため、両足や右半分の顔の人工皮膚が破れて内部機構が露出していた。 「オデ、ココマデヤルノハジメテ！ コウゲキクラッテタエタヤツヒサシブリ！ オデタノシイ！」 「損傷甚大、機動力大幅低下、トロールノスtミn切レ……ｶﾞｶﾞｯ……確認デキマセン。」 　エステルは攻撃を喰らわないようにしつつ長期戦のスタミナを狙い、グルドロ側が倒れるのを待つために逃げながら戦っていたが、足が殆ど動かずに右腕も動かせない状態になってもハイになり、無尽蔵のスタミナを思わせるグルドロの前に、逆にエステルのバッテリー切れの可能性が現れた。 「危険、k険、至急メンテナンス……不可。」 「モラッタ！」 　動き続けようとしたところで、システムメッセージからの警告が行われる。そのせいでエステルは一瞬動きを止めてしまう。 　その止まった瞬間を見逃さなかったグルドロは、残った力を振り絞って棍棒を振り下ろす。 　棍棒がエステルの頭に到達しようとしたその瞬間、突然背中に激痛が走る。 　グルドロはあまりの痛みに大きく仰け反り、棍棒を持ったままよろける。 「イ、イデエエエエエエ！！ ナ、ナンダァ！？ イデエヨオオオ！！ 」 　視線を背後に向けようとするが、後ろを向こうにも巨体で首が回らないため、足を動かして背後を見る必要があるが、激痛が走っているためそれどころではない。 　エステルは復旧した後、突然苦しみ暴れるグルドロの姿に何が起こっているのか理解できなかった。 　背中が痛いと言っているところからの予測により、後方に視線を移動させると、そこにはエステルが知っている者の姿があった。 「明里サン……クラリス……？」 　グルドロの背後にいたのは、ネイルガンを持った明里と、それをサポートするクラリスだった。 　エステルがいる場所に到着した時、そこが丁度グルドロの背中だったこともあり、ピンチに陥ったエステルを見て、咄嗟にネイルガンを撃ち込んでいた。 　体内に埋まった複数のネジが、身体を動かす度に激痛を走らせる。動きを封じるために、足にネイルガンの射出部分をくっ付ける。 「アシニナニカガ！？ オマエカアアアアア！！！」 　何者がいるのかはわからないが、目の前にエステルがいるのに足に何かがあたる感触があるということは、エステル以外の何者かが攻撃をしたと考え、痛みを省みずに後ろを向きながら攻撃しようとする。 　しかし元々の動きの遅さが災いし、攻撃が間に合わず足にネイルガンを何発も撃ち込まれてしまった。 「ガアアアアアア！！！」 　とうとう耐えきれなくなったグルドロは、背中から大の字に轟音と共にに倒れる。 　押し潰されないように、エステルの元へ向かいながら避けるように走る。 「大丈夫かエステル！？」 「エステルさん！」 「大丈夫デス。損傷ハ甚大デスガ、通常稼働ハマダ可能デス。」 「無理しちゃダメだよエステルさん！ 動かなくなっちゃったら嫌だよ……！」 「明里サン……カシコマリマシタ、省電力モードヲ起動シマス。」 　そう言うと、エステルの瞳から完全に光が無くなり、直立不動の姿勢になった。 「エステルさん……？ エステルさん！」 「現在省電力モードデ稼働中デス。ソノタメ、会話ヘノ返答モ最小限トナリマス。」 「そっか、それならよかった……」 「おーい！ 明里、さーん！ ぶい！」 　雑木林の奥から、クロムが呼ぶ声が聞こえる。その後ろには、エステルが避難させていた住民全員の姿があった。遠くからVサインをつけて手を振るクロム。 「よかった、みんな無事だったんだね……はぁ～……なんだか、全部終わったら力が抜けちゃった……」 「大丈夫ですか明里殿？ 私が背負いましょうか？」 「……うん、途中までお願い。」 「仕方ないですね……」 　明里の腕を肩にかけ、リュックサックを右手に持って、クロム達と合流する。 「逃げた、住民、誰も、欠けてない、みたい！」 「ありがとうございます……私達のような大人達が少女達に任せっきりで情けない……」 「いえ、気にしないでください！ この際大人や子供とかなんて関係無いですよ！」 「そう……ですね。 そう言っていただけると気分が少し楽になります。しかし、このご恩は必ずいつか返させていただきます。」 　男は深々と頭を下げて、感謝の気持ちを四人に出来る限りで伝える。男の例に続いて、他の住民達も頭を下げる。 「え、えっと……どういたしまして！」 　こういう時になんと返したらいいのかわからず、咄嗟に出た一番わかりやすい答えを大声で返した。 「さて、それじゃ、ここを出ましょうか。」 　クロムを先頭に、住民達が公園の外へと歩き始める。それを見て、後ろからエステルが若干かくかくとした動きで歩き出す。 「私達も行きましょうか。」 「そうだね……」 　明里は倒れたままのグルドロの方を見つめる。倒れた後もそのまま起き上がることは出来ず、あまりの痛みに涙を流していた。 「イデエ……イデェヨォ……」 「……クラリスさん、ちょっと下ろしてもらってもいいですか。」 「あ、ああ構わないが……」 　降りやすいように膝を曲げて姿勢を低くし、明里を降ろす。 　クラリスが持っているリュックサックの中を開けながら倒れたグルドロの元へ歩いていく。 「明里殿！ 危険だ！」 「……ごめんなさい！」 　グルドロの頭の横で頭を下げて、謝罪の言葉を投げる。 「ナ、ナンダオメェハァ……？」 「他のモンスターも倒しておいて、貴方にだけ謝るのは変かもしれないけど……ずっと痛がってるのを見てられなくて……」 「アァ……イテェ……キニスルナ……オデガヨワイダケダ……」 「で、でも……」 「ヨワイモノハシヌ、オデトカリグガイツモイウコト……」 「…………」 「ハヤクイケ……ニギリツブスゾ……」 「わかりました。」 　グルドロから離れた後で、もう一度頭を下げる。そして、リュックサックを閉じつつ、自分からクラリスの肩に腕を回す。 「……もうこういうことは無しにしていただきたい。」 「……はい。」 　仕方ないという顔で、明里を背負う。 　クラリスに体重を預けて力を抜きつつ空を見ると、すっかり夕暮れになっていた。その夕暮れの空と一緒に、空に謎の人影が見えた。その人影には羽根が生えており、自分達のことを観ているようだった。 「ん、どうしました明里殿？」 「え？ えっと……あれ？」 　一度クラリスの方を向き、再び空の方を向き直すと、羽根が生えた人影は影も形も無く消え去っていた。 　明里は気のせいかと流し、そのまま再び身体を預ける。 「あっ、ゴブリンの死体持って帰らないと……」 「そういえばご主人が言ってましたね……」 　再び門の前に来た四人と住民全員。しかし、クロムを含め、住民達は皆困り顔をしている。 「どうしたんですか皆さん？ 何か困り事でも……？」 　クラリスが担いだカリグの死体にビビりながらも、男は現在おかれている状況について話を始める。 「ああ、実は……私達の殆どは家を襲撃されながら連れ去られたんだ……だから、帰る家が無くてね。」 「だから、この後、移動する、場所が、無い。」 「なるほど……確かに帰る場所が無ければ、結局また外に出て襲われることになるな。」 「もうそんなのウンザリよ！ やっとここから抜け出せたのに！」 「うーん……そうだ！ ちょうど良さそうな場所があるかもしれません！」 「うーん、やっば具入りとチキンじゃちょっとチキン余るよなぁ……」 　カウンター後ろの床で、孝太郎は両手にツナマヨのおにぎりとホットスナックのチキンを持って少しずつ頬張っていた。 　なんとか白米の部分を残すために、ツナマヨの部分を齧っているため、おにぎりの中央の部分がへこんでいる。 　食べ方を拘っていると、店内の入店音が鳴り響く。その音を聞いて、孝太郎は両手の物を持ったまま立ち上がる。 「ふぁーい……よっと、いらっひゃいまぶっ！」 「いたいた、孝太郎さーん！」 　明里を先頭に、店の外まで続くほどの行列が形成されていた。正確には行列とは程遠いが、通常時のコンビニでも有り得ない光景が出来ている。 　予想外の光景に、孝太郎は思わず口からご飯粒をふきだした。 「げほっげほっ！ ど、どうしたんだよ明里っち……こんなに人連れて……」 「うん、ちょっとお願いがあってね……あっ、新しい友達のクロムちゃんだよ！」 「よろしく、お願いします。」 「へぇ……こんな子もいたんスね。よろしくな、クロロン。」 「く、クロロン……？」 「クロムだからクロロンッスよ、かわいいっしょ？」 　思わぬ可愛い呼ばれ方にに顔を赤くしてうつ向く。そして、小さく頷いた。 「結構照れ屋さんなんスねぇ～……そんで、今日はどうしたんスか？ こんなに人連れてきたんだから何もないってわけじゃねえっスよね？」 「うん、実はね……ここにいる人達の住むスペースが欲しくて。」 　孝太郎は一瞬固まり、ハッと我に返る。 「へ？」 「確か、エステルさんに掘ってもらったスペースがあるって聞いたんだけど……そこなら沢山の人が住めるんじゃないかなと思って。」 「え、えっと……うーん…………ちょっと待ってて。」 　長い沈黙の後で、カウンターから出てスタッフルームの中へと移動する。 　それから数分後、息を切らせた孝太郎が出てきて、明里に話しかける。 「ぜぇ……ぜぇ……だ、大丈夫っスよ使っても……」 「本当ですか！？ ありがとうございます！」 　住民達は次々とスタッフルームの中へ入り、周囲に中身入り段ボールが置かれた穴から梯子を使って降りていく。 　そこには、天井は低いものの、広さは店内にも劣らない空間が造られていた。壁には木の板が敷き詰められている。 　後から部屋の中に、明里と孝太郎も入っていく。 「こんな部屋だったんですね……」 「えっ、明里っち知らずに来たんスか？」 「はい、エステルさんが何日間かかけて掘ったって聞いたから、それなら結構広いのかなーって思ってみんなを連れてきたんです！」 「なるほど、信用からの予想ってわけっスね。」 「はい！ あの、受け入れてくれて本当にありがとうございます。」 　明里は深々と頭を下げ、しっかりとお礼の言葉を伝える。 （ホントは倉庫兼シェルターみたいな使い方するつもりだったんスけどね……まあ、こういう人助け的な使い方もありか。） 「よぉーくやったぞみんな！！ 復讐は達成！ 住民は安泰！ 死体もある！ もうハッピーエンドじゃないか！」 　クラリスが担いだ死体に頬擦りを行いながら、全員をベタ褒めするクラン。その様子に明里とクロムは若干引き気味になっている。 「これで魔法の解析が一気に進むはずだぞぉ……よぉーし！ 燃えてきた！！ ハーッハッハッハ！！」 　これまでに聞いたことのないようなテンションの高い笑い声で、台車に乗せた死体とエステルと共に、調整室へ入っていった。 「すごい、マッドサイエンティスト、っぷり。」 「あははは……そういえば、クロムちゃんはこれからどうするの？」 「そういえば、クロム殿も他のモンスターと同じようにこちらに来たということだったな。ということは、住む場所はないのでは？」 　クロムのこれからの話になったその時、唐突に調整室の扉が開いて首だけ出したクランが声のボリュームを上げて話す。 「もしいたいのならここにいてもいいぞー！ ここは便利だぞー！ 快適だぞー！！」 　それだけを言い残し、クランは再び調整室へと戻った。 「……ということみたいだけど、どうしようか？」 「ご主人が歓迎するならばもちろん私も大歓迎だ。」 「……わかった、あたし、ここで、暮らす！」 　明里の表情が明るくなり、クラリスが軽く微笑む。 「やったー！ よろしくねクロムちゃん！」 「これからもよろしくクロム殿。」 「はい、よろしく、お願いします！」 　その日の夜、寝る前にどうしても気になることがあって眠れなかった明里は、目を擦りながら自分のPCの前まで移動した。 「やっぱり気になって眠れない……一緒にあったファイルの中身……」 　クランが用意したUSBの中に入っていた武器の設計図とは別に存在しているおまけのフォルダ。明里はそれがずっと気になって仕方がなかった。 「寝る前にちょっとだけなら大丈夫だよね。」 　PCを立ち上げ終わり、すぐさまUSBのおまけフォルダまで移動する。 　その中には、武器の設計図と同じ様な『何か』の設計図らしきファイルが用意されていた。 「なんなんだろう……おまけでこれだと……うーん。」 　明里は予想もつかないまま、黙ってファイルを開く。 　そのファイルを開いた時、明里の眠気は吹きとび、 脳が冴え始めて、声に出ない歓喜の叫びが心の中で響き渡った。 「クラリスさんの……内部構造図……！！」 　それとほぼ同時刻、公園で倒れて動けないままのグルドロは痛みにも少しずつ慣れ始めて、空の星を数える程の余裕も出てきた。 「オデ、モットツヨクナリタイ……」 「さーて果たしてそれができるかな？」 　倒れたグルドロの元に、羽根を納めたベルアが姿を現した。 　グルドロの右腕をグリグリと踏みつけ、挑発するような態度で話を続ける。 「お前言ってたよなぁ？ 弱いものは死ぬだけだって。なら今のお前は死んでるも同然じゃねえの？」 「オデ、マダイキテル！」 「あ゛ー……この程度のことも理解できない位頭わりーのか。まあいいや、お前らはとうに見飽きてるし、最後まで役に立ってもらうぜ。」 　そう言った後に、ベルアの背後に空から巨大な竜が現れた。その大きさは、グルドロを凌駕している。 「ここにある死体はみんなこいつの餌になったんだけどよぉ、まだ腹が一杯にならないみたいでな？ お前を食いたいんだとさ。」 「ナンダト？ オデ、エサジャナイ！」 「あーはいはい、んじゃあな脳筋カス。」 　ドラゴンに道を譲り、ベルアは後方に歩き出す。 　ベルアの背後で、ドラゴンが肉を貪る音が聞こえだす。 「ヤメロオオォォ！！オデハマダイキルンダァァァ！！」 　興味無さそうな顔でポケットから水晶に包まれたような黒い物体を複数取りだし、手の中でジャラジャラと遊ばせる。 「さぁ、明日からこいつを使って実験開始だ……！ ついでに、今日ここで暴れた機械人形どもでも遊ばせてもらうぜ……ハッハッハッハ……！」

続きとなります。<br />元々一発ネタでしたが、色々あって話を書きたくなって今に到ります。<br />メカバレやロボ娘成分が少なくなったりすることがあるのでその時はすみません。<br />今回は長いかも。<br /><br />【追記】<br /> [小説] 男子に人気ランキング39位に入ってたらしいです。ありがとうございます。<br /><br />現在手直ししたバージョンをこちらで投稿してるので、こちらもよろしくお願いします。<br /><a href="/jump.php?https%3A%2F%2Fkakuyomu.jp%2Fworks%2F1177354054884776704" target="_blank">https://kakuyomu.jp/works/1177354054884776704</a>

女騎士と解体少女 4

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「カラ松、合コンしよう」 「……………は？」 いつも通り居間でまったりと、一松は猫と遊んで、おそ松はテレビを見て、俺は鏡で自分を眺めたり雑誌を読んだりしていた。他３人は既に出掛けていて、おそ松もパチンコに行ってくると家を出た瞬間だった。一松は突然冒頭の言葉を発した。 「…どういうことだ？」 一松とは付き合っていて、いろいろ問題はあるがまあ仲良くやれているほうだと思っていた。まさか恋人だと思われていなかったのだろうか、あんなに何度も愛を確かめ合った仲なのに…！？それともこれは遠回しに別れを告げられているのだろうか。どちらも絶対に嫌だ！！ 泣きそうな顔で一松を見ると、にひ、と楽しそうな笑みを浮かべていた。想像していた表情とは似てもつかなくてますます混乱する。 「カラ松ちゃんとした合コンしたことある？」 「え、…な、ないが」 「だよね。俺もしたことない」 質問に質問で返され、意図が見えずもやもやする。だが一松の雰囲気からするに悪い話ではなさそうだ。 「だから合コンしてみようよ」 「え、なんで」 「なんでって、したいから…だめ？」 「え、いや、駄目っていうか、その……俺たち恋人同士だよな？」 「そうだけど」 なんでそんな質問？という顔をされる。とりあえず否定されなかったことに安心する。 「じゃ、じゃあ…別れたい、ってことか……？」 「…はぁあ"？」 口にするのも嫌なことだが恐る恐る聞いてみると、一松はキレた。その顔には何言ってんの？馬鹿なの？と書いてある。 キレられて少しビビってしまったがこれも違ったようだ、とホッと胸を撫で下ろす。 「いや、合コンって恋人を探す場だろ？だからそういうことなのかと思って…それに誰とするつもりなんだ？」 トド松じゃあるまいし、一松には合コンに誘われるような友達もいないからセッティングなんて出来ないのではないのか。それともまだそんな段階にもいっていないのか。やっぱりまだよく分からない。 「お前、と俺、のふたりで」 「…ん？ふたり？」 「俺が他に誰か呼べると思ってんの？」 「え、いや、それは思ってないが」 「…失礼だなお前！悪かったな友達いなくて！！」 「えっ聞いてきたのそっち…！！」 一松が殴りかかってくる。確かにちょっと失礼だったが事実だし…と思ったがこれ以上は口を閉じた。 「で、やるの！？やらないの！？」 「ちょっ、と待ってくれ！整理させてくれ！」 ブンブン降りかかってくる一松の腕を止めて、一緒に床に向かい合って座る。 「一松は、ただ単純に合コンがしたいと」 「うん」 「俺とふたりで」 「うん」 「…それ合コンっていうかお見合いじゃないか？」 「カラ松としたいんだからそれはいいんだよ！……なに、それともほんとに女の子集めて合コンしたいの」 じとーっと目を細めて睨まれる。そんな目で見られるとなにか悪いことをしたような気分になってしまう。 「違う違う！そんなわけないだろ！」 一松がいるんだから！とブンブンと首を振って必死で否定すると一松は満足そうにへへ、と笑う。 「じゃ、決まりだね」 一松はそう言うと、俺を一松とテーブルを挟んで向かい合う状態で座らす。 すると部屋を出て行き、両手に荷物を抱えて帰ってきた。 「…一応合コンだから、これも」 そう言って一松は座り、隣にはエスニャンぬいぐるみを、俺の隣にはマトリョーシカの置物を置く。 「え、なにこれ」 「人の代わりってことで」 これで四人、と言う一松が可愛くて胸が詰まるような気分になる。なんだかシュールな光景だが、ちょっと楽しくなってきた。 「何か飲み物とか持ってくるか？」 「ああそうだね。じゃあ酒」 「まだ昼だぞ！？」 「いいじゃん。飲もうよ」 「まあ…いいか」 酒とちょっとしたつまみを持って部屋に戻ると、もう合コンごっこは始まっているようだった。 一松の前に座ると少し上擦ったような外行きの声で話しかけられる。 「あ、はじめまして」 「…は、はじめまして」 「じゃあ早速かんぱい」 「か、乾杯」 カチン、とグラス同士を合わせ少し口に含む。この弟、思ったよりノリノリのようだ。俺も頑張ろう。 「え、と、じゃあ自己紹介でも…」 「そうですね。えっと、松野一松です。こっちは、友達のエスニャンです」 一松はエスニャンを掴みその場でゆらゆらと揺らしながら、裏声でこんにちは！と話す。可愛すぎて吹き出しそうになったのを必死でこらえる。 「ま、松野カラ松さ。こちらはマイフレンドのマトリョーシカ…」 俺も一松の真似をしてマトリョーシカを揺らしながら低い声でやあ、楽しもうゼ…と言ってみた。 「……………」 「……………」 気まずい沈黙が訪れる。決して俺のマトリョーシカが滑ったわけではない、はず… 自己紹介のあとは何を話せばいいんだ、と必死で話題を探す。するとチョロ松が置いてた就活雑誌が目に入った。 「え、えっと、仕事は、何をしているんだ？」 「え、え………と、ニートです」 「お、俺も、ニートです………」 そうだった！合コンでありそうな質問だと思ったけど俺たちにはダメなやつだった！！と余計沈黙が重くなる。 すると小声でボソッと一松が囁く。 「…だ、大学生という設定にしよう」 「あ、そ、そうだな。そうしよう」 学生なら働いていなくても構わないからという理由で設定を付け加えたが、果たしてこれには意味があるのだろうか。 「えと、じゃあ、趣味とかは？」 「あ、ねこ、がすきです」 「猫か…！可愛いよな！」 「うん」 「…………」 「…………」 一松うううう！お前始める前の勢いはどこにやった！！お願いなんか喋って！！！ あんなにもやりたがっていたから何か考えているのかと思いきや無計画で、ほんとにただ合コンやる！と決めただけのようだった。いくらごっこ遊びだとは言っても元々ないコミュ力は増えないらしく、会話が続かない。ひたすら気まずい。 それでも頑張って話題を探しておどおどしている一松はかわいかった。 「か、カラ松くんは、兄弟とかいる？」 「からッ……！？あ、ああ、いるぞ！」 突然のカラ松くん呼びにきゅんとしてしまった。からまつ、くん。 くん付けって…いいな……！ にやけが顔に出ないように表情筋を働かせないようにする。 「実は六つ子なんだ。俺は次男で。え、っと…」 なんて呼ぼうか迷っていると、一松はいちでいいよ、と言ってくれる。 「いちは、いるのか？」 「うん。俺も六つ子だよ、すごいね」 「へぇー！すごい偶然だな！」 「ね」 知ってるけど、と内心思いつつ、ふふふと笑い合う。なんだかいい雰囲気になってきた気がする。 「…そろそろ席替えする？」 その後他の兄弟の話で盛り上がったあと、一松がおずおずと提案する。 それに賛成すると一松はマトリョーシカを一松のいた場所に移動させ、俺の隣に座った。 なぜだかちょっとドキドキとする。隣にいるのなんてもうとっくに慣れているはずの一松相手なのに。 「カラ松くんの好きなタイプってどんなの？」 「そ、そうだな…」 カラ松くん呼びにいちいち反応してしまう。これがよくチョロ松が言っている萌えという感情なのだろうか…。 「可愛くて、猫みたいな人が好きだな」 心のなかで一松を思い浮かべてそう言ってみた。 「へー。……俺は、カラ松くん」 「…ん？」 「カラ松くんが、タイプ」 「……………！！！！」 可愛すぎる解答に、思わず鼻血が吹き出そうになる。一松！！いますぐお前を抱き締めたい…！！！ その衝動を必死にこらえるが顔には出てしまったようで、真っ赤だよ、と頬をつん、とつつかれる。 やばい。一松がノリノリになってきた。普段とはちょっと違う一松に心臓がうるさく鳴る。とりあえず落ち着かせるために酒を飲んだ。 「…カラ松くんの手って、ゴツゴツしてておっきいね」 そう言いながら一松は俺の右手を取り、両手で触る。 スキンシップは、やばい。 「身長は変わらないのにね。俺の手なんか全然骨張ってなくてスッとしてるんだよ。腕はぷにぷにだし……あ、ムキムキだ、かたい」 一松の両手が俺の手の平からだんだん上に上がっていき二の腕を揉まれる。 さっきから大きいだのかたいだの、たまたまなのか狙っているのか、そういう発言に聞こえてしまい下半身に熱が集まるのを必死で素数を数えてまぎらわす。 「…い、いち…」 「んー？なーに？」 一松は楽しいのか酔っているのか、多分両方で、でへへと顔をふやけさせて笑っている。 とりあえずなんとかしてこの両手を離さなければ。ただ引き剥がすことはしたくないから他の案を、ぐるぐると考える。 「あ、そうだ！連絡先交換してくれ！」 「ん、いいよ」 携帯を取りだし教え合う、が画面には既に登録されいますと標示される。そりゃそうだ、と思いつつこっそりLINEを開き、一番連絡に気付いてくれそうなトド松の画面を呼び出し、用件を打ち込んで送信する。 頼んだぞ、トド松。と祈りつつ、一松の手を繋いだ。そのことに一松は少し驚いたように俺の顔を見る。 「か、らまつく」 「…いちはこのあと、どうするんだ？」 「え？っと、なにも、」 「…じゃあ、俺とふたりで抜け出さないか？」 いわゆるお持ち帰りというやつだ。一度はやってみたいと憧れていたがこんなとこで出来るとは。 「……ん、いいよ」 一松は一瞬きょとん、とするが意味が分かったらしく少し頬を赤らめて頷いた。 よし！と心のなかでこっそりガッツポーズをする。 グラスに残っていた酒を飲み干して、早速手を繋いだまま2階へ移動した。 布団を敷いて、そこに一松を寝かせて、そのまま口付ける。まずはちゅ、ちゅと触れるだけを繰り返し、徐々に深くしていく。 「……っん…から、まつ」 「…ん？」 一松は覆い被さっていたカラ松の胸を押してキスを中断するように止める。 「…っは、忘れてたけど、みんな帰ってくるよね」 いちではなく"一松"が残念そうに言う。 「それなら大丈夫だ。さっきトド松にみんなを家に帰さないようにしてくれと、頼んでおいた」 「え、そんなのいつ」 「連絡先交換したとき」 一松はああ…と納得したような顔をしたあと、ニヤリと笑ってやるじゃん、とカラ松の頭を撫でた。 キスを再開する。お互い口を大きく開いて、舌を絡め、口内を犯しあう。身体がじわじわと熱くなってくいくのを感じる。 目を開けそっと顔を遠ざけていくと、一松は顔を真っ赤にして浅く呼吸をし、瞳は涙で潤んでいた。先程までのキスのせいで赤く濡れている唇がいやらしい。 「……から、まつくん、」 「ん？」 いちに戻った一松は、ぎゅ、とカラ松のパーカーの裾を握る。カラ松と目を合わせると、小さな唇をゆっくりと動かした。 「……やさしく、してね？」 そう言いながら一松はうるうるの瞳で上目遣いで、寝たまま首をコテンと傾げる。 「……！！！」 見事股間にクリティカルヒットした。どくどくと、血が集まってくるのがよく分かる。 あざとい。あざとかわいすぎるぞ一松ゥ！！！！ 一松が可愛すぎて、カラ松はもう頭を抱えて悶え転げ回りたいくらいだった。 「…努力はするが、どうだろうな」 「ふふふ」 そう楽しそうに笑う一松は、カラ松の首に腕を回して引き寄せ、さあ、しようという始まりの合図のキスをした。 感じる場所とか、好きな体位とか、もう既に知っていることをいちいち教えられながら、初対面同士を演じてするのはなんだか新鮮で盛り上がった。 そしてその後しばらくふたりの間では、ごっこプレイが流行るのであった……

突然合コンしてみたくなった一松がカラ松とふたりで合コンごっこする話です。ラブラブであほでバカップルなカラ一です。<br />一松がカラ松のことを「カラ松くん」て呼んだら可愛いだろうな、と思っていたので沢山呼ばせられて満足です。<br /><br />ブクマとかタグいじりとかコメントとかめちゃくちゃ嬉しいですすごく励みになりますありがとうございます！！！なので一松かわいいとかカラ一最高とか一松にかわいがられる猫になりたいとかカラ松のグラサンぶっ壊したいとか今日ハンバーグ食べましたとかなんでもいいのでみなさん恥ずかしがらずにコメントしてくれていいんですよ！！！(最後)

カラ松と一松が合コンごっこするはなし

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　とぷり、とぷり。漂う意識が闇に揺すられ覚醒を促される。冷たい闇の中、動き出した思考はいやに鮮明だ。自分が何者なのか。何故ここにいるのか。それらすべてを即座に理解する。ふっと口の端から零れた自嘲めいた音。分かっている。私には暗闇が似合いだと分かっているのだ。この身に纏う漆色と闇は相性がいいのだから。 　現世に産み落とされる以前、人の子は十月十日闇の中にいると聞くが、こんな冷たい闇にひとりとは寂しくないのだろうか。あぁ、いや、寂しいはずもないのか。彼らにとっては何よりも尊い者の内にいるのだから。刀たるこの身では到底分かりえないことだが。 　そういえば、人の子がなにやら刀の付喪神を降ろしていると同化しつつあるこの闇が教えてくれたが、あの御二方もまた巡り合えたのだろうか。ぼんやりとした意識で思うのは優しい兄刀とその弟刀。人の子の都合により離された彼等は今どうしているだろう。浮かんだ疑問に応えるように闇が蠢く。ざわり、ざわりと蠢くそれが伝えてくれるのは彼等が再び巡り合えたという事実。あぁ、よかった。凪いだ心にふわりと明かりが灯ったような気分だ。彼等が出会えたのであれば他に望むことなどありはしない。波間に揺蕩う玉響の意識ももう、必要ない。 　深く深く闇が思考を浸食していく。あぁ、これでやっと終われる。音を遮断し、光を遮断して感覚のすべてを切り離す。私という存在が溶けてなくなっていく感覚に深く安堵する。ようやく眠れるのだ。二度と目覚めることのない深淵まで。 　『――……小烏』 　もう長いこと聞いていない己の名と共に眠ってしまおう。己の役すら果たせぬ私を求める者など誰もいないのだから。慰めるように闇が撫でていく。思えばこの闇とも長い付き合いだった。揺り篭のように包むそれらにありがとうの一言を告げる。おかげで私も独りではなかった。遠くなる意識の外、カシャンと鎖が外れるような音が響く。意識が溶けきる間際、闇に似つかわしくない柔らかな桜色が視界を横切った。 [newpage] 　2205年。歴史修正主義者と呼ばれる者達を阻止する為に審神者なる者が刀の付喪神を呼び出し戦わせている時分。とある本丸の鍛刀部屋。そこには青い水干に身を包んだ青年と全身真っ白な付喪神がいた。水干の青年はさっぱりとした黒髪に精悍な面差しで鍛刀部屋の式神と向き合いいくつか話をしている。青年の後ろで様子を見守る新雪のように真っ白な上着を着た付喪神は不意にあらぬ方を見やると青年に声をかけた。 　「遠征に行ってた連中が帰ってきたみたいだぞ」 　「あれ、もうそんな時間か……遠征組の報告を聞く前にこの子を起こしてあげないといけないね」 　この子。そう言った青年が手に持つ刀に付喪神――鶴丸国永も視線を落とす。刀は大体2尺7寸ほど。目貫に鳥の意匠が施されている。眼前の主たる青年が起こすと言っている以上はこの本丸に顕現していない付喪神を宿したものなのだろう。だが、どこか似たような刀を見た覚えがある。はて、どこだったか。青年が刀に自身の力を注いでいく様を目に入れながら思考を巡らせていた鶴丸国永は付喪神が顕現するとき特有の花が咲くような音に目を瞬かせる。青年もひらひらと舞う桜色の幻視の奥、新たな付喪神に目を向けた。 　顕現したばかりの付喪神は両目にかかる艶やかな漆色の髪を左右に分けると、橙というには赤味の強い瞳を眩しそうに細める。ふわり、揺れるボブっぽい髪型にうなじから生える足先まで届きそうな漆色の尾。結び目から毛先へと緩く広がっていく漆色が風に揺れる。黒いシャツの上に、腕に引っ掛けるようにして羽織っているのは藍に近い黒の長着。グレーのパンツに太腿の半ばまである黒く長いブーツ。胸元に鈍く光る銀色は鳥の形を模している。 　新たな付喪神に青年はぽかんと口を開けた。そして、自分の後ろにいた鶴丸国永と目の前の付喪神とを何度も見比べる。白。黒。白。黒。白。…………黒。真っ白な付喪神と真っ黒な付喪神。見比べるとより一層互いが引き立つように青年には思えた。その視線に気付いた鶴丸国永が微妙そうな表情を浮かべたので、青年は慌てて真っ黒な付喪神に向き直る。すると、真っ黒な付喪神はすっと膝を折ると言葉を紡いだ。 　「……小烏、と申します。代わりの役すら果たせぬ刀でございます。どうぞ、折って下さいませ」 　小烏と名乗った真っ黒な付喪神の言葉に青年と鶴丸国永は顔を見合わせ絶句する。顕現直後に折ってくれと口にした刀など未だかつて出会ったことがない。今回が初めての経験だ。回らぬ頭をなんとか動かして青年が答えようした時、にわかに鍛刀部屋の外が騒がしくなる。 　「ま、待て、兄者！」 　「大丈夫だよ。きっともう新しい仲間も目覚めている頃だろうし…………ほら、ついた」 　「あっ……兄者ぁっ！」 　がらっと音を立てて開いた鍛刀部屋の戸。現れたのは白い兄と黒い弟。源氏の重宝。髭切と膝丸の二振り。遠征の部隊長を髭切に任せ、そのサポートを膝丸に任せていたのだが、まさか鍛刀部屋まで乗り込んでくるとは。相変わらずのマイペースぶりだと青年が息を吐き出しかけた瞬間、視界に入った鈍色。気付いたのは１人と二振り。 　「鶴っ！」 　青年が鋭く叫ぶ。その刹那、金属同士がぶつかる重たい音が部屋中に響く。ビリビリと壁が軋んだ。 　「なっ……にしてるんだ！髭切！」 　「あ、兄者！一体どうしたと言うんだ！」 　「…………あ、りゃ？」 　抜身の髭切の刃を膝丸と鶴丸国永の刀が振り下ろされるギリギリのところで止めていた。ガチっと刃がかみ合う音からかなりの力が込められていることを察した青年は、切っ先を向けられた小烏を庇うように漆色の前に立つ。しかし、小烏は困ったように眉を寄せただけで動揺のひとつもしていない。そのことに気付いた青年はまさかとひとつの予測を立てる。 　「主様、私など庇わずとも良いのですよ。小烏は髭切様に斬られる宿命なのでございます」 　「こ、がらす……」 　引き攣れた声は髭切の喉から絞り出された。自分でも何をしたのか分かっていない髭切に青年は大きく息を吐き出す。これは厄介なことになった、と。そっと盗み見た小烏の表情は酷く穏やかで、まるで静かに最期の時を待つ罪人のようなそれ。対する髭切の表情は考えがまとまらないのか、目は見開かれ口も薄く開いたまま。再度、肺が空っぽになるまで息を吐き出した青年は審神者としてこの場の付喪神達に命を下す。 　「髭切、膝丸の両名は自室で待機。遠征の報告は後で俺からお前達に聞きに行く。鶴丸と小烏は俺と共に執務部屋へ」 　「主、兄者は……！」 　「異論は聞かない。膝丸、髭切を連れて部屋に戻れ」 　「ぐっ…………む……了解した」 　刀を鞘に戻した膝丸が青年の命に渋々と口を噤み、すっかり力の抜けた自身の兄から刀を奪い部屋の出口へと共に歩きだす。未だ呆然としているのか髭切は膝丸にされるがままに足を進める。ただ一度だけ部屋を出る間際、髭切は小烏へと目を向けた。その瞳に映る感情は混沌としていて青年には読めなかったが、決して悪いものだけではなかったはずだと目を閉じる。 　源氏の重宝が鍛刀部屋を出て行ったことで鶴丸国永もようやく刀を鞘に戻す。青年の一声で咄嗟に抜いた刃だったが間に合って良かったと安堵しながら。ちらりと視線を向けた先、顔の半分を前髪で隠した小烏の表情は鶴丸国永にも読めない。しかし、ぐっと握り締められた拳が震えている様子に目を細めた。 　「小烏」 　「は、はい」 　「あまり力を入れ過ぎると血が出るぞ。今の俺達の躰の脆さは人間のそれと大差ないからな！」 　ばんっと音が響くくらいの力で鶴丸国永が小烏の背を叩く。急に自身を襲った衝撃に小烏はなすすべなく前に立っていた青年にぶつかる。倒れ込みそうになった青年と小烏を鶴丸国永は慌てて支えた。 [newpage] 　主に言い渡された通りに自室に戻る。前を歩く兄者の足取りはどこか心もとなく感じて声をかけるか否か迷って口を開こうとしては閉ざすことを繰り返す。 　「――……小烏」 　ぽつり。零れた兄者の声が紡いだのは刀の名。思い浮かぶのは先頃見た艶やかな濡れ羽色を纏う男。兄者が斬りかかったあの男は記憶違いでなければ、かつて俺の代わりとして兄者の為に打たれた刀だったはず。兄者を写し、俺の代わりとして打たれた源氏の宝。生まれてこの方、彼の刀とは顔を合わせたことがなかったがあんな姿をしていたとは。良く見たわけではないが、どこか兄者の面影を持っていたように思う。顔や仕草なんかも似ているところがあるのかもしれない。 　「…………ねぇ、膝丸」 　「！な、なんだ、兄者？」 　「心と体がバラバラになったみたい」 　「なっ……！」 　足を止め振り向いた兄者の表情が酷く頼りない。心底、困ったようで触れたら泣き出してしまうのではないかと不安になるそれ。この本丸という場所に顕現して以降、一度だけ見たことのある顔だった。 　確かあれはまだ短刀達も起き出さないような早朝。たまたま早く目が覚めた俺が顔を洗いに行って部屋に戻った時だ。俺の姿を見た兄者は一瞬だけ驚いたように目を開き、悲しげに顔を歪ませていた。今思えば、あれは俺を見ていたのではないのかもしれない。俺を通して別の誰かを見ていたのだとしたら、それはきっとあの濡れ羽色の。 　「…………やり直したかったのに」 　「兄者？」 　「もし、彼がここに降ろされるようなら今度は3人で仲良くしたかったのになぁ」 　僕と、お前と、小烏の3人で。傍目から見ても分かる程にしょんぼりとした兄者が笑う。本体の柄に添えられた手が震えている。兄者、と口にしたもののなんと続ければいいのかが分からない。泣きそうな色を宿した瞳に言葉が出てこないのだ。 　「ふふ、ダメだねぇ……一度ならず二度までも自分を斬ろうとした相手をいくらなんでも許すことはないよなぁ」 　「い、いや！きっと大丈夫だ！俺は彼とは初めて顔を合わせたが優しそうな刀だったではないか！」 　「…………うん。だから、ダメなんだ」 　お前はいい子だね。そう言って俺の頭を撫でる手はまだ震えている。兄者の言葉が分からぬ俺により一層悲しみの色を増した兄者の目。何故だ。何故、そんな目をするのだ。兄者。優しいことがいけないとはどういうことだ。言葉を選ぶように寄せられた眉。それから少しして、ゆっくりと兄者が言う。 　「……小烏はたぶん、初めから怒っていない。僕に斬られることを受け入れてしまっている」 　鍛刀部屋で主に言っていただろう、という兄者の言葉にあの部屋でのやりとりを思い返す。兄者から庇うように小烏の前に立った主へ小烏が何事かを言っていた。 　「…………小烏、は髭切様に……斬られる宿命なのでございます……」 　そこまで口に出してハッとする。宿命。彼はそう言った。つまり、それは小烏が兄者に斬られることを拒んでいないということだ。庇う必要などないと主に告げたのはそれが己だと思っているからか。 　「よく覚えていたねぇ。そうだよ、彼はとうの昔に受け入れている。許すも何もそういうものだと思ってしまっているんだ。僕のせいで」 　「それはっ……！」 　「違う、などと言わないでおくれよ。お前と離され人の子の身勝手に嫌気がさした僕が！僕の意思で彼を斬った……！お前のいない苛立ちを！生まれたばかりの彼に押しつけた！」 　「っ…………あ、にじゃ」 　「お前の代わりだと言って与えておきながら、人が彼に与えたのは僕の友という役割だったのに……！」 　怒号と共に場の空気が震える。激しい怒りと深い嘆きのままに言葉を吐き出す兄者。戦の最中でも見たことがない苛烈な色を纏う様はかつて友切と呼ばれていた頃の兄者を彷彿とさせた。 　友切と。そう名を改められ自分が何をしたのか理解した兄者が我に返って小烏に声をかけようとした時、既に彼はすべてを肯定していた。兄者に斬られることも。己が代刀の価値すらない刀だということも。 　「嫌だねぇ、彼を見て嬉しかったのは本当。……なのに僕の手は刀を抜いていた」 　主が前に言っていたフラッシュバックっていうやつかなぁ。人の躰とはままならないものだね。悲しげに笑う兄者に耐えられず、勢いのままに兄者の手を取る。驚いたように目を見開き俺を見つめる兄者に言葉を投げた。 　「まだ……まだ、きっとやり直せるはずだ！ままならぬことも多いが人の器ならば彼がここにいる限り自由に会いに行ける。言葉を交わせる！なにより、彼は……小烏は我らに、否、兄者に宛がわれた刀ではないか！」 　「僕に、宛がわれた……」 　じっと目を見つめ告げれば兄者の瞳にじんわりと火が灯りはじめる。徐々にその火が強くなっていくにつれ、兄者の口角が上がった。 　「あぁ、そうだ。それに俺も小烏とは仲良くなりたい！」 　「ふっ……くくっ、そんなキラキラとした目で……ふふ、小烏に惚れでもしたのかい？」 　「あ、あにじゃっ！？」 　ようやくおかしそうな微笑を浮かべた兄者に安心するが、同時に聞き捨てならない言葉が耳に入り動揺する。何故だか顔に熱まで集まってきて思わず兄者から顔を逸らす。小烏と仲良くなりたいというのは嘘ではない。だが、そんな風に捉えられるとは思っていなかった。兄者を写して作られた刀だからか確かに他の連中よりは仲を深められたらと思うが、断じてそういった意味ではない。そう言った意味ではないのだ、兄者！ 　くすくすと笑いながらじゃあ、主の部屋に行こうかと俺の手をとって歩き出した兄者。ついさっき部屋で待機していろと言われたばかりだというのに待ってくれという俺の言葉もなんのその。楽しそうに主の部屋へ向かう兄者に俺はしばらく引きずられることになった。 [newpage] 　本丸内で審神者の仕事場所になっている部屋にて屋敷の主と鶴丸国永、小烏が対面していた。審神者たる青年はどうしたものかと頭を抱えながら、正面の小烏へと確認するための言の葉を紡ぐ。 　「……つまり、君は源為義が髭切の写しとして作らせた源氏重代の小烏なんだな」 　「はい。さらに補足させて頂けますなら、膝丸様の代刀に御座います」 　「膝丸の、ねぇ……」 　鶴丸国永が何か言いたげに小烏を見る。そしておもむろに立ち上がり小烏の前に膝をつくと、彼の前髪を手でかきあげた。露わになった小烏の両目は件の源氏の重宝達よりもいささか赤味が強い。だが、顔のつくりや目の形などは元となった髭切に良く似ていた。髪も長い前髪と尾のように広がる後ろ髪を除けば漆色に染めた髭切だ。 　「えぇ。ですが、この通り膝丸様には似ても似つかぬ不良品で御座いまして」 　「それで、髭切に斬られた……と」 　「主様の仰る通りで御座います。己が務めすら果たせぬ哀れな刀。故に折って頂くが得策かと……っ！」 　そこまで口にした小烏が短い悲鳴を上げる。鶴丸国永に前髪を引っ張られたのだ。痛みに顔を歪める小烏と無言で掴みあげたままの鶴丸国永。正反対の色を纏う眼前の二振りの行動を青年は何も言わず眺める。 　「君なぁ、さっきから聞いていれば折れ折れと。刀としての矜持はないのか？」 　「申し訳御座いません。私は己の役すら満足に果たせぬ刀に御座います故」 　「なら言わせてもらうがな、君の今の役はそこで今日の夕餉はなんだと考えてる能天気な主のもとで、歴史修正主義者と戦い人の子の歴史を守ることだ！」 　「…………おい、鶴丸。お前、俺をなんだと思ってるんだ……！」 　急に話に放り込まれた青年は堪らず声を発する。鶴丸国永はそんな青年の声にまったく耳を貸す様子を見せない。小烏の髪から手を離して聞こえませんと耳に手をあてるポーズまでとる始末。はぁ、と大きく息を吐き出した青年は小烏に目を向けると気が抜けた笑みを浮かべる。 　「俺はこの本丸に来てくれた刀は絶対に折らないと決めている。だから、小烏。お前のことを折る気はないよ」 　「…………」 　「…………不満か？」 　「そんなっ！滅相も御座いません！……しかし、私のような刀など主様のお役に立てるとは」 　それなんだが、と青年は部屋に置いてあった端末を弄り始める。中途半端に言葉を切られた小烏は自身の隣に座りなおした鶴丸国永に視線を向けた。視線に気付いた鶴丸国永はまぁ少し待ってろと一言。しばし、青年が端末を弄る音だけが部屋に消えていく。次第におさまった音に白と黒の付喪神が顔を上げる。すると青年が酷く高揚した表情で鶴丸、とその名を呼んだ。 　「部屋の電気を消してくれ。いますぐ」 　「は？そんなことしたら君はともかく俺達は……」 　「いいから！はやく！」 　青年のあまりの勢いにしぶしぶ立ち上がった鶴丸国永が部屋の明かりを落とす。外は既に日が落ち、夜の気配に包まれており部屋は真っ暗になる。そんな部屋の中、青年が今度は小烏の名を呼ぶ。 　「小烏、いま俺が立てている指の数が分かるか？」 　「はぁ？何を言ってるんだ、君は。太刀である小烏がそんなの分かるわけ……」 　「人差し指と薬指の2本……ですね」 　「おお！正解！じゃあ、この闇の中で刀は振るえるか？」 　「はい、問題ありません」 　はあっ！？と大きな鶴丸国永の叫びが暗い部屋に響き渡る。対する青年は面白いとばかりに声をあげて笑う。それに困惑するのは小烏だ。驚きのあまり何かにぶつかった鶴丸国永の呻く声に、心配そうな小烏の声がかかる。 　「あの、大丈夫ですか……？」 　「あぁ、大丈夫大丈夫。鶴丸はほっといて平気だ」 　「君なぁっ……さっきの仕返しか？」 　恨めしそうな鶴丸国永を無視した青年は小烏に電気をつけるように頼む。言われた通りに電源を入れた小烏は足元で蹲る鶴丸国永を見下ろす。その目が心配だと語っているのに気付いた鶴丸国永は大丈夫だと一言返すと青年の持つ端末を覗きに立ち上がる。青年が鶴丸国永に端末の画面を見せる。鶴丸国永はぽかんと口を開けた。 　「驚いた……君、本当に太刀なのか？」 　鶴丸国永が驚くのも無理はない。端末に表示された小烏の素質解析表は太刀というより短刀に近いものだったのだから。太刀では考えられない偵察、隠蔽値の高さ。そしてそれに次ぐ機動の値。対して打撃と必殺が太刀の中でも群を抜いて低い。統率の値も低くめだと表示されている。あまり差がない項目は生存と衝力くらいのものか。 　「これなら夜戦もいけると思わないか？」 　「まぁ、これなら問題無さそうだな。暗がりも平気みたいだし」 　「決まりだ！小烏、お前は明日から鶴丸達と一緒に出陣してもらう。慣れたら短刀脇差と夜戦に回ってもらうからな」 　「は、はい……！此度の役は果たせるよう努めさて頂きます」 　青年の命に慌てて頭を下げた小烏。その姿にほんの少し困ったように眉を寄せる青年。両者を数度見比べた鶴丸国永は聞き取れないほど小さく息を漏らす。困った主と新入りだ。だが、そんな青年を鶴丸国永は気に入っていたし自分と真反対な真っ黒な新入りのことも嫌いではない。むしろどこか放っておけないとさえ鶴丸国永は感じていた。 　「鶴丸、小烏以外の面子はお前に任せるよ」 　「あぁ、君に驚きの結果をもたらそう。で、場所はどこだ？」 　「うん？厚樫山で頼む」 　「…………冗談だよな？」 　「いいや？」 　嘘だろ、と鶴丸国永は天を仰ぐ。厚樫山は戦闘に慣れない奴を突っ込むところじゃないだろう。スパルタだなと鶴丸国永が小突くと青年は仕方ないと笑みを浮かべる。曰く、こうでもしないと小烏が自分自身に自信を持ってくれないだろうからと。青年の言葉に納得せざるを得なかった鶴丸国永は未だ頭を下げたままの小烏を見やる。小烏と自分とそれ以外。さて、誰にしたものか。考えようとしたところで遠くにある刀の気配を感じ鶴丸国永は舌を打った。鶴丸国永を見上げていた青年が目配せする。その意図に気付いた鶴丸国永は小烏に近付くと強引に立たせた。 　「んじゃ、今後の為にも本丸を案内しよう。主、小烏を連れていくぞ」 　「うん、頼んだ。…………あぁ、小烏。最後にひとつだけいいかな？」 　「なんでございましょう？」 　鶴丸国永に立たされた小烏が青年を見て首を傾げる。ここまでずっと柔らかな色を浮かべていた青年の顔からすべての色が剥がれ落ちた。まるで小烏を射抜くような視線で彼は口を開く。 　「髭切と膝丸のこと、君はどう思っている」 　「髭切様と膝丸様で御座いますか……？そうですね、この世で最も尊い方々でしょうか」 　「尊い？」 　「はい。源氏の重宝に相応しい素晴らしい方々です。人の都合により離されてしまいましたが、この場所で再び巡り合えた。離れていた時間をここで取り戻して頂けたらと思っております」 　漆色に覆われ目元を確認することは叶わないが、確かに小烏は笑っていると青年は感じた。そして、言葉のすべてが嘘偽りなく彼の本心なのだということも。己を斬った者に恨みも憎しみも抱いていない。それどころか相手の幸せを心から願っている。小烏という太刀はどうにも心が優しいらしい。 　「…………欲を言えば、私のことなど忘れて頂ければと思っております。御二方にとって私は不必要な存在で御座います故」 　「それじゃあ、小烏。お前はあいつらと関わる気はないのか？」 　「私のような者がお傍にいていいような方々では御座いませんので」 　ふわりとした微笑を作った小烏だが、青年は見てしまった。小烏の揺れた前髪の隙間から見えた瞳に滲む微かな悲哀の色を。鶴丸国永に腕を引かれ部屋を出て行く真っ黒な背を青年は複雑な想いで見送った。 [newpage] 　鶴丸と小烏が部屋を出て行ってすぐに襖が開かれる。やっぱりか、と半分疲れ切った頭で思考を回す。顔を上げれば源氏の重宝が俺をひたと見据えていた。 　「ありゃ？あの子がいると思ってきたんだけど……小烏はどこだい、主」 　「いや、どこだい？じゃないだろう。俺は部屋にいろと言わなかったか？」 　「う……すまん、主」 　自分の欲求のままに尋ねた髭切が首を傾げ、膝丸が申し訳なさそうに謝罪を口にする。そんな顔をするくらいならお前の大好きな兄者を止めて見せろと思わないでもないが、なんだかんだ膝丸を丸め込むのが上手い髭切に膝丸が勝てるとは全く思っていない。はぁ……と息を吐き出す。とにかく一度、座れと口にするが髭切は首を傾げるばかりだ。 　「んー？あの子の居場所を教えてくれればそれでいいのだけど」 　「遠征の報告はどうしたんだよ……」 　「あぁ、それか。それなら問題ないよ。資材に関しても隊の他の子がしかるべき場所に持っていってくれたはずさ」 　戸口に立ったままの髭切の目が早く小烏のいる場所を教えろと訴えている。膝丸も先程までは申し訳なさそうな顔をしていたが、話が完全に小烏のことに変わったのを察してかいつもの憮然とした表情に戻っていた。鍛刀部屋では動揺しきっていたがどうやら今は二人とも落ち着いているらしい。 　しかし、顕現したばかりの小烏を髭切は斬ろうとした。小烏を出せと言われてさぁ、どうぞと差し出していいものか。悩む俺に痺れを切らした髭切が眉を寄せた。 　「君があの子を連れて行ったんだ。どこにいるのかは知っているだろう」 　「知っているが、お前さっき自分が何をしようとしたか分かってて言ってるか？」 　「あ、主！そのことだが兄者にも悪気があったわけではなくてだな」 　「膝丸。黙っていてくれないか」 　「っ…………」 　驚いたように口を噤んだ膝丸に心の中で謝る。思いのほか冷たい声が出た。きっと今の俺の顔に色はない。感情の抜け落ちた顔で二人を見ているのだろう。そんな妙な確信がある。その証拠に髭切の瞳が静かに細められた。 　ピン――と張られたのは細い糸だ。触れただけで切れてしまいそうなほどか細い。部屋の中央に座す俺と廊下に立つ髭切と膝丸。敷居の外と内との温度差は可視化できるほどに違う。 　「…………何をそんなに怒っているんだい」 　「そういうお前は随分と余裕がないみたいだな」 　痛いところをつかれ咄嗟に出た言葉はどうやら髭切の神経を逆撫でたようだ。文字通り刺すような殺気が髭切から放たれる。ヒリヒリと痛むそれに今回ばかりは臆するわけにはいかなかった。 　「俺は別にお前達が何をしようと口を出す気はない」 　「そう。なら早いところあの子の居場所を教えてもらえるかな」 　「――だがな、ココに来た奴等は誰一人絶対に折らない、折らせないと俺は決めているんだ。それを動揺したなんて理由で破られては困る」 　ましてや、一度斬っている奴を無条件で野放しに出来るほど俺は寛大な人間じゃない。たとえそれが千年近く昔の出来事であろうとも。 　「悪いけれど君がどう思おうとも関係ないかな。…………【アレ】は僕に宛がわれた刀だ」 　ニコリ。形作られた笑みは酷く歪んでいる。爛々と輝く瞳が髭切の別の名――獅子ノ子を連想させた。あれ、とは髭切も大きく出たものだ。小烏を物扱いするとは。しかし、鍛刀部屋で会った時は随分と混乱していたようだったのにどういう意識の変化か。ちらり。黙ったまま俺達の会話を聞いている膝丸に視線を向ける。十中八九、膝丸が絡んでいるのだろう。この兄弟が動くのは互いに関してのみなのだから。一体、膝丸はなんと言ったのか。落ち着かせようとした結果だろうが恐らく逆効果だ。開き直ったと言わんばかりの髭切は再度同じことを口にする。 　「源氏が弟の代わりにと僕に与えた刀だ。僕の側にあるのが当然だろう」 　「…………本人はそんなことこれっぽちも思っちゃいなかったがな」 　「なに……？」 　「自分はお前達の側にいてはいけない刀だと言っていたぞ？お前に与えられた刀は一体誰の所為でそんな言葉を口にしたんだろうな」 　静かな音がした。ぷつり、と。うっすらと匂いだした血臭は俺の物。頬をぬめり気のあるそれが伝った。眼前にある鈍色の先を辿った先で瞳孔の開ききった髭切の目とかちあう。明かりの当たり具合なのか金に見えるそれは激しい感情を映している。 　「小烏は……あれは、僕の物さ。今度こそやり直すんだ、弟と一緒に」 　「生憎、小烏はそれを望んではいないようだったが」 　「っ…………君が与えたこの躰があるうちは諦めないよ、絶対にね」 　大抵のことをどうでもいいと言ってのける髭切が持つ執着心のなんと苛烈なことか。弟の膝丸といい、小烏といい。 　髭切の後ろで突然の事態に動けなかった膝丸が目を見開いて固まっている。そりゃそうだ。刀剣達の主たる俺を斬ったのなんて後にも先にも威嚇を隠さない間近の刀だけ。ここに近侍の鶴丸や主命第一の長谷部がいたら悲惨なことになっていただろう。そんな予測は苦にもならない。 　「好きにしろ。ただし、小烏は鶴丸に預けた。あいつは情の深いやつだからな。そう簡単に傍に寄れるとは考えない方がいい」 　吐き出した文句に髭切の歯がぎしりと悲鳴をあげる。俺の最も信頼する近侍は驚きを求め、常に飄々とした態度を崩さないが面倒見のいい奴だ。それに自分と真反対な小烏をだいぶ気に入っていたように見えたからきっと大丈夫。情の深さは付き合いが長いので理解している。なにより鶴丸に任せれば彼の馴染みの刀剣達も動く。少なくとも3人。そしてそこからさらに増えるだろう。源氏の重宝であったとしてもそう簡単に近付けないほどには。 　ゆっくりとした動作で髭切が刀を鞘に納める。瞼の奥に閉ざされた瞳がどんな色を宿しているかは分からない。彼が、俺を呼んだ。 　「なんだ」 　「…………ありがとう」 　「は……？」 　「僕達に自由な躰をくれて。あの子をここに降ろしてくれて。感謝するよ」 　眩しそうに、寂しそうに零れた微笑が思い出させるのは漆色の影。あぁ、そうか。確かに小烏は髭切の写しなんだと理解した。鶴丸と共に去る間際、小烏が作ったものと髭切の微笑はまったく同じ。心の奥底にある想いは同じなのだ。分かってしまうとどうしようもなく不器用な奴等だと笑いが込み上げてくる。 　「……まぁ、小烏を斬らないでくれたら俺はそれだけでいいよ」 　「斬らないよ、もう二度と……ね」 　邪魔したねと出て行く髭切を見送る。小烏が髭切にとってどうでもいいことに含まれないのならば、それだけでいいのかもしれない。過去がどうであれ、これからを良くしていきたいと思うのなら。 　「主、鍛刀部屋でのことだが……」 　「分かっているさ、ただ過去に引きずられただけなんだろう？」 　「あ、あぁ！兄者もとても後悔していたのだ！決して嘘ではない」 　兄の潔白を示そうとする弟のなんと健気なことか。髭切の後を追わずに残った膝丸の言葉に頷くことで応える。そういえば膝丸自身は小烏のことをどう思っているのだろう。湧いた疑問を口に出す。少々、面食らったような顔をした膝丸が眉を寄せて話し出した。 　「……小烏と顔を合わせたのはこの場所が初めてでな。先程は兄者を止めることに必死だったからあまり顔も見なかった」 　「あぁ、それで？」 　「だが、昔からその存在は知っていた。俺が兄者の側に在れなかった時、代わりに兄者の側にいてくれたのだ。その礼をいつか言えたらと」 　そう思っていたと膝丸は言う。その表情は髭切のことを語る時と同様に穏やかで本心なのだと理解する。 　「同じ源氏の刀……この場所でくらいは共にありたいと思うのだ。だから、主。俺達から小烏を取り上げないでくれ。頼む」 　すっと頭を下げた膝丸に目を見張る。深く下げられた為に膝丸のつむじが良く見えた。しかし、取り上げるとは。まぁ、そうとられてもおかしくない話ではあったか。 　頭をあげろという俺の声に素直に従った膝丸の目に浮かぶ懇願。立ち上がってひらりと顔の前で手を振ってやる。 　「取り上げるつもりなど……今はもう思っていないよ」 　「今は……ということは、やはりっ」 　「髭切と話すまでは近付かせないつもりだった。でも、今は違う。お前達の好きにしたらいい」 　ぽん、と高い位置にある膝丸の頭に手を置く。そのまま無造作に撫でまわした。一拍おいて止めろ！と声を荒げる付喪神にとうとう俺は笑いが堪えきれなかった。

　膝丸が可愛すぎて源氏の重宝から抜け出せません……<br /><br />　兄者の友切エピソードから小烏に思いを馳せた結果、今回の話が出来ました。<br />　完全にこんなんだったらいいなーという書き手の独自解釈、捏造過多なのでご注意ください。<br /><br />　最終的には源氏の重宝と仲良くさせたい！そして小烏×膝丸の小噺が書けたらいいなーくらいの感じで書いてます。<br /><br />　男審神者も結構出てくるので苦手な方はご注意ください。<br />　一部Twitterで呟いた話に加筆している箇所があります。<br /><br />　※今後、公式で実装されたり、書き手が居たたまれなくなったりしたら予告なく消える場合が御座います。申し訳ありません。<br /><br />　再録＋描き下ろしでオフ本化しました。<br />　<a href="https://kotohogi-ouka.booth.pm/items/853054" target="_blank">https://kotohogi-ouka.booth.pm/items/853054</a>

漆色の夢現【起】

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6494676#1

日本 広島県江田島市 練習巡洋艦”鹿島” [鹿島は海軍兵学校で教官として働いている。鹿島が教官として働くようになってまだ数年であるが、彼女の教えを受けこの江田島から巣立っていった教え子たちは、誰もが現場で優秀な働きを見せているという。わたしは広報官から取材についての注意点の説明を受けつつ、鹿島が待つ会議室へと足を運ぶ。会議室のドアを開けて部屋に入ると、そこには大人の女性として成熟した鹿島の姿があった。ツインテールだった髪型は変わっており、若干ウェーブがかかった銀髪を肩口で揃えている。首を動かすとその動きに合わせて髪の毛が揺れた。あの戦争の頃とは異なり、鹿島は練習巡洋艦の制服ではなく、濃紺色の日本海軍の制服に身を包んでいる。メリハリのついた世の女性たちが羨むようなボディ。鹿島は椅子から立ち上がると、ほっそりとした指先を重ねて、鹿島はわたしの姿を見て微笑みながら会釈をしてくれた。わたしも会釈を返す] 遠いところわざわざお越しいただきありがとうございます。元練習巡洋艦の艦娘の鹿島です。もっとも、本名の方も鹿島なので艦娘を退役したからと言って、名前が変わるわけではありませんが。短い時間ですがどうぞよろしくお願いします。 （鹿島は口元に手をあてながら微笑む。鹿島の仕草を見て思わず、がらになくどきりとしてしまう。鹿島には人を好きにさせる何かあるらしい。わたしが鹿島の仕草にどきりとしていると、広報官が椅子を引いてくれた。わたしは広報官に礼を言い椅子に腰を下ろす。鹿島も椅子を引いて腰を下ろした。取材の準備が整ったことを鹿島に伝えると、彼女は昔を思い出すように、ゆっくりとした口調で語り始めた） まず、わたしの経歴からお話をしようと思います。 わたしが艦娘になったのは大学に入学して間もない頃のことでした。大学に入学するちょっと前に深海棲艦との戦争との戦争が始まりました。わたしが大学に入学した時は各国海軍の艦艇が深海棲艦の手によって沈められ、人類が陸へと追いやられつつありました。具体的な時期を言うならば、艤装が完成しこれから反撃を開始しはじめようとしていた頃です。海軍は艤装が装備できる能力者、所謂艦娘の存在を探していました。わたしの通う大学にも海軍の簡易募集所が設けられ、採用担当の軍人さんの喉が枯れるほど大きな声をだして勧誘をしていたことを覚えています。「艦娘になったら学費のすべてが無償になります」確かこんな内容を彼らは言っていたと思います。わたしの家は比較的裕福な家庭で育ちましたが、父の経営している会社の業績が深海棲艦が出現するようになって悪化したこともあり、わたしはすこしでも両親の経済的負担を減らそうと、とりあえずは艦娘に志願してみようと思ったんです。艦娘に適正があるかどうかは試験を受けてみなければわかりませんし、そもそも受かると思っていませんでした。ところが、検査のための採血をして、簡単な身体検査を受けて、一週間ぐらいしてからのことです。いつものように大学で講義を受けて、キャンパス内を歩いていると、採用担当の軍人さんがやってきて、「きみには練習巡洋艦の艦娘の適正がある。ぜひとも海軍で艦娘の育成要員として活躍してほしい」って言われたんです。普通ならここですこし考えるべきなのかもしれませんが、わたしは「なら志願します」って即答していました。今にして思えば、わたしはあまり細かいことを考えていなかったのかもしれません。その当時、わたしはとにかく両親の負担を減らしたいと思っていましたし、教員になりたいと思って教育学部を専攻していたんですが、学費が無料になること、それと軍隊とはいえ教育に携わることができるなんて、のちに教員になるのに役に立つかもしれない……なんて思っていたんです。お恥ずかしいことに。 （鹿島は恥ずかしそうに口元を抑えてクスクスと笑った） 海軍に入隊してからの三ヶ月はあっという間に過ぎて行きました。三ヶ月の基礎教育を受けて艦娘になったあと、六ヶ月の練習巡洋艦としての教育を受けて練習巡洋艦としての任務を果すことになりました。こんな即席教育で人を育てることができるのだろうか。そもそも人にものを教えてしまっていいのだろうか……と不安になることもありましたが、実務を行ってみると、練習巡洋艦”鹿島”として受け継いだ記憶のおかげで、人にものを教えることは思いのほかスムーズにできました。自分が知らないことを知っている。体験したことのないことを体験したことがあるというのは何とも不思議なものですよ。だって、わたしという”鹿島”個人は船旅なんてほとんどしたことがないのに、艦娘としての”鹿島”は何度も練習航海をしたことがあるって信じているんですから。 でも、いま思い返してみると、あの時の海軍はかなり切羽詰まっていた状況だったんですね。だって、そうじゃないですか。基礎教育はベテランの教官の方が行っていましたけど、艦娘としての教官はまだ二十歳に満たない小娘に過ぎないわたしが、中学生ぐらいの女の子や、高校生ぐらいの女の子たちに戦闘のいろはを教えているんですから。一般社会じゃ到底ありえない話ですよ。大学も卒業していないようなわたしが一人前の顔をしながらものを教えているんです。いくら艦艇の記憶のバックアップがあるとはいえ、海軍在籍一年に満たないわたしがものを教えているんですからね。 もっとも、その時のわたしは教え子である彼女たちが戦場に出て命を落とさないよう、どうすればより効率的に生き残るための術を教えることができるか、どうすれば生存率をあげることができるかということを考えていて、キャパシティが一杯だったこともあって気付きませんでしたが。今思うと人類はかなり追い詰められていたんですね……。 わたしが練習巡洋艦としての任務をこなすようになって、一年ほど経過した頃のことです。深海棲艦との戦争が長期化していることもあって、生活にすこしばかり支障がでてくるようになってきました。人類が攻勢に出たとはいえ、それほど余裕がなかった人類は輸送する物資に順位をつけて贅沢品の輸入を制限していました。何しろ戦前のように輸送船に護衛をつけずに、公海を航行することはできませんでしたから。 あの戦争当時、人類はかつての戦争の時にイギリスが行っていたように、大規模な輸送船団を構成して、指揮統率を行う艦艇が先頭、艦娘運用母艦が最後尾、輸送船団周辺を護衛の艦娘がぐるりと取り囲むように輪形陣を組んで輸送船の護衛を行っていました。 あれは考えうるかぎりもっとも適切な護衛手法だったといまでも思っています。 ですが、戦争に絶対という言葉がないように、ごくまれに攻撃を喰らって沈む船が出ます。三〇回に一回ぐらいの割合でしょうか。当時、あまりの被害額に保険会社は沈んだ船に賠償金を払うことを取りやめていたぐらいでした。 若干、話がそれてしまいましたけど、戦争前と異なり贅沢品が入ってこないことに民間人は不満を持ちつつあったんです。贅沢な悩みだと思うかもしれません、 ですが、ちょっと考えてみてください。たとえばあなたが休日に百貨店に足を運んで、紳士服、婦人服フロアに華やかさがなかったとしたら、ちょっとだけ気が滅入ってしまいませんか？　ふらっと立ち寄ったレストランでメニューに斜線が引かれていたとしたら。わたしはちょっと悲しい気持ちになってしまいます。艦娘になっていなかったら、戦争をやめてしまおうと考えていたかもしれません。実際、民間人の何割かはこの戦争を継続することに疑問を持ちつつありました。贅沢品があまり入ってこなくなり、食料事情もほんのすこし悪化しつつあった現状が彼らを彼女らをそうしてしまったのです。 そこで政府と海軍上層部は考えました。どうにかして、この事態を打開しなければ戦争に勝つことどころか、人類の生存すら危うくなると。 政府と海軍上層部が恐れていたのは、かつての戦争の時のように国民が食べることに困り、飢えてしまい、国民が戦争に協力しなくなることでした。対人類の戦争ならば降伏することもひとつの手段でしょう。降伏することで、相手にもよりますが、とりあえず“最低限の待遇”は保証されます。でも、深海棲艦との戦争は降伏することが許される戦いではなかったんです。連中との戦争は文字通りの殲滅戦でした。艦隊戦を行い敗走する敵を追って根拠地である拠点を徹底的に叩く。そこに慈悲などありません。叩くと言ったら、すべて叩くのです。徹底的に。容赦なく。 （鹿島は胸ポケットからボールペンを取り出して苛立ちを抑えるように強く握りしめた） 深海棲艦はいままで人類が戦ったどんな相手よりも謎に満ちている種族でした。 深海棲艦は英語、ドイツ語、フランス語、日本語、さまざまな言語をその口から話すのですけれども、こちらからのコンタクトには応じようとしない。意味ありげな言葉を言うだけ言い、こちらの主張に耳を貸すことなどありません。なんとも不可解な種族でした。人語を話すというのにコミュニケーションが成立しない。学者たちは深海棲艦とコンタクトをとろうとして、そのすべてにおいて尽く失敗し結論づけました。 「連中は話し合いができる相手じゃない。どちらかが滅ぶまで戦うしかない」と。 そう、彼らが言うように意思疎通が出来るような相手じゃなかったんです。政府は深海棲艦に関する情報を包み隠さずマスメディアを通じて発信していました。 ですが、陰謀だと考える人はどんな時代にも一定数います。そして得てしてそういう人ほど声が大きかったりするわけです。彼らは言いました。 「この戦争をやめれば、この苦しい生活から逃れることができる」と。 真実を知っている政府と海軍上層部はそうした声が大きくなることを恐れました。 だって、コミュニケーションが成り立たない相手ですから。そんな相手だから。だから、人々のあいだに厭戦気分が蔓延して、反戦運動が起きて戦争継続に支障が出ることは、すなわち人類が敗北することに等しかったんです。 それは何としてでも避けなければならなかった。わたしたちは血反吐を吐いても、いかなる犠牲を払ってでも、戦って、戦って、戦って、連中を殺し尽くす必要がありました。 （鹿島は当時を思い出すようにボールペンを握りしめる手に力が入っているようだった。手のひらに血管がうっすらと静脈が浮かび上がる） ですが、わたしたちがいくら熱心に真実を伝えて、「わたしたちは戦い続けなければ死ぬ」と言われたところで、人はそう簡単にやる気を維持できる生き物ではありません。そう、例えば三〇分間集中して勉強に励むことが難しいように。戦争中でも人々は息抜きを必要としていました。戦争前と同じように娯楽を人々は必要としていたんです。そうした息抜きの一貫で政府と海軍上層部の間であることが計画されました。 あることとは？ 平たく言ってしまえば、艦娘を前面に押し出した戦争協力キャンペーンでしょうか。 深海棲艦との戦争が長期化していることもあり、燃料弾薬鋼材を調達する費用に軍は頭を抱えていました。そこでまずはスポンサーを募ったんです。政府も海軍もうまくいくとは思っていませんでした。ただ、すこしだけでいいから、戦争を続けるための足しになればいいなと思っていたんです。ですが、予想外にスポンサーが集まったんです。大手コンビニエンスストアを筆頭に幾つかの企業が名をあげました。 とあるコンビニエンスストアの社長が設けられた会議の席でこんな発言をしたそうです。 「税制上優遇してくれるのならば、売上高の一割を軍に寄贈しても構わない、その代わり艦娘をもとにしたグッズの拡販をさせて欲しい」と。 グッズ……ですか？ 政府と海軍上層部は彼の発言に首を傾げました。 たしかに、艦娘は人類の守護者的な一面を持っているが、彼女たちのグッズを拡販したところで彼らにとって旨味のある話なのだろうか、と。悩んだすえに政府はこう答えたそうです。 「艦娘本人の了解が得られるのなら、グッズを製造し販売しても構わない」と ですが、政府が予想していたよりもグッズは売れました。これは戦後に聞いた話なんですが、艦娘の中破した画像はネット上では高額で取引されていたみたいですから。それぞれに固有のファンがついていたみたいです。 キャンペーンの第一弾が予想外の成功を収め、燃料弾薬鋼材を調達する費用を得たことに旨味を覚えた政府と海軍上層部は、次なるキャンペーンを打ち出すことを行います。 それは戦時国債の購入を募るキャンペーンの一貫として、艦娘を前面に押し出して地方巡業をするというものでした。そこで白羽の矢が立ったのは一航戦として顔が売れている加賀さんでした。もっとも、お大尽との接待の席で加賀さんが一曲歌った時に、彼女の歌声に一目惚れした有名作曲家が「加賀さんに曲を提供したい。その、加賀岬という曲なんだが……」と言い始めたことがキャンペーンのきっかけです。キャンペーンの内容を提督さんから打診された加賀さんは、ちょっとむずかしそうな顔をして、しばし考えたあと恥ずかしそうにこう言いました。 「わたしは笑うのが苦手ですけど、それでもいいですか」って。 提督さんは「素のままの加賀だからいいんだよ。無理に笑う必要はないさ」と。ちょうど大規模作戦との合間だった事もあって、連日のように加賀さんは全国各地を飛び回りました。どんな感じのキャンペーンだったか、ということをイメージしてもらうには、映画のキャプテン・アメリカのショーを思い描いてもらえれば。アレが一番合致するかと思います。加賀さんが“戦時国債を買ってねキャンペーン”をして三ヶ月ほど過ぎた時のことでした。ついに過労で加賀さんが倒れました。連日連夜遅くまでショーをして、全国各地を飛び回っていたので、当たり前といえば当たり前の結果なんですが、軍医さんからドクターストップがかかりました。 「これ以上彼女に負担をかけさせてはいけませんよ」と。その頃になると、人類は深海棲艦に対してかなり優位に戦うことができるようになっていました。ですが、燃料弾薬鋼材を買うためのお金が必要なことには変わりありません。無いものをどうにかして捻出するため、海軍上層部はよく考えました。そこで次に白羽の矢が立ったのは、わたし鹿島でした。その頃のわたしは育成が一段落付いていることもあって、輸送船団の護衛と秘書艦としての仕事をこなしていました。リソースに余裕があったわたしが指名されるのも、ごく自然な流れだったのだと思っています。 （鹿島は当時を懐かしむようにくすりと笑った） 提督さんからざっとした概要を聞いた時に、わたしでいいのだろうかと思ったことを覚えています。だって、わたしは加賀さんみたいに優れた武勲もないし、ごく平凡な元女子大生だったのですから。困惑するわたしを前に提督さんは両手を合わせて懇願するように、声を絞り出しました。わたし練習巡洋艦という艦種から、提督さんの秘書艦を何年か勤めさせてもらったのですが、わたしに断られたら死んでしまいそうな提督さんを見るのは初めてでした。 提督さんは机に両手をついて申し訳無さそうな顔をしながら言ったんです。 「勝手なことだと思う。だが、鹿島の力を貸して欲しい。戦争を続けるために」なんだか、とても申し訳なくなってしまい、わたしはこう言っていました。 「提督さん。顔をあげてください。卑猥なこと以外でしたらこの鹿島が力になりますから」って。わたしの言葉を聞いた提督さんの嬉しそうな顔は忘れられません。よかった、と安堵するような表情を浮かべたあと、提督さんはわたしの両手をとってありがとうと一言お礼を言ってくれたんです。とても不思議な感覚でした。だって、わたしが行ったことなんて、コンビニエンスストアの制服を着て、何枚か写真を撮影したぐらいなんですよ？ それがタペストリーとして配布されただけだというのに。 でも、わたしのタペストリーを買ってくれる人はどれほどいるんだろう。 容姿に自信がないわけじゃありません。それなりに整っている顔立ちだとは思っていますが、モデルさんほどじゃありません。わたしは、自分のタペストリーが付いた戦時国債をどれだけの人が買ってくれるのだろうか、と疑問に思ったんです。 それが気になって、戦時国債の販売初日にわたしは変装して戦時国債を購入しに言ったんです。お昼過ぎのことだったと記憶しています。提携コンビニエンスストアに足を運んで、戦時国債を購入しようとすると、売り切れていると店員さんが仰るんです。 嬉しさ半分、困惑が半分のわたしは店員さんに礼を言うとコンビニエンスストアをあとにしました。それから何件かのコンビニエンスストアに足を運びましたが、結果はおなじでした。一緒に戦時国債購入キャンペーンを実施していた阿賀野型のみなさんも同じように売り切れ状態だったことを覚えています。はじめは恥ずかしさが半分だったんですが、わたしが前に出て戦時国債の購入を促すことで、みなさんが戦時国債を買ってくれたことが嬉しくて、鎮守府に戻るなり提督さんにそのことを報告していました。 提督さんはただ一言こう言ってくれました。 「ありがとう。鹿島。きみのおかげでわれわれは戦うことができそうだよ」と。 それから戦争が終わるまで何度かわたしは戦時国債キャンペーンガールとして、活躍の場をいただきました。いまでもその時に配布されたタペストリーは実家のリビングに飾られていますし、江田島で教官として働くようになってから、「あの鹿島さんにあこがれて、わたし海軍に入隊したんです」って女性の士官候補生に言ってもらえることがあります。 わたしはただ一生懸命にその場を生きてきただけに過ぎません。でも、そんなわたしみたいになりたいと言ってくれる人がいることが、それがわたしは嬉しいです。 わたしみたいになりたいと言ってくれる人がいる限り、わたしはここで教官を続けていこうと思っています。 （最後に鹿島は太陽のような笑顔を浮かべた。それは士官候補生たちに慕われる素晴らしい笑顔だった）

戦時国債売るウーマンこと鹿島さんのお話

証言記録　練習巡洋艦"鹿島"　文章番号[??????]

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6494791#1

　※アニメとPixvでの知識のみで書いた 　※ギル様マジ俺様！ 　※俺様受け万歳！ 　※言峰は快楽に弱いんでしょ？ｗ 　※言峰綺礼観察日記ｗ 　※一時間の時間制限制作のため短い 　以上な感じで読んでください。 　言峰綺礼という男は実に興味深い。聖杯にかける悲願もなければ人を殺める心苦しさも持ち合わせていない。無頓着と呼びには些か言葉足らずの様な気もするが、取り敢えずはそういう事にしておこう。 　だからだろうか。何事においても動じずないあ奴の眼を、揺らしてみたくなった。 　「…説明、してくれないか？」 　「なに、お前に合う愉悦が何なのだろうと思ってな」 　「…この体勢になる必要性は？」 　「一つ、可能性を試そうと思ってな」 いつもの淡々とした口調で呟いた奴を眼下に、我は小さく笑って見せた。それに少しだけ眉を寄せて問うてきた奴はどうやら我が組敷いた体勢が気に入らない様子だ。それもそうか。奴とて男なのだ。相手を組敷いた覚えはあっても組敷かれた事はなかっただろう。 　 　「まぁ、これは我が試したいだけのこと。貴様はそのまま寝ていれば良い」 　言いながら着込んだ黒い服に手をかけようとするとその手を掴まれてしまった。視線を向けて見れば咎めるような視線とかち合った。我が何をしようとしてるのか察したのであろう。 　軽い痛みを覚えるほどの加減で掴んでくる手に視線を落とすと、そのまま顔を近付け甲に口付を落とした。すると、一瞬だけ手が震えた。一応、神経というものはあるらしい。甲に宛がったまま唇を滑らせ指の固い骨までいくと舌を伸ばし指の谷間に舌を這わせた。 　「っ…アーチャー…！」 　「我はそんな名ではないぞ」 　言ってやれば奴は口を噤んでしまった。どうやら呼ぶ気は無いようだ。その様子に喉を鳴らして笑ってみせると指の一つに軽く歯を立て舌を絡ませた。相変わらず離す気配の無い手の力を緩めてやるかのように。 　すると世界が回転した。否、我が回ったのか。そう気付いたのは見上げた先にあ奴が我を見下ろしていたからだ。 　「…我を組敷くとは…無礼者め」 　「お前がいつまでも止めないからだ」 　「ぬかせ。貴様とてまんざらでもなかろう？」 　「戯事を」 　言うが早いか、奴は我の前から離れ床に足を付けた。どうやらこの手の愉悦を味わうような輩では無かったようだ。 　「折角我自ら手を施してやろうかと思っておったのに…この滅多な機を逃すとは、何とも愚かな奴だ」 　「先程の手口で、何人喰ってきたのやら…」 　「教えてやろうか？」 　「遠慮する。そもそもそんな趣向など持ち合わせていない」 　「目覚めるやもしれぬぞ？」 　「そんなこと、あってたまるか」 　「…ではこうしようではないか」 　身を起こし、奴の腕を掴めばそのままソファの上に引き寄せた。再び我を組敷く体勢にさせられたせいか驚いたように瞳を開いたが、それも一瞬の事。すぐにいつもの表情に戻っていた。そんな奴の頬に手を伸ばし、そのまま耳元に唇を寄せた。 　「…貴様は我に魔力を与える。そう思えばよかろう？」 　「その役目は時臣師が…」 　「言ったであろう。あ奴はつまらん男だと」 　「…時臣師ともこんな事を…？」 　「知りたいか？」 　答えを見いだせず黙秘した奴を尻目にその薄い唇に舌を伸ばした。思った以上に冷たく乾燥した唇だと思っているとまるで噛みつくかのように舌ごと唇を覆われた。唇に反して絡んできた舌は熱く執拗に吸いついてくる。 　ようやくその気になったか。 　　「っ…勘違いするな。私は貴様の遊びに付き合うのではない。私は…」 　　「魔力の補給。…だろう？綺礼」 　　「……」 　　「貴様はこれで愉悦を感じる奴ではないのだろう？それならそれで良い。だがな、その代わり…我の愉悦に付き合ってもらおうか」 　　そういってやると、どちらからともなく唇を重ねた。 　言峰綺礼という男は実に興味深い。聖杯にかける悲願もなければ人を殺める心苦しさもない。 　しかし、無頓着と思っていたこの男だったが…なかなかどうして。快楽という愉悦を思いの外好む輩の様だということが判明した。我の魔力補給と銘打っているせいか、奴の動きには労わりなぞ皆無。男との交わりなど初めてであろう筈なのだが、奴のその表情はまさに愉悦を物語っていた。だが本人に言った所でそれは気のせいの一言で切り捨てられてしまうだろう。よって、奴の色欲の愉悦を楽しむ姿を見るのは我だけの特権にしておこう。 　結局のところ当初の目的は達成されなかったが奴の新たな顔が見れたことに免じて許してやろう。 　まったくもって…実に面白い奴だ。言峰綺礼という男は…。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了。

　カッとなって書いてしまった…。言ギルマジいいわぁ～ｗｗ　俺様受け堪らんｗｗ　本当はエロまで行きたかったけど…わしの書くエロは馬鹿に長いのでまたの機会にします；　でもエロならバサ雁も書きたいｗｗ　Zeroは書きたいのがあり過ぎて困る＞＜；■■なんと…！タグ追加ありがとうございます！！；吃驚した…。え？続き？？………時+言ギルじゃあ駄目ですか？？某方の影響で滾ってカッとなって…;;;

色欲愉悦【言ギル】

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=649480#1

｢ごめんなさい！ホテル側の手違いで2人部屋と3人部屋がひとつずつしか取れなかったみたいなのよォ｣ オネェ口調でそう言いながらフロントから帰って来たのは2年生の後輩、なるくん。 元々ホテルは2人部屋を3つ予約して5人を振り分ける予定だった。 明日はライブで、その準備のために今夜はホテルで一泊することになっていた。 ｢ホテル側の手違いなら別にナッちゃんのせいじゃないでしょ。まぁ一泊だけだし適当に泊まればいいじゃん｣ 眠たげになるくんをフォローするのは同じく2年生、と言っても留年してるから実質3年生の俺と同い年のくまくん。 確かに一泊だけなら部屋割りなんて特に拘らない。くまくんの意見には同意。 ｢で？どう分かれんの？｣ 俺が当然の質問を投げかけるとなるくんは少し迷った素振りを見せた。 ｢そうねぇ･･･王さまはすばしっこいから、出来れば3人部屋で2人で監視したいわねぇ･･･で、王さまって凛月ちゃんに甘えられると案外大人しくなるじゃない？ここは一緒にしたいわねぇ｣ ｢俺は別に構わないよ〜｣ なるくんの意見にくまくんが賛成する。 確かに王さまは兄という立場のせいか、弟の立場であるくまくんに甘えられると弱い。 俺もなるくんに賛成。 ｢3人部屋のもう一人は？俺ナッちゃんが一緒だと安心なんだけど〜｣ ｢あらあらァ？ご指名かしら？｣ ｢ちょっとちょっと！じゃあ俺かさくんと2人部屋なわけぇ！？｣ 俺の言葉に1年生の後輩、かさくんがムッとする。 ｢私は別に誰とでも構いませんが、そういう風に言われると少々カンに障りますね･･･｣ かさくんはそう言うが、俺はかさくんと2人部屋なんてことだけは出来るだけ避けたい。 なんせ俺とかさくんは所謂恋人同士。 部屋に二人っきりになんてされたら、どちらからともなくそういう雰囲気になる可能性も無いとは言えない。 ライブを前に余計な体力を使いたくなんてないし。 俺達の関係を知ってるのは当事者の俺とかさくんの他に、くまくんだけ。 多分くまくんは気を利かせようと、と言っても面白半分で俺達が2人部屋になるように誘導している。 その証拠に、俺と目が合ったくまくんはいたずらっぽくニヤリと笑って見せた。 完璧に楽しんでる様子のくまくんに声をかけようとすると、それまで大人しかった王さまが急に割って入ってきた。 ｢なんだなんだ？何かの作戦会議か！？一体何の･･･待って！言わないで！妄想するから！あぁぁっ、霊感が湧き出てくる〜っ！｣ 言うや否やポケットから油性ペンを取り出し床に五線譜を書こうとしゃがみ込んだ。 それを他のメンバーで慌てて立ち上がらせ阻止する。 ｢この馬鹿！！そういうのはネタ帳に書いてよねぇ！！｣ ｢もうっ！さっさと部屋に閉じ込めちゃいましょ！はい、泉ちゃん！これ部屋の鍵ね！｣ 鍵を放り投げられ、反射的に受け取った。 どうやら部屋割りは決定してしまったらしい。 ｢2人部屋と3人部屋とじゃ階が違うみたいだから、アタシたちはとりあえず先に行くわね！ほら王さま、ちゃんと立って！｣ ｢おぉっ！どこに連れて行く気だ！？宇宙人にアブダクションされるのか〜っ！？｣ なるくんに半ば引きずられるようにしてエレベーターに乗り込む王さまの後をくまくんが追う。 手荷物やらでエレベーター内に俺達二人が入れる隙間は無く、一旦三人を見送った。 扉が閉じる寸前、くまくんが笑いながら声には出さずに俺に向かって呟いた。 “楽しんでね” 完全に他人事なくまくんに腹が立ち、扉が閉じるまで目一杯睨みつけてやった。 俺とかさくんも部屋に向かおうと他のエレベーターに乗り込んだが、かさくんが分かりやすいくらいの膨れっ面をしていることに気づいた。 ｢ちょっとぉ、何不細工な面してんの？｣ ｢いえ、私と同室だなんて瀬名先輩に申し訳ないなと思いまして｣ どうやら俺がさっきかさくんと同室になるのを避けようとしたことに怒っているらしい。 つまんないことでいちいち拗ねるな、と言おうとしたが、その言葉を無理矢理飲み込んだ。 俺にとってはつまんないことでも、かさくんにとってはそうでもないことがある。 かさくんはそういう細かいのを気にする質だから、慎重に言葉を選んだ。 ｢･･･あんまり仕事する上で私情挟みたくないの。それに、かさくんと部屋一緒になると変に意識しちゃいそうだし･･･｣ そこまで言ってから慌てて口をつぐんだ。 この言い方だと、いかにもそういう展開を期待しちゃってます、と言ってしまったような気がしてならなかった。 横目でかさくんの反応を伺うと、かさくんもそういう意味で受け取ってしまったらしく僅かに赤く染まった頬が視界に入った。 なんだか気まずくなってしまい、お互い無言のままエレベーターを降り部屋に向かった。 どちらかが変な気を起こさないうちに、さっさと風呂に入って寝ようと意気込んで鍵を挿し、部屋の扉を開けた。 ｢･･･は？｣ 目の前にあるものを見て思わず間抜けな声が出る。 背後にいるかさくんがなかなか部屋の中に進まない俺を不審に思い、少し背伸びして俺の肩越しに部屋の奥を覗き込んだ。 ｢えっ！？｣ かさくんの声が耳に響くが、驚くのも無理はない。 ていうか俺も相当びっくりしてる。 2人部屋、と聞いていたから当然ツインベッドだと思っていたのに。 そこにあったのは、あろうことかダブルベッドだった。 すぐさま携帯を取り出しなるくんに電話。 ｢もしもしなるくん！？ダブルベッドなんだけど！！｣ 『えぇっ？ツインベッドじゃなくて？う〜ん･･･困ったわねぇ･･･でも寝ちゃえばすぐ朝なんだし、一晩くらい我慢してちょうだい！司ちゃんにもそう言っておいて...あっ！ちょっと王さま！壁に書こうとしないの！凛月ちゃんももう夜なんだから、寝てないでシャワー浴びちゃいなさい！それじゃ、ごめんなさいね泉ちゃん、切るわね！』 ｢あっ、ちょっと！｣ ほとんど一方的に電話を切られた。 でもなるくんのせいじゃないし、あっちも忙しそうだし、どっちにしろこのホテルには二度と泊まってなんかやらない。 すぐ後ろでは、かさくんが顔を真っ赤にしたまま立ちすくんでいる。 そりゃそうだ。二人揃って同じベッドで寝るなんて、そういうことする時だけなんだから。 改めてベッドを見るとなかなかの広さがある。 これだったら多少距離を取っても余裕で眠れるだろう。 とにかく、早く寝てしまうに越したことはない。 適当に荷物を解いてからかさくんに声をかけた。 ｢かさくん、シャワー先浴びる？後で浴びる？｣ ｢えっ、あっ、showerですか！？わわ、私はどちらでも･･･｣ ｢･･･言っとくけど、明日ライブだし、期待してるようなことは何もしないからねぇ｣ 動揺したかさくんを諭すように言うと、図星だったのか、赤かった顔を更に赤くさせた。 ｢なっ！？べ、別に何も期待してませんっ！先にshower浴びさせていただきますっ！｣ 足早にシャワールームに向かうかさくんを見送り、1人ベッドに腰掛け頭を抱えた。 ｢電気消すよぉ｣ 2人ともシャワーを済ませ少し広い、と言ってもダブルベッドの端の方で、こっちに背中を向けるようにして横になっているかさくんに声をかける。 ｢･･･どうぞ｣ それを合図に電気を消し、窓から入ってくる僅かな明かりを頼りにして、かさくんに背中を向けて寝そべる。 早く寝よう。 寝てしまえば変な気を起こす暇もない。 幸い同じベッドでもかなり距離を置いて、お互い背中を向けて寝ているから『このベッドには自分1人だ』と自己暗示をかけることで、だいぶ落ち着くことが出来た。 やがて、瞼が重くなりうとうとし始めた。 次目覚めるのは明日の朝だ。 そう思って眠気に身を任せようとした時―。 恐らく隣の部屋から響く、女の甲高い喘ぎ声。 一瞬で眠気が飛んだ。 と同時に、腸が煮えくり返る思いだった。 どこのバカップルだ、ラブホと勘違いしてやがるのは･･･！ するにしてももう少し静かにしろ。 喧しくてしょうがない。 しばらく経っても女の喘ぎ声は止む気配がない。 もうフロントに電話して苦情を言ってやろうと勢い良くベッドから起き上がった。 すると、こっちに背中を向けたままのかさくんの肩がビクリと震えた。なんか嫌な予感がする。 ｢･･･起きてんの？｣ ｢･･･ぁ、瀬名先輩･･･っ｣ 俺の声に応えたかさくんの声は甘ったるく蕩けていて、嫌な予感が的中してしまったと確信する。 電気を点けると、体を起こしたかさくんと目が合った。 綺麗な紫水晶の瞳は潤んでいて熱っぽい。 それに加え、八の字に下がった眉と、上気した頬が目に入る。 完全に変なスイッチが入った時のかさくんの顔だ･･･。 ｢･･･え〜〜っと･･･かさくん？｣ 恐る恐る名前を呼ぶと、困ったように視線を下に逸らした。 ｢･･･あの、すみません･･･その･･･｣ 言おうとしてることは分かる。 健全な男子高校生ならこの状況で欲情しないほうがおかしい。 俺だって怒りのほうが勝ってはいるが、少なくとも全く平気という訳では無い。 ｢･･･まぁ、クソ女の声でそういう気分になっちゃったんでしょ？文句言ってきてあげるから大人しく寝てな｣ ｢それはそうですが･･･えっと･･･瀬名先輩としてる時のこと、思い出してしまって･･･それで･･･したくなってしまって･･･｣ 相変わらず計算してんのかしてないのか、可愛いことを言ってくれる。 が、今はほんとに勘弁して欲しい。 何度も言うようだけど明日はライブだ。 いつも家に泊まりに来る時のような週末じゃない。 腹立たしいことに、うざったい声はまだ響いてくる。 俺は見えもしない壁の向こうのバカップルを睨みつけた。 ｢瀬名先輩･･･｣ そうしてる間にもかさくんが擦り寄ってきた。 対応に迷った挙句、なるべく刺激しないように宥めてみた。 ｢あのさ、ほんとに今日はダメ。かさくんも言うほどガキじゃあるまいし、分かるでしょ？だから今夜は我慢して、ね？｣ ｢でも･･･｣ ｢“でも”じゃないの。明日に響いたら困るのかさくんでしょぉ？｣ ｢うぅ〜･･･｣ かさくんは訴えかけるように俺の腕にしがみつき、ぐりぐりと頭を押し付けて来る。 平静を装っているが俺だって内心かなりヤバイ。 ここが俺の部屋ならとっくに押し倒してる。 ｢ほら離れて。フロントに電話して隣の部屋に文句言ってもらうから。そしたらもう眠れるでしょ？だから･･･｣ ｢･･･です･･･｣ ｢え？なに？｣ ｢･･･瀬名先輩に触って欲しいんです｣ かさくんはそう言うと俺の手を取って、かさくんの頬に俺の掌をぴったりとくっつけた。 その頬の熱さに思わず生唾を飲む。 据え膳食わぬは男の恥、とはよく言ったもんだ。 こんな状態のかさくんを放って置け、って言うほうが無理でしょ。 しかしここで折れたら負けな気がする。 心を鬼にする思いで、かさくんの頬から掌を引き剥がした。 ｢あっ･･･｣ かさくんが名残惜しそうな声を上げる。 ｢･･･お願いだから、今夜だけ。今夜だけ我慢して。ライブ終わって家に帰ったら我侭いーっぱい聞いてあげるし、嫌ってほど甘やかしてあげるから｣ ｢･･･うぅ･･･分かりました･･･我慢します･･･｣ 渋りながらもやっと了解してくれたかさくんにホッとする。 それも束の間、じゃあひとつだけ、とかさくんが口を開いた。 ｢お願い、聞いてもらってもいいですか･･･？｣ ｢･･･内容による｣ すると迷ったように黙り込み、視線を彷徨わせると再び口を開いた。 ｢･･･kissしてください。してくれたら、大人しく寝ます･･･｣ ちょっと悩んだが、キスくらいならいいかと思い、かさくんの顎を優しく掴んで上を向かせる。 条件反射で瞳と唇をぎゅっと閉じたかさくんに、ただ触れるだけの軽いキスをした。 ｢･･･それだけですか？｣ ｢うん、これでおしまい。添い寝くらいならしてあげるから、早く寝るよ｣ あからさまに物足りなそうな顔をするかさくんだったが、濃いキスをすると俺のほうが我慢出来なくなりそうだったから、ってのが本音。 かさくんと一緒に再びベッドに寝転んで微睡む頃には、女の声は止んでいた。 兎にも角にも、あんなかさくんを目の前にしてがっつかなかった自分を褒めてやりたい気分だった。 未だかつて、こんなに朝を待ち遠しく思ったことはない。 ｢あ、おっはよ〜セッちゃん。昨晩はお楽しみでしたか〜？あ痛っ！｣ 朝一番に茶化してくるくまくんの頭を小突く。 普段朝は寝てるか無理矢理起こされて不機嫌になるかしてるのに、こういうときばっかり生き生きとしやがって。 ｢ったく･･･する訳ないでしょぉ！？｣ ｢なぁんだつまんないの。人がせっかく世話焼いてあげたのになぁ｣ ｢二度とあんなお節介しないでよねぇ･･･！｣ くまくんに反省の色は見えず、寧ろ大いに楽しんでる。 ｢まぁセッちゃんのことだし、そういう雰囲気になっても我慢したんでしょ？セッちゃんもス〜ちゃんも揃って『欲求不満です』って顔してるしね〜♪｣ 見事に言い当てられ、返す言葉もない。 黙っていると｢若いねぇ｣なんてジジ臭いことを言いながらくまくんが笑った。 その頭をもう一度軽く小突きながら、頭の中ではライブが終わった後のことばかり考えていた。 余談だが、吐き出せなかった欲を抱えたまま行ったその日のライブは『瀬名泉と朱桜司がいつにも増して色っぽかった』と大好評だったらしい。 ―end―

~あらすじ~<br />ホテル側の手違いで同じ部屋に泊まることになった泉と司。しかもダブルベッド。そこに突如隣の部屋から鳴り響く女の喘ぎ声。果たして泉と司は煩悩に打ち勝つことが出来るのか―！？<br /><br />ってな感じでモブ♀が匂わせる程度に出てきます。ご注意。<br />他のKnightsメンバーも出ます。<br /><br />■2/26~3/3付けﾙｰｷｰﾗﾝｷﾝｸﾞ90位、2/27~3/4付けﾙｰｷｰﾗﾝｷﾝｸﾞ87位ありがとうございます！<br /><br />■続編出ました【 <strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6670602">novel/6670602</a></strong> 】

おあずけの夜

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6494842#1

　陽介の財布の中には、スキンが4つ入ってる。 　もちろん、相棒と使うためだ。 　2つじゃなくて、4つってとこ、イキリタツ未経験者の欲望っての？はやる心がかいま見えて、微笑ましくね？って、自分で何言ってんだか。 　相棒と、相思相愛になった。 　ずっとずっと欲しかった、好きだって言葉を交わし合って、陽介はすっかりのぼせ上がってる。 　 　友達の頃から、キスをしていた。 　陽介は、好きだって自覚をしていた。でも、彼の心がつかめなくって、それ以上には進めなかった。 　それが、ようやくだ。 　ようやく、お互いの心が通じ合った。 　なのに、陽介は焦っている。 「なあ、相棒！」 　昼間思いっきりバイトでこき使われたその夜、寝る前に、愛しの相棒に電話をかけた。 「今って、なんで夏休みなの！？」 「夏だから？」 　トボけたところのある彼は、天然でそう答えた。 「だーっ！そうじゃなくて！なんでこのタイミングで夏休みなんだろうって、おまえは思わねえ？」 「？」 　電話の向こうにでっかいクエスチョンマークが浮かんでいるのが想像できた。 「だって、学校休みだぜ？毎日会えてたってのに、それがないんだぜ？ 　その上、バイトのシフトがめっちゃ入っちゃってんだもの。 「入れたのは俺自身だけどさ。だって、おまえとこんなにことになるなんて、まだ思わなかったんだもの！」 「うん、そうだね」 「あーっ！バカだ俺」 　いまいち反応の悪い相棒にもやもやしながら、陽介は自室のベッドの上でのたうちまわる。 「あー…ホントにバカ」 「でさ。陽介。次いつ会えるの？」 「会えるの？」 　ガッと起き上がった。 「おまえ次第。俺はいつでも空いてる」 　イキリタツ！ ＊＊＊ 　エビデーヤンライジュネス！ 　5日後に全休があるのを確認をしてから、その日は仕事を始めた。バックヤードからの品だし、主に食品コーナー。 　軽快な音楽が店内に流れる。続きを鼻歌しながら、陽介は菓子売り場で乱れた陳列を直していた。夏休み、このコーナーは本当に乱れがちになる。品物の回転も速い上、おまけ付きキャンディーがスナックのコーナーに紛れ込んでいたり。中腰の陽介の足下にすがりついてきた手がある。子供。3歳くらいか。泣いてはないが、迷子だな、と直感した。　 「どしたー？お母さんは？」 「？」 「えっと、キミのママはー？」 　ぶわっと後ろを振り向いた。姿がないことに初めて気がついたのか、急に輪ゴムのような口で泣きはじめた。 　あやしながら事務室に向かうと、観音扉の入り口近くに、相棒がいた。 　まさか今日会えるなんて、昨晩の電話では言ってなかった。 　でも、陽介の仕事中に強いて会いにくるようなキャラではない。 「どしたの？急に」 　メール一本もなく。 　その問いには答えず、にっこり笑って、陽介に抱かれた子供に近づいた。 「ボク、迷子かな？」 　あばばばとあやす。 　べそべそしていた顔がそれに気を取られて、きょとんとなる。 　泣きやんだ。 「お。助かるわ。一緒に入って」 　陽介は扉を開けた。 　事務の女性に館内放送をしてもらって、ふたりでしばし事務所の隅で子供の相手をする。相棒の手遊びは上手い。さすが、保育のバイトをしているだけある。 「陽介、売り場は？俺、しばらくここにいてもいいけど」 「マジ？ちょっと戻って断ってくるわ。もし、この子の親が来ても、そのまま居てよ。フードコートで待ち合わせてもいいけど、あっちいしさ。俺、20分経ったら休憩だから」 　急用なんだろう。しかも電話で言えないような。 　陽介は悟って、彼を引き止めた。 　去り際、ドアの隙間から、事務の女性と話を始めた相棒の、堂に入った子供の抱き方と、その子の笑い声が、誇らしくて、でも、なんとなく心が痛くて。 　売り場に断り、でもその場で2.3仕事を済ませ、事務室に戻ると、彼はそのまま居た。子供は母親が引き取りに来たという。 　事務長と事務の女性の机に1個ずつ私物のキャンディを置き、それから窓際のソファに座り、陽介は相棒に冷えた缶コーヒーを差し出した。 「さんきゅ」 「で、何？」 　きゅ、と自分の分のプルトップを引きながら、尋ねる。 「耳貸して」 　との言葉に、身体を寄せた。 　吐息と共に、相棒のやわらかい声が流れこんでくる。 「抱きたい？抱かれたい？」 　あー… 　コーヒーを口に含んでなくて良かった。 　陽介は心底そう思った。 　肺から変な空気が漏れた。そして身体全体がぼっと熱くなり、目が一瞬見えなくなった。 「あれ？俺、気を失ってた？」 「落ち着け」 「ばっ！落ち着けるか、これが、これが…」 　健康的に勤労に励んで、 　幼子の無垢な姿を見て、 　そんな子供と心通わす相棒に心あったかくして、 　なのにいきなりセックスの話！ 「切り替えがつかねーよバカ」 　囁くように怒鳴る、と言う難しい技を披露しながら、陽介が相棒に抗議する。 「大事なことだろ？」 　いとも真剣な様子で彼は答える。 「どうしたの？なんかあった？」 　事務の女性からけげんな声がかかった。 「すんません、邪魔ですよね。ちょっとロッカー室行ってきます」 　焦りながら、陽介は相棒の腕を引っぱる。 　あーもー。 　あーもー。 　天然なんだから我が相棒は。 　テレビの向こうでは確かに頼りになるけど、普段は自分が良識的に立ち振る舞ってないと、道を踏み外しそうなんだよな。 　ずんずん引っぱっていった先のロッカールームで。 　まずしたことは、相棒とのキスだったが。 「大変なことだって、陽介は知ってた？」 　涼しい風を流し込んでくる空調の下で、角突き合わせてふたり、話をする。 「…ん…まあ…そこそこ」 　自慢じゃないが、エロいことにはフットワークの軽い陽介だった。 　いくら相棒から牽制されてようとも、それなりに調べていた。 　ずっと前に。 　相棒を相手に想像して…ひとりで色々したこともある。 　そう、今だって、財布の中に、スキンが4つしまわれてるし。 「つか…おまえは知らなかったのね…」 「あ。うん」 　相棒は、傷ついた顔をしている。 　 「俺が知ってたからって、何そんなに驚いてるんだよ」 「…なんでだろ」 　ぶはっ、と陽介が吹く。 「わかんねーの？おまえってときどき面白いよな」 　目を細めて、いとおしそうに笑う。 「陽介、またキスして」 「ん」 　缶コーヒー味のキス。 　ちろりと舌先を触れあわせて、上唇の尖った部分を吸って、ちゅっと音を立てる。 　もう一度、舌をからませて、今度は舌先を吸う。 「でさ。どっち？」 「んあ？」 「もう一度、言わせたい？」 　──抱きたいの？抱かれたいの？ 「んにゃ…」 　陽介は戸惑った声を出す。 「今、決めなきゃダメなの？」 「できれば」 　リーダーなどやっている割に、彼に即断即決のきらいがあるのはわかっていた。 「相棒はどうなのよ…？」 「俺は、余った方でいい」 　…余った、って… 「だって、もっと先のことしたい、って初めに言ったの陽介だろ？どういう想定してたんだ…？」 　言った。確かに言った。 　ここで、陽介がかつて抱いた疑問が湧き上がってくる。 　自分に身を預けてくる相棒と、 　自分を押し倒してくる相棒、 　どっちが本命なの？と。 「…わかんねー…けど」 「ここまで来て、わかんないのかよ」 「今決めなきゃダメ？」 「…用意がある」 　いろんな、と相棒が真剣な目で言う。 　例えばスキンとか。 「…持ってる」 「持ってるのか…」 「驚くなよ！この歳になったら皆持ってんじゃね？知らんけど！」 　そうなの？と、また傷つく顔をした、相棒。 「おい、そんな顔しないで。なにか？持ってたらそんなに変なのか？」 「…いや…じゃ、潤滑剤は…」 「ヴァセリンならうちにあるよ」 　固有名詞…キメ打ち…と灰色の虚ろな眼でつぶやかれた。 　そして、急に暗く、思い詰めた目で、陽介に告げてきた。 「やめた。陽介の意思、訊かない。俺が抱く」 「…え？ええ！？」 「陽介、残りの用意全部して」 「え？えええええええ？」 「する家も、陽介の家な」 「ちょ、まち、おま…」 「夜、家が空く日、あるの？」 「み、3日後の晩…俺、昼間バイトあっけど。家族全員夜勤…」 「その晩」 「え？俺、できたら全休の日の方が…」 「する。するったらする」 　こんな強硬な相棒は、それまで見たことがなかった。 　冷静な力押し…というより、まるでだだっ子のような。 　そして、口にしてから、また傷ついたような顔をした。 　どうして？ 　茫然とする陽介の手から、空になったコーヒーの缶を奪うと「約束」と言ってロッカー室を出て行く。 　「相棒ー…」 　頼りなく呼ぶ声は、もう耳には届かない。 ＊＊＊ 　優しくしてやりたい、と彼はずっと思っていた。 　だから、こんなに頑なな態度を取ってしまった自分に驚いたと同時に、自己嫌悪でいっぱいになった。 　ジュネスを出た途端、夏日の熱気が身体をじゅわっと包む。 　鮫川のほとりは、それでも微かに涼しい風が吹いていて、稲羽のありがたみを知った。 　ほんの少し前、陽介と彼はようやく両思いになった。 　男同士の垣根を乗り越えて、大好きな親友とこんな関係になれた。これ以上ない幸福感に包まれてた。 　どんな風に大事にしよう。 　でも陽介は男だから、女の子にするみたいに優しくするのは、プライドが傷つくかな。 　かわいい従姉妹の菜々子と同じように、大切にしたいのだけど。 　陽介はあれですぐ調子に乗る。 　彼にだけ調子こいてるのだったら別に構わないが、あいつがハメを外すと、警察に引っぱられたり女の子から変態扱いされたり、ろくなことがないから、少しは手綱を引き締めないとならないな。 　うん、それも自分の仕事だ。 　相棒としては、個人の性格なんかに踏みこむのはためらわれたけど、恋人なら、あたり前だよな。 　かーっ。 　居候先の堂島家の自室の布団の上で、彼は耳まで赤くなったのを自覚した。 　恋人だって。 「おまえ次第。俺はいつでも空いてる」 　昨夜、陽介の電話でそう言ってから、彼は通話を切った。 　電話の向こうで、あいつが息を荒くしてるのがわかった。 　ほんと、オトコノコ、だよな。 　自分もオトコノコ、だけど。 　オンナノコとオトコノコのカップルだったら、いろいろ手続きがいったろう。 　オンナノコの気に入りそうなスポットで、雰囲気のある食事をしたり。 　ファッションに気をつかったりしながら、一緒にお買い物をしたり。 　そんなのだってもちろん楽しいのは知ってるし、やってもみたい。 　でも、男同士だから知ってる。 　本当にしたいこと。 　触りたい。 　恋人同士だって、まず確認したい。 　しかも自分たちは、さんざんキスしてる。 　それよりちょっと踏みこんだ…触りっこもしてる。 　でもそれ以上はアウトだと思ってたから、やらなかったんだ。 　多分、自分も陽介も考えてること。 　相手とやりたい。 　彼は、自分でも驚くような速さで、携帯のキーを叩きながら、検索を始めた。 　まず、準備だ、 　そう思って。 　ネットを5巡ぐらいした。あっという間に2時間くらい経ってる。 　そして彼は茫然とした。 　…男同士って、大変… 　アウトと思える部分を、いままで調べてこなかったことを後悔した。 　調べながら頭の中がどんどん白くなっていった。携帯を切ったあと、改めて真っ白になった。 　頭の端っこから、じりじりじり、と夜の蝉の声が聞こえてきて、我に還る。 　せっかくの初めてだから、ムードを大事にしたい。 　いつもどおり、話をして、それからゆっくりキスをして、 　触りっこしてからさりげなく本番、と言うのを考えていた。 　ダメみたい。 　男の受け身って、ものすごく準備がいるみたいだ。 　正直、自分が受け身でも仕方ないと思った。陽介が『絶対自分が男役』と主張してきたら、なりゆきでそうなっても構わないな、と。 　陽介の男としてのプライドが、実は高いとこにあるって気がついていたから。 　ジャンケンとかアミダとか、そんなもんで決めることも考えて、ひとりでツボに入って笑ってたりもしたのだ。 　もっと重いことだった。 　だから、陽介の意思を聞きたかった。 　ものすごく覚悟のいることだったから。 　でも、悲壮な覚悟で陽介の前に立った彼に、愛する親友はあっけらかんと言った。 　知ってるよ、と。 　いつから、とは聞けなかった。 　ましてや、なんで？とは。 　なんで知識があるの？おまえ、男同士忌み嫌ってた時期があったじゃん。なのに、キスの先がしたい、とか、言ってきたのおまえだったし。先のこと、いつ知ったの？ 　まさか、ずっと前から？ 　前の学校から、とか？ 　陽介の影を目の当たりにしたのが、自分とクマだけだったから、他のヤツより陽介を理解していると、そう自負していたんだ。 　でも、当然、陽介には知らない過去がある。キスより前にしなきゃならないことがあったんじゃないのか？ 『おまえ、経験、あんの？』 　多分、本当は、そう、聞きたかった。 　でも、お腹の中に黒い塊のような物が湧き上がってきて──きっとそれは『征服欲』みたいなものなんだろう、頭にカーッと血が上って。 　気がついたら『俺が抱く』宣言をしていた。 　…優しく、したかったのに。 　大事にしたかったのに。 　我を失って、八つ当たりみたいな態度に出てしまった。 　大切な恋人なのに。 　鮫川のほとりで、彼はちょっと泣いた。 　 ＊＊＊ 　エビデーヤンライジュネス！ 　さっきまでは楽しく聞いていたその曲を、陽介は空っぽな頭で聴いた。 　女役、けってい。 　べ、別にいいけど。 　相棒はテンパってた。何の連絡もなしに陽介の職場に現れたことからもそれはわかる。陽介の出方によっては、そのまま、『必要な物をジュネスで買い出し』するつもりだったことも、今ならわかる。やべーやべー。まさかコンドームもここで買うつもりだったとか！通報ものだっつーの！ヤツは彼自身が思っているよりずっと有名人だ。可愛い『妹』を連れて、かいがいしく面倒を見ながら買い物をする『お兄ちゃん』として。その彼がセックスの道具一式買ったら、あっという間に噂が広まるに違いない！ 　べ、別にいいけど。 　陽介は口の中でもごもごとその言葉を繰り返した。 　相棒と早くそう言う仲になりたい！と焦っていたのは事実だし。 　しばらく前に、相棒にならケツを貸せる、と自覚していたし。 　その期日がはっきりしただけだ。 　ただ、用意が全部俺持ちだ、というのが引っかかる。 　まあ、スキンも持ってるし、潤滑剤もあるし。 　それ以外のものは折半だ。 　それ以外のもの…？ 　──検索したい。 　今し方休憩を終えたばかりなのに、陽介は早くも次のフリーな時間を待ち望んでしまっていた。 　 　ああ、男同士って、スキンばっかりいっぱい持ってても仕方ないんだ… 　 　背後で、にゃあ！と子供の泣く声が上がった。 　とっさに振り向くと、今度は女の子の迷子。 「お…俺も泣いていいかな？」 　ちょっと思った。

「…優しく、したかったのに。大事にしたかったのに」──『恋』の連作、続きです。前作【恋を読むキミ】（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=579367">novel/579367</a></strong>）でアンケートを取らせていただいて、この人たちの着地点は『主花』になりました。次点は僅差で『リバ』でした。受け攻めどれに行ってもいいように書いていたもので、このターニングポイントで、うんうん悩んでしまい、難産でした。「イキリタツ！」連発してるとこから、書き始めの日付がわかろうというもの。短いですが、ここで一旦UPいたしまする。アンケートにご協力いただいた皆さま、どうもありがとうございました！次回が本番です。■1【すれちがい】（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=572389">novel/572389</a></strong>）2【共犯者】（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=574138">novel/574138</a></strong>）3【『俺の』】（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=578445">novel/578445</a></strong>）4【夢をみたんだ】（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=579257">novel/579257</a></strong>）5【恋を読むキミ】（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=579367">novel/579367</a></strong>）■余談ですが、影ラジオもマヨ生ももちろんP4アニメ本編も楽しく観てます！鳴上くんが楽しすぎて、毎回腹筋がいたいです。鳴上くんのことで頭がいっぱいなので、彼主役でも小説書きたいなあと思っています。おバカ（誉め言葉）な若者、だいすきです！■タグ、ブクマ、ありがとうございます。ブクマコメに、全裸待機入れてくださったあなたに（*´ω｀）つ【ハイカラな水着】

【P4】泣いてもいいかな【主花】

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くすくす ふふふ あはははは 深夜、残業で遅くなった帰り道、闇夜の静寂を切り裂く様にどこかで妖しい笑い声が響く。 くすくす ふふふ あはははは 声は確かに一人であるはずなのに、一体何処からその笑い声が響いてくるのか、四方から不気味な笑い声が反響し、声の出所を特定するのが難しい。 「ひっ・・・！？」 有り得てはいけないその現象に自分の身体が凍りつくのを青年は感じた、 やっと仕事にめどをつけ帰宅の途についているだけなのに、何でこんな異常な事態に遭遇するはめにならなければいけないんだ？ 青年はそう恐怖しながらも、その理不尽さに怒りを感じた。 くすくす ふふふ あはははは まるで自分を馬鹿にするような笑い声が何処までも何処までも付いてくる。 一体、何なんだよ！いつまで俺を嬲るんだ！？ 許してくれよ、俺が一体何をしたって言うんだよ・・・！ その場から逃げ出そうと必死で疲れた身体に鞭打ち勢いよく走り出すが、笑い声は何処までも付いてくる。 くすくす ふふふ あははは どこまでも、どこまでも、 くすくす ふふふ あははは もうやめてくれ！！ まるで猫がネズミを甚振るかの様な、いつ終わるともわからない遊戯に男の精神は風前の灯火であった。 「た、たすけ・・・っ！」 男がよろよろと疲れた足取りで人通りの少ない路地裏に迷い込むと、笑い声が不意にピタリと止んだ。 「た、助かっ・・・」 恐怖から一変し、安堵した男がその言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。 何かが男の足に、腕に、口に、身体のありとあらゆる所に巻き付き、男の自由を奪うと路地裏より尚暗い闇へと一近似引きずり込まれる。 「～～～っ！！！？」 「ふふふ、あはははは」 その奥には、不気味な笑い声の主が居た。 不思議な黒いピッタリとした服装の泣き黒子が印象的な絶世の美丈夫に己を抱き抱えさせている薄い金髪の、おかしな恰好をした男が子供の様に無邪気に笑っている。 男であるはずなのに、幾重にも別れた黒地に赤いラインが走るロングスカートの様なものを着ている。 良く見るとこの寒空の中、男は裸足だった。 笑っているのにどこか冷たさを感じさせる整った容姿には刺青の様にグネグネと赤い流線が走っていた。 「んーっ！んーーっっ！！」 くすくす ふふふ あはははは 何が可笑しいのか二人揃って微笑み合うその二人は主従の様だ。 「ランサー・・・腹が空いたな」 クスクスと機嫌よく笑う怪しい男が己を抱き上げさせる黒いピッタリとした不思議な恰好をした男をランサーと、それ又不思議な名で呼び、尚且つ口付けているのを、混乱した精神の中でしっかりと見ていた自分に不思議と驚いた。 拘束された自分に等眼中には無い様で、二人は一心不乱にお互いの口腔をくちゅ、ぬちゅっ、と厭らしく弄(まさぐ)っている。 何だ？ 何なんだよ！これは？！ 金髪の方だって薄い華奢な体系だがはっきりと男だと分かるし、その相手だって男だ。 とてつもない美形だがピッタリとした服の上から分かる鍛えられた筋肉で一目で分かる。 この異常な光景に俺の精神は今にもグルグルキリキリと軋み、狂ってしまいそうだ。 「フフッ、ん、くちゅ、・・・ふぁあ・・・っ、あ、あぁ、ら、ンサー・・・！」 「あぁ・・・あるじ、あるじぃ・・・！」 ランサーと呼ばれる男は我慢が出来なくなったのか、主と呼ぶ妖しい男の衣服を弄っている。 この光景だけならば、まだいい。 行き過ぎた行いであるがまだ眉を顰める範囲で自分にも許容できる事だ。 だが、先程から巻きついてくるこの影のような触手はあの金髪の華奢な男の方から来てはいないか？ ランサーは相手の白い太腿にその鍛えられた浅黒い腕をまるで蛇の様に絡めゴソゴソと弄(まさぐ)っている。 そんな状態ではないというのに不覚にもその光景に見入ってしまった。 「はぁんっ、あぁっランサー・・・っ」 太腿に有った手は何時の間にかもっと奥深くにまで達しているらしい。 あの不思議な衣服が怪しく蠢く。 「はぁんっ、ランサー、ランサー・・・！」 「あぁ、主、主・・・俺の主・・・っ！」 妖しく艶めかしい声と、焦れた様な熱っぽい声が合わさる不協和音。 「ランサー・・・腹が空いた・・・」 ちゅ、ちゅ、と色っぽく口付けているのにいきなり場に合わない事を言いだすこの男に口付けを与えていた相手は顔色を変える事無く楽しそうに微笑えんだ。 「良いのですよケイネス殿、どうぞお食べ下さい」 食べる？ 何を、食べると言うのか 嫌な予感が、怖気が、身体中を走り回る。 嫌だ、なぁ、勘違いだよな？ 頼むから、やめてくれ・・・！！ ギュウッ・・・と更にキツクなる締め付けよりも何となく察してしまった己の最後の方が恐ろしくて息が詰まる。 「フフ・・・アハハハハ」 俺の恐怖が面白いのか「ケイネス」と呼ばれた男は唾液に塗れた血の気のない唇をペロリと舐め、手招く、 その手招きに答える様に俺に巻きつく触手が胎動しズルズルと絡み合う男達の前まで引きずられる。 ランサーは俺の事など目もくれず目の前の「ケイネス」を弄(まさぐ)るのに夢中の様だった。 「ングッ！ングーーーーッッ！！！」 とうとう我慢できずにボロボロと流れる涙を「ケイネス」は熱い舌でペロリと拭うと嬉しそうに、楽しそうに言った。 「いただきます」 広がった影に吸い込まれた瞬間、「俺」という人間は永遠に失われた。 [newpage] 「フフフ、あはははは」 「あぁ主・・・魔力など感じられない人間でしたが御満足頂けましたか？」 気持ち良さそうに笑う主に口付けながら尋ねるが、厭らしく打ち付ける腰の動きは止まらない。 「あんっ！あぁっ、ラン、サー・・・ぁ」 「クッ・・・！」 腰を動かすたびにグチュリグチュリと淫らな水音が響く。 何度主の中に放っただろうか 大量に吐き出された精液は留まる術を知らず愛しい主の白い太腿を伝い、足首までドロリとその白い細足を汚している。 「あぁっ、あぁっ！ランサー、もっと・・・もっとぉ・・・っ！」 ゆらゆらとひらひらと、白い肌に滑る赤い流線がじんわりと暗い光を放つ。 以前よりもずっと色素の薄くなった金髪が突き上げの度にパサパサと揺れるのを嬉しく見詰める。 「いくらでも、差し上げます・・・！俺も、人も、何もかも・・・！」 「フフフ、アハハハ、アハハハハッ！！・・・足りない、足りないんだ・・・！」 「あぁ、ケイネス、殿ぉ・・・っ！」 キュウゥっと内部を締め付けられ、我慢出来ずに又内部に白濁を注ぎ込む。 一滴も溢さないと言う様にグネグネと胎動する中が、酷く甘い疼きとなって俺の全身を支配する。 「足りない、足りないんだ・・・」 クスクス、あはははは、と笑う愛しい主 「ソラウだけじゃ足りない・・・ソイツだけじゃ、足りない・・・！アイツラだけじゃ足りない・・・！」 「えぇ、えぇ、いくらでも差し上げましょう、いくらでも喰らいましょう、ケイネス殿」 欲しい欲しいと可愛らしく喘ぐ愛しいケイネス殿に恭しく口付けながら微笑む。 「共に泥に浸かった身・・・二人で、永久に貪り続けましょう・・・！」 どこか熱病に浮かされた様な、浮ついた、だがやけに熱っぽい声で愛しの主にそう囁く。 「所詮有象無象に過ぎない人種です。ですから思うままに、貴方の飢えを満たして下さいませ・・・愛しの、俺の、主よッ！」 泥に浸かる前の何と無為なる事よ！ 見よ、共に浸かった泥の呪いで我が愛しの主はあの女を見限り俺に信と愛を与えて下さっている。 これこそが我が悲願！正に俺が夢見ていた光景よ！ 「あっ、ふぅ・・・！」 艶然と笑う愛しい主に舌を絡めながら口付けると積極的に主も絡めてくる。 温かく滑る舌を絡めればその口付けは自然と激しさを増していく。 そうなれば未だ主の体内に収まる肉棒は又一層力強くそそり立ち愛しい主を甘く苛む。 「ランサー、もっと遊ぼう、もっともっと戯れよう」 「はい、我が愛しき主よ・・・俺が貴方に全てを捧げます・・・！」 頬を触れ合わせながら、まるで童の様に無邪気に笑い合うと、深く暗い赤い闇が蠢き俺と主を深く、深く、包み込んでくれた。

ダブルで泥被って黒化した主従の話。黒主従は常に１８禁だといいなぁ・・・黒桜と同じ格好してる先生とかマジ性的・・・堪らん・・・！・・・おかしい、真面目に二人の幸せさがしてみたらこうなった。どういう事だ？ぬるいエロ描写があります。ぬっるいです。いつかちゃんとしたエロシーン書きたいなぁ・・・エロシーン苦手だけどな！

突き抜けた幸福

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11月の最終土曜日、朝8時。 僕たち六つ子は、全員居間にそろって朝ごはんを食べていた。 普段ならありえないこの光景、生み出したのは、松野家の絶対権力者、松野松代。 いくら暖冬とは言っても、11月下旬となれば朝の気温は下がる。 おまけに、我が家の壁と窓は、すきま風を防げなくなって久しい。 体温で温められた布団の中で、惰眠をむさぼっていたら、急に掛布団がひっぺがされ、カーテンと窓が全開にされた。 クッソ寒い、どのクズ松だよ、この野郎、文句を言おうとしたら、われらが母上様が、仁王立ちで曰く。 「ニートたち、大事な話があるから、今すぐ起きなさい」 返事は”はい”か”イエス”で、母さんの声音にはそんな威圧さがあって、あのおそ松兄さんが、何も言わずに起きだしたもんだから、僕らも黙って着替えをして下に降りた。 顔を洗ってから居間へ行くと、先に起きていたカラ松と十四松がご飯の準備をする手を止めて、そろって顔を上げた。 ニートの癖に、朝が早いんだ、この筋肉兄弟は。 「おはよう、チョロ松」 「チョロ松にーさん、おはよー」 「うん、おはよう。カラ松、十四松」 手伝うよ、とご飯をよそい始めたら、気配もなく一松が入ってきて、僕と入れ替わりで洗面所へ行ったトド松、最後にパーカーで手を拭きながらおそ松兄さんが、それぞれの場所に座る。 いただきます、と声をそろえて、一斉に箸を持ったけど、誰も何もしゃべらない。 お通夜みたいな朝食を終えて、僕とカラ松で片づけをし、母さんに促されて居間に戻る。 「ねえ、母さん、大事な話って？」 張り詰めた空気に、とうとう我慢できなくなったトド松が不安げに口を開いた。 「この間ねえ、職場の人たちと子どもにあげるお小遣いの話になったんだけど、皆の話を聞いてると、やっぱり成人してる息子にお小遣いをあげるのは、おかしいみたいなのよねぇ」 「いやいや、おかしくないって！よそはよそ、うちはうち！」 このクズ長男！とは言えなかった、僕もお小遣いもらってるんだし、当てにしちゃってるわけだし。 「そうだよ、母さん！おそ松兄さんの言う通りだって！」 トド松が全力でおそ松兄さんを擁護して、一松もしきりに頷く。 なのに、僕は黙ってた、これはもう、決まったことなんだろうって思ったから。 「確かに、うちはうちよ、今までもそうしてきた通り。けどねえ、扶養手当も二十歳過ぎるともらえないのよ。年金も払わないといけなくなったし」 文句が言えなくなった僕らに、母さんは、子どもの頃からずっと見てきた、言い聞かせる時の笑顔で言った。 「だから、まずは半分に減らします。来月から、足りない時には自分たちで何とかしてちょうだいね」 強力な爆弾をぶっぱなした母さんは、両親の部屋へと引っ込んで、静かになった居間に、誰かの重いため息が響く。 「僕、来月予定いっぱい入れちゃったんだけど！信じらんない、なんでこのタイミングなの、12月なんて出費多くなるに決まってるじゃん、イベント多いし、冬のセールもあるし、あー、コートも靴も欲しかったのにー！！」 真っ先に沈黙を破ったのはトド松、整えたばかりの髪の毛ひっかきまわし、わっとちゃぶ台に突っ伏す。 「ねぇ、何とか母さんを説得できない？おそ松兄さん。って言うか、して！して下さい、おそ松お兄様！」 涙目で媚びられても、長男は動じない、さすがにわかってる、母さんがあの顔する時は、梃でも動かないもんな。 「無理だなー。松代は本気だ。ま、俺にはお金を増やしてくれるお馬さんがいるから、大丈夫だけどぉ。なんなら、お前の小遣いも増やしてやろうか？」 「誰が信じるか！勝った分全部パチンコですっちまえ！」 暴言を吐いた後、末弟はターゲットを僕に移した。 「チョロ松兄さん！兄さんだって、お小遣い半減されたら困るよね？！」 「そりゃ、今まで通りもらえるに越したことはないよ。にゃーちゃんのクリスマスイベントも、年越しライブもあるし」 「でしょー！！何でそんなに落ち着いてんのさ？！ツッコミ担当はどうしたの？！」 「だけど、あれはもう、決定事項だよ。文句言ってる暇があったら、バイトでも探せば？」 後から考えたら、僕のこの言葉が引き金だったんだろう。 小遣いを減らされたことと、兄二人がお願いを聞いてくれなかったこと、多分その二つが原因で、トド松は盛大にむくれ始めた。 「あっそ！じゃ、チョロ松兄さんのお小遣い、僕がもらっていいよね？」 「はぁ？何でそんな話になるんだよ？」 「だって、常識あるチョロ松兄さんはアルバイトするんでしょ？半額になったお小遣いなんてはした金、要らないじゃない。あ、それとも、もう就職の当てがあるの？だったら、ここも出ていくよね？なら、兄さんの分の生活費浮くし、僕らのお小遣いも元通りにしてもらえるかも！」 ここまでなら、まだ良かった、僕だけが標的になってるなら、我慢はできた。 「そう言えば、チョロ松兄さん、母さんの扶養面接で合格しなかったじゃん。なら、なおさら自分で稼いでよ」 トド松は忘れてるのか、あの面接で保留になったのは、僕だけじゃないのに。 自分の背筋が強張ってきたところに、一松が余計な指摘をしてしまった。 「クソ松も、合格しなかったよね」 「あー、そうだった！じゃ、カラ松兄さんもお小遣い要らないね」 だから、何で、お前はすぐにカラ松に牙を剥くんだよ、一松、嬉しそうにはしゃぐんじゃねえよ、トド松。 まだ一か月も経ってないのに、お前らはもう、あの日のカラ松を忘れたのか？ 「ちょうどいいから、この機会に出てってくんない？あんた、ウザいし」 僕が二人を止められない間に、わざわざマスクを顎までさげた一松が、にやっと笑って、一番言ってはいけない言葉を放った。 ぴりっと場が一瞬固まる、その原因が自分のまとう雰囲気だっていうのは、わかってたけど、もう限界だった。 固く握った拳を、すぐ下の弟に打ち込むべく、立ち上がろうとした時、 「そうだな」 カラ松のやわらかくて低い声が、僕の体を押さえつけた。 「俺が家を出て行こう。一人分の生活費が浮けば、5人の小遣いくらいにはなるかも知れない」 子守歌うたおうかって言う時の、普段より優しい声音で、うざさの欠片もない自然な笑みで、母さんに交渉してくるよ、って立ち上がるカラ松の姿に、僕の中の何かが切れた。 「カラ松、僕も行くよ」 「へ？」 展開についていけてないカラ松は、盛大に疑問符を浮かべてて、間抜け面してるのが可笑しい。 「だから、僕もお前と一緒に出てくって言ってんの。だめ？」 「いや、だめじゃないが、なんで、」 「じゃ、決まりね」 「決まりって、おい、チョロ松、」 まだごちゃごちゃ言いかけるカラ松の肩に手を添えて、行くぞと促し、居間を出た。 「どうしたんだ、チョロ松、なんで、お前まで、」 おろおろする姿は、悪いけど兄らしさを微塵も感じない、むしろ、僕が守ってやらなくちゃって気になる。 「なんでって、養ってやるって言ったじゃん。今すぐは無理だけど。僕はお前と一緒にいたいと思うし、一人より二人の方が、生活だってしやすいだろ？それとも、カラ松は僕と一緒は嫌なの？」 「そんなわけない！」 だったら、何の問題もないだろうと念押しすれば、元々押しに弱いカラ松は、ぐっと言い詰まった。 「わかった。けど、チョロ松が嫌になったら、いつでも言ってくれよ？」 「はいはい」 って、嫌になることは、そうそうないと思うけどね。 覚悟を決めたのか、すっと背筋を伸ばしたカラ松は、清々しい。 顔を見合わせて、拳をこつんとぶつければ、二人同時に頬が緩んだ。 仕切り直して、両親の部屋へと続く廊下を、三歩歩いたところで、閉めたばかりの居間の襖が、スパンと開く。 「おれも、行く」 「え、十四、松？」 僕とカラ松が振り向くと、お前そんな顔できたんだって、こっちが驚くくらい、真剣な顔をした十四松。 「おれ、ちゃんと、するからっ。いっぱい手伝うし、よごさないし、仕事も、する！やくそく、する、からっ。おれも、つれてって！」 泣くのを必死に堪えてるの丸わかり、伸びた袖に隠れた手はきっと、痛いくらいに握りしめてるんだろう。 人のこと言えない、次男ばっかり気にしてたせいで、”保留組”の三人目を忘れてた。 「ご、ごめ、」 「ごめんなぁ、十四松ぅ！」 慌てて謝ろうとしたら、そのタイミングがカラ松とシンクロして、僕の声はあっさりかき消される。 うん、予測はしてたよ。 シンクロ率の高い六つ子の中でも、次男と三男のそれはダントツだもんね、他の兄弟に気味悪がられるレベルで。 「お前が望むなら、俺たちと共に行こう！」 「カラ松にーさん！」 そして、ひっしと抱き合う二人、え、待って、これじゃ僕がはみ出してるみたいじゃん。 「ああ、もう！さっさと話しつけに行くよ！」 二人の腕を無理やりつかんで、たった数メートルの道のりを進んだ。 「随分飛躍したものねえ。カラ松はともかく、あんたたちもなの」 3人で家を出ることにしたと僕が言えば、両親は納得半分、驚き半分という顔をした。 「それで、いつ立つんだ？」 「僕はいっそ今日中に出たいかな。どっちにしろ、今日はあいつらと一緒に居るの耐えられないし、ぐずぐずして決心が揺らぐのもね」 父さんの質問に迷いなく答えたその時の僕には、今後の計画なんてなかった、なのに、他の二人はあっさりと、それでいいと頷いた。 「体に気をつけてね。落ち着いたら、連絡ちょうだい」 「いつでも帰ってきていいんだからな、無理はするなよ」 信頼してるのか、見放されてるのか、父さんと母さんは、いとも簡単に息子3人の旅立ちを受け入れて、軍資金として6万円をくれた。 ニートになってから、毎月もらってた額面3人分、僕らへの最後の小遣い。 両親への報告を終えたら、ここを出ていくんだって、急に実感が沸いた。 不安も確かにあったけど、それより、わくわく感の方が強かった。 ”兄さん”をつけて呼び合うようになる前、おそ松を中心にして、いたずらを考えてた、あの時と似た気持ち。 三つ子の魂なんとやら、常識人を自称しても、僕の中の悪童はいまだ健在なんだと、少しおかしくなった。 もともと、僕らには個人の持ち物が少なくて、荷物をまとめるのに、時間はかからなかった。 着替えと貴重品、細々した文房具とか。 にゃーちゃん関連の物は、この際置いて行こう。 一つ二つに絞るのも難しいし、必要不可欠な物じゃないし、落ち着いたらまた取りに来ればいいんだし。 そうやって物を詰めたら、僕に必要なものは、いつものリュックと、修学旅行用に揃いで買ってもらったボストンバッグにおさまるくらいしかなかった。 「にーさん、準備終わったっス！」 真っ先に宣言した十四松のバッグには、野球道具しか入ってなくて、カラ松と僕で貴重品や着替えを入れさせた。 そのカラ松も、ギターケースとお気に入りのCDの他は、服が数着。 「なあ、カラ松、革ジャンどうしたの？あと、スパンコールのスキニーとか、髑髏のバックルとか」 色分けされた箪笥、青の引き出しに残ってるのは、夏物が少し。 衣装掛けには、何も残されていない、トド松の次に衣装持ちだったはずなのに。 「ああ、入用があって、少し前に売ったんだ」 何気ない返事に、ざわりと胸が騒ぐ、待てよ、お前、それって、もしかして、用意してた？ さっきの母さんの言葉もおかしかった、全然驚かないし、カラ松はともかくって、それは、やっぱり、そういうこと？ 「チョロ松には理解できないかも知れないが、結構値打ちものだったんだぞ。革ジャンとバックルはそこそこのブランドだし、スキニーはダンス衣装だから、割といい値段で売れたんだからな」 僕が黙ってる理由を勘違いしたカラ松は、馬鹿にするなと言いたげに、ほっぺを膨らます。 まあ、このあたりのことは、あとで追及することにしよう、僕らはこれからも一緒にいるんだし。 昼前に旅支度を整えた僕らは、もう一度、居間の襖を開けた。 三人は至って普段通り、一松は隅っこで遊びに来た猫を撫で、トド松はちゃぶ台に乗せたスマホをいじり、おそ松兄さんは明日のレースに備えてるのか競馬新聞とにらめっこ。 こいつら、絶対、本気にしてないわ、夜になったら僕らが情けない声で、ただいまって帰って来ると思ってる。 なめんじゃねーよ、誰が帰って来るか、ばぁーか！ 「それじゃあね」 素っ気ない挨拶をした僕に続いて、十四松が、ばいばい！と手を振る。 「三人とも、元気でな。気が向いたら、連絡してくれ」 カラ松の少し寂しそうな顔を見たのは、たまたま、新聞から顔を上げたおそ松兄さんだけだった。 「兄貴、後を頼んだぜ」 「おー、いってらー」 唯一の兄が、軽く手を挙げて応えたのを見て、次男は安心したのか、玄関に足を向ける。 外まで見送ってくれた両親に、今までお世話になりましたって、三人そろって頭を下げて、僕らはあっけなく二十数年を過ごした家を出た。 [newpage] 僕とカラ松の関係性について、少しばかりの補足。 人間が一度に産む子どもの数は、大体が一人、母体と胎児の大きさを考えれば、複数人は難しいのは明らか。 その一人でも大変だと聞くのに、僕らはまさかの六人。 当然、医者には間引きをすすめられたらしいけど、両親は頑として受け入れなかった。 途中で胎児が死亡したり、流産したりするのでは、っていう予測に反して、僕らは胎内で順調に育った。 良いことなんだけど、母さんの子宮の大きさは本来一人分なわけで。 結果、カラ松となる胎児は他の兄弟に取り囲まれて、ぎゅうぎゅう押される位置にいることを余儀なくされたらしい。 しかも、僕になる胎児と臍の緒部分をほぼ共有し、その周りで軽く癒着してたって。 分娩を人工的に促せば、通常分娩でもいけるかもって言われてたのが、急遽帝王切開になったのは、検査で僕らの癒着と、カラ松がチアノーゼを起こしているのがわかったからだ。 すぐに手術が開始されて、まずは、カラ松の手前ですくすく育ってた胎児、つまりおそ松が取り出された。 それから、僕とカラ松が、向かい合ってくっついたままの状態で、胎外に出され、癒着部分の分離が行われた。 だから、六つ子の中で僕らだけは、生まれた時間も同じ、戸籍上の次男三男は、分離手術が終わった順番っていう話。 今はもう、至近距離で目を凝らさないとわからないくらい薄れてるけど、僕とカラ松のおへその周りには、最後まで繋がっていた跡がある。 僕らのこんな誕生秘話を母さんから聞いたのは、小学校6年生の時。 家庭科で保育についての授業があって、自分の生い立ちを家族に聞いてまとめるっていう宿題が出た。 自分たちが生まれた時の写真や、手形足形を見せてもらったのも、この時が初めてだった。 興味がなかったわけじゃないけど、六人でひとつだと信じ切ってた僕らは、それぞれ別の個体として生まれたって事実を見るのが、少し不安だったんだと思う。 全員2000ｇに満たないの低出生体重児、中でも、カラ松は特に小さくて、何よりも紫色の体をしていたのが、すごくショックだった。 カラ松が受け取るはずだった、酸素とか栄養とかを、僕が奪ってたんじゃないかと思って、途端に、自分の腹にある手術の跡が憎らしくなった。 なのに、カラ松は、ふさぎ込んでうつむいた僕の顔を、わざわざのぞきこんでこう言った。 「僕らは六つ子で、六人で一人だけど、チョロ松と僕は、二人でひとつかもね」 他の4人には聞こえないように、耳元でそっと、でも嬉しそうにささやかれた言葉で、僕はあっけなく救われたんだよなあ。 この言葉で、もう一つ、疑問に思っていたことが解決した。 これまで、カラ松が風邪をひいたり怪我したりすると、僕まで具合が悪くなったり、体が痛くなったりしてて、なんでだろうと子どもながらに考えてたんだけど、”二人でひとつ”なら、それもそうかって納得できた。 以来、僕はカラ松の体の不調が、自分の不調として感じられるようになって、思春期以降、弱ってるのを隠そうとするあいつを、何度も出し抜くことができた。 もっとも、向こうにも僕の不調が、何らかのシグナルで伝わるらしく、あー風邪気味かもと思った直後、生姜湯やら薬やらを渡されたことが何度もある。 要するに、僕はカラ松と痛みを共有してる訳で、だから他の兄弟があいつに手を出すのは、気に食わなかった。 痛みの程度は本人より少ないんだろうけど、僕も痛くなるし、カラ松は”二人でひとつ”のうちの片方、それだけで特別な存在だから。 って、ちゃんとわかってるつもりだったのにね。 チビ太の起こしたカラ松誘拐事件で、僕は特別な存在である片割れの、助けを求める悲痛な声を無視した挙句、みんなと一緒になって鈍器を投げつけるっていう、あるまじき行為をとった。 最後に、一松が投げたらしい石臼が、あいつに当たった瞬間、僕は気を失って、次の日は激しい頭痛と、体の痛みで目が覚めた。 それにも関わらず、僕は一松を優先した。 カラ松と痛みを共有してることは、他の4人には言ったことがないし、ここでバラしても、多分本気にしないだろうし、キモいって引かれて、どうして一松を心配しないのかって非難されるのが予測できたから。 で、自分の保身のために片割れをないがしろにした僕は、全然おさまらない全身の痛みに苛まれながら、あいつの帰りを待った。 カラ松が帰ってきてくれたのは、あたりが暗くなってからで、がたっと引き戸の音を聞きつけて、居間から飛び出した僕に、あいつは驚いてうわっと声をあげた。 「おかえり、ごめん」 言えたのは、たった二言。 あいつが変に遠慮する前に、問答無用でぼろぼろの体を支えて、準備しておいた客間に寝かせて、枕元で土下座した。 本当にごめん、僕だけはお前のこと助けに行かなきゃいけなかったのに、許してもらえると思ってないし、今更って言われても仕方ないけど、せめて体が治るまで、そばにいさせてくれないか。 畳に額をこすりつけながら、せり上がって来る涙を堪えて、途切れ途切れに、頭にあふれてくる懺悔の、10分の1くらいを何とか吐き出した。 「チョロ松」 僕より少し低い穏やかな声と、頭に置かれる、僕のより少しだけ大きくてごつごつした手。 そのまま、わしゃわしゃ頭を撫でられて、最後は兄弟で一番逞しい右腕に、がしっと抱き取られた。 「ありがとな」 「・・・な、んで、お礼？」 本来なら、撫でるんじゃなくて、拳骨をぶつけてくれていい所、ましてお礼なんて、言ってもらえる資格なんてないのに。 思わず顔をあげたら、カラ松はへにゃっと笑ってこう言った。 「待っててくれたの、嬉しかった。そばにいてくれるのも、嬉しい」 ほんと、こいつの優しさって、最早暴力に近いよね。 鉄砲水みたいに溢れた僕の涙が、カラ松の胸を濡らしてる。 押し付けた頬に伝わる体温は、平熱よりも高くて、こいつが発熱してるのがわかった。 早く看病しなきゃと思うのに、僕はカラ松の心音を聞くのをなかなかやめられなくて。 昔からそうだった、嫌なこととか悲しいことがあった時、カラ松の心臓の音は、一番の癒しだった。 結局、僕はまたしても、カラ松の優しさに救われたわけで。 前に口走った、養ってやる発言を実行しよう、なんて気になったのだ。 もう一度飛び出しかけたその誓いは、スパーンと襖が開けられる音と、からまつにーさんごめんなさいっていう、十四松の泣き声にかき消されてしまったけど。 だけどまあ、実際は、職も決まらないまま、こうやって勢いのまま飛び出しちゃったんだよね。 こういうところは、本当に昔から変わらない、僕の欠点だ。 実家を出た僕らは、腹ごしらえと今後の相談をすべく、ショッピングモールのフードコートに来た。 館内の食品スーパーから、2リットルペットのお茶と一日分の野菜が摂れるジュースと唐揚げを買ってきて、焼き立てのアナウンスにつられてベーカリーで惣菜パンも追加。 それからフードコートをぐるっと回って、僕はラーメン、カラ松は牛丼、十四松はオムライス。 結構な量だけど、兄弟の中でもよく食べる二人がいるから、ちょうどいいくらい。 「うめー！でも、カラ松にーさんの作ったやつの方が好き」 「それは嬉しい褒め言葉だな」 十四松はスプーンを口に突っ込んで目を細め、カラ松は唐揚げを嬉しそうにむぐむぐ。 うまそうに食べるんだよね、この二人、見てる方が幸せになる感じ。 ラーメンをすすりながら、まあ、何とかなるよね、なんてつい楽観的になった。 「で、この後どうする？ほんと悪いけど、最初に言った通り、僕、計画とかないんだよ。カラ松の言葉借りればノープランってやつ。一応、貯金は少しあるから、安い部屋探して、バイトすれば、半年くらいは持ちそうだけど」 買ったものをきっちり平らげて、テーブルの上には、デザートの今川焼が三つ、クリームと粒あんとチョコ、店の人に頼んで三等分してもらっている。 本人ですら無責任だと思う発言に、カラ松が目を瞑り腕組みをして考えこんだ。 隣の十四松も、頬杖ついてじっと表情を固める。 ほんと、ごめん、養うとか言っておいてこれだもんね、真面目系クズって言われるのも当然だよ。 僕が自分の不甲斐なさに、ため息つきそうになった時、よし、と意気込んでカラ松が目を開けた。 「王道の粒あんからにしよう」 は？何、もしかしなくても、今川焼どれから食べるか考えてたの？ 「じゃ、おれもー！」 お前もかよ！あのさ、僕の自己嫌悪を返してくれる？ うまいな、うまいね！って、目の前でお花を飛ばす二人に、僕は自らのアイデンティティであるツッコミを放棄して、粒あん今川焼の最後の欠片を口に放り込んだ。 粒あんの後、チョコ、カスタードの順に食べた今川焼は、どれも美味しかった。 買ったばかりで、まだ温かいところが格別だよね、うん。 満腹満腹、ペットボトルのお茶で食後の余韻にひたりかけた時、カラ松が静かに言った。 「もし、良ければ、北の大地へ行かないか？」 「は？」 「へ？」 お、十四松とシンクロするのって、結構めずらしいかも。 つーか、何の話？あ、今後についてのことか、自分で話振っといて忘れかけてた。 「カラ松、あてがあるの？」 ああ、と頷いたかと思ったら、急に眉を寄せる。 「どうしたの？危険な仕事？問題でもある？」 「いや、そうじゃない。あのな・・・ずっと言わなかったが、実は、演劇を、続けているんだ」 そう言えば、こいつは中学から演劇部に入ってたっけ、自分と同じ顔が舞台に出てるのが、なんとなく気恥ずかしくて、結局見たことはなかったけど、周りの評価は高かった覚えがある。 そうだったんだと相槌をうったら、カラ松はテーブルに打ち付ける勢いで頭を下げた。 「す、すまない！ずっと、隠してて、ごめん。みんなを裏切りたかったわけじゃ、ないんだ。けどな、演劇は、俺には必要なもので、それで、」 「カラ松、落ち着いて」 ぎゅっと握られた拳に手を乗せて、できるだけ柔らかい声を出す。 「うん、そういう話は、おいおい聞かせて。それよりもさ、今の僕らに必要なのは、今夜からの寝床なんだよ。だから、お前に何かそのあたりの計画があるんなら、それを先に話してくれない？」 僕を含めて兄弟はこいつのことをポンコツだと揶揄うけど、実際カラ松は頭の回転が鈍いわけじゃない、ただ、言葉に変換するのが、少し遅かったり、話の順序が少しずれてたり、単語がところどころ抜けるだけ。 こちらが聞く姿勢をちゃんととれば、イタイ台詞もなく、話してくれる。 「演劇やってるって、劇団とかに入ってるの？」 「ああ。高校の時の先輩が立ち上げた、小さな劇団でな。その先輩の叔父さんが、ペンションをやってて、冬の間の働き手を探してるそうなんだ」 「おー、なんだか、かっくいーッスな！」 「スキーシーズンのリゾートバイトってやつだね。それって、僕と十四松が行っても大丈夫？」 「先輩には、兄弟も連れて来いって言われたから、大丈夫だと思うぞ」 「待って、ちゃんと確認取ろう。向こうで路頭に迷うのも困るだろ？」 僕と十四松の顔を交互に見たカラ松は、すっかり兄の顔で、スマホを取り出した。 トド松がいつの間にか持ち始めたスマホ、だけど、実はカラ松の方が先に持ってたって話、しかも本体も月々の料金も自分で払ってるって。 「カラ松、ついでに必要な書類とか、あるかどうかも聞いて。あと、いつから働けるのかと、一応雇用条件も」 「ああ、わかった」 カラ松が送ったメールの返事は、着信で来た。 「もしもし、カラ松です」 電話の相手にカラ松は、くだけた丁寧語で気楽に話し始めた。 気負わない表情と声色で、こいつがどれくらいその先輩と親しいのか、わかってしまって、何だか面白くない。 横を見れば、口を開けたままじっと聞き耳立ててる十四松と目があって、二人で苦笑。 うん、お前も面白くないんだよね、つまらない嫉妬だっていうのも、わかってるけど。 そんな嫉妬を勝手に向けられた人が教えてくれた条件は、想像以上に良かった。 人手が足りていないらしく、こき使われるのを覚悟した方がいいみたいで、休みは週1日だけど、日給は9000円、宿泊料と三回の食事込み。 来週から忙しくなるから、できるだけ早く来て欲しいらしく、期間はとりあえず2月末まで。 「すごい、ラッキーだよ、僕ら！こんな好条件のバイト、なかなかないって！」 テンション上がってきた僕は、喜んでもらえて何よりだと微笑む兄と、よくわかってなくて首をかしげる弟に、カバンから出した履歴書セットを押し付ける。 「ここに僕のテンプレあるから、学歴と職歴はこれ写せばいいからね。特技とかは、自分でよく考えて。はい、まずは鉛筆で下書き。十四松、あんまり濃く書くと、清書の後で消すの大変だから、筆圧弱めにね。カラ松は、手伝ってやって」 「ああ、うん、」 「あいあい！カラ松にーさん、オナシャスー」 チョロ松にーさん、母さんみたいだね！そうだな、しっかりものだ、って、小声にしても聞こえてるからね。 パソコンを開いて、カラ松から聞いたペンションの場所を調べる。 フリーのWi-Fi設置してるところが増えたことは、ニートの僕にはとても有難い。 「ちょっと、買ってくるよ」 「足りるか？」 カラ松が言いたいのは、さっき両親からもらった6万で飛行機のチケット代は足りるのかってこと。 おそ松兄さん曰く、次男と三男の会話はしばしば、圧倒的に単語が少なすぎるらしい。 「朝早いのなら大丈夫」 「なら、余りは宿だな。調べておく」 頼んだ、と返事して、僕は建物内の旅行カウンターへ。 ネットでチケットの予約できるのは知ってるけど、支払いがね。 ニートはクレジットカードなんて持てないし、今日は土曜日、銀行振り込みだと間に合わない、現金で払うしかない。 時々、現実逃避の旅行パンフをもらってた旅行カウンターに、初めて正規の目的で足を踏み入れただけでも少し緊張してたのに、担当の女性社員がアイドル並みの可愛さだったことで、数十秒記憶がぶっ飛んだ。 でも、その社員さんが、呂律回ってない、しどろもどろの僕の話を、ちゃんと聞き取ってくれたおかげで、無事、狙ってた便のチケット3枚を買うことができた。 しかも、今夜の宿と、現地の空港からペンションまでの交通機関についても、資料をくれるっていう、まさに女神な対応で、天にも昇る心地になったのでした。 重要な任務を終えて、足元ふわふわなままフードコートに戻ったら、二人がそろってにこにこ顔を向けてきた。 やめて、その顔、ほんとに天国逝きそうだから。 「チョロ松にーさん、書けたよー！」 十四松の声で我に返って、ずいっと突き付けられた履歴書、手に取るのを少しだけ躊躇。 よし、何が書かれていても、平静な心を保つぞって、覚悟を決めて見てみれば。 なんだ、ちゃんと書けてるじゃん。 文字はきちんと枠に収まってるし、そんなに読みにくくもない、資格欄が「普通自動車免許」だけなのは、どうしようもないけど、特技の「野球をやっているので、体力も筋力も自信があります」っていうのは良いと思う。 志望動機も「人の笑顔を見るのが好きなので、サービス業を経験したい」なんて、すごく立派だ、こういうことって、人によっては綺麗ごとだと思われるけど、十四松の性格なら大丈夫だろうし。 「すごいよ、十四松！完璧だって」 「まじすか？！えへへ、カラ松にーさんが考えてくれたんだぁー」 満面の笑みで喜ぶ十四松と、その頭を嬉しそうに撫でるカラ松、ああー、癒される、いや、心を強く持て、僕。 「十四松、まだ完成じゃないからね。綺麗に清書して、インクが乾いたら消しゴムかけ」 あいあい！って良い子な返事をする弟に、ボールペンを渡し、隣の兄をみやる。 「カラ松は書けた？」 「俺のは、添削しなくても大丈夫だぞ？」 「・・・失敗しても、予備の履歴書はあげないからね」 イタイ台詞でハロワ追い出された奴に、そんなこと言われてもねえ、あんまり信用できないけど、十四松の分と同じように書いてくれるなら、大丈夫かな。 若干不安を覚えながらも、僕は自分の分を完成させることにした。 資格は、恥ずかしいのわかってても、英検漢検ともに6級を一応入れる。 特技を埋めるのは苦手、几帳面です、なんて自分でも鳥肌立つようなことを書く。 志望動機も、難しい、まさか兄弟の紹介とか、待遇がいいからとか、書けないし。 行き詰って、カラ松は何て書くのか参考にしようと、右斜め前でボールペンを走らせてる紙上に目をやった。 綺麗な字だ、女性的じゃなくて、男性的なきちんとした楷書、ペンの持ち方も書き順も完璧。 一瞬、視線が逸れて、文字を書いているカラ松の右手に見惚れた後、僕の目は目的の部分をとらえた。 「・・・は？」 思わず、疑問符が口に出た。 え？待って、待って、ちょっと待って！何で、資格欄が余白ないの？ 「英検準1級」「TOEICスコア785点」って、や、お前確かに英語得意だったけど、そんなレベルだったの？ 百歩譲るとして、「フランス語検定3級」はおかしくね？どこで習ったんだよ？ 次もおかしい、「大型特殊免許」普通自動車じゃなくて、大特？ 5つ書けるようになってる資格欄の最後は「調理師」、お前、妄想書いてるんだよな？お願いだから、そうだと言ってぇぇ！ 頭の中で怒涛のツッコミをしてた僕は、その少し上の箇所を見て、堪らず叫んだ。 「何で、職歴が書いてあんの？！」 「えっ？」 あと少しで清書が終わる所で手を止めて、カラ松がこっちを向く、きょとんとすんじゃねええ！ 「あっ！」 今更しまったって顔すんな、手で履歴書隠しても、おっせえんだよっ、このポンコツ松うう！ さあて、尋問だぁっ！と意気込んだ矢先、十四松が、できたー！って声を上げたので、少し冷静になれた。 「ちょうど良かった。十四松、インク乾くの待つ間、カラ松お兄様の秘密を聞こうね」 「カラ松にーさんの秘密っスか？おれも聞きたい！」 左は僕、右は十四松が、しっかりカラ松の肩を抱く、素直に吐いて、楽になっちゃいなよってね。 「すまない、隠してたことは、本当に悪かったと思ってる」 そういう前置きで、カラ松は僕ら兄弟に秘密にしていたことを話し始めた。 二つ書いてあった職歴の先の方、建設会社の契約社員は、高校卒業と同時に始めたらしい。 理由は、工事車両がカッコよかったから、なんだそれ。 「動機が不純で恥ずかしかったし、一人だけ働くなんて、言い出せなかったんだ」 「それは、わかるよ」 小学校、中学校はともかく、高校までも全員で同じ所へ通っていた僕らは、進路調査で初めて、6人が離れ離れになることを実感して、多分、皆、それが怖かったんだと思う。 大学だって、奨学金を使えば、行けないこともなかった、調べたから知ってる、世帯の収入と扶養家族の人数的に、僕らは利子のない奨学金を借りることができた。 仕事も、やろうと思えばできた、大卒よりは厳しいけど、高卒を募集してる会社はあったし、同級生のいくらかは、実際内定をもらった。 だけど、毎朝そろって同じ学校へ行って、クラスは違えど、校内で会うこともできて、同じ家に帰る生活をしてた僕らは、誰かが遠くの大学や職場へ出て、一人暮らしをすることを、半ば恐れてた。 結果、こうやってニートになってしまったんだと、そう言うのは、言い訳だってわかってはいる。 でも、同時に本心でもあるわけで、カラ松は、きっと悩んだんだろう、悩んだ末に、働くことを選んだ、その選択は、悔しいけど格好いい。 「いい会社だったんだ。全く初心者の俺にも、クレーンとかショベルカーをやらせてくれてな」 「なるほどね、それで大特取れたんだ」 だけど、履歴書によれば、約一年半後、「契約満了につき退職」。 「俺は下っ端だから、詳しいことはあまりわからないが、どうも、取引先の経営が良くなくて、仕事を切られたらしい。そうなると下請けはどうしようもないって、社員の人たちが言ってた。やるべき工事が終わったところで、契約社員は皆退職することになったんだ」 追い出したいんじゃない、皆はとても良くやってくれた、できることなら、これからも一緒に仕事をしたかった。 最後の日に、社長さんはそう言って、涙を隠さず全契約社員と握手をしてくれたそうだ。 「はいはーい！カラ松にーさんが、やってた工事って、どんなのっスか？おれも知ってる所？」 十四松の質問に、カラ松は恥ずかしそうに答えた。 「実はな、今いる、この建物だ。外装を請け負ってて、支柱とか壁とかをやったぞ」 「まじスか？！かっけー！」 そう言えば、このショッピングモールがオープンしたのは、1年くらい前だったっけ。 建設会社を辞めた後は、バイトでゴミの収集車に乗ってたらしい。 「もう一つのは？ここって、芸能関係じゃないの？」 「流石、良く知ってるな！ここでは、スタントマンをやってたんだ。・・・高2の頃から、」 はあっ？また語調が強くなりそう、だめだ、怯えさせたら、話してもらえなくなる。 「すっげー！スタントマンって、あれっしょ？車で燃えたり、高いとこから落ちたり！」 ナイスフォロー、十四松、おかげでカラ松も言いやすくなったみたい、表情が柔らかくなった。 「さっきの先輩が話をくれて、最初は演劇部員でエキストラをやってたんだが、たまたま、スタントの人が都合がつかないことがあって、そしたら、先輩にやってみればって言われて」 「それで、できちゃったわけ」 「ああ。十四松の言う通り、ビルから落ちるやつで、怖くて無理だと思ったんだが、飛んでみたら気持ちが良くてな」 僕ら兄弟は、自慢じゃないけど、運動能力はそこそこ高い。 中でも、おそ松兄さんとカラ松はオールマイティに何でもこなす、あ、十四松は規格外。 だから、まあ、カラ松がスタントマンっていうのは、妙に納得なんだけど、なにかが引っかかって、僕は十四松のように、格好いい！と、はしゃげなかった。 「次に、他の資格についてだけど」 ペットボトルのお茶を、フードコートで借りたコップに注ぎ足して、ほっと一息入れたカラ松は、まだやるのかと言いたげに僕を見た。 やるんだよ、この履歴書の気になる箇所すべてにツッコミ入れるまで、僕は追及していくからね。 そう、目線で返してやれば、カラ松は降参と両手を挙げた。 「英語はまだわかるよ、お前昔から得意だし。けど、フランス語って、どっかで習ったの？」 「ラジオとテレビだぞ」 書店のテキスト売り場を素通りしている僕は、どんな講座が放送されてるのか、気にもとめてなかったけど、カラ松が言うには、英語を始め、主要な言語の講座はそろっているんだとか。 兄弟のいる所だと邪魔されそうだからって、もはや骨董品みたいな父さんのラジカセを借りて、一人の時に聴いてたらしい。 テレビって言うのは、放送大学チャンネルで、録画したのを深夜にこっそり観てたって。 なるほど、うまくやってたもんだよね、うちじゃ録画機能はあんまり使ってなかったし、”深夜にテレビの前にいる＝ナニしてる”っていう、暗黙の了解があったし。 「何で、フランス語にしたの？まさか、イヤミの影響じゃないよね？」 昔馴染みの名前に、カラ松は、あいつの影響を受けるのは俺でも嫌だと笑った。 「戯曲を、原本で読みたかったんだ」 所属してる劇団で、フランスの古い喜劇を現代版に焼き直したものをやった時、その原作を訳の手を入れずに理解したいと思ったらしい。 英語の勉強も動機は同じで、シェイクスピアの書いた言葉そのものを、わかるようになりたかったんだって。 すごいねって、感想をそのまま口にしたら、そうか？だって。 「好きなものに関することなら、苦労も苦労に感じないだろ？十四松だって、野球がうまくなるなら、練習も嫌じゃないだろうし、チョロ松も、大好きなアイドルのためなら、長時間待ったって平気じゃないか？」 確かに、言いたいことはわかるけど、興味の対象に果てしない隔たりを感じてしまった。 「カラ松にーさん、調理師っていうのは？」 十四松の明るい声に、沈みかけてた気持ちが再浮上、こいつのこういう所がすごく優しいと思う。 「僕も聞きたかった。これって、経験ないとだめなやつじゃん？」 「それはな・・・隣を、手伝ってた」 「となり？ああ！あのカフェ」 そう言えば、隣のビルの一階はカフェだった、二階は探偵事務所って、どこかで聞いたことある感じ。 「あそこってやってたの？今思い出したけど、僕、一回も行ったことないよ」 「普通にやってるぞ。客の入りもそこそこだと思う。マスターが一人で切り盛りしてて、手伝いが欲しいって母さんにこぼしたらしくてな。じゃ、うちのニートを一人貸しますって」 「それで、カラ松に白羽の矢が立ったってことね。まあ、適任ではあるよ」 子どもの頃から、母さんの手伝いに捕まるのは、大体こいつだった。 中学くらいからは、カラ松が率先して母さんを手伝うようになって、毎食の準備は二人でやるようになり、今ではカラ松が台所を任せられることも少なくない。 レストランとか料亭みたいなものじゃないけど、僕らの好みを反映した料理は、確実に兄弟の胃袋をつかんでいる。 「はあぁ。何で、これだけ仕事してて、僕らに隠せたわけ？」 カラ松のスペックの高さを、十分に再認識した僕は、素直に、こいつすごいって思うのと同時に、自分が情けなくなった。 何で、同じ家で、毎日顔合わせてたのに、今まで気づかなかったんだろう、一日二日じゃともかく、数年単位って。 「それは、あれだ、皆にウザがられた」 「あ！」 申し訳なさそうな声で、僕はあらかたを察してしまった。 思えば、カラ松がイタイこと言うようになったのは、高校を卒業するくらいからだ。 あれは、働くことを選んで、それをごまかすための、キャラだったのか。 「なあ、どこまでが演技？台詞はそうだよね？」 ため息まじりに聞いた僕に、カラ松は小さく、うんと頷いた、これだけなら、僕もちょっと怒ったと思うけど。 一生のうちに言ってみたいセリフを、全部言ってみようとも思った、なんて、恥ずかしそうに付け加えられたから、もう毒気が抜けた。 「あ、自作のタンクトップとスパンコールのやつは、ネタのつもりだったぞ」 いや、わかんなかったよ！だって、普段から結構アレなの着てたじゃん！僕、執拗にツッコミたいのを我慢したんだからね？！ 「この際だから懺悔するが、ああすれば、俺のことを放っておいてもらえると思ったんだ。一人だけ、働いてる上に、隠れて演劇までやって、こんなこと皆が知ったら、追い出されるんじゃないかって。最低だとわかっていながら、俺は、もう少し皆と一緒にいたかったんだ」 「ほんと、まんまと引っかかったよ」 よくよく考えれば、いくらでも気付けたはずだった。 なのに、気付かなかったのは、こいつの演技が上手かっただけじゃなくて、僕たちがカラ松の行動に関心を示さなかったから。 本当にすまない、とうなだれるカラ松の頭を、十四松と二人でわしゃわしゃ撫でた。 驚いて顔を上げたカラ松は、僕を見て、十四松を見て、そしてふにゃっと笑った。 何だかすごく可愛く見えて、それは十四松も同じだったみたいで、二人でカラ松に抱き着いた。 「カラ松、僕も、悪かったよ。お前のこと、ちゃんと見てなかった」 「おれも、にーさんの言ってること、難しいからって、いつも遮ってた」 「だから、秘密にしてたことは、今日の夕飯でチャラね！」 これから三人で新生活を送る、このタイミングで聞けて良かった。 「ああ、任せろ！」 格好つけない笑顔がまぶしく見えた。

■もはやn番煎じもいいとこの、扶養保留組自立話。既に投稿されている作品とネタがかぶっていたら、本当にごめんなさい。<br />■合格組の発言がひどいですが、話の都合上なので、ご勘弁ください。<br />■カラ松に夢を見すぎているカラ松BBAです。すべては私の残念な脳内でのみ起こったことです。どんな妄想でも大丈夫という、心の広い方のみ、お読みください。<br />■亀並みの頻度で、おそらくだらだら続けると思います。今後はオリキャラが出たり、合格組が出たりするかと。カラ松愛されにしたいので、タグを入れました。<br /><br />追記）ランキングにお邪魔したようで、ありがとうございます！遅筆ですが、少しずつ続きを上げていけるようにいたします…<br />追記2）ブクマ数が大変なことになっててびっくりしました。3/7に、誤字と細部（語学についての追及）を修正いたしました。話の流れは変わってません。

【おそ松さん】次男の秘められし能力が想像以上に高かった1

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6495184#1

＊松代視点 ＊がっつり過去捏造 ＊相変わらずおそ松兄さん及び六つ子に夢を見ています。 ＊何はともあれ自己責任でオネシャス！！ 　何でもない日曜日の昼下がりだった。 　今日の夕飯は、何にしようかしら、お父さんは何が食べたい、何でもいい、何でもいいが一番困るのよ、と日本中で繰り広げられているであろう定形の会話を交わしていた両親に一番上の息子はこう言い放った。 「父さん、母さん、俺、就職決まったから」 　松造は吸っていた煙草に盛大に噎せたし、松代は手に持っていたみかんを握り潰しそうになった。夢か嘘かドッキリかと思ったが、夢でも嘘でもドッキリでもないよ、と息子は笑った。 　それから盛大に祝ってやろうとしたのに、息子は首を横に振った。まだ弟たちには知られたくない、と特に三番目のチョロ松には知られたくないのだと言った。カラ松には言ってあるから、と告げた息子は「じゃあ、俺パチンコ行ってくるね。あ、そうそう、家も出るから」とあっけらかんと告げて本当にパチンコに行ってしまった。 　あまりに突然の事に事態を理解する事が出来ず、松代と松造はしばらくそこで固まっていた。今、思い返してみても呼吸をするのを忘れていたような気もする。 「…………やっぱり、この時計はあいつが持っていくんだなぁ」 　我に返った夫が、感慨深げに呟いて左の手首にある腕時計を撫でた。銀色の文字盤と黒い針、黒い革のベルトは使い込まれたが故の味わい深い艶のある光沢を放って居る。これは夫が息子たちが生まれた時にお祝いにと買った時計だ。それをいつか、最初に就職が決まった息子にやるのだと常々言っていた。 　松代は、無意識のうちに自分の腹を撫でた。 　二十数年前、ここに六つの命が宿っていると告げられた時、喜ぶよりも先に呆然としたのを覚えている。一人でも産むのは大変だと言うのに、自分の腹にはなんと六人も赤子が宿っていると言うのだから仕方がない。あの時、診察室の中で喜んでいた人間は、自分や夫、目の前の医者や看護師を含めて誰も居なかった。 『母子ともに生き延びるために、ありとあらゆるリスクを減らすために――胎児の減数手術をお勧めします』 　告げられた言葉は、死刑宣告のように松代の頭の中に響き渡った。まだ膨らみどころか、命がここに在ると言う実感も無い腹を撫でながら、徐々にその言葉の意味を理解していった。 　子を産む、というのは母親にとって命懸けの行為だ。たった一人の赤ん坊を産むだけでも、母親たちは命を懸ける。腹の中で育む事だって誰もが当たり前に、そして、平和的に出来る訳では無い。様々な事が重なって、その過程で喪われてしまった命など数えきれないだろう。十月十日の歳月を経て、生まれ来る赤子に会えぬ母親も、母親を喪う子も、そして、妻子を喪う夫も居る。それが、妊娠であり出産だ。腹の子が、一人、二人と増えればそれだけリスクも大きくなる。そんな事は百も承知だったし、頭では理解しているつもりだった。 　けれど、生まれ来る子の兄や姉かも知れない、或は、弟か妹かも知れない命を、その子を生かすためだけに間引くなどどうして選択できようか。腹に宿る全ての子は等しく、松代と松造の子だった。そこには優劣も不平等も有りはしないし、有ってはならない。 『お母さん自身の命の保証も無いのですよ』 　それが何だと言うのだ。子の命と自分の命を天秤に掛けるまでも無い。とあの時は本気で思った。今になって思い返してみれば、松造には悪い事をしたかもしれない。残されるのは、彼だという事を考えてもいなかった。確かに彼は父親で生涯を共にすると決めた夫だと言うのに。 　医者の反対も看護師の説得も振り切って、松代は六つ子を産む事を決意した。若さゆえの情熱でもあったし、きっと初産であったからこそ出来た決断だ。あんな苦しい思いを最初にしていたら、諦めてしまっていたかもしれない。とこっそりと思っているのは誰にも内緒だ。 　きっと、しわくちゃのおばあちゃんになって、例えボケてしまっても六つ子を腹に宿した時の恐怖や辛さは忘れないだろう。未熟児で生まれて来た我が子を初めて腕に抱いた時の感動や喜びは、初孫を抱いたって敵いはしないだろう。何の障害も後遺症も無く、六人が無事に育ち、お揃いのランドセルを背負った春の日の幸福はどれだけの月日が経っても色あせる事は無いのだから。 　六つ子の子育ては毎日が戦争だった。女の子ならまだしも、元気在り余る男の子だ。障子はいつも穴だらけだったし、壁には落書き、玩具は出しっぱなしで、外へ行けば服は泥まみれ、ご飯などは毎日給食を拵えているかのようだった。怒りもしたし、愛ゆえの鉄拳を下したことなど数え切れない。 　元気で馬鹿で悪戯ばかりして、それでもご近所さんに愛されて大きくなって、小学校、中学校、高校へと駆け上がって行った。 ついこの間まで、おっぱいを上げていたような気もするし、抱き上げて涙を拭ってやっていたような気もするのに、ふと耳を澄ませば「母さん」と呼ぶ高かった筈の声は低くなっていて、いつの間にか抱き上げる事は出来なくなっていて、そして、気が付けば息子たちを見上げるようになっていた。 　ああ、大きくなった。本当に大きくなった。とそれだけ胸の内はじわりと温かくなる。 「……ねえ、お父さん」 　時計を撫でていた松造が顔を上げる。 「……私達も年を取りましたね」 「そうだな、お前も俺も年を取ったな」 「あらいやだ、そこは「母さんは変わらず綺麗だな」って言ってくれなきゃ」 　くすりと笑えば、松造は眉を寄せてそっぽを向いて聞こえないふりを決め込んでしまった。夫がこういう事を冗談でも口に出来ない性質なのは十分承知している。ふふっと笑って、目を伏せる。 「昔は、誰が誰でも同じだね、なんて言われるくらい似ていて、あの子たちは大きくなって個性を育てて、それでもね、本質は誰も変わっていないと思うのよ。カラ松は泣き虫だけど誰より優しい子。チョロ松は短気だけど誰より一途な子。一松は臆病だけれど誰より真面目な子。十四松はずれているけど誰より聡い子。トド松はあざといけど誰より強い子。……でも、おそ松はね、あの子が一番変わったわ」 「そうか？あいつは、今も昔もあんな感じじゃ無かったか？馬鹿でお気楽で、だが持ってくところは全部、美味しく持っていくんだ」 　カチッとライターで煙草に火を付ける音がした。苦い香りが鼻先を擽って行く。 「ええ、そうね。確かにそうだけど……でもね、あの子、泣き虫だったのよ」 「そうだったか？」 「そうだったんです。……でも、だからと言って私の前で泣く子でもありませんでしたけど、いつの間にか誰の前でも泣かない子になったのよ」 　いつだったか松造と大喧嘩をして離婚騒ぎになって松野家扶養家族選抜面接を行って、何だかんだで離婚の話が流れた時、六つ子たちはいい年して団子になって「良かった良かった」と泣いて居た。一松なんかは興味の無いふりをしていたくせに、誰より泣いて居た。 　でも、おそ松だけは泣いて居なかった。 「……それが、少し、心配なんですよ」 　そうぽつりと零して、小さく苦笑した。 エロ本の隠し場所は知っているのにあの子の涙を知らない母の話。 [newpage] 「ただいま～、母さん、居るー？」 　少し高めの声はついこの間まで、この家の中心にあった声だった。夕食の支度をしようと台所にいた松代は、慌てて玄関へと出る。 「おそ松！」 　玄関に立って居たのは、三か月と少し前、就職し家を出て行った息子だった。松代と松造が贈ったスーツを着こなした息子は、しかし、いつもと同じように、子供みたいににこっと笑って居る。 「おかえり、どうしたんだい？まさかリストラ？やっぱり解雇！？結局お払い箱！？」 「ちっげぇし！俺の事なんだと思ってんの！？言い回しが違うだけで中身は一緒だよね！？」 　おそ松がむすっと眉を寄せた。 「だって、急に帰って来るもんだから、つい」 「だったらあいつらも連れて帰って来るっつーの」 「ふふっ、それもそうね。ほら、上がりなさいな」 　ふくれっ面の息子にくすくすと笑いながらそう促せば、おそ松は困ったように眉を下げた。 「そうしたいんだけど、俺、出張でこっちに来ててさ。上司にわがまま言って顔だけ見せに来たんだ。あ、これお土産ね」 　はいと渡された紙袋を受け取る。 「あら、そうなの？ちょっとくらい……」 「でも、チョロ松帰って来たらやばいし、ごめん」 　申し訳なさそうにおそ松が顔の前で両手を合わせた。 「……チョロ松に会ったの？」 　コンビニのアルバイトに行っている三男の名前が出てきたことに目を瞬かせる。おそ松は、あー、うん、と歯切れの悪い様な返事をして気まずそうに笑った。 「会うつもりはなかったんだけど、寄ったら居たんだよね。あいつがバイトしてるのはカラ松から聞いてたけど、どこの店かは知らなくてさ。マジでいると思わなかったからビビった」 　片手で頭を掻きながらおそ松が言った。どこかバツが悪そうな様子に松代は、本当におそ松は偶然、チョロ松の居るコンビニに行ってしまったのだと分かった。 「……そっからまあ、色々あって俺が下手こいちゃったもんだからさ。多分、落ち込んでると思うから夕飯はあいつの好物作ってやってよ」 「……分かったわ」 　ふっと笑えば、おそ松はありがとうと笑う。この子の基準は、いつだって“弟”なのだ。 「トド松達は元気？」 「おう。元気元気、一松は猫カフェですげー楽しそうに働いてるし、十四松も親方たちに可愛がられてる。トド松も自分の好きな事やってるから毎日楽しそうだよ。また余裕が出来たら、一度帰って来るからさ」 「楽しみにしてるわね……ねえ、おそ松」 「ん？」 　きょとんと首を傾げるのは子供の頃から変わらない癖だ。あと、鼻の下を指でこするのも。 「あんまり無理しちゃだめよ。元気で健康であってこそなんだからね。少し、痩せたんじゃない？」 　玄関の段差があっても自分より大きな息子を見上げてその頬を撫ぜた。 「だいじょーぶ！うち、ホワイトな会社だし、上司も先輩も同期も皆良い奴だよ。それに仕事楽しいし」 　にししと笑ったおそ松は、本当に楽しそうだった。それでも少しシャープになったような気がする息子の顔の輪郭を名残惜し気に撫でてしまうのは、きっと親の我が儘だ。 「……なら、いいわ。それじゃあ精一杯、頑張んなさい」 「はいはい。じゃあ行ってきます」 　ひらりと手を振り、まるで日課のパチンコに行くようにおそ松は踵を返し、振り返りもせずに再び出かけて行った。 　からから、パタンと閉まった玄関の向こうで足音が聞こえなくなるまで見送って、手に持っていた紙袋に視線を落とす。あの子がお土産何て成長したものね、と思いながら袋の中を見て、苦笑を零す。 　紙袋の中身は、おそ松達が暮らす地方限定のお菓子でもどこかの店の銘菓でも無い。日本全国どこにでも、例えばその辺のコンビニや駄菓子屋でだって売っているお菓子だった。どれもこれもチョロ松の好物だ。お菓子の底にはチョロ松の好きな梅酒の缶も入っていた。 　おそらく本当に上司に無理を言って実家に顔を出したのだろう。来るつもりも時間も無かったのに、弟の為に此処へ来たのだ。 「馬鹿な子ね」 　ぽつりとつぶやいて台所に戻る。梅酒は冷蔵庫に、お菓子は棚に仕舞う。きっと、おそ松からだと言ったらチョロ松は絶対に食べないだろうから、これは偶然、松代が買って来たと言う事にしよう。おそ松も松代がその様に計らうであろうことを承知の上に違いない。 　チョロ松は、兄弟の中で一番プライドの高い子だ。それは、決して悪いことではないが、それが今は少しだけ彼を苦しめてしまっている。 　子供の頃は、おそ松と一緒になって悪戯をして回るような悪童だったが、中学に上がるとチョロ松は突然、おそ松を“兄さん”と呼ぶようになった。六つ子たちも驚いていたが、正直、これには松代と松造だって驚いたのだ。確かに松代たちがおそ松やカラ松を上の子として扱い、十四松やトド松を下の子として扱った事が全く無い訳ではないが、やはり彼らは六つ子で産まれた日は同じ。生まれてきた時間がほんの少し違うだけなのだから、親としても六つ子の中では兄も弟も無かった。 　それでも突然、チョロ松がそんな事を言い出したのにも訳がある。 　切欠は、中学に上がって初めての試験だった。松代は、六つ子達に「成績が良ければそれに応じて小遣いをUPしてあげる」と告げた。それもこれも成績が底辺を彷徨うおそ松をどうにかせねばと思ったのが始まりなのだ。小学校で既に算数の補習に行っていたおそ松をどうにかしようと思い、金にがめつい息子の特性を利用しようと思ったのだ。 　ところがどっこい。おそ松以外の息子たちは、全員、ここぞとばかりにやる気を出して、元々頭の良い一松に勉強を教わったり、お互いの得意分野を教え合ったりしていたのだが、おそ松だけはそんな弟たちをのんびりと眺めているだけで、ノートもワークも教科書も開くどころか学校に置いてある始末で、鉛筆を持つことすらしなかった。チョロ松があれやこれや言ったが「へいへーい」とやる気の無い返事ばかりで、これには松代も松造も肩を落とすしか無かった。 　しかし、蓋を開けてみればとんでもない結果が松代を驚かせたのだ。 ＊＊＊ 「母さん、テスト結果返って来たよ」 　台所で夕飯の支度をしていれば、チョロ松の声が聞こえて振り返る。チョロ松が、はい、と差し出してきたのは、B５サイズの二つ折りの成績表だった。学年カラーの赤い紙のそれを受け取り、どれどれ、と中を開く。どの教科も平均点以上で学年順位は38位。一学年が150人だったはずだから上々の成績だった。 「あらあら、頑張ったわね」 「まあね……でも、国語が少し苦手だから頑張らないと」 　早速自分自身の課題を見つけている息子に松代は、頑張りなさいと笑って成績表を返す。するとまたどたばたと足音が聞こえて、今度はおそ松が顔を出す。 「母さん、はい。お小遣いの値上げ、色を付けてね」 　おそ松が普段と変わらぬおちゃらけた様子で渡してきた成績表に、きっと目も当てられない結果なのだろうと松代は、ため息交じりに受け取る。表紙を開いて目を落とし、思わず二度見して、これは一松のものではないかと名前を確認し、本人と結果を交互に見た。誰がどう見ても、何度確認しても、眼鏡をかけても裸眼でもそこには間違いなく「１位」の文字があった。隣から覗き込んだチョロ松が息を飲む音がやけに記憶に残った。 　値上げ、値上げと嬉しそうにしているおそ松のその背の向こうに同じく成績表を手にしたカラ松が丁度現れた。 「母さん、俺の全力を出し切った結果だ」 　はいと空気を読まない次男が渡してきた成績表を開く。そこには“２２位”という文字が並んでいた。カラ松の成績も思っていた数倍は良かった。だが、おそ松の所為で頭が消化しきれていない。カラ松が「これ、おそ松のか？」と成績表をひょいと抜き取って息を飲み、ぱっと振り返る。 「凄いな！おそ松！一番じゃないか！」 　カラ松の素直な賛辞におそ松が照れくさそうに笑って鼻の下を指でする。 「まあな。俺、ビッグなカリスマレジェンド人間国宝だし」 「……だが、いつ勉強していたんだ？」 　カラ松が心底不思議そうにおそ松に問う。それは松代とチョロ松の疑問を代弁したと言っても良い問いだった。 　松代が見ていた限りでは、本当におそ松は鉛筆を持つことすらしていなかった。もしかして、学校の図書館で勉強でもしていたのだろうかと思ったが、いつも兄弟の誰かと一緒に帰って来ていたし、朝は誰よりも遅くまで眠っていた。夜中に起きていた気配も無い。 　おそ松はその問いに不思議そうにきょとんとして首を傾げた。 「授業聞いてたら、普通じゃない？これくらい。なあ、チョロ松」 　おそ松は、まるでそれが[[rb:当たり前 >・・・・ ]]であるかのように[[rb:相棒 >・・ ]]に同意を求めた。チョロ松が、右手に持った自分の成績表をくしゃりと握りしめた。カラ松がそんなチョロ松の異変に気付いて、心配そうにチョロ松を見ていた。この当時、カラ松はチョロ松と同じクラスだったから、おそ松とは違ってチョロ松の成績を知っていたのだ。 「……普通じゃ、ない」 　絞り出す様にチョロ松が言った。 　この時、三番目の息子の心中はきっと荒れ狂う海の如くぐちゃぐちゃになっていたのだろうと思う。 　おそ松とチョロ松は、六つ子の中でも仲の良い二人でいつも一緒に行動していた。だが、思いついたらその場で行動、結果がついてくればラッキーという計画性の無いスタンスおそ松に比べ、チョロ松は思いついたら作戦を練り、必ず結果をもぎ取るというスタンスだった。故に、六つ子の中でリーダー格は確かにおそ松であったが、チョロ松はそのリーダーと肩を並べ、時にリーダーの手を引く立ち位置に居たのだ。きっと心のどこかでチョロ松は、おそ松には自分がいなければ駄目だという安心があったのだ。 　このテスト期間中、一番頑張っていたのはチョロ松だった。一松が「もう寝ようよ」と声を掛けても「もう少しだけ」と誰よりも遅くまで頑張っていたのだ。チョロ松は、頭の回転は速いのだが、勉強が苦手なのを知っている。だからこそ、この成績はチョロ松にとっては本当に頑張った証であるし、松代もそれを分かっている。 　だが、兄弟たちがあれやこれやと頭を悩ませるのをただ眺めていたおそ松は、授業を聞いていれば十分という驚きの理由で１位を掻っ攫って来たのだ。 「普通は授業聞いてたってだけで、一位なんてとれる訳ないだろ……っ。普通は、必死に勉強するんだ……っ！」 「何？どうしたんだよ……チョロ松」 　おそ松が困ったように眉を下げた。カラ松が心配そうにチョロ松とおそ松を交互に見ている。 「今まで……今まで、馬鹿なフリしてたって訳？」 「……別にそう言う訳じゃねえけど？ただ、頑張るのがバカバカしかっただけ。適当に人生楽しく生きられれば俺、それで充分だし」 　おそ松に悪意があった訳では無い。そんな事は、チョロ松が一番分かっているだろう。おそ松にとってそれは当たり前の事であっただけで、それ以上でもそれ以下でもなかった。 　だが、それはチョロ松にとっては、世界を揺るがすほどの衝撃だったのだと思う。 「……そうかよっ」 「あ、おい！チョロ松！」 　成績表をおそ松に投げつけて吐き捨てるように告げたチョロ松におそ松が声を掛け、手を伸ばすもほんの一瞬間に合わず、チョロ松は台所を飛び出してついで、玄関から出て行ったのが乱暴に開閉された戸がけたたましい音で教えてくれた。 「……俺、何か悪いことしたかよ？……ったく」 　追いかけようとしたおそ松の腕をカラ松が掴んで止める。 「俺が行くよ。おそ松は、家で待っててくれ」 「は？なんで？」 　不愉快そうに眉を寄せたおそ松にカラ松が苦笑を零す。 「チョロ松が冷静になる為に、だ」 　その言葉にも暫し目で抵抗したおそ松だが、十秒ほどして降参と両手を上げた。カラ松が、おそ松の腕をはなしてぽんとその肩を叩くと「母さん、行って来る」と台所を出て行った。玄関から「カラ松、どこ行くのー？」と問うトド松の声が聞こえた。 　おそ松は拗ねたように唇を尖らせていた。 「……チョロ松、とっても頑張ったから、おそ松の方が上だったのが悔しかったのかもね」 　あやすようにぽんとその頭を撫でた。本当の所は、そうではないのだろうけれど、松代がここで何かを言うのは違う様な気がした。どちらも悪くないし、何が悪いわけでも無い。悪役の居ない喧嘩はいつだって悲しい。 　おそ松が足元に落ちていたチョロ松の成績表を拾い上げて中を開く。 「三十八位……あいつ頑張ったじゃん」 　ぽつりと呟いたおそ松が嬉しそうに笑う。 「ただいまー、母さん、成績返って来たよ。あれ？おそ松も帰ってたんだ」 「おかえり、トド松。結果、どうだった？」 「母さんが先！」 　ぺしりとおそ松の手を叩いて、トド松が差し出した成績表を受け取る。松代は、おかえり、と笑いながらそれを受け取る。結果は70位。苦手な科目がかなり足を引っ張っていたが、結果としては悪くない。 「おそ松はどうだったの？」 「俺はまあ、うん。そんな事より、見ろよ、これ！チョロ松頑張ったと思わね？」 　さらりと濁しておそ松はチョロ松の成績表をトド松に見せた。トド松は「……ビリだったんでしょ」と言いながらチョロ松のそれを覗き込み目を瞬かせる。 「うわっ、チョロ松凄いじゃん」 「な、凄いよな。苦手な英語だって平均点以上だし！」 　まるで自分の事の様に嬉しそうにおそ松がトド松に自慢する。トド松は、素直に凄いねと褒めていた。 「さあ、あんたたち、手洗って着替えて来なさい。テスト頑張ったご褒美に今日のおやつはどら焼きよ」 「マジで！？よっしゃ！」 「やった！」 　おそ松が渡してきたチョロ松の成績表を受け取れば、二人は我先にと二階へと駆け上がって行った。 「……チョロ松は、寂しかったのかしらね」 　歪んでしまった表紙の皺を指で伸ばす様に撫でながら、そっと呟いた。 ＊＊＊ 　あれから三日後くらいだったろうか。チョロ松が「あの子をおそ松兄さん」と呼び始めたのは。チョロ松は、それを弟たちにもそうするように言って、自ら自分とおそ松の間に兄と弟という線を引いたのだ。下三人は、案外それを素直に受け入れたが、上の三人はそうもいかなかったようだった。 　幾ら腹を痛めて産んだ我が子と言えども思春期の男の子たちの心情を余すことなく理解するのは女である松代には難しかったし、上三人は理解されることをそもそも嫌がった。特におそ松は全てを曝け出す事を執拗に拒んだ。それならばと同性である父親の松造に頼んでみたが、しまいにはおそ松と殴り合いの喧嘩をし始めたので、それ以来、頼むのは諦めた。男の感覚など女である松代にはさっぱりと分からない。話し合いに行って殴り合いになるその過程も結果も理由も幾ら考えても分からないのだから、お手上げだった。 　ただ、面白い事に弟になる事を素直に受け入れた下三人を上三人が弟と認めたのは早かった。やはりなんだかんだ言っても無意識の中で一松、十四松、トド松は彼らにとって弟であったのだろう。それはその逆もまた然りで、弟たちはおそ松、カラ松、チョロ松を兄として認めてあっさりと受け入れた。 　故に、松代は兄三人、弟三人というグループ分けによって、揉めて居た上三人もだんだんと兄としての自覚を持ち、兄さんという言葉になじんでいったのだと思った。おそ松、カラ松、チョロ松の間にあったねじれた糸はいつの間にか解けていたのだろうと。彼らが望んだ新しい見解は、彼らなりにスタートを切れたのだとそう思っていた。 だが、結局、表面上は綺麗に整えられていても彼らの握りしめられた手の中で、糸はこじれたままだったようだ。 「男の子って単純なように見えて難しいのよね」 　苦笑交じりに呟いて、フライパンに片栗粉をまぶしたもも肉を乗せて焼いていく。皮がカリカリに焼けたら、ひっくり返して蒸し焼きにする。その間に照り焼きのたれを作っておく。 　『誰が誰でも同じ』という言葉は、幼い頃の六つ子たちにとって当たり前だった。しかし、兄と弟になった時、彼らはおそ松、カラ松、チョロ松、一松、十四松、トド松という全く別の人間になったのだ。それぞれの個性が開花していく中、特にチョロ松は変わりたいと望んで、真面目な優等生になった。逆におそ松は、変わらないでいる事を望んでいつまで経っても小学生メンタルと言われていた。 　皆、それを笑ったし、中学生の間、おそ松は勉強のできない馬鹿を演じていた。それが輪をかけて「兄さんは奇跡の馬鹿」という言葉まで編み出されていたけれど、彼は子供の頃と変わらぬ笑顔で兄になり、六つ子の長男として弟たちを護り背負い続ける道を選んだのだ。 　それがどれほど大変かなんて、傍観者である松代には分からない。松代は、子供たちが兄弟としての形を作るせめてもの手助けにとおそ松を「お兄ちゃん」として、トド松を「末っ子」として見てやる事しか出来なかった。 　だからだろうか、おそ松の反抗期は六つ子の中で最も酷かった。 　もしかしたら、あの頃のおそ松は「お兄ちゃん」で居る事が苦痛でしか無かったかもしれない。不平等な手伝いが嫌で嫌で、帰ってくる時間がだんだん遅くなって、終いには喧嘩ばかりにするようになった。それも無茶苦茶な喧嘩で、辛うじて勝って帰っては来るが、本人も襤褸雑巾のようだった。松代が何を言っても、松造が怒鳴っても、チョロ松が説教をしても、おそ松は聞き入れず、相手だけじゃなくて自分も傷付ける様な喧嘩ばかりをしていた。誰も寄せ付けず、ただカラ松が手当てをする事だけは渋々ながら了承したが、物に当たるし、しょっちゅう松造とは殴り合いの喧嘩をしていたし、下手すればチョロ松ともそんな喧嘩をしていたが、おそ松は一松、十四松、トド松には絶対に手を上げなかった。手を上げないどころか、怒っている様子も不機嫌な様子も徹底的に見せなかった。完璧なまでに「子供みたいな馬鹿な兄さん」と作り上げていたのだ。故に下三人は、おそ松の反抗期を知らない。 　そんなおそ松を支えたのは、それまで相棒だったチョロ松では無く、すぐ下の弟のカラ松だった。 　カラ松は、甘えたで泣き虫な子だった。それは今もあんまり変わらないかもしれないが、おそ松の心情を誰より理解していたのは、多分、間違いなくカラ松だった。カラカラカラッポなんてからかわれるカラ松だったが、彼はおそ松と一緒に“兄さん”の荷を背負う事を選び、自らおそ松の隣に立った。おそ松が無茶な喧嘩をしなくなったのは、カラ松が共に喧嘩をするようになってからだった。どのみち、喧嘩をしていた事には違いないが、おそ松の壮絶な反抗期はどうにか終焉を迎えたのだ。 　あれから今日まで、おそ松はカラ松と共に弟たちの兄として生きている。おそ松とカラ松は、言葉にしなくとも分かり合っている部分が有って、それは松代やチョロ松、一松達でも入り込む事は出来ない固い絆だった。 　その証拠に今だって、カラ松はおそ松達の暮らすマンションへと出かけている。弟たちの食事係を任されたらしいがおそ松は少し下を甘やかし過ぎだと思う。まあ、下が上に甘えすぎているのもあるけれど。 「そろそろ帰って来るわね」 　時計を見上げて、冷蔵庫から長ネギを取り出して適当な大きさに切って行く。フライパンを見れば、もも肉は良い感じに焼けていて、用意した甘辛い醤油のたれを回しかける。じゅわぁぁと音がして、焦がし醤油の香ばしい香りが台所一杯に広がった。今夜は、鳥の照り焼きだ。焼き鳥風に焼いたネギも付ければ、ご飯も進むしお酒も進む。チョロ松の好物でもある。 「…………ただいま」 　沈んだ声が玄関から聞こえて来た。台所の暖簾の隙間を緑のパーカーが通り過ぎて二階へと上がって行く。 「おかえりなさい、チョロ松、もうご飯になるからね」 「……分かった」 　間をおいて返された素直な返事に笑みを返して、とんとんと二階に上がる足音を聞きながら鳥の照り焼きを切り分けて皿へと盛り付けた。 [newpage] 　通夜のような空気が居間を包んでいた。 　こんな日に限って、松造は会社の同僚と飲みに行って帰りが遅くなるという。本当に必要な時に居ないのだから、と心の中でため息を零してビンタもしておく。 　いつもは四人で囲む食卓も二人きりでは味気ない。 　松代が何かを話しかけても、チョロ松は「ああ」とか「うん」とか気の無い返事ばかりで、心ここに在らずといった様子だった。その目じりは少しばかり赤さを残していて、返される気の無い返事は、鼻声だった。 「明日は、家に居るでしょう？久し振りに、飲んだら？あんたの好きな梅酒があるわよ」 「……うん」 　もそもそとご飯を口へと運ぶチョロ松は、小さく首を縦に振った。 　カチャ、コト、カチャカチャ。微かな物音だけが居間に落ちる。折角の鳥の照り焼きも、どこか影を落としているようにさえ思えた。松代は、お茶をすすりながらやれやれと肩を竦めた。 「…………今日、さ、兄さんに会ったよ」 　ぽつりとあまりにも唐突に零された言葉に松代は、湯呑を傾ける手を止める。 「出張でこっちに来たんだって……」 　チョロ松は、話しながらも食事をする手を止めなかった。右手の箸はもそもそと口に白米を運ぶ。 「そう、元気そうだった？」 「うん。でも、ちょっと痩せたかな？松田さんっていう同期の人と一緒だった、父さんと母さんが贈ったスーツ着てたよ……似合ってた」 「ふふっ、選んだのはトト松だけどね。あの子が「兄さんは絶対これ！」って嬉々として選んでくれたのよ」 「……トド松は、おそ松兄さん大好きだからね。あいつにとって兄さんはヒーローだから」 　ふっとチョロ松が微笑う。優し気な眼差しが伏せられた睫毛の向こうに隠されているのを見つけた。 「ヒーロー？」 　初耳ね、と松代は首を傾げた。 「トド松にとってはヒーローなんだよ。なんだかんだ一松も十四松もトド松もおそ松兄さんが大好きで大好きでしょうがないんだよね。現に置いてかれたくなくて、ついてちゃったし。その中でトド松は特におそ松兄さんに憧れが強いんだ。多分、父さんより尊敬してると思うよ」 「父さん泣くわよ？」 　苦笑するもなんとなく否定できなくて言葉を濁す。チョロ松は、ふいと肩を竦めた。けれど、その顔には穏やかな微笑みが浮かんでいる。 「僕たちの先頭に立って、どんなに高い壁にぶち当たっても、辛い事も、苦しい事もいつも飄々と笑って空を飛ぶみたいに身軽に乗り越えちゃってさ……それで、笑ってるんだよね。子供の頃と変わらない[[rb:笑顔 > かお]]で、それで「兄ちゃんが居るから大丈夫」って手ぇ伸ばしてくれんの。それがすげー頼もしくて、格好良いんだよ。悔しいけど、すっげぇ格好いいの。僕の兄さんだぞ、って自慢したく、なる、くらい……っ」 　カチャリ、と箸と茶碗がテーブルの上に置かれる。 「……チョロ松」 　テーブルの上で爪が白くなるほど握りしめられた拳が微かに震えている。 「ずるいよね、本当……っ」 　絞り出す様に紡がれた言葉はチョロ松がチョロ松自身を責め立てる様な響きがあった。 　俯けられた頭に見えるのは、旋毛だけだった。 「……僕が、先に逃げ出したんだよ……僕が、おそ松を置いてったんだ……っ、それなのに今更、置いて行かれたなんて、被害妄想も良い所だよね、本当、馬鹿馬鹿しくて反吐が出るよ……っ」 　嘲笑う様な声がすらすらと刃みたいな言葉を紡ぐ。 「傷つけるつもりなんて、無かったのに……悲しませるつもりなんて、これっぽっちも無かったんだ。だって、あいつ……泣かないから、泣けないから……っ」 　松代は、持ったままだった湯呑を置いて、そっと握りしめられた拳を包み込む様に手を重ねた。息子の手に触れるのは久しぶりだった。いつの間にか松代は両手でなければ包み込んでやれないほど大きくなった筈の息子の手は、それなのに幼い子供のように弱々しかった。 「悲しくても、苦しくても、結局、馬鹿みたいに笑うんだよ……おそ松兄さん、は……っ」 　ぽたりと落ちたそれが、テーブルの上に飛び散った。それに大袈裟な程、肩を跳ねあがらせたチョロ松は、パーカーの袖でごしごしと目元をこすった。 「……ごめん、ちょっともう食欲ないかも……っ」 　俯いたまま立ち上がったチョロ松はそのまま二階へと駆け上がって行った。トン、とふすまが閉められた音がした。 　畳の上に転がり落ちた緑の箸を拾い上げてテーブルの上に置く。 「……不器用な子ねぇ、あんたもおそ松も」 　テーブルに残された涙の残骸をそっと指で拭う。 　泣く事を認められないチョロ松と泣かないおそ松。どちらもどうしようもなく不器用だ。 　それでもまだ涙を零す事が出来るチョロ松の方が利口だ。おそ松は泣かない。どうでもいいような場面でわあぎゃあ騒ぎながら泣く事は有っても、それは様式美のようなもので、本当に悲しい時、辛いとき、苦しい時におそ松は泣けない。 楽しい事、嬉しい事、幸せな事は誰よりもオープンで、両親や弟たちに惜しみなく分け与えるあの子は、自分の負の感情を身の内に閉じ込めて、涙では無く笑顔に変えてしまうのだ。 　きっとそれが兄さんとして、六つ子の長男になろうとした努力の結果なのだろう。 　チョロ松はそれが分かっているから、悲しいのだ。彼を兄にした自分がおそ松に涙を忘れさせてしまったとそう思い込んでいるのかもしれない。おそ松はそんな事は欠片も思っていないだろうに。 「ただいまぁ～、母さん？今帰ったぞー」 　暢気な松造の声に松代は、やれやれと隠し切れないため息を零す。 　どしどしと重たい足音がして、松造がやってくる。テーブルの上の中途半端な食事を見て、酒に赤らんだ顔が不思議そうな表情を浮かべる。 「んー？チョロ松は？」 　どかり、と松代の目の前の席に座る。 「今日、おそ松がほんの一瞬、顔を出したのよ」 「おお、本当か？元気だったか？」 　松造が興味津々と言った様子で食いついて来る。 「ええ。出張でこっちに来ててね、私にちょっと顔を見せに無理して寄ってくれたのよ。少しやせた様な気もするけれど、お仕事は楽しいみたいで生き生きしてたわ。下の子たちもなんだかんだ楽しくやってるって言ってたわ」 「そうかそうか、そりゃ結構！」 　あっはっはっと大声で笑う松造は、紛う事無き酔っぱらいだ。松代は、静かにしてください、と眉を寄せてすっかり冷めきってしまったお茶を啜る。 「あいつはなぁ、こうひょいと何でもやっちまうからなぁ、父さん寂しいなぁ！」 「お父さん、どれだけ飲んだの？」 　兎にも角にも声が大きい松造に松代は立ち上がり、居間を後にしてコップに水をくんできて渡す。松造は、おー悪いなぁ、と受け取ってごくごくと飲み干した。それを横目に見ながら自分の席に戻る。松造は、チョロ松の食べかけのご飯を勝手に食べ始める。 「それで六つ子の神秘か何か知らないけど、おそ松が偶然立ち寄ったコンビニがチョロ松のアルバイト先だったのよ。何があったかは詳しく知らないけどまあ、何かあったみたいで、チョロ松は落ち込んで、二階に行っちゃったわ」 　松造が鳥の照り焼きに箸を伸ばす。 「なんだ、拗ねてんのか？」 　むしゃむしゃと照り焼きを頬張る松造に松代は、ずずずっとお茶を啜ってため息を誤魔化した。 「……就職がうまく行かない分、焦ってもいるんじゃないかしら。今まで就活をしていたのはチョロ松だったのに、おそ松はちょいと本気を出しただけで、あっという間に就職して、アルバイトしてるとはいえ、弟三人養いながら自活してるんだもの、焦りたくもなりますよ」 　最初、弟たちも連れて行くと言ったおそ松に、松代と松造は反対した。働きだしたばかりの若造が三人も養うなんて並大抵の事では無いんだぞ、と。だが、おそ松は「あいつらも働くって言ってるし、それにほら」とパーカーのポケットから何でもない事のように取り出され、手渡されたのは銀行の預金通帳だった。松野おそ松様と書かれた表紙を捲り、パラパラとページを捲って行きながら、松代と松造は金魚の様に口をぱくぱくさせて息子と見間違いではなければ七桁以上の預金残高を交互に見つめた。「盗んだのか！？詐欺か！？なんだ！？」とパニックする松造におそ松は、やれやれと肩を竦めた。「俺は、松野家の長男様だよ？いざっていう時のことくらい考えてるに決まってるじゃん」とあっけらかんと告げた長男は、やっぱり学年１位の成績表を当たり前のように差し出してきた時と同じような顔をしていた。 　正直、松代としてはチョロ松が自信を無くしてしまう気持ちがなんとなく分かってしまう。寧ろ、何でもない事のように笑っておそ松について行ける次男の器の大きさに感心してしまうほどだ。 「なーに、心配するな」 　母さん、美味いぞと蓋切れ目の照り焼きを口へと運びながら松造が言った。 「焦ったってどうしようも無い事にその内気付く。それにチョロ松は俺に似て諦めが悪いから、何が何でも就職でも何でもするさ」 　いよいよ松代は、自分のこめかみが引き攣るのを感じた。酔っぱらいにまともな答えを貰えると思ってはいないが、それにしたって我が子の事に関してあまりに無責任だし、無関心のように思えた。 　怒鳴りかけた松代を遮る様に松造が笑う。 「そりゃあ、確かにこの間までのあいつらは、クズでニートで童貞で……ん？そりゃ今もか、まあ兎に角社会の底辺を生きるどうしようもない息子だったけど、でもなぁ、母さん。それでも俺にとってあいつらはな、昔っから良く出来た息子だよ」 「……言ってることが矛盾してるわ」 　松代は困惑に眉を下げた。すると松造は、箸で鳥の照り焼きをつまんで掲げた。 「母さんの作る鳥の照り焼きは、俺の知る中で一番美味い」 　脈絡が無いにも程があるでしょうに、と松代は苦笑を零す。だが、機嫌よく笑う松造は、気にするでもなくそれを口へと放り込み、追いかけるように白米も口へと運んだ。 　ずずっとまたお茶を啜る。 「あいつらはなぁ、松代」 　急にしみじみとした声に顔を上げて、目を瞬かせる。 　松造は、愛おし気に目を細めてぼんやりと緑の箸を見つめていた。 「俺からこんなに美味しい鳥の照り焼きを作れる母さんを奪わなかった。それどころか俺から馬鹿な息子たちを一人も奪わなかった。それだけでも十分、俺にとって出来た息子共だよ。だから、大丈夫だ」 　やっぱり分かりやすい根拠何て一つも無いのに松造の声も言葉も自信に満ち溢れていた。 「医者に全員死産でもおかしくないって言われて、障害があってもおかしくないって言われて、後遺症が残っていてもおかしくないって言われて、保育器から出られなくてもおかしくないって言われて、それでもあいつらは今、馬鹿みたいに元気で健康で立派に大人になった。あいつらは、殆どの人間が駄目だ、無理だ、無謀だって、ありえないと否定した未来を我が物顔で生きてるんだ。そんな奴らがちょっと躓いたくらいで諦める訳がないじゃないか。自分を奮い立たせてくれる[[rb:兄弟 > 敵]]が五人も居るなんて、あいつらは世界一幸せなんだぞ」 　鼻の奥がつんとして誤魔化す様に笑って見せる。 「ふふっ、そうね。あの子たちは、あなたと私の自慢の子たちだものね」 「その通り！」 　びしと振り下ろされた箸にお行儀が悪いわ、と顔を顰めるが赤ら顔の酔っ払いは素知らぬ顔で飯を掻っ込む。 「それでも、頑張って頑張って、やるだけやってそれでもどうしようもなくなったら抱き締めてやればいい。俺にも母さんにもそれぞれ二本も腕があるんだからな」 　あはははとまた大声で笑った松造に松代もつられて笑う。 　松代は徐に立ち上がり台所に向かう。適当なビニール袋におそ松が買って来た梅酒の缶とお菓子を入れる。 　とんとんと響く足音に松造が点けたらしいテレビの音が混じる。 　真っ暗な廊下、そう言っていいのかわ分からないが子供部屋の前に立つ。 「チョロ松、居る？」 　返事はない。眠ってしまったか、だんまりを決め込んでいるか。どちらでもいい、と松代はことりと足元にビニール袋を置く。 「母さんね、あんた達がどこにエロ本隠してるかは全部把握してるのよ」 　ガタン、と中から騒がしい音がして松代はくすくすと笑う。それでもチョロ松は返事をしない。まあ恥ずかしくて出来ないのかもしれない。エロ本なんて息子が母親に見つかりたくないものベスト３に入る一品だ。 「あんたたちの個性豊かな性癖のエロ本の隠し場所は把握してる母さんだけどね、あんたたちの考えてる小難しい問題はさっぱりと分からないのよ。まあ母さんは色気溢れる熟女で、あんたたちはケツの青い若造だから仕方がないと言えば仕方がないんだけどね」 　ふすまの向こうでチョロ松はどんな顔をしているだろうか。考えただけで笑えて来る、と思ってしまうあたり、松代はあの六つ子の母なのだと何だか嬉しくなった。 「でもね、母さん知ってるのよ。あんたたちが生まれて来た時にね、あんたたちはたくさんの人たちが目を背けて逃げ出したくなるような無理難題をぜーんぶ、ぶっ壊して生まれて来たの。だから、大丈夫。焦る事は無いわ、おそ松は待っていてくれる。カラ松はあんたを支えてくれる。一松は心配してくれるだろうし、十四松は応援してくれるわね、それで、トド松はあんたを煽ってくれるわ」 　くすりと笑ってエールを送る様に襖をとんと叩いた。 「だから、頑張りなさい。いつだって母さんも父さんもあんたたちの味方だから。あんたは私の自慢の三男、松野チョロ松なんだから」 　くるりと背を向けて、階段を降りる。 「…………ありがと」 　空耳みたいな小さな声が聞こえて、でもきっと返事をしたらチョロ松は爆発してしまいそうなので、松代は下で「母さーん、お茶ぁ」と騒ぐ松造に返事をした。 「ふふっ、分かってるわよ」 エロ本の隠し場所と彼らが自慢の息子だと知っている母の話。 終 2016/03/03 →おまけ小話 [newpage] ＊モブの紺野君視点 ＊喧嘩松表現有 ＊今日も紺野君は絶好調です 　俺は今日、一生分の幸福を使い果たしたかもしれない。 　二度目ましてこんばんは、猫カフェ・またたびのキッチンアルバイトにしてまたたびの看板ボーイのイッチの大親友、紺野悟史でっす！ 　そう、俺はもう親友じゃない。大親友に進化した。何でかって？それが、最初のセリフに繋がる訳なんだけど！ 　なんと！今日は！イッチの家に！お泊りするんです！！あ、俺の妖精で天使で女神の愛猫ミーちゃんも一緒だよ！！どういう訳かイッチの愛猫のエスパーニャンコ(変わった名前だよね！)は、どの猫からも好かれるんだよね。うちのミーちゃんもどっちかって言うと気難しい子なんだけど、エスパーニャンコとはすぐに仲良しになったんだよね。まあ、猫カフェに毎日出勤できるだけでもすごい猫だよね。 　まあ、それはさておき、今日はイッチの家に突撃お泊り会！な訳なんだよね。菊原と美鈴っちには「羨ましい！紺野の分際で！」「禿げろ紺野！」と散々言われてぶん殴られたけども、何せ俺とイッチは大親友だから、そう大・親・友だから！！ 「……なに、気持ち悪いんだけど」 　イッチのバイトが終わるのを待って、またたびからイッチのマンションへと並んで歩いて行く。俺の右手にはミーちゃんが入っているキャリーケースがあるが、エスパーニャンコはイッチの肩の上に器用に乗っている。 「いやぁ、ほら？俺、イッチの大親友だからさ」 「……初耳なんだけど」 「イッチの大親友の俺の事は、悟史じゃなくて、悟ルンって呼んでも良いぜ」 「爆ぜろ」 　辛辣な一言を吐き捨てて、イッチはすたこらさっさと歩いて行ってしまう。相変わらずイッチは照れ屋だ。 　イッチは、六つ子のお兄さんと弟と一緒にマンションで暮らしてるって前に言ってたので、その通り、マンションへとイッチが入って行く。コンクリートの階段を三階まで上がり、どうやら一番奥の角部屋がイッチの部屋らしい。 　猫のキーホルダーがついている鍵を差し込んで、イッチがドアを開ける。 「ただいま」 「ん？ああ、おかえり、一松。それに紺野君も」 「お、お邪魔しまっす！カラ松兄貴！」 　何だか緊張してきた。と俺は背筋を正す。入って右手には台所が有って、左手には多分、洗面所とか、トイレとかお風呂といった水回りがある。奥にはドアが有って、そっちがリビングだろう。台所に立って居たのは、イッチのお兄さんで次男のワイルド系イケメン、カラ松兄貴だ。色々あって、俺は兄貴の事を兄貴と呼んで居る。 　すごく美味しそうな匂いが鼻先を撫でて、ぐーっとお腹が鳴る。 「あ、一松兄さん、おかえり！」 　洗面所の方からひょっこりと顔を出したのは、イッチの弟で五男の無邪気系イケメン、十四松くんだ。 「あれ？兄さんのバイト先の人だ！」 「今日、お泊りするって言ってたでしょ」 　イッチがやれやれと言った様子で答える。十四松君は「そっか！」と頷くと俺の右手のキャリーケースに目を向けた。その時俺はイッチの「お泊り」発言の可愛さに内心が悶え捲っていて気が付かなかったけど、十四松君が「その子がミーちゃん？」と首を傾げたので、はっと我に返る。 「あ、俺の(妖精で天使で女神でマイスイートハニーの)ミーちゃんでっす！」 　ひょいと掲げれば、ミーちゃんが「みー」とこの世で最も美しく愛らしい声でお返事をしてくれた。 「とりあえず、上がったらどうだ。もうすぐ夕食も出来るから」 「お世話になりまっす！」 　ぺこりと頭を下げれば、兄貴が元気だな、と目じりを下げて笑った。ああ、美鈴っちここは天国だよ。と心の中で告げて靴を脱ぎ、中へとお邪魔する。 　リビングに入ってからキャリーケースを降ろして、ドアを開ける。ミーちゃんが警戒しながら顔を出した。イッチの肩から降りたエスパーニャンコがすり寄ると安心したように中から出て来る。 「わあ、綺麗なにゃんこだ」 　十四松君が俺の後ろからミーちゃんを覗き込む。俺は、そうだろうとも、と鼻高々に頷いて返す。 　ミーちゃんは、それはそれは綺麗な長毛の白キジ柄の猫だ。ちなみに美しいエメラルドゴールの瞳をしている。毎日、丁寧にブラッシングをして俺の全てを掛けて、ミーちゃんが誇り高く気高く美しくいられるように尽力しているのだ。そんなミーちゃんは、エスパーニャンコと一緒に部屋の中を探検し始めた。ああ、可愛い。 「ただいまー」 「おかえり、トド松。紺野君が来てるぞ、十四松、これ運んでくれ」 「あいあい！」 　どたばたと十四松が駆けていく。彼と入れ違いにリビングに入って来たのは、イッチの弟、六男の可愛い系イケメン、トッティだ。彼はかなりの頻度で店に来てくれるので、イッチの兄弟の中で一番、面識がある。 「あ、こんばんは、何にもないけど、ゆっくりしてってね」 「はい！」 　トッティは、僕着替えて来るね、とリビングの隣の部屋に入って行く。どうやらそっちが寝室の様だ。 「これ座って」 　はいと出されたのは、紫の大きなクッションだ。座り心地の良さそうなそれは、他に黄色とピンクもある。赤色のクッションもあるが、何故かこの三つとは少し大きさと形が違う。 「ありがとう！」 　いそいそとクッションに座るとイッチは、青いクッション――これは小さい普通のやつに座る。 「今日の夕飯は、カラ松兄さん特製の生姜焼きっす！」 　どーんとテーブルの真ん中に生姜焼きの山が置かれる。そう、山である。丘では無く、立派な山だった。 「うわぁ、良いにおーい」 　着替えを済ませて、イッチとお揃いのピンクのパーカーを来たトッティがやって来る。んだよ、お揃いとか天使かよ！！と悶える。 「ほら、席着け」 　カラ松兄貴に促されて、それぞれ席につく。俺の隣にイッチ、その隣にカラ松兄貴、トッティ、十四松君という並びだ。トッティと十四松君の間が一人分空いていて、赤いクッションが置かれている。 　カラ松兄貴がよそってくれたご飯を受け取る。艶々の白米は、それだけでも美味しそうだ。今日のメニューは美味しそうな生姜焼き、キュウリの浅漬けとナスの味噌汁だった。 「カラ松兄さんのご飯、めっちゃ美味いよ！」 　十四松君が嬉しそうに教えてくれる。カラ松兄貴が「口に合えばいいが」と少し照れくさそうなのがもう本当、ずるい。 　カラ松兄貴の「いただきます」の挨拶を皮切りに皆で挨拶をして、俺は生姜焼きに箸を伸ばす。 　薄切りの豚ロースは驚くほど柔らかくて、味が染み込んでいる。少ししょっぱめの味付けは醤油のうまみが食欲をそそり、しょうがの風味が口全体に広がるころには無意識のうちに白米を掻きこんでいる。 　俺は精一杯味わって、ごくりと飲み込み。 「うまっ！なにこれ上手い！俺、こんなに旨いの初めて食べました！ああ、カラ松兄貴の手料理……あぁああ！俺はこんなに幸せでいいのだろうか！！」 　わぁぁ、と泣き崩れた俺を大親友がゴミを見るかのような目で見て来るが、やっぱりイッチは照れ屋だから兄貴が褒められて喜んでいるだって明るい解釈をする。 「ねえ、聞いて聞いて！」 　突然、十四松君が「ハイハイハハーイ！」と手を挙げた。トッティが「どうしたの？」と首を傾げる。 「俺ねー、今日、リス捕まえた！」 「……ん？十四松兄さん、今日は仕事だよね？」 　トッティが益々首を傾げた。 「うん、仕事だった！あのね、仕事終わって工務店に帰った時にね、店の前でリスがおばあちゃんから鞄をひったくって逃げたの俺が捕まえた！」 「それはリスじゃなくてスリだな。あと、それはスリじゃなくて、引ったくりっていうんだぞ」 　カラ松兄貴が丁寧な訂正を入れたが、問題はそこじゃない。 「引ったくり捕まえるなんてすごいじゃないですか！」 　俺は素直に称賛を送った。十四松君は「そうかな？」と照れくさそうに笑う。 「おばあさんも喜んでくれたよ！親方たちもめっちゃ褒めてくれた！俺、足早いからね！原付なら追いつくよ！」 「ん！？」 「そうかそうか、偉いぞ、十四松」 「えへへ」 　今、聞き捨てならない単語が混じっていたような気がしたが、兄弟たちはイッチも含め、何も可笑しい事は無いという感じなので、きっと俺の勘違いんだな、うん。普通、人間は原付に追いつかないもん。 「それで、一松とトド松は、何で少し不機嫌なんだ？」 　カラ松兄貴が生姜焼きをぱくりと頬張りながら尋ねる。二人がぴくりと肩を跳ねあがらせた。 　え、不機嫌だった？と俺は二人を交互に見るが、流石の大親友と言えども大親友歴３日の俺にはさっぱりと違いが分からなかった。 「だってさ！聞いて！」 　トッティがぷっと頬を膨らませた。んだよ、あざと可愛いじゃねぇかコンチクショウ！と俺はよくわからない苛立ちを覚えた。 「今日ね女の子の友達とカフェ行こうって事になってね、校門で待ち合わせしてたの。それで僕を含めて三人で行く予定だったんだけど、もう一人がなかなか来なくてね、それで二人で校門で楽しみだねぇって話してたら、いきなり！見ず知らずのゴリラみたいな男が！「てめぇか俺の女をたぶらかしやがったのは！」とかなんとか騒いで突っ込んできたんだよ！？知るかよ、僕は友達以上の関係はまだ築いてないし！」 　ぽこぽこ怒るトド松君が、キュウリの浅漬けを齧る。ぱりぽりと良い音がして、俺も食べたくなって箸を伸ばした。浅漬けも昆布の旨味が効いていて、だからこそあっさりとした塩味が引き立って口の中をさっぱりさせてくれる一品だった。 「……それで？怪我はしてない？」 　イッチが尋ねる。ああ、イッチは弟が心配なんだね、と俺が頬を緩めればやっぱり照れ屋なイッチは殺し屋みたいな目で睨んで来た。 「そんなのそのまま一本背負い決めたよ」 「んん！？」 「そうかそうか。凄いぞ、トド松」 「当たり前。ちゃんと誤解も解いたよ」 　ふふんとトッティは誇らしげに胸を張って、キュウリの浅漬けをまた口に放り込んだ。 　一本背負い？今、一本背負いって言ったよね？と俺は混乱する頭でトッティを見つめる。お世辞にもガタイが良いとは言えない。どちらかと言えば細身の彼がどうして一本背負い何て、しかもゴリラみたいな男って言って様な気がするけど、俺の気の所為だったかな！そうかも！だって、カラ松兄貴も十四松君もイッチも驚いてないもん！きっと俺の聞き違いだ！ 「それで、一松はどうしたんだ？」 　くるりと皆の視線がイッチに向けられる。イッチは、もそもそと味噌汁を飲んでいた手を止める。 「……今日、店に糞男が２人来て、店内で煙草は吸うし、店員にセクハラするし……」 「ええ！？イッチセクハラされたの！？」 「僕じゃないから」 　呆れたようにイッチがため息を零す。イッチじゃないということは、確か今日のシフトのホールは菊原と美鈴っちだった気がする。 「女性店員に下ネタとが下世話な事ばっか言うから、僕が担当してたんだけど……その中で特に腐ったパツキンの汚物がリリーの首を無理矢理掴んで持ち上げたんだよ。だから、店長が良いって言ったから強制退去して頂いた」 　にやりとイッチが笑う。あ、初めて見た。これは何だろ、股間がひゅんってなる。何これ怖い。イッチから禍々しいオーラが溢れ出ちゃってるよ。 「強制退去？どうやったっすか？やきう？」 　十四松君の問いにイッチは、暫しの間を置いた後何故か箸を置いた。何かを掴んでいるかの様な両手の形が怖い。 「これをこう、それでこう」 　何故か両手をぶつけあい、何故か分投げる様な仕草を見せた。あれだよ、きっとほら、あのあれ！シンバル叩いて、その後、リンゴでも投げたんだよね、そうだよね、っているかその場で見たかったぁぁあああ！！！！絶対に菊原が録画してるから土下座でも何でもして見せてもらうしかない！！ 「そうかそうか、にゃんこ達に怪我はないか？」 「ん。それは大丈夫」 　イッチがこくりと頷くとカラ松兄貴は、良かった良かったよ笑った。っていうかどうしてどうやってもカラ松兄貴は「にゃんこ」なんですね！！！ごちそうさまです！！！格好いいのに可愛いとか何それずるい！！！イッチも褒められて嬉しそうだし！！ 「今日はなかなか賑やかな日だったんだなぁ、やっぱり六つ子だからか」 　しみじみとカラ松兄貴が言った。 「ってことは、兄さんも何かあったっすか？」 　十四松君の問いにカラ松兄貴は、ああ、と苦笑を零した。 「散歩に出かけた時に少しな。レディがガラの悪いのに絡まれていたから助けに入ったんだ。まあそれでなんやかんやあって、肩脱臼させておまわりさんに引き渡した」 「んんん！？」 「うわぁ、カラ松兄さんに喧嘩売るとか僕なら絶対にしない」 「……そいつ馬鹿だね」 「ばかばかスパイラル！」 　ねえ！ねええ！今！肩脱臼させたとか！！そんな恐ろしい単語が聞こえてこなかった！？なんやかんやって何！？俺の聞き違い！？俺、いい加減耳鼻科に行った方がいいかなぁ！？ねえ、イッチ！何でそんなに平然とみそ汁飲めんの！？ 「まあ、チョロ松の方が酷いぞ？さっき、ラインが来たんだがな、あいつ今日、バイト先で強盗が押し入って来たからって、おでんの汁をぶっかけて回し蹴りでブッ飛ばしたらしい。店長に平謝りしたそうだ」 「んんんん！？」 「チョロ松兄さん、気性が元ヤンだからねぇ、兄弟の中で一番短気だし」 「それに最近、苛々していたから余計にな。ぎりぎり正当防衛になったらしい」 「チョロ松兄さんすっげー！」 「……チョロ松兄さんは三男だよ。コンビニでバイトしてる。あそこに写真があるけど」 　イッチ！！そうじゃない！！そうじゃないんだよ！！俺がね！俺が聞きたいのはそこじゃないんだ！いや、うん、まだ見ぬ三男兄さんにはめっちゃ興味あるよ！？これは嘘じゃない嘘じゃないけど！！ぎりぎりの正当防衛って何！？強盗に回し蹴り決めるコンビニのバイトなんて聞いた事無いんだけど！？ 　荒れ狂う心の中を俺は整理する事を諦めて、テレビ台の上の隅っこに飾られていた写真をイッチに貸してもらう。 　うん！やっぱりイケメンかよ畜生！！ 　シルバーフレームの眼鏡をかけた知的系イケメンが本を読んで居る写真だった。つか、兄弟の写真飾るとかどんだけ好きなの！？会えないから寂しいの！？くっそ、俺の大親友がこんなにも可愛い！！ 「ねえねえ、この流れで行くとおそ松兄さんも大丈夫かな？」 　十四松君が心配そうに眉を下げた。 　おそ松兄さんは、イッチの兄さんで長男の爽やか系イケメンだ。 「確かにこういうのって連鎖するすもんね」 「そういえば、今日、遅くない？」 「確かに、そろそろ帰って来ると思うんだが……」 「……ただいま」 　丁度その時、噂をすれば何とやら。どんよりとした声が廊下から聞こえて、十四松君が嬉しそうに立ち上がって玄関に駆けていく。 「お、おそ松兄さん！？ど、どうしたの！？」 　十四松君のそっくり返ったような声が聞こえて俺達は顔を見合わせた。おそ松兄さんが「あー、そっち行くから」と声を掛ければ皆、浮かしていた腰を元に戻す。 　だけど、リビングに入って来たおそ松兄さんに俺達は目をぱちくりさせた。 　おそ松兄さんは何故か頭に包帯を巻いて居て、何だかどんよりと落ち込んでいるのだ。 「あ、兄貴、何があったんだ？」 「兄さん、会社に行ってたんだよね？」 「そうだよ。お兄ちゃんは今日もお前たちを養うために立派に働いてたんだよ」 　トッティがおそ松兄さんのスーツのジャケットを受け取り、俺達はまた目を瞬かせる。ワイシャツが胸の辺りで横一文字に切られているのだ。 「な、な、何があったの！？戦地にでも行ってきたわけ！？」 「まあ会社はサラリーマンにとって戦場だよね。あ、生姜焼きだ、カラ松、俺、ビール飲みたい」 「怪我してるんだからビールは駄目だ」 「ちぇっ」 「いやいやいや、何があった説明しろよ、このクソ長男！カラ松兄さんもビールの許可より先に問いただせよ、このポンコツ次男！」 　トッティが混乱と怒りと心配でキャラを忘れているが、確かにそれどころではない。十四松君がトッティの言葉にぶんぶんと凄い勢いで頷いて居る。 　おそ松兄さんは、えーっと面倒くさそうに眉をしかめたが、兄弟たちの無言の訴えに降参とでも言う様にひらひらと手を振った。 「うちの会社の女の子のストーカーが押し入って来たのを取り押さえたらこうなっちゃったんだよね。頭は女の子庇った時にナイフの柄で殴られて、こっちは切られたんだよ。ナイフぶんぶん振り回しちゃってさ、危ないのなんのって、まあこっちは紙一重で避けたから怪我してないよ。ほら」 　おそ松兄さんがぺらりとワイシャツを捲った。俺は思わず、おおーと声を上げた。おそ松兄さんの体は、しなやかな筋肉に覆われている。俗に言う細マッチョというやつだ。 「……でもさあ、そのせいでネクタイ切られちゃって」 「ああ、それで落ち込んでいたのか」 　カラ松兄貴の言葉におそ松兄さんがトッティが持っていたジャケットのポケットからすっぱり切られてしまった赤いネクタイを取り出した。 「だって！このネクタイはこいつらが父の日にくれた大事なネクタイだったんだもん！くそっ、もっと痛めつけときゃ良かった！」 「おそ松兄さんの馬鹿！ネクタイならいつでも買い直せるけど、怪我したら元も子もないんだからね！？」 「しょうがねぇじゃん！怪我しねぇと正当防衛にならねぇし！」 「馬鹿じゃないの！？」 　ぷんぷん怒るトッティの頭をぽんぽんと撫でておそ松兄さんは苦笑している。十四松君とイッチが心配そうに見上げているのに気付いたおそ松兄さんは、順に二人の頭をぽんぽんと撫でた。 「分かった。ごめんな」 「次やる時はもっとうまくやってよね！」 「怪我は嫌っす！」 「……心配させないでよ」 　おそ松兄さんマジ兄さん！！！俺、そんなに優しい「ごめんね」なんて聞いた事無い！！良かったね！イッチ！大好きなお兄ちゃんが怪我して不安だったんだもんね！だって無意識に俺のシャツの裾掴んでるもんね！言ったら放しちゃうから絶対に言わないけど！！ 「ところでちゃんと捕まえたのか？」 「おー。ちょっと苦戦したけどな。元格闘家だか何だか知らねーけど、めっちゃ丈夫でさぁ。回し蹴り決めて落としたつもりが落ちねぇし、間接外したのにアドレナリン出まくってんのか知んないけど、自分で戻して襲い掛かってくるから最終的に一本背負い決めて、みぞおちに一発入れて落とした。俺も鈍ってんなぁ」 「んんんんん！？」 「そうかそうか、流石は兄貴だ」 「うひょー、兄さんかっけー！」 「おそ松兄さんの蹴りくらって起きてるなんて、史上三人目じゃない？」 「……つか肩戻すとかそんな事すんのカラ松だけだと思ってた」 　ねぇえええ！！！ねぇねぇねぇねぇえ！！ 　しつこいかもしれない！いや、自分でもしつこいって思うよ！？でもさ！！普通のサラリーマンはさ！そんな事しないじゃん！！どこのスーパーマンなの！？やっぱり長男だから！？弟たちがやったことを一人でしちゃうの！？それがセオリーなの！？ねえ！これ、聞いても良い！？聞いても大丈夫な奴かな！？ 　俺は、ごくりと生唾をのみ込んだ。箸を握りしめる手に力がこもる。 「み、皆さん、強いんでふネっ！」 　噛んだ上に声がひっくり返った。イッチが、そっと水を差し出してくれる。ありがとう、大事に飲むぜ大親友。 「まあ男兄弟が六人もいればねぇ。喧嘩って言えば拳出ちゃうよね」 「あのねー、おそ松兄さんは地元じゃ有名な喧嘩番長だったんだよ！」 「十四松、そういうのは若気の至りってやつだから黙ってなさいね」 　おそ松兄さんがにっこり笑って言えば、十四松君は両手で口を塞いでこくこくと頷いた。 「俺達は六つ子という時点で目立つから、喧嘩は日常茶飯事だったな」 「でも、カラ松兄さんとおそ松兄さんの強さは別格だよ。僕らだって弱くはないけど、二人ほどじゃないっていうか」 　トッティが悔しそうに眉を寄せる。 「イッチも喧嘩強いの？」 　隣を振り返れば、イッチは興味なさそうに生姜焼きのたれが染み込んだキャベツを食べている。しゃきしゃきと言う音が美味しそうだ。 「一松兄さんの喧嘩スタイルはね、猫みたいだよ。すごい身軽でしなやかなんだよね」 「トッティはあくどいよね！」 「どういう意味！？十四松兄さん！僕はただ、今後変な気を起こして無駄な怪我をしないように配慮してあげただけ」 　ふふんと笑うトッティは、間違いなく小悪魔だった。でも可愛いから許す。 「十四松兄さんの喧嘩は本当、スポーツの延長線上だったよね」 「体力が無限大だからな」 　ははっとカラ松兄貴が笑って、赤いクッションの上に腰を下ろしたおそ松兄さんにご飯を盛って、みそ汁も傍らの鍋からおわんによそって渡す。 「カラ松兄さんは、力で押すよね。力が一番強いから、片手で人ぶん投げるよこの人」 「ははっ、鍛えてるからな！いつ何時my brotherが悪の脅威にさらされ俺に助けを」 「イッタイよねぇ」 「おそ松兄さんは、無敵のヒーロータイプ！」 　どーんと十四松君が後ろからひっつく。おそ松兄さんは、甘えん坊だな、と気にした風も無く生姜焼きを頬張っていた。 　それから俺は、一生懸命おそ松兄さんに今日あった出来事を話すイッチ、十四松君、トッティをでれでしながら眺め、「よくやったなぁ」と褒めるおそ松兄さんに悶え、イッチの学生時代の話を聞いたり、十四松君の切ない恋の話(号泣もんだった)や、トッティ誕生秘話を聞いたりしながら楽しく夕食を済ませた。 　そしてこの後、俺は「うち、布団はこれだけだから」というイッチの発言により、六つ子が特注の長い布団で眠っている事を知り悶え、イッチとカラ松兄貴の間で寝る事になり、興奮で眠れなくなった俺はカラ松兄貴の子守唄(めっちゃ上手い)を聞きながら眠ると言うとんでもない贅沢な睡眠をとるも、夜中にふと目覚めた俺は長男と次男のマジお兄ちゃんな一面を見て(いや、聞いて？)しまい悶絶し、そして、やや寝不足気味(自業自得)で起きた朝、赤いエプロンを身に着けたおそ松兄さんお手製の朝食と使い捨てのタッパーに詰められたお弁当(ごっつう旨い)を手土産に貰うと言う俺の一生分くらいの幸運を使い果たしたのだった。ちなみにミーちゃんはエスパーニャンコにべったりだった。 結論だけ言うと菊原と美鈴っちに「紺野の分際で！禿げろ！！」と殴られた。 看板ボーイの大親友が松野兄弟の家にお泊りする話。 おそまつ！

私はね、あんたたちの“母さん”なのよ。<br /><br />＊＊＊<br /><br />いつも閲覧、ブクマ、コメント、タグ、評価をありがとうございます！！<br />何と前回もおそ松兄さんマジ兄さんタグをあざっす！！おそ松兄さんマジ兄さんですよね＞＜！！そして、おそ松兄さんに次いでカラ松にもカラ松マジ次男タグありがとうございます！！<br /><br />本当、長兄松が尊過ぎてご飯が美味しいです！！！！<br /><br />今日は、３/３と言う事で、チョロちゃんの日ですね！<br />タグに速度松と入れるかどうか悩んだんですが、お話的には速度松です！うん！<br /><br />今回のお話は、本編とオマケが同じくらいの長さで、んん？？となりましたが、本編は数日かかったのですが、オマケは二時間で書き上げました、本当、紺野君便利(真顔)

エロ本の隠し場所は知っているのにあの子の涙を知らない母の話。

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　 　ほわほわした子だなぁ、と燭台切は思っていた。地に足がついていないというか浮世離れしているというか、こんな事を言えばすわどこぞのご神刀かレア刀ですか等と聞かれそうなものであるけれど、何を隠そうへし切長谷部の事である。はぁ、と溜息を吐かれそうな考えが誰に賛同されなくても、燭台切の感想は変わらない。 　堅物な見た目にお似合いな石頭も、鋭い目つきも、何時見かけても寄せられている眉間の皺もひっくるめてそう思うのだから仕方がないだろう、と思っている。 「国宝様だからかなぁ…」 　ぽつりと零せば、何か言ったか、と返ってくる。それに何でもないよと手を振って、燭台切は書類仕事に精を出す長谷部をこっそり見遣った。 　思えば最初の出会いがいけなかったのかもしれない。歩きながら書類を見ていた長谷部が、顕現されて本丸中を案内されている途中であった燭台切にぶつかったのだ。耳朶を真っ赤に染めて小声ですまないと呟いた、その姿が燭台切の脳裏に焼き付いてしまっていて、後から幾ら何を言われようがその印象が覆せない。 　可愛い、と確かにその時燭台切はそう思ったのだった。それが降り立って初めて得た感情で、そう思う自分に吃驚して、でも何だか悪くない気分だった。つんと澄ましていたような、遠い織田の記憶よりもずっとずっと親しみやすくて。仲良くなれそうで。そう仲良くなりたいな、と思った。その感情が特別になるのもすぐだった。 　歯に衣着せぬ言動から、長谷部は今でも怖がられがちな所がある。燭台切にしてみれば言語選択が不適切なだけで、彼は必要十分以上に気遣い屋だ。哀しいかな、伝わっていないどころか火に油を注いでいるだけで。でも、そんなのは別に構わない。自分だけが知っていれば良い事だ。 　にこにことと何をするでもなく見つめ続けていたら、居心地が悪くでもなったのだろうか長谷部は珍しく集中を途切らせて、顔を上げた。 「…そんなに何が楽しいんだ、お前は」 　呆れたような口調に微苦笑を張り付けたその表情がいつになく優しげで、息を呑む。ぐいぐいと何時もなら指先で押しやってしまう眉間の皺もそこにはなくて、緩やかに弧を描いた口元が眩しい。 　長谷部は燭台切の額を軽く小突いた。 「いてっ」 　条件反射で声が出る。額に手をやって恨みがましい視線を向ければ、長谷部は堪えきれないとでもいうように声を漏らす。ふ、と零れたとでもいうのがぴったりな表現のそれは確かに笑みで、燭台切は今度こそ固まってしまった。 　珍しい。可愛い。素のまま、といった風情のそれはとても自然で美しく見えた。拗らせなければ、或いは肩肘を張らないのなら、彼は本当はこんなにも稚い表情をするのだ、と半ば見惚れつつ呆然と一つきりの眼を見開いた。 「ふ、はははっ！燭台切、格好つけのお前らしくもない」 　どうしたんだ、と目尻に滲む雫を拭いながら長谷部は言う。 「心ここに非ず、という奴か？」 　ひらひらと手を翳されて、まだ笑うその指先を捕まえた。あんまり試す様な事をしないで欲しいなぁ。可愛いから。 「このままじゃ、格好つかないんでね！」 「うわ、」 　決め台詞と共にその腕を引く。ぐい、と力を込めれば拍子抜けするほど簡単に軽い体はこの手の内へ。長谷部が胸元に鼻先をぶつける前に反転させて、その体を両腕に閉じ込めた。丁度良い位置にある旋毛に顎をのせてしまえば。 「捕獲終了、悪戯する悪い子にはお仕置きです」 「は」 「こらこら、行儀悪いよ」 　　鼻で嗤う長谷部の旋毛にごりごり顎を擦りつける。やめろ、腹を壊す。長谷部はくすぐったがって身じろいだが、びくともしない。舐めないで欲しいよね。腕の拘束を強めれば、折れる、折れる、と騒がしい。馬鹿だなぁ、僕が君を折る筈がないのになぁ、そんな気持ちを込めて見下ろした藤紫は、きらきらと艶めいて単に遊んでいるだけだと燭台切は知る。 　離せ、なんて言葉に意味が無いのは、何より抱え込んだ腕に添えられた指先が証明していた。 「観念して、大人しくしたら？」 「まっぴら御免だ！」 　そら、とばかりに暴れる体を力任せに抑え込む。無邪気に力比べでもしているつもりなのだろうか。時々童心に帰ったように仕掛けられる他愛もない戯れを、最初の頃こそ青い顔で見守っていた仲間達は最近では覗きにも来ない。 　自分達にはスキンシップでも、傍から見れば喧嘩にしか見えないらしい。これはコミュニケーションの一環だよと燭台切がした説明を鵜呑みにした訳でもないだろうが、あぁまたかぐらいにしか思われていないのだろう。これはじゃれ合いではなく本気だったのだが、不摂生をした長谷部を正座させてお説教しているのを見つかったその日から、皆傍観する事に決めたようだった。 　そう、長谷部は無茶をする。無理を道理としようとするし、他者には目を配るくせに自分の事となるとどうにも後回しにしがちなところがある。主の為、が空回っているのもよく見かけるし、洗い髪は乾かさないし、かといって世話を焼かれることに慣れているようで不慣れなようだった。 　労わられるとどこか居心地悪そうに視線を逸らす。賞賛は素直に受け取らない。全部自分でやろうとして首を絞めていたりする長谷部は危なっかしいのに、怜悧な上っ面が邪魔をして誰もそれに気付いていないようなのだ。燭台切が来るまでそれが当然だったから、長谷部なら大丈夫だと誰もが思っていたらしい。 　三日寝ていないのを見つけて、布団に叩きこんだ時にそう聞いた。いつからご飯食べてなかったの！燭台切が上げた悲鳴はまるで、悪夢だったと後にげっそりとした仲間達は語った。 　不意に、静かになったその肢体をもう一度だけぎゅっとして、燭台切はその双眸を覗きこむ。 「…俺に飽きずに構うものなど、お前位のものだ光忠」 「それは光栄だね」 　面倒ではないのか、とほつりほつりと零された言葉と共に寄越された視線には、純粋な疑問だけがあったから燭台切は堪らなくなってその指先に口づけを贈る。 「まさか！…寧ろ役得だと僕は思っている」 　瞬時に否定して見せれば、ゆらりと瞳を揺らがせた長谷部が燭台切の手を取った。背後の燭台切にまるで見せつける様にゆっくりと、その掌に唇を押し付ける。伏せられていく睫毛が微かに震えていた。 　 「その言葉に、相違ないな」 　手放してくれるな、と言われた訳でもないのに伝わる心がそこには在って、びりびりと背筋を震わせる。不安を感じながらも寄せられる無垢ともいえそうな信頼に、ともすれば視界が滲みそうになった。 「二言はないよ」 「…なら良い」 　満足したように長谷部はほぅと息を漏らして、掌から唇を離す。ちろりと舌が這う温かく濡れた感触に驚いて手を引込めそうになれば、先程のしおらしさは何処へ消えたのか、長谷部は悪戯が成功した子供みたいな表情をした。 　 「そんなざまで、俺にお仕置きができるのか？」 　揶揄するように瞳を細めて長谷部は言う。唇から覗く赤い舌がやけに扇情的だけれども、誤魔化されてはいけない。燭台切は苦笑して答えた。 「お仕置きならすでに執行中だよ」 　君の大好きなお仕事は、今日はもうおしまいです。 　そもそも寝かせつける為に来たというのに、余計な時間を食ってしまった。それもこれも長谷部君が可愛いのがいけない、と燭台切は責任転嫁をする。起きている時間の全てを下手すると仕事に突っ込もうとするので、少しはいちゃいちゃしたかったいう本音はさて上手く隠せているだろうか。 　滑らかな頬に頬を寄せると、後頭部を燭台切の胸にもたせ掛けたまま長谷部がこてんと首を傾げた。 「そもそも、今日の仕事は仕舞だったぞ」 「はい？」 　いや、だって、と長谷部は言う。 「お前が来ただろう？」 　至近距離で覗きこまれて、変な声が出そうになった。長谷部はそれに飽きたらず、ぐいぐいと燭台切の頬に指を添えて自分の方へと引き寄せようとしてくる。こつんと額同士を触れ合わせれば、ふにゃりと相好を崩した。 「お前が来たなら、今日はもう終わりだ。そうだろう？」 「そうだよ」 　 　わかっていたなら、素直に片づけようね。そう言えば、長谷部はふんと鼻を鳴らす。 「さっさと取り上げない光忠が悪い」 　きりがつくまで待ってあげようという親切心は伝わらなかったらしい。足音がした段階で既に算段はつけてあったのだ、と長谷部は意地悪く唇を吊り上げてみせた。 　なんだいそれ。微かに眉を顰めるとしてやったりとばかりに藤紫が輝きを増す。 「そろそろ来る頃だろうと思っていた。お前の視線は五月蠅いからな」 「…そんなに露骨だった？」 「あぁ、分かり易過ぎて戦場なら折れてるな」 「そこまで！？」 　良いじゃないか、と長谷部は微笑んだ。 「俺の前だけ何だし」 　それにその方が、嬉しい。 　待つのは得意だが、平気な訳ではないからと長谷部はそこまで言って恥ずかしくなったのか顔を背けた。腹に回した腕をばしばし叩かれて、離してくれとせがまれる。どうしてそれに従うと思ったのだろう。無理だ。それも痛くも何ともない。照れ隠しなんかに。 　燭台切は思わず真顔になった。 「長谷部君、君どうしてそんなに可愛いの」 　そんな事を言うのはお前だけだ、とわめく唇はさっさと塞いでしまって黙らせてしまおうか。それとも君が呆れるくらいにその耳元で睦言を囁き続けようか。どちらにせよ蕩けきった彼は甘いに違いないだろう。 　

燭へしで短い甘いお話。長谷部が可愛いという気持ちを一杯に詰めた結果の産物です。割といつも通りなお話。長谷部が当社比わんぱく。<br />ケンカップル書きたいとか、クレイジー光忠とか、長谷部が燭台切を大嫌いな話とか、色々考えていたのですが私にはどうやら糖分が足りていなかったようです。<br /><br />--------------------------------------------------------------<br /><br />いつも拙作を閲覧、評価、ブクマにフォロー等々ありがとうございます。<br />今作もほんわかしていっていただければ幸いです。<br /><br /><span style="color:#bfbfbf;">私ごとですが、長年連れ添ったガラケーにとうとう別れを告げました。8年位？お世話になりましたので割と感無量ですが、今後も目覚まし時計として傍に居て貰う予定です。きっと、とうらぶのアプリが出なければまだまだ現役だった事と思います。今までありがとう、これからも宜しく。…しかし数珠丸は残念でした。<br /></span>

コミュニケーション

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好き勝手書いてますので、念のため毎回ワンクッション付させて頂きます。 煩わしい方は、[jump:2] 第一話は[[jumpuri:こちら > http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6271097]]へ。 兄を想ふ………基本、カラ松視点 貴方を想ふ………基本、チョロ松視点 *　注意事項　* 時代ものパロ ・執筆者は、歴史にそれ程詳しくないので、時代ものなんだなっとふわっとした感じで読んで下されば幸いです。 ・時代背景は江戸辺り。 ・遊郭パロ的な感じになっていくので、なんでも許せる人向けです ・モブおそもありますので、ご注意下さい ・カラ松がカラ松ではありません（キザな台詞は難しいものですね… ・カラおそ前提のおそ松総受けです ・六つ子ですが、生き別れ設定（薄暗い話です。ご注意ください） 　おそ松と、カラ松のみ弟がいる事を知っている。三男～末弟は、一人っ子として育っています。 上記を読んでOKな方のみお進み下さい。 [newpage] 　松野家の四男、一松が帰って来てから早いものでひと月と少しが経った。あんなに痩せ細っていた一松だったが、栄養のある食事をチョロ松が作り三食しっかり食べているからだろうか、今では健康な成人男性だ。 　姿勢が悪いのが難点だが、直せとチョロ松が注意しても直す気はないらしい。カラ松は、弟達が元気でいればそれで良い為か、あまり口煩く注意をする事はなかった。 　たまに、ちゃんと叱れよ。次男だろ！とチョロ松に怒られてしまうが、大好きな弟達を叱る事はあまり得意ではない。 「一松、」 　今日も、今でだらだらとシロと過ごしている一松に声を掛けると怠そうに振り向いてくる。確かに、このままでは駄目だなと、カラ松は一松の隣へと座った。 「なに？」 「一松は、呉服に興味はあるか？」 「……別に、」 「そうか。着付けは出来るか？」 「自分では着れる。でも、他人には無理。」 「なら、練習してみるか？お前も呉服松野屋の男になるんだ。少しは呉服の事を知っていても、」 「やだ。めんどいもん。」 　ごろん、と寝転がってしまった一松に溜息を吐いてカラ松は立ち上がる。無理に呉服屋の手伝いをさせるつもりは無い。チョロ松のように、自分の夢や好きな事が出来るまで待っておくのも良いだろう。 　一松の頭をひと撫でして仕事場である一階へと行くために階段へと向かった。 「ねぇ、」 　襖を開けたと同時に、一松が声を出す。自然と足を止めて振り返ると、衣桁に吊るしてある赤い着物が目にとまった。一松が帰って来た日、身に付けていた兄の着物。初めて自分で作り、染め上げ兄へ贈ったものはだ。長年着用していた為か赤は掠れているが、今ではいい味が出ていると思う。 「どうした？」 「……あの着物、兄さんのでしょ？カラ松が作ったって本当？」 「あぁ、そうだが。」 「僕にも、作れる？」 　振り返る事無く、兄の着物を見る一松の言葉にカラ松は目を瞬かせる。次には、なんとも嬉しそうに笑った。 「勿論だ！」 「……じゃあ、教えてよ。僕、作る方が良い。」 「そうか、そうか！なら、一緒に生地の仕立てをしようじゃないか！」 　寝転ぶ一松の手を引くと、案外素直に立ち上がってくれた。にこにことだらしない笑みを浮かべているだろうが、カラ松は気にすることなく一松と目を合わせる。 　一松は居心地が悪いのか、視線を彷徨わせていたがもう一度赤い着物へと視線を向けた。 「おそ松兄さん、赤い着物、良く似合ってた。」 「あぁ。兄貴に赤は良く似合う色だ。一松が仕立てたら、きっと喜ぶだろう。」 「そうかな。」 　微かに口角が上がる一松に、カラ松は嬉しそうに微笑む。善は急げだ、と弟の手を引いて仕事場へと向かった。 「仕事は、良いの？」 「今日は、父さんに任せよう！」 　それで、良いんだ。そう呟く一松の声を他所にカラ松は意気揚々と階段を降りる。そして、様々な色合いの生地が並べられた部屋へと足を進めた。 「一松が呉服に興味を持ってくれて嬉しいぞ！」 「僕は、兄さんに作ってあげたいだけ。」 「それでも嬉しいんだ！」 　頭を撫でると気恥ずかしそうにする一松だったが、手を払いのける事はしなかった。それに気を良くして更にわしゃわしゃと撫でると、流石に眉を寄せてしまう。 「さて、それじゃ始めるか！」 　仕立てるための道具箱を棚から出すカラ松の顔は、ここ最近では見せなかった良い笑顔だ。そんなカラ松の背中を見て溜息を吐いた一松の事などお構いなしに、次男は忙しなくと準備を進めていった。 　　 兄を想ふ 　－ 第 三 章 － 　一松が着物の仕立てを初めて、ふた月が経とうとしている。風は春らしく、桜の木々にも美しい桃色を咲かせていた。 　一松に仕立てを教え初めてから、直ぐに形になるものでもないが、一松は覚えが良いらしい。カラ松の倍以上の速度で仕立て方を覚えていった。 　それでも、まだカラ松程の技量もなく出来上がる着物は見た目は良いが、縫い目は雑なところも多い。それでも、カラ松は優しく根気強く教えていった。 「出来たよ。」 　店仕舞をした後、一松が若草色の着物を手にしカラ松の元へやってきた。丁寧に畳みに置かれた着物を手にして、縫い目や裏地を丁寧に見ていく。 　まだ、縫い目が荒かったり真っ直ぐ縫えていないところもあったが教えた月日からしてみれば上出来な方だ。カラ松は笑みを浮かべて一松へ視線を送る。 「良く出来てるじゃないか。」 「世辞は良いよ。」 「そんな事無いぞ。前と比べて縫い目は綺麗になってる。まだ、商品には出来ないが、十分着れるべべだよ。」 「……そう、」 　俯いてしまった一松の耳がほんのり赤いことに気付く。四番目の弟と暮らし始めて分かった事は、褒められる事になれてないらしい。しかし、褒められるのが嫌という訳でもない。 　カラ松は、どんな小さな事でも一松を褒める様にしていた。勿論、三男であるチョロ松の事も。 「チョロ松を呼んでくるよ。」 「え、なんで？」 「あいつに作ってやったんだろ？チョロ松も楽しみにしていたぞ。」 　そう言えば、一松の顔は益々赤くなってしまう。同じ顔だというのに、弟というだけで可愛く見えてしまうなと思いながら小さく笑うとそっぽを向かれてしまった。 「そんなんじゃ、ない。」 「え、そうなの？」 　カタっと襖が開いたと思えば、呼びに行くはずだったチョロ松が小首を傾げて立っていた。一松と言えば、急に現れた三男に驚いた表情を浮かべている。 「僕のじゃないんだ。残念。」 「え、あ……、」 「緑色だったから、僕のかなって勝手に思っちゃった。」 　恥ずかしいな。と頬を書くチョロ松に一松はどうして良いかわからないといった顔で、慌てている。助け舟を出しても良いと思ったが、カラ松は弟達のやり取りをも見守る事にした。 「チョロ松兄さんに、あげる。」 「良いの？」 「……失敗したし。部屋着にでも、してよ。」 「失敗したからくれるの？僕は処理係かぁ。」 「ち、ちがう。」 「違うの？」 　カラ松は弟達とのやり取りに苦笑を漏らす。チョロ松は、明らかにからかっている様子で案外意地悪なところもあるんだなと思った。一松は、からかわれているなど思っていない様子で口を開けたり閉めたりしている。 「本当は、チョロ松兄さんにあげるつもりで。でも、失敗したから、」 「どこが失敗なの？僕なんて縫物ひとつ出来ないよ。才能が無いみたいでさ。」 「僕は、これぐらいしか出来ないし。」 「ふた月でここまで出来るなんて一松は凄いなぁ。僕は着付けぐらいしか出来ないから、本当に凄いよ。」 「僕は着付けの方が、苦手。」 　ずっと俯いて話す一松を、チョロ松は微笑みながら見ている。弟達の仲の良い姿にカラ松も笑みを浮かべた。 「着てみようかな。」 「下手だから無理して着なくても。」 「僕が着たいんだよ。あ、着せてみてよ。」 「……着付けは、苦手だってさっきも言った。」 「それじゃ、練習のつもりでさ。良いでしょ？」 　ね？と一松の手を引くと、まだ赤い顔をしながらも渋々と立ち上がる。 　男性物の着付けは着るものが少ない分、簡単だ。帯が少し難しいが慣れればどうってことないだろう。しかし、チョロ松は好んで袴を履いている。普通の着付けよりは難しいかもしれない。 「カラ松にやってもらえば、良いじゃん。」 「一松が作ったんでしょ？だったら、お前に着せて欲しいな。」 「……自分で、着なよ。」 「はい。それじゃ、よろしく。」 　それだけを言って、今着ている着物を脱ぎ始めるチョロ松に一松は助けを求めるような目を向けてきた。 　カラ松は微かに肩を竦め、一松の後ろへと立つ。 「見ててやるから、やってみな。」 「……、」 「そう、むくれるな。帯は一緒に結んでやるから。」 「……うん。」 　ぶつぶつと小言を口にしながらも、一松は着付けをしていく。やはり帯は苦手なようで、一緒に手をとって教えてやった。袴はやはり難しく、四苦八苦していたが何とか着付けは成功した。 　初めてにしては上出来だと褒めてやると、また耳を赤くする。その様子に、チョロ松とカラ松は目を合わせて小さく笑った。 「ありがとう。」 「あとで、ちゃんと着なおして。」 　それだけを良い残して、一松は部屋を出て行ってしまう。 「着付け直してやろうか？」 「やだよ。一日これで良い。」 　チョロ松は顔にこそ出していないが、嬉しそうな雰囲気を漂わせたまま部屋を出て行く。弟達の背を見送って、カラ松は赤い着物へと目を向けた。 　新しい物を作り直すと、何度も言ったけれどカラ松が初めて作った着物を兄は良く来てくれていた。 　カラ松は、優しい手つきで着物を撫で息を吐き出す。 「なぁ、兄貴。俺は、良い兄貴でいれているだろうか。チョロ松にはしょっちゅう怒られるし、一松は中々素直になってくれないんだ。」 　悲し気な笑みを浮かべ、カラ松は主のいなくなった着物をそっと抱きしめた。 「帰ってきたら、いっぱい褒めて欲しい。よくやったって。良い兄貴だよって。」 　弱々しい声で呟き、なんて女々しいのだろうと自嘲した。でも、こうでもしないと自信を持てないのも事実。本当に情けない兄だと自分自身で思ってしまう。 「兄さん、寂しいよ。」 　思わず呟き、泣きそうになってしまう熱い目尻を擦る。ぐっと唇を噛んで顔を上げ、空を見上げた。 　目を向けた先には、雲ひとつない美しい空が広がりお天道様が輝いていた。 [newpage] 　穏やかに過ぎていく日々の中、松野家にひとつの変化が訪れる。それは、一松が着物の仕立てが様になって来た頃だろうか、チョロ松が大事な話があると言ってきたのだ。 「僕、暫くしたら家を出ようと思うんだ。」 「……え、チョロ松兄さんどっか行くの？なんで？」 「この前、町に張り紙がしてあってさ。お医者様の助手を探してるみたいで、話をしてみたら人手が欲しいから是非来てくれって言われて。」 　やけに真剣な表情に、カラ松は身構えてしまったがチョロ松の話は嬉しいものだった。以前から医者になるのが夢で、暇さえあれば難しい本を読んでいたのを知っている。 　おそ松にも、少しだけ聞いていた話だけあってカラ松は両腕を上げて喜んだ。 「凄いじゃないか！」 「ただの、助手だよ。」 「それでも、医者の助手だろ？そうそうなれるものじゃない！」 　凄い、流石俺たちの弟だと年甲斐にもなくはしゃいでしまう。チョロ松は呆れた様に息を吐いたが、頬は微かに染まっていた。 「僕、やだよ。チョロ松兄さんいなくなるの。」 　沈んだ声色で、チョロ松を見る一松にカラ松はぽんっと頭の上に手を置いた。 「チョロ松の夢だったんだ。応援してやるのが兄弟ってもんだろ？」 「でも、」 「住み込みになっちゃうけど、隣町だし直ぐ帰って来れる距離だよ。たまに帰ってくるから。」 　心配を掛けない様にか、笑みを浮かべるチョロ松に一松は小さく頷いた。その様子に、カラ松とチョロ松はほっと息を吐く。 「良い医者なのか？」 「うん。人里離れた村や町に診療にも行ってるんだって。だから、人手が欲しいみたい。」 「そりゃ、医者の鑑みたいなお人だな。」 「うん、良いお医者様だと思うよ。ちょっと見た目は怪しかったけど……。それに、一緒に診療の手伝いで色んな町や村を見れるから、もしかしたら……残りの兄弟も探せるんじゃないかと思って。」 　チョロ松の言葉に、カラ松は目を瞬かせた。 「おそ松兄さんの夢、兄弟全員で暮らす事でしょ？だったら、叶えてあげたい。」 「チョロ松……、」 「おそ松兄さんが返ってきたとき、5人同じ顔があったら驚くと思うんだ。ちょっと、見てみたいじゃん。」 　小さく笑うチョロ松に手を伸ばし、カラ松は知らず弟を抱き締めていた。チョロ松は、急な事で驚きに目を丸くさせている。 「お前は、本当に自慢の弟だ！」 「ちょっと、止めてよ……恥ずかしいなぁ。」 　身を捩って腕から逃れようとするが、カラ松は力を緩めようとはしない。それどころか、わしゃわしゃと髪を撫でまわしている。チョロ松は諦めたのか、大きな溜息を吐きながらもカラ松の好きな様にさせた。 「カラ松兄さんは、家を離れられないじゃん。母さんと父さんだっているし。店、空けられないしさ。」 「……すまないな。」 「別に、責めてる訳じゃないよ。……一松、僕が居ない間カラ松の事よろしくね。」 「やだ。」 「え、」 　即答した一松の言葉にカラ松は心底悲しそうな顔をする。しかし、一松はふいっと顔を背けてむっとした表情だ。 「僕にカラ松押し付けないでよ。」 　その言葉には、チョロ松兄さん行かないで。とも取れるようで、チョロ松は困ったように眉を寄せる。 　チョロ松だって、出来れば家を離れたくはない筈だ。 「兄さんが帰って来た時、一松が立派なべべを作れるようになってたらきっとおそ松兄さん褒めてくれると思うよ。」 「別に、褒めて欲しくてやってる訳じゃない。」 「お前は覚えが良いから、カラ松なんてすぐ追い越しちゃうかもね。」 「そうだぞ一松！お前は腕が良い！」 「……たまには、帰って来てよね。」 「勿論だよ。僕も、ここが好きだから。」 　一松に向けて言った言葉なのに、カラ松は瞳を潤ませて唇を噛みしめている。チョロ松は立ち上がりカラ松の腕から離れると、次男の額を軽く小突いた。 「お前、腕だけは確かなんだから頑張れよ。」 「……お、おう！」 「一松も、頑張ってね。」 「うん。チョロ松兄さんも、頑張って。」 　素直な気持ちを言うのが苦手な四男からの応援の言葉にチョロ松は微笑み、ふわふわとした猫毛の髪を撫でた。 * * * * * 　まだ肌寒い玄関先には、松野家の三男と次男、四男の姿があった。やっと日が差してきたばかりの早朝は静かで人の気配もない。 　吐く息は微かに白く、寒がりな四男は袢纏の中に手を引っ込めていた。 「チョロ松、頑張れよ。」 「カラ松兄さんは、頑張りすぎるなよ。」 「チョロ松兄さん、いつ帰ってくるの？明日？」 「ははっ、流石に明日は無理かな。」 　困ったように笑う三男は何時もの顔だ。なに、一生の別れではないのだとカラ松もチョロ松の門出を祝う。 　チョロ松は、一松が仕立てた若草色の着物を着ていて、そのべべがあれば百人力だな！と声を上げると、一松に蹴りを入れられてしまった。 「こんなに早く発つとは思ってなかったな。」 「僕もだよ。でも、早く人手が欲しいみたい。」 「これは、餞別だ。」 　カラ松はいつも着けている赤い首巻を取りチョロ松へと巻いてやった。チョロ松は驚きに目を瞠り、首に巻かれた赤をそっと撫でる。 「これ……、良いの？」 「兄貴と一緒なら心強いだろう。それから、これも。」 　そう口にして、チョロ松に手渡したのは帯紐だった。美しい森色の中心に一本の真紅が映えた綺麗な帯。 「兄貴の着物から拝借して作ったんだ。」 「え、良かったの？」 「元々、新しいものを作ってやろうと思っていたから良いんだ。」 「……そう、」 　帯を丁寧に受け取って、チョロ松は目を細める。本当に、腕だけは良いんだから、と呟いて荷の中に大切に仕舞った。 「あ、ありがとう。」 「チョロ松兄さんだけ、ずるい。」 「お前の分もあるから安心しろ。六人お揃いだ！」 　声を高らかに上げるカラ松に、弟達は目を見合わせて肩を竦める。それでも、目元は幸せそうに笑っていた。 「行ってくるね。」 「あぁ、立派なお医者様になってこい！」 「だから、助手だって。」 「チョロ松兄さん、風邪引かないでね。」 「それはこっちの台詞。そこら辺で、すぐ寝ちゃうお前の方が心配だよ。」 　チョロ松はくしゃりと一松の髪を撫でて、苦笑する。 　その後は、しっかり寝ろだの朝食を抜かすだの、口煩い母親のように言葉を連ねた。それに、分かっている大丈夫だと答えるカラ松だったが、中々信用してくれない。自分はそれ程頼りないだろうかと、落ち込んでしまう。 「僕はお前が一番心配なんだよ。一人でいろいろ抱え込んでさ。……僕だって兄弟なんだから、何かあったら頼れよ。」 　それだけを口にして、玄関に置かれていた荷物を手に取る。そのまま玄関を出て行ってしまったチョロ松に慌てて手を振って、大声で頑張れよと叫んだ。 　一松も、小さな声で応援の言葉を口にして手を振っている。 　寂しくなってしまうが仕方が無い。チョロ松の為だと、カラ松は弟の姿が見えなくなるまで手を振っていた。 [newpage] 　あれ程肌寒かった風が、今では温かなものになっている。桜の花が美しく咲きほこり、花見の季節になっていた。 　白い手拭を絞っては干していた手を止め、森色の着物を着ている青年が空を見上げた。ゆらゆらと流れていく雲を眺め、太陽の眩しさに手をかざす。 　冷たい水で少しだけ赤くなってしまった指先を見て、青年は袖のたもとから椿油を取り出し軽く手のひらに伸ばした。他の助手の男からは女の様だとからかわれたりもしたが、チョロ松が手先の手入れを欠かす事は無い。 　治療に使う器具や、患者の傷口に触れるのだから手を綺麗にしておく必要がというのも理由のひとつだが、一番の理由は兄がこの手を好いているからだ。 「……普通の手だけどなぁ。」 　そう口にしながらも、指先まで丁寧に椿油を塗り込んでく。冷えた指を暖める様に、ぎゅっと握った。 　　 貴方を想ふ 　－ 第 三 章 － 　医者の助手と言えば、雑用だったり荷物持ちだったりを想像していた。医者の現場で、治療を間近に診れるだけでも贅沢だと思っていたのに、今現在チョロ松は治療の真っ最中だった。 　とはいっても、擦り傷や軽い切り傷といった誰にでも治療が出来るものだ。だが、ここにある消毒液や傷薬は一般家庭では到底手の届かない代物。 　チョロ松は慎重に消毒液の蓋を開け、脱脂綿を湿らせていく。怪我をした子どもが、不安気な瞳で自分の手元を見ている事に気付き出来る限り笑顔を見せた。 「いたい？」 「少しね。でも、このままの方がもっと痛くなるから、我慢しようね。」 「……うん。」 　こくりと頷く子どもに笑みを浮かべて、擦りむいた膝に脱脂綿を軽く押し当てる。子どもへ目を向けると、大きな目を潤ませながらも痛さを我慢している表情をしていた。 　チョロ松は手早く消毒を終えて、傷薬を塗る。後は、油紙を傷口に貼って包帯を巻くだけだ。 「はい。終わったよ。良く我慢したね。」 「ぼく、男だから。」 　少年の強がる姿に小さく笑って、頭を撫でる。すると、少年は笑ってくれた。 「せんせい、ありがとう！」 　頭を下げて、診療所を元気に出て行く子どもに手を振って見送る。さっきの少年が今日最後の患者だと知らされて、チョロ松は息を吐き出した。 　治療は簡単なものだが、正直神経が削られていく。本当に人手が足りないのだなと思った。 「チョロ松くん、お疲れダス。」 「あ、デカパン先生。お疲れ様です。」 　先生と呼ぶには躊躇うような格好をした人が、この診療所の医師だ。上半身はほぼ裸で、その上から白い羽織を着ているだけ。なんとも怪しい格好、怪しい名前だが腕は確かで人柄も良い医師だ。 「急な事ダスが、明日から遠出の診療の付き添いをお願いするダス。」 「はい。それは構いませんが。どちらまで？」 「隣町の隣町のそのまた隣町ダス。」 　先生の言葉に、チョロ松は二つ返事で了承した。先生との診療付き合うのは何度かあったか、遠出をした事は無い。距離があればあるほど、途中の町や村で一泊する事も多いと聞く。それならば、弟達の手掛かりも多くつかめるかもしれない。 　しかし、本来の目的は助手としての仕事だ。チョロ松は気合を入れてデカパン先生と準備を始めた。 　まず、隣町の診療所に着き助手としての仕事が終わるとチョロ松は町中を駆け巡った。同じ顔をしているのだから、似た様な人を見なかったかと聞いて回る。 　しかし、残念な事に隣町でも、その隣町も弟達の収穫は無かった。しかし、三つ先の町まで行くならば可能性がゼロという訳ではないだろう。 「チョロ松くんは、弟くん達を探しているんダスよね？」 「はい。」 「何かひとつでも、手掛かりがあると良いダスね。」 　その言葉に頷いて、チョロ松は次の町に行く準備を始める。今度こそ、何かひとつでも手掛かりがあれば良いと思いながらまだ見ぬ弟へ思いを馳せた。 * * * * * 　荷馬車から荷を下ろし、暫く過ごすであろう宿屋へと運ぶ。 　やっとで着いた最後の目的地は、遠く離れた隣町というよりも人里離れた村のようだった。人気がなく寂しい様子は、少しだけ不気味だと思ってしまう。 　今まで訪れた町よりも人気が無く弟の事も半分諦めていた時、不意に声を掛けられ声のした方へ振り向く。そこには、そばかすが特徴的で豊かな髪を三つ編みにした娘が立っていた。 　娘は、チョロ松の顔を見るなり眉を寄せ、瞳を潤ませる。 「十四松くん！」 　娘がそう叫び、こちらへ駆け寄て来たかと思えばチョロ松の胸へ飛び込んでくる。持っていた荷物が音を立てて地面へと落ちてしまった。 「……え、あの、」 「十四松くん！元気だったのね！」 　女性とあまり話した事がないチョロ松は、顔を赤くさせ固まっていたが「十四松」という名前にはっと目を瞠る。 「十四松くん、どうしたの？」 　チョロ松は、自身の胸に顔を埋めていた娘の肩を掴み引き離す。目を丸くさせながら、娘を真っ直ぐに見つめ口を開いた。 「君、僕と同じ顔の人を知っているんですか？」 「なに、言っているの？お友達でしょ？」 「……そう、ですか。君は、十四松の友達なんですね！」 　チョロ松は、満面の笑みを浮かべて娘を見る。 　カラ松から残りの弟の名を聞いていたチョロ松は、娘から出た言葉に嬉しさを抑えきれなかった。まだ会ってもいないのに、やっと見つける事が出来たと思わず手に力が入る。 「……っ、いたっ、」 「あ、ごめんなさい。」 「あの、貴方は十四松くん？」 「いえ、僕はチョロ松と言います。君の知っている十四松が僕とそっくりなら、きっと僕の弟です。」 　チョロ松は地面に落としてしまった荷物を拾いながら答える。彼女も、地面に転がっている物に気付いたのか一緒に拾ってくれた。 「ごめんなさい。私ったら、考えなしに飛び込んでしまって。」 「いえ……それより、十四松の事についてお聞きしても良いですか？あ、でもその前に荷物を片付けてきますね。」 「チョロ松くん、ここは良いダスよ。その娘さんと一緒に行ってくるダス。」 　その言葉にチョロ松は慌てて振り向く。後ろには、変わらず怪しい格好の先生が立っていた。 「ですが、僕は先生の助手出来たので。」 「わしは、家族を大事にする子が好きダス。だから、その娘さんと弟くんの所にいってあげるダス。ここは人も少ないから大丈夫ダスよ。」 　背を押され、チョロ松は戸惑ったが心は早く弟の元へ行きたいと叫んでいた。彼女が言う十四松という男が弟かどうか確証などない。それでも、見間違える程同じ顔だとしたらと期待してしまう。 　チョロ松は先生に頭を下げて、彼女へと視線を戻した。 「先生、ごめんなさい。直ぐ戻ってきます。」 「はいダス。」 「あの、案内してくれますか？」 「はい。勿論です。」 　荷物を先生へ渡し、彼女と一緒に弟の元へと急いだ。 　案内された場所は、村の奥だ。人気が無いのは変わらないが、不気味な程に静かな場所にチョロ松は眉を寄せる。 「寂しい村ですよね。私も、最初に来た時は怖かったんです。」 「じゃあ、君はこの村の人ではないという事ですか？」 「はい……色々あってここに辿り着いたんです。最初はよそ者扱いされて大変でしたけど、十四松くんだけが対等に接してくれました。」 　とても優しいんですよ。と笑顔を見せる彼女にチョロ松も笑みを浮かべた。 「でも、最近姿が見えなくて心配してたんです。家にも帰ってる気配はなくて。」 「そうなんですか。」 「勝手に家に入る訳にもいかないですし……でも、お兄さんなら、」 　そこで、彼女は言葉を切り目を大きくさせる。彼女の視線の先を見ると、古びた一軒の家の戸か開いていた。 「戸が開いてる。もしかしたら、帰ってきたのかも！」 　声を弾ませ駆けだす彼女の後をチョロ松も追う。半分開いた戸に手を掛けて、彼女が十四松の名を呼んだ。しかし、中から返事はなく、何度も彼女が名を叫ぶ。 「十四松くん！十四松くん！いるなら、返事してちょうだい！」 　すると、微かに部屋の奥で物音が聞こえた。チョロ松は、半開きの戸を開け部屋へと踏み込む。 「どなたか、いらっしゃいませんか？」 　そう声を掛けると、薄暗い家の中から薄着の男が出て来る。その姿に、チョロ松は息を呑んだ。 　背丈は自分と同じぐらいだろうが、極端に痩せ細った腕と足に目を見開く。初めて会った一松よりも痩せている男にチョロ松は顔をゆがめた。 　しかし、隣にいる彼女は表情を変える事なく男へと駆け寄る。 「十四松くん！良かった……帰ってきてたんだ。」 「ぼく、間に合わなかった。いっぱい走ったのに。」 「どうしたの？」 「助けられなかった。」 　十四松、と言われた男に目を向けるが伸びた前髪のせいで表情が見えない。それに、十四松の言葉が気になりチョロ松が口を開く。 「誰か、病気の人がいるの？」 　その言葉に、十四松の首がこくりと下に動く。 「僕、お医者様の助手なんだ。もしかしたら、何か出来るかもしれない。」 　そう口にすると、十四松の顔が勢いよく上がった。閉じられていた口がぱかりと開いて、笑顔を見せる。しかし、一瞬だけ驚きに目を見開いた。 「……お医者さん！」 「うん。先生もいるから、あとで呼んでくるよ。」 「あのね、まだあったかいの！まだね、間にあうかも！」 　細い手が伸びて来て、部屋の奥へと引っ張られる。手ぶらで来てしまったため、申し訳ないと思ったが彼女へ先生を呼んで来てくれるよう頼んだ。 「君が十四松？」 「うん！ぼく十四松！！」 　細い体とは裏腹に元気な声に、少しだけ安心する。しかし、そんな気持ちは直ぐに消えてしまった。 　十四松に連れて来られた場所は、寝室のようで布団の上に寝ている女性を見て言葉を無くす。 「ねぇ、助けられる？」 「……、」 　十四松の言葉に、チョロ松は否定も肯定もせず女性へと歩み寄った。手を取ると、確かにまだ温かい。しかし、呼吸も脈も無く既に息絶えていた。 　こうなってしまっては、もう何も出来ない。 「ごめん。」 「そっかぁ。」 　チョロ松の言葉の意味が分かったのか、それとも既に覚悟していたのか、十四松は顔を歪める事もせず笑っている。 「ぼくね、お母さんが苦しいって言ってたからお医者さん呼びに行ったの。だけど、お金がないからダメって言われちゃった。いっぱい走って、隣町のそのまた隣まで行ったけど、やっぱりダメだった。」 　もっといっぱいお願いすれば良かったなぁ。そう言いながら、笑う十四松にチョロ松は何も言えなかった。手を伸ばし、ぼさぼさの髪を撫でると長い前髪に隠れた目が揺らいだ気がした。 　暫く沈黙が続いたが、玄関の方から物音が聞こえ彼女が先生を呼んで来てくれたのだと分かる。チョロ松は十四松の手を引いて寝室を出ようとした。 「どこいくの？」 「君も怪我してるから、手当しないと。」 「ぼく、お金持ってないよ？」 「良いよ。僕がしたくてするんだから。」 　十四松の足は擦り傷だらけで、足の裏はもっと酷い事になっているだろう。裸足で走りまわったんだなと思うと、胸が痛くなる。 「ぼく、いかない。ここにいる。」 「……そう。」 　それじゃ、僕もここにいるよ。そう呟いて、十四松の隣に座りなおす。きっと、もう、助からないのだと確信の言葉が欲しいのだろう。 　視線を真っ直ぐに、寝ている女性に向けている十四松の手を握ると微かに肩が動く。チョロ松は、慰めの言葉も言えず、ただ静かな時間だけが過ぎて行った。 [newpage] 　こじんまりとした民家の居間には、自分と十四松。それから、デカパン先生と十四松の友達がいるのみ。ことこと、とヤカンから湯の湧く音だけが響き、少し重たい空気が漂っていた。 「それじゃ、この村に、人はほとんどいないんだ。」 「はい。元々、作物が育ちにくい村みたいで。私がここに来た時も、ほとんどの人が町に引っ越していました。残りの村人も、今月には村を出て行くと思います。」 「そうダスか。町に行けば、医者もいるダスからこれからは安心ダス。」 　とんだ無駄足になったというのに、文句ひとつ言わない先生は医者の鑑だなと思う。見た目は怪しいけれど、心は優しい人だ。 「君は出て行かないの？」 「十四松くんが居ますから。置いて行けないです。」 　そう口にして、格子から夜空を眺めている十四松に視線を向ける。先ほどから、ずっと夜空ばかりを見上げている弟にチョロ松は溜息を吐いた。 　あれから、十四松の義母親は丁寧に火葬し骨壺に入れられた。小さくなっちゃったね。と呟いた十四松の言葉が今でも忘れられず、かといってなんと声を掛ければ良いのかも分からない。 「十四松、」 　名を呼んでも振り向く事は無く、ただただ空を見上げている。チョロ松はに湧いたお湯を桶に注ぎ、医療箱を持って弟の傍に歩み寄った。 「何してるの？」 「死んだら、星になるって誰かが言ってた。だからね、お母さん探してる。」 　表情は昼と変わらず笑顔のままで、涙すら見せずそう答える姿にチョロ松は何も言わず手拭をお湯で濡らした。 「どの星かな？あの、一番光ってるのかな？」 「そうかもしれないね。ずっと、十四松の事見守っててくれるよ。」 「そうかな？でも、ぼく良い子じゃなかったから、お母さんはぼくの事見つけてくれないかも。」 　その言葉に、チョロ松は十四松へと目を向けた。笑っているのに、どこか寂し気に見える弟の表情にチョロ松はきゅっと唇を噛む。 　そんなチョロ松を他所に、十四松は言葉を続けた。 「お兄さん、ぼくと同じ顔してるね。ぼくね、最初にお兄さん見た時死んじゃったと思ったよ。死んじゃったぼくの幽霊がぼくの事迎えにきたのかもって思った。でも、手があったかいから違うって分かった。」 　あのね、ぼく十四松だよ。と、にっこり笑う弟にチョロ松も出来る限りの笑顔を浮かべた。 「僕はチョロ松。僕は君の兄さんかな。」 「チョロ松兄さん！」 　輝くような笑顔を向けられて、チョロ松は思わず視線を彷徨わせる。屈託のない純粋な瞳、少しだけ苦手で羨ましいなと思った。 「ねぇ、足の手当てして良い？見てるこっちが痛いから。」 　昼間から手当したくて、何度も手当しようとしたけど結局させてくれなかった。消毒液が嫌なのかもと思ったけれど、理由はそれだけじゃないとは思っている。 「……痛いの、慣れてるから平気。」 「痛みは慣れるものじゃないよ。」 「ぼくが良い子じゃなかったから、罰が当たったんだ。だから、このままで良い。」 　それだけを呟いて、十四松は夜空へと視線を戻してしまった。チョロ松は、ぬるくなったお湯から手拭を手に取り絞る。そして、そのまま十四松の足へと当てがった。 「っ、いたい！やめてよ！」 　チョロ松は十四松の制止など聞かず、手当をしていく。土で汚れた足を拭き上げ、手拭に消毒液を浸み込ませると容赦なく傷口へと押し当てた。 　痛さに声を上げる十四松だが、聞かない振りをして足の裏、膝、と小さな傷口も見逃さず手当をしていく。十四松は抵抗するのも諦めたのか、次第に大人しくなった。 　足裏は本当に酷い事になっていて、何重にも包帯を巻いていく。 「ぅ、っ……う～、」 　痛みからか、それとも違う何かか、十四松の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。ぽたり、ぽたりと床にチョロ松の手に当たる雫だが、チョロ松は顔を上げる事はしない。 　泣ている弟を慰める事もせず、チョロ松は傷だらけの足に傷薬を塗っていった。 　* * * * * 　次の日の朝、自分よりも早く起きていた十四松は包帯が巻かれている痛々しい足で駆け回っていた。それを見たチョロ松は流石に声を荒げて叱る。 　まだ大人しくしていろと怒鳴ると、びくりと肩を揺らして素直に膝を抱えて座った。 「まだ、歩くなって言ったよな？」 「……うん。言われた。」 「なのに、なんで走ってんの？」 「じっとしとくの苦手！」 　素直に答える十四松の顔は、相も変わらず笑顔だ。その表情を見ると、なぜだか本気で怒れなくてチョロ松は深い溜息を吐く。 「包帯返るから、大人しくしてろよ。」 「え！昨日巻いたばっかだよ！」 「清潔にしとかないと駄目なの。」 「そうなの？」 　チョロ松兄さん、物知りだね！すっげー！とはしゃぐ十四松に苦笑しながら、包帯を解いて行く。見た目は昨晩と変わらないが、少しだけだ腫れは引いた様だ。 「十四松はこれからどうするの？村人は、みんな町に行くみたいだけど。」 「ん～、あの子が一緒ならどこでも良いよ。」 「あの子って、昨日の娘さん？」 「うん！ぼくの友達！一緒にお母さんのこと心配してくれた。」 「そっか。あとで、お礼言わなきゃね。」 「うん！！」 　傷薬を塗り、包帯を巻きなおしながら今にも折れそうな細い足に眉間に皺を寄せる。貧富の差が激しいご時世だ。十四松のように碌にご飯を食べれない子は沢山いるだろう。 　それでも、チョロ松はもっと早く見つけてあげたかったと思ってしまうのだ。 「ごめんね。もっと、早くお前を見つけられていたら……、」 「チョロ松兄さん、なんで謝るの？ぼく、チョロ松兄さんに会えてすっげー嬉しいのに、悲しい顔されたらぼくも悲しくなっちゃう。」 　笑っている口が閉じられ、俯いてしまった十四松にチョロ松は慌てて笑顔を作ってみせたが弟の表情は変わらなかった。 「無理に笑ってるほうが、ぼくはやだなぁ。」 「……ごめん。」 「もう！兄さん、さっきから謝ってばっかり！兄さん、謝るの禁止でっす！」 　ぷっくりと頬を膨らませて怒る十四松に、チョロ松は小さく笑ってしまう。すると、チョロ松の笑顔に十四松はにぱっと口を開けて笑った。 「チョロ松兄さん！」 「なに？」 「ぼくを見つけてくれてありがとう！ぼくね、すっごくうれしい！！」 「……うん、僕も嬉しいよ。十四松、ありがとう。」 「なんで、ありがとう？ぼく、お礼言われるようなことしたかな？」 　目を瞬かせる十四松に、チョロ松はくすりと笑って長い前髪をかき上げてやる。あとで、髪を整えて上げないとなと思いながら、真っ直ぐに視線を交じ合わせた。 「生きててくれて、ありがとう。お前に会えて、見つけられて、本当に良かった。」 　目の奥が熱くなり、泣きそうになるのを耐えながらチョロ松は笑みを浮かべる。きっと、泣いているのか笑っているのか、良くわからない笑顔だったに違いない。 　チョロ松はそっと手を伸ばして、弟を抱き寄せる。すん、と鼻を鳴らす十四松の背を幼子をあやす様に撫でてやれば、とうとう泣き出してしまった。 　わんわん、と赤子の様に大声を出して泣きじゃくる十四松の頭をチョロ松は優しく撫でる。力加減など知らないように、ぎゅうぎゅうと抱きしめられて苦しいけれど、チョロ松は十四松が泣き止むまで背を撫で続けた。 [newpage] 　村に滞在する事、3日。村人も多くなかった事から、今日中には村を出れそうだった。町に帰る準備をしていると、十四松も手伝うと言って聞かない。まだ、足も完治していないのだからと止めたが素直に聞いてくれる事はなかった。 「チョロ松兄さん！荷物の片付け終わったよ！」 「ありがとう。」 「えへへ～褒められた！」 　ぽんぽんと頭を軽く撫でると、十四松は自分の頭に手を乗せて嬉しそうに笑う。どうやら、褒められるのが好きらしい。四男とは逆だな、と単純に思った。 「そろそろ出発するけど、あの子はいいの？」 「うん！チョロ松兄さんに聞いた家の名前教えたから、遊びに来てくれるって！」 「だから、住所を聞いてきたのか。」 「うん！あのね、またね会おうねって約束した！あとね、お母さんとお父さんの所に一回帰るって言ってたよ！」 「そっか。それなら、邪魔出来ないね。」 　荷台に飛び乗り、ゆらゆらと揺れている十四松に苦笑しながらチョロ松も隣に座る。十四松の手には、義母の骨壺が抱えられていてチョロ松は悲し気に眉を寄せた。 「本当に良いの？この村から出ても。思い出とかあるでしょ？」 「ん～、ぼくが村に来たのは数年前だし。村の人達とも仲良くなかったから、わかんないや。」 「……そう、」 「でもね、ぼく、お母さんの事好きだったから置いてけない。」 「うん。そうだよね。……良かったら、十四松の事聞かせてくれる？」 「良いよ！ぼくおしゃべり大好き！」 　にこにこと、咲き誇った花の様な笑顔を浮かべる十四松にチョロ松は目を細める。長男とは違うが、眩しいぐらい純粋に笑うんだなと思った。 　カタカタと揺れる荷台の上で、十四松は笑顔を絶やす事無く沢山の事を話してくれた。優しかった義父と義母の事、楽しかった事、悲しかった事。包み隠さない話しに、チョロ松は時に笑い、時に悲し気な表情を見せながら聞き入った。 　数年前、義父が出て行ってしまった後あの村に越して来たらしい。村で過ごす日々は、決して楽しいものではなく十四松の義母は良く手を上げていたそうだ。 　十四松は、自分が悪い子だったから義母は手を上げるのだと口にしたから、「お前は良い子だよ。」と伝えた。だけど、十四松は悲し気に笑って首を横に振る。 　自分が悪い子だったから、義父は出て行き優しい義母がいなくなったのだと。それでも、優しかった頃の義母を知っている十四松は義母の事をいつまでも好いていた。いつか、いつもの義母に戻ってくれると信じて疑わなかったのだろう。 　しかし、その願いは叶わず息を引き取ってしまった。十四松と義母の様子から、ろくな食事も出来ていなかったのだろう。細い手足を見ながら、チョロ松は眉間に皺を寄せた。 「チョロ松兄さん、どうしたの？」 「え？」 「悲しい顔してる。どっか痛いの？」 　細い手を伸ばし、よしよしと頭を撫でられチョロ松は首を横に振った。 「十四松の方が痛いでしょ？」 「ぼく、すっげー元気だよ！」 　にっこりと笑う十四松に眉を寄せながらも笑みを返す。すると、細い手がきゅっと手を握ってきた。 「兄さん、」 「なに？」 「……えへへ、兄さんがぼくの兄さんで良かったなぁって思っただけ。」 　十四松の言葉に、チョロ松は目を細めて「僕も十四松が僕の弟で良かったよ。」と答える。すると、大きな瞳が瞬き次には嬉しそうに笑ってくれた。 * * * * * 　時折道端の甘味処で休憩をいれながら、順調に町まで帰っていたが一羽の鳩が荷馬車へと降り立ってきた。人馴れしているのか、逃げない鳩に首を傾げていると足に何かが括り付けられているのき気づく。 「伝書鳩かな？」 　チョロ松は、先生に許可を得て手紙を鳩から解き開く。そこには、傷薬と腰痛の薬が欲しいという事が記されていた。急用でなければ滅多に診療所から鳩は飛ばさないだろう。もしかしたら、大怪我でも負ったのかもしれないダスね、と先生が心配気な表情を見せた。 　依頼人は、十四松がいた村に行く途中に寄った町からのようだった。 「デカパン先生、どうしますか？」 「そうダスね～。これ以上診療所を空ける事も難しいダスから、チョロ松くんが届けてもらっても良いダスか？」 「はい。それは構いません。診療所とは隣町なので歩いて帰って来れますし。」 「それじゃ、よろしく頼むダス。」 「はい。では、十四松の事頼んでも良いですか？」 「もちろんダス。」 　まだ包帯が巻かれている十四松へと目を向けると、弟は無言で首を横に振っていた。表情は少しだけ怒っているようにも見えて、チョロ松は目を瞬かせる。 「どうしたの？」 「ぼくも行く！」 「駄目だよ。そんな足してるんだから、安静にしておかないと。」 「ぼくも兄さんと一緒に良く！」 「だから、」 「行く！行くの！」 　ぼく、元気！すっげー元気！と両手をバタバタとさせる十四松だが、チョロ松は首を縦に振らなかった。足の怪我ならまだしも、今にも折れそうな手足をしている弟をひと町分歩かせるなんて出来やしない。 　それに、歩くとなると足裏を怪我しているのだから痛いに違いないのだ。 「まだ、痛いだろ？」 「痛くない！」 「嘘は嫌いだよ？」 「う、ウソじゃない！痛くないもん！」 　むぅっと頬を大きく膨らませる十四松にチョロ松は肩を竦めて息を吐いた。ダメ、ヤダ、直ぐ会えるから、一緒に行く、と同じやり取りを何度か繰り返しているとデカパン先生が振り向いてきた。 「連れて行ってあげるダスよ。」 「デカパン先生まで、何言ってるんですか！」 「その様子だと、診療所に連れ帰っても君を追いかけて行くダス。その方が、よっぽど心配ダス。」 「……流石にそこまでは、しないよね？」 「する！ぼく、兄さん追っかける！」 　十四松の言葉に、チョロ松は大きな息を吐いて額に手を当てた。一緒に行く！とそればかり口にして、肩を揺さぶってくる。 「分かったから……。でも、痛くなったら直ぐに言ってよ。」 「わかった！」 「本当に、痛くないの？」 「ちょっと痛いよ！でもね、チョロ松兄さんが包帯ぐるぐる～って巻いてくれたから、大丈夫！」 　ほら、もう痛くないよ！と足を揺らす十四松に苦笑して、もう何を言っても聞いてくれないだろうなと思った。とりあえず、包帯をもう一度巻き直して草鞋を履かせてやった。 [newpage] 　目的の町までは問題なく着いたが、住所は町外れの場所にあって少しだけだが歩かなければならない距離にあった。チョロ松は十四松に目を向け、大丈夫と聞くけれど答えは決まって平気だと笑顔を見せる。 「チョロ松兄さん、なんで顔隠してるの？」 　町を歩くチョロ松の顔を覗き込みながら、十四松がそう口にする。この町に入る前に、チョロ松は頬かむりで気持ち程度顔を隠していた。俯いていれば、表情は見えないだろう。 「……同じ顔だと、怖がられるっていうか、」 「チョロ松兄さん怖くないよ！」 「十四松はそうでも、皆はそうじゃないみたい。」 「ふ～ん、変なの。」 「ふふ、そうだね。」 　十四松の素直な言葉に、チョロ松は肩を揺らす。昔からある馬鹿みたいな言い伝えは知っているけれど、どうして同じ顔だといけないのだろう。改めてそう思った。 　隣で、鼻歌を歌いながら歩く十四松の手を握る。とっくに元服も終わっているというのに、何故だか童の様に手を握りたいと思ってしまったのだ。 「兄さんの手、あったかいね！」 「十四松の方が温かいよ。」 「ぼくね、兄さんの手大好き！ぼくの足、手当してくれた！すっごく痛かったけど、今はちょっとだけ。ほんと、すっごいね！」 　にこにこと笑顔で言われ、チョロ松は足を止めた。弟の言葉が、兄の言葉と重なってしまいきゅっと唇を噛む。 「どうしたの？」 「……前も、同じ事言われたんだ。僕の兄さんに、」 　自分の手のひらを見つめて、チョロ松は笑みを浮かべる。手入れを怠っていない手は、爪まで綺麗に整えられ我ながら女みたいな手だなと思った。それでも、兄が好いてくれているのだと思うと自分の手であってもないがしろには出来ない。 「チョロ松兄さんの兄さん？だったら、ぼくの兄さん？」 「うん。そうだね。びっくりするぐらい同じ顔してるよ。」 「わは～すごいね！すごいね！！早く会いたい！」 「うん。そうだね。これ、届け終わったら一度暇を貰って帰ろうか。僕と、十四松と皆の家に。」 「うん！！」 　元気に頷く十四松に笑みを返して、再び歩みを進めようとした時、足に何かが当たり自然と下を向いた。そこには綺麗な手鞠が転がっていて、チョロ松は拾い上げる。 　視線を上げると、少し前を歩いている男が沢山の荷を持っている事に気付いた。その中に、違う柄の手鞠があってチョロ松はもしやと思い声を掛けた。 「あの、これ落としましたよ。」 「え、あ！本当だ。気づかなかった。」 　振り返る男は、視界も半分ぐらいしか見えていないんじゃないかという程、抱えきれない程の荷を持っていた。 「ありがとうございます。頼まれものなので、無くしたら怒られるとこでした。」 　乗っけて下さい。と言われ、どこに乗せようか迷っていると、もうひとつの手鞠も転げ落ちてしまった。チョロ松はまた手鞠を拾い上げ十四松に渡す。 　こんな大荷物を抱えた男を素通りしてしまっては、何だか申し訳ない。お人好しの次男なら、相手の有無を聞く前に手伝うだろうとチョロ松は男が持つ荷へ手を伸ばした。 「手伝いますよ。」 「え、良いんですか？やった～。」 　普通は遠慮するだろうが、男は機嫌の良い声で荷を差し出してくる。なんだか、兄さんに似てるかもと苦笑して視界を覆っていたであろう荷を持ってやった。 「ふ～、少しは軽くなった～。」 「大変だね！」 「そうなんですよ。まったく、僕が若いからって人使い荒いんだから、」 　はぁ、と息を吐く男からチョロ松は目が離せなかった。顔半分を覆っていた荷がなくなり、相手の表情が見えたかと思えば同じ顔がそこにあって、目を瞠る。 　昔の自分ならば、悲鳴を上げていたかもしれないが、今は歓喜に震える自分がいた。 　頬かむりをしていても、正面から向き合ってしまえば互いの顔の表情は安易に見えてしまう。お互い顔を見合わせ、目を大きくさせていたが最初に口を開いたのは、意外にも男の方だった。 「……兄さん？それとも、弟くん？」 「……え、」 「これだけ似てるんだもん！兄弟だよね！」 「ほんとだー！同じ顔！」 　すごいね！と笑顔を向ける十四松に、チョロ松は理解が落ち着かなくて逆に冷静になれた。 「え、驚かないの？」 「そりゃ、驚いてるよ！ずっと……ずっと、探していたんだもん！」 　どうしよう！すっごく嬉しい！とはしゃぐ目の前の同じ顔の男にチョロ松は目を瞬かせる。 「あ、僕ねトド松だよ。まさかこんな所で会うなんて……今までの僕の苦労ってなんだったの～。」 　肩を落とすトド松だったが、次にはにっこりと笑った。その笑みは十四松の笑顔とは違い愛らしさで溢れている。 「ねぇ、荷物は運んでくれるんでしょ？だったら、僕の家でお茶していって。」 「わー、いいんですかい！？」 「もちろん！」 「今、届け物の途中で……、」 「だったら、それが終わった後で良いよ！ね、お願い。」 　小首を傾げてねだる表情は、同じ顔なのに表情ひとつでこうも変わるものなんだなと思わされた。カラ松から、弟達の名前を聞いて末弟はトド松と言う事は知っている。 　末っ子として育ってなくとも、やはり甘えたな性格になってしまうのだろうかと思ってしまう程だ。 　早くおいでよ！と笑顔を浮かべるトド松の小奇麗なべべと健康そうな肌色にチョロ松は笑みを浮かべる。愛されて育ったんだな、とチョロ松は胸を撫で下ろした。 － 続 く － H28.3.3

◆時代パロ【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6446809">novel/6446809</a></strong>】の続きです。今回は、チョロ松メイン回です。<br />完全なる自己満足のため、蛇足いっぱいですが、さくさく進めていきたいとは思っています。なんとか残りの弟くんたちを出せてよかったです。出番が短くて心残りですが……次からは、ほぼ長男編になります。<br />パロなうえ、薄暗い話ですが沢山の方に見ていただいているようで嬉しい限りです。10話以内で終わる予定ですので、もう暫くお付き合いくださると幸いです。<br /><br />◆表紙は【<strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/35086609">illust/35086609</a></strong>】からお借りしました。ありがとうございます。

－ 想ふ 四 －

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6495419#1

松野カラ松は、自分への好意を上手く消化できない男である。 長年に渡り兄弟にすげなく扱われてきたせいなのか、カラ松の自己評価の低さ故か。 カラ松は頼られると喜んで相手の言うことを聞いてしまう。 例えば『煙草買ってきて』の一言ですら、『自分が頼ってもらえた！』と喜んで、意気揚々と近所のコンビニまで出かけて行くのだ。 自分へ好意が向けられることを最初から期待せずに、自分がそこに存在していることを認められるだけで、満足してしまう。 愛されたいなんておこがましい、みんなと一緒に過ごし、そこにカラ松が存在していることを認識し輪の中に入ることを許してもらえるならば、カラ松は満足だった。 『好きの反対は無関心』という名言を残したのはマザー・テレサだっただろうか。 よく言えば博愛主義の弟を見て、おそ松はため息をつく。 カラ松はその言葉どおり、自分への関心があれば、それが負の感情でも構わない、といった風情の男だ。 存在を忘れられ、無視されることがカラ松にとって一番辛いことで、いじられたり罵られたり暴力を振るわれたりするのは自分に興味を持ってくれているためで、悲観することではない。 だから逐一カラ松に突っかかっていく一松を、カラ松が特別視しているのを知っている。 一松の暴力や暴言は全て、カラ松に甘えたいという感情の裏返しだと思い込み（実際そういう部分もあるのだろうけど）、一松に何をされても、カラ松は『許す』のだ。 「一松がああいう形で甘えられる相手は俺しかいないんだ。俺が一松の傍にいてやらないと」 先日カラ松は、こんなことを言った。 おいどこのDV被害者のセリフだ？と眩暈を覚えたおそ松の感覚は、間違っていないと思う。 一松のカラ松への絡みは、とうとう一線を越えてしまったらしい。 もともとカラ松への想いをこじらせていた一松が、何かにブチ切れて勢いのままカラ松を押し倒し、なし崩し的にことに及んでしまった。 普通の人間であれば、急に弟からそんなことをされたら怒る、もしくは恐怖で立ち直れない。 そもそも男同士なのだし、カラ松の方が一松よりも力がある。 抵抗すればいくらでもできたはずだ。 しかしカラ松はどうだろう。 カラ松はそれを、『甘え』と受け取った。 様々な鬱々とした思いを、カラ松にぶつけた。 それは甘えであると。 兄は弟に甘えられたら応えなければならない、カラ松はそう信じ込んでいる。 目の前にいる長男おそ松は、気分で甘やかしたり突き放したりする兄であることを知っているにも関わらず。 「…なぁカラ松、お前一松のこと好きなの？」 「好きだぞ、可愛い弟だ」 「いや弟としてじゃなくて、一松に恋してんのかって聞いてんの」 それが恋ならば、まだ理屈で片付けられるのではないだろうか。 倫理的に許されることでなくても、抵抗するべき場面でも、恋は盲目、惚れた方が負け、という言葉で説明がつく。 カラ松はおそ松の言葉にじっと考え込む。 その無表情で何を考えているのか、おそ松にはカラ松の心が読めない。 一松に恋をしているが、兄弟であり男同士であるという関係上、口には出しにくいのか。 今まで無自覚だったがおそ松の言葉で自覚して困惑しているのか。 はたまた… 「恋では、ないと思う」 「……えぇ…」 数分の長考の後、顔を上げたカラ松が口にしたのは否定だった。 おそ松の希望は打ち砕かれて、すぐ下の弟のことが何もわからない！とお手上げ状態になる。 「兄ちゃんさ、別に男同士とか、兄弟で、とかそういうの、別に犯罪じゃないからいいと思ってるのね。お互いが同意でのことならさ」 「ああ、俺も一松を許しているからな、同意したも同然だろ」 「いや、違うのよカラ松、俺の言う『同意』ってね、お互い恋をしあってるなら、ってことなの」 「……許すだけじゃだめなのか」 「『許し』は恋じゃないよカラ松。お前は一松を許すけど、一松を欲しいと思ったの？」 「……欲しい、なんて、俺が願っていいことじゃない」 一瞬、僅かにカラ松の表情が歪む。 欲しいと願ってはいけない、それはカラ松が自分に価値を見いだせていないということだ。 自信過剰なキャラクターを演じているカラ松の、仮面の下はこんなにも自己否定的な人間だ。 自信がなくて、臆病で、受け入れるばかりで手を伸ばせない。 差しのべられた手を振り払うこともできず、求められたら喜ぶばかりで。 「恋って相手を欲しがることだと思うんだよね」 「……だから、一松に俺は恋をしていないって言っただろ」 「お前の中には愛しかないんだな。許すって愛だよ。恋をするつもりは毛頭ないんだ」 「……愛は、ある。勿論だ。俺たちは兄弟なんだ、愛してる、当然だ」 「でも一松のアレは、お前に恋してるからこそだ。お前が欲しくて欲しくて仕方がないんだ」 「…そんなはずない、俺が誰かに恋しいと思われるはずがない」 「お前は一松が価値のない人間に恋をするような愚鈍に見えるのか？」 「だから！そんなんじゃなくて！あれは俺に対する甘えで…！」 「『弟』が『兄』に甘えるのにセックスは必要ないだろ。あーあ、一松はお前が受け入れたことでお前も一松を好きなんだって勘違いしたぞ。可哀想に、自分の一方通行だなんて思いもしない。それに気付いたらアイツはどれだけ悲しむか」 おそ松の言葉に、カラ松は目を見開いてぼろりと大粒の涙を零した。 本当はカラ松だってわかっている、一松は兄弟への甘えでセックスをするような弟じゃない。 そこに恋慕の情がなければ、同じ顔をした兄弟とセックスしたいなんて思うはずがない。 だけれどそれを認めてしまうのは、一松にとって自分が価値のある人間だと認めてしまうのと同義だ。 自分が価値のある人間だと認めてしまえば、何かに期待してしまう。 自分が無価値だと信じていれば、誰に何をされても当然だと思える。 だからずっと、『与える』ことだけを考えて、何かを欲しがったり、しなかったのに。 チビ太に誘拐されたとき、ひょっとしたら兄弟が助けてくれるのでは、と期待してしまったせいで、その期待が裏切られたときにカラ松は傷ついた。 後になって考えてみれば、無価値であるカラ松が兄弟に助けられるはずがなかった、当たり前のことで、傷つく必要などなかった、という結論が出た。 だから次の日にはカラ松はいつもどおりのカラ松に戻ることが出来た。 期待なんてしたくないから、自分に価値を見出したくないんだ。 「一松には、悪いことをしたな。俺に恋をしたなんて錯覚だって、教えてあげるのが兄の務めなのに」 「…カラ松、お前本当に自分が無価値だとか思ってるわけじゃないだろ？ちゃんとお前は兄弟に好かれてるってわかってるんだろ？」 「いや、おそ松、いいんだ。俺に気を使う必要なんてない。俺みたいな人間に、おそ松の優しさは贅沢すぎる」 「カラ松！俺の目を見ろ！さっきから目ぇ反らしやがって、逃げんな！」 「…い、やだっ！おそ松の目は怖い！見たくない！」 おそ松がカラ松の両腕を掴み、目を合わせようとする。 カラ松は頑なに顔を反らし、おそ松の顔を見ようとしない。 昔からおそ松は、弟の被っている殻を破るのが得意だった。 弟を苦しめる殻を破って、中から本当の気持ちを引きずり出して、消化させる。 それがハッピーエンドでもバッドエンドでも、きっちり解決させて、苦しみから解放させる。 ハッピーエンドのときは共に喜び、バッドエンドなら心の整理がつくまで傍にいる。 カラ松だけが、おそ松のその目から逃げ続けてきた。 ずっとずっと、逃げ続けてきた。 「俺の目が怖いっつーなら、お前が何かを隠してる自覚がある証拠じゃねえか」 「…、そうだよ、俺は、どうしても、兄弟にでさえ、一生、見せたくないものを抱えてる」 「それを兄ちゃんに見せろっつってんの、どうしてもお前が言いたくないなら、他のやつらには言わないから」 「嫌だ！俺はおそ松にだって言いたくない！見せたくない！離してくれ…俺は、俺は」 おそ松に両腕を掴まれたまま、カラ松は項垂れてぽろぽろと涙を零す。 その表情が、あまりにも『無』で。 怒りも悲しみも映さない表情に、ぞくりと背筋が凍る。 このまま死ぬのではないか、そう思わせるほど、カラ松の体からは力が抜け、おそ松が腕を掴んでいなければそのまま床にへたり込みそうだ。 「…ちょっと、何してるの」 言い争う声を聞きつけたらしい、外から帰ったばかりの一松が、襖を開けて訝しげな声を出す。 帰って来たばかりの一松から見れば、表情を無くし静かに泣く想い人の両腕をおそ松が掴み、食って掛かっている図だ、 そのままのしのしと2人の間に割って入り、おそ松の手を外させる。 カラ松を背中に庇い、おそ松を睨む一松。 「……何でカラ松泣かせたの」 「…俺が泣かせたのかなぁ？俺の方が泣きたいわ」 「何を言ったの」 「カラ松を助けたかったんだ」 おそ松はそう呟くと二人から背を向けて部屋を出て行く。 後ろでへたり込んでしまったカラ松と視線を合わせるようにしゃがむと、一松はその目元をパーカーの袖で拭う。 「…何があったの」 「…いちまつ、ごめん、ごめんなぁ」 「何に対して謝ってるの？」 「ごめん、いちまつ、ごめん」 壊れたCDプレイヤーのように、カラ松は一松への謝罪を繰り返す。 理由は口にしない、ただ、名前を呼んで謝るだけ。 一松は力の抜けたカラ松の体をぎゅう、と抱きしめた。 ずっと素直になれなかったけれど、先日勢い余って押し倒してしまったときに、カラ松は抵抗しなかった。 体を繋げることを許されたのだ、もうカラ松は自分のものだと一松は思っていた。 だから一松はカラ松を大切にしようと決めた。 一松の腕の中で泣き続けるカラ松が、一松の背に腕を回すことはなかった。 [newpage] 「ねぇ一松兄さん変じゃない？」 「アイツが変なのは今に始まったことじゃないだろ」 「カラ松兄さんも元気ないしさ」 「…それは、うん、そうだな」 トド松がチョロ松にこそっと耳打ちする。 ある日を境に、カラ松と一松の様子がおかしくなってしまった。 カラ松は、いつも自信満々だった表情が力を無くし、手鏡も傍に伏せたまま持ち上げようともしない。 一松は猫に会いに行く回数が減り、部屋の隅でうずくまったまま、カラ松にじっとりとした視線を送り続けている。 言ってしまえば空気が悪い。 こんなときばかりは長男に頼りたいところだが、おそ松も最近は家を空けることが多い。 大体競馬やパチンコに行っているようだが、回数が以前より格段に増えた。 「三人で喧嘩でもしたのかな！？」 「わぁっ、十四松兄さん声が大きい！」 「んー…一松とカラ松が気まずいのは今に始まったことじゃないけど、おそ松兄さんが2人の諍いに首つっこむとは思えないんだよな…」 三人がぼそぼそと話している声が、一松とカラ松に聞こえていないとは考えにくいが、2人とも何の反応もしなかった。 普段なら自分のひそひそ話を絶対に許さない一松でさえ、視線を寄越すことすらしない。 カラ松がそっと立ち上がると、一松もそれに続いて立ち上がる。 すたすたと部屋を出て行くカラ松を、一松が追う。 「何あれ、カルガモの親子か何か？」 「わかんねぇ…」 カラ松がトイレに入っていくのを確認して、一松は壁にもたれて出てくるのを待った。 あの日からカラ松は一松と目を合わせようとしない。 話しかけても返事は帰ってくるものの顔がこちらを向かない。 カラ松を大切にしようと決めてから、一松はカラ松に突っかかったりしていないのに。 「………やっぱり怒ってるの？」 無理やりことに及んでしまったこと。 抵抗しないから許して貰えている、なんてやっぱり甘えなのだろうか。 押し倒したのは勢いにまかせて、だったが、行為そのものはあまり乱暴にしていないつもりだった。 だから逃げようと思えばいくらでも逃げられたはずだ。 カラ松は力が強いから、抵抗されたら敵わない。 「一松、トイレ空いたぞ」 順番待ちをしていると思ったらしいカラ松が一松に声をかけて、茶の間に戻ろうとする。 一松は、その腕を咄嗟に掴んだ。 びくり、カラ松の肩が大袈裟に跳ねる。 ああ、やっぱり、怯えているんだ、許されていないんだ。 「話が、したい」 「ああ、茶の間で聞くよ、廊下じゃ寒いし」 「他の人に聞かれたくない」 「………二階いこうか」 カラ松は弟には甘い男だ。 そんなことはわかっているはずだった。 一松は姿勢を正してソファに座るカラ松を眺めてそう思った。 だから、あのとき自分を受け入れてくれたのは、弟に対してやり返すことができないだけだったという可能性を、忘れてはいけなかった。 さすがのカラ松でもセックスまでいけば抵抗するだろうと勝手に想像して、抵抗がなかったから受け入れてもらえたという考え方は、甘かったに違いない。 あの日、おそ松の前で泣いていたカラ松を思い出して、ぎり、と奥歯を噛む。 きっとカラ松は一松に抱かれたことをおそ松に告げたのだ。 そして、おそ松にそれを説教されたのだ。 『嫌なことは嫌ってちゃんと言え』とか何とか。 「……何で俺の事避けてんの」 「避けてなんかないさ、現に今だってこうして一緒にいる」 「俺の顔見ないじゃん」 「もともと俺は鏡ばかり見ていただろう？今更どうしたんだ？」 「それでも前は、声かければ俺の方向いてくれたよ」 「……そうだったかな」 カラ松は苦笑して、膝の上で手を気まずそうにもじもじと動かしている。 視線はつま先の辺りで、一松の方に向けようともしない。 やっぱり嫌われたんだろうか。 兄を性的な目で見ている弟なんていらないって、思ったのだろうか。 「おそ松兄さんと話してた日からだよね、俺の方見ないの」 「……そう、かな」 「何か言われたの？俺がカラ松を抱いたことについて」 カチリ、と音がしたように思えた。 視線は一松に向けないまでも、表情は穏やかに微笑んでいたカラ松から、表情が消えた。 あの日、おそ松の前で涙を零していた時のように、表情がない。 何の前触れもなく、ぽろり、カラ松の目から涙が零れ落ちた。 歯を食いしばって耐えることもなく、じわじわと溢れてくるでもなく、ぽろり、と。 「………カラ松？」 「…いちまつ、」 「どうしたの？俺何か酷いこと言った？」 「………一松は、俺が、好きなのか？」 顔を上げたカラ松が、一松の瞳を見据える。 久しぶりに目を合わせたカラ松の瞳は、こんな色だったかと思うほど真っ黒だった。 前触れなく零れた涙だが、一度零れてしまえば普通の涙と同じように瞳を潤ませている。 窓から差し込む曇り空の鈍い光を反射する瞳が、美しい。 泣いたことで顔に熱が集中しているのか、唇が赤くふっくらと色を放ち、それが一松の目を奪う。 そこから紡がれる言葉を理解するのに、少し時間がかかった。 「……は？」 「一松は、俺に、恋をしているのか…？」 カラ松がゆっくりと瞬きをすると、瞳に溜まっていた涙がつぅ、と頬を伝う。 綺麗だ、舐めとりたい、その欲求を満たしてしまうことはできたのだろうけれど、カラ松の言葉がそれを許してくれそうにない。 言葉なんてなくても、行動で示せば伝わると思っていた。 いや、実際カラ松だってぼんやりとわかってはいるのだ。 確証が欲しくて聞いている、その問いに一松の心臓はドクリと音を立てた。 「………す、き、です…俺は、カラ松が、好きです」 声が掠れた、 本当は押し倒す前に言うべき言葉だった。 カラ松の瞳から目をそらすことが出来ないまま、一松は言った。 カラ松は、未だポロポロと涙を零し続けている。 一松の言葉を聞いても、その涙は止まらなかった。 「…カラ松」 「……………いちまつ」 「ん？」 「こわい……こわい、いちまつ…こわいよ…」 カラ松は両手で顔を覆い、肩を震わせて泣き続ける。 『怖い』が何にかかっているかわからず、一松は少し躊躇った後、そっとカラ松を抱きしめた。 拒絶されない、だけれど決して受け入れてもくれない。 カラ松はやっぱり、一松を抱き返すことをしなかった。 自己主張の激しい６つ子、生まれついた瞬間から生存競争に勝ち残ることを本能に命ぜられたのだから当然だ。 まだ個性と言うものを考えることなく、６人で１人だった子供の頃は、カラ松も他の５人と同様、生き残るために必死に自己主張をしていた。 中学校に上がり、６つ子とはいえ成長期にバラつきがあり、先に身長が伸びた者、先に声変りが訪れた者、顔つきが大人びてきた者…と僅かながら変化が見えてきた頃から、６つ子は個性を見せ始める。 高校に入るころにはその個性は確立された。（しかし成長が緩やかになるにつれ６つ子の体型や顔つきはまたそっくりになっていった） カラ松は己を空っぽな人間と感じ、それをコンプレックスとし、仮面を被ることに決めた。 自分の空っぽ具合を隠すような、かっこいい人間になろう。 そして６つ子に何が足りていないのかを分析する。 リーダーシップはおそ松が、そのおそ松を支える役にはチョロ松が、人とは違う角度で物事を見れる一松が新たな視点を６つ子に与えたし、十四松が場の空気を明るくしてくれたし、トド松の存在がそれぞれを『兄』にした。 ここに足りないものは何だろう、カラ松は考えた。 みんなグイグイ前に行くならば、後ろから見守る役が必要だな。 みんなの背中は俺が守る…なかなかにかっこいい役回りではないだろうか。 そしてカラ松は６つ子の中から一歩引いて物事を考えるのが癖になった。 そして誰かが何かを欲しがれば、それを弟に譲るのも。 しかし６人の輪を乱すことも良しとせず、何かの争奪戦が起きれば絶対に自分は勝たないように加減しながらその戦いに参加する。 複数の種類のあるおやつがあれば、最後に残ったものが自分のもの。 ガッつかない、主張しない、ただ６人の中で兄弟を見守る存在に。 カラ松はそれをかっこいいと思って始めたが、いつしかそれはとても楽な生き方であると感じるようになった。 選ぶ必要がないのも、何かを欲しがる必要がないのも楽だ。 最初から諦めていれば傷つくこともない。 そして兄弟たちには、とことんまでに優しくなろうとした。 泣いている兄弟がいれば寄り添って慰め、イライラしている兄弟がいればそのはけ口に。 楽しそうな兄弟がいれば邪魔しないようにそっと見守り、嬉しそうな兄弟がいれば笑顔でずっと話を聞いた。 これも好かれたいという感情ではなく、カラ松の性格的に優しくする方が楽だったから。 好かれたいと思って優しくすれば裏切られた時傷つくが、自分が優しくしたいから優しくするだけならば、裏切りも裏切りになり得ない。 カラ松はそういう生き方がもう癖になってしまって、何かを欲しいなんて考えられなくなっていた。 与えられるものには手を伸ばすけれど、自ら何かを欲して手を伸ばすことは無い。 というよりは、何が欲しいのか自分でもわからなくなっている。 かっこいい生き方に憧れていたはずが、行きつく先はこんなにも空っぽな自分。 自分の意思が無い、流されるままに生きることの楽さはなんと甘美な誘惑か。 兄弟に素気無く扱われることも、殴られることも罵られることも、カラ松にとっては何の苦でもなかった。 ただ兄弟の傍で、ぬるま湯のような人生を過ごせればそれでよかった。 [newpage] カラ松は頼られるのは好きだが求められるのは苦手だった。 何かをやってほしいと言われればそれをやれば満足してもらえたけれど、何かの答えを求められると、何と返すのが正解かわからず口を噤んでしまう（若しくはよくわからない言葉を並べ立てて誤魔化す）。 だから一松に、『黙って抱かれてろ』と言われたときは素直に抱かれたけれど、『好きです』と気もちを求められたときはどうしていいかわからず泣いてしまった。 体ならいくらでもくれてやれるけれど、気持ちの動かし方がわからなくて、ぶつけられる感情が怖い。 『好きだと言ってくれ』と言われたらいくらでも言えるけれど『好きになって』と言われたらどうしていいかわからない。 こんな自分を、兄弟に曝け出すなんて考えただけで恐ろしい。 だからカラ松はおそ松の目が怖いし、一松の気持ちが怖いのだ。 何が好きで何が嫌いかなんてカラ松の人生においては重要でなかった。 ６人の輪を乱したくないという理由で好きな食べ物や趣味などは便宜的に『松野カラ松なら何を選ぶか』を客観視して挙げたものだ。 から揚げを食べて美味しいと思うのは嘘ではないが、よっぽどまずいものでなければカラ松は何でも美味しいと感じる。 音楽や映画なんかも同じで、よっぽど酷いものでなければ何でも良いと感じるし面白いと感じる。 特筆して『好き』とか『嫌い』というものがないのだ。 だから一松がカラ松に恋をしているという事実においては、兄弟だとか同性だとかいうことはさして気にならないが、それに応えてやれるかどうかがわからない。 一松に好かれているのは素直に嬉しい。 兄弟の事は昔から大切で愛すべき存在だと思っている。 その兄弟に好かれて嫌だと思うはずがない。 だけれどずっと、兄弟はずっと傍にいられたらいいなと思っていただけで、好かれたいとは思ったことがなかったのだ。 急に気持ちを向けられても戸惑うばかりであるし、こんな空っぽな自分を好きだという一松の気持ちがわからなかった。 ずばぬけて魅力的な容姿をしているわけではないし、優しくするように努めてはいたがそれは兄弟皆同様にしてきたことだ。 カラ松にとっては、助けて欲しい、とすら、望むことは難しい。 一松は変わらずなるだけカラ松の傍にいようとしたし、おそ松は何かを考え続けていた。 チョロ松、十四松、トド松も三人の異変に気が付き気遣わしげな視線を送っているが、その雰囲気の重苦しさに手を伸ばせないままでいる。 一松はカラ松と二人きりになると、ぽつりぽつりと話をするようになった。 とりとめのない話だけれど、自分の考えていることが少しでもカラ松に伝わったらいいと願いを込めて。 「こいつ、最近新しく友だちになったんだけど、最初なかなか懐いてくれなくて。初めて俺の手からエサ食ってくれた時すごく嬉しかった」 「ネコはみんな可愛いけどさ、俺犬とかも嫌いじゃないよ、犬なら日本犬が好きかな」 「昨日の晩飯美味しかったね、カラ松いっぱい食べれた？」 カラ松は戸惑いながら、だけれど愛だ恋だを囁くのではなく、何と言うこともない言葉を投げかけてくる一松にホッとしながら話を聞いている。 最近の一松はあまり答えを求めない。 ただカラ松が頷いたり笑みを零したり、ささやかな反応を返せば優しく笑みを浮かべてカラ松の手の甲を撫でたり髪を梳いたりした。 一松の傍にいるのは嫌じゃないし、触れられるのも嫌じゃない。 だから一松がカラ松に触れたいのなら触れてもらって構わないし、それで一松が喜ぶならカラ松も嬉しい。 でもきっと、好きだと言葉にしてしまった一松は、きちんと心を通じあわせることを望んでいる。 あの日から一度も、カラ松を押し倒したりキスをしたりしないのはそういうことだろう。 誰かからの優しさを受けるのは、それが数分後には手のひらを返されることがあっても、その瞬間は嬉しいものだ。 今一松が優しくしてくれるなら、それを素直に受け止めることはできる。 それでもやはりいつか、その手のひらは返されるだろうと思ってしまうのだけれど。 「カラ松、退屈じゃない？」 「ん？一松の話がたくさん聞けて嬉しいぞ」 「…そう、よかった」 寂しげに微笑む一松の表情に、つきんとカラ松の胸が痛む。 可哀想に、こんな空っぽを好きになったせいで、一松は寂しい想いをしている。 おそ松は『恋は相手を欲しいと思うことだ』と言っていた。 それが本当ならば、一松はカラ松の言葉を欲しているはずで。 それでもカラ松の空っぽな心では、一松の恋心に見合う美しい言葉を紡ぐことはできなかった。 好きなものを語る一松の瞳は柔らかで優しくてきれいだ。 嫌いなものを語る一松の瞳は暗くて恐ろしくて濁っている。 感情を映し出す瞳は美しい。 それがプラスの感情でもマイナスの感情でも。 「一松は穏やかになったね」 カラ松が公園の橋の上でぼんやり水面を眺めていると、唐突におそ松が声をかけてきた。 びくりと肩は跳ねたけれど、必要以上に驚かされたわけではないので橋から落ちたりしない。 恐る恐る振り返れば、少しだけ疲れた表情のおそ松が立っていた。 「どうして一松がお前に優しくするかわかる？」 「……俺を、好いてくれているんだろう、それはわかった」 「うん」 「自惚れるわけではないけれど、俺を見る一松の視線は優しいな。あれを受けて、一松の気持ちを否定することはできなかったよ」 「一松の目は見れてもお兄ちゃんの目は見れないのね」 「おそ松は怖いからなぁ」 「うーん、一松の愛でもまだ解けないか」 ベンチに移動して、二人並んで腰掛ける。 おそ松が煙草に火をつけて、ぷかりと煙を吐き出しながら、苦笑する。 「一松とはどんな話してんの？」 「……何てことない話。一松の新しい友だちの話とか、実は犬も嫌いじゃないとか、昨日の夕飯の話とか」 「それを聞いてカラ松はどう思ってるの？」 「え……あ…俺、は」 「うん、カラ松は？」 どくり、カラ松の心臓が嫌な音を立てる。 カラ松の最も恐れる質問の一つだ。『カラ松はどう思う？』 ぐぐ、と喉が詰まる感覚がして、息ができなくなる。 みんなの前なら、かっこつけた言葉でいくらでも誤魔化せるのに、おそ松と二人だとからっきしだ。 目を見なくてもこれなら、目を合わせてしまったらどこまで引きずり出されてしまうやら。 じわりと汗が滲んで、はく、と口を開くけれど、声も出なければ息もできない。 血の気が引いているのがわかる。 こういうとき、どうしたらいいんだっけ？ 「おいカラ松、息しろ、落ち着け、カラ松！」 「…ぁ、は、ぐ、っ…は」 「カラ松！大丈夫だ、言いたくないなら言わなくていい、カラ松、落ち着け！」 「…っ、は、か、は…こわ、い…っ」 「……大丈夫だ、兄ちゃんここにいるぞ、大丈夫、ゆっくり息吸え、ゆっくりでいい、焦るな」 「…は…ひゅ…う、は…」 おそ松に背中をさすられて、カラ松はゆっくりと息を吸う。 取り込まれた酸素にむせてゲホゲホと咳をするカラ松を見て、おそ松は唇を噛む。 思っていた以上に根が深いのかもしれない。 兄弟で恋愛をするという倫理に抵触することを気にしているだけではない。 何に怯えている？カラ松は何を抱えている？ 長男として、兄として、カラ松に何をしてやれる？ 「おそ松、すまん…もう大丈夫だ、心配かけた」 「……ねぇカラ松、お前は何を抱えてんの…兄ちゃんじゃ、助けられない？」 「………違うよおそ松、俺が臆病なんだ…おそ松は最高の兄さんだぞ…」 もう言ってしまいたい、とカラ松は思う。 一松だけでなくおそ松まで傷つけて、それでも守らなければならない価値など自分にはない。 でも…何にも期待せず欲せず、ただ生きるだけのカラ松が、唯一望んだのは兄弟の傍にいることだった。 末弟が己をサイコパスと表現するのは間違っていないのだ。 傍にいたいと願う兄弟にすら何も期待できない、何も望めないなんて。 自分を兄弟と認めてくれている兄弟を、裏切られたくないという理由で諦めているなんて。 それこそ兄弟への裏切りではないのか？ 「…カラ松、俺もうお前に何も聞かないからさ…」 「………おそ松」 「だから何か言いたくなったらいつでも兄ちゃん呼んでよ。早朝だって深夜だって、頑張って起きるから。カラ松が話したいこと、何でもいいよ。おやつが美味しかったとか、雲がうんこの形してたとか、もう本当、何でもいい」 「……うん」 「俺長男だからさ、どうしたって、弟大事なんだよね。みんなみんな、憎たらしいし可愛くないけど、大事なんだよ。可愛いんだよ。だからさ……兄弟だから…お前がどんな爆弾抱えてても、ちゃんと受け止めるからさ…」 「ああ…」 おそ松が泣いている気配がしたけれど、カラ松は見て見ぬふりをした。 兄は弱い所を弟に見せたくないものだ。 カラ松だって兄なのだから、それくらいはわかる。 「おそ松」 「…なぁに」 「俺はな、ずっと兄弟の傍で生きていたいんだよ」 「……そうなの？」 「ああ、ずっとずっと、みんなと一緒にいたいんだ」 「そっかぁ…へへ、俺も、そう思ってるよ」 嬉しそうにはにかんで、鼻の下を擦るおそ松。 まだ、カラ松が正直に言える感情はこれだけ。 いつか勇気が出たら、おそ松には全部話さなくてはならないな。 [newpage] 「カラ松、一緒に猫の餌やり行かない？」 「………いいのか？」 「カラ松が一緒に行きたいって思ってくれるなら」 「………あ、えっと、あの」 「…うそ。本当は俺がカラ松と一緒に行きたい。だめ？」 「だ、だめじゃない！行く！」 少しずつ、一松はカラ松への接し方を変えて行く。 カラ松の意思を探るような物言いをして、でもカラ松が少しでも言葉に詰まればすぐに助け舟を出す。 一松はカラ松が自分の意思を表現することを恐れていると感じた。 だから簡単な二択なら、カラ松も意思表示ができるのではないかと思ったのだが、それもなかなか難しいらしい。 一松は６つ子が個性を持ち始めた頃からずっと、カラ松が特別だった。 生存競争の激しい男６人兄弟の中、いつだって優しいのはカラ松だった。 子供の頃は短気で激情家のきらいがあるカラ松だったが、弱っている兄弟がいれば必ず声をかけ、手を差し伸べた。 一松も何度その優しさを受けたかわからない。 その優しさが自分だけのものだったらいいのに、と他の兄弟の背中をさするカラ松の手を見て思ったのがきっかけで、一松は自分の想いを自覚した。 同性の兄弟を好きになるなんてありえない、これはただの兄弟への憧憬である、と何度も自分に言い聞かせたけれど、一松の特別はカラ松に他ならなかった。 隣で眠るカラ松の寝顔に欲情してしまったことで、もう自分を誤魔化すこともできなくなって。 でもカラ松の優しさは誰にでも平等に与えられるもので、どう足掻いても自分だけのものにはならなくて。 だったらいっそその優しさの枠から自分だけを外してほしい（とにかくカラ松の『特別』になりたい）、とカラ松への態度を悪くしたり意地悪ばかりを繰り返したりしてみたけれど、どうしてもカラ松は一松を嫌ってすらくれなかった。 一松も、どう足掻いてもカラ松への想いを断ち切ることが出来なかった。 それで先日、いきおい余って押し倒してしまったのだけれど。 カラ松の優しさは見返りを求めない優しさだ。 普通であれば人間は好かれたい対象にしか優しく出来ないと思うし、特別に好かれたい相手がいれば特別に優しくするものだと思う。 カラ松はただただ『優しい自分』が理想で、『優しくしたいから優しくする』だけなのだ。 優しさが返されなくても構わない、だから誰も特別にならない。 一松が無理やりカラ松を抱いたあの時も、カラ松は突き放さなかったけれど受け入れてもくれなかった。 悪意のない相手を、カラ松は突き放したりしないのだ。 それに気づいたときは、流石の一松も虚しさに心が折れかけたけれど、それでもまだカラ松を好きだと心が叫び続けている。 「わあ、いっぱいいる…！」 「ここ、この辺の猫のたまり場なんだよね…ほら、手ぇ出して」 カラ松を連れていつもの路地裏へ向かうと、そこには餌を待つ猫がたくさん待っていた。 たくさんの猫に目を輝かせるカラ松の手のひらににぼしを数匹乗せてやって、しゃがむように指示をする。 カラ松がにぼしを乗せた手をそっと差し出せば、一松に慣れた猫は躊躇わずにカラ松の手からにぼしを食べて行く、 「わ、わ、一松、食べた！」 「そりゃ食べるでしょ、好物なんだから」 「可愛いな、可愛いな、あ、ちびちゃんもいるじゃないか！」 「うん、最近生まれた子もいるみたい」 ふにふにと手に触れる猫の口に目を輝かせるカラ松に、一松は目を細める。 カラ松は何かを求めたり望んだりすることは無くても、感情がないわけではない。 嬉しいときは笑うし、悲しいときは泣くのだ。 そういう表情一つ一つが愛しくて、一松はカラ松から目を離せない。 「ふふ、一松ガールズと一松ボーイズはたくさんいるんだな、モテモテだな、一松！」 「…カラ松ボーイズもここにいるんですけど」 「…え、あ、…あ、う」 「……なーんてね」 さっきまでニコニコ笑っていたカラ松が、一松の言葉一つで困ったように眉を下げる。 一松は苦笑して、カラ松の髪をぐしゃりと乱暴に撫でた。 このくらいの軽口なら笑って流してくれて構わないのに。 みんなの前で見せるかっこつけの表情で『弟まで魅了してしまう俺は何てギルトガイなんだ…！』とか何とか誤魔化してくれて構わないのに。 「ねぇカラ松」 「ん…？」 「返事はいらないからさぁ…好きって言ってもいい？」 「え…」 「カラ松が俺の事、恋愛として好きか好きじゃないかわかって、カラ松が言いたくなるまで何も言わなくていいからさ、俺が、カラ松を好きだって言いたいから…言ってもいいかな」 「っ……それは、構わない…けど、でも、おれ」 「うん、なぁに？」 猫の頭を撫でながら、一松は言う。 緩やかに距離を詰めて行くのは嫌じゃないし、カラ松に変化が訪れるまで根気よく待つつもりであることに変わりはない。 だけれどやはり、想いを心に閉じ込めておくだけではいつか爆発してしまいそうで。 だったら口にして適度にガス抜き出来ればいいなと思った。 カラ松がそれを嫌がらなければ。 そうしたら、カラ松が戸惑いながらも、言葉を紡ごうとしてくれたので、一松は優しく問い返しながらも、息を詰めて続く言葉を待った。 「…おれ………っ、は…」 「うん…いいよ、ゆっくり息して、ちゃんと聞いてるよ、ちゃんと待つよ、カラ松、落ち着いて」 「っ、あ、いちまつ…」 「うん…苦しい？大丈夫だよ、カラ松が頑張ってる証拠だよ、大丈夫。カラ松は大丈夫」 「…ふ、あ…いちまつ…いちまつ」 「抱きしめてもいい？俺の心臓の音聞いてみて。それに合わせて息して」 「は…ふ、は…あ……いちまつ、おれ」 「うん…？」 とん、とん、と一松の手がカラ松の背中を叩く。 おそ松の前でも息が出来なくなったけれど、一松の前でこうなるのは初めてで、カラ松は混乱する。 それなのに一松は冷静で、カラ松の耳元で優しく宥めてくれて。 おそ松と話す時とは違う安心感に包まれる。 詰め寄るけれど自分を逃がしてくれるおそ松と、態度も言葉も優しいのに絶対に言葉を聞き出そうとする一松と。 どっちが優れているのか、どっちに甘えたいのか、カラ松にはわからないし選べない。 だけれど今目の前にある優しさには、甘えてしまいたいと思う。 それがカラ松の選んだことなのか、優しさに流されているだけなのか、呼吸もままならないカラ松には判断がつかなかった。 「っ、は、わからない、んだ…自分が、どうしたいのか…」 「うん」 「お前に触れられるのも、好きって言われるのも、嫌じゃない。嬉しいの、かも、しれない。でも、その先がわからない…どう、なりたいのか、どうしたい、のか…」 「うん」 「これが、お前、だから、嬉しいのか、他の人に、言われても嬉しいのか、わからない」 「うん」 「だから……俺は一松に、好きって、言ってもらう資格なんて、ないんだ」 一松にしがみついて心音を聞きながら、カラ松は言葉を紡ぐ。 一松はその間ずっと背中をぽんぽんと叩いていたし、カラ松の話を遮ることなく話を聞いていた。 言い終わったカラ松がけほけほと咳をするのを見て、一松は背中を叩いていた手で今度はゆっくりと背中をさする。 「頑張ったね、言ってくれてありがとう、嬉しい」 「…は…ごめんなぁ、いちまつ…ごめん…」 「どうして謝るの？俺に好きって言われるの嫌じゃないんでしょ？充分だよ」 「でも、おれ」 「わかるまで待つって言ったじゃん、嘘じゃないよ。カラ松が答えを出せるまでずっと待ってる」 「……いつまでかかるか、わからないぞ」 「いいよ？どうせカラ松以外を好きになる日なんて来ないしね。気長に待つよ」 一松の腕の中で、カラ松は呼吸を取り戻していた。 久しぶりに、自分の考えていることを口にした気がする。 気付かないうちに目からは涙があふれ、一松のパーカーを濡らしている。 カラ松の、空っぽな自分のほんの一部分。 そこを曝け出しただけで、こんなにも恐ろしいのに。 一松は抱きしめる手を緩めなかった、そっと背中を撫でてくれた、『待つ』と言ってくれた。 …でも。 「…あまり、期待をさせないでくれ…甘い言葉は、俺を裏切る」 「……ふぅん、そういう捉え方なんだ、カラ松は」 「え？」 「ううん、いいよ。それもカラ松の気持ちなんだよね。うんうん、前進してる。俺もカラ松も」 おそ松兄さんからは一歩リードかな、と呟く一松に、カラ松は首を傾げる。 ぎゅう、と一度強く抱きしめた後、一松はカラ松から体を離してじっと目を合わせた。 涙を流した後のカラ松の目は少しだけ充血していて、潤んだ瞳はやっぱり綺麗だった。 「カラ松が不安なら『絶対』なんて言葉使わない。でも、今この瞬間俺はカラ松が好きだし、この先もずっと好きだって思ってるよ。万が一カラ松以外に好きな人が出来たらちゃんと言うって約束する。だから今の俺の気持ちは信じてほしい」 「………あ、ああ…わかった…信じるよ、俺は、今の一松を、信じる」 「うん、今日はここまでにしよう。カラ松もいっぱい頑張ってくれたし、俺も恥ずかしくなってきた」 「……ふ、ふふ、ああ、こんなに情熱的な一松は、久しぶりだ」 「…笑ってんじゃねぇよ」 一松の手がカラ松の頬をぶに、と潰して、笑うカラ松を抑え込む。 睨まれているけれど、一松の顔が真っ赤なのでちっとも怖くない。 カラ松はもう一度くすりと笑った。 そういえば餌をやりに来たのに猫をほったらかしにしていた。 ぱ、と振り返れば地面に置いていたにぼしの袋は空になり、たくさんいた猫はほとんどが解散しのんびりと寝ている猫が２匹いるだけだった。 「ああ。一松キャッツが…」 「ん、いいよ。また餌持って来れば会えるでしょ。また付き合ってよカラ松」 「…ああ、また連れてきてくれ」 よいしょ、と立ち上がる一松がカラ松に手を差し伸べて、少し躊躇った後カラ松は一松の手を取った。 ぐい、と立ち上がらせた勢いでもう一度ぎゅ、と抱き寄せて、一松はぽそりと『好きだよ』と囁く。 すぐに体を離して先に立って歩き出す一松の、赤くなった耳だけが見えて、カラ松は胸がじんわりと熱くなった。 『いつか裏切られるとしても、今の一松は俺が好き』そう心の中で唱えてみれば、カラ松の顔に熱が溜まる。 やっぱりこれが、一松に好きだと言われたから嬉しいという感情なのか、誰に言われても嬉しいのかわからない。 一松が自分のどこを好きになったのかは皆目見当がつかないけれど、それでも、きっと今の一松に嘘はなくて、だから。 「……もう少しだけ、時間をくれよな、一松」 逃げるのではなく、考えてみたい。 一松への想いを、正面から見つめてみたい。 [newpage] それから一松とカラ松は時折一緒に猫の餌やりに行くようになった。 あの時のような密度の濃い話はしなかったけれど、二人で猫を眺めるだけで一松は幸せだったし、カラ松も楽しかった。 ただし一松は、出かけるたびに小さな問いかけをするのを止めなかった。 『肉まんとあんまん、どっちがいい？』『実際カラ松は猫派なの？犬派なの？』といった至極単純で簡単な問いかけ。 カラ松はその度に少しだけ息を呑んで、大きく深呼吸して考えた後、『肉まんの方が好きだが、一松の好きな方を食べてくれ』とか『どっちも好きだけど犬派かもしれない』とか、はっきりした物言いではないものの、答えを返すことが出来るようになった。 一松はその度にカラ松の頭を撫でて『よくできました』と笑う。 子ども扱いされているようで恥ずかしいけれど、一松に頭を撫でられるのは嬉しい。 「おそ松、少し話をしないか」 「…！お、なぁにぃ？面白い話でもあるの？」 「……どうだろう、面白くないかもしれない」 「…ばっか、何でも良いっつったじゃん、冗談くらい流してよ」 「はは、うん、わかってる」 おそ松とカラ松は連れ立って近所の公園に向かった。 自販機で缶コーヒーを買って、ベンチに座る。 あの時と違うのは、カラ松がおそ松の顔を見ていること。 「ハッピーエンドを迎えたくなった？」 「…エンド、は、まだ信じられないかな。とりあえず目先のハッピーから、逃げたくないと思った」 「うーん、一松頑張ったなぁ」 「………本当にな、よく呆れずに待っててくれる」 「お前も頑張ってるってことじゃん？お兄ちゃん嬉しいよ」 にぃ、と笑うおそ松が、カラ松の頭をぐしゃりと撫でる。 おそ松の手に撫でれられるのも、カラ松は嬉しかったけれど。 一松に撫でられるときのような照れくささはなくて、やっぱりそういうことなのかな、と思う。 「おそ松、俺はずっと、誰にも何も期待していなかったんだ」 「……期待？」 「俺の事を好きでいてくれるかも、とか、俺の味方でいてくれるかも、とか、俺に優しくしてくれるかも、とか、自分に対するみんなの行動に、何も期待できなかった」 「…はぁ～、辛辣ねぇカラ松くん」 「自分でもそう思う。でも期待しなければ傷つかなくて済んだんだ、みんなに無視されても、放っておかれても罵られても、『これが当たり前なんだ』って思ってれば傷つかなかったし楽だった。期待すれば裏切られた時悲しかったし」 「…うん」 「そうしたらいつの間にか、自分が何をしたいのか、何が好きで何が嫌いなのか、わからなくなってしまった。どうせ自分の意見なんて誰も聞いてくれないし、って、周りの意見に身を委ねるのがすごく楽で、自分の意思なんてものを考えることもしなくなった」 「…何となくそんな感じしてたね、お前」 カラ松はふぅ、と息を吐いて、おそ松と目を合わせる。 しっかりとした口調とは裏腹に、その瞳の色は危うく揺れている。 ずっと隠したいと思っていたことを口にしているのだ、緊張しているのだろうし、おそ松のリアクションが怖いのだろう。 おそ松にとっては、そんなに隠したいことだろうかと思うようなことだけれど、カラ松にとっては『自分の意思が無い』というのはよほどコンプレックスなのだろう。 それが自分たち兄弟がカラ松にしてきた仕打ちの結果なのだ。 「好きも嫌いも、考えられなくなって、相手に合わせているのがすごく楽で…だから俺は、一松に最低なことをしてしまった。セックスに応じるなんて、思わせぶりもいいところだ」 「うん、そうね」 「………でも、一松は、それでも俺を、好きだと言ってくれた」 「…うん」 「…………まだ、遠い未来を期待することはできないけど、でも、今、この瞬間は、俺を好きって」 「あいつの拗らせ方は半端じゃないからね、簡単に切れる想いじゃないわな」 頬を染めたカラ松の表情は、如実にその感情を語る。 いつの世も人の呪いを解くのは愛の力なのだな、と陳腐な言葉を思い浮かべておそ松は笑う。 いいじゃないか、兄弟が変態でもすけべでも、ホモだって。 兄弟だもん、長男だもん、弟が幸せなのが一番嬉しいや。 「………だから、一松に、期待してみようと思う」 「ああ、いいんじゃない？お前がお前の意思でそれを決めたなら、それしか正解はないんだよ」 「…ありがとう、おそ松」 「まぁね、カリスマレジェンドのお兄ちゃんにかかればこんなもんよ！」 「調子に乗るな、馬鹿兄貴」 ふは、と二人同時に噴き出して、ベンチから立ち上がる。 缶コーヒーの空をゴミ箱に投げ入れて、並んで家路につく。 「一松のついででいいからさ」 「ん？」 「ちょっとでいいから、他の兄弟にも期待してみてよ。みんなお前の事、兄弟としてちゃんと好きだよ？」 「……善処してみる」 「うん、期待して、裏切られたら、怒ればいいんだから。物事は意外と単純だぜ、カラ松」 立ち直れないほど傷ついたら一松に甘やかしてもらえばいいんだし？とニヤニヤ笑うおそ松に、カラ松は頬を染めてふくらはぎの辺りを蹴る。 それでいいのよ、殴ったって蹴ったって、兄弟が簡単に兄弟を見捨てるわけがない。 あとでこっそり、他の兄弟たちにもカラ松への態度をもう少し改めるように言い含めよう。 一松はこの一件ですっかりそれを反省して行動を改めたようだけれど。 勿論カラ松がイタい行動をしたならばそれはいじるべきだと思うけれど、イタい物言いでもカラ松が何か言葉を発したならば、つっこみでも罵倒でも、とにかく言葉を返すべきなのだ。 やっぱり人間、無視が一番辛いと思う。 「お、一松－」 帰る途中で紫色の猫背を見つけて、おそ松は片手を上げて声をかけた。 振り返った一松は、おそ松とカラ松が連れ立って歩いていることに眉根を寄せて、つかつかと近寄って二人の間に体を割り込ませた。 どうにもあの日から、一松はおそ松に警戒している。 またカラ松を泣かせたの？とでも言いたげに睨んでくる一松に、おそ松はにんまりと笑みを浮かべてその頭をぐしゃぐしゃと撫でた。 「一松くん、お兄ちゃんに感謝しなさいよぉ？」 「……何のこと」 「……ま、大半はお前の頑張りだけどね。よく頑張った、一松」 「え、ちょっと待って何の話」 おそ松の、近年まれにみる穏やかな笑顔に一松は戸惑い、きょときょととカラ松とおそ松の顔を見比べる。 カラ松の顔は赤く染まり、おそ松は相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。 ハテナマークを頭上に浮かべたまま戸惑う一松と真っ赤になって固まるカラ松を置いて、おそ松は再び家路についた。 その背中を見送って、一松はカラ松を振り返る。 耳まで真っ赤にしたカラ松は、俯いてその表情を見せてくれない。 「…カラ松、どうしたの？おそ松兄さんにいじめられた？」 「ち、違う、違うぞ」 「じゃあどうしたの？何で俺の顔見てくれないの？」 「………は、恥ずかしくて」 「…？何が？」 顔を覗き込んでくる一松の、差しのべてくる手をぎゅっと握り、カラ松は今来た道を逆走する。 いつも一松が連れて行ってくれる路地裏へ辿りつくと、そこでようやく一松の手を離してカラ松は振り返る。 二人ともかなりのペースで走ったことで息を切らしており、それでもお互い合わせた視線を外さない。 カラ松の目は潤んでいる。 その潤んだ瞳が堪らなく好きだと、一松は思う。 走ったせいか、それだけではないのか、上気した頬もこめかみを伝う汗も。 「聞いてほしい、話がある」 すぅ、と深呼吸をしたカラ松が、意を決したように言葉を放つ。 一松が質問していないのに、カラ松から話がある、だなんて。 驚いて目を丸くする一松は、ただこくりと頷いた。 「……はぁ…、ふ…っ」 「…カラ松、無理はしないで」 「言う、言わなきゃダメなんだ、言う。言う！」 「うん、聞いてるよ、大丈夫、ずっと待ってるよ、焦らないでね、大丈夫だから」 一松に期待すると決めたものの、やっぱりカラ松の言葉は詰まってしまう。 悔しくて涙が滲むけれど、一松がまたカラ松を抱き寄せて、ぽん、ぽん、と背中を叩いてくれるから。 ぎゅう、と心臓を鷲掴みにされたような感覚。 ぽろりと目元から零れた涙が、一松の肩を濡らす。 「……いちまつ…」 「うん」 「………いちまつ、が、すき」 「……………えっ」 蚊の鳴くような声だったけれど、確かに。 一松の耳には、カラ松の声が届いた。 慌ててカラ松の肩を掴んで体を離し、その顔を覗き込む。 ひゅ、ひゅ、と苦しそうに浅い呼吸を繰り返しながら、それでも一松から目を反らさずに、カラ松はもう一度唇を動かした。 「俺は、一松が、好きです」 さっきよりもはっきりとした声で、ふにゃりと頬を緩めて、カラ松は言った。 ぶわり、一松の視界が滲む。 嘘だろ、嘘だろ、こんなことってあるかよ！ 一松は再びぎゅう、とカラ松の体を抱きしめて、肩口に顔を埋める。 ぼろぼろと零れる涙を堪えようともせず、あらん限りの力でカラ松を抱きしめる。 カラ松の手が、きゅ、と一松のジャージを握る。 腕ごと抱きしめてしまったせいで、腕を動かすのが叶わなかったらしい。 その僅かな動きさえ、反応を返してくれたのが嬉しくて。 「……俺も、カラ松が好きです」 少し腕の力を緩めて、カラ松の耳元で囁く。 ふるりと身を震わせたカラ松の手が、ゆっくりと一松の背中に移動して、ぎゅ、と身を寄せられて。 ずっとこうしたかった、カラ松の腕に抱き寄せられて、くっついて、愛を囁きたかった。 「カラ松、キスしたい…してもいい？」 「……、俺、も、したい…」 カラ松の頬に手を添えて、こつりと額を合わせる。 お互いにボロボロと泣きすぎたせいで、頬はびしょ濡れだけれど。 鼻水だって垂れているかもしれないけれど。 一松がキスをしたいと言ったら、カラ松もしたいと応えてくれたのだ。 一松がしたいならいいぞ、じゃなくて、カラ松もしたい、と。 キスをしないなんて、あり得ない。 「ん…は、ふ、いちまつ…」 「…ふ、…っ、カラ松…」 何度も角度を変えて、啄むようなキスを繰り返す。 舌も絡んでいない柔らかなキスの応酬に、脳みそがどろどろに溶けて行くような気がした。 カラ松の腕はいつしか一松の首に回されて、一松の手はカラ松の腰を引き寄せて、密着した体制で何度も。 「は…いちまつ…」 「……可愛い、カラ松…」 長い口づけを終え、唇を離して目を合わせる。 とろりと瞼を重そうに垂れさせるカラ松の表情がいやらしくて愛しくて、一松はその頬や額や瞼に何度も口づけを落とす。 可愛い、可愛い、と囁かれて、カラ松はぞくぞくとした快感に包まれる。 愛されているのだ、自分は、この一松に。 愛されることに期待などしていなかった自分が、こんなにも露骨に愛されている。 遠い未来の話など知ったことではない。 今この瞬間、愛されている事実があれば、それでいい。 「いちまつ…好き、好きだ…」 「愛してるよカラ松、俺のカラ松…」 すりすりと一松の首筋に顔を埋めてすり寄れば、頭を柔らかく撫でられる。 カラ松はうっとりと目を細めて、一松のにおいと体温に酔いしれる。 好きな人に好きだと言ってもいい、そしてその好きな人が自分を好きだと、愛していると言ってくれる。 こんな自分が、空っぽな自分が。 満たされていく、一松の愛で。 「散歩して帰ろうよ。もうちょっと二人でいたいんだ」 まるでカラ松の心を読んだように、一松が微笑む。 いつも差し出される手を握るだけだったカラ松は、自分から一松の手を取った。 おわり

一松くんとカラ松くんが頑張る話。<br />痛いカラ松くんはいません。<br />暴力的な一松くんもいません。<br />おそニキはいいお兄ちゃんです。<br /><br />ロム専でいようと思っていたのですが我慢できんかった･･･。

見てみぬふりはもうできない

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「ふむ……卵を3つかき回した、と。 『卵液を流し込み、半熟になるまで熱する』 ……要は熱を加えればいいんだな。」 「……強火？弱火？……困った時は強火にしよう。 …料理とは、中々楽しいものだな。 ……………………んー、固まらないな。 …いきなり全部は入れすぎたな。 んーーーーーーー」 「……フランベ ……そうだ！フランベという手があるな！ 何かの本で見たことがある。上からも下からも火を通せば加熱時間は半分だ！ それに酒の風味がついて美味しくなるに違いない！ 洒落たイタリア風？の卵焼きにしよう！ そうと決まれば、度数の高いウォッカを！」 [newpage] 「……で、厨房を火達磨にしたせいで俺たちの朝飯はないのか？」 割烹着姿で、正座させられている磯風はそれは様々な艦娘から涙目で、もしくは呆れられた目で見られている。 朝起きて食堂に来てみれば、いつもと様子が違った。 物音ひとつしない無音。 不気味なほど無音。 事情を知ってそうな困り顔の間宮の後を付いていって厨房に入ってみれば天上まで登る焦げ跡と消化器の白い粉で真っ白になった床。 昨夜ここで何があったのかよくわかった。 …まだ全焼にならなかっただけ、磯風が消化器の使い方を知っていただけマシだ。 「…浜風、昨夜、磯風をなぜ止めなかった？」 「すいません。……少し早めに寝ていて気付きませんでした。」 浜風が出てきて、苦虫を噛み潰した顔でそう言った。 …さすがにこれで責任を押し付けたら酷だ。 なら、夜の間だけ食堂の使用を許可している居酒屋鳳翔だ。 「鳳翔、昨夜厨房に磯風を入れたのか？」 「いえ、店じまいと後片付けを終わらせたマルヒトサンマル時に食堂の錠をかけました。」 申し訳なさそうな顔の鳳翔がそう言った。 「どうやって入ったんだこいつ」 視線を鳳翔から磯風に向ける。 「私はそれを見越して食堂の合鍵を入手し、タイミングを見計らっていたんだ。」 「おい、誰かこいつの顔面をソテーしてやれ……って、厨房は使えなかったんだ。 ……顔の皮でも剝ぐか」 折りたたみナイフを取り出して、ブレードを開く。 結構本気だ。 人間より再生能力のある艦娘だから、多少痛めつけても問題にならない。 「「「やめてください」」」 止められた。 …解体ショーはなしか。 「……はぁ、磯風は朝食の後、執務室へ来い。 朝食は、野外訓練も兼ね、各自飯盒で飯を炊け。……腹ペコの連中には悪いが、１時間は我慢してくれ」 ダメになったのはコンロの周りで、専用の炊飯器はダメになってないだろうが、訓練も兼ねて。 「えー、提督ー、もう動けねぇぜ」 天龍が机に突っ伏しながら、だるそうに言った。 天龍の一言に口々に不満を各自言い出した。 腹減っただの、面倒くさい、だの。 「静かにしてろ。 お前ら、ジャングルで遭難した時どうすんだよ。 飯もねぇ、水もねぇ、変な木の実とそこらへんに生えた食えそうな草を食んでた思いをしたことねぇからそんなこと言えるんだよ。 飯が食えると確約されてるだけありがたいと思え さっさと倉庫で埃かぶってる飯盒を洗ってこい。 ……嫌と言った奴は、残念だが頭の皮を剥がしてつるっ禿げにするからそのつもりで」 ぞろぞろと食堂から出て行く。 全員出て行った、な。 ……俺は迷わず、レンジでチンして出来るご飯を選んだ。 これは人数分ないからな。 [newpage] 味気ない飯を食い終わり、外に出るとまだやってた。 お米研いだり、火起こしの準備が着々と進んでいる。 ……100人もいると、やっぱり飯盒不足や燃料不足が出てくる。 そういうのは順番待ちでさらにイライラが募る。 さて、その矛先がどこに向かうのかといえば、当然この事態を引き起こした磯風に向かうだろう。 自業自得というやつだが少し様子を見てくることにしよう。 これから艦隊運動に支障をきたすレベルではちとまずい。 円滑な人間関係を築くのもまた提督の仕事の一つだ。 「…なんだ、司令」 端っこの方で正座させられている磯風。 ……心配して損した。 「お前何してるんだ？」 「飯抜きの刑に合ってるんだ。 「…お前料理しなきゃいいのに」 「なぜだ。」 「……”ど”がつくほど下手くそだから」 磯風が睨む。 嘘は言ってない。 「司令、聞いてくれ」 声がマジなトーンになった。 ……下手の横好き。 磯風の癇に障ったか。 ゲンコツの１つは覚悟しよう。 「確かに私の料理は料理と呼べないだろう。 台所を燃やせば自分の腕がどこまでか大体分かる」 …どう考えても腕の問題じゃないだろ。 「司令もなぜ私が料理なんて似合わないことをしてるのか不思議に思ってるだろう。」 「…ああ。」 似合わないというか、そこまで支離滅裂な腕なのになんで止めないのか不思議だな。 俺ならとっくにやめてるね。 「人間だからだ。」 「……ん？」 「…私は人間になりたい。 人間のような化物じゃなく、人間に。」 「…無理だろ」 バッサリと切り捨てる。 ヤギは逆立ちしても羊にはなれない。 それは、艦娘も同じ。 人間にはなれない。 「…言いにくいことをハッキリと言ってくれる。」 唇を噛んでいる。 「無理なものは無理だ。」 「その通りだ。 ……私は人間にはなれない。それは私が一番よくわかっている。 だからこそ、私は人間より人間らしくありたい。」 「…それが料理か？」 「人間は動物の中で唯一料理をする生物だ。」 …まあ、一理あるな。 人間とはなんぞやと哲学のようなことを言う気にもならないし、磯風が料理をするのが人間だっていうならそれでいい。 「…あそう。だがもうやるな。これ以上ボヤ騒ぎは困る」 「…なに？」 「これ以上料理をするなと言っている。 今朝みたいなことは困る。」 ……いけね、あとで執務室に呼び出ししてるんだった。 あまりここでいうとなんのために呼び出したのかわからなくなる。 「司令！」 いきなり磯風が立ち上がった。 拳を握りしめて、眉間にしわを寄せ、納得がいかないという風だ。 とりあえず拳を振り被らないことに安心した。 「自ら挑戦しようとする人間を止める権利が誰にある！ 司令にも胸に秘めた夢ってものがあるだろう。夢を追い求める権利があるなら、その心意気を尊重すべきだ！」 まるでこの場にいる全員に伝えようとしているような強い口調で叫んだ。 しかし、俺は知っていた。 そのグッとくるセリフは映画からの引用だということを。 「…残った僅かなものまで奪わないでくれ、か？」 「…知っていたか。」 確かに感動するセリフだ。 …だからと言って、、、、、。 だからと言って…………。 ……………………だからと言って、磯風から料理を、、。 ダメだ。俺にはこのセリフを言われた後に磯風から料理を取り上げるということができない。 確かにもっともだ。 挑戦しようという人間を止める権利などない。 ……その心意気を尊重しよう。 「……忘れてないだろうな、執務室への呼び出し」 「…ああ、勿論だ。」 [newpage] それからしばらくして執務室に磯風が来た。 態度がでかいとは言わないが、堂々としていた。 ………反省の色が見えない。 別の解釈をすれば、処分を覚悟している。 ……いい方に捉えよう。 「磯風、ただいま参りました。」 「……で、どうして呼ばれたかわかってるか？」 「卵焼きに失敗したためです。」 ……卵焼きに失敗。 …卵焼き。 どんな失敗したらああなるんだ。 むしろ磯風が故意に厨房に火をつけたほうが納得が出来る。 「…じゃあ、どんな風に失敗したか実演してみろ。」 「……？」 「ついてこい」 磯風を連れて執務室の斜め向かいにある私室に入る。 …もちろん、お仕置きという名目で黒髪ロングの堅物駆逐艦を性的に虐めるわけではない。 あまり作らないんだが、料理ができる俺は私室に簡易なコンロや水道、電子レンジや小さめの冷蔵庫といろいろ完備してある。 …コンロと卵があれば、卵焼きぐらい作れる。 「…磯風、食堂から卵を３つくすねてこい」 「……私がくすねる？」 「3分以内、はい」 手を叩くと、急いで部屋を出て行った。 ボウル……はないな、かわりに大きめの軽量カップがある。 菜箸、……はいいとしても卵焼き用のフライパンをわざわざ用意するのは面倒だ、普通のでいいか。 その他に、油や砂糖なんかを用意する。 「……も、持ってきた。」 「早かったな。」 磯風も帰ってきた。 走ってきたのか軽く肩が上下して少し息が荒い。 「…じゃあ、再現だ。 磯風がどうやって厨房を黒こげに、いや真っ白にしたのか。 俺は料理器具には触らない。いいな？」 触らないだけで口出しはするが。 「…あ、ああ。」 「これは一応現場検証を兼ねてる。…事故証明か？ 言うなれば証拠だ。言いたいことはわかるな？」 「…ああ。あの時と同じようにすればいいんだな」 言いたいことは伝わってないみたいだな。 まあいいや。 「…まず最初に何をした？」 「髪を結んで手を洗った」 …お、意外とちゃんとしてる。 髪を結って、ポニーテールにしたあと手を洗った。 結構似合ってるとか言ったほうがいいか？ …やめよう。口説いてるわけじゃない。 「その次」 「卵を割った。」 「じゃあ割れ。 そこの軽量カップにな。」 こくりと頷き、不器用に卵を１つ割って失敗した。 …。 「ちなみに卵は角で割るより面で割ったほうが綺麗に割れるぞ」 「…面？」 卵を１つ持って、台の横に打ち付け、軽量カップの上で割る。 「……おわかり？」 「か、片手はまだ……技術が必要だ」 …違う、面で割れということだ。 はい、卵を割った。 「それでかき混ぜた。」 「…あー、待て。 卵焼きはな、隠し味にマヨネーズと砂糖、めんつゆを入れると美味くなる。 覚えておけ。」 マヨネーズを少し、砂糖も少々、めんつゆをたらりと垂らして磯風にバトンタッチ。 不満そうな顔だ。 何がそんなに気にくわないのやら。 「…料理器具には触れないんじゃなかったのか？」 半目で見つめられた。 「触ったのは調味料だ。」 磯風が菜箸でそれらを掻き混ぜる。 ……どうも自分で全部やりたいらしい。 掻き混ぜ終わったら、コンロに火をつけフライパンを熱する。 「…卵焼き用のはないのか？」 「持ってくるのが面倒くさい。」 「司令、料理に面倒くさいはダメだぞ。」 「うるさい」 頭を小突く。 「…ほら、油を引け」 「わかってる」 「火を弱めろ」 「……わかってる！少し黙ってくれ」 お前最大火力で卵焦がす気だろ。 そして溶き卵をフライパンに注ぐ。 「入れすぎだ」 磯風の手を掴む。 全部入れる気か。 フライパンをぐるっと回して…。 ……いかんいかん。 「とうとう器具に触ったな」 「うるせ」 …くそっ、もたもたすんなよ。 「…早くしろあとは簡単だろう」 「わかってる。」 ……。 んー、、、。 磯風は慎重になりすぎて、それはもうバカ丁寧に巻こうとしている。 …きれいにやることはない。 フライパンを傾けて菜箸で形を整えようとしている。 磯風の背後に立つ。 「…どうした司令。」 磯風の両手を握る。 ……細い手首だな。 「お。おいっ？」 戸惑っているがこのままやらせてもらう。 「最初はスクランブルエッグを作るみたいに搔き回す。 食感をよくするために。 玉子焼きだが、きっちり巻かない。」 玉子が固まる前に端に寄せ、次の卵液を流し込む。 操り人形のように磯風の手を使って。 「…ん……うん。」 落ち着かないようだ。 落ち着かれても困るが。 「しっかりみとけよ」 卵が少し固まってきたところを見て、 「よっと」 フライパンを軽く振り、勢いをつけて卵を巻きにかかる。 少しやりにくかったが、成功した。 「自己流なんだが最初に搔き回すのはな、できたときに中身がふわふわになるからだ。 巻くタイミングが難しいから、そこは練習しろ。」 「………」 返事がない。 「…磯風？」 「あ、ああ、聞いてる。」 少し惚けているみたいだったが。 「ほら、次はお前が巻いてみろ」 「…わかった。 ……て…手を離してくれ」 「お、悪い」 磯風の手から離す。 磯風がぎこちなく巻いていく。 ……まあ、許容範囲だろう。 「よし、よし。じゃあ次の卵液を流すぞ」 磯風の頭を撫でる。 さらさらと気持ちのいいくらい手触りがいい髪だな。 「……う……」 玉子焼きを二人で作っていく。 しばらくして、 「…出来た」 「ん。」 皿に盛りつけられたのはまごう事なき玉子焼き。 普通のフライパンで作ったためオムレツのように流線を描いているボディだが、玉子焼きは玉子焼きだ。 「………お、そうだった。 これで事故証明は終わりだ。」 「…これで司令は何がわかったんだ？」 「少し手際が悪かったが、これは玉子焼きだ。」 「……司令が横から茶々を入れるからだ」 いや、お前がド下手だからだ。 「黙れ。 もう一度言うがこれは、、玉子焼きだ。 磯風は玉子焼きを作れるということを証明してみせた。 厨房を黒こげにしたのは……おそらくガス漏れかなんかののせいだろう。 よって、磯風に非はない。 罰も処分もない。 以上だ。もうどこへなりとも行け」 磯風が口を開けている。 普段凛々しい顔をしているが、今はマヌケ面だ。 写真を撮りたくなるくらい。 「あー、と。 お前が料理するなら、誰か付き添いをつけろ。 もちろん料理ができるやつな。 2度目はないぞ。…料理、上手くなれよ。」 磯風を残して部屋を出る。 ふー、と息を吐く暇もなくか。 …部屋を出て待ち構えていたのは、浦風と浜風、谷風だ。 揃いもそろって。 「なんだお前ら、どいてくれ。」 にやにやとしている顔がカンに触るが、放っておく事にする。 「提督さん、磯風の処分はなんだったん？」 浦風がにやにや笑みを浮かべながら聞いてくる。 「…立つ事。ジャブを出せ」 「？？」 この3人の頭の上に疑問符が乗ってる。 「…少しは映画を観ろ。 生き方を学べるぞ。…男としてのな」 俺が言いたい事はそれだけだった。 [newpage] [chapter:オマケ] 「司令、新しい料理に挑戦してみたいんだ。」 朝食の後、司令に言ってみた。 司令は座ったまま、顔だけを私に向けてジロリと一睨み…しているように見えた。 「ほー、そうか。」 …自分の心臓がだんだん早くなってくる。 ええい、動くな。 「そ、それでだ、、。 まだ何を作るか決まってなくてだな。 ……良ければ司令の好きな料理を教えてくれないか？ 誰かの好きな料理を作る方がやりがいがあるからな。」 は、はぁ。言えた。 頭の中で何度もシミュレートした甲斐があった。 ……周りの人の目つきが変わった。 しかし、臆する事はない。 私は１つ駒を進める。 「俺の好きな？ ……んー、チリコンカンか？」 司令はチリコンカンなるものが好きらしい。 覚えておこう。 「チリコンカン？」 …とは、なんとなく聞いたことがある。 「メキシコの豆料理だ。」 「…そうだったか。 なら、暇なときでいい教えてくれないか？ 『2人っきりで』」 2人っきりを強調する。 「別にいいぞ」 二つ返事で許可してくれた。 …よし、作戦は順調だ。 周りを見渡し、視線の合った人物の顔を覚えておこう。 ……邪魔されては困る。 「2人っきりだぞ。」 「？……おう。」 手首には司令の握った手の大きさがまだ残っている。 大きくて、少しごつごつしていたが温かくて。 …あれから何故だかわからないが、もっと司令といたいと思うようになった。 もっと触れてほしいと。 この気持ちはなんだかまだよくわからないが、司令といればいつかわかる気がする。 今は自分の気持ちに素直になるだけだ。 イレギュラーを取り除くため、もう一度作戦を練り直す。 ……ふふふ、楽しいな。料理は。

磯風は料理と絡めていけば、アッサリと陥落すると思う。

彼女に料理を

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「あっごめんなさい」 「いえ、こちらこそ…って、――？」 「え、…光忠」 目線を上にあげればそこにいたのはクラスメイトであり数少ない友人の長船光忠だった。 「くりから！」 「…つるまる」 光忠と一緒だった褐色肌の少年も鶴丸と知り合いらしい。 「...え、」 「ちょっと待って！変なこと口走る前に言っておくけど友達の甥っ子預かってるだけだからね？ショタコンとかじゃないからね？」 「私の考えを瞬時に理解するなんて光忠も成長したね」 「君のその変質者を見るような目をみたら少なくとも君の友人はみんなわかるよ」 ちょっとした冗談だったのに深いため息をつかれた。解せぬ。しかしあまりからかうのもかわいそうなのでこの辺にしてやろう。 「くりから、さっきぷりくらというのをとってきたんだ！」 「ぷりくら？」 「これだ！」 先程撮ったプリクラをカバンから出して、いいだろう！と言わんばかりにくりからくん？の顔に押し付けている。やめろ、それじゃ見えないだろ、と言うくりからくんの言葉はもっともだ。 「ほら鶴丸、くりからくんが困ってるからやめなさい」 「くりからにはすこしごういんなくらいがいいんだ」 いや、くりからくん首横に振ってるけど。 とりあえずやめなさい、と言えば鶴丸は今度は素直に頷いて光忠にひさしぶりだな！と挨拶をしていた。なんだ、二人とも顔見知りなのか。初耳だ。 「…」 「あぁ、ごめんね。自己紹介がまだだったね」 くりからくんに目線を合わせるようにしゃがみ込むときによいしょ、と女子中学生らしからぬ声が出る。あぁ、普段運動しないとしゃがむことすら億劫になるのか…。歳を感じる。相手の名前を聞くなら自分から、というのに習って自分から自己紹介をし、君の名前は？と聞けば無愛想ながらも名前を教えてくれた。 「…くりからひろみつ。ようちえんではつるまるとおなじくみだ」 「そっか、鶴丸と仲良くしてくれてありがとね。くりからくん、でいいかな？」 そう言えばくりからくんは少し言いずらそうに私の顔と自分のつま先を交互に見ている。そしておそるおそる、ひろみつでいい、と恥ずかしそうに言ってくれた。やだ、なにこの子可愛い。胸が痛い。念のため何か言われる前に断っておくが私はショタコンではない。断じて。ついでになんて字を書くのか聞けば広い光と書くらしい。 「よろしくね、広光くん」 そっぽを向きながらもかすかに頬を染めながら小さくあぁ、と返事をしてくれた広光くんの頭を思わず撫でたのは仕方がない。 あの後、広光くんの頭を撫でているのを鶴丸に見つかってしまい、とてもうるさかった。 あー！くりから、なにしてるんだ！と私と広光くんの間に割って入ってきた鶴丸はきみもおれというものがありながら！と私にせまってきた。怒る鶴丸はぷんぷんっ、という効果音がひどく似合っていた。あれは属にいうヤキモチと言うやつだろうか。冷たくあしらってもよかったのだがそれだとさらにめんどくさいことになるのがわかっていたのではいはい、ごめんね、と鶴丸の頭も撫でてやれば多少なりとも機嫌が浮上するのだからこの子はほんと単純というか…お姉さんは君の将来がほんとに心配だよ。 いっちょ前にヤキモチを妬く鶴丸に広光くんと二人でため息をつけば光忠がせっかくだから一緒にお昼でも食べない？と言うのでお昼を一緒にすることになった。鶴丸はせっかくのでーとなのに、とまた拗ねていたが。 「さて、二人ともお昼は何がいい？」 「にく！」 「はんばーがー」 「広光くん、君とは話が合いそうだね」 最高に握手したい。っていうか握手した。もみじのような手がとてもかわいい。ふにふにしてる。しばらくその感触を楽しんでいれば鶴丸にぺしっとはたき落された。 「光忠、私もファーストフードがいい」 「体に悪いからダメだよ」 「むしろ体に悪いものが食べたい！」 「みつただ」 「ダメだよ！」 光忠と外で食事をするとこれだから困る。確かに栄養バランスは大事だけど外食くらいはそんなこと気にせず好きなものを食べたい。そして私はなにより体に悪い食べ物が大好きだ。カップ麺とか最高。終わりの見えない光忠との攻防を繰り広げていればくいっと服の裾が引っ張られる。 「なに、鶴丸」 「ふぁーすとふーどとはなんだ？」 「…はぁぁ」 この子はファーストフードも知らないらしい。この子、小さい割に頭はいい方なのだが如何せん常識が足りない所がある。いや、しかしこれはチャンスじゃないか？ 「光忠、まだファーストフードを食べたことのない鶴丸に経験させてあげるべきじゃない？」 ね、広光くん、と同意を求めればこくりと頷いてくれた。よし、 「君が食べたいだけだよね？」 「ソンナコトナイッテー。鶴丸も食べてみたいでしょ？」 好奇心全開の瞳でこくこくと頷かれた。よしっ、 「ってことで光忠、ファーストフードで決定ね(ﾊｰﾄ)」 「…もう、わかったよ」 今日だけだからね、と折れた光忠に私たちは三人でハイタッチをした。 「久しぶりのハンバーガー美味しい…」 「...」 あまり外出しないせいでしばらく食べていなかったハンバーガーはチープな味がしてとても美味しい。うちは裕福な家庭に部類されるのだが私はどうにも思考が庶民よりらしかった。男子の前で大口開けてかぶりつくなんて女らしくないのはわかっているが目の前にいるのは光忠だし残念ながらそんな恥じらいは持ち合わせていない。…だから鶴丸にきみはおんなのこだろう？とか言われるのかな。 二口目を食べようとすれば隣から視線を感じる。そちらを見ればまだ一口も口にしていない鶴丸は意を決したようにハンバーガーにかぶりついた。 「…っうまい！」 どうやらお気に召したようだ。口の端にケチャップやらパンのくずやらをつけて美味しそうにもぐもぐしている。 「ほら、ついてるよ」 口端の汚れをぬぐってやる。鶴丸と同じく黙々とハンバーガーを頬張っている広光くんも同じように光忠に口端をぬぐわれて二人とも顔を赤くしていた。なるほど、これが天使か。あ、いや、ほんとショタコンとかじゃないんで通報は勘弁してください。 「先月君が言ってた懐かれた親戚の子って鶴丸くんだったんだね」 「うん、今日もいきなり訪問してきてね」 「ひきこもりだもんね」 「その通りなんだけどそんないい笑顔で言われるとムカつく」 ムカついたから最後のナゲットを食べてやった。 「光忠こそ、友達の甥っ子預かるなんて普通しないよ？」 「広光は長谷部くんの甥っ子なんだよ」 「は、？長谷部の？」 こんなに可愛くていい子があの堅物の甥っ子？まじか。ビックリして気管にアイスティーは入るところだった。危ない危ない。 「はぁ、なるほど。それなら光忠が面倒見てるのも納得がいくか…」 「一緒に広光のお母さんに誕生日プレゼントを買いに行く約束をしてたらしいんだけど先生にいきなり生徒会の仕事を頼まれちゃったんだって」 「なるほど、社畜らしい理由だね」 彼は社会人ではないが長谷部を言い表すとしたらこれが一番適切だろう。どうせ将来本当にそうなるんだろうし遅かれ早かれというやつだ。休日の生徒会室で孤軍奮闘している長谷部の姿が容易に想像できる。 「ところで君に相談なんだけど、」 「ん？」 「もしよければ一緒にプレゼント選んでくれないかな？」 どうしてそうなった、と口を開く前に鶴丸がだめだ！と声を発したため私はその言葉を飲み込んだ。光忠をきっ、と睨む鶴丸の口をとりあえずぬぐってやればこどもあつかいしないでくれ！と言われてしまった。そういうことは汚れた口を自分でぬぐえるようになってからいっていただきたい。 「きょうはおれとでーとにきてるんだ。だからだめだ」 「んー、でも僕も同年代の女の子が喜びそうなものは分かっても年上の女性ってなると難しいんだよね」 「みつただならよゆうだ。じぶんをしんじろ」 「鶴丸くんはほんと適当なことしか言わないね？」 仲良く(？)話す二人を横目に広光くんがじっと私を見ている。どうかしたのかと首をかしげればこれまた少し言いずらそうに言葉を紡いだ。 「…あんたが、めいわくじゃないなら、…いっしょに、えらんでほしい」 心臓を貫かれた。もうショタコンでいいかもしれない。 「鶴丸、ごめん...」 「なっ！きみはおれよりくりからをとるのか！？」 「そういうわけじゃないんだけど...」 あぁ、なんて説明してもこの子は納得しないんだろうな...。さて、どうしたものか、と思案していればつるまる、と広光くんが鶴丸を呼ぶ。 「たのむ」 広光くんのその一言で、鶴丸は...わかった。としぶしぶながら頷いた。一体どうしたんだろうか？ 「ありがとう鶴丸くん」 「こんかいだけだからな！」 「あぁ」 なんだかよくわからないが上手くまとまったならそれでいいか。 広光くんも食べ終わり、また少し話をしてからそろそろ行こうか、と光忠が切り出した。 「あ、私その前にお手洗いいいかな」 「じゃあトレイ近くのベンチで待ってるね」 荷物持っとくよ。ありがとう。鶴丸にいい子でね、と声をかけてからお手洗いに向かった。 [newpage] 彼女がお手洗いに向かってから一番に言葉を発したのは光忠だった。 「...鶴さん、彼女を独り占めしたいからってあんま我儘言っちゃだめだと思うよ？」 「おれがせんやくだったんだからわがままではないだろう」 「倶利伽羅が"今の主"に会ったのは初めてなんだから少しは我慢してよ」 「...」 「拗ねて見せてもダメだからね」 「...おまえからあいつをとるつもりはないがきょうくらいゆずれ」 「わかってる。...でも、かのじょはおれのだからな」 先程とは二人の呼び方が違う光忠と彼女と一緒にいたときより少し大人びた雰囲気の鶴丸と倶利伽羅。 この場にいない彼女を"今の主"と呼んだ彼らは、前世の記憶と言うものを持っている。前世は刀剣男士と言う刀の付喪神で敬愛する主のもと、歴史を守るために歴史修正主義者と戦っていた。なんとも夢のような話である。しかし、それは嘘偽りでなく過去、彼らの前世で本当にあったことだ。そして、その敬愛する主(一人は別の愛情を向けているようだが)の生まれ変わりが今はこの場にいない彼女なのだ。 戦いが終われば神域に戻り、本霊の一部になるだけだと思っていた。刀で末端とはいえ神であった自分たちが転生するなんて誰が予想していただろう。しかし、事実は小説より奇なり、である。物心ついたときから前世の記憶がある彼らは自分たちが転生したことに驚いていたがそれでも前世は前世、現世は現世と割り切って生きてきた。せっかく人間になったのだから過去ばかり振り返っていては勿体ない、と。そうして人間として生を過ごしていくうちに前世の仲間たちと出会った。 光忠の場合、初めに出会ったのはへし切長谷部だ。現世では違う名を名乗っているが彼も同じように前世の記憶を持っていた。直接会ったわけではないが、長谷部から左文字兄弟も転生していて記憶があると聞いた。 倶利伽羅の場合も同じくへし切長谷部だ。母の弟、叔父に会いにいくと連れてかれた先に長谷部がいたのだからそれはもう驚いた。そしてしばらくして幼稚園に入園して鶴丸に出会い、長谷部の友人だと言う光忠に出会った。 鶴丸の場合は三日月宗近だ。三条家に一番近い分家に生まれたせいかよく三日月が他の三条兄弟と一緒に鶴丸をかまいに来ていた。そして幼稚園で倶利伽羅に出会い、倶利伽羅経由で光忠や長谷部とも出会った。 そんなわけで、前世と今世を割り切って過ごしてきた彼らは自分と同じく前世の記憶を有する人間との出会いによってある考えが浮かんだ。 『自分たちが転生しているのなら前世で主であった彼女ももしかしたら』 それが悪いこととは言わない。前世で馴染みのあった人間、それも敬愛、情愛を向けていた主なら尚更だ。しかし、彼らは前世の自分と現世の自分を一緒にはしたくなかった。確かに記憶はあるが、歩んできた人生も自分を取り巻く環境もなにもかもが違う。それはもう同じ生き物ではないだろう。だから彼らは敬愛していた、情愛を向けていた前世の主を見つけても暴走することはなかった。けれどやはり関わりたいと思ってしまうのは前世の記憶がある故か、気になってしまうのだ。どうしても気になってしまうのならちゃんと彼女の人柄を理解したいと思った。彼女が前世のままであろうが全くの別人であろうが、自分が話しをして気に入ったのなら傍にいてもいいじゃないかという結論に至ったからだ。 光忠が彼女を見つけたのは中学校の入学式だ。お互いに特に接点がなかったので初めのころはあまり話さなかったのだが席が隣同士になってからは話す機会が増えた。そうして彼女と接して色々な面を見ていくうちに"主"ではなく"彼女"として見るようになった。 鶴丸が彼女に会ったのは先月の会合が初めてである。"前世の主"が目の前にいきなり現れたときは流石に驚いたが、彼女はどうやら前世のことを覚えていないようだった。少し残念な気もしたが鶴丸はそんなことより今目の前にいる"彼女"と遊びたいと思った。そしてめんどくさそうにしながらも自分に付き合って優しくしてくれる"彼女"に鶴丸は惚れた。どこが良かったのかと聞かれれば鶴丸も首を横にかしげるだろう。しかし、恋愛は理屈では説明できないものなのだからそれでいいではないか。 倶利伽羅は光忠や鶴丸から彼女の話を聞いていたが実際に会うのは今日が初めてだった。言葉を交わした彼女はどこか懐かしさを感じたが、それだけだった。しかし、鶴丸や光忠とのやり取りを見ていて面倒見のいい年上と年相応の子どもっぽさのギャップに倶利伽羅はいとも簡単にやられた。普段簡単に他人に懐かない自分がこんなにも簡単に落ちてしまうなんてやはり多少なりとも前世の影響があるのだろうかと疑ってしまうのは仕方がない。実際は倶利伽羅が懐く人の部類に彼女がどんぴしゃだっただけの話である。 そんなわけで三者三様に彼女への想いはそれぞれだが、全員が彼女を"前世の主"として見ていないのはきっぱりと断言できる。 でも、だからこそ厄介なのだと鶴丸は思う。 「かのじょにほれてくれるなよ」 「それは約束できないかな」 「...」 そう、彼女を前世の主として見ないということは、前世で主に敬愛を寄せていた彼らが彼女に惚れる可能性があるということだ。人を好きになるのに遅いも早いもないしそれを止めるなんてことはできない。だからこそ、真っ先に釘を刺しておかなければならない。 前世の時は鶴丸と主の仲を応援してくれた二人だが、現世ではそうでないと考えると、少しだけ前世と現世を混同していないことが悔やまれた。 このあとは女審神者ちゃんトイレから戻ってきてちゃんとお買いもの言ったんじゃないでしょうか← とても難産でした( ´；ω；` ) ここから鶴丸と女審神者がお付き合からの結婚まで書いてくださる方誰かー！！

雛鶴がかわいく嫉妬する話<br /><br />注意<br />名前変換、年齢操作あります！なんでも許せる方向け<br /><br />「織田組でいかなきゃ落ちないの？そうなの？ならおだてで行ってやんよ！」<br />不動くん「...ひっく。俺は不動行光」<br />「」<br />一発で不動くん来ました(震え)<br />おだて組ありがとう！！！！！<br />物吉くんなんていなかったよ☆<br /><br />憧れの続きを重傷待機タグの他にも続きを求めてくださるタグをいただいて涙目です( ´；ω；` )<br />ないもの絞り出したのでわやになりましたがショタ鶴のかわいさが伝われば幸いです(震え)

雛鶴の嫉妬

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　――転校生プロデューサーがチョコを配っていた。 　近くの席の男子がそんな話をしていたから、別に聞きたくなくても自然と耳に入ってしまう。 　別にあんずのチョコ事情なんて知ったところで何がどうと言うわけではないけれど、こいつらにとっては違うのだろう。 　男ばかりの科でよその科の紅一点がチョコレートを配っているというのがやはりどうしても興味を引くようだ。 「いつも世話になってる三年だけらしいな。二時間目の休み時間、Ｂ組で配ってたっぽい」 「へー。なんで三年？」 「卒業控えてるからじゃねーの。さすがに関係者全員に配るにはは人数いるしきついっしょ」 「ああ、なるほどね」 「いいなぁ、俺も女子からチョコ欲しい。転校生ちゃ～ん、俺をプロデュースして～ん？」 　嫌でも聞こえてくる会話に、心の中では「はあ？　貰えるわけないでしょ。自分が対象に入ってると思えるなんてどんだけめでたいの」と毒づく。 　知らず知らずのうちに眉間に力が入っているのを自覚し、妙に気が立っている自分に対して嫌悪感が増す。 　そんなとき、話の中心人物であるあんずの姿が開きっぱなしのドアから見えた。 　よりによって、今。噂をすれば影。なんというタイミングなのかと舌打ちの代わりに深いため息を吐く。 　あんずの話をしていた男子どもは「とうとう我がクラスにも来たッ！」と声を潜めながらも好奇心丸出しの笑みをニヤニヤと浮かべている。 　まさかこんなところでネタにされてるとは夢にも思わないであろうあんずは、戸口で人を探すような視線を向ける。 　すぐそばではしゃいでいる奴がいる手前、俺は頬杖をついたままあさっての方向を向く。 　丁度その先には守沢が熱心に漫画を読んでいたのだけど、守沢の前の席の奴が指で机を叩いて「呼んでる」とあんずが呼んでいることを知らせる。 　どうやら守沢が一番手のようだった。守沢は「あんずじゃないか！　どうした」とぱっと表情を明るくさせて席を立つ。この反応からするに、自分に会いに来てくれた後輩がいることをただ喜んでいるようにしか見えない。 　ちらっと視線だけ戸口へと投げると、「なにっ、チョコか！　おおっ、凄く嬉しいぞ！　まさかもらえるとは思わなかった」とオーバーなくらいに喜びをあらわにしてチョコを受け取っているのがこの席からは丸わかりで、その守沢が今度は皇帝を呼び、同じようにチョコのやり取りをしたあと副会長、斎宮、次いで羽風という実に事務的なローテーションが組まれ、あんずのミッションが達成されていく。 　これじゃときめきもへったくれもないが、受け取った奴らは総じて頬を緩ませていてだらしないったらありゃしない。 　あの皇帝までもが「ふふ」なんて目を細めて笑っている。副会長もしきりと眼鏡のブリッジを持ち上げ、その手のひらの内に隠しきれない口角が僅かに上がっているのが見える。斎宮はあの妙な人形が「嬉しいわ」と喜んでいた気がするし、羽風がどんな調子でいるかは……いわずもがなだ。 　まったく、どいつもこいつも義理だということぐらいわかっているだろうに。 「ワオ。完全に義理、ですな」 「ですなぁ」 「でも欲しいなぁ。転校生ちゃ～ん、俺はここだよ～う……」 「……おまえ、案外懲りないね」 　受け渡しのやり取りを見守っていた男子どもは、チョコを諦めきれない約一名に同情とも憐れみともつかない視線をよこすが、当の本人は気にしていないようなのが凄い。 　とまあ、それはさておき。 　あんずが主にプロデュースを引き受けていたユニットは大体八ユニットだ。 　斎宮については衣装制作関係で世話になっていたようだから別枠だろうけど、それでも臨時のユニット編成のときでもこの八ユニット以外は見かけていなかったので、数的にはおそらく間違いないはず。 　その八ユニット＋α（アルファ）のうち、このクラスに在籍しているのは俺を含めて六人。五人目の羽風までチョコが行き渡ったところからすると、順当に行けば次は俺だろう。 　そう思っていたけれど、羽風は俺に声をかける様子もなく上機嫌で自分の席へと戻って行き、また、戸口付近にいたあんずもいつの間にかいなくなっていた。 （ちょっと……どういうこと。俺は!?　忘れてんのあんた？） 　もうすでにいないあんずに心の中で訴えかける。 　さっきまで噂話をしていた奴らが「えっと、ほら、肝心の人……渡されてなくね？」みたいな同情の目を恐る恐るといったように俺に向けているのがわかる。 （その目、その声チョ～うざぁい！　黙ってなよ！） 　いちいち反応してると思われるのも癪だから顔には出さないけれど、正直腹の底がぶすぶすと焦げた。 　くだらない。なんで俺があんずのチョコごときで焦れなきゃならないわけと思う自分と、散々プロデュース組んでいてこの仕打ちはありえない、と思う自分がいる。 　あまり考えたくはないけれど、俺だけ渡されない理由はつまり――『渡す義理と価値なし』ということだろう。 　それを考えた瞬間、「いや、それないでしょ」とうっかり鼻でせせら笑いそうになったけれど人がいる手前ぐっと堪えた。 　けれど、よくよく考えてみると「ありえない！」と言い切れないような気がしてきて、また腹の底がじりじりした。 　なにせあんずには容赦なしにきついことを平気で言っていたし、春先なんてゆうくんがらみで睨まれてたっけ。 　でも、あれから季節はいくつも流れ、今は冬だ。春じゃない。 　共に乗り越えてきたイベントだって少なくないし、出会ったばかりのあの頃よりだいぶ親交深くなったと思っている。 　バイクに乗せて家まで送ってあげたのも一度や二度じゃない。 　怯えた目はゆうくんと重なるところがあって最初はゾクゾクしたけれど、時折ふにゃっと安心しきって笑う顔は、胸の奥に小さな明かりをほんのり点すような温かさがあった。 　俺はあんずのそういう顔を見るのは嫌いじゃない。怯えた目で見られるよりも、のんきなその笑顔を向けられるのは思いのほか悪くなかった。 　思わず柄にもなく釣られて笑ったりすると、あんずのやつ頬染めてもっと嬉しそうに目を細めてたっけ。 　そんなバカみたいに甘酸っぱいやり取りがやけに面映く感じた。まさかあんずに対してこんな風に思える日が来るとは誰が想っただろう。 　あんずはゆうくんに近づく害悪で、いちいち口答えする生意気な下級生で、名前ばかりのド素人プロデューサーで、ジャージがよく似合う芋女と思っていたはずなのに、芋女を可愛いと思うようになるなんてどこまで焼きが回ったのか。 　正直認めたくはなかった。だから、顔を見るたびに『こんなちんちくりんのどこが！』『芋。これは芋！』『ゆうくんに近づく害虫。目の前にはだかる邪魔者』と心の中で唱えたり、実際にあんずを睨んだりしたけれど、結局は無駄だった。 　小動物よろしくきょとんとされると、すこんと毒気を抜かれてしまう。 　嫌味を投げる気力さえも奪われるなんて春先の俺だったら思いもしなかっただろう。 　俺を睨んでいた目から警戒の色が徐々に薄まり、次第に明るくにっこりと笑うようになったのはいつだっただろう。今では警戒するような態度もなく、バカみたいに安心しきった顔でついてくる。 　夏の頃なんて偶然購買で会ったとき、こんにちはよりも先になっさけない顔して「お財布忘れちゃったので、ジュース一本分のお金貸してください」なんて拝んできたっけ。 　だから「俺のこと『泉様』って呼んだらねぇ？」って言ったら「はい、泉様！」なんて笑顔で即答してきてさ。まったく、バカだよねあの子。でもそういうのが面白くて、なんだか憎めなくなってきて、気がつけば当たり前のように近くをちょろちょろしているものだと思っていた。 　睨むのもぶちぶち嫌味を言うのも『挨拶代わりのいつものこと』で『俺だから』と受け止めてもらえている、なんて自分に都合のいい解釈なんかもしたりしてさ。 （そうだよ。てっきり俺に馴染んでいるのかとばかり思っていたけど、こんな日に義理さえも渡されないなんてねぇ） 　あんずから何かしらのアクションがあって当然と思っていた自分を、胸のうちで笑うしかない。 　――『自分が対象に入っていると思えるなんてどんだけめでたいの』。 　やれやれ。 　どうでもいい誰かにトゲを付けて投げたブーメランが、威力を増して自分へと返ってくるなんて、だって、そんなの思いもしないじゃない。 　放課後、モデル事務所のマネージャーからのメールを返しながら廊下を歩く。ショコラフェスも終わったあとだから廊下はやけに静かで、無駄に残っているものもいない。 　『瀬名君、届いたチョコは全処分でいい？　手紙やカードは抜き取っておいたほうがいいよね？』 「あーもう、だからそんなの当たり前でしょ。……ったく。手紙の類は全部返事出すつってんじゃん」 　一応、ホワイトデーに間に合うようにしてチョコを送ってくれたファンの子には返事は出している。とはいっても、はがきの裏にサインと『ありがとう』のひとことしか書き添えないけれど、貰うだけ貰って無反応なのも感じが悪いし、せめてもの誠意といった感じだ。 　追っかけの子は死ぬほどウザいけど、事務所を通すなりしてきちんとした手段を取る子たちは別だ。感謝の対象。 　夢ノ咲学院あてに届くものは、たとえ俺個人宛であっても所属ユニット、つまりKnightsメンバー全員のサインとメッセージが印刷してあるカードが学院から送られるはずなので特に問題はない。 　通学途中で渡してくる子は物はおろか手紙も基本絶対に受け取らないようにしているので、はなっから除外だ。 　とまあ、俺なりの対応は毎年やってるんだけど、マネージャーのやつ、毎年同じメールを送ってくる。 （去年もおととしも返事を出すから手紙は取っといてって言ったよねぇ？　このマネージャーほんと使えない。いい加減勉強したらどうなの。俺より年上なんだからそれぐらい考えなくたってわかるんじゃないかなぁ） 「……チッ」 　業務上、確認が必要だから毎度メールを送ってくれているのも本当はよくわかっている。大人は大人の仕事をただ黙々とこなしているだけ。俺だってそれぐらいのことは理解している。それなのにいちいち毒づいてはイラついてしまうのだからどうしようもない。 　感情の導火線が短い。それは性分なのか、まだ『青い』からなのかわからないが、午前中からずっと面白くなかったのでつい舌打ちまでしてしまう。 　廊下の窓から差し込む紅い日差しが行く先も定まらない俺の足元を照らす。結局、あんずから声をかけられないまま一日が終わろうとしている。正確にはまだ夕方だけど、昇降口を出たらあとはバイクで帰路を走るだけだ。 　とはいえ、このまま真っ直ぐ帰る気にもならない。大きなイベントが終わったすぐあとだからレッスンをする者なんて殆どいないし、また、その気分でもない。 　――いっそ事務所に行って手紙を引き取ってこようか。 　まあ、あのマネージャーが手早くチョコの仕分けを済ませているとは思えないから無駄足になるだろうけど。 「やれやれだねぇ」 　大げさにため息を吐いて廊下左手にある昇降口をぼんやり見ると、壁があって見えないが、右手の階段から誰かが急いで下りてくる足音が聞こえる。 　お互いに死角である分ぶつかったらまずいと廊下の端に避難すると、ダダダ、と勢いよく階段を駆け下りてくる一定のリズムが、突然途中で狂ったように聞こえた。おそらく何かに足を引っ掛けたりしたのだろう。 （あー、これは転ぶね） 　その読みは当たり、間をおかずして誰かの飛ぶが如く床に倒れこむ姿と、ビタン！　という痛々しい音が聞こえた。 　倒れたはずみでカバンの中のもあちこち散らばり、ノートや何かの小箱のようなものが遠くにまでしゅるしゅると勢いよく滑っていく。 　そんな風にして派手に倒れこんでいる人物は、ズボンではなくスカート姿――つまりあんずで、音から大体想像がついていたが、勢いよく駆け下りていた分、倒れ方もそれに比例する豪快なものだった。 　腿のだいぶ上――結構きわどいところまでスカートの裾がめくれているし、タイツではなくむき出しの膝もしたたかに打ったのではと思う。 「ったぁ……」 　突いた手がしびれているのか、倒れこんだままのろのろと自分の手のひらを見つめている。 　ここが外だったら、派手で痛々しい傷が手にも膝にも出来ていただろう。そうならなかったことに俺は心底ホッとした。 「まったく、なにしてんの。いきなり誰かが派手に倒れこんできたかと思ったらあんたとか。危なくぶつかるところだったからねぇ」 　俺はとりあえず腰を落し、よく見えすぎている腿の辺りのスカートをさっと手早く直して手を差し伸べると、あんずはとても驚いたような顔をして俺を見つめる。 「瀬名……せん、ぱい？」 「どんくさいなぁ、もう！　ほら、つかまりな。膝、結構打ったでしょ。痛そうな音がしたからねぇ。下手な転び方したら骨ぐらい簡単に折れるから気をつけなよ。ほんと、どこまでも危なっかし――って」 　グチグチと言うつもりはないけれど、どうしても言わずにいられない俺の言葉を遮ったのはあんずだった。 　差し出した手につかまるのではなく、その額がどん、と俺の胸元に寄せられた。 　傍から見ればあんずが俺の胸に飛び込んできているような風に見えるだろう。というか、実際にそうなんだけど。 「見つけた……。よかっ、よかったぁ……」 　心底安堵したように短く息を零しながらあんずは俺のジャケットの襟元あたりをぎゅっと掴む。 「ちょ、ちょっと！」 　あんずはホッとしているようだけど、いきなり抱きつかれ　……いや、胸の中に飛び込まれた俺はわけがわからない。ただ、妙な動悸がやたらと激しい。 　胸に額を押し付けているあんずに伝わりそうな気がして複雑だけど、何度も「よかったぁ」と安心しきって呟くあんずを見ていたら、小さな虚勢なんてどうでもよくなってしまった。 　ほんと、どんどんほだされていく。 　出会いのときからあまり良くない意味で特別だったけど、時を重ねた今、ただの不機嫌な先輩ではいられないくらいこの子が特別になってしまって困る。 （困るでしょ、そりゃ。だって、来月になれば待つのはサヨナラで、何の繋がりもなくなるんだから） 　先輩、後輩という事実は今後も消えることはないけれど、顔を見せることもなくなり、声も遠くなる。 　言葉だって当然交わすきっかけも必要さえもなくなる。自分から夢ノ咲学院にでも訪れない限り、実質的に交流なんてゼロだ。 　こうして顔を合わせられるのも、学院の生徒だからだ。 　同じ環境にあるからこそ成り立つ関係。考えてみれば随分と不安定な関係だ。一年近く色んな出来事があったはずなのに、全部思い出になって通り過ぎてしまうなんて。 「探してたんです、先輩のこと。でも、どこ探してもいなくて。あちこち必死になって……でも、いなくて。帰っちゃったのかと、慌てて昇降口まできて」 「……ん」 　言葉の通り、あちこち駆けずり回って俺を探していたんだろう、息が上がって言葉が途切れ途切れになる。 　バカだねぇ。何の用があったのか、そんなに必死になっちゃって。 （ほんと、バカ過ぎてどんどん可愛くなってくるから困るんだよ……まったく。来月になれば学院を出ていくのは俺なのに、心に変なもの残してくれるんじゃないよ。妙な期待だけが膨らんでいくじゃん） 　顔には出さないけれど、心うちでは結構情けない声で呟く。こんなの誰にも知られたくないもんだ。 「先輩が見つからなくても、駐輪場まで行ってみよう、って。でも、本当にいなかったらどうしよう、って思って……」 「はいはい。見つかってよかったねぇ。安心しなよ、ちゃんとあんたの目の前にいるでしょ」 　腕が自然とあんずの背中に回る。もう片方の手でできるだけ優しく頭を撫でると、そこでやっと我に返ったのか、あんずはびくんと肩を揺らし、突然弾かれたように俺から体を離す。 「あっ」 「なに？」 　目を丸くしたままのあんずは、自分が何をしたのかやっと気が付いたらしい。 「わ、わた、私っ!?」 「んー？」 「い、いえっ、あ、あの！　近い！」 「はぁあ？」 　とてつもなく恥ずかしがっているような、今にも叫び出しそうな、とにかく変な顔をさせて、両手で俺の胸を押すような仕草をする。 　あんた、自分で抱きついてきたくせになにしてんの。 「す、すみません。うっかりとはいえ、私からこんなことしたんでした。……あ、あと、ちょっと思ったんですけど」 「なに？」 「ええと……先輩もいい匂いがします、ね？」 　なにこの反応。思わず半眼であんずを見る。 「も、ってことは、前にも誰かに抱きついたりしたわけだ」 　ふぅん、と低く言うと、あんずは慌てて首を横に振った。 「ちっ、違います！　抱きつかれたというか、からかわれたというか……じっ、自分からじゃないです！」 　ていうか、今誰のこと思い浮かべたんだか。まあ、大方くまくんの『お兄ちゃんじゃよ』か、羽風か、はたまたあんずのハリセン食らっても懲りずにスキンシップよろしく抱きしめる守沢あたりだろう。考えてみれば全員三年とかありえない。……待てよ、なるくんって線もあったんだっけ。 　イラついたので、ぶんぶんとこっちに向けて手を振るオカマの笑顔を思考の外へと追いやる。 「どうだか。ま、どっちだっていいけど、いつまでこうしてここに座ってるつもり。転んだ勢いでスカートの中丸見えだったんだけどぉ？」 「きゃあああ！」 　慌ててスカートの端を押さえるけれど、さっき俺が直したからもう見えてない。 「ばーか。とっくに直したよ。ほら、あんたのパンツとかどうでもいいけど、いい加減立ち上がりな」 　手を貸すと、おずおずと俺の手のひらの上に指先を乗せる。 「先輩が優しい」 　ぱんつって言ったけど、とぶすっと付け加えられた言葉はスルーしてあげる。 「お兄ちゃんは、いつでも優しいんだよ」 「そうなんですかー」 「フン、この生意気がぁ」 　棒返事が気に入らないけど、あんずの手をしっかりと握り、自分が立ち上がるのと同時に彼女を引き起こした。 「痛っ……」 「ちょっと、大丈夫？」 　転んだ拍子にぶつけた膝が痛むのか、うまく力が入らずに膝が落ちそうになるのをすんでのところで支えると、あんずは困っているような、戸惑っているような、とにかくまた変な顔をする。それも淡く頬を染めてだ。 「……すみません」 　その顔、こっちまで感染して調子狂わされるからやめて欲しい。 「手、離すから、壁にでも寄りかかってな。無理して一人でがんばるとまた転ぶから」 　ちょっと歩くにも踵を上げてひょこっ、と頼りない格好をしているあんずのかわりに、落ちたバッグやその中身を拾い集める。 　スマホにノート、ペンケース。ざっとこんなものだろうか。　拾い集めたものを手早く整え、とりあえずカバンの中に入れて渡す。 「ありがとうございます。全部拾ってもらっちゃって、すみません」 「どういたしまして。まぁ、それはさておき、俺に何か用があったんじゃないの。あんたと違って暇じゃないんだから、とっととしなよ」 　まぁ、実は暇だけど。あんたからなにも渡されなくてイライラしてたけど――とは言えない。 　するとあんずは「あっ！」と短く叫んでバッグの中を漁るが、その表情には次第に焦りの色が浮かぶ。 　そして、あたりをきょろきょろと見回したかと思ったら、廊下のとある一箇所に視点を定めているようだった。 　その視線の先には、何か小箱のようなものが一つ落ちていた。 「あ……。やだ、うそでしょ」 　満足に歩けないくせに、それでも片足を引きながらその小箱を目指して歩いていこうとする。 　今まで一度だって泣き顔なんて見せたことがない子なのに、今にも泣きそうな顔をして必死に進む姿に驚く。 　その頼りない背中を追い越して、小さな箱を拾い上げると、瞬間、あんずの足がぴたりと動きを止めた。 　手にある小箱をよく見れば、きれいにラッピングがほどこされていて、バレンタインの今日からするとこれは明らかにチョコレートだというのがわかる。 　俺には渡されなかったチョコレート。最後のこの一つは誰の手に渡るんだろう。 　必死になってこの箱を取りに行こうとしていたあんずの泣きそうな顔を思い出せば、これが『本命』だということは明らかだ。 　正直ここまでくると自分だけ貰えなくて腹の底を焦がすのを通り越し、一気に諦めの境地になる。 　こんな風に思ってもらえるような存在じゃないと自分のことぐらい理解しているからだ。 　きつい態度しかとってこなかったのが今となってこの身に返ってくるならば、もう少しぐらい優しくしときゃよかったなんて思うのは今さら過ぎるけど――それでも少しだけ後悔した。 （後悔なんて言葉は好きじゃないんだけどね） 　だから、そうならないよう今まで自分に出来ることを持ちうる限りの力でやってきたつもりだったんだけど、仕事に対するその気持ちを、ほんの少しぐらい目の前のこの子に甘酸っぱい成分として分けてあげることができていたら……なんて、さっきから『たら』とか『れば』とか、起こりえなかった出来事に未練だなんてみっともない。 「ほら、大事なものなんでしょ」 　あんずの手のひらに乗せようと差し出すと、がさごそ、パラパラと箱の中では無残に崩壊している『何か』が小さく音を立てる。 「派手に転がってたから、中身の保証はできないけど、渡したいヤツがいるなら行ってきなよ」 　いつもの俺なら「そんなもの渡されても相手が困るよねぇ」とか「作り直しのうえ出直してきた方がいいんじゃない？」なんて言い放つところだけど、今はとてもじゃないけどそんな鬼のような気分にはなれない。 　本命チョコレートとやらに賭ける女子の気持ちは特別なことぐらい『常識』だろうし、無残になった（であろう）中身をあんずがどう思うか考えると、流石にこっちの胸まで軋んでくる。 　何とも言えない苦い思いが広がるなか、それでも、という思いが胸の中で小さな光となり淡く灯る。いつでも真っ直ぐにぶつかっていく子だから、心折れずに頑張って欲しい――と。 　プロデューサーだなんて決して呼べやしないところから出発しても、今ではあちこち引っ張りだこのプロデューサーになった。 　仕事をきっちりこなすヤツが男としても女としても完璧かといえば、そんなのきっちり当てはまるやつの方が珍しい。周りの大人がいい例だ。 　けれど、ある程度あんたを見てきた俺が認めてあげる。あんたなら女の子としてもある程度ちゃんとした魅力を発していると思う。多分ね。 　とびきりの美人でもなければ人目を惹くほどめちゃくちゃ可愛いわけでもない。生意気だし、洒落っ気もないしどーしてこんなヤツって思うけれど、でも、笑った顔がいい。まぬけなところも面白くていい。情けないところも、無理して全部背負おうとするお人よしでバカなところも悪くないんじゃない。 　――だからさ。 「がんばりな」 　せめてあんたぐらいは未練や後悔しないように。 （なんて、ほんと焼きがまわったねぇ） 　あんずの前髪を撫でながらそんなことを思う。 「ほーら、とっとと受け取りなよ。なにしてんの」 　箱を受け取ろうとしないあんずに、さっさと取りなよとばかりにさらに差し出すと、あんずは小さく息を飲む。 　何度か唇を開いたり閉じたりしたあと視線を下に落す。 「それ、瀬名先輩の……です」 「え？」 「先輩を探してたのもチョコを渡すためで、それは先輩の分なんです」 　特別な誰かに渡す特別なものだとばかり思っていたけれど、なんだ。……そっか。 　――配り忘れた義理チョコの続きか。 　自分だけ貰えなかったことに落胆していたはずなのに、いざ自分の番となると言いようのない脱力感に襲われ、乾いた笑いが声になって零れる。 「そういうこと、か……。はは、そっかぁ、やっぱりあんた忘れてただけだったんだ」 　ふぅ、と深いため息を吐いて首を傾げる。道理でおかしいと思った。俺だけなんで除外と思ったら本当に忘れてたとかありえないんだけど。 「えっ。忘れて、って？　あの、どういう意味ですか」 「とぼけたって無駄だよ。俺の席から全部見えてたからねぇ。世話になったヤツらにチョコ配り歩いてたの、知らないとでも思ってんの？　ったく、俺だけもらえていないってクラスのヤツにはあんたのチョコごときで憐れみの視線を向けられるし。こんな勿体ぶらずにとっとと渡せばよかったんじゃないの」 　おかしい。渡す価値なしの最下位から、義理チョコ貰えるランクまで浮上して嬉しいはずなのに、その他大勢のうちの一人――『義理』にされてしまったことの方が悔しいなんて。 　口をついて出る言葉は「ありがとう」からほど遠く、苦みのきいた言葉ばかりだ。 　でも止められない。 　狭量な自分は勿論だけど、すべてにおいて悔しくて仕方がない。 「こっちは今まで散々あんたに恩売っといたはずなのに、義理の一つもないなんてどういうことって思ってたんだよ。薄情なヤツ、ってぶっちゃけやきもきしてたのにさぁ。ムカつくったらありゃしないんだけど」 　なんでだろう。その他大勢のうちの一人になるくらいなら、最初から貰えないほうがまだずっとましな気がした。……いや、それはそれでまた複雑だけど。 　――なんて、結局あんずに振り回されてるなあ。チョコごときで。ほんと、こっちの気も知らないでさぁ！ 　ムッと睨むと、あんずは俺から見てもはっきりとわかるくらい傷ついたような顔をした。でも何も言い返さない。まるで痛みを堪えているかのように。爆発しないよう、ぐっと我慢しているみたいに。 　言いたいことがあるなら言い返せばいいのに口をつぐんだままだ。 「なに。なんでそんな顔すんの。何か悪いこと言った？　言ってないよねぇ？」 「……先輩は、他の人と、少し違うから……。だから、一緒にしたくなかったのに」 　悔しそうに呟かれた言葉に俺は目を瞠る。 「ちょっと……それ、どういう意――」 「別にもういいです。先輩に、直接渡せましたから。最後のとっておきを、階段からのダイブで多分中身は粉砕しちゃったけど、本当に渡したかった人が目の前にちゃんと現れたんで、多少文句言われてもいいです。根になんて持ってません。先輩がそういう風なのはいつものことですから。わかってますから全然根に持ってません。怒ってもいません。ちっとも悔しくなんかないですっ。ハァ……もう帰ります。先輩さようなら。ごきげんようです！」 　きっ、ときつく俺を睨む強い目とは対象に、じめっとした口調で一気にまくし立てたかと思えば、あんずはくるりと背を向けた。そして、ひょこひょこと足を引きずりながら右手すぐにある昇降口へと歩いていく。 「あんず！」 　その背中に声をかけても、振り切るようにしてあんずは壁に手をつきながら足を進める。 「ちょっと、待ちなよ」 　言葉の真意を確かめたいのと、頼りなく危なっかしい足取りはどうしてもほうっておけない。 　足を進めてあんずに追いつくとすぐに、あんずは何もないところでつんのめってしまう。 　倒れこんでしまう寸前で後ろからウエストに手を回し、抱きかかえるようにして支える。 「……バカ。何度転べば気が済むの」 「ほっといてください」 「やだね」 　後ろから抱きかかえているからその顔は見えないけれど、静かに俺を突っぱねる声は、低い。 「一人で歩けますから。だから離して」 　わざと声に抑揚をつけないようにしていることぐらいわかっている。嫌な気持ちにさせてしまったのも、顔を合わせたくないのもわかっているけれど、今、このタイミングを逃すわけにはいかなかった。 「他の奴らと一緒にしたくなかったって、それ本当？」 「……知りません。言いたくないです。だって、先輩怒ってるから。とにかく、いらないなら捨ててください。どうせ粉々のぐしゃぐしゃでしょう？　私なんかのチョコなんて迷惑なだけですよね。だから怒ったんですよね」 　もう、いいです、と少し震える声に、俺は自分が間違っていたことに改めて気づく。 （バカだ。言い過ぎた。それも、勝手に癇癪を起こして、あんずを傷つけた） 　ウエストを抱く腕に力を込めて引き寄せ、あんずの首筋と肩口の間にうずもれるような形で顔を寄せる。 「悪かった。言い過ぎた。……ありがとう。捨てたりなんかしないから」 　でも、あんずは子供がするように、いやいやと首を振る。 「ちょっと優しいのかなって思ったら、すごく意地悪で。今だって出会ったころと変わらないくらい意地悪で。私、遊木くんがらみじゃなくても、なんか邪魔者なのかなって思っちゃうほどで。……だけど、ほんの少し優しくされると、騙されるもんかって思っても、きっとまたすぐ不機嫌になっちゃうってわかってても、少しでも先輩が笑ってくれると、そんなことどうでもいいかなって思っちゃったりっ……」 「俺がこういうやつなの、わかってるって言ってたじゃん」 　ダメ男の典型的みたいなことを言っている気がする。 「わかってるけど、でも……最初で最後のバレンタインぐらい、少しは喜んでくれるんじゃないかって、期待した私がやっぱりバカでした」 　最初で最後。 　確かに最初で、この学院で迎えるバレンタインはこれが最後になるし、互いの気持ちがまったくの別方向を向いていたら、会う機会がなくなるのは当然のことだろう。 　俺一人が一方的に思い込んでいるだけなら、展開なんて望めなかったかもしれないけれど、あんずが想ってくれているのなら――そこに互いの意思表示や行動がプラスされるのなら、色んな可能性が広がっていく。 　少なくとも俺は、特別めいた気持ちを向けられてそのままこれっきりなんて思えない。どうでもいい相手なら別だけど。 「最後、ねぇ。あんたがこれで最後っていうなら仕方ないけど、これっきりで本当にいいわけ？」 「瀬名先輩……？」 　目を丸くさせたあんずがやっとこちらを向く。あんずの肩の位置にまで頭を落としている分、互いの顔がとても近くなる。 「来年こそ、粉砕するんじゃないよ。慌てて階段駆け下りてこなくたって待っててあげる。まぁ、仕事のスケジュール入ってなければだけど。それでも、ちゃんとあんたのために時間作って受け取るぐらいはするし、お返しだってしてあげる。望むなら、どこか二人で出かけてもいいかもねぇ。そういうの全部、あんたの気持ち次第なんだけど」 　返事は？　と聞くと、あんずは目を瞬かせたあと「……それ、ほんとう？」と小さな声で返す。 「嘘言ったってしょうがないでしょ。本当だよ。ただし、それを望んだら俺はあんたを絶対離さないから。そういう覚悟をして返事しなね」 　あんずの瞳に浮かぶ光がためらいがちに動く。 　信じていいのか、信じないほうがいいのか、心の中にある天秤が揺れ動いている様がそのまま瞳に表れているようだった。 「でも、今、ここで『なんて、本気にした？』って言われたら、私……私っ――」 　あんずが何を言おうとしていたのかはわからない。けれど、あまり聞きたくない言葉であることは間違いない。 　それを言わせたくなかった俺は、言葉の途中で目の前にあるその唇を塞いだ。 　数秒経って唇を離すと、驚いたように目を丸くしているあんずが、瞬きを忘れたまま俺を見つめる。 「こういうことしてまで底意地の悪い冗談仕掛けるなんて、流石の俺でも無理だよ。ここまで言ってもわからない？」 「そ、そんなの、わから」 「あぁ、もう、いい加減黙りな」 　言葉の途中でざっくり切って唇を合わせる。抵抗するなら行動でねじ伏せる。それぐらいのことしなくちゃ、今のあんずの心には届かないような気がした。 「う……ずるい、こういうの。信じるしか、なくなっちゃう」 　まだ唇が触れ合っているのにあんずはもごもごと呟くからくすぐったくて仕方がない。 「あのねぇ、キスの最中に言う？」 「先輩だって、言ってるじゃないですか」 　どこに焦点を合わせていいのかわからないあんずの瞳が揺れる。ここで顔を引かないあたり可愛げがある。もっとも、引かれたとしても追い詰めて何度だって同じ状況にしてやるけど。 「はい、おしゃべりはおしまいね。あんたは目を瞑る。そして黙る。いい!?」 　返事を待たずに今度はできるだけ優しく触れる。正直な話、女の子の扱いなんて俺にはよくわからない。 　格好いいのにいつも不機嫌そう、怖い、とっつきづらい、下手なことを言ったら睨まれそう――というのが同じ事務所のモデルの子から聞こえてくる俺に対する評価だ。まあ、間違っちゃいない。 　そんな扱いづらそうな奴だから、仕事外の『瀬名泉』に近づく女の子なんてなかなかお目にかかれないし、別に無理して出会おうとも、こういう自分をわかってもらおうなんて思いもしなかった。 　けれど、希少な人物に出会ってしまった。疎ましがられても、睨まれても、文句を言われ続けても、俺の正面に回りこんでくる変な子。それがあんずだ。 （しょうがないよねぇ。つい構いたくなるし、こんなことしたいと思うくらいには可愛い、なんて思うようになっちゃったんだからさぁ） 　なんて考えてたら頬や耳が熱くなってきたので唇を離す。 「フン。……これでどう？　わかったでしょ。わかったなら俺に言うことあるんじゃないの」 　抱きしめている腕を解くと、あんずが軽くよろめきながら俺の方へと体の向きを変える。 「え、えっと、言うことって？」 　顔をおでこの辺りまで真っ赤にしながらそおっと俺を見上げる遠慮がちな目。俺はそれを見つめ返しながら腕を組み、小首を傾げて笑みを作る。 「俺のことが好きとか、好きとか、好きとか。嫌いなんて言ったら怒るからねぇ？」 「ええっ」 　じりっと後じさるあんずに一歩近づいて顔を近づける。 「ほら、早く！　じれったいなぁ。ここまでお膳立てしてあげたんだから言いな」 「う……うう。……す、好き、です。と、無理やり言わされていま――ふぐう！」 　余計なひとこと、ふたことを言うあんずの両頬を軽くつまむ。 「そっかぁ～、あんた俺のことが好きなんだ？　男を見る目があるね、あんずは。いい子、いい子っ」 　笑顔で手を離すと、あんずは両方の頬を手で包みながらじと、と俺を見つめる。 「告白を強要するなんて、聞いたことないです」 「どうせいつか言うつもりだったんなら今で十分」 「それは、そ、そう……です、けど。じゃなくて！　……もうっ」 　照れた表情を見せて、頬を包んだまま俯く姿はまあ、悪くない。こんな顔もできるんだ、なんて思った。 「ところで、あんたいつから俺のこと好きだったの？」 「はっ？」 　今度は強要をせず、ただあんずの言葉を待った。 　結構な間が空いたけれど、なるべく目元の力を抜き、唇に軽く笑みを浮かべたまま根気強く答えを待つ。 　あんずはそんな俺の態度を見て、『ちゃんと言うまで待っててあげる』をきちんと汲み取ったようだ。 　少し間を置いたのち、小さく息を吸い込んでからあんずがぽつぽつと語り始める。 「実は……いつからかわからないんです。最初はとてもきれいな顔立ちをしているのに怖い先輩だな、って思ってて。でも、怖いだけじゃなくてちょっと優しいところがあったり、口ではきついことを言うけれど、ちゃんと見ていてくれるところがあったりって知っていくうちに、いつの間にかって感じで……。あっ、あと、他人に厳しいけれど自分にも厳しいんだって知って、凄いなって思ったんです。お仕事に対する姿勢とか、切り替えがとてもきっちりしてますよね。体調管理のことだって食事制限されていて、無駄に自分を甘やかさないし。それって、簡単なようで実はとても難しいことだと思うんです。でもずっと保っていられるのって、凄いなあって。そんな風に色々先輩を知っていくうちに、気がついたらいっぱい先輩のこと考えてて。どこかで見かけると、自然と目で追っていて」 　言い躊躇っていた時間はなんだったのかというくらい、一度語り始めたら堰を切ったように言葉を繋いでいく。 　あんずの目から見える俺は、大体想像がつく言葉ばかりだけれど、その唇から語り紡がれるのを聞いているうちに、耳が熱くなるわ、あちこちがむず痒くなるわでとうとう我慢ができなくなってしまった。 「あー、もうストップ！　わ、わかったから！　普段あんまりしゃべらないくせに、こういうときだけ饒舌になるんじゃないよ」 （褒め言葉なんて聞き飽きてるのに、なんで顔が熱くなるかな。……ったく） 　きょとんとした目から視線を逸らすと、あんずが目元を緩めて小さく笑った。 「先輩もそういう顔するんですね」 「ハァ？　そういう顔ってどういう顔。照れてなんかないから勘違いしないでよねぇ？」 　顎を上げ、ふん、と盛大に鼻を鳴らしてもあんずは嬉しそうにニコニコしたままだ。 「ふふ、わかりました。それはそうと、瀬名先輩はどうなんですか？」 「なにが」 「いつ、その……私のこといいな、とか……す、好きだなと、思ってくれるように、なったんですか」 　視線を彷徨わせ、恥ずかしそうに言葉を切りながら訊くあんずに一瞬面食らったものの、形勢逆転されてなるものかとニィッと笑顔を作る。 　それを見て、わ、と怯むあんずがまた一歩後じさりするけれど、その分こっちが距離を詰めればいいだけのこと。 「誰があんたを好きっていったのかなぁ？」 「えっ」 「俺、あんたに好きだとかひとことも言ってないんだよねぇ。誰と勘違いしてんの」 　あんずは目を丸くしたまま俺を見つめる。その後「うぅ」と唸ったかと思ったら、赤く染まった両頬を押さえてくるりと背中を向けてしまう。 「も、もう、帰ります！」 　待ちなよ、とその背中に声をかけても今度は立ち止まらず、靴箱から自分の靴を取り出して、ひょこひょこと足を引きずりながら外へと出ていく。 　俺も急いで自分の靴を取り出してあんずに追いつき、その腕を取る。 「何回待ちなって言わせるつもり。バイクで送ってやるから」 　あんずは言葉じゃなく、ぶるぶると首を横に振って「いいです」の意思表示をする。 「絶対につまづくから、却下」 　それでもなお首を振るので、俺は盛大にため息を吐いた。 「んじゃ、あんたのことお姫様抱っこでもしてバイクまで連れていくしかないよねぇ。俺はね、自分のものが傷ついたり壊れたりするのなんて見たくないの。これでも大切にしたいものはきちんとあるんだよ。一応あんたもその範疇だってこと少しは自覚してほしいんだけど」 　腕を掴んだまま軽く引き寄せると、あんずが信じられないというような顔で俺を見上げる。 「ホワイトデー、一応楽しみにしてなよ。ちゃんとお返ししてあげるから」 　菓子はほとんど口にしないし、イベントでもない限り自分から進んで菓子を作ろうなんて気にはなれないんだけど、ありきたりな物を贈るよりもきっとあんずは手作りの物のほうが喜ぶだろう。 　卒業という時期を考慮して事務所側もスケジュールを組んでくれているはずだから、菓子を作る時間ぐらいどうにかなるはずだ。 「返事は？　いる、いらない？　どっち」 「い……いります！　欲しいです」 「うん、正直な子は好き」 「す、好っ……」 「んー？」 「い、いえっ」 　一瞬ヘンテコな顔を見せたあんずが頭を振り、今度は目をきらきらさせながら「ありがとうございます。期待して待ってます」と両手をぎゅっと握りしめながら興奮しているのが面白い。ほっぺたなんてほんのり赤くさせて、なんか子供みたいだ。 （そんなに期待されると、何が何でも喜んでもらおうって気になるじゃない。まぁ、期待は絶対裏切らないと思うけれどねぇ） 　俺の『お返し』という言葉が効いたのか、それとも別の言葉が胸に響いたのかはわからない。けれど、こうして足を止めて向き合ってくれているのは何よりだ。 「あの……瀬名先輩。もう一つお返しに追加してもらいたいものがあるんですけど、いいですか？」 　控えめだったのはどこへやら。両手を握りしめたままあんずは「むっ」と唇に力を込めて俺を見る。 「やれやれ、ずうずうしい子だなぁ。……なぁに。一応聞いてあげる」 「ありがとうございます。卒業式の日、先輩のブレザーのボタンをください。卒業だから、なにか形に残るものがどうしても欲しくて」 　真剣な目に、俺は「あぁ」と思った。学生ならではの伝統というか、確かにそういうセレモニーはいまだ息絶えず残っていたんだっけ。 　制服のボタンなんて持っててどうすんの、なんて他人事のときはばかばかしく思っていたけれど、日頃身につけていた物が特別な誰かの手に渡るというのは、考えてみれば意外と悪くないもんだ。 （あんずもそういう気持ち、ちゃんとあるんだねぇ。まぁ、女の子だし、そういうもんかな） 　可愛らしいおねだりに自然と笑みが浮かぶ。 「はいはい、了解。ていうかボタンだけでいいの？　もう制服を着ないから、ジャケットとかもあげるけど」 「ジャケットは、先輩が思い出の一つとして持っていてください」 「ま、それもそっか。じゃあ、ボタンは予約ね」 　するとあんずはまだ何か言いたそうな顔をする。 「……その調子だとまだあるっぽいね。もう遠慮しなくていいから言いなよ」 　控えめな性格の子と思っていたけれど、思いのほかご希望が多いようだ。そして、あまり自覚したくないところだけれど、案外俺は頼まれるとノーと言えない部類らしい。 「す、すみません。じゃあ、あの……できれば……瀬名先輩の気持ちと、ほ……本体もお願いします」 　俯いたあんずが、消えそうな声で言葉を繋ぐ。 「はぁっ!?　俺っ？」 （本体って、あんたどういう意味かわかってんの？） 　これ以上ないくらい目を丸くして硬直する俺に「今度は正面からちゃんと抱きしめてもらえたら嬉しいです」と顔を覆いながら恥ずかしそうに言う。 （なんだそっか、そういう意味か。まったく、びっくりさせないでよねぇ。こっちは一応健全な男なんだからさぁ!?） 　仕掛けるのは慣れているけれど、不意に仕掛けられるのは慣れていない。それもあんずから、だなんてしてやられた気分だ。 「あ、あぁ……もうなんでも叶えてやるからとっととバイクのとこまで行くよ！」 　あんずの手を引きながら駐輪場まで歩いていく。途中、あんずは「『泉先輩』、約束ですよ」「約束ですからね」「忘れないでくださいね」と念を押してきて、そのたび俺は「わかった」「はいはい」「あーもううるさい！」と返す羽目になった。 　恋愛というのはなんだかんだで面倒くさそうだ。 　今だって男女の思考の差みたいなものを感じたりするのだから、誤解やすれ違いも当然ついて回るんだろう。特に、これから俺が本格的に足を突っ込む『業界』で生きていくとなればなおのことだ。 　それがわかっているけれど、それでもこの想いを放棄しようなんていう気持ちにならない。 　タンデムはいまだ慣れないのか、後ろから躊躇いがちに抱きついてくる腕も、風を受けながら走るこの距離もできる限り大切にしていきたい。 　まあ、この性格だからあんずも苦労すると思うけど、そこら辺は『俺のことわかってるでしょ』なんて言葉で甘えさせてほしい。 　そんな俺の気持ちなどまるで知らないあんずは、いつもの倍以上かけてわざと遠回りしてあげたのに、こっちの方が近いですよ、とかそっちじゃないです、とかほんとうるさい。 　ムードの欠片も色気もないガキんちょだけど、それでも俺は、この子のことが愛しいんだと思う。 　なんだかちょっと笑えてくるよね。 　笑えてくるよ。 　まさかこんな気持ちになるなんて思いもしなかったんだからさ。 End.

今からだとホワイトデーのほうが近いのですが、バレンタインの話です。<br />あんず＝転校生です。<br /><br />■3月4日付・5日付：デイリーランキング（小説）に入りました。<br />読んでくださった方、ありがとうございます。コメントやブクマ、評価、タグ等付けてくださったかたにもかさねてお礼申し上げます。

ビター、ときどきSweet

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あてんしょん！！ ・女審神者がいます。 ・刀×主要素があります。 ・公式には無い捏造設定もたっぷり含まれております。 最近夜戦とかまったく関係なくハラペコな大倶利伽羅がいます。 今回は大倶利伽羅視点のお話。 【設定】 女審神者：山菅（ヤマスゲ） 成人済み。 お取り寄せスイーツとか大好きな元営業職。 [newpage] 阿津賀志山。 現在、逆行軍の侵攻が確認された時代の中で最も古く、そして昼の戦場としては最難関と呼ばれる場所だ。 京の市中と違い、整備などされていない荒れ野や森の中、下手をすれば川の傍を馬で駆け抜けながらの戦闘となる。 最近まで夜戦ばかりだった大倶利伽羅にとっては、いまだ油断できぬ戦場だ。 そこへ幾度も幾度も出陣を重ねる日々が続いて、今日で早くも七日が経過しようとしている。 第一部隊への新たな配置は増えてはいないが、第二部隊はすでに三回の入れ替えを経験しており、夜戦もついに池田屋の二階にまで到達しようとしていた。 ごうっ！と唸りをあげて大倶利伽羅と、そしてその横を駆け抜けようとした燭台切光忠へ向かって敵大太刀の横薙ぎの一撃が迫る。 装備した刀装を即座に展開し攻撃を受け止めるものの大太刀の攻撃はやはり重く、ビキッという不穏な音を立てて刀装に罅が入る。 どうにか攻撃を凌いだその後返す刃でその腕を切り落とすも致命傷にはならず、トドメを刺したのは、するりと二人の間を駆け抜けて突撃した獅子王だった。 「へへっ、余所見してるからだぜ！」 血糊をその刀身から払い落としながら、ニッ、と笑う。 周囲を見渡せばすでに他の敵も尽くが斬り捨てられ、これでこの場での遡行軍の存在は確認できなかった。 案の定誉を浚ったのは蛍丸で、その小柄な背には桜吹雪が舞っている。 その足元には、すでに塵と化しつつある敵太刀と槍の死骸。 「ぬ。すまぬが、拙僧の刀装がそろそろ危ういので撤退を願いたい」 戦闘後の高揚感は未だに脳を焼くものの、この場所で刀装を無くすということは自身の破壊に直結しかねぬので、誰もが念入りに確認を行なう。 名乗り出たのは、大倶利伽羅よりも少しだけ錬度が低めの、山伏国広。 その大きな手のひらには、砕けた刀装の欠片がひとつと、あと一撃分の攻撃を受け止めれば砕けるだろう、ひび割れがひどく入った軽騎兵の刀装がひとつ。 大倶利伽羅に与えられた投石兵の片方も、後一撃持てば上々、もう片方も内部に細かな罅が入りつつあった。 「…悪いが、俺の刀装もそろそろ砕ける」 できれば口にすることを避けたい言葉であるが、これでうっかり自身が手傷を負うなどすれば、他の面々に何をいわれるか分かったものではない。 陣形などを組んでいても、基本的に一人遊撃に回る大倶利伽羅とて被害を増加させたいわけではないので、報告は行なう。 くわえ。 「おっし、じゃぁ、昼食の時間も近いし、帰還ゲート開くぜー！」 す、と細められ大倶利伽羅を見ていた赤の瞳が、満面の笑みに隠れる。 他にもいくつかの瞳がほんの少し和らいだ視線を大倶利伽羅に送る。 （うっとうしいな……） 見守るかのような、視線。 特に燭台切光忠のものが一番うっとうしい。 だが、それ以外の者の視線の中には己を試すニュアンスが含まれていることも知っている。 主に手を出した家臣。 それが今の大倶利伽羅の立ち位置だ。 彼女の部屋へと、答えを貰う為に向かった大倶利伽羅を止めなかった加州清光はともかく、それ以外の面子にとっては主に手を出した無礼者。 彼女が大倶利伽羅を許し、その想いを受け入れたからこそ、許されている。 この錬度上げと銘打たれた戦闘三昧の日々は、彼らが大倶利伽羅を見定めるためのもの、という意味もある。 一番の理由は、横恋慕した輩が暴走したとしても叩き伏せることができる実力がないといけないからだが。 だが、そうやって大倶利伽羅を見定めようとする視線がある以上、下手に自分勝手に動くことはできない。 命令には、従う。だがそれ以上は断る。 そうしたいが、それは許されないのだ。 彼女を手放せないのなら、譲れないのなら、受け入れるしかない不自由。 苛立ちに大倶利伽羅の胸は燻るが、それでも。 （俺の、だ） 彼女は己のものだ。 チリ、と腕や背に走る、あの夜に彼女がつけた傷跡が熱を持つ。 そのたびに、想う。 試されることなど、この熱を奪われることに比べたら、なんてことはないのだ。 「大倶利伽羅、ゲート開いたよって………あー、うん」 「なんだ」 「ほどほどに息抜きはしたほうがいいよ……加州くんには僕から言っておくから。とりあえず」 本丸に帰還する為のゲートが開き、獅子王や蛍丸が昼飯はなんだろうなと言葉を交わしながらそれを通る。 開いた門から少しだけ距離があった大倶利伽羅を燭台切光忠が呼び、そして苦笑とともに己の目を指差した。 「自分の目、後で鏡で見てみるといいよ」 そうすれば言葉の意味がわかるから、と燭台切は言って大倶利伽羅に背を向けゲートに向かって歩き出す。 山伏が腹が減ったなと大口をあけて笑っているその少し後から大倶利伽羅もゲートをくぐった。 燭台切に言われたことを気にするのも癪に障るが、下手な場所に傷でも作っていればみっともないことは事実なので、一度帰還したら鏡を見よう、と考えつつ。 [newpage] 帰還。 この午前中だけでこの門を出入りする回数は片手の指の本数を超えた。 この怒涛の出陣を始めた当初よりかはコツのようなものが分かってきたし、適時休憩を挟みながらのためか、今の所疲労はそんなに無い。 実際、経験を積み、錬度が上がるにつれてあの戦場でも立ち回りがしやすくなった。 それでも、まだまだ不足していると痛感しているが。 そして帰還したものの、戦装束を纏ったまま食事の席につけるわけもなく、出陣していた面子は全員が一度自室へと戻る。 同じく自室へと戻った大倶利伽羅は、自室の端、身支度を整えるための台の上に置かれた小さな鏡を燭台切の指摘通りに覗き込んだ。 「……ぐ」 思わず、唸った。 今の大倶利伽羅の目は飢えを訴えていた。感情を赤裸々に乗せて、ギラギラと。 何も知らぬ相手にならば、連続した戦によって昂揚していると受け取ってもらえるだろうが、そうでない相手や、少し聡い者であれば別の飢えだとわかるだろう色。 思わず、手のひらで自身の目を押さえた。 七日。 一週間。 体を重ねたあの夜と、乱曰く『阿津賀志山ブートキャンプ』が始まった日の、その次の日から。 大倶利伽羅は、主である彼女へと近づくことができていない。 出陣を繰り返して、体を休めることを優先しないとついていけないのもあるが、二日連続して彼女の部屋で寝ていたのが問題だったらしい。 バレないように立ち回らなければならないというのに、何をしているんだ、というのが加州の言い分だった。 今まで、夜戦の後の深夜に彼女の部屋に入り浸っても誰も気がつかなかったのだから平気だろうにと思うのだが、主の足腰が立たなくなるまでヤったことへの仕置きを兼ねての処置な気がしてならない。 もしくは大事な妹分を取られた兄の恨みか。 演練で見かける一般的な加州清光よりかなり精神的にタフなこの本丸の加州清光だが、認めてくれたとはいえその辺りは心が狭いのか。 とりあえず、この、瞳に鮮やかなまでに乗ってしまった飢えの色を、どうにかせねばなるまい。 考えて、大倶利伽羅はふぅ、と深く息を吐いて深呼吸をするものの、落ち着こうとするほどに湧き上がってくるのは、足りぬ、という飢えばかりだ。 耐えねばならなかった頃よりも、酷くなっている気がしてならなかった。 「手に入れたら、手に入れたで、か……」 ぐしゃり、と己の前髪を掴んで掻き乱す。 彼女に、触れたい、と、思った。 触れて、噛んで、飲み込んで、思うさま、食って、食われたい。 ただただ感情を剥き出しにして触れ合う、あの快感が欲しい。 加州の忠告など無視していっそ、と大倶利伽羅が考えたその瞬間。ピリ、とした殺気の篭ったような視線を感じ勢いよく振り向いた。 中庭越し、廊下の繋がるその先。 まっすぐに、大倶利伽羅を見つめるのは。 「一期、一振……」 大倶利伽羅が振り向いたことに一瞬驚いたような表情をして、けれど即座にいつも浮かべている涼やかな表情をして、笑う。 だが、その目に宿る色は疑念、疑惑。そういったもの。 今だ確信には至っていないようだが、それでも彼は大倶利伽羅に対して何かを感じ取っているようだった。 何を理由に、疑いをもったのかは定かではない。 だが、遠からず彼は大倶利伽羅に対して何かしらを仕掛けてくる。 にこやかに笑って、会釈だけをして立ち去るその後姿に、そんな気配だけは、ひしひしと感じた。 一期一振の視線を感じてからほんの20分後。 どうにか燻るさまざまな感情を一時的とはいえ押し込めることに成功した大倶利伽羅は、茶碗、というよりもすでに丼と呼んでも差し支えのないサイズの茶碗へと白米を山盛りにしながら、大広間の端の己の席についた。 昼食の準備は留守を預かる歌仙を代表に、留守番組が担当したらしく大皿料理が多くとも飾り切りなど何かしら彩りをいれられているのがらしいところだが、とりあえず旨ければなんでもいい、と挨拶もそこそこに昼食を食べ始めた大倶利伽羅は、横へと座る燭台切に眉を寄せた。 こいつがくると、同じ大食漢なせいで取り分が減る。 大皿に山盛りにされた本日のメインであるアスパラガスの肉巻き揚げと里芋のコロッケを小皿へと一気に確保する。 ついでに、白米の上には副菜である、ごま油の香りが食欲をそそる切り干し大根ときのこの甘辛醤油炒めを大量に乗せた。 「あのさ、そんなに慌てて確保しなくても倶利伽羅の分をとるとかしないから」 「あんた、自分が食べる量考えろ」 「その言葉はそっくりそのまま返すからね？ちょっと食べてる量、可笑しいからね、君。鶴丸さんもおかしいけど、それ以上だから」 「普通だ」 「絶対違うから」 そんな風に言う横に座った燭台切の茶碗も、見事に白米が山盛りにされている。 どこか端のほうでも、鶴丸が山盛りのご飯にがっついているらしく、これだから伊達の刀どもは！という歌仙の嘆きが聞こえてくる。 知らん。 「とりあえず、はい、コレ」 差し出されたのは、刀装の入った小さな袋。 今まで投石兵ばかりだったが、今度は別のものを装備しろと言うことだろうかと思い、それを受け取る。途端に、今差し出してきた理由に得心がいった。 刀装の丸い玉の形以外に、小さく折りたたまれた紙の感触。 後で読め、ということだろう。 「あ、渡しておいてなんだけど、今日はもうは全部隊休みにするって。主もちょっと出掛けないといけないらしくて、手入れが一切出来なくなるから」 「…そうか」 「花街とか万屋とか繋がるゲートは開放しっぱなしにするから好きなところ行って来てって」 二つほどまとめてアスパラの肉巻揚げを頬張りつつ、視線を上座周辺に向ければ、それぞれの部隊長に半休の指示などを飛ばす主の姿があった。 戦に出ることは刀剣男士の本懐であるが、やはり休日はうれしいものらしい。花街に行って徹底的に飲むぞと騒いでいる酒飲み連中や、万屋に買い物だと意気込んでいる者もいる。 そんな彼らに、ハメを外しすぎないようにと釘を刺す主のサイドで束ねられた髪は、一本のかんざしで纏められていた。 「梅に、椿、水仙の花の彫り模様。花信風の小寒かな？」 くふり、と燭台切が笑う。 「いい趣味だと思うよ、僕はね」 その言葉を黙殺した大倶利伽羅は、今度は燭台切の前の大皿から一気に里芋のコロッケを奪い取ってやった。 「ちょっと！？」 「食わないなら、俺が貰う」 からかう様ならさらに奪う、と言外に伝えれば、さすがに連戦の後の空腹を満たすための食事をこれ以上奪われるのはお断りなのだろう、燭台切は静かに箸を手に取り、並んで食事を始めた。 もくもくと二人ならんで、目の前の大皿を空にしていく。 その様子をこっそりと上座から見ていた山菅が、デザートであるリンゴのゼリーを口にしながら呟いた。 「……エンゲル係数」 今は経費で落とせるけれど、いつか政府から言われそうである。 そうとは知らず、大倶利伽羅も、燭台切も、そして同じ伊達に属したこともある鶴丸も、どんぶり茶碗三杯目のおかわりに突入しようとしていた。 [newpage] 『春三番』 二十四番花信風（にじゆうしばんかしんふう）で，小寒の三候の風。梅・椿・水仙の開花を知らせる風。 参考辞書：三省堂 『大辞林　第三版』

夜戦に出るようになって変な時間にお腹が空くようになった大倶利伽羅と、お取り寄せスイーツとかが大好きな女審神者の話の続き。<br />最近夜戦関係なくハラペコな大倶利伽羅がいます。<br />今回は大倶利伽羅視点のお話。

お腹を空かせた龍とお取り寄せ好きな女審神者の話。〈9〉

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「ただいまー！」 「キミさ、帰って来たからって気を抜くのはダメだって何度言ったら･･･」 「お、いたいた！これ、受け取ってください！！」 目の前でわたしたちを迎えてくれたメイドさんの一人に、ゴールドとダークブラウンで装飾された小箱を手渡す。ジョシュアさんは既に呆れ値がカンストしてしまったようで、わたしへの文句も枯れ果て、腕を組みながら後ろから付いて来る。 「え、わたくしに、ですか･･･？」 目の前の彼女は、機嫌激悪の自国の王子と、ノーテンキなわたしが目の前に差し出したものに、意味が分からないと言った様子で目を白黒させていた。 「そろそろ誕生日って言ってましたよね？これ、どうぞ」 公務で訪国していたジョシュアさんとショコルーナで偶然出会い、そのまま城においでと言われたので、久しぶりにベルガントに寄ることになった。わたしが滞在しているときに、部屋でいろいろお世話をしてくれるメイドさんは彼女だけと決まっている。お世話されることに慣れていないわたしが緊張しないようにとのジョシュアさんの計らいだったのだが、先日、さりげない会話から彼女の誕生日が近いと知った。今はちょっと過ぎてしまったかもしれないけど、甘いものが好きと言っていた彼女に、とびっきりおいしいチョコレートを贈りたいと思った。帰国前の一日がオフになったため、彼女へのプレゼントを求めて街を散策していたのだが、わたしが鬼気迫る様子でチョコレートを漁っているのを、珍獣を見るように眺めていたジョシュアさんは、今になってやっと合点がいったという顔をしていた。彼女は受け取るのを逡巡した様子を見せ、手を出したりひっこめたりオロオロしていた。 「受け取らないと泣きそうだから、遠慮なくもらっておきなよ」 ジョシュアさんがそう助け舟を出すと、彼女はふんわりと可憐な顔で笑い、両手で大事そうに箱を受け取ってくれた。 「ありがとうございます。有難く頂戴いたしますわ」 わたしは彼女の耳に顔と手を寄せ、囁くように言った。 「ジョシュアさんに虐められたときとか食べてくださいね。甘さがより効きますよ」 「･･･聞こえてるからね」 その薔薇の名は　　　Extra story　1 殆ど首根っこを掴まれるような形で彼女から引きはがされ、滞在する予定の客室に連行される。荷物のように引きずられているわたしの荷物を持ってくれているジョシュアさんは、城に帰ってきてカリスマオーラが充電されたようで、颯爽と回廊を進む様子は見ているだけで惚れ惚れしそうな程美しかった。以前は超絶厳しい(誇張なし)マナーレッスンを受けていた頃は、ジョシュアさんが本気で怖くて、ゴマとか見たらジョシュアさんの泣きぼくろを思い出して震えがくるレベルの調教されっぶりだった。 「ちなみに、キミ誕生日いつなの？」 「えーと、分かりません」 「は？」 顔こわい。 いやいや、ふざけているわけではなくてですね。この国の暦はわたしの元いた世界とは異なる。月という概念はなんとなく似ている気がするけど、それがこちらの何月に当てはまるかが分からない。国によって気候も異なるために、暖かいから春かも、という予想もできない。わたしは春と冬が交差する季節に産まれた。でも、その誕生日月がこの世界の何の月に当たるのかが分からない。そこまで説明すると鬼教官も納得してくれたようです。 「･･･不便だな」 「そうでもないですよ？一年を認識しないことで、永遠に年を取らないという考え方もありますね」 「キミの頭のおめでたさをすこし分けてほしいな。いや、やっぱりやめとく」 考え直すの早･･･ 正直、最初にベルガントに訪れた時は、わたしはこの世界の暦のシステムにも明るくなかったので、『何の月』に訪国したのも、実は忘れてしまっていた。結構前だったような、ついこの間だったような。黙り込んで歩いていると、ジョシュアさんも自分の考えに耽っていたようで、いつのまにか目的の客室の前に二人で立っていた。 「荷物、ありがとうございました」 部屋の前でジョシュアさんから荷物を受け取り、ドヤ顔で直伝のお辞儀を一つした後、クルリと背を向けると、右肩にそっと手が触れられ、引き止められる。誘導されてもう一度振り向こうとすると、その途中で右上のおでこにちゅっとされた。 「相変わらずつれない子だね。とりあえず、おかえり。久しぶりに帰ってきてくれて嬉しいよ」 「･･･ただいま･･･です」 顔を赤くして明らかにしどろもどろになったわたしの態度に満足げに微笑んで、ジョシュアさんは離れ際に軽くわたしの髪を撫でると、今度は振り返らずに颯爽と歩き去って行った。 散々ディスられて、このデレはひどい。 急に優しくしてくるなんて、甘さがより効いてくるチョコレートみたいだ。 ***** 翌朝、気持ちのいい風を入れるために窓を開けていたところで、ドアがノックされた。既にメイドさんに協力してもらって身支度を完璧に済ませたわたしは、どうせジョシュアさんであろう訪ね人を迎えに行った。ジョシュアさんはマナーの鬼だ。朝からちゃんとした格好でぴりっとしてないと、月曜日のアレをみるような目で見てくる。でも、ちゃんとマナーを守って挨拶すれば、(極稀に)褒めてくれる。ジョシュアさんのその笑顔が見たくて頑張るわたしは、良くできたテスト結果を親に見せる子供のよう。今日は褒めてもらおうと、髪をいつもより綺麗に結いました！！ 「姫様、失礼いたします」 ドアの前には、さっき身支度を手伝ってくれたメイドさんが居た。てっきりジョシュア無情教官が身支度チェックに来たのかと思ったわたしは、安心という名の拍子抜けをしてしまった。 「ふふ。びっくりなさいましたか？こちら、ジョシュア様から姫様へとのことです」 彼女の手には、上質な封筒に焼印がされた手紙。それをわたしに差し出すと一礼して言った。 「さて、姫様。準備のやり直しですわ」 え？？ なんで？ 彼女が手紙を指さしたので、慌てて手紙の封を切る。あ、汚く切っちゃった。 『おはよう。久々に君が戻ってきてくれたわけだし、デートしよう。11時に迎えに行くから、準備をしておいて』 で、でたー。これ絶対、何でもないように見せかけたマナーチェック。これはあれだな、変な格好でいったらお小言機関銃が待ってる。わたし、撃たれ死んじゃう。てかさ、これさ、態々手紙で言う必要、ある？ 身支度を手伝ってくれると言う彼女を招き入れ、洋服ダンスの前でうんうんと唸る。デートに相応しい装い･･･お上品なドレスならいいじゃん？とかそんなんじゃないんだよな、多分。でもデートってことはどこかに出かけるんだから、正装のドレスは違うでしょ？この前、旅していた国で見かけた変わった生地を使った服を着て行ったらびみょーな顔をされた。うーん。 「ジョシュア様から、特別なドレスを一着選んでおくように、と言われておりますわ。お召しになるものとは別に」 「え？何故に？」 「さぁ？」 なんかかわいく誤魔化されている。ノルマ増えてんじゃん。ドレスか･･･ベルガントでドレスを着ることは、あの時以来だ。わたしは迷うことなく、一着のドレスを選んだ。丁寧な刺繍で3輪の紫薔薇が施されたシフォンドレス。わたしが手に取ったドレスを見て、彼女は満足そうに頷いた。 **** 11時を少し回ったところで迎えに来てくれたジョシュアさんは、わたしの恰好をみて、「及第点だね」と言って笑った。壊れたモーターのように、うーんうーんと唸って選んだのは、グリーンフロスのワンピース。ふわっとした印象を足元で引き締めるためのバイカラーのショートブーツに、まだまだ寒いのでベージュのコート。髪は結ったそのままをベースに、ちょっとラフに崩してもらった。デートにはちょっとかっちりしすぎていたから。こんなに自分の恰好に悩んだのはどれくらい振りだろう。相応しい服を選ぶ、というのはジョシュアさんの鬼特訓のおかげでなんとなく身についてきたと思う。でも今回は、ジョシュアさんの隣に並ぶための服。彼のことを考えて選ぶと言うのは、とてつもなく大変なことだった。カリスマオーラの充電がMAXになったジョシュアさんは、相変わらずセンスのいいジャケットにマフラー。そしてちょっと変わったジレは遊び心が効いている。 「その分だと随分迷ったみたいだね？」 「お察しの通りです」 「そう」 「なんでそんな嬉しそうなんですか･･･」 「さ、行くよ」 「無視されました」 わたしの文句を涼しい目元を細めてやり過ごすと、自然に手を取られ、わたしたちはベルガントのメインストリートに繰り出した。 **** ジョシュアさんの『デート』は目的が不明だった。まずはランチと寄ったところはなんかもう城みたいなとこだった。お店の中はガランとしていて(貸切にしたみたいです)、豪奢なシャンデリアが照らすめっちゃでかいテーブルに、ピアノの生演奏。とりあえず萎縮できる限界まで萎縮していると、「マナーなら死ぬほど教えた筈だけど」と言われ、それもそうかと気を取り直す。ジョシュアさんが前だと緊張はするけど、教わったマナーは確実に身に付きつつある、ということが分かって少し嬉しくなった。 次に向かったのはこれまたお高そうなジュエリーショップだった。ジョシュアさんは当然動じることなく、これとこれとこれとこれ、と爆買いを始めた。まさか。まさかね。 「わたしのですか？わたしにくれるんですか？」 「･･･キミ、これが似合う程の器なの？」 「･･･泣きそう」 わたしのじゃないみたいです。 不貞腐れたわたしは、ジョシュアさんをほっといて店内を徒に巡回し始めた。大振りの宝石がついたデザインが多い中、わたしは奥の方のショーケースに飾られていた繊細で華奢な意匠のネックレスに目を止めた。細いチェーンの先についているチャームは、透かし細工のような金色のバラ。大き過ぎず、小さ過ぎず、シンプルなデザイン。ドレスに合わせるには少し装飾が足りないかもしれないけど、これくらいのささやかさがわたしには合っている気がする。暫くうっとりと見つめていると、ジョシュアさんが後ろに立っていた。 「もう少しだから、ちょっとだけ待っててくれる？」 「はい。ごゆっくりどうぞ」 **** 「う･･･ご････ぐ････へ？･･･な･･･」 「驚いてるのは分かるんだけど、もう少し言い方ってあると思うんだけどね」 日が傾いてきたところで、最後に行くところがある、とジョシュアさんに連れてこられたところは、海のそば。海のそばってだけならまあロマンティックで済むんだけど、わたしの目の前には、クルーズ船っていうのかな？とりあえずバカでかい船が埠頭に鎮座していた。 「行くよ」 マジでこれに乗り込むの？いつものデートと全然違う。いったいジョシュアさんはどういうつもりなんだろう。船に乗り込むと、朝支度を手伝ってくれたメイドさんが待っていた。 「姫様、ごきげんよう。ジョシュア様、姫様を少々お預かりいたしますわ」 「よろしく」 なんかアイコンタクトを交わす二人の挨拶の後、わたしはドレッシングルームへと導かれた。船に！ドレッシングルームが！あると！ドレッシングルームには今朝選んだドレスが置いてあった。手伝ってもらって着替えたが、アクセサリー類を選んでくるのを忘れたことに気付く。まぁ、そもそもドレスに合わせるアクセサリーってあんまり持っていないんだけど･･･ ドアを開けて外に出ると、こちらも着替えたジョシュアさんが待っていてくれた。いつかみた、金糸で刺繍が為された紫を基調にした夜会服は彼にとても似合っている。ジョシュアさんは胸に花束を抱えていた。それは5本の薔薇。全部ピンク系統だけど、全て絶妙に色が異なり、みずみずしい花弁が美しい。オーロラ色のフィルムに包まれたそれをわたしに手渡すと、ジョシュアさんはわたしに向かって優雅に手を差し出した。ほぼ反射のようなかたちで左手を滑り込ませる。手と手が触れ合った瞬間、昼間より近い距離で、グッと引き寄せられた。少し強引なその態度に驚いてジョシュアさんを見上げると、神妙な翠眼と視線が絡む。 「エスコート馴れしてきたね。オレ以外の何人がこうしてキミに触れたのかな」 本気で言っているのか、冗談で言っているのか分からずに、わたしはただ黙り込んでしまう。重厚なドアを抜けると、そこは広いラウンジだった。正直スケールの大きさにここが船内だと忘れてしまいそうになる。まさかここでディナーとか･･･き･･･緊張する･･･ていうかもうしてる。さっきからずっとしてる。ジョシュアさんに誘導された先は、意外にもラウンジの隅の席だった。持っていた花束は、テーブルに置かれた曲線が綺麗な花瓶に飾られ、テーブルに彩りを添える。てっきりど真ん中のどでかい席を用意されると思っていたので、少し安心した。テーブルも小さめで、背中側にも壁があり、ちょっと個室みたいな雰囲気。昼間より全然緊張しなかった。極めつけはこれ。 「お昼は完璧なマナーを見せてくれたから、夜はあんまり気にしなくていいよ。好きに、キミが楽しいと思う食事にしよう」 「･･････え」 マナーの鬼が！マナーの鬼からそんな言葉が漏れるとは夢にも思わなかった。わたしは未だ騙されているんじゃないかと思って疑心暗鬼な顔をしていると、ジョシュアさんは困ったように眉を下げた。 「まだ疑ってる？どこかのお姫様が教えてくれたように、フィンガーボールでも飲んでみたら本気だって伝わるかな？」 ジョシュアさんが本気であることを示すためにしたことは、もちろんフィンガーボールを飲むなんてことではなかったけど、わたしに用意された前菜にフォークを伸ばし、普段から嫌々食べさせられている生玉ねぎのスライスを持って行った。 「キミ、玉ねぎ嫌いだったよね」 わたしは負けじとジョシュアさんのお皿に同じくフォークを伸ばし、彼が好きな海鮮のマリネを少々頂いた。人のお皿に手を出すなんてマナーとしては違反中の違反。でもわたしたちは始終笑いあいながら食事を楽しんだ。お互いの料理を貰ったり、大声で話したりして。ベルガントに来て、ジョシュアさんと二人で摂った食事の中で、間違いなく一番美味しくて、一番楽しい食事だった。 ****** 食事が終わり、少しゆっくりした後、またジョシュアさんに腕を引かれた。また移動するのだと分かったけれど、もらった薔薇を置いて行きたくなくて、テーブルの上に置かれた花瓶を持ち上げてとりあえず胸に抱いた。そんなわたしを見て可笑しそうに唇を上げ、ジョシュアさんはそっと花瓶を受け取りメイドさんに預けた。 「部屋に飾ってもらうから安心して」 「･･･ありがとうございます」 わたしたちが向かった先は、さっき着替えたドレスルーム。さっきと違う景色は、中央のワゴンに置かれた高そうなアクセサリーの数々。落ち着いた赤いベロワの上に乗ったそれらは、エメラルドがあしらわれたティアラ、ネックレス、ピアス、バングル。あまりの高級オーラにそれ以上歩を進められずに立ち止まる。そしてあることに気付く。 「これ･･･さっきジョシュアさんが買ったアクセサリーです･･･か？」 「そうだよ。ぜんぶキミにあげる」 「･････････」 「あ、固まった」 名物・固まり芸を披露したわたしを、石像を圧すようにワゴンに近づける。眩しい！やめて！アクセサリーの輝きに目が！目が！石像を動かし終えると、ジョシュアさんは石･･･じゃなくてわたしにアクセサリーを次々と飾り付ける。動かないクリスマスツリーを飾り付けるように。耳から揺れるタイプのピアスを付けてもらっているところで、正気に戻ったわたしは殆ど叫ぶように言う。 「わ、わたしはアクセサリーに見合う器じゃないって･･･」 「･･･言ったね」 「なら！ど、どうして･･･」 「『今の』キミにはちょっと不釣り合いかな」 「ぐう」 「でも、直ぐにキミはアクセサリーに負けないようなレディになる。その時にキミを飾るものは、オレが選んであげたいって思うのは、男のエゴかな？」 姿見の前に出来上がったのは、どこからどうみてもお姫様だった。普段は街娘クオリティとディスられるわたしだけど、彼の手に掛かれば完璧なプリンセスに変身できる。ワゴンの上には、ネックレスもあったけど、わたしの首元には何もない。鏡越しにわたしの後ろに立ったジョシュアさんは、珍しく少しバツの悪そうな顔をして。小さなジュエリーボックスを取り出した。蓋をあけ、そこに入っていたものにわたしは息を呑んだ。 「これ･･･」 「キミのこれからを独占したいと思いつつ、今のキミも喜ばせてあげたいなんて･･･思ってしまったんだよ」 「な、なんでわたしが気に入ったって分かったんですか？」 「あんなかぶりつきで見てるのに気付かないなんて、男として最低だろ」 「そ、そうですか･･･」 わたしの胸に控えめに輝いたのは、透かし細工のような薔薇のネックレス。ドレスも、ティアラも、全部わたしの身には余るもの。このネックレスだけが、ちゃんとわたしが『今の』わたしらしくいられるものだと思った。 「ありがとうございます。すごくすごく嬉しいです」 「そう･･･。それはよかった」 心から微笑んでそういうと、ジョシュアさんは少し照れたように笑い返してくれた。 さっきのサロンとは別の扉の前に移動すると、ジョシュアさんはどこからともなく2輪の薔薇を取り出した。綺麗に棘抜きされた赤と白の同種の薔薇。手渡されるもどうしていいか分からず首を傾げていると、ジョシュアさんがいつもの悪戯な瞳で言った。 「胸が淋しいからね」 デ、デジャヴ･･･ 「冗談だよ。さあ、ダンスのペアには、揃いの薔薇を･･･お姫様」 ドアが開かれる。 お揃いの薔薇を胸に刺した二人は、ダンスホールの光のもとへ向かった。 ****** こう面と向かって向き合うと、距離の近さに緊張する。顔を背けて誤魔化そうとしたけど、ジョシュアさんはわたしに話しかけて目線を逸らせないようにする。それでも目線を外したりすると、腰に回った手に力が入って引き寄せられる。それを踊りながらしてくる。ほんといじわる。 「あの時を思い出すね？」 「わたしが壁の花だった時ですね･･･」 ゆったりとしたワルツを踊りながら建国祭でのダンスパーティーについて語り出した。激烈特訓の成果として参加したダンスパーティーで、わたしは誰からも誘われず、ヤケクソでアヴィと躍っていたところでジョシュアさんに攫われた。そう、誰からも誘われずに･･･めちゃめちゃ練習したから50人くらいと躍ってやるなんて息巻いていたのに、恥ずかしい結果となった。 「ああ、あれね。他の男と躍るなんて許すと思った？アヴィ君と躍り出した時は流石に焦ったよ」 「･･･へ？」 「･･････」 「え、ちょっと！なんで黙り込むんですか！？ジョシュアさんの差し金だったんですか？わたし超つまんなかったんですよ？誘われ待ちしてたのに･･･」 「ほんと･･･もっと教育が必要みたいだね」 「･･･え･･･」 あの夜の秘密が解けることはなく、そしてあの時の一度きりのダンスを取り返すように、わたしたちは飽きるまで踊り続けた。 絶対、さっき言ったこと根に持ってる。 ******* 「はぁーーーーーーーー」 流石にぶっ続けで踊りまくって疲れたので、用意されていた部屋に入った途端、壁際のソファになだれ込んだ。とにかく、今日のイベント激盛りは何なんだ。今日は何の日だったっけ？ジョシュアさんはというと、部屋に用意されていたティーセットを持ち出して、手際よく紅茶を淹れる準備を始めている。 「･･･どうしたの？」 「ジョシュアさん、もしかして紅茶･･･」 「お疲れみたいだからね」 「いいにおいがします･･･ダージリン？」 「そうだよ。リラックス効果もあるからね」 テーブルに紅茶が運ばれてきたので、居住まいを正した。ソファに二人で並んで蒸れるのを待ち、最高に美味しい紅茶を頂く。すごいベタぼれみたいで恥ずかしいけど、ジョシュアさんがわたしの為に淹れてくれるお茶は最高に美味しい。紅茶界のシャンパンとも称されるダージリンは、今日の出来事で興奮気味なわたしの精神を落ち着けてくれた。今日の出来事と言えば･･･殆ど飲みきったティーカップをソーサーに戻し、今日最大の疑問について、本人にぶつけてみた。 「今日は、どうしてこんなにいろいろしてくれるんですか？」 「いつも何もしてないように聞こえるね？」 「･･･もう。言葉尻捕まえて誤魔化さないでください･･･」 わたしが呟くと、ジョシュアさんはテーブルにカップを戻し、わたしの手を握って引き寄せた。なすが儘彼の肩に頭を預け、いじわるの仕返しをするようにジョシュアさんの夜会服の飾りを指先でいじいじした。 「･･･今日はキミの誕生日だからね」 「え？わたしのですか？」 「そうだよ」 腑に落ちない顔をしたわたしの眉間をつつくと、ジョシュアさんはお互いの胸に刺していた薔薇を2本まとめてわたしの耳元の髪に飾ってくれた。 「丁度一年前の今日、キミと初めて出会った」 「･･･え･･･」 驚いて顔を上げると、穏やかな顔をしたジョシュアさんと目が合う。 「誕生日がこっちの世界でいつか分からないって言ってたよね？なら、今日をキミの誕生日にしよう。オレと初めて会った日が、キミがこの世界に生を受けた日。どう？」 そっか。わたしの誕生日が分からなくて不便って言ったのは･･･。そういえば、ジョシュアさんを目覚めさせたのは、丁度こんな季節だった。そうか、あれからもう一年経ったのか。 「素敵です」 お互いに微笑みあって、どちらからともなく顔を寄せた。 ****** 「･･･ちょっと、あの･･･もう･･･大丈夫ですから･･･」 「･･･まだ足りない」 「だって、もう･･･ん･････････はぁ」 座っていたソファの腕掛けに背中を支えられているわたしは、覆いかぶさったジョシュアさんから何度目かも分からないキスをされた。さっきからずっとこんな感じで、もうわたしの羞恥心はヴォルケーノ・エクスプロージョン状態なのに、ジョシュアさんはまだまだやめてくれない。文句を言ったことで更に深くなったキスに、わたしは正気を保つために違うこと考えた。そして、 「そういえば、ジョシュアさんって、幾つなんですか？年齢」 「･････････」 唇が離れた隙をついてそう聞いてみる。ジョシュアさんは一瞬真顔になると、もう一度わたしにキスをした。啄むような、短いキス。そして腰に回していた腕に力が入り、抱え起こされると、また肩に頭を預ける状態に戻った。 「幾つに見える？」 耳元で優しくささやかれ、なんか鳥肌たった。 「おんなじくらいかなーとか思ってましたけど･･･実際どうなんです？」 「年ってそんなに気になる？」 「今まで全然気にならなかったんですけど、気になり始めたら聞くまで問い詰めます」 こうなったわたしは梃子でも動かない。それを知っているジョシュアさんは大きなため息を吐いた。 「･･････18」 「は？はぁ！！！！！！？？？？？？？」 「うぐっ･･･」 衝撃の事実に反射的に顔を上げ、わたしを深く抱きこんでいたジョシュアさんに激しく頭突きをかましてしまった。だって18っていったらわたしの世界じゃ大学生？くらいじゃん！年下！！まあまあの年下！ 本日2回目の硬化芸をキメたわたしに、ジョシュアさんは明らかに不機嫌な口調になった。 「こうなるから言いたくなかったんだけどね」 「だって18っつったら、わたしの世界では成人ですらないですよ！！？？18！ひえええええ！18！！じゅーはち！」 「連呼しないでよ･･･。もううるさいなぁ」 「ジョシュアくん」 「･････････」 「あ、ごめんなさい今の冗談」 「･･･オレを怒らせたね？」 再びのしかかってきたジョシュアさんに、両手首を掴まれたまま後ろに倒れ込む。 「年齢なんてそんなに重要？キミのエスコートも、愛し方だって、誰かに劣ってるつもりはないんだけど」 「ハイ」 「今のは許さないよ？」 「すいません」 「精神年齢ならキミの方が明らかに下だよね」 「すいません」 「さて、今日は死ぬほど甘やかしてあげようと思ったんだけど、キミはどうやらそれじゃ物足りないみたいだからね」 危ない目をしたエメラルドグリーンが、わたしを捕えて離さない。ジョシュアさんの手が頬を撫で、鎖骨を通ってネックレスに触れる。と思ったら急に上ってきて顎をガシッと掴まれた。痛い。顎割れる！ 「さっさとベッド行こうか？」 「やだ！」 「聞き分けのない子だなぁ。年上なんじゃなかったっけ？ほら」 「ぎ、ぎゃー！！！」 **** 「･･･う･･･ん」 「起きた？」 「･･･うーん？･･･」 「もうちょっと寝てていいよ」 「･･････うん。ん･･･」 「どうしたの？」 「あたま、なでられるのきもちいいです」 「そう。もっとこっちにおいで」 「･･･はい」 「素直でよろしい」 「わたしはいつもすなおです」 「･･･どの口が言うんだか」 「ジョシュアさんはいつも遠いところにいるみたい･･･」 「ふーん。それをキミが言うんだ？」 「･･････ん。どういういみ？」 「次はいつ帰ってくるか、指折り数えてるなんて、言ったらどうする？」 「･･･ジョシュアさんが呼んでくれたら、いつでも帰ってきますよ」 「ならいいんだけど。オレでも不安になることはあるよ。キミが50人切りとかまた言い出さないかってね」 「･･･信用されていないんですねぇ。･･･ちょっと失礼」 「どうしたの？キミから抱き着いてくるなんて珍しいね」 「18歳に夢中なんですよ。わたしは･･･」 「･･････」 「･･･ん？起き上がってどうしたんですか？わたしまだ寝ますよ。寝ていいって言ったし」 「･･･ご期待に応えようかと思って」 「･･･ふぁ？」 「夢中にさせてほしいって言ったよね」 「いやあの、そういう意味では。わたし寝たいんですけど」 「うるさいよ」 「え？マジで？ちょっ、まっ！ぎ、ぎゃー！！！！」 [newpage] 読了お疲れ様でした。 ジョシュア様シリーズ。誕生日編です。 このシリーズはわたしの執筆始めの作品でもあり、思い入れが結構あります。 しかしジョシュア様の年齢発覚等で取り下げの危機もありました。 続編待ってるとか、このシリーズ好きです！とかお言葉を頂き、遂に番外編書きました！ もうね、ここまで来たら18歳いじり倒してやろうと思ったんですよ。 久しぶりに書くために読み返したのですが、この姫ちょっと頭おかしいですよね。 全シリーズで最もおもしろ娘だと思ってます。 気に入って頂ければ嬉しいのですが^^ 今回も「薔薇」がテーマです。事あるごとに登場しますが、それが意味するジョシュア様からの「意図」に気付きましたか？ヒントはうつくしーい表紙にも隠れています。 お馴染み表紙のえぬさん(@n_yume100)には、そこだけを指定させていただきました。 さて、どこでしょう･･･。 このジョシュアさんの顔ね、この表情がシリーズすべてを物語っています。 また、本日3/4は作者Birthdayです。なので祝ってください(恫喝) 感想とか頂けると嬉しいです。タグ編集もどんどんやっちゃってください。 作者はついったにもいますよ @miccccc5 気軽にふぉろーみー

お久しぶりです。<br />イベ限ジョシュア様を記念して、懐かしのシリーズの番外編を書いてみました。<br />どうぞ、お楽しみあれ^^<br /><br />表紙はカイリのプロ、えぬさん(@n_yume100)<br /><br />作者はついったをやっております。<br />ちょっと変わった人だけど、絡んでくれる人まってます<br /><br />@miccccc5

【夢100×ジョシュア様】その薔薇の名は　Extra 1

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「陽乃。夕食が済んだら「わかってます」…ならいいわ」 ――― 「…」 無駄に大きい部屋に戻って、とりあえず机に向かう 私は国立理系の学部。けど実家暮らしの私は、一度家に帰ったら別の事…経営学の勉強もやらなくちゃならない。勿論理由は…将来、うちの…雪ノ下の会社を継いで、何れは後継者になるであろう何処の誰とも知らない伴侶を支える為。それが長女である私に課された責務。 昔から、ずっとこの「仕事」が命題だった。だから疑問を持った事はない…ううん。だって言うだけ無駄だもの。私は昔からそう思っていた。だからこんな堅苦しい家でものらりくらりやって、それこそ学校の時なんかは常に上にいる様に、常に羨望の眼差しが向けられる様に「と教えられた通りに」振る舞い続けた。 でも、妹は違った。雪乃ちゃん。私の様に上手くは出来ない子。本当に不器用な子。だから何時だって壁にぶつかっては一人で抱え込んで、またぶつかっての繰り返し 私は違う。そもそも壁があってはいけない様に育てられたのだから。寧ろ私は…あの子の壁になり続けようと思った。それが多分私に出来る「姉らしい事」だろうから。その所為か、雪乃ちゃんは私になりたい様にと、私にならない様にと、もがいてた 「でも…ね」 比企谷君…あの目の腐った。それでも私の中身を一発で見抜いた男の子。彼に少しずつ影響されていった。そして、とうとう雪乃ちゃんは、私の後でも、彼の後でも無く自分のやり方を見つけられた…のかもしれない。勿論、まだまだあの子には障害や障壁が数少なくなく待っているけど、それでも、最近の雪乃ちゃんは、少しずつだけど変わり始めた。姉として、それは嬉しい。けど 「だから…ううん。違うね。これは…私にはいらないよね」 [newpage] ――――― 「せんぱい！気をつけて持って来て下さいね！」 「飾り雛なら普通に業者とかに頼めよ…」 「生徒会にそんな予算はありません。あとせんぱいいつもみたいにぐわんぐわんバイク傾けて運ばないで下さいよ！」 「…なら飾らんで「雛祭りなのに何言ってるですか！」…へいへい。俺は運搬が専務ですよ…」 「頼むな。比企谷」 んだよ。葉山。一言最後だけ口開くんじゃねぇ 「(いや…もしやコイツ何か…)おい葉山」 「？」 ――― 少しだけ廊下に呼び出す。海老名さんの気配は…無いな 「どうした？」 「お前…陽乃さんと何かあったのか」 「！…君は何か見たのかい？」 「別に…ただ奇行にしちゃあんま笑えねぇ所を見掛けただけだ」 「そうか……いや、俺は…彼女に「何か」出来る程の男じゃないから…何もわからないよ」 わからない…知らないというより、今でも知り得ないという様な物言いだった 「そうか」 「ただ…雪…ノ下さんの最近を見るに…それが陽乃さんには…いや、勘繰り過ぎか…」 「…」 ――― 「お待たせいろは」 「大丈夫ですよ！全然！あっせんぱい早く行って下さい！」 「…へいへ…？」 視界にとある紙が写った 「文化祭の…投票用紙か」 「どしたんですかせんぱい？」 「いや…何でもねぇよ」 「そうですか…あっ運ぶ時に五人囃子の楽器とかなくさないでくださいよー」 「わーったよ…」 [newpage] ――――― 「…」 学校からの帰り道。今日も…こうやって帰りだな。今の雪乃ちゃんはもうちょっかい出したって殆ど意味は無いし。比企谷君も…もう私なんてどうでもいい位にバイクにぞっこんだもんね…まさか…彼処まで人と関わらず…人との繋がりを大事にしてなかった…しようとしまいともがいてた子が…機械でその繋がりを見つめ直すなんてね…おねぇさんにはわからなかったなあ…それでやりたい事も見つかって…私…も…あはは…何言ってるの。 「いいな…雪乃ちゃん…あなたは…」 いけない。周りの目がまだあるんだから、あと少しはこの仮面付けてないと でも、やっぱりどうしても、俯いてしまう。私の生き甲斐は、あの子を強くする事。それは人生の決められた私の、唯一の自由に出来る事。お母さんではなく、無論お父さんではなく、私だけのモノ。でも、それも少しずつ無くなろうとしている。そして私は…後は決まったレールを走るだけ。勿論、客観的に見て、雪ノ下の家を継ぐなんて、とてつもない事、それでも、私にとっては、「雪ノ下家の長女」の使命なだけ。私は…その使命を果たすだけの入れ物…なのかもしれない 「わかってたのにね…私これから…」 足が、止まってしまった ――――― 「む…楽しそうなカーブ…」 ケツをズラして曲がるか。と考えたものの、バンクによって新聞紙にくるまれているとはいえ中の人形に何かあっては一色にドヤされるので我慢我慢 「そういや此処ら辺…」 此処ら辺はあの国立のある所だな… (まあ…通りかかった所でどうしたという話ではあるな…) そうこうして大きめの交差点が見える。とはいえ五差路による歩車分離式。俺は最も鋭角な道に差し掛かりかけていた (ココ鋭角な割に道幅広いから左折車でも結構スピード出す奴多…！) 視界に、横断歩道に立ち止まる人影。そして死角故に飛び込んで来る車影 「あの人何やって…!?陽乃さん!?…あれは…」 雰囲気で察する。あの時と同じ、あまり生気の無い顔。いかん… 「行けるか……いや、行くぞ。XR」 FCR全開放。左折車より早く、フルスロットルのままリアブレーキを掛け、リーンアウトで鋭角に切れ込みながらコーナリング。しかし後方から来る以上陽乃さんを拾う暇など無い。なら… 「(仕方ない…)陽乃さん！受け身取れ！」 陽乃さんとすれ違い様に減速し、路肩の植え込みに向かって左足で陽乃さんの肩を思いっきり蹴っ飛ばした 「！っ…あっ…」 植え込みに体毎突っ込んだのを確認。同時に迫る後方車のブレーキ音。俺は対向車がいないのを確認した後即座にもう一度リアブレーキを踏みハンドルフルロックターンで反対車線に退避した。そのまま歩道にマシンを停め、駆け寄る。そして 「何やってんだバカ!!」 思わず、介抱しつつも、怒鳴ってしまった。よりによって陽乃さん相手に [newpage] ―――― 耳に、少し聞いた事のある音が聞こえた。その音の直ぐ直後に、聞き慣れた声が、大声を出したのがわかった。受け身を取れと言われ、染み付いた合気道で受け身を取って、植え込みに突っ込んだ。その直後、聞き慣れた声が、私に… 「年上のお姉さんに…バカは酷いな…それに私国立通ってるのに…」 違うでしょ。私。比企谷君は助けてくれたのよ 「横断歩道のど真ん中赤で突っ立ってる様な奴は学歴関係無く漏れなく皆バカですよ…」 なんて、彼はいつもの…でも顔は凄く悲しそうな顔で言って来たもんだから… 「…ごめんなさい…ありがとう…比企谷君」 ――― 彼に促されて、近くの公園に 「どうぞ」 「あっ…って凄く甘いやつだ…でもありがと」 「うす…」 暫く無言。何時もなら余裕出すけど…今は… 「…雪ノ下の事ですか」 「！…うん…そうだね。雪乃ちゃんが…見つけられかけてるから…私はもう要らないんだ」 「…あの、コレ」 「文化祭の投票用紙…懐かしいなあ…めぐりからでも聞いた…の？」 「良くご存知ですね…」 少し不敵に笑う比企谷君 「コレさ、ここに、クラスの一体感って項目あって…私のクラス、そこだけ満点じゃなかったの。まあ正直私自身私のワンマンの感覚だってあった…けど、それでも皆はついて来たから…でも見る人が見れば解る…ただね。常に全てで一番じゃなきゃいけないの。雪ノ下の長女は…だからそんな顔をしたんじゃない…かな」 「その長女が唯一自分の意志で出来たのが雪ノ下に発破を掛ける事…ですか」 「うん…比企谷君…私はね…正直貴方達が羨ましい。例えこんな将来が約束されてる身でも…無い物ねだりでも…自分で選ぼうとする意志がある貴方達が…夢のある貴方達が…」 「…陽乃さんでもそんな事言うんですね」 「本当の私の中身はこんななのよ」 「成る程…確かに、仮面の外れた貴方は…いい顔っすね…」 「！…でも醜いでしょ？」 精一杯の強がりを。でももう殆ど外れている 「いや…俺は…そんな陽乃さんの顔の方が…変な笑みを浮かべたり露骨なボディタッチする貴方より…好みですね」 「！…ねぇ、比企谷君…」 「はい」 「胸、貸して」 「どうぞ、見た目より厚いですが」 「！…ホントだ…あつ…い…ね…ひき…がや…く…う…」 「……」 そのまま、暫く啜り泣いた [newpage] ――― 「ありがと…ごめんなさい。お姉さんが」 「泣きたいのにお姉さん関係無いですよ。俺だって小町にしょっちゅう泣かされそうになる。」 「やっぱいいなあ比企谷君は「あの、陽乃さん」…何？」 「もっと…陽乃さんらしくエゴイズム丸出しでいいんじゃないですか」 「酷い言い方だなぁ」 「いや…折角家を継ぐなんて決まってるなら…もっと…その、会社その物を陽乃さんの好きな事をする為の会社に改革する位の気概の方が…陽乃さんらしいです。いいじゃないですか。ワンマン。それだけ陽乃さん一人で変革を起こせるって事ですよ」 「!!……ふふっ…あっははっは…あぁ…うん…やっぱり比企谷君だ…君も…ううん違うか」 「ええ…今は…一人でも…アイツ乗りこなさなきゃならないですから」 「じゃあ…私は…一人で会社を乗りこしちゃおっかな」 「おぉ怖い怖い」 「言ったなー。でも…ありがとう比企谷君。私君のそういう所好きよ。良かったら一緒に会社乗りこなさない？」 「勘弁して下さい…俺はマシン乗りこなすので手一杯ですよ」 「そっか…うん。でもそっか…君はいつも私の予想の斜め上をいくなあ」 「まあ斜め走りじゃないとオフロードの坂上がれ無い場合もあるんで…だから…登り方なんて人それぞれですよね」 「…本当に…君は…」 「？」 「ううん！よーし…じゃあ雪ノ下建設世界征服計画始めちゃおっかなー！」 「それ、冗談に聞こえないです」 そう言って互いに笑いあった。誰かと一緒に笑ったなんていつ以来だろうな…凄く幸せだな お終い [newpage] あとがき 雛祭りイベントは…小町編で書くかもです！ただ書きたいのがカツカツなので一つずつ消化していくつもりなので少々お待ちを… あー陽乃さん難しい…とりあえずエンドではないですけどやってみたかった「誰かに怒られるちょっと汐らしい陽乃さん」が出来たのでとりあえずいいかなと。勿論エンド希望もあれば受け付けますのでコメントよろしくお願いします。 次は…八折書きます！ ありがとうございました

短編　陽乃さん編　後編<br /><br />よろしくお願いします。

陽乃「守ること戦うこと」

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通い慣れた道の途中。立ち止まって、服装に乱れがないか最後の確認をする。手に持った赤いバラの花束ももう一度確認した。見た目も香りも申し分ない、最高のバラ。今日のこの日に相応しい。 大きく一つ深呼吸する。いつも客足の絶えない火藍の店も、昼過ぎから夕方までの数時間、人気が少なくなる時間帯があった。今がまさにその時。 よしっ、と小声で気合を入れ、大股で歩き出した。ずんずんと歩き、辿り着いた店のドアをその勢いのまま開け放つ。 「いらっしゃいませ、お客様？」 頬杖をついてニヤニヤしているカウンターの人物の声はとても美しい響きで耳に届いた。しかし頭が受け取りを拒否した。しばらく沈黙が流れる。 すーっとドアを閉め、外に出る。一度小首を傾げてからもう一度ドアを開けてみた。先程と変わりない風景。とりあえずもう一度ドアを閉める。火藍と再会して以来、酒は嗜む程度にしか口にしていない。もちろん羽目を外してしまうことも度々あったが、この日のための願掛けもあって、ここ一週間は全く口にしていなかった。アルコールによる幻覚の可能性はないはずだ。一度頷いてから再びドアを開けてみる。 「窓もドアもガラスなんだから、一々開けなくても中丸見えだろ、おっさん」 「お、おま、なんでおまえがここにいるんだ、イヴ！！」 カウンターには呆れたような顔をしたイヴがいた。 「次はこれお願いね、ネズミ」 「ああ。こっちの残りはどうする？」 「それはもう売り物にはできないから、後で一緒に食べましょう。そろそろ紫苑も帰ってくるでしょうし」 「分かった」 店の隅に置かれた椅子に座り、二人の様子を眺める。見ようによっては微笑ましい光景だ。仲の良い親子のようにも見える。若い頃の溌剌とした美しさを未だ残す母親と、その仕事を手伝う美しい娘・・・ではなく息子。もっとも、その『息子』の正体を知る身としては微笑ましいなんてものではないのだが。 壁が崩壊し、都市への往来が自由になって早四年。再会した火藍は自分と同じく年を重ねていたものの、子供を持ち、それを女手一つで育てあげたというだけあって、あの頃よりも逞しく包容力のある魅力的な大人の女性となっていた。足繁く通う内にかつての恋心が再燃した。離婚歴やコブ付きであることなど些細なことだ。というよりも、そういう『脛に傷』という意味でなら、自慢ではないが自分の方が余程酷い自覚もある。 そして『コブ』こと一人息子である紫苑は優秀で心優しく、今やこの都市の未来を担う将来有望な若者の筆頭だ。取材で再建委員会についても深く知る自分は紫苑の活躍もよく耳にする。にも拘らず、本人は謙遜してか、己の地位には全く頓着していないのか、以前と変わらず驕ったところも全くない。本当によくできた子だ。火藍の母親としての器量にも感服する。 その紫苑も今は親許から離れ、一人暮らしをしている。都市の再建が進めば進むほど難題が山積していくのは傍から見ているだけでもよく分かった。仕事は忙しくなる一方だろう。実家に帰ることもほとんどできないようだ。口には出さないが火藍も寂しいに違いない。 「今が千載一遇のチャンスだと思ったのに・・・」 深い溜息とともに小声で呟く。思わぬ伏兵とはこのことだ。楊眠とかいう男もいるが、あいつは壁崩壊の最中に火藍を裏切るような真似をしたらしい。最近やっと和解できた程度の相手では、旧知の仲の自分の敵にはならないと思っている。油断は禁物なのでその動向には常に目を光らせてはいるが。 「どんなに美人でもやっぱり男の子なのねぇ。力仕事なら、紫苑よりよっぽど頼りになるわ」 「もう男の『子』って年でもないんだけど」 「あら、あなた紫苑と同い年なんでしょ？なら私から見たらまだまだ男の『子』よ」 くすくすとおかしそうに火藍が笑う。あの頃のような、こちらの心が弾むような笑顔。対してイヴはその顔にくすぐったそうな苦笑を浮かべている。二人が親しげな関係なのは一目瞭然だ。 イヴが西ブロックに戻ってきたという情報はすぐに手元に届いた。舞台の仕事を再開したものだから、自分と言わず、あっという間に西ブロック中に知れ渡ったのだ。イヴの過去や№6との因縁を一応知っている身としては、まさに青天の霹靂というやつだった。ただ、紫苑とは（未だに信じられないが）仲良くやっていたというし、紫苑がイヴの帰りを待ち続けているらしいことはそれとなく察していたので、戻ってきたのならその辺りが理由だろうと思っていた。足繁く№6に通っているという情報も、忙しい紫苑に会うためだろうと、さして深くは考えていなかったのに。 「他に何かご命令はありますか？女王陛下」 「そうねー・・・折角だから、そこの上の電球も替えてもらおうかしら？」 「承知致しました。おっさん、そこどけ」 火藍に対する優雅な口振りと身振りが嘘のような、ぞんざいな口調と視線を投げかけられる。なまじ顔が綺麗なだけに落差がすごい。 「おまえな・・・相変わらず年上に対する礼儀がなってないガキだ」 「おれが礼儀を尽くす価値があんたにあるとでも？その年にもなって自分が見えてないなんて致命的だぜ、おっさん」 「あらあら、二人とも本当に仲が良いのね。でも椅子なら奥から持ってくるから大丈夫、力河はお客様なんだからそこでゆっくり休んでて」 こちらの険悪な雰囲気に気付いているのかいないのか、「ついでに新しい電球もとってくるわね！」と火藍が朗らかに言い放って奥へと入っていった。 「・・・あれ、どう思う？」 「何がだ」 「火藍だよ。分かってやってんのか単なる天然なのか・・・さっきのアレも微妙なとこだよな。あそこで吹き出さなかったおれの優しさに感謝しなよ、おっさん」 「ぐっ・・・おまえは本っ当に失礼なガキのままだな」 皮肉気な笑みを浮かべて言うイヴに、苦々しい気分そのままの声で返す。 イヴのいう『さっきのアレ』というのは、自分がここに来た時の一連の出来事のことだ。 「お、おま、なんでおまえがここにいるんだ、イヴ！！」 思わず素っ頓狂な声が上がってしまう。いつも火藍が笑顔で迎えてくれるはずの場所に、あの疫病神のイヴがいたのだから仕方ない。どんなに見てくれが美しかろうと、素晴らしい演技力と歌声の持ち主だろうと、この男の本性は性悪の女狐だ。かつて自分がどれだけ手痛い目に遇わされたことか・・・。 「店番。見て分かんない？」 「そういうことを訊いてるんじゃない！」 「そういうおっさんは・・・ふーん、火藍にプロポーズか。紫苑が親離れした寂しさにつけ込もうなんて、品のない」 「つ、つけ込むとか、おれはそんな・・・」 「だいたい、あいつが一人暮らし始めてから一年以上経つんだろ？それを今更ってところがおっさんらしいというか」 「今更ってどういう意味だ。こういうのは少し時間を置いて、そろそろ立ち直ろうって時にそれまで寄り添ってくれていた男にフラッと来るのが女心というやつで」 むきになって反論しかけてはっとする。動揺していたせいか、イヴにあっさり乗せられてしまった。そのまま無言で口をパクパクさせてしまう。その様を冷たい視線で見ていたかと思うと、イヴは何事もなかったかのように手元の本へと視線を戻した。 「ちょっと待て、別におれはそういうことだけじゃなくてだな」 一体誰に対しての言い訳なのか、とにかくここで話を終わらせるわけにもいかず言い募ろうとしたところで後ろから声が掛かる。 「あら、力河？」 振り向くとそこには火藍がいた。何やら荷物を抱えているので、どうやら買い物か何かで出掛けていたらしい。 「おかえり。客は一人とそこにいるおっさんだけだった」 「ただいま、ネズミ。そう、店番ご苦労様。おかげで助かったわ。力河、そんな立派な花束どうしたの？」 自分の肩越しにイヴと話していた火藍が自分の手にある花束に気付き、不思議そうな声で訊いてくる。色々予想外の展開が続き、本来の目的を忘れていた。慌てて両手で抱え直し、頭を下げて火藍に差し出す。 「火藍、君にこれを」 腹にぐっと力を込めて、声が震えそうになるのを抑える。これまで適当に付き合っていた女達に口から出まかせで言っていたような軽い言葉とは訳が違う。緊張のせいか喉が渇いてくるのが分かった。 「まあ・・・ありがとう。でも、ごめんなさい」 まだ本題に入らないうちに拒絶された。まさか・・・さっきのイヴとの会話を聞かれたのか！？と一瞬にして血の気が引く。 「ち、違うんだ火藍！あれはイヴのやつが変なこと言うから売り言葉に買い言葉というか、決してあれがおれの本心ってわけじゃないんだ！」 「イヴ・・・？ああ、ネズミの役者名だったわね、確か。あ、そうだ、ネズミ！ちょっと手伝ってちょうだい。力河の花束、受け取ってあげて」 「は？」 自分とイヴの声が重なった。何故イヴに花束？ 「ちょっと張り切って買い物し過ぎちゃって。両手が塞がってるの。力河、ごめんなさい。これ先に置いてくるから。そしたらそれ、ちゃんと生けるわね」 開け放っていたドアを器用に肘を使って閉めながら、店の入り口に立ち尽くしていた自分の脇をすり抜け、火藍が店の中へと入る。カウンターにいるネズミに「力河に椅子出してあげてね」と一声掛けてそのまま奥へと姿を消した。 ぽかーんと口を開けて呆然とする自分と、口元を片手で覆い体を震わせているイヴをその場に残して。 「脈なさそうだし、いいオトモダチだと思って諦めたら？」 「そんなことを言って、おまえまさか本気で火藍のこと狙ってるんじゃないだろうな？」 「はぁ？」 「火藍は紫苑の母親なんだぞ？分かってるのか？あ、おまえもしかしてマザコンだったのか？」 さっきも子供扱いしていたし、火藍に限って自分の息子の友人とどうこうということはないだろうが、何せ相手はイヴだ。いつの間にやら店番を頼まれるような仲になっているくらいだから、なにをしでかすか分からない。 疑るような視線を向ける自分にイヴは呆れたような顔をして、わざとらしい大きな溜息を吐いた。 「おっさんといい、紫苑といい・・・恋する男ってなんでこんなばかばっかりなんだ」 やれやれと言わんばかりに芝居がかった仕草で軽く頭を横に振っている。それにむっとするより前に、先の台詞の方に引っ掛かりを覚えた。 「紫苑が恋をしてるのか？相手は誰だ？もしかしてもう付き合ってるのか？」 思わず身を乗り出す。イヴは瞬きをし、皮肉気な笑みを浮かべた。 「おっさん、エロ雑誌だけじゃなくてゴシップ紙も出すつもり？」 「あのなぁ・・・。紫苑は自分からそんなこと言う子じゃないし、しばらくここを離れていたおまえは知らないかもしれないが。紫苑は再建委員会の中でも特別な存在だ。容姿が目立つとか、優秀ってだけじゃない。委員会を引っ張る中心人物の一人なんだよ。少なくとも№6内で紫苑を知らない人間はいないし、西ブロックの人間でも一度くらいは何かしらで顔と名前は見たことあるっていうくらいは有名人だ。それなのにこれまで浮いた噂の一つもない。あの子のことだ、結婚を前提にとか、そういう真面目なお付き合いなんだろう？その相手っていうなら、十分記事になる」 再開した『ラッチビル新聞』は至極まっとうな社会派の新聞として本気で取り組んでいる。紙媒体の新聞への物珍しさもあるのだろう、都市内でも一応それなりに購読者が増えてきた。もっとも、それだけでは収入は足りず、俗な雑誌の仕事の方が未だにメインなのだが。 「へぇ・・・それで？もし相手が何か問題ある人物だったらどうする気？記事にでもなったら、火藍が悲しむんじゃない？」 「何言ってるんだ。おまえじゃあるまいし、紫苑に限ってそんな相手を選ぶはずが・・・なんだ、相手は何か、そういうアレなのか？」 火藍の名前を出されて少し心配になった。考えてみれば、確かに紫苑は少しのんびりしているというか、ぽやっとしたところがある。性質の悪い女に巧みに騙されて・・・という可能性も否定し切れない気がしてきた。 「おまえ、一応友達なんだろうが。汚れきったおまえの体験が友情に生かせる数少ないチャンスだ、紫苑を止めてやれ。そうしないと火藍が悲しむような相手なんだろう？」 弾む心を抑え、真剣な顔を作ってイヴに言ってやる。別れた後なら紫苑に同情的な方向で記事にもできるかもと考えていた。なんにせよこれはいいネタだ。イヴが紫苑を説得している間に、そのお相手とやらを自分で突き止めれば良いだけなのだから。 「悪いがそれは無理だ。おれには別れさせることはできないな。それに火藍は相手を知ってる。おっさんが訊いても教えはしないだろうけどね」 言ってイヴがふふっと笑った。感情の読めない笑い。火藍も知っているなら、記事にしても問題ないではないか。だがあの火藍がおれには教えないというならやはり何かあるのか・・・。 「まあ、この件は忘れた方がいい。紫苑が相手と結婚することもないだろうし。それに、もっと大きいネタがもうすぐ入るかも。それも紫苑次第だけどな」 「何？それはどういう意味だ？」 椅子から立ち上がる。紫苑次第の大きなネタならば再建委員会関連だ。公式発表の前にスクープできるかもしれない。 「ただいま、ネズミ！・・・あれ？力河さん？」 「ごめんなさい、なかなか電球が見つからなくて・・・あら？紫苑？おかえりなさい」 張り詰めていたかのような空気が一瞬でへなへなと萎んでいくのが分かった。紫苑が帰ってきたのとほぼ同時に火藍も戻ってきたのだ。 「母さん、ただいま」 「そろそろお茶にしようかと思っていたの。丁度良かったわ。電球を替えるのは後にしましょう。力河も一緒にいかが？」 「あ！ごめん、母さん。ちょっと話したいことがあって・・・力河さん、申し訳ないんですが・・・」 「あ？ああ・・・そうだな、久々の家族団欒だろうしな。おい、イヴ、おまえも帰るんだぞ」 いつかその家族団欒に自分も加わるのだ―――夫として、義父として。そんな思いを胸に秘め、全く動こうとしないイヴに声を掛けた。視線の先のイヴは何故かきょとんとした顔をし、にやっと笑った。嫌な感じの笑みだ。 「だ、そうだけど？」 「え？なんで？ネズミは帰らなくていいよ？」 今度は紫苑がきょとんとした顔をしている。なんでイヴは良くて自分はだめなんだ・・・。 「あ、そうだ！あの話、僕に一任されることになったから」 「そうか。まあ、約束だし。やってみれば？」 「ああ。君の期待に応えられるように頑張るよ」 「別に期待してるわけじゃあ・・・」 「おい、紫苑、一体何の話だ？」 「あ、まだオフレコでした。力河さんはここまでです」 それまでにこにことイヴと話していた紫苑が、自分が口を挟んだ途端、キリッとした顔をして自分を追い出しにかかる。背中をぐいぐいと押してきた。 「ごめんなさいね、力河。お構いもできなくて」 「いや、火藍、今度またゆっくり・・・」 首だけ捻ってなんとか別れの挨拶をしようとしている最中に店の外へと押し出された。そのままバタンとドアが閉められる。ガラス越しに向き合った紫苑は笑顔だった。ただし何だかいつもの笑顔と違い、有無を言わせないような雰囲気がある。その笑顔に気圧されるようにとりあえず店から離れた。 帰り道、頭の中を整理する。なんで家族団欒にイヴが加わっているのか、紫苑にオフレコと言われたネタは何なのか・・・そして紫苑の付き合っている相手は誰なのか。 イヴがわざわざオフレコのネタを口にしてまで自分の気を逸らそうとした程の相手だ。結婚することはないとも言っていたので、もしかしたら人妻なのかもしれない。 「ふっふっふ、ジャーナリストを舐めるなよ、ガキめ」 いざとなったら自分と火藍で紫苑を説得すれば良いのだ。そうすれば記事にはできなくても絆が深まるというもの。おそらく紫苑との関係に亀裂が入るとでも思っているのだろう、怖気づいているらしいイヴとの差も付けられる。そして心温まる家族秘話としていつかノンフィクションの本を出すこともできるかもしれない。 イヴのやつめ、この借り（？）はきっちり返してやる・・・拳を固く握りしめ、心に誓ったのだった。

この人を書かないわけにはいくまいと思い、力河視点です。したたかで打算的、でも何だか抜けてたり極稀に男前だったり火藍の字を見て若かりし日の恋にホロリときたり、そんな中年男性の力河ですが、エピローグのイヌカシの手紙を読む限りこんな感じかなと思ってこんな感じに。自分設定をあれこれやたらと作っているので今後もちょいちょい織り交ぜたりタネ明かししつつやっていきます。まだ消化してないネタもあるんだよなぁ・・・と思っているとどんどん長編になっていく・・・。一応今回の話は3のラストの次の日の話になります。

二人で過ごす休暇の話～4

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Attention!! この話を読む前に注意書きしておきます。 ・作者がカラ松girlのためカラ松贔屓 ・救いなんてないんです。どう足掻いたってないんです ・前作の[[jumpuri:期待することをやめた日 > http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6175766]]の後日談みたいなものです そのため、前作を先に閲覧することをお勧めします 上記の注意書きの内容が無理な人は閲覧をやめてください 読んだ後の批判は受け付けません 「読んでやるよ！」という方はどうぞ→→→→→ [newpage] その日の空は、満天の星が浮かんでいた からからからから 必要最低限のものが入ったスーツケースを引きずりながら、彼は歩いていく。家にあった自分の存在を主張する青色のものは、すべて捨てた。お金になりそうなものは売り払って、手に入れたお金と事前にバイトして貯めたお金でこのスーツケースを買った。そして余った分は今まで育ててくれた両親のお礼にとすべて渡した。 両親には、昨日のうちに家を出ていくことを話していたから、自分がいなくても慌てることはないだろう。書き置きも残しておいた。何も、心配することはない。 そう、なにも 「…………」 立ち止まって振り返れば、嫌というほど見慣れた、自分と家族が住んでいた家が映る。光がないことから、自分が家を出たことは誰にも気づかれていないのだろう。よかった、と溜息を吐くと同時に、不意に二階に目が移った。 瞬間、脳裏に蘇るのは、炎と降り注ぐ鈍器 「っ」 ずきり、とふさがっていた頭の傷口が痛み出す。治ったとはいえ、時々痛み出すその古傷は「あの時のことを忘れるな」と言っているようだ。 「……忘れられる訳、ないだろ……」 あんな出来事、忘れられるわけがない。いや、忘れてはいけない。忘れてしまえば、俺はまた、彼らに期待してしまう。そしてまた、傷を背負うことになる。それだけはもうごめんだ。返ってこない期待を、愛を求めることには疲れてしまったから。もうこれ以上、辛い目にあいたくない、苦しい目にあいたくない。誰かに逃げてるだけと言われても、俺はこの選択を選んだんだ。後悔はしない。 たとえ、二度と彼らに会わないとしてもだ 視界の端に、薄紫色の空が映る。ああ、もうそんなに時間がたったのか。はやく、ここから出ていかなければ。彼らに気づかれ、捕まる前に、早く。 家から目を離し、歩き出す。からからからから。スーツケースは相変わらず音を立てたまま。 そのまま、振り返ることは二度となかった 「……はぁ」 携帯の日付を見て、ひとり溜息を吐く。長い時間放置されたコーヒーはもうとっくの前に冷えてしまって、あまり美味しくない。それは一緒に頼んだパンケーキも一緒で、上に乗っていたアイスはもうただの液体だ。 気分転換に家を出たけれど、これではただのお金の無駄だ。これなら家にいた方が良かったかも、と考えたが、家の中の状況を思い出し、それはないと首を横に振る。あの日から、色々あったけれど、あんなに過ごしやすかった家がとても冷たいものとなってしまった。けれど、そうなった原因は間違いなく、自分たちにあるから、何も言えない。ただただ、みんな何か言い辛そうに、暗い表情を浮かべながら過ごしている。 そう、あの日から、それは変わっていない。 「……カラ松兄さん……」 ぺたん、とテーブルに顔を突っ伏し、トド松はいなくなった昔の相棒の名をつぶやく。しかし、その声は誰にも届くことはなく、空気に溶けていくだけだった。 [newpage] 約半年前、カラ松が家を出て行った。 それに気づいたのは一番初めに起きたチョロ松で、テーブルの上に置かれていた書き置きからそれを知った彼は眠っていた兄弟たちをたたき起こし、顔を青くさせながらそれを知らせた。はじめのころはタチの悪い冗談かと思っていたが、チョロ松の尋常じゃない顔色の悪さと、何より家の中にあったはずのカラ松の所有物がすべてなくなっていたことに、それが事実だと思い知らされた。行き場所も書かれていない置き手紙に、カラ松はいったいどこへ行ったんだと騒いだ兄弟たちの疑問に回答を示したのは、朝食を用意していた母の松代だった。 『ああ。カラ松なら仕事を始めたわよ。その関係で、ここだと遠すぎて通いづらいっていうから、一人暮らしするために出て行ったわ』 「そういえば、住所聞いてなかったわね」と付け足した松代は、朝食の準備を再開するために台所へと向かっていった。しかし、その後ろ姿を見ながら兄弟たちは唖然とした様子でいた。 カラ松が出て行った。自分たちに何の連絡も、言葉もかけず。そして自分の居場所すらも教えずに。 少し前まで、そうあの日の前であったなら「抜け駆けなんて許さねぇ‼!」と騒いでいたことだろう。しかし、今は違う。なぜ彼が自分たちに何も言わなかったのか、何も知らせなかったのか、その理由がわかっているから。だから、何も言えない。そうするように望んだのは、自分たちなのだから。 ぐしゃ、と髪の毛を掴んだ音が、嫌に大きく聞こえた。 あの日、カラ松が兄弟に期待しないと、できなくなったと言った日。その日から、カラ松は兄弟と過ごすことを拒むようになった。いや、カラ松は口には出していないし、そう言われた覚えはない。けれど、彼の態度や纏う雰囲気が、言葉にしなくてもそれを示していた。だから、誰もカラ松に接することができなくなってしまった。 （家の中の空気、ほんと最悪だったな……） いったい誰が悪いのか、誰がカラ松をあそこまで追い詰めたのか。口には出さずとも、カラ松以外の兄弟は全員はわかっていた。そして、カラ松だけいない空間で過ごしていると、自分たちのやらかした罪の重さに押しつぶされそうになり、全員が全員精神が不安定になり、喧嘩が絶えないものとなってしまった。一番酷かった時、おそ松とチョロ松の喧嘩など、喧嘩、なんて生易しいもので表せるものではなく、戦争と言った方が正しい時もあった。 そして部屋の隅で怯えるトド松は、その戦争を唯一止められるのがカラ松であり、彼の姿がないことに、また絶望した。 （なんで、あんなひどいことしちゃったんだろう……） 兄弟の中ではヒエラルキー最下位のカラ松は、どんなに自分たちがひどい言葉を投げかけても、ひどい扱いをしても笑っていた。それが当たり前で、いつものことだと思っていた。だから、チビ太に誘拐されたと言われた時も、何かのおふざけだと思っていたし、あの夜のことだって、その延長線だと思っていた。 だから、あの夜助けを求めていたカラ松にしたことも、次の日にしたことも、扱いの延長線として行動してしまった。 それが、カラ松からの期待を失うきっかけになったことに気づかないまま カラ松だって、少し体が丈夫なただの人間だ。痛いファッションセンスや痛い言葉を吐いても、それは上辺だけで本当は誰よりも優しく、誰よりも弱い臆病者だった。無償の愛を与えることができる完璧な神様なんかじゃない。 それを相棒であるトド松は知っていたはずだった。分かっていたはずだった。けれど、いつの間にか頭の隅に追いやられてしまったその事実。それは今になって頭の中を占め、トド松の心を縛り付けた。 あの頃に戻れるなら、カラ松を傷つけようとする自分を殴り飛ばしてやりたい。そして兄弟に言ってやりたい。カラ松の愛は無償ではないのだと、本当は寂しがり屋で、優しい兄を助けてやれと。 しかし、こんなことを思っても結局過去に戻れるわけではない。近所のあの変わった発明家に頼めばタイムマシンでも作ってくれそうだが、そんなことをして過去に戻っても、虚しくなるだけだ。たとえあの時助けたとしても、それは一時期なもので、また同じことを繰り返すだけだろう。 カラ松という存在が消えて、ようやくその存在に救われていたことに気づいた自分たちに、彼を救う資格なんてないのだから。 （ねえ、カラ松兄さん。兄さんがいなくなってから、みんな変わったよ） 箱庭の中のモノトリアムは、支えがいなくなって崩壊した。 あんなにアイドルを追いかけていたチョロ松は、アイドルグッズを集めなくなり、見て見ぬふりの現実逃避をやめた。その結果、本気で就活し無事に就職先を見つけることができたらしい。今ではカラ松と同じく家を出ていき、少し遠い場所で一人暮らししている。そして時々、実家に帰ってきている。 トド松もまたバイトをはじめ、その働きに目をかけた店長が正社員にならないかと言ってくれた。もちろんそのチャンスを逃すはずがなく、それを受け入れるつもりだ。十四松もその体力と怪力をうまく使えるバイトをしており、一緒に働いている人たちとうまくいっているようだ。 一松は猫カフェで働いているようで、猫の毛を服につけたまま帰ってくることが日課となっている。 しかし、それよりも驚くことに、あのおそ松も働き始めたのだ。あんなに働きたくない、働きたくないと喚いていたあの長男が、だ。 腐れ縁であり、社長であるハタ坊から仕事を紹介してもらい、そこで働いているおそ松の帰りは、いつも真夜中だ。そういえば最近、彼の赤色のパーカーを見ていない。 いや、全員のあのパーカーを見なくなった。そう思いだすトド松も、パーカーを着ていない。着てしまえば、そこにない色にまた落ち込んでしまうから。 両親はようやく働きだした自分たちに泣いて喜んでいた。ようやく、自立するのかと。 けれど、本当はそんな立派な理由で働きだしたわけではないことを、トド松はわかっていた。だって、真夜中に話していたおそ松とチョロ松と一松の会話を聞いてしまったから。カラ松に対しての態度が酷かった彼らが、どれほどカラ松に依存し、拠り所としていたか。それを、トド松は知っていた。 そして、自分も十四松も、少なからずともカラ松に依存していたことも、すべて。 （お願い、カラ松兄さん。僕らのことを嫌ったままでいて。恨んでいて。憎んでいて……帰ってこないで） そうでなければ、きっと、僕たちは 『金も集まってきたけど、やっぱりまだまだだな。これくらいじゃあ、あいつを閉じ込めるための空間が作れねぇよ』 『働いてからまだそう時間たってないっての‼でもまあ、しばらくすれば作れるし、いざとなったら十四松やトド松にも協力してもらうよ』 『そうだね、きっと、二人もあいつに帰ってきてほしいって思ってるよ……。ヒヒッ、クズはクズ同士、他人の邪魔にならないところにいた方がいいに決まってる……』 『俺たちまでクズ扱いかよ!否定はしないけどさ。でもまあ、あれだな』 『あいつが離れるなんて許さねぇ。俺たちはずっと、一緒にいるべきなんだよ』 暗く輝く、三対の瞳 浮かんでいるのは、歪んだ笑顔 語られるのは、恐ろしい、訪れるかもしれない未来の話 それらを思い出しながら、トド松はぽつり、と呟く。 独り言のような、誰かに語りかけるような、そんな声音で。 「あなたのことを、[[rb:閉じ込めて > 殺して]]しまうから」 吐き出された言葉は、誰に届くわけでもなく空気の中に溶けていく。 どろり、と溶けたアイスクリームが、皿の上にぽたり、と落ちていった。 [chapter:願うことをやめた日] その願いは、きょうきとなってあなたを×してしまうから

<span style="color:#f97ff8;">結局僕も兄さんたちも、カラ松兄さんを諦めきれないだけだ</span><br /><br />どうも、楓本です。今回は前回の期待することをやめた日（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6175766">novel/6175766</a></strong>）の続編となります。この話だけでは多分話が全く分からないので、前回の話を見ることをお勧めします。<br /><br />読破後推奨<br /><span style="color:#bfbfbf;">本当は前回の話を書いた後すぐにこの話を書こうとしたのですが、途中で一松事変やらなんやらが放送されていて、続きは書かない方がいいんじゃないかと思っておりました。<br />が、ある方のキャプションから、カラ松事変でのカラ松は一度死んだと聞いて、なんか色々と傷口抉られた結果書き上げた方がいいと思い書き上げました。なので無理やり書き上げた感半端ないですごめんなさい。本当はもう少し長くする予定だったんですけど、色々とごちゃごちゃした思いが混ざってこうなりました。前回書いた小説の十四松視点の最後の部分が、原作にリンクするとは思わなかったです……。<br />カラ松事変から結構時間がたって、やっと割り切れたなーと思った結果がこれです。公式は何故火に油どころかガソリンを投下してくるんでしょうか……。誘拐されて兄弟に殺されて、生き返ったところで兄弟たちを探した結果が夕日のあれですかそうですか。ますます救われなさが倍増してどうにもできない気持ちでいっぱいになりました。もうカラ松の幸せを公式に求めてはいけないような気もします。誰かの幸せのために、カラ松が犠牲になってるような気がするので。<br />こんなこと書くと「カラ松モンペは怖いｗｗｗ」とか「ギャグアニメだろｗｗｗ」とか言われますけど、正直言うとその人たちに理解してもらおうとか、一欠片も思ってないです。ただ、自分のこのやりきれない気持ちを、似たような気持ちを抱いている誰かと共感したいだけです。その方法に自分は小説を選んでるだけです。<br />理解できないならできないでいい。ただ、こっちにまで荒らしに来るな!!って最近のおそ松さんの事情を見てそう思っています。カラ松事変を全員笑って見れたと思うなよ……<br /><br />あと、今回せっかくなのでアンケートを設置させていただきました。よければ投票お願いします。一応それを参考に、次回作を書こうと思うので（本当に参考にするだけです飽き性ですごめんなさい）<br /></span><br /><br /><span style="color:#7f7f7f;">入れようとして入れる場所がわからなかったもの↓<br /><br />『おいカラ松!!』<br /><br />いつだったか、一度だけ夜中に帰ってきたカラ松兄さんを問い詰めたことがある。その時は、カラ松兄さんがバイトして一人暮らしするための資金を貯めていることを知らなかったため、深夜にしか帰ってこない兄さんのことが心配だった。それに、まだ僕たちは信じていた。彼が僕たちのことを嫌いになるわけがない、また愛してくれると。<br />しかし、その思いは青がかった冷たい目によって否定された。<br /><br />『チョロ松、手を離してくれ』<br />『離したらお前、僕たちの話を聞いてくれないだろ!!どれだけ心配したか、』<br />『心配？』<br /><br />チョロ松兄さんの手を振り払い、カラ松兄さんは僕たちを見ると、くだらないと言った風に吐き捨てた。冷たい、冷たい言葉だった。<br /><br />『お前たちが抱いてるのは心配じゃなくて、ただ自分たちの不安を解消したいだけだろ』<br />『違う！僕たちは、』<br />『だったらなんであの時、助けに来てくれなかったんだ』<br /><br />その言葉に全員が息をのむ。あの優しかった声も、瞳も、もうあんなに遠い。<br /><br />『今更心配した、なんて言われても、信じられるわけないだろ。嘘つき』<br /><br />そう言い切ったカラ松兄さんの瞳はどこまでもどこまでも冷え切っていて、深海を覗いているようで。その瞳から、抱いていたひとかけらの希望も木っ端みじんに砕かれた。<br /><br />ごめんなさい、と誰かの謝罪が聞こえた。</span>

願うことをやめた日

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6496424#1

！！！注意！！！！ ・芸能界パロでもしもこの作品がドラマとかだったら的設定 ・すっごい簡易設定（詳細は後日うｐします） よっしゃ見てやんぜ！って人のみゴー！！ [newpage] ケイネス 元モデルの俳優。元祖お色気モデル((笑 ランサー 人気モデル。ケイネスに憧れてこの世界に入った。 ウェイバー 子役からこの世界にいる。歌ったり踊ったりもする。 イスカンダル 元スポーツ選手。現在はバラエティーから舞台までこなすマルチタレント。 遠坂時臣 実力派俳優。マイホームパパ的な役とかドジだったりする役が多い。 アーチャー 人気アイドル。カリスマ的な人気と絶対的な信者（ファン）を誇る。 言峰綺麗 元お笑い芸人。当時のコンビ名は『麻婆豆腐』。売れなかったため解散しタレントへと転身。 アサシン ダンサー集団。某ニコニ○動画にて話題になり、TV出演が増える。正体は不明。 雨生龍之介 人気アイドル俳優。ジュ○ンコンテストで優勝した経歴を持つ。 キャスター 個性派俳優。コミカルな役から渋い役までこなす。 衛宮切嗣 超実力派声優。舞台俳優としても活躍する。 セイバー ○塚出身の舞台女優。男役だったためどうにも王子様気質が抜けない。 間桐雁夜 元歌手の俳優。昔はバーサーカーと組んで歌手をしていたが解散後に俳優へと転身。 バーサーカー 歌手。昔は雁夜と組んでいたが解散後は一人で歌手活動を続ける。 一応簡単に書いてみた 詳細はテスト終わり次第うｐ予定 気がすんだら消します<(_ _)> 居ない人とかいてホントごめんちゃい！！

fate/zeroで芸能界パロ<br />もしもこの作品がドラマだったら。。。<br /><br />授業中にハッ！！とか思いついたんですが、二番煎じだったようで。。。<br />ホントスイマセン&lt;(_ _)&gt;<br /><br />後日詳細設定を載せますが、気がすんだらその詳細設定ごと消してしまうつもりですんで(*_*;<br />今は許してください！<br />後悔はしていない！！<br />詳細①うｐ→<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=651183">novel/651183</a></strong><br />詳細②うｐ→<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=652918">novel/652918</a></strong><br /><br />あしたから中間試験なのになにやってるんだろ。。。<br /><br />ルーキー６０位ありがとうございます！！

芸能界パロ設定

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これは個人の妄想の産物です。 しかも三条のメンバーに姉と慕われています。 キャラの口調、性格は想像なので合ってないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。 話の都合上とある刀剣男士がロリコンみたくなってますが決してそんなことはありません。 それでも良いというかたはお読みいただければ幸いです。 [newpage] [chapter:在りし日の日常の話] 　カンカンと鉄を打つ音をまるで子守唄のように聞きながら目を閉じて微笑む女人が一人。紅を引いた口唇が静かに弧を描くさまは酷く優しげで、同時にゾッとするほどの色香を感じた。 　天の川のように流れる銀の髪を、小ぶりな鈴のついた赤い紐で毛先のほうだけ緩く結い、繊細な刺繍がしてある水干を着た女だ。額に描かれる赤い花鈿ですら彼女の美貌を引き立て、肌が透ける紗を被った姿は高貴な貴族を想わせる。髪と同じく銀に彩られた長い睫毛が震え、ゆっくりと持ちあがる。覗いた双眸は黎明の空をそのまま映したかのようで、その美しさに魅入られればたちまち吸い込まれてしまいそうなほどだった。 　腕の良い職人に精巧に作られた人形のような、人外の美貌を持つその女人は、事実人ではなかった。とある名も無い鍛冶師が生涯かけて打った最高傑作。 　――――[[rb:天命>あまのみこと]]、それがこの美しい女の名前だった。 　◆ 　刀として生まれ落ちた瞬間から彼女は目覚めた。赤子が産声を上げるかのように、この世に器を持った瞬間、天命は煤だらけで汗を流すその男に。こちらを見て零れ落ちそうなほど目を見開いたその男に、静かに涙を流しながらうっそりと微笑んだ。 　 　「父上」 　それを聞いた時の男の顔の、なんと嬉しそうなことか。言葉が出ぬほど感極まったその男は天命と同じように大粒の涙を流しながら、彼女を強く、けれど壊れてしまわないよう抱きしめた。美しい娘が出来たと、家族を持たぬその男は歓喜した。 　そして男はその美しい刀に名を付けた。まるで、神が己に命を授けてくれたようだから、「天命」と。 　男はまるで命を本当の娘のようにたいそう大事に扱った。出来たばかりのその刀に、まるで娘に着物を送るかのようにあれでもない、これでもないと装飾に頭を悩ませ、命に聞くのだ。お前はどれがいい？と。しかし命はその問いに微笑むばかりか、父上が選んだものならば、と何とも父泣かせなことを言ってくれる。それに照れたように笑いながら、男はまた頭を抱えるのだ。それを命は嬉しそうに、楽しそうに口元を袖で隠して笑う。 　ようやく考えに考え抜いたすえ、男は刀にあまり飾りを付けないことに決めた。下手に飾りを付けずとも、己の[[rb:刀>むすめ]]は美しいと考えたからだ。しかし、あまりにも飾り気がないと少し物足りない。だから飾りはどれも繊細かつ華美になり過ぎぬよう留めた。そうして最後の仕上げに、飾り結びをそっと施した。小ぶりな鈴がついた赤い可愛らしい紐で。 　男の手によっていっそう美しくなった命は花が綻ぶような笑顔を見せた。紗を被り、髪先を鈴のついた紐で結うその姿は、まるでどこぞの高貴な人のよう。 　男はやはり照れながら、鈴は魔除けにもなるからと愛おしそうに微笑んだ。ですが、夜は魔を呼ぶのですよ？と命がおかしそうに言えば、少し怒ったように鳴らさねばよい、と言う。その言い方と態度に、命はまた笑った。 　しかし男と命の生活は、長くは無かった。 　男は言った。自分はもう長くないと、だからこそきっと、それを哀れんだ神がお前をくれたのだろうと。何でもない昼間に、まるで世間話をするかのように男は笑って言った。命は何も答えない。 　男は言った。お前を打てた時、もうこの世に未練などないと思ったよ。こんなに美しい[[rb:刀>むすめ]]を打つことができたのだ。もう、己の才に嘆くことも無い。命は何も答えない。 　男は言った。そう、思っていたのだがなあ。お前に姉弟刀か、夫婦刀でも打ってやりたかったなあ。しかし俺はもうこの様だ。金槌を持つことすら手が震えて出来ない。情けないことだなあ。命は何も答えない。 　自嘲気味に笑って、頭を掻く男に、命は――――目を細めて微笑んだ。 　父上、可笑しなことおっしゃりますな。この天命を打てたのは、紛れも無く父上に才があったゆえ。それを神のお陰になさるなど、謙遜も過ぎまする。いくら父上が信仰心に篤くとも、それでは神も困ると言うもの。己にこの天命を打つに相応しい才があったことを誇りなされ。 　弟や夫を、欲しいと思うた事はありませぬなぁ。父上と二人、静かに過ごすことはそのような瑣末なことを考える暇も無いほど満ち足りたものでしたゆえ。 　黙って命を見つめるその男に、命は静かに微笑み、そっと単袴を外す。美しい空の瞳と、男の視線が絡む。耐えきれなかったのは男の方だった。唇がわななき、押し殺したような声が喉で鳴る。 　震える背中は酷く小さなものに見えて、命はその背を包むようにそっと寄り添った。それが、男のせき止めていた何かを壊すきっかけとなったのだろう。男は声を上げて、片手で顔を覆って泣いた。 　すまない、すまない命。本当ならお前を存分に使ってやれるもののところへお前をやるべきだった。だが、俺はそれをしなかった。全部全部俺の勝手だ。お前を手放したくなかった。ここでまた独りになることが俺は怖かった、恐ろしかった。どんなにお前を人のように扱っても、娘のように扱っても、お前が刀であることは変わりはしないのに、お前が使われたがっていたことを知っていたのに、俺は素知らぬふりをした。すまない、すまない、俺は、もう、独りになりたくなかったんだ。 　己の内心を泣きながら吐露するその男を、命は責めることも詰ることもやはりせず、愛おしそうに笑みを深め、囁いた。 　知っておりますよ、ええ、知っておりましたとも。父上が我が身を思い、葛藤してくださったことも。孤独を恐れていたことも。父上、泣かないでくださいませ。謝らないでくださいませ。独りは寂しいことではありませぬか。独りは悲しいことではありませぬか。それを嘆かぬ人の子など、恐れぬ人の子など居りましょうか。あなたさまは何も悪くはございません。何も悪くはないのです。父上、わたくしが使われたいと思うておったのは、あなたさまの名を皆に知らしめたかったからにございます。わたくしの切れ味を知れば、皆があなたさまの名を知ると思うたからです。そうすれば沢山のものたちがあなたのもとに足を運びましょう。弟子だって何人もできるでしょう。そうすれば、あなたさまは独りではなくなるでしょう？寂しくはないでしょう？ 　命の言葉を聞いて、男は益々涙を零した。嗚咽に詰まり、咳をする男に命は少し困ったように優しく背をさする。 　泣きながら、男は笑った。引き攣った、お世辞にも綺麗とも言えないような笑みだったが、それでも命にとっては愛しい父上の笑顔だった。 　お前は本当に良い子だなあ、命。俺みたいなのから何でお前みたいなのが出来たのだろうなあ。 　言われた命は、きょとんとした表情をした後、おかしそうに笑った。 　父上と共にいたからに決まっているではありませぬか。 　それを聞いた男はまた泣いた。 　命はそんな男に寄り添って、目を閉じた。――――哀れな父上。愚直な父上。愛しい父上。 　ぬしが側にと望むのであれば、とこしえに側にあろう。しかしそれはきっとありえない。独りを嘆くこの男は、それでもきっとわしを何処ぞにやるのだろう。わしはぬしから創りだされたものなのに。好きにすれば良いのに。ああ、本当に難儀な人の子。そして、残酷な人の子。 　父上、あなたさまは手放したくないと嘆きながら近いうちにわしを手放すのだろう？そうして独りでひっそりと往かれる気なのだろう？ 　わかっておる、わかっておるよ。ぬしはそういうお人じゃ。だからこそわしはおぬしを父と慕ったのだから。 　 　父上、わたくしを手放す気なのでしょう？ 　……やはり、わかるか。 　わたくしは父上によって打たれた身。わからぬわけがありますまい。――――だが、そのようにはうまくはいかぬぞ？父上。 　優しく微笑む命に、口調の変わった娘に、男は戸惑ったような表情を向ける。 　たとえぬしがわしを何処かにやったとしても、ぬしがここに在る限り、わしは必ず戻ってこよう。そうさな、毎夜毎夜その持ち主の枕元にでも立って父上のもとに返すよう脅して見ようか。それとも鯉口をことあるごとに鳴らそうか。どちらにせよ、持ち主はすぐにわしを父上のもとへ返すであろう。そうすると、父上。困るのはぬしじゃ。ぬしがいなくなった後、わしを引き取ろうとする者はいなくなる。そうなると、わしは寂しいのう。困るのう。 　お前、案外いい性格だったんだな。 　はてさて、何のことやら。して父上？わしとしてはこのままおぬしの傍に在り続けたいのじゃがのう？どうしたものか。 　……俺がいなくなったらどうする気だ？ 　本音を言えば、共に墓に入って眠ってしまいたいくらいじゃが、父上はそれを望んではおらぬのだろう？なれば後のことはどうでもよい。わしはな、父上の評判が上がればそれで良い。好きにしておくれ。だが、これだけは譲らぬ。わしを余所にやってもよいのはぬしが往った後じゃ。ぬしはわしに弱った姿を見られとうないと思うておるのかも知れぬが、そのようなことは瑣末なこと。何、存分に情けない姿を晒しておくれ。その全てをわしは慈しみ、愛でよう。 　……はは、いったい誰に似たんだろうなあ 　無論、父上以外におるまいて。 　ころころと袖で口元を隠して笑う命に、男は苦笑して最後に一筋の涙を流す。これ以上格好悪いところを娘に見せたくはなかったんだがなあ、と呟く男に、命は聞こえぬふりをして笑った。 　ありがとうと囁くような呟きも、命は気付かぬふりをした。 　 　◆ 　音が止んだ。 　命はそっと瞼を上げて微笑む。影のある儚い微笑みだった。 　男はあの後、間もなく逝った。命を最後まで側に置き、笑いながらこの世を去った。 　その後は、男が用意していた貰い手に貰われ、現在命はとある有名な鍛冶師のもとにいた。しかもこの命を貰い受けた男。随分と前から命に目を付けていたらしく、度々譲ってもらえないかと尋ねて来ていた男だったらしい。その男は尊い人々も、同職の者たちも名を知らぬものはないほど腕のある男で、実際彼の腕は素晴らしいものだった。そんな彼に打たれた刀たちは皆、命が見る中では人の器を持っていた。彼らに姉と慕われるのは嬉しい。性格もそれぞれ個性があり見ていて飽きないからだ。 　 　「天命」 　「……おや、もう出来たのか？」 　「ああ、傑作だ」 　男の手に握られる美しい刀。そしてその足元に隠れるようにしてこちらを窺う、青い狩衣を着た、愛らしい童の姿に命は目を細める。 　静かに微笑んで、単袴をそっと持ち上げる。 　「他の者にはもう紹介したのか？」 　「ああ、お前が最後だよ」 　「ほう、童、わしの名は天命。好きに呼ぶとよい。して、ぬしの名は？」 　「……三日月、宗近」 　「……良い名じゃ」 　その名の通り瞳に三日月を宿す童に、命はいっそう笑みを深めた。 　微笑まれたことが恥ずかしかったのか、三日月はさっと男の後ろに隠れる。その行動すらも愛らしいと命はころころと笑った。 　その笑顔に影はもう無かった。 　◆ 　「姉様、ミコ姉様」 　「おお、どうした三日月や」 　「庭に美しい花が咲いております」 　三日月が庭に咲く花を指差しながら、微笑む。それに同じように微笑みながら命もそちらを見遣る。ああ、美しいのう、と命は立ち上がり花の許へと歩を進める。当然のようにその後ろをついて来る三日月に内心でくすりと笑いながら命はその美しい髪が地面につくことも厭わずしゃがみ込んだ。 　初めの頃は皆、折角の髪が汚れるっと小狐丸を筆頭に騒いでいたがその騒ぐ様を楽しむように彼女が色々なことをしてくれるものだから、彼らはもうすっかり慣れてしまった。それでも汚れてはしまわないかと内心ではらはらすることには変わりないのだが。 　 　「はて、これは何と言う花じゃったかのう？」 　「俺もわかりませぬなあ」 　「勿忘草ではないかな」 　落ち着いた声の持ち主の方を命は振り返ることなくそうであったとおかしそうに笑った。 　三日月が振り返って、その者の名を呼ぶ。 　「石切丸」 　「まったく、姉君。またあなたはそんなふうに……小狐丸が悲鳴を上げてしまうよ」 　「はてさて、何の事かわからぬなぁ」 　単袴から覗くその表情は石切丸が想像した通りに楽しげだった。口元を上品に袖で隠しながら微笑む姿は相も変わらず美しい。夜明けの空の如く瞳に吸いこまれれば、たちまちその者はこの[[rb:刀>おんな]]に魅せられ、欲さずにはいられなくなる。 　くすくすと笑いながら命は再び足を進める。ふらりふらりと気紛れに行く様は、猫のような、蝶のような。兎にも角にも気紛れなものだと石切丸と三日月は顔を見合わせ苦笑する。 　少し先に、見慣れた姿が見えた。小狐丸に岩融、そして今剣の姿が見える。それを視界に入れながら、命は誰にも聞こえぬような声でぽつりと呟いた。 　「…………〝私を忘れないで〟」 　誰にも聞こえぬように呟いたのだから、勿論すぐ後ろを歩く三日月と石切丸にも届きはしない。 　命はくつりと笑み、己の父を思う。 　凡庸で、愚直で、弱い人だった。そして不器用な出来の悪い男だった。 　 　「忘れはせぬよ、とこしえに」 　ちりん、と風に揺れた鈴が音を奏でた。それに命はまた微笑んだ。 　◆ 　一振り二振りと、彼らは何処ぞへ貰われていった。 　とある武士のもとへ行くものや、流れに流れ神社に奉納されるなど、まあ用途は様々だ。 　すっかりと静かになった屋敷で、命はじっと庭を眺めていた。何せもうすぐ彼女も新たな主の許へ行くのだ。見おさめにと命にしては柄にもなく少々感傷に浸っていた。 　しかし不意に感じた気配に、くすりと笑みが零れて、命は振り返らずに独り言のように呟いた。 　「この庭も見納めじゃなのう、可愛い雛鶴」 　「……何だ、ばれてしまったか。折角きみを驚かせることが出来ると思ったんだがなあ」 　どかり、と隣に胡坐をかくのは全身真白の男。鶴丸国永だ。くすくすと笑う彼女に少しだけ不満そうな顔をしていい加減その雛鶴ってやめてくれないか？と零した。それがまた命にとっては愛らしくてたまらないのだろう。ころころと彼女は笑った。 　「わしにとっては皆、可愛いままよ。して、今日は手向けの言葉でも言いに来てくれたのかえ？」 　「まったく敵わないなあ……いや、それも考えたんだが何を言ってもきみはその顔を崩しはしないだろうから最後に驚く顔を見てみたかったんだがなあ」 　「おや、それは残念じゃったのう」 　口元に弧を描いたまま、命は鶴丸に視線を遣る。 　人の子とは違う彼らの成長はあっという間だった。あんなにも愛らしかった彼らは瞬く間に成長し、そして美しくなった。 　はてさて、己はどうだったかと心の中で首を傾げ、最初からこの姿だったのう、と不思議に思いながらも命は自己完結した。考えてもどうせわからぬのなら考える時間が無駄と割り切ったからだ。 　日差しは温かく、風は心地良い。 　何をすることも無く、二振りはただ静かに庭を眺めていた。それだけで、何故か酷く満ち足りたものを感じることができたからだ。 　ふっと隣を見ると、自然と鶴丸と目があった。 　そしてそのまま自然と、命の手は鶴丸の白くて柔らかい髪を撫でていた。 　「命姉様？」 　「ぬしは良い刀じゃからのう、引く手数多であろう。しかし少し落ち着きがないからわしは心配じゃ」 　「……俺だって公使は弁えるさ」 　「ふふっ、そうであった、そうであったな。ぬしは無知に見せかけて、よく周りを見る子じゃからなぁ、きっと良い主に恵まれるであろう。達者で暮らせよ、鶴丸」 　「姉様は、ずるいなあ。こういうときに俺の名をきちんと呼ぶのだから。ああ、命姉様もきっと良き主に恵まれるさ。どうか、達者で」 　――――互いの往く末に幸多からんことを。 　[newpage] [chapter:嫁入り刀になった話] 　その刀はとある無名の鍛冶師が生涯をかけて打った傑作だった。華美ではないが繊細に施された装飾に、赤い小ぶりな鈴がついた飾り紐のついたその刀は誰が見てもたいそう美しいものだった。 　腕の良い、この三条でその名を与えられた鍛冶師の名を知らぬものはここにはいない。そんな彼の許に娘の嫁入りに相応しい短刀でもと尋ねて来た男はその美しい刀。[[rb:天命>あまのみこと]]に一目で心を奪われた。彼は、金ならばいくら払っても惜しくない。どうしてもこの刀を娘の門出に渡してやりたいと懇願した。一般的には短刀が普通である嫁入りの刀に、太刀はどうかと諭して見たが、どうしてもと男は引かなかった。その男に三条はかつての自分を垣間見たのか、譲ることを決意した。 　そうして天命はその家の娘の嫁入り道具の一つとされ、丁寧に運ばれていった。 　しかししばらくしてのことだった。どうにも皆が首を傾げる不思議なことが起こり出したのだ。 　 　ある日、その屋敷の子どもが庭できゃらきゃらと楽しそうに笑っていた。見ると蹴鞠に興じているようで、それはそれは楽しそうに遊ぶ姿に女中たちは微笑ましく見守っていた。しかし一人の女中が不意に気付く。後ろ姿しか見えないが日に煌めく銀の髪を毛先だけ赤い鈴のついた紐で結った、繊細な刺繍があしらわれた水干を着た紗を被った御仁。顔は見えないはずなのに、きっとたいそう美しいのだろうと思わせるそんなどこぞのやんごとなきお方の知り合いなど、いたのだろうか、と。しかも今にも日に溶けて消えてしまいそうで何故かはっきりと見えないその人を、女中は不思議と恐ろしいとは感じなかった。 　またある日のことだった。この屋敷に嫁いできた奥方様が疲れて机に伏せって眠ってしまったときのこと。なにやら優しく頭を撫でられている感覚に、そっと顔を上げれば、この世のものとは思えぬ美貌を持った女人がうっそりと微笑んだ。愛おしげに細められるその優しい瞳に安心して身を預けていれば次第に瞼が重くなり再び奥方様は眠りに落ちた。ふっと目が覚めれば背後には掛け布団を持って驚いたように固まる女中がいて、あれは夢だったのかと一人心地る。しかし不思議と疲れがすっかり取れているなと思えば、女中がにこにこと微笑ましそうに可愛らしいですね、と言う。何の事かわからぬ奥方様は不意に自分の髪に挿されている一輪の花に気がついた。娘様がしたのですかねと笑う女中に、奥方は心の中でひっそりと、あの美しい人がしてくれたのだろうと、何故か確信を持っていた。 　またある日のことだった。この屋敷の旦那様は甘いものにたいそう目が無い人だった。普段から皆が心配して、甘いものは程々にと口酸っぱく言うのだが止められない困った御仁でもあった。そんな旦那様は今日も今日とてこっそりと隠した甘味を皆の目を盗んで食そうとすると、隠してあった饅頭が忽然と姿を失くしていた。さすがに隠していた饅頭を食べたのは誰だとは言えぬし、見つけた者が食べてしまったのだろうと旦那様は隠す場所を変えた。しかし何度隠す場所を変えても甘味が忽然と姿を消す。不思議に思った旦那様はとうとう隠した戸棚の近くで、誰が来るかと見張ってみた。すると、ほどなくしてやってきたのは自分の娘で、旦那様はこれまたたいそう驚いた。まさかまだ幼いわが子が再三己が隠した菓子を見つけているとは思いもしなかったからだろう。隠していた菓子を美味しそうに頬張る娘を見つめながら、旦那様は言う。お前は随分鼻が効くのだなと。感心したような旦那様に子どもは口元に菓子のカスを付けた顔で満面の笑みを見せた。ミコ様に教えてもらったのだ、と。 　さて、そのような名の女中や使用人などいただろうかと首を傾げる旦那様は、不意に妻が嫁入り道具にと持ってきた刀のことを思い出す。天命、確かあの刀はそういう名ではなかっただろうか。驚愕する旦那さまを余所に、娘は嬉しそうに破顔した。母さまが父さまのもとに嫁いだときからいる綺麗な女の人だと。母さまが父さまの甘味を隠して食べる行動に悩まされていたからお前がかわりに食べておしまい、と言われて隠し場所を教えてもらっていたのだと。 　これにはさすがの旦那様を参った。まさか刀に憑いたその人にまで知られていたとは。それ以降、旦那様は甘味をほどほどに控えるようになり、皆も安心したとかしないとか。 　他にも上げればきりがないほどなのだが、天命はそれから代々の嫁入り刀としてたいそう重宝されたとか。 　 　◆ 　果たしてそれは何時のことだったか。 　あまりにも長い時に、命は遠の昔に数えることなど止めており、ただ自分を扱う娘たちを愛でながら、時折ちょっかいをかけては楽しみ、中々に楽しい日々を送っていた。 　そんなふうに日々を過ごし、いつものように愛い娘と共に嫁いだ屋敷で、命は出会った。 　鶯色のその人は、一瞬己を姉と慕ってくれた弟の一人を連想させたが、佇まい、物腰、その全てが違ったため命はすぐにその考えを振り払った。 　男がふっと口元を緩ませたので、命も静かに笑う。 　「驚いたな。まさか嫁入り道具の一つとして君のような刀がやってくるとは」 　「はてさて、わしも驚いたのう。まさかぬしのような刀がここにいるとは」 　「俺は古備前の鶯丸だ。よろしく頼む」 　「わしは天命。無名の男が打った刀よ。宜しく頼む」 　「さて、それじゃあうまい茶でも飲まないか？」 　「馳走になろう」 　それがこの二振りが初めに交わした会話だった。 　命の彼への最初の印象は落ち着いた[[rb:刀>ひと]]であるということ。そうして話を聞いているうちに思ったことはとんでもなく我が道を行く性格で、少々ずれた、兄弟思いの刀であること。 　鶯丸の命への最初の印象はどこぞの高貴な姫のような刀だということ。そうして話を聞いているうちに猫のような蝶のような気紛れな性格で、少々気分屋すぎるきらいがあり、誰かをからかうのが存外好きな刀であるということ。 　娘が嫁ぎ先に大分慣れて来たところで、命は満足気に微笑み、その瞳が輝いたことを鶯丸は見逃さなかった。 　旦那に娘が頭を悩ませれば、それにちょっかいをかけて笑い、娘が疲れて眠れば、我が子を見守るように優しく愛でそっと庭に咲く一等綺麗な花を髪に挿し、子どもが出来ればその子どもと共に遊ぶ。そこに時折鶯丸を引っ張って、また笑う。鶯丸もそれに特に異を唱えることなく、自分から混ざる時もあれば、微笑ましそうに見つめている時もある。ただ、その瞳は常に優しいものだった。 　命は鶯丸の入れるお茶や、彼の兄弟刀という大包平の話を聞くことも好ましいと思っていた。話をする時の彼は穏やかで、嬉しそうな、楽しそうな表情をしていた。 　ふむふむと相槌を打ちつつ、お茶で喉を潤しながら話を聞く命は合間に質問を混ぜる。それに鶯丸はまた微笑みながら答え、続きを話した。 　そうした日々をのんびりと過ごしていたある日の昼下がり。いつものようにお茶を飲みつつ大包平の話をしていた鶯丸が黙りこんでこちらをじっと見つめるので命は首を傾げる。どうした、と聞く命に鶯丸は微笑んで、君の話しが聞きたいと言ってきた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかった命は大きな瞳を更に大きく見開いた。その様子が珍しかったのか、彼は笑みを深くした。ふぅむ、と命はお茶を一口飲んで、また小首を傾げる。紗をそっと片手で上げて窺うように彼を見る。 　「わしの話しはぬしのように面白くはないぞ？」 　「面白くなくても構わないさ。君の話しが聞いてみたい」 　どこか期待したように輝くその瞳に、遠回しに断ったつもりだったが駄目なようだった。別に命とて、話すことを出し渋っているわけではない。ただ鶯丸の意図が読めなくてほんの少し戸惑っただけだ。動揺するのはらしくないとすぐさま思考を切り変えた命はいつものようににっこりと隙の無い笑みを浮かべて鶯丸を見る。 　「はてさて、何から語ればよいかのう」 　「何でも構わないさ。君が見たこと、感じたことを俺が知りたくなっただけだからな」 　「ほう、ならぬしも後で話すのじゃぞ？わしばかりでは不公平じゃ」 　「俺はいつも話していると思うが？」 　「それは大包平のことであろう。ぬしの話しは古備前のことぐらいしかまともに聞いておらんぞ」 　それもそうだったなあと笑った後、まあ細かい事は気にするなと鶯丸は茶を啜る。しかしそれではつまらないと思ったのか、少し頭を捻ったあと、閃いたとばかりに命は鶯丸に詰め寄った。(もちろん、お茶は零さないように置いてある)予想外の事に少々動揺したのか、目をぱちりと瞬かせる彼の顔を珍しいなと思いつつ、命は得意げに微笑んだ。その輝く瞳は、この屋敷のものたちにちょっかいをかけだした時と同じ目だった。 　「わしのことはぬしが語れ、鶯」 　「すまない、話しが見えないのだが……」 　「わしがわしの事を語るのは詰まらぬ。それでは面白味がなかろう。ぬしがわしを見て語ればよい。その代わり、わしがぬしについて語ろう」 　「……つまり、互いが互いの事について語り合う、ということか？」 　「うむ、名案じゃろう？この方が互いの事もよくわかるというもの、ぬしがわしのことを知りたいのと同じようにわしもぬしのことを知りたいと思うのは当然であろう？」 　 　ころころと笑う命はまるで童女のようで、鶯丸はくつりと喉を鳴らした。 　「ああ、それはいいな」 　「そうであろう？では早速わしから話してやろう」 　「楽しみだな。君から見た俺、というのは新鮮だ」 　驚くでないぞ？と茶目っ気たっぷりに笑う命は意気揚々と話し始めた。お茶をうまくいれることができたときの鶯丸はいつも以上に饒舌になるということ、考え事をしているときは大抵、大包平のことを考えていること、子どもと遊ぶ時さり気なく子どもが怪我をしないように誘導すること、合っているだろう？と袖で口元を隠す命にばれていたか、と鶯丸が笑ったり、鶯丸が気付かない癖を言われてそうなのかと驚いたりと、この日の彼は始終興味深そうだった。しばらく朗々と語っていた命が、ふむ、と一人心地お茶を飲む。どうやら命の話しはこれでお終いのようだ。 　それを言わずとも察した彼が、今度は命について話し出す。 　彼が話すことは命が思った以上に細かく、彼女よりも彼女について詳しいのではと疑うようなものだった。目をぱちぱちと瞬かせる命は、次第に不満そうな顔になる。そんな命に気付いた鶯丸が不思議そうに首を傾げた。むすっとした命は、普段あまり感情を変えない彼女にしては酷く珍しい表情の変化だった。ああ、今日はよく表情が変わるなあ、とつい先ほどの命と同じようなことを思いつつ、鶯丸は尋ねる。 　 　「…………笑わぬか？」 　「何故笑う？俺に何か不満があったなら言ってほしい」 　「そうではない、そうではないが……」 　若干バツが悪そうな命は、ふうと息を吐いて「今日はどうにもらしくないのう」と呟いた。 　いつもはきちんと視線を合わせて話す命が視線を泳がしつつ意味も無く湯飲みをつつく。 　「ぬしはよう、わしを見ておるなと思うてのう。それはまぁ、嬉しいとは思うが、わしが発案した事なのにわしよりぬしのほうがよう見ておったことが、な。まぁ、その、何だ、それに少し、少しだけだぞ？……負けたような気がしてな、いや、勝ち負けではないがこう、ぬしより沢山言える自信があったのじゃが……」 　拗ねたようなその言い方に、鶯丸が笑いを堪え切れなかったのは仕方がないことかもしれない。聞いた初めは笑うまいと必死に我慢していた鶯丸がの肩が次第に震えだして、最後には腹を抱えて笑いだした。大声で笑っている訳ではないが、堪えようとして堪え切れなかったという笑い方に、これまた珍しい事に命の頬に赤が走った。 　前かがみになりながら肩を震わして笑う鶯丸の背をばしばしと叩きながら「笑わぬと言うたではないか！！」と憤慨する彼女がまたツボにはまったのか更に噴き出した彼に、命はいよいよ居た堪れなくなり「もうよい！」と背を向けて歩きだした。何処に行くのかと涙目で聞く彼にねめつけ、「娘御のところよ」とヤケクソ気味に言ったかと思えば、振り返って悔しそうな、不満そうな顔をしたまま鶯丸を見た。 　「よいか、明日はぬしよりも多くを語るからな？そのときは覚えておれ」 　それだけ言い残して、遠のく彼女の背を鶯丸は蕩けるような笑みで見ていたことを振りかえらなかった命は知らない。「ああ、それは楽しみだ」と彼が嬉しそうに呟いていた事も。 　 　それからは、大包平の話しが一通り終わると、互いのことを話すようになった二振り。命から話し出すこともあれば鶯丸から話しだすこともある。さて、その勝敗の行く末だが、ついぞ命が鶯丸に勝つことは無く、その度彼女は複雑そうな顔をし、鶯丸は穏やかにそれを、それはそれは幸せそうな笑顔を浮かべて眺めていた。 　命は自分よりも自分の事に詳しい鶯丸を不思議と思っても嫌とは感じなかった。鶯丸も己より己に詳しい命のことは好ましかった。しかし、別れとは常に突然やってくるもの。 　永遠に等しい時を過ごす二振りにとって、人の成長など星の瞬き同等に刹那のこと。周囲に大切にされながら育った童女は、気付けば娘へと成長し、嫁ぐ日がもう眼前にせまって来ていた。命は嫁入り刀。もちろん今回も例外なく、嫁入り道具の一つとして娘とともにこの屋敷を発つ。鶯丸とするこのお茶の一時にも、終わりがやって来ていた。そのことがわかっていても命の態度は変わらない。いつものように大包平の話しを聞いて、どちらかともなく互いのことについて話しをする。その日もいつものように、和やかに、けれど命が少し複雑そうな顔をして終わるはずだった。 　 　「ついぞ、ぬしには敵わなかったのう……」 　「君の話しも中々に興味深いものだったがな」 　「わしから言いだしたことなのに、何とも複雑な気分じゃ……」 　「命」 　いつものように穏やかで、いつものように落ち着いたはずの声色であったはずなのに、それは妙に真剣さを孕んでいるものだった。わざとそのことに気付かないふりをした命はいつも通りの笑顔でいつも通りに問いかける。 　「何ぞ？鶯や」 　「君が好きだ」 　あまりにも唐突で、突拍子もないそれに、けれど命が驚くことはなかった。 　命とて、無駄に永く生きているわけではない。人の近くで生きて来た彼女にとって、鶯丸が向けてくる視線は、命が一等近くで見てきていたものである、想い人を見るそれだということに遠の昔に気がついていた。だが、彼女はそれにずっと気付かないふりをしていた。 　穏やかな彼と過ごすこの時間が好きだった。その時間と同じくらい穏やかな彼の隣にいることが心地良かった。嗚呼、それなのに。 　伏せ目がちに微笑う命は、鶯丸の真摯な、それでいて確かに熱を孕んだ瞳から逃げるようにそっと顔を逸らした。手元に在る、すっかりと空になった湯飲みを置いて、力なく首を振る。 　「やめてくれ、鶯」 　「すまないが、それは聞けない。俺は君のことが……」 　「やめよと言うておるっ！！」 　耳を塞いで聞きたくないと叫ぶ彼女に、いつもの余裕さは欠片も見当たらない。聞いてくれと請う鶯丸に対して、いやいやとまるで幼い子どもが癇癪を起したように首を振る。 　ついには立ち上がって逃げようとする命を捕まえ、二振りは勢いのまま、倒れ込んだ。それでもまだ逃げようと藻掻く彼女の両腕を押さえれば、濡れた命の瞳と、僅かな焦りを含んだ鶯丸の瞳が絡む。口唇を噛む命に困ったように眉を下げて鶯丸が笑った。 　「強く噛むと、傷がつくぞ」 　「たわけ、そのようなこと今はどうでもいい。退け、重かろう」 　「すまない、それも聞いてやれないな。退いたら君は逃げるだろう」 　「蹴るぞ」 　「構わない」 　「噛むぞ」 　「構わない」 　「……泣くぞ」 　「……それは、少し困るな」 　冗談のような軽口の応酬。こんな体勢でさえなければ、いつもの軽い冗談ですませられるものだった。 　逃げられないと悟った命が身体の力を抜けば、鶯丸がそっと命の口唇に指先で触れる。壊れものを扱うような慎重で優しい手つきだった。 　鶯丸に触れられた部分がじわじわと熱を持って、火傷するようで目眩を起こす。 　「なあ、命。俺が、君と夫婦刀でありたかったと言えば君は笑うか？」 　「…………なってどうする。何も変わりはしないだろう」 　「いいや、堂々と君を俺のものだと言うことができる」 　「たわけ」 　「ひどいな」 　「……ひどいのは、ぬしの方であろう」 　それもそうだな、と彼は笑う。命は笑い返してやろうとして、結局出来なかった。 　何故、この男は今になって言うのだろう。何故、言わないでいてくれなかったのだろう。ぐるぐるぐるぐる、何故、何故と命の頭の中はそのことばかりで何もわからなくなる。 　今日で終わりのはずだった。わかりきっていたことだ。娘が嫁いで、女児が生まれた時点で命がこの屋敷に留まる時間は限られたものになったことを。そのことに不満などあるわけない。愛しい子の、愛しいものを守れるのだ。これほど嬉しいことはない。この思いが変わることはないのに。 　いつからだっただろうか。このままこの屋敷で過ごせればと思ったのは。 　いつからだっただろうか。童女だった愛し子の成長を心から喜べなくなってしまったのは。 　父上の時にも思ったそれとは似て非なるこの思いから逃れたくて命はずっと知らないふりをした。わからないふりをした。それなのに、彼はそれを許してはくれない。見逃してもくれない。 　 　――――嗚呼、ぬしのせいじゃ、ぬしのせいじゃ、鶯、鶯丸。 　全部彼のせいだ。この焼けつくような痛みも、切なさも、心の奥底から湧いてくる喜びも。すべて、彼のせいだ。 　感じたことのない感情を、認めたくない命はだからこそ嘘を吐いた。そうしないとこのままでは自分を見失いそうで怖かったから。知らないうちに己の価値観そのものが変わりそうなことに恐怖したから。 　だから彼女は嘘を吐く。己の気持ちも押さえこんで、最初で最後の嘘を吐いた。たとえぞれが、彼に通じるものでないとわかっていても。優しい彼は、それに何も言わないことをわかっていたから。 　「わしは、ぬしのことなど好きではない」 　「……」 　「きらいだ、鶯。おぬしのことなど、嫌いだ」 　声は無様に震えていて、何と格好のつかないことだろうか。自分で言った言葉なのにそれは酷く命の胸を抉って、血と一緒に本当の想いまで溢れてしまいそうに感じて、自嘲気味に命は笑った。 　「そうか」と呟く鶯丸の声色は別段いつもと変りは無くて、そのことに理不尽にも少しだけ腹が立って、悲しかった。心とはなんてやっかいなものだろうか。それとも彼と出会わなければこんなふうに掻き乱されることもなかったのだろうか。命にはわからない。 　不意に鶯丸の手が、命のまろい頬に触れた。何処か怯えたような彼女と目が合うと鶯丸は優しく微笑んだ。 　「泣くな。命」 　そこで初めて命は己が泣いていることに気がついた。ああ、こんなふうに泣いたのは父上と初めて[[rb:身>まみ]]えた時以来だ。父上が往った時ですら、姉と慕ってくれた彼らと離れる時ですら泣いたことなどなかったというのに。 　ああ、いやだ。どうして彼の前ではこんなふうになってしまうのだろうか。いつも通りに振る舞いたいのに、彼の前ではこんなことばかりだ。 　 　じっと鶯丸を見上げていると、彼が少し目を伏せた。 　優しく彼女の涙を拭って、命の目元に口唇を寄せた。彼の突然さは今に始まった事ではないが、それに驚愕しすぎたのか命の涙はぴたりと止んだ。それに鶯丸がまた笑う。 　茫然とする命の口唇に、今度はそっと啄ばむだけのくちづけをする。ぱちぱちと瞬きする命は状況が掴めていないのか、はたまた現実逃避をしているのか。そんな彼女にもう一度彼はくちづけた。口唇を離す瞬間に、己の口唇を舐められた命がようやく正気にかえる。 　真っ赤な顔で魚のように口をぱくぱくとさせる命を鶯丸はあやすように額の花鈿に口唇を落とした。混乱して命が何も言えないのをいいことに彼女を抱きこんでごろり彼は寝がえりを打つ。体制が逆転して、命は鶯丸の上にしがみ付く形で乗っているのだが、冷静でない彼女には何が起こっているのかわからない。 　そんな命を愛おしそうに見つめながら、鶯丸は優しく彼女の頭を撫でた。被っていた紗は寝返りを打つ際、とっくの昔に落ちてしまった。 　「君は存外臆病だな。自分すら傷つくような嘘なら吐かなければいいだろうに」 　「…………うるさい」 　「だが、君の泣き顔はこたえるな。不思議なものだ。君の調子が崩れることは嬉しいはずなのに、泣き顔だけはどうにも駄目だ。命、君を困らせるつもりはなかったんだ。ただ、知っていてほしかった。こんなにも君に焦がれている男が一人いることを忘れないでいてほしかったんだ。なあ、命。俺の可愛いひと。こんなにも焦がれて、自分ではどうしようもない感情を俺は初めて知ったよ。君が傍にいるだけで、君が俺に笑いかけてくれるだけで、それだけでどうしようもなく心が躍ったんだ。まるで〝人〟になったかのようだ。〝人〟はあんなにも短い一生でこんな想いを抱いて、伴侶を見つけるんだな。それはきっと、とても幸福で、けれど難しいことなんだろう。永い時を生きる俺たちですらこうなんだ。〝人〟とは、難儀なものだな」 　「命、君は無理に応えなくてもいい。身勝手な男と思ってもらっても構わない。ただ、ここを離れた時、時々でいい。そんな馬鹿な男がいたと、思い出してくれ」 　ひどい男だ。時々でいいと言いながら、こんなにも命の中に己の存在を刻みつけるひどい男だ。けれど、一番ひどいのは自分だ。彼が真摯に伝えてくれた想いを、逃げようとしたばかりか嘘で誤魔化そうとした。 　そうわかっているのに、命はこの気持ちを鶯丸に伝える勇気がなかった。伝えれば、きっと離れがたくなってしまうから。きっと、縋ってしまうから。だから命は何も言わない。何も言えない。 　 　「……鶯」 　「ん？どうした」 　 　 　あやすように背を撫でる彼の腕から逃れて、鶯丸の襟首を掴む。驚く彼に勢いのまま命は口唇を押しつけた。勢いが強すぎて、歯が当たって少々痛かったが、それが彼女が鶯丸に向き合える唯一だった。言葉では伝えることが出来ないから、それ以外で伝えたかった。 　しかし、そんな彼女の想いを理解しながら、自ら飛び込んできた兎をみすみす見逃すほど鶯丸は甘くはなかった。目を固く閉じていた命は気付かない。彼の瞳に野生の獣のような獰猛な色が見えた事に。 　口唇を離そうとした命の後頭部を掴み、くちづけを深くする。驚愕に見開いた命に目を細めて、何かを言おうとした彼女の開いた口唇から鶯丸は舌を滑り込ませる。 　それに更に驚いた命は鶯丸の胸を押して距離を取ろうとしたりなど抵抗していたが、次第に力が抜けていき、ついには彼の服を震える手で掴む。ようやく口唇を離せばどちらのものともいえない銀の糸がぷつりと切れて、鶯丸がそれを手で拭い舐める。ぼうっと蕩けたような目でそれを見ていた命も、少しして正気に戻りきっと気丈に彼を睨んだ。 　涙目で睨む可愛いひとに鶯丸はふっと笑いかける。いつもの穏やかな笑みではなく、色香を感じる微笑だった。 　 　「命」 　「……何ぞ」 　「君が好きだ」 　「……知っておる」 　「鶯」 　「何だ」 　「……嫌いでは、ないぞ」 　「知っているさ」 　「なあ、命」 　「……」 　「もう一度いいか」 　「…………好きにしろ」　 　さようならとも、また逢おうとも鶯丸は言わなかった。命もそのことは口にしない。刀である自分たちが次に逢えるかどうかなどわかりはしないからだ。いや、むしろもうこのまま逢えないことの方が多いだろう。命も鶯丸もどこで折れてしまうかわからない。折れはしなくても、誰かの墓で共に眠れば、それこそもう逢うことなどないのだから。 　戀とはいとしい、いとしいと言う心と書くのだと昔誰かが言っていた。 　ああけれど、この感情は恋と呼ぶには穏やかで、愛と言うには求めすぎる。 　触れるだけのくちづけは、涙の味がした。 [newpage] [chapter:遠い未来の話し] 　――――あつい、あついよぅ、たすけて、たすけて。 　ぱちぱちと何かが弾けて、砕けた音がする。視界は黒と赤で覆われてもうここがどんな部屋だったのかもわからない。 　悲鳴が聞こえる。ああ、行かなければいけない。泣き声が聞こえる。守らなければ。愛し子を、大切な子を守らなければいけない。 　熱い熱いと泣く子どもはそれでもわしのことを離しはしない。ぎゅっと胸に抱きしめてぼろぼろと涙を流しながらわしに助けを請う。その健気な姿に思わず笑みが零れた。愛しい子、可愛い子。ああ、安心するといい。そなたはわしが守ってやろう。泣かないでおくれ、お前の目が溶けてしまうよ。 　苦しそうに咳をする愛しい子を抱きしめる。 　あまりこの空気を吸ってはならぬよ。喉が焼けてしまう。人の子は弱いから、きっと喉が傷ついてしまう。可愛い可愛いそなたの声が聞こえなくなれば、きっとそなたの母上と父上は悲しかろう。大丈夫、大丈夫。このミコ様が傍におる。安心おし。 　――――ミコさま、ミコさま……刀があつい、ミコさまもあついの？ 　優しい子。そうさな、少し熱いのう。だがそなたに比べればまだまだよ。そうさな、そうやってわしをしっかり持っておれ。決して離してはいけないよ。 　炎がすぐそばまで迫っている。この部屋の逃げ場などとっくの昔にありはしなかった。けれど、この愛し子を守るくらいの力ならあるだろう。わしは数多の人の想い受けたのだから、この子を守ることくらいはできるだろう。 　パキッ、と己の本体である刀身に罅が入った。それが聞こえたのだろう。子どもは不思議そうな顔でわしを見る。それに何でもないと微笑みかけて抱きしめる力を強くする。 　背中がじりじりと焼けている。わしが焼けているのだから本体だってただではすまぬだろう。こんなふうに長いこと人の前に姿を現すことは今までなかったなあと頭の片隅でぼんやり思った。 　再び響いたその音に、勘の良いこの子は気付いてしまった。泣きながらわしに縋る子の、何と愛しいことだろうか。泣くな、泣かないでおくれ、大丈夫、大丈夫。そなたが泣くことなどありはしない。だからどうか、笑っておくれ。朦朧とする意識の中で、思い出したのは何だったか。笑った父上の顔、困ったように笑うわしを姉と慕ってくれた弟たち、あと、それから――――穏やかに笑う、彼は……。 　ちりん、と場違いな鈴の音が響いた。 　 242 :とある本丸のさにわさん 新しい刀剣実装されたよな しかも女士 243 :とある本丸のさにわさん びびりすぎて５度見したわ 244 :とある本丸のさにわさん おれは天を仰いだ そして前田からお気を確かに！ってガチめの心配されてちょっと悲しかった 245 :とある本丸のさにわさん 前田いい子じゃないか 俺なら無視してるぞ 246 :とある本丸のさにわさん 俺も嬉しすぎて転がって足の小指ぶつけた 247 :とある本丸のさにわさん だからあれほど部屋を片付けろと… 248 :とある本丸のさにわさん なんだっけ、何か主命みたいな 249 :とある本丸のさにわさん それ長谷部の鳴き声な 250 :とある本丸のさにわさん ｼｭﾒｲﾄｱﾗﾊﾞｰ 251 :とある本丸のさにわさん やめて！ 252 :とある本丸のさにわさん 主命の事長谷部って呼ぶのやめたげてよう 253 :とある本丸のさにわさん つーか読み方違うわバカ 天命、て書いてあまのみこと 254 :とある本丸のさにわさん 短刀だよな？てことは乱みたいな感じかな 255 :とある本丸のさにわさん リアルおにゃのこ… ふぅ 256 :とある本丸のさにわさん 検非違使さんこっちです 257 :とある本丸のさにわさん 三条の皆さんこっちです 258 :とある本丸のさにわさん 惜しくない２５５をなくした… 259 :とある本丸のさにわさん え？ 260 :とある本丸のさにわさん 三条と関係あるの？ 261 :とある本丸のさにわさん そんな古い刀？ 262 :とある本丸のさにわさん 何だ知らないのかお前ら？ 263 :とある本丸のさにわさん 教えて！エロいひとーーーーーー 264 :とある本丸のさにわさん 天命はそこまで資料残ってないけど刀マニアの間では結構知れててな もとは無名の男が余命先刻されて最後に傑作を、て感じで打った刀だったんだ 結構最近にそのひとの日記みたいなのが見つかって発表されたんだけどな 名前の由来は神様が自分に命を与えてくれたようだから天命らしい 男は所謂戦争孤児で天涯孤独の身だったらしいんだがな、その刀を娘のようにあつかっていたんだと 日記にはその刀のことばかりだったらしくてな そんでその男の死後天命は三条の手に渡った ずっと三条さんは譲ってくれって言って来てたらしくて、そんで自分が死んだ後ならってことで譲ってもらったんだと そっから色々あって今度は嫁入り刀を探していた男が天命に一目ぼれしてこれを娘に持って行かせたい、金ならいくらでも払うってしつこく頼んで来て、熱意に負けた三条さんはその男に譲る 当時は短刀が主流なのにその男思い切ったよなー 265 :とある本丸のさにわさん え、じゃあ三日月なんかよりも長いの？ 266 :とある本丸のさにわさん もしかして鶯丸ぐらい？ 267 :とある本丸のさにわさん ま、まじか 268 :とある本丸のさにわさん いやいや、俺は最後の当時は短刀がー、の辺りが気になるんだが え、短刀じゃなかったの？もとは違うの？ 269 :とある本丸のさにわさん 元は太刀だったらしいけど燃えてるんだよ 270 :とある本丸のさにわさん ＞＞２７０ 271 :とある本丸のさにわさん ＞＞２７０ 272 :とある本丸のさにわさん ＞＞２７０ 273 :とある本丸のさにわさん ＞＞２７０ 274 :とある本丸のさにわさん ＞＞２７０ 275 :とある本丸のさにわさん ＞＞２７０ 276 :とある本丸のさにわさん え、燃えた？ 277 :とある本丸のさにわさん おう、燃えて、それでも何とか打ちなおした結果太刀だったのが短刀になっちまったんだと 278 :とある本丸のさにわさん え、ちょ、ま 279 :とある本丸のさにわさん ま、まさかのばみたんパタ？ 280 :とある本丸のさにわさん てか燃えたって？ 281 :とある本丸のさにわさん え、なんで？ 282 :刀マニア 面倒だからコテつけるな まあその話はおいておいて、 それから天命は嫁入り刀としていろんなとこに巡ってくんだけどどの娘にも後生大事にされてたらしい そんで不思議なことにそこは必ず第一子が女の子なんだよ、つまり女系に近いかな それ以降はきちんと男の子が生まれるから後継ぎなんかは困らなかったらしいけどな んで、共通して出てくる話しがあるわけよ ある日子どもが楽しそうに遊んでるなー、て思って見たら銀の髪を毛先だけ赤い鈴のついた紐で結った、繊細な刺繍があしらわれた水干を着た紗を被った女と遊んでたんだと 後ろ姿だけでも美人できっと高貴な人だ、って感じの人なんだけどそんな知り合いいたか？て思って周りに聞いてみても皆知らないって言うんだよ しかもその女はこう、ぼやっとした感じででも不思議と怖くない、みたいな感じだから皆まあいいかーみたいな感じで流してたとか あと嫁さんが疲れて眠ってたら綺麗な女が優しく笑いながら頭撫でてくれる夢見て、目が覚めたら不思議と疲れがなくなってたらしくてな それで夢かー、て思ってたら髪に綺麗な花が挿してあるから誰が挿したのか聞いてみたら皆知らないって言うんだよ そんで嫁さんはあの美人がしてくれたんだな、ってなんとなく思ったんだと ちょっと面白い話が、甘党の旦那があんまりにも菓子食べ過ぎるから周りが注意しるのに、やめずにこそこそ食ってる旦那に周りが困り果ててたら、ある日いつもみたいな隠しておいた菓子を食べようとしたそれがばくなってたんだと そんで誰かにみつかったのかー、て思って別のとこに隠したのにまたなくなってる それが繰り返しあって、誰が盗ったのか気になった旦那がこっそり見てたらそれを見つけて食べてたのは娘だったらしい、しかもまだ小学生くらいのな それに驚いて、お前は鼻が効くんだなあ、て娘に言ったら娘は「ミコさまが教えてくれた」、て言うんだよ そんな名前の使用人いたかな？て思うけどそこで旦那はふと気付く 嫁が持ってきた刀の名前は天命、もしかしたら今までの不思議なことはすべてあの刀だったんじゃないか、てね そしたら娘が、「ミコさま母さまがここに来た時からここにいる綺麗な女の人で、母さまが父さまの甘味を隠して食べる行動に悩まされていたからお前がかわりに食べておしまい、と言われて隠し場所を教えてもらっていた」てね それ以来さすがにこりた旦那は甘味を我慢するようになったとかならないとか こんな感じのほのぼのするエピソードが多い 283 :とある本丸のさにわさん 何これ可愛い 284 :とある本丸のさにわさん てか旦那ｗ 隠してたべるなｗｗｗ 285 :とある本丸のさにわさん 注意されるぐらいって、糖尿になる勢いか？ｗｗｗ 286 :とある本丸のさにわさん 俺、天パの侍思い出したわ 287 :とある本丸のさにわさん あ、何かしっくりくるｗｗｗ 288 :とある本丸のさにわさん てかお花挿すとか可愛い 心がわぼわぼする 289 :とある本丸のさにわさん これが…和睦… 290 :とある本丸のさにわさん そして漂う圧倒的美人感 291 :とある本丸のさにわさん それな 292 :とある本丸のさにわさん よっし、ちょっくら回してくるかな！ 293 :とある本丸のさにわさん おいおい、抜け駆けはなしだぜ？ 294 :とある本丸のさにわさん 安心しろ。きっとお前らみたいな奴のとこにはこないから 295 :とある本丸のさにわさん う、うっせえわ！！ 296 :とある本丸のさにわさん ゆ、ゆめぐらい見たって…(;_:) 297 :とある本丸のさにわさん あ、俺三日月通りかかったから聞いてみた そしたら「ミコ姉様が来るのか？」ってすっごいキラキラした顔で見られた 死ぬ気で鍛刀しようと思った 298 :とある本丸のさにわさん ミコ姉様、だと…？ 299 :とある本丸のさにわさん ぐぅ、不覚にも萌えた…っ 300 :とある本丸のさにわさん ３００げと！ 俺もパッパに聞いたら「姉君が来るよう祈願しなければね！」って驚きの機動を発揮してくれた え、戦場でもそれぐらい動いてよ 301 :とある本丸のさにわさん 俺も今剣と岩融に聞いてみた 「命ねえさまがくるのですか！わー、やりましたね岩融ー！」「ガハハハハ！姉者が来るのならもっと鍛えねばな！」 ってはしゃぐ今剣を肩車してますわ 可愛いなもう 302 :とある本丸のさにわさん なにそれ可愛い 303 :とある本丸のさにわさん 今剣ちゃんハァハァ 304 :301 ＞＞３０３ 潰すぞ 305 :とある本丸のさにわさん ＞＞３０３ 阻止 306 :とある本丸のさにわさん ＞＞３０３ 阻止 307 :とある本丸のさにわさん そｓ、って３０１の即スレに動揺を隠せないおれがいる 308 :とある本丸のさにわさん おい、こいつはガチだぞ 309 :303 ごめんなさいごめんなさい 310 :301 次はない 311 :とある本丸のさにわさん たくﾔﾑﾁｬしやがって… 312 :とある本丸のさにわさん 小狐丸に聞いても同じ感じだったよ 呼び方は姉上だった 313 :とある本丸のさにわさん さりげなくいる三日月や小狐丸に秘かに動揺を隠せない俺がいる 314 :とある本丸のさにわさん 安心しろ俺もだ 315 :とある本丸のさにわさん そんな刀知りません 知りません…orz 316 :とある本丸のさにわさん 涙拭けよ 317 :とある本丸のさにわさん 覗きこんでた鶴丸が鍛刀しようってうるさい わかったわかったお前たちが姉さん大好きなのはわかったから落ちつけ 318 :とある本丸のさにわさん 鶴丸もかー 319 :とある本丸のさにわさん まあ弟子だしな 320 :とある本丸のさにわさん てかそれだったらどんな感じの性格かとか聞きたい 321 :とある本丸のさにわさん 抜かりはないぜ！ さっきの三日月のとこだけど、曰く性格は気紛れ屋さんらしい 猫みたいな、蝶みたいな気分屋で、それに周りも巻き込まれて仕方ない、て感じだったんだと 地面に髪がつくのも気にしないで平気でしゃがみこんだりするから小狐丸とかしょっちゅうやめて！てなってたけどそれ見てころころ笑うひとだったとか あとやっぱりすっごい美人らしい 322 :とある本丸のさにわさん これは、いい美人の予感 323 :とある本丸のさにわさん 猫みたいなとか、たまらないじゃないですか！ (ばりばりー！) 324 :とある本丸のさにわさん やめて！ 325 :とある本丸のさにわさん でもそれって短刀じゃないときだよね？ てかいつ燃えちゃったの？ 326 :とある本丸のさにわさん そ、そうだよ、刀マニアー！！ 327 :とある本丸のさにわさん 続きプリーズ！ 328 :刀マニア あ、ごめん書きこんでたわ 投下するなー 329 :とある本丸のさにわさん こいつ、かなりのマイペースか…？ 330 :刀マニア それからまた各地を転々としてた時な 嫁入りした先で子どもが出来て数年したときな、その家で火事が起きたらしい 放火だったらしいんだが、中には子どもがいて、誰もがもう助からないだろうって思ってたらしいんだ そしたらな、火事が無事鎮火したとき、ふらっと泣き崩れてた嫁さんが立ち上がって、「よんでる」って言って瓦礫の中を歩いていくわけよ 皆子どもを探してるんだろうって止めずに、でも心配だからついていったわけ そしたらそこに刀を抱きかかえた子どもが倒れてた 多少の火傷はしてたけどそれ以外無事な子どもに皆奇跡だ！って喜んでたんだけど、嫁さんと旦那が抱き起こした瞬間目を覚ました子どもが「ミコさまを助けて！」って泣きだしたらしくて 娘が大事に抱えてた刀を見て見たら、無事な所なんてないってぐらい焼けてボロボロになった刀でな あんまりな変わりように嫁さんも最初天命なのかどうかわからなかったぐらいらしい 子どもがあんまりにも大泣きするし、きっと天命が守ってくれたんだって察した嫁さんは急いで近くの鍛冶師のとこに駆けこんだんだ その結果、たまたまその鍛冶師の腕が良かったのか、それとも偶然かはわからないけど奇跡的に直すことができたみたいでな けど元通りにはいかなくて、結果短刀になったらしいけどその後も大切に扱われて今ではとある神社で祀ってるとか 331 :とある本丸のさにわさん え、ええ話しや 332 :とある本丸のさにわさん 天命、なんていい刀なんだ 333 :とある本丸のさにわさん 一緒に読んでた鶴が泣いてる 334 :とある本丸のさにわさん 俺の三日月と石切丸が泣きそう 335 :とある本丸のさにわさん 今剣ちゃーーーーーーーーーん、泣かないでぇぇぇぇ 336 :とある本丸のさにわさん これはますます鍛刀したい 337 :とある本丸のさにわさん けどエピ見る限り圧倒的に男が不利の予感しか… 338 :とある本丸のさにわさん しっ！！ 339 :とある本丸のさにわさん 「わしの名は天命。無名の男が打った刀よ。実戦経験はないが、よろしく頼むぞ」 340 :とある本丸のさにわさん ＞＞３３９ 341 :とある本丸のさにわさん ＞＞３３９ 342 :とある本丸のさにわさん ＞＞３３９ 343 :とある本丸のさにわさん ＞＞３３９ 344 :とある本丸のさにわさん ＞＞３３９ 345 :339 出ちゃった☆ あ、ちなみに女審神者です 346 :とある本丸のさにわさん うわあああああああああああああああああ 347 :とある本丸のさにわさん ひえええええええええええええええええええええええええええええ 348 :とある本丸のさにわさん うらやまあああああああああああああああああああああ 349 :とある本丸のさにわさん 画像を、それが駄目ならせめて特徴を… 350 :とある本丸のさにわさん なにとぞ、なにとぞぉぉぉ 351 :とある本丸のさにわさん 頼む、全裸は寒いんだ！！ 352 :とある本丸のさにわさん 風邪引いちまうだろ！ 353 :とある本丸のさにわさん ぶえっくし！ 頼む、早くしてくれ 354 :ラッキー コテは軽い気持ちで回したら一発で来たからこれで！二時間だったよ！ 第一印象はすっごい綺麗で可愛い美少女 ぎりぎり中学生かな？小学生かな？ぐらいの見た目で、膝丈の綺麗な刺繍が入った水干に、肩につくぐらいの銀髪の横の一部を小ぶりな鈴のついた赤い結い紐で結んでて透けるぐらい薄い着物を頭に被ってる、なんだっけ、平安とかで着てた紗とかいうやつかな？あと額に赤い花みたいなやつ描いてる、それで瞳の色がね、明け方の空みたいな綺麗な色で、蒼とか薄い桃色とか、何か本当に綺麗なグラデーションになってる てかこの短時間で話して思ったのがね、色気が、短刀の、ものじゃないんですわ 薬研なみだよ、お前みたいな短刀がいるかって思ったのは もう、仕草一つ一つが洗礼されててね、ほんとに高貴な人みたいでさ、流し目とかに同性のわたしですらはうってなる それに本人気付いてるんだろうね「愛いのう」とか言いながら袖で口元隠して笑うの その仕草にまたやられて重傷ですわ幸せ 355 :とある本丸のさにわさん 356 :とある本丸のさにわさん 357 :とある本丸のさにわさん 358 :とある本丸のさにわさん 薬研、なみ、だと…！？ 359 :とある本丸のさにわさん まってくれ、この説明だけでもいけない扉を開きそうな俺がいる… 360 :とある本丸のさにわさん よう俺 361 :とある本丸のさにわさん あれ、俺はいつ書き込んだんだ？ 362 :とある本丸のさにわさん いつから自動で書き込まれるようになったんだ？ 363 :とある本丸のさにわさん はいはい茶番乙 364 :とある本丸のさにわさん てか、さすが平安、あなどれん 365 :とある本丸のさにわさん やはりもとが太刀なだけに短刀になってもかわらない、か 366 :とある本丸のさにわさん あれ、じゃあ今剣は… 367 :とある本丸のさにわさん だまってろ！ 368 :とある本丸のさにわさん それ以上言ってはいけない 369 :ラッキー あとね、やっぱり燃えた影響で本人もあんまり覚えてないって言ってた ぼんやりと思い出せることもあるけど基本的なことはすっかり頭から抜けてるみたい それで、まあわたしがここに書き込んだのは自慢もあるけどそれだけじゃなくてですね 370 :とある本丸のさにわさん そっか、記憶ないのか 371 :とある本丸のさにわさん 仕方ないよな 骨喰も鯰尾なんかもそうだし 372 :とある本丸のさにわさん 三日月とかのこともぼんやり程度なのかな て、相談？ 373 :とある本丸のさにわさん 何だ何だ？ 374 :とある本丸のさにわさん あれか、百合の道開きそうってか？ 375 :とある本丸のさにわさん それは薄い本が厚くなりますね！！ 376 :とある本丸のさにわさん 悪くない、むしろ良い！ 377 :とある本丸のさにわさん それで、どうした？ 378 :ラッキー いやー、さっそく本丸案内しようとしたらさー 何でかいっつものんびりしてる鶯丸が駆けこんで来て、わたし驚いて固まってたら鶯丸目を見開いて天命凝視してるわけ そんで大包平が来たとでも思ったのかなーって思って天命の方見たら、天命の方はね泣いてた 379 :とある本丸のさにわさん え 380 :とある本丸のさにわさん へ？ 381 :とある本丸のさにわさん え、ちょ、 382 :とある本丸のさにわさん あの何事にも基本動じない鶯丸が走ってきたことにも驚きだが天命ちゃん泣いたの！？ 何で！？ 383 :とある本丸のさにわさん え、えええええ？ 384 :ラッキー それでわたしも焦って、どうしたの！？って聞いて、やっと天命も泣いてる事に気付いたらしくてさ、何でだろうって不思議そうにしてるの あんまり静かにはらはら泣くものだから私もどうしていいかわからないし、鶯丸は相変わらずだし天命も泣いてるし、カオス状態 ええええええ、ってなってたら天命がぼそっと 「何故、わしはこんなにも心が震えるのか、のう、鶯、ぬしはわかるのか？」 あれ、わたし鶯丸こと教えてないよね？って思ってたら鶯丸が今まで見たことないような幸せそうで泣きそうな顔して笑うの そしたら天命抱きしめて恋人に囁くみたいな甘くて優しい声でね 「知っているさ、命、俺の可愛いひと」 何て言うから聞いてるこっちが恥ずかしくなるけど天命の方はずっと不思議そうにはらはら涙流してて、それから冷静になって考えたら成人男性が見た目中学生(見ようによっては小学生)に抱きつくとか犯罪じね？でも平安だったら幼妻とかあったからセーフ？ってなってよくわからんまま二人置いて出てきちゃったんだけどどうしたらいいんだろうね？←イマココ 385 :とある本丸のさにわさん 386 :とある本丸のさにわさん 387 :とある本丸のさにわさん 388 :とある本丸のさにわさん 389 :とある本丸のさにわさん 390 :とある本丸のさにわさん 391 :とある本丸のさにわさん イマココ、じゃねえええええええええええええええええええええ 392 :とある本丸のさにわさん むしろこっちが聞きたいわああああああああああああああああああああああああああ 393 :とある本丸のさにわさん 幼妻とかうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！？ 394 :とある本丸のさにわさん ちょ、三条のみなさーーーーーーーーーーん！！ 　あしびきの　山鳥の尾の　しだり尾の　ながながしい夜を　ひとりかもむね 　(君がいないと夜の長さは全然違う。ひとりの夜はとても、とても長いんだ) [newpage] 書きたいこと詰め込みました。 すみませんどうしても書きたかったんですだから投石はやめて……！

創作刀剣女士ものです。<br /><br />タイトルでわかるとは思うのですがオリジナル刀剣と刀剣男士が中心の話です。<br /><br />※ルーキーランキング17位に入りました…(゜ロ゜)<br /> 動揺と嬉しさで桜吹雪舞いそうです(笑)<br /> 本当にありがとうございます！<br /><br />ご指摘いただいたので修正しました。<br />勢いで書いた作品なので勉強不足でお恥ずかしいかぎりです…(笑)

春告鳥の宿り木

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6496715#1

【F6の番組に】クラスタども叫べ【キセキの世代が参戦】 1 名無しのクラスタ おいお前ら！！！やっと今日だぞ！！！！ 2 名無しのクラスタ 待ってました！！！ 3 名無しのクラスタ この一週間前からワシは八時間しか寝れなかったぞ…！ 4 名無しのクラスタ 》3 それ充分寝てるだろww 5 名無しのクラスタ 真逆のキセキの世代がゲストとか豪華過ぎだろ！？ あとカラフル過ぎww 6 名無しのクラスタ 》5 それな 7 名無しのクラスタ 》5 それな 8 名無しのクラスタ 》5 それな 9 名無しのクラスタ 俺さ、F6とかキセキとか知らないんだけど そんな有名なのか…？ 10 名無しのクラスタ 》9 おい 11 名無しのクラスタ 》9 このスレに顔を出しときながらF6もキセキも知らないだと… 12 名無しのクラスタ 》9 お前何の為に生きてんだ！！！ 13 名無しの9 んな大袈裟な！？ 14 名無しのクラスタ まさか他にもF6とキセキの世代知らない人なんていないよね？ 15 名無しのクラスタ 》14 え？（ﾟдﾟ） 16 名無しのクラスタ すいませんF6は知ってるんですがキセキとは （　；∀；） 17 名無しのクラスタ 俺はキセキしか知らねぇ…(´；ω；｀) 18 名無しのクラスタ 私どっちも知ってるけど番組なんてやってたっけ？ 19 名無しのクラスタ 》16~18 嘘だろ…知らない奴がまだいるだと！？ 20 名無しのクラスタ 多分、他にもいるよね… 21 名無しのクラスタ 》20 ギクッ 22 名無しのクラスタ 》22 F6って、あ。あれでしょ？布団は６枚みたいな…(¬_¬) 23 名無しのクラスタ oh...... 24 名無しのクラスタ これは大変な事態だぞクラスタども…((((((；ﾟДﾟ)))) 25 一応スレ主だお★ そんな君達に簡単な説明といこうか！！(｀・ω・´) ・F6とは？ →今話題の超人気アイドル。Fは生みの親である不二夫さんの『ふ』からきており、6はメンバーの人数のことである！何と六人は実際に血を分けた兄弟(しかも六つ子)で息ピッタリな上、ギャグ(下ネタ)も堂々と言う所からアイドルきっての天才肌と言われている！俺氏は一松boyです。 松野おそ松 →六つ子の長男にしてリーダー、さわやかジャスティス！普段は兄貴肌だが、時々クズっぷりも見せる！そこがまた、ファンにはたまらない！ 松野カラ松 →肉を肉で巻いて食べる肉食系肉 ！！なツンデレな豪快系男子！普段は冷たいイメージもあるがドラマの癖が抜けず、たまにイタいセリフを吐くことも！ 松野チョロ松 →ハーバード大学准教授、ビューティージーニアス！紳士的であるが女子に対しての免疫は無く、赤面する！可愛い！！ギャップ萌えな童貞()男子！ 松野一松 →カリスマ的求心力、ミステリアスクールで一松クラスタの俺氏死亡！！何を仕出かすか分からない帝国なんとかから世界を救った(らしい)！時々見せる自己嫌悪がまたさらに愛らしい！！ビバ一松！！！ 松野十四松 →一万人斬りの王子様、スイートプリンス。この人に三秒間でも見詰められたのなら死亡は確実。笑顔が天使！常にニコニコ！！時々、ドカーンと下ネタ連発してくる！ 松野トド松 →奇跡のルックス、キューティーフェアリー！！六人の中でももっとも女子力高い女子系男子！流石、あざといっ！偶に見せるドライモンスターはファンの中でも好評！！ ・キセキの世代とは？ →高校バスケ部なら知らない人は居ないとされる、十年に一人の天才が揃った世代のこと！バスケの腕は一級品！ 赤司征十郎 →PG。今は洛山高校主将として活躍中。中学時代より、キセキを支え最強と謳わられた！実渕(洛山二年)によると最初は刺があったけれど今は丸くなったと言う。赤司様ァ！ 緑間真太郎 →SG。今は秀徳高校で高尾君と相棒なのだよっ☆中学から、キセキの二大バカを赤司様と共に支えてきた。なのだよとお汁粉、ラッキーアイテムで検索すると出てくる！！ 紫原敦 →C。今は陽泉高校にて最強の壁として活躍中。お菓子大好きな体は大人、中身は子供！的な男子高校生。身長は2mを超える。巨人！だがフェアリーというのはむっくんのみ！！ 青峰大輝 →PF。今は桐皇学園で必死にバスケ練習中！元相棒(幻の六人目)に負けてからはサボっていた練習にも参加するように！二大バカの一人。可愛い幼馴染がいる！(´･皿･`)ｷﾞﾘｨ! 黄瀬涼太 →FS。今は海常高校でモデル業と両立しながら頑張り中！二大バカと一人で性格が犬っぽいと話題！弄られ役でもあるがそれは愛ゆえ！！モデルとしても有名！ ・F6が司会を務める『六時だよ！全員、シェー！』 →月曜日夕方六時から役一時間のF6がゲストと喋ったり遊んだり飲んだくれたりのバラエティー！初回からイヤミ(F6の事務所の先輩)が登場し大好評に。 よーし、F6・キセキの世代が分からない奴等は分かったかー？ 後はネットでggr 26 名無しのクラスタ 》25 分かりました！つまりF6は下ネタ言えちゃうアイドルなんですね！！ 27 名無しのクラスタ 》25 スレ主が一松推しだと言うことも分かりました！！ 28 名無しのクラスタ 》25 十四松くんは天使！！ 29 名無しのクラスタ 》25 キセキの世代はバスケで神の子的な存在なんですね！ 30 名無しのクラスタ 》25 黄瀬くんは弄られキャラ！！ 31 一応スレ主だお★ 》26~29 それで良し ^ ^ 所でお前ら……今日がどれ程、重要か分かってるよな？ 32 名無しのクラスタ ハイ！！CMで赤司様が十四松くんの頭ナデナデしていたシーンが凄く気になります！！！！！ 33 名無しのクラスタ 私はカラ松くんと黄瀬くんが一松くんに絡んでた所が気になり過ぎて寝れてませんんん！！＜●＞＜●＞ｶｯ 34 名無しのクラスタ 》33 何それ気になる(ΦДΦ) 35 一応スレ主だお★ ねえ知ってる？(豆しば風) 36 名無しのクラスタ 》35 どした？ 37 一応スレ主だお★ 今日の『六時だよ！全員、シェー！』ではF6とキセキの二重 音声もあるんだよ？(*･з･*) 38 名無しのクラスタ 》37 39 名無しのクラスタ 》37 （　゜Д゜） 40 名無しのクラスタ 》37 41 名無しのクラスタ 》37 what?? 42 名無しのクラスタ 》37 嘘 43 名無しのクラスタ 》37 いや、え、え… 44 一応スレ主だお★ ちなみに二重音声で聴けるのはF6のファン会員に入ってる奴 だけなんだぜっ☆ 45 名無しのクラスタ いやぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ！！！！！ 46 名無しのクラスタ 待って俺最近好きになったばっかだから会員登録してないってえええええええ！！！！ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡ 47 名無しのクラスタ 会員登録するの明日ぁぁぁぁぁぁあああああああ！！！！ 48 名無しのクラスタ 始まる十分前に何言っちゃってくれてんのおおおおお！！？ 49 名無しのクラスタ 早く教えてくれたってええじゃないのおおお！！！(´□｀｡)° 50 一応スレ主だお★ 》48,49 いや、皆知ってるのかと思ってたばかりで… まぁ安心しなさって。…この俺が何の為にスレを建てたと思ってるんだい君たち(　・´ｰ・｀)ﾄﾞﾔｯ 51 名無しのクラスタ 》50 何の為に…？(´；ω；｀) 52 名無しのクラスタ 》50 二重音声が聞けなく更には仕事で録画機能の無いTVの俺への当て付けの為…？(´；ω；｀) 53 名無しのクラスタ 》50 聞けない私達を嘲笑う為…？(´；ω；｀) る54 一応スレ主だお★ 》52,53 お前らの中の俺ってそんな最低野郎なの？(´∀`))俺はな。一松クラスタでもあり何よりもF6を広めようの会の人間だぜ？そんな俺がスレ建てた理由なんて… 実 況 す る た め で し ょ ー う が (＾ω＾) 55 名無しの52 あっ…あ、ぁ…スレ主様ぁぁぁぁぁああああああぁぁぁ！！＿|＼○＿ 56 名無しのクラスタ 仕事で見れない52がひれ伏したぁああ！！？ スレ主様ぁぁぁぁぁああああああああああ！！！ ＿|＼○＿ 57 名無しのクラスタ 》56 オマエモナ スレ主様感謝しきれませえええええええええんんん！！！！＿|＼○＿ 58 名無しのクラスタ お前ら皆、土下座だ土下座ァ！！＿|＼○＿ 59 名無しのクラスタ ＿|＼○＿ 60 名無しのクラスタ ＿|＼○＿ 61 名無しのクラスタ 　　ﾌﾞｯ ∵ ＝＿|＼○＿ 62 名無しのクラスタ ＿|＼○＿ 63 名無しのクラスタ ＿|＼○＿ 64 名無しのクラスタ っておいwwwwwwww 65 名無しのクラスタ 一人、オナラしてんじゃねぇか！！！wwww 66 一応スレ主だお★ 》61 おいww笑わせてんじゃねぇよwwwwって、あ。 お前らテレビもう準備しとけ 67 名無しのクラスタ 》66 え、何で？ 68 一応スレ主だお★ まあテレビ付けてみんしゃいって！始まんぞ 69 名無しのクラスタ 始まるってまだ五分前なんだけb 70 名無しのクラスタ て 71 名無しのクラスタ 72 名無しのクラスタそ え、うそ 73 名無しのクラスタ ま、ちょ54gn 74 名無しのクラスタ ええ！？ちょっと待って何！？ねぇ？！（　；∀；） 俺今日仕事で録画機能なしで見れないんだけど！！！ねぇ！ 75 一応スレ主だお★ 》74 そんな社畜さんに送ります…( ºωº ) 時刻 5:55 CMの途中で何処か白い空間が現れる。 十四松『ピーンポーンパーンポーン。皆、セクロス！あっ、間違えたサンクス！』 一松『ちょっと待ちなよ十四松？まだ始まるの早いんじゃないの』 十四松『そう？でも俺、皆に早く会いたかったからさ！』 一松『俺だって皆に会いたいよ。だって運命だろ？まだ始まってないのにテレビ付けてるなんて』 十四松『嬉しいよ。もうテレビを付けて待ってたんね。皆、後はお兄ちゃん達が怒っちゃうからまたね？』 一松『また直ぐに会えるよ』 と同時に何事も無かったようにCMに戻る。 76 名無しのクラスタ ちょい待とうか^ω^ 77 名無しのクラスタ そんな事聞いてないしまさか前回もやってたの！？ 十四松きゅん可愛い！！！私も会いたいよおおお！！！！ 78 一応スレ主だお★ いんや今回はゲストが豪華だからじゃね？ 79 名無しのクラスタ と言うか私は！！！何故！スレ主が知ってたのかを 知りたい！！！！テレビ関係者なの！？あんもっ！！ 一松格好良すぎだなぁ！！！ 80 名無しのクラスタ 》79 本当それ！！ 81 一応スレ主だお★ 》79 一松は俺のジャスティス(( やだな〜僕は只の一般人ですよ？(＾ω＾) 強いていうなら弟に聞いただけですって！ 82 名無しのクラスタ 弟？ 83 実渕玲央 はーい！スレの皆さんこんにちわ！ スレ主の弟(妹)の実渕玲央でーす♡ 今日は一緒に実況するから宜しくね(*´∀｀*)ｱﾗﾔﾀﾞ 84 名無しのクラスタ 85 名無しのクラスタ 86 名無しのクラスタ 87 名無しのクラスタ 88 一応スレ主だお★ はーい、無言ストップね！ 89 名無しのクラスタ いや嘘、嘘ですよね？？えっ 90 実渕玲央 》89 いやねぇ？嘘じゃないわよ？ つ【実渕玲央と共に綺麗な顔付きをした男性がIDの書かれた 紙を持ち上げている】 ね♡ 91 名無しのクラスタ （　゜Д゜） 92 名無しのクラスタ （　゜Д゜） 93 名無しのクラスタ （　゜Д゜） 94 名無しのクラスタ （　゜Д゜） 95 名無しのクラスタ （　゜Д゜） 96 名無しのクラスタ （゜Д゜） 97 一応スレ主だお★ 》96 こっち見んなよ恥ずかしい(∀＼*)) まあキセキの世代の説明は玲央に聞いてやったんだぜ？ 98 実渕玲央 》96 こっち見ないで頂戴恥ずかしいわぁ〜(∀＼*)) 私も一松くんは好きよ？ふふっ！でも十四松girlなの。 99 名無しのクラスタ あっ、はい(この人達は本当に兄弟だ) 100 名無しのクラスタ 100ゲトー…(何で決めつけてんねん) 101 名無しのクラスタ 》100 おめでとー(だから赤司の所詳しかったのか) 102 名無しのクラスタ 》おめでとさん(嫌々、高尾の所も詳しかったぞ) 103 名無しのクラスタ 高尾逃げろ((((；ﾟДﾟ))))ガクブル 104 実渕玲央 》103 …………(*´∀｀*)) 所でうちの兄貴、格好良いでしょ？あげないわよ？ ( *´ｰ`* )ﾄﾞﾔｯ 105 名無しの103 無言の圧力怖い((((;ﾟ;Д;ﾟ;))))ｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀｶﾀ (それにさり気なく話変えられたぞ) 106 名無しのクラスタ 》103 (´・ω・`)ノ　どんまい 兄貴イケメンだな！！！(　ﾟдﾟ)､ﾍﾟｯ つかスレ主のスペックとか貰って無かったわ！！ 107 名無しのクラスタ 》103 オネェの恋沙汰には踏み込むなって。 ヤダースレ主もイケメンじゃないですかー 108 名無しのクラスタ イケメンは爆発するべき(だがF6、キセキはNO) 109 名無しのクラスタ 》108 そ れ だ ！ 110 一応スレ主だお★ いや何お前ら俺が居ぬ間に変なこと言ってんの？ 俺がイケメン？巫山戯るな。俺はただの女顔だ｡ﾟ(ﾟ´▽`ﾟ)ﾟ｡ つスペック 俺 22歳 一松boyを初めて数年。 バスケが好き(しかし遊ぶ程度) 111 名無しのクラスタ ってスペック少なっ！ 112 名無しのクラスタ 分かるの成人してて女顔で一松boyでバスケ好きだけだよ… 113 一応スレ主だお★ それだけで充分だろ。 こんな事してる間にあと10秒だぞ、数えるぞ！！！ ちなみに二重音声は玲央に任せた！ 10！ 114 実渕玲央 任せられたわ。宜しくね♡ きゅう！ 115 名無しのクラスタ ８！！ 116 名無しのクラスタ 七！！！！ 117 名無しのクラスタ 6 118 名無しのクラスタ 5ー！ 119 名無しのクラスタ 四！！ 120 名無しのクラスタ さん！！！ 121 名無しのクラスタ ２ー！！ 122 名無しのクラスタ １！！ 123 名無しのクラスタ ｷﾀーーーーー(ﾟ∀ﾟ)ーーーーーーーーー!!!!!!! 124 名無しのクラスタ きたぁぁぁあああああああああああああ！！！三└(┐卍^o^)卍 125 名無しのクラスタ ｷﾀｷﾀｷﾀｷﾀ━━━(ﾟ∀ﾟ≡(ﾟ∀ﾟ≡ﾟ∀ﾟ)≡ﾟ∀ﾟ)━━━━!! 126 一応スレ主だお★ ｷﾀ━━━(ﾟ∀ﾟ)━( ﾟ∀)━( 　ﾟ)━(　　)━(　　)━(ﾟ 　)━(∀ﾟ )━(ﾟ∀ﾟ)━━━!!! 127 名無しのクラスタ ｷ･ｷ･ｷ･ｷﾀ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━!!!! 128 名無しのクラスタ ｷﾀ━ヽ(☆∀☆ )ﾉ━!!! 129 名無しのクラスタ 皆、運動服だ！！！！可愛いっ！！！＿|￣|Σ･∴'、- 130 名無しのクラスタ あれ？一松くんは？ 131 一応スレ主だお★ あの、F6のおなじみのサウンドが流れる。そして映し出された F6は五人(in運動服) おそ松『はーい！始まりました、六時だよ！全員〜？』 弟たち『シェー！！』 チョロ松『今宵も皆さんと面白い番組を作っていくのでテレビの前から離れないようにして下さいね？』 カラ松『テレビに近過ぎのはやめろ。うぜぇだけだからな』 まずは兄松のドアップが映し出される。 ﾝﾝﾝﾝﾝﾝﾝﾝﾝﾝﾝﾝﾝくっそイケメンだなぁカラ松ううう！！！ おそ松の格好→体操服に下は赤いジャージ チョロ松の格好→体操服に下は緑のジャージ カラ松の格好→体操服に腰に上のジャージを付け、 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　下も青いジャージ着用。 トド松『みんなっ！今日も楽しんで行っくよー？』 十四松『うん。さっき会った人達もそうでない人達も皆！セクロス！！あっ、間違えたサンクス！』 トド松の格好→上はピンクのジャージ着用。下もピンクの 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ジャージで裾はおってある。 十四松の格好→上は黄色のジャージ(袖長い)着用。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　下は半ズボン そしてこの二人のドアップ。女子力高い組めっ……！！！ しかし一向に一松が現れる気配がなし。 俺氏、何かやらかすと期待+(0ﾟ・ω・) + 132 実渕玲央 こっちも始まったわ。二重音声！ おそ松『はーい、会員登録してる皆さんはこんにちは。松野家長男。松野おそ松です。今日は二重音声ですね。テレビに集中したい方は音を消しても構いませんよ？ふふ、 でも僕は皆さんと話したいなぁ…なんて』 おそ松『あぁ、そうだ。二重音声は交代で変わるんですよ。最初は僕とー』 征ちゃん『こんにちは、赤司征十郎です。』 征ちゃんｷﾀ━━(*ﾟДﾟ*)━━!! 133 名無しのクラスタ F6のジャージの着方がそれぞれ違っててもう、可愛い過ぎ！ 134 名無しのクラスタ やっぱり十四松は袖長いねww 135 名無しのクラスタ そして絶対にひと工夫加えてくるトッティ…(*´`) 136 名無しのクラスタ 二重音声、国宝レジェンドと赤司様かよ！！ 137 名無しのクラスタ もしかして : 色別？ 138 名無しのクラスタ 》137 青峰っちとカラ松とか何それ、誰得！？ 139 名無しのクラスタ 》137 十四松くんときーちゃん！！絶対天使だよ！！？ 140 一応スレ主だお★ 》137 一松とむっくんマジフェアリーだろ。 おそ松『では、改めてまして…』 カラ松『おい待て』 おそ松『どうしたカラ松？』 カラ松『一松はどうした？』 おそ松『あれ…いない？』 チョロ松『本当ですね。全く、収録時刻はちゃんと言って置いたはずなのですが…』 カラ松の言葉におそ松とチョロ松が周りをキョロキョロする。 そこに十四松が『一松兄さん？』と首を傾げた。 おそ松『知ってるのか、十四松』 十四松『そりゃあね。ちょっと待っててよ！』 そう言うや否や画面からログアウト。そして大きなダンボール を台車に乗せ運んでくる。 トド松『うそ？まさか？ww』 チョロ松『ちょっと待って。何してんの((ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ』 チョロ松は何とか笑い堪えてるっぽいけど手を口で隠し めっちゃ震えてる。 十四松『ん、到着したね。じゃあいくよ？せぇーの！』 十四松は勢い良くダンボールを開けた！！ 十四松『ﾋｼﾞﾘｻﾜ↓ｼｮｳﾉｽｹ↑ﾀﾞ-!!!!!!』 チョロ松『お前かよ！！！！！！！！！』 ﾋｼﾞﾘｻﾜ↓ｼｮｳﾉｽｹ↑…十四松が開発した人形。今では抱き枕と してファンではまとめ買いする人もいる。 141 名無しのクラスタ お前かよ！！！！！！！！！ 142 名無しのクラスタ お前かよ！！！！！！！！！ 143 名無しのクラスタ お前かよ！！！！！！！！！ 144 名無しのクラスタ お前かよ！！！！！！！！！ 145 名無しのクラスタ 一松だと思ってた…orz 146 名無しのクラスタ 》145 禿同…orz 147 名無しのクラスタ 流石の紳士的チョロ松兄さんもこれにはね… 148 名無しのクラスタ 最初からぶっ飛んでやがるぞwwww 149 実渕玲央 おそ松『そう言えばここでダンボールがねw』 征ちゃん『あ、そうでしたね。これは流石の僕も吃驚しま したよw』 おそ松『え？それ征十郎くん言うの？』 征ちゃん『何のことでしょう？』 おそ松『ちょっとー？』 物凄くジェラシー感じるわね。私も入れなさいよその会話!!! 150 名無しのクラスタ 》149 実渕姉ww 151 一応スレ主だお★ トド松『でもまぁ、一松兄さんが遅れることなんていつものことでしょ？ライブ直前に猫を見付けて一時間戯れたり、ラジオの収録ににゃーちゃんと猫の会を開いてたり、先輩への挨拶の時に路地裏で猫に埋もれて寝てたり…』 チョロ松『まぁ、そうですよ…じゃなくて！！！え！？にーちゃんと猫の会！？え…、そんなの僕聞いてないよ！？』 トド松『なんでチョロ松兄さんに言わなきゃいけないのかな』 チョロ松『そっ！れ、は…それは……それ、は………』 勢いがだんだんと無くなり、チョロ松氏、顔をボッ！と 赤くする。 十四松『あははっ？チョロ松兄さん顔真っ赤だね』 チョロ松『うっさい！』 うーん、癒される( *´꒳`* ) 152 名無しのクラスタ ( *´꒳`* )ｶﾜｲｲなぁ 153 名無しのクラスタ ( *´꒳`* )チョロ松くん童貞()だからね… 154 名無しのクラスタ ( *´꒳`* )だがそこがいい 155 名無しのクラスタ 》152~154 一気に湧いたなチョロ松girl 156 名無しのクラスタ でもこれは確かに可愛い 157 名無しの153 》156 そんな貴方に… 【チョロ松くんを】童貞、そこが良い【愛でるスレ】 158 名無しのクラスタ 広めようとしてるぞ153！！ 159 名無しのクラスタ なんてこった…また更にチョロ松girlが増えたぞ…！ 160 名無しのクラスタ 和睦は………良いことです。 161 名無しのクラスタ 》160 それどこの江雪だよ 162 実渕玲央 チョロ松くんが顔真っ赤になったシーン おそ松『でったwwwwww』 征ちゃん『このチョロ松さん可愛いかったですよね…』 おそ松『ん、何？まさか惚れちゃった？』 征ちゃん『何を。俺は既におそ松boyですから』 おそ松『』 征ちゃん『っww』 おそ松『あー！もう！せいーじゅーろぉーく〜ん？』 征ちゃん『ちょ、すみませんって。だから擽るの止めて くれませ、って、あはははっ！w』 んもううううううう！！！！！ 何で私はその場に居なかったのよおおおおおおおおお！！！！！！！！！ 163 名無しのクラスタ み、ぶちwwww 164 名無しのクラスタ 赤司様がおそ松を口説いてるwww 165 名無しのクラスタ 赤司様になら口説かれたいわ俺… 166 名無しのクラスタ そして仕返しをしてる赤司様可愛い… 167 名無しのクラスタ 》166 禿同。 168 一応スレ主だお★ 》165 俺は一松に口説かれたい…( ´･ω･`) カラ松『ちっ。あんの馬鹿…』 おそ松『一松なら直ぐに来るさ。それじゃゲストをお呼びしよう。今回のゲストはー？』 トド松『高校バスケ界で知らない人はいない！十年に一人の人材が集まったとされる、キセキの世代の皆さんですっ！』 そうして扉にスポットライトが当たる。 赤司から準に青峰→黄瀬→緑間…と入ってきて十四松が何かに気付いたように声を上げた。 十四松『あっ』 それと同時にガンっ！と言う何かがぶつかった音が聞こえた。 紫原『あ。大丈夫〜いっちん？』 一松『痛いいたいいたいいたい。ちょ、これ痛い』 カメラが向く。その先には紫原に肩車されていた一松が。 チョロ松『…いや何してるの！？』 紫原『あーうんと、何だっけ』 赤司『ここに来る前に廊下で倒れてましたので。理由を聞けば腹が減って動けないと申していて、猫缶をあげた紫原に一松さんが懐いた…という所ですかね』 青峰『俺が言うのも何だけどコイツ大丈夫か？』 チョロ松『いや、私達でも一松はミステリアス過ぎで分からないことが多すぎるからね。大丈夫では無いんだろうね』 黄瀬『あ〜おデコ腫れちゃてるっスね…大丈夫っスか？』 おそ松『ドアは紫原くん一人ならまだしも、紫原＋一松の身長じゃ流石に無理があるよ？』 黄瀬おデコの怪我を心配されてる涙目一松、 可愛い。 169 名無しのクラスタ 歪みないなスレ主…だが確かに一松は可愛い。 170 名無しのクラスタ この時の一松、本気で痛がってるのがまたさらに良し。 171 名無しのクラスタ と言うか赤司様の発言に気にかけようよ！！ 猫缶上げてむっくんに懐いたって何！？本当に猫なの！？ 172 名無しのクラスタ そして紫原も紫原で肩に乗せるなんて優しいな… 普段なら絶対に「やだ、めんどい」の一点張りだろ。 173 名無しのクラスタ 》172 紫原はキセキの中でも面倒くさがりだからな。青峰もだろーけど。 174 実渕玲央 》172 征ちゃんはそんな事は無いと思うわ( ´艸｀*) 逆に自分の最低限以外はやらないって感じかしら？ その頃の二重音声 征ちゃん『これ痛そうでしたよね』 おそ松『まあアイツｰｰだから平気だよ』←聞き取れなかったわ 征ちゃん『え……本当ですか』 おそ松『うん』 一松ちゃんは何なのかしら？((((；ﾟДﾟ))))!? 175 名無しのクラスタ おそ松兄さんは会えてゴニョゴニョ言ったに一票 176 名無しのクラスタ ミステリアスクールな一松の秘密に一票 177 名無しのクラスタ 多分、どえらい事だと思うに一票 178 名無しのクラスタ 》175~177 お前らどんだけ一松くんが闇抱えてると思ってる んだよ… 179 一応スレ主だお★ 》178 ……知らなくて良いこともあるよ 紫原の肩から降り、六つ子に用意された席へ移動。 赤司達も用意されたゲスト用の席に移る。 おそ松『改めまして、ゲストの皆さんに紹介してもらいましょうか』 赤司『赤司征十郎と言います。中学時代にはキセキの世代の主将をしていました。どうぞ宜しく頼む』 黄瀬『あ、黄瀬涼太っス！！トド松っちとは同じ雑誌のモデルとして仲良くさせて貰ってます！』 青峰『お前はデルモ(笑)の間違いだろ』 緑間『なのだよ』 黄瀬『ちょ！？酷くないっスか！？』 青峰『あー、俺？青峰大輝』 紫原『はぁ〜い。紫原敦でーす』 緑間『秀徳高校緑間真太郎なのだよ。宜しく頼む』 十四松『いやー皆、カラフルだね！！』 一松『それお前が言うのか』 180 名無しのクラスタ 》179 それな 181 名無しのクラスタ 》179 十四松くんはもっと視界を広くしようよ！！自分の頭も 見て！！？ 182 名無しのクラスタ 》179 やはり十四松は十四松だったのか… 183 実渕玲央 おそ松『やっぱりキャラ濃いよね征十郎くんたち』 征ちゃん『それは貴方達には言われたくないです』 おそ松『いやいやw僕らはまだ六人だけだけど、君達の所は もっと凄いでしょう。笑い袋にエレガントヤンキーにオネェ にオタマロとか居るって聞いたぞ』 征ちゃん『…全員分かってしまうのが酷く理不尽だ』 あらやだw 征ちゃんったら、私のことすぐ分かってくれたのね(*ﾉωﾉ)‌‌ 184 名無しのクラスタ 高校バスケ観てる奴なら分かるだろこれww 笑い袋＝高尾だな 185 名無しのクラスタ エレガントヤンキーと言えば陽泉のフェアリーの相棒 186 名無しのクラスタ オネェとオタマロは養殖天然疑惑人と黄色いポケ●ンと 筋肉マッスルとで無冠の五将 187 名無しのクラスタ 》186 俺はお前のネーミングセンスを疑う。 なんだよ養殖天然疑惑人ってなげぇよ！wwww 188 名無しのクラスタ 略して、養天疑人…YTGN！！ 189 名無しのクラスタ 》188 そして貴方のセンスも疑う 190 一応スレ主だお★ おそ松『キセキの世代の皆さんですが、今日はお便りを元に僕らと何をして欲しいか選ぼうと思います』 カラ松『一番多かったのがバスケするって話だからな。俺らはもう体操服で準備は満々だ。お前らす準備運動っか？』 そう言ったカラ松の挑発するような笑みに青峰が反応。キセキの世代もジャージ(高校別)のを着ていたが青峰、上のジャージを脱ぐ。 青峰『はっ！いいね、その目。運動なんざいらねぇな』 黄瀬『バスケ部の俺達に勝てる訳がないっスよ！』 青峰『ドヤ顔すんなうぜぇ』 黄瀬『ひどっ！？』 赤司『…そうですね。やりましょうか。でもこちらは一人足らないようですが……』 赤司の言葉にトッティが顔の横でピース。 トド松『それならもう一人呼んでるから平気っ♡』 十四松『あと審判役として一人とバスケを知らない僕達の方に監督として入ってくれる人もね？』 (； ･`д･´)ﾅﾝ…ﾀﾞﾄ!? 191 名無しのクラスタ もう一人だと 192 名無しのクラスタ これはもしかするともしかするんじゃないか…？ 193 名無しのクラスタ キセキの世代クラスタの私、震えてます。 194 名無しのクラスタ 審判って誰だ？否、バスケ部なのは理解しておるぞ 195 名無しのクラスタ 監督ったらあの二人のどっちかだろ。 …でも男の方はやらなそう 196 名無しのクラスタ 》195 多分良い笑顔で断られるね 197 実渕玲央 おそ松『あ、バスケ開幕シーンですね』 征ちゃん『……これ台本に書いてなくてビビリましたからね？』 おそ松『それでも喜んでくれたよね？』 征ちゃん『まあ。真逆、ここまでやるとは思いませんでしたけど』 おそ松『何よりですよw』 何かしらねぇ… 198 名無しのクラスタ 良い感じに主語は無いが赤司様が吃驚することがあるだろ、これ。 199 名無しのクラスタ おそ松兄さんのラスボス感パネェ… 赤司様、負けてから本当に丸くなったからおそ松兄さんのが怖く感じる。怖いってか辛気臭い？ 200 名無しのクラスタ 》199 それどこのサトリ？ 200ゲット！ [newpage] オリキャラ(スレ主)の簡単な説明 実渕奈央…大学生。女顔がコンプレックスである。 儚そうとイメージされるも性格は男前で一松boy。 最近の悩みは弟(実渕)がとある秀徳生にちょっかいをかけるせいで自分もホモだと思われてること。 続く……予定、です(笑)

一庵 中也です。<br />前回の作品のブックマークも有難うございました！<br />思ってた以上、ご覧になっている人がいて吃驚して<br />います(笑)今回のは地獄の沙汰も六つ子次第で私が<br />言ったキセキVS六つ子です！長くなる予想なので<br />続けられるか心配です…汗<br />実は溜め込んでいるネタがいくつかあるのですが、<br />読みたいと言う人はいますでしょうか？<br /><br />・本丸(ホワイト)に顕現された六つ子『二話書いてあり続く予定』<br />・おそ松兄さんの家出計画『一話書いてあり続く<br />予定』<br />・荒北の何とも不憫なお話『一話のみの完結』<br /><br />一つでも読みたいと言うものがあれば、コメント<br />などしてくれると嬉しいです。

【F6の番組に】クラスタども叫べ【キセキの世代が参戦】

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6496828#1

｢はい、もしもし｣ ｢ぐふふふ｣ ｢どちらの変態様でしょうか｣ ｢変態だなんてひどいなヒッキーくん｣ ｢その呼び方あんま慣れないんでやっぱやめません？｣ ｢ヒキタニくんが私を姫菜って呼ぶなら｣ ｢…頑張るよ｣ いきなり不気味な笑い声から通話が始まる そしてそのお相手は俺のクラスメイト 海老名さんだ。 ｢んで？そーいやなんの用だ？｣ ｢んー、用ってほどでもないかな｣ ｢？｣ ｢雑談でもしない？｣ ｢…お、おぅ｣ え？なんか怖いんですけど 雑談？もしかして電話の向こうで録音とか して会話のネタとか？ 罰ゲームで俺とはなさなきゃとか？ ｢最近とべっちのアプローチが増えてきてね、どーすればいいかな｣ ｢いいんじゃねぇの？好意を持たれんのはいいことだろ｣ ｢そうだね。｣ ｢まぁでも戸部は騒がしいうるさい賑やかと雪ノ下のお墨付きだし、そりゃ鬱陶しいだろうな｣ ｢はは｣ ｢あ、あとそれ｣ ｢ん？｣ ｢その取り繕う愛想笑いはやめてくれ｣ ｢え…？｣ ｢海老名さんが俺にタメ口にしろって要求したんだし、こっちの要求も飲んでくれ｣ ｢私、今愛想笑いしてた？｣ ｢自覚なかったのか、でもまぁ海老名さんとか由比ヶ浜は仲介が多いもんな｣ ｢よく見てるんだね｣ ｢べっ、別にそんなこたァない｣ ｢修学旅行の時の私達ならこんな会話とかできなかったと思うよ｣ ｢そりゃそうだろうな、俺海老名さんのことただの腐女子と思ってたから引き目があったし｣ ｢…ただの？｣ ｢え？｣ あ、地雷踏んだ。 そこから約43分もの間説教及び 宗教勧誘を受けた。 どこのオウム真理教？ ｢…ねぇヒキタニくん｣ ｢あ？｣ ｢私が、修学旅行の時に言った言葉覚えてる？｣ ｢ん、修学旅行のいつだ｣ ｢帰るちょっと前くらい｣ ｢あぁ、俺を呼び出した時か｣ ｢うん｣ ｢俺も海老名さんも自分が好きってことか？｣ ｢違う、その後｣ あれ？その後って…確か俺とならうまく 付き合えた気がする、だったか ｢…｣ なんでだか、俺はその言葉を口に出せない ｢もしもし？｣ あの時の俺ならあっさり言えたはずだ。 だが今は言えない。 それはきっと意識し始めたからなのだろう 海老名姫菜という存在を ｢もしもーし？｣ ｢ん、あぁ聞こえてるよ｣ ｢その反応は覚えてるな｣ おちゃらけている風に言うが きっと電話の無効では笑っていない そう彼女の声音が物語っていた。 ｢…まぁ｣ ｢そっか｣ 彼女は俺になにを伝えたかったのだろうか 彼女はいつだって人に対して敏感だ だがそれは俺とは違う。 人の悪意に敏感で臆病な俺と 彼女は人の、自分の関係性に敏感なのだ ｢なにが言いたかったんだ｣ ｢え？｣ ｢あ、いや…｣ 気づけば声に出ていた。 つい求めてしまった。答えを。 海老名姫菜から俺はどう見えているのか ｢別に！あはは｣ 電話の向こうからはその〝答え〟は かえってはこなかった。 だが海老名さんは伝えようとしてくれた そんな気がする程の先ほどとは 違う声音だった。明るく、高々と さながら普段のBLの妄想の如く…。 ｢やっぱり好きになっちゃってた｣ ｢え？｣ ｢ん？｣ ｢今…なんて｣ ｢いや最近買ったBL漫画が微妙だったけど読み返すうちに好きになったんだ｣ ｢あ、あぁうん」 くだなくとてつもなく恥ずかしい勘違いを してしまっていた。 ｢そのBLの主人公はさ、ひねくれていてね｣ あ、これBL語り入っちゃってますね。 やだなー、長いんだよなー… ｢そして敏感なようでとっても鈍感なんだよ｣ ｢なにその矛盾…残念主人公だな。｣ ｢本当だよね、本当にその通りだよ。｣ ｢…｣ その口調は嘲笑うようで、それでいて どこかため息っぽく呆れたようだった 二次元にですら呆れるとかどんだけ？ なんかもう本当の恋愛話を聞いてるみたい 海老名さんじゃなかったらボーイズラブ じゃなくボーイミスガールなんだろうな ｢でもだからこそ、その物語の主人公に惹かれるんだろうな｣ ｢ひねくれてて好かれるなんてないだろ、ソースはおれ｣ ｢あはは、そんなことないよ。私が好きになったくらいなんだから｣ …もうくだらない勘違いはしない。 中学からしてきた、散々。 俺はもう二度と夢物語なんてみない。 ｢やっぱり君の青春ラブコメなんてまちがっているよ｣ ﾌﾟﾂﾝ ﾂｰﾂｰ ｢全く持って共感だよ。｣

次回はまたまたいろはーっす！

やはり海老名姫菜の恋はまちがっている。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6496883#1

　マーべリック事件から早二年。 　月日が経つのは本当に早い。つまり、父がヒーローに復帰してから一年が経った。今では二部リーグを卒業し、二年前と同じく一部リーグに身を置いて危険と隣り合わせで戦っている。 　相変わらずデッドラインのギリギリにいる父だが、こうして現役でライバルたちと渡り合っていられるのも、ひとえに傍らでしっかりとサポートをしてくれている相棒がいるからに他ならない。彼女は二年前よりも一層美しく、より威厳ある風格を醸し出すようになっていた。今年度のＱＯＨとして有力で（一位独走状態なのだから当たり前だ）ＭＶＰ殿堂入りも夢ではない、というのが世間での噂だ。口さがない下馬評では、バディヒーローでなかった場合の彼女の総得点は過去の記録を大きく塗り替える程の物だ、とかなんとか。しかし、彼女が独立を示唆する台詞を口にした事は一度としてなく、下世話なメディアが誘導尋問でそれを仄めかそうとしても、真っ向から否定。父との離別を望まなかった。 　毅然として振舞うバーナビーの姿は私の憧れだ。 　楓は手にしていた写真をぎゅっと握りしめると、深く息をついて窓の外を流れる風景に目を細めた。 　自分ももう１２歳。ついに、この時がやってきた。 　冷戦状態だった親子喧嘩も、今日で終わりを迎える。 　ガタンゴトンと揺れるローカル電車はまだ夜明けの空気に包まれたばかりで、朝やけを眺めるには少し早かった。 　もう少し寝て、体力を温存させよう。 　楓は巻いていたマフラーに首をうずめるようにして瞼を下ろす。 　吐きだす空気がこもって温かい。 　クリスマスプレゼントとして貰った紅いマフラーは、写真に写る人から送られた大切なものだ。 （私、頑張るから） 　緊張で少ししか眠れていない身体に電車の揺れは心地よく、まどろみは幾ばくも無く楓を夢の中へと誘っていった。 [newpage] [chapter:冬来たりなば、春遠からじ　If winter comes, can spring be far behind?] 　お尻が痛い。電車の長旅は流石の楓にも若干の軋みを覚えさせた。 　季節はまだまだ冬。春の到来が待ち遠しいこの時期、豪雪舞い散る田舎からはるばる上京してきた彼女には大きな目的があった。 　そう、祖母といがみ合い、父と電話で大喧嘩するまで至った大事件の集大成を見せに来たのである。 　行動力こそが物を言う昨今で、若干１２の自分に何が出来ると言われればこれくらいしかなかった。もちろん、これに繋がる様々な必要事項は祖母にも叔父にも父にも多大なる迷惑を掛けて用意せねばならなかったのだが、それさえ潜り抜けてしまえばあとは自分一人の責任である。最終結果は今日ここで決まる。 （さぁ、正念場よ） 　何度も確かめた受験票。 　筆記用具も準備万端。暗記物は脳内に叩きこんできた。 　独学でできる事は全てやったのだ。全く興味が湧かなかった英雄史だって死ぬ物狂いで覚えたし、小作文はわざわざ通信教育を使ってまで対策を練った。 　今日までの苦労を思い起こし、楓は自分自身の努力を何度も確認する。 （やれる事はやったもの。大丈夫！） 　さぁ、あとは今日の入試を乗り越えるのみ。 　早朝にもかかわらず人ごみでごった返す雑多なシュテルンビルト駅に足を降ろして、楓は毅然として顔を上げた。 「行くわよ、鏑木楓」 ＊＊＊ 「虎徹さん、煩いです」 　デスクワークに精を出していた筈のバーナビーが突然呆れ口調でそんな事を呟いた。意味が分からず彼女の方を振り向いて「え？」と言うと、バーナビーは大きなため息をつきながら虎徹が握りしめていたボールペンを指さす。 「カチカチカチカチ……先ほどからボールペンで遊んでますけど、それは物を書く為にあるのであって、リズムを奏でるものじゃありません」 「あ」 　見やれば、確かに自分はノック式のボールペンを先ほどからカチカチさせていた。無意識の行動とは末恐ろしいモノである。そっとボールペンを机の上に置いて、虎徹は居場所を失った両手を膝の上に収めた。 「――真面目にやる気あります？」 　バーナビーの冷たい声に肩を震わせてしぶしぶ目の前の書類に向き直る。しかし、目の前の書類の文字を追おうにも全く脳に浸透してこないのだから困ったものだ。いや、だいたい自分は日系なのだ。オリエンタルタウンも英語圏内だが、なじみ深いのは日本語の方である。遺伝子に組み込まれた母国語から切り離された異文化人の気持ちも分かってくれたっていいじゃない、と言い訳にもならない事を考える虎徹であった（バーナビーには死んでも言えないが） 　それでもダラダラと仕事を進めようと努力はしてみる――のだが、結局数分も立たずに視線は腕時計の電子版を見つめていて、また無意識のうちにボールペンを取ると手持無沙汰の手を慰めるかのごとくカチカチカチ…… 　ゴホン！ 　わざとらしい咳払いに背筋を凍らせて恐る恐る隣人に視線を向けると、エメラルドの双眸が冷えた輝きを携えて虎徹をじっと睨みつけていた。いい加減にしてください、と顔に書いてある。 （……） 　でもさぁ、と。 　虎徹が心情込めて眉をハの字にし口を尖らせると、眉間に深い皺を刻んでいたバーナビーもついに諦めたのか大仰にため息をついた。そうして徐に席から立ちあがると、同室に居る総務の女性に近づき、何かを告げる。 　基本的に総務の女性とやりとりする仕事はヒーローにない。特に君は内部業務に口出ししなくていいとロイズから言い渡されている手前、あまり関わりを持っていないのが現状だ。 　そんなわけで、バーナビーの姿をきょとんと目で追っていると、眉間に皺を寄せたままの彼女は虎徹にずかずかと近寄ると強引に腕を掴んでそのまま事業部の部屋から連れ出した。 「ラウンジ、行きますよ」 　その端的な言葉の意味を理解して、虎徹は笑顔を輝かせる。 （さっすが、バニーちゃん！） 　怒られないよう配慮までして、仕事の逃亡に付き合ってくれる相棒に心中で拍手喝さいの虎徹だった。 ＊＊＊ 「サンキュー、バニーちゃん！」 　アポロンメディアの休憩所のコーヒーは美味い。 　用意されている豆が違うね、と俄か知識を持ちだして虎徹が呟くとコーヒーを手渡したバーナビーは「はいはい」と適当に言葉を返した。 　就業時間中にこの場を正々堂々と使っているものは非常に少ない。もちろん、正規の休憩時間として割り宛てられている人間には何の抵抗感もなく使用できるはずなのだけれど。 （はぁ、情けない） 　駄々っ子を黙らせる為だけに此方に来ている自分に涙がでそうだ。 「うん、やっぱいい豆のコーヒーは格別だな！」 　紙コップのコーヒーに口を付けながら胡散臭いことこの上ない台詞を吐く虎徹の横に座り、バーナビーはひっそりと苦笑する。 　地上数十階の高層ラウンジには仕事の疲れを忘れさせてくれる絶好の景観が広がっている。窓ガラスに沿うようにして付属されているカウンター席に虎徹とバーナビーは座っていた。顔を上げると目の前の窓に映り込む虎徹の表情がしっかりと見えた。本来ならその先にある景観を楽しむべきなのに、何故自分はこんな中年男の顔を見て心配してしまうのだろうか。 　惚れた弱みだなと胸中で呟いてから、バーナビーは窓ガラスではなく隣に居る本人の顔を覗きこんだ。 「虎徹さん、いっそ有給を使った方が良かったですね」 　嫌味ではなく素直にそう思って告げると、虎徹は「家にいたって何していいかわかんねぇし、仕事してる方が気が紛れるじゃん！」と、言い分としては正論、態度としては全くの矛盾を示す返事をくれた。 　ああ、つまり一緒に有給を使えばよかったのだ。今更気付いたバーナビーは虎徹に「そうですか」と生返事を返す。 　せめて共に自宅で楓の受験待機をしていれば、こんな所でサボらずにもっと有意義な時間を過ごせたであろうに。 「あいつ、大丈夫かな。どう思う、バニー」 　虎徹は時計を見つめながら今日何度目とも知れない溜息をついた。 　今朝からずっとこの調子なのだ。 　彼一人が仕事にならないならまだしも、周りまで巻き込んでくるのだからたまったものではない。 　バーナビーは今朝方シュテルンビルトに到着した楓をヒーローアカデミーまで送迎した手前、色々と話を振られて困っているのである。 　まぁ、娘の受験で仕事に集中できなくなる親の気持ちは分からなくもないのだけれど。 「楓ちゃんなら大丈夫ですよ。今朝も忘れものもせずに、しっかりしてましたよ」 「流石、俺の子」 「ホント、貴方に似なくてよかったですね」 「ホントホント――って、え？」 「コーヒー、零れますよ」 　手元が怪しくなった虎徹が慌ててコーヒーカップを握りな直すと、半眼でバーナビーを見つめる。 「バニーちゃん、最近酷くない？」 「本当の話じゃないですか。亡き細君に感謝すべきですね、貴方」 　つーん、と突き放してバーナビーが告げるものの、この手のやり取りは慣れている虎徹はそれ以上突っかかる事も無く「そーですね」と声を上げた。 「――にしても、居ても立っても居られないとはこういう事も言うんだなぁ」 　虎徹の呟きに、現場でもよくそういう状況になる癖に……と胸中でツッコむものの、口に出しては言わない。 　黙ってコーヒーに口をつけると、そう言えば砂糖を入れ忘れている事実に気がついた。虎徹に限らず自分も今日は調子がずれているようだ。 　まぁ、仕方あるまい。昨夜楓から連絡を貰った辺りから気はそぞろなのだ。 （ホント、困ったことになったもんだな……） 　昨日の出来事を思い出し、バーナビーは人知れずため息をついた。 　ヒーローアカデミーまで随行してもらえないか、という楓の申し出に驚いたのはバーナビーだけではない。もともとは虎徹が送迎する予定だった。突然の予定変更に何故そんな事を言い出したのか楓に尋ねると、曰く――お父さんは私をヒーローアカデミーに入れたくないから、明日も喧嘩になるだろう。そんな状況で受験になんか臨めないから、バーナビーが送ってくれないか、という話だった。 　幸か不幸か丁度その場に虎徹もいて（というか、虎徹の家にいたので彼がいるのは当然だ）、結局据え置きのＴＶ電話に切り替え三人で話し合った結果、バーナビーが受験会場へ送迎する、という話にまとまったのである。無論穏やかな話し合いになるはずもなく、すったもんだの末こうのような結論に至ったのだが。 （似たもの親子も困りものだ……） 　我の強さでいえばバーナビーも人の事は言えないが、あの親子には似たような一本筋が宿っていてそれが余計に話をこじれさせている。譲り合いの精神皆無では話の進展に期待できない。 （どうしたものかな……） 　楓がヒーローアカデミーを受験するという話はバーナビーも一年前から知っていた。その時の親子喧嘩も凄まじく、以来板ばさみを食らうようになったバーナビーは楓の相談相手として頻繁に連絡を取る間柄になっている。 　どちらかといえばバーナビーは楓の思考を尊重する派だ。虎徹には「裏切り者」と罵られたが、一個人のとしての意見を大切にしてあげたいというのがバーナビーの心情である。惚れた人間だからといって加担するほど落ちぶれてはいない。楓と仲良くしておきたいという下心も確かにあったかもしれないが、そういった下世話な感情よりも本当に彼女の意思を守ってあげたかったのである。 　ちらりと、横目で隣に座っている虎徹を伺って見ると、彼は仕事中と変わらず腕時計を見つめては何度かため息をついていた。 「……そういえば、昨日聞きそびれましたけど、まだ認めてなかったんですね？　願書まで取り寄せてあげていたから、てっきり貴方が折れたのかと思ってました」 　楓と連絡を取っているといっても主に受験対策の相談がもっぱらの内容で、家庭内の話題にはあまり触れていなかったバーナビーは、昨日の電話で全ての事情を知ったのだ。一家庭の教育方針に口を出していいとも思えず黙ってはいたが、一年間結論をうやむやにしたまま受験日を迎えていた事には驚いた。 「あぁ、ヒーローアカデミーに入ったってヒーローになれるわけでもねぇし。まぁ、受験くらいは、と思ってさ。受かるとも限らないしな……」 　その曖昧な返事にバーナビーは呆れて天を仰ぐ。 　親子喧嘩などした事のない自分にはその不毛さが理解できない。 　片手で顔を覆ってから「優柔不断」と呟くと、隣から「うるせぇやい」と子供じみた声が返ってきた。 「僕が言える事なんてあんまりないですが、貴方らしくないですよ」 　結論が出ないまま物事を先延ばしにするのがいかに良くないかは昔の教訓からよく学んだはずだというのに。 　あの時は虎徹がヒーローを辞める辞めないですれ違いが起きたし、ずるずる引きずった挙げ句マーベリック事件が起こって、なんやかんやの末に虎徹の意思も固まったわけなのだが。 　外的要因が大いに影響される人なので、また何か変な考えを浮かべていなければいいけど、とバーナビーが横目で虎徹を見やると、いつの間にか彼はバーナビーの金髪の先をくるくると弄んでいた。 「……バニーちゃん、俺が前にヒーロー辞めない？って聞いた事あったでしょ」 　突然の台詞にきょとんとするものの、ソレには覚えがあってバーナビーはあの時の感情がまたも復活してくるのではないかと、口の端を上げた。 「ありましたね。ちゃんちゃらおかしくて重症患者だったのに貴方を蹴り飛ばしたのは記憶に新しいです」 　医者と看護師に必死で宥められておとなしくなったわけだが、今でもその言葉を言おうものならバーナビーは遠慮無く踵落としをするつもりだ。 『僕はあなたより先に死にませんよ、絶対』 　口約束にもならない宣誓が虎徹を黙らせた。この世に絶対など無いとわかっていても口にしたのは、願いもあったからだろう。虎徹も「絶対約束を破るなよ」と言って泣いていた。 「俺はさ、おんなじ理由で楓にもさせたくないわけ」 　それは初めて聞いた台詞だ。そういえば、バーナビーが大怪我を負った時期と楓がヒーローになりたいと言い出した時期はそんなに差が無い。 「なるほど……平行線ですね」 　自分と虎徹の長期戦のやりとりと同じなのだと悟り、バーナビーは目を伏せた。 　傍にいるせいで危険な目に合うのならバディを解消したいという虎徹と、虎徹がヒーローを続ける限りバディは辞めないという自分。 　どちらかが折れない限りけして交わらない道だ。 　そういえば、虎徹は大事なときほどよく迷う。それだけ大切に考えてくれている証拠だが、それでも見誤らないでほしいのは、正しい答えなんてこの世に何一つないという事。 　正解なんて、どこにもないという事。 「バニー、俺って我儘かな」 「……さぁあ。少なくとも、立派な大人ではないと思いますが」 　こんなところで正々堂々サボっているのだがらまず立派なはずがない。無論、それは自分自身にも言えるのだけれど。 　窓に映り込む虎徹の横顔は、不安に耐えるような、迷っているような……そんな複雑な表情だった。 「…………ねぇ、虎徹さん。今、何秒でしたっけ？」 　バーナビーが主語も無く問うと、虎徹は「４８秒」と端的に答えた。 　毎日毎日、バーナビーは同じ事を問うている。明日の予定を尋ねるかのごとく、虎徹の残された時間を訊く。 　それが何を意味しているのか、当の本人が一番わかっているだろう。 「また減りましたね」 　にっこり笑ってそう告げると、虎徹は被っていたハンチングの鍔を下げた。 　ばつの悪い表情は窓ガラスには映らなくても、目の前に置かれたコーヒーの表面にくっきりと反射されている。ゆらゆらとコーヒーの波は揺れ、虎徹の情けない表情もゆらゆらと情けなく揺れていた。 「……ねぇ、虎徹さん。僕は親の気持ちはわかりませんけど、楓ちゃんの気持ちなら、貴方より分かっていると思うんですよ」 　バーナビーは机に伏せるように腕を置いて顎をのせると、視線だけ虎徹に向けた。 　琥珀の瞳は追い詰められたようにバーナビーの視線から逃れるので、苦笑してから前方に広がる景色に目を向ける。 　目に飛び込むのは、まさしく絶景。 「護りたいと思っているのは、貴方だけじゃないんですよ」 　この世界を純粋に美しいと思う。そう思った分だけ、バーナビーは自分の仕事に誇りが持てた。 　そうして何より、この綺麗だと思える世界を守ってきたのは隣にいる彼や、その先人達で―― 　受け継ぐべき世界があるから自分はヒーローとして誇り高く生きていられる。 　バーナビーの言葉に、虎徹は小さく「うん」とだけ答えた。 [newpage] ＊＊＊ 「では虎徹さん、僕は楓ちゃんを迎えに行きますので、ちゃんと今日の分の書類を終わらせてから帰宅してくださいね」 　午後２時半。終業には早い時間に帰り支度を整えると、バーナビーはバイクのキーを掴んで隣の席の虎徹に声を掛けた。 　うんともすんとも言わない彼は物欲しそうな目でバニーを見ている。その表情から読み取れるのは、午前に起こした奇跡の逃亡劇を今一度起こしてくれないか、という要望だ。 　そうは問屋が卸さない。 「早く帰りたいならさっさと仕事を終わらせて、ロイズさんに早退の申請でもしてみてください」 　申請が通るなら、ですけど。 　何度も甘やかしたりしないのが、バーナビーがバーナビーたる所以である。付き合い当初よりも角が立ってきた事は自覚しているが、出会いの時分を思い起こせば可愛らしい部類に入るのは間違いない。 　ＰＣの電源を切り、首に白いマフラーを巻きつければ、準備万端。 　颯爽と部屋から退出しようとしたバーナビーに「無理に決まってんだろ」と半眼で虎徹は呻いたが、彼女は澄まし顔で「そうですね」とだけ返して部屋を出た。 　バニーちゃんのケチ！ 　そんな捨て台詞が耳に届いて来たが、気にしない。ケチもなにも、まっとうに仕事をしていればその申請だって通る可能性は高かったかもしれない。つまるところ、日ごろの行いがなんとやら、だ。 　気を取り直して、ポケットから携帯端末を取りだして見やれば、無事に試験を終えた楓からメールが届いていた。 『ちゃんとできたよ、バーナビー！』 　スクロールすると、校舎をバックに満面の笑顔でピースをする楓の写真が映り込んでいた。画像から察するに、自分撮りではない。おそらくその場で仲良くなった誰かに撮ってもらったのだろう。 　もう友達を作ったのかと驚くものの、彼女は虎徹の娘なのだ。気さくさと人好きな性格は抜群に持ち合わせているので、不思議ではなかった。 　バーナビーは苦笑してから、素早く返信の文面を打つ。 『それはよかった。今から迎えに行くので、校舎前で待ってて下さい』 　送信、とボタンを押して、急ぎアポロンメディアの廊下を走る。途中何人かの人に「早退ですか？」と尋ねられたが、足を止めることなく「ええ」と短く返して先を急いだ。 　ここからヒーローアカデミーまではそう遠くないものの、寒空の下に女の子一人を待たせるわけにはいかない。 　ヒーローを長くやっている手前、若干フェミニストの気があるバーナビーは、制限速度を守りつつ最大速度でバイクを走らせた。 ＊＊＊ 「もうね、すっごい緊張したの！」 　興奮冷めやらぬ顔で熱弁する楓に苦笑しながらバーナビーはその話を聞いていた。 　二人が歩いているのは、今しがた楓が入学試験を行っていたヒーローアカデミーの廊下である。 　本来ならば関係者以外立ち入り禁止の時期である。にもかかわらず、こうして校内をのんびり見学をしているのには訳があった。 　楓が受験したクラスは、ミドルからハイスクールの勉強まで学べる総合専門学科という特別クラスだ。一般クラスは老若男女問わず未受験で入学できるが、一般教養も学びつつヒーローを目指す子供は特別クラスを選択する事が多い。もちろん、落ちた場合は一般クラスに入学すればいいだけの話だが、そうすると親にとっては学校を二つ通わせることになり、資金面で何かと大変なんだとか。開け放たれた学校と銘打ってあっても、所詮ゴールド、シルバー、ブロンズと隔てられた階級社会に成り立つ学校という訳だ。 　さて、話を元に戻そう。 　楓は特別クラスの受験者の中では特殊な部類に入る。親族にヒーローもしくはヒーロー事業関係者がいる場合は推薦入学がもっぱらなのだが（しかも落ちる事はほとんどない）、楓の場合はその親族が推薦を許さなかった。しかも、今まで一度も学校見学をした事もなく、入試で初めてその門扉をくぐったのである。 　流石にそれはよくないのではなかとバーナビーが思っていた矢先、校門をうろうろしている所を校長に見つかり、事情を話したら快く見学を許可してくれたのである。 　もちろん、試験会場となった本棟は立ち入り禁止だが、音楽室や化学実験室などがある特別棟、および体育館、講堂、食堂、グラウンドはバーナビーが案内する事を条件として許可された。現役ヒーローがいれば不正の疑惑ももたれない、という事なのだろう。 　そんなわけで、楓は意気揚々とヒーローアカデミーを見学中なのである。といっても、彼女の話は大方入学試験の内容と、その時の心境なのだが。 「勉強の方はね、全然緊張とかなくてむしろ頭が冴えてて、できるやれる！って自信満々だったんだけど、午後のグループ面接であがっちゃったんだ」 　ちょっと焦っちゃった、と舌を出す楓に微笑みながらバーナビーはどんな内容を問われたのか訊く。 「あのね、尊敬するヒーローは誰ですかって聞かれたの」 　楓は語りながら特別棟の廊下からグラウンドを見下ろすと「うわ、うちの小学校の倍はある」とトラックの長さに対して驚愕していた。「土の面はないの？」と不思議そうに尋ねる楓に、このグラウンドは人工芝と合成ゴムのトラックで完全管理されている事を伝えると「なんだか寂しいね」と短く答えた。そういえば、虎徹が以前ヒーローアカデミーで臨時講師を行ったときも、このグラウンドを見て「味気ないな」と呟いていたのを思い出した。 　やっぱり似たもの親子だな、と内心で苦笑してから、バーナビーは話を元に戻して尋ねる。 「それで、答えはワイルドタイガー？」 　当然の如く答えはそれだろうと思い尋ねたのだが、楓は意に反して首を横に振ると「タイガー＆バーナビーだよ」と言い直した。 「だって、バーナビーの事もお父さんと同じくらい尊敬してるんだからね、私」 　予期せぬ答えに思わず喜びを忘れてバーナビーは瞠目した。返す言葉も浮かばずに茫然としていると、楓はバーナビーの手を取ってそのまま廊下を歩きだす。楓に先導されるようにして歩いていると、彼女は「バーナビーの学生生活はどんなだった？」と尋ねてくる。 「僕は、あまり仲間と一緒に過ごしたりするタイプじゃなかった、かな」 　不意に廊下の窓ガラスに映り込む自分を見て、アカデミー生だった頃の自分を思い出した。 　友達と呼べるような仲の友人はいなかったと思う。すべてがライバルで、敵で、心を開くだけ馬鹿馬鹿しいと思っていた時期すらあっただろう。今にして思えば、なんてもったいない学生生活だった事か。無論、その時培ってきた物をすべて否定するわけではないが、それでも子供らしさだとか学生らしさというものを置き去りにして生きていた生活を肯定はできない。 「楓ちゃんには、たくさん友達を作って楽しい思い出をたくさん作ってほしいなって思います」 　僕にはそれが出来なかったからと苦笑して告げると、楓は悲しいような、困ったような……そんな複雑な表情を浮かべていた。 （――しまった） 　バーナビーは己が選ぶ言葉を間違えた事に気づき慌てて話題を変えた。 「あ、そういえば、ようやく虎徹さんは授業参観に行けるわけですね。小学校の授業参観に一度もいけなかったのを相当悔しがってましたから。きっとハンディカムを回して見に行くんじゃないかな。あと、運動会や文化祭もあるから、あの人忙しくなりますね」 　無理やり笑顔を繕って楓が喜びそうな話題を振るものの、楓の表情は一向に晴れる事はなかった。バーナビーの紡ぐ言葉をただ黙って聞く彼女はブラウンの瞳が時折揺らしながら、うんうん、と小さく頷くだけだ。 　気不味い空気が流れだした事に気づくものの、自分のコミュニケーション能力の低さには自覚があったバーナビーはどうすればいいのか分からずに途方に暮れた。 （うまくいかないもんだな……） 　テレビや雑誌の中で繕った自分は簡単に表現できるのに、素直な気持ちほど伝える事が困難だなんて、とんだお笑い草だ。 　ふと、虎徹ならどうするのだろうかと考えて脳裏に思い浮かべる。けれど、思春期の女の子の扱いは大変だと嘆く父親の姿は想像できても、その先の二人の関係など経験値のない自分には到底想像できるはずもなかった。 　最近は親と言う概念すらあやふやだ。虎徹と付き合うようになってから、自分の立ち位置が酷く曖昧な事はわかっている。そして、楓の中でどういう立場にいるのか――一番大切な所をバーナビーは認知したことがなかった。 　父親の相棒か、はたまた仲のいい知り合いか。 （それくらいなんだろうか……） 　虎徹との付き合いを許してほしいと嘆願に行った時の楓は酷く不安げで、諸手を挙げての祝福でないことは明白だった。その時の反応を見たバーナビーは、隠したままの方が彼女の為だったのではないかと酷く後悔した程だ。けれど、楓は黙って虎徹のそばにいることを許してくれたし、避ける事もなく優しく接してくれた。 「――あのね、バーナビー」 　一人思考に耽っていたバーナビーに、突然楓が声をかける。 　慌ててそちらに視線を送るものの、彼女はしばらく口をもごもごとさせて空気を噛んで言葉を探しているようだった。急かすつもりもないので黙って続きの言葉を待っていると、意思が固まったのか、楓は意を決したように口を開いた、が―― 　ピルル！　ピルルル！ 　その声が届くより先に、バーナビーの携帯電話の呼び出し音が鳴り響く。 （なんてタイミングの悪い――） 　音色から相手は一発で分かり、バーナビーは楓に詫びを入れてから携帯を取り出す。ＰＤＡのコールじゃない事に安堵しながら、ディスプレイを確認すると、予想通り相手は虎徹だった。 「もしもし？」 　就業時間にも関わらずかけてきた電話である。急用かと思い心配して電話に出ると「あ、バニー、いまどこ！？」とテンション高めの虎徹の声が耳に飛び込んできた。 「こんな時間にどうしたんですか？　まさか仕事が終わったんですか？……え、ロイズさんが？　ええ、はい……ええ、あぁーそれはアレですね。見限られただけかと」 　キミもう帰っていいよ、と言い渡された話の流れを聴く限り、思い浮かんだ感想を述べると虎徹は憤慨して声を上げた。 「はいはい、失礼しました。こちらはアカデミー見学中です。結果は上々みたいですよ？　だからいい加減、仲直りしてくださいね」 　楓の言葉を聞けなかったのは残念だが、それよりもまず第一にすべきことはこの二人の関係の修復である。今朝から一度として会話をしていない親子の会話の切欠づくりとしてバーナビーが強引に話を終わらせ「楓ちゃんに変わりますね」と告げると、虎徹は慌てた反応を見せたが、構う事はなかった。 　そのまま黙って楓に携帯を手渡すせば、彼女は差し出されたそれをおずおずと受け取りながらゆっくりと耳に宛てて「お父さん？」と尋ねる。 　虎徹の声はバーナビーには聞こえない。 　けれど、労いの言葉くらいかけているのだろうと思い、少し席をはずそうと踵を返す。 　これで少しはお互いの距離を詰められればいいのだけれど。 　そんな俄かな期待を抱き、そっと母校のグランドに視線を下す。次の登校は親子二人で笑顔で入学式だ。立ち並ぶ桜の木々が一斉に花開き、人工的なアカデミーの風景に優しい色を添える。 　その時にはこの廊下も穏やかな気持ちで歩けていればいいな、と思っていた矢先、楓の切羽詰まったような声が耳に届いた。 「お父さんはさ、いつまでこのままでいるつもり……？」 　楓の冷たい言葉に驚いて振り返ると、彼女の手は震えていた。 「お父さん、いっつも中途半端！　かっこ悪いよ！！」 　そう叫んだ楓は勢いのまま通話を終了させていた。目じりにはうっすら涙さえ浮かんでいて、慌てて駆け寄ったバーナビーの懐に抱きつくとそのまま顔を押しつけて嗚咽をこらえていた。 「楓ちゃん……？」 　ぐずぐずと鳴き声の合間に聞こえるのは、楓の小さな訴えだった。 「このままは嫌なの」 「……楓ちゃん？」 「そう思うのは私だけなのかな」 　ねぇ、バーナビー。 　楓の言葉にどう反応したらいいのか分からず、バーナビーは泣き続ける楓の背中を黙ってさする事しかできなかった。

にょバニに走りました。本望です。見切り発車で着地点が怪しいですが、楓ちゃんとバニーの仲がいいといいなっていうだけの話。全部俺得です、すみません。それにしても、英雄史ってなんですかね、捏造しまくってます。ヒーローアカデミーの設定がわからず、勝手に７年生で１２歳から入学ＯＫの専門学校にしてしまいました。ハリ○タみたいな。でもホグ○ーツは１１歳から入学なんですね…。ヒーローアカデミーですが、本編を見たら専門学校というよりスクールっぽい印象をうけたので焦っています。それでもご都合設定で進みます、すみません。なんかもう、色々すみません。ふんわりと読んでいただけたら嬉しいです。【追記】評価・ブクマなどありがとうございます…！　ＲＬの通知とか初めて頂いて吃驚感激でした。本当にありがとうございます。

【虎兎】冬来たりなば・前【にょた兎】

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タダクニ「……あ〜、夏だねぇ」 ヨシタケ「……夏だねぇ」 八幡「……夏だなぁ」 ヒデノリ「……夏だねぇ」 ヒデノリ「いや。夏じゃないよね？」 八幡「は？」 ヒデノリ「夏じゃないよね？ これ書いてるの」 八幡「いや、そんな唐突にメタいこと言われても」 ヨシタケ「普通春だよねぇ〜」 タダクニ「普通って何だよ」 ヒデノリ「普通さ、入学式とか春とか新学期とかから始まるでしょ？」 ヨシタケ「転校生ってのもありだよね〜」 八幡「いや、広く見渡せば夏でも秋でも冬でもたくさんあるだろ」 ヒデノリ「でもさ、心機一転して学園モノを始めるとしたらやっぱり春がベタじゃない？」 八幡「……まあ言いたいことはわかるけど」 ヒデノリ「なのにさ、この作品の始まりが友達の家で寝転がってるだけってドユコト！？」 タダクニ「いや、だから、これ学園モノじゃなくて日常物だから！」 ヒデノリ「え？ そーなの？」 八幡「実際、タダクニん家で寝転がってるシーンばっかだよなこのシリーズ」 ヨシタケ「まあ…そう言われればそうだよね」 ヒデノリ「…………ごめん。熱くなって」 八幡「まったくだ。コノヤロウ」 ヨシタケ「あー……暑いなぁ」 タダクニ「ん〜……夏だねぇ」 [newpage] 〜比企谷宅〜 ヒデノリ「……もう夏休みだな」 タダクニ「…………」 ヨシタケ「…………」 クギヒコ「…………」 モトハル「…………」 八幡「…………ふぁ」 ヒデノリ「欠伸すんなや比企谷。 つーかなんでお前ら制服着てんだよ？ 俺もだが。しかしまぁ、揃いも揃ったもんだなぁ。穢れがないのがゾロゾロと…………」 ヒデノリ「なめてんじゃねーよ！ 貴重な夏休みに男だけで集まって！ なにやってんだお前らはっ！！ いいのか！？ それでいいのか！？ ぜんっぜんよくねーっての！！ 何か言え！ タ・ダ・ク・ニ！！」 タダクニ「……いやまぁ、ツレと一緒にいる方が楽しいし」 ヒデノリ「出たよこのセリフゥ！」 ヒデノリ「ツレと一緒にいる方が楽しいしぃー」(裏声) ヒデノリ「何その敗北宣言！！ 」 八幡(実際異性と付き合い始めたら結構面倒くさくて、同性の友人といる方が気楽で楽しいという人も多いらしい。ヒャ○インさんも歌って教えてくれたしな) クギヒコ「…………」 ヒデノリ「貴様ら、自分で何しでかしてんのか分かってんのかぁ！？ 分かったら！！ 彼女作れ！！ この犯罪者どもーーーーーー！！！」 ヒデノリ「……はぁ……はぉ……うう！ うっおほぉん！！ さて、それじゃ夏休みの予定を決める会議を始めようか」 ヨシタケ「待てオイ！」 モトハル「やっぱお前司会やめろ！」 クギヒコ「…………」 ヒデノリ「なんだよ。せっかくお前らのテンション上げてやったのに」 モトハル「下がったわ！」 ヨシタケ「お前じゃダメだ！ 唐沢だ！ 唐沢を司会にしろ！」 八幡(前から思ってたけどコイツラの異様な唐沢推しは何なんだ？) クギヒコ「…………」 携帯電話「prrrrrrrrr」 ヒデノリ「唐沢？ 比企谷ん家に制服で来てくんね？」 [newpage] 〜十数分後〜 唐沢「ひでえな。夏休みに男だけで。しかも制服で」 八幡「しゃーねーだろ。だって男子高校生だもの」 タダクニ「……ハァ」 ヨシタケ「うるせーな！ 別にいいじゃねーか！」 クギヒコ「…………」 モトハル「頼むからもうテンション下げんな！」 タダクニ「お前なぁ…そんなの気にしなくていんだよ！」 ヒデノリ「死ね！」 小町「……あれ？ お兄ちゃんのお友達？」 ヒデノリ「おお。いいところに来た、比企谷の妹」 小町「はい？」 ヒデノリ「もしこの中で付き合うとしたr」 小町「あ、お兄ちゃん、小町塾行ってくるから」 八幡「おう、いってら」 ヒデノリ「」 唐沢「清々しいまでにガン無視されたな」 モトハル「あまりの切れ味の良さに痛みすら感じなかったな」 タダクニ「暴力振るわないだけうちの妹の10倍は優しいな」 ヨシタケ「ああ、うちの姉の100倍は優しいね」 クギヒコ「…………」 八幡(ヨシタケの姉さんって何者だ……) ヒデノリ「さて、夏休みの計画についてだが」 唐沢「あ、立ち直った」 ヨシタケ「もう時間ねーよ！？」 モトハル「どーすんだよ！？」 クギヒコ「…………」 八幡「……特に案がないなら俺からいいか？」 タダクニ「……比企谷から何か言うって珍しいな」 ヒデノリ「いいだろう。発言を許可しよう」 八幡「何様だお前。……え〜っとだな、近所の掲示板で見たんだけどさ。夏休みに千葉村で行われる小学生の林間学校があるんだって」 ヨシタケ「……それが？」 八幡「スタッフのアルバイトを募集してるそうだ。宿泊費食費交通費込みのバイト代が出るってさ。期間は二泊三日だ」 唐沢「……なるほど。小旅行と短期アルバイトを重ねるということか」 タダクニ「ああ、いいねそれ」 ヨシタケ「悪くないな。ヒデノリは？」 ヒデノリ「いいとおもうぜ？ なんで早くその案を言わないの比企谷きゅ〜ん」 八幡「きゅんとかやめろキモイ」 ヒデノリ「いや〜ん酷〜い」 モトハル「キモイな…………あ、俺も賛成だ」 タダクニ「クギヒコは？」 クギヒコ「…………」 タダクニ「……満場一致だな」 八幡(何故わかる。…………そういえばクギヒコの喋ったところを見たことがない) ヒデノリ「……ほいじゃ申し込みの情報とか確認しておきたいな。比企谷、チラシって今持ってる？」 八幡「部屋にある。ちょっと持ってくるわ」 ヨシタケ「ほーい」 〜総武高校〜 雪乃(千葉村の林間学校のボランティア……) 雪乃(……面倒くさいなぁ) 雪乃(でも行かないとあの行き遅れが小煩く喚くでしょうし) 雪乃(……やっぱり他にもボランティアで高校生が来るのよね) 雪乃(…………) 雪乃(…………都合よく比企谷君もボランティアに……なんてことはないでしょうね) 雪乃(……せめて1人でも知り合いがいれば心休まるのだけれど) 雪乃(…………) 雪乃(…………面倒くさい) 雪乃(…………仮にこれがアルバイトだと言うのならばまだ多少なりともモチベーションは上がるのに) [newpage] 後書き 多分次回からクロスオーバーが濃くなるかと思います。 みんな大好き千葉村篇。 これからもよろぴく。 最近モチベが上がりません。 ごめんなさい。

八幡は真田北男子高校の生徒です。

男子高校生と夏計画

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答えなんて、誰にもわからないと思っていた。 ■憶測探偵、天童覚の推理■ 「…シャワー、ありがとうございました」 襖を開けて、声をかける。裸足で踏み入れた畳は、さっきよりもひんやりとしていた。及川さんは、俺が部屋を出たときと同じ位置に座っている。一瞬視線が重なったけど、特に言葉を交わすことはなかった。 濡れた髪が束になって耳に当たるから、首にかけたタオルで水滴を拭う。 どうにかならないかと、頭を洗っている間ずっと考えていた。 ここから烏野はウチから行くより遠いし、帰れないほど疲れてない。説得力のない案ばかり浮かんでは消えて。 結局、この部屋に居残る理由はなにも見つからなかった。 隅に置いたカバンに近づいて、意味もなく中を整理する。入っていたものを出して、また入れて。 でも、それも僅かな時間稼ぎでしかない。 横目で及川さんを盗み見ると、彼も居心地が悪そうに指先で畳を撫でていた。 カバンを肩にかけて、立ち上がる。 「…じゃあ、」 お疲れっした、って頭を下げた。帰り際は、なるべく及川さんを見ないようにしている。どんな顔をされても、帰りにくくなる気がした。いつ最期になってもいいように、もっとちゃんと目に焼き付けておくべきなんだろうけど。 「飛雄、」 部屋を出ようとした時、背中に声がかかる。名前を呼ばれただけなのに、心臓が止まるかと思った。拳を握り締めて、振り向くのを堪える。 「髪、まだ濡れてる」 その言葉に、ハッとして首にかかっているタオルを取る。これは及川さんちのタオルだ。視線を伏せたまま振り向いて、及川さんにタオルを返した。 「外出れば、すぐ乾きます」 正直に事実を答えてしまう。答えてから、もっと上手く返せていたらもう少しここに居れたのかもと後悔した。だけど、こういうとき、嘘をついていいものなのかわからない。俺の髪は、ほっといてもすぐに乾く。それは及川さんも知っているはずだ。 俺の答えに、及川さんは「そっか」とだけ呟いた。 「お前が風邪なんかひくわけないしね」 笑っているような声だけど、顔を見てないからわからない。会釈をして、今度こそ部屋を出た。玄関の扉がしまるまでは、粘り強く居残る理由を探す。 ダメだ、靴紐も切れてないし、荷物も重くない。倒れるくらい腹が減っていればよかったのに。 ガシャン、と扉が閉まってからは潔く諦めた。 夜の風に吹かれながら、大通りまで歩いていく。早速、髪は毛先から乾きはじめていた。 シャワーを借りたのは、失敗だったかもしれない。いつまでも、彼の匂いがつきまとう。普段なら、体の熱と共に消えていくのに。 大通りに出て、横断歩道を渡った。泊まっていくほど疲れてないけど、走って帰るには脚に負荷がかかりすぎる。そんな日に何度か使ったことがあるバス停を、今日も早足で目指した。 似たような外観の家が並ぶ道に、ぽつんと停留所が現れる。外灯と傾いたベンチがひとつあるだけの小さなバス停だ。 その傾いたベンチに誰かが座って、携帯をいじっている。自分以外の誰かがこのバスを待っているところなんて初めて見た。 近づくと、その人は携帯から俺へ視線を移して、 「あ、」 と、声が重なる。 その大きな目を見ると、一瞬でブロックの上手さを思い出す。癖のあるミドルブロッカーだった。 「ゲスの人」と日向が呼ぶ白鳥沢の五番が、俺を見ながら口角をあげる。 「天才バレー妖怪カゲヤマトビオ！」 ヒューッ、と意味なく口笛を吹かれた。夜に口笛を吹くことは良くないんだと言う隙もなく、「バス乗るの？」って問いかけられる。 「ぁ、はい」 「ここ座んなよ！傾いてるけど」 笑い声と共にベンチをバシバシと叩く姿は、試合中の雰囲気とは少し違った。ギョロリとした大きな目は変わらないけど、威圧感はない。隣に座ると、ベンチは確かに傾いていた。ギシギシと軋みながら俺たちを乗せる。 「グーゼンだねー、俺ね、今日たまたまこっちまで来たんだ。英太くんちがこの辺でさぁ、いなり寿司食べてた。美味いんだよね、英太くんちの。甘くて。きんぴらみたいなの入ってんだよ」 バスを待っている間相当暇を持て余していたのか、彼は凄い勢いで話しかけてきた。説明がないからわかんない名前だったけど、勢いに負けて「はぁ」と相槌を打つ。 一通り今日の出来事を喋った後、彼は「これから帰るの？」って俺に質問をしてきた。 頷くと、「そっかそっか」って顎に手を当てる。 「俺、わかるよ」 一瞬、その目の奥が光ったように見えた。 「キミ、今、えっちしてきたデショ」 目の前を、軽トラックが通過する。目が光ったように見えたのは、ヘッドライトが反射したのかもしれない。 「え…？」 なにを言われたのかわからなくて聞き返す。今度は「えっち。してきたデショ今」って順番を変えて告げられた。返答に困る。咄嗟に嘘がつけなくて、「なんで、」とだけ呟いてしまった。 「えー？だってちょっと髪濡れてるしボディソープの匂いするし、完全に風呂あがりだよね？この時間にさぁ、これから帰るのに風呂って、普通はまぁ、そういうことだよね」 俺の頭から爪先までを見て、笑う。親しい間柄じゃないのに、彼は随分と楽しそうだった。 「ね、ね、付き合ってんの？」 興味津々に、体をこちらに向けて問いかけてくる。俺は、少し考えてから首を横に振った。それを聞かれるのが一番困る。恐らく、付き合っていない。確認をしたわけじゃないけど。むしろ、確認することをずっと避けているような間柄だ。 最初から、衝突するみたいに体を繋げた。取るに足らない用事で及川さんの家に行って。どちらかともなくそういうことになって。お互いに、「こんなことへっちゃらだ」と言い合うみたいに続けている。 「えー！付き合ってないのにヤることヤッちゃってんのー？やっぱ公立の学校ってふしだらー」 仰け反って、大袈裟なリアクションを取られた。誰かとこういう話をするのが初めてで、いちいち言葉に詰まる。 「公立かどうかは…、関係ないと思います」 「ふーん、つまり、相手は私立なんだぁ」 何の気なしに口にした回答から、あっさり見抜かれてドキッとする。俺が動揺を見せるほど、彼は楽しそうに口元を緩めていた。 「どんな相手か当ててあげよっか」 彼は長い手足をグーッと伸ばしてから、ベンチの背もたれに腕を回す。逃げ場を塞がれたような気がして、少し身構えた。 「まず、部屋は和室だね。で、体位はバック。腕に畳のあとついてるよ。布団敷かなかったんだね。習慣になってて、部屋に入ったらとりあえずしちゃうんでしょ」 言葉にされた通りに、２時間程前の行為が頭に浮かぶ。全くその通りだ。今日の及川さんは特になにかに焦っていた。 次に、Tシャツについていたらしい毛から、相手が茶髪であることも指摘される。 「シャンプーとボディソープが同じトコで統一されてるしオシャレで几帳面だね。…そんで、わざわざ首の後ろに噛みあとつけちゃうくらい独占欲が強いー…、」 そこで区切ってから、耳の近くに唇を寄せられる。 「オトコノコ、でしょ？」 低く囁かれて、ぞわっ、と鳥肌がたった。全てを言い当てられて、身動きが出来ない。 軽々しく公表出来ないことなのは、俺でもわかる。視線を泳がせると、ポンポンッと肩を叩かれた。 「大丈夫大丈夫、ぜーんぜん引いたりしないよ？オトコとかオンナとか、そんなことはどうでもいいし」 宥めるみたいに明るい声で言いながらも、唇はまだ耳に近いままだ。 「キミみたいに自尊心強そうな子が背中許して、しかものし掛かられる体勢を受け入れている、ってことは立場的に自分よりウエの人ってことだよね。コーチとか、…センパイとか」 試合で垣間見た洞察力は、ほんの一部だったのかもしれない。恐らく、彼の中ではもう答えが弾き出されている。時折「うーん」なんて悩むそぶりも、きっと演技だ。 「でも、意外だネ。バレーしか興味ありませんって感じのカタブツちゃんかと思ってたのに。しっかりヤることやってんだぁ。しかも付き合ってないのにヤッちゃってんでしょ？なになに結構スケベなのー？俺ともスケベする？」 返事をしなくなった俺を挑発するように、後頭部を撫でられる。確かに推理は見事だけど、からかわれているのがよくわかった。 「どんな風にされンのがいいの？正常位？それともやっぱバック？俺ねェ、背面座位で後ろからおっぱい触りながらが好きなんだけど、キミ、タッパあるから難しそうだね？」 ムッ、と結んでいた唇をほどいて、「強いて言うなら上に乗るやつ」ってハッキリと答えた。冷やかされっぱなしは性に合わない。 「もー…、もうちょい恥ずかしがってよー。恥ずかしそうに俯いたり顔赤らめてくれなきゃつまんないじゃん！トスする度に羞恥心落としてんじゃないの？」 なんか期待はずれ、ってふてくされながら近かった顔を戻す。からかわれているけど、本当に彼は引いたりしなかった。大きな子供みたいな無邪気さで、人の感情を掻き乱そうとしている。それにいちいち揺さぶられていたら負けな気がする。 「…それに、スケベだからヤッてるわけじゃないです」 「ふぅん、えっち好きじゃないの」 「好きですけど」 いちいち入ってくる横やりに、俺も慣れてくる。どうせ取り繕っても見抜かれるんだ。何も隠す必要がない。 「俺が、好きなのは…、」 言わずにいた気持ちが漏れかけた時、「飛雄！」って声が停留所に響く。 声の方へ顔を向けると、及川さんが部屋着のままこっちへ走っているのが見えた。しっかり外灯が届く範囲まで来ると、速度を落とす。 「やっぱりネ～、及川だと思った」 俺の隣から、予想が的中したことを喜ぶ声があがる。快感に体を震わせて、「俺ってミラクル探偵！」って自己評価を高める。 対する及川さんの顔は、嫌いなものを見るときみたいに歪んでいった。 ずんずん俺たちの前まで進んできて、何かを差し出してくる。 「忘れ物」 暗くてよく見えなかったけど、その手には黒々したTシャツが掴まれていた。 気まずさに、顔を伏せる。及川さんはイライラしていて、「邪魔だから持って帰って」ってTシャツを強く押し付けてきた。それを受けとめながら、心臓がぎゅうっと痛む。 「スンマセン」って謝って、唇を噛んだ。やっぱり、さっき余計なことを言わなくてよかった。 俺と及川さんのやり取りを見比べたゲスの人は、ニヤニヤしながら俺の肩を引き寄せた。こめかみに、唇が当たる。 「ねぇねぇ、さっきの話どうするー？間を取って立ちバックで手を打つってのはどう？それならあっちの公園ですぐ出来るし」 ベンチが傾いているせいで、引き寄せる力以上に体が彼にもたれる。及川さんが、キッと目をつり上げた。 「は？なに、お前コイツとなんの話してんの」 睨まれて、どこからどう説明すればいいのか悩む。 最初から話すなら、エータくんちのいなり寿司のことから話すことになる。関係がバレたのも言った方がいいんだろうか。俺が口を開くより先に、ゲスの人が及川さんに反論した。 「はー？付き合ってないんでしょー？いいじゃん、別に俺とこの子が何したって立ちバックしたって。ねー、えっーと、トビオくん」 「あのさぁ、コイツのこと勝手に名前で呼ばないでくれる」 「なんで？なんか条約でもあンの？」 明らかな挑発に、珍しく及川さんがのせられていた。舌打ちをして、不機嫌を隠さずに膝を揺する。 俺は、「邪魔」だと言われたTシャツをカバンの中にしまう。二度と出てこないよう、奥深くに沈める。 それを見た及川さんに、腕を掴まれた。力任せに引っ張られて、立ち上がる。近くで見ると、及川さんの額には汗が滲んでいた。 「っていうか付き合ってるから！お前！俺と付き合ってるから！当たり前じゃん！逆に、なんでわかんないの！バカなの！」 勢いまかせに怒鳴られて、一瞬怯む。でも、言われていることを脳が処理し終わると盛大にイラッとした。 なんで俺がそんな風に言われなきゃなんないんだ。こっちにはこっちの苦労があるっていうのに。及川さんの言い分はあまりにも理不尽に思えて、拳を握りしめる。 「アンタ一度もそんなこと言ったことねぇだろ！どうやってわかれって言うんですか！」 言葉にされたこともなければ、態度に出されたこともない。俺たちは、唇を合わせたことすら一度もなかった。 「この俺が！どうでもいい奴のこと抱くわけないじゃん！」 「しらねぇよ！ヤりたい時にヤれりゃ誰でもいいのかもとか思うじゃないですか！」 「な…っ、お前、人をえげつない性欲の化け物みたいに思ってたわけ…っ」 相手には困らなそうな及川さんがわざわざ俺とするってことの意味を、考えなかったわけじゃない。だけど、それ自体を好意と捉えるには、証拠が足りなかった。 「何度も、」って及川さんが言葉を区切る。奥歯を噛み締めてから、困ったように眉を下げた。 「何度も言おうとしたよ！ずっと、俺は…。さっきだって、帰んないで泊まればいいじゃんって、言おうとしたのに、お前、素知らぬ顔して、ぜんぜん、ふつうに…、なんでもないみたいに…、帰るし…」 徐々に声が小さくなっていって、萎むように及川さんが黙る。俺の腕を掴む手からも、少しずつ力が抜けていく。 及川さんも俺も、相手を責めたいわけじゃない。お前が悪いんだと言いたいんじゃない。本心を言いたいし聞きたいのに、どうして拗れてしまうんだろう。思っていることの半分も伝わらなくて、もどかしい。 「あーぁ、青城の及川ってもっとビンカンな奴だと思ってたのになぁ」 今まで俺たちの言い合いを黙って見てたゲスの人が、立ち上がる。重りのなくなったベンチが鈍く軋んだ。 「なんで忘れ物がTシャツなのか、ちょっと考えればわかるじゃん」 彼は停留所の看板にもたれながら、人差し指をたててみせる。 「“ふたつ”持っていたものが、それしかなかったからだよ」 犯人を暴くように、彼は俺を指差す。射抜かれたように、動けなくなった。 「バレー妖怪の天才くんのカバンの中身なんて、筆記用具、弁当箱、水筒、サポーターってところでしょ。全部、明日も使うもんだから、“置いて”おけない」 その点、Tシャツなら替えがある。そう暴いた彼は、子供のように歯を見せて笑った。 「次に会う口実のためにわざと忘れ物するなんて、恋する乙女のよくある手口じゃん」 そのまま「足りない頭で必死に考えたんだろーね」って茶化される。バカにされてるのに、なにも言い返せない。 部屋に居残る理由は、なにも見つからなかった。代わりに、ずさんでもいいから次に繋がる策を、と。 カバンの中を整理しながら、わざとひとつ忘れ物をした。 Tシャツを選んだ理由は、彼の推理の通りだ。他に、置いておけるものが何もなかった。 「まっ、その“いつでも渡せるもの”を口実に走って追いかけてきちゃうのも、同じくらい重症だよねぇ」 視線を、俺から及川さんへと向ける。「今日こそ、好きだって伝えるつもりだったんでしょ？」って自供を促す声は優しかった。 及川さんが、諦めたように小さく頷く。彼の憶測は、全て的中していたようだ。 視界の端で、なにかが光る。それがバスのヘッドライトだと認識する頃には、エンジン音がすぐ傍まで来ていた。 停留所を少しだけ追い越して、バスが止まる。俺の隣にあった気配が、フッと消えた。 「じゃ、また遊ぼうネッ」 いつの間にかバスのステップに乗り込んでいた彼が手を振る。俺がペコッと頭を下げるのとほぼ同時に、扉が閉まった。 ブロロロ、と音をたててバスが走り去る。バスの行き先表示が赤くなっているのが見えた。今のが、最終バスだ。 本日分の役目を終えた停留所で、及川さんが溜め息を吐く。 「…飛雄」 「こっち向け」って、腕を引かれた。及川さんに名前を呼ばれた時限定で、心臓が大袈裟に反応する。 向かい合った俺たちは、 初めて唇をくっつけた。 避けていたはずの「確認」は、たったそれだけで済んでしまう。 及川さんの手が、俺の前髪に触れる。指先で遊ぶようにいじくられて、片目を閉じた。俺も、もっと注意深く及川さんを見ていればよかった。そしたらきっと、及川さんのトリックに気づけたはずだ。 証拠なら、この手にあった。一度だって、及川さんは俺に適当に触れたことなんてない。いつも、大事なものみたいに、俺に触れていたこと、わかっていたはずなのに。 「…髪、まだ濡れてる」 優しい嘘が俺を包む。 とっくに乾いているのは、自分でもわかっていた。 説得力のない案でも、ちょっとした嘘でも、なんでもいいのかもしれない。 「…乾くまで、一緒に居ても、いいですか」 及川さんのシャツを掴む。 視線をあげると「ダメ」って頬をつままれる。 むぎゅーっ、と右側に引っ張りながら、及川さんが笑った。 「乾いてもずっと、居なきゃダメ」 fin

もだもだする及影と、ちょっかいかけるミラクルボーイSA☆TO☆RI☆のお話。

【及影+天童】憶測探偵、天童覚の推理

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☆アテンション☆ この小説は、DMMブラウザゲーム『刀剣乱舞』の二次創作小説です。 オリジナルキャラ（夢主みたいな存在）が主人公であり、そのキャラが刀剣乱舞のキャラクターである『燭台切光忠』と『大倶利伽羅』の立場に成り代わっており、なおかつ同じ空間で出会っているというかなり特殊な設定になっております。 本編の方では主人公と他キャラとの間でかなりの勘違い現象が起こっておりますが、今回は主人公同士で勘違い現象が起こっているというカオスにもほどがある展開になっております。 主人公達が腐男子なので様々なカップリング表現がありますが、あくまで彼らの妄想です。刀剣男士×女審神者もありますが、もちろん彼の妄想です。 一つだけ妄想のままじゃ済まない可能性が高すぎる大倶利伽羅×大倶利伽羅（主人公）の表現があります。 目次はこんな感じです↓ ２ページ目・燭台切光忠（主人公）視点 ３ページ目・大倶利伽羅（主人公）視点 ４ページ目・？？？視点（めっちゃ短い） 以上のことを踏まえて「大丈夫！」という方のみ、先へお進みくださいませ！ [newpage] （腐男子in燭台切光忠視点） どうも皆さん！燭台切光忠の分霊になった脳内ゾンビ系男子な俺でっす！ いやー、まさか交通事故でぽっくり逝った後に第二の人生ならぬ刃生が始まるなんて思ってもみなかったなー。未練は吐いて捨てるほどにあったけど、今は今でとても充実してるから文句は今の所無い。萌えがそこにあるのなら不満なんて無いのです！唯一のネックは本霊光忠に声を没収されて喋れなくなったことぐらいかな。 そんなこんなで毎日のように美少女女子高生な主ちゃんと近侍の長谷部くんのカップリングを心ゆくまで楽しんでいたんだが、今日は演練に行く日とのことで、主ちゃんにお願いしてついてきました！もちろん、運が良ければ真剣必殺という名のスタイリッシュ脱衣が拝めるかもしれないという下心付きで。 しかし、そんな下心が神様にモロバレして天罰が下ったのか、到着早々迷子になってしまいました。･･･ここどこやねん！ もしかして、ゲートくぐった時に何か不具合でも発生して俺だけ別の箇所に飛ばされたとかかな。だって気がついたらたった一人で知らない廊下に立ってたわけだし。こういう場合って下手に動かない方がいいんだろうか、間違って入っちゃいけない場所に入って怒られるのは避けたいし。 することもないので、とりあえず辺りを見回しながら少しだけ進んでみる。十字路に差し掛かり、なんとなく左側の廊下を覗き込んでみた。 ･･････あれ？ あそこにいるの、もしかして『大倶利伽羅』じゃないか！？おおおおおっ！本物の倶利伽羅くんを見るのは初めてだ！主ちゃんの本丸には俺以外の伊達組はまだいないからね！ あー、遠目で見ても倶利伽羅くんめっちゃ美人だなぁ･･･横顔やばい、ホントやばい、ガチな目の保養だわ。 というか、どうして倶利伽羅くんは一人だけなんだろう？さっきから辺りをキョロキョロ見渡してるし、もしかして俺と同じで迷子とか？だとしたら仲間だ！よし、さっそく話しかけに行こう！俺、喋れないけどね！ とりあえず近付いて、トントンと肩を指で叩いてみる。すると倶利伽羅くんがこちらを振り向き、俺と視線が合った瞬間、びくうっ！と肩を跳ね上げて素早く後ずさりをした。 え、なんかすごく驚かれたんだけど･･･びっくりしてる倶利伽羅くんマジ可愛い、ってそうじゃねぇ！ごめんよ倶利伽羅くん！驚かせるつもりは無かったんだ！ 「みつ、ただ？」 若干の距離が空いたまま、倶利伽羅くんがぽつりと呟いたのは燭台切光忠の名前だった。多分、倶利伽羅くんの所の光忠のことだと思う。 というか、呼び方が妙に舌足らずじゃないか！？しかも小首傾げながらとか！可愛すぎかッ！倶利伽羅くんじゃなくてくりちゃんって呼んでやろうか！よし呼ぼう！（即決） とりあえず、首を横に振って違うということを示す。それから、自分の喉元を指でトントンと叩いた後、口の前で左右の手の人差し指を交差させて×マークを作って見せた。これは俺なりに考案した「自分は喋れない」ということを相手に伝える為のジェスチャーであり、今の所これの意味が伝わらなかった事は無いので、多分くりちゃんにも通じると思う。 「･･･しゃべ、れ、ない、のか？」 やった！意味が通じた！ 嬉しくなってこくこくと何度も頷くと、くりちゃんが心配そうにこちらを見上げてくる。ンンッ！上目遣い可愛いッ！光忠の身長高くて良かった！本当に良かった！ ･･･あれ、ちょっと待てよ？さっきのくりちゃんの言葉、なんだか不自然に途切れがちじゃなかったか？いや、ぎこちなく話すくりちゃんも可愛いんだけど、『大倶利伽羅』の話し方ってこんな感じじゃなかったような･･･。 「おれ、も、うま、く、しゃべ、れ、ない。アンタ、と、にて、いる」 えっ、そうなの！？だからあんな途切れがちな話し方だったんだ！ 俺が喋れないのは本霊光忠に問答無用で声を奪われたからだけど、くりちゃんはどうしてそんなことになってるんだ？二次創作でよくある審神者パワーとかバグとか付喪神特有の何かとかそんな感じ？大好物ですありがとうございます！ 「はなし、あいて、には、むか、ない。けど、いっしょ、に、いて、いいか？」 もちろんですとも！こんな可愛すぎるくりちゃんを一人で放置してたらどこからともなく現れたモブにあんなことやこんなことをされてしまう！二次創作や妄想ではバッチコイだけど、現実でそれが起こることだけは断固阻止せねば！くりちゃんは俺が守る！（キリッ） とりあえず、はぐれてしまったみんながどこにいるのかを探さないと。くりちゃんの本丸の誰かと合流出来たら一番良いんだけどなぁ、くりちゃんも安心出来るだろうし。あわよくばみつくりとかつるくりとかを見れたら尚良し！他カップリングでもいいのよ！俺の中ですでにくりちゃんは受け固定だから、攻めの人募集します！ あ、そうだ。目を離す気はさらさら無いけど、万が一を考えてはぐれることだけは無いようにしないと。よし、そうと決まれば！ 俺はくりちゃんに向き直ると、握手を求めているような感じで片手を差し出した。くりちゃんが不思議そうにこっちを見上げる。可愛い！ 「･･･て？」 どうして手を差し出されているのか分からない様子でそう呟いたくりちゃんに、俺はもう片方の手を差し出した手に重ね、ぎゅっと握り締めて見せた。それから手を解いて、再びくりちゃんの目の前に差し出す。これで伝わったか･･･？ 「てを、つなぎ、たい、のか？」 そう！そうだよくりちゃん！俺は君と手を繋ぎたい！決して下心があるわけじゃないぞ！俺には腐男子として可愛い可愛いくりちゃんを守る義務があるから、万が一でもはぐれるわけにはいかないのです！ くりちゃんは俺の差し出した手をじっと見つめた後、恐る恐る自分の手を伸ばす。徐々に距離が縮まっていき、やがて指先が触れ合い、するりと手を絡めた。俺のことを見上げながらきゅっと緩く手を握り締められた時はあまりの萌えに頭の中で盛大に叫びまくったが、自分でもドン引きするくらいにうるさかったので割愛させて頂きます。この時ばかりは本霊光忠に声を取られてて良かったと感謝した。 ニヤニヤ笑いを抑えられていない気がするが、多少の顔面崩壊はお許し頂きたい。だってくりちゃんが可愛すぎるんだから仕方ないじゃないか！たとえ腐男子じゃなくても悶えるに決まってる！くりちゃんマジ天使！ ･･･さて、そろそろ真面目になってみんなを探さないとな。いや今までも至って真面目にくりちゃんの可愛さを満喫してたけどね！ 「そこの可愛いお二振りさん、ちょっといいかい？」 ･･････えっ？ 後ろからかけられた言葉に、思わず振り向く。まるでナンパされてるみたいな台詞でも警戒心無く振り向いてしまったのは、その声があまりにも聞き覚えのある声だったからだ。警戒するどころか、むしろ期待を込めてしまう。 「よっ、俺みたいなのがいて驚いたか？」 そう言って薄く微笑む、眩しいくらいの白を纏った青年。 つ、つつつ、鶴丸だああああああああ！！！鶴丸国永だあああああああああああ！！！うわあああああああああ！！！めっちゃくちゃ美人んんんんんんんんん！！！ 「つる、まる･･･？」 「ああ、俺は鶴丸国永だ。けど、君の所の鶴丸国永とは違うな」 くりちゃんの問いかけに、鶴丸が微笑を浮かべたままそう返す。 な、なんだかこの鶴丸さん、すごく大人っぽいというか、浮かべる笑みも儚げというか･･･よし、この際ハッキリ言おう！ 見た目詐欺じゃない･･･だと･･･！？ 口調は鶴丸国永そのものなんだが、表情と言葉にいまいち感情がこもっていない。無表情というわけじゃなくて、無機質？って言うんだろうか。中途半端に感情があるせいで余計に人形っぽく見えて、彼の儚さを増幅させているようだ。 これが見た目詐欺じゃない正統派儚げ美人･･･！とんでもない破壊力だぜ･･･！ 「俺も仲間達とはぐれてしまったんだ。良ければ君達と一緒に探したいんだが、いいかい？」 もちろんです！むしろこちらからお願いします！美人の頼みごとを断る奴なんてこの世にはいない！ こくこくと何度も頷いていると、くりちゃんも小さく口を開いて「かまわ、ない」と言ってくれた。すると鶴丸さんは柔らかな笑みを浮かべ、目を僅かに細めてこう言った。 「ありがとう、君達は優しいな」 あまりにも綺麗すぎる笑顔に、ただただ見惚れるしか無かった。 そうか、俺の目の前にいるのは女神だったのか。そりゃ天使（くりちゃん）がいるなら女神（鶴丸さん）もいるよね、納得した。ここが夢にまでみた天国･･･！ 「大倶利伽羅ッ！」 文字通りヘヴン状態に陥っていると、遠くから声が聞こえた。その方角へ顔を向けると、なんとそこには二振り目の『大倶利伽羅』がいて、こちらに向けて走って来ていた。 彼は真っ先にくりちゃんに駆け寄ると、その手を強く引いて自分の方へ抱き寄せた。繋いでいた手があっという間に解かれ、それを悲しむ前に修羅のように殺意が込められた目で睨みつけられる。 「･･･『俺』に何をしようとした」 『返答次第では容赦しない』と言外に告げながら、絶対に奪わせないとばかりにくりちゃんを抱き寄せる手に力を込めている彼。そんな彼の腕の中にすっぽり収まっているくりちゃんは警戒心など微塵も無く、むしろ自分から擦り寄りながら小さく「くりから」と名前を呼んでさえいた。 まさかのくりくり･･･だとッ･･･！？ 思わぬ所からの爆弾投下に、俺は為す術が無かった。これは無理だ、萌えるしかない、本能のままに･･･！ 登場のタイミングから行動や発言も含めて全てがカッコよすぎるよ倶利伽羅くん！俺がくりちゃんと手を繋いでたからカッとなったんですね！大丈夫、下心があるお触りだったけど下心（萌え）だから！ああ、くりちゃんめっちゃ安心した顔してる！倶利伽羅くんの胸元で頭すりすりしてる！悶え殺す気か！さあ、俺を存分にダシに使ってイチャつけばいいよ！当て馬上等！くりくり最高！ 「貴様らの方こそ、何をしていたのか聞かせて貰おうか」 いつの間にそこにいたのか、それとも俺が脳内くりくりフィーバーをしてたせいで気付かなかっただけなのか、俺の傍には長谷部くんが立っていた。 長谷部くんは眉間に皺を寄せながら腕を組んで立っている。不機嫌そうなその顔がめちゃくちゃ似合っててカッコいいよ長谷部くん！でもなんか空気ピリピリしてるね！ヤバイよね！ まさに一触即発な雰囲気に慌てていると「ちょっと待ってくれないか？」と女神の囁き･･･じゃない、鶴丸さんの制止の言葉が。 「部外者の俺では説得力に欠けるかもしれないが、君達が危惧しているような事は起きちゃいないさ。彼らは仲睦まじく談笑していただけ･･･そうだろう？」 うっすらとした笑みを浮かべて視線を向けられ、俺は何度も頷きながらくりちゃんの方を見る。目が合った瞬間、くりちゃんが口を開いた。 「ともだち、だ」 ンンンンンンッ！！！友達！くりちゃんが友達って！イエスマイフレンド！俺とくりちゃんはズッ友！ 俺もそう思ってることをどうしてもくりちゃんに伝えたくて、口パクで『ともだち』と何度も言ってみる。くりちゃんはじっと俺を見つめてから、僅かに口角を上げて頷いてくれた。アアッ！くりちゃんマジ尊い！ 「･･･それならいい。疑ってすまなかった」 倶利伽羅くんが俺を真っ直ぐ見据えながら謝罪の言葉を口にし、軽く頭を下げてからくりちゃんを連れて行ってしまった。 男前度カンスト済みなスーパーハイスペックダーリン倶利伽羅くんと、喋り方も仕草も可愛すぎる素直大天使くりちゃんによるくりくり！ご馳走様でしたッ！ 「燭台切、俺達も帰るぞ。主が心配している」 あ、はい、了解でーす！いやぁ、迷子になった当初はどうしようかと思ったけど、天使（くりちゃん）と女神（鶴丸さん）に会えたんだからむしろ有意義な時間だったよ！これで脳内伊達組妄想がはかどるぜぐへへへへ･･･おっとよだれが。 あ、そうだ、鶴丸さんにちゃんとお別れの挨拶しとかないと！と言っても喋れないから、手を振ることしか出来ないんだけどね！ 「また会えるといいな」 手を振り返してくれながらそう言って微笑んだ鶴丸さんはマジ女神でした。儚げ美人はこれだから！これだからッ！！！ 内心で悶絶しながら、角を曲がって鶴丸さんが見えなくなるまで手を振り続けた。視界に写っていた白色が消えた瞬間、俺の前を歩いていた長谷部くんが急に立ち止まる。どうしたんだろうと首を傾げていると、長谷部くんが振り返って俺を見上げてきた。やけに真剣な眼差しに、こっちまで表情が引き締まる。 「燭台切、お前が伊達の刀であることは承知している。俺達の本丸にはお前以外の伊達の刀がいないから、お前が寂しがるのも当然だ」 え、寂しがる？あれ、俺そんな風に見えてたの？ そりゃ確かに、萌えがぎゅっと凝縮された伊達組が揃ったらそれはそれは妄想が広がって本丸生活がさらに楽しくなるだろうとは思っているけれど、寂しいと思ったことは一度もない。むしろ主ちゃんとか長谷部くんとかがすごく構ってくれるからはせさにが大変美味し･･･げふんげふん！えー、毎日楽しく暮らしているぞ！ 「･･･俺では、駄目か？お前の寂しさを埋めることは出来ないのか？」 ぐっはあぁぁぁっ！！！なにその殺し文句！？健気にもほどがあるぞ長谷部くん！攻めだろうが受けだろうが相手に対して誠実なのは変わらない貴方が好きです！BL的な意味で！そのセリフをぜひとも俺ではない別の誰かに言って欲しかった！ここにいるのが俺じゃなくて本来の光忠だったら良かったのに！ちくしょうッ！！！ 内心で血涙を流して激しく床ドンを繰り返しつつ表面上はなんとか笑顔を取り繕い、そんなことは無いと伝えるために首を横に振る。すると長谷部くんが微笑んで「それならいいんだ」と告げ、俺の頭を優しく撫でてくれたものだからさらに悶えるハメになってしまった。 今日は可愛さと格好良さの共存をよく目にする日だなぁ、と全てを悟った気分になったのは言うまでも無い。 （分かっている） （俺では代わりになれないことに） （所詮、伊達の刀が来るまでの凌ぎでしか無いのだろう） （それでも構わない、見返りなど求めるものか） （燭台切をあらゆる害悪から守ると、主と共に誓ったのだから） （だから、易々とこの役目を譲る気は無い） [newpage] （腐男子in大倶利伽羅視点） どうも皆さんこんにちは！大倶利伽羅の分霊になった、今日も元気に腐っている系男子です！ 相変わらず不具合のせいで色々と不便な生活を送ってるんだが、萌えの供給さえあれば何でも乗り越えれるものだ。特に伊達組の萌えが一番熱いね！まあ今の俺が大倶利伽羅だから接点がありまくるせいでもあるんだけれど！ で、突然ぶっちゃけますが･･･ただいま絶賛迷子なう。 ちょっ、そんな「（精神的に）高校生のくせして迷子とかないわー･･･」的な目を向けないでくれ！これにはちゃんとした理由があるんだ！本当だぞ！？いいから話を聞いてくれ！ 事の始まりは昨日。いつものように部屋でぼんやりとしながら脳内では妄想に明け暮れていると、倶利伽羅くん･･･あ、俺や本霊倶利伽羅くんとは違う、俺を拾ってくれた本丸の倶利伽羅くんな。 で、その倶利伽羅くんが部屋にやってきて、明日は演練に出掛けるという話を聞かされた。メンバーは倶利伽羅くんと光忠くん、そして鶴丸さんの伊達三振りが決定しているそうで、俺は迷わず一緒に行きたいと口にした。だって運が良かったらその三振りのうち誰かのスタイリッシュ脱衣･･･じゃなくて、真剣必殺が生で拝めるかもしれないのだ！こんなチャンスを見逃すわけにはいかない！ 倶利伽羅くんは心配そうにしていたけれど、必死に説得した結果、ついていくことを許して貰えた。「絶対に俺から離れるな」と言われた時はキュン死するかと思ったけどな！倶利伽羅くんはホンマ伊達男やでぇ！ そして当日、倶利伽羅くんの後ろに引っ付くようにしてゲートをくぐった。そう、くぐったのは良かったんだが･･･。 気が付いたら、全然知らない廊下のど真ん中に立ってました。 いやいやいや何で！？ちょっと状況が飲み込めないんだけど！？なんで俺だけ孤独に放り出されちゃってるの！？アレか！？二次創作でよく見かけるゲートの不具合がうんたらかんたら～って奴か！？なにそれ嬉しいけど今はめっちゃ迷惑！ うむむ、困ったな･･･ここが演練会場なのは確かなんだろうけど、如何せんどこらへんにいるのかが全く分からない。どうしたものか。 辺りを見回しながら途方に暮れていると、トントン、と誰かに肩を叩かれた。何だろうと思って振り返ると、黒髪眼帯のとんでもないイケメンが間近に･･･ってぎゃああああああああ！？光忠くん！？燭台切光忠！？めっちゃ近い近い近い！潰れる！イケメンの輝きで目が潰れるうううううう！ ズザザッと勢い良く後退してなんとか距離を離すと、驚いた様子の光忠くんがこちらを見ていた。ぱちぱちと瞬きする光忠くんぎゃんかわ、じゃなくて、驚かせて申し訳無いと思いつつ、決して悪意があって遠ざかったわけじゃないことをなんとか分かってもらうべく、とりあえず名前を呼んでみることにした。 「みつ、ただ？」 すると、光忠くんは何故か首を横に振った。え、燭台切光忠じゃないの！？ ･･･と、一瞬思ってしまったがどうやら違うようで、彼は自分の喉をトントンと軽く叩いた後、唇の前で両手の人差し指を交差させて×マークを作って見せ、困ったように目尻を下げてふにゃりと笑った。え、何この子めっちゃ可愛い！光忠くんじゃなくてみっちゃんだわ！みっちゃん可愛い！ さっきのジェスチャーをそのまま解釈するなら、みっちゃんは喋ることが出来ないってことになるけど･･･間違った解釈だったらいけないから、本人に直接聞いてみよう。 「･･･しゃべ、れ、ない、のか？」 そう問いかけると、みっちゃんがとても嬉しそうな笑顔を浮かべ、こくこくと何度も頷いた。え、もしかして通じた事が嬉しかったの？あれ？燭台切光忠って大体カッコイイのが普通じゃなかったっけ？こんなに愛らしい燭台切光忠って存在するの？思わず頭撫でたり抱きしめたくなっちゃう個体って存在するの？ ･･･存在したよ！目の前のみっちゃんがそうだよ！喋れないことも可愛さを加速させてるよ！すごく守ってあげたくなるよっ！ 「おれ、も、うま、く、しゃべ、れ、ない。アンタ、と、にて、いる」 ちょっとでも親近感を出すべく、自分の『不具合』について超簡単に伝えてみた。するとみっちゃんは目を見開き、何か言いたげに口をぱくぱくさせてから、しゅんとした顔になった。 ･･･もしかして励まそうとしてくれた？でも喋れなくて、それで落ち込んでる？なにそれかわいいいいいいいい！こっちが励ましたくなるよ！頭撫でて大丈夫だよ～って言ってあげたくなるよおおおおおお！ というか！身長的に見下ろされてるのに！めちゃくちゃ可愛いって！どういうことなの！？まさか身長が低くて良かったと思う日が来るなんて思わなかったよ！正確にはみっちゃんが身長高いんだけどね！ 「はなし、あいて、には、むか、ない。けど、いっしょ、に、いて、いいか？」 こんなほわほわしてて可愛すぎるみっちゃんを一人には出来ない！何処ぞのモブに目をつけられて18歳以下お断りな悪戯をされてしまう！そうなる前に俺がみっちゃんを守らなければ！ そう決意しながら一緒にいようと提案すると、みっちゃんはしゅんとした表情から嬉しそうな表情に変わった。嗚呼、みっちゃんの笑顔プライスレス！守りたいこの笑顔！むしろ守られて欲しい！倶利伽羅くんとか鶴丸とか長谷部とか薬研ニキとか宗三さんとか！みっちゃんなら誰でも守ってくれるよ！ みっちゃんの可愛さにひたすら身悶えていると、みっちゃんが不意に手を差し出して来た。 「･･･て？」 なんだろう？と思いつつ差し出された手を眺めていると、みっちゃんはハッとした顔になってから、自分の左手と右手をぎゅっと握り締め、握手をしているような仕草を見せてから、また手を差し出してきた。んん？握手？･･･あっ、もしかして！ 「てを、つなぎ、たい、のか？」 そう聞いてみると、みっちゃんはぱあっ！と効果音がしそうな程の明るい表情になり、嬉しそうにこくこくと頷いた。 そっかー手を繋ぎたかったのかー！それなら仕方ないねー！可愛い可愛いみっちゃんのお願いだもんねー！手を繋いじゃおうかなー！うふふふふ！ ･･･ハッ！？あ、危ない、みっちゃんのあまりの可愛さについつい気が動転してしまった！でもほら、手を繋ぐのはいいよね？みっちゃんからのお誘いだし？むしろ断った方が失礼じゃないかなーって思うし？し、下心なんて全然無いんだからねっ！勘違いしないでよねっ！･･･うん、自分でやる似非ツンデレほど虚しいものは無いな。 さて、手を繋ぐのは全然オッケーなのだが、実はものすごく緊張してなかなか手を差し出すことが出来ずにいた。 なにを今更と思っている人達もいるだろうが、萌えの対象（しかも超絶イケメン）が目の前にいる時点で発狂モノなんだぞ！その上接触とか！難関にも程がある！俺が今の所自主的に接触出来るのはうちの本丸の倶利伽羅くんだけです！ だがしかし、この絶好のチャンスを逃すなと俺のゾンビ脳が囁いている･･･！ こんなに可愛くて愛らしいみっちゃんにはもう会えないかもしれないんだ！今のうちに色々と記憶に刻み込んで妄想の糧にすべきそうすべき！ 緊張しながらもそーっと手を伸ばし、恐る恐る指先に触れる。それからゆっくり指を絡ませて、思い切って緩く握りしめてみた。みっちゃん指長っ！手も大きい！あとあったかい！それとどことなくいい匂いが･･･これはたまらん！ みっちゃんの手の感触と匂いを存分に味わってから、ふと気になって顔を上げてみる。そこには片方だけの金眼を細めて可愛らしく笑うみっちゃんがいて、本当に嬉しくて仕方が無いといった様子で俺の手を何度も握り返している。 可愛すぎかあああああああああああああ！！！手を繋いであげただけで極上の微笑みを見せちゃ駄目でしょみっちゃああああああああああああん！！！俺を萌え殺す気なのかあああああああああああ！！！知ってたあああああああああああ！！！ 「そこの可愛いお二振りさん、ちょっといいかい？」 強烈な萌えに打ちのめされ、制御不可能なほどにヒートアップした脳内を落ち着かせてくれたのは、どこからともなく聞こえてきた聞き覚えのありすぎる声だった。 え？え？い、今の声、というかボイス、まさか、まさかまさか･･･！！！ 「よっ、俺みたいなのがいて驚いたか？」 後ろを振り向くと、そこに立っていたのは全身真っ白な姿をした青年の姿。 う、うわああああああああああ！！！鶴丸国永だあああああああああ！！！他の本丸の鶴丸さんだあああああああああ！！！やっぱり美人だあああああああ！！！ 「つる、まる･･･？」 「ああ、俺は鶴丸国永だ。けど、君の所の鶴丸国永とは違うな」 恐る恐る名前を呼んでみると、ふっ、と薄く微笑みを浮かべた鶴丸さんからそう返された。やだ、見た目美人な上に返答がかっこいい･･･！ というか、さっきから感じていたことを口にしてもいいだろうか？いや、口にするというより脳内で発言してもおｋ？いいよな？よし、じゃあ言うぞ！ 見た目詐欺じゃない･･･だと･･･！？ 刀剣乱舞の鶴丸国永といえば、ビジュアルは儚げ美青年であるにも関わらず声と口調が非常にカッコイイというギャップで有名な刀剣男士。刀剣男士＝ギャップ萌えと言われるくらいだからなんらおかしいことではないのだけれど、今目の前に立っている鶴丸さんはギャップ萌えではなく王道萌え･･･つまり、見た目相応の儚さを持つ鶴丸さんなのだ。 本丸ごとに個体差があるというのはみっちゃんと出会った時点で立証されていたけれど、まさかこんな鶴丸さんが存在していたなんて･･･！萌えないわけにはいかないじゃないか！ 「俺も仲間達とはぐれてしまったんだ。良ければ君達と一緒に探したいんだが、いいかい？」 もちろんオッケーです！むしろこっちからお願いしたいぐらいです！ 隣にいるみっちゃんがこくこくと必死に頷いているのを見て、俺も一緒にいて欲しいことを伝える。すると鶴丸さんが目を細め、僅かに嬉しそうな表情を見せた。 「ありがとう、君達は優しいな」 う、美しいっ･･･！綺麗すぎて直視出来ない！美人がさらに美人を極めてどうするんですか鶴丸さん！ ま、まさか天使（みっちゃん）だけでなく女神（鶴丸さん）にも会えるなんて夢にも思わなかったぜ･･･！俺はいつの間に天国に迷い込んだのだろう？このまま昇天しても一切悔いが無い。 「大倶利伽羅ッ！」 あ、でも昇天したら本霊倶利伽羅くんの所に帰るだけか･･･と考えていると、不意に後ろからそんな声が聞こえ、強く手を引っ張られた。突然のことに対応しきれず、みっちゃんと繋いでいた手が離れてしまう。あああああああ！天使の温もりがあああああ！ そのままぽすんと暖かい何かと嗅ぎ慣れた匂いに全身を包まれてから、自分の手を引っ張ったのが誰なのか、ようやく理解した。 くっ、倶利伽羅くん！倶利伽羅くんじゃないか！良かったー、やっと知ってる刀と合流出来た！ 「･･･『俺』に何をしようとした」 あまりの嬉しさに自分から倶利伽羅くんの胸元に顔を埋めて思いっきり抱きしめていると、頭上から聞こえたのは倶利伽羅くんの低い声。今にも誰かに斬りかかりそうな物騒すぎるソレに慌てて顔を動かすと、倶利伽羅くんが殺意増し増しな表情を浮かべてみっちゃんと鶴丸さんを･･･というか主にみっちゃんを睨んでいるのが見えた。ちょっ、ままま待って倶利伽羅くん！みっちゃんも鶴丸さんも何もしてないよ！？というかそんな怖い目でみっちゃんを睨まないであげて！あぁっ、みっちゃん呆然としてる！すごくショック受けてる！どどどどうすれば･･･！？ 「貴様らの方こそ、何をしていたのか聞かせて貰おうか」 焦っている俺の耳に届いたのは、これまた聞き覚えのありすぎる声だった。声がした方に顔を向けると、紫色のカソックを揺らしながらこちらに歩いてくる青年の姿が。 あ、ああああああれってまさか･･･へ、へ、へし切長谷部！？うわああああああああ！！！生の長谷部だあああああああああ！！！かっこいいいいいいいいいい！！！ 長谷部はみっちゃんの隣まで来てから立ち止まると、みっちゃんの方へ視線をやる。不機嫌そうな顔が一変して柔らかい表情に変わったのが見えて、お？お？と期待を込めて見つめていると、みっちゃんが長谷部に気付いたのか同じく視線をやり、驚いたように目を見開いてから、今までで一番嬉しそうな笑顔を見せた。みっちゃんの口が動いたのが見えたので集中して口の動きを観察してみると、「はせべくん」と名前を呼ぶように動いているのが分かった。 へし燭･･･！圧倒的へし燭ッ･･･！ありがとうございますとても美味しいです！ へし燭に気を取られて殺伐とした雰囲気だったのを忘れかけていると「ちょっと待ってくれないか？」と女神の囁きならぬ、鶴丸さんの制止の言葉が。 「部外者の俺では説得力に欠けるかもしれないが、君達が危惧しているような事は起きちゃいないさ。彼らは仲睦まじく談笑していただけ･･･そうだろう？」 そうですそうです！鶴丸さんの言う通り！ほら倶利伽羅くん見て！みっちゃんがものすごく頷いているでしょ！？みっちゃんと鶴丸さんは迷子になった俺を心配してくれてただけなんだぜ！どちらかというと下心満載で接触してたのは俺の方なんだぜ！ ふと視線を感じて見てみると、みっちゃんがどこか不安そうに俺を見つめていることに気付いた。フッ、そんな可愛い顔しなくても大丈夫だ、何故なら俺とみっちゃんは･･･！ 「ともだち、だ」 そう！友達と書いてマイスイートエンジェル！みっちゃんは俺の天使だぜ！ 俺の欲望を隠すことなくさらけ出し、勝手に友達宣言したにも関わらず、みっちゃんはとてもとても感動したように瞳を輝かせ、何度も頷きながら口パクで「ともだち」と繰り返していた。くっっっそかわぁ･･･！！！みっちゃんマジ天使ぃ･･･！！！ 「･･･それならいい。疑ってすまなかった」 俺とみっちゃんと鶴丸さんのやり取りを見て納得したのか、さっきより幾分か落ち着いた声でそう言った倶利伽羅くんが、軽く俺の手を引っ張る。それが暗に「行くぞ」と伝えているのだと分かり、みっちゃんと鶴丸さんに軽く手を振ってから、倶利伽羅くんの後に続いてその場から去った。 さようならみっちゃん、さようなら鶴丸さん、さようならへし燭･･･！素晴らしい萌えを本当にありがとうございました！ 倶利伽羅くんに手を引かれながら歩くこと数分くらい。 その間ずっと無言だった倶利伽羅くんが急に立ち止まり、ちらりと顔だけをこちらに向けた。その横顔がどこか寂しそうに見えて、どうしたのだろうかと少し心配になる。 「くり、から？」 「･････････」 名前を呼んでみても返事が無く、本当にどうしたのかと心配が加速する。もう一度呼びかけようとした所で倶利伽羅くんが手を離し、くるりと俺の方へ向き直ると、そのまま俺を抱きしめた。 ふおおおおおおおおおお！？ある程度耐性があるとはいえやっぱりいきなりだとめっちゃびっくりするし興奮する！倶利伽羅くんがいつもこんなことするせいで匂いフェチとかじゃないのに倶利伽羅くんの匂い好きになっちゃったんだぞ！責任取ってください！主に他の刀剣男士との絡みを見せて萌えを提供しろ的な意味で！ 「･･･大倶利伽羅」 「･･･？」 「離れるな。どこにも行くな。･･･いなくなるな」 そう言って、俺の背中に回された手に緩く力が込められる。その手が僅かに震えているような気がして、相当心配をかけちゃったんだなぁと理解して申し訳なくなる。 「だいじょう、ぶ。くり、から、の、いる、ところ、が、おれの、いばしょ、だから」 俺の方からも倶利伽羅くんを抱きしめ返しながら、安心させる為にそう言った。 口ではこんな台詞を吐きつつ、内心では「弱ってる倶利伽羅くんめっちゃ萌え」と考えていたことは絶対機密である。 （･･･本当は） （あの光忠が何もしていないことを分かっていた） （『燭台切光忠』が優しい刀であることを、俺は誰よりも知ってるから） （それでも、あの光忠と手を繋いで、あの国永と話して、幸せそうに笑う顔を見て） （焼け付くような黒い感情が沸いた） （･････････俺は、アンタを） （誰にも奪われたくない） [newpage] 鶴丸国永という刀剣男士がいた。 彼はとある本丸にて顕現したのだが、『鶴丸国永』と言うには何かが足りなかった。 見た目も口調も鶴丸国永そのもの。しかし、彼の浮かべる様々な表情、口先から溢れる言葉･･･そのどちらともに宿るはずの『感情』が気薄だった。 無感情というわけでは無い、喜怒哀楽は確かに存在する。しかし、彼は他の刀剣男士と比べて感情がとても薄い。 故に、彼が何を考えているのかを正しく理解出来る者は誰一人としていなかった。 （とある本丸の鶯丸視点） 「鶴！ここにいたのか！」 俺の呼びかけに僅かに身体を揺らした彼が、くるりとその身体ごと振り返る。真っ白な姿に濃く彩られた金色の瞳がこちらを向き、どこか不思議そうにぱちりと瞬いた。 「あまり心臓に良くない真似はしないでくれ。一期や平野、獅子がひどく心配していたぞ」 「はは、すまんな」 少し説教じみた言葉に、鶴丸はいつものように薄く微笑む。その笑顔の奥で何を考えているのかは、彼自身にしか知る術は無い。 俺達の本丸には『燭台切光忠』も『大倶利伽羅』も顕現していない。伊達の刀であるその二振りの不在が、鶴丸の心に陰りを落としているのだろう。だから、別の本丸の彼らの所にいた。少しでも寂しさを紛らわせる為に。 まあ、結局は推測でしかない。鶴丸の思考を、心境を、正しい意味で読み取れる者などいないのだから。 「鶯」 「何だ？」 「やはり、いいものだなぁ」 その呟きは、懇願にも似ていた。 「･･･そうだな」 まだ見ぬ『燭台切光忠』と『大倶利伽羅』。なるべく早く鶴丸の元へ来てやって欲しい。 それまで、触れただけで消えてしまいそうな彼をしっかりと繋ぎ留めておくから。 鶴丸国永という刀剣男士がいた。 彼が浮かべる笑みが持つ真実を、誰も知らない。知っているのは彼自身と、鶴丸国永の本霊だけである。 （やっぱり伊達組、最ッ高･･･！） 彼の中身が、脳内が完全に腐った元人間だという真実を、誰も知らないのだ。 fin...？

皆さんお久し振りです、小野原雨音です。<br />いつの間にやらフォロワー数が１０００人を突破していたので、今更感満載ですが記念小説を投稿しようと思います。「そんなことより成り代わりの本編更新はよ！」という方々には非常に申し訳ありませんが、もうしばしお待ちくださいませ･･･！<br />内容はほぼタイトル通り、腐男子主人公が成り代わったみっちゃんとくりちゃんが同じ場所で出会うというパラレルワールドのような感じになってます。それぞれの詳しい経緯や設定については本編参照↓<br /><br />みっちゃんについて→【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5944994">novel/5944994</a></strong>】<br />くりちゃんについて→【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6303602">novel/6303602</a></strong>】<br /><br />互いが互いにめちゃくちゃ萌えるというカオス空間と化してますのでご注意ください！<br />あ、それと、伊達刀というタイトル通り、真っ白いあの刀も登場します。<br /><br />アテンションをよく読んで、大丈夫でしたらぜひ読んでみてください！<br /><br />※今回からタグを『刀/剣/乱/夢』から『刀/剣/乱/腐』に変更しました。

腐男子な俺達、伊達刀として集結する

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6497503#1

◇◆◇A rumor will about you and me. ◇◆◇ 「燐さん」 「…ん…」 「朝ですよ」 「んー…あと５分…」 「朝ごはん間に合わなくなりますよ」 「…昨日ちゃんと準備しておいたー…」 とある日の朝。 正十字学園旧男子寮六〇二号室では恒例となった朝の遣り取りが繰り広げられていた。 「準備しておいたのは流石です。でも、もう本当に起きないと朝ごはんも食べられないし、学校にも間に合わなくなりますよ」 「…だいじょうぶー…」 「…なわけないだろッ！」 「ふぎゃッ！？」 バサッと燐が被っていたタオルケットを取り去り、夏の強い日差しを寝ぼけ眼の燐の顔に思い切り浴びせる。 「おはようございます。目覚めはいかがですか？」 「…最悪だ…」 「そう。でもこれで一気に目が覚めたでしょ？ほら、早く顔を洗ってこないと朝ご飯に間に合いません。僕はお腹が空きました」 にっこりと笑いながら燐の掛け布団を畳む雪男に、燐は恨めしそうな顔をしながらじとっ…と睨みつける。 「…自分がお腹空いただけじゃないか…」 「ええ。お腹空きました。だから、燐さんが作ってくれないと僕は食いっぱぐれてしまうのでね」 「自分で作れよー…」 「作るって言ったのは燐さんですよ」 「……そうだった」 仕方ねえなっ！と勢いを付けてベッドから降りた燐は、そのままタオルと洗顔を持って顔を洗いに部屋を出た。 雪男は燐のベッドを簡単に整えると、そのまま自分のスペースへと戻り、もう一度必要なモノを確認して身なりを整える。 以前までは燐も雪男に起こされること無く朝は一人で起床し、雪男と自分のご飯と弁当を作りきちんと準備して学校へ向かっていた。だから、雪男が燐のスペースにまで立ち入って起こしたりなどはしていなかった。 しかし、先日の一件後、二人の間に蟠っていた遠慮にもにた気遣いは薄れ、それこそ長年一緒に住んできたた『家族』のように過ごしていた。 ……家族だからね。 雪男はふと燐の机に目を遣れば、椅子の正面には初めて同室となった日に二人で決めた約束事を書いた紙と、燐が書いた『燐の世界』を書いたルーズリーフが貼られていた。 そこには燐の字で『家族』の部分に『雪男』と自分の名前が書き込まれている。 それを見るだけで、言いようのない嬉しさが込み上げてきて思わず笑みが零れてしまうのだ。 「ふう…さっぱりしたー。あ、雪男、ご飯すぐに出来るから食堂で待ってて」 「はい」 燐はそう言ってシャッとカーテンを二枚閉めると、部屋着から制服へと着替え始めた。 …流石に、それは見せてはもらえない…って、当たり前か。 家族だとしても、それは無理だろという自分の考えに呆れ苦笑を洩らしつつ、雪男は言われた通り先に食堂へと向かうのだった。 ＊＊＊ 「はい、これ弁当な」 「ありがとうございます」 朝食を終え、いつものように燐と並んで洗い物を終えて部屋に戻ると、燐さんが綺麗に包まれた弁当を差し出してきた。 「今日は主菜が魚だから腹減るかもしんねーって思って、おかずは多めにしておいた」 「ありがとうございます」 手渡されたお弁当はいつもの分とおにぎり以外にもう二つ小さめの弁当箱も付いていた。 一つは増えたおかずで…もう一つは何だ？ 「こっちはおかずな。で、こっちはこの前寒天買ったから牛乳寒天も作ってみた」 「み、蜜柑ですか？」 「うん。あれ？嫌いだった？」 「いえ！寧ろ好きなんです」 牛乳寒天と聞いて嬉しそうに笑う雪男を見て、燐もつられて笑いながら、ちょっと気になったので聞いてみた。 「甘い物苦手だけどこれは平気なんだ？」 「ええ。これは小学生の時に家庭科で習って、修道院で皆に作ったことがあるんです」 ゼリーみたいに柔らかではないけれど、ほんのり甘くて蜜柑がちょっとだけ酸っぱくて… 酒が好きで甘い物が苦手だった父も、修道院に居た修道士達も作った時には凄く喜んで食べてくれたのを覚えている。 「へえ…上手く出来た？」 「僕にしては上手く出来たと思いますよ」 「お！なら、今度、俺にも作ってよ」 「いいですよ」 「俺、中は苺がいい～！」 「苺…アレって冬の果物じゃなかったでしたっけ？」 「ハウスもんはな。苺の本当の季節は夏だぜ」 そろそろ夏じゃん。売ってると思う！ そんな会話をしながら雪男は貰った弁当を鞄にしまって、先にドアへと手を掛けた。 「じゃあ、今日の帰りにでも見てきてみます」 「おう。楽しみにしてる」 「ええ。…それじゃあ、いってきます」 「いってらっしゃい」 部屋を出る時に背後から掛けられる言葉にくすぐったさを感じながらも、雪男はどこか心の隅で寂しさも感じていた。 前まではこの後も一緒に学校へ行ったのになあ…。 昨日、クラスメイトから聞いた噂を気にしてか、燐は一緒に行くのは止めようと言ってきた。本当は一緒に行きたかったし、噂は噂だし、出来たらその噂を本当にしたいくらいだから、自分は気にしなかったのに。 「……僕も欲張りになってきたな」 前まではもっと話しが出来たらいいのに…なんて些細な願いを抱いていたのに、一つ願いが叶うと人間は更に高い願いを抱くようだ。 もっと傍に居たい。 燐さんに好きだって伝えたい。 そして…僕のことも好きになってもらいたい。 雪男は暑くなり始めた季節と同じように自分の想いも熱を増していることを心地よく感じながら、弾む様に軽い足取りで学校へと向かった。 [newpage] ＊＊＊ 「おはよう奥村君」 「おはよう」 教室について、席へ着くと隣の席の子が笑顔で挨拶をしてきた。雪男も同じように挨拶をすると、ふと彼女の雰囲気が昨日までと違う事に気付いた。 「髪、切ったんだね」 「あ…そう！昨日切ったの！」 「短い髪型も似合うね」 「あ、ありがとう！」 本当に似合っていたので、社交辞令に少しだけリップサービスを乗せて髪型を褒めると、褒められた女子は嬉しそうにはにかみながら笑って雪男に聞いてきた。 「その…奥村君、ってさ、髪が短い子が好き？」 「え…？」 「それとも長い子が好きかな？」 「な、なんでまたそんな事を聞くの？」 「んー…と、ちょっと気になったの」 どこか含みのある聞き方に雪男は困惑しつつも、取り合えずテキスト類を机へ片付けながら暫し質問について考えてみる。 髪型…別に気にしたことはなかったな…。 芸能人で誰が好きかと問われたら『この人』と挙げることはあったが、それらの人を想い浮かべて見ても髪型はそれぞれ違うし、長さだってまちまちだ。 というより、髪型は似合っていればどんなのだっていいと思う。 「うーん…特には無いかな…」 「えー！じゃあ、あえて！敢えて言うならばどっちかな？」 「……敢えて…」 自分の回答はどうやら彼女の望むものでは無かったようで、更にどちらかを決めろとせがまれた。 長い髪…といったら、やっぱり燐さんみたいな感じかな？ 綺麗だし、手触りも凄く良かったし…長いと髪型色々出来て楽しかったな。 短い…って、どの位だろう？ショートカット…？ 僕の周りに短い人って余りいない…。強いて言うならしえみさんかな。あ、でも燐さんもこの前アマイモンに切られて短くなっちゃったか。 短くても燐さんの髪は綺麗だし手触りだって凄く良いけど…前ほどは髪型出来ないのがなぁ…。 「うーん…やっぱり選べないけど…どちらかと言ったら…長い髪かな」 「へ、へぇ～…やっぱり長い髪が、いいんだ？」 「でも、その人に似合ってるのが一番だと思うよ」 「そ、そうだよね…。因みに…髪の色とかって、奥村君は好みあるの？」 「色…明るい色は温かそうでいいよね」 「や、やっぱりあの…あ、明るい方か～！」 一瞬、雪男の答えに彼女の反応は敏感になったが、直ぐに平静を取り戻して話しを続ける。 「じゃあ、金髪っぽい色が一番好きかなやっぱり」 「…特にこだわりは無いけど…何で？」 「ううん。別に、ちょっと気になっただけなんだ。ありがとう」 「はあ…」 最後には凄い笑顔でにっこりと笑って彼女は友人の元へと歩いていった。雪男は訳が分からなかったが、取り合えず質問攻めが終わったことに一息つくと、手帳を取り出して今日の予定を確認して授業へと臨んだ。 ＊＊＊ 一方、燐は雪男と時間をずらして寮を出たため、うっかり遅刻ギリギリの時間に教室へと入った。 「奥村～。どうした遅いぞ」 「す、すみません…」 まだ本鈴こそ鳴っていなかったが、既に担任が教室で出欠の確認をしていたところだった。 「珍しいな。寝坊か？」 「ち、ちが…います…」 「まあ、いい。ギリギリセーフだ。席に座れ」 「はい」 燐はそっと教室の後ろから中へ入ると、席について急いで授業の準備を始めた。 「おはよ。珍しいね遅刻なんて」 「お、はよ…」 「頭、凄いことになってるよ」 「へ…」 苦笑を浮かべながら隣の席に座る女子が燐の髪を見て言う。 「走ってきたからかな？後ろがゴムゆるんじゃってて崩れかかってる」 「うそっ…あー…」 燐は指摘された事を確かめるように後頭部へ手をやると、するりとゴムが取れ、シュシュが髪を滑り落ちてしまった。 「やっぱ上手く出来ないや…」 取れてしまったゴムを見て、どこか悲しい気持ちになりながら燐はそれを鞄へとしまった。 短くなってしまった髪は前ほど運動などで邪魔になることは少なくなったけど、授業中など少し顔を傾けた時に、髪が前へと流れてきて気になることが増えた。 短くなった分、自分でも結うのは簡単になったかなって思ってやってみたけど、現実はそう甘くは無いみたいだ。 落ち込む燐を見て、隣に座る女子はそっと燐の肩をたたき、 「ハーフアップでいい？それだったら私、綺麗に結えるよ」 と、ポーチから櫛を取り出して言った。 「え…や、ってくれるの…？」 「いいよー。あ、折角だからサイドは編み込みしよっか！」 「う、うんっ！」 「おーい、お前らー。楽しそうなのは結構だが、今かなり大事な話してっから前向いてちゃんと聞けよー」 「あ…はい…」 燐は嬉しさの余り思い切り横を向いて話していたため、担任から呆れと苦笑交じりの注意が飛んできてしまった。 「じゃあ昼休みにやるね」 「あ、ありがとう！」 燐の嬉しそうな表情にクラスメイトも嬉しそうに笑いながら、担任の話を聞くために二人とも前を向いたのだった。 [newpage] ＊＊＊ 「はい。サイドはこのくらいでいいかな？」 「うわあ～…短くてもこんだけ編み込みって出来るんだ」 昼休み。 早速彼女はポーチから櫛といくつかの透明ゴムとヘアピンを持って燐の背後へと回ると、手際良く燐の髪を編み始めた。 「短い方が案外編み込みってし易いんだよ。それに奥村さんの髪はさらさらだけど柔らかいから編みやすいし」 「そ、そうなんだ…」 「あれ？自分でやってて思わなかった？」 「…ぶ、不器用過ぎてそこまで考えたことなかった…」 編みやすい髪だと言われても、自分で髪を結っている時は色んな所からピョンピョンと短い毛が飛びだしたり、緩かったりキツかったりで綺麗に結べた試しがない。 だから、彼女の言うように自分の髪が編みやすいか否かなんて考えた事もなかった。 「でも長い時は綺麗に結ってたじゃない」 「あー…あはは…長さ変わるとね…」 切った直後にもこんな話したなー…なんて思いながら、雪男に結って貰っていたとは言えず、それと無く言葉を濁した。 「あ、そう言えばね。さっき朝すっごい話題が出てたの」 「話題？」 「ほら、奥村君との噂があるってこの前言ったじゃん？」 「あー…あったね」 「それが、なんか進展があったって言うか…奥村君の彼女、判明したかもしれないんだってさ」 「え！？」 ゆ、雪男の彼女！？ 誰だ！？聞いて無いぞ…！？ 燐は驚いて思わず友人を振り返ると、彼女はどこか楽しそうな表情を浮かべながら声を顰めて話し始めた。 「なんかね、今日の朝、αの子が直接奥村君に聞いたらしいんだけど…奥村君の好みって髪が明るい子らしいよ。ほら、噂で出てた…しえみちゃん？あの子って綺麗な金髪っていうかかなり明るい色してたじゃない？」 「しえみ…そうだね」 「で、もう奥村君のファンの子たちは、あの子が奥村君の彼女じゃないか！って噂しててさぁ…。私的にはちょっと腑に落ちない点もあるんだけどねー」 「…ふにおちない…？」 …って、何だ？ 燐は目の前で話す少女の言葉が純粋に分からず聞き返したのだが、彼女のほうは『よくぞ聞いてくれました！』とばかりに更に笑顔を深めながら話しだす。 「私としては、前にも言ったけど、奥村君の彼女って奥村さんだと思ってるわけ」 「…違うって言ったじゃん」 「そうなんだけど…あの二人、幼馴染ってのには納得したけど、カレカノってのはなーんかね…」 ちょっと不満げに言葉を紡ぎながらもう片方のサイドを編み込み始めた彼女は、鏡越しに燐を見つめながら更に言葉を続ける。 「それに、どうやらその話しは『奥村君の好み』ってだけでさ、別に彼女がどうだって事は言ってないみたいなんだ。尾ひれが付いちゃって事が大きくなってるみたい」 「…はあ…」 「しかもさ、奥村君の好みって、髪は明るいけど、長さは長い方がいいんだって。ってなるとあの子より奥村さんの方が…」 「…長い髪？」 燐はその言葉に引っかかりを覚えながら、ぼんやりと雪男の好みを頭の中で描いてみる。 そっか。雪男の好みは髪が長くて色が明るい人なんだ。って、そんなのありがちなもんだよなぁ…。誰か居たかな…。 髪が長くて、色が明るい女の人…。 髪が長くて…明るい… あ、れ…？ 「いた…」 「え？」 「いる…いるよ。髪が長くて明るい人！」 「え！？嘘！誰？ウチの学校の人！？」 今まで静かに燐の髪を編んでいた手が肩へと回り、燐は正面へと体の向きを変えられると、そこには真剣な目で自分を見つめるクラスメイトの顔があった。 あ…この子も雪男のことが好きなのかも… と、何となく雰囲気から察しながら、燐は今頭の中に思い浮かんだ人物の名前を上げる。 「シュラって言うんだけど、私の通ってる塾の先生なんだ。美人ですっごいおっぱいおっきいの！」 「…え、先生なの？」 「うん。髪は前の俺くらいの長さで、ピンクと金髪が混じった感じで明るい色してるんだ。ほら！当てはまる！！」 「……うーん…」 「そっかぁ。ゆ…お、くむら君は霧隠先生が好きだったのか」 そう言えば二人はすっごく親しい雰囲気だったしなー。 姉の俺が妬くくらい、姉と弟って感じがしてたけど、雪男はシュラが好きだったのか。そう言えば雪男はしえみのおっぱいも凝視してたくらいのおっぱい星人だから、シュラのボイーンって感じはドストライクだろうな！ うんうん。と一人で頷いている燐に、友人はどうも情報が足らずに上手く情報を処理できていなかった。 「…ねえ…私さ、その人のこと知らないんだけど…その人っていくつくらいなの？」 「え？歳は…１８、って…言ってた」 「１８！？１８が塾の先生！？」 「い、いけないのか…？」 「…いや…大学生ならあり得る年齢…うーん…」 燐は背後で考え込むようにして頭を抱えた友人を振り返り、おろおろと見つめながら、でも特に自分で何かすることは出来ず、ただ黙って見つめているしか出来なかった。 「…その人、やっぱ美人…？」 「え…うん！すっごい美人！ちょっと性格は男っぽいけど、美人だしおっぱいおっきくて強いよ」 　やたらとおっぱいが大きいという事を押してくる燐に、友人も苦笑を禁じ得なかったが、燐の言葉をもう一度復唱しながら想像で『霧隠シュラ』を思い描いてみる。 「…年上美人で巨乳で…強いってのは勉強がってことかな…。頭も良くて好みの容姿…うわー…勝てないわ…」 いかにも敵なし！な才色兼備の女性が思い浮かんだ。燐が何度も「おっぱいがおっきい」と言うもんだから、ちゃんとそこのボリュームも忘れていない。ナイスバディの色気たっぷりなお姉様が誕生した。 「…奥村君…年上の巨乳好きだったか…」 そう言えば、あのしえみちゃんって子も胸が立派だったわね。 そう思い返すが、いや違う！と想像を振り払うように頭を振ると、目の前で困惑した表情を浮かべる燐の両肩をガシッと掴んで言った。 「…え！？」 「奥村さん。私、女は胸の大きさじゃないって思ってる」 「…は？」 「反応よ反応！つまり感度！！まだ奥村君がそのシュラさんと付き合ってるって決まった訳じゃないんだから、負けちゃだめ！」 「は…へ？」 燐は矢継ぎ早に紡がれる言葉についていけず、更に困惑した色を濃くする。 負けるもなにも…雪男のこと、好きなんじゃないのか…？ 　それに何だ反応って…？百歩譲って、女の良さを話すのであったらい、まず胸じゃないだろ。せめて性格とかさぁ…オブラートに包むべきじゃないのか？ そう小さく聞いてみると、友人はそれこそ寝耳に水だと言わんばかりにぽかんとした表情を浮かべ、そして苦笑を浮かべた。 「私が奥村君を好き？無いない！私は別に奥村君はタイプじゃないし。どっちかというと優しいって人より騒がしいって感じの人の方が好きだもん」 「へ…？じゃあ何でいつも奥村君の話してんの？」 「それは、彼が綺麗だから」 「は？」 そう言って彼女は漸く立ちあがると、途中だった編み込みをもう一度再開しながらゆっくりと話し始めた。 「私さ、奥村君って確かに皆が言う通り優しそうだしカッコイイとは思うんだ。でも、何て言うか、アイドルを見てるのと同じ感覚なのよね」 「…はあ…」 「偶にない？好きなアイドルがそんなに好きじゃないアイドルとドラマとかやってると、『この子よりこっちの子の方がいいのに…』とか思ったり」 「…うーん…どうだろうなー…」 そもそも、ドラマは人を見ていたというより、ストーリーを追って感動したり怒ったり笑ったり、幸せになったりしていたから、キャストのことまで考えた事はなかった。 「私はどうもドラマや映画を観てると、そんな風にばっかり感じるんだよね。だからかな。奥村君もなまじ綺麗な顔をしてるから、何となくアイドル的な見方になるみたいでさ」 「確かに綺麗な顔だとは思う」 「でしょ！？となると、やっぱり隣に居て欲しい人ってのも、自分の好みで考えちゃうんだよね」 別に奥村君が誰を好きだろうと私には一切関係ないのにねー。 そう苦笑いを浮かべながら話す友人の言葉に、燐は静かに耳を傾ける。 「しえみちゃんも可愛いんだけど、なんか…二人が一緒に居るのを見るとふわっとした感じっていうか、ちょっと作られた感がして…違う気がするんだよね。幼馴染って聞いてそれが一番しっくりくるなーって思ったくらいだし。シュラさんってのは知らないから何とも言えないけど…。でもね、奥村さんとだったら、私としてはかなりしっくりくるんだよね」 「…しっくりこられても…」 「そうなんだけどー…。想像でも結構ぴったりなのに、実際に二人が一緒に居るのを見た時、すっごい自然だったからさ！こう…虚数だらけの計算だったのに、最後は綺麗な実数で終わる感じ？」 「…わかんない」 行き成り勉強で例えられても全く分からない。 「なんて言うのかなー…パズルの最後のピースが上手く嵌ったっていうか、超細かい代金を小銭とかで全部綺麗に出せたっていうか…」 「…すっきりするってこと？」 「そう！そんな感じ！二人が一緒だったらって思うと、何だか凄くスッキリするの」 「…ふうん…」 小銭の例えと虚数の計算が一緒とか…。 上手く自分に合わせて例えを変える友人に尊敬と若干の呆れを感じつつ、燐はもう一度、話の内容を考えてみる。 雪男と二人で居たらしっくりする…。 そんなもんなのだろうか…。 確かに、言ってはいないけど、俺と雪男は双子で姉弟だ。 もしかしたらその辺りが雰囲気として出てるのかもしれない。 それはそれで、噂以上にマズイんじゃないだろうか…と考え込んだ燐に、友人はそれ以上話しを深めることは無く、手早く残っていた髪を編み込んでゴムで結んだ。 「はい。出来たよ」 「あ、ありがとう！うわっ…すっごい綺麗だな」 「左は一つで右は二つ編み込み入れてみました！」 「すっげぇ…後ろは綺麗に止まってるし…これは自分じゃ出来ないや」 「なんなら時々やってあげるよ」 「ほ、ほんと！？」 「ええ。じゃ、今日の報酬は…卵焼き頂戴♪」 「い、いいぞ！そんなんでよかったらいくらでも！」 燐の嬉しそうな表情に、友人も嬉しそうに笑うと櫛やゴムをポーチへとしまって、代わりに鞄から弁当を取り出して燐の机に置いた。 「もう昼休み半分過ぎちゃったね。一緒に食べよう」 「う、うんっ！」 一学期終了を目前にして、燐は初めてクラスメイトと昼食を共にした。 雪男と一緒に食べる時間も凄く楽しいけれど、女の子と一緒に食べるのも、また新鮮な気持ちになれて凄く楽しい。 燐はまた一つ、自分の世界が広がったのを感じながら幸せそうに昼休みを過ごした。 [newpage] ＊＊＊ 報告書、提出…指導計画…出した、っと。 「奥村先生」 「は、はい」 雪男は鞄を片手に立ちながら、びっしりと予定が書き込まれた手帳を確認していると、不意に横から声を掛けられた。 顔を上げると、そこには次の授業の準備を持った椿が立っていた。 「お疲れ様です。今日はもうあがりですか？」 「お疲れ様です。そうですね…今日は授業もないので帰って次回の準備をします」 「奥村先生もまだお若いのに…本当に真面目で素晴らしいですな」 「いえ…僕はまだまだです」 「そう謙遜はしないでください。貴方の実力は、誰もが認めていることですヨ」 「は、はあ…」 祓魔師になって暫く経つが、未だにこういった年上の祓魔師から掛けられる労いや称賛の言葉というものが雪男はどうも苦手だった。貶されたいわけでも、年齢を理由に理不尽に難癖をつけられたいわけでもないが、こうして手放しに褒められるのも、どこか居心地が悪い…。 だが、椿はそんな雪男の心情を知ってか知らずか、優しく雪男を見つめながら話しを続ける。 「君が優秀なことは日を見るより明らかだが、それは貴方の弛まぬ努力で培われた事を知っています。もっと誇っていいと私は思う」 「…あ、りがとうございます…」 「ところで…声を掛けたのはこんな話しをするんじゃなくてですな…」 「……何かありましたか？」 苦笑を浮かべながら話す椿に、雪男は眉根を寄せながら先を促す。もし本当に何か問題が起きていたら、こんな風に悠長に話しなどしていない。だから、多分そんなに重大なものではないとは思うが、やっぱり勿体ぶられると気になる。 「いえね、先ほどの奥村先生の様子が、どこか楽しそうだったから…何かいい事でもあったのかと思って」 「た、楽しそう…ですか？」 全く思いがけなかった方向の話しに、雪男はぽかんと口を開けて椿を見上げれば、椿は楽しそうに笑いながら言葉を続ける。 「ええ。祓魔師になった当初は緊張が手に取る様に顔が強張ってましたから。それはそれで初々しいものだと藤本先生と話しをしていました。彼が亡くなられてから、今度は貴方がこうして講師をするようになった時も四月なんてやっぱり緊張してるのが分かりましたからネ」 「僕、そんなに顔に出ますか？」 「いいえ。表情は普通なんですよ。でもやっぱり人間は誰もが緊張します。でも…最近はどこか楽しそうで」 何かいいことでもありましたかネ？ そうさらりと聞いてくる椿に、雪男は教室で質問攻めされた時の様な嫌な感じはせず、思わず笑顔で答えてしまう。 「いいこと…そうですね。ありました」 「おお。いいですネ！楽しい事や嬉しい事は人生を色鮮やかに彩ってくれるものですゾ！」 「そうですね」 確かにその通りだと思う。 最近は色んな事があって感情が追いつかなかったりもするけれど、それでも前のように、どこか味気ない感じはしなくなり、毎日が鮮やかに感じるようになった。 燐さん…面白いもんな。 雪男が椿の言葉を振り返ってふと表情を和らげると、その表情を見た椿は何やら気付いたように訳知り顔で雪男に聞いた。 「もしかしたら…彼女でもできました？」 「へ…！？」 「あ、何となく思っただけですけどね。先日任務先で面白い噂を聞きまして」 「う、噂？」 また…噂だと！？ 「なんでも、以前、奥村先生が任務中に飛び込ん出来た一般人の女性を橋の上で抱き締めたとかなんとか」 「ちょっ、それ誰が」 「名前は忘れてしまいましたが、若い男性の祓魔師です。で？」 「…で…って？」 雪男は楽しそうな顔をして近づいてくる椿から少し身を引きながら、それでも視線を反らさずに聞き返すと、椿はより楽しそうな表情を浮かべて聞いてきた。 「もしかして、その女性が、奥村先生の子猫ちゃんですかナ？」 「こ、子猫…」 そうだっ…忘れてた…。 この人すっごい愛妻家だけど奥さんのこと子猫っていうんだったっ…。 「結構美人さんだったと言ってましたよ。是非その辺りの真相も合わせて窺いたいですな」 「い、いえ…別に彼女はそんな…」 「そう謙遜しなくても」 「け、謙遜ではなくて…」 楽しそうに追い詰めてくる椿に、雪男は内心冷や汗をかきながら、手早く書類や手帳などを鞄へと詰め込むと、逃げるようにドアノブへと手を掛けた。 「今日は急いでいますので…そのお話はまた今度ということで」 「そうですな。引き止めてすみません。お気を付けて」 「はい。お先に失礼します」 大人な椿は、それ以上は詮索するような無粋な真似はせず、笑顔で雪男を見送った。するとその椿の横に一人の若い祓魔師が立ちにやにやとした顔で聞いてきた。 「上手く逃がしましたね椿先生」 「ええ。さて、こんな感じで良かったですか？」 「ＯＫです。あの感じだと、まだ二人はくっついていない感じだって分かったので」 「くっつくとは？」 祓魔師の言葉に椿は小さく眉を顰めると、男は笑いながら事の経緯を全て話す。 「――――――って具合に、その時に先輩と奥村君が今後どうなるかちょっとした賭けをしたんです」 「なるほど」 「先輩は二週間って言ってたんですけど、僕は一カ月に賭けてて…。まあ、二週間は過ぎちゃったから今のところ僕が勝ちなんですけどね。『付き合ってなかったらドローな！』って言われちゃいまして」 「なるほど。自分の知らぬうちに賭けの対象にされてるとは…奥村先生も可哀想に」 「あ、でも別れるとかそういう悪いことには賭けてませんよ。寧ろ、どれだけ早くくっつくかどうかを賭けてるんで」 悪びれもなく言う祓魔師に苦笑を浮かべながら、雪男が出て行ったドアを見て静かに話す。 「まあ…奥村先生に誰か素敵な子猫ちゃんが出来てしまったら、学校だけでなく女性祓魔師達もそれは残念がるでしょうな」 「ええ。年下でも良いって、狙われてますからね」 椿の言葉に男も同僚たちの顔を想い浮かべ、もし雪男に彼女が出来たら場合の彼女たちの反応を考えて苦笑を浮かべた。 「さて、私はそろそろ次の授業へと向かいます」 「あ、ご協力ありがとうございました椿先生」 「いえ。奥村先生にまた幸せが訪れたようでしたら是非教えて下さいネ」 「ええ勿論」 そう言って二人は楽しそうに笑いながら、それぞれ授業と任務へと向かうのだった。 [newpage] ＊＊＊ 「はあ…何だったんだ一体…」 その頃、雪男は鍵を使って日本支部を出て寮への帰り道を歩いていた。先ほど椿から聞いた祓魔師間での噂話に、雪男は思わず思い返した瞬間顔から火が出るのではないかというほど頬を赤く染めた。 橋の上って…クロの任務の時かッ…。あれは、思わず感極まっただけで…別に他意があった訳じゃ…。 ぶつぶつと言い訳がましい言葉を呟きながら、雪男は足早に寮へと歩いていた。 「…あ」 その途中、雪男は朝に燐との会話で、苺で牛乳寒天を作るという話をしていた事を思い出した。 「忘れてたっ」 雪男はさっき来た道を戻りながら、苺を求めてスーパーがある商業地街の方へと歩き出したのだった。 ＊＊＊ 「…本当だ…。苺って今が季節なんだ…」 商品棚に所狭しと並べられた苺のパックを手に取りながら、雪男は大きくて実が綺麗なモノを選んでいく。どうせ切ってしまうのだから…とも思わなくはないが、折角楽しみにしていてくれているのだ。ちゃんと材料も真剣に選んで作りたい。 「美味しい苺の選び方とか聞いてくればよかったな」 どれも美味しそうに見える苺になかなか優劣が付けられなかった雪男だが、もうすぐ燐の塾も授業が終わりそうだったので、自分が思う一番のものを選んで会計を済ませ店を出た。 [newpage] ＊＊＊ 「ただいまー」 「あ、お帰りなさい」 「おう。もう今日の実技はマジで疲れた…」 椿先生、なんか分かんねえけどめっちゃニコニコしてて張り切ってたんだけど…。と珍しく筆記以外の授業で愚痴っている燐に、雪男は何となく心当たりがあるだけに、ははは…と乾いた笑いを返すしか出来なかった。 「あ、飯は今から作るな」 「ありがとうございます」 そう言って燐は二人の部屋を仕切るカーテンを二枚引くと、ごそごそと着替え出した。 雪男は燐が傍で着替えている事にどうしても意識を持っていかれそうになるが、帰りに買った小さな袋を手にして何とか意識を反らす。 「おっけ！！さてと！じゃあ、ちゃちゃっと作ってくる！」 「はい…あ、燐さん」 「出来たら呼ぶ…ん？どした？」 ドアノブに手を掛けた時、雪男が自分を呼び止めた為、燐は振り返ると不思議そうに雪男を見上げた。 「あ…えっと、コレ…」 「…これ…開けていいのか？」 差し出されたのは掌に乗りそうな程の小さな紙袋。中には綺麗な包装紙で包まれた更に小さな袋が一つ。包装紙には小鳥や花などが愛らしく描かれていて、金色の細いリボンでラッピングが施されていた。 これを雪男が持っていたかと思うと何だか少し不思議に思う。 燐の問いに雪男は小さく頷くと、じっと燐の手を見つめる。 「じゃあ開けるな」 包装されたこれまた綺麗なシールを丁寧に剥がすと、中には４つ、綺麗なヘアピンが入っていた。 「これ…は？」 「帰りに偶々目に入ったお店のディスプレイにコレがあって…綺麗で燐さんに似合うんじゃないかなって思ったんです」 「お、俺に、くれるのか！？」 「…いりませんか？」 驚いた様子で雪男を見上げる燐に、雪男は視線を泳がせながらも心の中では貰ってくれっ…と切実に願っていた。 というのも、雪男がこれを買った店は、普段なら自分は絶対に入らない様な愛らしい外装の雑貨屋で、まだ時間も閉店まで余裕があったから店内には数名のお客もいた。 そんな中に、制服を着た男子高校生の自分が一人で入っていくなんて、どんな羞恥プレイ…というか勇気が必要だったか…。 おまけに『プレゼント用ですか？』って聞かれ、当たり前だろっ！って思いながらも燐に手渡すことを想像して思わず頷いてしまい、物凄く丁寧にラッピングされてしまったのだ。 あの…居たたまれない時間…僕にしては頑張ったから！ 祈る様な気持ちで燐を見ると、燐は掌にある綺麗なピンを見つめながら嬉しそうに笑っていた。 「あ、りがとうっ…俺、これ大切にするっ」 バッと顔を上げ、燐は喜びの余り目の前の雪男へと抱きつくと、嬉しさを露わすようにぎゅうぎゅうと雪男を力いっぱい抱きしめた。 「り、燐さんっ！？」 「俺、メフィストと獅郎以外でこうやってプレゼント貰ったの初めて！すっげえ嬉しい！」 「あ…えっと…」 ぐりぐりと雪男の胸元に額を押しつけて喜びを全身で露わす燐。今は服の下にしまわれているから見えないが、きっと尻尾も出てたら、きっとはち切れんばかりに振られているのだろう。 きらきらと輝く様な笑顔を向けて雪男を見上げる燐に、不覚にも雪男は一気に頬を赤らめてしまった。 「き、にいって…もらえたなら…よかった、です」 「すっげぇ気に入った！！早速付ける！！」 そう言って燐は細い金細工のような作りで花びらが何重にも重なった様なデザインのピンを手に取ると、前髪を斜めにして耳の少し上で止めた。 「出来た！どう？」 「凄く…似合ってます」 「マジ！？うわぁ～俺、こんな綺麗なの付けたこと無かったけど変じゃないならよかった！」 学校でも付けて行こうっと！ そう嬉しそうに話す燐に、雪男はあの羞恥の様な時間を過ごしてよかったと思った。 「本当はシュシュとかもいいかなって思ったんですけど…いっぱいありますものね」 最近はめっきり出番の減ってしまった燐の髪留めたち。 それをしまっている化粧ボックスを見つめながら言うと、燐も苦笑を浮かべつつも、雪男の目を真っ直ぐ見つめながら言った。 「俺は、なんでも嬉しい。雪男がくれるんなら何だって嬉しいけどな」 「…っ」 「本当にありがとう。大切に使うからな」 抱きついたままにっこりと笑われて、思わず雪男は燐の細い体を力いっぱい抱きしめた。 本当にっ…この人は自分を喜ばせる天才だと思う！ 言葉一つで自分をこんなにも幸せにしてくれるなんて、本当に凄い人だ。 雪男は燐の小さな旋毛へと小さくキスを落とすと、そっと体を話して青い目を見つめながら言葉を紡ぐ。 「また…髪、やらせてください」 「へ…？」 「髪…。さっきピンを止める時に前髪が長くなったなって思ったんです。勉強の時とかにも邪魔にならないように僕に結わせてください」 「いいの！？」 「ええ」 「やって！髪、やってほしいっ」 先ほどより更に嬉しそうに笑顔を弾けさせる燐に、雪男も嬉しそうに笑いながら、そっと燐の頭を撫でてやる。 その手に触れる、綺麗な編み込み。 誰かが結ったそれは、凄く丁寧に編み込まれていて、彼女への愛情を感じさせる。それに、大人気も無く嫉妬してしまう。 燐さんは…僕のだから、だめだよ。 そう、見えない相手に少し黒い感情を抱きながら、未だ嬉しそうに手にしたピンを眺めている燐を雪男も幸せそうに眺めた。 「明日はコレ付けて！」 「ええ。いいですよ」 「あ、体育あるから壊れちゃうかな…」 「その時だけ外せば大丈夫ですよ。じゃあ髪は体育でも邪魔にならないようにサイドで編み込みを入れながらきつめに二つで結びましょうね」 「うんっ」 明日の約束もできて、燐は本当に幸せそうに笑いながら、貰ったピンを大事そうに掌で包んだのだった。 [newpage] ＊＊＊ 「ねえ、なんか彼ちょっとカッコよくない？」 「え…ああ、本当だ。アレは…正十字の制服だよね」 「そうそう。あ…お店入った」 「凄い…女と一緒であーゆう店に入る男の人は見たことあるけど、一人はなかなか入れないよね」 二人は雪男が中に入った店の外装を見て、思わず雪男の度胸に驚いてしまう。 「なんかウインドウをじっと見てたし、彼女とかへのプレゼントじゃない？」 「あー…かもねー」 「やっぱカッコイイ男とかって、大抵彼女持ちだよねー」 「そうだよねー…」 丁度向かい側のテラス席でケーキを食べていた二人は、話題も尽きかけていたので暫く店の中に入った雪男のネタで盛り上がる。 「何を買うんだろうね？」 「えー。やっぱアクセでしょ。シンプルにリングとか…あとピアスとか？」 「リング…は、流石に一緒に行くんじゃない？」 「そうかなー。案外、あの手の顔は、ちゃっかり手とか繋いだ時に薬指のサイズとか計ってそうな感じじゃない？」 「確かに」 楽しそうに先ほど店へと入って行った男子生徒の行動を想像する二人。 「まあでもさ、そこまで高い店じゃないし」 「だから私は逆に凄いと思うんだよね。高い店だったら寧ろ堂々と入れるって気がする」 「あー…まあ、ね」 「あの手の店に一人で入れるってのは、相当彼女の事想ってるね」 「そうだね」 と、一人がアイスティーを飲もうとストローに口を付けた時。 目の前の店から、話題の男子生徒・雪男が出てきた。 「おっ、手には小さな紙袋」 「あの大きさはやっぱアクセだね」 「律義に持ってるのがまたいいね」 鞄にしまうことなく、小さな袋を大切そうに持つ雪男の様子に二人は思わず微笑んでしまう。 「いいなぁ彼女さん」 「いいよねー」 「「あー。彼氏欲しい～」」 結局それなんだよね～。と二人は同じ呟きをしたことに苦笑を浮かべながら、どこか足早に、でも嬉しそうな表情を隠さずに歩く雪男の姿を見つめるのだった。

「君のいる世界」<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=624903">novel/624903</a></strong>の続きです。今回は大変モブ様たちが出張っています^^；特に重要な役割は持っていないので名前などありませんが、８割方モブです・・・。雪燐はしてます（辛うじて）　雪男が頑張っていますが、色んな所で目撃されたり噂されたり賭けをされたり・・・燐に至っては結構な勘違いをかましたり。まだまだ暫く少女漫画みたいな展開が続くかと思います。・・・しかしタイトルが酷過ぎる・・・センスは何処で売ってるんだッ・・・■ＢＭ、タグ共にありがとうございます^ω^素敵なタグを付けて頂き、やる気注入されました！ありがとうございます！！続きです「H&#44;in the bosom of one&#39;s family.」<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=731440">novel/731440</a></strong>

A rumor will about you and me.

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今回は痛い表現などは無い、かなり平和な回となっております。 チョロ松がほぼ出ない！ １１． 「……え……？」 　薄く開いた視界の先に見える天井は、初めて見るそれだった。 　二十年以上見続けた実家のそれでもなく、チョロ松と過ごした部屋の寝室でもリビングでも、キッチンでもない。 　確か、意識を手放したのはキッチンだったはずだ。しかし今はそこではない。 　恐らくベッドの上で、体の上に柔らかい重みがあるのは布団か何かが掛けられているからだろう。 　ゆっくりと体を起こして部屋を見回せば、やはり初めて見る部屋だった。ベッドの頭側にカーテンの閉められた窓が一つ、ベッドの足元側に扉が一つ。 　白に近い水色の壁紙が張られた壁。観音開きの収納が一つ。天井から釣り下がるごく一般的でシンプルな照明器具。夜なのか電気はつけられていて煌々と光っている。自分の体が乗る、柔らかいバネの入った厚みのあるマットと、木枠のシングルベッド。 　ベッド脇に置かれた四段のチェストとその横に置かれているゴミ箱。チェストの上はテーブルの扱いらしく、其処に置かれたコップと水差し。 　広さ約八畳ほどだろうか、部屋にあるのはそれだけだった。 　カラ松には全く覚えのない部屋だ。 「チョロ松……？」 　不安がじわりと滲み出して呟いて、気付く。 　カラ松は顔に手を這わせて確かめる。指に触れたのは自分の肌。あったはずの口枷がなくなっていた。 　ベッドから降りて自分の体を確認すれば、右手には包帯。着ている物は昨夜、風呂のあとにチョロ松が着せてくれがパジャマのままだった。両足首を繋ぐ枷は変わらずそこにある。真ん中から伸びる鎖は、やはりどこにも繋がっていない。 　口枷以外は特に大きな変化が無い事に、カラ松はほっと息を吐いた。けれど安心できたわけではない。部屋の中にも扉の向こうにもチョロ松の気配を感じられず、心臓がじりじりと速度を上げていった。 　ベッドから降りた足をカーテンの締まる窓に向ける。ぴっちりと閉められたカーテンを少しだけ退かして窓の外を見れば、それなりに幅のあるベランダの向こうに見えた真っ暗な空。 　真正面に見えるのは空だった。 　視線を下げて、ベランダの手すりの奥に見えた、ぽつぽつとした灯り。暗くてよくわからないが、目の前にある景色はカラ松の知らないものだという事は理解できた。 　どこか、高い場所にある部屋らしい。 　後ずさる様に窓から離れたカラ松は、うるさく鳴る心臓の上をぎゅっと握った。手の平に滲んでいた汗が握り込んだパジャマに吸われていく。 「ちょろまつ？　……チョロ松……！」 　後方にあるドアに、鎖に縺れながら駆け寄ってノブを回す。 　鍵が閉まっていたらどうしようかと思ったが、それはあっさりと開いた。 　開いた先は知らない廊下で、左に見えたドアのガラスから光が零れていた。よく聞き取れないが、話し声も聞こえる。 誰がいるのかわからなくて怖い。けれどどこなのかもわからない場所に一人でいるのも嫌だった。 　静かに鎖を引きずりながら、カラ松は恐る恐る光の零れるドアに近づいた。　 　ガラスのはめ込まれたドアなのに壁と家具が邪魔をして誰がいるのか見えない。ふう、と大きく息を吐いて、服を握りしめていた手をドアノブに伸ばした。 カチャ―― 　小さな音を立てて回ったドアノブ。押して開いたドアは立て付けがいいのか何の音も立てなかった。 「……起きたの？」 「ひっ」 　突然、後ろから掛けられた声にカラ松は飛び上がった。振り返る事などできず、思わずその場で頭を抱える様に蹲る。 　意識を前方に集中していたため、後ろに誰かがいるなんて思ってもみなかった。 　破裂しそうな程に鼓動が速まって心臓が痛い。 「……怯えないでよ」 　弱い声だったが、肩に触れた手にまたびくりと体が跳ねてしまう。聞こえている声が良く知った声だとは気付けないカラ松は更に身を丸めた。 　カラ松に声を掛けたのは一松だった。 　一松はトイレに立っていて、リビングに戻るところだった。 　トイレのドアを開けたところで、カラ松が部屋から出てきたところに遭遇したのだ。 　警戒を全面に強く押し出した猫の様にゆっくりと、リビングに通じるドアへと近づくカラ松を後ろから見ていた。 　すぐに声を掛けなかったのはカラ松が自分に全く気付いていなかったのでタイミングを逃してしまっただけだ。 　目の前で怯えて小さく丸まったカラ松に、ほんの少しだけ傷ついた。けれど責めてはいけない。カラ松が混乱していることはわかっている。そうさせてしまったのは自分達なのだ。 　一松は自分を落ち着かせるために静かに長く息を吐いて、ついきついことを言ってしまいそうになる口に気を付けながら、極力優しい声を出してカラ松に声を掛けた。 「カラ松……カラ松、にいさん……こっち向いて」 「…………ぅえ……？」 　漸く振り返ったカラ松に、一松は「久しぶり」と声を掛ける。 「……いち、まつ？」 「うん。そうだよ。とりあえず部屋、入れば？」 寒い廊下にいつまでもいたくないし、と、一松は肩に置いていた手をカラ松の目の前に差し出す。カラ松はその手と一松の顔を交互に何度か見やって、それから恐る恐る左手を重ねた。 　重ねられた冷やりとした手を優しく握り込んで、一松はカラ松の体を引き上げる。それなりの重さを覚悟して引いたのに、カラ松の体は思った以上に軽く、勢いが付きすぎてよろけた。自分の方に傾いてきてしまったカラ松の体を抱き止める様に支えると、カラ松が謝りながらすぐに体を離した。 　一瞬だけ抱きしめた、体温の低すぎる細い体に、一松はぐっと奥歯を噛んだ。 「……来て」 掴んでいた手を離さない様に力を込めて、カラ松の体を少し退かし、先にリビングへと入る。 　動揺を見せるカラ松を無視してそのまま引っ張って歩いた。 「カラ松起きたよ」 　一松がリビングにいる三つの頭に声をかけると、テレビに向かっていた顔が一斉に振り返った。 　同じ顔をした三人の兄弟の視線が一松を通り越して後ろにいるカラ松に集中する。 「おーカラ松！　やっと起きたかー」 「カラ松兄さん！　おはよう！」 「カラ松兄さん、こっち着て座りなよ」 　一斉に口を開く、おそ松、十四松、トド松。 　一松がちらりと後ろを振り返ると、驚きの余り言葉を無くして呆けているカラ松の顔が見えた。 　引っ張ってソファの空いたスペース、おそ松の隣に座らせると、一松はその隣に腰を下ろす。 　座って兄弟の顔を見比べて、漸く機能を取り戻したらしいカラ松の口が、どうして……、と小さな声を零した。 　カラ松の呟きに答えたのはおそ松だった。 「お前が俺を呼んだから」 「えっ……？」 「呼ばれたから、連れて帰ってきた」 「…………？」 　状況を全く理解できていない様子のカラ松の頭を、おそ松はぐしゃぐしゃと撫でまわして笑う。 　まぁお茶でも飲んで落ち着けよ、と言うおそ松の言葉にトド松は静かに立ち上がってキッチンへ行った。 　程なくして、青いカップにミルクティーを入れて戻ってきたトド松はそれをカラ松に渡す。 「さて、カラ松。なんか聞きたいことある？」 　渡されたミルクティーを一口啜ったカラ松に、おそ松は問いかけた。 　聞きたいことだらけだろうと思った一松だったが、口は挟まずに傍観を決め込む。 　カップに中を見つめてしばらく考えたカラ松が口を開いた。 「ここは、どこなんだ？」 　まぁ、まず出てくる問いはそれだろう。 　寝ている間に知らない場所に連れて来られたら普通気になる。カラ松の発したごく当たり前の問いにおそ松は「俺たちの部屋」とだけ答えた。完全に説明不足だろうと、一松とトド松は思った。カラ松もその先に続く言葉を待っていたようだが、おそ松の言葉がそれ以上続かない事に気付くと、え？　と首を傾げた。 　まぁ、そうだ。一松とトド松が呆れて短く息を吐いたのは同時だった。 「ちょっとおそ松兄さん！　それじゃ意味わかんないって！」 　口を挟んだトド松は、ごめんね？　とカラ松を窺って補足をする。 「あのね、この部屋は僕たちが借りて今四人で住んでる部屋なんだ。まぁおそ松兄さんは半分くらい実家にいるから毎日ここにいるのは一松兄さんと十四松兄さんと僕なんだけどね。ちゃんと自立しようってなったんだけど、やっぱり一人になるのは寂しいし結局みんなで部屋を借りようって事になったの。でも一緒に住むにしてもせっかく家を出るなら一人の時間も確保したいし……ってことで一人一部屋使えるようにファミリー向けの４ＬＤＫにしたの！　お風呂もキッチンも広くて綺麗なんだよ！　すごいでしょ？　さっきカラ松兄さんがいた部屋は一応おそ松兄さんの部屋なんだけど、これからはあの部屋がカラ松兄さんの部屋になるから。好きに使ってね」 　口を挟む間もなく一気に言われたカラ松は話についていけずさらに首を傾げる。 　どこまで理解したか怪しいところだが、トド松は気にせず微笑みかける。 「……わかった？」 　一松が声を掛けると、カラ松はなんとなく……と、あまりわかってい無さそうな顔で頷いた。 「……兄さん以外は実家を出て、ここで一緒に暮らしてるってことだよな？」 「そう。今日からあんたもここで暮らすんだよ」 「……え？」 「……やなの？」 「あ、いや……そうじゃなくて……、あの……」 「何？　はっきり言いなよ」 　きつく言ってはだめだとわかっている一松だったが、口籠るカラ松につい、以前の様に言葉がきつくなってしまう。優しくしたいと思ったところで、長年沁みついた対応をすぐに変えることは難しかった。 「……なに？」 　ふー、と自分を落ち着けるために長く息を吐いてから、一松は言葉にとげが出ない様に意識して静かに問い直す。 　視線を泳がせたカラ松は微かな声で「どうして」と呟いた。 「どうしてって……」 　そんな事聞かなきゃわかんないのかよ、と、また苛立った声が出てしまいそうになって、ぐっと飲み込んだ。 「カラ松兄さんと一緒にいたいから！」 　拳を握って言葉を止めた一松に代わりに、勢いよく立ち上がった十四松が言った。 　ストレートな十四松の言葉と変わらない笑顔に、カラ松はやっと少しだけ表情を和らげ、そうか、と息を吐いた。 　けれどその顔はまたすぐに曇ってしまう。 「チョロ松は……？」 　カラ松の問いに、全員が黙ってしまう。 　しばしの沈黙を破ったのは、カラ松がカップをテーブルに置いた音だった。 「……帰らなきゃ」 　ごめんな、と震える声で言って笑ったカラ松はソファに手をついて立ち上がった。 「だめ」 　短く言ってカラ松の手を捕まえたのは、いつも大きな口を開けて笑っていた十四松だった。口を引き結んだ十四松は静かに首を振る。 「チョロ松兄さんはカラ松兄さんに痛い事ばっかりするから、行っちゃだめ」 　いつになく真面目に静かな声で言う十四松に、カラ松の眉が下がる。真っ直ぐな言葉に誘われるように滲みだした涙で視界が揺れた。 「……そんな事は、ない……。チョロ松は優しくて、いつだって俺の事、考えてくれるから」 　だから帰らなきゃいけないんだと、涙が零れない様に微かに首を振った。 　手を離してくれ、と言うカラ松を、十四松は黙って見つめていた。 　真っ黒な大きな瞳が射抜く様に真っ直に見つめてくる。このまま視線を合わせていると揺らいでしまいそうで、カラ松は視線を逸らした。 「こんなのとか、あんな口枷まで着けらててそれでも帰るって言うの？」 こんなの普通じゃないでしょ、と、一松がつま先でカラ松の足に絡まる鎖を突いて鳴らす。 「……これを付けたのはおれ、だから……」 　そう言うと、嘘でしょ、と即座に一松に指摘されるが、これは嘘ではない。カラ松は自分の手でその枷を嵌めたのだ。 　自分の意思でやった事だからチョロ松のせいではないと、俯きながら零されるカラ松の言葉は、嘘では無かったが酷く便りのない声だった。 「じゃあそれも自分でやったって言うの？　この手も、その顔のケガも、他のところの痣も。みんな自分でやったって言うの？」 　包帯の巻かれた右手を取ったトド松が、彼にしては珍しく強く怒りを表して言った。いつもの、キャンキャン鳴く様な喚きではなく、抑えきれなかった怒りが乗ってしまったかのようなその声にカラ松は委縮する。 「これ、は……俺が、悪いから……俺が怒らせてしまったから……」 仕方の無い事だと言うカラ松だったが、その声は徐々に弱く、小さくなっていった。 　どう言い訳を口にしても、これが普通の事ではないとカラ松だってわかっているのだろう。だったらさっさと認めてしまえばいいのに、カラ松は頑なにそれを認めなかった。 　悪いのは自分であって、チョロ松ではない。そう自分に言い聞かせる様に繰り返していた。 　チョロ松は自分の為に頑張ってくれているから、それを支えてあげないといけない。だから早く帰らなければいけない。勝手な事をして心配させてしまってはいけないんだと言い連ねるカラ松に、一松、トド松、十四松は苛立ちながらもどうにか納得させようと声を掛け続けた。 　けれどカラ松も一向に折れない。 　徐々に三人の言葉に熱が篭り、じわりじわりと反論の余地を奪っていくと、次第にカラ松の呼吸が浅くなり、滲んでいた涙がついに、ぽたりぽたりと落ち始めた。 　最初に一言発してから黙って見ていたおそ松は、再びカラ松の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。 「お前らちょっと落ち着いてー？　ヒートアップしすぎ」 　妙にふんわりとした緊張感のない声でストップをかけたおそ松。 　熱を上げ過ぎて立ち上がってしまっていたトド松と十四松はおそ松の声にハッとして、ごめん、と零しソファに沈んだ。 　舌打ちをした一松も気を落ち着けるために深く息を吸いながらソファに沈み込み、真っ白な天井を見つめながら苛立ちと共に吸いこんだ空気を追い出す。 　場が静かになったのを確認して、おそ松は口を開いた。 「カラ松、お前の言いたいことはわかったよ」 「おそまつ……」 　ぐしゃぐしゃに混ぜた髪を手で梳いてやりながら、おそ松は優しい声で語り掛ける。 「お前の言い分はわかるんだけどな、今お前をあいつの所に返すわけにはいかないんだ。どうしてだかわかるか？」 　責めず、静かに問うおそ松に、カラ松はズッと鼻を啜りながら首を振った。 　本当はわからない訳ではなかったが、それを判ってしまってはいけないのだ。 「……俺はなぁカラ松。お前も他のやつも、兄弟が傷つけられんのが一番嫌いなの。それをやってんの他人でも、兄弟のうちの誰かでも、自分で望んでそうなったって言われても、俺が、嫌なの。お前だってそうだろ？」 　おそ松の言う事は酷く自分勝手な言い分の様に思えるが、お前だってそうだろうと聞かれてしまえば、カラ松は頷く他なかった。自分勝手だが、自分達兄弟の中では常識、ごく当たり前の事なのだ。どんな状況だって兄弟が傷つけられることは何よりも許せない事だ。 「だから今、お前をあいつの所に返すことは出来ない。お前が大丈夫だって言っても俺が大丈夫じゃない。こいつらも、お前が傷ついてんのを黙って見てるのは嫌なんだよ。わかるな？」 「でも……それじゃあチョロ松が」 ――チョロ松が一人になってしまうじゃないか―― 　縋る様に視線を上げたカラ松におそ松は笑う。 「チョロ松にはちゃんと連絡入れたし話もしに行くから。あいつだってガキじゃないんだ、何日か一人でも生きていける。大丈夫。それに……」 溢れ出たカラ松の涙を指先で掬ったおそ松。頬を通ったおそ松の手が頭の後ろに回り、そのままカラ松を引き寄せた。おそ松の腕に抱きこまれたカラ松は、溢れてくる涙で赤いパーカーを濡らした。 「お前が俺に、助けてくれって言ったんだ」 だからしばらくここにいてよ。 　最後の一言は懇願のようであって、逆らうことのできない絶対的な命令だった。 　おそ松の言葉の使い方はチョロ松とよく似ているな、と、その腕の中でカラ松は思っていた。 ――確かに、助けてほしいと願てしまったのは自分だったかもしれない―― [newpage]   「――カラ松迎えに行くぞ」 　三か月ほど前に借りたばかりのマンションの一室。 　大きな画面の薄型テレビでゲームをしていた、既にニートではなくなっている六つ子のうちの三人。おそ松、トド松、一松。 　突然コントローラーを放り出して立ち上がったおそ松に、一松とトド松は驚きながらもすぐにゲームをやめ、出かける準備に取り掛かる。 　十四松は出かけてしまっていなかったが、全員が休みのタイミングで訪れた機会はやはり六つ子として通ずる何かがあったのだろう。 　一松とトド松がおそ松の唐突な言動に何も言わないのは、近々こうなるだろうと思っていたからだ。おそ松以外が揃って実家を出て一つの部屋を借りたのも全てこの為だった。 　マンションの地下駐車場に置いていた、六人で乗れる車を転がすおそ松の運転は少々荒かったが、迷うことなくカラ松の暮らす部屋にたどり着いた。 　一松は初めて訪れる地だったが、おそ松とトド松は既に何度かこの場所に来ている。一度目はカラ松の後を付けて、次はその周辺の様子を窺いに、その次はカラ松の部屋の鍵を手に入れるために……。 　同じ顔というのはこういった時とても便利だった。 　トド松がアパートの管理元を調べ、其処にチョロ松を装って鍵を無くしたと連絡をして得た鍵を複製した。勿論元の鍵は既に返却している。チョロ松からの連絡はきていないし鍵を付け替えた様子もないのでおそらくまだ気付かれてはいないのだろう。 　三人でドアの前に立って、事前に手に入れていたそれで中へ入る。 　部屋の中はシンとしていた。 　一瞬誰も居ないのかと思ったが、玄関にはカラ松の靴がある。 　カラ松？　と、おそ松が声を掛けてみたが返事は無く、靴を脱いで上がり込んだ。 　短い廊下を抜けて踏み入れたキッチンスペースに、カラ松が倒れていた。 　先頭を歩いていた一松の目に映ったのは長い鎖と枷が填められている両足。なんだこれ……と、思わず一歩後ずさった。立ち止まった一松の後ろから顔を覗かせた二人も目の前の光景に驚いたようで、ごくりと誰かの喉が鳴った。 　驚きよりも怒りが勝ったらしいトド松が真っ先に駆け寄り、カラ松の顔を覗き込んで更に憤る。 　近寄ってその顔を確認したおそ松も顔を歪めた。 　意識を失っているのか眠っているのか、目を閉じたカラ松の顔、下半分を覆っているのは随分と物々しいマスクだった。アブノーマルなＡＶでもそれほど見かけない、栓のついた口枷を、カラ松はつけていたのだ。 　両足を繋ぐ枷から伸びた鎖は幸い、どこにも繋がれていないようだが、いったいカラ松は家を出てからどんな生活を送っていたのだろうかと、一松は考えてしまう。 「カラ松？　からまつー？」 　おそ松が呼びかけるがカラ松は起きない。 　運ぶぞ、と声を掛けたおそ松がカラ松の体をそっと横抱きにして持ち上げた。 　途中、うっ、と低く呻いて眉を寄せたカラ松に三人の動きが止まったが、カラ松は起きなかった。 　トド松は上着を脱いでカラ松の足にかけ、それを落ちない様に支えながら垂れた鎖をまとめて持つ。 　一松も同じように上着を脱ぎ、カラ松の上半身に口元のそれが隠れる様に被せる。 　先に一人で外に出た一松は、周囲に人がいない事を確認してからおそ松たちを誘導し、車の後部座席にカラ松を抱えたまま乗り込んだおそ松の変わりに車を動かす。 　助手席に乗り込んだトド松のナビゲーションで無事、家まで帰り着いた。 　あまり使われていない、一応おそ松の部屋となっている場所にカラ松を寝かせてやる。 　あまりにも起きないので死んでいるのかと思ってしまうが、ただ深く眠っているだけのようだった。 　足の枷は鍵がなければ外せない様だった。革に見えるそれは切ってしまえるのではないかと思ったが、中に薄い板のような、鋏で歯が立たない物が入っている様で切れなかった。 　口枷は比較的柔らかな革でできていたので鋏で切って外してやった。 　唾液と、恐らく吐いてついたのであろう口元の汚れを蒸したタオルで拭きとってやった。 　早く起きればいいと、一松は部屋の電気を付けてからリビングに戻った。   「ねぇ、あんなになってるなんて聞いてなかったんだけど」 　一仕事を終え、ソファに沈み込んで珈琲を啜っていたおそ松に、リビングに戻った一松が不機嫌な声を掛ける。 「俺だって聞いてねーよ」 　返すおそ松も珍しく苛立っていた。 　ここで言い合っても仕方がない事だと、一松は息を吐いてソファに沈んだ。 「……足のアレもだけど、口枷って。あんなのどこに売ってるの」 馬鹿じゃないの、とトド松が吐き捨てる。 　仮にその辺の店で売っていたって滅多なことでは購入する物ではない。 「……十四松は？」 「出る前に連絡入れたよ。夕方には帰るって」 「……チョロ松兄さんには、連絡したの？」 「した」 「なんて言ったの」 「カラ松返してもらったからって送った」 「……それで？」 「ソッコー電話かかってきた」 「出た？」 「出てない。お前の休みに話しに行くって送って電源切った」 　電話で話してやればいいのに容赦がないな、と一松は思った。 　いや、それだけの事をしているのだから当然と言えば当然、連絡を入れただけマシと言うべきだろうか。それでもおそ松の宣告と対応はチョロ松に大きなダメージを与えている事だろう。 「大丈夫かな……」 「なにが？」 　一松の呟きにおそ松は乾いた笑いを漏らす。 いつも通りの声に全く釣り合わない、おそ松の瞳に揺らめく炎に、一松の肌がゾっと粟立った。 　知られないか、とぽつり零した言葉は別に偽りではなかったが、最初に思った事とは違った。 「知られても返す気なんかねーから」 　おそ松の言葉に、一松とトド松は、そうだよね、と頷いた。 ――大丈夫だろうか、チョロ松兄さんは―― ――大丈夫だろうか、突然知らない場所へ移されたカラ松は―― 　均衡を崩してしまったのはチョロ松だ。そこに同情の余地はないのだが、カラ松に向ける想いがただの兄弟同士のそれでは無くなってしまったと自覚のある一松には少しだけ、チョロ松の気持ちが理解できた。 　勝手に連れて行ってしまった事は許せない。 　カラ松を変えてしまった事も許せない。 　けれど、もしかしたら、自分だっていつか今のチョロ松と同じ道をたどっていたかもしれないとも思うのだ。チョロ松が均衡を崩さなければ、馬鹿な行動を起こしていたのは自分だったかもしれない。そう思からこそ、一松はチョロ松の事が心配だった。 ――大丈夫だろうか、俺たちは―― next……

<br />編集終わって更新しようと思ったら接続きれてページ飛んだよ！心が折れたね！<br /><br />この作品は<span style="color:#fe3a20;">ＤＶや摂食障害などの表現を含みます</span>ので十分にご注意ください<br /><br />病んだチョロカラ（←おそ)<br /><br />これらの１．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6350517">novel/6350517</a></strong><br />２．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6353584">novel/6353584</a></strong><br />３．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6363545">novel/6363545</a></strong><br />４．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6371388">novel/6371388</a></strong><br />５．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6380356">novel/6380356</a></strong><br />６．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6396410">novel/6396410</a></strong><br />７．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6400842">novel/6400842</a></strong><br />８．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6446126">novel/6446126</a></strong><br />９．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6470537">novel/6470537</a></strong><br />10．<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6493942">novel/6493942</a></strong><br />たぶん次が最後！<br /><br />水陸双子設定とやらを使ってみたかったので薄ら双子設定含んでいます。薄ら<br />チョロ松とカラ松が家を出て二人で暮らしている話（付き合ってない）<br />以下の物を含みますので閲覧には十二分にご注意ください！なんでも許せる以下に嫌悪がない方向け<br /><br />・チョロ松がＤＶ夫風<br />・カラ松が摂食障害<br />・全体的に病んでる<br />・暴力、嘔吐などの表現が多々<br />・チョロが結構クズ<br />・共依存など<br />・全体的にキャラ崩壊は基本<br />・カラ松は兄弟たちから結構愛されてる<br />・カラ（←一）要素もあった<br /><br />追<br />02月27日～03月04日付[小説]ルーキーランキング83位<br />02月28日～03月05日付[小説]ルーキーランキング83位ありがとうございます！<br /><br />201811/加筆修正

浸食する毒、感染する情11

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私が中学１年生の頃に両親が離婚して私は母に引き取られて そして、私が高校３年生になった頃に再婚して新しいお父さんとーー 「おねえちゃ！おねえちゃ！！あさ！あさだよ！」 ーーとてつもなく可愛い義妹が出来ました。 身体をゆっくりと起き上がらせて私の上に乗っている可愛い可愛い義妹の頭を撫でてあげると「えへへ」と笑った。 あぁ…本当に可愛い… 「おはよう穂乃果。」 「おはよ！あさごはんできてるよ！」 「そう。それじゃあ起きないとね。」 私がそう言うと穂乃果は私の上からぴょんと降りて私の手を握って「はやくはやく！」と引っ張る。 あぁ…本当に本当に可愛い… 「いただきまーす！」 「いただきます。」 そう言って私は珈琲を、穂乃果はパンを両手で持ってハムハムとパンを口の端につけながら頬張る。 その姿があまりにも可愛いすぎて私は空になったカップをしばらく啜ってしまっていた。穂乃果に「おねえちゃこーひーもうないないだよ？」って言われた時は思わず血を吐くかと思ったわ。 あぁ…本当に本当に本当に可愛い… 「あ。ねぇ、絵里。今日も遅くなりそう？」 私が穂乃果に惚けていると母がそう聞いてきた。 「今日は生徒会の仕事もないから多分早いと思うけど。なにかあるの？」 「実はママもパパも出掛けなきゃ行けない用事が出来たから夕方には家を出ないといけないのよ。そしたら、穂乃果ちゃん1人になっちゃうでしょ？だからーー」 「なにがあってもすぐに帰ってくるわ。ええ、何があったとしてもね。」 「そ、そう。よろしくね。」 「おねえちゃきょうはやい？」 「ええ。今日は早く帰って来るわ。」 私がそう言うと穂乃果は「やったー！」と大きく両手を上に上げて喜んだ。 そんな、穂乃果の頭を撫でながらデレデレしてると母の方から呆れたような溜息。 何よ…可愛いんだからしょうがないじゃない…。 「じゃあ、おねえちゃやくそく！」 そう言って私にビッと可愛らしい小さな小指を向けてくる穂乃果。私はその小指に自分の小指を絡ませた。 「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます！指切った！」 「たっ！！」 こうして、私は絶対に早く帰ると決意した。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ 「と言うことで今日は早く帰るから。」 「何がと言う事なんかさっぱり分かへんわ、このポンコツ。」 事情を説明して今日は早く帰ることを、親友であり生徒会の副会長を務めている希に伝えるとなんとも冷たい反応が返ってきた。 「ポンコツって酷くないかしら？」 「あぁごめんなぁ。ほんなら、ドシスコンでどう？」 「あら。その呼び方なら大歓迎よ。」 「大歓迎なんかい…」 だって、ドが付くって事はただのシスコンではないって訳でしょ？だったら大歓迎に決まってるじゃない。むしろ、ドがもっと増えてもいいくらいね！ 「なんにせよ私は今日は残らないからそのつもりでいてね。」 「まぁ確かに今日は生徒会の仕事ないからええんやけども…はぁ…えりちはなんでこんなにもポンコツになってしもたんや…」 「だから、私はポンコツじゃなくてーー」 「はいはい、シスコンやんなぁ」 「なんか冷たくないかしら？」 私がそう言うと「気のせいや〜」と希は面倒くさそうに言った。だって仕方ないじゃない！！穂乃果が可愛すぎるんだから！！悪いのは私じゃないわ！！ いや、穂乃果も悪くはないのだけれどね。 はぁ…それにしても朝のあの穂乃果…本当に本当に本当に可愛い… 「穂乃果ぁ…」 「はぁ…こりゃあかんわ…」 ーーー ーー ー 「連絡は以上です。それでは気をつけて帰ってくださいね。」 担任のその言葉を聞いて私はバッグを肩に担いで足早に学校を後にした。その途中で先生から用事を頼まれそうになったけど、見事に回避したわ。 そのお陰で家には普通の行き帰りよりも、早く帰ることが出来た。 バックから鍵を取り出して鍵穴に差し込んで鍵を開けて家の中に入ると、ドタドタとリビングの方から慌ただしい音が。後ろ手で鍵を掛けてその場にしゃがむと、バン！と音を立ててリビングと玄関を隔てている扉が開かれた。 開いたのは言わずもがなあの子だ。 「ただいま穂乃果。」 「おねえちゃ！おねえちゃかえってきた！」 そう言って私にギュッと抱き着いてくる穂乃果。私もそんな穂乃果をギュッと抱きしめ返してスーッと穂乃果の首筋から穂乃果の匂いを堪能した。 え？なんで私がしゃがんだかって？穂乃果の首筋の匂いを嗅ぐ為に決まってるじゃない。 「あぁ絵里。早かったのね…ってなんでアンタ汗かいてるのよ。外、そんなに暑かった？」 穂乃果から遅れてやって来たお母さんがそう言いながら、着ていたコートを脱ごうとしたので私は「寒いわよ」と返した。 「私が少し早歩きで帰ってきたから汗かいてるだけよ。ちゃんと着込まないと寒いわよ。」 「そう。それなら、さっさと汗流してきちゃいなさい。お母さんもう出るから。」 そう言ってリビングに戻っていくお母さん。 私は穂乃果の頭を撫でて立ち上がり、靴を脱いでスリッパに履き替えた。 すると、穂乃果は「んっ！」と両手を伸ばしてきた。 「なぁに？」 「だっこ！」 「はらしょー…おいで？」 満面の笑みの穂乃果を抱き上げてリビングに入るとお母さんは大きめの鞄を持って、出かける寸前だった。 「それじゃあ、お母さん出るから穂乃果ちゃんの事お願いね。」 「任せて。」 「変な事するんじゃないわよ？」 「………」 「返事は？」 「…分かってるわよ。」 お母さんは大きく溜息を吐いてから「行ってきます」と言って出掛けてしまった。穂乃果はそんなお母さんに大きく手を振っていた。 可愛い。 「おねえちゃおふろ？」 「え？」 「おふろはいる？」 「そうね。」 「ほのかがせなかあらってあげる！」 ………ティッシュ用意しないと。 「おねえちゃどう？」 「ええ、気持ちいいわ。」 「えへへ〜おかあさんにもいわれるんだ〜」 ちょっとお母さん？いつもこんな幸せな事をしてもらってたの？羨ましい…。 「そういえばね！きょうね！てれびでみたんだけどね！えっとね！えっとー…あり？」 鏡越しからしか見えないが「うーん…うーん」と唸りながら首を左に右に降る穂乃果。 「あっ！」 「思い出した？」 「うん！こういうのね！ふーふっていうんだって！」 「ふ、夫婦！？」 「だからね！ほのかおっきくなったらおねえちゃとふーふになる！」 ここで、思いっ切り穂乃果を抱き締めた私を誰が責められるのかしらね。 いるんだとしたら出てきなさい。相手してあげるわ。 続くかも？

Twitterでフォローさせて頂いてる方からいただいたネタですw<br />これはね？<br />続きますよ。

私の義妹が可愛すぎる

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赤はヒーローの色だ。 それは松野家でも変わらない。 色分けをしたのは見分ける為だが、六つ子の弟たちにとってその色を纏っている長男は不本意ながらも間違いなくソレに類するものだ。 だが、松野家におけるソレは一般のイメージのように完全無欠、清廉潔白、質実剛健、謹厳実直のような聖人君子のようなものでは決してない。 傍若無人、横行闊歩、気髄気儘、厚顔無恥、自分勝手、自己中心的な欠陥だらけのポンコツヒーローだ。 [newpage] 「おそ松兄さん、そこ座って。」 何時もなら家族団欒に使われる居間におそ松は正座させられていた。 おそ松の前にはおそ松と同じ顔が５つ。 皆、眉をひそめて、何とも言えない顔をしているが、その顔にうっすらと「怒っています」と書いている。 心当たりはある、が、ありすぎてどれに怒っているかは分からない。 しかし、おそ松は口を尖らせ拗ねた表情で、反省どころか怯んだり悪びれたりする様子すらない。 その態度にギロリと視線が強くなるがおそ松は不貞腐れた態度を壊さない。 「・・兄さん・・」 「何だよ！どれの事言ってんのか分かんねーけど、俺悪くねーし！もとはといえばお前らが俺に構わないからいけないんだぞ！」 逆ギレするおそ松にチョロ松は我慢の限界を迎えた。 「だからって、もう少しやり方あるだろうが！！」 松野おそ松は６つ子の長男である。 ６つ子で揃って悪戯っ子だった彼らは小学生まではほとんど行動をともにし、まるで一心同体のようだった。 だが、最近は昔が嘘のように６つ子がともに行動することは少なくなった。 崩れてきたのは中学生に入ってから。 それぞれの個性を見出だし始めた彼らは高校生にもなると、個別行動が増えてきて登下校も別になってきた。 カラ松は演劇部、十四松は野球部とそれぞれ部活にせいを出し、高校からすっかり真面目になったチョロ松は委員会に力を入れている。 おそ松、一松、トド松は帰宅部だが、それぞれ行動は別だ。いや正確には、おそ松は弟に構って欲しいのだがトド松は女の子と遊ぶためデリカシーのないおそ松を邪魔扱いするし、一松も一松で騒がしい兄がいると猫が逃げるためにおそ松を避ける。 部活や委員会で忙しい他の兄弟には勿論構ってもらえず、高校に入ってからは必ず６人揃うのは就寝時くらいだ。 もともと構われたがりの長男はこの事態が大層不服であった。だが思春期、反抗期真っ盛りの弟は多少兄のおそ松が騒いでも鬱陶しそうに眉をひそめるだけで構ってはくれない。 良くて怒られるという反応だ。 まぁ、五男の十四松あたりは他の兄弟と違い馬鹿だがひねくれてはおらず素直な為時間が合えば構ってはくれる。ただし、運動神経が飛び抜けている十四松は野球部以外にも水泳部や陸上部などの助っ人にかり出されなかなか時間が合わないのだ。 しかし、おそ松はそれでも懲りずに弟たちを構いにいった。もはや強硬突破だ。 ただ来るだけならまだいい。しかし何かしら弟の周りを引っ掻き回していくのだ。 喧嘩に巻き込まれる時もあれば、財布から金を抜かれることもある。そして、六つ子の特性を生かし入れ替わりなんてやってくれることもある。 面倒なことは嫌いなくせに面白そうと判断すれば後先考えず悪のりするのだ。 そんなおそ松の暇潰しのツケはだいたい弟に回ってくる。 気付いたら身に覚えのない罪を着せられていたり、財布が空だったり、周りから距離を置かれたりと様々な弊害があるのだ。 まだ停学や部活の出場停止などにはなっていなのが救いではあるのだが、この長男がそこを考えてくれているかあは甚だ疑問だ。 「おそ松のせいで俺は破壊神の称号を得たな。」 「僕、金せびられた。」 「僕はねぇ、財布空っぽだった。」 「女の子に避けられたんだけど。」 「僕は委員会で気まずくなった。」 次々に文句を言い続ける弟たちをおそ松はキッと睨み返す。 「あー、もう！分かったよ！！うるせえなぁ！はいはい、もうしませんよ！！出来るだけな！」 「あのなぁ、出来るだけじゃなくて・・「お兄ちゃんを放っとくのが悪いんだろ！」」 「「「「「・・・。」」」」」 ５つの冷たい視線を向けられたおそ松はバンと机を叩き「寝る！」とふてたように部屋出た。 そんな長男に弟たちは１つ溜め息をつき乱暴に閉められた襖を見る。 「あ〜あ、どうするの？行っちゃったよ？チョロ松兄さん、なんか他にも言いたいことあったんじゃないの？」 「・・別にいいよ、言ったて調子のるだけだし。あの態度なら言う必要ないし。」 「まぁ、確かに。せめて一言謝罪とか欲しいし・・」 「それに・・素直に礼なんて言えるようなことじゃない。」 その言葉に他の四人も大きく頭を振りうなずいた。 そう、アレは決していい話ではないのだ。 [newpage] ・トド松 キョロキョロと回りの様子を伺いながらトド松は素早く靴を取りだし裏口から トド松は最近厄介な相手に絡まれている。 トド松が最近仲良くなった女の子の知り合いのようで、その子自身面倒くさいと言っていた。 その言葉通り、その子と仲良くなったトド松が気に入らないらしく何かと絡んでくるのだ。 無視していたらそれがさらに気にさわったらしく今度は呼び出しをくらった。 明らかにトド松をリンチするつもりなのがみえみえなのでもちろんそれも無視した。 そうしたら今度は待ち伏せだ。 おかげで女の子とも遊べずこそこそと帰るハメになった。 そんな格好の悪いことは言えない為、おそ松の構え攻撃から逃げるためと偽っているが、相手もなかなかしつこい為、いつまでこんなことをしなければならないのかと頭を抱える。 兄弟にいえば、トド松だけ女の子と仲良くした罰だと言われ全力でからかわれそうだし、教師に言えば告げ口したと角がたち余計厄介になりそうだった。 しかし、１度でも捕まればしばらくはサンドバッグ兼財布にされそうな相手なのだ。 なので、相手が飽きるまでとため息をつき、トド松は今日もこそこそと学校を後にした。 その日もおそ松は弟の教室や部活に顔を出し追い払われていた。 ブスッとむくれた顔で思い出すのはついさっきのこと。 いつものように放課後、弟の一人であるトド松の教室に向かったおそ松は、すでにもぬけの殻になった席を見て思いきり眉をひそめた。 「トド松・・君じゃないよね？急いで帰ってたもんね。じゃあ、おそ松くんかな？」 「スゲー、何でわかったの？」 そんなおそ松にいきなり話しかけてきたトド松のクラスメイト。 ６つ子の見分けがつく人などほとんどいない。 いきなり名前を当てられ、驚くおそ松にクラスメイトはクスクス笑う。 「だって、トド松くんがさっき急いで帰ってた。「早く行かないとおそ松兄さんに捕まる〜」って。」 その言葉を聞いておそ松の驚きは一転苛立ちに変わる。 「へぇ〜、そっかぁ〜。そんなこと言ってたんだ〜。そっかぁ〜。」 額に青筋をたてながら、クラスメイトに笑顔で礼を言うとおそ松はトド松の靴箱に向かう。 長男様を蔑ろにした罰だ、とニヤリと笑い虫を模したオモチャを入れる。 明日トド松が靴箱を開けるところを想像しククク、と性格の悪そうな笑みを浮かべた。 「あー、スッキリした！」 この姿を仕掛けられた本人であるトド松や常識人を自称するチョロ松が見れば「くだらねーことするな(しないでよ)、子供か！(子供！？)」と怒鳴ることだろう。その通り、肉体年齢はともかくおそ松の精神年齢は小６の子供である。 小６に相応しい子供じみた悪戯を仕掛け満足したおそ松は鼻唄混じりに家路に着こうとした。 その時だ。 「おい、松野。ちょっとツラ貸せよ。」 明らかに柄の悪そうな男子生徒に肩を掴まれおそ松は面倒臭そうに振り替える。 ６つ子という目立つステータスを持っていると何もしてなくても絡まれることは多い。 肩を掴む男の背後に６人、全部で７人。 見るからに不良。そこそこ喧嘩慣れしてそうな連中で、なかなか楽しめそうだ。 弟に蔑ろにされた苛立ちもぶつけてやろう。 ニヤリと笑い臨戦態勢に入ろうとしたが、ふと教師の言葉を思い出した。 次、喧嘩をすれば自宅謹慎。間違いなく母の説教もつくだろう。 それを想像し、テンションが一気に下がる。 楽しい喧嘩より説教と三者面談の面倒臭さが買ったのだ。 喧嘩はお預け。 そう思い横目で逃走ルートを探っているとその動きに気付くこともない不良生徒は言葉を続ける。 「本当腹立つんだよテメェ。人の女に色目使うとどうなるかしっかり教えてやるぜ、なぁ松野トド松。」 「えっ？」 「何が「えっ」だ！舐めてんのか！？」 突然弟の名前を呼ばれポカンとしたおそ松の態度が気にくわなかったようで不良がさらに凄んでくるが、おそ松は気にしない。 すぐに不良たちの勘違いに気付きニヤリと笑う。 要は松野おそ松がケンカしなければいいのだ。 不良たちを見れば、トド松一人には荷が重そうな奴らだし、こういう理由で絡んでくる奴らはこっちが負ければ際限なく付け上がるし、僅差で勝っても完璧にのさない限り数だけ増やしまた同じように絡んでくる。 ほら、弟に振りかかる火の粉は払ってやらなきゃ ニヤリと笑う顔は明らかに悪戯小僧のそれだ。 だが、すぐにその笑みを引っ込め末弟のようにクスリと笑う。 「なめてなんかないよ。それよりさ、ここ目立つでしょ？場所変えない？」 相手を煽るように言うと不良たちは思惑通りあっさりと怒りを顕にして喧嘩向きの場所に案内してくれた。 途中不良たちが「なよなよしやがって」「女好き」などなど悪口を言ってきたがおそ松は笑って聞き流す。 だってトド松への悪口だし 数分歩けば喧嘩向きの人気のない場所に着く。 人数差の為かニヤニヤ笑いながら余裕の臨戦態勢をとる不良におそ松もクスリと笑い返す。 その後あっ、と小さく声をあげた。 危ない、忘れるところだった。 「僕が勝ったらもう僕に関わらないで、手出しも口出しも止めてね。で、この事は秘密だよ？」 アァッ！？と不良が気色ばむが気にしない。 これを言わなければのちのち喧嘩をしたのがおそ松だとバレる可能性があるのだ。 あくまでも喧嘩をしたのは松野トド松。 でなければおそ松が謹慎になる。 それに喧嘩したのが俺ってバレたらまたトド松絡まれるかもしれないし。俺って優しいなぁ。 ニヤリと悪童にふさわしい顔で笑り、拳を握る。 「さ〜て、喧嘩しようか。」 後日トド松はボロボロになった不良に土下座で謝られ、不良どころか女の子にまで怖がられることになった。 [newpage] ・カラ松 「フッ、臆病なヴィーナスがようやく素直になったようだ」 カラ松は靴箱に入った手紙を見て一人舞い上がっていた。シンプルすぎるその封筒は到底ラブレターに向くようなものには思えないが、それすらカラ松には照れ隠しに思えたのだ。 他の兄弟にバレないようトイレに駆け込み中を確認して、カラ松は一気に肩を落とした・・どころか手紙の内容をもう一度確認すると青ざめ思いきり眉をしかめた。 ガシャンと派手な音をさせて石膏象が割れる。 粉々になったそれを見ておそ松はヤバイな、と呟いた。つい先日も同じようにふざけて教室の花瓶を壊したばかりだ。 それでなくても喧嘩や器物破損の常習犯のおそ松は目をつけられている。こうも短いスパンで物を壊せば下手をすれば親を召喚されかねない。 ヤバイヤバイと呟いておそ松は頭を抱える。別に説教が嫌なわけでも親が恐いわけでもない。 ただ最近親に叱られても聞く耳を持たないおそ松に母は実力行使に出た。 育ち盛りの高校生には辛い、そう夕食を抜かれるのだ。 そして物を壊し弁償になればそれは壊した本人の少ない小遣いから引かれる仕組みになっている。 もともと小遣いは少ない上すぐに菓子代、漫画代に消える。しかし、小遣いを弁償に当てられれば菓子、漫画を買うこはおろか自分で抜かれた分の食事を買うことも出来ない。 怒られても殴られても平気なおそ松だが、夕食抜きは母の思惑通り、いや思惑以上に効いていた。 いっそ、気付かれないうちに片付けすべてなかったことにしようかとも思ったのだが、ここを管理している美術教師はこういう備品をねちっこいくらいに覚えている。そしてばっくれようにもこれが見つかり一番に疑われるのは常習犯のおそ松なのだ。 おそ松はしばらく頭を抱えたが、溜め息を着くと足で雑に破片を棚の下に追いやった。 「・・とりあえず隠すか・・」 誤魔化すことも面倒になり、おそ松はそのままその場を離れた。 まぁ、何とかなるだろうと軽い考えで歩いていると人気のない体育館裏によく知った姿を見つけ、おそ松の興味は一気にそっちに移った。 「カーラ松！！」 ダッシュで駆け寄りカラ松が逃げないうちに後ろからしがみついた。 「あ、兄貴！？いきなりどうしたんだ！？」 兄の急襲に驚いたカラ松を気にすることなくカラ松が手に持っていた紙を奪い取る。 「何これ？まさかラブレター！？兄を差し置いて許せねー！！」 「お、おい！兄貴返せ！！」 手紙を取り返そうとするカラ松の手を器用に避けながらおそ松は手紙を読んだ。 「・・何これ？」 それはラブレターなどではなく果たし状、もしくは脅迫状のようなものだった。 要約すると今度の演劇部の舞台を壊されたくなかったら殴られろ、というものだ。 「つまんねー！野郎からかよー！」 ラブレターだと思っていたのに興醒めだと、一方的に興味を無くしたおそ松は手紙を押し付けるようにカラ松に返した。 だが、カラ松はその手紙を受けとることなく眉をしかめる。この顔は思い詰めている時の顔だ。 「？どったの、カラ松？」 「えっ！？話の流れ・・あっ、いや、普通にこの手紙で悩んでたんだが・・」 まさかそう返されるとは思わなかったのだろう。カラ松は呆れたように溜め息をつくと手紙を受け取った。 「えっ、その手紙で悩んでんの？なんで？」 「・・え？いや、だって舞台は壊されたくないがそいつらが満足するまで殴られたら俺はきっと舞台に出られない・・せっかく主役になれたのに・・だから・・」 「じゃあ、そんな気なくなるまでボコれば？」 「・・きっと人数いるだろうし、喧嘩に関わっただけで下手すれば部活が出来なくなる・・だから・・」 後は言葉が続かなかったのだろう。うつ向き落ち込むカラ松を見ておそ松は少し考え、ポンと手を打った。 「なぁ、俺が代わり喧嘩にやってやるよ！」 「えっ？」 「えっ？じゃなくてさー、 俺がやればカラ松は喧嘩しなくて済むし舞台も無事だろ？」 「だが、そんなことをすれば兄貴が・・」 困惑するカラ松におそ松はニッと笑いかける。 「大丈夫だって！あ、でも相手がカラ松にやられたって言い張る可能性もあるからアリバイも作ろうぜ。」 「あ、アリバイ？」 「おう、お前は美術室にいればいいよ。後は俺がやっとくから！」 でも、だが、と渋るカラ松だがおそ松は大丈夫だと笑う。 「兄弟は助け合うもんだぜ！だから、お兄ちゃんに任せとけ！」 ニッと自信満々に笑うおそ松にカラ松は安心して頷いた。 カラ松をさっさと美術室に追いやるとおそ松はニヤリと笑う。 「そう兄弟は助け合わなきゃな。」 カラ松が美術室に向かうのを確認した後、おそ松は１度職員室にいる美術教師のもとに顔を出してからカラ松の代わりに鼻唄交じりに呼び出し場所に向かった。 呼び出し場所であるそこに着くとすでに10人程の不良が待機していた。 なかなか高評価を得てるなぁとおそ松は検討違いな感心する。 一方不良の方はやって来た「松野」に少し違和感を覚えたようで怪訝な顔をした。 「・・お前、松野カラ松か？」 「え〜、見て分かんねーの？見分けつくように色分けしてんのに。」 グイっと学ランの下の赤パーカーを摘まむと不良たちは一気に気色ばむ。 「赤・・ってテメェおそ松か！？」 「えぇ〜、その反応今さらww一目で分かるでしょww」 腹を抱えて笑うおそ松に不良たちがキレて襲いかかる。 ひーひーと笑いを堪えながらも器用に攻撃を避け距離を取るおそ松に不良たちは良い感じに乗せられていた。 ようやく笑いが治まったところでおそ松は体勢を整える。さんざんおそ松にバカにされ頭に血がのぼった不良たちは数の利を上手くいかせなくなっている。 「テメェ！大人しく殴られろよ！弟の舞台がどうなってもいいのか！？」 我慢できなくなったらしい不良の一人が伝家の宝刀とばかりに叫ぶのをおそ松は鼻で笑った。 「それ、俺にはあんま関係ないんだよね〜。まぁでも兄弟で助け合わなきゃないけないからなぁ。だから、とりあえずそんな口聞けなくなるまでボコってやるよ。」 おそ松は身近にいた不良をターゲットに決める。 おそ松が反撃を開始し、それから決着が着くのは早かった。 その後とりあえずガチ泣きが入るまで相手をボコり舞台やカラ松への手出し、ついでにこの喧嘩自体もなかったことにする約束を取り付けた。まぁ、取り付けたというより相手がそう約束するからもう止めてくれというまで殴ったのだが。 なんにせよ、これでカラ松とカラ松の舞台は無事だし、万に一つもないだろうが今日の相手が復讐などを考えたとしてもその相手はおそ松になる。 「いや〜、久しぶりにお兄ちゃんらしいことしたなぁ。」 おそ松は清々しく空を眺めた後、おもむろに両手を合わせた。 「成仏しろよ、カラ松。舞台は守ってやったからな・・。」 おそ松は今ごろ美術教師に怒られているであろうカラ松を思う。 これから母に怒られ、夕飯を抜かれさらには石膏象の弁償代としてしばらくの間小遣いもカットされる運命だ。 「でも、兄弟同士は助け合いだからな。」 カラ松が聞けば一発は殴られそうなことを呟き、おそ松はスキップ交じりで家に帰った。 [newpage] ・十四松 「ヤバイな・・どうしようかこれ・・」 開いた教科書を見ておそ松はひきつった笑みを浮かべた。 開いたページには今見てもなかなかの出来映えの落書き。ページの前後を捲ってもやはり同様に良い出来映えの落書きがしてある。 数日前、あまりに良い感じに落書きができ調子に乗ってしまったのだ。 「さすが、俺。落書きに関しても天才的だな。」 ちなみに結構ダイナミックな落書きのため教科書の内容は解読不可能だ。 落書きした十数ページはもう読めないだろう。 別におそ松自身は読んでも面白くない教科書などになんの価値も感じていない。 だが、解読不可能では教師や親に見つかれば説教は免れない。 さらに最悪なことに次の授業でおそ松は教師に当てられることが確定している。 それは前回の授業中にふざけすぎてしまったことが原因だ。その罰にと、怒った教師に前回の授業内容の復習をさせられる予定なのだ。 つまり教師の前で、この解読不可能の教科書を開かなければならないのだ。 「ヤバイな・・」 こんな落書きだらけの教科書を見られれば教師は怒るだろうし、下手をすれば親に連絡され小遣いで教科書を買い直すはめになる。 おそ松は一瞬悩み・・すぐに弟の教科書を借りることに決めた。 善は急げとすぐに一番近いカラ松のところに行くが、今日は持ってきていないと断れる。 チョロ松とトド松には汚されるから嫌だと言われ、一松には次に使うと断れた。 ならば十四松だと意気込み教室に向かうが十四松は席にはいなかった。仕方なしに文句を言いながらも机を漁ると意外にあっさりと目的の教科書が見つかった。 悪いなと呟やいて代わりに自分の教科書を入れる。 十四松の次の授業が何かは知らないがこれで十四松と授業が被っても問題はない。読めなくても代わりの教科書はあるのだから。 一方的に教科書を交換しおそ松は鼻唄交じりに教室にもどった。 授業中、予定通りに教師に当てられおそ松は嫌そうに教科書を開く、今気づいたが読めたところで問題の答えなど分からないのだ。 しかし、ページを開いた途端、おそ松は軽く目を見開いた。 もちろん、問題が解けたからではない。 そこには「バカ」「死ね」「学校に来るな」などいじめのテンプレの言葉がかかれていたのだ。 もちろんコレは急遽無断で教科書を借りたおそ松に当てたものではないだろう。 六つ子という珍しいものへの対応は人それぞれ、好奇だったり嫌悪だったり様々だ。 その中で十四松はどうやらなかなかシビアなのに当たったようだと、おそ松はぼんやりと最近の十四松の様子を思い浮かべた。 高校に入ってから途端いろいろ騒がしくなった十四松だが、ここ最近はいつも以上に五月蝿かった。 おそらく心配をかけまいとカラ回ったのだろう。 カラ回るのはカラ松の仕事だろうに。 「おい、松野どうした？」 珍しく物思いに耽っていると唐突に教師に声をかけられヘラリと笑う。 「やっぱ読んでも分かりませ〜ん、俺とばしてくれませんか？」 反省の色もないおそ松に教師は大きく溜め息をつくと教科書で強めに頭を叩くことで許してくれた。 もともとこれくらいでおそ松が反省するとは思ってないのだろう。では次と、おそ松から視線を戻し授業にもどる。 おそ松は教師の視線が逸れると詰まらなさそうにペラペラと教科書を捲る。 どのページにも悪口が書かれている。 本当に暇な奴もいるものだ。 「バカ」否定でない。 「お前人間か？」それは俺も気になる。 「童貞」うるせぇ！絶対テメーらもだろ！ 「死ね」テメーが死ね。豆腐に頭ぶつけて死ね。 「学校来るな」別に俺だって来たくねーよ。家でゴロゴロ寝てたいわ。 「キモい」確かに動き怖いときあるな。あれ、人間の動きじゃねーよ。 「お前なんかいらない」俺はいる。構ってくれる貴重な弟。 「笑顔キモい」元気があって俺は好きだけどなぁ。 「あっ、ヤベ・・」 ふと手元の教科書を見ると無意識に赤ペンで悪口にコメントを書いていた。 見ればなかなか読みにくい教科書に変貌をとげていた。 「やっちまったなぁ」 思えば、自身の教科書の落書きもこうやって無意識にアップグレードさせ結果読めなくなったのだ。 まぁ、自分の教科書よりはマシなのだし、しばらくはおそ松が使う予定だ。 気づく前にそっと返せばおそ松の仕業とは思わないだろう。 そう結論付け、おそ松はボンヤリと悪口を眺めた。 十四松がおそ松や他の兄弟にこの事を話していないのはおそらく心配かけまいと頑張っているからだ。ならば、十四松が耐えられなくなるまで口を出すのは野暮と言うものだ。 「ま、面倒なのは俺も嫌だしなるだけ頑張れよ。」 呟くと同時におそ松は再び無意識に教科書に落書きを始めた。 その時のおそ松の頭には名前を書いている自分の教科書を置いてきたことやコメントに「弟」と書いたことなどすっかり残っていなかった。 十四松はいつものように笑顔で授業を受けていた。 少し前からの嫌がらせに落ち込むことも多いが嫌がらせの理由を聞いても悲しい顔をしても答えが返ることもそれが止むこともないことを、もう十四松は知っていた。 心は痛むが暗い顔をして兄弟や親に心配はかけたくなかった。 今も何でもないような顔で教科書を開く、そこにはもう見慣れた悪口が書かれている・・ハズだった。 「おー？・・何スかこれ！おもしれー！」 だが、そこに書かれていたのは丸顔に何本かの毛の生えた髭のオッサン。 しかも正面だけでなく横顔や後ろ姿も書かれ、その横には聖沢庄之助と名前までつけられている。 さらには問題の横には「こんなの分かるか」や「変な記号を使うな。日本人なら日本語使えよ」「これ、無理」など変なコメントも書かれている。 思わず吹き出し、向けられる冷たい目も無視し教科書の後ろを見ると下手な時で「松野おそ松」と書かれていた。 なぜおそ松の教科書がここにあるのかは分からない。もしかしたら間違えて入れてきてしまった可能性もある。 落書きが酷すぎてその教科書に本来の機能はないが十四松の心は少し軽くなった。 しかし、軽くなった十四松の心は帰宅後、他の兄弟からおそ松が教科書を探して弟の元を訪れていたときいて再び重くなった。 もし、おそ松が十四松のもとにも来ていたのならあの教科書はおそらくおそ松が十四松の教科書の代わりに置いていったことになる。 ならば、十四松の教科書はおそ松が使っているハズだ。 「おそ松兄さんに・・心配かけちゃう・・。」 そして、おそ松が悪口の事を他の兄弟に話せば兄弟全員を心配させることになるのだ。 「どうしよ？」 おそ松の落書きだらけの教科書を見詰め途方にくれているとそれを目ざとくチョロ松に見つけられた。 「十四松、何してんの？ってその教科書なんだよ！？これじゃ使えねーじゃん！？」 「えっ、コレ？」 「そう！小遣いなくなるからって黙ってるなよ。母さーん、十四松の教科書が・・ってこれおそ松兄さんのじゃん！」 そこでチョロ松はだいたいの事情を察したらしく、弟の教科書を勝手に取るなとおそ松を叱った後、きっちりと事情を松代に話した。 結果おそ松の小遣いはめでたく新品の教科書へと変貌を遂げ、かわりにおそ松に貸し出されていた教科書は十四松のもとに戻ってきた。 手元に戻ってきた教科書を鞄にしまいながら十四松の心は沈んでいた。 もともと教科書の内容など分からないなら、この悪口だらけの教科書より、読めないが楽しいおそ松の教科書が良かった。 あの教科書なら新たに悪口を書くスペースもなかったのだから。 そういえばおそ松からは何も言われなかったな、とボンヤリと考えた。 次の日十四松は授業中いつものように悪口だらけの教科書を開き、次いで目見開いた。 悪口で少し読みにくかった教科書は赤ペンで書き足された文字でさらに見にくくなっていた。 赤ペンの文字は見慣れたおそ松の字。内容は悪口に対するコメントや感想だ。 一つ一つにお世辞にもキレイとは言えない字で時には時には悪口に同意し、時には皮肉を返し、そして時には十四松を肯定する内容だった。 「・・っ」 そして最後の方には「ほどほどに頑張れ」と書かれ、横に大きな花丸が書かれていた。 それを見た瞬間、十四松の気分は一気に浮上した。 知らず笑みが漏れついで思いきり笑うと大声で叫んだ。 「ぷっ・・アハハハハ、頑張りマッスルマッスル！！ハッスルハッスル！」 ギョっとした教師の目も奇異なものを見る冷たいクラスメイトの視線ももう気にならなかった。 周りの視線を気にせず上機嫌に笑らい十四松は小遣いが教科書に代わって落ち込んでいるであろう兄にお礼もかねてお菓子でも勝手あげようと考えた。 おそ松の教科書代が手近にあった黄色い財布から出され、さらにはついでとばかりに菓子代も奪われもう財布にはほとんどお金が入っていないとも知らずに。 [newpage] ・チョロ松 チョロ松はその日急いでいた。 中学の時からイタズラを止めたチョロ松は高校に入って真面目になろうと努力していた。分からないなりに、授業を聞きノートをとったり、委員会にも精を出していた。 その委員会でチョロ松は最近多くの仕事を頼まれるようになった。 それは信頼されているようでとても嬉れしかったが、反面ひどくしんどかった。量が多すぎてまったく処理が追い付かなかったのだ。 真面目な松野にしか頼めないと言われれば悪い気はせず、断りにくかったし、さすがに無理かと思い断ろうにもなかば強引に押し付けられ結局会議の準備をすべて引き受けてしまった。 資料を集めコピーして、と慌ただしく動くがもともとそんなに要領の良い方ではない為、ここ最近は寝不足で疲れていた。 真面目になる為なら仕方ないとは思うが、そろそろ我慢も限界だ。 不満を言おうにもその後気まずくなるかもと思えばなかなか声には出せず悩んでいた。 そのせいでボンヤリしていたためだろうか、ごそごそと資料を漁るがいくつか必要な資料がないことに気付く。 「きっと家だ・・」 おそらく、昨夜資料を整理したさいに置いてきてしまったのだろう。 チラリと時計を見ると委員会開始まで30分。 急げば、10分ほどの遅刻で済むハズだとチョロ松は慌てて家へと戻った。 「おーい、チョロ松ぅいるぅ〜？」 慌てて家へ帰ったチョロ松と入れ替わりに教室に入ってきたのは、弟に構ってもらおうとしたおそ松だ。 チョロ松の机を見ると鞄はある。しかし、本人がいない。 「おっかしいなぁ〜鞄あるのに・・」 首をかしげて机の上の鞄を弄っていると急に腕を捕まれた。 「おい、松野！そろそろ委員会始まるぞ。」 「えっ？俺？」 「そうだよ。えっ？じゃなくて資料持ってきてくれよ。」 グイッと腕を引かれ咄嗟にチョロ松の鞄を掴む。 そのままグイグイと会議室に連れていかれる。 どうやらチョロ松と間違えられたのだと気付いたのは間の抜けたことにその時だった。 チョロ松の代わりに席に着かされ逃げそびれているうちに委員会の会議が始まってしまった。 こうなったらチョロ松のフリでもして楽しもうとおそ松はニヤリと笑った。 だが・・ 「松野これ配ってくれ」 「これの説明を・・」 「」 委員長の男子生徒にやれあの資料を配れだの、やれ説明をしろだのおそ松には訳のわからないことばかり言われそろそろイライラが限界だった。 それにおそ松に指示してばかりで他のメンバーは動く気配がないのも腹が立つ。 だが、チョロ松をからかうためにここにいるのだと思いなんとか我慢しようとした・・したのだが・・ 「松野くん、いつもより手際わるくないかい？これくらいしか出来ないんだから仕事はしっかりやってくれよ。」 その一言におそ松の我慢は限界を迎えた。 もう、チョロ松の真似をしていることなど完全に忘れて、だ。 「あー！！なんっでさっきから俺ばっかに言うんだよ！？お前ら何もしてねーじゃん！！アレしろコレしろってそんな一杯出来るわけねーだろ！急に言われてもわっけ分かんねーし！？てかお前らも少しは動けよ！」 グイッと委員長の胸ぐらを掴みガクガクと揺さぶる。 「ほんっとふざけんなよ！やってられっか！」と一喝し乱暴に胸ぐらを離すと喧嘩事に慣れていないのか委員長は呆然とした表情で膝から崩れ落ちるように椅子に座った。 シーンと静まった教室を見ておそ松はヤバイと呟く。 これは後でチョロ松に怒られるパターンだ。 急に真面目ぶりだした三男はイタズラや喧嘩などを全くといって良いほどしなくなった。そしてかわりに勉強や委員会に力をいれるようになったのだ。 (まぁ、委員会は知らないが勉強はあまり成果はでてないようだったが・・) なので、おそ松がチョロ松のフリをして騒ぎを起こしたと知ればきっと怒るだろう。それにこの事が教師の耳に入ればチョロ松の内申が下がるかもしれない。 ここは正直におそ松だと名乗るか、とも思ったがそれではおそ松が叱られる。 数秒考えたすえ、おそ松が出した結論は「逃げる」だ。 このままうやむやして逃げれば流せるかもしれない。 それにバレなければチョロ松の内申が下がるだけだし、バレてもチョロ松に怒られるだけだろう。それなら、そこまでたいしたことではない。 「・・なんてごめんね。ビックリした？あ、僕ちょっとトイレ！」 雑にチョロ松の真似をしそそくさとその場を立ち去った。 委員長たちの様子を見た感じだとこのままチョロ松に気づかれず帰れば誤魔化しはきくだろう。 慌ててチョロ松にの机に置いてきた鞄を取りに行くと間の悪いことにチョロ松が戻ってきていた。 「あっ、おそ松兄さん僕の鞄知らない？あとなんで兄さんの鞄がここにあるの？」 すでに何かを疑ってかかっているらしい。ジト目で見てくるチョロ松をおそ松は渇いた笑いで誤魔化した。 「やだなぁ〜俺はちょっと構って貰おうと思って来ただけだよ。あっ、お前の鞄なら資料がいるっていって委員会の奴らが持っていってたぞ。」 早口にそう言うとチョロ松は「そうだった委員会！」と慌ててかけていった。 とりあえずこの場は誤魔化せたとおそ松はそそくさと帰っていった。 その後、委員会で仕事を押し付けられることが少なくなったかわりに距離を置かれるようになりチョロ松が首をかしげるのはもう少し先の話だ。 [newpage] ・一松 「じゃーな、松野。」 「・・うん。」 何でもないふうをよそおいクラスメイトと別れると一松は通りすぎた道を必死で戻った。しかし、しばらく来ていなかった路地裏をいくら見渡しても目的のものは見付からなかった。 「っ・・！」 一松は唇を噛み締め、再び周りを見渡した。 最近、一松には珍しく友人のようなものが出来た。 なかなかクラスに馴染めない一松に数人のクラスメイトが話しかけてくれたのだ。 それがきっかけで一緒に下校したり昼食をとったりとするようになった。 友達だと明言された事はないが、おそらくこういうのを友達というのだろう。 まぁ、自分に自信がない一松はそれをクラスメイトに確認することも自分から友達だと言うこともなかったが。 クラスメイトに声をかけられてから、猫と遊んでいた路地裏にはあまり行かなくなった。一度クラスメイトが野良猫を見て眉を潜めていたからだ。 少しの罪悪感はあったが、やはり普通にクラスメイトと過ごすこの時間を手放したくなかった。 ある日の下校時、偶然その路地裏を通りかかった。 長いこと顔を出していなかった為、猫が気になり視線を向け・・目を見開いた。 路地裏をヨロヨロと歩いているのはボロボロにされた猫。 「・・っ！」 「うわっ、汚ね。あの猫すげぇ傷だらけだぜ。」 「げっマジだ、キモいな。」 急いで駆け寄ろうと出した足はクラスメイトのその言葉で止まった。 イレギュラーは嫌われる。おそらく一松が駆けつければクラスメイトとの関係はここで終わるのだろう。 ギュッと目を閉じ、唇を噛み締めると何でもない風を装い帰り道を急いだ。 クラスメイトと別れてから慌てて路地裏に戻ったがあのボロボロにされた猫はもういなかった。 諦めきれずしばらく辺りを探すがやはりあの猫は見付からず、少し足を伸ばして探してみてもやはり見つけることは出来なかった。 モヤモヤした気持ちで家に帰るとトド松に酷い顔だと言われ、さらに気分が落ち込んだ。 やはり、あの時クラスメイトの目を気にせず助けるべきだったのかと迷うが再び同じことが起きてもおそらく一松にそんなことは出来ないだろう。 せめて、あの猫が無事てあればいい。 そう思い目を閉じたが結局一松は眠れなかった。 次の日、一松の気分は最悪だった。 猫の事が気になり寝不足だし、罪悪感で胸は痛い。さらに、猫探しに三時間ほど歩き回った為、足も痛かった。 酷い顔をして登校した一松にクラスメイトは少し驚いていたがもともと人と話すのも苦手なうえ今はそんな余裕もない。 「大丈夫か、松野？」 「別に・・」 気遣うような声につい冷たく返してしまったが、一松はすぐに我にかえった。 自業自得ではあるがクラスメイトのせいでという八つ当たりも混ざってしまったのだ。 眉を潜めたクラスメイトを見て一松は慌てて取り繕う。 ここでクラスメイトに嫌われたら猫を見捨てた罪悪感だけが残ってしまう。 「・・ちょっと寝不足なだけだから・・」 「ふ〜ん、ま、いいけど」 少し含みのある声だが何とかクラスメイトの不興は買わなかったようなので一松はホッと重い溜め息をついた。 今日の下校時もあの路地裏の近くを通ったので一松はそれとなく視線を向けたがやはりあの猫はいなかった。 あの日からクラスメイトと別れるとあのボロボロの猫を探すことが日課になった。だが、やはり見つけることは出来なかった。 どこかで力尽きているならせめて、その亡骸だけでも埋めてやりたかったがそれすら見つけることが出来なかった。 数日たっても猫は見付からず、一松は暗い気持ちでクラスメイトと下校していた。 あの猫はもう何処かで死んで処理されてしまったのかもしれない。 クラスメイトの話を聞き流しながら諦めきれずに路地裏に目を向けると、ヨロヨロとふらつきながら歩く猫。 この前の猫ではないが、その猫は一松が前に餌をあげていた猫だった。 前に見た猫同様明らかに誰かに傷つけられボロボロなその猫に今度こそと駆け寄ろうとするが、やはりクラスメイトの言葉を思いだし足が止まる。そんな自分が情けなく唇を噛み締め、痛いほど手を握りしめる。 が、やはり足は動かない。 急に止まり路地裏を見る一松にクラスメイトも怪訝そうに路地裏を見る。 「松野、どうかしたのか？」 ハッと我に帰り慌てて口を開こうとしたとき「ニッ」と猫の短い悲鳴がした。 反射的に猫の方を見るとその小さな体が浮き地面に落ちるところだった。 「ハハッぶっ飛んだぜ」と下卑た声が聞こえる。 そのまま視線をあげると柄の悪い男が数人、地面に転がる猫を足でつついていた。 間違いなく猫をボロボロにしたのはコイツらだ。 カッと頭に血がのぼる。 一松は六つ子の中では喧嘩が弱い方だが、あの猫を助けるくらいは出来る。 「テメェら、何見てんだよ！？」 一松たちの視線に気付いた不良たちが気色ばむが一松は怯まず足を踏み出そうとした。だが・・ 「おい、松野、早く行こう」 「やべーって、巻き込まれるのごめんだぜ？」 クラスメイトの声でやはり足が止まる。 不良との喧嘩は平気でも話しかけてくれたクラスメイトの言葉はどうしても気になる。ここで喧嘩などしたらきっとこの友人のような関係は無くなると思えば尚更だ。 足を止めた一松に興味を失った不良たちは地面に倒れた猫を足でつついて遊んでいる。 腹がたって、悔しくて、動けない自分が情けなくて血が出るほど唇を噛むがやはり足は動かない。 クラスメイトの急かす声が聞こえ、罪悪感で吐きそうになる。 だが、もう一匹見捨ててしまっているんだと重い足を地面から引き剥がし踵を返そうとした時だった。 「あー！何やってんだテメェら！！」 それは聞き慣れすぎた兄の声だった。 ほぼ反射的に声のした方を振り返ると想像通り赤いパーカーを着た一松と同じ顔をした男。 「えっ・・？」 しかし、その腕に抱かれているモノを見て目を丸くする。 腕のなかでモソモソと動いているのはここ数日一松が探していた猫。 まだあちこち包帯を巻かれているがおそ松の腕のなかで元気そうに動いている。 「コイツやったのもテメェらだろ！？治療費結構高かったんだぞ！？」 驚く一松に気づかないのかおそ松は少し検討違いな文句をつけ、不良たちに近づきグッタリと傷付いた猫を庇うように前に立つ。 「なんだテメェは？コイツらの仲間か？」 不良たちは一松とおそ松の顔を見比べそう結論付けたらしい。 その言葉におそ松は「えっ」と不思議そうに不良の視線を追い一松に気付くと先ほどの不機嫌な顔がパアッと表情を明るくした。 「なぁなぁ、コイツお前の友達だろ！お前最近ここ来てないみたいだったからお前が餌やらない間、俺がやってたんだ〜。それにほら、コイツとか病院にも連れていってやったんだぜ。」 自慢気に一松の前に包帯を巻いた猫を掲げた。 一方一松は猫が無事だったことにホッとしたのも束の間、クラスメイトの前で隠していたことをペラペラと喋られ一気に青ざめる。 「・・違う、そんな猫、知らない」 「はぁ〜？そんなわけねぇって！前に一緒に餌やっただろ？友達って言ってたじゃん！」 ボソボソと否定する一松の言葉をさえぎりおそ松は容赦なく言葉を続ける。 どうしよう、嫌われる、また一人になる。 グルグルと頭をよぎる嫌な想像にパニックを起こしかけたときモフっと手に暖かいモノが押し付けられた。 「ニヤァ。」 「ほら、コイツも寂しかったって〜」 ニヤリと悪戯に笑うおそ松が抱いていた猫を押し付けてきたのだと気付くのには少し時間がかかった。 ニィニィ鳴きながら一松の手に擦りよる猫を震える手で受け取った。 一松の腕に抱かれた猫はモソモソと動き居心地の良い位置を探している。 この温もりは１度は一松が見捨てたものだ。 さんざんこの温もりに助けてもらったにも関わらず、今日だって見捨てそうになっていた。 少し抱く腕に力を入れると抗議するようにニィと鳴く。 生きてる・・。 ジワリと目に涙が浮かぶ。 「・・ごめん・・無事で良かった・・」 そんな一松にクラスメイトは少し気まずげに近付いた。 「なぁ松野、猫のとこに行けなかったのって俺らのせい・・だよな？」 「えっ？あっ・・」 そういえばクラスメイトの前だったことを思いだし青ざめる一松にクラスメイトは軽く頭を下げた。 「なんか、俺らがあんなこと言ったから行きずらかったんだろ？でも別にそれくらい気にしないぜ？」 「そうだよ。まぁ、言い方悪いけど猫が好きなことくらい別に・・」 クラスメイトの言葉に一松は軽く頷き下を向く。 そうでもしないと泣き顔を見られてしまうからだ。 「えっ？何が起こってんのコレ？」 一方おそ松は話が見えず怪訝そうな顔でキョロキョロと一松たちを見比べる。 そしておそ松より置いてけぼりをくらわされたのは不良たちだ。 「おいテメェら！人に喧嘩売っといてなにゴチャゴチャやってんだよ！？」 話が一段落ついたところでようやく我に返ったらしい。(ちなみに一松たちも我に返ったようで照れていた。) 「えっ？さっきの俺は関係なくない？」 心外そうなおそ松の主張は当然のごとく無視され、一気に殺伐とした空気になる。 え〜、無視とかする？とふてくされたおそ松だが、クラスメイトや一松たちがどうしようと慌てているのを見ておそ松は溜め息をついた。 「・・・ま、さっきのわっけ分かんない空気よりマシかぁ〜、・・一松ぅ、コレも持ってて。」 ひょいと足元でグッタリとしていた猫を抱き上げ、一松の腕に押し付けるとおそ松は不良たち向き合った。 やる気かと気色ばむ不良におそ松はニヤリと笑う。 「なんか色々あったから本題忘れかけてたけどさぁ、俺、アンタたちに慰謝料貰いたかったんだよねー。」 「ハァ？何訳わかんねーこと言ってんじゃねーぞ！」 「いや、最初に言ったでしょ？治療費高かったって。だからとりあえずさ、財布出してくれたら手加減するよ？」 ふざけた物言いとスッと出された片手に不良たちはキレたようだ。 舐めるな、殺すなどテンプレの台詞を言いおそ松に殴りかかる。一松が止める隙もない。 まぁ、そこから先はおそ松の独壇場だ。 おそ松は喧嘩では手加減などというものを一切しない。 結果猫以上にボロボロになった不良たちが出来上がった。 喧嘩慣れしていない一松のクラスメイトがドン引いているのにも構わずおそ松は鼻唄混じりで財布を漁る。 さらには「えぇ〜こんだけ〜？」と不満の声まで聞こえてくる。 猫二匹を手に困惑する一松にクラスメイトが怖々と声をかけた。 「な、なぁ松野・・、俺らそろそろ帰るな。」 「ま、またな。」 「えっ・・」 猫のときとは違う。明らかにおそ松に引いて怯えた風なクラスメイトは慌ててその場から離れていった。 「えっ・・？」 嫌な予感を感じながら呆然とした一松に財布を漁り終わったおそ松が「んっ」と手を出す。 「・・なに？」 「いや、財布があんまりにもシケてたからさ。お前の友達助けたんだから治療費頂戴。」 ニッと笑うおそ松に一松は先程のクラスメイトの様子を思いだしベシッとその手を叩いた。 (ちなみにあのでおそ松に本当に猫の治療費をぶん盗られた。) [newpage] 弟５人はそれぞれ、最近起こった出来事を思いだし何とも言えない顔をする。 「・・やっぱり礼とか言う必要ない気がする。」 「感謝４割、被害６割って感じ」 「フッ・・俺は３：７といったところか。」 眉を潜め額に手を当て足を組む。格好をつけるカラ松の言葉はいつも通り流される。 「そもそもアレ、助けてるって自覚あると思う？ってか助けられてるとは言いがたいんだけど。」 「う〜ん、無いんじゃないかなぁ。あったらもっと恩に着せてくると思うし。」 「・・だね。ほとんど無意識ってか、絡んできて偶然そうなった・・って感じじゃない？」 「確かに。」 「・・もしかしてさ、僕たちに気を使わせないように、とか思ってわざとやってたり・・」 「「「「「・・・。」」」」」 「ないな！」 「うん、絶対それはないね！」 「てかそうだったら逆に怖いわ！」 「ないない！」 全力で笑い飛ばした後、５人はハァと大きなため息をついた。 不良から守ってくれた。 舞台を守ってくれた。 押し付けられた仕事が辛かった。 あの教科書を見ると元気が沸いてくる。 大事な友達を亡くし、自己嫌悪で死ぬところだった。 本人がそんなつもりでしてないことは知っている。 色々と余計なことをされることの方が多い。 怒りが先立つが、本当は本当に感謝しているのだ。 普通のヒーローのように優しくもないし、正義感溢れているわけでもない。身を呈して人を守るような自己犠牲精神なんて欠片も持ってない。 ずる賢く自己中心的で、自分のやりたいことしかしない。 だが・・、本当に辛いときはなぜかそっと助けてくれるのだ。それこそ本当のヒーローのように。 やっぱり１度ありがとうと言ってみようかと思い直し、チラリと他の兄弟の顔を見渡す。 さすが六つ子、どうやら同じことを考えていたらしい。 クスリと笑うと軽く頷き合いおそ松のもとに行こうと閉じられた襖を開ける。 「あれ？おそ松兄さん・・」 「・・っ！・・よ、よう、お前ら・・」 そこにはちょうど２階から降りてきたおそ松がいた。 チョロ松たちを認めると視線を反らしギクリと体をこわばらせる。 その手には見覚えのある５つの財布。 「・・なんで僕らの財布持ってんの？」 「えっ、と。ほらさっき叱られた慰謝料的な？」 「・・ふざっけんなよ！？このクソ長男！！」 今までの感謝など吹き飛び苛立ちまかせに殴りかかる。 「いてーな！殴ることねーだろ！？」 おそ松の反撃とともに始まるのはいつもの六つ子の喧嘩。 松野家のヒーローはポンコツ過ぎて素直にありがとうさえ言わせてくれない。

基本クズに一つまみほど兄みがかかってる兄さん大好きです！！<br />最近ニートに貢ぎすぎて財布がやばい・・！<br />全部六つ子が可愛いのが駄目だと思う・・。<br /><br />相変わらずのｎ番煎じの喧嘩松です。<br />もう書いてる途中に内容が変わっているのはそういうものだと思うことにした・・。<br />駄文ですがよければ・・<br /><br />そして前回の作品にブクマ・コメントありがとうございます！！

ポンコツヒーロー

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6498079#1

　 　 　 　 　 　 結局、歌仙のフォローも何もしないまま１週間過ごしているが、歌仙の機嫌は頗る悪い。 　 それにしても、歌仙もプライド高いよなぁ。 きっと、"自分の仕えている主を怪我とかさせたら武士の名折れだ！"とか思ってピリピリしてるのかな。 それともあれか？"早く小狐を持ち主に返すべきだ！"とか思ってるのか？ そう思われても、持ち主の男の本丸ID分からないし、演練でも会わないしどうするこもも出来ないんだよなぁ 小狐に聞こうと思っても近寄ってこないし、何故か近侍に近寄らせてもらえないから話せない。 食事の時は一番離れてる席だし、徹底されている。 どんなに、歌仙が追い出したくても今は小狐を追い出すことは出来ないんだよなぁ。 　 「あるじどの……？そろそろ、離して頂きたいのですが……。」 　 　 俺の繊細な心を癒す鳴狐のお供。 少しお喋りなのが玉に瑕だが、毛並みといい最高だ。ずっと撫でていたいのだが、居心地があまり良くないのか、腕の中から頭を出してゴソゴソしている。 　 　 「嫌ですか？」 　 「その、私は鳴狐のお供ですから鳴狐のお側にいないと落ち着かないのです。」 　 　 "だから離して欲しい"と言ってるんだろうけど、離さないからな。 俺は今何よりも、癒しが欲しいんだ。 アニマルセラピーで癒されたい。 動物なら他に五虎退という刀剣男士が来たから、虎もいるんだが…。 小さいとはいえ虎は虎、鳴狐のお供のように話せたりしたらまだいいが、あれ話さないしきっと獣に近いだろ。 虎にとっては、じゃれていても俺にとっては痛恨の一撃だったりしそうだし、好感度が低すぎて指を噛み千切られたら嫌だ。 それにしても、側にって鳴狐俺の真横にいるんだが、それでも遠いと言うのか？ 　 　 「そうですか、私はもう少し撫でていたいんです。」 　 「あぅぅう…。」 　 　 畜生くそ可愛い……仕方ないなぁ。 　 一度、ぎゅうっとお供を抱きしめてから、鳴狐に返すと"もういいの？"というような目で見てくる。 　 　 「もう、いいですよ。また、貸してくださいね。」 　 「また……、でございますか！？あ、あるじどの！私より鳴狐はいかがてしょう？大人しくて良い子でございますぞ！」 　 「…え？」 　 　 それは…違う問題が発生するだろ。 俺が、鳴狐を抱きしめて頭を撫でたりなんて犯罪の香りしかしない。 審神者としてクビにはなりたいが、理由が嫌というかそういう系でのクビは…遠慮したいのだが。 　 　 「さぁ！さぁ！！」 　 「……、」 　 　 鳴狐の首もとから、お供が急かしてくる。 心なしか鳴狐も頭を近づけてないか？流石狐だな、癒しからの嫌がらせという天国から地獄の汚ない攻撃。 もしや俺が頭を撫でた瞬間、写真を撮られて「証拠写真だ！」とか言い出すんじゃないだろうな。 　 　 「……撫でないの？」 　 　 鳴狐が……話した…だと？ これは、ますます罠くさいな。ちょこんと、右手を俺の膝の上に置くところがあざとい。 これが、女性だったなら…と頭の中で想像すると、胸がトキメキで破裂しそうだ。 　 物静な…そう、深窓の令嬢のような女性(鳴狐)が、俺に甘えてくる…！！ そして、飼い犬(お供)と一緒に散歩とかするだ！ そして、外でジェラートとか食べて「私、こんなことするの初めて！」とか言われたい。 まぁ、現実は深窓の令嬢じゃなくめ男で、犬じゃなくて狐だから、そんな事態はならないんだけどな。 　 　 「あるじどの？如何なされましたか？」 　　 「何でもないですよ。」 　 「……やはり今の本丸の雰囲気は、あるじどのにとってあまり良いものではないのですね。」 　 　 え？確かに今の本丸の雰囲気は良くないよな本当。 でも、それは皆も同じ気持ちだよな。歌仙の機嫌もそろそろ何とかしないとだよなぁ。 小狐の縁を勝手に結ばれたせいで、その縁を切ってもらうまでは、辞められない。 なんか、凄い怒ってたし審神者辞めて俺一人の時に会って、刀剣にボコボコにしろとか命令されたら嫌だしな。 縁を切るまでは何とか好かれず嫌われすぎずのバランスをとらなければ。 それに、そろそろ歌仙が近侍の順番だから何とかしたいしな。 　 　 「お供のキツネさん、今から運んでもらいたい物があるんですが、お願いします。」 　 「お任せください！私が出来ることでしたら何なりとお申し付け下さい！」 　 　 鳴狐の肩からピョン！と飛び降り、胸を張るお供に「お願いします。」と言っておく。 　 適当なメモ用紙に夜、執務室に来るように書いた紙をお供に持たせ、歌仙に渡すようにお願いするとメモを口でくわえて部屋から出ていった。 狐にまで労働を強いるとは、俺もなかなかブラックが板に付いてきたようだな。 さて、おしゃべりがいない間に昼寝でもするか。 尻の下に敷いていた座布団を折り畳んで、枕にして寝ようとすると、鳴狐は俺が寝る場所を確保して静かにしてくれる。(元々鳴狐は静かだけど) 　 うとうとしていると、小さな足音が近づいてきたかと思うと、小さな声で「静かに…」と鳴狐の声が聞こえたのを最後に俺は眠りについた。 　 　 　 　 　 　 顔だけが暑い…。 しかも、なんか思いし息苦しいし獣臭い。 寝ぼけながら不快なナニかを払い除けようと手を伸ばすと、ふわふわとした感触と「あぁ…！そ、んなっ！いけません！」という切羽詰まった声が聞こえて、反射的に両手を頭の上に上げながら飛び起きた。 　 違います！俺は痴漢じゃありません！冤罪です！！ ってあれ？ 　 ようやくハッキリと目が覚めた俺は、今ここがどこで何をしていたかを思い出すと目眩がした。 ここにいるのが"友達"なら、勘違いの話をして笑い話に出来るのだが、残念ながら今ここにいるのは鳴狐とそのお供。 唯一の救いは畑当番の刀剣がいなかった事だな。 まぁ、だからといって今のこの現状が良くなるわけでもないけれど。 とりあえず、どうしようこの不自然な手。 背伸びのフリして、不自然じゃないように手を下ろすしかないか。 　 俺は不自然にならないように背伸びをして、あえて飛び起きたんだよ。 という風に演技をして振り返ると、鳴狐は俺の足元をじっと見ていた。 　 あれ？これ演技する必要なかったんじゃ…。 というか、何を見てるんだ？ 　 鳴狐の視線を辿ると、俺から少し離れたところに仰向けに倒れているお供の姿があった。 題名は【失われた野生】だろうか。 　 　 「おはよう。……手紙、届けたって。」 　　 「あ、おはようございます。ありがとうございます。」 　 「……起きて。」 　 　 鳴狐は俺に挨拶をすると、お供に近付き体を揺さぶっている。 　 なんか、これ知らない人が見たら……感動というかそんな場面に見えるよな。 　 お供は寝起きが良いみたいで、鳴狐が起こすとすぐに目覚めて何時ものように、鳴狐の肩に飛び乗った。 羨ましい。 俺もペット飼おうかな。犬とか猫で俺になついてくれれば…。 猫なら肩に乗ってくれそうだなぁ。 いや、でもここは犬にすべきだろうか…。でも、俺の後任の審神者がアレルギーだったら可哀想だしな…。 いや、もう動物いるしアレルギーの心配はしなくてもいいのか？……いいよな。 飼うとしたら、五虎退の虎に特に注意しないとだよな。 いきなり虎が殺戮ショー始めたら嫌だし、そうなったら俺は一生物のトラウマ確定だ。 　 こうなったら、今度雑誌を買おう。 目指せ、脱ボッチだ。テンション上がってきた！俺にもついに相棒が……！ お供って犬や猫と話せるのか…？話せるとしたら、俺と相性が良さそうな子を見つけて貰えるんじゃないか？ どうせ今は一人じゃ外出出来ないし、話せなかったとしても護衛として連れていけばいいしな！ 　 「鳴狐さん今度、一緒に出掛けませんか？」 　 「……！」 　 「主殿……！」 　 　 え？何？この反応。嫌がってる…というより驚いてる反応？ そういえば、俺ここに来てから前以て出掛けることを伝えたことなかったな……。 しまった！この行動のせいで"ちゃんとした行動も出来るんだ"なんて思われたりして…。 いや、そうなったとしても大丈夫。 一回だけなら大丈夫。今回が最初で最後になればいいんだ。 だから動揺するな俺。動揺すると変に思われるぞ。そうだ、ここから挽回すればいいだけの話、俺なら出来る。 　　 　 「まぁ、いつになるかは分かりませんけど、私の気分次第で出掛けることになると思いますので。」 　 「行きます！行きますとも！私達、主殿が御誘いして頂けるのであれば、例え火の中水の中何処であろうとも…！ですよね？鳴狐！」 　 「…うん。何処でも…ついていく。」 　 「火の中や水の中は行く予定はありませんが、ありがとうございます。」 　 　 これってどういう意味だ？お前を殺す手段の一覧だ！とかそういう意味？ どっちも嫌だ。お供は「例えの話ですよ！」とか言っているが、どうなんだろうか。 いや、殺すなら今まで寝てたからその間に殺るだろうしな。うん、大丈夫……だよな？ 　 　 「その日は御赤飯にいたしましょう！」 　 「……そこまでしなくていい。」 　 　 赤飯？やっぱり俺殺されるんじゃないか？ ……大丈夫だよな？そこまでしないって信じてるからな。 　 　 俺はその後、なんとなく落ち着かない状態で夜まで過ごす事になってしまった。 今思ったけど歌仙に夜、執務室に来いって書いたけど時間書いておけばよかった。 この待ち時間、無駄に過ごす事になってる。 仕事しようにも、歌仙がいつくるか分からないからでしないしなぁ。 半端な所で仕事中断したくないし、急いで片付けて書類がシワになったりするのも嫌だからな。 　 　 あー。早く歌仙来ないかなぁ。そうだ、今のうちにどの子にするか選んでおくか。 端末で犬や猫の動物の写真を眺めていると、歌仙が来たので端末をポケットに入れて歌仙を部屋に招き入れ、座らせる。 　 　 「すまない、待たせてしまったかな。」 　 「いいえ、大丈夫ですよ。今日、呼んだ理由なんですけど…。」 　 「…分かっているよ。小狐丸の事だろう？」　 　 いや、それもあるんだけどな。っていうか、え？小狐…"丸"？あいつ、小狐丸って名前なのか？三日月は小狐って呼んでるよな？どっちが本名だ？ …急に呼び方変えるのもおかしいし小狐固定でいいや。 　 　 「困ったものだよ。」 　 　 やれやれ、とでもいうように溜め息をつく歌仙。 いや、うん、そうだよな。 　 　 「歌仙さん、最近…神経質になっていますよね。…理由は何となく分かります。」 　 「……。」 「小狐さんは私に近づいてきませんし、小狐さんに縁を切ってもらうまでは、ここにいてもらわないとなんです。」 　　 「……。」 　 「小狐さんを好きになれとは言いません。ただ、彼がここに居ることを許してあげてください。」 　 「それは…僕も理解はしているよ。だけど、僕はあいつを追い出したいよ。毎日が心配で気が狂いそうになるんだ。三日月や今剣は小狐丸に同情的だ。」　 　 　 まぁ、兄弟じゃなかったか？あいつら。兄弟がそういう扱いされてたんじゃ、同情的になるのも仕方ないよなぁ。 　 　 「小狐丸の話を聞いてから粟田口を始めとした、兄弟が居るものも小狐丸に同情的になってきた。このままでは……いや、なんでもない。とにかく、僕は小狐丸を脅してでも、縁を切らせて追い出した方がいいと思う。」 　 　　 脅すってお前…過激だな。逆上して襲われたら俺は一溜まりもないんだが。 　　 でも、脅す脅さないは別としても、このまま過ごしていても事態は良くはならないしな…小狐と話さないとだよなぁ。 　 はぁ、憂鬱だ。 　　 　 　 　 　 　 [newpage] 　 　 　 　 　 　　　　　　　補足 　 　 　 鳴狐は主とデートだと思っていればいい。 　 鳴狐可愛いよ。遠征行くとき寂しいって言ってくれるんですよ？ 　　 そして、歌仙は周りがだんだん小狐丸に同情的になっていくのを感じて、危機感を持っています。 小狐丸が辛いのは分かった。 でも、主を巻き込むな。同情するということは、小狐丸の策略に乗るという事なんじゃないかと思っています。 歌仙は主の為なら鬼にもなれる子。だと私が嬉しい。 　 　　　 　

いつも、ブックマーク、コメント、フォローありがとうございます。<br /> <br /> <br /> <br />10話までやっときました。

金だけ貰って即さよならするつもりだった10

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「ああああぁ！！」 医務室から聞こえてくる喜三太の悲鳴が耳を劈く。 「喜三太！大丈夫、血はもう止まってるから傷を洗わないと！」 「乱太郎、本当にこれでいいのか？」 「ええ、以前あの人から傷には焼酎がいいとお聞きしたことが」 「そうか、あの先輩がおっしゃったなら」 「左近先輩、もっと広範囲にかけてやってください」 「滲みるぞ、喜三太」 「ぐっ…、あああぁ…っ…！」 (止めてくれ。これ以上喜三太を…っ…！) いや、彼をあんな目に合わせているのは紛れもない、自分自身ではないか。 どの面下げてこんな所に突っ立っているんだ。 早くこの場から… 「逃げるな金吾」 これ以上喜三太の悲鳴を聞きたくなくて、医務室の前から立ち去ろうとした自分の目の前に立ち塞がったのは、我らがは組の学級委員長。今回の忍務の司令塔でもあった男。 よくもそんな普段通り冷静な顔をしていられるものだ。 喜三太があんな目に遭っているというのに。 喜三太をあんな役に就けたのはおまえだというのに。 この押し潰されそうなほどの思いをどこに向けたらいいのかもわからず、衝動のままに目の前の友を殴り飛ばした。 「っ……」 「庄ちゃん！」 駆け寄るのは、その男と恋仲の関係にある二郭伊助。 自分の男が殴られたにも関わらず、伊助は決してこちらを責めるような言葉は口にしなかった。 ただ自分の痛みのように、優しく男の口元を拭ってやっていた。 (俺だって、喜三太が今受けている痛みを代われるものなら代わってやりたい) 喜三太の背を斬った感触がまだ手に残っている。 一生忘れられない、忘れることができない。 友を、仲間を、愛しい者を傷つけたこの痛みを。 「いけません喜三太君！歯を喰いしばったら奥歯が砕けてしまいますよ！」 「ぐっ…う…」 「だめです新野先生、口を開けたら今度は舌を噛んでしまうのではっ」 校医と保健委員長の意見の対立をよそに、は組の保健委員はゆっくりと、優しい声で苦しむ喜三太に語りかけた。 母が子供に言い含めるような、そんな口調で。 「喜三太、大丈夫だよ。少し口を開けて…そう」 「ら、ん…」 「しゃべらなくていい。そのまま私の腕を噛んでいて。肉を噛み千切ってもいいから。痛いのは喜三太だけじゃない。だから大丈夫だよ」 仲間を思いやるその心は、まるで全身に染み渡るように届いた。 涙が溢れ出す。 ああ、先生。自分はまだこんなにも弱い人間です。 「っ…きさ、…たっ…」 声にならない嗚咽を漏らす。 こんな所、決して本人には見られたくない。 男ならば誰だって、惚れた相手には情けない所など見せたくはないだろう。 好きだ、好きだ喜三太。 男に組み敷かれたおまえを見て頭に血が昇った。 何故自分ではない男に身体を触らせるのだと。 何故おまえを抱いているのが自分ではないのかと理不尽な怒りに見舞われた。 おまえは俺のものではないのに、どうしようもなく腹が立ったんだ。 だからあの瞬間、振り下ろした刃を止めることができなかった。 怒りは剣を鈍らせる。 自分はもう、剣士としての資格もないのではないか。 「金吾、逃げるなよ金吾」 「庄、左…」 「決して目を逸らずに、自分たちが犯した失態を受け入れよう。そして二度と、もう二度とこんなことは起こさせない！絶対に、絶対にだ！」 口端から血を滲ませながら、司令塔という重い責務を負っている男は腹の底からそう叫んだ。 涙を見せることはなかったが、その拳からは赤い滴がぽたりと落ちた。 その傍らでは男の手を労わるようにそっと包みながら、伊助が声もなく泣いている。 (そうか、伊助は庄左ヱ門の代わりに泣いているのか) 唐突に二人の関係を羨ましく思った。 自分も喜三太とこんな絆を築きたい。いつでも喜三太に側にいてほしい。 自分が傷ついた時は、ささくれた心をあの笑顔で癒してほしい。 その代わりに喜三太が傷ついた時には、何に代えてもその原因を自分が取り除いてやろう。 たとえこの手が血に濡れようと、この夜の出来事より怖いことなど何もない。 「金吾！金吾はそこにいる！？」 乱太郎の声だ。喜三太に何か異変があったのか。 「喜三太が君を呼んでる、入ってきて」 ごくりと喉が鳴った。 今喜三太に恨み言を言われでもしたらもう立ち直れないような気がする。 だが、いつまでも逃げてはいられない。 逃げるのではなく、向き合わなければ。 「ああ、その前に一応金吾も焼酎で手を洗って。…伏木蔵、お願い」 「了解」 医務室から出てきたもう一人の保健委員に、冷酒で手を清めるよう指示される。 清潔な布で手を拭った後、ようやく中に入ることを許された。 部屋の中央に伏しているのは、自分がつけた傷に苦しむ喜三太だ。 ああ、やはり見るのではなかった。 綺麗で健康的な肌に傷を残してしまうであろう事実が足を竦ませる。 己が犯した失態を、これからどう償っていけばいいのか。 「きん、ご……」 傷のせいで熱もあるらしい喜三太が、掠れた声で名を呼んだ。 「きんご…どこ…？」 「っ、喜三太！ここだ、ここにいる！」 衝動的に手を握った。熱い。だがそれは生きている証だ。 止まったはずの涙が再び溢れ出す。 喜三太の手の甲に、目からぽたぽたと水が零れ落ちた。 「…きんご…泣いてるの……？」 まだ顔を上げられない喜三太が問うて来た。 情けないことだが、この期に及んでつい意地を張ってしまうのはもう性分だろう。 「泣いて、ない」 「うそ…金吾は泣きむしだから…ぼくがいてあげないと…」 「そうだよ、おまえがいないと俺はっ」 「でももうむりみたい…ごめんねぇ…」 「喜三太！？」 不吉な言葉にさっと血の気が引いた。 思わず声を大きくした自分を、乱太郎がくすくすと笑いながら諌めてくる。 「しー、金吾。大丈夫、喜三太は眠いだけだよ。血はもう止まってるから、あとは傷口を清潔に保つことだね。早く傷が塞がるように、包帯をきつく巻かなくちゃ」 「ほ、本当に大丈夫なのか？これ、治るのか？」 「止血が早かったからね。見た目に反してそれほど傷は深くないし…肉というより皮膚が切れた感じかな。それで血も派手に噴き出したんだと思う」 「止血…」 「伊助から聞いたよ。てこでも喜三太の身体を離さなかったって」 「……」 詳細には覚えていないが、喜三太を斬った後、自分は彼をただただ抱き締めていたらしい。傷口を頭巾で押さえ続け、他人が喜三太に触れることを許さなかったという。 『金吾、喜三太を一旦離せ！』 『そのままじゃ喜三太が危ないんだ！』 『金吾！』 仲間の声も耳に届かず、ひたすら喜三太を腕に抱いていた。 渡さない。これは自分のものだ。 他の男になど、誰が触れさせるものか。 …そんな感情が働いていたのかもしれない。 『そこ退いて』 埒が明かない状況を打破したのは、普段は穏やかな性質の伊助だった。 『…金吾、ごめん！』 謝罪と共に、喜三太を抱いて離さない腕に鋭い刃が突き立てられた。 鈍い痛みに呻いた隙に、庄左ヱ門が喜三太を受け取り、そのまま虎若の背に乗せて忍術学園まで運んだのだった。 後から聞いたところ、刃の正体は庄左ヱ門お得意の鏢刀の刃先だったのだが、仮にも剣士を目指している者の手によくそんな真似ができたものだとも思う。 いや、しかしそうまでしなければ、喜三太は自分の腕の中でそのまま冷たくなっていたかもしれない。 そう考えると、伊助の取った行動に感謝しなければならなかった。 手を握ってくる喜三太の力がふっと抜けた。 聞こえてくるのは少し速い呼吸音。 「…寝ちゃったかな？」 「本当に寝てるだけなのか？熱で苦しんだり…」 「そりゃ熱はあるだろうけど、見てごらん。この表情」 「………」 「金吾の気配が近くにあるからだよ。さっきまでの喜三太はまるで野生の山猫みたいだったのに」 穏やかに眠る喜三太の顔からは、どこかあどけなさを感じた。 喜三太、早く目を覚ましてもう一度あの気の抜けるような声で名前を呼んでくれ。 そしてあの可愛い笑顔を見せてほしい。 「大丈夫、喜三太はきっと早く回復する。それまで蛞蝓やら猫やら鷹やら蝶やらの世話は金吾の役目だよ？」 「ああ」 それくらいいくらでもやってやる。 蛞蝓の世話なんて昔からやらされていることだ。ただそれに猫やら鷹やら蝶が増えただけのこと。 喜三太が回復するまでその役目、しかと果たしてみせようではないか。 「乱太郎」 「なに？」 「ありがとう。本当に、ありが、とう…」 乱太郎だけではなく、本当は全員に伝えなければならない言葉なのだが… 「あーあ、また泣いちゃって。そんな情けない顔、喜三太には見せられないね」 「…ん…」 「大丈夫。もうしばらくすれば、また日常が戻って来るよ。これ、保健委員の勘」 仲間がいてくれる有り難さを、今ほど感じたことはなかった。 大丈夫。自分たちはまた再び歩き出すことができる。 一人じゃない。戸の向こうには八つの気配が。 ほら。 医務室の扉が倒れて、その衝撃で喜三太が目を覚ますまで、あと五秒。 つづく

次！次で完結です！結局このシリーズも10話完結か。だらだら書いてしまってすみません。2ページとかに纏めればいいのかもしれませんが、各話ごとに人物の視点が違うから、なんとなく分けちゃうんですよね。■今回は何故か乱太郎大活躍(？)。乱太郎の優しさは、あの先輩から受け継がれていると思うのです。まあ金吾を泣かすことができて大満足。次回はR18に…できるか？また後日談を書くので、そこで金喜のエロエロを書いてやるんだい！【追記】乱太郎のセリフが不自然に続いてたところを直しました。金吾がもう喜三太にメロメロです。それからブクマ、コメ、タグもありがとうございます！

【腐】 染まらぬ己を貫いて⑨ 【金喜】

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　 　　　　　　　　１ 　 　 　あらかた片付いた室内を見回して、深く深く、一つ頷く。 「おーし！　おしおし！」 　狭いながらもバストイレのついた、六畳一間の畳敷き。板張りのキッチンはちょっとだけ広めで、これをダイニングと言い張る１ＤＫ。駅からは、徒歩二十分。お世辞にもきれいじゃない、広くもない、新しくもない部屋だけど、今日からここが、俺の城だ。 　いわば天下の沢村城！　否、沢村栄純王国！　一国一城の主となったからには、もう俺も一人前の男ですなあ！ 　父ちゃん母ちゃん爺ちゃん見てる？　俺は故郷に錦を飾ったぜ……。 　と、ドヤ顔でキメてみたはいいものの、なんだこのデジャブる感じ。それもそのはず、全く同じ事を、過去にも思った覚えがある。あれはいつの事だったか……とか、考えるまでもない。今から丁度二年前の事だ。長野の片田舎から東京砂漠に出て来たあの日、俺は生まれて初めての一人暮らしをする事になった。高校だって実家から通っていたから、生まれ育ったあの家以外で暮らすのだってはじめてだった。こっちで暮らし始めて暫くは、そりゃ酷いもんだったなあ……と、懐かしく思い出す。 　何しろ実家にいた頃は、家事なんて母ちゃんが全部やってくれてたから、俺はなんにもした事がなかった。自分の部屋くらい自分で掃除しろとは言われてたけど、とても真面目にやってたとは言い難い。当たり前だけど、料理だって洗濯だって、した事なかった。 　だがしかし！　それも最早過去の話。一人暮らし歴も二年を超えた今となっては、俺ももうすっかりベテランだ。いわば、歴戦のプロ。ハートマン沢村と呼んで、なんでも訊いていただきたい！　今の俺には柔軟剤と漂白剤の違いも、駅前のスーパーの特売日もお茶の子さいさいだ。……もっとも、特売日の方はイチから覚え直しだけどな！ 　窓の外に目を向ければ、そこから見える光景は、俺が二年かけて見慣れたものとは違う。慣れ親しんだアパートを出て、俺は今日、この新しい家に引っ越して来た。 　なんでそんな事になったのかといえば話は簡単で、前に住んでたアパートが、この度、老朽化で取り壊される事になったからだ。……まあ、そうなるのも無理はないってくらいのボロい物件ではあった。その分家賃も安くて、俺的には大いに助かってたんだけど。 　丁度秋の大会も終わって部活がオフシーズンに入ったとこで、さあこれから新たなるステップへーと気炎を上げてた矢先にいきなり出端を挫かれて、俺は毎日自主練を切り上げ、引っ越し先を探して右往左往する羽目になった。来年の春に向けて、ガッチリ鍛え直すつもりだったのに。くそう。そんな俺の貴重な時間と引き替えに、やっと探し当てたのが、この家ってわけだ。 　駅からも大学からも遠くなったし、狭いし古いけど、家賃の事を思えば立地の件も仕方ない。バリバリの運動部に所属し、朝も晩も走り通しの俺は、長時間歩くのだって苦にならない。トレーニングだと思えばいいんだ。おしおし！ 　唯一、前の家で仲良くなったご近所さん達とお別れするのはツライけど、別れもあれば出会いもある！　またこの家で、新しい人間関係を築けばいいんだ。 「そうとなれば！　今こそ、コイツが物を言う時！」 　卓袱台にどっかりと鎮座したでかい段ボールの蓋を、俺は恭しく開けた。パアア……と後光が差す勢いで中から現れたのは、実家の母ちゃんに頼んで送ってもらった信州蕎麦。 　引っ越しのゴアイサツと言えばソバ、これ常識！ 　送って貰ったソバは四箱、一つは大家さんに持ってくとして、両隣に一つずつ。残りの一つは勿論、俺の分だ。 　久々に田舎のソバが食えるとウキウキしながら、これまた母ちゃんが気を利かせて一緒に入れてくれた紙袋に、ソバの箱を詰め込んだ。東京のソバはどうも、香りもコシも足りねえんだよな！ 　まずは一階に住んでる大家さんの所に行って、入居の挨拶をする。 「今日からお世話になります、沢村栄純です！　よろしくお願いしやす！」 　昔からでかいでかいと言われてきた声を張り上げながら、ビシッと腰を九十度に曲げると、年配の大家さんは「若い子は元気でいいねえ」とにこにこしていた。前に会った時も思ったけど、良い人そう。さて二階に戻るかというところで、丁度外出から帰ってきたのか、自分の部屋の鍵を開けているお姉さんに鉢合わせた。大学にいる女の子達よりちょっと大人っぽいから、ＯＬさんか何かだろうか。視線が合うと、睫毛ばさばさの目を瞬かせる。 「新しい人？」 「ウス！　今日から二〇二号室に越してきた沢村と申します！　あ、よかったら、コレどうぞ！」 　袋に入っていたソバを差し出すと、「あら、ご丁寧に」と、お姉さんは笑顔で受け取ってくれる。良かった、この人も良い人だ！ 　部屋に入ってくお姉さんと別れて、さて、と階段に足をかけたところで、はたと気付いた。 「あああああ!!」 　ソバは同じ階にお住まいの二軒、つまりお隣さんと、大家さんの分しか用意してない。勢いで一階のお姉さんにまでお渡ししてしまったけど、このままでは数が足りない。 　いや、足りなくはない。わかってる、わかってるんだ、自分用のをお隣さんにお渡しすれば良いという事は……！ 「うう……」 　がっくりと肩を落とす。だけど、あの場でお姉さんに渡さないなんて選択肢はなかったし、しょうがねえ。間が悪かったんだ！ 　ほんのちょっとだけ、もうお隣さんに挨拶とかいいんじゃね？という悪魔の囁きが耳を掠めたけど、イカンイカン、これからお世話になる人達だぞ！　これから何があるかわかんねえんだし、第一印象って大事だし！　ソバは残念だけど、また母ちゃんに頼んで送ってもらおう。 　一個だけ残った紙袋を手に、お隣さんの部屋の呼び鈴を鳴らす。ちなみに、このアパートにインターホンなんてものはない。中で微かにピンポンと音がして、はーい、と高めの声が聞こえた。 　ドアを開けて顔を出したのは、またしても、まだ若い女の人だった。さっきの人ほどがっつりお化粧はしてないけど、大学でよく見かけるような、こぎれいな感じの人だ。 　なんなの、このアパート、女性の入居率高えの？　そんなに綺麗なところでもねえし（悪口じゃねえからな！）あんまりそんな感じしねえんだけど。 「どうも、お隣に越してきた沢村です！　今後お見知りおきのほど！」 　緊張に震えつつ、持っていた袋を両手で差し出す。 　長野にいた頃の女友達なんかは平気なんだけど、都会の女の人ってとにかくおしゃれで、キラキラしていい匂いがして、なんか苦手なんだよな……！　嫌とかそういうんじゃねえんだけど、近寄りがたいって感じ？ 　お姉さん（その二）は、「ちょっと待ってね」と前置きすると、一度ドアを閉めた。チェーンを外す音がして、もう一度扉が開く。 「ごめんなさい、今、家主が買い物に行ってるの。伝えておくわね」 　そう言って微笑み、お姉さん（その二）は、紙袋を受け取ってくれる。 　再度閉じられたドアの前で、ふー……と息をつき、額の汗を拭いた。なんか、妙に疲れた。 　手ぶらになってしまったため、一度部屋に戻る。ダンボールの中に残っていたのは、最後の一箱だ。未練がましくそれを見つめてから、えいやと手に持って部屋を出る。向かうは、もう一方のお隣さん。 「ん？」 　ドアの前に立って気付いたけど、表札出てねえや。人、住んでんだろうか？　無人なら、このソバ俺のものにしてもよくね？　そう思いながらも、一応、呼び鈴を押す。さっきと同じように、中から微かにベルの音が聞こえてきた。そのまま暫し待っていると、中で人の動く気配がする。 「……はい」 　目の前で扉が開いた。……人、住んでたのかよ。じゃあ表札くらい出しといてほしい、無駄に期待しちゃったじゃねえか。と思ってから、自分もまだ表札をつけてない事に気付いた。早急にどうにかしよう。 　ドアを開けて出てきたのは若い男だった。それだけでホッとして、テンションが一気に上がる。よかった！　周囲を女の子に挟まれて生活するなんて緊張を強いられる日々を送らずに済んだ！ 「どうも！　本日お隣に越してきました沢村栄純です！　大学二年、野球部、ポジションはピッチャー！　趣味はクワガタ捕りと相撲観戦と釣り！　敵は納豆！　よろしくご指導ご鞭撻お願いしやす！」 　うん？　なんか別に、言わなくていいことまで言っちまった気がするな？　まあいっか！ 　目の前の若い男（たぶん）は暫し、ポカンとした顔（たぶん）で、俺をジッと見つめていた。 　なんでイチイチ「たぶん」が付くのかというと、この人、すげー表情が読みづらいのだ。もっさり伸びた前髪が、目元を殆ど隠しちまってるし、その下からは、真っ黒く縁取りされた、これまたもっさりした感じの眼鏡の端っこが覗いている。目元が隠れちゃうと、人間の印象ってびっくりするくらいわかんなくなるもんなんだな。余計なお世話かもしんねえけど、散髪に行かれた方が良いのでは？　でも、こんな安アパートに住んでるくらいだし、金銭的余裕がないのかも……だったら口を出すのはシツレイってもんだよな……などと考えていると、相手が口を開く。 「ご指導ご鞭撻って、何を？」 「は？」 　んなこと言ったっけ？　言ったか。確かに何をだろう。未熟者につき、いろいろ教えてね！ってくらいのもんで、特に深い意味があって言ったわけじゃねえんだけど。部活でもよく使うから、ポロッと口から出ちゃっただけのことだ。この方に教わりたいこと……あ、そういえば。 「東京住まい、長いっすか？」 「……あ？」 「[[rb:私 > わたくし]]、二年前に長野からこっちに出てきたばかりなので、未だに東京のことよくわかんなくて！　そちら様は!?」 「生まれも育ちも東京だけど」 　おおー……と、感嘆を込めて相手を見つめる。 「生粋のシティボーイであらせられる！」 「シティボーイって」 　ぶは、と相手が吹き出した。ん？　なんか面白いこと言いましたかね？　笑い上戸？ 「じゃ、じゃあ、あそこ行ったことある？　両国！」 「は？　ねえけど」 「ないのかよ！　都会っ子なのに！　江戸っ子なのに！　粋じゃない！」 「粋じゃなくて悪かったな」 　地団駄を踏む俺の前で、相手は呆れたような顔（たぶん）をしている。だけどどことなく、面白がってるような空気も感じられた。 「俺、東京出たら絶対国技館に相撲見に行くんだって思ってたのに、まだ行けてねえんすよね！　行き方とか、チケットの買い方とか、知ってたら教えて貰おうと思ったのに！」 「………………」 　残念ながら大学で知り合った連中の中にも、相撲を見に行った事のある奴はいなかった。すぐ目と鼻の先に日本の誇る国技の聖地があるというのに、まったく、なっちゃおらん！ 「ぶふ」 　また目の前の人が吹き出した。口元に手を当てて、肩を揺らして笑っている。 「なんすか、あんた、笑い上戸っすか！　失礼っすよ！」 　俺は「散髪代ないんすか？」という言葉を、気を遣って呑み込んだというのに！ 「悪い悪い。沢村クンだっけ？」 「ウッス！　沢村栄純、Ｔ大二年です！　来年三年になります！」 「そりゃ、今二年ならそうなるだろ。留年さえしなけりゃな」 「危なかったけどギリ回避した！」 「ギリかよ！　Ｔ大の野球部なんだろ？　結構強豪じゃねえか」 「お！　大学野球にお詳しいので？」 　テレビ中継されるプロ野球とか高校野球の甲子園に比べれば、大学野球は結構マイナーだ。 　大学で知り合った友達にも、テレビで試合は見るけど大学野球は全然知らないって奴が多い。そこまでチェックするのは大抵、根っからの野球好きくらいだ。 「詳しいってほどじゃねえよ。……ただまあ、昔から野球は好きだから」 「素晴らしいご趣味をお持ちで！　では是非一度、このエース沢村の活躍を見に来てやってつかあさい！」 「お前エースなの？」 「来年こそは！」 　ドンと胸を叩いて鼻の穴を膨らませると、「ただの希望かよ！」と相手が言ってまた笑う。なんとでも言え！　四年の間には、絶対エースになって見せますから！　そこで手に持ったままだった箱の存在を思い出した。 「あ、そうだ、これどうぞ。ソバアレルギーとかないっすか？」 「いや、ソバ好きだよ。貰うわ、ありがとな」 「ウッス！　うちの田舎のうまいやつなんで、心して食ってつかあさい！」 　ニカッと笑うと、「心してって……」と、また笑っている。もうこの人は自分じゃどうしようもないレベルの笑い上戸なのだと思う事にした。 「それでは！」 　その場を辞そうとして、一旦足を止めて振り返る。 「あ、そうだ、名前！」 「ん？」 「表札ねえから、名前わかんないんすけど！　なんて呼べばいいっすか？」 　別におかしな事を言ったつもりはねえのに、またしても、じっと見つめられる。 「名前、な。あー……カズヤ」 「カズヤさんですか！　それでは今後とも末永く沢村をよろしくお願いしやす、カズヤさん！」 　思いっきり頭を下げると、「ぶはっ」とまた吹き出す声が聞こえた。この人、こういう病気なんだろうか？ 　 　 　 　俺に限らず、大体の学生というものは金がないと相場が決まっている。 　実家がすげー裕福だとか、割のいいバイトをしてるとかでもない限り、大体いつでも金欠だ。教材だ、服だ、遊ぶ金だと常に物いりな上、俺みたいに一人暮らしで部活までやってると、これはもう限界まで切り詰めないとやってけない。 　体育会系の部活は体が資本だから、他の奴なら真っ先に切り詰められる食費を削るわけにはいかねえし、その結果、それ以外が犠牲になる。俺の場合は主に服とか遊ぶ金。だから、『イマドキノダイガクセイ』ってやつにしては、びっくりするほどヒンコウホウセイだ……ってのは大学で同じ講義を取ってる奴の言葉。 　物を買う金がねえもんだから、俺の部屋には荷物が少ない。殆どの物がタンス一つの中に収まっちまうし、引っ越し後の片付けも、あっという間に終わってしまった。 　暮れていく夕陽を見ながら、晩飯何にしようかなあ、と考える。今日は完全にソバで済ませる気だったから、何も考えてなかった。というか、引っ越しの初日だから、材料も何もない。何か買いに行くか食いに行くしかないわけだが、しかしどうにも足が動かなかった。だって俺今日、完全にソバの口になってたから！　今の俺に必要なのはソバ！　それ以外にない！ 　その時ふと、窓の外でひらひら揺れる布が目に入り、そうだった、と重い腰を上げる。朝干した洗濯物は、もうすっかり乾いたようだった。引っ越して一番にする事が洗濯ってのもどうかと思うけど、昨日だって普通に部活はあったし、少ない服やタオル類をこまめに使い回しているのだ。洗濯をサボれば自分が困るのは目に見えている。 　ベランダに出て、洗濯バサミで留めた洗濯物を一つずつ外しながら、また溜息をつく。腹減ったなあ……ソバ食いたかったなあ……この辺にうまい蕎麦屋、あるかなあ……。 　ソバに心を持って行かれて、ボンヤリしてたのがいけなかったのか。不意に吹きつけてきた寒風に思わず目を瞑った瞬間、俺の手の中からタオルが消えた。 「あ！」 　あっという間に俺の手を離れたタオルは、ひらりと宙を舞い、そのまま、隣のベランダへと落ちた。うまい具合に柵に引っ掛かり、ひらひらと一反木綿みたいに揺れてるけど、もっかい風が吹いたらどうなるかわからない。 　即座に踵を返し、家を飛び出す。 「カズヤさん！　カーズーヤーさあああん！　ごめんください!!」 　数時間前に訪れたばかりの隣家のドアをドンドンと叩くと、「なんだよ、うるせえな！」と扉が開いた。 「緊急事態なんすよ！　カズヤさんちのですね！　ベランダが、風で飛ばされて！　そこに俺のタオルが!!」 「は？　うちのベランダが？　そりゃ確かに緊急事態だけど」 　ぽかんとしたカズヤさんの肩越しに、旗のようにひらひらと翻る白いタオルが見えた。 　今にも飛ばされようとしているそれが目に映った瞬間、俺は爪先だけ突っ込んでいたスニーカーを跳ね飛ばし、家主を押しのけて部屋の中に駆け込んでいた。 「ちょっ、おい!?」 「失礼しやす！」 　一瞬にして鍵を外してガラガラと窓を開け、思いっきり手を伸ばす。今しも俺の元を離れて大空へと旅立とうとしていたタオルを、俺の左手が、寸でのところでキャッチした。セーフ！　セーフ！　ナイスフィールディング俺！ 「……ナイスフィールディング」 　ぺたぺたと畳を踏んで近付いて来たカズヤさんが、俺の後ろに立って言った。お、イケる口ですね！　さすが野球好き！ 「いや～、わかりますか、この反射神経、反射速度！　エースになるべく鍛え上げたボディのたまもの！」 　立ち上がり、片手で頭を掻きながら、だーっはっは、と笑うと、すこんとデコにチョップを食らった。いてえ！ 「なんなんだよオマエは。まあ、大体事情はわかったけど」 　そう言ってカズヤさんは、俺が手に持ったタオルに、ちらと視線を寄越す。おかげさまで無事でした！ 「洗濯物を取り込もうとしたら風で飛ばされちまいまして！　失礼した！」 「いきなりイノシシみたいに突っ込んでくるから、何かと思ったわ」 　めっちゃびっくりした、と腰に手を当てて俺を見るカズヤさん。イノシシとはなんだよ、失敬な！　確かにうちの近所にもたまに出たけども！　イノシシおいしいんだから馬鹿にしないでもらえます!? 　ごめんって。俺だってしたくてしたわけじゃないですって。すぐにおいとましますって。……て、アレ？ 　成り行きでお邪魔する事になったカズヤさんの部屋で、俺はこくりと首を傾げる。なーんかこの光景、見覚えあんな。またしてもデジャブ。俺の部屋でも、ついさっき見た光景のような……いや、間取りが同じとか、そういうんじゃなくて。 　中途半端に開いたダンボールに、半分ほど中身が入った状態で放置されたタンス。うねうねとコード類が剥き出しになった、配置途中の家電類。……俺は知っている、これはどう見ても、つい最近引っ越して来たばかりの人の部屋だと。くるりと、俺は家主に向き直った。 「もしかしてカズヤさんも、越してきたばっかり？」 「ああ、まあな。沢村君とは数日違いってとこか」 「えっ、何それ！　ズルイ！」 「は？　ずるい？」 　一体何が？と、頭の上にハテナマークを飛ばすカズヤさんの前で、俺はぶんぶんと両腕を振り回して抗議の意を示す。 「たった数日の差で、俺があげる方、あんたが貰う方なんておかしい！　ズルイ！　不公平！」 「ゴメン待って、何の話？」 「決まってんでしょうが！」 　ビシリ、と俺よりちょっとだけ背の高い相手の鼻先に、人差し指を突きつけた。 「ソバっすよ！」 　「……ソバ」と、ぽかんとしたままカズヤさんが呟いた。俺は今こんなにも、こんなにもソバを食べたいと思っているのに！　ずるくない？　やっぱずるいよな？　引っ越しと言えばソバだもんな？ 「引っ越してきたの、いつっすか！」 「えーと、木曜だから、二日前か」 「ホントに変わんねえじゃないっすか！　たった二日！　それっぽっちの差で！　アンタが食えて俺が食えないなんて！　神も仏もいないのかああー!!」 「うるせえな」 　声でかい、とカズヤさんが、両耳に指を突っ込んで蓋をする。 「あんたもあんただ！　そういう事なら、ちょっとは遠慮したらどうですか！　俺も引っ越したばっかりだから挨拶は結構ですって！」 「なんでくれるっていうもんを断らなきゃなんねえんだよ。勝手に持って来たのはそっちだろうが」 「ぐぬぬっぬう……！」 　確かにそうですけどね！　そう言うカズヤさんはニヤニヤとして、やけに楽しそうだ。もしかして俺、バカにされてるの？ 「だとしても！　いただいたものは心尽くしでお返しする……そんな日本人の奥ゆかしくも美しい心を、君は忘れてはいまいか!?」 「君て。俺、年上な？」 　ふむ、と腕を組んだまま、カズヤさんが俺を見下ろす。 「つまり、どうすりゃいいの」 「ソバ奢ってつかあさい」 　キリッと表情を引き締めて、俺は言った。 「初対面の人間にタカるなよ」 「初対面じゃねえもん！　お互い名前知ってるもん！」 「もんはやめろ、大学二年生」 「ご安心を！　この沢村、中学時代の恩師からはタカリのプロフェッショナルと呼ばれておりましたので！」 「俺はその情報のどこらへんに安心すればいいの？」 「そーば！　そーば！」 　両手をぶんぶんと振り回して心からのそばコールを送る俺の前で、カズヤさんは暫く考えてたみたいだけど、やがてくるりと踵を返した。 「俺も引っ越して来たばっかだから旨い蕎麦屋は知らねえけど、丁度今日の晩飯は信州ソバにしようと思ってたところだから。それでよけりゃ、食わせてやるよ」 　 　 　 　ほかほかと湯気を立てる丼鉢が、目の前にコトリと置かれる。透き通ったつゆに、つやつやした麺が、早く食べてと言わんばかりに俺を誘う。これぞ……これぞソバ！ 「おおお……！」 「どうだ？」 「ソバっすね！」 「ソバだな」 「うまそう！」 「そりゃよかった」 　何が面白いのか、カズヤさんはくっくっと笑っている。相変わらずだな、この人。 「腹減らした犬に餌やってるみてえ。ソバ一杯に、目ぇキラキラさせすぎだろ」 「ちょっと！　さっきから二本足の沢村をつかまえて、イノシシだの犬だの失礼な人っすね！　あとソバ一本を笑う奴はソバ一本に泣くんだからな！」 「そっかー、そんな失礼な奴の作ったソバなんかいらねえよな？　残念だなあ、一生懸命作ったのに」 「いただきます！」 　パンッと勢いよく両手を打ち合わせ、颯爽と丼を手に取る。どかんと乗ってるエビ天に、卵、葱、しめじ。具沢山の豪華版だ。麺も溢れんばかりにたっぷり入ってて、多分一・五人前くらいある。 「運動やってんなら食い切れるだろ」 「余裕っす！」 　葱やきのこと一緒に豪快に麺を啜り、口を付けてつゆを飲む。 「うーん、うまい！　カズヤさん、もしや板前さん!?」 「いや、フツーだろ。だしはインスタントとめんつゆだし、エビ天はさっき惣菜屋で買ったやつ」 　揚げ物は片付けが面倒だから滅多にしない、とカズヤさんは言う。 「え、じゃあわざわざ買って来たんすか、この天ぷら」 「今日の晩飯何にしようかと思ってた所に、丁度お前が来たからな。言っただろ、ソバ好きだって」 　じゃあわざわざ、あの後、晩飯のソバの為にコレを買いに行ったのか。ソバの本場、長野出身の者として、俺のカズヤさんへの好感度はグンとアップした。ソバに対して妥協しないその姿勢、俺は評価したい！ 　ん？　って事は、このエビ天はどっちもカズヤさんのだったのか。カズヤさんの丼に入ってる麺も俺と同じくらいだし、俺も結構大食いな方だけど、この人も相当だ。 「ん、うまいな。香りがいいし、コシがある」 　軽く麺を啜ったカズヤさんが言った。 「おっ、わかりますか！　そうでしょうそうでしょう！　ウチの近所で評判の蕎麦屋のでしてね、こっちじゃこれほどのもんは食えねえっすよ！　ホントは打ちたてを食うのが一番うまいんすけど」 「なんでお前が自慢げなんだよ。いや、でもホントにうめえわ」 　感心したように言いながら、カズヤさんがずるずるとソバを啜る。豪快に音を立てて食すその姿勢に、俺は大いに好感を持った。東京モンはすかしてると思ってたけど、そうでもないっぽい。やっぱソバは音立てて食わねえと食った気しねえよな！ 「へへ、東京でうまいソバ食うの久し振りっす！」 　ニコニコと上機嫌で、ソバをすする。 「足りなきゃ、もっと茹でるけど。残り一玉しかねえけどな」 　一箱四人前だったはずだから、やっぱ三人分茹でてたのか。いいっすね、俺、いっぱい食べる奴と一緒に飯食うの好き！ 「外で腹一杯食うのも久し振りっす！　外食だとどうしても物足りねえんすよね」 　主に、量的な意味で。体を作る為に食え、とにかく食えと指導されて、元から小食でもなかった俺の胃袋は、すっかり拡張されてしまった。野球部以外の大学の友達と飯食いに行ったりすると、バキュームカーとか残飯処理班とか言われる。微妙に失礼。 「またこの近所で、安くてうまい飯屋探さねえとなあ」 　箸を片手に溜息をつく。できるだけ自炊するようにはしてるけど、やっぱりどうしても今日は無理って事があって、そういう時は出来合いとか、外食で済ませるしかない。それ以外にも、スーパーや薬局の特売日、肉野菜魚のそれぞれ安い店、全部一から覚え直しだ。正直めんどい。 「沢村君、大学生だろ？　こんな時期に引っ越しって、なんで？」 「あー、それはですねえ……」 　簡単に、引っ越す事になった経緯を説明する。カズヤさんは、へえ、と相槌を打った。 「そりゃ災難だったな」 「そーなんですよ！　して、カズヤさんは？」 「ん、俺？　俺はまあ……今まで住んでた寮を追い出されて」 「え!?　それは酷いですね!?」 　俺は寮に入った事なんてねえからよくわかんねえけど、もうすぐ年末っていう、こんな中途半端な時期に追い出すなんて酷くねえ？　寮ってそんな簡単に追い出されるもんなの？ 　いや、もしかしたら、こんなモサい見た目ながらも、実はカズヤさんはすげえ問題児ってやつだったのかもしれない。笑いすぎで寮の雰囲気を悪くしたとか。 　……いやいや、カズヤさんはお隣の俺にこんなうまいソバを振る舞ってくれるような人だぞ。根はいい奴なんだ。笑いすぎくらいでどうだというのか！ 「俺はカズヤさんの味方っすからね！」 「？　ありがとな？」 　両手の拳を握って力説する俺に、カズヤさんが首を傾げる。 「そういえばカズヤさんって、大学生？　社会人？」 「……一応、社会人」 「おお！　凄えっすね！」 「別にすごかねーよ。自分にできる事を選んだらそうなっただけで……。大学も、行っといてもよかったかなって思うよ。今更だけどな」 　そう言って、口元だけで笑う。だけど、親の脛を囓って東京で生活させて貰ってる俺としては、やっぱり、自分の金で生活するってのに憧れる。幾つ離れてるのかは知らねえけど、カズヤさんがすげえ大人に見えた。 「俺も、今の大学に声かけてもらわなきゃ、普通に地元で就職してたかも」 　ソバを啜りながら呟く。 　元々、俺だって大学に行く気はなかったんだよな。成績悪いし、勉強好きじゃねえし。それが、なんで東京くんだりまで来て大学に通ってるのか、未だに自分でも不思議だ。 「推薦受けたのか？」 「一応、そういう事になるんすかね？　地方大会見に来てた、すかうと？の人が、面白い球投げるからうちに来ないかって誘ってくれて」 「へえ……。お前、ピッチャーって言ってたよな。どんな球投げんの」 　カズヤさんは興味が湧いたという顔で、テーブルに頬杖をついて俺を眺めてくる。ていうか、初対面の時に一回言ったきりなのに、よく覚えてたな。俺が投手だって。 「ナチュラルムービングとかいうやつらしいです」 「へえ。そりゃ確かにレアだ」 「らしいっすね！　俺はよくわかんねえけど」 　遊びでやってた野球を、本格的に始めたのは中学の頃だ。俺らの代で中学が廃校になると知って、その前にどうにか、その名前を全国に轟かせたいと思った。 　廃校になるくらいだから、生徒は元々すげえ少なくて、部活なんてあってないようなもんだった。その中からどうにか人数集めて、休止状態だった野球部を復活させて、先生に頼み込んで無理矢理顧問になって貰って。そんなだから監督もコーチもいるわけねえし、好き放題に投げてた。 　地元の高校に上がってからも、基本ストレート一本しか投げられない俺は、なかなか起用して貰えなかったけど、ノッてくると、たまに不思議なくらいアウト取れる時もあって、監督も俺も首を傾げてた。どうも、俺のストレートは普通のストレートとは違うらしいと気付いたのは、高一も終わりに差し掛かった頃だ。その正体については、俺を持て余した監督が、知り合いのクラブチームの人に相談した事で、やっと明らかになった。 　一軍の試合に出る事はなかったけど、一時はプロの世界にも身を置いた事もあったというその捕手の人は、俺のボールを暫く受けてから、首を捻りつつこう言った。「こりゃ凄い癖球だな」と。 　確かに、俺のボールは昔から、仲間にも取りにくいと言われてた。自分ではごく普通に投げてるつもりだったから、何が悪いのかずっとわからないままだったけど、どうも俺は知らない間に、無意識にムービングボールとかいうやつを投げていたらしい。やはり俺は野球の神に愛されているのか！と有頂天になったけど、ちゃんと投げ方の指導を受けずに自己流で投げてた選手がたまに投げるようになるもんなのだと言われて、ちょっとガッカリした。あんまりかっこよくない。他にも、俺の体の柔らかさがどうとか言われたけど、よく覚えてねえ。矯正する事はできるが天然のムービングボールを投げられる投手は貴重だから、個性を伸ばす方向で育てた方が良いと捕手さんにアドバイスされて、監督は唸ってた。 「へえ。お前のムービングがそんなに凄えなら、一度受けてみたいもんだ」 　高校の頃の事を思い出してた俺の耳に、カズヤさんの言葉が飛び込んで来た。は？と顔を上げた俺の前で、カズヤさんは、しまったって顔をしている。 「もしかして、カズヤさんも野球をおやりになる方で!?」 　見るだけでなく!?と前のめりになる。 「あー、まあな」 「ポジションは！」 「捕手」 「おおお！」 　うそ！　なんだそれ！ 　たまたまお隣になった人が野球やってて、しかもキャッチャーとかマジ？　やはり俺には何かツイているに違いない！ 「では草野球とか、社会人チームあたりで!?」 「まあ、そんなとこ」 「うおお！　これはまさに運命！」 「そお？」 「俺がピッチャーで、あんたがキャッチャーっすよ！　これを運命と言わずに何と言う!?　俺の球取ってください、明日！　いや今すぐ！」 　身を乗り出して喜ぶ俺の顔面を掌で覆い、カズヤさんが「近い」と押し戻す。 「へぶっ」 「お前さては、大学でもそうやって受けろ受けろって捕手に纏わり付いてんだろ」 「な！　なぜバレタ！　もしやエスパー!?」 　猫目になる俺の前で、カズヤさんは更に呆れた顔で溜息をつく。 「お前のチームでも、ちゃんと投球制限してんだろ。俺が勝手に投げさせるわけにはいかねえよ」 「うう……！　隣にキャッチャーいるなら投げ放題だと思ったのに～！」 　箸を掴んだまま、がっくりと机に突っ伏す俺の前で、カズヤさんはまたくつくつと笑っている。ほんっと笑い上戸っすね！ 「今は体を作る時期だろ。オフの間にがっつりフィジカル強化しとけば、次のシーズンから全然違うからな。まあ、ガンバレ」 「ぐぬぬう……！」 　監督やコーチから言われたのとそっくり同じこと言われた。 「大学野球のオフシーズンて、高校ともプロともちょっと違うよな」 「そうなの？」 「そうなの、じゃねーよ！　現役だろお前」 「いや～、俺は野球をやるのが好きなだけなんで、細かい事はよく知らねえんすよね！」 　頭に手を当てて、だーっはっは！と笑うと、「堂々と言う事じゃねえよ……」とまたカズヤさんが呆れた顔をする。 「……んじゃあ、もしかして試合とかも、あんまり見ない？」 「ん～、前はそうだったんっすけど、俺がモノを知らねえのはそのせいだってみんなに責められたんで、こっち来てからは大分見るようになりましたよ！」 「ふうん。じゃあ贔屓のチームとかは？」 「長野には地元球団いねえし、特にないっす！　でも今は、レックスの試合とか、結構見てます」 「まあ、あそこテレビ中継多いからな」 　ソバを啜りながらカズヤさんが言った通り、ここ東京を地元とする東京ダイヤモンドレックスは、十二球団の中でもファンが多く、中継される試合も多い。必然的にテレビを付けた時に目にする機会も多くなるけど、しかし俺が、特にファンというわけでもないのについつい試合を見てしまう理由は他にある。 「それもだけど、あそこには御幸がいるじゃないっすか！」 「ごっふ！」 　なぜかカズヤさんが突然咳き込んだ。大丈夫？　気管に入った？　うっかりするとソバは鼻から出て来るから危険っすよ？ 「……なんだって？」 「だから御幸っすよ！　捕手の御幸選手！」 　俺がプロ野球の世界で一番、というより唯一、特別に注目してる選手だ。高卒でプロ入りして、来年で四年目。つまり俺より一つ上の世代って事になる。なのにもうプロの世界で活躍してるなんて、すげえよな。 　カズヤさんは箸を置いて、ゆっくりと顔を上げた。 「……ファンなの？　御幸の」 「んー、そういうわけじゃないんすけど」 　そう、ファンというわけではない。でも、ちょっぴり応援はしている。勿論、理由がある。 「御幸は俺にとって、ちょこっとだけ特別なんすよね」 「へえ……。理由、聞いてもいい？」 　カズヤさんが、よく見えない前髪の下から俺を見つめてる。……気がした。おお、意外に食い付いてきますね。 「ええっと、俺、大学から声かけてもらってコッチに進学したんすけど」 「うん、そう言ってたな」 「実は東京の学校から誘われたの、今の大学が初めてじゃないんですよね」 　思い返せばもう、四……えーと、五年前？　俺の中学最後の試合が終わってすぐの事だった。それだけは覚えてる。 「セイドーとかいう野球強い学校から、是非うちに来いって誘われまして！　いや～、東京のえらい人から目を付けられるなんて、さすが俺！　隠していてもわかってしまう、この才能！　参ってしまいますな！」 「………………」 　胸を張った俺を、カズヤさんはじっと見つめている。 「なんかこう……谷間がボイーンとした感じの、すかうとの人から、是非にと！」 　あの乳は、今思い出してもスゴかった。思い出しただけで鼻血出そう。 「……高島礼」 「あ、そうそう！　なんかそんな感じの名前だった！　えっ、なんで知ってんの？」 「有名だからな。青道の、敏腕スカウトウーマン」 　カズヤさんがまた、しまったなって顔をする。へー、あのボイン姉ちゃん、そんな有名なのか。そしてそんな有名な敏腕すかうとうーまんに目を付けられた俺。なるほど、わかる人にはわかるという事か！ 「で？　青道に来なかったって事は、お前はその誘いに乗らなかったって事だよな」 「かなり熱心に、練習だけでも見に来いって言われたんすけどね。申し訳ないが、キッパリお断りしました！　地元の仲間を見捨てて東京に行くなんて、考えられなかったんで」 「ふうん。俺には、わかんねえな」 「は？」 　カズヤさんの声が少しだけ低くなる。前髪の下からチラ見えしてる眼鏡も、キラリと光る。 「俺だったら、迷わず誘いに乗ってたぜ。誰かの為に自分のやりたい事を諦めるなんて、馬鹿だろ」 「それは違う！」 　テーブルに手をついてガタリと立ち上がった俺に、カズヤさんが驚いたような目を向けてくる。 　そりゃ。……そりゃ、東京の名門校とやらに声かけられて、少しも心が浮き立たなかったかって言ったら、嘘になる。でも。俺は皆の為に、地元に残ったわけじゃない。俺自身がそうしたかったから、そうしたんだ。 　入学してすぐに、学校が廃校になると知らされたこと。最後の卒業生になる俺らに、何かできないかって一生懸命考えたこと。野球なら今いる人数でもやれる、皆で大会に出られる、そう思いついて、片っ端から生徒を説得してまわったこと。野球どころかスポーツ自体をやりたがらない奴だっていたのに、チームに加わってくれたこと。全部、俺が始めたことなんだ。 　一生懸命、たどたどしくそう語る俺の言葉を、カズヤさんは黙って聞いていた。 「俺が始めた事を放り出して一抜けするなんて、そんなん、勝手じゃないっすか」 　中学では叶わなかったけど、仲間がいる限り、高校でも、夢の続きを見る事はできる。あのボイン姉ちゃんに付いてく事は、あの時の俺にとって、みんなへの裏切りも同然だった。誰よりも俺自身が、そんな俺を許せなかった。 　顔が半分隠れてるせいで、カズヤさんがどんな顔をしたのかはわからなかったけど、相手が小さく溜息をついたのはわかった。 「……まあ、それはお前が決める事だからな」 　他人がどうこう言う事じゃねえよな、と、カズヤさんは横を向いて言った。一瞬感じた迫力は消えている。 「で？　高校では、その夢とやらは叶ったわけ？」 「うっ……。惜しくも……惜しくも全国には届きませんでしたがね!?」 「惜しくもってどれくらい。県予選決勝ぐらいは行ったんだろうな」 「……ベスト８っす」 「へー。惜しいね」 「ばばば馬鹿にすんな！　これでも学校始まって以来の快挙って言われたんだからな!!」 　俺が入った高校は、学業の方はそこそこだけど（みんなの協力でどうにか滑り込んだ）野球は別に強豪校ってわけじゃない。それまでは一回戦負けか、良くても二回戦敗退が当たり前だったから、県ベスト８まで残った時は結構学校中で話題にされたのだ。まあそれでも、みんなを甲子園に連れてくって夢は果たせなかったけど、それはもういいんだ。高校三年間、みんなと汗を流して、やるだけの事はやりきった。それでこの結果なら悔いはないって思えた。だから、今の大学から誘われた時、東京で自分の力を試してみようって、今度は素直に思えたんだよな。 　……中三の俺にはわからなかった事も、今ならわかる。一緒に戦うとか、心が繋がってるって、ただ単に物理的に傍にいる事だけじゃない。高校ではギリギリの人数じゃなくなった分、最後までスタメンになれなかった奴もいたし、家庭の事情で部活をやめざるをえなかった奴もいた。そもそも女子の若菜は最初から試合に出られなかった。……でも、だからって、そいつらが仲間じゃないなんて思わない。俺とみんながそう思ってさえいれば、赤城中の魂は消えやしねえんだ。 「知ってます？　御幸って、そのセイドーにいたらしいっすよ！」 「……みたいね」 「つまりですねえ！　もしも俺があのままボイン姉ちゃんの誘いに乗ってセイドーに入っていたら、御幸とバッテリーを組んでいたということ！」 「その前に正捕手と組むなら、お前もレギュラーになってなきゃ駄目なんだけど？」 「そこのところは心配ご無用！　この沢村栄純、エースの星の元に生まれた男ですから！」 「なんだよ、エースの星って。はじめて聞いたよ」 　おしおしおーしと叫ぶ俺の前で、うるさいと言わんばかりにカズヤさんが耳を塞ぐ。残念ながら、その程度の反応には慣れっこな俺は動じない。 「とにかく、俺と御幸は深い仲になっていたかもしれない！　メール交換したり一緒に飲んだり、お悩み相談する仲にまでなっていたかもしれん！」 「…………」 「だからですね！　試合に出てる御幸を見る度に思うんすよね。おっ、俺の相棒頑張ってるー！って」 　ぷす、とカズヤさんがまた吹き出した。でも今度は、さっきまでの、おかしくてたまらないって感じとは違う。なんつうか、小さい頃かわいがってくれてた近所の兄ちゃんに頭撫でられた時みたいな感じ。しかしなぜだ、逆に恥ずかしい。 「いいいいいじゃないっすか！　どうせ向こうは俺の事なんか知らないんだし、一人くらいこんな風に応援してる奴がいても！」 　思わず猫目で抗議する。 　そう、高校の頃にバッテリーを組んでいたかもしれない御幸選手は、今はバリバリ活躍中のプロ選手だ。俺が試合を見始めた頃にはぼちぼち試合に登場するようになり、プロ三年目になる今年は調子もいいらしくて、こないだもモウダショウとかいうやつを取ってた。過去はどうあれ、俺とはすっかり住む世界の違う人なのだ。そんな人と一度でもニアミスする機会があったなんて、ホント人生ってわかんねえよな。 「そうだな。応援されて嫌って奴はいねえし、きっと知ったら、御幸だって喜ぶだろうよ」 「やはり！　一流には一流がわかるという事でしょうかね！」 　さすが相棒！と叫ぶと、カズヤさんはまたけらけらと笑った。もう突っ込まねーからな！ 「沢村君はさあ、後悔したりしねえの？」 　ソバを食い終わったカズヤさんが箸を置き、テーブルに肘をついて言った。 「何をっすか？」 「青道行かなかったこと。あの人にそこまで請われたって事は、お前結構才能のある投手だったんじゃねえの」 「結構じゃなくて、すごく！　ものすごく！」 「はいはい。すごい投手だったんだろ。誘いに乗ってたら、お前だって今頃、御幸と同じようにプロ入りしてたかもしれないぜ」 「んー、俺、野球は好きだけど、プロに行きたいとか、あんまそういうこと考えたことないんすよねえ。まあ、御幸とは一回バッテリー組んでみたかったなとは思いますけど！　でも、そんなん、考えたって仕方なくねえっすか」 　悔やむ事があったとしても、過去に戻れるわけじゃねえし、だったら考えたって無駄ってことだ。そんな事より今の俺には、まだやりたい事がいっぱいあるからな！　たとえば今の大学でエースになる事とか！ 「はっはっは、男前だね沢村君。俺のツボ♡」 　ンッ？　これ、褒められたのかな？　まあいっか！ 「あざっす！」 　元気よく返事をすると、笑い上戸カズヤさんは、また笑い出した。うーん、この人、いつか笑い死にしちゃうんじゃないかな。心配だ。 　 　 　 　 　　　　　　　　２ 　 　 　引っ越しの翌日だろうが、世界的なお祭りの直前だろうが、そんな事は関係なく、野球部の練習は年中無休である。実際には一応、週一で休養日は設けられているのだが、俺達レギュラー陣には無縁。休養？　何それおいしいの？　自主練もう一皿お願いしまーす！　って感じ。 「栄純君、部屋は片付いた？」 　隣のロッカーで、俺と同じく準備をしながら声をかけてきたのは、同学年の春っちだ。大学の野球部に入って最初に仲良くなった相手。柔和そうな外見に反して闘争心に溢れた、牙を隠しし獣とは奴の事。俺と同学年にして不動のセカンドで、クリーンナップの三番を任される実力者。時々びっくりするくらい辛口だけど、野球部では一番仲がいい。 「おう春っち！　引っ越し手伝ってくれてありがとな！」 　元々荷物も大して多くないから、引っ越しは、手の空いてる大学の友達に手伝って貰った。全員に飯奢る事になったけど、業者に頼むより安上がりだ。春っちもこう見えて、強豪野球部のレギュラーなので、見た目以上に力はある。今は俺も追い付いたけど、大学入ったばっかの頃なんか、俺よりも飯食ってたもんな。春っち曰く、通ってた高校の野球部では、毎食白米を丼飯三杯平らげないと許されなかったらしい。 　そう、春っちはあの青道高校の出身で、実はあの御幸の後輩なのだ。俺は別に御幸のファンではないので、わざわざその頃の話を聞いたりはしないけど。俺は別に御幸のファンではないので！ 　……ただ、以前にちらっと聞き囓ったところによれば、ポジションも違うし、単に主将と後輩の一人ってだけの付き合いしかなかったらしい。「お互いレギュラーだったから、他の人に比べたら声かけられた回数は多いと思うけど、特に親しくしてたってわけじゃないよ」なーんて言ってた。お互いレギュラーならちょっとぐらい親しくすればいいのに、御幸ってもしかして人見知りなの？ 「あの後、すぐに片付け終わった？」 　それぞれ予定があるだろうと、荷物を運び終わったところでみんなとはお別れしたから、その後の事を言ってんだろうけど、春っち、なんかお母さんみたいだな！　そんな事を言ったら、滅茶苦茶冷たい目で見られそうな予感がするから言わねえけど。 「おう、バッチリ！　もう引っ越しも二回目だからな、慣れたもんだぜ。わはは！」 　もうプロですよ、なんでも聞いてくれーと胸を張る。 　大学からは遠くなったし家賃も上がったけど、前の、風が吹いたら潰れそうな物件よりもずっと快適だ。何より、風呂トイレが共同じゃないのがスバラシイ！ 「大家さんもいい人っぽいし、良いとこ引っ越した！」 「へえ、よかったね」 「おう、お隣さんがまた、いい人でさあ」 　俺は嬉々として、お隣さんにうまいソバをごちそうになった事を話した。反して春っちは、話が進むほどに微妙な表情へと変わっていく。ん、どうした春っち？ 「栄純君は、自分が結構図々しいってこと、そろそろ自覚した方がいいよ」 「えっ、俺図々しい!?」 　ガーン、とショックを受けると、春っちは「かなり」とはっきり頷いた。ガガーン！ 「初対面の人の家に上がり込んで夕飯ごちそうになるなんて、普通ないから」 「そそそ、そうなのか!?」 「そうだよ」 　嘘だろ。今の今まで、全く疑問を覚えてなかった！ 　だって長野じゃ、畑仕事から帰って来た爺ちゃん婆ちゃんに、採れたて野菜を食わせて貰うなんてこと当たり前だったし！　井戸水で洗ったやつがチョーうまいんだよな！ 　時には、丁度お昼できたとこだから食べて行きな、なんて言われてご相伴に預かる事もよくあった。ご近所はみんな知り合いだから問題なかった。母ちゃんに電話一本入れとけば済んだ。なのにそれが……図々しい、だと……!?　知らなかったー!! 「しかもその人、暇を持て余したお爺ちゃんお婆ちゃんじゃなくて、社会人なんでしょ。学生の僕らと違って、いろいろ予定だってあるんじゃないの」 「うっ」 「まあ、僕は実際その人に会ったわけじゃないから、相手がどう思ってるのかはわからないけどね」 　頭を抱えてへなへなとしゃがみ込んだ俺を見かねてか、春っちが一応、フォローっぽい事を言う。だがもう遅いぜ春っち、俺のハートは粉々だ。 「僕たちはもう慣れちゃったし、それが栄純君だってわかってるからいいけど、世の中にはそういうのを迷惑に感じる人だっているから、気を付けてね」 「ううう……っ」 　迷惑、とはっきり言われて、ますますしおしおと萎む。俺は塩をかけられた菜っ葉だ。 　……実を言えば、思い当たる事がないではない。俺自身は全然変だと思ってないのに、こっちの友達にびっくりした顔をされる事はこれまで何度もあった。沢村ってほんとに空気読めないよねとか、距離が近いとか、東京に出てきてから何度も言われた。その度に、長野と東京ではいろいろと違うのだな、と思いはしたものの、俺は馬鹿なのですぐ忘れてしまう。それを言う奴らは大体みんな笑ってたから、特に気にした事はなかった。……けど、ひょっとして、俺はそんなみんなの優しさに甘えていたのだろうか!? 　カズヤさんも本当は口に出さないだけで、そのように思っていたのかもしれない。何しろ、はっきり表情が変わってるってわかるのは身を震わせて笑ってる時くらいで、それ以外の時は、あの前髪のせいで何を考えているのかよくわからない。しかしオトナの対応で何も言わなかっただけで、春っちの言う通り、実は図々しい奴と思われていたのかもしれない。 　ううん……イカン、それはまずい！　今の家にどれくらい住む事になるのかはわからないけど、俺はご近所さんとは円満な関係を築いていきたいのだ。 「春っち……。俺は猛省した！」 「そうなの？」 　きょとんとした春っちに向かい、腕組みをして、こっくりと頷く。 「これからは奥ゆかしく、控えめな大和男児になる！　相手の後ろを三歩下がって歩くような沢村栄純に……！」 「それは大和男児じゃなくて大和撫子だね」 　春っちの軽快なツッコミも耳に入らないまま、俺は決意を込めておしおしおーしと叫ぶ。そしてすかさず、栄純君うるさい、とチョップを食らった。相変わらず俺には厳しい親友だ。 「あ、そうだ栄純君、明日の事なんだけど」 「ん？」 　 　 　 　家賃は多少上がったといえど、基本的には安アパートであるこの建物に、エレベーターなんて高級な物はない。あったとしても、これくらいの階段くらいなら使う気はないけども！　エース目指して、日々これ精進！ 　小走りに階段を上る途中で、丁度前を歩く人影を見つけた。 「カズヤさん？」 「ん？」 　ひょいと振り返った相手は、やっぱりお隣さんだった。相変わらずのもっさり眼鏡に、黒のトレーニングウェアを身に着けている。 「トレーニング帰りっすか！」 「うん、そう。沢村君は、部活帰り？」 「ウッス！」 　俺も俺で、カズヤさんと大差ないジャージ姿だ。 「今の間に体作っとくと、次のシーズンから全然違う……んスよね！」 　にっと笑ってそう言うと、「よく覚えてんじゃん」と言ってカズヤさんも笑う。その表情だけで、あ、この人ホントに野球好きなんだなあって、なんとなくわかって、ちょっと嬉しくなった。 　そこで、さっき春っちに言われたばかりの事を思い出して、ハッとする。 「どしたの？」 「いや、その！」 　俺図々しかったですかね!?　とか訊いても良いものだろうか。いやでも、ハッキリ「図々しかった」とか言われたら、なんかショックなような……。 「こんな遅くまで練習やってるなんて、さすが強豪野球部。お前も、引っ越した翌日から大変だな」 「いやっ！　それは俺の事情でチームには関係ないんで！　それに明日は練習早めに切り上げて、みんなでパーティーやるんすよ」 　いっぱい飯が食えるんで楽しみっす！と拳を握ると、カズヤさんはきょとんとした（たぶん）。 「明日なんかあんの？　お祝い？」 「は？」 　思わず、すげえ素な声が出た。 「クリスマスですけど？」 「えっ？」 「はい？」 　正確には、クリスマスイブだけど。 「ああ、そう言やそうか」 「忘れてたの!?」 　至るところでクリスマスイルミネーションが煌めいてるのに!?　ちょっと注意力散漫すぎやしませんかね!? 「いや、そろそろそんな時期かとは思ってたけど、明日だって事は忘れてたわ」 　カズヤさんが、決まり悪そうに頭を掻く。忘れてた……って事は、なんも予定がないのか。ちょっと意外だ。 　確かに顔は殆ど見えないけど、姿勢はいいし、体つきも結構しっかりしてて、彼女いなさそうな感じにも見えないのにな。 「ご家族と過ごすとか！」 「実家には年末帰るし、この年になって親と二人でクリスマスってのも、ねーだろ」 　うん？　二人？ 　きょとんと顔を上げた俺の頭に、分厚くてでっかい手が乗せられる。そういえばこの人、キャッチャーだったっけ。ちらっと見えた手は、すぐわかるくらい肉刺だらけだった。きっとこうなるまで、いっぱい練習してきたんだろうなあ。結構、真面目な人なのかもしれない。 「羽目外しすぎるなよ。スポーツの世界は不祥事には厳しいからな」 「……ウッス！」 　口元だけで軽く笑って、カズヤさんは自分の部屋に入っていく。一緒に歩いてる間に、いつのまにか部屋の前に着いてたらしい。 　その後ろ姿を見送ってから自分の鍵を取り出し、なんとなく釈然としない気持ちのまま、家へと入った。 　 　 　 　 　うちの野球部は強豪だけあって練習も厳しい。少なくとも、俺が高校の頃にやってたようなぬるい練習なんて比べモンにならない。だけど監督は、練習を離れれば気のいいおっちゃんって感じで、割と融通の利くタイプだ。よって部員にも結構慕われている。春っちなんかは、高校の時の監督が滅茶苦茶怖かったから、入部して暫くは慣れなかったって言ってたな。 　お隣さんの言った通り、ここんとこずっと、もはやイジメかってレベルの厳しいフィジカルトレーニングが続いてて、部活が終われば家まで帰り着くのもやっとって感じだったけど、今日は久々に練習が早く終わると前から告知されていた。 　建前上は休養のためって事になってるけど、そんでそれも嘘じゃないんだろうけど、多分、恋人がいる連中への配慮ってやつなんだろう。そして恋人いない組であるところの俺達は、野郎ばっかで集まって、クリスマスパーティーを兼ねた飲み会をやる事になっていた。 　うちの野球部が伝統的に懇意にしてる居酒屋の二階を借り切って、安くてボリュームたっぷりの料理を頬張る。 　フライドチキンにフライドポテトみたいな典型的パーティー料理があるかと思えば、同じテーブルにはちらし寿司や春巻なんかもあったりして、和洋中折衷のカオスだ。だけど腹に溜まればなんでも嬉しい俺達には些細な問題に過ぎない。早くもケーキに手をつけてる奴もいる。 　顔に似合わない（と言うと怒られる）大食い春っちも、さっきからモリモリ食ってるし、その隣で俺も負けじと食い散らかしていた。野球部の食いっぷりを知ってる店からは、さっきからどんどん追加の料理が運ばれてくる。 「春っち！　春っち！　コレ！　スゴクオイシイ！」 「なんでカタコトなの？　おいしいけど」 　俺がお薦めした牛肉とアスパラの炒め物を頬張って、頬を緩める春っちに、俺もにっこりと笑う。仲いい友達と、おいしいものを分け合うのって、最高だよな。 　さて次は何を食おうかと箸を彷徨わせた直後、いきなり背後から衝撃が襲って来た。 「うごふ！」 「おう二年ボーズども、ちゃんと食ってっかあ？」 「ちょ、つぶ、潰れる、潰れてるから！」 「倉持先輩」 　頭からプレスされてる俺なんて全く目に入ってないみたいな顔で、春っちが背後に向かって会釈する。ちょっと春市さん!?　俺達友達ですよね!?　アナタの親友が今まさに、ぺらっぺらにされかけておりますが!? 　俺をボディプレスの刑に処してるのは、一学年上の倉持先輩。俊足が自慢のスイッチヒッターで遊撃手。春っちとのコンビは鉄壁の二遊間と呼ばれ、他の大学から恐れられている。なんでも春っちとは高校時代からの付き合いらしく、春っちがうちの大学を選んだ理由の一つはこの人なんじゃないかと俺は密かに思っている。そのくらい、この二人が守る二遊間には、絶対的な安心感があった。パートナーというか、相棒というか、独特の絆、みたいなのが感じられて、時々ちょっと羨ましくもある。 　春っちと出身校が同じってことは、つまりこの人も御幸のチームメイトだったって事になるけど、俺は御幸のファンではないので別に以下略。 「まだ残ってんじゃねえか、食え、どんどん食え。特に沢村、下半身に肉足んねーって言われてんだろが！」 　オラオラ、と肘で頬をぐりぐりされる。後輩虐待じゃないっすかね!?　春っち、無視して芋食うのやめて！ 「倉持センパイこそ！　たくさん食べないと大きくなれませんよ！」 「てめえ沢村ァ……！　よっぽど教育されてえみてえだな！」 「ギブ！　ギブ！　ノオオオオ！」 　額に青筋を浮かべた倉持先輩が、ぎりぎりとグランド卍で締め上げてくる。春っちの「余計なこと言うから。馬鹿だなあ」みたいな視線が痛い。 　いいじゃないっすか！　倉持という男の価値は、センチメートルなどという矮小な数字などでは量れないと、いつも申し上げているでしょうに！ 　実際俺は、柄は悪いが面倒見の良いこの先輩の事が、かなり好きだ。田舎では割とガキ大将みたいな立ち位置だった事もあって、兄貴分みたいに引っ張ってって貰えると新鮮で、なんか嬉しくなる。野球もうまいし足オバケだし、身長の事なんて些細なほどいい男なのだ。今日ここにいるという事は、つまりそういう事なのだが、先輩のよさがわからない世の女性達は実に見る目がないと言わざるを得ない。前にそう言ったら、三発ぐらい殴られたけど。 　春っちと倉持先輩と並んで飯を食いながら、大部屋を見回す。連結したでっかいテーブルの上に、料理が山と盛られた大皿。こういう雰囲気、俺知ってる。 「なんか懐かしいや」 　後ろの壁に凭れ掛かって、ぽつりと呟いた俺に、春っちがきょとんと目を向けてくる。 「栄純君？」 「うち田舎だったからさ、こういう賑やかな集まり、よくあったんだよな」 　それこそ親戚の集まりから近所の寄り合い、じいちゃんや父ちゃんの仕事仲間の飲み会なんかで大人達はしょっちゅう集まってたし、うちで開かれる時には俺も相伴に預かった。それは子供の世界でも同じで、仲間内の誰かが誕生日を迎える度に、どっかの家に集まって、たらふく食って騒いだもんだ。今思えば料理だって、別に豪勢ってわけじゃなかったけど、みんながいてみんなで騒ぐ、あの空間にいるのがただ楽しくて、俺はいつも率先して大騒ぎしてた。近所のおっちゃん達には、栄ちゃん一人いるだけでお祭りみてえだな、なんて笑われたもんでしたっけね！　長野のお祭り隊長とは俺のこと！ 　……右も左もわからない東京に出てきて、それでも俺がちっとも寂しいなんて思わずに済んでるのは、こっちで見つけた仲間や友達のおかげだ。厳しくも優しい春っちとか、技のキレは鋭いけど頼り甲斐のある兄貴みたいな倉持先輩とか、気のいいおっちゃんみたいな監督とか、他にもいっぱい。きっと俺は恵まれてる。 　けど、楽しければ楽しいほど、喉元に小骨が引っ掛かったみたいに、胸の辺りがちくちくすんのはなんでだろう。 　昨日、帰り際にあの人と会ってからだ。 　――明日だって事は忘れてたわ。 　――親と二人でクリスマスってのも、ねーだろ。 　どうってことないって顔で、どうってことないって風に、そんな事を言ったあの人は、多分今も、どうってことないって感じで過ごしてるんだろうなあ、とぼんやり思う。隙間風の冷たい、あの安アパートで、一人きりで。そう思うと、なんでかわからないけど、俺の胸のちくちくは大きくなるようだった。 「……あのさ、春っち」 　 　 　 　宴も酣、謎の盛り上がりを見せる居酒屋を出て、自宅のある駅へと向かった。アパートに戻る途中で、さすがになんかないとまずいよなと、コンビニに立ち寄る。惣菜屋もスーパーも、もう閉まってる時間だった。 　ショートケーキが二個入ったパックを一つと、レジ横にある保温庫からチキンを二つ買って、再び歩き始める。これで準備万端！　なのはいいけど、どう切り出すべきか。 「メリークリスマス！　これ、こないだの引っ越しソバのお礼っす！　偶然にも二個ずつあるんで、よかったら一緒に食いませんか！」 　しかしあのソバは元々俺がカズヤさんにあげて、そしてカズヤさんにもお返しして貰った物だ。いわばフィフティ。お返しのお返しって変じゃねえ？ 「たまたま余った料理をいただきまして、俺一人では食い切れないので一緒に食いませんか！」 　ううーん、白々しい。さっき食ってきたところとは言え、正直この程度は余裕だ。寧ろ足りないくらいだ。社会人チームで野球を営まれるカズヤさんにも、それくらいの事はバレるだろう。大体、食い切れなくても明日まで取っとけばいいって話だし。 「やっぱり、ここは素直にお誘いするべきか？」 　俺と一緒にクリスマスを過ごしませんか！と。 　いやでも、なんで？って言われたら、答えられねーし。……そもそも俺自身にもなんでなのかわかんねーし。ただ、俺がみんなと楽しくわいわい過ごしてる時に、隣の人が隣の部屋で一人ぽつんとしてるのが嫌ってだけで。 「誰を？」 「誰をってそりゃあ……うおお!?」 　気付いたら目の前のドアが開いてて、もっさりした眼鏡の人が立ってた。驚きのあまり後ろに飛びすさった俺の背中に、廊下の柵が触れる。 「あの！　これ！　余ったメリークリスマスなのですが！　引っ越しのお返しに余ったソバを俺と一緒にいただきませんか！」 　んっ？　何か変だったな？　というか、混ざったな？ 　ぽかんと俺を見たカズヤさんは、突き出したコンビニ袋の中を覗き込んだ。そして「ソバじゃねえじゃん」と言った。 「えっ？　はっ？　チキンよりソバがよかった？　そこまでお好きであらせられた!?」 「いや、お前が言ったんじゃん、ソバって」 「えっ？」 「えっ？」 　暫し無言で見つめ合った後、カズヤさんは扉を大きく開けて、隅に寄った。 「とりあえず、入る？」 「は！　お邪魔しやす！」 　片手を上げて、意気揚々と部屋に上がり込む。上がったところで気付いた。 「あああ、しまったあああ!!」 「え、なに」 　突然頭を抱えた俺に、カズヤさんがぎょっとする。 「い、いや！　なんでも！　お気になさらず！」 　ここへ来て俺は思い出したのだった。栄純君は図々しい、と言われた事を。ぐうっ、思い出しただけでも胸に刺さる。俺の親友容赦ない。 　初対面の人の家に上がり込んでご飯を食べるなんて、普通やらない、だっけ？ 　……うーん、でもカズヤさん、もう初対面じゃねえしな？　まーいっか！　男は細かい事を気にしない！ 「で、どうしたの。今日パーティーだって言ってなかった」 　ドアを閉めたカズヤさんが、こっちを振り返る。 「行って来ましたよ、パーティー、楽しかったっす！」 「あっそう」 　カズヤさんが、で？みたいな顔をした。 「カズヤさんはどうでしたか、楽しい一日を過ごせましたかな！　いやいや、何の変哲もない、ごく普通の平日でしたがね、今日は！」 　顔の前で手を振る俺を見て、カズヤさんが口の端を引き上げ、面白がってるみたいな顔になった。 「俺？　俺は別に、普通かな。何の変哲もない、ごくごく普通の日だしなあ」 「なるほど！　それでは特に理由もないですが、今晩このわたくしと一緒に過ごしてみたりはしませんか！」 「沢村君とかあ……。なんで？」 「なんとなく？」 　嘘じゃない。なんとなく、俺はカズヤさんと飯が食いたいと思ったのだ。だからパーティーを途中で抜けて、帰って来てしまったのだ。俺にも理由のわからない事に、説明を求められても困る。 　ぶは、ととうとうカズヤさんが吹き出した。もう俺は動じない！　貴様という人間を知っているからな！ 「沢村君ほんと面白いな。ペットとして飼いたい感じ」 「今の問題発言は聞かなかった事に致しやすね！」 「帰って来て沢村君が部屋にいたら癒されそう」 「気遣いを無にしないでいただきたい！」 「しかし、二人でこれだけってさすがに少ないよな。ピザでも頼むか」 「ピザ!?」 　それはもしや、電話してから三〇分で届くという、あの、伝説の……!? 「あり合わせのもんで適当に済ませる気だったけど、その方が、らしいだろ」 　何しろ今日は、特になんでもない普通の日だもんな、と笑ったカズヤさんが、電話を手に取る。 　ピザが来るまでの三〇分、ソワソワしてウロウロする俺を、カズヤさんは実に楽しそうに眺めていた。 　お金を払う時、聞こえた金額に冷や汗を垂らしつつ半分払うと申し出たけど、俺が食いたかったからとカズヤさんは受け取らなかった。さすが社会人。自分の働いた金で食ってる人は違う！　オトナだ！ 　頼んで貰った特大サイズのピザはうまかった。これが都会の味かー！って感じだった。カズヤさんは、別に冷凍のとそんな変わんねえだろ、とか言ってたけど、あれだ！　さ……サブリミナル効果？　とかいうやつ。 　一枚のピザで四つの味が楽しめるとか、凄くねえ？　めっちゃお得！ 「カズヤさんは、オトナなのにコイビトさんとかいらっしゃらないんですねえ……」 　みょん、と口元から伸びたチーズを噛みちぎりながら呟いた俺を、カズヤさんが指さす。なりませんよ、行儀の悪い。 「お前な、大人になったら自動的に恋人ができるもんだなんて思うなよ。それ、甘えだから」 「いやいや、そうでなく！　優しいし、カッコイイ大人の男って意味で！」 　ピザを片手にそう言うと、カズヤさんは俺をまじまじと凝視した。 「かっこいい？　俺、こんなだけど」 「はい？」 　何がっすか？と、きょとんと目を瞬かせると、部屋の主は「いや、いいわ」と手を振る。なんなんだ。 「沢村君こそ、そういうの一番楽しい時期だろ。恋人とか、いないわけ」 「ぐぬっ……。わ、わたくしのような未熟者にはまだ早い！　エースになるまでは、脇目も振らずに野球道に邁進する所存！」 「好きな子とかもいねえの？」 「げふっ、ごほっ」 「あ、いるんだ」 　ニヤ～、と、カズヤさんが嫌～な感じの笑みを浮かべる。やっぱこの人性格悪い！ 「い、い、い、いないから！　そんなの全然！　ホラ、俺、野球が恋人だから！　ボールが友達だから！」 「おいおい孤独だな」 「男は孤独を知って強くなる……！」 「はっはっは、キリキリ吐け♡」 「黙秘権を行使する！」 　その日、俺はお隣の家の人と、何の変哲もない夜を過ごした。冷めたチキンを頬張りながら、バラエティ番組を見て一緒に笑った。 　クリスマスは恋人と一緒に過ごすもんだなんて思ってんじゃねえぞ、そうだそうだ、そもそも日本人のほとんどクリスチャンじゃねーだろ、そうだそうだ、そういや貰い物のシャンパンあるけど飲む？あっいただきます！とか言いながら、騒いで、くだらねえ事で笑って、酔っ払って、肩組んで、そんでちょっとだけ、カズヤさんの事を知った。たとえば、カズヤさんは漢字で一也と書くんだってこと。甘い物が好きじゃないってこと（なのでケーキは二個とも俺の胃袋におさまった）。小学生の頃から野球をしていること。 　アルコールでふわふわした頭で、なんとか隣の部屋に戻り、布団に潜り込んだ。明日の練習は午後からなので（監督万歳！）ゆっくり寝られる。とろとろと微睡みながら、俺はふんにゃり微笑んだ。お隣の人に恵まれてよかったなと、そう思った。一也さんは笑い上戸の変な人だし、ちょっと根暗そうだし、意地悪な事も言ってくるけど、一緒にいて楽だ。野球の話に付き合ってくれるのも、すごくいい。 　一也さんがお隣で、ほんとによかった。 　そう思って、俺は眠りについた。 　 　 　 　 　クリスマスが終わって練習に明け暮れてるうちに、あっという間に年末になった。大学には越県して来てる奴も多いから、年末年始は部活も休みになる。俺も久々に長野に帰省した。 　東京に戻ってきたのは、三箇日の終わりの日。アパートの部屋に入って玄関から鞄を放り投げると、すぐにお隣に向かった。一也さんも年末は実家に帰るって言ってたけど、俺より一日早く戻って来るって、クリスマスの日に言ってたのを覚えてた。 「一也さん！　かーずーやーさーん！」 　扉を拳で叩くと、ばたばたと中で音がしてドアが開き、家主が顔を出した。 「お前、呼び鈴あるのになんで使わないの」 「あっ忘れてた！　ところで、あのですね！」 　言いかけたところで気付く。 　これまで俺が一也さんに会った時、この人の服装はいつもジャージ、ジャージ、ジャージ、そしてジャージ、って感じだった。だけど珍しく、今日の一也さんはジャージ以外の服を着ている。もうちょっときっちりとした、お出かけ用、って感じの服。 「どっか出掛けるんすか？」 「ああ、ちょっとこれから海外」 「えっ！　出張!?」 「……まあそんなとこ」 　言われてみれば確かに、すぐ後ろにでっかい鞄が見える。空港でよく見かけるような、スーツケースってやつ。 「そっかあ……」 　がっかりして肩を落とす。 　仕方ない。約束してたわけでもなんでもないんだから、一也さんは悪くない。 「何、どしたの？」 「イエ、お気を付けて……」 　すごすご帰ろうとした俺の肩を後ろからついと引き寄せて、手に持っていた紙袋の中を、一也さんが覗く。 「蕎麦？」 「実家帰ったんで、一緒に食おうと思って土産に買ったんすけど」 　こないだの引っ越しソバ、俺が半分食っちまったし、と頭を掻く。部屋に置いとくのも邪魔だし、しょうがない、春っち達に配るかあ。 「それ、日持ちする？」 　紙袋を覗き込んだまま、一也さんが言った。 「ん？　まあ、乾麺ですからそれなりに」 　ほんとは打ち立てがよかったんだけど、生麺は日持ちしないと言われて、諦めるしかなかった。 「そっか」 　ぽん、と一也さんの手が頭の上に置かれた。グローブみたいにでかくて分厚い、捕手の手だ。 「じゃ、帰って来たら蕎麦パーティーな」 「えっ」 「一月は殆ど家いねえけど、中旬頃に一回帰って来るから、その時でどう？　あ、連絡するから電話番号教えて」 「ウ、ウッス！」 　よくわかんねえけど、問われるままに電話番号を教える。そして一也さんの番号も教えて貰う。 「悪い、俺もう出なきゃいけねえから行くわ。またな」 「あ、はい！　行ってらっしゃい！」 　でかいスーツケースを引き摺って廊下に出て来る一也さんに向かって、しゅばっと片手を上げる。くくっと笑った一也さんが、また俺の頭に手を置いた。なんか、すげえ犬扱いをされているような気持ちになるのは気のせいだろうか。そういや言ってたな、ペットとして飼いたいとかなんとか。あれ本気だったの？ 「蕎麦の具、いっぱい作ってやるよ」 「……！　うす！」 　ニカッと笑うと、一也さんも口の端を上げて、にっと笑う。 　俺はその場で、一也さんの姿が角を曲がって消えるまで見送った。 「お気をつけて!!」 　廊下の柵から身を乗り出すようにして大きく手を振ると、振り返った一也さんがひらひらと手を振り返す。よく見ると肩が震えている。まーた笑ってんのかよ。いつか笑いの発作で死にそうになったら、仕方ないから隣のよしみで、俺が救急車を呼んでやろうと思う。 　一也さんの姿が見えなくなったところで、自分の部屋にとって返した。帰る前に食ったきりだから、腹減ったな。ちらっと、片手に持った紙袋に視線が向くけど、いやいや、これはお隣さんがお帰りになるまで取っておかねば。 　あの人の笑い上戸が伝染したみたいに、ふひ、と笑いが洩れた。 　 　 　 　 　　　　　　　　３ 　 　 　ぱしんと音を立てて、正面で構えたキャッチャーのミットに、白球がおさまった。 「沢村、今のよかったぞ！」 　そう声をかけられて、ガッツポーズで叫ぶ。 「おしおしおーし！」 「もう一回、同じとこ意識して投げてみろ。低く来いよ！」 「うっす！」 　投げ返されたボールを右手のグローブでキャッチする。 　今、俺のボールを受けてくれてるのは、一学年上の先輩捕手。どっしりしてて、見た目からしていかにも安定感ある感じ。同じ捕手でも一也さんとは大分違う。 　中学、高校と、人数の少ない学校で野球をしていた俺にとって、捕手を選ぶなんて贅沢は無縁だった。だから、座る捕手が変われば、その時の試合内容までがらりと変わってしまうんだってこと、大学に来てから初めて知った。 　自覚はなかったけど（むしろストレート一本で勝負する俺カッコイイ！って思ってた）捕手からしてみれば、俺はかなり扱いにくい投手らしく、他の投手陣よりも、捕手との相性の差がモロに出る。今受けてくれてる先輩は、正捕手じゃないけど、俺とは一番相性がいい。試合になると、球種に偏りのある俺を、うまくリードしてくれる。だけどやっぱり正式な試合じゃ、正捕手の先輩が座る事が多いから、俺と組む機会はあんまりない。 　やっぱり、もっといろんな球を投げられた方がいいのかなと、カットボールを投げながら思う。こいつとツーシームもあるけど、高校でちゃんと身に着けたと言える変化球はチェンジアップだけだったし、結局のところ俺はストレートの男なんだよな。本心では、それの何が悪い！って思ってるけど、試合に出ると打ち込まれる事も多い。ぐぬぬ、と唇を噛む。 「ど、どうした沢村、変な顔になってるぞ」 「ノープロブレム！　もう一球お願いしやす!!」 　 　 　 　その日、鼻歌を歌いながらバッグにタオルを詰めていると、「栄純君、ご機嫌だね」と、隣のロッカーを使ってる春っちに、例によって声をかけられる。 「へっへっへ、わかるか春っち。今日はな～すき焼きなんだぜ！」 　昼飯もすっかり消化しきって、空っぽになった胃袋は、既に家へと飛んでいる。今日の昼前に入っていた、「得意先からいい肉貰ったから今日はすき焼きな」ってメッセージを見た瞬間から、俺の心の一部分はすき焼き色に染まりっぱなしだ。 「そっか。これから兄貴と倉持先輩とご飯食べに行くから、栄純君も一緒にどうかなって思ってたんだけど」 「噂のお兄さん！　うう……っ、お会いしてみたいけど、今日は駄目だ！　すまん、春っち！」 　前々から、春っちや倉持先輩の話の中にしょっちゅう出て来る春っちのお兄さんとやらには興味があったけど（この二人から一身に尊敬を受けるなんて、ただ者ではない）「滅茶苦茶楽しみっす！」ってライン送っちゃったからな。 　ちなみに春っちのお兄さんは、俺達とは別リーグの大学で野球をやっている。春っちよりも二つ年上なので、本来ならこの春でもう卒業の筈なのだが、高校卒業後に一年海外留学をしていたために、今は倉持先輩と同じく大学三年なんだそうだ。何それセレブ。 「栄純君の話をしたら兄貴も興味持ってたみたいだから、また予定が合いそうな時に誘うね」 「おう！　ヨロシク！」 　汗と土埃に塗れた練習着だのなんだのを詰め込み終わって、バッグのファスナーを閉める。 「ねえ、栄純君。一緒にご飯食べる相手って、お隣の人？」 「おう！」 　気付くと春っちが、なんか心配そうな顔で俺を見ていた。 「その人、大丈夫？　危ない人じゃないよね？」 「んん？　危ない人とは？」 　時々笑いすぎて死にそうになったりしてるけど、命が危ない人って意味じゃないよな？ 「世の中には奇特な趣味の人だっているんだから」 　んんん？　よくわかんないけど何か悪口を言われた気がするな？ 「大丈夫だって！　しょっちゅう飯作ってくれる良い人！　まあ、時々すげえむかつくけど！　俺が投手だから放っとけないって言ってた」 「それならいいけど……」 「じゃあ、また明日な！」 　やっぱり浮かない顔をしてる春っちに手を振り、部室を出た俺は、その後春っちが、「捕手のカズヤさん、かあ」と呟き、うーんと唸っていた事は知らないままだった。 「……まさかね」 　 　 　 　はあっと白い息を吐きながら、一人帰途を辿る。前に住んでたアパートは、大学から一本で帰れたけど、今の住いに帰るには電車を乗り継がなきゃいけない。大きめのターミナル駅でホームを移動している途中、駅貼りのポスターが目に入った。 　東京ダイヤモンドレックスのポスターだ。 　本拠地が近いだけあって、この辺りでポスターを目にする事は珍しくはないけど、ペナントレースの開幕が近いせいか、見覚えのあるチームカラーがずらっと壁に並んでいる。 　なんとなく足を止めて、それを眺めた。 　ポスターには何種類かあるらしく、それぞれに、一軍選手数名の写真が載っている。俺の目は自然と、その中から一人の姿を見つけ出していた。三角形を二つくっつけたみたいな、スカしたサングラスをかけたスカした野郎。イケメンだと女子にも人気があるらしいけど、俺にとっては、顔なんかはどうでもいい。 「御幸……」 　地元の仲間と甲子園を目指した道を、後悔しないって言ったのは本心だ。だけど、もしあの時青道に行ってたら、御幸は俺の事をどんな風にリードしたんだろうって、無意識に考えちまうのもやめられなかった。 　御幸がいた頃、青道は一度だけ甲子園に行った。その時エースだったのは、俺と同じ年の豪腕投手。剛速球が持ち味の、つまりは俺と真逆のタイプだ。青道が求めていたのがそういう投手なら、俺が入学してたって、お呼びじゃなかったかもしれない。でも。……俺だって、一度くらい。 「うおおおおおおいかああああああん！」 　コンコースのど真ん中で叫んだ俺に、周囲を歩いてたサラリーマンさんやＯＬさんが、ぎょっとした顔で振り返る。それに構う事なく、自分の両頬を、勢い良く叩いた。 「過去は振り返らない！　前だけを向いて走り続ける男、それがこの俺！」 　ふんっと鼻息を吹き出し、くるりと方向転換して歩き始める。見た事もないミットよりも、今の俺には目指す場所がある。 　そう、すき焼きという帰る場所が。 　 　 　 　わくわくしながら待っていると、ガチャリと玄関のドアが開く音がした。 「おかえりなさい！」 「おー、ただいま」 　両手に紙袋とスーパーのビニール袋をそれぞれ提げて、玄関先に立っているのは、俺んちのお隣の住人。ここは俺の部屋なので、おかえりなさいもただいまも本来おかしいのだが、俺は全然気にしてないし、一也さんの方もそうだった。駆け寄る俺に、一也さんが笑う。今「犬っぽい」って思っただろ、わかるんだからな！ 　しかし今日は、そんな事に構っている暇はない。 「準備万端、整っておりますよ！　ぬかりなく！」 　そう言って俺が両手で示したのは、狭い台所に鎮座している炊飯器。一人暮らしだけど、たっぷり炊けるファミリー用のやつ。実家が農家なおかげで、貧乏だけど米だけは腹一杯食べられる。実家が農家で本当によかった。 「おう。コンロ届いてる？」 「この通り、バッチリと！」 　シュバッと、再び両手で部屋の中央を指す。足が折り畳める卓袱台の中心には、新品のカセットコンロがセットされていた。買ったのは一也さんなので、勝手に開けるのはどうかと思ったが、どうにも我慢できずに先に開けてしまった。しかし一也さんはまるで気にした風もなく、「うん、鍋も来てるな」と、その脇に置いてある箱を確認している。 「んじゃ、ちゃっちゃと用意するから、待ってて」 「お手伝いしやす！」 「邪魔にしかならないからいいわ」 「歯に衣着せぬ、その姿勢！」 　ぬぬ、と唸ったものの、俺がこの人に比べて料理が上手じゃないのは事実だったため、具材を下拵えしてる一也さんに纏わり付く。背後に立って、右から、左から、と手元を覗き込む俺に、一也さんは楽しそうに笑ってた。 「うおお……！　霜降り！　後光がさしておられる……！」 「大袈裟だろ」 　んなわけない！　質より量が基本の大学生の食卓で、肉を腹一杯食える機会なんて、どれだけ貴重な事か！　しかも牛！　鶏でも豚でもなく、牛！　なおかつ霜降りなんて、その響きだけでもう、天上の調べにも等しい。 「おっし。じゃあ、始めるか」 「おー！」 　拳を突き上げると、「近所迷惑な」って肘で小突かれる。 「沢村君、飯ついできて」 　下拵えをした肉や野菜を手にした一也さんが、卓袱台に移動しながら指示を出す。ラジャーっす！ 「一也さん、どれくらい食います？」 「んー、とりあえずお前と同じくらい」 「心得た！」 　二つの茶碗に、もう無理限界ってくらいまでホカホカの白米を盛ると、両手にそれを持って後を追う。 　熱した鍋の上でじゅわっと牛脂が溶けていて、それだけでもう口の中に唾がわいてくる。俺が涎を拭いてる間に、一也さんが手早く肉を焼き、着々と準備を整えた。 「うおお……！　本当だ！　うちのすき焼きと、なんか違う！」 　なに？　この液体なに？　と騒ぐ俺に、「割り下だよ」と一也さんが答える。関西と関東ではすき焼きの作り方が違う、と教えてくれたのもこのお人だ。長野がどっちなのかは知らねえけど、うちのすき焼きは関西風だったらしい。もしかして今日すき焼きにしてくれたのって、俺がへー！　関東風食ってみてえ！　って言ったの覚えててくれたからなのかな。 「何、にやにやして」 「いや、うまそうだなーって……ていうか、いっつもいやらしい感じにニヤニヤしてんのはアンタだろ！」 「いやらしいって……。俺年上ね？」 　お前どんどん遠慮がなくなっていくなあ、なんて言うけど、そっくりそのままお返ししたい。 「ほら、もうできるぞ」 「ふおお……！」 　鍋の中で、具材がぐらぐらと煮えている。メインの肉を中心に、豆腐、葱、しらたき、椎茸、その他諸々が、いい感じの醤油色に色づいていた。 「イタダキマスッ」 　パンッと両手を打ち合わせ、マッハの勢いで卵を溶く。俺の向かいで一也さんも、「いただきます」と両手を合わせていた。さすが体育会系。 　瑞々しいピンクから色の変わった肉を恭しく掬い取り、溶き卵にくぐらせて、口へと運ぶ。 「ふ……！　ふおお！」 「どうした？」 「めっちゃうまい！　コレ！　ヤバイ!!」 　一也さんはそんな俺をきょとんと見て、それから目を細めて笑った。 「そりゃよかったな」 　どこのなんていう牛かは存じ上げないが、きっと名のある牛に違いない。 　我が郷里長野にも、県民の誇る信州牛というおいしい牛がいるのだが、ぶっちゃけこれまでに食べた事のあるどんな牛よりもうまい。すまん長野の牛たち……！　俺は俺の舌に嘘がつけない！ 　俺の顔を見た一也さんが、ぎょっと身を引く。 「おい、なんで泣いてんの」 「だっで、うまいんすもん～!!」 「あー、はいはい、まだあるから。好きなだけ食っていいから」 「神かよ！　ゴッド一也かよ！　クッソ～しもべにしてつかあさい！」 　ゴッド一也のしもべになれば、毎日こんなうまい飯が食えるというならば、俺は喜んで魂を売ろう……！ 「お前全然役に立たなさそうだしいらねえわ」 「なんと、つれないお方！」 　プクク、って笑った一也さんが、更に肉を投入する。 「じゃんじゃん食え。肉付けるには、とにかく食うのが一番だからな」 　まだまだウェイトが足りない、って監督に言われてるのを知ってるみたいに、煮えた傍から、一也さんが俺の椀に肉を盛っていく。甲斐甲斐しいな、母ちゃんか。 「ささ。一也さんも、ドンドン食ってくださいよ！　ドンドンと！」 「肉持って来たの俺な？」 「うまいっすか？　なあなあ！」 「ん？　……うん。うまいな」 「そっすか！」 　よかった、とふにゃりと笑うと、一也さんが驚いたように目を瞬かせた。炊きたての飯を頬張りながら、口元を緩める。 「誰かと食うと、飯ってうまいっすねえ。ホント、一也さんがお隣さんでよかったっす！」 　たまに部活や大学の友達と飯食いに行く事もあったけど、ここに越してくるまで、基本的に夜は一人だった。俺だってもう子供じゃねえし、一人の夜が耐えられない、なんて女々しい事を言うつもりはない。だけどこれまで、賑やかな家族や友達に囲まれて過ごしてきた俺は、一人で過ごす事にあまり慣れてない。一人きりのアパートで食う飯が、どこか味気なかった理由は、俺の料理が下手ってだけじゃなかったと思う。だけどこうやって、時々一也さんと一緒に飯を食うようになってからは、そんな風に感じる事もなくなった。料理はまだまだ上達しねえけど、焼きすぎたりしょっぱすぎたりする失敗料理も、誰かと向かい合って食うだけで、不思議と許せる気持ちになる。 　俺がなんで一也さんと飯を食うようになったか。その理由は未だによくはわからないけど、切っ掛けっていうなら、多分あの日だ。 　引っ越し初日も、クリスマスにも一緒に飯を食った俺達だけど、それはあくまで、イレギュラーなイベント的なものに過ぎなかった。俺は一也さんと飯を食う事を当たり前の事だなんて思ってなかったし、向こうにとってもそうだったと思う。 　それがちょっと変わったのは、あの日。 　アクシデントじゃなく、はじめて、ちゃんと約束をして、一也さんと一緒に飯を食った日だ。 　年始早々海外出張に行かれていたらしい一也さんは（社会人って大変だな！）、言ってた通り、一月の半ばに帰って来た。番号交換した時に言ってた通り、事前に電話で連絡をくれて、俺の方の予定を確認した上で、沢村君は何もしなくていいから、と言い含めた。 　一也さん帰宅の当日、俺は言われた通りに、ソバ入り紙袋を一也さんの家のドアノブに引っかけて出掛けた。そして帰って来た俺を出迎えたのは、たっぷりのソバと、豪華すぎる具材の数々だった。万歳！ 「パーティーって言うからには、こんくらいはやらねえとな」 　好きなだけ食っていいよ、と示された食卓を見て、俺は感激の涙を流した。 　オーソドックスな葱や茸に卵、甘辛く味のついた肉。加えて、前に揚げ物は片付け面倒でやりたくないって言ってたのに、エビ、大葉、茄子、蓮根なんかの天ぷらは、明らかに揚げたてだった。ソバの具として隠れ人気のあるコロッケまであった。揚げたてサクサクのそれらは例外なく激ウマで、そうじゃないかと思ってたけど、やっぱり一也さんは料理上手の人だった。シェフ一也だった。 「海外いる間、日本食が恋しかったから嬉しいわ」 　約束通り、二人でソバをたらふく平らげつつ、そう言った一也さんに、俺は嬉しくなった。俺の故郷の味で喜んで貰えた事が、単純に嬉しかったのだ。 「海外っすか～、いいですな！」 「沢村君は、海外行ったことねえの」 「パスポートを持った事もない！」 「ふうん。まあ、海外なんて、そんないいもんじゃねえけどな。できる事なら、ずっと家に篭もってたい」 「なりませんよ、いい若い者が！　そんな夢のない事では！」 「……夢ねえ」 　一也さんは指先で、頬のあたりを掻く。 「沢村君の夢は？　やっぱプロ野球選手？」 「それも悪くねえけど……。どうせなら、夢はでっかくメジャーリーガー！　なんつって！」 「ほー、大きく出たな」 　にやっと一也さんが笑う。 「メジャーリーガーになれば海外にも行けますし！」 　確かそうだったよな？　で、メジャーリーガーってどこに行ったらなれるんだっけ？　オーストラリア？ 「おいおい、それ、どっちがメインなんだよ」 　そう言われてニヒッと笑う。 　正直言うと、まだまだ俺には、野球で飯食ってく未来ってのはピンとこない。だからといって、野球以外で飯食ってくって事がピンときてるってわけでもねえんだけど。 　正直言うとそのへんの事は全部、俺にとってバクゼンとした未来の話でしかなかった。それよりも、大学の野球部でエースになる事の方が、今の俺にとってはずっと差し迫った目標だ。だけどよく考えたら、あと二年のうちに決めなきゃいけねえんだよなあ……。二年後の俺はどうしてるんだろ。 　高卒でプロに入った御幸なんかは、そういうこと全部、俺が仲間とバカやってた高校時代には考えてたのか。そう思うと単純に、凄えな、って思った。 　蕎麦パーティーの後、一也さんはまたすぐに出張に行き（社会人てホント大変）、俺は土産にたんまり貰ったマカダミアナッツチョコを部室で配った。喜ばれた。 　次に一也さんがアパートに戻ってきたのは一月の末。疲れた、もう何もやる気が起きない、なんてヘタレたラインが入ってたので、丁度飯を作り溜めしようと思ってた俺が、こないだの礼にと家に誘った。 「沢村君の肉じゃが、うまいね」 　俺がお出しした夕飯を食って、一也さんが、いかにも意外、みたいな顔をした。 「ワッハッハ！　そうでしょう！　そうでしょう！　もっと褒めても構いませんよ！」 　などと得意な顔をしてみたものの、別に俺は料理はうまくない。少なくとも一人暮らしを始めた当初は全くできなかった。 　しかし、うまい飯を食えない、というのは予想以上にストレスが溜まるものだ。こっちに来てから、母ちゃんの飯のありがたみを死ぬ程感じた。最初の一年で辟易した俺は、せめて好物くらいは好きな時に食えるようになりたいと、里帰りした時に、何品かの作り方を頼み込んで教わった。 　だから東京に行く前に料理覚えなさいって言ったのに、馬鹿ねえ。と、母ちゃんにはもっともな事を言われたが、何事も、自分で経験しなけりゃわかんないもんだ。品数を絞って重点的に教わったおかげで、その何品かだけは、どうにかまともに作れるようになったものの、それ以外は相変わらずからっきしである。 　しかし、自分の作った飯を、誰かがうまいと言って食ってくれるってのは、想像以上にいい気分だった。 　相変わらずお忙しい、厳しい社会で日々戦う企業戦士であらせられるところの一也さんは、その後またまた長期に渡って家を空け、二月中は全く帰ってこなかった。とはいえ俺も、二月下旬は殆どアパートにはいなかったんだけど。野球部のキャンプで九州に行ってたからな。 　聞いたところによれば、東京ダイヤモンドレックスも同じ県内でキャンプをしているとの事だったので、元チームメイトの倉持先輩や春っちに「会いに行かないの？」って訊いてみたけど、春っちは「そのくらいの事で一々会いに行ってたら迷惑だよ」と言い、倉持先輩からは「なんで好きこのんであの野郎の顔なんか見に行かなきゃいけねえんだ」と凄まれた。御幸、人望ないんじゃねえの？ 　そんなこんなでキャンプも終わり、俺と一也さんがアパートに腰を落ち着けたのは三月に入った頃。オープン戦が始まって、高校も大学もプロも、野球は揃ってシーズンと言われる時期に入る。 　俺と一也さんが、当たり前みたいに一緒に飯を食うようになったのは、この頃からだ。 　飯作りは、単純に面倒くさい。試合や練習でクタクタになった後は尚更だ。できる事ならやりたくないし、人が作ってくれたら最高だと思う。そしてそれは、仕事で疲れてる一也さんも同じだったんだろう。一人飯が好きじゃねえ俺が「カレーいっぱい作ったんでどうっすか」と誘えばいそいそ食いに来たし、俺も俺で、「丁度飯できたから食いに来ない」と誘われれば、喜び勇んでご相伴に預かった。そうして気付けば俺達の間には、「先に帰って余裕のある方が二人分の飯を作る」という不文律が定着していたのだった。 　 　 　飯を食い終わった後は、付けっ放しのテレビ番組を見るともなしに眺めながら、くだらない話をする。 　そして眠くなったら、来訪していた側が隣の自宅に帰って就寝。それがパターンだ。 　今のところ、家に帰る率は圧倒的に一也さんの方が高い。一也さんは俺が訪ねる時に嫌な顔をした事はなかったけど、なんとなく、自分の部屋に入られんのを歓迎してねえんじゃねえかな、みたいな雰囲気を俺が勝手に感じ取り、反して俺はそういうのが全く気にならない性格だったので、そういう事になった。そんなわけで最近は、一也さんが飯当番の日でも、作ったもんを抱えて俺んちに来て一緒に食う、って感じになる事が多い。 　テレビで流れてるスポーツニュースを見ながら、俺はずずっと茶を啜った。うーん、やっぱり食後の茶は、あったかいほうじ茶に限りますな！ 「そういや、もうすぐペナントレース始まるんすよね。社会人もそうなの？」 「ああ、うん、まあね」 　俺の隣で同じく湯飲みを持った一也さんが、顔を伏せて茶を啜る。 　うーん、一也さんって、どんな会社に勤めてんだろ？　割と謎の人だ。一月、二月ほどの忙しなさからは脱したみたいだけど、今も泊まりで出張だとか言って、帰ってこない日も多い。あいてぃー企業とか、ガイシケイとかいうやつなのかもしれない。それがどういう仕事をする所なのかはよく知らねえけど。 　春っちに訊いたところによれば、一口に社会人の野球チームと言っても、いろいろあるらしい。 「俺、一也さんの試合見てみたいっす！」 「んー、まあ、そのうち」 　妙に歯切れが悪い。俺に来られんの嫌なのかな。知り合いに見られると緊張して実力が出せないシャイボーイとかですか？ 「大丈夫っす！　一也さん！」 「あ？」 「一也さんが試合に出られない控え選手だったとしても、俺はそんな事で幻滅したりしませんよ!!」 「……ああ、そう」 　ありがとね、と一也さんはやや脱力した様子を見せる。もー！　嬉しければ素直に嬉しいと言っていいのに！ 　うーん、そういや俺、プロの試合もナマで見た事ねえや。折角東京に出てきたんだし、一度くらい行っとくべきか。春っちを誘えば、付き合ってくれそうだし。 　行くならやっぱり、東京レックスの試合かな。いや、別に御幸がいるからじゃないけどね!?　別にそういうんじゃ!?　ないけども!! 　あ、そういえば。 「ミユキカズヤ！」 　ごっふ、と一也さんが茶を吹いた。んっ？　前にもこんなことあったな？ 「えっ……。なに？」 　一也さんがゆっくりと、とてもゆっくりと俺を見る。 「知ってます？　御幸の下の名前、カズヤって言うんですって！　なんと偶然にも漢字まで同じ！　一也！」 「……あー、うん。……うん。……知ってる」 　一也さんがビックリした顔で、俺を見つめている。勿論俺だって、そんな事は知っていた。知っていたのだが、御幸という名字の方があまりにも特徴的すぎて、名前の方はついつい意識から外れていた。駅のポスターに書かれていたフルネームを見て、そういえば、と思い出したのだ。 「キャッチャーで一也って、すげー被ってますよね！　わはは！　だから大丈夫っす、今はしがない控え捕手でも、やがて羽ばたける時が来る！」 　ぐっと親指を立ててみせた俺に、一也さんはポカン顔をして、それから、「あ、うん」と頷いた。よーしよし、その意気っすよ！　諦めたら試合は終了って言うでしょう！ 　どうかしました？　そんな微妙な顔をなさって。 「……沢村君ってさあ。御幸のこと大好きだよな」 「ななな何をおっしゃる！　言いがかりはやめていただきたく!?」 「だって、アレとか」 「はうあ!!」 　一也さんが指さした先にあるものを見て、俺はびくりと硬直する。目敏いな、お主！ 　そこに貼ってあるのはなんていうか、御幸で一也的なポスター。しかもピンのやつ。ユニフォームを着た御幸のバットがボールを捉えた瞬間の。もう読み終わったからやるわ、と先輩に押し付けられた野球雑誌に付いていた。 「ち、違う！　あれは、願掛けというか！　自分に負けないためのお守り的な、そんな感じのあれだから！」 　嘘じゃない。御幸に見られていると思うと、俺は不思議と身が引き締まる。御幸に恥じぬよう俺も頑張らねば！みたいな気持ちになれるのだ。 　へー、と一也さんが顎を撫でた。 「御幸は沢村君の守り神なのかあ」 「それも違ああああう！」 　誤解を！　招く！　言い方をするな！ 「茶、入れてくる！」 　真っ赤になったまま立ち上がり、ずかずかとポットに向かう俺の背後で、一也さんがぽつりと呟いた「……なんで気付かないわけ？」という呟きは、俺の耳に届く事はなかった。 　 　 　

A5/100p/￥1000<br />IFパラレルな御沢です。どうIFなのかは、サンプルをお読み頂くと話が早いかと思います。ページ見本はこちら【<strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/55621674">illust/55621674</a></strong>】<br />めちゃくちゃかわいい表紙は大崎さん【<strong><a href="https://www.pixiv.net/users/554081">user/554081</a></strong>】が作ってくれました！<br /><br />前回、前々回と、用意した本が早いうちになくなってしまい申し訳ありませんでした。今回は前より沢山搬入しましたので、ゆっくりお越し頂いても大丈夫だと思います。

【御沢新刊サンプル】お隣の一也さん

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「だーかーらー！無理だって言ってんだろ！！」 「貴女に迷惑が掛からないようにすれば問題ないでしょう？僕の事嫌いじゃないんですよね？ だったらお試しでも良いので僕とお付き合いしてください！」 「付き合えるわけねぇだろ！！」 「……もしかして、恋人が居るんですか？」 「え？いや、今は居ないけど……」 　さっきまで押せ押せの雰囲気から一転して恐る恐る不安げな面持ちで聞いてくるバニーに思わず素直に答えてしまう。 　しまった！恋人が居るって言っとけば断りやすかったのに！俺の馬鹿！！ 　そう思っても、口から出てしまった言葉は戻るはずもない。俺の迂闊な発言でバニーの不安げだった表情をぱあ！っと輝かせてしまった。 「良かった！それなら問題ないです」 「問題大有りだよ！！」 「どうしてですか！」 「男同士で付き合えるわけ無いだろ！！」 「え？」 　しつこく食い下がるバニーにイライラと髪をぐしゃぐしゃと掻き毟った俺は思わず感情のまま言ってしまい、その後すぐに自分が言った台詞に一気に血の気が引いて青褪める。 「あの、男同士って…？」 「いや、その……。あー……」 　目を泳がせながらしどろもどろになっていると、不審気に眉を寄せるバニーにダラダラと冷や汗をかきながら俺は覚悟を決めた。全力で誤魔化す方向に。 「俺…心は男なんだ……」 「は…？」 「俺は体は女だけど心は男なんだよ！ だからお前と付き合うのは無理なんだ！！」 　初恋の人が同性愛者だった、なんて酷い話だろうか。俺のせいで女性不信になったりしたらどうしようとバニーの今後の女性関係を心配してしまう。 　自分の失言を誤魔化す為にこんな嘘を吐く事に罪悪感を覚えるが、これでバニーも諦めるだろう。 「何だ、そうだったんですか」 「そうだよ。無理な理由が分かったんだから、さっさと俺の事は忘れて帰ってくれ」 「嫌です。理由は分かりましたけど、貴女の事を忘れませんし、ＯＫを貰えるまで帰りません」 「はあああ！？ 何なのお前！！ 付き合えないって言ってるんだから諦めろよ！！」 　これだけ言っても諦めないバニーにイライラは最高潮で、出来る事ならハンドレッドパワーでゴールドステージまでぶっ飛ばしてしまいたい。 「何で俺に執着するんだよ。お前ならどんな女だって選び放題だろうが。俺じゃなくて他の奴と付き合えよ！！」 「貴女の言うように僕は女性にモテます。今までたくさんの人に誘われて何人かとお付き合いしましたけれどすぐに別れました。彼女達にとって僕は他人に自慢する為のアクセサリーでしかなかったんです」 「世の中そんな女ばっかりじゃないって…」 「そうかもしれません。けれど大抵の人間は僕の上辺にしか興味が無いし、僕も他人に興味が無かったから誰と付き合っても上手くいく筈が無いのは当たり前ですよね」 　バニーの冷めた恋愛事情の告白に俺は眉を顰めた。嫁が初恋で恋愛結婚の末、可愛い娘を持つ身として愛し合う事の幸せを知らないバニーが可哀想に思えた。 「貴女が初めてなんです。僕が興味を持ったのは。貴女の事が知りたい、僕の事を知って欲しい。そう思ったのは貴女だけだ」 　真剣な眼差しで熱っぽく語るバニーの宝石のようという例えがぴったりな美しいグリーンの瞳に射抜かれて頬が熱くなる。 　うわ、うわー！！ハンサムすげぇ！何この破壊力！ 　これが女をイチコロにするハンサムの眼力ってやつか…とそんな事を考えながらハンサムの能力の片鱗を受けて赤くなってしまった頬が恥ずかしくて誤魔化すように手で擦った。 「男は恋愛対象じゃない事は分かりました。 でも僕は貴女とこうして話せるなら貴女の性的嗜好が何だって別に構わないんです。だから僕を友人の一人に加えては貰えませんか？」 「たった二度だけ会っただけの奴を友人と呼べるか。良くて知り合いってトコだろ」 「…そうですね。でも知り合いならこれからお互いを知って友人になれますよね」 「知ったとしても友人になれるかは分からないだろ。お前は俺の嫌がるような事しかしてないし。はっきり言ってお前のやってる事はストーカーだ。警察に通報されても文句も言えないぞ」 「そうですね。貴女に嫌がれる事をしている自覚はあります。でも、貴女は優しいから僕を、いや現役ヒーローを警察に突き出すことはしないでしょう？」 「何で俺がお前を警察に突き出さないって思うんだよ。そんなのわからねぇだろうが！」 「だって貴女、ヒーローが好きでしょう？ それも凄く」 　言い当てられて驚くと、バニーはそんな様子の俺を可笑しそうに目を細めて眺める。 「だってマンスリーヒーローを毎月買っているじゃないですか」 「え！？」 『あそこに積んであるの、全部そうですよね』と指差した部屋の隅にはバニーの言うとおり、定期購読しているマンスリーヒーローが乱雑に積まれていて、一番上に置かれた雑誌にはタイガー＆バーナビーがバニーメインで表紙を飾っていた。 「……自分勝手だと思いますが、僕は貴女との繋がりを切りたくない。だからその優しさに付け込みます」 　俺が警察沙汰に出来ない事は助けられた時に知られてしまっている。それに今絶賛売り出し中の人気ヒーローの、女にまったく不自由しなさそうな美貌を持つ男がストーカーしているなど誰が信じるだろうか。実際、当事者の俺だって信じられないというのに。 　冴えないおばさんが訴えても虚言癖のあるバーナビーファンと思われるだけだ。それらを全て分かってこいつは付け込むと言っているのだろう。 「……最低だな」 　まさかバニーがこんな風に人の弱みに付け込んでくるとは思わず、頭に上っていた血が一気に下がった。 　こちらの迷惑も考えず自分の望みを叶えようとしているバニーに冷ややかな目を向けるが、そんな俺の視線もバニーは動じない。俺の意思をまるっきり無視している後ろめたさからか、ただ眉尻を下げてこちらに笑みを向けるだけだ。 「最初が最低でも貴女に好きになって貰えるよう努力します」 「無駄な努力になるぞ。俺はお前を好きにならない」 「それはどうでしょう？ 気持ちは変わるものですよ」 「何でそんなに自信満々なの？ すっげームカツクんだが」 「そう言われるほど自信は無いですけど、気持ちが変わる事を身をもって知っているから強気になれるんです。多分、あの人との事が無かったらすぐに引き下がったかもしれません。考え方は正反対で僕が左と言えば右だと言うし、ドジで人に迷惑掛けるし、会社命令じゃなかったら絶対組んだりしなかった」 　思い出すように話し始めたバニーの顔に苦笑が浮かぶ。バニーの話す人物像に心当たりが有り過ぎて一応確かめる為に聞いてみた。 「それって、もしかしてワイルドタイガーの事か？…」 「ええ、そうです。彼とは最初仲が悪くて何度も喧嘩しました。彼は子供っぽい所があるのでくだらない喧嘩を散々してイライラさせられて、もうこの人とは組めないって何度思った事か…」 「………」 　俺だって最初の頃は似たような事を思っていたとはいえ、こうやって本人の口から聞くと少しへこむ。 「どうせワイルドタイガーなんてお荷物のロートルって馬鹿にしてたんだろ」 「…ええ。自分ならもっと上手くポイントが取れてＴＶにアピール出来る、ワイルドタイガーが居なくても一人で十分活躍できるのに何故彼と組まなくちゃいけないのかと当時の僕は驕り高ぶっていました。実績も経験も無い新人が何を思い上がっているのかと、今思うと恥ずかしいです。そんな風に省みる事が出来たのもタイガーさんのおかげです。前はあの人のお節介とお人好しな所にうんざりさせられていたりもしていたのですけれど、彼の内面を知ってから今まで自分が表面だけを見て評価していたのだと分かって、彼への考え方が変わったんです。あの人の揺ぎ無い信念や強い正義感はヒーローとして尊敬しています」 　語り出したバニーに口を挟めず、俺はぽかんと聞くしかない。 　まさかバニーの口から俺を尊敬しているなんて言葉が出るなんて、明日は雹でも降るのではなかろうか。 　最初はあんなにギスギスしていて取っ付き難かったツンツン兎も最近は慣れてきてくれて、こちらがドジを踏もうもんなら背後にブリザードを吹雪かせて蔑んできたりしたが、今では仕方ないといった風に文句を言いながらもフォローしてくれる程の良好な関係になっていると思っていたのだが、まさかそこまで俺の事を…！！と感激していたら『調子に乗るので間違っても本人に言ったりはしませんが』だと？！ 　……ちくしょう。その通り過ぎて何も言えねぇ…。褒められても調子に乗るなって周りに散々言われてるしなぁ…。 　本当に尊敬してくれてるならもっとその気持ちを見せてくれても良いのに……。おじさんは褒められて伸びる子なんだからな！ 　自尊心の強い相棒が素直に好意を表すことなんて出来ないだろうと言う事は分かっているが、なんだかちょっと悲しくなって心の中だけでいじけた。 ＞＞[[jumpuri:兎虎♂♀ *６話 > http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=736808]]

区切りの良い所まであとちょっとだったのですけど、なかなか進まなくて断念（´・ω・｀）　バニーちゃんのストーキングっぷりが書けなかった…。<br />虎徹さん降車した場所から歩いて帰れる範囲の家を洗い出し、虎徹が指輪してないのを見て子供無し恋人無しと推測してファミリータイプの家や庭に子供の遊具が置いてある家を除外して地道に捜索していたので時間が掛かった。<br />近所の人から虎徹にストーキングしている事がバレ無いように服装とバイクを毎回変え、聞き込みもしていないので虎徹は自分に魔の手が迫っているのをまったく気付いてなかった。<br />虎徹を発見したバニーはバイクを適当な所にとめて徒歩ストーキングに切り替え。声を掛けて家に入れて貰えなかったらドアに靴挟んででも家の中に入ってやろうと思っていた。手段を選ばないバニーちゃんマジ怖い。ゲスい兎でごめんなさい…。

兎虎♂♀　*５話目

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=649838#1

あてんしょん！ ・六つ子がブラコン ・キャラ崩壊 ・捏造多い ・カラ松がサイコパス ・さんの知識で書いてます。くんのほうはほとんど知りません ・他の芸能人ほとんど出てこない ・草大量発生 ・おそ松のメンタルが少し弱い 『カラ松が記憶喪失になった日』→[jump:2] 『十四松と、』→[jump:3] 『ゴミ箱ドッキリ』→[jump:4] 十四松の話は特に捏造が酷いです。私が見たい後日談として捉えてください。 それでもよろしい方はどうぞ！ [newpage] 300 ななしの六つ子ファン 次男怖いんだけど！！ 301 ななしの六つ子ファン さっさと次のブイに飛ばせ！ 302 実況者 司会：そ、それでは次のＶＴＲに参りましょう！ 次のターゲットは・・・カラ松さん以外の方です・・・ 全員（次男除く）：飛ばせこれ！ 長男：なんで怖い話聞いた後にまたトラウマ抉られるようなことしなきゃいけないわけ！？ 馬鹿じゃねーの？！順番考えろよ！ 次男：そんな怖い話じゃなかっただろ・・？ 三男：ふざけんな馬鹿！精神にきたわ！ 四男：十四松、こいつオトせ 六男：やっちゃえ十四松兄さん！ 五男：アイアイ！ 次男：十四松！？待て！落ち着けじゅうしま・・オォ！？ 五男が次男の鳩尾にボディーブロー決めて気絶させたｗｗ 長男：よしさっさと流せ！こいつが気絶している間に！！いやむしろ俺らも気絶させろ！ 司会：わ、わかりました！ではＶＴＲどうぞ！ 303 ななしの六つ子ファン 荒ぶる六つ子ｗｗ 304 ななしの六つ子ファン 一体何があったというんだ… 305 ななしの六つ子ファン 必死じゃねえかｗｗ 306 ななしの六つ子ファン ということは次男が知らない部分が流れる可能性があるってことだよなｗ 307 実況者 最初説明入ったから箇条書きで書くわ↓ 某月某日。スタッフは次男と母親(!?)をドッキリの説明のためテレビ局へ呼び出した。 しかし入ってきたのは包帯を頭に巻き付けてる次男。足も具合が悪いのか引きずっている。隣にいるのが母親っぽい ｽﾀｯﾌ：どうしたんですかその怪我！？ 次男：ﾌｯ…強いて言うなら男の勲章、だな 母？：はいはい。そんなこと言ってないで挨拶しなさい 次男：・・はい。どうも、こんにちは ｽﾀｯﾌ：あ、はい。こんにちは。えっと、大丈夫ですか？ 次男：問題ないです ｽﾀｯﾌ：えっと・・それじゃあ早速説明に参りますが… そちらがお母様の松代さんでよろしかったでしょうか？ 母：ええ。息子たちがお世話になっております。 ｽﾀｯﾌ：いえ、こちらこそ。本日はよろしくお願いします。 308 ななしの六つ子ファン 嘘！？六つ子の母親出てんの？！ 309 ななしの六つ子ファン まじで？どんな感じ？ 310 ななしの六つ子ファン ＞＞３０９　大体５０代くらいか？髪の後ろをお団子にして眼鏡かけてる 311 ななしの六つ子ファン 予想とちょっと違ったかも 312 ななしの六つ子ファン でも似てるわｗｗ 313 ななしの六つ子ファン 次男のイタイ発言を華麗にスルーした、だと・・・！？ 314 ななしの六つ子ファン さすが母親だな 315 実況者 ｽﾀｯﾌ：早速ですがドッキリの説明に入らせていただきますがよろしいでしょうか？ 次男：あ、はい。 ｽﾀｯﾌ：今回はもし家族が誘拐されたら、というドッキリと「ん・・？」どうかしましたか？ 次男：ああ、いや。それならもう答えがわかってるからドッキリにもならないと思うぞ？ ｽﾀｯﾌ：・・どういうことですか？ 次男：そういうこともなにも、俺の兄弟は誰も助けにはこない。これが正解だ。ビンゴォ～？ ｽﾀｯﾌ：…なぜ、そう言い切れるのですか？ 次男：ついこないだ起こったからな！！ ｽﾀｯﾌ： えっ 316 ななしの六つ子ファン おいおい… 317 ななしの六つ子ファン どういうことだってばよ… 318 ななしの六つ子ファン なに？次男こないだ誘拐されたの！？ 319 ななしの六つ子ファン じゃあ頭の怪我って… 320 ななしの六つ子ファン なにやってんのあいつら？！ 321 ななしの六つ子ファン 助け行けよ！！ 322 実況者 ｽﾀｯﾌ：こないだ誘拐、されたと・・？ 次男：ああ！まあ犯人は幼馴染だったし原因は俺たちだからな！ 母：結局自業自得でしょう？ 次男：宵越しの銭は持たない主義なのさ… 母：ちゃんとお金は払いなさい 次男：ツケだ！いつか払うさ ｽﾀｯﾌ：じゃあ、その怪我は… 次男：ん？これは兄弟達にやられた傷だな！まあ男兄弟なんてこんなもんだろ？ ｽﾀｯﾌ：（唖然） 323 ななしの六つ子ファン 324 ななしの六つ子ファン 325 ななしの六つ子ファン 326 ななしの六つ子ファン いやいやいやいや 327 ななしの六つ子ファン おかしい！この家族おかしい！ 328 ななしの六つ子ファン 平然と受け入れる次男も次男だけどお母さん！？冷たくないですか！？ 329 ななしの六つ子ファン いやでも成人してるしそこは自己責任って考えなんじゃないか？ 330 ななしの六つ子ファン まず兄弟何やってんの！？ なんであそこまですんの？ 331 ななしの六つ子ファン 喧嘩でもやっていいことと悪いことあるだろ！？ 332 ななしの六つ子ファン いろいろやべえよこの兄弟… 333 実況者 ｽﾀｯﾌ：えぇっと…じゃあどうしましょうか 母：それじゃあカラ松。事故にあって記憶喪失したことにすればいいんじゃないかしら？ 次男：記憶喪失か…そんな非現実的なこと信じるか？ 母：それはあなたの腕の見せ所よ。もしそうなればあの子たちも少しは焦るでしょう？ スタッフさんもそれでどうですか？ ｽﾀｯﾌ：か、確認してきます！ 次男：なあ母さん。何か怒ってるのか？ 母：当たり前よ。確かに男兄弟で喧嘩が多いのはわかるけど限度ってあるでしょう？ 少しお仕置きね 次男：…母さん 母：言ったでしょ？私はあなたたち全員を平等に愛してるって 次男：・・・僕も愛してるよマミー！！ 母：アンタもそれさえなければねぇ… 334 ななしの六つ子ファン お母様嗚呼ああああ！！ 335 ななしの六つ子ファン だよね！普通怒るよね！ 336 ななしの六つ子ファン かっこいい・・！ 337 ななしの六つ子ファン 流石六つ子を産んで育てた母ちゃんだな 338 ななしの六つ子ファン ちょっと母親に電話してくる… 339 ななしの六つ子ファン えっ、ちょっと待って今次男「僕」って言った！？僕って？？ 340 ななしの六つ子ファン 素はこっちなの？ 341 ななしの六つ子ファン じゃああのイタいキャラは芝居・・？ 342 ななしの六つ子ファン いやただのカッコつけじゃね？ 343 ななしの六つ子ファン どっちもじゃないか？ イタいときもあればこんな感じのときもあるんだろ 344 実況者 スタッフが部屋に戻ってきた ｽﾀｯﾌ：OKでました！その方向で行けるそうです 母：わかりました。カラ松、頑張ってニートたちをぎゃふんと言わせてきなさい！ 次男：任せろ！ばっちり決めてやる！・・まずは細かい設定を練らないと。あと準備するものもあるな… 最終的に軽いトラウマを植え付けてやる！ ｽﾀｯﾌ：お、お手柔らかにお願いしますね？放送できる程度に… 次男：自傷行為はしないぞ？ 結局スタッフ含めた皆で設定を練った模様 345 ななしの六つ子ファン 次男なんか怖えよ！ 346 ななしの六つ子ファン これ次男も怒ってんだろｗｗｗ 347 ななしの六つ子ファン いやこれで怒らなかったらどんな聖人君子だよ 348 ななしの六つ子ファン 母親があんなにいい笑顔でゴーサイン出すんじゃねえｗｗｗ 349 ななしの六つ子ファン どうでもいいけどぎゃふんってｗｗｗ 350 ななしの六つ子ファン ちょっとだけ可愛いと思ってしまったｗｗ　 351 実況者 これからドッキリ開始。 流れとしては 怪我のせいで俊敏に動けなくてまた事故にあったっていう設定らしい 母親は病院に付き添いで行った帰り。だから包帯の数も増やしてる。 帰って記憶喪失の話題を振るみたい。 母：カラ松。行くわよ 次男：ああ、ばっちりだ 母と次男が家に入った。 次男はもう演技に入っているのかキョロキョロと不安そうな目で家の中を見てる。 母：ただいま。ニートたち！ちょっと来て頂戴！ 母親がそう言うと5人全員が玄関に出てきた。次男ビクッて体震わせて５人凝視してる。 長男：おかえり母さん。どうしたのー？ 三男：お帰り母さん・・ってカラ松どうしたんだよ？なんか増えてない？ 四男：おかえり。なんか用？戻っていい？ 五男：お帰りかーさん！にーさん！ 六男：お帰りなさーい。うわっ、兄さんまた包帯増えてる！わざとなの？イタイよねぇ～ 五人からの言葉聞いても凝視したまま動かない。 長男が微妙に眉しかめた。 長男：カラ松？お前なんか「すごい・・」・・は？ 次男：本当に母さんの言ったとおりだ…同じ顔が５つもある 全員：はぁ！？ 六男：なな何言ってんの？！頭でもうったの？ 母：そうなのよ・・・ 三男：ちょっと母さん！どういうこと？！ 母：さっきね、カラ松。車にひかれて頭うって、記憶喪失、だって… 全員：えっ・・・ 352 ななしの六つ子ファン なんていうか…自然だから上手いのかな 353 ななしの六つ子ファン 体震わすときとか視線とかそういうのがすごい本当みたい 354 ななしの六つ子ファン これは騙されますわぁ… 355 ななしの六つ子ファン 兄弟は心配してる…のか？ 356 ななしの六つ子ファン 微妙だなー・・ 357 ななしの六つ子ファン 母親もそこそこ上手いぞ？ 358 ななしの六つ子ファン ただ震えてんだけどこれ笑ってないよね？ｗ 359 ななしの六つ子ファン 違うだろｗｗ・・違うよな？ 360 ななしの六つ子ファン 知らねーよｗｗ 361 実況者 四男：記憶喪失って・・嘘だろ？なあ、おい！ 次男：ヒッ！す、すみません！えっと、あなたの名前は・・？ 四男：ざけんな！ 四男が激怒しながら居間の方に戻っていった。 三男：ねえ、カラ松。嘘だよね？記憶喪失なんて・・ 六男：そうだよ！嘘でしょ？ねえ、カラ松兄さん！ 次男：え、えっと・・・ 長男：お前ら落ち着け 三男と六男が次男のこと掴みかかりそうな勢いだったけど長男がそれを止めた。 長男：カラ松。どこまで覚えてる？ 次男：・・何も覚えてないんです。すみません 俺が松野カラ松で、六つ子の次男ということは母さんから聞いたんですけど… 長男：そっか・・・なら自己紹介だな！ 俺は松野おそ松！カリスマでレジェンドで人間国宝な六つ子の長男だ！ 次男：えっと・・おそ松、さん？ 長男：おそ松でい～よ！それか兄さんでも可！ 他の奴も紹介するから居間に行こうぜ！ 次男：あ、はい・・・ 長男：敬語もなしな！ 次男：はい。あ、うん 母：おそ松。私は用事があるんだけどカラ松のこと任せていいかしら？ 長男：おう！いーよ 母：頼んだわよ そういって母退場。長男が次男と固まってる三男と五男と六男連れて居間に行った。 居間の中は隅っこの方で四男が膝抱えて座ってる。 362 ななしの六つ子ファン 楽しくなってまいりましたｗ 363 ななしの六つ子ファン 次男的には楽しいんだろうけどなｗ 364 ななしの六つ子ファン 四男が可哀そうで・・ 365 ななしの六つ子ファン 意外と次男のこと大好きだったもんなー 366 ななしの六つ子ファン 時々見せる長男のお兄ちゃん感がやばい・・ 367 ななしの六つ子ファン わざと雰囲気和ませたんだろうな 368 実況者 長男：ほら自己紹介するからお前ら座れ～。一松もこっちこいよ！ 四男：やだ 長男：あーもーしょうがねえな。 あいつは四男の一松な！ひねくれてるけど猫好きの良い奴だよ 次男：えーっと、一松、くん？ 四男：ﾁｯ、呼ぶんじゃねえよ 次男：…ごめんなさい 長男：いーちーまーつー？ 四男：ｹｯ 長男：まーいーや。次、チョロ松な 三男：うん。僕は三男のチョロ松だよ。ねえカラ松、本当にわからない？ 次男：…ごめん 三男：責めてるわけじゃないから。ゆっくり思い出してよ 次男：そう、だな… 五男：はいはーい！じゃあ次俺良いっすか！ 俺！五男の十四松！にーさんとはね！屋根で一緒に歌うたったり、一緒に、野球、したり、してたんだぁー… ねえ、僕と野球、してくれる？ 次男：十四松、か…もちろん。俺でよければ… 五男：ほんとっすか！じゃあこのあといこーね！絶対だよ？ 次男：あ、うん… 六男：…じゃあ次、僕ね 僕は六男のトド松。カラ松兄さんとは昔から何というか、相棒？みたいな立ち位置だったよ 次男：…そうなのか 六男：僕のこと、思い出してよ。 次男：…努力する 369 ななしの六つ子ファン うわあ雰囲気暗い 370 ななしの六つ子ファン 五男と六男が泣きそうな顔してるのが何とも辛い… 371 ななしの六つ子ファン 次男の内心どうなってんだこれ 372 ななしの六つ子ファン 次男（やべえ予想以上に信じちゃってる！？嘘だろ？！） 373 ななしの六つ子ファン ＞＞372　おいこらｗｗ 374 ななしの六つ子ファン でも誘拐された挙句あそこまで怪我させられたらここまで心配するとは思わないんじゃね？ 375 ななしの六つ子ファン いや家族なんだから心配するだろ 376 実況者 四男：…ばっかじゃないの 三男：一松？ 四男：なんだよ記憶喪失って…そんな非現実的なこと信じるわけないじゃん 六男：ちょっと一松兄さん！ 四男：そんなに構ってほしいわけ？いい加減ウザいんだけど。 どうせなら車に轢かれてそのまま―― 長男：一松！ 四男：・・ッ！ 長男：言っていいことと悪いこと、わかるよな？ 四男：・・・クソッ！ そのまま四男家飛び出してった。 五男：一松にーさん・・・ 次男：・・・俺は彼に嫌われてしまったようだな 長男：あーあー気にすんな。一松はお前のこと結構好きだったんだよ 次男：・・そうだったのか 長男：まあアイツは俺に任せてお前は他の奴と町でも見てきな 少しは思い出せるかもしれないだろ？ 次男：・・そうだな 五男：にーさん！野球！ 次男：・・ああ 377 ななしの六つ子ファン 四男・・・ 378 ななしの六つ子ファン 本音じゃねえんだろうなー 379 ななしの六つ子ファン 怪我させたことへの罪悪感があって素直に心配できない感じか 380 ななしの六つ子ファン 今回兄さんがかっこよすぎる・・！詐欺だよこれ！ 381 ななしの六つ子ファン ギャップ萌怖い・・惚れるわ 382 ななしの六つ子ファン というかこのドッキリいつまで続くの？ 早くネタバレして仲良し六つ子が見たいんだけど！ 383 ななしの六つ子ファン 日跨ぐんじゃね？ 384 実況者 三男：それじゃあカラ松。行こう 次男：あ、ああ・・・その前にトイレに行ってくる 六男：トイレは扉出て左だよ 次男：…そうか。ありがとう 長男：…じゃあ俺一松探してくるわ 三男：よろしく。おそ松兄さん 長男が家出て行って他の四人も町の方歩いて行った。 その間はダイジェストみたいな感じで結構カットされてる。 夕方に戻ってきたところからまた始まった。 六男：ただいまー 長男：おう。おかえりー。どうだった？ 六男：まだ思い出せないって・・・ 長男：まあゆっくりするしかねーよな 飯にしよーぜ！チビ太に事情話したらタダでおでんくれた！ 次男：・・チビ太？ 長男：チビ太ってのは、俺らの幼馴染でいまおでん屋やってんだ！うめーぞ 次男：・・そうなのか。楽しみだ。 ところで、その・・一松くんは 四男：ここいるけど・・ 次男：・・ッ！ 385 ななしの六つ子ファン シリアスが続くよー 386 ななしの六つ子ファン ドッキリだってわかってる俺らはシリアルにしか見えねえけどなｗｗ 387 ななしの六つ子ファン 一日記憶喪失の振りとか大変だなー次男 388 ななしの六つ子ファン 四男何すんだろ・・ 389 実況者 次男：えーっと、一松、くん・・ 四男：・・一松でいい 次男：あ、そうか・・ 四男：うん・・・ 次男：・・・ 四男：・・あの、さ 次男：へっ？はい！ 四男：さっきは・・・・・ごめん 次男：んんっ！？ 四男：別に、アンタが嫌いな訳、じゃないけど・・ ただ、俺の兄貴のクソ次男は、あの痛々しくて、でも、馬鹿みたいに優しくて、兄弟が大好きな、そういう奴だから・・アンタは別に悪くないのに、酷いこと言った・・・ごめん 次男：・・ああ。こっちこそごめん。俺も少しでも早く思い出せるように頑張るよ ・・・・ありがとう 四男：？・・なんか最後言った？ 次男：いや、気にしないでくれ。ご飯だろ？一緒に食べよう 四男：・・・うん 居間に移動したんだけど長男がめっちゃニヤニヤしながら四男見てるｗｗ 長男：言えたかい？一松くん？ 四男：・・うぜ 390 ななしの六つ子ファン おおっ！ 391 ななしの六つ子ファン 四男・・立派になって・・ 392 ななしの六つ子ファン ＞＞391　お前誰だよｗｗ 393 ななしの六つ子ファン でもよかった・・ 394 ななしの六つ子ファン 四男って次男のことああいう風に思ってんのな 395 ななしの六つ子ファン 長男ｗｗｗ 396 ななしの六つ子ファン 煽ってやんなよｗｗ 397 ななしの六つ子ファン ほんと煽るの好きなｗｗカッコよさどこいったｗｗ 398 実況者 それからはおでん食べてお風呂行ったのかもう皆パジャマ姿 でっかい布団敷いて寝る準備してる。 長男：カラ松ー。お前どうする？ここで寝る？ 次男：えっと・・ 三男：怪我も酷いからあんま一緒の布団で寝るのはどうかと思うんだけど・・ 六男：えー！一緒に寝ようよカラ松兄さん！僕寝相いいから大丈夫だと思うよ？ 四男：・・寒い、から 次男：・・じゃあ、こっちで寝てもいいか？ 長男：おー。いんじゃね？ 六男：じゃあ電気消すよー 場面は次の日の朝に 次男が番組スタッフのとこ行ってる 次男：・・これいつまで続ければいいんだ？ ｽﾀｯﾌ：バレたらそこでネタばらし予定だったんですけどねー 次男：まさかバレないとは・・ちょっとはヒント与えてたんだが・・ ｽﾀｯﾌ：そうですねー 次男：今日で終わらせよう・・心が痛い！なんで弟たちが悲しそうにしている姿を見なければならないんだ！ ｽﾀｯﾌ：トラウマ植えつけるつもりの人が何言ってんですか 次男：そうだったな！試練を乗り越えてこそ真の「じゃあ、行きましょうか」・・・なんか雑じゃない！？ ｽﾀｯﾌ：そんなことないですよー 399 ななしの六つ子ファン 雑ｗｗｗｗ 400 ななしの六つ子ファン スタッフまで次男の扱いがｗｗｗ 401 ななしの六つ子ファン いやもう結構前からだったろｗｗｗ 402 ななしの六つ子ファン トラウマって何すんだろうなーｗ 403 ななしの六つ子ファン 元演劇部の本気を期待 404 実況者 次男：じゃあそろそろ家に戻るか。俺の演技力に乞うご期待！ ｽﾀｯﾌ：頑張ってくださいねー 次男：だから扱い！！ 次男が家までの道を歩いてると向こう側から長男が歩いてきた。 長男：あっ、カラ松いた！お前どこ行ってたんだよ 次男：ちょっと散歩に行ってた・・少しでも思い出したくてな 長男：もーお前が朝からいないから俺ら全員で探したんだぞ？ 次男：・・悪い。兄さん 長男：まだ怪我してんだから無理すんなよー？ そういや喉乾かない？公園で飲んでいこーぜ 次男：そうだな・・でも俺金持ってない 長男：それくらい俺が出すっての！いこーぜ 次男：・・ああ 公園に２人で入って行って、長男が次男を殴ろうとして次男避けt 405 ななしの六つ子ファン えっ！？ 406 ななしの六つ子ファン 何？どうしたの長男！？ 407 ななしの六つ子ファン いきなり次男に殴りかかったんだけど 408 ななしの六つ子ファン 次男間一髪だったな 409 ななしの六つ子ファン もしかして、バレた？ 410 実況者 次男呆然としてる。長男は薄ら笑いしてる 次男：・・・えっ？ 長男：なあカラ松。お前、誤魔化せると思ってた？ 次男：・・なんの話だ 長男：ふーんシラ切るんだ。じゃあ聞くけど、 お前、記憶喪失って嘘だろ？ あと、事故ってのも嘘だな。 母さんまで騙して何のつもり？ 長男次男を睨んでる。次男ニヤッて笑った。たぶん今からネタばらし 長男がさっき呼んだのか公園に他の４人も集まってきた。 次男：あ、は。あははははっははは！！ 三男：・・カラ松？ 次男：嬉しいぞブラザー！まさか見破ってくれるとは！どこでわかった？ 長男：お前がトイレ行ったとき。全部忘れてるのにお前他の奴に聞かずに行こうとしたろ。あと寝る時だな。隣が一松って知らないのにお前一松の意見聞いて決めただろ 次男：流石兄貴だな！見逃さなくてよかったぜ！ 六男：・・何それ！？全部嘘だったわけ？ 次男：悪いなトド松。だが心配してくれて本当に嬉しかったぞ！ 長男苦虫噛み潰したような顔してる。 長男：・・なんでこんなことした 次男：そうだな。俺は・・愛されたかったんだ 四男：・・そんなことで、俺たちを騙してたってのかよ 次男：そんなこと？俺にとってはそれだけが全てだ。 お前にはわからないだろう？愛されてるお前には。なあ、一松？ 五男：俺、にーさんのこと大好きだよ！ほんとだよ！ 次男：どんぶり投げてきたのに？ 411 ななしの六つ子ファン ﾋェ… 412 ななしの六つ子ファン さっきのスタッフの時との違いな… 413 ななしの六つ子ファン いじられキャラ崩壊してんじゃねえか・・ 414 ななしの六つ子ファン これ全部本音なのか…？ 415 ななしの六つ子ファン どんぶりってなに・・？ 416 実況者 次男の言葉聞いて５人がビクッてした。 次男：おそ松はバット、チョロ松はフライパン、一松は石臼、トド松は花瓶だったよな？あの時は本当に死ぬかと思ったぞ？ 十四松。お前は大好きな奴にそんなものを投げつけるのか？ 五男：・・カラ松、兄さん 長男：・・・ごめん、カラ松 次男：謝らなくていいぞ？期待はしてない。 期待するのも疲れた。期待して、裏切られるたびに辛くなる。別に恨んでるわけじゃないぞ？俺はお前たちのことを愛してる。たとえ、その愛が返ってこないとわかっていても。 だが俺は、あの沈みゆく夕日の中でお前たちの背中を見たとき、どうしようもなく悲しくなった。だが本当に美しかったよ。チョロ松の言った通りだな。6は中途半端だ。5のほうがしっくりしてる 三男：・・カラ松 次男：本当にいらないのは、俺だろ？ 三男：そんなことあるわけないだろ！！ 次男：ありがとう。嘘でも嬉しいよ 三男：嘘なんかじゃ・・！ 417 ななしの六つ子ファン 辛いんですけど・・・ 418 ななしの六つ子ファン いやてか兄弟ほんと何やってんの 419 ななしの六つ子ファン 本気で殺す気かよ… 420 ななしの六つ子ファン それであの怪我か 421 ななしの六つ子ファン 構わん。もっとやれ。 422 ななしの六つ子ファン ドッキリって、何だっけ？ 423 ななしの六つ子ファン あれ？私いつの間に他の番組に変えたっけ？ 424 ななしの六つ子ファン ＞＞423　おれおま 425 ななしの六つ子ファン ＞＞423　おれおま 426 実況者 次男：…あれから海が怖くなった。火が怖くなった。 でも一番怖かったのは、『松野カラ松』がお前たちの中から消えてなくなることだったよ 長男：お前、何言って・・ 次男：それで考えたんだ。お前たちの記憶に俺がずっと残る方法。 ・・・お前たちの目の前で、自分と同じ顔した人間が死ねば、忘れられないだろう？ 次男ポケットからナイフ取り出した。 六男：な、なにやってんのさ！そんなもの持って！ 次男：意趣返しとでも思ってくれ・・・こんな兄で、ごめんな 四男：カラ松。やめて・・ 次男：それじゃあ、さよならだ。 ・・・愛してたよ、兄弟 次男涙流してナイフ首に当てた。長男と三男と五男が走ってて伸ばしてる。 えっ、赤い液体が・・・ 427 ななしの六つ子ファン これはドッキリこれはドッキリこれはドッキリ… 428 ななしの六つ子ファン いやほんとにやばかったら放送されないからｗ 429 ななしの六つ子ファン 正気に戻れおまいらｗｗｗ 430 ななしの六つ子ファン ただ次男の狂気が酷い… 431 ななしの六つ子ファン 涙も演出かよ…凝ってんな 432 実況者 ５人：カラ松！！ ５人の前でゆっくりと次男が倒れる。 四男と六男がその場で座り込んだ。五男が次男のとこ行って揺すってる。 五男：カラ松兄さん！カラ松にいさ・・ん？にーさーん と思ったら急に猫目になったｗｗｗ 長男：十四松！カラ松は！ 五男：あんね、兄さんからね、トマトの臭いする… ４人：はっ？ すると突然次男震え始めた。近くにいた三人がビクッてして距離をとる。 次男：ふ、ふふっ！ぎゃはははは！！ 次男座り込んで笑い始めた。周りの５人ポカーンとしてる 次男：あー笑ったｗｗｗおーい！あれ持ってきてくれー！ 三男：おおおまお前・・まさか 次男：そのまさかだ！ドッキリ大成功！！ 流石おれ！最後までばっちり決まったぜ・・！昔演劇でこういう役やっててな！どうだった？ 六男：・・・ばっかじゃないの！？ホント馬鹿！くたばれクソ野郎！！ 次男：そんなに怒らなくても… 六男：怒るわ馬鹿！・・ﾋｸｯ、こわ、かったん、だからぁ！ 次男：えっ・・えっ・・？ 五男：にーさんのばか！うんこ！ 次男：えぇぇ・・？ 困惑している次男のところへ四男が近づいてって後ろから抱きついた。 次男：へぁ！？一松！？ 四男：・・ソ松が 次男：い、一松。ちょっと痛い・・ 四男：一遍死ねやあああああああああああああ！！ 次男：おわぁぁぁぁあああああ！？ 四男、次男にジャーマンスープレックスキめたｗｗｗ 433 ななしの六つ子ファン ようやくネタバレしたー！ 434 ななしの六つ子ファン ちょっとやりすぎだ次男ｗｗｗ 435 ななしの六つ子ファン 六男泣いちゃったじゃんｗｗ 436 ななしの六つ子ファン 五男うんこ！ってｗｗｗ 437 ななしの六つ子ファン 四男容赦ないｗｗｗ 438 ななしの六つ子ファン 身体柔らけえなｗｗｗ 439 実況者 四男：クソが！ほんとクソ松だなてめえ！ 五男：一松にーさん。カラ松にーさん気失っちゃった！ 四男：虎の餌にしてやろうか！ 三男：いやいやいや！待って一松！ほんとにカラ松死んじゃう！ 四男：カラ松って誰？ 三男：嘘っ！？もう自分の中で存在消しやがった！ 長男：はいはい、十四松。カラ松抱えて家連れて帰ってくんない？ 五男：了解しやした！ 長男：チョロ松も一松とトド松と先に帰っててくれ 三男：お前何する気？ 長男：ちょっと騙されたことに腹立ったからカラ松の金でパチンコ行ってくるー 三男：最低だなお前！ 六男：勝ったら山分けねー 長男：えぇ～？ 三男：はぁ…さっさと帰って来いよ 長男：へーい 別カメラに次男抱えた五男が映った。 五男：わっせわっせわっせ にーさん、ごめんね。にーさん、起きたら謝るから また、僕と野球してね 五男泣きながら走ってる。 440 ななしの六つ子ファン 虎の餌ってｗｗ 441 ななしの六つ子ファン 存在消さないで四男ｗｗ 442 ななしの六つ子ファン 相変わらず長男はクズｗｗ 443 ななしの六つ子ファン 六男も変わんねえよｗｗｗ 444 ななしの六つ子ファン 五男、なんで泣いてんだ？ 445 実況者 カメラは三男たちの方へ。 三男：ごめん。ちょっとさっきのとこに忘れ物したかも 先帰っててくれる？ 六男：・・・わかった。一松兄さん、帰ろ？ 四男：・・うん。 三男が公園の方戻ってった。四男はその場に立ち尽くしてる。 六男：一松兄さん？ 四男：・・あいつさ、あんな役、やったことないんだよ 六男：・・だろうね 四男：全部、アイツの本音なんだ… 怒ってないのも本当。アイツが一番怖いのは僕たちから忘れられること。俺たちのことを愛してるのも本当。愛されてるって思ってない、のも本当。アイツ、気づいてないんだよ… アイツはもしまた同じようなことがあれば多分さっきみたいに笑って死ぬんだ… 六男：一松兄さん・・ 四男：怒れよ！怒って気が済むまで殴ればいいんだ！怒られないと僕たちはアイツに甘えすぎる…！ ・・・いや、こんなのただの言い訳だ。悪いのは全部僕で、僕が、いつも―― 六男：悪いのは僕たち皆だよ… 兄さん、帰ったら謝ろ？僕らみんなカラ松兄さんが大好きで、愛してるって伝えよう！ 四男：アイツはそんな言葉信じてくれないよ… 六男：カラ松兄さんいつも言ってるじゃない！『俺はお前を信じてる』って。何度わかってもらえなくてもさ、何度も伝えようよ。ね？ 四男：お前って、結構強いよね… 六男：当然！六つ子の末っ子にだっていろいろあるんだから！ ほら、帰ろうよ 四男：そうだね・・・トド松 六男：なーに？一松兄さん 四男：・・・ありがと 六男：どういたしまして 446 ななしの六つ子ファン 待って 447 ななしの六つ子ファン いきなりしんみりさせないで 448 ななしの六つ子ファン 兄弟っていいね・・一人っ子だから羨ましい 449 ななしの六つ子ファン 次男やっぱ本音だったんだよなー 450 ななしの六つ子ファン これから頑張れ四男 451 ななしの六つ子ファン まあ怒られないからって何していいわけではないよな 452 ななしの六つ子ファン 怒らない次男も次男だけど原因は他の兄弟だし 453 ななしの六つ子ファン 精一杯言葉と行動で伝えるしかないだろ 454 実況者 映像は公園の長男の方へ 長男公園に寝転んでる 長男：あーあ！パチンコ行く気も失せたわ！ 三男：元々行く気もなかったくせに 長男：・・チョロ松なんでいるの 三男：どっかの馬鹿が１人で泣いてるだろうと思ったから 長男：なにそれ誰のこと？ 三男：財布も持ってないくせにパチンコ行くなんて言って弟帰らせた六つ子の長男 長男：ぶっはｗｗそれ世界中探したら１人くらいいんじゃね？ 三男：それと、とんでもない構ってちゃんで、めんどくさくて、クズで、でも寂しがり屋で、家族のことが大好きで、意外と弟のことを見てる奴。かな 長男：・・ばかじゃねーの 弟のこと見てるなら、アイツのこと、わからない訳ねーじゃん ・・・昔なら、こんなことなかったのにな 三男：・・僕たちはもう昔とは違うよ。一つだった僕らには個性ができて、変わった。何より僕たちに順番がついた。昔は自然と兄さんがリーダーだったけど、それが明確になったんだ。 長男：・・なんでだろうなぁ。俺は昔のままでよかったんだよ。 毎日お前らと遊んでイタズラして、ただ、それで・・・別に長男になりたいわけじゃ、なかった。順番つけちゃったら、お前らと違うって、改めて感じる。繋がりがさ、薄くなってくようなそんな感覚に襲われる。 三男：・・・時々くらい、戻ってもいいんじゃない？ 長男：・・えっ？ 三男：たまには昔みたいに戻ろうよ・・なあ、おそ松！ 長男：チョロ松・・？ 三男が長男の方に手を差し出した。 三男：いつまで泣いてんだよ！ほら、行こうぜ！ 長男：・・・・ははっ、お前かっけーわ 三男：そりゃ、俺が一番格好いいと思ってる奴の相棒だからな 長男：・・ふぇ？ 三男：ほら、さっさと帰るぞ 長男：ちょちょちょチョロ松？今なんて？ 三男：ほら、さっさと帰るぞ 長男：違う！そのひとつ前！！ 三男：・・何か言ったっけ？ 長男：チョロ松！？ワンモア！チョロ松！ 長男が三男の手に掴まって立ち上がる。 そのまま長男が三男を追いかける感じで帰っていく後ろ姿で暗転。 最後にテーブルの上に梨置いて皆で囲んで食べる姿が映し出されて終わった。 455 ななしの六つ子ファン やだ三男イケメン・・ 456 ななしの六つ子ファン 六男といい三男といい、今回弟かっこよすぎだろ… 457 ななしの六つ子ファン 三男の盛大なデレが・・ 458 ななしの六つ子ファン 相棒って感じなんかいいよな 459 ななしの六つ子ファン 六男も言ってたもんな 460 ななしの六つ子ファン 結局こいつらお互い大好きなだけじゃんかｗｗ 461 ななしの六つ子ファン 最後の映像めっちゃ良かった！スクショした・・ 462 ななしの六つ子ファン ＞＞462　私も 463 ななしの六つ子ファン 次男の笑顔が見れただけで満足ですありがとうございます 464 実況者 映像スタジオに戻った。 長男と三男と四男と六男が顔めっちゃ赤くして俯いてるｗｗ 4人：いっそ殺せ・・！ 五男：にーさんたち皆死ぬんすか？！ 三男：なんだこれめっちゃ恥ずかしい・・！ 長男：チョロちゃんが盛大にデレてくれた！ 三男：うるせえ長男記憶消すぞゴラァ！ 六男：自分で言っててなんかクサい！僕のキャラじゃない！ 四男：羞恥プレイだと思えば・・！いややっぱ駄目・・・ 六男：その発言アウトだよ一松兄さん！ 四男：でも十四松がクソ松気絶させといてよかった・・こんなのこいつに見られたらほんと死ぬ・・！ 4人：それな 三男：もうそろそろカラ松起こさないとね カラ松兄さん。ほら、起きて。おわったよ 次男：・・はっ！ 三男が次男揺すって次男が起きた。 三男：カラ松？なんで、お前耳そんな赤い訳？まさか・・ 次男：うぇえ？！ななな、何の話だ？？ 六男：えっ・・カラ松兄さん、まさか・・？ 次男：何も聞いてない！俺は何も知らない！チョロ松に起こされて今起きたんだ！！ 次男の顔に不自然なくらいの滝汗がｗｗ 長男：おい・・お前起きてたよな？ 次男：・・起きてない！ 四男：正直に言えよ・・？でないと十四松のバッドに括り付けて1000回素振りな 次男：・・・・・途中から起きてました ５人：どこから？ 次男：俺がドッキリバラしたとこからです・・ 5人がゆっくりと立ち上がった。次男危険を感じて逃走 長男：あいつ捕まえろ！記憶消すぞ！ ４人：待てやｺﾞﾙｧアアアアアア！！ 次男：いやぁぁぁぁぁあああああ！！！ 数分後、再び気絶した次男の姿がｗｗ これで本当に終わりっぽい 465 ななしの六つ子ファン また次男がオチさらってったｗｗｗ 466 ななしの六つ子ファン 四男の発言アウトｗｗ 467 ななしの六つ子ファン 羞恥プレイ言うなｗｗ 468 ななしの六つ子ファン いやでもこれは恥ずか死ぬｗｗｗ 469 ななしの六つ子ファン お前ら懲りたなら次男の扱いもうちょっと良くしてやれよｗｗｗ 470 ななしの六つ子ファン 結局次男はこんな扱いなのなｗｗ [newpage] 471 実況者 司会：・・あー、もう次行きましょうか 続いてのドッキリのターゲットは十四松さんです！ 五男：え？僕ドッキリされたっけー？ 六男：ほら、こないだの遊園地の 五男：はぅあ！？あれドッキリだったの？！ 六男：幸せドッキリってやつだね♡ 五男：・・恥ずかしいっぺー！！ 五男、袖で真っ赤になった顔隠してるｗｗ 司会：それでは、VTRに参りましょう！どうぞ！ 472 ななしの六つ子ファン あーかわいいかわいい 473 ななしの六つ子ファン 五男のネコ目が何気ツボなんだよなｗｗ 474 ななしの六つ子ファン 照れてるのは結構珍しいよな 475 ななしの六つ子ファン 末松見てるとほんと落ち着くわー 476 ななしの六つ子ファン 幸せドッキリと聞いて！(ﾊﾞｯ) 477 ななしの六つ子ファン ＞＞476　服脱ぐんじゃねえぞ変態 478 ななしの六つ子ファン ＞＞476　天使松穢すな 479 ななしの六つ子ファン 五男クラスタ保護者多いｗｗｗ 480 実況者 VTRはじまった。 テレビ局の部屋に五男を除いた５人が座ってる。 ｽﾀｯﾌ：それで今回のドッキリなのですが・・・ 六男：ここに５人しかいないってことは十四松兄さんがターゲットでしょ？何するの？ ｽﾀｯﾌ：それが・・十四松さんにドッキリを仕掛けようにも全て躱されてしまう気がして・・！ 長男：わかってんねーｗｗ難しいよー？ 三男：危険察知能力高いもんねー 六男：でもたまには驚かせたいよねー！ 次男：・・泣かせてみるか？ 四男：あ゛っ？テメェ頭沸いてんのか 次男：ちち違う！感動させるってことだ！そういうドッキリもあるだろ？！ 四男：・・ﾁｯ、先に言えよクソが 三男：具体的になんかあるの？ 次男：ﾌｯ、それはな・・・・ノープランだ！ 六男：何で溜めた！？ないなら言うんじゃねえよこの馬鹿！ 長男：あー！俺いいこと思いついちゃった！ 四男：・・どんなの？ 長男：へっへーん！聞いて驚け褒め称えろ！ 十四松をさ、あの子にもう一度会わせてやろうぜ！ 4人：・・おぉ！！ 三男：珍しく良いこと言ったねー 六男：ほんと珍しい！すごいよ兄さん！ 次男：流石兄貴だな 四男：・・珍しい 長男：一言余計だお前ら！ 481 ななしの六つ子ファン スタッフもちゃんとわかってんなｗｗｗ 482 ななしの六つ子ファン 次男ｗｗノープランｗｗ 483 ななしの六つ子ファン 六男のツッコミは今日も健在だｗｗ 484 ななしの六つ子ファン 次男以外珍しいって言われるおそ松兄さんェ…ｗｗｗ 485 ななしの六つ子ファン あの子って誰？ 486 ななしの六つ子ファン まさか前言ってたあの子じゃないか？ 487 ななしの六つ子ファン ＞＞486　いつだよそれ 488 ななしの六つ子ファン ＞＞487　六つ子の初登場した番組 489 ななしの六つ子ファン なんかうっすらと覚えてるような・・・ 490 実況者 次男：だが兄貴。あの子に会わせるといってもどうするんだ？俺たちはあの子の名前も住所もわかんないんだぞ？ 長男：それは長男様に任せなさい！お前らはデートプランでも練ってな ここでスタッフが不思議そうに声かけた。 ｽﾀｯﾌ：あの、すみません。あの子って誰ですか？ 六男：そっか、知らなかったね。 あの子ってのはー、十四松兄さんがこないだ好きになった女の子のことだよ。ちょっと遠くに行っちゃったんだけどね 長男：ということで！スタッフさんたちにはその子のことを探してもらいます！ ｽﾀｯﾌ：は、はぁ…ですが、名前も顔もわからないのでは探しようもないのでは？ 長男：大丈夫大丈夫！・・・・後でね つーわけで今日は解散！お前ら！デートプラン、期待してるぜ？ 六男：任せてよ！最高のデートにしてやるんだから！ 491 ななしの六つ子ファン 名前も知らないの？！ 492 ななしの六つ子ファン どうやって探すんだ？ 493 ななしの六つ子ファン 長男はなんか知ってる感じ？ 494 ななしの六つ子ファン 弟たちだけ先に帰らせたな 495 ななしの六つ子ファン なんか、六男の女の子との出会いを邪魔しまくってるわりに五男には優しいよなｗｗｗ 496 ななしの六つ子ファン それくらい可愛がられてるんだろ 497 実況者 弟たち帰らせて長男とスタッフだけになった。 長男がなんか深刻な様子で話し出した。 長男：あのさ、ほんとに探し出してくれる？ あの子、結構遠いとこいんの。俺は名前と顔しかわからないから。十四松、本気だったんだよ。一回フラれてんだけどねｗでも、俺が見た限りじゃあの子も十四松のこと好きだったと思う。だから、俺は余計なことだと言われてもまた会わせたい。 ・・・珍しく、泣いたんだよ。昔はあんな泣き虫だったのに今では泣くことなんてなかったのに。フラれたとき号泣して、ああ、本気なんだな、って。だから、お願いします。 長男静かに頭下げてる… ｽﾀｯﾌ：・・わかりました。出来る限りの手は尽くしてみます。 長男：・・・ありがと。それで、ちょっと我儘なんだけど、その子の名前も出身も出さないでほしい。あと、交渉するときは俺に任せてほしい。 ｽﾀｯﾌ：最大限考慮します。 長男：ほんとありがと 長男二カッて笑って立ち上がった。 長男：じゃあ俺も今日は帰るね！弟たちに何隠してんだーって詰め寄られそうだし！ 明日また来るから！ ｽﾀｯﾌ：はい。お疲れ様です 長男：おつかれー！ 498 ななしの六つ子ファン にいさああああああああああああああん！ 499 ななしの六つ子ファン なんだよなんでこんな時ばっか・・！ 500 ななしの六つ子ファン まじかっけえ・・！ 501 ななしの六つ子ファン 放送されてるってことはその女の子出てくれたんだよな！ やばい、超楽しみ 502 ななしの六つ子ファン 弟たちのこと真剣に考えてるんだよな 503 ななしの六つ子ファン ほんとずるい！ 504 実況者 数日後、長男除いた弟4人が部屋に集まってる。 六男：おそ松兄さん遅いねー。なにしてんだろ？ 三男：・・また勝手になんかしてんのかあの馬鹿 四男：・・ところであの子はどうやって見つけるわけ？ 六男：知らなーい。僕ら顔しか分かんないのにね 次男が難しい顔してじっと聞いてる。 その時、部屋の外からドタバタと走ってくる音が聞こえる。 その後部屋の扉がバンッ！て開けられて長男が入ってきた。 長男：お前ら！よく聞け！ あの子見つかった！ ４人：！？ 六男：ほんと！？ 次男：まじか・・ 四男：どんな手使ったわけ？ 長男：それは俺の力があればちょちょいのちょいよ！ 三男：お前の力ってか、ハタ坊の力使ったんじゃないの？ 長男：えー？そんなことないよー？ちょっとしかないってー 三男：結局使ってんじゃねえか・・ 長男：それよりお前ら！デートプランはちゃんと出来てんだろうな？ 六男：もちろん！お金は番組が出してくれるっていうから贅沢なデートコースにしました！ 次男：まあ十四松とあの子にはお互いが隣にいるだけで幸せだと思うけどな・・金じゃないのさ 長男：かー！カラ松くっせぇ！ 次男：どこが臭いんだ！？ニンニクとか食べてないんだが・・ 三男：お前もうしゃべんな！ 次男：・・なんで？！ 六男：・・やばい。カラ松兄さんの言うことがちょっとカッコイイと思ってしまった… 四男：・・死ぬしかない 505 ななしの六つ子ファン おぉ！見つかったか！ 506 ななしの六つ子ファン ミスターフラッグ大活躍じゃんｗｗ 507 ななしの六つ子ファン 次男セリフくせえ・・でもかっけえｗｗｗ 508 ななしの六つ子ファン くさいってそっちの臭いじゃないｗｗ 509 ななしの六つ子ファン 四男と六男がｗｗｗ 510 ななしの六つ子ファン そこまで言ってやるなよｗｗｗ 511 実況者 長男：つーわけで！出演許可ももらったぜ！決行は明日な！ 目標！十四松を号泣させること！ 4人：オー！！ 翌日、六つ子がとある会場の中に立ってる。五男には「会わせたい奴がいる」ってストレートに伝えたみたい。 五男：ねぇねぇ！僕に会わせたい奴ってだーれ？野球選手？ なんで僕らおしゃれしてんの？ 六男：野球は関係ないよ兄さん。ちょっと待っててね。すぐわかるから 五男：んーー・・・わかんねぇっす！ 長男：じゃあ早速登場してもらおうぜ！どうぞ！ 会場の扉が開いた。女の子が歩いてくる。 五男がゆっくり振り返って、口開けたまま固まった。 女性：久しぶり、十四松くん 512 ななしの六つ子ファン 全員今回おしゃれしてる・・！ 513 ななしの六つ子ファン やだ・・かっこいい！ 514 ななしの六つ子ファン 女の子ｷﾀ――(ﾟ∀ﾟ)――!! 515 ななしの六つ子ファン はよ顔見せろ！ 516 ななしの六つ子ファン 声は可愛い感じだな 517 ななしの六つ子ファン 五男の表情が読めない… 518 実況者 顔は結構可愛い感じ。髪は茶色でそばかすとおさげが特徴 五男：・・・えっ？ 五男慌てて兄弟たち見回してる。 五男：・・・えっ？ 女性：ふふっｗｗ 女の子笑い出した。（以下彼女で表記） 彼女：私のこと、覚えてる？ 五男：・・・ 五男いきなり泣き出したｗｗｗダバーって感じでｗｗ 519 ななしの六つ子ファン かわいいじゃん！ 520 ななしの六つ子ファン 五男め。あんな可愛い子と・・羨ましい！！ 521 ななしの六つ子ファン もう目標達成してんじゃんｗｗｗ 522 ななしの六つ子ファン なんか喋れｗｗｗ 523 ななしの六つ子ファン キャパオーバーしてるｗｗｗ 524 実況者 兄弟は周りで微笑ましそうに見てるｗｗ 五男：あぅ・・・あぁ・・ﾋｸｯ う゛ぅ゛あ゛ーーーーん！！ ほんとに、また、あ゛え゛た゛！！ 彼女：うん。また、会えたね・・！ 六男：はい。十四松兄さん 六男がコップ１杯の水持ってきた。 それ受け取った五男が一気に飲み干してｗｗ頭と鼻と口と耳から水噴出したんだけどｗｗｗｗ 525 ななしの六つ子ファン えっ・・？ 526 ななしの六つ子ファン おいｗｗなんだこれｗｗｗ 527 ななしの六つ子ファン クッソシュールｗｗｗ 528 ななしの六つ子ファン 器用だな五男ｗｗｗ 529 ななつの六つ子ファン これ引かれるってｗｗｗ 530 実況者 彼女：・・・ﾌﾟｯ、あははははははっははは！！じゅ、十四松くんやめてあはははあはははははぅあ！！ えっ、彼女ちゃん倒れたんだけどｗｗ 五男周りでわたわたしてるｗｗあ、復活した 長男：どうだ十四松！俺たちのドッキリは！！ 五男：に゛い゛さ゛ああああ゛ん！！ありがどぉーー！！ 次男：・・よかったな十四松。ｸﾞｽｯ 三男：喜んでくれてよかったよ 四男：・・さっさと行って来い 六男：今日の為にデートプラン考えたんだよ！一緒に遊園地行ってきなよ！ 五男：み゛ん゛な゛・・！ 彼女：十四松くん・・ごめんなさい 五男：？ 531 ななしの六つ子ファン 大爆笑じゃんｗｗｗ 532 ななしの六つ子ファン あっ、やばい過呼吸ｗｗ 533 ななしの六つ子ファン 次男まで泣いてるじゃんｗｗ 534 ななしの六つ子ファン 私のパソコンのモニターも歪んできたじゃんか 535 ななしの六つ子ファン 良い兄弟愛だな・・クズとか思っててごめんｗｗ 536 ななしの六つ子ファン 基本的にはクズだからｗｗ 537 ななしの六つ子ファン つーかなんで彼女謝ったんだ？ 538 ななしの六つ子ファン しらね 539 実況者 いきなり謝られた意味が分からなくて困惑してる五男 五男：なんで？なんで謝るの？ 彼女：・・私、十四松くんに会う資格がないとずっと思ってた・・あなたは、私にとっては太陽みたいで、私みたいな人間はもう会っちゃいけないって・・そう、思ってた 五男：・・そんなこと！ 彼女：・・うん。十四松くんのお兄さんが私のところに訪ねてきたときそれは違う、ってそう言ってくれた。だから、もう謝らない。今日は、お礼を言いたかった・・ 五男：お礼を言うのは僕だよ・・君がいなかったら僕は死んじゃってたかもしれない 彼女：いえ、死んでたのは私。私は十四松くん。あなたに救われた。 こんな私でも、生きていたいって、思うようになった・・あなたに会ってから毎日見ていたモノクロの景色が 色鮮やかになって、楽しい、って思うようになったの ・・・ありがとう。十四松くん 彼女ちゃん泣いてる・・五男もまた泣き出した。 540 ななしの六つ子ファン やめろって！涙腺緩くなってんだって！ 541 ななしの六つ子ファン ・・こんな恋してみたかったな 542 ななしの六つ子ファン 青春やでぇ・・ 543 ななしの六つ子ファン 死ぬとか不穏な言葉聞こえたけど幸せになってよかったな！ 544 実況者 長男が泣いてる２人の肩ポンって叩いた。 長男：ほら十四松！女の子泣かせんじゃねーよ？男なら笑わせて来い！ 五男：にいさん・・ウスｯ！いってきマッスル！！ 長男：よーし！行って来い！ 五男が彼女ちゃんの手引っ張って出て行った。彼女ちゃんも会釈して着いていく。 次男：じゃあ、行くぜ と思ったら５人全員がカメラ抱えて尾行し始めたｗｗｗ ｽﾀｯﾌ：何やってんですか！？邪魔しないんじゃないんですか？ 三男：うるせえ結婚式で流すビデオ撮んだよ声入るから邪魔すんな！ ｽﾀｯﾌ：えぇ・・？ 六男：やっぱ一番の孫候補は十四松兄さんだったね 四男：・・それよりこの格好逆に目立つよ ５人色違いの風呂敷みたいなの被って尾行してるｗｗめっちゃ注目集めてんだけどｗｗ 545 ななしの六つ子ファン おいｗｗ結婚式ってｗｗｗ 546 ななしの六つ子ファン 気早すぎｗｗｗ 547 ななしの六つ子ファン その恰好やばいってｗｗｗ 548 ななしの六つ子ファン 通報されるぞｗｗｗ 549 ななしの六つ子ファン 待って俺これリアルに見たｗｗｗｗ 550 ななしの六つ子ファン ＞＞549　まじかよｗｗｗ 551 実況者 それから幸せそうな２人がダイジェストで流れてるから省略する。 今は暗くなって全員駅にいる。彼女ちゃんもう帰るみたい。 六男：せっかくだからうちに泊まればよかったのに・・母さんも父さんも喜んでOKすると思うよ？ 彼女：いえ、これ以上甘えるわけにはいきませんから 六男：ちぇー残念だなぁ… 四男：十四松。お前、何か言わなくていいの？ 五男：・・・ 四男：・・十四松？ 五男ずっと俯いてると思ったらキリッとした顔して彼女ちゃんの前に立った。 彼女：・・十四松くん？ 五男：あの、あのぼぼぼくと・・文通オナシャス！！ 五男めっちゃきれいに90度に頭下げた。彼女ちゃん吃驚してるｗｗ 五男：おれ、携帯とかあまり持ち歩かないし！でも、君とまだいっぱいいーっぱい話したい！それで、また会いたいっす！！ 彼女：・・喜んで！ 次は、私が十四松くんと釣り合えるようになったら、会いに行きます 五男：じゃあすぐ会えるね！ 彼女：・・もうちょっと、待っててほしい。私が、本当に自信をもってそう思えたら、その時は―― 五男：待ってる！僕ずっと待ってるよ！！ 彼女：ありがとう。十四松くん。 他のご家族の皆さんも、本当にありがとうございます。 あと、おそ松さん、ですよね？あなたの言葉がなければここに来ることもありませんでした。本当に、ありがとうございました！ 長男：いやー照れるねー！惚れちゃってもいいよ？ 彼女：いえ、私が好きなのは十四松くんですから！ 長男：ひゅー妬けるねえ！ 次男：マイシスターになる日を楽しみにしてるぜ？ 彼女：え、ああああのああの・・はい 三男：気早いよカラ松兄さん！ごめんなさい。また、十四松に会いに来てください 彼女：はい！もちろん！ 四男：・・アイツ、ほんといい奴だから、好きでいてくれると嬉しい 彼女：・・ずっと好きですよ 六男：今度来るときはまた教えてね！２人のデートをまた計画してあげる！ でも、十四松兄さんは何も考えてなくても面白いけどね！ 彼女：そうですね！十四松くんがいればそれだけで楽しいですから 次男の言葉に彼女ちゃん顔真っ赤にしながらも全員と話してた。 五男真っ赤になって蹲ってるｗｗ 552 ななしの六つ子ファン 文通ｗｗｗｗ 553 ななしの六つ子ファン 青春じゃないか・・！ 554 ななしの六つ子ファン 彼女ちゃん五男にゾッコンだなｗｗｗ 555 ななしの六つ子ファン 末永く爆発しろこの野郎！ 556 ななしの六つ子ファン これは照れるよｗｗｗ 557 実況者 彼女ちゃんが電車に乗って、動き出した。五男は手を振りながら走って追っかけてる。 五男：絶対手紙書くよ！またあおーね！またねぇーーーー！！！！ 彼女ちゃんも電車の中で泣きながら手振って画面ブラックアウト。 ここでカメラがスタジオに戻った。 五男恥ずかしそうにしてる。 六男：いやー良かったねぇ 三男：癒されるねぇ 長男：なごむわー 次男：感動したぜ・・ 四男：・・ｸﾞｽﾞｯ 司会：ところでこの女性とは今は・・？ 五男：こないだ手紙きたよー！僕も書いて送った！ 六男：もう手紙を開けるときなんかさ、ゆーっくり慎重に開けてんの！普通はビリビリに破いてるのにその子からの手紙だけ！しかもそれ宝物箱に綺麗に入れて保存してんの！ああもういじらしい！かわいい！！ 五男：トド松・・やめてくだせえ・・/// 次男：幸せそうで何よりじゃないか 四男：・・・ｽﾞﾋﾞｯ、ｽﾞｽﾞｯ 三男：ちょっと一松泣きすぎ！ほら、ティッシュ 四男：・・ありがど。ｽﾞﾋﾞｨ 長男：十四松。楽しかった？ 五男：めちゃくちゃ楽しかった！今度は兄さんたちも一緒に遊ぼうね！ 長男：おーそーだな 長男が五男の髪わしわしと撫でてるとこでこれは終了っぽい。 558 ななしの六つ子ファン 久しぶりに泣いたわ… 559 ななしの六つ子ファン ドッキリ見て初めて泣いた… 560 ななしの六つ子ファン 四男は泣きすぎｗｗｗ 561 ななしの六つ子ファン ところどころブラコン出してくるよなｗｗｗ 562 ななしの六つ子ファン いじらしい・・尊い・・ 563 ななしの六つ子ファン こんな甘酸っぱい青春したかった！ 564 ななしの六つ子ファン いつか結婚式テレビで流れてくんねーかなｗｗｗ 565 ななしの六つ子ファン いや流石にないだろｗｗｗ 566 ななしの六つ子ファン 期待だけはしとこーぜｗｗ 567 ななしの六つ子ファン だなｗｗ [newpage] 568 実況者 司会：・・ｸﾞｽｯ、会場がしんみりしてしまいましが、ここでこの雰囲気を笑いに変えるべく６人全員に番組側から仕掛けたドッキリを見せちゃいます！ ５人：あー 長男：あれ？そんなのあったっけ？ 三男：いやされたんじゃない？一緒にいなかったから知らないけど 四男：・・あれでしょ？ゴミ箱 五男：あれおもしろかったねー 司会：それではVTR！どうぞ！ VTR始まった。 テレビ局に呼ばれたらしい長男が局の廊下歩いてる。 ドッキリの内容はただゴミ箱から急に人が出てくるっていう単純なもの。ゴミ箱の中に芸人が潜んでる。 長男がゴミ箱の近くまで歩いてきた。芸人は飛び出すタイミング見計らってる。 長男：そーれゆけ全力バタンキュー🎵んーふふふふにゃんにゃんふふっふーん 何か歌いながら歩く長男に芸人が飛び出した！ 芸人：ウォォォオオオオオオオ！！ 長男：・・たーいとるは、おそまつさーん🎵 結果：無視+素通り 映像がスタジオに戻ったｗｗｗ 三男：酷くない！？可哀そうだろ！ 長男：えーこんなことあった？ 六男：結構なインパクトだったと思うけど！？ 長男：覚えてないなー 569 ななしの六つ子ファン 長男ｗｗｗｗｗｗｗ 570 ななしの六つ子ファン 何で気づかないの！？ 571 ななしの六つ子ファン 芸人かわいそうｗｗｗｗ 572 ななしの六つ子ファン 長男がにゃんにゃんって言った・・！にゃんにゃんって！ 573 ななしの六つ子ファン ＞572　違う。そうじゃない 574 ななしの六つ子ファン なに歌ってんだ長男ｗｗ 575 ななしの六つ子ファン もしかしてこれ全員に同じの仕掛けたんかｗｗ 576 ななしの六つ子ファン 弟たちの反応が気になるｗ 577 実況者 次現れたのは三男 普通に何するわけでもなく歩いてる。 そしてそのまま芸人が飛び出した！ 芸人：ウォォォオオオオアアアア！！ 三男：うわっ！！・・びっくりしたー 結果：普通にびっくりしただけ 映像はスタジオへ 六男：つまんなっ！！！なにこれ！くっそつまんない！ 三男：うるせぇ！これが普通だろ！！ 長男：なんかほんと童貞～って感じｗｗ 三男：関係ねーだろ！童貞って感じって何だよ！？ 五男：チョロ松兄さんまじうけるー！ 578 ななしの六つ子ファン なんか予想通りだったわｗｗｗ 579 ななしの六つ子ファン さすが自称まともｗｗｗ 580 ななしの六つ子ファン 六男はほんと三男罵倒するとき生き生きしてるよねｗｗｗ 581 ななしの六つ子ファン 童貞言うなや長男ｗｗ 582 ななしの六つ子ファン ブーメランやでｗｗ 583 実況者 次は六男が歩いてきた。 手にスマホ持ちながら歩いてる。 そして芸人が飛び出した。 芸人：ウォォォオオオオオオオ！！ 六男：わぁ！ちょっと何いきなり！？ と驚きながらｶｼｬｯ‼と音を立てて撮影した。 六男：もーびっくりさせないでよ・って、誤爆しちゃったじゃん！どうしてくれるわけ！？ 芸人：す、すみません・・失礼します 芸人そのままゴミ箱へリターン 結果：驚く+撮影+怒る 一方スタジオ 三男：こわっ！驚きながら写真撮るなよ！ 長男：さすがドライモンスターｗｗやることが違うねぇｗｗ 四男：・・なんで写真撮ったの？ 六男：女の子との話題ができるじゃない? 長男：えげつなｗｗ 三男：つーかなんで逆切れしてんだよ！お前は質悪いクレーマーか！ 六男：だって機嫌が悪い女の子を説得してる最中だったんだもん！結局フラれちゃったし！ ５人：ざまぁｗｗｗｗ 六男：クソ童貞どもめ・・ 584 ななしの六つ子ファン 質悪いクレーマーｗｗｗ 585 ななしの六つ子ファン 言い得て妙だなｗｗｗ 586 ななしの六つ子ファン 普通咄嗟に撮影なんてできないだろｗｗｗ 587 ななしの六つ子ファン しかもそれを笑い者にする気満々なんだろｗｗ 588 ななしの六つ子ファン この芸人不憫ｗｗｗ 589 実況者 次歩いてきたのは四男。 ポケットに手を入れて歩いてる。ゴミがポケットにあったのかゴミ箱のほうに近づいて行った。その途中でポケットから煮干しのようなものが落ちてきて拾おうとしゃがむ。 そのタイミングで芸人が出てきた。 芸人：ウォォォオオオ・・お、おお？ 四男：えっ・・？なに？ ２人の間に妙な沈黙が流れたｗｗｗ 四男：あの、これまさかドッキリってやつ？ 芸人：・・はい。そのまさかです 四男：あーすみませんねー。もう一回歩いてきましょうか？わざとびっくりしますけど 芸人：やめて！気遣わないで！ 結果：失敗+気遣い 変わってスタジオ 六男：かわいそうｗｗｗタイミング悪いｗｗｗ 長男：なんつータイミングで飛び出してくんだよｗｗｗ 三男：で、なんでお前リテイクしようとしたんだよｗｗｗ 次男：一松は優しいなー 五男：優しいっすねー 四男：・・・うるさい 590 ななしの六つ子ファン なｗｗんｗｗでｗｗ 591 ななしの六つ子ファン タイミングｗｗｗ 592 ななしの六つ子ファン 気遣われると逆に辛いよｗｗｗ 593 ななしの六つ子ファン 相変わらず天使コンビは天使だった 594 ななしの六つ子ファン ２人の周りにお花が見えた 595 ななしの六つ子ファン ＞＞594　俺も見える 596 ななしの六つ子ファン ＞＞594、595　眼科行けｗｗｗ 597 実況者 次歩いてるのは五男。 だがゴミ箱の近くでﾋﾟﾀｯと足を止めた。ネコ目でじーっとゴミ箱見てるｗｗ 多分進まないからｽﾀｯﾌが芸人にゴーサイン出したｗｗｗ 芸人：ウォォォオオオオオオオ！！ 五男：ウボゥェエエエエエエエ！！！ 芸人：ぎゃああああああああ！！？ 芸人驚いた勢いでゴミ箱の中に戻っていったｗｗｗ 結果：逆ドッキリ スタジオ内 五男：あれドッキリだったんだねー 三男：あー・・これは仕方ない 長男：流石にかわいそうだわｗｗ 六男：ドッキリ仕返されるとかｗｗしかも無自覚ｗｗ 四男：・・なんで止まってたの？ 五男：なんか変な匂いしたから！ 598 ななしの六つ子ファン ぶっはｗｗｗｗｗ 599 ななしの六つ子ファン これは酷いｗｗｗｗ 600 ななしの六つ子ファン 驚かすつもりが驚かされてんじゃんｗｗｗ 601 ななしの六つ子ファン 五男の顔の方がこわいｗｗｗ 602 ななしの六つ子ファン なんだあの顔の中心にブラックホールがある感じのｗｗ 603 ななしの六つ子ファン 逆にどうやったんだよｗｗｗ 604 ななしの六つ子ファン 変な匂いって言われる芸人まじ不憫ｗｗ 605 実況者 最後に歩いてきたのは次男 手鏡見ながら歩いてきてる。 そしてゴミ箱から芸人が飛び出した。 芸人：ウォォォオオオオオこのやろぉぉぉおおお！！ 次男：うぉああああああああああああ！？ 次男驚いて仰け反って尻餅ついた。 その勢いで持ってた手鏡が窓の外に飛んでいく。 次男：あああああマイミラァアアアアア！！！ 手鏡が落ちて落ち込んでる次男の元へ芸人が近づいて、次男の肩に手を置いた。 芸人：ありがとう！ほんとありがとう！！ そのまま芸人颯爽と立ち去って行った。 次男：・・えっ？ 結果：驚きすぎて鏡が犠牲となる 一方スタジオ 長男：ﾌｧｰｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 四男：ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 三男：おどろきすぎｗｗだろｗｗｗ 六男：鏡ｗｗｗｗ手鏡飛んでったｗｗｗｗこのやろぉおおお！ってｗｗｗｗｗｗ 五男：僕が驚かしたから怒っちゃったのかなー？ 次男：十四松のせいじゃないぞ・・・多分 606 ななしの六つ子ファン ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ 607 ななしの六つ子ファン 期待を裏切らない次男ｗｗｗｗｗ 608 ななしの六つ子ファン マイミラァアアアアア！ｗｗｗｗｗｗ 609 ななしの六つ子ファン あそこまで驚いてくれたらドッキリ冥利に尽きるよなｗｗｗ 610 ななしの六つ子ファン 兄弟笑いすぎｗｗｗｗ 611 ななしの六つ子ファン 長男と四男息してないんじゃねｗｗｗｗ 612 ななしの六つ子ファン このやろぉおおお！って絶対他の兄弟の鬱憤晴らしてるｗｗｗｗ 613 ななしの六つ子ファン 結局オチにされる次男まじ次男ｗｗｗｗ 続きます！ 十四松の話はあの９話を見て、この２人幸せにせなアカン・・！ということで書いちゃいました。 十四松の補足を後日プライベッターに投稿するかもです（確実にするとは言ってない）

前回までの話にブクマ・評価コメくださった皆様本当にありがとうございます！<br />ツイッターの方でも面白いといってくださる方が絡んできてくださってコミュ障である私にとっては嬉しい限りです笑<br /><br />では今回のお話は<br />『カラ松が記憶喪失になった日』<br />『十四松と、』<br />『ゴミ箱ドッキリ』<br /><br />の三本です！時系列はカラ松は５話直後、十四松は９話後しばらくたってから。<br />なので一松とカラ松のキャライメージは５話直後。一松事変のような感じじゃないです。<br />カラ松事変ネタ入ります。もうすでに１４５４７３回くらい書かれてる。13話ネタも少しだけ入ります。ただおそ松兄さんを弱らせたくてチョロ松をカッコよくしたいだけの話になった。<br /><br /><span style="color:#303acc;">2016年03月04日付のDL37位、女子DL53位。03月05日付のDL13位、女子DL11位に入りました！皆様本当にありがとうございます！</span>

【待ってました】ドッキリ実況スレ【六つ子たち】　Part2

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「見てごらん、青江。今日の空は雲一つない。実に綺麗な快晴だ」 季節は初夏。蒸し暑い気温も、風鈴の音が気分を涼やかにしてくれる。 縁側へと腰をかけた石切丸はうっすらと肌の上を這う汗をぬぐいながら後ろへと言葉を投げかけた。 そこはこじんまりとした六畳ほどの部屋があった。ここからなら綺麗な景色が見えるから、そんな理由で選ばれた部屋には一組の布団が敷かれている。 深緑を思わせる美しい長い髪は綺麗に布団にしまわれており、同じ色彩で彩られた瞳は固く閉じている。 くしゃりと、石切丸は泣きそうに顔を歪めた。 「……一生分の昼寝にしてはちょっと長すぎるかな」 石切丸の言葉への返事は無かった。 半年前、その本丸の審神者は自身の担当職員に呼び出されていた。 「引き継ぎをしてほしい刀剣男士がいるのです」 正直言うとこういった話は初めてではなかった。審神者というのも一筋縄ではいかない職業である。何らかの事情で審神者業を続けられなくなったり、加齢を理由に退役したり、──一番最悪なケースは審神者達が俗称で呼ぶブラック本丸を運営し捕まったり。まったくもって色々事情があるのだ。そんな時、せっかく顕現していただいた刀剣男士が次の活躍の場を見つけられるようその刀剣に合った次の本丸と言うものが政府側により提示される。そうして刀剣側が了承すれば改めて本丸側へ通知がくるのだ。 この審神者が他本丸の刀剣男士を引き継ぐのはこれが初めてではなかった。前にも老い先短いからと退役することになった審神者から刀剣男士を一振り引き継いでいる。 「どのような本丸からの引き継ぎでしょうか。それによってお受けできるか検討します」 審神者がそう言えば、職員は苦虫を潰したような顔をする。その顔を見てすぐに、ろくなことにならないたと審神者の勘が告げていた。 「……審神者様は今巷で騒がれている心無い者が審神者となった本丸の存在は御存知でしょうか？」 「もしかして、ブラック本丸のことですか？」 「ええ、ええ。皆さまがそう呼ぶ、それのことでございます」 直接口に出すのも憚られる、職員はそんな顔をしていた。 実際にはブラック本丸というのは造語だ。そもそも政府側としてはそのような所業を行う審神者が存在すること自体にわかには信じがたい自体なのである。戦争ということが分からない馬鹿が審神者をやるとこうなる、とはとある刀剣男士の証言だ。 「ブラック本丸からの引き継ぎですか……。私自身は引き受けたいのは山々なのですが、その刀剣男士達の状態にもよります。手がつけられない状況となりますと、うちの刀剣男士への危害も懸念されますから」 「ええ、そう仰るのはごもっともです」 同じ人間にそうして危害を加えられた刀剣男士に対して人間という立場から申し訳ないとは思うが、それでもそれだけで引き受けられるという話ではなかった。審神者にも大切な自分の刀剣がある。 「今回引き継ぎが予定されている刀剣男士は石切丸、にっかり青江の二振りです。二振りの状態ということですが、危害云々に関しましては心配は御無用かと」 「……詳しくお願いいたします」 「今回の引き継ぎは石切丸からの要望です。静かに過ごせる場所ならばどこでも良い、ということでなんらかのアクションが起こらない限り刀剣側が何かをしてくるということはないでしょう」 それはどれほどのことをされてきたのだろうか。戦いに出るために顕現された刀剣男士がそのような事を言い出す理由など想像に難くない。 石切丸という刀剣男士が比較的温厚な性格をしていることも今回の発言に起因しているのかもしれない。と、考えてはて、にっかり青江はどうなのだろうかと思い至る。 「それともう一つ」 それを聞く前に職員に遮られた。 渋い顔を更に歪め、はたしてそれはこんな場所でしていい表情なのか怪しいくらい悔しさと同情が入り混じった顔だった。 「にっかり青江に関しましては現在昏睡状態にあります」 すっと、審神者は目を細めた。 「昏睡状態……。ええと、どこか悪いのですか？」 「いいえ、手入れもされて状態としては完全に問題はありません。しかし精神面で多大な負荷がかかったために今日までずっと眠り続けている状態です」 「何があったかは、本人達の名誉のために聞かない方が良いのでしょうね」 「ええ、そうですね。御希望ならば書面にて受け渡しをしようかと思っていましたが、貴方様の想像通りの事が行われていたと想像してくださって構いません」 江雪左文字の言葉を借りるならば、この世は地獄なのだろう。まさしく彼らにとっては。 「引き継ぎの意思は完全に石切丸の方からの要望となっています」 「そう、でしょうね」 昏睡状態だと言うのならば青江の意思ではないことは当然である。 「だけどどうして、石切丸の要望でにっかり青江も引き継ぎなのでしょうか。二人は仲が良かったのですか」 「元の本丸でにっかり青江と最も仲が良かった……いえ、もう申し上げてしまいましょう。にっかり青江と恋人関係にあったのが石切丸です」 審神者は政府職員が顔をしかめていた訳を理解した。ああ、そうかだから。 不思議な話ではなかった。刀剣と主が結ばれるような事例も、刀剣同士がそういう関係になることがあるのも、こちら側の世界ではあまり珍しい話でもない。 「……今回の件が大変扱いづらいものだということは理解しました」 「審神者様には無理を言いますが、ぜひともこの二振りをご検討くださいませんか。無論今回の件につきましては政府から資金が出ます。この資金は本来元の本丸で刀剣のために使われるはずだったものを使うだけですので審神者様は気兼ねなく受け取っていただければ」 事情を聴くだけでそれは難しいものだとわかる。と、同時にそんな二人に振りかかった災難に同情もした。いや、この場合は災難などという言葉で片付けてはいけないのだろう。 すでに審神者が二振りを受け入れるだろうという前提で話が進んでいるのが分かった。審神者もここまで聞いて否と答える気がなくなってしまったのも事実だ。 「その、何故私の本丸か聞いてもよろしいでしょうか。申し訳ないのですが私自身が何かそういうのに長けているわけでも無く刀剣男士達のことを考えてもいたって普通の本丸だと思います」 「今回の貴方の本丸が選定された理由としましては、にっかり青江、石切丸の両刀剣男士が顕現していないというところです。こちらもそのような本丸を探すのが難しく、是非とも引き受けていただきたいと思っております」 審神者の本丸には珍しくも長らく石切丸とにっかり青江との縁が無かった。積極的に刀集めをしてるわけでもなく、日々戦いに身を費やしているからだといえよう。 引き継ぎの際にその刀剣を所持していない、というのは元々いる同種の刀剣に混乱を与えないようにということなのだろう。ブラック本丸からの引き継ぎならなおさら。だが、ただそれだけでいいというのだろうか。 怪訝な顔をする審神者に職員は静かに告げた。 「それに、その『普通』というものを彼は一番望んでいるのです」　 「いしきりまるとにっかりあおえがくるの、たのしみですね」 「ああ、そうだな」 受け入れの準備は早急に行われた。審神者は本丸の全刀剣に周知させ、そして容易なことは口にしないよう言い含めた。 ただ、長らく来なかった二振が来るということで一部の刀剣が楽しみにているのも事実だった。その筆頭が石切丸も属する三条派である。先述刀集めはしていないと述べた審神者であったが幸運なことに三条派は今剣、岩隔、三日月宗近が揃っている。 その三振が石切丸の来訪を心から待ち望んでいたのは言うまでもないだろう。 かくして、二振は来た。昏睡しているにっかり青江をどう運んでくるのだろうと皆疑問に思っていたが、玄関先で目にした光景に目を丸くすることになるのだった。 「お世話になるよ」 幾重にも重ねられた衣を纏った青江を大事そうに抱えた石切丸は、皆にそう言って会釈をした。 「来て早々すまない、彼を寝かせたいのだけれど部屋はもうあるのかな」 「ふ、布団の準備もできています！」 弾かれるように答えた審神者はささ、と部屋まで促した。 審神者の後ろをゆっくりと石切丸がついていく。さらにその後ろを近侍である加州が歩く。 「青江さんの部屋はこちらになります。石切丸さんも近くの方がいいと思ったので隣の部屋をご用意しました。襖を開ければ簡単に行き来できます」 くるりと見回す。新品の畳の匂い、のどかな外の空気、そしてこの本丸の匂い。 「ああ、いい部屋だね」 「ここからはよく庭が見えます。少しでも穏やかでいられるように、皆で場所を考えました」 なかでも率先して部屋選びをしたのは今剣だった。 きっと綺麗な景色の方が喜ぶだろう、そう言って一番見晴らしのいい部屋をせっせと掃除したのだ。短刀達はそんな今剣に触発されて、庭に綺麗な花を植え始めた。しばらくは庭の景色にも気を使わねばならないな、と審神者は苦笑したものだ。 敷かれていた布団にゆっくりと青江を寝かせた石切丸は、自信もその傍らに座り障子の向こうから見える空を見上げた。 「私も青江も、あの本丸でついに青空を拝むことはなかったから。きっと喜ぶよ」 青空を見たことがない、その言葉に審神者もそして近侍の加州清光も瞠目した。 青空など、庭の景色さえいじればいくらでも見ることができるのだ。そもそも本丸とは審神者一人一人に用意された特別な空間だ。この空も擬似的であり、実際の空ではない。 それでも青空を見たことがないというならばきっと彼らのいた本丸はどんよりと曇っていたのだろう。審神者の霊力で回している本丸でそんなことが起こるとすれば、きっとその審神者がろくでもなかったのだろうなとは用意に検討がつく。 「彼がゆっくり過ごせるのならなにも文句はない。負担が大きいなら私が青江の分まで働こう」 「そんなに気負わないでください。お二人を養うくらいこの本丸ではわけありません」 それに政府から援助金来てますし……、と審神者が小さく呟けば苦笑する。それの本来の用途はおそらく石切丸も知っているのだろう。 だから審神者は疑問に思った。石切丸は憎くないのだろうかと。今傍らで眠り続けている己の恋人をそうして追いやったのは前任の審神者であり、彼らに使われるはずだったものはきっとその審神者の私腹の肥やしになっていたのだろう。 だがそれを口に出すほど審神者は愚かでは無かった。 「ありがとう、新しい主」 主、と言う言葉はどんな思いで紡がれたのだろうか。きっと審神者というものに良い感情などないだろうに、石切丸は感謝の言葉を言って見せた。 しかし何故だろうか。審神者には石切丸のそれは、謝罪にも聞こえた気がした。 [newpage] 石切丸とにっかり青江が来て丸一日、本丸に慣れるまでしばらくはゆっくりするようにと伝えてあるためにとくに何か仕事をまかしているわけではない。暇すぎるようなら内番などから任せようと考えているところだ。 石切丸があれからアクションを起こしてくる様子は特に無かった。初めて全員の前に姿を現した時は少し萎縮していたようだったが、すぐに今剣や三日月宗近が構い倒していたために壁ができるという懸念も幾ばくかは薄れたようだった。 「うーん、二人の様子はどう？」 審神者は書類の手を止めて近侍の加州へと話題を振った。 「にっかり青江はずーっと寝たままだけど、石切丸は自分の部屋には寝るとき以外ほとんどいないみたい」 「え？じゃあいつもどこにいるの」 「にっかり青江の部屋の前、縁側に腰掛けてまったりしてるのをさっき見かけたよ」 「中じゃなくて？」 おもわず部屋の前で鎮座する石切丸を想像して審神者は頭に疑問符を浮かべる。 「障子を開け放ってるからまあ近くにいるってことになるんじゃないの？」 「なんでまたそんなところに……？」 てっきり青江と同じ部屋にでもいるかと思っていた審神者は少々意外に思えた。この本丸に初めて来たときに青江を大事そうに抱き上げていた石切丸を見て、てっきり近くにいないと駄目かと思っていたのだ。 「うーん、石切丸は空を見てるかな」 「空……？」 そこではたと思い出した。 きっと喜ぶよ、昨日そう言っていたのは石切丸だ。二人にとって青空というものが珍しかったのならばそれも頷ける。そうか、と審神者は頷いた。 「きっとにっかり青江に空を見せてあげたいのかな。空だけじゃなくって色んなものを」 せっかくの良い庭なのだ、障子を閉め切っていたら何にもならないだろう。楽しんでくれているのならば、庭を綺麗にした彼らも報われると言うものだ。 「聞いていた通り、精神状態は悪くないみたいだね。ならむしろ何もさせないのは退屈に感じてしまうかな」 「三日月さんとか今剣がかまってたし、大丈夫だと思うよ主」 同じ刀派同士親睦を深めているようで審神者は少しばかり安堵した。石切丸自身は審神者の見たところ穏やかであり、こちらとの意思疎通にまったく問題がない。働く姿勢も見せているのだと言うから少々勤勉過ぎるところがもしかしたら本人にとっての難点なのかもしれないが。 「でもその二人だって出陣したら石切丸さんは暇だろう？」 「うーん……、急に石切丸を部隊の編成に組み込むのも難しいしまずは内番からじゃない？」 石切丸の練度は中程度、とはいっても大太刀でその練度ということは十分この本丸でも最前線に出られる帯にいる。しかしだからといって今の部隊には空きが無く、組み直すとしても出陣予定などもあるためにすぐにとはいかなかった。 「それに多分だけど、石切丸だって気を使われ過ぎるのも気にすると思うよ。見た感じ精神的に参ってるとかそう言うのじゃないから余計に」 「そっかあ、じゃあ内番からやってもらうようにするかな。第一部隊の出陣が非番になったときに長谷部に案内してもらおうか」 「うわっ、長谷部スパルタだから石切丸大丈夫かなあ」 影で鬼の第一部隊長と呼ばれている自身のもう一人の相棒を思い浮かる。 お手柔らかに頼むぞー、と遠くから念を送った。 そしてしばらくしたある日。 「この本丸に来たからにはこの本丸のやり方を覚えてもらう！これは主命だぞ」 ドドン、とまるで効果音が付きそうな勢いでやってきたのはこの本丸で第一部隊隊長であるというへし切り長谷部だった。 この本丸では近侍と第一部隊長は分業されており、比較的古参である長谷部が隊長の任を担っている。 「は、はあよろしく頼むよ」 戸惑いながらそう返した石切丸はというと現在進行形で濡らした手拭いで青江を拭ってやっているところだった。いくら眠り続けているだけとはいえ、こまめにこうして清潔にしておかないときっと青江が起きた時に気分も悪かろうという石切丸の考えだ。ここ数日は毎日決まった時間にそうして綺麗にしている。 そんな状況だったとはつゆ知らず、青江の部屋の障子を開けてそう言い放った長谷部は目を丸くして固まってしまった。 「教えていただけるならありがたいのだけれど、少し待ってもらっても良いかな。あとは髪を拭うだけなんだけど、何分量が多くてね」 布団の外へと出されているにっかり青江の髪は尋常な長さではなかった。それをせっせと一房一房拭ってやっている石切丸を長谷部は無言で見下ろす。 「……いつもこんなことを？」 「青江が眠り続けてからね。さすがに抱えて風呂に入るっていうのは重労働だから、青江には悪いけどこれで我慢してもらっているんだ」 すうすう、と穏やかに寝ている青江は石切丸に体を動かされようと拭われようとまったく起きる気配は無い。どういう原理かは長谷部にもさっぱり分からなかったが、審神者曰く心が疲れてしまっているのだと言う事だった。前の本丸がいかに酷い場所だったかも、随分と言葉を選んでまるく言っていたが長谷部は己が主の言わんとしていたことも分かっていた。 「……お前は主に二人分働くと言ったそうだな」 「そうだね。青江が眠り続けている以上、それを背負うのは私の役目だ。顕現した以上、本来は敵と戦うためにあるのが私達だからね」 いつ目覚めるとも分からない青江のためにそこまでするのは恋仲だから。事情は分かっていてもやりきれないものだな、と長谷部は表情には出さずに同情する。 「そう意気込む前にまずはこの本丸での役割を覚えることだ」 「おや、手厳しい」 やっと髪を拭い終わったのか、石切丸は使い終わった手ぬぐいを桶に戻して抱えた。立ち際にささっと青江の身だしなみを整えることも忘れはしない。 「ああ、じゃあ頼むよ長谷部……と呼んで良かったかな。行きがけに洗濯場に手ぬぐいを出しに行っても良いかな。特に何も言われてないから、これから出陣するってわけでもないだろう？」 「そうだな、その後で構わん。名前は好きに呼べ」 この本丸に来てから約一週間、ようやっとこの本丸の生活に石切丸も慣れてきた。今のところ特に仕事は割り当てられておらず、同じ刀派の刀剣達と談話するかはたまた退屈だろうと審神者が持ってきた書物を読むばかりである。そろそろ身体が鈍りそうだ、と思っていたところで丁度来たのが長谷部である。主命と言うからには審神者の言い付けなのだろう。若いのに随分と気が効く審神者に巡り合ったものだ、と新しい主を心の中で称賛した。 審神者には青江のことからなにまで面倒を見てもらっている。いつ目覚めぬともわからぬ刀剣を一振り抱えるだけでも負担だというのに嫌な顔を見せたことは無かった。 少しだけ意識を遠くへ飛ばしていた石切丸は慌てて顔を上げる。 「一体何を教えてくれるんだい？」 「今日のところは内番だな。馬の世話は短刀達が進んでやっているからいいとして、畑仕事と手合わせの仕組みは覚えてもらわないと困る」 「なるほど、畑か」 なにか珍しいものでも聞いたかのような石切丸の表情に、長谷部は訝しげに聞く。 「おい、畑仕事はまさかはじめてか？」 「前の本丸でそれらしき場所はあったけど、まさに不毛の大地という名にふさわしい場所だったね」 それを聞いて微妙な顔になる。一体全体どんな本丸だったのか、失礼ながらも自身の主が今の主で良かったと長谷部は心の底から思ってしまった。 「では最初から説明した方が良いな」 植える品種と当番の説明だけで済むかと思っていた工程だったが、どうやら最初からになってしまったようだった。眉間に寄った皺を思わず手でのばしながら説明する。 「さすがに畑がどんなところか、などとは説明しなくてもいいな？本丸の畑は基本的に一週間ほどで植物が育つようにその場だけ時空が歪められている。主が畑仕事をできないのは、人の身でそう長くその場所にいることはかなわないからだ」 いうなれば浦島太郎状態になってしまう、と言えばだろうか。目を丸くする石切丸に、本当に何も知らないのだなと長谷部は見やった。 「一週間で作物が育つのかい？それはすごいね」 「むしろ一週間で育ってくれないとこの本丸の大食いの連中のせいで足りるものも足りなくなる」 吐き捨てるように言う長谷部に石切丸は苦笑する。初めて大広間で食事をした時は、初めての食事に吃驚する前に周りの刀剣達の食べっぷりにびっくりしたものだった。特に御手杵や同田貫といった面々はご飯をどんぶりで食べていたくらいで、お茶碗一杯を平らげるのに精いっぱいの石切丸にはとてもじゃないが真似はできなかった。 「基本的には軍手で作業してくれ。素手で畑仕事をして本丸の中に泥を入られては敵わないからな」 一部のがさつな刀剣達が泥だらけで本丸にはいるせいで、本丸の掃除が大変だと苦情があがっているのだ。外のものは持ち込まない、を信条に今は長谷部によって厳しく監視されている。 そうとは知らない石切丸はただそういうものなのかと頷くばかりであった。 「石切丸、道具の使い方は大丈夫か？」 「使い方は見たことがあるよ。これでも神社暮らしで現世の営みは見てきたからね。ただ実際使えるかどうかは分からないから練習が必要かもしれないな」 「くだらない事を聞いて悪かったな。いやなに、同じ刀派の三日月宗近は道具の使い方が分からずに鍬を吹き飛ばした前科があるもので」 「……それは、同じ三条派として大変申し訳ないと言うか」 あの少々ほけほけした自称爺ならば十分にあり得る行動と言えよう。しかし申し訳ないと思いつつも同じ三条派だとはいえあの究極のマイペースをどうにかできるかと言えば、どうにもならない。最早それは畑仕事をやらせない方がいいのではないだろうか、と石切丸は思ったが石切丸が思ったと言う事はそれはとっくのとうに他の刀剣も感じているはずで、きっと三日月宗近は当番から外されてるに違いなかった。 二人はてくてくと歩き、本丸の裏手へと進んで行く。 「うちの本丸で植える品種は基本的に根菜類だ。それ以外の野菜は基本的に外部から買っているからな」 「これが……」 葉を見るに人参、大根などが埋まっているであろう畑に案内され、石切丸は視界一杯にひろがる緑に感動していた。これが本来の形なのか、と思えばやはり自分達がいままでいたところは本当に吐き溜め以下の場所だったに違いない。 「実は知識では知っていてもにんじんの実物を見たのもこの本丸に来てからなんだ。本当に自分は何も知らないんだとつくづく思い知らされる」 「……あの端っこのスペースは短刀達が植えた苺だから弄らないでくれ。実りが良ければ週に一度苺が大量に収穫できる」 長谷部は石切丸の言葉に返答するでもなく言葉を続けた。単に気の利いた言葉が思いつかなかったのだ。 可愛らしい立て札のついたスペースではやや赤みがかった未熟な実が沢山ついている。今日の当番なのだろうか、畑からこちらに手を振る短刀達に石切丸は手を振り返した。 「青江が前に……きゅうりを育ててみたいと言っていたな」 ──あの大きさと色がたまらないよね、……きゅうりのことだよ？ そんな声がどこからか聞こえてきた気がして、石切丸は首を振った。まったくもって幻聴だ。 本当に青江の声だったのならばきっと石切丸の視界は涙で歪んでいるに違いないからだ。だって石切丸の視界はどこまでも開けていて、この綺麗な景色を映し出していた。 「色が自分に似てるって言ってね、まあ知識でしか知らないものなんだけど」 「きゅうり……きゅうりか。この本丸では育ててはいないが、希望すればきゅうりも育てられるかもしれないぞ」 ふむ、と長谷部は顎に手を当てて思案した。 きゅうりは根菜類ではないが、さほど栽培が難しい野菜でもない。主に言えば二つ返事できゅうりの苗が届くに違いなかった。 「はは、別に青江のためにきゅうり畑を増やさなくてもいいんだよ？」 「そうか？いや──」 「ん？」 長谷部は今、決して青江のためにきゅうり畑を増やそうなどと提案したわけではなかった。ただどうしようもなく泣きだしそうな顔をした石切丸へ、そうやって似ているというきゅうりを育てれば少しはも気分が晴れるのではないか、と一瞬そんな思いから口にしただけなのだ。 だがすぐに、自分は何を考えているのだと否定する。長谷部にとっては主命第一であって、それ以外は基本的に主のためになると思ったら自ら行動を起こす。しかしこれは少し違った。些か感情移入し過ぎか、調子が狂うような感覚を無視しながら無理に話を戻す。 「来週あたりに誰かと組ませて畑仕事をさせるから、その時に収穫と種まきの両方が練習できるだろう。当番はだいたい二週間に一度は回ってくる」 「承知したよ」 特に気にしたふうでも無く石切丸も返答した。 もう悲しそうな表情はしていなかった。 「あとは道場にも案内しておこう。手合わせの内番が回ってくることは多々あるからな。組み合わせは主の采配によるが、刀剣が一番する仕事といっても良いだろう」 「今日の手合わせはすでに終了しているようだな」 入口の名札掛けの場所を一瞥し、長谷部は道場を見渡した。石切丸も名札掛けを見てみたが、打刀二本の名前が書かれた木札が掛っている。なるほど当番の者はそこに自身の名札を掛けなければならないのかと、初日に貰った名札の使い道がようやく判明して頷く。 ピカピカに磨かれた床に、かすかだが汗の匂いがする。同じ本丸内の刀剣達が切磋琢磨する場所なのだろう。 おい、と振り返った長谷部は道場を見て呆けている石切丸を胡乱気な表情で見る。 「まさか手合わせも初めてとか言わないだろうな」 「顕現されてから今まで、本丸にいる時間の方が短かったからね。実戦経験だけは豊富だよ」 茶目っ気たっぷりにそう言われれば、長谷部は顔が引きつる重いだった。ということは初めてという事なのだ。 「おい、手合わせはあくまで手合わせだから力加減を間違えられては困るぞ。ただでさえ大太刀で力だけは強いんだ」 「うーん、そうは言われても」 石切丸の微妙な表情からいまいち仲間同士での打ち合い、というものが掴めないのだろうと推測を立てる。下手に練度がある分、手加減無しでぶつかれば下手な刀剣ならば折れてしまう可能性もあった。そんなことになれば審神者に顔向けできないうえに、内番をしっかり教えるようにという主命に背くことになる。 「……なら、今から練習してみるか」 考えて、長谷部が出した案は百聞は一見に如かずということであった。 「おや、いいのかい？」 「真剣に取り組むということと本気で取り組むと言うものの違いを分からずに手合わせに参加されてもこちらがおっかないからな」 下足を脱ぎ道場に上がり込んだ長谷部はいまだ入口で立ち呆ける石切丸に視線をやった。早くこい、とばかりに顎でしゃくればおずおずと入ってくる。 「刀は自分の物を使え。ここはたとえ床が傷つこうと壁が傷つこうと後で自動で気に治るような仕組みになっているからな」 「それはすごい。是非石切神社もこの仕組みにしたいものだ」 なんだか抜けたような解答をされ、長谷部は力が抜けた。この天然加減は御神刀故なのだろうか。、 「それにしても木刀とかではないんだね」 「大太刀サイズの木刀はない。お前が初めての大太刀だからな、発注が済んでないんだ」 そもそも槍からして木刀など使っているところは見たことがない。本当に自身で戦うのが手合わせの常であった。 スラリと鈍く光る刀身を抜き、長谷部は石切丸に向かって構えを取る。 同じくして石切丸も長谷部の正面に構えた。 「言っては何だが、俺はこの本丸で一番練度が高い」 第一部隊長を任されているのだ、当然とも言えよう。次点で練度が高いとすれば近侍であり初期刀の加州清光だ。 「それは私達が来るまでの話し、と取ってもいいかな？」 「何？」 長谷部は心してかかってこい、という意味合いで言っただけではあるが目の前の石切丸は真剣に、そして少しだけ微笑んでいたような気がした。 「俺とお前の練度はさほど差が無かったと思うが？」 「むしろ君の方が少しだけ高いだろうね」 ならば何故、そんな余裕有り余るような表情をしているのだろうか。 部隊長として戦線に出る刀剣の情報は把握している。 石切丸、打撃は随一ではあるが少々早さに欠ける刀剣だった。自分とは正反対なそれに、さてどう扱おうかと悩んだのはつい数日前のことである。 「伊達に戦いしかしてこなかったところを、見せてあげよう」 そう言うや否や、石切丸から気迫のようなものを感じた。長谷部は思わず喉をごくりと鳴らし、神経を張り詰めた。 いつのまにか手合いが始まっていた。 じりり、とどちらとも動けずに睨みあいが続く。 玄人の試合はそれこそ何時間もじっとしていることもあると言う。研ぎ澄まされた神経に今は外の鳥のさえずりさえも耳に入ってこない。どちらか緊張が途切れた方が殺られる、長谷部はそう確信を持っていた。 まるで永遠にも感じる短い時間の中、しかし二人の読み合いは次の瞬間石切丸が踏み込んだことによって崩れた。 「っ……！」 その長さを活かした豪快かつ大胆な手合いに、しかし長谷部は自身の機動で十分に避けて見せた。 長谷部の頭上を豪速で空気が通り抜け、空気を切り裂く音がした。 「随分と、大ぶりだなァっ！」 そんなものではへし切長谷部を捉えることなどできない、と口元を釣り上げる。 その重い刀身を振り抜いてしまった石切丸に今の体勢から長谷部に打ち込むことはできない。長谷部は自身の柄の方をくるりと上に向け、そのまま刀を握る石切丸の手を殴打した。一瞬だけ石切丸の手から柄が離れる。 「ちっ」 御神刀あるまじき舌うちが聞こえた気がしたが、長谷部の思惑通り刀は軌道を逸れる。柄を返し一撃、石切丸に叩きこめば勝負は決まると思った。素早さも、体勢も全て長谷部に味方をしている。峰を向けた刀身が石切丸の腹部へと吸い込まれるようにして入っていく。 長谷部は取った、と確信していた。 不意に、足元が宙を浮く。いや、完全に足元への注意が逸れていた長谷部は石切丸に足を薙ぎ払われたのである。 疑問に思う暇も無く視界が一瞬で廻った。 次の瞬間、首に冷たい感触が走る。そして次いで背面に広がる鈍い鈍痛に呻いた。 長谷部はゆっくりと恐る恐る視線をずらした。首の薄皮一枚を破ったそれは道場の床に深々と刺さっている。それがわざと外されたものだと言う事は、この手合わせの中で石切丸の力量を十分に見抜いていた長谷部には良く分かっていた。 「お綺麗な剣術だけかとおもったかい？残念ながらもっぱら顕現されてからは戦場育ちでね」 手も足も出てしまうんだよ、と付け加えられた。 これのどこが御神刀なのだろうか、と長谷部はいまだ視界に映る刀身を端で捉えながら戦々恐々とした。 敵を打つためならいっそ綺麗なまでに手段を選ばないということなのだろう。 「……見事だった」 悔しげに長谷部が吐き捨てた。 今のは練度差ではなく、純粋に命の取り合いで石切丸の方が上手だったということだ。むしろそちらの方がよほど悔しいが。 「はは、ありがとう。でも君が柄で私を殴ってきたことにも驚いたよ」 おかげで一気に道場から戦場にいる気分を味わえた、と石切丸はいけしゃあしゃあと言う。 もし石切丸と今後戦場で肩を並べるようなことがあればきっとそこには修羅が見られるに違いない。 「まさか、神社暮らしとは思えん様だ」 遠まわしに箱入りだと言われた石切丸は気にしたようでもなく答える。 「そうだね。そうじゃなきゃ、彼の背中を守らせてはもらえなかった」 「……？」 石切丸はどこか遠くに思いを馳せる表情をする。そんな表情をしている時はきっと青江の事を考えているのだろう、とこの短い付き合いの中で長谷部は察せるようになっていた。きゅうりの話をしていたあの時の表情とあまりにも重なるのだ。 「実を言うと、私の練度は青江の足元にも及ばなくてね。まあ向こうは練度上限値に達していたから無理もないんだけど」 後から聞かされた事実にああ、そういうことかと納得する。先ほどの『私達が来るまで』と言う言葉はここに掛っているのだろう。 練度が己よりはるかに高い青江に追いつけるようになるまでにはきっと長谷部の想像もつかない葛藤があったのだろう。 昏睡している青江の情報などそもそも審神者に聞きもしなかった長谷部はその判断を少しばかり悔やんだ。もしそれを聞いていたらここに這いつくばっていたのはどちらだっただろうか。いいや、それでもきっと石切丸に見下ろされていたに違いないと思い直す。 刺さったままの刀を交わし、前髪をくしゃりと掻きあげながら上体を起こした長谷部は深いため息をついた。 潔く負けた。ここが戦場ならば今ごろ長谷部は破壊されていたに違いない。 どこか清々する気持ちとは裏腹に、どこまでも壁があるような表情をしている石切丸には少しだけ腹が立った。 そうしてキッと睨めば石切丸はきょとんとするばかりである。 しかしこの御神刀にはどうしても一言いっておかねばらなない、と思ったのだ。 「……お前がどんな思いを背負ってこの本丸に来たかは俺の預かり知るところではない。」 だが勘違いをしてもらっては困るのだ。そんな他人みたいな顔をされて欲しくなどなかった。 たしかに石切丸は青江しか見ていないのかもしれないが、今目の前にいるのは長谷部だった。 石切丸と青江の世界だけで終わらせてたまるか。 「だがもう、ここはお前の本丸でもある」 「長谷部……」 「この本丸の一員となったからには、俺達にもそれを背負う責務はある。お前は早く一人分の仕事ができるようになることだな」 言外に青江の分は自分達も負う、そう言いきった長谷部に石切丸は目を見開いた。 ここは二人だけの世界ではない。審神者も含めた本丸全員の世界だ。ならば石切丸が何かを背負わなくてはならないと言うのならばそれは等しく長谷部達も負うべきものなのだ。 「なんだ？」 ふん、と腕を組みこちらを見上げる男に石切丸は恐る恐る口を開いた。 「いや、……そういうことならよろしく頼むよ」 ふふん、と得意げに長谷部は口元を釣り上げた。 「当然だ、主のために俺は最大限のことをするまでだ」 [newpage] 「すまないけど、厨を借りられるかい？」 夕飯後、夕餉の片づけをしていた燭台切と薬研は厨の扉から苦笑いをしながら顔を覗かせた石切丸に目を丸くした。 それだけではなく、石切丸の両脇には短刀達がきらきらとした目でぴたりとひっついている。 「おいおい、そんな大所帯でどうしたんだ」 皿を拭く手を止めた薬研は呆れた目で後ろの弟含む短刀らへ声をかける。 「石切丸さん、甘味作れるんだって！」 「作ってくださいってお頼みしたら、夕食後に厨が使えたらいいよって！」 「というわけなんだ」 どういうわけなんだ、と燭台切は頭を掻く。 新入りである石切丸と本丸の刀剣達が仲良くするのは実に良い事だが、短刀達の人懐っこさには恐れ入る。ただ、菓子を作るのは良いのだが二人としては片付けたばかりの厨をまた掘り返す羽目になるんじゃないかという懸念があった。 そんな表情を読み取ったのか、石切丸が穏やかな顔で言う。 「片付けはちゃんとやっておくよ。戻す場所は後で聞きに行くかもしれないけど」 「分かった。そんなら自由に使ってくれ。もちろん俺達の分甘味もよろしく頼むぜ？」 「分かってるよ」 許可が出たことでわっと短刀達が歓喜の声を上げる。手をしっかり洗うんだよ、という石切丸の声に素直に手を洗いに行った。石切丸自身も袖を襷掛けにし、腕まで良く手を洗う。 「それで、石切丸さんは何をつくるの？」 「プリンだよ。主に聞いたら今朝卵が新しく来ているはずだから、甘味に使うくらいは残ってるはずだって言っていたしね」 石切丸の言葉に意外そうに燭台切と薬研はお互いの顔を見合わせた。平安生まれの刀剣にしては随分と現代らしいものだと思ったからだ。 「じゃあ蒸し器とか必要かな？」 「ああ、そんな大がかりなものはいらないんだ。鍋を貸してもらったら作れるよ」 「鍋だけでいいのかい？」 「強いていえば卵を掻き混ぜる箸と容器も欲しいな」 「何でも使ってくれ、その程度なら洗うのも簡単だしな」 冷蔵庫から卵を四つほど、そして牛乳を取り出す。 取りだした卵を片手で器用に割りながら、容器に全て落として行った。石切丸は基本的には白身も君も全て使う派だった。 泡立て気を薬研に渡されたが手でやんわりと断り、菜箸で黄身と白身の境が無くなるまで混ぜて行く。 「こんな芸当どこで身につけてきたんだ、石切丸の旦那」 「ああ、前の本丸でちょっとね」 石切丸は手を止めて、うーんと首を傾げる。 「審神者ってのはたまに現世に呼び戻されるだろう？そう言う時は数日不在なんだけど、その間余った食料っていうのを腐らせないために作ってたんだよ。元々審神者の食事分しかない量だから皆で食べるにはお菓子とかに工夫するしか無くてね。だから有る材料、道具で作ることには慣れてるんだ。その泡だて器も前の本丸には無かったからね」 僕達は勝手に発注するということができないし、とまで喋ってやけに周りが静かな事に気付いた。石切丸がはっと顔を上げれば短刀達はうるうると目を潤ませている。 「えーっと、辛気臭い話をさせてしまったかな」 「いえ、いえ……心無い人間というのも世の中にはいるのですね」 厨は鼻を啜る音の大合唱だ。そんな深刻な体で話したつもりはなかったんだけどな、と石切丸は苦笑いをした。 「石切丸さん、おいしい料理これから沢山作るから……ぐすん」 「君まで泣いてたのかい、燭台切」 短刀達ならいざ知らず、と一瞬思ったが短刀達の方がよほど年齢が上な事を思い出して微妙な気持ちになった。 解いた卵を器用に網じゃくしで白身だけ掬いとる。多少は漏れてしまっているが、そこは玄人ではないのだから目を瞑るところだろう。 砂糖と牛乳を量ってから入れ、またまんべんなくかき回す。 「容器を人数分お願いできるかな」 「はいよ」 薬研が耐熱容器を台の上に人数分並べる。耐熱容器に石切丸がプリンの素を注いでいった。 「あとは薄く水を入れた鍋に直接これをいれるんだよ」 「直接？大丈夫なのかい」 「これでもちゃんとプリンができるよ。前の本丸では蒸し器なんて便利なものが無かったから、もっぱらこの作り方さ」 蓋を閉めて蒸気が全体に回る状態で十分待つ。 「そういやどうして菓子の話になんかなったんだ？」 薬研は兄弟の方へと見やった。すんなりとここまでプリンを作る工程を眺めていたが、改めて状況を思い出してみればまったく不思議な構図である。そもそもどうして兄弟達は石切丸とそんな話をしたのか。 「ああ、この甘味は青江がよく好んでたんだよ」 答えをくれたのは兄弟ではなく石切丸だった。 一瞬だけ目を見開いた薬研は、なんでもないように取り繕った。なんとなく予想ができたはずの事実だが、本人の口から聞くのとは全然違うのだ。 「ていうのを、青江の話をしていたときにぽろっと言ったらこの子達の食いつきようが凄くてね」 「好きな人のために好きな物を作ってあげる石切丸さんってステキだよねー！」 キャー！と両手を興奮気味に動かしているのは乱藤四郎だ。しかし他の刀剣達もおおむねそう思っているのか、石切丸へ尊敬の眼差しを向けている。 「そう褒められると恥ずかしいな」 短刀達にきらきらとした目線を送られ、うっと詰まる。 薬研はその光景に苦笑した。 石切丸とにっかり青江がこの本丸に来てから、何かと理由をつけては様々は刀剣が彼らを構っている。とはいっても青江は眠り続けたままなのだが、最近では身の回りの世話をしているという石切丸の手伝いを進んで買って出る刀剣達が多い。中でもとりわけ短刀達からは構われているらしく、厨房やら何やらで忙しい薬研を除いた粟田口などは日中部屋に入り浸りらしい。 眠っている青江に色々な話を聞かせてあげたいのだ、と言えばあの優しい大太刀が断るはずも無かった。青江が聞いたことないような沢山面白い話を聞かせてあげてくれ、と加えて言われ泣いたのはそれこそほとんどの刀剣達だと言えよう。 「これちょっと緩くない？もう少し加熱しなくて大丈夫？」 完成したプリンを保冷剤で囲み並べる。 「大丈夫、余熱で火が通るからね。一時間ほど冷ませば十分美味しいよ」 そこに短刀達が畑で育てているという苺をトッピングすれば完璧だろう。 さっさと人数分作り終えてしまった手際に感心する。 「石切丸の旦那も厨の料理当番になれるかもな。どうだい、俺っち達とやってみるかい」 「いやあ、あいにく私に作れるのはこれくらいだからねえ。皆の善に食べられないものを乗せてしまうかもしれないよ」 やんわりと断れば、うーんとまだ諦められないような表情をされる。無理もない、この本丸の大人数の食事を賄うのに圧倒的に料理が出来ない刀剣の方が多すぎるのだ。 ただこれしか作れない、というのはきっとこのプリンが青江のために作られていたからなのだろう。 「ああ、お手伝いなら人手が足りない時いつでも言ってくれ」 「じゃあそんときは遠慮なく手伝ってもらう事にするよ」 青江の旦那はこんなものを作ってもらって果報者だなあ、と薬研はまだ甘味を食べても無いうちから甘ったるくてしょうがなかった。 [newpage] 「よっしゃぁああ！」 朝一番で審神者の歓声が本丸に響く。 石切丸はぎょっとしたようにその声が下方向に足を向けた。 「一体なんの騒ぎだい？」 そこには石切丸の他にも審神者の声を聞いて心配した刀剣達がわらわらと集まっていた。 場所は鍛刀部屋、他の刀剣よりも頭一つ分大きい石切丸はひょいと中を覗き込む。 「おいおい、来て早々俺の方が驚かされるとはな？そう注目されるとやりずらいってもんだ」 白い装束を身にまとい、自身も真っ白な刀剣がそこにいた。 「よっ、鶴丸国永だ。俺みたいなのが突然来て驚いたか？」 「やったよ皆！鶴丸国永を鍛刀することに成功したー！」 鶴丸国永の横ではぴょんぴょんと歳がいなくはしゃぐ審神者の姿が確認できる。どうやら希少だと言われている鶴丸国永を鍛刀出来たことに余程嬉しいらしく、 「来なかったら来ないでいいと思ってたんだけどね！やっぱり自分で鍛刀して来ると嬉しいものがあるよね！」 刀集めを積極的にしてないと言うわりには鍛刀で今までも三日月宗近を引き当てているのだから、この審神者の運は侮れない。かといったら二振りが来るまで青江や石切丸が元々いなかったりと極端だ。 「えー、大将。いち兄もまだなのに……」 同じく希少だと呼ばれている一期一振はまだこの本丸にはいなかった。そう言われてしまえば審神者は苦笑するしかない。 「おいおい、俺が来たことに喜んでくれないのか？」 「うーん、いち兄だったら喜んだ」 子供と言うのは時に素直である。がっくりと肩を落とした鶴丸にははは、と石切丸は笑う。 そこですっと、石切丸は横に気配を感じ視線を下ろした。いたのは近侍である加州清光だ。彼も近侍なのだから鶴丸国永鍛刀に一役買ったのだろうに、この騒ぎに辟易して抜けだしたのだろう。 「鶴丸国永の刀派は五条っていうと三条派の石切丸さんも関わりが深かったりする？」 「それは……うーん、私と鶴丸国永自身には特に刀工の関係以外での繋がりは無いよ」 加州清光にそう問われ、首を傾げる。特にこれと言って石切丸自身に関わりがあるわけではない。刀工同士が近しいとはいえ、由来が近いわけでも何でもない。ただ平安生まれと言う点では感性が近いと言う可能性もあるが。 「まあなにはともあれ、太刀の数が増えるのは良い事なんだけどね。戦力増強にもなるし」 「そういえばこの本丸は太刀の数が少ないからねえ」 「というか刀剣の本数自体少ないんだよ。主一日に一回程度しか鍛刀しないし、新しい種類の刀剣じゃなければ顕現せずに保管だもん」 よくよく考えてみればこの本丸唯一の大太刀は石切丸なのだ。戦力の中心はもっぱら打刀で、中でも第一部隊隊長の長谷部が最高練度だろう。もちろん引き継ぎできた石切丸達を除いて、であるが。 そして誰が鶴丸国永の教育係になるか、という話題に流れて言った。 それから少ししてどうやら驚きに命を掛ける刀剣だと知りそれは一体どんな人物なのだと首を傾げるのだが、石切丸はその数日後にそれを嫌と言うほど体験するのであった。 青江と石切丸の部屋にほど近い庭にはささやかな池はある。赤い橋がかかったそこには澄んだ水を通して鯉などを見ることができるのだ。たまに非番の短刀達等がパン屑を与えたりしていた。 そんな庭に今回は先客がいたようだった。おや、とそれを見つけて縁側を降りる。 「やー、石切丸じゃないか。そんな格好で暑くないのか？」 「内番だったのかい？」 「畑当番だ！いやあ、あいつら太刀だからって俺を働かせすぎだろう！」 そこにいたのは内番服を襷でかけ、手で顔をぱたぱたと仰ぐ鶴丸だった。どうやら袴の裾をたくし上げて池に足を突っ込んでいるようである。たしかにこのように綺麗な水であれば涼むのに足を入れたいと思ってしまうのも無理は無い。 猛暑とまではいかないにせよ動きまわればうっすらと汗を掻くような気候は、さしもの石切丸といえど汗を拭わざるを得ない。 鶴丸国永がこの本丸に来て片手で数えるほどしか日数は経っていないが、どうやら石切丸と同じくみっちり内番について教え込まれているらしい。とは言っても何故だか石切丸は汗だくになるまでまだ働かされたことは無いのだが。 「丁度綺麗で冷たい水があったから涼んでたんだ！なー、青江？」 「はぁっ！？青江っ？」 鶴丸国永の影になっていて気付かなかったが、彼のその奥によく見知った人影が池に半身を浸からせていた。 ばっと部屋の方へ振り返れば開け放たれた障子の向こうに見えるのは者抜けの殻である布団だけだ。 一気に顔色が真っ青になった石切丸は鶴丸に詰め寄る。 「つ、鶴丸くん！君は何を！？」 「今日は実に暑いからな。こんな気温で布団を深々と被らされている青江も可哀そうだろうと思って水浴びに誘ったんだ。どうだ、驚いたか！」 前言撤回、感性が近いと言ったが石切丸の目には鶴丸がとんでもない人物だと映った。 鶴丸の横から慌てて青江を引き上げた石切丸はぎっと鶴丸を睨む。なにがどうだ驚いたか、だ。もし石切丸は内番服でなければ自慢の大太刀を振り回しているところである。 「おいおい、そんな怖い顔するなって。ただ半身浴してただけだぞ？」 「誘ったって君……、まさか青江が返事したとでも？」 「沈黙は肯定だって良く言うじゃないか」 こじつけにもほどがある。 沈黙どころか昏睡状態の青江に意思云々などという話しはまったく関係ないのだが、どうにもこの鶴丸国永という刀剣は破天荒な性格をしているらしい。 「聞いたぞ、石切丸。君達二人は俺のすぐ前に来たと言うじゃないか。つまり俺にとっては直近の先輩！ということで親睦を深めるために部屋に訪ねたら青江は寝てたからな」 「……青江の事について主から聞かなかったのかい？」 訝しげな表情で鶴丸を見やる。今まで青江に対し皆触れないようにしてきたことはあっても、ここまで逆に介入してくる刀剣は初めてであった。 「もちろん聞いたさ。でもそれで遠慮するってのはちょっと違うだろ？」 「この場合遠慮というよりか、常識と照らし合わせてほしかったかな」 「驚きの前に常識なんて些細な事さ！」 石切丸は段々この会話が成立しているのか怪しくなってきていた。いやもはやそんなことよりも濡れてしまった青江の身体を早く拭いてしまいたかった。 池に半身を浸けられ、髪はしっとりと水分を含み体はひんやりと冷たい。 しかしそれでも青江が目覚めると言う事は無かった。石切丸は少しの期待と落胆を覚える。 「精神的不安、だったか？」 引き上げられていく青江を見ながら鶴丸が呟いた。 「それが、何か？」 「いんや。主から聞いたから少し気になっただけさ。しっかし水に浸けても起きないたぁ、随分とまた図太いな」 「青江はまあ、図太い方だとは思うけど君ほどではないよ」 「おっ？これは褒められてる？」 まさかそんなわけないだろう、と石切丸は内心首を横に振った。同じ平安生まれだと言うのにこうも話が合わない人物に出くわすとは思っても見なかった。三条派内でもたしかに三日月宗近と言う究極のマイペースがいるにはいるが、それにしたって話しが明後日の方向に行くことは……、いやまさか。そこまで考えて石切丸は愕然とする。もしや平安刀でまともなのは自分しかいないのかもしれない。 一人で百面相している石切丸を面白そうに眺めながら、鶴丸は「しかしまあ」と口を開いた。 「刀剣がそれくらいで昏睡状態になんて陥るかねえ」 石切丸はその言葉に一瞬だけ顔を強張らせ、しかし何でもないように笑顔を取り繕う。 「さて、そういうこともあるんじゃないかな。なんといっても私達は神の末席。何が起こっても私は不思議だとは思わないね」 「まっ、そうだよな。俺は顕現されたばかりで右も左もわからない状態だし、そういうやつがいてもまったく不思議じゃないな」 誤魔化せただろうか、石切丸は自問自答した。目の前のこの刀剣がどこまでを確信してその言葉を言ってきたのかわからない。ただ微かにつり上がっている口元を見るに、随分と良い性格をしているようだった。 「……とりあえず、青江を池に放り込んだことは主に報告かな」 「ちょっ！それ俺が怒られるやつじゃないか！？」 「自業自得だね。驚き云々で青江を水浸しにされては敵わない」 それからおそらくは、こんな所で涼んでいれば後で長谷部なり加州なりに後々怒られることは目に見えている。ならばそれで今回の事は不問にしておいてやろう、と石切丸は寛大な心でもって今回の沙汰を決めた。 そして石切丸は青江を横抱きに抱えて立ち上がり、いまだ池に足を浸からせている鶴丸を見下ろす。 「……あと、青江の相手をしてくれてありがとう。それは礼を言わせてもらうよ」 たぶんね、と付け加えれば鶴丸は破顔した。 「目が覚めたら今度は一緒に池に飛び込みたいもんだな！」 「それはご遠慮願う！」

皆ーーー、健気な石切丸は好きかーーーー！！<br />もうね、石切丸が「(´；ω；｀)う゛ぇぇ……」ってなってたら最高に可愛いよね可愛くないはずが無い（深刻な語彙力不足）<br />多分青江はめっちゃ男前。<br /><span style="color:#bfbfbf;">きっと青江さんが目覚めたら泣きじゃくる石切丸の面倒を見る羽目になる</span><br />審神者出張りますが、審神者の性別は特に意識してません。あくまでメインは石かりです。<br />◼<span style="color:#fe3a20;">春コミ出します～！本編はいつも通り支部に全て上げます</span><br />■デイリー69位、ウィークリー52位ありがとうございました！<br /><br />次話→<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6509250">novel/6509250</a></strong><br />通販→<a href="https://shibari0929.booth.pm/items/215521" target="_blank">https://shibari0929.booth.pm/items/215521</a>

待ち続ける石切丸と、眠る青江

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注意！！！！！！ ・男性妊娠 ・特殊性癖 ・汚い ・嘔吐 苦手な方はお戻りください！ いいよって方は広い心を持ってご覧下さい。 [newpage] [chapter:一松が妊娠を隠す話⓵] 「嘘だろ・・・」 僕は先ほど購入した白い棒型の検査薬を眺めている。青い線がくっきりと窓口に映る、陽性だ。何度も箱の裏面を確認し青い線の意味を読み返す、うんうん。何度見ても青い線の意味は変わらない、現実逃避なんてできない。 そう、僕は妊娠してしまったのだ。 まずなんでこんなことが起こっているのかと？僕も知りたい。最近生でやった覚えなんてない、むしろ男だから生でも心配する必要なんてないんじゃね？とか思ってたりした。 僕ってどんだけ運が悪いんだよ？本当にゴミそのもの、燃えないゴミ・・ 「あぁあぁぁぁあ」 トイレの前で屈み込む。もうゴミだのクズだの何でもいいただこの状況がバレたら終わりだ。注目なんてされたくない、放っておいてほしい。わかったか我が子よ、僕はお前のことを秘密にするからお前もバレずに育つんだよ。僕は妊婦のことは何にもわからないがある程度育てば生まれるんでしょ？太っていくぐらいなら大丈夫。生まれた後は生まれた時に考えよう。 僕は考えることを停止した。 「一松ー早く出てけよお兄ちゃん漏れちゃう」 おそ松兄さんだ。僕はトイレの前から立ち上がり手をドアノブに伸ばす・・あれ え・・ 気持ち悪い。 立ち上がった瞬間急な嘔吐感に溢れ反射的に手を口で塞ぐ。先ほど持っていた検査薬なんてすっかり忘れて手元から落ちる。 カチャンって音と同時に僕は腹の中身を全て吐き出す。 「おーい一松ー返事しろー」 「・・・・」 答えたいのに嘔吐物が喉まで来ている。 「ゲホ・・オエッ・・」 僕はトイレの蓋を両手で握りしめ必死に全てを吐き出す、痛い辛い汚い。生理的な涙が溢れ出し止まらない。 「おい、一松入るぞ」 「入るな！！！うっ」 返事をできる程度には落ち着いてきた。めんどくさい、気持ち悪い頭が痛い、妊婦って大変だな。僕は手を伸ばし、先ほど落とした検査薬をポケットにしまう。万が一おそ松兄さんが本当に入ってきてこれを見られたら死ぬ。平気で死ねる。 まだ吐き気はあるが全てを出し切った感があるからそっと立ち上がる。うん、大丈夫そうだ。トイレを流し涙後が残ってる顔をタオルで拭く。そして再びドアノブに手を伸ばす。いいぞ、この調子だ！僕はドアを開けイラついてるおそ松兄さんと顔を合わす。 「お前、具合悪いの？」 おそ松兄さんの顔は笑っていない。 「悪くないっ」 「いや、悪いでしょ。お兄ちゃんに言ってみな？」 僕はしかめっ面をし反抗した。両手をポケットの中にしまい、先ほど入れた検査薬が指に当たる。 「はぁ〜ちゃんと薬飲んで寝るんだよーあぁトイレトイレ」 そう言い兄さんはトイレの中に入りドアをかちゃっと閉めた。 [newpage] 僕は床下に検査薬を隠した後六つ子部屋に入って行った。 「おー一松か。」 そこには先ほどまで鏡を眺めていたカラ松がソファの上に座っていた。僕はカラ松の隣に座り込み自分の膝を眺めた。 「どうしたんだ？」 カラ松はうん？と顔をしながら僕を見る。なんだよクソ松・・かわいいじゃねぇかよ・・ そう思いながら僕は彼に少し寄っ掛かる。 「今日はやけに素直だな」 僕の腰に手を回し僕の体を彼に引き寄せる。今はカラ松の近くにいたい。眠い、ポカポカする、カラ松の匂いが僕を安心させる。僕は目を閉じてカラ松のぬくもりに包まれていく。 僕は何故妊娠なんてしたんだろ。どんだけくじ運が悪いんだよこの子。こんなクズでゴミでニートの両親なんて誰も欲しくないよ。誰も幸せになれないよ。僕たちは君のことを養うことはできないよ？知ってた？君の両親は働くことはないんだよ？僕もね、君のためなら働きたいと思っても結局君を育てなきゃいけないから働きたくても働けない。そしてね、君の父親はカラ松ガールズという架空の人物を永遠と待ち続けているイタいやつなんだよ。君なんかよりそのカラ松ガールズの子を彼は愛するよ。泣けてくるよね。君は本当に不幸だよ。それでもいいの？それでも僕の子として産まれたいの？まだ引き返せるんじゃない？生まれてこないという選択肢もあると思うよ。そっちの方が幸せなんじゃない？君には明るい未来なんてないよ、本当に・・・ ごめんね 急に苦しくなってきた。少し目を開けカラ松の膝の上に乗っかって抱きしめる。 「一松？？」 僕は自分の顔を彼の肩に埋める。カラ松が僕を抱きしめ返してくれているのを感じる、耳を甘噛みされて幸せになんて僕はなってない。

自己満で変態で色々特殊性癖すぎ！！<br />一松が大好きすぎて苦しむ姿も見たくてでも幸せにもなって欲しくてその願望が生んだのがこれです。<br />男性妊娠です。タイトル通りだけど何にも考えてないです。許してください。むしろ誰かこういう話を書いてください。<br />今後モブ一とかそういうのも出てくる可能性あります！なんでもありって方だけどうぞ。<br />誤字・文法チェックしてないし勢いで書いたものなので色々意味不だったらごめんなさい。<br /><br />注意<br />男性妊娠<br />嘔吐<br />汚い<br /><br />特殊性癖が無理な方はお戻りください！<br /><br /><span style="color:#fe3a20;">2016年03月04日付の[小説] ルーキーランキング46 位 ありがとうございます！<br />全裸期待ありがとうございます！頑張ります！</span>

一松が妊娠を隠す話⓵

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・・・・・・・・・・・・・ ───息が、できない。 その男は、打ち捨てられたボロ雑巾のように地面に転がっていた。 上半身はほぼ裸に成り果て、下半身の黒い稽古着も至る所が破れている。 　　　　　　　　　　　　　　 黒いために目立たないが、妙に[[rb:てかり>・・・]]があちこちに見られ、よく見ればそれは血の固まった跡である。 「がはっ、はっ・・・　ごふっ」 「何を寝ているんだい？　地面で寝るのが君の求めた力なのかい？」 全身の力を自らの腕に込め、ぶるぶると小刻みに痙攣する両腕を無理やりねじ伏せ、上半身を地面から起こす。 その男───有馬兵衛の目は、まだ死んではいない。 「まっ、まだ、だ・・・っ！」 「じゃあ、早く立つんだな。　標的は悠長に待ってはくれないよ」 起き上がる事に全体力を消耗したかのように、立ちあがるのがひどく億劫に感じる。 脚も数えきれない蹴りを受け、ろくに力が籠らない。 それであっても、兵衛は構えを取った。 「・・・やってやる・・・！」 「よし、行くぞ。　ちえぇい！！」 兵衛に対峙するその男───歳ならばまだ２０代だろうか。 特別筋骨隆々というわけでもなく、背が人並み外れて高いというわけでもない。 弱冠１６歳になってまださほど経たない兵衛が、すでに身長が１８０センチ近くあるのに対し、むしろその男の方が低いように思える。 雰囲気は飄々とした、全くつかみどころのない、『うつけ』のような男だ。 だが、その男の突き、蹴り、投げ、極めはまさに『神の領域』だった。 通常の人間ではまず目に捉えられない後ろ回し蹴りが兵衛の顔面に襲い掛かる。 兵衛がその攻撃を見切って両腕を顔の前で交差させるが、男の蹴りの軌道は防御の体勢を取った兵衛を嘲笑うように急変し、がら空きとなった腹部にめり込んだ。 「がはっ・・・・！！」 完全にクリーンヒットしたその蹴りで身体がぐらつく兵衛に、男は腕を取って肘を極め、アームロックをかけて肘を顔面へ落とそうとした。 「くそっ！！」 地面に叩きつけられる寸前で兵衛は男の後頭部目がけて蹴りを繰り出し、見事にヒット。 あわやという場面から逃れた。 「・・・よく躱したなぁ」 「はっ、はっ・・・　がはっ」 息も切れていない男に対し、満身創痍の兵衛は息が上がって声も出ない。 「君が『力』を欲しがったんだろ？　この『圓明流』の」 「・・・はっ、はっ・・・　そうだ」 ようやく言葉が出る。 対峙したまま、『気』で殴り合うかのような、互いの身体から膨大な力が溢れ出る。 「元々、この『圓明流』は、遡って平安の世から特別な血族だけが体得できる、人を殺す事を極めた『業』。　無論、この時代の影と闇で密かに受け継がれてきた、光が当たっちゃいけない『業』だ」 「・・・判っている」 「縁も所縁も無い君が、この『圓明流』を会得する事は無理だと思うよ。　今の時代、銃器があるだろう？　何故『業』なんだ？」 探るような眼を向け、男は兵衛へ尋ねた。 対し、立つのもやっとかと思える兵衛は、今一度全身に力を込め、応える。 「・・・俺の、好きだった[[rb:女性>ひと]]は、艦娘だった。　司令官とやらにゴミのように殺された」 「・・・ほう」 「その[[rb:女性>ひと]]・・・鳳翔さんは、言った。　苦しんでいる艦娘を、護ってあげて、と」 男は、構えを一旦解いた。 兵衛はこの好機を逃さず、呼吸を整える体勢に入った。 「俺は、武器に頼らずに自分自身の身体で、艦娘を苦しめる外道を葬る力が欲しい」 喋りながら、兵衛は時折息を深く、丹田へ呑み込むように『息吹』を行う。 鼻から吸い、口から一気に吐く。 「コアアアァッ・・・」 息が整ってきた。 痛みは和らぐことはないが、まだ動けると確信する。 「今一度聞こうか。　有馬兵衛。　その『約束』は、君が仮にこれから『人殺し』の枷を嵌められてでも守る『約束』なのかい？」 静かに構えを取った男が、一段と静かな声を放つ。 兵衛も、それに釣られるかのように静かな声になる。 「・・・そうだ。　俺は嘘吐きになりたくない。　俺を愛してくれた[[rb:女性>ひと]]との約束を、俺は守る」 「君が死ぬ事となっても、か？」 「ああ。　俺は鳳翔さんとの約束を守る。　絶対に。　鳳翔さんのような女性を、護ってみせる。　この腕でなぁ！」 倒れそうな身体の中に、言い切った兵衛の眼光だけは鋭く、全く力が衰えていないのを読み取った男。 （・・・この男、僕よりもやれるかも、な） 「ならば、行くぞ」 「おおっ！」 最後の力を振り絞り、兵衛がその全力を、地面を蹴飛ばす脚へ注力した。 「「オオオオオッ！！」」 激流のような『気』と、全てを消し去るような虚空の『気』が激突する。 兵衛の意識は、そこで途切れた。 -------------------------- ───そうだ。　俺には、これしかないんだ。 ───人を殺す『業』を身に付けて。 ───約束を、守るんだ。 「負ける・・・かよっ・・・！」 一体何度転がったか、しまいには夜空の星の数を数えた方がマシだったかもしれない。 それでも、兵衛は何度でも立ち上がり、構え、突き、蹴った。 やがて、少しずつ地面へ這いつくばる時間が少なくなっていったように思えた。 [newpage] 「力が欲しい、それだけです」 まだ少年の色と、徐々に大人の男としての色が混じり合う、微妙な立ち位置の年齢の男子がそう声にした。 １０月に１６歳の誕生日を迎えたその男子・・・有馬兵衛が、陸軍への入隊を志願し、受諾される。 既に先に兵衛の背景・家族関係・思想傾向などは調べ尽くされていた。 家族も無くほぼ天涯孤独、恵まれた体格に身体能力。 思うところがあった陸軍の士官が、まだ入隊して日が浅い兵衛を呼び出す。 「・・・ならば、だ。　一つ、眉唾話でも聞いていかないか」 「・・・？」 直々に兵衛と対面した、歳の頃３０代後半で粗野な印象の士官の男は、手持ちの煙草を取り出し、ゆっくりと火を付け、燻らし始めた。 -------------------------- 「有馬兵衛、今この日本の脅威は何と思う」 「・・・深海棲艦、でしょうね」 頬杖をついた男が発した問いに、兵衛は当たり前だろうと言わんばかりに応えた。 「半分正解、だ」 「・・・じゃあ、後の半分は？」 少年らしい、すぐに感情が表に出る素直さを見せた兵衛に、男は少し微笑ましさを覚えながら続ける。 「身内、だよ」 「身内？　陸軍、ですか」 「それも、半分正解だ、な。　陸もだが、甚だしく腐ってきているのは海軍だ」 「・・・・・・」 兵衛の脳裏に、鳳翔との刹那の愛の交歓と、悲劇の死別が蘇える。 知らずと兵衛の顔の正中線に向かって深い皺が生まれた。 （・・・ほう。　これは・・・） その兵衛の『気』を見た男が、品定めを終えた客の如き心境を隠し、なお続けた。 「貴様は、艦娘を知っているな」 「知っています」 「唯一、バケモノを倒せる力をもった女性たち・・・彼女たちを、どうはき違えたのか、娼婦か売春婦、サンドバッグのように思う馬鹿が増えてきている。　無論、横領や癒着など、他の犯罪もな」 話を続ける男の顔も、段々険しさが深くなる。 兵衛に至っては言わずもがなだ。 「そこで、だ。　貴様は、力が欲しいと言ったな。　軍の執務としてやる、とある場所に行ってみるか」 「・・・それは何ですか」 煙草の副流煙で煙たそうに目をしばたたかせていた男の口角が、右側だけひくりと上がる。 「・・・ここからが、眉唾話さ」 「・・・そうですか」 どこか得意気な男の舌は、油でも舐めたのだろうか、滑らかに滑り始めた。 「有馬兵衛。　貴様は古武術を知っているか」 「・・・いえ。　詳しくは」 「あくまで伝説だ。　いや、四方山話、か」 ───勿体つけやがって。 内心、兵衛は苛立ちを覚える。 そんな彼の思考も楽しむように、男はいよいよ饒舌になる。 「・・・聞いたことがあるか。　人を殺す『業』を極めた・・・」 「『業』・・・？」 わざと沈黙した男にあえて合わせ、続きを促す兵衛。 男は、溜めた言葉とは思えない軽さで、言った。 「・・・『陸奥圓明流』という古武術を」 ───むつ、えんめいりゅう？ 「・・・聞いたことはありません」 ただ朴訥に応えた兵衛に、男はさも愉快そうに破顔する。 「そりゃそうだ。　誰でも知ってりゃ伝説になどならんさ。　・・・で、だ」 ひとしきり笑った男が、ふとスイッチが変わるように真顔になった。 「古くは、平安の世から脈々と受け継がれてきた、とな。　分派もあったそうだが、詳しくはわからん。　本当の意味でその武術を『会得』するのは、生まれ出てよりの『修練』が必須らしくてな」 「じゃあ、俺のような”中途採用”は無理なんですかね？」 皮肉交じりで、兵衛も少し片側の口角を上げて反対に疑問を投げる。 それを見て、男も楽し気な表情を見せた。 「そこだ。　貴様がその気なら、一度行ってみるか・・・というのは、その『陸奥圓明流』の血筋だという男の所だ。　もしかすると、さっき出た『分派』なのかもしれんがな」 「・・・・・・」 「過去、４人ほど出向いたことがあったらしいな・・・　まあ、１人は死体、３人は廃人になったとか、どうとか、な」 事もなげにえげつない内容を淡々と話す男だが、兵衛の心中は決まっていた。 「行きましょう」 即座に言い切った兵衛に、ふと男はある『期待』を向けた。 （いずれ、創設せねばならない『闇』の組織・・・　目に適う男かどうか） 男は、内心を悟られまいと、目線を兵衛から逸らした。 [newpage] 雪がすでに積っている、東北のある山中。 そこは、山の中───の、小屋のような家。 見るからに、木こりでもない、炭焼きでもない、一種言いようのない空気を纏った男が前にいる。 「あ～・・・　君が、有馬・・・」 「兵衛です」 「あぁ、そうそう。　話は聞いたんだけどね」 軽い。 話し口調などは、軽薄ささえ覚える。 だが。 ───つかみどころが、無い。 それは、決して正体を掴ませない『何か』の所為にも兵衛には思えた。 「本当はとぼけて追い返そうと思ったんだけどね。　君も聞いただろ？　今までここに来て、無事に帰った人っていなくてさ」 「聞いています」 「それでも、なのかい？」 かすかに笑みをたたえたまま、男は兵衛へ聞き返す。 兵衛は力を目に込め、男を見る。 「・・・そうです」 「・・・・・・」 沈黙が流れる。 数秒なのか、数分だったのか。 歪な均衡を破ったのは、兵衛の問いだった。 「・・・貴方は、一体どういう立場の人なんですか。　軍の人間ならば軍隊で教導の立場にいてもおかしくないでしょう」 薄い笑みはそのままだが、少し、男の纏う空気はかすかに変わった。 兵衛が無意識に身構えてしまう、そんな空気。 「・・・僕は、只の落ちこぼれさ。　どこでも、ね。　それよりも、だ」 「・・・何か？」 警戒心を露わにした兵衛に、男はにっと白い歯を見せた。 「腹減らない？　この山、イノシシがいるからさ。　夜は鍋にするか」 「・・・は？」 「さ、行こうか」 「ちょっ」 細い目がますますなくなり、一本の線にしか見えないその男の笑顔と、戸惑いしかない兵衛。 「行ったぞ！　でかいな！」 「おわあぁぁっ！」 男二人がイノシシと格闘する。　 そう、とりあえずはメシだ───。 -------------------------- 有馬兵衛、１６歳。 この飄々とした男の下で、２年の歳月を使い、『圓明流』をその身体に沁み込ませていく。 後にこの男───その時、初めて名乗った───は、兵衛に男の存在を教えた士官にこう言っていた。 『あの男は、水を際限なく吸い込む熱砂と同じだよ。　僕の教える事を、あっという間に吸い込んでいった。　もしも、陸奥の血を引いていたと思うと、ね』 後に[[jumpuri:鳳翔との約束>http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4318588]]を守ること、それだけを愚直なまでに貫く『修羅』と化すことになる───。

すんません。　最初にお詫びします。<br />雪風のシリアス話が完結して、スケベな番外も書けたとほっとした時に発作が出ました。<br /><br />いわゆるガンダム商法で、「過去の話」です。<br />自分が満足するためだけというひどい動機と、艦娘が出ないというひどさですが、書きます。<br />軽く流してやってください。

修羅の回想・誰がために

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　どうしようもなくポンコツな友達を持つと、大抵は本人よりも周りが苦労することになる。 　それは今に始まったことじゃないけど、今改めて実感していること。 　とりわけこいつに関しては、今まで恋愛というモノにさして興味がある方ではなかったから、いままでちょっとポンコツくらいで収まっていたのかもしれない。 　まあ、正確には本気の恋愛というものに興味がなかっただけ……だろうか。 　とにかく今となっては、もう何もかも遅いのかもしれない。 「うっ…うぅ……」 　私はこいつに、一人じゃ何もできないことを教えた。だけどそこから先のことは、こいつ自身が気が付かなくちゃいけない。 　いくらポンコツでも、仕事はちゃんと…というか人並み以上に出来るし、常識だってあるはずだと思った。それに、十分すぎるほど忠告だってした。そして何より、こいつの本気の濃いってやつを応援したいと思っていた。 　なのに…。 「ハァ…。ったく…」 　時刻は22時を少し回ったところ。場所は、目の前でぐずっているヤツの家。しかも今日は月曜日。 　友達を呼び出すタイミングとしては、最悪だ。 「あんたのポンコツも、ここまで来たら救いようがないわね」 「そんなこと言わないでよぉ…。にこにまで見放されたら、もう頼れる人が誰もいないわ…」 　化粧が崩れるのも気にしないで、目元をゴシゴシとこする絵里。アイラインが滲んで、パンダみたいな目になっている。 　いくら自宅だからとはいえ、こうなると見た目的に何とも言えない悲壮感が漂うから勘弁してほしい。 　ああ、でもこいつはお風呂でメイク落とすタイプだから……仕方ない。確か、使いかけのメイク落としシートが……あった。 　 　どうせこの後どこに行くわけでもないんだし、(ムカツクことに)こいつは化粧を落としても大して変わらないから問題ないだろう。 　そう思いながら「顔、酷過ぎ」という言葉と一緒に、メイク落としシートを差し出す。 「ありがと…」 「で？頼れる人がいないって、どういうことよ」 「……そのままの意味だけど…」 「あの真姫って後輩は？」 「……次、その話したら、移動願い出しますって」 「ハァ……」 　もういい加減、ため息もつき飽きた。というか、こいつ本当に面倒くさい！！ 　何？何なの？ド平日にいきなり連絡がきて家に行ってみれば、当の本人は酔っぱらってるし、散々アホみたいな話聞かされるし、挙句の果てには見捨てないで？冗談じゃないわよ。 　いくら宇宙より広い心を持つにこにーだってね、限界ってものがあるんだから！ 「絵里、あんたいい加減に……」 ピンポーン 「…は？」 　誰よ。このタイミングにチャイムを鳴らすドアホは！こいつと一緒にお説教してほしいわけ？ 「え、ちょっと、にこ…」 　どうせあんな顔で人前なんかに出れるはずもない家主の代わりに、ズンズンと廊下を進む。 　わざわざ、お説教を中断して出てやるんだから、宅配とかくだらないヤツなら追い返してやるわ。 ガチャ 「悪いけど、家主なら今いな………えっ!?」 　思わず、言葉が途中で途切れた。 「あなた……」 「なっ…」 　目の前にいたのは、想像していた人物ではなかったけど、知らない人物でもなかった。というより、名前だけならまだしも、顔まではっきりと記憶にある人物だった。 「…お弁当屋さん？」 「…常連さん？」 　私をきょとんとした顔で見下ろしてくる赤髪の美人。この人は、私がバイトをしているお弁当屋さんによく来てくれる人だ。たまに絵里が務めている会社の紙袋を提げていたし、何となく嫌な予感はしていたのだが…。 「ま、まさか、絵里の後輩の……真姫って子？」 「そういうあなたは、先輩の唯一の友達だっていう……にこさん？」 　お互いに顔を引きつらせたまま、不自然なあいさつを済ませる。まあ、無理もないだろう。この状況下で自然でいられる方がおかしい。 　っていうか、何なのよこの状況！ 　同じ(絵里に巻き込まれてる)被害者としては、今すぐにでもガシッと固い握手を交わしたい気分だけど、よりにもよってお客さんだなんて…。 　絵里のやつ、あることないこと吹き込んでたら、後で承知しないんだからね。 「あの…」 「へっ？」 「先輩、いますか？」 「ああ……」 　先輩ね…いるにはいるけど、どうなのだろう。まあでも、彼女は追い返すべき人物ではないことは確かだ。 　ここからは私の憶測でしかないけど、彼女がここに来た理由は何となく分かる。 　絵里はこの子に見放されたと言っていたが、きっと何だかんだ心配になって来てしまったのだろう。あいつに深く関わってしまった同志しては、何となくその気持ちは分からなくもない。 　何て言うか…。あいつは、どうしようもなくバカで、アホで、ポンコツだけど……どうしても放っておけないのだ。ほんと、悔しいことに。 　この子とは今度ゆっくり話し合いたいものね…。もしかしたら思いのほか、気が合うかもしれない。 「上がって」 「…いいんですか？」 「いいのよ。今、この家の権利は私が握ってるから」 「じゃあ、お邪魔します」 　果たしてこのあとは、絵里にお説教をするべきなのか。それとも、この子の言い分を先に聞いてあげるか…悩むところね。 　まあ、どっちに転んだとしても、今夜は十分な睡眠時間を確保できそうにない。明日は確か、お昼からバイトがあるだけだったはず。とりあえず、イベントとかがある日じゃなくてよかった。 「ねえ、絵里のことは見放したって聞いたんだけど、何で来たの？」 「何ででしょうね。あの時は心底呆れてましたし、冗談で言ったつもりもありませんでした。でも……」 　玄関からリビングまでの道のりを、あえてゆっくり歩く。別に、あいつに聞かれても困りはしないけど、何となくそうしたい気分だった。 「一人になって考えてたら、やっぱりあいつのことが心配になっっちゃった？」 「え…？」 「あいつってさ、人を心配させる天才だから。どんなにバカなことをやらかしても、何かほっとけないのよね」 「…。本当に、そのとおりだと思います。別に間違ったことを言ったとは思ってなくても、何か……先輩がショックを受けたときの顔が忘れられなくて、ちょっと言い過ぎたかなって」 「まぁね～、絢瀬絵里にかかわったのが運の尽きと思って諦めることね」 　ハァ、とため息を漏らしながらも、まんざらでもない表情を浮かべている彼女。私も大概、絵里に毒されていると思うけど、この子もなかなかに毒されているらしい。 　はたして毒されているという表現が正しいかどうかは分からないけど、絵里には人を惹きつける不思議な力が確実にあると思う。 　それなのに何であいつには友達がいないのかって？それは……あれよ。絵里は基本的には常に愛情枯渇状態だから、いろいろとやらかしてんのよ(主に女相手に)。だから、こうしてあいつの傍にいてやれる友達は、よっぽどの物好きかお人好ししか残らない分け。 　つまり、この子と私はよっぽどの物好きかお人好しということになる。 　 「とりあえず一旦あいつが落ち着いたら、何か美味しい物でもご馳走してもらいましょ」 「ですね。まあ、それでも割に合わないくらいですけど」 「ほんとよね。ったく…どこで教育間違えたのかしら」 「にこさんって先輩のお母さんみたいですね」 「そうね。否定はしないわ」 　あんたもそのうちにこみたいになるわよと言うと、それは絶対に嫌ですと言われた。まぁ無理もないだろう。 　だけど正直なところ、私一人では手に余るのだ。社会人になってからは、絵里がこの子に頼っていたこともあって、いきなり電話がかかってきて「にこぉ～」と泣き出すことはあまりなかった。 　それはたぶん、会社でこの子が絵里の愚痴を聞いてくれたり、叱ってくれたりしてたから。 　だから、絵里がこの子に見放されるのは私も困るのだ。 「あんた、真姫ちゃん…だっけ？」 「はい」 「絵里は会社の先輩だから仕方ないだろうけど、私には敬語でしゃべる必要ないから」 「えっ？いや、そんなこといきなり言われても……」　 「うだうだ言わないの。とにかく、先輩禁止だから。いい？これは決定事項よ。分かったわね」 「…意味分かんないですって」 「い・い・わ・ね？」 「……分かりま……分かったわよ」 　ひどく面倒くさそうな表情で、髪の毛をくるくるといじる彼女。「イミワカンナイ」と呟きながらも、私の後をゆっくりとついてくる。 　異動届出しますとか言ったくせに心配して来てみたり、口ではぶーぶー言ってるくせに顔はちょっとにやけてたり……どうやら彼女は筋金入りの天邪鬼らしい。 「なぁに？拗ねてんの？」 「す、拗ねてなわよ！…子供じゃあるまいし」 　いやいや、そういうのを拗ねてるって言うんだけど。ま、いっか。 　お弁当を買いに来るときはいつもムスッとしてるから、何だかいけ好かないオン案だなと思ってたけど……ちょっとだけ可愛いところもあるじゃない。なるほど、絵里も気にいるわけだわ。 　まさかこんなこんな形で、お客さんと関わりを持つことになるとは思ってなかったけど……何て言うか、あれよ。絵里みたいに運命だとか、そんな大げさなことは言わないけど、これも何かの縁なんだと思う。 　 「さて、心の準備はいい？」 「え……そんなにひどい状態なの？」 「まぁ…それなりに。お酒も入ってるし」 「まったくもう……ほんとにメンドクサイ先輩なんだから」 「あいつが直属の先輩とか、ほんと同情するわ」 「ありがと。じゃあ今度、お弁当におかず足してくれる？」 「調子に乗るんじゃないわよ」 　不機嫌な表情を作って、ジト目で見上げてみる。 　だけど、彼女に悪びれた様子はない。それどころか「私、トマトが好物だから」とか言い出す始末。 　 　にこよりちょぉっと身長が高くて美人だからって、調子に乗りすぎなんじゃない？ 　……まあいいわ。そのうち嫌いな食べ物を聞き出して仕返ししてやるんだから、覚えておきなさい。 「ほら、行きましょ」 「あ、ちょ…待ちなさい！」 　そして今さらながらに、先輩禁止と命じたことを後悔するにこなのでした。 [newpage] 「まぁぎぃ～……うっ、ぇぐ…」 「あーもう！そんなにくっつかないでください！鼻水がつきます」 「ひ、ひどい～…。でも、ぎてくれだがら、やざじぃ～…」 「ちょっとにこちゃん！見てないでどうにかしてよ、このポンコツ！」 「ハァ!?そんなの真姫ちゃんの自業自得でしょ？だからお説教から入った方がいいって……」 「私の知らないどころで、２人がながよくなっでる……うぅ、っ……そぉやって、２人して私を仲間外れにずるんだわ～…」 「だぁァー！もう！！めんどくさいっ！こんな状況になったのは真姫ちゃんのせいだからね！」 「何で私のせいなのよ！もとはと言えばにこちゃんが……」 「ぇぐっ、ケンカしないでぇ…」 「「絵里(先輩)は黙ってて！」」 「は、はいぃ…」 　こうして、結局その夜はお説教どころじゃなくなってしまったのは言うまでもない。 ＊ ヴー、ヴー、ヴー… 　ああ、目覚まし…かしら？でもごめんなさい。今日はとても起きられる気がしないの。 ヴー、ヴー、ヴー… 「ったく、うっさいわね…」 　あら？にこの声がする。じゃあ、きっと私はまだ夢の中なのね。それなら思う存分眠れ…… 「えっ？……え、ええ、え絵里！起きなさい！あと真姫ちゃんも！」 　ん？真姫もいるの？それならなおのこと、夢に違いないわね。それより、やめてよにこ。夢の中でくらい、少し静かにしててちょうだい。 「んぅ…」 「あんたら、２人して仕事休む気!?ってか、絵里！絵里！」 　仕事…あ、仕事か。それなら有給残ってるし、だいじょうぶ。 「起きないなら、この電話勝手に出るけど…いいのよね？」 　でんわ？電話…私に電話…？ 「無言は肯定と受け取るわよ。それじゃ。……あ、もしもし…」 　こら、にこ。勝手に人の電話出ちゃダメじゃない。 「ああ、絵里の携帯で合ってますよ。ただ、持ち主はまだ寝てます。えっと、あなた……東條希さんですよね？」 「希さん!?!?」 「って、うわっ。反応はやっ」 　私、寝起き早々ダッシュしたの生まれて初めてかもしれない。いや、そもそも寝起きでダッシュとか危ないからやっちゃだめよね。てか、する必要もないし。 　あ、ほら。足元に散らばってる缶とか、避けれないし。とりあえずスマホは奪ったけど、どうする？これ。 　でもどうするもこうするも……流れに身を任せるしかないか。 ゴンッ 「いっ、たぁーぃ…」 『も、もしもーし。大丈夫？』 「だ、大丈夫…です」 　朝一番に希さんの声が聞けるなんて幸せすぎる。この全身を強く床に打ち付けたような(実際に打ち付けている)痛みも、吹っ飛んでしまいそうだ(すごく痛い)。 「えっと、急に電話なんてどうしたんですか？」 『…別に、深い意味はないんやけど、昨日の夜から連絡なかったし、もしかしたら何かあったのかなって』 「昨日の夜…」 　寝ぼけた頭ですぐさま昨日の夜のことを思い出す。そして、昨日の記憶がぼんやりと… 「な、何もなかったです！スマホ充電するの忘れちゃってて。あはは…」 　思い出すのをやめた。なぜか急に思い出してはいけない気がした。主に、自分の身の安全のために。 　いや、もしかしたらもう手遅れかもしれないけど、とりあえず今は思い出さなかったことにしよう。 『それなら、ええんやけど。……あの日から、何となく連絡のやりとり減った気がしたから、うち何かしちゃったのかもって…少し不安やったんよ』 「え…？何で、希さんが……あのとき悪かったのは、完全に私の方です。調子に乗って、希さんを驚かせて……本当に、すみませんでした」 　いきなりのシリアストークに動揺しながらも、あらためてあの時のことを彼女に謝罪する。 　まさか、彼女の口からそんな言葉が飛び出してくると思っていなかった。それに、連絡を減らしていたのは、少し自分の頭を冷やそうと思ってやっていたことなのに、それがかえって彼女を不安にさせてしまっていたなんて…。 　ほんと、何で私って０か１００しかできないのかしら。 『絵里ちゃんは何も悪くないよ。うちがあんな帰り方したのが悪いの。ホントに、ごめんなぁ』 「い、いいんです！希さんは謝らないでください」 　ああ、もう。何て優しい人なんだ。 　っていうか待ってよ？この感じからして……私、もしかして落ち込む必要なかったんじゃないの？ 『あ、でも…』 「何ですか？」 『いきなりぎゅってするのはびっくりするから、程々にね？……まぁでも、嬉しかったから…いいのかな？』 「っッ!?」 　嬉しかった…嬉しかった…嬉しかった……。 　何コレ。もしかして私、電話しながら眠っちゃったわけじゃないわよね？今さら夢オチとかいっても認めないわよ。 　っていうか何？何なんですか！嬉しかったなら、なぜあんな逃げるようにして帰っちゃったんですか！おかしいでしょ！ 　嬉しかったなら、もう10秒…いや、もう10分は抱きしめさせてくれても良かったんじゃないですか？ 『う～ん、でもやっぱりダメ！ぎゅってしたいときは、ちゃんとお姉さんに報告すること』 「…な、何でですか…」 　お姉さんねぇ…。やっぱり私は妹ポジションなんですね、分かります。 　そして、安定の上げて落とす作戦ですよね？これ。いいですよ、さすがに少しは慣れましたから。あの嬉しかったは、純粋に嬉しいっていう意味以外は含まれてないんですよね。ほれ、当たってるでしょ？私、賢いですから。さすがにもう学習しましたよ。 　決して、舞い上がったりなんかしてませんからね。 『だって、あの時の絵里ちゃん…何か可愛くなかったんやもん』 「ですから私、元から可愛いキャラじゃないですってば」 『そういうことやなくて……あー、もうええわ！ほら、そろそろ本当に仕事遅れてしまうんやない？』 「えっ？」 　掛け時計に目をやると、時刻は電車が発車する20分前を示していた。 「ま、まずい！真姫！急いで支度…」 「もうできてますから。先輩待ちです」 「んなっ…」 　薄情な後輩め。せめて私の着替えを用意してくれるくらいの気配りはないのか！あ、いや…ほんとにしてくれたら逆に怖いけどね。 『ふふっ、朝から楽しそうで何よりやね。それじゃ、お仕事頑張ってな？』 「は、はい！頑張ります！あと…また後で連絡します」 『ん。待ってる。………ねえ、絵里ちゃん』 「はい？」 『いってらっしゃい』 「っ！……いってきます」 　私のいってらっしゃい史上最高のいってらっしゃいを頂いたところで、電話がプツリと切れた。 　ああ、何て…何て幸せなんだろう。今日の仕事は、間違いなくめちゃくちゃ頑張れる！ 　 　そして本当なら、このまま余韻に浸りつつ、ちょこに朝ごはんをあげたいところなんだけど… 「置いていきますから」 「まっ、待ってよ！あと３分…いや、１分で準備するから」 「分かりました。６０、５９、５８…」 「嘘!?早くもカウントダウンスタート!?まずは、ええっと、ちょこにご飯？いやそれより歯磨き？の前にトイレ…」 「残り３０秒です」 「お願い待ってぇー！」 「ハァ。ほんっと、こいつどうにかならないわけ？」 「ならないでしょ、一生ね」 　この数日後、私がこの２人を一流ホテルのディナーに招待したことは言うまでもない。

予定よりだいぶ遅れてしまいましたが、やっと折り返し地点(の予定)です。<br />今回は、あまり花園のからみはありません。その代わり、にこと真姫には頑張ってもらいます！笑<br /><br />終始、ギャグ。

上司の妻と、その部下。5

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[chapter:家に帰ったら修羅場ってた件について] 「――――ねぇ、おそ松が好きだよ」 　そう言った僕の顔は赤く染まっていただろう。 　それはお酒が入っていた事もあるけど、それだけじゃない。でも、きっと兄さんはそんな事には気付かない。分かっている。 　酒の席での冗談だと思ったのだろう。 　おそ松兄さんは嬉しそうに、少し照れながら僕の肩を叩いた。 「何だよトド松。急に告白なんて照れるじゃん！　オレもお前の事、好きだぞ！」 「じゃあ、付き合ってよ」 「おー、いいぞ！　じゃあ、付き合うかー！」 　ワハハハ、と楽しそうに笑いながら僕の肩を抱くおそ松兄さんに、擦り寄る。 「どうした？　甘えんぼだな」 「いいでしょ？　だって、僕ら付き合ってるんだし」 「まぁ、そうか。だな！」 　おそ松兄さんはニコニコと笑いながら、僕の話に乗ってきた。 　酒の席での冗談だって知ってる。知ってるけど、胸が痛い程ドキドキした。 （本当に付き合えればいいのに…） 　おそ松兄さんを大切にする自信はある。優しく愛してあげる自信も。 　出来れば幸せにしたいと願っているんだ。何だかんだ言ってモテる兄さんにやきもちを妬かない自信はないけど。 「おそ松、大好きだよ」 「分かってるって！」 　分かってない。けど、それでいい。 　この一瞬。―――人生の内で瞬きの間ほどの時間、独占出来ただけで、僕はまた頑張れるんだから。 　事件は翌日に起こった。 　二日酔いで痛む頭を押さえながら、僕は出かける準備をする。 　仲良くしている女の子とデートに出掛けるのだ。まぁ、彼氏いる子だけど。 　身支度を整えていると、おそ松兄さんがノソノソと起き出してきた。 「んー、はよートド松」 「おはよう。って言っても、もうお昼だけどね」 　挨拶を返せば、おそ松兄さんは頭を掻きながら目を瞬かせる。 「……あれ？　トド松、どっか行くの？」 「うん。デートだよ」 「え、デート！？」 　おそ松兄さんの目が輝いた。何でだ。 「ちょ、ちょっと待ってて！　直ぐに準備するから！」 「え、準備って何？」 「だってデートするんだろ？」 「うん」 「オレ、こんな恰好じゃ出掛けられないじゃん」 「うん？」 　おそ松兄さんも出掛けるんだろうか。 「？　よく分からないけど、おそ松兄さんも出掛けるの？」 「え、だってデートするんだろ？」 「うん」 「じゃあ、オレも準備しねーと」 「うん？」 　何だろう。何だか話がすれ違っている気がする。 「………おそ松兄さん、ちょっといい？」 「うん？　あ、トド松はこっちのパーカーとこっちのパーカー、どっちがいい？」 「どっちも同じだけど、右の奴。って、そうじゃなくて！　僕、話が見えないんだけど！　どうして僕がデートするって話でおそ松兄さんが準備するって話になるの？　まさか、おそ松兄さん邪魔する気？」 「え？　邪魔って何だよ？」 「だから！　僕と女の子の間に割り込む気なのかって聞いてるんだけど！」 「…………え」 　おそ松兄さんが固まった。 「え、何？　どうかしたの？」 「いや…え、女の子？　って誰？」 「誰でもいいでしょ。おそ松兄さんには関係ないじゃん」 「関係ないって…」 　何故、今日に限ってこんなに食いついてくるんだろう。いつもは女の子って事には反応しても、その子の事を知りたがったりはしないのに。 　不思議に思っておそ松兄さんを見ていると、おそ松兄さんは眉をへにゃりと下げて僕を見ていた。 　困惑している顔に、僕も困惑する。 　そして、おそ松兄さんは少し拗ねた様に口を尖らせながら、僕にとんでもない事を言ってきた。 「何で他の子とデート何かするんだよ。だって、トド松と付き合ってるのオレだろ？」 「…………え！？」 　一瞬で、僕は見事に凍り付く。 （え…おそ松兄さんと僕が…付き合ってる！？　え！？　何で！？） 「え、何、どういう、え！？」 　パニックになりながらしどろもどろにおそ松兄さんに聞けば、兄さんは不思議そうな顔で言った。 「だって、昨日居酒屋でオレに好きだって言ったじゃん。付き合ってって言っただろ？」 「い、言ったけども！？　それでマジで付き合うとか嘘でしょ！？」 「え、もしかして、冗談だったのか？」 　おそ松兄さんがビックリしている。ビックリ顔可愛いな。いや、そうじゃなくてビックリしたのはこっちだよ！　何だこれ夢か！　何このハッピードリーム神様ありがとう！！ 　僕がワタワタとしながらテンションと体温を上げている中、おそ松兄さんはそっかぁ、と頷いている。 「トド松と付き合ってるっていうのはオレの勘違いだったのかぁ」 「え、いや、それは…っ」 「え！？　おそ松兄さんトド松と付き合ってるんすか！？」 「いや、なんかオレの勘違いだったみたい」 「え、ちょ、ちょっと待っておそ松兄さ…っ」 「じゃあ、おそ松兄さんフリーっすか！？」 「うん。オレ、まだフリーだった」 「いやいやいや！？　あのね、僕は…っ」 「じゃあ、僕と付き合って下さい！！」 「いいよ」 「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ！！？」 　途中から割り込んでいた十四松兄さんがとんでもない事をブッ込んできた。 「嘘でしょ！？　っていうか、十四松兄さん、どさくさに紛れて何言い出してんの！？　おそ松兄さんも何ＯＫしてるの！？　ノリ軽すぎるでしょ！？」 「え、だってオレ、フリーだったし、十四松好きだし、別に良くね？」 「オールオッケーっす！　僕、おそ松兄さんを幸せにしマッスル！」 「良くないよ！？　僕はどうなるのさ！？」 「トド松は女の子がいるんだろ？　丸く収まるじゃん。っていうか約束いいの？」 「そんなのもうどうでもいいよ！　それより天国から地獄へ直行した僕の気持ちの方が収まらないよ！？」 「おそ松兄さん大好き！　セクロスしよ！」 「十四松兄さん手が早すぎない！？」 「いや、それはまだ駄目だ。結婚してからのお楽しみだな」 「いやいやいや！？　何言って…いやいやいや！？」 　ツッコミどころ多くて捌き切れない。 　僕は一度ゆっくり深呼吸してから、おそ松兄さんに言った。 「…えっと、まず男同士だし、そもそも兄弟だし、結婚とか無理でしょ？　何言ってんの？」 「ん？　まぁ、無理だよ。当たり前じゃん」 　おそ松兄さんはアッサリとそう言った。 　僕は急に落ち着く。何だ、冗談だったのか。 　僕と付き合ってると思ってたって話も、十四松兄さんと付き合うのも、おそ松兄さんらしいブラックジョークだった訳だ。何だ、慌てて損したよ。 「えー！　じゃあ、ずっとおそ松兄さんと結ばれないの！？」 　十四松兄さんがガッカリしている。まぁ、気持ちは分からなくもないけど――― 「そんな訳ないだろ。書類上で結婚は出来ないけど、それ位の覚悟じゃなきゃ無理だって話だよ。だって、オレ達六つ子の兄弟だぜ？　もし上手く行かなくて別れたとしても、その先もずっと繋がりは消えねぇんだから、踏み出すのなら一生付き合う覚悟じゃなきゃ駄目だろ」 「軽いノリの二つ返事で兄弟と付き合う癖に、何でそんな貞操観念まともなの！！？」 　僕は力の限り突っ込んだ。何でだよ！　おそ松兄さん何でだよ！？ 「っていうか、そんな覚悟で付き合うのに、何であっさり僕との関係解消するの！？　納得できないんだけど！？」 「いや、それは勘違いだったから」 「勘違いじゃないよ！　僕、本当におそ松兄さん好きだし、付き合いたいって思ってる！　さっきのはちょっとビックリしてただけだもん！　おそ松兄さんが本当に付き合ってくれるなんて思わなくって、夢みたいで…っ！　僕、おそ松兄さんが好きなんだ！　さっきの事は謝るから、僕とやり直してよ！」 「えー…いや、でもなぁ。オレ、今は十四松と付き合ってるし…無理だよ。二股は駄目だろ？」 「恋愛対象は何でもありの無法地帯なのに、何で恋愛観はそんなに真っ当なの！？　おかしいでしょ！？」 「トド松、横恋慕は駄目―！　おそ松兄さん、もう僕のだもん！」 「横恋慕は十四松兄さんじゃん！　僕、別れるなんて一言も言ってないし！」 「だーめ！　可愛い弟でも譲れないものはあるんだからね！　おそ松兄さんは僕の！」 「僕のだもん！　十四松兄さんのじゃないもん！　僕の恋人だもん！！」 「…………これ、何の騒ぎ？」 　十四松兄さんとおそ松兄さんを引っ張り合っていると、そこへ残りの兄たちが帰ってきた。はっきり言って邪魔だ。この大事な局面で、ポンコツ共の相手などしていられない。 「悪いけど、チョロ松兄さんも一松兄さんも、ついでにカラ松兄さんもあっち行ってて！　邪魔だから！」 「邪魔って…」 「ゴメンね！　でも、トド松の言う通りだから、兄さんたちは向こうに行ってて！」 「一体、何事だ？　喧嘩してるのか？」 　心配そうに聞いてくるカラ松兄さんに舌打ちが漏れる。 「見ればわかるでしょ！　今この時に、僕の今後の一生に関わる事が決まるんだよ！　関係ないただの兄弟は引っ込んでろ！！」 「只野じゃなくて松野だが…」 「多分、そうじゃないよカラ松」 　チョロ松兄さんがそう言った後、おそ松兄さんを見た。 「どうせ、おそ松兄さんが何かしたんでしょ。迷惑だから止めてよね」 　ペチンッ！ 　おそ松兄さんを引っ張ろうとしたチョロ松兄さんの手を、十四松兄さんが叩く。 「え？」 「ゴメンね、チョロ松兄さん！　でも、気安くおそ松兄さんに触らないでほしいな！」 「………え？」 　ニコニコ笑いながらも、目が笑ってない。はっきり言って怖い。怖いけど、今はひるんでいられない。 「おそ松兄さん、僕のだから！　ゴメンね！」 「え」 「違うでしょ！　僕のだから！」 「え」 「トド松は元カレでしょ？　僕はおそ松兄さんの彼氏だし、婚約者だよ！」 「そんなの無効だよ！　だって、僕別れてないもん！」 「何なに、どういうことなの、誰か説明して！！」 　チョロ松兄さんが頭を抱えた所で、おそ松兄さんが言った。 「――――二人とも、もう止めろ…っ！」 　ピタリと僕と十四松兄さんの争いは止まる。 　それは、おそ松兄さんの目に光るものが浮かんでいたからだった。 「おそ松兄さん…」 「もう止めてくれ！　オレの為にお前らが争うなんて耐えられない…！」 　シン、と部屋が静まり返る中、乱暴に涙を拭ったおそ松兄さんはふら付きながら僕らの傍を離れる。 「…全部、オレが悪いんだ…オレが――――お前たちを愛しすぎたオレが…っ」 「おそ松…！」 　おそ松兄さんは痛々しい顔で笑った。 「オレ達、別れよう」 「何を言って…」 「――――少しだけ、時間をくれるか？」 「え…」 　おそ松兄さんはそう言って、踵を返す。 「次に出会う時には、ちゃんと兄貴に戻ってるから……今だけは………！！」 「「「「おそ松…っ！！」」」」 「いや、どさくさに紛れて、何でカラ松と一松も混ざってるの！？」 　チョロ松兄さんが何か言っているが、聞いてられない。 「おそ松待って！　話を聞いて…！」 「嫌だよおそ松！　僕を捨てないで…！」 　僕と十四松兄さんがおそ松兄さんを追う。 　背後でポンコツたちが何か言っているが、知った事ではない。 　今はただ、おそ松を追いかけるだけだ。――――ずっと、そうしてきたように。 「…………で、結局なんだった訳？」 「分からん…オレ達が只野兄弟ではなく松野兄弟だという事は分かるが…」 「ヒヒッ、要するにおそ松兄さんはフリーって事でしょ。――――オレにはそれだけで十分だよ」 「え！？　一松、何フラグ立てようとしてるの！？」 「―――おそ松は誰にも渡さない…！」 「カラ松まで何言い出してんの！？　え、ちょっと、何これどういう事！？　え、ぼ、僕だって…え、ちょ、えええええ！！？」 　僕たちの戦いは、まだ終わりが見えない。――――火蓋は切って落とされた。らしい。 　【おしまい】 [newpage] [chapter:オマケ] 「あー、お腹空いたー。続きは飯食った後にしようぜー」 「分かったー！」 「絶対だよおそ松兄さん！」 「あんな思わせぶりな事して出て行ったのに、普通に夕飯食いに帰ってきたんだけど！？　ねぇ、これどういう事ぉ！？」 　【おしまい】

◆トドおそ＆十おそメイン。元々トドおそを書こうと書き始めたら、十四松も混ざって来ちゃったコメディです。会話文多め。お楽しみ頂ければ幸いです。

家に帰ったら修羅場ってた件について（おそ松愛され）

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6499279#1

タグにある通り、フルボッコ要素ありです。 対象はシューティー、カベルネ、コテツ、ベル、スワマです。 [newpage] 「へぇ、サトシとも一時期旅してたのね」 「うん、ちょっとした試練の一環でね」 コルニの自己紹介に少し驚いたアイリスだったが、もう昼過ぎであるためコルニも誘って昼食を楽しんでいた。 そしてその際にコルニは自身がサトシと一時期ではあるが一緒に旅をしていた事、サトシと旅をしていた際にメガシンカを会得した事。そしてメガシンカを使ってサトシと全力全開のバトルをして負けた事、負けた事に一切後悔などない事をアイリスに話していた。 「あたしね、最初はただメガストーン。ああ、メガストーンっていうのは」 コルニはそこまで言ってから自身のルカリオの左手についている腕輪を見せる。 「これね。これはルカリオナイトっていうの。で、あたしは最初メガシンカ出来れば強くなれるって思ってたんだ」 「え？でも、メガシンカすれば強くなれるんでしょ？」 アイリスのその言葉にサトシもコルニも苦笑するだけだった。 「アイリス、メガシンカっていうのはやっぱり進化なんだ。進化に戸惑うポケモンだっているだろ？」 「う、うん……あたしもそういうの見たことあるし……」 「それと一緒。それにメガシンカっていうのはトレーナー自身も強くならないといけない。ポケモンとトレーナー、双方がメガシンカの力に負けない強い力を持ってないといけないんだ」 「あたしはそれを身をもって知ってるしね」 「え、それって……」 「うん、ルカリオの初めてのメガシンカ。ルカリオは波動の力に呑まれてその時バトルをしてくれたサトシのピカチュウしか見えてなかったの。あたしの指示なんて全然聞いてくれなかった」 その時の事を思い出すように語るコルニ。 「お爺ちゃんにその事を指摘されてムスト山っていう所に修行に行く途中で、サトシから聞いたんだ。当時のサトシのポケモンでも一番手を焼いたっていうポケモンの話」 　 コルニはそう言ってから自分達のポケモンが集まっている場所の中でも大きなポケモン、リザードンを見つめる。 「え、え。何それ、どのポケモン？サトシの今の手持ちにいるの？」 「ああ、ああ！？言うなよ、コルニ！？」 サトシは慌てて手をぶんぶん振り回す。 「ふふ、言わないよサトシ。サトシにとっても黒歴史だもんねぇ？」 コルニは悪戯っ子のような顔をしている。サトシをからかっているようだ。 「う、うぐ……」 サトシは拗ねたように手製のサンドイッチを口に運ぶ。 「ごめんってサトシ。ね？」 「知らねぇ。ふんっ」 サトシは拗ねたまま、乱暴にサンドイッチを口に入れる。 「っ！？ふぐ、ふぐ～～！！！？？？」 と、顔を青くし胸元をドンドンと強く叩く。どうやら無理やり入れたせいで詰まったようだ。 「ああ、もう！そんなに慌てるから」 コルニはそう言ってコップの中にお茶を入れてサトシに差し出す。サトシは一瞬でそれを奪い取るように取って急いで口に入れる。 「ごくごくごく……ぷっはぁ」 「ふふ、もうサトシったら」 そう言って少し微笑ましそうに笑うコルニ。 そしてそれまでコルニとサトシの様子を黙って見つめていたアイリスの第六感が反応した。 もしや目の前の少女コルニは、サトシに恋をしているのではないかと。 （これは悩みとかどうでもいい位の問題！あの時のハルカの態度といい、サトシに好意を持っている女子はまだいるかもしれない！そんな大きな悩みの前には私の悩みなんて些細な問題だわ！） そんな感じでアイリスの悩みは頭の隅に追いやられていた。 「そういえば、何でコルニはイッシュに来てるんだ？シャラジムは？」 「あ、あはは……その……強制的に休ませられちゃった……」 苦笑いをしながらコルニはそう言った。 コルニからの説明はこうだ。 サトシとの再戦を終えた後、コルニはさらに強くなる為これまで以上に修行を頑張った。 そのおかげか、カロス地方でも一二を争うほどの強豪となり、日夜ジム戦に明け暮れる日々を送っていた。 そのおかげで休暇もままならなく 「コルニよ、休め」 「え？大丈夫だよお爺ちゃんまだまだいけるって」 「いけるか、バカモンッ！！」 そう言って無理やり休暇を取らされ、ジムを追い出されたという。 「行く場所もなくって。で、それに関してお爺ちゃんに聞いたら……「だったらイッシュに行ってみればどうだ？」って言われて……」 「それで来たと……」 「うん、それで散歩がてら森に入って……」 「間違ってペンドラーの巣穴に飛び込んじゃったと……」 『飛び込んだ訳ではないらしいぞ？いや、ある意味飛び込んだみたいだが』 とサトシとアイリスがコルニから事の顛末を聞いているとサトシのルカリオが割って入ってそう言う。 「どういう事だ？」 『何でも、ローラースケートで道なき道を進んでいた際に石に躓いてそのまま、転んで誤って入った、というのがこのルカリオから聞いた話だ』 「ルカリオぉぉぉぉぉ！！！？？何で話しちゃうのっ！？」 「バウッ、バウゥ」 ルカリオは何か一言言うとその手に持ったサトシお手製のポケモンフーズを食べる。 『自業自得な話に捏造を加えられてはいけない、という事らしい』 「ルカリオォォォォォォォ………！」 怨嗟の篭もった声を出すコルニ。一体どこからそんな声が出せるのか聞いてみたい程だった。 「ま、まあまあコルニ。ルカリオだって悪気があって言ったんじゃないって、な？」 「むぅぅ……はぁ、折角の休暇なのに……」 コルニは疲れたといった様子でサンドイッチを口に運ぶ。 「まあ、休暇なのに疲れてちゃな……」 サトシも苦笑する。 「あ、あはは……ね、ねぇ、それならさ。休暇が終わるまで一緒にいようよっ？」 アイリスは少しだけ苦笑するとそんな提案をした。 「え？でも……」 とコルニはそっとサトシを見る。 そしてその意図にサトシは気づいた。 先ほども言った通り、コルニはシャラジムのジムリーダー。遠く離れた地方であるカロス地方の紛れもないジムリーダーなのだ。 無論、コルニにも万が一にもという事もあってサトシの旅には出来る限り同行は控えて欲しいとは言われている。 「いいんじゃないか？せめてシッポウシティまでは」 「サトシッ！？」 なんと、サトシはコルニの旅への一時的な同行をいいんじゃないかと言ったのだ。 「ちょ、ちょっとごめんねアイリス！」 「へ？な、何するんだコルニ！？」 「いいから！ちょっとこっち来て！」 コルニはサトシの手を取って立ち上がらせると有無を言わさずアイリスから少しだけ離れる。 「聞いてるんでしょサトシ！？あたし達ジムリーダーはサトシの旅に同行はしちゃいけないんだよ！？」 「はぁ！？んなの聞いてねぇぞ！？……さてはエニシダさん、まだ俺に通達不備があったな、こんにゃろ……！」 サトシは小さく拳を握り、ギリギリと歯軋りをする。 「あははは……それで、そういった事情があるからあたしは同行は「それでも大丈夫じゃないのか？」？何で？」 「イッシュの人間は総じてあまり他地方に行かないからな。この間連絡しあったタケシっていう元カントー地方ニビジムジムリーダーがさ、イッシュ地方の人間に絡まれたんだって。で、自分は元ジムリーダーだって言ったら……」 「……言ったら？」 「バカにされたから、その時の手持ちでフルボッコにしたんだって」 「……………………」 その時の様子が容易に想像出来たのだろう、コルニの顔が青くなっていく。 「その時の相手側、全然反省しなかったらしいぜ？っと、そんなのはいい。重要なのは他地方のジムリーダーに関しては相手側はあまり知らないって事。だったらコルニが同行したって問題はないだろ？」 「そ、それは確かにそうだけど……」 と、そこまで言ってからコルニは横目でアイリスをこっそりと見る。 アイリスはきょとんとしながらもサンドイッチをパクパクと食べ進める。 （あたしのなけなしの乙女心が反応している……アイリス、あの子は間違いなくサトシに好意を抱いてるっ！） 一体どこをどうしたらそのような結論に至ったのかはわからないが、そこは乙女心はなんとやらという事だろう。 「うぅん……」 「どうだ？コルニがいいなら俺は別に全然構わないんだけど……」 「…………うん、わかった。実は土地勘とかもなかったから、シッポウシティまで一緒にいこっ！」 「よし！そうと決まれば！」 サトシはそう言うとアイリスの待つテーブルまで戻ってくる。 「アイリス。コルニ、シッポウシティまで一緒に行くって！」 「え、ホント！？メガシンカの事とか、色々聞かせて！」 「うん、いいよ！」 こうして、サトシとアイリスにコルニを加えた三人でテーブルなどを片付け出発した。 [newpage] サトシ達はシッポウシティまでの道のりにある小さな町にやってきていた。 もう陽が暮れてきているし、ここで宿を取る事にしたのだ。 「ここからシッポウシティまで後どれくらいだっけ？」 「えっと……今この辺だから……夜通し徒歩だったら一日。野宿とかも含めるなら二日か三日ってところか？」 「うえぇ……結構遠いわね。まあ、宿は取れたからよかったけど」 「だな。とりあえず晩飯でも「あれ？サトシじゃねぇか？」ん？」 サトシが夕ご飯にするかと言おうとした矢先、自身の名前を呼ばれたので呼ばれた方向に振り返る。 「コテツっ！？」 「おお、やっぱりサトシじゃねぇか！なんだよ、イッシュに来てるんだったら連絡くれりゃよかったのに！！」 頭にバンダナを巻いた男、コテツはそう言ってサトシの背中をバンバンと叩く。 「いて、痛いってコテツ！？」 「あっはっは！サトシはイッシュリーグに挑戦か！？」 「いや、違うけどさ……」 「まぁたまた、嘘言うなって！まあ、頑張れよサトシ！前回のリーグも俺はベスト４だったからな！まあ、もしサトシと戦う事になってもまた俺が勝つけどな！」 「……………………」 コテツのそんな自慢話を黙って聞くサトシ。 「ねぇ、アイリス。あいつ何？（ボソッ）」 「コテツ。サトシがイッシュリーグに出た時に最後に戦った相手で、その時の自慢話ばっかりなの（ボソッ）」 「サトシがイッシュを旅してたのってもう結構前よね？（ボソッ）」 「うん、もう四年近いと思う（ボソッ）」 「流石にそれだけ時間経ってたら実力差は変わってるって思わないの？（ボソッ）」 サトシの後ろでアイリスとコルニがボソボソと話をしているが小声で話しているため、サトシとコテツには聞こえない。 「なあ、コテツ。他地方に行ってみようとか考えないのか？」 「へ？何でだよ、その地方のリーグにしか出場できねぇんだろ？」 「いや、だったら俺はどうなるんだよ……」 「あ、そっか。まあ、でもほかのリーグでも俺はいい成績残せるだろうな！なんたって俺はイッシュリーグの上位常連だし！」 「……………………はぁ」 「ピカピ……」 小さくため息をついたサトシ。そんなサトシをピカチュウが心配する。 聞いてはいたが、ここまでとは。とサトシは考えていた。 実はサトシはイッシュに来る前、イッシュを旅した際に出会った人達にそれぞれ連絡を入れた。といっても常識があると思われる人達だけにだが。 その際にケニヤンから気になる事を聞いたのだ。 『コテツが？』 『ああ、俺はサトシに勝って初出場のイッシュリーグでベスト４だったんだぜ！ってやたら吹聴しまくってる』 『俺がコテツに負けたのってずいぶん前の事なんだけど……』 『俺もそう思ったんだけどな。あいつ、どうやら結構いい成績残せたせいで天狗になってるみたいなんだ。だからずっと言って回ってる』 『天狗、か……新人なら誰もが通る道だよな』 そう言ってサトシは自身の最初の旅路を思い出す。カントーリーグでベスト１６という好成績を残し、天狗になっていた自分。そんな自分が井の中の蛙と気づかされたのはオレンジ諸島の時。 自分の戦法が役に立たない。自分の自慢でもあったリザードンが負ける等、色々あった。 詰まる所、天狗から脱却するには一つしか方法がない。 自分はまだまだだと自覚する、これしかないのだ。 そしてコテツにはそれが出来なかった。いや、それを自覚させてくれるほどの実力を持った人物が近くにいなかった事が原因だろう。 『わかった、ありがとうなケニアン』 『おお…………って今アクセント間違えただろ！？ケニヤンな、ケニヤン！！』 ケニヤンは最後に大きくそう言ってから電話を切る。 そして今目の前に件の人物であるコテツがいる。その様はケニヤンから聞いていたものそのままだった。 「にしても、このルカリオ強そうだな！」 と、コルニが出しっぱなしにしていたルカリオを見てコテツはさらにこう言った。 「ま、俺のルカリオの方が強いだろうけどな！」 カチンッ そんな音がその場に響き渡った。 [newpage] 予定通りに進まないって……辛いな……。 はい、哀愁漂わせても意味はないってわかってるんですが……すいません、自分の文章力の無さにただただ驚いているだけです。 さて、次回はいよいよフルボッコ！といってもこの一連の流れからコルニがするか？って思われるかもしれませんが、コルニはしません。きちんとサトシ君がやりますので、次回はサトシ君のルカリオ無双になるかと。 そろそろ他のヒロインも出さんとなぁ……。

全然話が進まない……というか、書く時間がない……！誰か、ヘルプミィィィィィィ！！！！！

第七話　コルニとの再会！もう一つの再会！

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「やめようって思うんです」 　深夜のファミリーレストラン。 　久々に会った後輩に告げられ、服部瞳子は背筋を凍らせた。 　後輩と言っても、養成所で３ヶ月ほど一緒だっただけ。 　瞳子は過去にデビューするも、挫折した身である。 　それに引き替え彼女は、３４６プロという大会社の新人育成プロジェクトに加えられ、デビューも間近に控えていたはずだった。 　少し前までは、レッスンの様子を楽しそうに話していたというのに。 　一体何があったというのか。 　ただの気の迷いであることを祈りながら瞳子が詳しい話を聞こうとすると、彼女はポツポツと語りだした。 「レッスンは、確かに厳しいです……」 　しかし、後輩もそれは覚悟していた。 　彼女を送り出そうとするプロデューサーも、懸命に彼女を励まし、支えようとしてくれた。 　それはもう懸命に、たっぷりの情熱を持って。 　いつしか彼女が自分の将来ではなく、彼の為に頑張るようになるほどに。 「不器用なところもあるけど、とっても熱い人なんですよ」 　後輩がはにかみながら呟く様は恋する少女そのもので、瞳子も「何だのろけか」と安心しかけた。 　だがそんな時、後輩の声が低く落ちた。 「でも私、彼に応えられないんです」 　組まれた手に、ぎゅっと力が篭もる。 　そう言えば彼女は、席に座るときも足を引きずってはいなかっただろうか。 「私が失敗する度にあの人は言うんです。大丈夫、貴方の実力はこんなものではない。自分は信じてるって」 「それは……」 　彼女の話しぶりから察するに、プロデューサーとやらは本心でそう言っているのだろう。 　それでも、期待に応えられない者にとっては残酷な言葉だ。 　瞳子にもそれは痛いほど分かった。分かってしまった。 「それを聞く度、私も思うんです。彼が見てるのは理想の私で、今の私なんて彼にとってはこんなもの。取るに足らないものだって」 　ましてや、恋をする少女にとって思い人のそれは凶器である。 「同期は皆……ボンヤリしたお姉さんも、根暗なあの子も、最初はチャラチャラしてると思ったミカさえ、すごく努力して、彼の課題をクリアして、輝いて……でも私は」 　いや、恋する乙女などという生易しいものではない。 　養成所時代は子犬のように無邪気だった彼女の横顔が、今や女の情念に溢れている。 　少々怖じけた瞳子の気配で、自身の表情に気づいたのか。 　後輩はふっと息を吐いた。 「この前捻挫して、昨日と今日はお休みをいただきました」 　あるいはそれは、大切な何かが抜けてしまったような顔だった。 「だ、大丈夫よ。捻挫なら……」 　すぐ治る。そう励まそうとする瞳子だが、そんな問題ではないことは彼女も分かっている。 「そうじゃないんです」 　事実、後輩もゆっくりと首を振った。 「多分、怪我が治っても私は彼の期待に応えられない。彼に失望されたら、私、耐えられない……」 　後輩の場合、心が折れてしまっている。 　怪我とそれに伴う休息が、ギリギリで保たれていた彼女の気力を吹き消してしまったのだ。 「だから、やめるんです。彼が、少しでも私を惜しいと思ってくれる内に。彼の心に、少しでも私のつけた痕が残るように」 　追いつめられた様子を見せていた後輩が、一転無邪気に笑う。 　狂気すら感じるような、透明感に満ちた――空っぽに溢れた笑顔。 　彼女の心は、既に決まっている。 　それは相談ではなく、告白――懺悔もしくは犯行予告であった。 　一度挫折し、それでも憧れが燻っている瞳子には、かけられる言葉など無い。 「そう……じゃぁゆっくり休んで。落ち着いたら、その……」 　もう一度考えてみて。 　そう言いかけて、瞳子は口をつぐんだ。 　今の彼女を、どうしてあの修羅道に戻せようか。 「はい。連絡しますね」 　結局瞳子は彼女を止められず、後輩は田舎へと帰った。 　彼女をそんな目に遭わせたプロデューサー。 　そして、彼女を助けてあげられなかった自分に、憤る気持ちはある。 　――しかし、同時に瞳子は思うのだ。 　そこまで徹底的にプロデュースされたのなら、自分も少しは芽が出ただろうか。　 　限界まで頑張って頑張って、それで折れることが出来たなら、アイドルへの未練も無くなるだろうか。 　そんな思いがあって、瞳子は最後のチャンスのつもりで、シンデレラ・プロジェクト第二期生のオーディションに応募したのであった。 　◇◆◇◆◇ 　結果だけ言うと、瞳子はオーディションに受かった。 　競争率は、彼女が今まで受けた物とは比べものにならない。 　周囲には、彼女より一回り若く才能に溢れた少女達も沢山いた。 　それでも瞳子はオーディションに合格し、今現在シンデレラ・プロジェクト二期生として３４６プロの社屋にいる。 　だがその実状は、彼女が想像していたものとは大分違った。 「むーりぃー……」 　中身がほぼ空になった歯磨き粉を、無理矢理ひねり出すような声が響く。 　それは机の下に隠れた森久保乃々が絞り出す、魂の悲鳴であった。 「どうしても、受けていただけませんか？」 　その前にしゃがみ込んだ巨体が、バリトンボイスで情けない声色を奏でる。 　彼こそが後輩を追い込んだ鬼プロデューサー……のはずなのだが、強面の外観とは裏腹に、今は小さな少女一人を宥め賺している。 　自身が抱いていたイメージとの違いに、瞳子は未だに困惑していた。 「分かりました。ではこの仕事は、棟方さんに受けていただきます」 　彼女の意志が固い事を知ったプロデューサーは、ついに別のアイドルへ仕事を投げてしまう。 「えー、あたしもお山に登る以外の仕事はちょっと」 　話を振られた少女。 　何故だか瞳子の胸部をじぃっと見ていた棟方愛海が、不満の声を上げる。 「今回のファンは、棟方さんに是非マッサージをしていただきたいという女性が多いそうです」 「え、ホント！？　ひゃっほぅ！　やるやるー！」 　だが彼女は、プロデューサーの情報ですぐにぴょいんと飛び上がってノリ気になった。 　プロデューサーが持ってきた仕事は、確か老人ホームへの慰問だったはずなのだが。 　愛海はまるで聞いていなかったようである。 「さて……」 　仕事が一つ片づいたプロデューサーは、改めて乃々を見る。 「はひぃ……」 　仕事のプレッシャーか、それともプロデューサーがの顔が恐ろしいのか。 　魂が削れる音を出す乃々。 「ではこちらの、ドラマの端役はいかがでしょう。登場場面は少なく、セリフも一言二言です」 　彼女の様子に構わず、ずずいと、プロデューサーは次の仕事を勧めた。 「それも…………むーりぃー」 　一度話を断ったせいか少し長い沈黙があったが、やはり乃々は引きこもったままである。 「このドラマは、今話題の童話が原作になっています。出演者には原作者が手がけた注釈入りの台本が渡されるそうですが……」 「童話……？」 　ぴくりと、乃々が反応する。 　その機を逃さずプロデューサーが台本を渡すと、彼女は黙々とそれを読み始めた。 「……どうでしょう」 「すごく暖かくて、素敵な話だと思いますけど。けど……だから、もりくぼが出たら迷惑だと思うんですけど」 　そのまますんなり話が通るかと思えば、今度は話が気に入りすぎたようで乃々は尚も拒否の姿勢を見せる。 　かなり面倒な娘子である。 「そんなことはありません。私はこの世界観を表現するため森久保さんの存在感が必要だと考えています」 　辛抱強く、プロデューサーは説得を繰り返す。 　瞳子が昔所属した事務所では、仕事に拒否権などなかった。 　ましてやこれは、間違いなく乃々のため選ばれた仕事である。 「それをしたら、アイドルをやめても良いですか？」 「それはいけません」 　シンデレラ・プロジェクトのオーディションには、アイドルをしたい少女が沢山詰めかけていた。 　それなのに何故彼は、ここまで手間をかけ乃々を説得するのだろう。 　――どうして彼は、自分なんかを採用したのだろう。 「わ、分かりました。やりますけど……」 「ありがとうございます。スケジュールは追って伝えますので」 　ついに乃々を陥落させたプロデューサーは、立ち上がってホッと息を吐く。 　それから、じっとこちらを見ていた瞳子に気づいた。 「服部さん、どうかしましたか？」 「いいえ。レッスンに……行ってきます」 　問いかけられ、瞳子は目を逸らした。 　プロデューサーが何を考えていようが、これがチャンスなのは間違いないのだ。 　わだかまっている気持ちを晴らすためにも、今は体を動かしたかった。 「……レッスンですか。その、すこし量を減らしていただく訳にはいかないでしょうか？」 　だというのに、このプロデューサーはそれすら阻もうとする。 「何故、ですか……？」 　他のアイドルは、今も血が滲むような努力をしている。 　それはこの男も分かっているはずなのに、何故自分を止めようとするのか。 　気の弱い瞳子だが、さすがに険のある声になった。 「その……」 　彼女の迫力にたじろぎ、プロデューサーは首もとに手を当て視線を逸らす。 　しかし息を吸い直した彼は、まっすぐに瞳子を見つめ告げた。 「苛立ちをぶつけるようなレッスンは、自分を傷つけるだけです」 　その言葉で、瞳子の視界が赤く染まった。 　どうしてそれを、今更、自分に言うのか。 　衝動に任せ、瞳子は叫ぶ。 「どうしてそれを、あの子に言ってあげられなかったの！？」 　自分でも驚くほど大きな声が、体から絞り出される。 　プロデューサーの目が見開かれ、部屋にいる少女達が呆然とした顔になった。 「服部さん、貴方は……彼女を……」 　プロデューサーの表情は、心当たりが無いという感じではない。 　それどころか、深い部分にある傷を抉られたような、言葉を放った瞳子の胸を罪悪感でいっぱいにする物だった。 「え、えーとプロデューサーは休憩も大事だって言おうとしたんだと思うよ？　ほら、マッサージでもして揉みほぐして……」 「もりくぼが……ごねたりしたから……」 　場を和まそうとする愛海に、自身が原因だと思いこみ縮こまる乃々。 　違う。そんなつもりじゃない。 　フォローを入れようとした瞳子だが、目からじわりと涙が溢れる。 「すみません。すこし、頭を冷やしてきます」 　顔を覆った彼女は、いまだに固まっているプロデューサーから背を向けた。 　そのまま、その場から走り出す。 「は、服部さん！」 　少し遅れて、プロデューサーが止める声が響く。 　だがそれでも止まらず、瞳子は全力で彼から逃げ出したのであった。 　◇◆◇◆◇ 　３４６社屋内には持久走パフォーマンス練習クローバー集め等ができる広場があり、更に奥に行くと木々に囲まれたベンチがある。 　これがどんなアイドル活動に使われるかは判然としない。 　サボりたいアイドルが昼寝をしに来るか、今の瞳子のように逃げ出したアイドルが座り込んだりするのだろう。 「はぁぁ……」 　ともかくそこで、瞳子は長いため息を吐いた。 　 　思い出すのは、プロデューサーのざっくりと傷ついた顔である。 　どうやらアイドルをやめた後輩の事は、あの男にとっても未だ傷痕になっているようだ。 　後輩が期待したとおりの効果である。 　プロデューサーはあの出来事で『改心』し、少女達を気遣うようになったのかもしれない。 「でも、それって……」 　彼女の引退のおかげであの男が成長したというのは、何だか釈然としない。 　彼女のアイドル人生は、他人のための栄養剤や堆肥の類ではないのだ。 　 　結果としてアイドルを甘やかすだけの人間になったのならば、厳しい指導を期待してきた瞳子にとっても拍子抜けである。 「でも、私は……」 　 　だからといって、あんな風に悲しい顔をさせるつもりはなかった。 　自己嫌悪が渦巻き、もう一度瞳子はため息を吐く。 　他人をあそこまでハッキリ傷つけた記憶は、ここ数年の瞳子には無かった。 　上京をめぐり、両親と喧嘩した時以来だろうか。 　諦めて、実家のある大分に帰ろうか。 　瞳子がそんな事まで考え始めた時――。 　がさり。周囲の茂みが音を立てた。 　今プロデューサーに見つかったら、どんな表情をして良いか分からない。 　思わずベンチの裏に隠れる瞳子。 　だが、現れたのはのそりとした巨体ではなく、小さな巻き毛の少女だった。 「誰も、いないんですけど……」 　瞳子を探しに来たらしい。 　乃々はキョロキョロと周囲を窺う。 　あんなにオドオドした少女が、自分を心配し行動してくれている。 　その事が、瞳子の胸を余計に痛ませた。 「ここなら……ちょっとだけ」 　姿を現すべきか。瞳子が逡巡していると、周囲をチョロチョロしていた乃々は何か……困り眉のまま決死の覚悟を決めたような表情をした。 　何が起こるのだろう。ベンチの背もたれからじっと観察する瞳子の前で、乃々の小さな胸が少しだけ膨れた。 「あー……あー……あー」 　頼りない発声練習。そして、彼女の口から歌が紡がれた。 　声量は足りない。時より吹く風にも負けそうな旋律。 　けれど、その歌には羽毛のような柔らかさが溢れ、ささくれ落ち込んでいた瞳子の心をスゥっと掬い上げた。 　時折差し込む陽射しに照らされる姿は、まるでハーピーのようだ。 　それに聴き入り、魅入った瞳子の背後で、またしても茂みがざわつく。 　現れたのは、今度こそプロデューサーであった。 　乃々の歌を邪魔しないためにか。 　屈み込んだ姿が少々不気味である。 「素晴らしい歌だと、思いませんか？」 　彼は瞳子の横に隠れると、頬を弛め囁く。 「あなたは……彼女の才能を知ってて……」 　今にも逃げ出したい。 　でも、乃々の歌は聴いていたい。 　そんな気持ちのせめぎ合いがあって、結局声を潜め言葉を返す瞳子。 「彼女の歌について知ったのは、森久保さんをスカウトした後です」 　しかし、プロデューサーははにかんだ表情でそう答える。 「じゃぁ……」 　何故彼女をアイドルにしようと思ったのか。 　疑問に思った瞳子が顔を向けると、プロデューサーは地面を見て呟いた。 「私は、許されないことをしました」 　放たれた言葉の重みに、瞳子は口をつぐむ。 「自身の考えが一番正しいと信じ、アイドル達にそれを強要し、未来を奪ってしまった」 　それに構わず、自身に刻みつけるかのように呟くプロデューサー。 　瞳子もまた、未来を奪われた側の人間である。 　それなのに何故、この男の後悔が胸に迫るのだろう。 「すべての人間に違う個性、笑顔があるように、アイドルの歩みにも個人差がある。それを、私は気づかずにいました」 　瞳子が生来優しい性格だという事もある。 　だが同時に、去っていく後輩を止められなかった後悔が、瞳子の胸にもあった。 「アイドルとして輝けるまで、時間がかかる方もいます。ですが……」 　プロデューサーの言葉は懺悔である。だが、彼の表情は沈んでいるばかりではない。 「笑顔になれるまで時間がかかった分、そのアイドルの姿は、同じ悩みを抱える人間に大きな力を与えてくれると、今は思うのです」 　しっかりとした意志が、プロデューサーの瞳には宿っていた。 　彼の考えが変わったのは、おそらく後輩がつけた痕のせいだけではない。 　それを癒し、彼自身に力を与えた笑顔があったのだ。 　忘れられた訳ではない。それでも、思い出だけでいつまでも人を縛ることもできない。 「貴女もそうです。服部瞳子さん」 　せつなく、しかしそれを嬉しくも思う瞳子に、プロデューサーの真剣な瞳が向けられた。 「私？」 「一度は挫け、それでも諦めなかった貴方の笑顔は、きっと、今落ち込んでいる方にも勇気を与えてくれます」 「そんな……私は……」 　自分はただ、夢を捨てられずにいただけだ。 　誰かに何かを与えたい。伝えたいなどという気持ちは、すっかり忘れていた。 　だからこそ、プロデューサーも瞳子のレッスンを制限しようとしていたのだろう。 「これが、私の贖罪になるとは思っていません。ですが……」 　思い悩む彼女の前で、プロデューサーが再度暗い表情を見せる。 　彼の傷は全て消えたわけではない。傷つけた過去も消えない。 「少しの間だけ、私と歩んではいただけないでしょうか」 　それでも彼は懸命に、前に進んでいこうとしていた。 　瞳子へと、力強く手が差し出される。 「私は……」 　自分も歩めるだろうか。ゆっくりでも、前へ。 　届くのだろうか。自分の歌が、想いが、遠い場所に行ってしまった彼女にも。 　彼は、それを諦めてはいない。 「私が本当に輝けるかは、分からないけれど……」 　分からない。けれど、瞳子は彼の手を取った。 「最後のチャンス。貴方に預けてみるわ」 「はい。よろしくお願いいたします」 　こうして、瞳子の挑戦はもう一度始まった。 　彼女の声が、同じ傷を持つ誰かに届くのか。 　それは、まだ分からない。 　けれど、いつかと願って……。 （終） 蛇足 「あっれプロデューサー何やってるの？」 「む、棟方さんこれは……」 「もしかして登山中？　末端から？　水臭いなぁもう！」 「登山って、なにかしら……？」 「登山は登山だよ。あ、乃々ちゃーん」 「ひぃっ！？　もりくぼのオリジナルソング。全部聞かれてたんですけど……死、あるのみなんですけど！」 「オリジナルだったのですか！？　是非その歌でCDデビューを……！」 「むーりぃー……！」 「（本当に大丈夫かしら……この企画）」 （本当に終わり）

武Ｐと服部瞳子さんのお話です。<br />一応シリーズになってますが、これだけ読んでも大丈夫なはず。<br />独自設定が入っておりますのでご注意ください。

私たちの痕

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「んでー、これが一年の時の文化祭」 「わ、河嶋さんまた泣いてる」 「河嶋いーっつも泣いてたからねぇ」 　けらけら笑いながら頁をめくる手を目で追いつつ、肩からずり落ちかけていた布団をかけ直してあげる。――秋も終わりが近づき、そろそろ寒さも部屋に入り込んでくるだろうお休みの土曜日。他校へ所用で出かけた二人の代わりに生徒会室の掃除を手伝ってくれと言われ、何故か泊まり込み前提で呼び出されたのが今日の朝。特に予定もなかったし、ご飯もご馳走してくれるとのことだったのでほいほいと釣られてやってきてしまった。一段落の後続きは明日と言うことで、掃除している時に見つかったアルバムを見ながら、机を寄せてできたスペースに布団を敷いて二人で横になっていた。 「あー、会長の寝顔」 「やー、油断してたねぇ。小山もいつのまに撮ってたんだか」 「みんな仲良さそうで楽しそうです」 「楽しかったよー。馬鹿やったり真面目にやったり」 　会長は目を細めてしみじみと呟くと、傍の紙袋をごそごそろ漁って 「んで、これ買っちゃった」 「またアルバムですか？」 「そ。今はフォトアルバムって言うのかな？　こっちの一杯になっちゃったから、折角だしオーダーメイドで」 「わ、表紙も豪華。高かったんじゃ？」 「まぁそれなりにねー。だいじょぶだいじょぶ、ちゃんとポケットマネーで買ったから」 　別にお金の出どころを心配したわけじゃないのだけれど。物珍しそうに中身を捲っていると 「ほんとはさ、買うかどうかずっと迷ってたんだよね」 「え？」 「廃校云々がずっと引っかかっててさ。もし買っても白紙のこれだけ残っちゃったらどうしようって」 「……会長」 「でも、西住ちゃんのお陰でまだまだ写真も撮れることになったし。奮発しちった」 　えへえへと笑いながら頭を撫でまわしてくる会長に目を白黒させつつ 「え、ええと。それも生徒会用のなんです？」 「ん？　そうも思ったけどねぇ。折角だし戦車道の面子で埋めてこうかと」 「あ、いいですね。そういえば戦車道のみんなであんまり写真残してなかったし」 「というわけでまず1枚」 「へ」 　急に思い切り抱き寄せられたかと思うと、どこから取り出したのかデジカメをこちらに向けてぱしゃり。 「んひぃ。まず一枚目」 「……えっ、えっ、これ載せるんですか？！」 「だめ？」 「や、だってこんな格好」 　さすがにパジャマ姿で会長と二人で布団にいる写真はどうなのか。誰かに見られたら色々とその、なんというか……。 「心配ないって。生徒会でもお泊り会とかしょっちゅうだし、誰も気にしないって」 「そうでしょうか……」 「そうそう」 　笑いながらカメラを紙袋に仕舞うと 「で、こっちはプライベート用」 「へ」 　突然頬にキスされたと分かった時には、既に携帯からシャッター音が聞こえてきて。 「あーっ！」 「兵法三十六計笑裏蔵刀。まだまだ甘いなぁ西住ちゃんは」 「ほんとにもう」 「次笑顔のも撮っておきたいからこっちむいてー」 「やです。勝手なことする会長は知りません」 「あーん、西住ちゃーん」 　布団を被ってそっぽを向くと、ゆさゆさ揺らしながら泣きついてくる会長。 「悪かったってばぁ。ほんとに。この通り。ね」 「……」 「頼むよぉ。こっち向いてよ西住ちゃぁん」 　段々泣き声になってきた会長の声を背中で聞きながら、また泣き真似上手になったなぁと思いつつ 「……もう勝手に撮りませんか？」 「しないしない。明日の分の干し芋のパックに誓ってもいい」 「だいぶ信頼性に欠けてますけど」 　まあいいかともそもそ会長の方に向き直ると、間髪入れずに胸元にぎゅうと抱きついてくる会長。 「はあぁ……」 「なんですか変なため息ついて」 「やっぱ西住ちゃんの顔見えてないと不安だからさぁ。あーかわいいなぁほんと」 「や、ちょっと」 　頬を擦り合わせながら幸せそうに息をつく会長にくすぐったさを感じながら 「写真撮るんじゃないんですか？」 「そうそうそうね。んじゃカメラの方見て、笑って笑って」 　肩を抱き寄せられて正面を向いて。満面の笑みを浮かべる会長に釣られて照れくさくなりながらも微笑んでみて。またこれからも、幾つも幾つも思い出を作れますように。

光のみほ杏もいいぞ　//　2016年03月05日付の[小説] 男子に人気ランキング 29 位ありがとうございます。

月明かり落ちる夜にあなたと二人きり

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　 　 　 「…………なんですって？」 「だから、キス病です」 聞き返したスティーブンに、フライドチキンチェーン店の創始者であり――マスコットにもなっている老人によく似た恰幅のいい医師がさっきと同じ言葉を繰り返した。 「キス病？」 なんだその乙女じみた病名は。 「そう。間接接触型肺呼吸症候群、通称キス病。口唇(こうしん)接触でないと呼吸が出来ない呪いです。ここ半年で多くはないが慢性的に流布しておるんですよ。ああ、もうシャツ着ていいですよ」 「それは、具体的にどんな呪いなんですか？　ちゃんと治るんだろうな？」 スティーブンからカルテに視線を移し、老医師は悪筆で書きこんで行く。スティーブンは前を全開にしていたシャツのボタンを留めながら、時間が惜しいと声に凄みを込めて聞いた。 ふざけた病気でライブラの氷の副官が戦闘不能、ひいては死亡なんて冗談じゃない。葬式でＫ・Ｋに笑いながら憐れまれるのなんてごめんだった。 「大本の出所や発症物質は特定されておらんけども、治療方法は発見済みですよ」 「どんな方法ですか」 被せ気味に聞いたスティーブンに、「相変わらずせっかちな人ですね、あなたも」と何がそんなにおかしいのか、顎の肉を上下に揺らして医師が笑う。こっちは全然笑い事ではない。 目尻にたくさんの笑い皺を作った医師は、丸い眼鏡の奥から柔和に笑いかけた。 「ロマンチックな呪いの直し方なんて、昔から決まっているでしょう」 ああ、嫌な予感しかしない。 安っぽい回転椅子を重たい体重で軋ませて、医師がスティーブンに向き直る。 「魔女に……、かけた術者に涙を流させるか。もしくは……」 「もしくは？」 「もしくは、――愛し合う相手とくちづけを交わすことですよ、ミスタースターフェイズ」 朗らかに笑った医師の言葉に、スティーブンは目の前が真っ暗になった。気分は最悪だ。息苦しいだけでなく眩暈までしてきた。 「……でないと治らないってことですか」 「さよう」 「……ああ、そうですか」 「はっはっは、そう投げやりになりなさるな。案外、愛はそこらじゅうに溢れているものです。あなたなら、意中の相手を落とすのはそう難しくないと思いますがね」 「……おかげさまで」 否定はしない。自慢ではないが、今まで狙って落とせなかった相手はいなかった。だが違う。スティーブンの絶望は、その前だ。 意中の相手？　愛する人？　そんなもの、どうやって作ればいいのか教えてほしい。 がっくりとうなだれたスティーブンは、そこでひとつの事実に気がついた。 「……ん、待ってください、ドクター」 がばりと顔をあげる。瞳はやや眼光が開いて血走っていたが、医師は臆することなく柔和に微笑んだままだった。 「どうしました？」 「ドクターは他人との口唇接触でないと呼吸できない、と言いましたね？」 「その通り」 顎肉をたわませて深く頷かれる。 「それは……、それも相愛の相手でないと？」 スティーブンは今朝方、キスをした。別に愛している相手ではない。それで息苦しさから一時解放されたのだ。思い浮かんだひとつの仮定にスティーブンは縋りついた。 「いいや、誰でもいいよ」 「なんだ、そうですか！」 願った通りの答えにスティーブンは膝を叩いて立ち上がった。 （まったく、もったいぶりやがって、それを先に言え！） そうと分かればもう病院に用はなかった。長居は不要とばかりにジャケットを着こみ、ネクタイを結び直す。現金なスティーブンに、医師は呆れを露わにしたが、構うものか。仕事人間なのはとっくの昔にバレている。 「支払いはいつも通り事務所に回してください。ああ、それとこちらでも調べますが、他に解除方法がないかドクターの方でも探してくれますか。もちろん費用がかかるなら言ってください、用立てておきます。あとこれは――」 「オフレコに、でしょう。わかっとりますよ」 「いつも恩に着ます」 やれやれ、と肩を竦めたんだか、顎を引いたんだか分からない動作で老医師は首を振った。 スティーブンは、足の長さを活かしたコンパスで病院の出口へと向かった。 [newpage] ＊　＊　＊ さて、とスティーブンは最後の書類にサインを書き終えると万年筆のキャップを被せて、執務椅子に深く背を預けた。 医師から、キス病の診断が下った日から、三日が過ぎていた。相変わらず完治には至っていない。しかし問題なく生き長らえてはいた。 呪いを解く新しい方法は未だに判明していない。 この三日間、スティーブンは適当な相手を見繕っては、キスを繰り返す日々を送っていた。何人かと唇を交わし分かったことがあった。当然だが、バードキスのように軽いのは『持ち』が悪かった。ディープなものであればあるほど、『持ち』は長い。だがそれよりも相手によって相性があるのか、そこの差の方が大きかった。 （ルナは駄目だったな） 濃厚なのを交わしたのに、一時間で苦しくなってしまった。一番キスが上手い女だっただけに残念だが仕方ない。溜息をつきそうになり、スティーブンは慌てて飲み込んだ。 穏やかな乱れのない呼吸。それが一番消費が少ない。当然、血凍道を使うような身体を動かす事態になると息苦しさは一気に加速した。今日は朝、この数日で一番相性のいい女とキスをしてそのまま事務所で事務作業だったので、まだ危機的状況には陥っていなかった。 スティーブンの一日は案外と出入りが激しい。情報収集、交渉、接待、会合、野暮用エトセトラ。言えるものから言えないものまで、一日の半分は忙しく立ち回っている。 （そう、半分だ……） つまり残り半分は事務所にいる、のである。もしくは自宅――拠点としているセーフハウスだ。さすがにこの二ヵ所に女は連れ込めない。スティーブンは悩んだ。 （連れ込めなくはないんだが……） 女を昏倒させてしまえば連れ込めはする。だがその方法で、自宅はよくてもさすがに事務所には無理だ。そうしてスティーブンは自宅にいるよりも、事務所にいる時間の方が圧倒的に長い。 燃費の悪いクラシックカーの給油じゃあるまいし、苦しくなったら外に出てキスしてまた戻るのは面倒くさいの一言に尽きた。 「…んごっ……、くかー……」 解決策の浮かばない問題にいらいらと床を蹴っている時だ。悩みと無縁のいびきと寝息がスティーブンの思考を遮った。虚空を睨みつけていた眼差しを横に流す。ソファで熟睡しているレオナルドだ。ぱっかーと大口を開けて、靴を蹴飛ばした片足はソファから落ち、胸にソニックを乗っけて――こちらもうつ伏せにしがみついてすよすよと寝ている、捲れたパーカーから腹を丸出しにして寝ていた。 早朝バイトを入れたせいで寝不足なのだと言う。ただし、だからといって早く寝ないのはゲームをしているからなので、同情の余地はなかった。くこーくかーふすーすこーとくびれも色気もない腹が上下して幸せな寝顔が披露されていた。 苛立ちを感じるよりも、毒気を抜かれて規則正しく膨らんでは萎む腹を眺めた。時折、ソニックが額をぐりぐりと押しつけてはしがみつき直していた。 そんなにレオナルドの平坦な胸は寝心地がいいのだろうか。ちょっと変わってほしくなりつつ、ぐっと飲み込んでザップを呼んだ。 「おい、ザップ」 「あ、すません、ちょぉっと待ってください！　あと、ここ、おりゃ、おりゃおりゃっ！」 なんだってあいつらはああも密着したがるんだろう。 スティーブンはいつも疑問に思った。ザップは向かいのソファが空いているのに、わざわざレオナルドの寝そべっているソファの隅っこに座っていた。とはいえそこはザップだ。彼らしくレオナルドの足を「おら、邪魔だ縮れてろ陰毛」と足蹴にして膝を折らせ、足を広げて座れるだけのスペースは確保していた。寝ている後輩にまで傍若無人を発揮した男は、そのまま勝手にレオナルドの鞄を漁り、勝手にレオナルドのポータブルゲーム機を取り出し、勝手に――おそらくレオナルドのセーブデータを使って、ゲームに没頭していた。どんなゲームなのかスティーブンは知らないが、ある一定まで達すると区切りが生まれるらしく、ザップがスティーブンの呼びかけを跳ね除けてまでカチャカチャと忙しなく指を動かして目をかっぴらいていた。そう長く待つこともなく、チャラランと軽やかな音色が鳴り、「うっしゃあ！」とザップがガッツポーズを決めた。 「Ａランククリア！　このムービー見たかったんだよなぁ！」 ご機嫌に画面を見つめ、ようやくザップが顔をあげた。 「で、スターフェイズさん、なんか言いました？」 「少年にその毛布かけてやれ」 「えー、俺、今忙しいんすよぉ」 なんだそんなことか、とザップの視線が手元に落ちる。尻に敷いている毛布を引っこ抜くことすらしない。 「お前のケツは温めなくてもいいだろう。少年が腹を冷やして下したらどうするんだ」 「…………スターフェイズさん」 「なんだ」 ザップが胡乱な眼差しを向けてくる。こっちを見るヒマがあるならさっさとかけてやれ。 「前から思ってたんすけど……」 「だからなんだ」 語気を強めたスティーブンに、ザップはゲームを膝に投げるとがしがしと頭を掻きまぜた。 「マジ無意識かよ、うえぇ……」 ぶつくさと聞き取りづらく零して、おもむろに立ち上がる。眉間に皺を刻んだスティーブンに向かって、ザップは自分のシャツを捲って腹を見せてきた。 「あー、どう思います？」 「どうって……」 何をしたいのか分からない。分からなかったが、とりあえず検分した。褐色の腹部は、腹筋が六つに割れ固く引き締まっていた。無駄な贅肉はない。斗流血法の使い手らしく、しなやかな筋肉だ。だがザップは身長に対してウエイトが圧倒的に足りない。細すぎるのだ。骨格も――強いていうならばだが、華奢だ。そのせいで筋肉がつきにくい部分もあるだろうが、ザップの腰は理想的な体型よりも一回り細い。とはいえ、鍛えられる限界値に達してはいない。無駄に筋肉を膨らませろと言うつもりはないが、足りてないのは明らかだ。 そこまで瞬時に分析し、スティーブンは全てを集約した一言でザップに言った。 「トレーニングをサボるな。またみっともなく浮き輪をつけたら、今度こそ氷の刃でそぎ落とすぞ」 「わ、わぁってますよ！　おっかねぇこと言わないでください！　じゃなくって、こっち！　スターフェイズさん、だったらこいつはどう思うんすか？」 「少年か……？」 顔を引きつらせたザップが、へくちっと小さくくしゃみをしたレオナルドの腹を指差した。だからさっさと毛布とかけてやれ。 相変わらず剥き出しの腹に視線を向ける。消えかけた青あざと擦り傷がここからでも見て取れた。いつのだろうかとつけられた時の痛みを思い、傷跡が残らなければいいがと気を揉む。日焼けのない白い肌はザップと対照的で、柔らかそうだ。ライブラに加入したばかりの時、日々の食う物にも困る生活をしていたレオナルドはガリガリのやせっぽちだったが、その頃に比べれば少しは肉付きが良くなった。青年になりきれないのは幼い顔立ちだけではないらしく、体つきにも少年のラインが残っている。つつけばぷにっと指が埋もれそうな腹は愛嬌がある。 スティーブンはやはりそれら全てを凝縮した一言を感想に選んだ。 「……柔らかそうだな」 「で？」 「で、って？」 怪訝に訊き返したら、ザップは地の底に届きそうな深い溜息をついた。理由は知れなかったが、むっ、とスティーブンは顔をしかめた。なんだ、なんでザップなんかにそんな溜息をつかれなきゃいけないんだ。 「あーもう、マジこの人、タチわっりぃ」 がつがつとタイルの繋ぎ目を蹴って、ザップが首を振る。再びスティーブンと向き合った目はじとりと座っていた。 「番頭、こいつに甘すぎっすよ！」 いきなり癇癪を起した子供みたいに、ダンダンと床を踏み鳴らして腕を振り回す。 「こんなちんっちくりんでも一応、俺らと同じライブラっすよ、ライブラ！　しかもトラブル体質だけいっちょまえの！　いつまで俺がお守りしねぇといけねぇんすか！」 「仕方ないだろう、ライブラでもトラブル体質でも目が良くても、それ以外はごく普通の一般人なんだぞ、少年は」 「だぁかぁらー！　こんなぺらっぺらでぷよんぷよんな体型じゃまずいでしょ、っつってんすよ、俺は！　なのにあんた、こいつにはぜんっぜん鍛えろって言わねぇじゃん！　俺にはすぐ言うくせに、脅すくせにっ！　そんなん贔屓だ！　えこ贔屓！」 「ひいき……」 ザップに言われてスティーブンは、回した思考回路が全くの別物だったことに気がついた。ザップはたまに野生じみた鋭さを発揮する――それは主に自分の利害に絡む時だ。喚かれた利己的な自己主張は、スティーブンの目から鱗を落とすのに十分な指摘だった。 どうやら自分はレオナルドをライブラの構成員――義眼の力を持つ部下、として分類していない。いや、してはいる。してはいるが、それだけではない。もっと踏み込んだ情を感じている。それこそザップが言うように、過保護の真綿で包んで守りたいと思うくらいの。 （つまり、――俺は少年が好ましいんだ） それは天啓じみていた。スティーブンの頭を悩ませていた問題に一筋の光が差す。うってつけな人材が、目の前に文字通り転がっているではないか。 「おい、少年。レオ。レオナルド！」 突然の地震に飛び起きたソニックがパニックを起こしてレオナルドの胸から飛び退く。ザップの頭にしがみついて、「キ、キッ……？」と大きな目をきょときょとと動かした。 「レオ、起きてくれ！」 「ん、……ふ……すてぃ、ぶ、さん？」 三度目の呼びかけで、ようやくレオナルドが目を覚ました。しょぼつく瞳をこしこしと擦り、鬼気迫るスティーブンを寝ぼけまなこがほにゃりと見上げる。 顎を指で掴んでこちらを向かせる。口を開けて寝ていたせいで、乾いて潤いの足りない唇を見つめる。嫌悪感はない。仰向かせ、躊躇なくキスした。 「ひょえあああああああああああばばばばばばばばばばああばんとおおおぇあああっ！？」 「…………ッ！？」 ザップが人外な悲鳴を上げる。構わない。今日からこれは日常になる。見慣れてもらわねばならない。 レオナルドは隠すのも忘れてまんまるに目を開けて義眼を晒していた。咎めることはせず、ちゅぱと音をさせてスティーブンは口を離した。離れ際、下唇を舌でねぶって顔を引く。レオナルドはかわいそうなくらい真っ赤になっていた。初々しい反応につい笑みが広がった。 舌も入れない、触れ合うだけのキスだったのに、スティーブンの呼吸は驚くほど楽になっていた。嬉しいオマケだ。レオナルドとの相性は抜群にいい。 「す、すてぃ……す、……」 はくはくと口を開閉させてまとめに喋れないレオナルドに、スティーブンは満面の笑みを向けた。顎を掴んだ人差し指で、すり、と輪郭を撫でた。 「少年、キスのバイトをしてくれ」 「は……？」 「これは君にしかできない仕事だ。やれるな、少年」 ほぼ真上から、眠気の抜けきらないレオナルドの顔に影を被せて、スティーブンは否を許さない微笑みを落とした。 ＊　＊　＊ レオナルドをキス相手に抜擢した後、スティーブンはすぐさま自分にかけられた呪いを他のメンバーにも公表した。その間もスティーブンはレオナルドの手を掴んだまま離さなかった。 顔を真っ赤にして隣に立ったレオナルドは、スティーブンは説明する間、ずっと俯いていた。一度も顔をあげなかったレオナルドが唯一顔をあげたのは、スティーブンが指で顎を掬い、ちゅっ、と音を立ててキスをした時だけだ。 泣きそうな顔で唇を戦慄かせ、でも結局何も言わずにレオナルドはまた汚れた靴に視線を落とした。 どんなに恥ずかしがっていようと、何度も反復すれば抵抗感は消えていく。わざとらしく咳き込んで苦しげなそぶりを見せ「少年、いいかい？」と弱気にねだれば、レオナルドは「……はい」と震えながら目を瞑って自ら唇を差し出してくれた。 Ｋ・Ｋが任務に呼び出された後で良かった。そうでなければスティーブンは「ペド野郎！」の罵りと共に蜂の巣にされていた。 嘘をつくことに罪悪感なんて久しく感じなくなっていた。でもこの時は、苦しくもないのに苦しいと言った自分がとてつもなく悪い人間に思えた。それがスティーブンの劣情を駆り立てた。かわいそうに。嘘なのに。事務所で、みんなが見ている前なのに。こんなに顔も耳も首も手も――全身真っ赤になってレオナルドはキスを待っている。見ないようにと事務所に残っていたツェッドは手元の本に視線を落とし、ザップは明後日を向いて調子の外れた口笛を吹いていた。そうしながら、こちらを強烈に意識しているのが空気の揺れで伝わってきた。 ソファに腰かけてスティーブンの方に身体を傾けたレオナルドの両拳が膝の上で震えていた。左手を添えると静電気が走ったみたいにレオナルドが震えた。たかがキスなのに、スティーブンにまで緊張が伝播したのか、心拍が上がった。情緒もなく口づける、なんてしなかった。好物の最後の一口を味わうみたいに五感全てで味わい尽くしたい。 右手を耳に伸ばし、頬に跳ねた髪を梳いて耳にかけた耳殻の輪郭をなぞって耳と項を包んで引き寄せる。ふ、ふ、とレオナルドの吐く息が浅かった。これではどっちがキス病なのか分からない。 レオナルドが目を瞑っているのをいいことに、スティーブンは欲で双眸の鋼色を深め、目蓋を伏せた。背中を丸めて、右に傾けたレオナルドと鼻をぶつけないよう、自分は左に顔を傾けた。これでもかと時間をかけて、とびきり甘い口づけを交わした。 さすがに舌は入れなかった。その代わり唇を擦り合わせ、何度も食んだ。 「は、ふぅ…っ…」 健康的な少年からは思いもしない艶っぽい吐息が漏れた。たぶん無意識だろう。拳を握っていた手が、スティーブンのスーツの袖口を握りしめていた。溺れた人間が縋りつくみたいだった。それが自分になのが、ぞくぞくとスティーブンの支配欲を掻きたてた。 ごくん、と唾を飲み込んだのは、ザップかツェッドか。 快楽に酔う脳内物質が出てる。それが分かるくらい頭がくらくらした。意識していなかった息苦しさが溶けていく。レオナルドとキスすると、酸素が足りていなかったのを思い出す。小さな唇から生きるのに必要な酸素が注がれる。たまらず項を引き寄せて唇の密着を強くした。離し難い。キスってこんなに気持ち良かったのかとガキくさい感想が浮かんだ。 止め時を失ったくちづけは、パシャッとシャッターを切る電子音で唐突な終わりを迎えた。 「チェイン……？」 事務所にはいないと思っていた人狼の彼女、チェインだった。 「すみません、あまりにも絵になってたので、つい……」 「ただの人工呼吸だよ、恥ずかしいから消してくれ」 「はい、すみません」 スティーブンは苦笑して、目をキラキラと輝かせたチェインに言った。レオナルドは今のキスで逆上せたのか、倒れこんで来た。背骨を失ったみたいにくにゃくにゃだ。火照った痩躯を胸にもたれさせて、さりげなく上気した顔を隠した。 「少年、大丈夫かい？」 「は、はい……」 頷いたレオナルドはスティーブンのスーツを掴んだままだった。見下ろした先で、小さい舌が重なっていた唇を撫でた。 苦しくはなかった。でも今すぐにでもまたキスしたくなった。 「おかげで楽になったよ、ありがとう。また苦しくなったら頼む」 ぽんぽん、と頭を撫でながら、スティーブンは舌舐めずりした。 [newpage] ＊　＊　＊ レオナルドにキス役を引き受けてもらってから、四日が過ぎていた。問題の進展はゼロだったが、スティーブンは楽しかった。気がつくと鼻歌が出ているくらいには、上機嫌だ。 酔ってもないのに浮かれ過ぎだな、と思って口元を擦る。そうすると自分の唇に触れて、口寂しさを思い出した。 やれやれと息を吐いて、数字を打ち込んでいたパソコンから顔をあげた。騒がしい音源に顔を向ける。 「少年」 名前を呼ぶ。それだけでいい。ぎゃあぎゃあとじゃれ合っていたレオナルドが、慌ててザップの腕から抜け出してくる。ザップも引き止めなかった。とたとたとレオナルドがスティーブンのデスクまで来た。 「はいはい、お待たせしました」 「すまないね」 口だけの謝罪を告げて、座ったまま仰のく。机に片手をついたレオナルドが少しだけ頭を下げて応じた。 ふに、と唇をくっつける。甘い痺れを肺に満たして、角度を変えてもう一度。ちゅっ、と音を立ててキスを送った。 「ありがとう」 「どいたしまして」 この四日で、レオナルドはすっかりスティーブンとのキスに慣れた。ことあるごとにキスをねだるスティーブンに最初こそ照れてぎこちなく泣きそうになったりもしていたが――それはそれで初々しくて可愛かった、今では同僚の目も気にせずこうしてキスしてくれる。 「スティーブンさん、大丈夫ですか？」 「ああ、もう平気だ、ありがとう」 「そうじゃなくて、最近、前より間隔が短くなってませんか？　もしかして悪化してるんじゃ……」 レオナルドが感じた不安をそのままにスティーブンを案じる。 ああ、そんなことかとスティーブンは笑った。 心配なんていらない。なぜなら…――。 （半分は嘘だからな） 「自覚症状はないが……午後は病院に行くから医師に聞いてみるよ」 腹黒、狡猾、二枚舌。よくぶつけられる悪態そのまんまに息を吐くように嘘を吐き出した。 回数が増えたは息苦しさが悪化したからではない、単にスティーブンがレオナルドとキスしたいからだ。小ぶりでも弾力があり、余計な添加物が塗りたくられていないレオナルドの唇は気持ち良かった。 （呼んだらすぐ来てくれるしなぁ） 味をしめるってものだ。 「そうしてください」 ほっ、と暗かったレオナルドの表情が緩む。心配してくれたのだろうか。嬉しくなって、出掛ける前に、ともう一回、今度は長めのキスを掠め取った。 ＊　＊　＊ 事務所で仕事をしていたスティーブンの電話が鳴り、出てみると相手はＨＬＰＤのダニエル・ロウ警部補からだった。撃っても焼いても効果がないスライム生物がペットショップから逃げ出したから来てくれ、という要請だ。 ペットショップを飲み込むまでに巨大化していたスライムは、スティーブンが到着した時、ちょうど動きを止めて頭――尻かもしれない、をふたつに割っているところだった。 「おせぇぞ、ライブラ！」 「これでもすっ飛ばしてきたんですよ」 前髪を特徴的に跳ねさせたダニエルが、スティーブンを見つけるなり罵声を浴びせた。糸を引きながらスライムの胴体まで半分に割れる。 「さっさと凍らせろ」 「はいはい」 人使いの荒い警部補におざなりな返事を投げ、スティーブンはバリゲートの前に進み出た。両手をポケットに入れた、独特の戦闘スタイルを取る。 地面を踏みしめて、スティーブンは笑った。湿っている。 （さすが仕事は出来る） ダニエル警部補の指示だろう、あたり一帯に放水されていた。 静かに深く息を吸い込む。四階建てのビルを凌ぐデカさのスライムは三分の二が分離していた。 意識を集中する。肺が息苦しさに軋んだが無視した。酸素をたっぷりと含んだ血液を意識して脚に集める。最大威力の大技だが――周辺一帯が多少凍りつき過ぎても怒られはしまい。 攻撃対象に指標を定め、靴に仕込んだギミックを発動させた。 「絶対零度の地平(アヴィオンデルセロアブソルート)！」 スティーブンの叫びと共に、放射状、世界が絶対零度で凍りつく。キン、と身を切る寒さに襲われたのは一瞬だ。吐き出す息が白く濁り、煌めくダイヤモンドダストが大気を瞬かせる。 千切れたハートマークそっくりの形で、スライムが凍りついていた。 「てっめぇ、スカーフェイス！　誰が全部凍らせろつった！　スライムだけでいいんだよスライムだけで！」 「……ええぇ」 ご要望通り氷漬けにしてやったのに、後ろでダニエルが拳を振り上げて怒鳴った。その手に握り潰された煙草の先端まで凍っていた。 情けない声を出しながら、区画丸ごとはちょっとやりすぎたかもしれない、とスティーブンも少しだけ反省した。 ＊　＊　＊ 「働き損の気分だなぁ、もう」 結局、感謝の一言もなく罵詈雑言を追加で浴びせられて現場から追い出された。 情けなく眉を垂らしてスティーブンは、平和に銃声と爆音を撒き散らす大通りを歩いていた。 大技を使ったせいで酸素切れが起きかけていた。呼吸困難、とはまではいかないが、時間があるうちに補給しておくべきだろう。 誰か呼び出したらすぐ応じてくれそうな女は……。ずらりと名前が並ぶアドレス帳をスクロールして相手を物色する。 その手が、そういえば、と通りの名前を見て止まった。 「少年のバイト先、この近くだったな……」 レオナルドの顔が浮かんだ。シフト通りなら、勤務真っ最中のはずだ。 スティーブンは頭に残っていたバイト先の住所を思い出し、冷やかしに行くことにした。 五分も歩かず、店の看板を発見する。感知センサーで自動ドアが開くと明るい店員の声に出迎えられた。 「いらっしゃいまっ、……すてぃーぶんさんっ？」 近くでお茶を運んでいたウェイトレスの挨拶につられて、カウンターの奥にいたレオナルドも営業スマイルを見せた。歓迎の挨拶が途中で途切れて驚かれる。 「やぁ、勤労少年。ちゃんと働いてる？」 「どうしたんですか？　なんかあったんですか？」 片手を上げて軽い挨拶を交わし、ドーナツがずらりと並ぶショーケースに近寄った。 イートインですか？　と秋波を乗せて訊くウェイトレスには人好きのする笑みで、「テイクアウトで」と答えておく。レオナルドのバイト先だ、いい印象を残しておきたい。 「診察帰りだよ。近くを通りかかったから、立ち寄ったんだ」 「大丈夫でしたか？」 「うん、現状維持。改善も悪化もしてなかった」 「そっか、良かったです、って治ってないのに良かったもないですねすみません」 「悪化してなかったんだから、良かったよ」 慌てて言い直すレオナルドに、気にするなと笑いかけた。 暖色のライトで照らされたガラスケースの中に色とりどりのドーナツが並んでいた。種類が多すぎていまいちどれがいいのか分からない。 「なあ、このダブルチョコレートとトリプルチョコレートってどこが違うんだ？」 見た目がどう見ても一緒だ。ダブルチョコレートはオーソドックスな穴あき生地にチョコレートが練り込まれ、まわりをミルクチョコレートでコーティングされていた。 一方、トリプルチョコレートはその上にチョコスプレーがトッピングされている。 まさかこの飾りの差だけで一ゼーロ違う、とは思いたくない。 「あ、それはですね、ダブルチョコレートはチョコ生地にチョコレートコーティング、トリプルは中に生チョコが入ってるんです」 「なるほど」 トッピングは外見の見分けようか。 腰を曲げてショーケースを覗き込むスティーブンに、レオナルドもカウンターの中から身を乗り出して、「他に分かんないのあります？」と聞いてきた。 近づいた距離に、ふわりとドーナツの甘い匂いがした。店の奥でドーナツを手作りしているのがこのチェーン店の売りだった。当然、店内は甘ったるい匂いで充満している。それはレオナルドも、甘くコーティングしてしまったみたいだ。 「だから少年のキスは甘いのかな……」 ぼそりと口の中で転がした呟きに、レオナルドが顔をあげた。 「なんか言いました？」 「うまそうだなってね。ケースの中のドーナツ、端から端まで、全部一個ずつくれ。ああ、少年が食べたいやつだけ二個にしていいよ。今夜のデザートにするといい」 「わかりました！」 レオナルドが、手際よく箱を組み立てて、ドーナツを詰めていく。事務所への差し入れにするつもりだった。レオナルドも分かっているから、みんなの好きな種類を入れる時はわざわざトングで掴んだドーナツを見せてくれた。 「僕の好きなのも分かるかい？」 「スティーブンさんはこれでしょ、チョコカスタード」 「よく見てるな」 得意満面にレオナルドが掴んだドーナツはその通りスティーブンが一番好きな種類だった。 「その、あの、目だけはいいですから」 なぜだかレオナルドは動揺していた。なんだろうとは思ったが、もっちり触感のリングドーナツをふたつ入れたのを見て、あれがレオナルドの好きなドーナツかと記憶しているうちに些細な疑問はスティーブンの頭から消えていた。 隣のもっちりイチゴドーナツもふたつ入れたレオナルドが、あれ、と箱詰めの手を止めた。 「スティーブンさん」 「なんだい」 レジで財布を出して待っていたスティーブンを呼ぶ。 「今夜のデザートってどういう意味ですか？」 ああ、と何食わぬ顔でスティーブンは頷いた。 「しばらく少年には、ウチに泊まり込んでもらうことにした」 「は？　聞いてませんけど！」 「今、言っただろ。ああ、そうか。着替えを取りに行かないとだな……」 この後の予定を思い出す。事務仕事がいくつか残っているが急ぎの案件はないから深夜までかかることはないだろう。 「バイトが終わったら事務所に顔を出すといい。一度君に家に寄って行こう。ソニックはどうしてるんだ？　音速猿一匹くらいなら増えても構わないよ」 「待ってください。急にそんなこと言われても困りますってば！」 「バイト代なら深夜手当を上乗せで出そう。それとも時給じゃなくて回数制に契約変更する？」 僕はどっちでもいいけれど、と言うスティーブンに、お金の問題じゃなくてですね、とレオナルドは頷かない。 「じゃあ、どんな問題だ？」 「それは、みんなに誤解されたりとか」 「僕達がキスをする間柄なのは周知の事実だ」 「キ、キスとか大声で言わないでください！　それに寝る場所とかもあるでしょ。僕、ちゃんとベッドで寝たいです」 「心配ない、クラウスが二人いても余裕で寝られるサイズのベッドだ。ソニック用のバナナも買って帰ればいいし、枕が変わったら眠れないなら着替えと一緒に持って来ればいい。なんならゲーム機も持ち込んでいいよ。歯ブラシとシャンプーも新調しよう。それで他に何かあるか？」 レオナルドが言い訳にしそうなネタを先に並べ立ててしまう。取って食うと言ってるわけでもないのに、嫌がられる理由が分からなかった。 「いままでは昼間だけだったじゃないですか……」 「いい加減、ホテルのベッドは嫌なんだ。適当な相手を自宅に連れ込むわけにもいかない」 これまでどうやって夜をやり過ごしていたのか、そこはかとなく匂わせる。 「な、いいだろう、レオナルド？」 「……スティーブンさん、嫌だって言わせるつもりないでしょ」 レジカウンターに寄りかかってレオナルドを覗き込む。ぎゅぅ、と唇を噛んだ後、レオナルドは恨めしげに言った。 「うん、ないよ」 「……腹黒番頭」 「頼もしいだろう？」 「…八時以降は五割増しにしてください」 「わかった、八割増しにしよう」 交渉成立だ。代金を払い、ドーナツを受け取る。 「ありがとうございました！」 「じゃあ、あとでな」 自棄気味に見送るレオナルドにスティーブンは唇を押し当てた。わざと音をさせて弾く。 横目に視線を流し、スティーブンは嫣然と微笑んだ。 ＊　＊　＊ バイト上がりで事務所に来たレオナルドはまだご機嫌を損ねていたが、それも連れだって帰る頃にはいつものレオナルドに戻っていた。 「さあ、入って。少年はここを使ってくれ。荷物も置くといい」 使っていないゲストルームに案内し、「自分で持てます」と言われても離さなかったレオナルドの荷物を机の上に置く。 「ソニックもここでいいかな？」 レオナルドの肩に乗る、小さな友人にもお伺いを立てると、「キ」と短く鳴いた。どうやら異存はないようだ。 「なんだー、ベッドあるんじゃないですか」 「君が寝るのはここじゃないよ」 やんわりと訂正する。 「え、でもベッド……」 「君が寝るのはこっちだ」 スティーブンは廊下を横切り、反対の扉を開けた。 「って、ここスティーブンさんの寝室じゃねぇか！」 「そうだよ。少年はここで僕と寝るんだ」 ドーナツショップでも公言した通り、ベッドは特注サイズ。クラウスが二人いても窮屈さを感じず眠れる幅と長さだ。 「大きさの問題じゃない！　じょ、上司とひとつのベッドなんておかしいです！」 こっちにもあんのに！　と、枕なのかクッションなのか分からないぺったんこの枕を――レオナルドがアパートから律儀に持ってきていた、抱きしめて後ずさる。往生際の悪い奴だ。 壁際に追い詰めて、スティーブンはにっこりと笑った。ひっ、と失礼な悲鳴をレオナルドが上げる。 「僕だって部下に手を出す趣味はない。でも仕方ないだろう？　夜中に苦しくなったら君のキスが必要なんだ」 「あ……」 「だから、傍にいてもらわないと」 「…………」 「分かってくれたかい？」 「……はい」 すみません、とか細く謝ったレオナルドのつま先が反対のそれと捏ねあう。ちょろい。自分の口が上手いのも否定はしないが、それにしたってレオナルドはちょろ過ぎた。 測ったかのように、ソニックがゲストルームから顔を出した。「キ、キ」と腹を擦ってアピールしてくる。壁に閉じ込めていた腕をおろし、スティーブンはくしゃりとレオナルドのくせっ毛を撫でた。 「ありがとう。さあ、ソニックも腹を空かしてるみたいだ、夕飯にしようか」 背中を押してウェデッドが作っていってくれた夕食の待つダイニングに向かった。 もちろん、スティーブンの熱弁は全部嘘だった。 いつもは一人で味気ない夕飯も、レオナルドとソニックのおかげで賑やかな団らんとなった。その席でスティーブンは用意しておいたゲスト用のマンションキーをレオナルドに渡した。これがあればスティーブンがいなくてもマンションへの出入りは自由だ。 「家の中は自由に使っていいよ。どうした？」 受け取ったカードキーを神妙な顔つきで見つめるレオナルドに聞く。 「あ、いえ、なんかちょっと意外だったので……」 「鍵を渡したことが？」 「まあ、……そうです」 「見られて困るものは日頃からセキュリティをかけてあるし、まさか少年が僕のいない間にコソ泥みたいな真似をするなんて思ってないさ、―ザップならともかく」 「あはは、それザップさんが聞いたら怒りますよー」 「あれ、じゃあ少年はザップに合鍵渡そうって思う？」 「思わないっすねー」 「だろ？」 片眉をあげて、行儀悪くフォークで差して、そのままズッキーニを刺して口に運んだ。ほどよい焦げ目のついたズッキーニはさく、と気持ちいい歯ごたえが残っていた。 大事そうにポケットに仕舞いながら、レオナルドもポークソテーを口に運ぶ。ほっぺたを膨らませた塊を飲み込んでから、「なんつうかですね」と言葉を選ぶ仕草で再び口を開く。 「スティーブンさんはパーソナルスペースに他人を入れるの嫌な人だと思ってたんで」 それですげぇ意外でした、とレオナルドは言った。 「まあね。でも少年は――、レオナルドなら家にいてもいいと思ったから来てもらったし、鍵も渡したんだ」 照れ笑ってレオナルドが「ありがとうございます」と返す。 「だからその鍵、うっかり落としたりするなよ？」 「うわあ、気をつけます。あとザップさんに奪われないようにも」 そうしてくれと頷いて和やかに食事の時間は過ぎていく。 信用していると言われたレオナルドは嬉しそうだった。やわらかい微笑と共に告げたのはスティーブンの本心だった。だがスティーブンはレオナルドに万一……の保険をかけていた。小さな、本人も打たれたと分からない小さな血の針を、レオナルドに刺したのだ。怪しい動きをみせたら、スティーブンの意思ひとつで全身の血液と言う血液が毛細血管に至るまで凍りつく針だ。それをやり過ぎだとは思わない。罪悪感を感じたこともない。……感じたことはなかった。それでも今日、スティーブンはレオナルドにそうするのをほんの刹那、躊躇した。 「食べ終わったらバスルームの場所を教えるよ。僕はやっておきたい仕事があるから、先に入ってくれ」 「はーい」 焼かれて皮の弾けたプチトマトを食べる。冷えたせいか、甘みが強いはずの赤い実をしょっぱく感じた。 ＊　＊　＊ 食事を終え、スティーブンが風呂から戻ってもレオナルドとソニックはリビングのソファで待っていた。 「なんだ起きてたのか、先に寝てて良かったのに」 「やー、さすがに家主差し置いてそれは」 手元を覗き込むとゲーム機が握られていた。スティーブンが髪を乾かし、「そろそろ寝ようか」と言ったらすぐに電源を切ったので、どうやら時間を潰しているだけのようだった。 「お、お邪魔します」 「そんなに端っこにいると落ちるだろ、もっと真ん中に来いよ」 レオナルドが枕を置いたのは一転がりでベッドから落ちるぎりぎりだった。 「俺、寝相悪いんで」 「ならなおさら端は駄目だろう」 「……どうなっても知りませんからね、蹴っても凍らせないでくださいよ？」 「靴を脱いでるから心配するな」 アッパーシーツに潜り込ませた足を外に出して裸足を主張する。スティーブンだって寝る時くらいは靴を脱ぐ。 「あ、そっか」 なら安心です、とレオナルドは真ん中に這いずってきた。ただし枕は隅っこに置いたままだ。 「……君の枕だと思ってた」 「そんな繊細な性質じゃないですよ」 レオナルドがぱんぱんと叩いて整えた上を踏み均して丸くなったのはソニックだった。本人は遠慮なくスティーブンの枕をひとつ拝借して頭を乗せた。 でかいベッドに潜り込んで、「おやすみ」と長めのキスをして、ライトを落とした。二人で大の字になっても差支えない広さだ。女と寝る時みたいに、無駄な密着はない。レオナルドは少し緊張しているようだった。スティーブンが明日の予定をつらつらとおさらいし、寝返りを打つと、息を飲む気配がした。 「……眠れない？」 背を向けて丸まる後頭部に密やかな声をかけた。ふすぅ、と気持ち良さそうなソニックの寝息を二回聞いた。レオナルドがもぞもぞとこちらに向き直る。遮光カーテンに作られた闇は暗かったが、微かな光源がカーテンの隙間から差し込んでいた。暗闇に慣れた灰色の眼に、苦笑するレオナルドがぼんやりと見えた。たぶん、少年は暗さなんて障害にもならず、こちらが見えているんだろう。それは少しズルいと思った。 「ちょっとだけ。すいません、もしかして起こしちゃいましたか？」 「いや、そんなことないよ」 スティーブンは必要とあればどんな状況でも眠れる。無害な少年が一人と小猿が一匹増えたところで、眠れなくなったりはしない。 「眠れないんなら……なんか話してくれ」 「なんか、って？」 衣擦れの音。たぶんレオナルドが首を傾げた。スティーブンも横向きに寝そべった体勢のまま肘をついて頭を乗せた。 「なんでもいいよ。そうだ。前にミシェーラ嬢によく読み聞かせてたって言ってた童話とかは？」 「いいですけど、こういう時って寝つけない子に話して聞かせるもんじゃないんですか？」 「あいにくと子守唄になるような可愛い話は知らないんだ。『血界の眷属』絡みの血みどろホラーな伝承ならいくらでも出て来るけど……」 「わあああ、やめてください、よけー眠れなくなる！」 ぱさぱさと乾いた音がしたのは、レオナルドが首を振ったからだろう。はあ、と溜息を零し、レオナルドはヘッドボードを背もたれにして上体を起こした。 「……笑わないでくださいよ？」 そう前置きして、レオナルドが語り出した。「むかしむかし、あるところに……」とぎこちなく。物語の枕詞からまずはよく知る童話が紡がれる。人魚姫だった。海で溺れた王子、食らわんと狙う人食いサメ、間一髪助ける人魚姫。覚束なかった語り口が、感覚を取り戻して滑らかになっていく。 スティーブンは息を潜めて、耳を澄ました。心地が良かった。ことさら甘いわけでも、美声でもない。けれど空調の音だけが無機質に空気を揺らす寝室で、それはぬくもりを宿して耳に馴染んだ。 幼いレオナルドもこうして妹に読み聞かせていたのだろうか。二人で布団に潜りこんで、子供の手にはまだ大きい本を膝に乗せて、指で文字を追いながら。声変わり前のレオナルドは、どんな声だったのだろう。絶対可愛かった確信だけはある。羨ましい。 （俺も聞いてみたかった） 叶わない願いだ。少しばかり会ったことのない妹君に嫉妬を覚える。 知っている物語が終わる。人魚姫が泡へと溶ける。悲しい結末。ふう、と一度レオナルドが休憩を挟んで唇を舐める。 「スティーブンさん」 「うん？」 「続きも聞きます？」 「続き？」 思わぬ提案だった。人魚姫は泡となって消えて終わる物語だと記憶していたが、違うのだろうか。 「あ、続きって言っても、僕のオリジナルなんです！」 慌ててレオナルドが補足した。 「ミシェーラが、妹が悲しい結末なんてやだ！って泣いて聞かないから、勝手に考えたやつで」 言いながら恥ずかしくなってきたのか、レオナルド度が耳まで赤くなる。 「それは、ぜひ聞きたいな」 「…………絶対笑っちゃだめですよ？」 「もちろん」 もう一度念を押されて、スティーブンはすぐに頷いた。 眼を閉じて耳に意識を集中する。知らない物語が始まる。それはレオナルドらしい、元気と驚きと少しの愛が―ミシェーラ嬢向けだ、散りばめられた物語だった。長く喋り続けていたレオナルドはやがて、はふ、と欠伸を噛み殺した。丸まった指が目尻に浮いた涙を擦る。もっと聞いていたかったが、今日は幕を下ろす時間のようだ。 「もう寝ようか」 返事はなかった。船を漕いでいるのか頷いたのか頭を揺らして、レオナルドが布団に潜り込む。すでに眠りかけていた。布団を肩まで引き上げる力もなく、シーツに沈む。スティーブンは残りを引っ張りあげてやり、肩を撫でた。 「明日も続きを聞かせてくれる？」 「……ん」 寝息を返事で受け止めて、スティーブンも目を閉じた。 ＊　＊　＊ 翌朝、目覚めると、どうしたらそうなるのか、レオナルドが枕を尻に敷き手足を投げ出して眠っていた。布団を跳ね飛ばし、寝間着代わりのシャツが捲れ上がってへそが丸見えになっている。 （この子は腹を出して寝るのが趣味なのか？） よく冷やさないなぁ、と妙な感心をして、スティーブンはそっと布団をかけ直してやった。 思ったよりも深く眠った。隣に他人がいるのに。けれど悪くない目覚めだった。まだ起きる時刻まで時間がある。目覚ましに起こされるまで、二度寝を決め込むことにした。 先に家を出るのはレオナルドだった。早朝の清掃バイトがあるから、早いのだ。 「忘れ物はない？　カードキーはちゃんと持った？」 「財布に入れてあります」 その財布を入れてあるポケットを叩く。 「そうか、なら財布をすられないように気をつけろ」 「スリには盗られたことないんで、大丈夫です」 どちらかと言うとカツアゲで……と眼だけはいいレオナルドは苦笑いを浮かべた。 「どっちにしろ、気をつけろ」 「はい、カードキーは死守します」 それが気がかりで言ったわけではないのだけれど。 スティーブンは言葉を重ねるのは諦めた。あまり見送りが延びては遅刻してしまう。 「いってらっしゃい」 ドアノブに手をかけたレオナルドの腰を引き寄せ、朝にしては深めのキスをした。爪先立ったレオナルドが小さく震える。その口からは自分と同じ歯磨き粉の味がした。 「い、いってきます」 唇に残った唾液を拭ってレオナルドが出て行く。オートロックの扉が閉まるまで、スティーブンは玄関に立ったまま見送った。 新婚みたいなやりとりをしてしまった。そう考えると面はゆくなった。 「ん？　俺が新妻の立場か？」 言ってから、苦笑する。 でも、まあ、悪くないな。 [newpage] ＊　＊　＊ この日、スティーブンは朝から不機嫌だった。まず起きたらレオナルドが遅刻だ！　と――今日だけ三十分早く出勤だったらしい、スティーブンにキスをしないで出ていった。そのくせ、ヴェデッドが用意していたサンドウィッチはしっかり食べていた。自分だけ蔑ろにされた気がして不愉快だった。 キスのひとつもないなんて酷いじゃないか、とメールを送ったら、ベッドの中で惰眠を貪っていたレオナルドのスマートフォンが唸った。絶対肌身離さず持っていろと口を酸っぱくして言っているのに、慌てた少年はＧＰＳ付の端末を忘れていったのだ。 これではレオナルドの様子が一切分からない。舌打ちし、腕時計を確認し、スティーブンは仕方がないから職場に届けてやることにした。 顔を洗って歯を磨いて寝巻からスーツに着替え、革靴の靴ひもを丁寧に結んでいる最中に、ニュースが流れていたテレビに砂嵐が走った。嫌な予感しかしない。すぐさま画面は仮面をつけたふざけた野郎のドアップに切り替わり、スティーブンをげんなりとさせた。 朝の六時から堕落王フェムトの顔なんて見たくない。堕落王なら堕落王らしく朝寝坊をしろ。出来ればそのまま永眠してほしい。しかし迷惑な十三王の一人は、ハイテンションにお決まりの挨拶をすると「今日のゲームはー……」ともったいぶった口調で、はた迷惑な厄災の発表をした。曰く「卵が先か鶏が先かゲーム」。哲学じみた名前だったが要は火を噴く魔改造鶏を街中に放った。九九九匹は雄鶏、一羽だけ雌鶏。七時きっかりに雌鶏が魔神を封じ込めた卵を産む。その前に見つけ出せ！　という獲り物ゲームだった。「鳥だけに、なーんてな、あっはっはっはっは！」とダジャレで締めくくられた瞬間、スティーブンの殺意はピークに達した。 とにかく探し物なら――しかも制約時間付き、レオナルドの眼の力を借りねばならない。「見ていたかね」と即座にかかって来たクラウスの電話に応じながら、「レオナルドに連絡がつかないのだが、君は何か知っているだろうか」と訊かれて、自分の手に握っている端末を思い出した。あいつ……っ、と苛立ちが増幅されても仕方なかっただろう。 ツェッドを拾ってＧポイントに急行するよう指示を出していたザップに「予定変更だ。お前は少年を拉致って来い」と伝え、ツェッドには「単身Ｆポイントに向かい捕獲に当たれ」と指示した。 タイムロスがありながらも、各々の能力を遺憾なく発揮した構成員たちの活躍で今日もヘルサレムズ・ロットの平和は――ちょっと丸焦げになった建物や住民はいたが、守られた。 朝っぱらから予定外の労働を強いられ、足とクチバシを縛った鶏の山を前にスティーブンは「やれやれ」と背中を丸めた。あとはこれをＨＬＰＤに引き取ってもらえば終わりだ。 前髪の先っちょをいつもの逆に跳ねさせた――どうやら寝癖のようだ、ダニエル・ロウ警部補に「あとよろしく」とバトンタッチしてすぐにその場を去れば良かった。 トラックに放り込まれていく鶏を眺め、煙草をくゆらせる警部補に並び見守っていたスティーブンはふと浮かんだ疑問を目つきの悪い警部補に訊いた。「この鶏、どうすんの？」と。警部補はあっけらかんと答えた。 「食うらしいぞ。ケンタッチーが買い取るっつってきた」 「え、食べるの？」 「期間限定、ファイヤーホットチキンにするってよ。騒動の鶏だってちゃんと告知するらしいから、まあ、問題はないな」 「……商魂たくましいな」 しばらくケンタッチーを食べるのは控えよう……。と荷台を見送っていたら、脇道から打ち込まれたバズーカでトラックが噴き飛んだ。拡声器を手に突っ込んできたのは、過激派で有名な異界動物愛護の団体だった。要求はもちろん「鶏を速やかに解放しろ」である。あこれ絶対面倒なやつ、とバックレようとしたのにダニエルの手の方が早かった。「捕まえたのはライブラ(お前ら)だ、最後まで責任持ってきやがれ、その為の真っ黒い腹と二枚舌だろうが」と骨の折れる説得を押しつけられた。 どうにかこうにか穏便にお引き取り願い、今度こそ離脱しようとしたら大口スポンサーの一人から連絡が入った。曰く「火噴き鶏を食べてみたい」。そのスポンサーはゲテモノ食いで有名な御仁だった。まさかケンタッチーを食いに行け、とは言えず、スティーブンは鶏を買い付けに行く羽目になった。 スポンサーお抱えの料理長に――こいつもいつか食われるんじゃなかろうかと思ってしまうタコっぽい異界人だった、鶏を渡し終えた時には、陽がすでに西へと傾き始めていた。 血凍道を使いまくった上に、説得交渉おべっかで休みなく喋り続けたせいで苦しくてたまらなかった。息を吸っても酸素は取り込めず、膨らんだ肺は何も得られずに空気を吐き出すだけ。じんわりと脂汗が滲んでこめかみがズキズキ痛んだ。 これはまずい状態だ。 外ではきっちりと締めているネクタイを緩め、スティーブンは急いで事務所に戻った。早くレオナルドとキスしなければと思った。繋ぎに適当な女とキスする気なんてまったく起きなかった。 フェムトがばら撒いた騒動の鎮圧にあたった主要メンバーには、口頭報告を聞くから事務所にいるよう指令を出してある。当然、レオナルドもいるだろうと踏んでいた。 なのに、小柄な少年の姿はどこにもなかった。 事務所の扉を開けて室内を見回し、開口一発「少年はどうした？」と言ったスティーブンに答えをくれたのは、若干空気を読むのが鈍いツェッドだった。 「朝のバイトが潰れた分、三時間ほどチラシ配りの単発バイトをしてくると十分前に出て行きました。あ、終ったら戻ってくるそうです」 「僕が戻るまで待機と伝えていたじゃないか」 「ええ、でも引き留める前に走っていってしまいました」 ツェッドの触覚が垂れて困り顔になる。彼を責めても仕方がない。 指示はメールで後から送った。レオナルドのスマートフォンは、未だにスティーブンが持っていた。勤労少年に「待機」の指示は届いていなかったのだ。 だからと言って「なら仕方ない」と許せる限界はとっくに越えていた。 少年を連れて来るから待機継続、とだけ言い残し、スティーブンは踵を返した。 完全に目は座っていた。ついでに息も荒かった。自分の保持する探索力を―言葉の通りフル活用してレオナルドの居場所を探させた。エレベーターの呼び出しを押す前に指示を飛ばし、箱に乗り込んで空間を乗り越え、古びた裏路地を開ける間に、居場所はあっさりと知れた。 その通りの場所にレオナルドはいた。サイズの合わない赤と白のストライプシャツに、赤いサンバイザーをつけて、「明日から急遽発売開始！　火噴き鶏で火を噴く美味さ、ファイヤーホットチキン！　ホットチリのピリ辛スパイスがくせになる」と書かれたチラシを配っていた。 スティーブンの頭痛が酷くなった。眉間を指で揉んでも弱まらない。よりによってなんてチラシを配ってるんだ。「明日からです、よろしくおねがいしまーす」とニコニコ笑っているレオナルドは可愛かった。しかしあのチラシを今朝の過激派愛護団体の一員が通りかかって受け取ったらどうなると思っているんだ。理性も見境もないくせに血気と腕っぷしだけは盛んな連中だ。配っているレオナルドは絡まれるに決まっている。 頭が痛い。無防備なレオナルドも、足りない酸素も。全部頭が痛くて苦しい。 （それもこれも少年のせいだ） スティーブンはズカズカと靴音を鳴らしてレオナルドに近づいた。気づいたレオナルドは、「あれ？」と眉を上げ、営業スマイルを本当の笑みに変えてスティーブンの名を呼びかけ、ただならぬ不機嫌オーラを見て取って途中で固まった。 眼の前に立ちはだかって、遠慮なく睥睨する。 「スティーブンさん、……？」 「君は僕に恨みでもあるのか」 「そんなことは」 「呼吸困難で死ねばいいと思ってるんだろう？」 「ち、違います！」 笑みも怒りもなく無表情に言ってやった。忌々しいチラシを抱きしめてレオナルドが否定する。 スティーブンだって、レオナルドが陰湿な考えを持っているなんて本気で思っていなかった。でも苛めてやりたかった。自分の言葉に追い詰められて落ち込むのはかわいそうだが、優越感を満たした。 「はっ、どうだかな。朝のキスもなかったじゃないか」 「それは遅刻しそうだったからでっ……、すいませんでした……」 俯いたレオナルドの声が小さく震える。肩幅の合っていない制服が気落ちした少年をさらに小さく見せた。 こっちが苦しんだ分、ちょっとは傷つけばいいと思った。そうしてレオナルドは傷ついた。満足するはずだ。なのによけい苦しくなっただけだった。 悪いのはレオナルドだ。スマートフォンを忘れて、スティーブンへのキスを忘れて、指示も仰がずバイトしてる。 （俺は悪くない） 「もういいよ、少し言い過ぎた」 すり潰した奥歯から吐き出したのは、思ってることと真逆の言葉だった。 ぱっと上がった顔は泣きそうに歪んでいた。 「だから早くキスしてくれ。苦しいんだ」 すでに肺だけでなく心臓までぎゅうぎゅう締めつけられていた。早く楽になりたい。レオナルドがキスをしてくれれば楽になる。 「あ、はいっ。えっと……じゃあ、あそこで」 レオナルドはあたふたと通りを見回し、少し先の脇道を指差した。脇道と言うよりもビルの隙間と言った方がいいかもしれない。青いポリバケツが置かれただけで、道幅は塞がれていた。 レオナルドは人の目が避けられる場所を探していたのだ。当然だろう。 「ここでだ」 でもスティーブンは腕を掴んで引かれても動かなかった。 「え…」 「ここでだ」 もう一度、同じ言葉で言い張る。 「でも、ここは…」 往来だ。チラシを配るくらいだ。人通りは激しい。道路も四車線ある。それがどうした。いいじゃないか、見せてやれば。レオナルドに付き合ってる女がいるわけでもない。自分も気にしない。なら問題は何もない。 「レオ、早く」 またレオナルドの顔が情けなく歪んだ。へにゃった眉でスティーブンが本気なのか読み取ろうとして、急かしたら顔が赤くなっていった。こくりと唾を飲み込んで、雑踏に消えそうな声が袖を引っ張った。 「届かないから……かがんでください」 「これでいい？」 ちょっと悔しそうで、そういう表情はスティーブンの悪戯心を甘くくすぐった。 レオナルドが背伸びをしてギリギリ届く高さに頭を下げる。少年の男のプライドは「届かない」の一言を飲み込んだ。 乱暴な手つきでネクタイを掴まれる。口を真一文字に引き結んだまま、つま先だったレオナルドが勢いのいいキスを――というより頭突きに近い激突を、唇にぶつけてきた。 一瞬、衆目がざわつく。何人かは足を止めて二人を凝視していた。冷やかしにニヤつく者や、口笛を吹く者もいた。 スティーブンの全身を酸素が駆け巡る。毛先から足の小指まで、歓喜が広がった。痛かった心臓もリズミカルな鼓動を取り戻す。 「こ、これでいいでしょ！」 レオナルドはすぐに離れてごしごしと唇を拭った。ひどいな、と不服を覚えたが、まあいいかと気を取り直した。 「今度、ロマンチックなキスのやりかた、教えてあげるよ」 勢いが良すぎて、唇の裏が歯に当たったんだろう、ほのかに血の味が舌に乗った。 レオナルドも切ったんじゃないだろうか。 意味深く微笑んで、スティーブンはレオナルドの桜色の唇を親指でなぞった。 ＊　＊　＊ その夜、スティーブンが帰宅すると、レオナルドは初日みたいに緊張していた。 どうしたんだ？　と考えて、夕方からかったせいだと気づいた。真に受けて警戒しているらしい。「あんまり期待されると応えたくなっちゃうんだけどなぁ」とくすくす笑いながら言ってやったら、レオナルドはあわあわと部屋の隅っこに逃げた。声を出して笑ってしまう。 レオナルドはしばらくむくれていたが、夕食を食べてお風呂に入れば、そんなことはすっかり忘れてしまったようだ。先に寝支度を終えていたスティーブンの横に、「今日もふかふかだー」と潜り込んでくる。もう少し警戒心を覚えた方がいいんじゃないだろうかと心配になる。 ソニックの寝床を整え、明日の目覚ましをセットし終えると、レオナルドは「今日もですか？」とスティーブンに訊いてきた。 「もちろん」 当たり前だろうと頷いて、膝に乗せていたノートパソコンを閉じた。 ベッドの中で、レオナルドの創った童話の続きを語ってもらうのは毎晩に楽しみになっていた。 レオナルドが咳払いをして、話し始めたのは人魚姫の続きだった。「後半のストーリーを忘れたから思い出したら」と中断していた分だ。無事に思い出してくれたらしい。 嵐で荒れ狂う海を渡る王子と海賊と人魚たちの物語に驚きと笑いをもらいながら、聞き入る。 「少年」 「なんですか？」 「前から思ってたんだけど、君のサメって迫力あるよな」 以前から感じていたことを言ってみる。 「実は苦手だったりする？」 「いやあ、さすがスティーブンさん、分かりますか？」 照れ笑いで後頭部をかいたレオナルドは、小さい頃に見た人食い鮫の映画がトラウマになるくらい怖くて、それ以来ちょっと苦手なのだと教えてくれた。 「スティーブンさんは？」 「僕？　特に苦手ではないな」 「じゃなくて、弱点です弱点」 「弱点？」 レオナルドは簡単に、重大機密に触れる質問を放ってきた。ライブラの実質ナンバー２の弱点。そんなもの――あればの話だが、裏社会に持って行けば欲しがる輩が億の金を積んででも聞きたがるネタだ。 これがもしレオナルドでなければ、いや、少し前であれば、スティーブンは即座に警戒心を最高レベルにまで高め、レオナルドに嫌疑の目を向けた。でも今は、そこになんの他意もないと信じられた。 「そうです。スティーブンさんにだってあるでしょ、意外な弱点。ハロウィンのカボチャが怖いとか、尖ってない鉛筆の先見るとお尻がむずむずするとか」 ほら、やっぱりな。レオナルドがあげた内容よりも予想を裏切らない無邪気さにスティーブンは笑った。 「そうだなあ……あると言えばあるかな」 「え、マジで？　どんなんですか？」 自分で聞いておきながら、レオナルドが眉を開いて、ずいっと身を乗り出してきた。 「俺の聞いたんだから、今度はスティーブンさんの番です。白状してください」 こそこそと小声で詰め寄ってくる。 「聞いたって……、自分から言ったくせに」 「結論は同じです」 強引だなぁ、と苦笑して、それでも待ち侘びる顔に呆れは湧かない。代わりに人差し指を立てて、くいくいと呼んだ。レオナルドの顔がぼやける近さまで迫る。 すかさずキスしてやった。 「す、すてぃーぶんさん！？」 「うん？」 「だましたな！」 うぐぅ、とレオナルドが呻いて枕を殴った。 「人聞きが悪いな、弱点を知りたがったのは少年じゃないか。だから教えてやったのに」 これ見よがしに唇を舐めて見せる。色事に免疫のないレオナルドは、さらに赤くなった。とてつもなく愉しい。感情のままに、スティーブンはレオナルドの手を自分の手で包んだ。 それが相手にどんな風に響き、どんな感情を呼び起こすのか、熟知した声で囁いた。 「君のキスがないと、僕は息もできない」 「物理的にでしょうが！」 だがレオナルドは手ごわかった。 「僕の弱点だ、誰にも内緒だよ、レオナルド」 「そうやって口説くみたいに甘い声で囁くのやめてもらえますか」 ふんっ、と背を向けて布団に潜り込まれてしまう。隠したつもりだろうが、シーツから覗くレオナルドの耳は真っ赤になっていた。 （かゆそうだなぁ） 指摘したらベッドから蹴り出されそうだったので――スティーブンのベッドだが、黙ってにやけるだけにしておく。 「もう寝ます。スティーブンさんもとっとと寝てください」 「えー、続きは？」 中途半端なところで切れてしまった物語の続きをねだる。正直、まだ眠くない。もうちょっと構ってほしかった。 肩越しに、ちろ、と視線が向けられる。お兄ちゃん欲を刺激するよう、せいいっぱいわくわくした顔を向けたつもりなのに、ぷいっとそっぽを向かれた。 「今日はおしまいです」 「えー……」 落とせそうだと思ったのに、駄目だったか。もうちょっと粘れば落ちないだろうか。でも余計に怒らせる可能性もある。うーん、と名残惜しく同じシャンプーの匂いが漂う後頭部を見つめていると、視線を感じたのか、レオナルドが「もうなぁ！」とこちらを向いた。 「おっ？」 今度はレオナルドからキスされた。すぐさま背中を向けられる。 「少年？」 今のはどういう意図だろう。黙れ、でいいのだろうか？ 「…………いい子にしてたら明日の夜話してあげます。…おやすみなさいっ！」 「約束だよ、少年」 「はいはい」 これではどちらが少年――子供なんだか分からない。 サイドデスクのライトを消して、スティーブンは眼を閉じた。 寝るのが楽しみに思える日々は、初めてのことだった。 [newpage] ＊　＊　＊ 「……シンデレラならとっくに灰かぶりに戻ってるな」 真夜中を回った時刻に、つい愚痴をもらしてしていた。 レオナルドはもう寝てしまっただろうか。寝てるだろう。二時近い。彼が起きてスティーブンを待っている理由はない。 レオナルドが泊まり込むようになってから初めての深夜帰宅だった。 夜は出来るだけ遅くならずに帰宅できるようスケジュールを調整してきたのだが、ここにきてどうにもならない相手が出てしまったのだ。ホテルを出る時、事後を匂わせる痕跡は確認した。けれど唇にまだグロスののっぺりとした油が残っている気がしてスティーブンは指でこすった。レオナルドの健康的な唇が恋しかった。柔らかくて素直な唇だ。思い出すと喉が渇いてくる。 （だめだ、早くキスしないと） あの女は相性が良くなかったらしい、もうキスの効果が薄れている。 「ただいま」 迎えてくれる相手がいないと頭では分かっているのに、疲れている身体はこの一週間でしみついてしまった習慣を口にした。 「消し忘れか……？」 電気が点けっぱなしだ。スティーブンが帰って来るかもと思ってレオナルドが点けておいてくれたのか。 小さな気遣いが重い身体に温もりを灯す。ふ、と自然吐息で笑みを零した。そこに、スティーブンのものではない息遣いが滑り込む。「ふ、ぁ……」とふんわりと丸い呼気だ。 「少年……？」 聞こえた方向に足を向ける。リビングだ。果たしてそこにレオナルドはいた。ソファの影から、ひょこりと揺れる髪が起き上がる。 「すてぃーぶんさん……おかえりなさい」 「……ただいま」 寝ぼけの混じったふにゃふにゃとした声で言われた。肩から毛布がずり落ちたレオナルドの目尻に涙が滲んでいる。さっきのはあくびをした声だったらしい。 「……こんな所で寝ていると風邪を引くぞ」 「でも寝室だと、スティーブンさんが帰ってきても聞こえないから」 「寝ていて良かったのに」 嘘だ。待っていてくれて年甲斐もなく嬉しい。ふらふらと近づいて、ソファの背に手をかけた。膝立ちになったレオナルドが伸び上る。おかえりなさいのキスだ。唇を迎えに行って、ふいに立ち上った匂いに、スティーブンは、はたと動きを止めた。 慌ててレオナルドの肩を掴んで止める。香水くさい。シャワーを浴びていないからだ。 「スティーブンさん……？」 あからさまな戸惑いをレオナルドが浮かべる。今まで一度としてキスを拒んだことはなかった。しまった、と思っても遅い。 「ニンニクを食ってきたから、先に歯を磨いてくるよ」 情けない言い訳だ。でもそれしかすぐに浮かんでこなかった。「あ、はい」とやはり戸惑いの拭えない返事をして、レオナルドがソファに腰を下ろす。 身体にへばりついた香水のにおいを嗅ぎ取られる前に、スティーブンはそそくさとバスルームに逃げた。 たっぷりのボディーシャンプで全身を隈なく洗い――匂いを完全に落としてから部屋に戻った。レオナルドはすでに寝室に移動していた。腹ばいで足をぶらつかせ、シューティングゲームをやっていた。 「眠れなくなるぞ」 親が子供にするみたいな小言を落として、振り向いた唇に自分のを重ねた。心なしか、レオナルドはほっとしたようだった。 未練なくゲーム機の電源が落とされる。 「ソニックはどうした？」 布団にもぐって、足りない存在に気がついた。いつも枕元に丸くなっている音速猿がいない。彼専用の薄い枕もなかった。 「それが、さっきソファでうたた寝してる時に蹴っちゃって……。今日は一人で寝るってあっちのベッドに行きました」 「大丈夫なのか？」 音速猿の骨格は、その生態に合わせてとても軽く脆い。蹴って怪我はしていないのか。心配するスティーブンに、レオナルドは「大丈夫です」と頷いた。 「蹴ったっていうより、足でソファから押し出して落とした感じなんで」 「そう、ならいいけど」 夜は更け、そろそろ朝が近い時刻だった。睡眠よりも仮眠と言っていい時間しか身体を横たえておけなそうだ。スティーブンが頼んだわけではないが、付き合わせてしまってレオナルドには少し申し訳ないことをした。一秒でも長く眠れるよう、すぐにライトのリモコンに手を伸ばした。明るかった照明が光量を落として暗闇になる。 「今日はもう寝るんですか？」 訊いてきたのはレオナルドだった。少し驚く。恒例の寝物語までするつもりだったのか。 「そのつもりだったけど、少年は眠くないのかい？」 「……目が冴えちゃって」 控えめに言われた。さっき小言を落としたからだろう。 「ゲームをするからだよ」 「オッシャルトオリデス」 う、と言葉を詰まらせてレオナルドは顔を枕に押しつけたようだった。眠った方がいい。明日も激務が控えている身にはそれが正しい選択だ。 「僕が眠くなるまでだからな」 けれどスティーブンはサイドテーブルのナイトランプを点けた。やっぱり習慣になっていたものがないのは物足りない。 「今日はなに？」 白雪姫もシンデレラも人魚姫も終わった。次はどんな童話を聞かせてくれるのだろうか。 枕から顔を見せて、レオナルドが破顔する。いそいそと起き上ってヘッドボードにもたれかかった。 「それじゃあ、ロミオとジュリエットで」 「……あれって童話だっけ？」 「シェイクスピアですね。でも載ってたんで」 「ずいぶんざっくりした本だな」 咳払いをひとつ。レオナルドが語り出す。長い前口上は子供向けに優しくされていたんだろう。「これは憎み合う家に生まれ落ちた悲しい恋人たちの物語でした」と短くまとめられた。 元は戯曲だ。そのせいか、説明よりも台詞が多かった。すっかり語り部が板についたレオナルドは表情豊かに登場人物を演じていく。 昼間のレオナルドであれば、照れてしまいそうな愛の言葉が情熱的にさくらんぼ色の唇から零れていく。雲ひとつない月夜のバルコニー。有名過ぎる逢瀬のシーン。割り込んだのは気まぐれだった。 「ああ、ロミオ様。どうして貴方はロミオ様なのですか？」 突然、台詞をそらんじたスティーブンに、レオナルドは面喰っていた。でもすぐにスティーブンがジュリエットの――女の台詞を言ったことにウケて、くくっ、と笑いを噛んだ。悪戯が成功した笑みを浮かべるスティーブンに、レオナルドも芝居がかった口調で続ける。もちろんロミオの台詞だ。なりきって、スティーブンを見つめながら熱く語りかけてくる。 「ああ、ジュリエット。天使のごとき美しい声。黙ってもっと聞いていようか、それとも声をかけてしまおうか？」 横臥の体勢から身を起こし、スティーブンも応じた。 「わたくしにとって敵なのは、貴方の名前だけ。名前をお捨てになって、そして代わりにわたくしの全てを受け入れてください」 輪郭がほのかにナイトランプで浮き上がるレオナルドを見つめて情熱を注ぐ。手を重ねてきたのはレオナルドからだった。 「受け入れます。ですからどうかただ一言、僕を恋人と呼んでください。そうすれば僕は新しく生まれ変わり、ロミオではなくなります」 くらりと眩暈がした。重なった手に反対の手を重ね、胸の前で祈るように包み込む。台詞が行きかう度、二人の距離が縮まっていく。声量を潜め、ぐっと新密度が増した。まるでロミオとジュリエットがそうしたように。 「本当に愛してくれますか？　どんな愛の誓いもたやすく破られるもの。心から、愛するとおっしゃってくださいますか？」 「誓います。木々を銀色に染める、あの清らかな月に誓って」 この街では見えない月に視線を投げてレオナルドが囁く。 「やめてください。月になんて誓わないで。不実な月は夜ごと満ちては欠け気まぐれに姿を変えてしまう。貴方の愛まで、移り気に思えてしまいます」 「なら……――何に誓えばいいですか？」 レオナルドの伏せっていた目蓋がゆっくりと持ち上がった。フィラメントの熱が照らす橙色の世界に、月が湖面に映り込んだかのような蒼い光が差し込んだ。濡れた瞳が、ひたと見つめてくる。 それは誰の言葉だったのだろう。 「何にも。ただ君の…――貴方の心に」 応える自分の言葉は、誰のものだろう。 「わたくしが愛する貴方ご自身にかけて誓ってください。それなら信じます」 燐光の吸い寄せられる蝶のように、スティーブンはレオナルドに顔を寄せた。レオナルドの吐息が肌を掠める。自分の呼気がレオナルドの頬で光る産毛を揺らす。互いを映す眼差しが酔いしれて落ちていく。唇の熱が、そこにある。 「では、心からの――この愛に誓います」 愛しています、の言葉はくちづけに消えた。 しっとりと触れ合った唇を小さく離し、また重ねる。ついばむキスを繰り返し、何度も短い吐息が互いの唇を掠めた。柔らかい感触に夢中になる。もっと触れたくて手の平が伸びた。頬を包み込み、上向かせる。レオナルドは抵抗しなかった。細い腕が首に絡む。もっと、と求められているようで、開いた隙間に舌を差し込んだ。 鼻から呼吸が抜けて、薄い舌がびくりと震えた。怖がらせないように先端で軽くつついてから口内に深く差し込んだ。歯列のつるりとしたエナメル質を堪能して、上顎を舐める。 「…ン、……」 気持ち良かったらしく、ふるりと震えてレオナルドが甘ったるく息を詰める。 気がつけば並びあっていた体勢は、レオナルドをヘッドボードに押しつけて覆い被さるものに変わっていた。 ゆっくりとキスを深めていく。暴いて貪りたい欲求を押し込めて、ねぶっては解放し、息をしたのを確認してからまた重ねる。細切れのじれったさに欲が煽られた。拙い舌遣いで必死に応えようとするのに被虐心が生まれた。喉まで舌を突っ込んで根元を舐め上げる。 「んふっ、……ぁ…っ」 きつく瞑られていた目蓋が開き、またぎゅっと閉じる。目尻からひとしずく、涙が伝う。指先で拭い取って、そのまま髪に差し込んだ。地肌を撫で下ろして上を向かせる。唾液を流し込んで、惑う舌を甘噛みしてやった。びくついて奥に引っ込んで、喉が嚥下に上下する。 しつこく繰り返したキスをようやく離すと、絡み合っていた舌を唾液の糸が名残惜しんで繋がっていた。それも、ふつりと途切れてレオナルドの喉に落ちる。色っぽかった。真っ赤になった舌も、よだれでてかる唇も、垂れた唾液で光る喉も、涙で濡れた青い瞳も。たまらなく喉が乾いて、再び食らいつく。 頭皮をまさぐっていた手で項を擦って、シャツの上から背骨を辿って腰まで撫でる。舌同士で唾液を捏ね回す水音を立てながら、シャツの裾をはぐって手を突っ込む。左手は脇腹からへそを撫でて、右手はハーフパンツのゴムを引っ張って滑る込ませた。 下腹を弄っていた手を下着の中に入れると、そこはすでに反応を見せていた。 「あ、……ま、まって」 レオナルドが身を捩る。 すっかりベッドに押し倒されて、股を広げた格好で、おぼつかない舌が「まってください」と腕を突っ張った。 「どうした？」 手の蠢きを止める。それでも離してはやれなかった。早く続きがしたい。 「…、…っんで……？　スティー、ブンさんは、なんで…こんなこと、するん、ですか？」 「なんでって……」 息を弾ませ、紅潮した頬を晒しながら、レオナルドが訊いた。 どうしてセックスしようとしてるのか。改めて訊かれても、明確な理由なんてなかった。恋人たちの情熱的な言葉を交わしていたら、気分が盛り上がった。キスをしたら、淫靡な雰囲気になった。レオナルドも拒まなかった。だから、……それだけだ。 潤んだ双眸が何かを期待しているようにも思ったが、それが何かスティーブンには分からなかった。だからせめて嘘をつかずに、想ったままを言った。 「そういう雰囲気だったろ？」 「………っ、…」 ふいに照明が翳った気がした。明るさは変わっていないはずなのに、影が落ちてレオナルドの表情が読み取れない。眼を閉じたからだ。レオナルドが目蓋の裏に義眼を隠した。 光源を求めて、スティーブンの手は手を伸ばした。行き先はサイドランプではなく、レオナルドの目元だった。暗闇でも照らしだす燐光が見たかった。蒼い光を弾く肌は幻想的な美しさを生む。もっと見せてほしい。 けれどそれはレオナルドによって拒絶された。 思わぬ強さで胸を押し退けられた。垣間見えた目尻に、快楽のそれとは違う雫を見て、スティーブンはぎょっとした。 「レ、レオ……？」 あんなに昂ぶっていた肌から潮が引くように熱が消えていく。ずり上がったレオナルドは膝を合わせて股間を隠すと、ますますスティーブンから離れて、ベッドを降りた。 「ちょっと風呂、行ってきます。スティーブンさんは寝ててください」 それが続きを示唆しての入浴でないことは、スティーブンにも分かった。右手がレオナルドを掴み損ねて、持ち上がったままうろつく。 ぱたぱたと逃げたレオナルドが、去り際、扉を開けて足を止める。戻ってきてくれるのかと、一瞬期待した。身勝手な願望でしかない。それでもレオナルドは優しかった。 「苦しくなったら、……すぐ言ってください」 それだけ言い残して、今度こそ言ってしまった。窪んだベッドの上に、温もりだけが抜け殻になって残った。じくじくと疼く下腹の熱を抱えたまま、スティーブンは追いかけられもせず、ただレオナルドが去った扉を見つめていた。その夜、レオナルドは寝室に戻ってこなかった。 [newpage] ＊　＊　＊ 翌朝のヘルサレムズ・ロットは、もはや猛獣しかいないサファリパーク状態だった。 パオーン！と象のいななきに似た声を二足歩行の象もどきが上げてビルを薙ぎ払った。メエエェッ、と山羊に似た泣き声を毛のない山羊っぽい群れが発しながら大通りを埋め尽くし、鉄と言う鉄製品を貪り食らった。ガオオォー！と吠えたのは異界版の虎だ。跳躍ひとつで四階建てのビルを飛び越え、着地で車を三台ぺしゃんこにした。 「くっそ、きりがないな！」 牛みたいな六つ眼の動物を足だけ凍らせて無力化し、スティーブンはネクタイを緩めた。顎先から汗がしたたり落ちる。もうどれだけ凍りつかせたか数えるのはやめてしまった。なのに一向に減った気がしない。住民と獣が入り乱れた街はサーカスじみた騒乱で右へ左へ逃げ回り、乱痴気騒ぎのカーニバルだ。 それもこれも、馬鹿な愛護団体の馬鹿な連中が、異界の猛獣を引きつれてデモ行進なんて馬鹿な真似を仕出かしてくれたせいだ。朝から元気に重火器類を取り出したケンカが勃発し、それだけならいつもの平和な朝だったのに、音に驚いた動物は一気に制御不能となって暴れ出した。あとの展開はお察しである。 「絶対零度の盾(エスクードデルセロアブソルート)」 もはや道路の面影を残さないアスファルトの荒野を踏みしめる。左足から瞬時に氷壁が生まれ、スティーブンを取り囲んだ。透明度の高い氷が高い音を立てて銃弾を弾いた。発砲者に容赦なく氷の槍をお見舞いする。 次いでスティーブンは盾にしていたぶ厚い氷に体重を乗せた回し蹴りで踵を叩き込んだ。使い手の意思を汲み取った氷の矢が新たに迫った一角獣めがけて飛び散っていく。 「あ、しまった……」 それで十分足止め出来ると読んでいたのに、威力が足りなかったらしい。三頭の内二頭が自力で氷の拘束を粉砕し、後ろ足で立ち上がった。空を駆けた前足がスティーブンめがけて振り下ろされる。こめかみをチリチリと痛みさえ感じる空気が貫いていった。 いなないた一角獣が気を失って倒れ込む。蹄はスティーブンの袖を掠めて地に落ちた。 「ちょっとぉ、キレが悪いんじゃないのスティーブンせんせぇ？」 Ｋ・Ｋの放った９５４ブラッドバレットアーツの電撃弾だ。バリバリと感電した一角獣は帯電して、たてがみが風もないのに揺れる。 「はは、やっぱりＫ・Ｋの目はごまかせないなあ」 情けなく笑って頬を掻く。正直、息苦しさは酷くなっていた。キスの補給無しに血凍道を使い続けているせいだろう。消耗が激しい。この調子で行くと貧血の前に酸欠で倒れてしまいかねない。 「あたしがあんたのこと気にかけてるみたいな言い方やめてくれない？」 Ｋ・Ｋが左手に構えたライフルが火を噴く。スティーブンの頬を掠めて真後ろにいた男の眉間をぶち抜いた。 おいおい、皮膚掠めた。血が出てるんですけど。 抗議の代わりに倒れ込むようにしてＫ・Ｋの足元を踏んだ。細く長く、しかし凶悪な氷槍が滑空してきた鷲もどきを貫いた。水晶に似た氷柱を青い体液が伝っていく。それは氷に反射して少しばかりレオナルドの『神々の義眼』に似た蒼を見せた。 「あんたとのツーマンセル、寒いから嫌なのよ」 Ｋ・Ｋの隻眼がくれる冷ややかな目線に、やはり眉を八の字に垂らすしかない。 「君はいつでも手厳しいなあ」 ざりり、と地につけたまま足を引きずって、爪先で半円を描く。放射線状に低い氷の盾が生まれる。互いに背中を合わせて迫りくる攻撃に備える。 「ちょっと酸欠気味でね」 ポケットに手を突っ込んだまま肩を竦めると、守ってもらっているはずの死角から肘鉄を食らわされた。 「いた、いたいっ」 じん、と脇腹に痛みが広がったところに、もう一撃。 「まったく、ほんっとうっざい」 スティーブンはこの作戦が開始してから、一度もレオナルドと接触していない。北エリアをＫ・Ｋ、南エリアをクラウスとレオナルド、ザップとツェッドの斗流兄弟には西エリアの制圧を割り振り、自分はここ――東エリアの制圧にあたっている。Ｋ・Ｋがこちらに来たということは、北エリアは概ね鎮圧したということだろう。 本音を言えば、自分は朝っぱらからこの騒動が勃発したことに喜んでいた。目覚めてレオナルドにどう接すればいいか答えを出しあぐねていたからだ。無かったことにすべきか、気持ち良くなかった？と問い詰めるべきか。もちろん、ライブラの作戦行動に私情を挟む真似はしない。だからこそ安堵した。能力の割り振りとして、レオナルドとスティーブンがバディを組むことはめったにない。短い時間稼ぎだとしても、結論を先延ばしに出来てスティーブンは安堵していた。 地面すれすれにしゃがみ込み、やはり薄氷一枚を残したローキックで低く真空波に似た刃を飛ばす。足首だけ残してスッパリと切断されて襲撃者が断末魔を上げる。脇に挟んでいた機関銃がそのままパララララと霧の空を撃った。弾道を追うことなく向きを転じて「あのさ、Ｋ・Ｋ」と声をかけた。「なによ」と一発で二人を撃Ｋ・Ｋが嫌そうにしながらも答えた。 「押し倒した理由をなんとなくって言ったら泣かれるのは、どうしてだと思う？」 ジャキッ、と太腿のホルスターから抜かれたハンドガンが装填される。 「わああ、待って！　それは待って！」 「あの世で神様にでも聞いてきなさい！」 完全に目の座ったＫ・Ｋが急所に――股間に照準を合わせて引き金を引く。どうにか跳躍で避けた。着弾して跳ねた弾はそのまま建物の影に潜んでいた敵に命中する。 「Ｋ・Ｋ、どこ狙ってんのさ！　僕の話だなんて一言も言ってないだろっ」 「あんた以外誰がいんのよ！」 ズキュン、バキュンと立て続けに二発。空中で身動きが取れないところを狙われた。足を振って半回転し、身を捩って避ける。ジャケットの裾に穴を開けた銃弾が屋上に姿を現したスナイパーを倒した。 着地と同時に地を蹴り、Ｋ・Ｋとの間合いを詰める。左足の踵を軸に遠心力を乗せて後ろ回し蹴りを放った。 Ｋ・Ｋの金髪をなびかせ、彼女の頭上に飛び込んできた背中に角の生えた虎を吹き飛ばす。 「……なんで押し倒したのよ。あんた、タラシだけどペド趣味ないじゃない」 「なんでって……なんでだろう？」 マガジンを入れ替えて、目もあわせずに訊かれた。 崩れた体勢を立て直し、スティーブンは首を傾げた。眉間に深い皺を刻んで、Ｋ・Ｋが「ほんっと、やだやだ」と首を振った。 「あんたのそれ、本気で鈍いからムカつくのよっ。なんだってレオっちはこんな男のこと…っ」 血まみれのアスファルトに吐かれる悪態を右から左に流し、スティーブンは初めてまともに考えた。 経験の有無ではなく、趣味嗜好で言えば確かに自分は限りなくヘテロだ。それに――レオナルドは立派な成人男性だけれど、ペドフィリアの気もない。なんで疲れて帰って、雰囲気が盛り上がったからって、面倒くさいゲイセックスをしようだなんて思ったのだろう。 「ん？　Ｋ・Ｋ、僕相手が少年だって言ったっけ？」 ギッ、と一睨みされて慌てて飛びのいた。弾丸は丸々補充されたばかりだ。全弾撃ち込まれたらさすがに一発くらい食らってしまいそうだ。スティーブンが元いた場所をライフル弾が撃ち抜いた。後ろ蹴りで氷の花をふたつ、お返しに見舞ってやった。背後から断末魔。正面に割り込んだ刺客は悲鳴もなく雷撃弾で吹き飛んだ。 Ｋ・Ｋの腕が伸びる。その脇をスティーブンの蹴りが走る。迫りくる暴漢を粉砕し、返り血がそれぞれの後ろ髪を濡らした。そのまま前に踏み出した。Ｋ・Ｋも一歩進んだ。すれ違い、また背中を合わせる。これがレオナルドだったら、すれ違いざまにキスしたのに。思って、はたと止まった。 「あれ？」 戦場で、高揚して、荒ぶるままに食ってやりたいと考えてる自分がいる。紛れもない欲情だった。レオナルドのことを思い浮かべると、心が逸る。動物的な欲が湧いてくる。 なんで。昨夜もそうだった。可愛いと思ったから。胸が苦しくなったから。心臓が早鐘を打ったから。唇が美味しそうで、そうしたら鼻も、頬も、浮いた鎖骨も、でっぱりの目立たない喉も、全部に飢えを覚えた。これが快楽で上気したらどんなに色っぽくなるんだろうと考えたら見たくてたまらなくなった。自分だけが知ってるレオナルドを見てみたくなった。その為なら、面倒も厭わなかった。いや、むしろ時間と手間をかけて暴きたかった。 「なあ、Ｋ・Ｋ」 「今度は何よ！」 「僕、少年のことが好きなの？」 「こっの……！　好きじゃないわよ！　ぜんっぜん、好きじゃないわ！」 こみかめに青筋を浮かべたＫ・Ｋが全力で否定した。 「うわー、そうか。……そうかぁ」 すとん、と気持ちが落ちてきた。好き。そうか、なんだ、そんな単純なことだったのか。 「人の話、聞きなさいよ！」 「好きなのかぁ、まいったな」 ――俺は少年が好きなんだ。 いつからだろう。今になって記憶を辿ってみても分からない。つまり自覚してなかっただけで、分からないくらい前からだ。少なくとも、ザップが「番頭はレオに甘い！　えこひいきだ！」とキイキイ鳴いている時には、すでに好ましく思っていた。 そうかあ、まいったなあ、好きなのかぁ、をにやけながら繰り返していたら、ついにＫ・Ｋがキレた。 「ああ、もうあんたのその脂下がった声聞いてるだけでイライラする！　自覚したんだったら、さっさとレオっちんとこ行って玉砕して来なさいよ、意気地なし！」 「え、玉砕するの？」 「それ以外、あたしは認めないわよ。　ほら、邪魔！　無駄に長い分だけ足手まとい！」 「Ｋ・Ｋ」 しっしっ、と野良犬を追い払うみたいにされた。 物見高かった野次馬もすでにどこかに避難を終えていた。今や大通りをステージに変えて息のあったタンゴを踊っているのはスティーブンとＫ・Ｋだけだ。暴れまわっていた異界生物や交配生物の気配も感じない。ここはＫ・Ｋ一人に任せても問題なさそうだ。 判断を下し、スティーブンはＫ・Ｋの厚意に甘えることにした。 「ありがとう」 「あんたの為じゃないわよっ」 やっぱりＫ・Ｋは嫌そうな顔を見せた。構わず感謝を込めた笑みで礼を告げ、スティーブンは駆け出した。 インカムでクラウスにレオナルドの所在を問えば、こちらに向かわせたと言う。 爆音がそこかしこで響く中、スティーブンはぶざまな悲鳴が聞こえないかと聴覚を研ぎ澄ます。願わくば、自分の名前を呼んでくれるとなお良い。瓦礫ばかりの通りを駆け抜けた先、崩れかけたビルの影からドシンッ、と重たい何かがぶつかる音がした。その後を小さな悲鳴が続く。 いた、あそこだ！ 「レオ！」 「ス、スティーブンさぁん……！」 張りのある声が怒号と銃声が狂想曲を奏でる戦場を切り裂いた。スティーブンの迷いのない呼びかけに、隅っこで身を隠していたレオナルドがひょこりと顔を出す。立ち塞がるのは鮮やかな真紅のサイだ――トリケラトプスの方が近い。 獲物を掘り出そうと体当たりを繰り返していたサイが新たな獲物の登場に振り返った。ガ、ガ、と前足が地面を蹴って頭を下げる。額に生えた無数の角で狙いを定め、突進してきた。 どんなに早くても真っ直ぐな進路はありがたい。ポケットに両手を突っ込んでスティーブンは重心を下げた。ぶつかる寸前ひらりと身をかわす。スティーブンの立っていた場所を突き抜けたサイが、振り返る間もなく氷に覆われて包み込まれる。パキパキと凍りつき、灰色に戻っていく体表を眺めている暇はなかった。まだ残党が潜んでいるらしい。正確な弾道に乗った銃弾が襲いかかってくる。 スティーブンは空中から狙われた鉛の弾幕をバックステップひとつで交わした。とん、と着地した足でそのまま技を発動させる。足から生み出された氷の剣が狙撃手を過たず貫いた。とん、ともう一歩後ろに下がる。それは攻撃の予備動作でも、防御の為でもなかった。瓦礫に身を隠すレオナルドへと近づくための一歩だった。 「スティーブンさん、大丈夫ですかっ？」 スティーブンが「無事か、少年！」と問う前に、訊かれてしまった。 言われた相手によっては、侮りとも取れる確認も、レオナルドが口にすれば純粋に心配してくれての発言だと嬉しさを生んだ。 「誰に」 「んんっ……！」 「言ってるんだ？」 言葉の合間に、項に回した手で痩躯を引き寄せて口づけた。枯渇していた酸素がいっぱいに流れ込んだ。 「ちょ、っ」 もう一度。肺が膨らむ。呼吸が楽になる。それだけではない。 「これくらいなんの問題もない、ん…」 三度目は抗議に開いた口から舌を吸って離した。ぷあっ、と色気のない喘鳴でレオナルドが唇を拭う。 「何すんですかっ」 煤で汚れた顔を真っ赤にして睨み上げてレオナルドが怒る。背後で銃口が光った。レオナルドを胸に抱き込むついでに踏み出した右足で氷槍を作り出す。無粋な奴は黙っていろ。 「俺の側から離れるなよ。でないと、息も出来ないって言っただろ」 「きっざ！　めっちゃ気障い！」 抱き締めた顔をあげさせる。頬の汚れを指の背で拭い、笑いかけた。わなわなと震えたレオナルドが叫ぶ。 「好きだろ、けっこう、そういうの？」 ん？　と自信たっぷりに言って、耳の輪郭をなぞる。どんどん熱くなっていくのが面白い。 「うっせぇです、うっせぇです！」 「あははっ」 そういうくせにレオナルドは否定しなかった。楽しくて笑ってしまう。 「手をあげろ！」 高圧的な声が、せっかくの空気をぶち壊した。レオナルドがスーツを握る力を強くする。背後の男に聞こえないよう、スティーブンは舌打ちした。まだ残党が隠れていたらしい。首を巡らせ、勝ち誇って小型マシンガンを向ける男を睨んだ。 「ゆっくりこっちを向け。ちょっとでもあやしい動きを見せたら……」 「見せたら？」 スティーブンは大人しく言う通りにした。両手の平を相手に見せたままスティーブンは肩の高さまで腕をあげて振り向いた。倣ってレオナルドも両手をあげる。こちらに合わせることにしたらしい。 「ぶっ殺す」 「なるほど」 そうやってホールドアップの体勢で、まったく恐れる様子を見せず、ふんふんと頷いた。舐めきった態度に、隆々と盛り上がった男の筋肉がびきびきと血管を浮かべた。 意に介さず、わざとらしく斜め上に視線を向けて考えるそぶりを見せてから、スティーブンは肩を竦めた。 「ところであやしい動きっていうのは……たとえば、こんなことかな？」 手をあげたまま肘でレオナルドのこめかみを小突く。「いて」と上司からまさかの攻撃を受けてレオナルドが悲鳴をあげた。なにすんですか、と言わんばかりにこちらを睨む、その唇に――。腰を屈めて、まんまと口づけてやった。 「なっ……」 「――ッ、…！」 銃口を向けた男が絶句し、レオナルドが硬直して目を見開く。スティーブンはわざと、ちゅ、と交接音を響かせた。 酸素が生まれる。甘くてしびれるほどに気持ちいい。 「勝利の女神の祝福だ」 に、と口端を持ち上げて、ウィンクもつけてやる。ぱちん、と飛ばしたハートがレオナルドの瞳に口づける間に、男は驚愕のまま氷像になっていた。 「残念、手じゃなくて足をあげさせるべきだったな」 腕を下ろしてもう聞こえてはいない相手に正解を教えてやった。これで今度こそ制圧完了だろうか。インカムにはザップから「終わりましたぁー」と緊張感のない報告が届いた。どうやら終わったようだ。適宜解散の上、事務所に再集合するよう指示を出し、通信を閉じる。 「さあ、僕達も戻ろうか」 「……いちいちはずいんですよ」 朗らかにレオナルドを振りかえれば、まだ赤みを残した目尻とぶつかった。ズボンの埃を叩いて払い、パーカーの裾がごしごしと頬の汚れを拭う。けれど照れのせいでつん、と尖った唇は拭われない。スティーブンが口づけたままだ。口元が緩む。あんな風に唇を突き出されると、キスをねだられてる気になってくる。 （したいなぁ） 濃厚なやつ。ぐっちゃぐちゃに舌を絡めてすすって舐めてどろどろの腰砕けになるようなやつ。よからぬ妄想が脳内を駆け巡る。擦り傷だらけの指を絡めて手を繋ぎたい。もっといろんな表情が見たい。「スティーブンさん」と呼んでほしい。 ザップと距離が近いのが気に食わなかったのも、ないがしろにされて腹が立ったのも、見せつけるように衆目の前でキスをさせたのも、自分の知らないレオナルドを知っているミシェーラ嬢を羨ましいと思ったのも、全部、単純な――元を同じにする理由だったと今なら分かる。ずっと腑に落ちなかった感情に、ひとつの名前を与えてやると、それはあっさりと居場所を見つけて胸の内に収まっていた。 （違う。収まってない） 溢れそうだ。なんで今まで何も感じなかったのか理解できない。『自覚』が心身に及ぼす影響の大きさはなんて威力だろう。場所も、体面も、立場も忘れてしまいそうだ。 「レオ」 行きましょう、と踵を返したレオナルドの腕を取って引き留めた。 「なんすか？」 「どうやら俺は君が好きらしい」 「…………」 レオナルドはきょとりと細めた睫毛を揺らした。あんまりあどけない表情が返って来て、スティーブンは慌てた。急いで付け加える。 「ライクじゃない、ラブだ」 「…………」 時間が止まったように微動だにしないレオナルドに、焦りが生まれる。背中にじわりと汗がにじんだ。細い二の腕は頼りなくて、スティーブンの指が簡単に回る。気を抜くとすり抜けてしまいそうで掴む手に力がこもった。 言い募る言葉だけでは頼りない気がした。言葉にしたら自分でももっと意識した。たった一言では伝えきれなくて歯がゆくなった。もっと全部、伝わってほしい。 やわらかいくせっ毛を揺らす風だとか、幼さの残るまろい頬を汚す煤、レオナルドに関わるそんな些細なことにだって嫉妬して羨ましさを覚えるんだと、教えてやりたい。 良く回る舌がこんな時は役立たずで動かなかった。気取った言葉をいくら重ねても薄っぺらくなるだけだ。嘘をつきすぎてきたせいで、いざ本心を伝えたい時に、相応しい言葉がからっきし浮かんでこない。 スティーブンは、レオナルドも同じ気持ちだと確信があった。 （だから抱こうとした理由を「なんとなく」と言われて傷ついた顔を見せたんだろう？） 「愛してるんだ」 結局、それしか言えなかった。あとはもう感じ取ってもらうしかなかった。高鳴って脈打つ鼓動を。触れあいたくて熱くなる体温を。感じてほしくて、感じたくて引き寄せた。抱き上げるように腰に手を回した。 ぼやけるぎりぎりまで見つめて、レオナルドに――愛する人にキスをした。 　

■キスしないと息が出来ない病気(呪い)にかかったスティーブンの話。<br />戦闘中にキスする二人が書きたかったんです。<br /><br /><s>■3/13の春コミはこれに＋7万字程度の加筆修正＆R18部分をつけた本を持って行きます。<br />話の展開がやや異なりますが、ハッピーエンドは同じです。</s><br />→完売しました、再販は未定です。ありがとうございました。<br /><br />◇3/6&#44;7のデイリー、女子に人気ランキングにお邪魔しました。ブクマ・タグ・評価ありがとうございます。<br /><br />※サンプルUP時に詳細をお伝えしますが、通販は書店委託を行なう予定です。<br />取って食ったりしませんので、次回はぜひコメントかメッセージでお問い合わせくださいねー。(3/6)

【スティレオ】副官はキスを浪費する

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爪先から全身へ冷気が駆け上るように凍てつく夜でも、縁側に腰掛けて月を肴に晩酌をする槍の背中を見かけることが度々あった。 寒がりのくせに薄い着流し一枚の肩に褞袍を掛けただけの心もとない格好で、さすがに見過ごすことができずに「風邪をひくぞ」と声をかけたことも、そのうち何度か。すると奴は決まって穏やかにこう返すのだ、「そうならないよう温めてくれ」と。振り返りもしないくせに素っ気なさを一つも含まぬ狡い声。俺の溜息は重く板張りの廊下に落ちて、猪口の縁に当って砕けた。 奴が肌身離さず持ち歩く酒瓶が、月明かりの下で持ち主を真似て澄まし顔で佇んでいる。その隣には菓子の入った木皿が一つ。そいつは甘味の類を不得意とするくせに、何故か晩酌の時にはいつも側にどら焼きを数個置いている。それは俺が大好きな、立派な槍の名前を冠する菓子だ。とっておきのそれさえも氷輪のもとで冷えきっているものだから、仕方なく背後にある槍の部屋から毛布を引きずって来てやると、奴は俺の腕をひっ捕らえて「お前もくるまれ、人肌が一番温いんだとよ」なんて答えも聞かずに俺ごと包んで暖を取る。 どら焼きの誘惑に負けてそのままくっついて月を見ている俺も俺だが、用意しておきながら全て俺に食わせて酒ばかり飲んでいる槍も槍だ。 ときおり口端についた餡を大きな猫が舐めとるが、そいつは自分から舐めたくせして「甘い」と顰めっ面で吐き捨てる。自らも舌で追従すると、ぴりりと酒の味がした。上目遣いに睨み上げ「辛い」と付けたイチャモンは、「半分こしちまおう」とじゃれつく口に塞がれた。 一つも猪口を傾けないで、けれど次の晩も俺は槍にくっついている。 一つも手を付けないで、けれど次の晩もその次の晩も、どら焼きは槍に寄り添っている。 まるで俺が来るのを待っていたようだなあと、自惚れた日々が懐かしい。 今日は生憎の曇天で、月の姿も見かけない。 いつもより早い時間に風呂を済ませた長谷部は、通り過ぎた槍部屋前の縁側に大きな背中の不在を認め、小腹の空いた身を持て余して中廊下をうろうろと彷徨っていた。着流し一丁といういつかの宵槍より薄着の格好で、けれど梅の咲き誇る今はあれよりだいぶ暖かい。 ちょうどあの柔らかな生地にくちどけの良い餡を腹に収めたい気分だったのに、望んだ時に俺を出迎えないとはあの役立たずめと、理不尽な苛立ちが行く先のない歩を進める。特段の用事もなかったはずの男の姿が見えないことも、少しばかり気に障った。 諦めてしぶしぶ自室に戻ろうとしたところで、ふと最近こたつなる魔法の器具が本丸に導入されたことを思い出す。確かその机の上にはおやつを置くのが決まりだと、主は熱く語っていた。その言葉を思い返すや否や、長谷部は持ち前の機動でこたつの設置された部屋へ向かった。 すぐに辿り着いたその場所でそっと襖を開けて覗き見れば、毛足の長い絨毯の上に堂々と噂のこたつが鎮座していた。今は誰も寄り付いていないようだったので、もふもふと滑らかな絨毯の柔らかさを四つん這いの手首掌で存分に噛み締めながら、四角いこたつににじり寄っていく。毛並みのよいそれを長谷部が這ったあとにはこたつに通じる轍ができた。本当にこの絨毯というやつは働き者で、気持ちいいぐらい肌によく馴染む。奴の熊毛鞘とは大違いだななんてふふんと笑って、辿り着いた先で恐る恐る手触りのよい厚手の布団をめくり覗き込むと、燃えるように真っ赤な光と巻き上がる熱風が長谷部の顔を撫で上げた。予想以上の性能を目の当たりにして、わくわくと心を踊らせながら両足を突っ込む。異様なほど快適で温かい。両手も突っ込む。文明の利器に祝福あれと、脳内で歓喜の声が木霊した。これは抜け出せそうにない。 長谷部は何かをつまみにきたという本来の目的を忘れて、ふーっと深く溜息をついた。 このまま眠りに就くと、気持ちの良い朝を迎えられるという予感がある。こんなところで寝てはならないと逸る気持ちもあるが、足元からじんわりと伝わる熱が長谷部を捕えて離さない。お誂え向きに正面にはテレビもあって、こたつ机の上には蜜柑が山と盛られた竹籠まで置いてある。おまけに紙で折られた手裏剣や屑入れに、末端に小さな白い玉の付いた孫の手が転がされており、それらは不思議と見つめているうちに心を落ち着かせる効力を持っているのだった。 そうして心地よさにとうとううつらうつらとし始めた長谷部の頭上から、やけに弾んだ夜の声が降ってきた。 「こたつで寝るなよ。風邪ひくぜ」 「……ひかない」 駄々っ子のくちぶりでぽつりと応える。ぼんやりと意識を手放しかけていても、とても彼のように「そうならないよう温めてくれ」と返すことはできなかった。 声の主は間違えようもなかったが、顔だけで振り返ればやはりそこに立っていたのは日本号だ。これから風呂に行くところなのか、タンクトップ一枚の剥き出しの肩に手拭いをかけて、着流しを小脇に抱えている。口端を上げてこちらを見下ろす黒艶の癖っ毛は、結紐を解かれて見事ざんばらな有様だ。いくら初花月も真っ盛りな室内とはいえ、腰に束ねたつなぎをきちんと着ろと叱りつけてやりたいけれど、快い夢入りを邪魔されて機嫌を損ねた長谷部はつんと素気無くそっぽを向いた。 さして興味もないけれど、小さな音量で馬鹿騒ぎしている画面を見つめる。こたつから手を出すのは相当に億劫だったが、小ぶりで甘いと評判の蜜柑に片手を伸ばした。 すると、長谷部の白い指が橙色の山に到達する前に「邪魔するぜ」という宣言がごくごく至近距離から発せられ、反応を返す間もなく、男はわざわざ長谷部の入り込む隙間にみっちりと身体を滑り込ませてきた。魅惑の入り口はあと三つも空いているというのに、本当に邪魔をしてくる嫌な奴だ。 「狭い」と毒づくも、「ここだとてれびがよく見えるだろう」などと、普段テレビなど一つも見やしない男が笑いながらのたまっている。その噓を寛大に看過してやると、許しを得たと判じたのか調子に乗る槍が斜め後ろからのしかかるように大きな身体を密着させてきた。巨躯の重みでこたつ机の上に押し潰されそうになるが、意地で目一杯ぐんと背を反らす。戯れの力でさえ強大で腹立たしいけれど、長谷部の全力が勝負を制した。 押し返されて長谷部を二つ折りにすることが叶わなかった日本号は、何が楽しいのか男臭く笑って、今度は肩を抱いてこちらを潰さぬ慎重さでそうと寄り添ってきた。でかいナリをしてこのくっつき虫めと罵りたいところだが、長谷部はこの槍が単に寒がりであることも知っている。慈悲深い心をもってして、湯上がりでほかほかの半身を提供することにした。 さすさすと若干いやらしい動きで、長谷部の細い肩から二の腕を撫で擦る日本号。けれど強弱をつけて揉み込む力具合がさながらマッサージのようで悪い気はしない。長谷部が流れ続ける娯楽番組をぼんやり眺めて無抵抗に身体を預けていると、飢えた甘い声が耳元をくすぐった。 「なあ長谷部、蜜柑が食いたい」 「目の前にある」 「それ、皮が付いたままじゃねえか。中身が食いたい」 「まさか、剥き方を知らないのか？前も一緒に食べただろう」 「あの時もお前が剥いたのを食ってたんだよなぁ」 「ふ、なんだ。貴様もまだまだひよっこだな！どうだ。また俺に剥いてほしいか」 「ああ、頼むぜ」 尊大な長谷部の言葉にも日本号はただ一つ頷いて、意気揚々と蜜柑を摑む細い指にひたむきな眼差しを向けている。その従順な姿勢に気を良くした長谷部は手にとった果実を大仰に掲げて、たった一本の槍のために実演を開始した。 「いいか、よく見ていろ。こうやって、まずヘソの窪みに指を割り入れるようにして……」 「あ？蜜柑にもへそがあるのか？」 「ある。ヘタのない方だ」 「へえ。お前のへそは小指も入りにくいのに、そいつは随分すっぽり入るんだな」 余計なことを口走った槍をどついて黙らせ「ちゃんと見ていろ」と釘を刺し、蜜柑の剥き方教室を再開する。真面目に聞く気はあるようで、日本号は臨時講師の言いつけに従い素直に口を噤んで先を促した。 飲んだくれてばかりのくせに博識を誇るこの大身槍でも、こと人の暮らしとなると話は別だ。本丸暮らしの短い新入りにとっては日々の些事さえ新鮮らしく、「米を研ぐのに砥石は不要」、「カブトムシはゼリーで飼える」、「ソックスガーターはとにかくすげえ」……と、興味深そうにその長い足で未踏の荒野を踏みしめている。長谷部はそうやって物知りな彼がさらに知見を広めていく姿を眺めるのが大好きだ。さらに、日本号の知らないことを自分が知っていて、長谷部の手ずから教えてやるなんてことがあった日には、とてつもなくむず痒くて居ても立ってもいられない心地になった。それは優越感というよりは、随分若々しくて小恥ずかしい感情だ。そしてまさに今、長谷部は蜜柑の剥き方を日本号に教授している。 知らず知らずのうちに微笑んでいた長谷部は、真横から首を伸ばして覗きこむ日本号が、いつの間にか蜜柑を剥く手元から目を離し、こちらの綻んだかんばせばかり眺めていることに気がつかなかった。 皮と実の離れる瞬間のみちみち、むいむいとした感触がなんとも好ましく、長谷部は勿体をつけてゆっくり橙の鎧を脱がせていく。ことさら丁寧に剥いてやったつもりだが、それでも指先には蜜柑の汁と白い筋が点々と付着した。 「ほら、こうやってそっと剥くんだぞ」と胸を張り、綺麗に姿を現した裸の蜜柑を掴んで丸ごと隣の口に押し付ける。ぞんざいな扱いを甘んじて受け入れた日本号は、「丁寧に剥いて雑に食わせるのはどうなんだ」と小さく笑い、筋張った長い指で蜜柑を割って仕返しとばかりに長谷部の唇に二房むにゅっとねじこんだ。そのままつるりと迎え入れた蜜柑に歯を立てる。途端にぶわっと爽やかな香りと甘いさざ波が口の中に広がって、長谷部はまんざらでもない思いで槍のおもてを振り仰いだ。日本号は残りの果実を一房ずつちびちび千切っては、大きな口で小さく噛み締め味わっている。残りは全て自分で食べてしまうつもりのようだ。物欲しそうな顔を隠しもせずにじいと見つめる長谷部の頭を、わしわしと撫でかき混ぜる粗野な掌。 「美味いな」 「ん。日本号、俺にも一つ剥いてくれ」 「断る。手が汚れるだろ」 「……はっ？」 抜け抜けと信じがたい断りをかました日本号は早くも残りを食べ終わり、飄々とした横顔を向けて長谷部の手首を軽く掴んで右に左にと振り遊んでいる。長谷部は呆然と垂れ目を守る長い睫毛を見つめて揺さぶられていたが、やわく拳の形をつくった手がしゅっしゅと殴る仕草をさせられて、数瞬ののちようやく我に返り卑怯なデカブツに牙を向いた。 「き、貴様……！それでわざと俺に剥かせたのか！！何様だ、お高くとまるなよ！！」 「なんてったって正三位様だからな。それに、お前が剥くと指まで美味しくいただけるだろ」 「巫山戯るな、何の話だ！……って、あ、うぁっ？」 途端に手首を持ち上げられ、人差し指と中指が仲良く一緒にぱくんと食われた。びくんと肩が跳ね上がる。こたつよりも生々しい熱が蠢く肉を伴って、優しく指を包囲した。動転して瞬きさえも忘れた藤色の眼差しを雁字搦めに絡めとる、倶利伽羅龍の熱視線。れろれろと生ぬるく指の股まで這いまわる動きがあらぬ心地を呼び覚まし、長谷部の全身がかあっと淫らに紅潮していく。細やかに動きまわる舌と歯は、あろうことか爪の間に入り込んだ白筋まで丁寧に掬い上げていった。日本号の雅びた口と長谷部の初心な指先がみだりがわしい水音を産んで、恥じらう打刀の周囲に響いた。 この凄まじい執着ぶり、本当に俺は食べられてしまうのかもしれないと、のぼせる頭に警報が鳴り響く。こいつは一度決めたことは必ず貫き通す、鉄の意志と栄光の完遂力を誇る誉れ高い男前だ。 美味しくいただかれてたまるかと身を捩るも、痛いほど握りしめられた手首は逃げ出すことが叶わない。捕食者の鋭い歯に甘く指を齧られて、長谷部の背筋にいよいよ快感とも恐怖ともつかぬ痺れが走った。 「やっ、やめろ、俺まで食べるな！」 「安心しな、味見だ味見」 「えっ？あじみ……、な……なんだ。食べないのか」 「熟した頃に食ってやるよ」 「そ、それがいい。そうしてくれ」 「ふ」 桃栗三年柿八年と聞く。きっと俺はまだまだ先だと、長谷部はほっと溜飲を下げた。 しかし納得はしてもやはりどうにも気まずくて、存分に吸いしゃぶられる指からあさっての方向に目を逸らす。ただの末端がこれ程までに凶悪な受容器官になるとは知らなかった。燻ぶる熱にうずく気持ちを抑え込みそのまま放っておくと、ちゅぱっとわざとらしく音を立てて窄まりから二本指が解放された。 慌てて視線を戻せば、指先は透明な膜を張って瑞々しく光を反射している。なんだか自分の身体ではないようで、なるほどもしかするとこの指は馳走にでもなったのかもしれないとためつすがめつした後で、長谷部はごくりと唾を飲んだ。その輝きに誘われるように、己も濡れた指を咥えこむ。けれども、あれ程美味そうにしゃぶりまわしていた槍の態度に反して何の味も感じない。 これはもしや、意地の悪い槍の酔狂にまんまと一杯食わされてしまったのか―――いや、しかし万が一ということもある。 咥えっぱなしのまま、もしかして自分は味覚が劣るのだろうかと不安に感じて日本号を見上げれば、男らしく通った鼻筋の上で眩しそうに細められた蒲葡の瞳が長谷部の双眸を覗き込んでいた。笑い皺まで目尻に浮かべた楽しげな様子に物言いをつけるべく眉間に皺を寄せるも、間髪入れずに降ってきた人差し指がグリグリと力技で皺を引き伸ばす。一拍置いて長谷部に全力ではたき落とされたそれは、赤くなった眉間の山間から素直に撤退した。 期待外れの二本指もしおらしく口腔から退散し、位持ちの固い太腿を包むつなぎに、濡れたその身をなすりつけている。くすぐったそうにでかい図体を揺らした槍の笑い声が、長谷部のつむじを雄々しく突いた。 「ちっとも美味くないじゃないか」 「残念。そりゃオレだけが味わえるモノなんでな」 「俺には味わえないのか」 「正三位だけの特権ってやつだ」 「そうなのか……」 本体の形も様々であるように、人の身にも大きく相違があるようだ。 先ほどとは反対に日本号にものを教えられて、その不条理な事実に長谷部はやおら肩を落とした。 酒一つとっても受け取り方が全く違うというのに、こんなところにも壁がある。決して口にするつもりはないけれど、共に在り共に喜びを分かち合いたいと願うこの切実な気持ちが、二人から遠ざかっていくように感じられた。 俯いた頬にひやりとした空気が触れる。煤色の細髪をか細く揺らす隙間風に小さく身を竦めると、一旦こたつから足を抜いた斜め後ろの巨躯が真後ろに覆いかぶさるように移動して、気落ちした肩に重々しく無精髭の顎を乗せた。 「そら、蜜柑はもういいだろ。湯冷めしねえように温まりな」 「うぐ」 腹で交差するように背後からぎゅうと腕をまわされて、背中からじわじわと温もりが侵食してくる。凝り固まった僧帽筋を槍のオトガイがごりごりと刺激して、あまりの気持ちよさについ「もっと」と強請りそうになる口を噤んだ。 長谷部はそのままじいと大人しくしていようと努めたが、元気な癖っ毛が首筋をくすぐりぞわぞわと小さく身を震わせた。 「うあー……」 「はっはっは、よしよし。あったけえなあ」 「……あっ。重い、離せ」 正三位の檻にとっ捕まった長谷部は、心地よさに一息も二息もつきたくなる軟な心を叱咤してつんと無表情に努めた。 とはいえ、まだ火鉢の恋しい時節だ。暖房器具より余程丁寧に自分を温めるその存在は吝かではない。一つになるほど背中を押し付け、腰を拘束する剥き出しの逞しい腕をそろそろと指の腹で撫で伝う。湯上がりの長谷部に負けず劣らず熱を持つ、綺麗に肉ののった男の両腕。 「貴様もなかなか温いなあ。……あ、風呂に行くところだったんじゃないのか」 「いや。寝ちまいそうな打刀を発見したんでね、拾っていこうと思ってる。甲斐甲斐しいだろ？」 「自分で言うな。ふん、どら焼きを持ってきていたら褒めてやったのに」 「なんだそりゃ。食いたいなら素直にオレのところに来いよ」 「今からでも？」 「いつでもだ」 槍の裸の腕を撫で回す悪戯な手は、拘束を解いた広い掌に優しく握りこまれた。咎めるように一回り大きいそれに覆われて、長谷部はお返しに両手の指の股に己の指をねじ込んでやった。しかし密に繋がったことでかえって差異が明らかになる。太さも長さも節くれだった男らしさも、あらゆる面で己に勝るそれが羨ましい。長谷部は悔し紛れに槍の手の甲をつねった。けれどそんなじゃれつきは物ともせずに「ん」と何かに気付いた様子の日本号が、頑なな頭の上にもぞりと鼻を潜りこませた。 「嗅ぐな」 「お前、蜜柑以外に何か食ったか？やたらいい匂いがするぞ」 「いや、風呂に入ってからは、他に何も食べていないが……」 「そうか。石鹸の匂い……でもねえな。なんだろうなァ」 「だから嗅ぐな」 湯を満喫してふわふわにはしゃぐ頭髪の間を鼻っ面が泳いでいる。俺は一体何の匂いがするのだろうと繋がったままの手の甲を鼻下まで持ち上げるが、特段何かを感じることもない。それでもまだ、真剣な様子の位持ちは長谷部の髪を荒らしている。 先程は己の味覚は劣るのかと落ち込んだけれど、もしかするとこいつが特別に野生めいた感覚に優れているだけではないかと思い至って、頭皮までちょんと突きながら好きなだけくんくんと嗅ぎまわる獣のような槍の仕草に、思わず小さく笑みが零れた。 法悦を伴うくすぐったさに一つ二つ頭を振ると、繋がりを解いた無骨な指が唐突にぐいと長谷部の着流しの襟を引っ張った。乱れた隙間から露出した滑らかな首筋を辿り、野生の槍が捜査を再開する。 「うわ！何をする」 「髪からかと思ったが、違うな。ここから強く匂い立ってきやがるぜ」 「ひっ！あ、貴様、やめ」 鼻のみならず厚い唇が、匂いを嗅ぐどころではない動きで敏感な首筋をねちっこく探りまわっている。産毛の一本一本まで繊細にとらえるような辿り方をしたかと思えば次の瞬間には肉同士を押し付けて、合間からこそりと姿を現し肌理細やかさを堪能する不埒な舌技。 「ん、んっ……」 生温かく肌を舐める吐息とやわく食むような愛撫が艶々とした首筋に火をつけて、そこからぞわぞわと広がる濡れた熱が、ゆっくりと、しかし確実に、長谷部の全身を淫らなご馳走に仕立て上げていく。槍の頭は図々しくもぐるりと前まで回り込み、遂に鎖骨まで美味そうに味わい始めた。自らの荒い呼吸がうるさいくらい耳につく。身勝手に長谷部を食い荒らす肉食獣に翻弄されて、静止の声も敢え無く震える喘ぎとなって空中にこぼれ落ちた。 官能に火照る首筋に、無精髭がちくちくと刺さって痛痒い。ハァッと気高い獣の呼気が長谷部の肌を擽った。 「お前、どこもかしこも堪らねえな。いやらしい味がする」 「う、嘘つけ。んっ、そんな味、するはずがない……」 「ははっ。口移しなら、お前にもわかるかもしれねえな？」 「い、いらん」 掌を突っぱねて一旦は距離を稼ぐも、体格差ゆえ些細な抵抗をものともしない槍はますますグッと顔を近づけてくる。心臓が音を立てて暴れまわる程、生暖かい吐息の触れ合う僅かな距離。欲に濡れて艶めく雄の唇が長谷部の心を強引に惹き寄せて、抗う気力を容易く折った。日本号の纏う酒の香りをいっとう強く吸い込んで、心地よく霞がかった頭がくらりとふらつく。刹那、ぐいと伸びた大きな掌が揺れる後頭部をしかと支えて、ぎらりと深緋を滲ませ輝く眼差しが、長谷部の全てを掌中に収めた。 ―――ああ、食われる！ ふつふつと腹の底から湧き上がる、仄暗い悦びと渇望。 藤色の双眸は夢見るようにそうっと瞼の下に姿を隠して、待ち焦がれるように上向いた清楚な唇は大きな獣に奪われた。剛毅な外見に似合わず、ちうと可愛らしい甘くあやすような口付け。ふわりとくっついた柔らかな感触を味わう間もなく、獣めいた舌が長谷部の薄く色付く唇をベロリと舐め上げた。 「ひゃう」 唐突にじゃれついてきた熱に驚き、思わず情けない悲鳴が上がる。そうして薄く開いた隙間にぬるりと温かな生き物が侵入してきて、ぴくんと身を固くした長谷部の腔内は、余すところ無く味わおうとする至極優しい愛撫に蹂躙された。 「んぅ、う……ふ、っん」 「ふ、長谷部……」 ぬるぬると敏感な粘膜を愛される快感が背筋を伝ってじんと頭を熱くする。 荒い呼吸と絡み合いの合間に名を呼ばれ、長谷部は痺れる悦楽の海をたゆたいながらそうっと目を開き―――そしてすぐに後悔した。 「ふぁ、んんっ……！」 目前の垂れ目はお伽話のようにきらきらと深い情愛に艶めいて、真っ直ぐに長谷部の姿だけを映している。それだけでこの身はぐずぐずに蕩けきってしまうというのに、とどめに恋い慕う仕草で愛おしそうに舌先を吸われては、とうの昔にこの槍の虜に成り果てた長谷部が抗う術を見いだせるはずもない。じんと下腹部まで響いた熱烈な痺れを享受する。 楽園を蹂躙し尽くして立ち去ろうとする侵入者を淫らに追いかけた小さな舌先は、ちろちろと細やかにくすぐられて震えた隙に置き去りにされてしまった。 「っふ、ん、にほんごう……っ」 二人の間に銀糸が流れる。最後にもう一度、てらてらと光を反射する長谷部の口端を自らのそれごとべろりと獰猛に舐め上げた男の口はにたりと大きな弧を描き、息を切らしてくたりとしなだれかかる長谷部を大切に腕に仕舞って実に楽しげに喉を鳴らした。 「はっはっは、どうだ？自分の味は。美味かったろ」 「はぁっ、あ、ふっ、くそっ……！い、今ので、味なんかわかるわけないだろう！」 「なんだ。わかるまでもっとしてほしいって？」 「ばっ……ばか、そういう意味じゃない！離せ、スケベ！おたんこなす！」 「天下の大身槍に御短小茄子たあ、笑えるな。おら、イイ子にしてろ」 耳朶を軽く食まれて吹きこまれた低音に、ぶわりと肌が期待に粟立つ。一刻も早く逃げ出そうとばたついた薄い腰を鷲掴まれたと思った瞬間、長谷部はこたつから引っこ抜かれて、横抱きに抱えなおされた。どっかりと腰を下ろした槍の胡坐にぴたりと収まる己の身体。咄嗟のことに目を白黒させていると、抱き込む豪腕は力を増して、益々むぎゅうと長谷部を厚い胸板に押し付けてくる。首を巡らせずとも視界いっぱいに広がる、ぐりぐりと頬に額に頬ずりをしてくる日本号の嬉々とした表情が、長谷部の目には堪らなく眩しく感じられた。けれど、いかんせんやはり、敏感な肌を突き回す髭が無性に痛い。盛大に高鳴る鼓動を押し隠して「ひげが、」まで口に出しかかったところで、頬に何かが柔らかく吸い付く気配を感じ、長谷部はまあるい目をぱちぱちと瞬かせた。 「なあ長谷部。ちゅうしろよ」 溢れる喜色を隠そうともしない挑戦状。むいむいと頬を食むこいつの正体は、どうやら正三位の傍迷惑な唇だ。長谷部は色めき立って顔を背けたが、結果的により敏感なうなじに再び強く吸い付かれて「ひゃあん」と短い鳴き声を上げてしまった。 売られた喧嘩は買うのが常だが、ふしだらな誘いをふっかけられてもどうすればいいのかわからない。じたじたと四肢をばたつかせるも、ますます体全体で宥めるように丸め込まれてしまうばかりだ。 「だっ、誰が自分からそんな……破廉恥な！」 「ちゅうが嫌なら、もっとすごいことさせてやってもいいんだぜ」 「横暴だ！も、もっとすごいことだなんて……ッ、嫌がる俺の口に無理矢理魔羅を突き入れるつもりだろう！！そんなことした日には、圧し斬ってやるからな！」 いくら馴染みの愛しい槍といえども容赦はしない。ありったけの覚悟を決めてぎっと強く睨めつけた先で、日本号が精悍な笑みを引きつらせて固まっていた。一体何が起こったのかわからず、表情から険を落とした長谷部は睫毛をいとけなく瞬かせる。 互いに顔を見合わせたまま、じわじわと薄く何層にも重なっていく静寂。 「…………いや、魔羅って、お前……。そ、そこまでさせねえよ……」 珍しく照れたように頬をかいた槍を見て、長谷部は紅潮した肌をますます茹で上げて固まった。 どうやら圧し斬られるべきは、無念にも不埒まっしぐらな己の思考回路のようだ。ようやく己が口にしたとんでもない助平を噛みしめて、今にも憤死しそうな長谷部はぎゅうとタンクトップの胸元を握りしめて身悶えた。どう返せば長谷部を傷つけずに済むか悩んでいるような、そんな生ぬるい戸惑いが、かえって手酷く長谷部の羞恥を駆り立てる。 「う……うぁぁ……！！日本号……！！！」 「自分で言って照れてりゃ世話ねえな。……お前いつもそんなこと考えてんのか」 「……失言だっ！うるさい。もういい！なんだちゅうって。死ね貴様ァ」 「拗ねるなよ。じゃあ、そうだな。ちゅうしてくれたらその日は酒をやめてやってもいい」 「えっ！本気か？ちゅ……ちゅうしたら、本当に飲まないのか？」 「飲まねえさ、酒にも勝る宝があれば」 「そうか……！」 長谷部は己を抱き込む槍の言い分に理を見出し、ぱあと表情を輝かせた。あられもない失言の悔恨も一瞬で吹き飛ぶ魅力的な提案だ。何かの折に『酒は度を越せば毒になる』と耳にして、この大酒飲みには毎度はらはらさせられてきたのだ。愛しい正三位が禁酒を誓うというのなら、接吻なんて好きなだけくれてやりたいと思う。……思いはするが、それでも接吻一つすら長谷部から仕掛けるには羞恥の極みで、考えただけで蕩けだしそうな己にはまるで果たせそうにない。 うぐぐと唸ってちらりと上目遣いに槍を盗み見る。待ての上手な日本号は、堂々めぐりする長谷部の逡巡さえ愛おしそうに柔らかく眺めていた。その表情はまさに位持ちの名に相応しく、一瞬の直視さえも能わぬ破壊力で高鳴る心臓をズドンと刺した。 ぴっと目をそらして大きくごくりと喉を鳴らす。長谷部はどっどっと暴れまわる鼓動に急かされて、狼狽しきった己の心に言い聞かせた。 自分は今、日本号の纏う酒精に酔って、正常な判断力を失っているのだ。正三位サマに脅されて仕方なく、破廉恥な行いを犯すのだ。自ら望んで口吸をするわけでは、決して……。 はにかみながら胸の内でたらたらと言い訳を並び立てる間にも、頬に寄せられた日本号の唇がぽてりと長谷部を誘っている。下睫毛が縁取る豪奢な瞳が優しく此方を見守っているのを感じ、長谷部はいよいよぎゅうと目を瞑って覚悟を決め、噛みつかんばかりの勢いで魅惑の唇にうちゅうと吸い付いた。 「ん、ちぅ、ん……ふ」 必死になって胸元に寄せた手で縋り付き、はむはむと角度を変えて何度も唇を重ね合わせる。けれどいつも強襲を受けるばかりで一度も主導権を握ったことのない長谷部には、まるでこの先どうすればいいのかわからない。恥を忍んで己より厚い唇を子犬のようにぺろぺろと舐め続け、時折やわやわと食んで誘いをかける。稚拙に過ぎるかもしれないが、これが今の長谷部にできる精一杯の愛情表現だ。しかし、いくら誘いをかけても一向に奴の舌が迎えにこない。 ―――もしやこいつ、本当に俺にばかりちゅうをさせて、自分は動かぬつもりだろうか。 閉ざした睫毛に昂ぶる涙がじわりと滲んだ。綯い交ぜになった羞恥と不安をやけくそ気味に槍の唇にむぎゅうと押し付ける。これほどまでに助けを求める長谷部に一切手出しすることなく、何を思ってか悠然と木偶の坊を演じている日本号が憎らしい。けれど心の中で「むっつりクソ槍、高飛車、意地の悪いヒゲ野郎！」と罵詈雑言を並び立てているうちに、長谷部にもうすうすわかってきた。 日本号が長谷部にくれる蕩けるように熱い口吸、あれを真似るのを、きっとこいつは待っている。 けれどもそんな、閉ざされた唇に舌をねじ込むなんて荒業、とても己には、己には……。 嗚呼もう、早く迎えに来て欲しい。 弱りきって不甲斐なく震えた声が白旗を揚げた。 「日本号……。し、舌……入れてくれ」 「………………」 応えがない。無言の圧力に折れてしまいそうになる。長谷部の晒す無様に呆れ返っているのだろうか。それとも、静かに怒っている？ 長谷部はすっかり困ってしまった。唇は睦まじく一つにくっついているのに、だんまりの槍の心がわからない。薄く涙にけぶる睫毛を震わせて、恐る恐る瞼を開く。 己の情けなさを猛省し、そろそろと槍の面に視線を上向かせたところで―――心底面白おかしそうにニヤつく深緋の瞳と目が合った。長谷部の両頬を無骨な掌でそっと包んで、僅かに距離をとるニヤケ顔。長谷部は日本号が何故笑っているのか理解できずに、ただひたすらこぼれた白い歯を見つめ続けた。 「わからねえなあ。なぜオレの舌が欲しいんだ？」 「はっ……？だ、だって貴様が、ちゅうをしろと……」 「言ったな。だが不正解だ。口にしろとは言ってない」 「あぁ！！？な、じゃあ、どこに……！！」 「先に手本をくれてやっただろうが」 茹だった頭で必死に槍の挙動に思いを馳せた。大きな掌はマイペースに柔らかな頬をうにうにと弄んでいる。遊ばれる頬はそのままによくよく思い返してみれば、確かに「ちゅうしろよ」と囁かれたその時、日本号の唇は長谷部の頬にあった、ような、気が……。 途端、爆発した感情が閃光のように迸り、ブルブルと抑えきれない憤怒が全身を駆け抜けた。 「…………ほ、頬にしろとも言ってないだろうがァ…………！！！！！」 「口にしたのはお前の意志だ。自分のやらしさをオレのせいにしちゃいけねえな？」 満面に輝く笑顔が長谷部を焼いた。悦楽に紅潮した玉肌が、怒りをスパイスに煮えたぎりこれ以上なく恥辱の色に染まりきる。全ては長谷部の一人相撲だったというわけだ。思わせぶりに誘って溶かして絆しておいて、肝心なところでつれなく突き放すこの男が日の本一の誉れ高い大身槍だなんて、絶対に何かの間違いだ。 興奮に汗ばむこめかみに張り付いた煤色の髪の毛を、長い指が至極嬉しそうに梳き流している。そんな仕草一つにも煽られ心を乱しきった長谷部は、男の鼻頭に噛みつかんばかりの勢いで鋭く叫んだ。 「やり直す！くそ、頬にすればいいんだろう。大人しく面を差し出せ日本号！」 「そりゃいいがね。お前、口がキモチイイんだろ。舌までおねだりしちまって、『熱いの一発ください』って素直に言やあいいのによ。頬なんかじゃ満足できませんってなァ」 「違う！！俺はただ、お前に禁酒を……」 「はいはい。お口大好きだな。さて、さっきは何と言ってたかね。『嫌がる俺の口に無理矢理』……」 「ア゛ァッッ圧し斬るぅ！！！」 わなわなと震えて繰り出した拳がばしんと乾いた音を立てて固い掌に受け止められた。顔面に思い切り叩き込むはずだった拳は打った肉にそのままきゅうと握り込まれ、さわさわと慰めるように優しく撫で擦られている。ぐっと奥歯を噛み締めた長谷部の激情は、大身槍の温かく手厚いもてなしによってみるみるうちに絶大な羞恥心へと成り果てた。優しさから逃げ出した手で再び握り拳を作りだし、筋肉の盛り上がる憎き胸板をどんっと数度強く叩きつける。悔しいことに、それはびくともしないどころか、朗らかな笑い声の振動に揺れていた。 「はっはっはァ！！今日も酒が美味いなァ？」 「き、貴様、ああ、お、俺、なぜ口に、俺は……。くそ……さ、最低だ……」 「ああ？何が最低だって？まさかオレがとは言わねえよな」 「そんなわけあるか、最高だ！この破廉恥飲んだくれクソ野郎！！」 「おいおい、可愛いのもいい加減にしろよ」 今にも触れ合いそうな距離にありながら、こちらが望んだ時にはするりとちょっかいを引っ込める。結局長谷部のお願いも断ち切ったくせに、舌の根も乾かぬうちから再び雄々しい低音で此方を誘って、なんと忌々しくてイケズで罪作りな槍なのだろうか。 とろとろに惚けた頭を逞しい喉元に擦り付け猛烈に抗議する。じゃれつく長谷部のふわふわと踊る髪の毛にくすぐられ、日本号は盛大に相好を崩した。ぐりぐりと甘えるような攻撃の最中、長谷部の腰に回されていた両腕が、そうっと膝裏と背に移動する。途端にぐんと力の込められたそれは、いとも容易く蕩ける痩躯を持ち上げた。 「わっ！な、なんっ……降ろせ！」 「禁酒はしねえが、舌でも何でも褒美をやろう。部屋行くぞ」 「何が褒美だ、偉そうに！貴様という奴は、本当に自分勝手な……んにゃぅ」 なおも募る不平の続きは激しい口付けの海に飲まれた。まるでそれ自体が主体のように、激しく絡み合って交尾に勤しむ愛欲の塊。上顎をなぞり、下顎を撫ぜて長谷部の舌を掬い上げ、日本号の濡れた末端が雅らかにも獣のようにも万華鏡めく変化をつけて、楚々とした口腔を過激な熱で蹂躙する。文字通り垂涎のソレがようやく与えられ、長谷部はもう逃がすものかと溢れる露を蠢く舌ごとじゅるりと啜った。するとやはりこちらが追えばあちらは逃げる。日本号の舌はれろりと肉の内から抜けだしたが、長谷部は唇まで逃がすことは許さずに分厚いそれを甘く齧った。 「ん、にほん、にほんごう、んう、う」 「はっ……部屋まで待てねえのか、この淫乱」 からかう吐息がゼロ距離で心を撫でる。長谷部は未練がましくことさらゆっくりと日本号の唇を解放し、荒い息を吐きながらゴツンと額を突き合わせた。 「はぁっ、貴様から、したくせに……。逃げてばかりだ、卑劣な槍め」 「にゃあにゃあうるせえ。生意気な口は食っちまうぞ」 「だ、ダメだと言っただろうが！俺は刀だ。食べ物じゃない！」 「そうかい。それにしちゃあ、やわっこくて随分美味そうに見えるがね」 「意地汚い奴め。……だがまあ、さっきみたいにねぶるだけなら、味見させてやらんこともない」 「ぶはっ！はははは、いいねえ！永く美味しく味わってやるよ。そら、落っこちねえよう首に手回しとけ。正三位が最速で布団の中までお連れしてやる」 甘い脅しの威力は絶大だ。この高さから落とされては堪らないと、長谷部は慌てて太い首筋に両手を回してしがみついた。分厚い胸にぴとりと密着してもなお、日本号が軽やかに歩を進める度にゆさゆさと強い振動が伝わってくる。慣れぬ感覚に見舞われた長谷部は、ぴょんぴょんと小躍りしている癖っ毛を指に絡めて引っ張って、首筋に額を擦りつけたまま堪らず男に懇願した。 「う。よ、酔いそうだ。日本号、ゆっくりでいいから、揺らすなっ……」 「はは、お安い御用だ。抱っこは初めてだもんな、とびきり優しくしてやるよ……」 「ひぁっ、耳元でしゃべるな！！！」 日本号の背後から「あれぞ呑み取り槍の誇る妙技が一つ、長谷部専用お持ち帰りテクニシャンばい」という講釈の始まる声がしたが、宣言通りぎゅうと愛おしそうに抱き込んでくる大身槍にしがみついて頭が一杯の長谷部には、周囲を気にする余裕などもはや微塵も残されていなかった。 ―――そう、そもそも端から気になどしていなかったが、ここは皆の集まる大広間だ。 日の本一の大身槍が勝利の背中を誇った先で、酒の入った野次馬がやんややんやと騒ぎ立てている。 ―――主の発案により、大広間の隅の一角にこたつを設置していたが、さにあらん。 周囲の面々は特に息を潜めていたわけでも優しく見守っていたわけでもなかったが、それでもただ二人きりでこたつを占領した彼らは彼らだけの世界を作り上げていた。どんちゃん騒ぎの一部とは対照的に、ゲンナリと進まぬ箸で不味い飯を食らった者も少なくない。バカップルの餌食になり得る舞台装置を皆の集まる大広間に置くのはとんでもない悪手だったと、多くの刀が心を一つにした一幕だった。 去りゆく二人の熱い背中に、囃し立てる仲間の声に混ざって槍と短刀の会話が遠く届いた。 「不動殿が顕現してから二人はもっぱらあのザマだ。人目も憚らずいちゃいちゃと、全くもってけしからん。……何があったのかは知らないが、不動殿。その件についてどう思う」 「お、俺のせいだって言うのかよぉ！！？」 「ちなみに抜かずの四発が基本らしい」 「噓だろ！」 「最近よく見るよなあ。あいつらしょっちゅうくっついてるけどさ、縁側とか風呂場とかで『あ、こりゃ入ってるな』って瞬間」 「噓だろ！！！？」 「そういえば先日も、向かい合わせに膝の上に抱かれた長谷部殿が凄まじい色気を振りまいていたな。しなやかな四肢で日本号殿の背を掻き抱いて、『すごいっ、あン、好き……』と感じ入ったような甘い声……。あれはまさしく現場だったというわけか」 「噓だろぉ！！！！！！！！！！」 「嘘だ」 「噓かよぉ！！！！！！！！！！！！！！！！」 けれど後日、蜻蛉切の語った光景が現実のものになるとは流石に誰も予想していなかった。 向かい合わせで日本号の膝の上に抱かれ、つなぎの広い背にめくれあがった着物の袖裾からはみ出した裸の手足を絡ませて、「すごいっ、餡、好きだ……」と天にも昇る表情で新作のどら焼きを頬張る長谷部と、この上なく幸せそうに蕩ける細腰を抱きしめて酒をちびちび味わう日本号。目撃情報の数と比例して胸焼けを起こした刀剣が数多く発生した、気持ちの良い春麗らな昼下がりのことだった。 しかしそんな傍迷惑な二人への注目を飛び越して、「わかっててやってんだろォ！！！！！」と本丸中に叫び声を響かせ三日三晩やけ酒を強行した不動行光がここ最近の皆の話題をかっさらっていった。 「あ、やべえ。お前が揺らすから、たった。ほれ」 「ん？……うわ、すごい。ビンビンだ」 「な。幸先いいなあ」 「ああ。めでたいな、茶柱」 今日も今日とてこの本丸では、気ままな獣と口うるさい猫がごろごろにゃんにゃん戯れている。

気ままで気高く愛情深い日本号と、日本号のことが大好きな尊大ツンデレ押し切られ長谷部のいちゃいちゃが永劫に輪廻する。前二作とは続いてません。<br />殿堂入りの三名槍に引き続き、不動くんも巻き込まレギュラー入りしました。（回想等ネタバレなし）<br />中の人がにほへし同室を讃えた言葉「最高」を言わせたいだけの人生だった。<br /><br />黒田回想を見るたび「にほへしとはぎこちない距離と見つけたり（五体投地）」と思うのに、少女漫画ばかり書いているミステリー。春からは冷やし日本号始めます。その前に続編……言うは易し～

ごろにゃん日本号

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「クソッ！なんなんだよアイツは」 人々が寝静まった夜の町中男は走っていた 彼はここらでは力を持っているマフィアのボスだ そんな彼が部下も持たず走っているのかというと 数十分ほど前　彼の屋敷にやってきた たった[[rb:一人 > ・・]]の襲撃者によってだ 「ハァ…ハァ…ハァ」 男は屋敷を出てから走ったままだ しかし、男は止まることができなかった 屋敷を出たときにはいたはずの部下も 一人また一人と暗闇に呑まれていった 「鬼ごっこは終わりにしようか、おにいさん」 突然の声に男は足を止めた そして、暗闇から出てきたのは 太陽のような笑みを浮かべた[[rb:少女 > 死神]]であった 「本日未明　マフィアのボス○○さんが 　何者かに殺害されているのが発見されました」 そんなニュースを耳にしながら 私は朝食をとっていた 「何者か」ね　大体誰が殺ったか分かってるくせに そんなことを考えているとメールが一通届いた 「依頼よ」となんとも簡素なメールである 私はそのメールに「了解」とだけ送り 出かけるための準備を始めた[newpage] 「この娘がターゲット…ですか？」 客のいない酒場。 いるのはマスターと私だけだ 「そうよ」 こんな朝から酒場にいる私は 「客なのか？」と聞かれれば 「客ではない」としか返せない 最もこの時間に客は入れないのだが 「『絵里』　AYASEの社長令嬢よ」 差し出された１枚の写真 そこには、ひとりの少女が写っていた 雪のような白い肌に整った顔立ち。 染めたものではない綺麗な金髪。 そして、青空をそのまま閉じ込めたような碧眼。 まるで本物の人形のような娘だ。 「参考までに聞きたいのですが、依頼理由は？」 『AYASE』というとたった１代で成功させた 有名な大手企業だ。 そこの社長令嬢の暗殺を依頼するとするなら どんな理由があるか知りたかった。 すると、マスターはため息を吐き 「なんでも、１週間前の交流パーティーでプロポーズを 　断られた上に、足を踏まれたそうよ」 思わずため息が出てしまった プロポーズを断られ、足を踏まれただけで 暗殺の依頼をしてくるとは。 「世の中には、そういう器の小さい 　人間もいるってことよ」 嫌な世の中になったものだと思ったが そもそも自分は嫌な世の中だからこそ 生きていることを思い出した。 「まあ、こちらとしては、お金さえ貰えれば 　どんな奴だろうと殺すけどね」 そんな会話をしながら私は碧眼から 目を離せないことに気が付いた。 純粋無垢で正義感が溢れている目だが、 その中に曇りがあることに気が付いた。 その曇りが晴れたらその瞳は どれだけ美しくなるのか見たいと思った。 「ターゲットに少し接触してもいいでしょうか？」 「勿体ない」素直にそう思った。 どこぞの馬鹿の為に殺さなければならないのかと。 これが『恋』なのかはわからない だが、いつもの遊びなどとは違うものだと分かる。 「また、遊ぶ気なのあんた。つい先月も遊んだ結果に 　足が付きそうになったじゃない」 先月そんなこともあったなと思いながら マスターの説教を聞いていた あんたがターゲットと寝たせいで痕跡が残った。 あれを揉み消すのにどれだけ苦労したと思うの。等々 だが、最後にはため息を吐き 「幸い今回は期限が決められていないわ 　それでも早く殺りなさいよ」 「ありがとう。にこちゃん」 するとマスターはまたため息を吐いた 私はそのため息を耳にしながら 席を立ち、酒場を出た。 笑いがこみ上げてきてしょうがない。 期限もそうだが殺し方にもしてはなかった つまり、殺せばいいのだ。 どうやって殺すか考える。 狙撃や毒殺などでは彼女に失礼だ。 殺すのならもっとドラマチックな死を与えてあげたい。 それが私にできる最大の愛情表現だからだ。 隠れ家に帰れば接触方法を考えないとな。 私の頭にあるのは「早く会いたい」ただそれだけだった。 「フフッ」 私は歪んだ口元を隠しながら隠れ家への道を急いだ。[newpage] 初めましてナナシという者です。 初投稿ですので駄文なのはお許しください。 そしてほのえりタグつけてるのに絵里ちゃん出てませんでしたすみません！ さて話は変わりますが何故こんな物を書いたかと言われますと 太陽と呼ばれることの多い穂乃果ちゃんですが、 光があるからこそ影は目立ちますので、似合うのではないかと思ったからです。 まあ後はかっこいい穂乃果ちゃんが見たいからですｗ。 そして、何故にこちゃんをマスター役に使ったかと言われますと 穂乃果ちゃんとにこちゃんは違うようで似た存在かと思いますので 穂乃果ちゃんが裏の世界の人間ならにこちゃんもというだけです。 ただにこちゃんをマスターという依頼主と穂乃果ちゃんを繋ぐ 仲介人に使ってしまいましたので今後登場させられるか不安ですｗ。 次回がいつになるか分かりませんが 次回から最後のページには この作品のキャラ紹介でもしようかと思います。 それでは次回もよろしくお願いします。

初投稿です。駄文なのはお許しください。<br />直接ではないですが人の死ぬ表現があります。<br />最後のページに色々と書かせていただいたので<br />お暇な方は読んでいただけるとうれしいです。<br /><br />追記<br />3/5　小説　男子に人気ランキング４５位になりました<br />ありがとうございます！

碧眼の令嬢

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たくさん花を摘んで行こう。燐と同じ春の匂いのする花を。 たとえ陽が射さなくとも、燐の心を明るく照らしてくれるように。 最後の逢瀬はまだ寒い春の夜だった。 昼間に摘んで水に付けておいたスミレをしおらせないように握りしめて、燐のところに向かう。 「燐、来たよ」 「雪男」 お互いに、格子のところまで駆け寄る。恋しい待ち人に会えたかのように毎回そうしてしまう。 「花、持って来たんだ。庭に咲いていたものだけど」 僕が差し出すと、燐は開いた本の上にそれを受けた。 「不思議な匂いがする」 眼を閉じて、すん、と鼻を鳴らす。 「スミレの香り、本で知ってるだけだとわからないでしょ？」 外に行けば、もっともっといろんなことがわかるよ。 そう思ったが言葉にはしなかった。声に出して伝えれば、燐が哀しそうに笑うから。 「うん、ありがとな。これ、時間経っても残るようにするよ」 そう言うと燐は眩しく微笑んだ。本に挟んで押花にでもするのだろうか。よかった。僕は燐を哀しげな笑顔ではなく、喜びの笑顔にすることが出来たのだ。 「なあ、手、見せてくれよ」 おもむろな燐の言葉に従って、手を差し伸べる。すると、ひた、と燐の少し冷たい指先が掌に触れた。 「また肉刺が増えてる」 「仕方ないよ。銃を使うとどうしてもこうなるんだ」 僕が祓魔術の射撃訓練を始めて、3ヶ月ほどが経っていた。 「学校が終わってから一日中撃ってるだろ」 「わかるの？」 「俺の耳はすごい良いんだ。雪男の撃ち方の癖もわかる。祓魔師になんないといけないのは知ってるけど、自分の手を大事にしろよ。無理すんな」 無理をしないと強くなれないじゃないか。 「そっちも」 促され、もう一方の手も差し出すと、僕の両手に燐のひやりとしたそれが重なった。触れられたところから、水に溶けるみたいに痛みが消えていくようだった。 「俺は、こうしてやることしかできないから」 こうしてやることしか、じゃない。それがすべてなんだ。 「ふ、雪男、花びらついてる。前髪んとこ」 「え、そう？夢中で走って来たから気付かなかった」 夜桜の下を通った時についたのだろう。 「そのままにして」 花びらを取ろうと、呼吸を感じるほど燐が間近に迫る。 「桜、か」 そう呟いた吐息が僕の頬にかかった。その甘い匂いに身体の中心が、ずくんと疼く。 「なっ、ん！」 瞬間、燐の後頭部をさらって唇を塞いでいた。ただ唇を押し付けるだけの、格子越しの幼い接吻。 熱情の伝え方を知らない子供が、相手と溶けあおうともがくような。 衝動的な行動だった。我に返って、そっと唇を離す。 「…ごめん」 燐は呆然と僕を見つめたままだ。蒼い瞳が潤んで揺れている。 こんなことをしなければよかった。にわかに深い後悔に苛まれる。 「雪男」 その先にどんな言葉が飛び出すだろう。裁きを待つような短くて長い、間。 「雪男は、俺が好き？」 ああ、どうして今それを聞くの。そんなの決まってる。 「好き。すごく好きだよ。燐がすべてで、燐は僕の、」 ――愛しい人。言葉にならない思いが雫になってこぼれる。 この思いは拒絶されるだろうか。 燐が僕の左手を取った。 「ありがとう、雪男」 そう言うと、手の甲に恭しく口付けを落とす。熱を持った唇が熱い。 「燐、君は、もしかして」 僕の思いを受け入れてくれる――？ ぽた、と水滴が頬を伝って、僕の手を濡らす。 「さよなら」 「え、」 突然、紡がれた言葉。咄嗟に理解できない。 「俺も好きだったよ、ずっと」 左手の握手は、別れのあいさつ。じゃあ、左手への口付けは―― [newpage] 舞踏会から直接本家に戻ると、叔母が待ち構えていた。 「雪男さん、奥でお話があります。着替えて今すぐいらっしゃい」 一体どうしたというのだ。僕は、その為に戻ってきたわけじゃない。 「叔母様、半刻だけ時間をいただけませんか？飲み過ぎてしまって気分がすぐれないんです。少し休んだら奥座敷に伺いますので」 「わかりました。では、部屋でお休みなさい」 するりと出た嘘で時間を稼ぐことができた。 いったん部屋に戻って着替えると、庭に抜け出し、目的の場所へと向かう。灯りは見えない。 「燐！」 息を切らして中へ入るが、あるのは変わらず本の山だけ。先月一晩を過ごした場所は埃が薄くなって、僕の痕跡だけを残していた。 誰の気配もない中、僕は構わず呼びかける。 「燐！君は今でもここにいるんじゃないのか！？そうなんだろう？」 返事はない。 「外に出て、僕に会いに来てくれたの！？いや、そうじゃなくてもいい、もう一度会いたいんだ！」 しん、と静寂がたちこめる。 「燐！今もまだ僕を好きでいてくれるなら、…会いたい。お願いだ…」 たまらない思いで膝から崩れ落ちてしまう。声の限り叫んでも、所詮は無駄なことだったのか。 「…クソッ！」 拳で床をドンと叩くと、そばにあった本が倒れる。 カタン。 小さく床板の音が鳴った。あれは！ 夢中で、底が見えるまで散乱した本をどかしていく。 見えた！ちらちらと明かりが漏れている。 何年ぶりかに通じた地下に、はたして燐はいた。 格子の奥の壁に背を預けて佇んでいる。 「燐…」 最後に別れた時からどれほど焦がれたかわからない蒼い瞳の燐がそこにいるのだ。 顔から子供らしい丸みが消え、かわりに愁いを帯びた表情をたたえている。青白く透けてしまいそうな肌に喪服のような黒い着物が、その美しさに凄みを加えていた。いっそ、人間ではないような色香だ。 少年に使う形容詞ではないだろう。 「雪男、どうして来ちゃったんだよ」 燐は、しょうがないやつだという苦笑にも、泣いているようにも見えるように、微笑った。 燐の話し方、困った笑顔。どんなに纏う空気が変わったとしても、僕の知っている燐がそこにいる。 「会いたかった、燐、近くにきて」 触れたい。そう思って僕が格子の中に手を差し伸べても、燐は動こうとしない。 「ごめん。無理だ」 「ど、して…」 やっぱり、僕の独りよがりだったのか。 「そうしちゃ、いけないんだ…」 そうしてはいけない――どうして？ 燐は何に縛られているっていうんだ？何がそんなに燐を頑なにさせるんだ！？ せっかく再会できたというのに、燐はまた僕を突き放そうとする。それが悲しくてじれったくて、語気を強めてしまう。 「どうして…なんでいけないんだ！？」 「俺はずっとここから、」 「何？おばけが出してくれない？おばけって誰なんだよ！？悪魔？あの時一緒にいた、」 「そうじゃない」 「違わないだろ！燐をこんなところに閉じ込めておくなんておかしい！こんなもので燐を！」 頭に血が上り、ガンガン力任せに格子を蹴りつける。木製のはずのそれは、びくともしなければ、一切傷もつかない。 予想外に頑丈で、息が上がり、肩で呼吸をしてしまう。 「強力な魔力に守られてる。雪男には壊せないよ」 奥から燐が無表情のまま言い放つ。 「魔力…やっぱり悪魔なんだ、おばけって」 「叔母様が雪男を探してる。行けよ」 「話はまだ終わってない！」 「いいから行けよ！」 燐が声を荒げるのは初めてだった。 「…また、必ず来る。だからここへの扉は絶対に開けておいて。必ず来るから、必ず」 叔母について奥に通されると、先日まで気丈だった祖父が床に臥せっていた。 「一昨日は、お元気そうでした。いつから悪いんですか」 「実は雪男さんが本家を離れてから、もう長い間。お医者様からは春が迎えられるかどうかと言われていました。だから、雪男さんが帰ってらしたら一刻も早く、指名式を執り行う必要があったのですよ」 傍らの叔母が答える。 「おじい様は、もうそんなに」 「ええ」 いけない。このままでは、僕はもう次の当主になってしまう。ますます身動きが取れなくなって、燐を解放することが出来なくなるかもしれない。 「士官学校は、どうなるんですか？」 「もちろん、卒業していただきます。雪男さんには然るべき学歴・経歴を持ってもらわなければなりません。帝国軍に入るまでは、私が当主代理を務めます」 よかった。幾分、猶予はあるようだ。 「ですが、のんびりしていていいということではないのです。雪男さん、舞踏会で藤堂大佐にお会いしたでしょう？」 「…はい」 確かに会って話した。僕と同じ年頃の娘を連れていた。含みのある言い方だ。まさか、 「大佐のご息女と結婚なさい」 この時が来た、と思った。嫌だ。嫌だ嫌だ。幼子が泣くように感情に火がついて頭をめぐる。いつか、こういう日が来ることはわかっていた。しかし、燐に出会ってからずっとその日を先延ばしにしてきたのだ。 「…叔母様、あちらのお嬢さんはそれでよろしいと？」 僕の言葉に叔母がいらだつのがわかった。 「無論です。もともと家同士の結婚。個人の思いなど関係ありません。それはあなたも同じですよ、雪男さん」 ああ、どうしてだろう。運命というものは、自分の意志などあずかり知らぬところで決定して、その現実を突き付けてくる。奥村の後継者でさえなければ、その運命に抗うことができれば、そう考えてみたところで何も変わりはしない。 「半月後には祝言をあげます」 なんだって！？叔母の言葉に耳を疑う。 「待ってください！いくら何でも性急すぎるのではありませんか。それに卒業するまでは叔母様が当主代理だとおっしゃっていたではないですか！？」 そんなに早く、冗談じゃない！ 「雪男さん！今、許嫁がいないというだけでも心許ないことなんですよ！これからの状況を考えてもごらんなさい。実質的に当主の座は一時空白になるのです。その弱みを払拭するために、次期当主は少しでも早く妻を迎え、一族を束ねて正当な血を繋いでいくのに万全な体制であると、示さねばなりません。一族の運命がかかっているのですよ！」 一族の運命なんて、そんなものは犬にでも喰わせてやればいいんだ！ 「奥村本家の後継者なら聞き分けなさい！」 叔母の言葉が、僕の反抗心に火を注ぐ。何を言われても冷静に考えられない。 「聞き分けています！ただ早すぎると言っているだけで」 「今は早く事を運ぶのが大事なのです！」 ゴホゴホと祖父が咳き込んだ。口論を中座させるようなタイミングだ。 「まあ、お騒がせして申し訳ございません」 叔母が、祖父の背を起こし、水差しから水を注いで差し出す。 「大丈夫だ。それよりも、結婚の話はもう済んだのか？」 「必要なことはお話ししました。ですが、」 「そうか。儂はこれから、雪男と二人で話しておくことがある。人払いをしてくれんか」 「はい、仰せの通りに」 叔母が座敷から出ていくと、祖父は自分で羽織をかけ、僕の方に向きなおった。 「話とはなんですか」 当主に相対しているというのに、かける言葉が乱暴になってしまう。 「少し、落ち着け。意に添わない結婚はお前のような立場のものなら、皆一緒だ」 「わかっています」 確かにわかっているのだ、頭では。 「雪男、今から儂しか知らぬ秘密を後継者のお前に引き継ぐ。冷静になってよく聞け」 とてもではないが、すぐに頭を冷やすのは難しい。 「今、でなければいけないのですか」 「あまり、時間がない。もう儂は今日、明日の命だろう。自分のことはわかるものだ」 「…承知しました」 「重大な秘密だ。取り乱さず、黙って聞け」 「はい」 「奥村の家には忌み子がおる。双子で生まれたのだ。お前もよく知っている通り、双子は不吉の象徴だ。一方が人間ならば、片方は魔物だ。必ず魔物の子を殺して、人間の子を育てる。奥村の家に生まれた双子もそうだ。片方は人間の血を必要とする魔物だった。それだけならば、殺してしまうだけでよかった。しかし、もっと深い呪いが…魔物の子は、…青い炎を継いだサタンの落し胤、悪魔の子だったのだ」 「！！」 「儂は考えた。忌まわしい子だが、青い炎の力を一族が使えることができれば、これ以上に強い武器はないと。そして、悪魔と契約を交わし、その子を誰の目からも隠すよう、封じ込め幽閉したのだ」 子供、幽閉…考えることもなく、それは、まぎれもなく燐のことじゃないか！ 燐を閉じ込めていたのは、当主、そして契約した悪魔。それがおばけの正体なのか。 魔物。サタン。青い炎。悪魔の子。それらが燐を縛っているもの。 その影の大きさと暗さ、業の深さは想像をはるかに超えていた。 だから燐はあそこから出られなかったのか。いや、燐は知っていて、自分の意志であそこに留まっていたんだ。ひとりでそんなものを背負って、ただ一人静かにそこにいたんだ。僕さえも遠ざけるようにして。 僕は、きつく爪の食い込んだ拳に血が滲むのも構わず、冷静を装い微動だにせずにいた。 「青い炎の力は降魔剣・倶利伽羅に封印している。まだ悪魔としては覚醒していない。殺さずに生かしておいたものの、力の扱い方がわからないまま、持て余しているのだ。雪男、お前ならその忌み子の力をコントロールして、武器とすることができるだろう。お前に引き継ぐものとはそれだ。悪魔の契約は当主の魂が対価だ。お前も契約を交わし、忌み子を秘密裡に奥村一族の懐刀とするのだ」 そんなことはしない。 燐を引き継ぐというなら僕は、当主として燐をあの地下牢から解放することを選ぶ。 魔物の体質も青い炎も、すべて僕が受け入れる。 誰が武器なんかにするものか。静かに笑う優しい燐を。 「それがすべての秘密…ですか」 「…秘密は、それがすべて、ではない」 重苦しく返された祖父の言葉に身構える。 「雪男、お前は生まれつき悪魔を視ることができたな。瞳の色も人とは違っていた。それらはすべて祓魔師である奥村一族の血が濃いのだと教えてきた。だが、それは本当の事ではない」 何が言いたい。 「お前の瞳の色は深い碧色だ。その忌み子の瞳は透明な蒼色だ」 どういうことだ、それは。 「奥村の家の双子とは、お前とその忌み子のことだ」 双子。燐と僕が双子。 「お前は生まれるときに忌み子から魔性を受けた。だから悪魔が視えたのだ。碧の瞳は蒼の瞳と対で双子の証。忌み子が兄で、お前は弟だ」 燐。僕の半身。 だからこそあんなに求めたのだろうか、燐を、兄を。 いや、何者であったとしても、僕は燐を欲しただろう。 ただ燐と僕は、双子であり兄弟という絆で縛られているんだ。決して解くことのできない絆。 それを得て、僕は喜びに身震いした。同時に、その喜びはすなわち、背徳だということも心のどこかを知る。 「雪男、お前は奥村の当主としてだけではなく、忌み子の弟としても過酷な運命を背負っている。だが強く生きろ。一族を、お前自身を守れるように」 そう言い残して、祖父は再び眠りについた。そしてもう目を覚まさなかった。 [newpage] 「若センセ、この度はご愁傷様です」 「ああ、うん」 「魂抜けてはるな、喪主さんがこんなとこで」 朝から通夜の準備に追われ、参列者の焼香も途切れ途切れになってきた頃には、もう日を跨ごうかという時間になっていた。 「もう少し横になったら戻るよ」 「横て、縁側に直で寝転がっとるだけですやん」 「志摩君はもう宿に戻ったほうがいいよ。勝呂君や三輪君も帰っただろう」 僕がそう言うと、小さくため息をつき、足元に腰を下ろした。 「センセのこと心配でちょっと様子見に来ったのになぁ」 「心配？」 「そうや。昨日の舞踏会から変やで、若センセ。ずっと能面みたいな顔して、今も当主様が死んでも泣きもせん。なんかあったん？」 なんかあったよ、たくさん。燐がいたこと、祝言のこと、燐と僕の秘密、一気にそれらが脳裏に甦った。そうだ、半月後の祝言。その時はもう間近に差し迫っている。その前に―― 「志摩君、衆道の関係ってどう結ぶか知ってる？」 「ブフォッ！ちょ待って！ホンマどないしたん！？当主様の通夜に関係を結ぶとか！センセそっちの趣味なん！？」 おかしいよね、唐突にこんなこと聞くなんて。頭に靄がかかっているみたいにぼーっとしているせいだろう。 「知らないならいいんだ」 立ち上がって、通夜の席に戻ろうとすると、強く肩を掴まれた。 「待ちいうてるやろ。あんた、明らかにおかしいわ。当主様が亡くなったことは関係ない、なんか他にあったんやろ。藤堂のお嬢さんと結婚させられることか？」 「それ知って、」 「通夜の席で誰かが話しとった。あんたがそない嫌がっとるとは知らんかったけどな。他に好きな男がいるいうことやろ？奥村の次期当主や。本妻の他に間男の一人や二人、囲ったらええんや！何をそんなに、」 「随分、下世話なこと言うんだね、志摩君は」 そんなに簡単な話じゃないんだよ。君が知らないのも無理はないけれど。 「下世話でかまへんわ」 強引に床の間の壁に押し付けられ、喪服の袴に手をかけられる。 「衆道のやり方なら教えたる」 「いいよ。僕だって全然知らないわけじゃない。正喪服崩すのはやめてくれる」 「せやから、能面みたいな顔すないうてるやろ！それはあんたが独りでなんもかんも抱え込んどる時の顔や。俺はそんなあんたは見とうない、俺は…」 先程まで痛いほどの目つきで僕を見つめていたのに、うなだれるように顔をそむける。何故彼はこんなにムキになって怒ったのだろう。僕の姿はそんなに痛々しかったのだろうか。 「ええわ、俺がどうこうできることとちゃうしな。センセ、引き留めてごめんな。戻り」 彼なりに僕を慰めようとしてくれたのかもしれない。その同情には少し感謝して、通夜の席に戻った ろうそくの火が揺らめいているのを見ていると、ここが燐のいるところではないかという錯覚に襲われる。錯覚でなければいいのにと思った。通夜の晩は寝ずにろうそくに火を灯しつづける。明日の告別式が終わるまであとどれくらいあるだろう。僕は燐のところへ通じている道が開いていることを祈った。隣には、顔に白い布をかけられた祖父の遺骸が横たわっているというのに、まったく現実感がない。燐のことばかりをぼんやり考えてしまう。サタンの血を引き継いでしまった燐、人間の血が必要だという燐。それは誰のせいでもないのだ、もちろん燐のせいでも。運命を呪ったところで、どうにもならない。 あてどなくそんな思考をめぐらせているところに、突然、ぼわんと煙が立ったかと思うと、白とピンクの滑稽な洋装をした男が現れた。祖父と僕しかいない座敷で何事かと身構えたが、その顔は一目見ればわかる。燐を連れていた大男だ。祖父と契約していた悪魔。 「こんばんは、雪男君。私はメフィスト・フェレスと申します。はじめまして、とご挨拶すべきでしょうか？」 いきなり慇懃無礼で、人を食ったような態度だ。 「いえ、お顔は存じています。あなたは燐を外に連れ出した方ですね？」 「フゥ、堅苦しいですね。もっと気楽に」 なにが気楽に、だ。 「わかった。じゃあ聞く。おまえが燐を閉じ込めていた悪魔なんだろう？」 「そんなに怖い顔で睨まないでください。私の意志ではありませんよ。当主との契約だったのですから」 そうだ。確かに祖父はそういった。そして契約の対価は、 「祖父は死んだ。その魂を持って行ったのか？」 「ええ、頂きました。おじい様は生前、自分が死んだら、新しく雪男君と契約を続行するようにと仰っていましたよ。おじい様の魂も中々に魅力的でしたが、雪男君、あなたのはもっと良さそうだ。どうですか？おじい様と同じ契約をしませんか？」 「残念だが、僕は契約しない」 すると悪魔は、実に愉快だというように笑った。 「なにがおかしい！」 「契約はしない。そう言うと思っていましたよ。あなたが燐を地下牢などに縛りつけるはずがない。燐を解放したい、でも自分のものにもしたい、自分自身に縛りつけたい。そうではありませんか？」 誰にも知られたくなかった、自分でも気づきたくなかった欲望を看破された、と悟った。こいつはただの悪魔じゃない。しかし、これらは誘惑するための甘言。僕は燐を傷つけてまで、自分の欲望に溺れたくない。 「確かにそう望んだこともある。いや、今もそうだ。でも僕は、燐の意志に反して何かに縛ったりなんかしない」 「否定せずともいいんですよ。何も悪いことではありません。そう望んでしまったのですから」 「僕は人間だ。欲望に忠実なだけのお前たち悪魔とは違う！」 「おや？燐も悪魔ですよ？」 しまった。つけ入る隙を与えてしまった。 「悪魔の力は覚醒していない。燐は人間だ」 「そうですか。でも悪魔ではないとしても魔物です。人の血を飲まないと死んでしまう」 「それなら、僕の血でいいだろう」 僕の血が燐の命を繋ぐ。いっそ僕の血だけで生きていけばいい。甘美で薄暗い思いが胸に渦巻く。 「フフ、やめておいた方がいい。無事ではすみません」 無事ではすまない？ 「それなら今まで燐は誰の血を」 「罪人の血です。明日死罪になるともしれない者たちの。それならば誰も不可解に思うことはない」 「なんてことを！燐に罪人の…」 そんなこと、僕には絶対できない。 「燐はそうやって生きてきたのですよ。そんな燐をあなたは契約なしにこれからどうしようというのですか」 「青い炎も血のことも、すべて僕が引き受ける。契約なんていらない。奥村の当主になれば、燐を自由に生かす為にいくらだって手を汚せる」 悪魔は、傑作だと、腹を抱えて笑い出した。 「いいですね！素晴らしい決断ですよ、雪男君。あなたが私の言葉に惑わされて契約してしまったのではつまらない。人間にとって、恋というものは大きな力を持つようですねえ？私には理解できない感覚ですが、だからこそ面白い」 面白いだと？ 「この悪魔が！」 罵る僕を意に介さないとでもいうように、悪魔は細い鎖が付いた金色の小さな鍵を差し出した。 「この鍵で蔵の扉を開けてごらんなさい。必ず燐のところにつながっているはずです」 「これは、ただの鍵ではない…？」 「そう。神隠しの鍵です。そこらにある空間を繋ぐ鍵とはわけが違います。いかなるものも隠す。今までは雪男君から燐を隠していました。許してくださいね☆」 この鍵をこれまでこんな悪魔が持っていたことがいまいましい。 「さあ、燐は自由です。ですが燐とは逆に、あなたが自由でいられる時間は短い。藤堂のお嬢さんとの祝言が近いんでしたっけ。ああ、それと士官学校にも入ってしまわれる。向こう数年は燐に会うことはできないでしょうね」 何が言いたいのか、結論をあいまいにする言い回し。この悪魔は、また僕を誘惑しにかかっているのか。 「なんなんだ、はっきり言え」 「あなたがいない間、燐はどうなるんでしょう？誰も守ってくれるものはない」 「おまえと契約して燐を守れと？」 「そうは言っていません。あなたは私と契約せずに、燐のすべてを受け入れると仰った。それとも、到底できそうにありませんか？」 「そんなわけないだろう！」 ああ、僕は今何を考えてる。昨日からずっと、心を大きく揺さぶられてばかりだ。僕は正常な思考を保てているだろうか。自信がない。無謀なことだろう、未来のないことだろう。でも、でもそうしなければ、燐は生きていけない。死んでしまう―― 「双子同士はいろいろ特別です。お気をつけなさい」 僕の考えていることを見透かしてか、悪魔はそう言い捨てて、消えた。 [newpage] 火葬場から立ち昇る煙を見ながら、これからのことについて考えていた。 大それたことだ。叔母は僕を許さないだろう。それでも、衝動に憑りつかれたように、自分でも止めることができない。 「叔母様、あとの挨拶はよろしいですか？僕は先に戻って、遺品の整理を始めます」 一通り葬儀も終わったところで、叔母にそう提案する。一種の賭けだ。 「喪主であるあなたが最後までご挨拶するものですよ」 「申し訳ありません。ですが代理とはいえ次に当主の実務を行うのは叔母様です。挨拶される時に皆様にそう発表されるのがよろしいかと。出過ぎた真似でしたら、お許しください」 「わかりました。明日の当主代替わりの発表の時に、代理についてお伝えするつもりでしたが、いいでしょう」 「では、お先に失礼します」 掛けは成功だ。待たせていた車に本家へ急ぐように告げ、ひとまずシートに身を沈めた。先ほどの緊張を引きずり、心臓が速く脈打っている。本家に着くと、真っ先に祖父の書斎に向かった。小切手、宝石、権利書、印鑑、小さく懐に入るものだけ物色していく。あとは手の中にある金色の鍵。それだけを持って、はやる気持ちも抑えずに離れへ急ぐ。 「燐！」 二日ぶりに訪れたその場所には、もうろうそくの明かりは灯っていなかった。あの悪魔の庇護から離れたということだろう。でも、いつから燐はそんな暗闇の中に放り出されていたのか。 「ゆ、きお…」 暗がりの中から、燐の細い声がした。 通気口から射すわずかな外の光があるだけで、中の暗さに目が慣れるまで時間がかかる。 燐は仰向けに横たわっていた。 「俺、殺されるかも」 怯えた弱々しい声音から、様子がおかしいとすぐにわかる。 「誰がそんなこと言ったの？誰もそんなことしない。僕がさせないよ」 「当主様が死んだんだ。メフィストとの契約はもうない。用済みなんだよ、俺」 「用済みなんかじゃない！僕は燐が必要だ、燐を求めてるんだ」 燐がどこかに行ってしまう、そんな気がして僕は必死に訴える。 「雪男は…俺のこと、なんにも知らないだろ。俺には、雪男に求められる価値…なんて、ない」 燐の声が震えている。 「知ってるよ、燐こと。青い炎のこと、人の血が必要なこと、サタンのこと。全部知ってる。でも、燐は燐だ。他の誰でもない、僕にとって必要な人なんだ」 燐を安心させたくて、僕の心を伝えたくて、ゆっくりと諭すように話す。 「ゆき、お…っく…う…おれを…きらいに、なんない…？」 泣いている燐を抱きしめたい。格子に手をかけると、木枠の一本がカランと簡単に外れた。もう魔力がなくなっているのだ。続けて数本が音を立てて外れる。僕は格子を超えて燐に近づいた。 「泣かないで。嫌いになんてならない。僕が守るから、燐のすべてを受け入れるから」 床の上に被さるようにして、初めて燐を抱きしめる。少し冷たい体は、思ったよりもずっと華奢で壊れてしまいそうで、こめていた力を弱めた。背中にゆるりと燐の腕がまわされる。 そうして僕たちは冷えた床の上でしばらく抱き締めあっていた。 「逃げよう」 「え」 それは、ずっと考えていたことでもあり、口をついて出た言葉でもあった。 「ここを出て、外の世界に逃げるんだ。奥村家が世界のすべてじゃない」 「そんなこと、できんのか」 「どうだろう。どこまでいけるかわからないし、心中みたいなものかもしれない」 抑揚のない口調で、退廃的なことを口にする。 「でも、もう燐と離れたくないんだ」 そう言って、もう一度、燐の体を掻き抱いた。 それから、僕たちは降魔剣だけを片手に本家を出て、無人の下宿に寄った。燐は喪服のような黒い着物を濃紺の絣小袖にして、少しの着替えを、僕は祓魔師のコートと銃を持ち出した。金色の鍵は、もう決して誰にも燐の自由を奪わせないために、燐に身に着けるよう渡した。こそこそと、よくある駆け落ちをしているはずなのに、どこかちょっとした旅に出るような感じがして、現実のすべてから逃げているという悲壮感はまるでなかった。 燐がどんな気持ちで、僕と一緒に来てくれたかはわからない。外に出るのはおそらく二度目で、慣れない環境は怖かったはずだ。駅で、街の往来で、喫茶店の中で、繋いでいた僕の手を何度も強く握り返してきた。けれども、燐に外の世界を見せてあげることができてよかったと思っている。店に並ぶこまごまとした品物、日なたに寝転がっている犬や猫、路面電車や車、様々な格好をした街行く人、それらすべてを瞳に捕え、驚いたり笑ったり、燐は様々な表情を見せた。きっと本の中だけでは燐の世界は収まらなかったのだろう。日光の下、燐の姿は眩しかった。ろうそくの光しか知らなかった燐。その中で見せてくれた眩しい笑顔と同じだった。燐から春の陽射しの匂いがしたのは、燐自身が陽の光そのものだったからかもしれない。そんな甘ったるい想像に浸ってしまう。 それでも、僕たちに幸せな旅の終わりが来ることはない。燐もそれをわかっているだろう。 「燐、起きて。もうすぐ終点に着く」 「ん…」 燐は僕の肩に頭をもたせ掛けて微睡んでいた。東京を出て五日目、燐は眠そうにしていることが多くなったように思う。 「ゆきお…」 「目が覚めた？」 「ここ…」 「昔、避暑に来たことがあるんだ。海が近くて、別荘がたくさんある」 列車が最終停車駅に停まった。降りると、潮の濃い匂いが立ち込めている。きっと満潮の時刻なのだ。 「雪男、俺、海って見たことない。今からでも行ける？」 「もう夕方だから、宿を取って、明日の朝になったら行こう。朝日が昇る海って、すごく綺麗で僕は大好きだな」 「朝日に光る海、か。雪男が好きなら見てみたい」 夕陽に照らされ、どこか遠くを見つめる燐は、消えてしまいそうに儚くてきれいで、何もかも奪い去ってしまいたくなる。僕は一呼吸して、身体の中心に湧き上がった欲望を鎮めた。 宿は空いていた海辺の近くに取った。夜の浜辺から潮騒が絶えず聞こえてくる。ずっと繰り返し聞いていると、ざわざわと胸の不安を煽ってくるようだった。 「燐、眠った？」 小さく呼びかける。夜、休んでから言葉をかけるのは初めてだ。この数日間の燐と二人きりの夜は、自分の中に芽生えた熱に気付きたくなくて、こんこんと眠るようにした。無理やりな眠りはやはり浅く、燐との艶めかしい夢に毎夜苛まれた。燐が深く眠れていたかどうかはわからない。 消灯してからどれくらい時間が経っただろう。 「ねぇ、燐」 もう一度呼びかけてみる。返事はない。隣で背を向けている燐の髪をサラと梳く、反応はなかった。明るいうちからうとうとしていたから眠っているのかもしれない。僕は燐の布団の中に滑り込むと、うしろからゆっくり力を込めて抱きしめた。燐に触れるとドクドクと鼓動が早く大きく脈打つ。床の上で抱き合ったことを思い出した。でも、あの時とは違い、燐の体は暖かい。白い首筋に顔を埋めて、そっと口づけると、首に巻きついた細い鎖がしゃら、と音を立てた。ほのかなせっけんの香りに混じって燐の匂いがする。それはまぎれもなく僕の腕の中にいることの証明。 ああ、燐。離したくない。永遠に僕のものにしてしまいたい。 このいびつな逃避行の果てに永遠なんてないのに、そうなればいいと思った。 「雪男」 「起きてたの」 離れようと身じろぐと、それをとめるように、腰に回されている僕の腕をつかんだ。 「燐…」 「あったかいな。雪男に抱きしめてもらうの、俺はすごい好き。ずっとこのままでいられたらいいって思うよ…でもきっとそれはできない」 最初に均衡を破ったのは燐の方だった。いままで見て見ぬふりをして触れてこなかった現実が僕の薄い心の防御壁を破る。これまで耐えていたものが流れ出した。 「不安なんだ、僕が側にいないと、何処か知らないところへ行ってしまいそうで、消えてしまいそうで」 死んでしまいそうで―― 「俺だって、どこにも…行きたくない…っ」 燐は肩を震わせ、涙をこらえている。一体、その体の中にどれほどの感情を秘めているのだろう。すべて曝け出したい。そして、そのすべてを、燐の心を縛り付けてしまいたい。どこにも行かせはしない。そして、あの悪魔に言ったのと正反対のことをしようとしていた。燐と僕が離れないように。 「燐、僕たちは誰にも断ち切れない絆で結ばれてるんだ」 「…本当に？」 急にそんなことを言われて、戯言だとでも思っただろうか。 「本当だよ、燐の蒼い眼と僕の碧の眼、まるで対になっているみたいでしょ」 「俺の眼と、雪男の碧の、眼…」 燐は体を捩じらせて向き合い、僕の眼を見つめた。燐の瞳に僕が映る。同じように僕の瞳にも燐が映っている。二人ぼっちの世界。 「そう。僕たちは双子なんだ」 「雪男と俺が、双子…？」 「そう、一緒にこの世に生まれてきた双子なんだよ。この断ち切れない絆がある限り、僕は燐を絶対に離さない、絶対に」 ああ、絶対なんて約束できない。そんな言葉、軽々しく使うものじゃない。でも、それは祈りなんだ。無力で何もできない、ただ願うだけの祈りなんだ。 「祖父は死ぬ前、僕に燐の秘密すべてを残していったんだ。僕たちの色の違う瞳は、双子の証だって」 燐の瞳の中の水滴がみるみる大きくなり、零れて、落ちた。僕の胸に縋り付いて、堰を切ったように嗚咽を漏らす。 「ゆきおと、おれは、つながってた…んだ、…ゆきお…ごめ…うれしい…っこんなこと、思…ちゃいけない、っけど、」 双子が互いに熱情をもって存在を欲しあうということ。燐が嬉しいと言ったその瞬間、その背徳も罪も流れて行った。 「燐、顔見せて」 ゆっくりと顔を上げて僕を見つめる燐の顎を掬うと、やんわり口づける。 「ゆ、きお…」 「そのまま、少し口を開いて」 最初は浅く、徐々に深く、燐を貪っていく。 口づけたまま、お互いの指を絡ませて仰向けに組み敷いた。 「んくっ、…っはあ、はあ」 燐の呼吸が限界に来たところで唇を解放する。僕自身の息も相当に上がっていた。潤んだ瞳に上気した肌が扇情的で、迸る欲情はとても抑えきれない。 「は、…どうしよう、ひどくしちゃうかも」 耳元で囁く。 「ん、ひどく、…して、きえないくらい、ゆきおのあと、つけて」 その言葉にすべてが飲み込まれていった。 うっすら目を開けると、ちょうど空が白み始めたところだった。 すぐ横には、燐が力なく眠っていた。体のあちこちについた赤い痣と血の付いた寝巻の浴衣が、嵐のような破瓜の痕跡を示している。少し動くと背中がピリッと痛んだ。これは燐が僕に残した跡だ。 「ん、…ゆき、お」 眉を少し顰めて、燐が目を覚ます。 「朝に、なったのか。…っつ！」 上半身を起こそうとして、痛みに顔を歪めた。 「まだ、起き上がらない方がいいよ」 やっぱり、ひどくしすぎてしまった。 「痛い、…よね」 「うん、痛い。体の中に雪男の跡が残ってる。…なあ、海、行きたい」 燐がぽつりと呟く。 「無理だよ。起き上がるのも辛そうなのに、歩けるの？」 「雪男が好きな海、見てみたいんだ」 早朝の浜辺には誰もいなかった。燐の手を引いて、ゆっくりゆっくり歩いて行く。もう片方の手で引き摺っている降魔剣が重そうだったので、僕が代わりに持った。冷たい砂浜の上に静かに腰を下ろす。 「もうすぐ陽が昇る。その時の空と水平線の境が綺麗で、子供の頃よく見てたよ。…燐！？」 急に燐の力が抜けたかと思うと、重心を崩して僕の方に体ごともたれかかってきた。あわてて肩を支える。 「なんか、すげーねむい。どうしたんだ、俺」 燐の体が冷たい。昨夜の無理が祟ったのかもしれない。いや、もしかして―― 「燐、血が足りないの？」 東京を出てから一度も口にしていない。僕が一緒だから我慢していたのだろうか。そもそも、どれくらい必要なのか、いつ必要なのか、僕には全くわからない。もっと早く聞き出しておくべきだったんだ。とにかく、このままでは―― 「燐、僕の血を分けるよ。どのくらいあればいい？」 無事ではすみませんよ、といった悪魔を思い出す。しかし、躊躇は感じなかった。 「血は、ほんの、少しだけで大丈夫だ。指先の、少しだけ」 ガリ、と親指の腹を噛みちぎり、少し強引に燐の口の中に押しやる。はじめはわずかに舐めただけだったが、やはり乾いていたのだろう、ジュと強く吸われた。こんなものでいいなら、いくらでもくれてやる。 「…う、ぐっ…」 突然、燐が苦しげに呻いた。 「燐、どうしたの！？」 「体、すごく熱い…」 自分を抑え込むように、自らの肩を抱いてうずくまっている。そして、荒い呼吸のまま、僕から一歩二歩と距離を取った。 「ぐあっ…」 「燐！」 「近づくな！」 燐のまわりに、ふわ、と青い靄がまとわりついたように見えた。あれはまさか！！ 「青い炎…！！」 何故だ！？降魔剣は抜いていない、悪魔の力が覚醒するはずなんてない。じゃあ何故！？ ―双子同士はいろいろ特別です―　―無事ではすみません―　あの悪魔の言葉。 僕の血、なのか？それが燐を覚醒させてしまった！？ 「燐！」 駆け寄って、抱き締める。 「やめろ。離れろ。この力は簡単に制御できない。雪男を殺すかもしれないんだ。はな、れろっ！」 突っぱねられ、僕の体が砂浜に転がった。人間とは思えない力。これがサタンの炎を引き継いだ燐なのか。 「は、これで俺も本物の化け物だな」 「僕の所為だ…！！」 今更悔やんでも、どうにもならない。絶望と後悔が支配する。 「雪男の所為じゃない。いつかこうなる運命だったんだ」 諦めたように、笑いながら言うと、降魔剣を手に取り、宿とは反対の方向に歩き始めた。 「燐！どこ行くんだよ！？」 燐は歩みを止めない。 「いやだ…」 背を追って、駆け出す。 「来るな！！」 強い燐の言葉に足が止まる。燐も立ち止まっていた。 「雪男、ごめんな。俺、一緒にいてやれないよ」 「何言ってるんだ、僕がその力だってなんだって受け入れるって言ってるじゃないか！」 「そんなこと、させられるわけないだろ。一族はどうなる。雪男に一族を捨てさせるなんて、やっぱりそんな無責任なことさせるわけにいかないんだ」 「それは、」 「雪男、聞いて。地下牢にいた頃、雪男に出会って俺の世界は変わった。陽の光を浴びたことのなかった俺には、雪男が太陽そのものだったよ。俺なんかには過ぎた存在だってこともわかってたんだ。でも、好きだった。好きだから会いたくて会いたくてしょうがなかった。メフィストは契約を守れなくなるからって、雪男と会わせないようにした。俺は消えてしまおうと思ったよ、雪男に会えないなら。俺が死んだら困るからメフィストは賭けを持ち出した。それに勝てば雪男に会えるって言われて。俺は、雪男の運命を狂わせてしまうって知ってた。知ってて賭けをした。雪男が好きだって言ってくれて、一度はもうこれで十分だ、諦めよう、そう思ったんだ。でも、また、賭けにのった。唆されたとか、そんな言い訳なんかしない。俺はやっぱり心のどこかで、雪男の運命を狂わせても、一緒にいたい、そう望んでた。逃げようって言って、連れ出してくれて、俺は許されない罪だってわかってたよ。でもやっぱり、俺はこれ以上の幸せはないって思ったんだ。好きな雪男と二人きり、どこまでも一緒に行けたらって。出会った時に、聖書の物語を思い出したんだ。何も知らなかった人間は禁断の果実を食べた。雪男は俺にとってその果実かもしれないって。それを食べた人間には罰が下る。いつか俺にも。きっとそれが今なんだろうな。雪男にすべてを捨てさせることなんてできない。雪男は奥村家の当主になるんだ。だから、今度こそ、本当にさよならだ」 燐のまわりの空気が凪いでいた。燐は本気だ。僕がいくら縋り付こうと、行ってしまうに違いない。 「燐、君が行ってしまったら、僕には何も残らない。嘘でもいい。約束とは言わない。でも、希望が、欲しい…」 砂の上に、乞うように膝をついた。燐は首に手をかけて鎖を外す。 「雪男が当主でなくなって、ただの雪男になったら、俺たちはただの双子に戻れる。そんな気がする」 燐が僕の方に近寄り、目線を合わせるようにしゃがむ。そして、金色の鍵を差し出した。 「これを雪男が持っている限り、俺は消えたりなんかしないよ」 鍵を僕に握らせると、燐は立ち上がって、背を向ける。 「雪男、愛してたよ。これからもずっと愛してる」 瞳からいくつも涙が筋になって流れ落ちた。燐も同じように泣いていただろう。 [newpage] 「お父様、眠っていらっしゃるの？」 空気を入れ替えようと寝室に入ると、父はベッドで上半身だけ起こしていたから、眠っているとは気付かなかった。先ほどまで読んでいただろう、小さな文庫本が手から離れて、閉じてしまっている。読書をしたまま、寝入ってしまったのか。 窓を開けて、春の暖かい空気を導き入れると、ベッドの傍らの椅子を本棚の近くに持っていき、踏み台の代わりにして本を物色する。父の寝室は大きな書斎のようだ。子供の頃はよく本棚の間に隠れてあそんだ。そこは今でもお気に入りの場所で、いつも私は決まってそこで本を読む。今日も同じ場所に隠れるように座った。 私はこの物静かな父が大好きだ。若い頃には、日清・日露の戦争で大きな功績をあげ、帝国軍の要職をいくつも歴任した。祓魔師の称号を成人しないうちにすべて取得し、末は聖騎士かと言われたものだったが、軍人の身分を兼ねていた父には、出来ないことだった。けれど、そんな姿からは想像できないほど、家では穏やかで優しい父だった。時折、真夜中の帰宅時に血と硝煙の匂いをさせていた記憶だけが、父の過激な仕事を垣間見せた。 今は、軍人も祓魔師も引退し、当主の座は兄に譲っている。兄は父に次ぐ若当主の誕生だと言われたものだ。父は、これまでの激務が祟ってか、年早く病を得てしまった。時には何日も帰ってくることなく苛烈な任務をこなしていたが、今思えば、奥村の地位を確立し、早々に兄に当主の座を明け渡してしまいたかったからなのかもしれない。激しさと穏やかさ、相反する面を持つ父は、娘の私から見ても魅力的だった。母は随分苦労しただろうと、聞いてみたことがある。そうしたら母は幸せそうに笑って言った。全然苦労なんかしていないと。結婚前に一度言われたことがあったそうだ。僕には結ばれない想い人がいる、だから貴女のことはその人の次にしか愛せないだろう、でも必ず幸せにするからと。お父様はそれはそれは素敵な方だったから少しはショックだったけれど、もともと親に決められた結婚、幸せにすると仰ってくれただけで、私は幸せですよ、と懐かしい目をしながら笑っていた。そんな母も去年の冬に亡くなった。 きっと父は激しい恋に破れたのだ。まだ１５歳で母と祝言をあげた。父は想い人と引き離され、それでも、私たち家族を大事に慈しんでくれる。それが誇らしかった。祝言の時に撮った写真の中の若い父は、何を思っていただろう。近頃は、病が進み、時々眠ってしまう以外は、窓の外を眺めていることが多くなった。まるで誰かを待っているように。 ギイと音が鳴り、意識が戻った。いつの間にうたた寝していたのだろう。 窓の方に誰かの気配を感じる。確かめようとしたが、体が眠ったまま動かない。 「雪男」 父の名を呼ぶのは少年の声だ。 「ん、…」 父が目を覚ました。いけない、お父様。あぶない、逃げてください。 そう叫ぼうと思ったのに、声が出ない。 「雪男、随分痩せたな」 しかし、呼びかけるその声は、優しげで愛しさに溢れていて、胸を締め付けられる。この人は危険は人ではない、直感的にそう思った。そして、その声の主は、父を昔から知っているに違いなかった。 「燐、あの時から変わらないね。来て、くれると信じてたよ」 切なさを含んだその声は、私の知っている父ではなかった。この“燐”と父はいったいどういう関係なのだろう。 「僕の人生は燐がいない時間の方が長かった。でも、命が尽きる前に必ず燐が迎えに来てくれる、そう思ってた」 迎えに来てくれる？“燐”は父をどこかに連れ去ってしまうのか。 「雪男は当主をやめて、ただの雪男になった。だから俺たちはただの双子になれる」 「そんな時をずっと待ってたよ、燐。僕に燐の血をくれないか。燐と同じになりたいんだ」 だめだ。“燐”、お父様を連れて行かないで。お父様、“燐”と同じにならないで！ 「いいのか、そしたらもう後戻りできない」 「悪魔の血を飲めば、僕も燐と同じ、一緒に長い時を生きられる。僕はずっとそうなりたいと願ってた」 「雪男…」 ギシ、とベッドが軋んだ。何をしているの、やめて、お願い。 渾身の力を振り絞って、窓の方へ手を伸ばす。でも、手遅れだとすぐに分かった。 本の隙間から目に入った父の姿は、祝言の写真の時と同じ、少年の姿をしていた。隣には“燐”。蒼い瞳が美しい。 お父様の碧の瞳と、“燐”の蒼い瞳。交差する眼差し。それを見て、きっと二人は双子以上に強く結びつきあっていると、わかってしまった。 ああ、そうだ。結ばれなかった想い人が父を迎えに来たのだ。 父はゆっくり、意識を失うように“燐”の腕の中に倒れこんでいった。それを“燐”が抱き上げる。 「おと、…さま」 かろうじて声を出すことが出来た。“燐”がこちらを見る。その瞳に射抜かれそうだ。 「ごめん。きっと雪男のこと大好きなんだよな」 「つれ、て、…くの」 「うん…ごめん。でも、雪男を俺にちょうだい」 それは形容しがたいほど純粋な懇願だった。“燐”はどれほどのこの時を待ったことだろう。私たち家族が父と一緒にいる間、“燐”はどうしていたのだろう。父が連れて行かれてしまうというのに、“燐”が耐えてきた孤独を思うと、心に鋭い痛みが走った。もう、いいのかもしれない。お父様を“燐”に返そう。 「りん、おとうさま、だいじ、…にして」 「…ありがとう」 燐は父を抱いたまま、窓の外に、ふわ、と消えた。最後に見た父の顔は幸せそうに微笑んでいた。 二人が去った後、陽だまりだけが残っていた。

名家に生まれた双子。雪男は跡取りとして育てられ、燐は幽閉されているというパラレル。全裸で前作の続き書きました。前作→<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=634977">novel/634977</a></strong>うっかり微妙な志摩雪が入りました。■誤字修正しました。燐視点も書きたかったのですが、力尽きました。■ブクマ評価本当にありがとうございます。

時は明治、そして

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=650021#1

『重大な疾病が発見された場合、告知を希望されますか？』 　熱っぽい感じが二か月ほど続いた末に、一人でふらふらとやってきた病院の待合室で記入をお願いしますと若い看護士に渡されたそれの最後の項目は、こんな文言だったと思う。 　一緒に渡されたボールペンで、『今まで重大な病気をしたことがあるか』『服薬中の薬はあるか』等の項目すべてに『いいえ』に軽快にペンを滑らせ、たどり着いたペンの先はそんな質問で一瞬止まった。 　確かに最近は体調が悪いが、自分でなければ死んでいただろうな、くらいの怪我は今までいくらでもあったし、悲しいくらい松野カラ松は頑健だった。自分には全く関係のない話だと思ったって、しょうがないじゃないか。 　悩んだのは数瞬で、カラ松はペンをくるりと円に動かして、終わりましたと通りかかった先ほどの看護師に問診票を返す。 　だってまさか、気軽に『はい』を雑な丸で囲んでしまったことがこんなことになるなんて、思ってもみないだろう。 「末期の癌です」 「……は、」 　え？ 　進行具合を表すステージが何とかだとか、聞いた傍から理解する前にするりと耳から抜けていってしまう。ただ耳の奥でキインとした耳鳴りがやまない。 　圧倒的に想像力不足だったことを痛感した。死ぬ？俺が？何かの間違いだ。そんな言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。 　ファミレスで夢を声高に語る学生くらい現実を見ていなかった。ここはそういう場所だ。人生の岐路にもなり得る、片手の指では足りない人がそうなってきた、たった今自分もそうなった。 　茫然としたカラ松の様子に医者は、今まで一ミリも崩さなかった表情を痛ましそうに歪めさせる。若く余命を宣告される患者は生と死が飽和する医療現場でもそこそこいるだろうが、カラ松はまさにこの医者に大けがをした際診療されたばかりだった。 「……お気の毒ですが。」 　それが、医者が宣告した寿命の丁度半分、三ヶ月前の話だ。 ▼ 　三ヶ月経った今も、カラ松は普段通りの日常を送っていた。 　たまに遣り切れなくなって、弟に挟まれた温かい布団の中や、ぬるま湯のような生活の中で噎び泣きたくなる衝動に駆られるけれど、それもぐっと我慢して息をする。概ね元気であった。 　朝はギリギリ午前と言える時間帯に起きて朝食を摂るし、昼間はまだ見ぬカラ松girlを探しに行く、夜は兄弟全員で銭湯に行って、家に帰れば、今日もおそ松が好きだったなあと思って眠りにつく。 　そう余命を宣告されて困ったことと言えば、これだった。 　あと半年しか松野カラ松はこの世に存在しない。そう考えた時、何故かおそ松の顔が、声が強烈に脳裏によみがえったのだ。 　愚問であった。カラ松はおそ松が好きだった。 　ずっと気付かない振りをしてきただけだった。 　自分の死と顔を突き合わせることになって、厳重に蓋をして殺した醜い想いが、このまま死ぬのは嫌だと息を吹き返して這いずり出てきてしまった。 　毎日毎日起きるたびにそれを殺して、でも夜にはカラ松の中で確かに息衝くとんでもなくしつこいその感情に、次第に疲弊してきたカラ松が諦めて口を滑らせたのは仕方のないことと言えるだろう。 「おそ松、俺、もうすぐ死ぬんだ」 「……へ？」 　二人きりの六つ子部屋で、世間話の延長線上にその話題をだしてしまうくらいに、どうしようもなくなっていたのだ。 　寝そべって働きたくないなあ、なんて戯言を抜かしていたおそ松は、カラ松の言葉を何一つ呑みこめていないぽかんとした顔で固まっていた。 「あー…………、ん、え？いつ？」 　間の抜けたおそ松の声がカラ松の耳を通り抜けて、ようやく発したそう発したおそ松に、カラ松はようやくそこで後悔した。言うんじゃなかった。 　ほらなカラ松、お前の兄貴はこんなもんだ。二十年前から知っていただろう。 　泣き喚いてしまえればよかったのに、おそ松の糞野郎、そう罵ってやれば、未練も少しはなくなってくれたかもしれないのに。 　できるわけないよなあ。その場から息もできず、一歩も動けなくなるくらい、カラ松はおそ松がどうしようもなく好きだった。 　おそ松が何事か話しかけてくる様子が伝わってきたが、返事をする気も起きやしない。 　反応のないカラ松に、諦めたのかおそ松が何処かへ立ち去って行った事に安堵したカラ松はほっと溜息をついた。 ▼ 　もうこのまま死んでしまっても、誰も悲しまないんじゃないか。 　辺り一面まばゆい橙に包まれた河川敷で、カラ松は考えた。 　わりと仲がいいと思っていた長男でさえこれだ。下の弟達からはどう好意的に見ても『カラ松兄さん超好き！マジオザキ！』って感じではないし。一松なんかは喜びそうじゃないか？さすがに目の前で喜ばれたら天命を待たずして死ぬかもしれない。自殺とかじゃなくショック死で。 　そんなことをきらきらとした水面を見つめていたら、遠くから自分の名前が呼ばれているのが微かに耳朶を打った。 「あー！いたいた！カラ松！！」 　これ以上落ちようがないと思っていた気持ちが、どん底の下まで引きずり落とされる。 　お前かおそ松。よくその面を俺の前に出せたな。 　もうすぐ死ぬという兄弟に、もし嘘だとしてもこんな事を言う精神状態の弟にいつ死ぬの？なんてフランクに聞き返してくる無神経さだ。デリカシーがないというか、人間に、特に日本人に備わっているはずの情緒という情緒が死んでいる。 　自分でもわかるくらい死んだ目でおそ松を見つめるカラ松に、おそ松は気付いているのかいないのか「おっまえどこ行ってたの？！超探したんだけど！」なんてぷりぷりするおそ松の事をまだかわいいなんて思う自分も死ねと思う。いやまあ死ぬけど。 「まあいいや、ほら、！」 　不機嫌そうな顔から一転、にこにこした顔で褒めてと言わんばかりに差し出された大きめの重たそうな袋に、カラ松は全く心当たりがない。 　大型ホームセンターのロゴが歪んでいるそれを受け取ると、かなりの重量に驚く。 　なんだかこの頃めっきり体力の無くなってしまったカラ松にはその荷物はかなり堪えたが、おそ松が軽々と渡してきたのも癪に障るので我慢して抱え上げてみせた。 「なんだこれ」 「ん？練炭」 　カラ松の至極当然の疑問に、何でもないことのように平然と言ってのけるおそ松。 「れ、」 　練炭？ 「……おそ松、さっきのは別に自殺したいって意味じゃなかったんだ」 　親切にカラ松の自殺を幇助しにきてくれたのだろうか。涙が出そうというかもうそろそろ声を上げて泣いてもいいんじゃなかろうか。 　持っているのがやっとなこれを振りかぶってぶん投げられる力が今もあったなら、間違いなくおそ松の頭に投擲してやるのに。 「いや知ってるて。お前の診断書と処方箋みたから、ていうか持ってきたけど」 　明確な殺意を覚える物騒なカラ松を知ってか知らずか、のんきな声で答えてみせたおそ松にうわあ、と思う。 　松野家で唯一にして究極のプライベートである個人に割り当てられたボックスに投げ込んだはずの物を目の前に掲げられて、カラ松は眩暈がした。躊躇しなかったんだろうなあ、良心の呵責はないのだろうかこの男。 「俺痛いの絶対嫌なんだよね。」 　知ってるだろー？と、カラ松に笑いかけて、この世で一番頼りになる先生に聞いた結果これが一番楽にいけるらしい。なんて誇らしげに言うおそ松。Gで始まる先生だろうなあなんて考えながら、カラ松は、ん？と思わず首を傾げる。 　カラ松の理解を超えた文章の接続の仕方であった。空気や文脈、流れという流れを読み取るのが苦手な弟、カラ松を理解しているくせに、もう少し難易度を下げて会話をしてほしいと思う。 　俺は、おそ松の事をよく理解しているチョロ松や、考え方が似ていておそ松との会話をテンポよくこなせるトド松じゃないんだから。 「なんで痛いんだ？」 　特におそ松を痛がらせるようなことはまだ言っていないはずだが。と続けるカラ松に、おそ松は信じられないようなものを見るような表情を作った。 「はあ？痛いだろ、首つりとか飛び降りとか？もー想像しただけでムリ」 　鳥肌たったーなんて腕をさすって騒ぐおそ松に、カラ松は心底驚いた。 　首つりに飛び降り、脳みそに夢しか詰まってなさそうなおそ松には縁もゆかりもなさそうな物騒なワードだ。いやそんなことより、 「自殺する予定があるのかおそ松」 　その衝撃から呟くように聞き返すカラ松に、おそ松は「あー、」と間延びした声を上げた。 「無かったけどできた。俺、お前と死ぬから」 　は？ 　あまりの衝撃にぽかんと口を開けるカラ松に、しゃーねえよなあなんて言いつつ、きっぱりと言い切ったおそ松はなおも続ける。 「死ぬからには楽に逝きたいじゃん？最期まで痛いとか苦しいとかお兄ちゃんダメなわけよ」 　何を、何を言っているんだこいつは。全く理解できない。いや、この兄を完全に理解できたことなんてなかったかもしれないが、今この一瞬だけでもいいからカラ松は松野おそ松という人間をわかりたかった。 　俺と死ぬ？意味が分からない。何がしたい？何のメリットが？そこまで考えて、もうすでにトラウマになってしまった昼間のおそ松とのやり取りがフラッシュバックしてきたカラ松は頭痛がするのをなんとか耐え、やり過ごすようにこめかみを抑える。 「興味なかったんじゃないのか」 「あー……、違うって。そう思っただろうなってさっき気が付いたけど。もうさ、聞いた瞬間思っちゃったんだよ、え、じゃあ俺も死ななきゃじゃん、って。物の処分しなきゃなーとかそういうの考えちゃってさあ、」 　だからいつ死ぬか知りたかったのに。人間国宝級の俺にも見られちゃ恥ずかしい処分しなきゃならない歴史の十や二十あるわけよ。と自慢にもならないことを言うおそ松に、カラ松は震える。口を間抜けに開けたまま、何度か言うのを躊躇ってはくはくと閉開する唇に力を込める。駄目だ聞くな。聞くな、聞くな、聞いてもいい事ない。絶対に、無い。 　無いのに、。 　ぐっと力を入れて目をつぶる。一呼吸おいて、聞きたくて聞きたくなくて聞いたってどうしようもない事をそれでも抗えずに。やめろと煩い頭の中の警報を無理矢理押さえつけて、口を開く。喉を絞って、声帯をこじ開ける。 「それはつまり、両想いだったのか。俺達」 「え？カラ松俺の事好きだったの？」 　えー、じゃあ両思いだ、もったいねえことしたなあ。なんてちっとも悔しそうではないおそ松にもう、カラ松は今度こそ本当に目の前の男を死ぬまで殴ってやりたい気分だった。 　こいつ、こいつは、本当にもうどこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ。 　ギリッと手のひらに爪が食い込み、血が滲む感触に、冷静になれと頭の中で誰かが大声で叫ぶ。俺の声だ、と気が付いて、カラ松はゆっくりと怒りを逃がすように震える息を吐き出した。 「同情のつもりか？俺のためなんて抜かすつもりなら死ぬ前に殺すぞおそ松」 「はあ？なんだそりゃ。自意識過剰、ってかお前もライジング系？」 　ライジング？何の話だ。 「お前のためな訳ねーだろ！俺の行動における全ての行動基準は一から十まで俺自身のためだっつの」 　ニヒルに口角を上げふてぶてしく言い放つおそ松。 　カラ松が死ぬからおそ松も死ぬ。こんな不自然極まりない引き算が自分のためな訳がないのに。 「……お前のためな訳、ないだろ」 　おそ松の態度に毒気を抜かれてもう参ってしまったカラ松に、おそ松が仕方なさそうに息を吐く。 　項垂れるカラ松を、まるで幼子をあやすような優しい手つきで頬に触れてきて、ドキリとしたのは仕様がないことだと思った。 「……ほんっとに、お前のためなんかじゃないんだよ。俺がダメだったんだ。お前がこの世界で生きてないってだけで、ほんと、なんでだろ。お前が生きてないだけで、ダメだったんだな、生きていける気がしねえんだよなあ、俺」 　いやーまいったわー。なんて、自分で言っておいて、始めて気が付きましたなんて重さを全く感じさせない調子で笑うおそ松を、カラ松は唖然と見つめる。 　体の輪郭すら曖昧になる強烈なオレンジ色の視界の中で、切なそうにおそ松が立っていた。 　見慣れた一つ上の兄であるはずなのに知らない男のように感じるのは、こんなおそ松を見るのが始めてだからだろうか。カラ松以外知らない、おそ松の顔。そうであるなら、いいなと思う。 　独白するように静かな調子で話すおそ松は、何かに観念したように見えた。そしてそれは多分、カラ松の気のせいではないだろう。 「……生きてさえくれてたらよかったんだよなあ。もう最悪一生会えなくても、どっかでイタいこと言ってるんだろうなあって信じさせてくれてたらさ」 　でもさあ、と息を零すおそ松の体は震えていた。 「お前が死んだら毎日思うんだろうな、お前がいないってさ。毎朝思いながら目ぇ覚まして、お前の事考えながらだらだら過ごして、それでおやすみカラ松って寝る」 　それはもう、俺は生きてんの？ 　おそ松のその台詞と、カラ松の目から大粒の涙が零れ落ちたのは同時だった。 　ぼろぼろと零れる涙が、夕陽に反射して、おそ松がきれいだな、なんてぽつりと呟いたのがはっきりと近く、耳元で聞こえて、え？と思う前に、抱え込まれるように抱きしめられていた。 　体格差なんてどちらかと言えばカラ松の方が筋肉質だったのに、おそ松に抱え込まれてしまわれて、これ喧嘩しても絶対かなわないだろうな、なんて思ってしまった自分自身に驚く。 　いつの間に、変わってしまったのだろうか。薬を飲み始めてから何の支障もなく日常生活を送れていただけに自覚のあまりなかった病魔は、確実にカラ松に近づいてきているようだった。 　自分自身ですら驚いた顕著な変化に、カラ松を抱きしめたおそ松が気が付かないはずがない。 　一瞬びくりと体を硬直させたおそ松は、次の瞬間にはどこへも行かせないとばかりにぎゅうぎゅうと力を込めて抱きしめてくる。 　そのおそ松からじんわりと伝わってくるぬくもりに、びっくりするくらい早い鼓動の音に、カラ松はどうしようもないくらい泣けてしまった。 「なんで、なんでなんだ。もっと早く、」 　言ってくれれば、なんて台詞は実に無意味だ。時間は不可逆でそれは一切実を結ばない恨み言に他ならない。カラ松はそれを正しく理解したうえで、何でとおそ松の胸に縋って喚き散らした。無意味でも何でも、そうしたい気分だった。そうしないと、どうしようもない気分だったのだ。 「……でもお前が死ななきゃ気付かなかったし、一生言わなかっただろうな」 　お前もそうだろ。 　そういうおそ松に、心当たりのあるカラ松は口を噤んだ。言わないどころか、一生殺したままの感情だった。 　黙ったカラ松に解を得たおそ松が、ふっと笑う。 「だから俺はこれでよかったよ」 　あ、これでいいのだ、なんて、ふざけて言い直して、優しい声音が降ってくる。 　逢魔が時。西日の中でおそ松が愛おしそうに微笑む。その眼差しが優しくて優しくて、カラ松の頬にまた熱い涙がこぼれた。 「だからさあ、カラ松」 　俺と一緒に死んでくれよ。 　そこで耐えかねたようにおそ松の顔がくしゃりと歪んで、カラ松の顔に温かい滴がかかった。 　置いていかないでくれ。俺も一緒に連れて行って。そう表情で、瞳で雄弁に語る、嗚咽を抑えて泣きじゃくるおそ松に、子供みたいな泣き方だなあなんて、ちょっと笑ってしまう事が、どうしようもなく幸せで、 　その美しい光景をこの世で一番愛しい男の腕の中でぼんやりと見つめながら、この瞬間が松野カラ松の人生において間違いなく最高に幸せな瞬間だと、カラ松は思った。

<span style="color:#fe3a20;">※おそカラ心中ネタ注意※</span><br />余命宣告されたカラ松と、置いて行かれたくないおそ松。<br />書いてみたかった心中ネタを無理矢理やってもらった感。作中では死にませんが死ネタです。<br /><br />書きたいものいっぱいでいろいろ追いつかない。並行して書いてるのがあと三作くらいある。とりあえずおそカラ尊い。<br /><br />あと松が最終回近いのは現実なんですか……？<br /><br />▼追記▼<br />3/5　DR、女子人気R　お邪魔したようですありがとうございます！<br />ブクマ、評価とてもうれしいです。<br /><br />素敵な表紙お借りしました<strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/39947125">illust/39947125</a></strong>

眼差しはなにより雄弁だった

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小さい頃からよく風邪を引いていた。簡単に言うと体が弱い。 だが成長するにつれて体調を崩すことも減ったと思っていたが、最近になってまた頻繁に体調を崩すようになった。 風邪が長引く、ふとしたことで頭痛や体調の悪さを訴える。そろそろ火村にも何かしら問い詰められるかもしれない。 何となく弱いと思われたくない。それだけは避けたいと思い病院へと足を運んだ。 「え？」 だからこそ、信じられなかった。 ウイルスに対する抗体の少なさ。このままではすぐ何かしら病気にかかるだろうということだった。 「食事睡眠運動ってことやな？」 必要な物が足りていないのならば作るまでだと口にするが医者は首を横に振る。 いったいなんだというのだ。 「貴方の場合それを作る抗体そのものが少ないのです。これから体調には気を付けてください。ただの風邪が大事なことになるかもしれません」 そう医者に説明されたが、何処か他人事のように話を聞いていた。抗体が少ないことによって起こる出来事がよくわからない。 むしろこれをネタにすれば良いのではないかと楽観視する。 最低限の薬を貰い早速飲んでみたがすぐ効くわけでもない。どうせ風邪、たかが風邪。薬さえ飲んでいれば治るだろう。 眠気に襲われてゆっくりと意識を手放した。 ピンポーンとチャイムの音が部屋に響く。 「んん？」 どうやらもう夜らしい。薬のせいで眠気が酷い。 コーヒーでも飲もうと考えながら何か聞かれるのも面倒だとソファの下に薬の袋を隠す。 それから確認せずにドアを開けた。 「確認してから開けろ」 火村が眉間に皺を寄せて言う。 「チャイムの押し方、この時間に来るような奴、全部推理してたんや」 嘘つけ、と火村は中に入りながらそう言うと有栖の頭を撫でた。 病院のことは言わなかったがそれ以外の今日あったことや他愛もない話をするといい時間になってくる。 「今日泊まって行くんやろ？」 その声が少しガラガラとしてしまった。薬は飲んだが、如何せん食事はしていない。 なんとなく嫌な予感がする。 「そうさせてもらおうと思っていたが、どうした。風邪でも引いたか」 「…かもしれん」 病院に行ったため何かしらウイルスをもらってきたのかもしれない。 喉の違和感。そうして自覚すると体の倦怠感も出てきている気がする。 「先に風呂に入って寝ろ、片付けはしておく」 お言葉に甘えて先に風呂に入ることにした。くそう、体が重い。 風呂から上がると体がふにゃふにゃになった感覚がする。これは重症だ。明日が怖い。 自分の体ではない気分だ。 「布団に入れ」 わかっている。無理矢理体を起こすとふらついた。 軟弱な体になったものだとため息を吐く。 「そんなに体調が悪いのか」 火村の視線は何処か探っているようにも見える。いや、探っているのだろう。 けれど、どう説明していいのかもわからず倒れるように眠りについた。 熟れていく果実に意味がないようにこの体も知らずの内に熟れていただけだ。 甘い日々を願っていたがうまくはいかなかったらしい。 腐らない果実などそれこそ美味しくない。 「...」 息苦しさに目を覚ます。部屋が暗いことから火村が片付けて電気を消してくれたのだろう。 何時だろうと視線をさ迷わせるがどうも時計が見当たらない。 というより携帯は何処に置いたんだっけ？頭がぼんやりとしていて何も考えつかない。あれ、俺は何時寝たんだっけ？風呂に入った？ とりあえず携帯を探そうと布団から出て足を踏み出した瞬間に体が崩れた。 幸い尻餅をついたぐらいであまり物音はしていない。ぼんやりとする。この感覚を意識が朦朧とするというのか。このまま床で寝てしまおうと思った瞬間にもぞりと人が動く気配がした。 「アリス？」 どうやら火村はソファで寝ていたようだが有栖の異変に気付いたらしく、傍に来てくれる。 「火村、」 情けないと思いながらも名を呼ぶ。 驚いた顔をしてからこの馬鹿と言いながら抱き上げてベッドに座らせてくれた。 「熱いな、高熱だ。病院に行った方がいい」 病院という言葉に嫌だなぁとぼんやりとしながら思う。 「大丈夫や」 「連れて行く」 いや、それは困る。と言いたいが声にならずに熱い息を吐き出す。とにかく今は寝ろ、時間になったら起こすと布団に戻され意識を失うように眠りについた。 ぼんやりとしながら揺られていく。 抵抗も虚しく朝になると抱き抱えられ車に乗せられた。 「嫌や、」 「何を隠しているんだ」 鋭い指摘に有栖は黙る。別に知られても構わない。ただ、もう少し対等に一緒に過ごしていたかったなぁと思う。 迷惑になるなら離れる。それは学生の頃のトラウマからかもしれない。 「重大な病を抱えているのか」 僅かに強ばる火村の声に大切にされていることを再確認する。 「アホ。ちゃうわ」 気を付けていれば平気な病だ。 「でもな、俺はお前と離れなあかん」 げほげほと咳が出る。どういうことだと火村が問うが話す気にもなれなかった。 無言のまま病院にたどり着くと意外と空いていた。 「昨日来たばかりでこうなるとはね...入院も考えた方がいい」 「せーへんよ」 ぐったりと火村にほぼ寄りかかりながらもしっかりと有栖は答える。 「有栖川の病気について詳しく教えてもらえませんか」 「あ？話さなくてええです、こいつは友達なんで」 有栖が勢いよく火村を睨む。 まぁまぁ、と医者が宥めた。 「有栖川さんは点滴しましょう」 看護師に車椅子に座るよう指示され渋々部屋を出る。 「では、話しましょうか」 話始めた医者に火村は礼を言う。 そうして話終えたあとに医者はこう言った。 「有栖川さんは貴方に心配をかけまいと必死だったのですね、どうか有栖川さんのことを嫌いにならないでください」 そのぐらいのことで嫌いになりはしない。だがアリスが居なくなるのならば許さない。 お礼を言ってから点滴をされている病室へ足を運ぶ。 ベッドで眠っている姿に何故かひやりとして手を握った。 「火村？」 どうやらうとうととしていただけのようだ。 目を覚ました有栖が火村を見て苦笑する。酷い顔やと言ったあと有栖はそのままの表情のまま医者に聞いたのだろうと推理した。 火村の表情を見て確信したらしい。 「俺から離れるって？」 ふざけるな、と言おうとしたがふざけて言っているわけではないと痛いほどわかっている。 だからこそ口に出せなかった。 「離れはせんよ、ただ体調が悪い時が増える」 だから、連絡を取り合うだけで会うことはやめよう。 辛いのはどちらなのかわからなくなりそうだ。理不尽な病が二人を苦しめる。 「断る」 火村が即答する。そんなこともわかっていた。 「面倒やで？」 そうしてそれが嬉しいと感じる自分のことも。火村もわかっているのだろう。 離れる離れるといっても離れられないことを。 最後まで傍に居ると決意していることを。 「ほんま、アホやなぁ」 「お互い様だろ」 フィールドワークに参加はするがマスクは必需品となっている。 そして風邪を引かないように強制的に厚着をさせられていた。 「ひ、くしっ、」 変なくしゃみが出てしまったと気恥ずかしくなっていると火村がすぐに振り向く。 「アリス、寒いのか」 「たまたま出ただけや、その顔どうにかせい」 物凄い形相で有栖の肩を掴んでいる。 あまりの形相に周りの警察が引いていた。 コートを脱ぎ始めた火村を押さえつつ事件への違和感を述べていくと渋々実況見聞に戻っていく。 暫くすると寒気がし、ぶるりと震えた。 これはもしかすると風邪を引くかもしれない。そうなる前にしっかりと休息を取ろう。 「犯人は貴方です」 火村が犯人である女性を指さす。推理は完璧であった。旦那である男性を殺害した妻。頻繁に暴力を奮われていた女性がとった最悪な結末。犯人である女性がわなわなと震えている。 「正当防衛よ！毎日のように暴力を受けていたのに！」 「それが人を殺していい理由にはなりません」 警察に相談をすればよかったのだ。相談して無意味ならば他の場所へ逃げればよかったのだ。彼女は結果的に男の稼ぎ、金に目が眩んだのだ。 自由な金を手に入れる。その代償のように時に酒に酔った男に殴られた。 「貴方みたいな若者に何がわかるのよ！」 女性が持っていたコップを有栖に投げつけた。400mlは入るほどの大き目のコップを投げつけられ咄嗟に腕を出したが水が顔面から上半身にかかる。 腕に当たったため腕が少し痛んだ。 「これは」 低く冷たい声が部屋に響く。その場にいた警察も、投げつけた犯人である女性も動けなくなる。 「傷害罪にも問われますね？」 火村が警察に鋭い目を向けた。はい、と小さく警察が頷いたが冷や汗が滲んでいる。 「へっくしゅっ！」 空気を壊すように有栖がくしゃみをすると火村は冷たい瞳を消して有栖に声をかけ始めた。生きた心地がしなかったとその場に居た警察は汗を拭い、犯人である女性を連れていく。 「ああ、そうだ」 鍋島警部、と火村が引き止める。何だろうかと犯人である女性と共に足を止めた。 「あとでまた彼女に会わせてください」 これで終わりだと思うなよ。 有栖川有栖に手を出してはいけないと改めて他の警察も思った。 「アリス、シャツを買ってきてもらった。着替えたらすぐ帰るぞ」 「うわ、すまんなぁ」 わざわざ買ってきてもらったとは。俺の金だからいいだろ、という火村に小さくため息をつきながら警察をパシリにするなと注意をしておく。 着替えたあとてっきり私の家に帰るかと思われたが着いた場所は下宿先である火村の家だ。 「時絵さんが暫く旅行で出かけている、ゆっくりしていくといい」 夕飯は火村が作ると言ったため仕事に打ち込むことにする。パソコンと最低必需品を持っていてよかった。順調に小説は書けている。 「誤字脱字が酷い」 どれぐらい小説を書いていたかわからないが急に火村に声をかけられた。驚きはしたが不思議と体が反応していない。 改めて読み返すとかなり誤字脱字がある。これは指摘されても仕方がないと思いながら直していく。 「夕飯が出来たから冷めないうちに食べるぞ」 火村の作る料理は美味しい。おう、と立ち上がったところで体がふらついた。 「アリス？」 火村がじっと有栖を見つめる。なんでもないと口にしたが火村は有栖の腕を掴んだ。 「…熱があるな」 触れただけでも普段より体温が高いことがばれてしまった。だが、だからといってもう寝ろと言われることは嫌だった。 「夕飯食べたら寝るから、ええやろ」 折角火村が作ってくれたのだ。食べたい、体調が良い時に食べたかったけれど。 火村は苦笑しながらも了承する。無理して全部食べることはないと量は減らしてくれた。 本当に面倒な体になってしまった。 「おい、その辺にして休め」 片付けを始め、立ち上がった火村と動けない有栖。 箸が止まる。美味しいけれど、口に運ぶことが出来ない。どうして、何故飲み込めない？ 有栖が再び箸を動かしたがその手を火村が止める。 無理をしなくていい、元気な時に美味しそうに食べる姿が見たいのだと隣に来て伝えられた。 「う、」 小さく漏れたうめき声に近い声。 「う？」 思わず火村が聞き返すと有栖は火村の胸元に頭を押し付けた。 僅かに震えている肩と僅かに漏れる嗚咽に火村は唇を噛み締める。どうも出来ないのだ。 ぽんぽんと頭を撫でるとぐりぐりと頭を押し付けられる。 まるで猫のようだと笑みが零れた。 「アリス、寝るのは布団の上だ」 「んん、」 泣いていたせいだからではない熱の上り用に気付き火村の表情が強張る。抱き上げベッドに横にする。これでは入浴することは難しいだろう。あとで体を拭こうと部屋を出ようとしたが何かに引っ張られる。 「…アリス」 体が弱ると心も弱ると聞くが裾を掴まれていては他のことが出来ない。思わず困ったというような声を出してしまう。 「ええやん…火村も、いってしまうんか」 傍に居てくれないのか。泣きそうな、いや、半分泣きに入っている声で呼ばれ苦笑する。 存外甘いこともわかっているが頼られることが嫌だとは感じない。 これが惚れた弱味という奴だろうか。 「すぐ、良くなるからな」 自分に向けてかアリスに向けてか。思わず口に出してしまった言葉に有栖が微笑む。 「アホ、もう良くなっとるわ」 苦しくとも君が居れば大丈夫であることをどうしたら君にわかってもらえるのかな。 何、きっと時間はある。 小さな笑顔がどれだけ幸せを作っているのかを教え合おうではないか。 未来を、消させはしない。

病弱有栖。何度倒れようが君の傍にいることを誓う。■女子に人気ランキング28位/ﾃﾞｲﾘｰﾗﾝｷﾝｸﾞ33位/35位ありがとうございます＊

考察、君と私の未来について

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城廻めぐり。 一色いろは。 「……」 いつものように書類の山と向き合っていた彼は、ふと生徒会室の壁に貼ってある写真に目を向ける。 桜満開の正門前で撮った、生徒会のメンバーが全員揃った最初で最後の写真。 「はっ……懐かしいな、もう」 そう呟く彼の目には、懐かしいとかそういう感情の色はない。それどころか、何も読み取れないほどにどろどろとしている。 まるであの人のように。 「後で悔いるから後悔、か」 まぁ読んで字のごとくだが。噛み砕けば噛み砕くほどに苦々しさを伴ってくる。 「俺は、後悔してるのか…？」 問いかけるような、しかし答えてくれるはずの人たちはすでにここにはいない。俺が、拒絶してしまった。あんな悲しそうな顔、させたいわけじゃなかった。 『君のそれは鏡だよ』 こんな時に限ってあの人の言葉が頭をよぎる。 最後まで、俺の目の中の虚像だけを見続けた人。 「……俺は、悲しかったのか？」 わからない。 わからない。 そんな人として当たり前の感情も感覚も、切り捨てるべきものとしてきた。してきてしまった。 「結局俺は、あの頃のままなんだな」 写真の中で三人の少女に囲まれて所在無げにしている自分を見ていたくなくて。 びりっ、と。 勢いに任せ写真を引きはがした。 紙片が、まるで桜のようにひらりと舞った。 [newpage] 「ゆっきー、ガハマちゃんと話した？」 折本さんがいつもの通り休み時間に私の元へとやってきた。今彼女は一番前の席で、反対に私は一番後ろだ。この席は彼女が授業中に惰眠を貪る姿をよく観察することができる。そして、居眠りに厳しい現国のあの先生などが彼女の頭をはたいていく姿も。 「…休み時間になったらちゃんと起きていられるじゃない。授業もきちんと受けるべきだと思うのだけれど」 「いやー、なんかさ、ない？休み時間になったら突然目が覚めちゃったよ！みたいな！」 私は居眠りなどしたことがないからわからないが、そういうものなのだろうか。確かに、授業の緊張感から開放されて頭がリラックス状態に置かれるのかもしれない。 「……そう。よくわからないのだけど、わかったわ」 「なにそれ、ウケる。…んで、ガハマちゃんだよガハマちゃん！」 ちゃんと話した？と彼女はいつになく強い口調で言う。 「ええ、話したわ」 「どうだった？」 「……ほぉ」 「由比ヶ浜さんは、やっぱり恋の悩みを抱えていたのね。折本さんの言う通りだったわ」 「…」 一通り話終わる。折本さんのほうを見るとなんとも微妙な表情を浮かべていた。 「…どうしたの？」 「いんや、なんでもないよ。…当たらずしも遠からず、ってやつなのかね」 なにが当たらずしも遠からずなのだろうか、と思ったが、折本さんに遮られた。 「じゃあ、ゆっきーはさ。もしもだよ！もしも、ガハマちゃんの好きな人がゆっきーの好きな人とおんなじだったらどうする？」 「……」 折本さんのその突然の質問が意図するところはよくわからなかった。 言葉に詰まる。どうにか考えをまとめようとしても煩雑になった思考ではろくなことも浮かんでこない。 私と由比ヶ浜さんが、恋敵。 あの優しい彼女から、私は幸せを奪えるのだろうか。 「そうね…。諦めるんじゃないかしら」 そんなことにはならないで欲しいと願わずにいられなかった。 折本さんは、「そっか」と悲しそうに言った。

徹夜続きの毎日。<br />何日ぶりに開いたんだろうって感じです( ´&#39;ω&#39;` )<br />楽しみにしていてくれた人がもしいたのならすいません😢???

生徒会長比企谷くん⑫

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「高校生活を振り返って」 学校とは不思議な場所である。 ここにいる者たちは全て『同年代だから』というだけで集められたに等しい。 もちろん高校ともなればその大半が成績や、なにかしらの実績を加味された上で選出されたわけではあるのだが。 もともと心情的にも移ろいやすい「青春時代(笑)」を過ごしているのだから多少の成績の上下など長い目で見れば大差ない。 とどのつまり学校とは「社会に出るための勉強をする場所」などと言われていながら、社会に出ればまったくありえない状況下で勉学に勤しむのだ。 同じ職場の同僚が同年代とは限らない。 年上の後輩もいるだろう。年下の上司もいるだろう。 同じ家庭を気づく配偶者が同年代とは限らない。 年上の妻もいるだろう。年下の夫もいるだろう。 ならば、学校で学べる「社会」とはなんなのだろうか。 答えは至極簡単。 「どんな事態にも対応しうる器作り」 同年代の者たちを一箇所に集めればどうなるのか。 人間の中でも大きな比較項目となる『年齢』を揃えられたとき、学生たちはお互いの比較対象を粗探しし出す。 要は自分の優位性を保とうとするのだろう。 成績、運動能力、カリスマ性、体格、容姿といったようにまるで避けも防ぎもしない殴り合いをするかのようにお互いを騙し、あざ笑い、差別し、落とし合う。 その中でも一握りの「折れないモノ」を持つモノのみが成功者たるのだろう。 ならばどうすればいいか。 これもまた至極簡単。 慈悲など与えるな。噛みつくなら喉元を。 やらなければやられるなどと甘い言葉は捨て去るべき。 どこかの漫画の風紀委員長が言っていた言葉こそ胸に抱き、 「やりすぎなければ正義じゃない。」 結論 高校生活とは楽しい楽しい蠱毒実験場である。 [newpage] 国語教師の平塚静は大爆笑していた。 周りを見ればジャージ姿の体育教師やら、メガネ＋頭部バーコードの数学教師やらがなんだなんだとこちらを伺っている。 いい加減戻ってきてはくれないだろうか。 ｹﾞﾎｯｹﾞﾎｯ….ﾌｩ 「ようやくトリップ状態からお戻りになりましたね。もう帰っていいですか」 「いやいや、まだなにも話は済んでいないだろう。」 うっすら目尻に浮かんだ涙をぬぐいながらニヤニヤ笑う年上美人。 字面で見ればこうもそそられるものがあるのに現実はこんなにも厳しいものだとは…。 「いやぁ、君のことは以前の担任だった厚木先生から聞いてはいたが、まったく期待以上だよ。」 あのハゲ一体なに吹き込みやがった。 「私基準でいうなら花丸でも書いて『大変よくできました』のハンコでも押してやりたいところだが残念ながら私にも立場がある。」 残念とか言いながら満面の笑みである。様になっているのが尚更たちが悪い。 「書き直せばいいんですよね。後日再提出します。もう帰っていいですか」 「いやいやだから待ちたまえ！君を呼び出したのは、まぁこれも関係がないこともないが、別件だ。」 「…手短にお願いします。もう帰っていいですか」 「…君は私の話を聞いているのか？ まぁいい。私はまどろっこしい話とかは苦手でな、面倒だから単刀直入で話させてもらう。」 さっきまで大笑いしていた人とは思えないような引き締めた顔立ち。 これはまた面倒なことになりそうな予感がする。 「やり過ぎる君には『程度』というものを知ってもらう必要があると判断した。 今日からとある部活に入ってもらう。 これは学校からの恩赦でもあるからな。」 千葉県立総武高校 1年F組　比企谷 八幡 10月中旬　学内で起こった婦女暴行行為を未然に防ぐも、そのあまりの過剰暴行により一時警察へ。 関係者の陳情と一部権力者の介入をもって、2週間の停学後学校に復帰した。

モンハンシリーズだと思った？<br />残念！新シリーズでした！！<br /><br />...ごめんなさい

比企谷八幡の蠱毒な生活

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　自宅(築25年のボロアパート)にて、深夜、俺は今後の生活方針について考えていた。 　飛ばし携帯といえば、あまり聴き慣れているものも少ないだろうが、大半が犯罪じみたものを想像するだろう。まあ、うん、その通りだ。匿名で使用できるし、料金もかからない。そして正規のルートで入手したものではない。だが、それ自体罪に問われるのかと聞かれれば微妙なところだ。そもそも俺は喰種だからな、もとより、あまり足跡がつかないように最善を尽くしている。 　東京にも影でギャングやらヤクザやらと名乗っている組織は多い。金さえ積めば、それらの組織からいくらでも買収できる。高い価格の割に、長期の使用が不可の点が難点だ。 　予備を買いたい。 　しかし、そろそろ問題が発生した。 　……金欠。 　こればっかりはどうしようもない。基本的に携帯はかなり使えるようで、アヤトに没収されたりしている。あいつ、いつかしばく……。 　家庭教師、という割には、俺は人間社会にとけ込めていない方だろう。正規の手続きで携帯すらも買えないし、明確な住居はあるものの、基本的に無職。 　ぶっちゃけ、食には困らないが、こうして暮らしていると金も必要だ。 　『アオギリ』のアジトに戻れば、そこを仮住まいとできるが、家庭教師の仕事を放棄してまであんなところ戻りたくない。二年前、働きたくないと行っていた俺からはかなりいい成長ではあると思う。 　『アオギリ』の組織からは簡単に抜け出せないが、こうして単独行動していてもあまり何も言ってこない(アヤトを除く)のだから、タタラさんとかエトとか、何考えているのか分からん。 　ともあれ、金が欲しい。 　一時期喰種に肉を売るというのをやってみたが、喰種から金を巻き上げるのは効率が悪く、貯めていた肉を全て寄付してしまう始末だった。なにそれ俺超いいやつ。 「……小説でも、書いてみるか」 　ラノベ作家ではない。小説家だ。断じてラノベ作家ではない。ここ、重要だから二回言いました。テストに出ますよ～。 　材木座なんかと一緒にすんな。 　そういえば、世の中には[[rb:高槻泉>たかつきせん]]とかいう天才がいるようだ。年齢は確か公開していなかったが、綺麗で若々しい風貌からしても20代前半～後半であると予想がつく……らしい。知らないけど。確か見た目がめっさ美人だから、そこからファンになるって人もいるらしい。 　高槻泉の処女作、拝啓カフカは50万部を超える大ヒットだとかなんとか。フランツ・カフカはしっているが、拝啓カフカってそういう意味なのだろうか。 　拝啓カフカは読んだことないけど、その著者の作品、黒山羊の卵というのは、五分の立ち読みの末に、悩み悩んで俺が購入するくらい面白かった。 　だかど、なんだろうな……。あのくらいなら、俺だって書ける気がするんだよ。 「高槻泉……か」 　小説家ってのはあまり儲からないらしいが、流石に50万部超えたらそれなりに儲かるだろう。 　俺もそろそろ腹をくくろう。半身くらいならば、人間社会に溶け込んでもあまり危険性はないだろう。 　 「よし、小説、書くか……」 　今の時代、少し暗いものが若者にはウケる。 　主人公に思いっきり感情移入できる作品にしたい。それか、最低の家族の愛だとか、ドロドロの友情だとか、絶対に、BADエンドとも、HAPPYエンドともならない、もどかしく、喪失感がすごい作品とか、な。 　 　――人生なんて、悪平等な出来レース。 　 　――前を向くより後ろを見たほうが、上を向くより下を見たほうが、ずっと楽だ。 　――すすまなくても、無意味でも、無価値でも、立ち止まることはできない。 　――歩みのペースを落とせば、奈落の底に真っ逆さま。 　――俺のように。 　よし、あらかたの構想は練った。あとはこれを文章にして、どこかの出版社に持ち込んで勝負にかければいい。 　そうだな……。小説の主人公の名前は――。 　――戸塚彩加。 　　これがいいだろう。 [newpage] 　翌朝、一本の電話の音で俺は目を覚ますことになった。 　無機質、非情な音が俺の部屋中にけたたましく響き、あまりのうるささに電話を潰そうかと思ったが、どうやら携帯が俺の耳元にあったせいで、必要以上に大きな音に聞こえたらしい。なんでこんなとこにあんだよ。 　嫌々ながら、電話に手を伸ばして、通話ボタンを押した。 「はい……。もしもし…」 『ん……？』 　霞んだゾンビのような声だったためか、電話の相手はしばらく無言のままだった。だが、ため息のような笑いが聞こえると、厳格そうな声で続けた。 『こんな明け方に申し訳ない。噂の、喰種の家庭教師であってるかな？』 　時計を見ると、もう10時だった。明け方ではない。俺が寝起きなのを悟って、気を使ってくれたのだろうか。少しみっともない気もするが、まあ気にしなくてもいいだろう。そんなもの今更だ。 　てかやべ。今日は8時から”仕事”をするつもりだったんだ。まあいいか。後でも。 「はい。……え、あ、それ聞きます？」 『私の知人の、笛口さんの娘さんも君のお世話になっているからね。話は聞いているよ。信用できる、とね』 「はあ…それで、家庭教師頼みたいってわけですか。分かりました。じゃあ住所と年齢、あと、すいません、今結構生徒いるんで、時間指定は後ほど俺の方からすることになりますけど……いいですか？」 『おや、喰種間だというのに、普通なんだね。もうすこし慎重に話を進めると思っていたんだが……』 「笛口さんの知り合いなら、多分問題ないです」 　おそらく、公表していない電話番号もヒナミの両親のどちらか、笛口さんに聞いたのだろう。商売用の番号だから、他言してもいいとは言ったが、本当にこんな機会があるとは…。 　喰種の家庭教師というのはかなり貴重な存在のようで、すぐに情報は喰種の中で広がる。 　 　金をとるのが目的じゃないのでまあ広がっても広がらなくてもいいのだが。 『それじゃ、住所は――』 　 　そういえば今の相手、なんか聞き覚えのある声だったような……？ 　会話の末、一週間後から、とある家でまた一人生徒を抱えることになった。 ◇ 　『あんていく』の店主である芳村は、店でバイトをしているトーカの家庭教師として、”噂”の喰種に頼むことにした。 　笛口という喰種からも、信頼できる人物だと聞いていたので、閉店後、トーカから取るか取らないかの意見を聞き、とりあえず、一ヶ月試しにとってみるという結論に至った。 　そして翌日、その家庭教師に連絡をしようと、店が開店した少しあとに連絡を入れる。 　たっぷりと10コールしても出ない。 　今は出れないのだろうか、と思っていると、いきなり萎みそうな声が受話器から聞こえてきた。 『はい……。もしもし…』 「ん……？」 　聞き覚えのある声だった。 　寝起きなのだろう。少しかすれている声だが、どこかで聞き覚えがある。 (この声は……) 　いつ、どこで、と芳村は記憶を掘り起こそうとするが、途中で、頭にパッと、ひとりの少年の声が浮かんだ。たまたま、昨日店の店員と話した会話に出てきた少年だったからだ。 　 (なるほど、”彼”はこうなっていたのか……) 　比企谷八幡。 　再開といっても、相手が自分のことを覚えているとは考えにくい。強く印象付いているのなら、彼も勝手に気づいてくれるだろうと考え、あえて過去のことについては触れないことにした。 「こんな明け方に申し訳ない。噂の、喰種の家庭教師であってるかな？」 『はい。……え、あ、それ聞きます？』 　 　時計の時間をみると、もう10時を過ぎていた。八幡は疲れているのか。予定がないのか、どちらにせよ、二年前よりも優しそうになっていた八幡の声に芳村は安心した。 「私の知人の、笛口さんの娘さんも君のお世話になっているからね。話は聞いているよ。信用できる、とね」 　笛口の娘、ヒナミは、八幡のおかげである程度の文字の読み書きができるようになったらしい。最近は割り算まで完璧にできるようになったようだ。 『はあ…それで、家庭教師頼みたいってわけですか。分かりました。じゃあ住所と年齢、あと、すいません、今結構生徒いるんで、時間指定は後ほど俺の方からすることになりますけど……いいですか？』 「おや、喰種間だというのに、普通なんだね。もうすこし慎重に話を進めると思っていたんだが……」 『笛口さんの知り合いなら、多分問題ないです』 　声は、優しいというよりもどこか呆けているようにも聞こえた。 「それじゃ、住所は――」 [newpage] 　昨夜未明、とある一区住まいの家庭で、無理心中を図った妻の惨殺死体が発見された。容疑者である夫は事件の隠蔽工作など一切行わず、そのまま逃亡。 　そして警察と、そしてCCGの家内捜索により、男が”喰種”であったことが判明した。 　現場に残された赫子痕からして、強力な喰種であることが確認され、CCGはこの喰種をA級レートとし、早くも多くの功績を挙げ始めている新人捜査官たちが所属している班にその事件の捜査が任された。 　一区。CCG本局。そこにその班――雪ノ下班はいた。 「A級レートってのはチュートリアルみたいな感覚でいればいいよ」 「あはは……、それは陽乃さんだけだと思うんですけど……」 　作戦会議と思いきや、思いっきり駄弁っていた陽乃に対し、楽しげに比企谷小町も笑う。 「顔は割れてるんですか？」 　一色いろはの質問に答えたのは、めずらしいことで由比ヶ浜結衣だった。 「ニュースで出てた！」 「おお～由比ヶ浜ちゃんはちゃんと事前に調べてたんだね。えらいえらい」 「いえいえ……」 　冷めた目で見るいろはを横目に、照れたように結衣は髪を弄る。 　そんな中、はやく本題に入りたいように少し落ち着かない様子のいろはを見て、小町は微笑み、そして陽乃が会話を切り出そうとする。 「えっと、最新の目撃情報は……」 　陽乃と小町をみて、やはり、といろはは思う。 (やっぱり、[[rb:准特等>陽乃さん]]と[[rb:一等>小町ちゃん]]って、何かありそう……) 　いろはは持ち前の器用さもあるが、それ以上に、人を観察する感覚が鋭かった。 　たとえばそれは、仲の良さそうな恋人たちの溝であったり、うしろめたいことを抱えている店の従業員だったり、嘘とまではいかなくとも、こちらを騙そうとしている金融業者の社長であったり、人は皆なにかしらの事情を抱えている。 　由比ヶ浜結衣も、それに一色いろは自身もそうだろう。 　二人には、忘れられないものがある。 　――[[rb:最低の初恋>比企谷八幡]]が。 　――[[rb:葉山隼人>比企谷八幡]]が。 　だが、小町と陽乃からは、何も見えないのだ。 　胸の奥底にどす黒い不安と優しい絶望を抱えながら、いろはは新人、新米、そして後輩に徹する。 　いろはが無表情をきめこんでいると、陽乃は小さく頷き、三人をみわたす。 「……じゃ、とりあえず、3区に移動しようか」 [newpage] 　何事もなかったかのように、つまらない道化の暮らしは時間だけが過ぎていく。 　 　今日も今日とて、夕刻時から空の色が深くなる時間帯まで、俺はヒナミの家で家庭教師してる予定だ。 　俺は自宅がある3区を出るため、電車に乗ろうと、駅までやってきていた。ふう、人が多いぜ、そしてそんな場所に慣れちゃった俺ってすごい社会人。あらやだ社会人。なんとまあ社会人。なぜか社会人。なんでだ社会人。 　おいおい、女は永久就職とかいって結婚することもあるだろう。なのになんでだ俺。なんでだ社会。俺が全うな仕事を求めるなんてな。 　 「……滅びろハロワ」 　心にも思ってないことをつぶやいてみたが、俺は仕事に飢えているようだ。というか金に飢えているようだ。働きたくてたまらない。てか金が欲しくてたまらない。一周してやっぱり金が欲しい。 　俺が電車を待っていると、何やらがやがやと甲高いふたりの女性の声が聞こえた。 「ちょっと小町ちゃん！はやくはやく！てか6区行きってここであってる！？」 「いや、電光掲示板を見てもらえば……あれ、ここどこだろう…」 「小町ちゃん！？」 　 　……。 　それは、聞きたくなかったけど、聞いてて内心ほっとするような、騒がしい声だった。 「駅員さんどこですかね……」 「なんか不親切な駅！」 「普通は駅で迷ったりしないんだと思うんですけど。結衣さん一回ここの駅利用したことありますよね？」 　俺がスマホを取り出して時計を見ると、時刻はちょうど4時30分に差し掛かったころだった。 　約束の時間は5時から7時までだし、電車が予定通り進めば、問題ないだろう。 「あ、あの～。すいませんちょっと聞きたいんですけど…」 　後ろから、肩をトントンと叩かれ、振り向く。 　そこには、先ほど騒いでいた、若い二人の女性がいた。 　俺が振り向くと、明るい茶髪の女性と目が合う。こいつ……！！…巨乳か、うん。 　女性は本当に死んだかと思うほどに硬直すると、俺を見て何度か瞬きした。 「………なにか？」 「………え、あの」 　俺の顔をまじまじと眺める女性は、かつての知り合いでも見たかのような表情だったが、次第に表情が落胆に変わっていく。まるで、なんだ、人違いか…、と語っているようだ。 「あ、ジロジロみてすいません。知り合いと似てたものですから…。でも、私の知ってる人ってよく考えたら、あなたみたいな目立つ見た目じゃなかったです」 「はあ、そうですか」 　若干見た目をこ馬鹿にされた感じがあったので、すこし傷ついたが、遠巻きに褒められていることに気がついた。ああ、そういや俺、二年前と比べるとすごいイケメンになってるんだったな。 　”彼”曰く、比企谷八幡と戸塚彩加を足して、二で割った感じだったっけ。 「6区行きってここであってあってますか？」 「はい」 　そこで、後ろにいた昔の俺と似た癖のある髪に、アホ毛が目立つ幼げな少女が顔を出した。 　……そうか、こんな出会い方も、あるのか。 「そうなんですか？じゃあ、一緒に乗ることになりそうですね」 『……■――■■■…マチ―■―…■■――セ……キ■ロ』 　 　……止めろ、まだ、出てくるな…！！ 　突然、”彼”の声が、痛くなった。 「あの、大丈夫ですか？なんか辛そうな顔してますけど……」 「…そう、ですね。でも我慢できまスので」 　そうだいつだって我慢してきたんだ。堪えてきたんだ。今更、後戻りはできない。 　アホ毛の少女をチラと横目で見ると、ちょうど何か俺に伝えようとしていたようだった。 　――どっちが先に、消えるかなあ？ 　ちょうど電車がきたようだ。アホ毛の少女の声は、その音でかき消された。

投稿の頻度が遅いのは触れないでくれるとありがたいです。そんなことを考えながら投稿した二話。前回より短めです。<br />次回はけっこう長いと思うので、どうか御容赦を……！

東京喰種【腐乱】　ep2

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[chapter:【話を】助けてくれた恩人を好きになった【聞いてくれ】] 1：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 話を聞いてくれないか？ 会いに行く前にちょっと落ち着きたいんだ 2：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 片恋か？ｗｋｔｋ 3：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 詳細kwsk あとコテかトリつけろ 4：１ 助かる。 これでいいか？ 動揺して物壊しちまいかねないからスレ立てたんだ あと相談したい事もあって あんまり慣れてないから遅くなるけど構わないか？ 6：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 大丈夫だ、問題無い( ｀・ω・´)ﾉ！ 7：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ノープログレム！！ ますはスペックうｐしろ 8：１ 判った 俺：三十代後半・子持ち(嫁天国)・いたって何処にでもいるおじさん 相手：Yさん・同じ年位？・色白美人・顔色悪いから体調が心配・公平で公正で他人にも自分にも厳格な人 10：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 美女か… 11：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 美女に助けられたのか… 12：１ いや相手は男だ。でも美人。 13：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします へ？ 14：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 男だと？ 15：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ホモ来たーーーーー！！！ 16：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 本日のホモレスはここですか？ 18：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 男装の麗人ってオチじゃないだろうな？ 19：１ 男で間違いない。在るの見たし 20：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 見たってΣ(ﾟДﾟ) 21：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします トイレでだよ！！ 22：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 驚かすなよ… 脱がしたのかと思っただろ(;ﾟДﾟ) 24：１ ＞＞22 するわけないだろ！！ 身バレ怖いからkwsk出来ないけど Yさんは法律関係のお仕事してるから そんなことしたら即捕まる(((( ;ﾟдﾟ)))) まだ何も感じてない時に見てよかった… 25：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １ｗｗｗ ノーマルだったのにｗｗｗｗｗ 26：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 仕方ないだろ！！惚れちゃったんだから！！！ 27：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 相手が法律関係って事はそっち関係で助けられたって事か？ 28：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞27 違う事で助けられたんだ まあ後でもそっち関係でお世話になったけどな マジYさん感謝してます 29：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします まぁ１の話聞こうぜ？ 30：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ほら早くしろよ スリッパだけじゃ寒いだろ？　ﾁﾝ☆⌒ 凵＼(＼・∀・) ﾏﾀﾞｧ? 32：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 何故脱いだしｗｗｗｗｗ 33：1 ＞＞30　 服は着ろ。風邪引くだろ？ 初めて同性好きになって戸惑ったけど 止められないから腹括ったらスッキリした でも好きな人前にしたら挙動不審になって物壊しちまう(;´д｀)ﾄﾎﾎ… 35：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 男前なんだか乙女なんだかｗｗｗｗ 36：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします どれだけキョドってるんだよ１ｗｗｗｗｗ 37：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 助けられた経緯kwsk！！ ノーマルなのに落ちたっていうくらいだから 内容が楽しみ！！！ 38：１ あんまり楽しい話題じゃないけどいいか？ 40：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします いいから話せ気になるだろヾ(*´∀｀*)ﾉ 41：１ 裁判関係で守秘義務？ってのでkwskしたら駄目だからフェイク入れるな 俺ちょっと前に、やった覚えのない事をやったって罪押し付け掛けられたんだ 嘘だって言っても、相手が悪くてな？ 押しつけて来た奴がさ能力持ちだったんだよ 同僚とかを騙して信じ込ませるような能力でさ、俺の関係者殆どそいつの魔の手に落ちちゃったんだよ もう俺、周りが敵ばっかりで誰も俺の言う事信じてくれなくて凹んでた 42：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 予想以上に重いのが来た！！！(ﾟAﾟ )　 44：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 釣りじゃないよな！！ 釣りだったら凹るぞ！！！ 45：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 裁判までもつれ込んだのかよΣ(ﾟДﾟ； 46：１ ＞＞44 釣りじゃない 釣りだって思いたかったよ俺が(TдT) 47：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 周り信じてくれないって それは凹むよな(´；ω；｀)ｳｯ… 48：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もう大丈夫なのか？ 仕事は？ 50：１ ＞＞48 疑惑も晴れて同僚も元に戻ってちゃんと和解したから大丈夫だ。仕事も無事復帰出来たよ！！ まぁあの時はもう駄目だって思ってたけどな でもそんな時に誰も信じてくれない中、追い詰められていた俺の前にYさんが助けに来てくれたんだよ 貴方がそんな事する筈ないだろうって 51：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします Yさんは無事だったんだ。魔の手に掛って無くてよかったな！ 52：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 格好いいなYさん 53：１ ＞＞51 掛ってたんだけど直ぐに元に戻ったって言ってた マジYさん感謝！！ 54：１ 俺さ前からYさんに凄くお世話になってて、迷惑掛けまくってたんだ 仕事現場でも顔合わせたら意見合わなくて喧嘩してたから嫌われてるって思ってた 思い出しても助けてくれないだろうなぁって位には 55：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おいコラ！ どれだけ迷惑かけてんだよｗｗｗｗｗｗ 57：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします でも助けに来てくれたんだろ？ 惚れるだろこれは 俺なら惚れる 58：１ ＞＞57 Yさんはやらんぞ！ もう目から鱗でおじさんストンって恋に落ちちゃったんだ 60：：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ( ﾟДﾟ)_σ異議あり!! いやいや、水を差すようで悪いが、ストックホルムじゃね？ 62：１ ストックホルム？首都がどうした？ 63：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ストックホルム症候群な。犯人と人質が恋に落ちたってアレだ。 もしくは吊り橋効果の方がしっくりくるかな？ 揺れる橋での緊張感を共有した事が恋愛感情に発展する場合があるっていう効果の名前だ 大変な時に助けられたから緊張してた時に感じたドキドキを勘違いしてないかなって マジで吊り橋効果絶大な俺が言う １はノーマルだったんだろ？ 64：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 効果絶大ってｗｗｗｗｗ 65：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします やらかした俺が通りますよっとε≡≡ﾍ( ﾟДﾟ)ﾉ 聞き齧って当時の片恋相手にやってみた 見事成功して付き合ったんだけど なんか違うって別れた 66：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 試したんだｗｗｗｗ 67：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 爆発ザマぁｗｗｗｗｗ 68：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 何で試したしｗｗｗｗ 他に方法あっただろ？ 69：やらかした俺 いや相手がノーマルな男だったから切羽詰まって（；＾ω＾） 70：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします え！∑(゜∀゜) 72：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 　 おまえもホモか！！！！ 73：やらかした俺 オレの事は良いからｗｗｗｗ １の事だろ！！！ 74：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします そうだった！ 75：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １？どうなんだ？ 76：１ そうかなって考えてたんだけどさ　違う 77：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 違うって？どっち？ 79：１ 吊り橋じゃない　言い切れる 80：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 言い切れるってなんで？ そうそう体験できない経験だと思うぞ？ 81：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 経験大アリだから言い切れるんだよ(；´･ω･`) 話すと恥ずかしいんだが、俺っておっちょこちょいなんだ 俺の仕事はちょっと危険な肉体労働なんだ。仕事で新人と相棒組んでるんだけどなｗｗｗｗｗ 高い所から落っこちた俺をその相棒がキャッチして助けて貰った事があるんだｗｗｗｗｗ 82：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １が予想以上に吊り橋してる件ヾ(ﾟДﾟ；) 草生やすなし！！ 83：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 禿同ノ 84：以下、無なしに変わりましてHEROがお送りします 禿同　ノ 85：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 恥ずかしいとかいう問題じゃないと思う(； ･`д･´) 86：１ 草生やすよｗｗｗｗｗ恥ずかしいんだよｗｗｗｗｗｗ 姫抱きでキャッチだよｗｗｗｗｗｗｗ 何度もキャッチだよｗｗｗｗｗｗ 87：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １が何度も落ちてる事に突っ込めばいいのか 歪みなく姫抱きキャッチする相棒に突っ込めばいいのか… 88：１ トキメクならそっちだろ？！生死分けてるんだから！！ あの時も命狙われてたけど、回数的には相棒に助けられてる回数多いんだから！！！ でもって、あの時信じてくれたのYさん以外にもいたから！！！！ だから吊り橋じゃない！( ･`ω･´)！ 89：以下、無なしに変わりましてHEROがお送りします 命狙われたって　Σ(ﾟдﾟ；)！？！？！ 怖い事をさらっと投下するな！！！ 90：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 突っ込みところが大杉て困る(;ﾟдﾟ)ｺﾞｸﾘ… 92：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １ぃぃぃ！！！！！！！ 93：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 命狙われてたっていうのに…和解したんだ(ﾟＡﾟ;) 95：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 狙われたのに和解って(　ﾟдﾟ)ﾎﾟｶｰﾝ 97：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ナンダカモウワカラナイヨ 98：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします オレもだ　ノ 100：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします このスレ開いた時には予想だにしなかった内容の濃さに全俺が驚いてるΣ(ﾟДﾟ；) 101：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １の心が広いって事は間違いない 102：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 禿同　ノ 103：：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 俺だったら許せないもんなぁ 105：１ 嵌めた奴は捕まったし 同僚は騙されてた訳だから誰も悪くない( ･`ω･´) ちゃんと謝ってくれたしな！！ 107：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １… 108：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １に惚れる 110：１ でも相棒に何度も姫抱きな俺 111：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おい！１！！雰囲気ぶっ壊すな！！ 113：１ だってしんみりは嫌いなんだもんおじさん 114：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします お前ってやつは…お前ってやつは(´；ω；｀)ﾌﾞﾜｯ [newpage] 116：１ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 　　　※　しんみりタイム終了のお知らせ　※ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 118：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １ｗｗｗお前ってやつはｗｗｗｗｗ 200：１ だって話したい事まで辿り付いてないんだよ！！！ 付き合ってくれよ！！！ 物壊す前に！！！ 201：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 壊すってｗｗｗｗｗｗ よしそう言う事なら！！！ 乗り掛った船だ乗ってやろうじゃないか！！ 202：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします やだ惚れるｗｗｗｗｗ 203：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします じゃあ、さっき１が振った事だし 姫抱きの回数から問い詰めてやろうかｗｗｗ 何度もって事は何度もミスってんのかｗｗｗｗｗ 205：１ ミスってないよ！！ 相棒が姫抱きに嵌って調子に乗って抱きあげるから どれが正解の回数かわからないんだよ！！！ 206：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 何で相棒は姫抱きに嵌ってるんだよｗｗｗ 207：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 嫌なら止めろよｗｗｗ 208：１ ＞＞206 判らん。俺が一番聞きたい ＞＞207 だってツン全開だった相棒が凄いキラッキラな笑顔でするんだもん 楽しそうなんだもん 周りも俺が姫抱きされるの楽しみにしてるから止められない 209：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 乙！ 210：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 周りｗｗｗｗｗｗｗ 211：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 乙！！ 213：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ここだけ聞くと相棒とリア充にしか聞こえないｗｗｗｗｗ 214：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします マジでなｗｗｗｗ でも相棒も男 って男だよな(;ﾟдﾟ)ｺﾞｸﾘ…？ 215：１ ＞＞214 安心しろ！男だ！！ 215：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 安心ってｗｗｗｗｗ 同じ男に助けられながらも１はYさんに恋してるっていう(￣ー+￣)ｷﾗｰﾝ 216：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞214 何故聞いたし？ 217：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １なら女性に姫抱きされそうでｗｗｗｗ 218：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １だもんな 220：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １が予想以上杉るもんなｗｗｗｗ 221：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 他にも探れば何か出てきそうな気がしてならないっていうｗｗｗｗｗ 222：１ ＞＞221 もう無いって！！！ 相棒の時も真っ赤だったんだけどさ それ以上にトキメイて仕方ない 223：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします でもさぁ嫌われてるって思ってたからじゃないのか？ 顔合わすたびに喧嘩してた仲なんだろ？ 224：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします お前まだ言うか！！＞＞223はやらかした奴だろ！ 225：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞224 正解！！吊り橋やらかした俺だ でもさ１が不幸体質だから心配杉て 一時の気の迷いなら覚まさせた方が良いかなって思ってさ やらかした俺が言うのもナニだけど幸せになって欲しいって思うから切実に！！ 226：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞223　当事者だから言える言葉だもんな １？そのこの所どうなんだ？ 227：１ ＞＞225　＞＞226 ありがとうな！！！心配してくれて 吊り橋じゃないよ！言い切れる！ だって、ほわほわ温かくて話しかけてくれるだけで幸せなんだぜ？ 笑ってくれたらこっちも笑顔になる 悲しそうにしてたらこっちも悲しくなる 喧嘩しても前は落ち込まなかったのに落ち込む ちょっとでも触れあえたらウワアアアアア！！！ってなる で、この前物壊した…＿|￣|○ il||li 恋じゃなきゃなんなんだよコレｗｗｗｗｗ 228：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 壊すなｗｗｗｗｗｗ 229：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします うわああああ！！！！！！ 三十代後半のおじさんなのに甘酸っぱい！！！！！ 230：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします シンミリに戻さない１に惚れるｗｗｗｗｗ 231：１ ＞＞229 言うなよ！！ 俺が一番思ってるんだから！！！ 232：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 思ってるんだｗｗｗｗｗ 233：１ ＞＞232 思ってるし自覚してる(*´ω｀) だから惚気てしまいたいし　相談したいんだって！！ また物壊しそうだし 俺、壊し屋だし 二度ある事は三度あるっていうから！！ 234：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ちょ！！１ｗｗｗｗｗ 235：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もう壊してるんだｗｗｗｗｗ 236：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 壊し屋ってタイガーかよ！！ 237：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします そう言えば似てるよなぁ 姫抱きとか姫抱きとか姫抱きとか 238：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ｗｗｗｗｗｗｗ 239：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします そ　こ　か　ｗｗｗｗｗｗｗ 240：１ ＞＞236 人事じゃなく感じる( ´∀｀)人(´∀｀ ) 壊してこれ以上嫌われたくないから叫ばさせろ！！ 241：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします いいぜ？話せよｗｗｗｗｗ こちとら全裸なんだ！！！！ 242：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞241 服を着ろ！！ ほら俺の服を貸してやるから( ・∀・)つ　服 243：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞243 いらねえよ！！！　 返すぜ！ほら！！　服　ﾍ(´∀｀ﾍ) 245：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします さっさとノロケろ！！！ ＞＞241　＞＞242　は服の譲りあいしてないでコレでも飲め( ´・ω・｀)_且~~ 246：１ おまいら(´；ω；｀) じゃあ叫ぶな？ 247：１ 全く意識してなかった時の普通に話せてた俺カムバック！！ キョドって不審者杉て逆に心配されたんだよ！！ この前だってYさん紅茶好きだから紅茶美味しい店に誘おうと思ったんだけど 248：１ 俺：紅茶好きですか！ Yさん：はい？ええ好きですが？ 俺：そうですか！ Yさん：K？　 俺：(ﾟ□ﾟ;)ｱﾜﾜ(;ﾟ□ﾟ)ｱﾜﾜ Yさん：K？ ってテンパって誘えなかったんだ Kってのは俺の名前 249：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします テラ不審者ｗｗｗｗｗｗ 250：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １が予想通りにテンパってるしｗｗｗｗｗ 251：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なんか１が可愛いく見えて来た(*´д｀*) 252：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 落ち着け三十後半のおじさんだ でも相棒に姫抱きされてるんだよな｡･ﾟ･(´∀`*)ﾟ･･ 253：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします （*＾b＾) ｼｰｰｯ!! 254：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします Yさんが名前呼びなのが気になるんだが( ﾟдﾟ)ノ 255：１ ＞＞254 名前呼びして下さいって頼んだ過去の俺GJ！！ でも名前呼びに余計に不審者になる俺｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡ 256：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 自分で墓穴掘ったんだｗｗｗｗｗ 嬉しいんだか心臓に悪いんだかあっちこっちなんだなｗｗｗｗｗ 257：１ ワイルドに誘いたいのに！！ 叫んでも落ち着かない！！ 落ち着く方法教えてくれないか？ 相談したい事ってソレなんだ（；＞＜） 258：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ようやく本題かよｗｗｗｗｗ ほら落ち着け( ・∀・)つ　求攵心 259：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 掌に「入」って文字書いて呑み込むと落ち着くらしいぜ？ 260：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします あえて落ち着く方法なんだｗｗｗ いっその事、テンパりついでに告白ってのは？ 262：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 無理だろ？誘うまででアレだぜ？ 263：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします いやいやメールとかだったら大丈夫じゃね？ 264：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ああ！！ 265：１ ああああ！！！！Σ(・∀・)ﾊｯ！ 267：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします え？１？ 268：１ そういえばメールって手があった！！！！！！ 269：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 天然めｗｗｗｗｗｗｗｗ 270：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おいぃぃ！！Σ(ﾟДﾟ)ｱﾗﾏｯ！ 271：１ 会いたかったからつい･:*:･(*´∀｀*)･:*:･ 272：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします この！！この！！オトメンめっ 273：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おじさんなのに可愛いなチクショウ！！ 274：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なら安価だな 275：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ほら安価寄こせ 大丈夫きっと皆同じような安価しか考えてないから やさしいのしかよこさないから！！ 276：１ 頼んだ！！忙しい人だから直ぐにメール来ないかもしれないが… 信じてるぜ！！！ >>280 278：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 信じろ！！ 安価なら 今、時間いいですか？ この前に言いかけた紅茶の事なんですが… 279：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします よし来た！！ 「紅茶の美味しい店見つけたんですが…」 280：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 忙しいのか… 安価なら 今度紅茶の入れ方教えてくれませんか？最近嵌ったんです 281：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 紅茶に嵌ったんですがお勧めな茶葉教えて貰えませんか？ 282：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 紅茶はレモン派ですか？ミルク派ですか？ストレート派ですか？ 283：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします うし！！ 285：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 紅茶で揃ったなｗｗｗｗ 286：１ 皆が優しい(　；∀；) ｼﾞｰﾝ でも俺ん家紅茶用品ないんだが… ＞＞280把握　送った 287：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします よくやった！！そして買え！！！ 289：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ないのかよ！！かくいうオレも持ってないけどな( ´∀｀)ノ さて返信来るまで待つとするか 290：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします だな！ 返って来るまでYさんの何処に惚れたのか問い質してやろう！！ さあ！惚気ろ！！惚気るんだ！！ 291：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ほらほら、早く白状しろ((´∀｀)) もっと白状すれば落ち着くかも？だぞ！！ 292：１ え？え？ 293：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なあ何処に惚れたんだ？ 294：１ うわぁぁ照れる　(ﾉ∀＼*) 295：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 今更だろｗｗｗｗｗｗ 296：１ まあなぁｗｗｗいいか！良く聞け！！ 真っ直ぐな所だろ？厳しいんだけど優しい所だろ？ 微笑んだ顔も好きだ 297：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ほうほう 298：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ほうほう 300：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞297　＞＞298 おまいらｗｗｗｗｹｺ―('A`)人('A`)―ﾝしろｗｗｗｗ 301：１ 声も好きだから名前呼びにキョドって仕方ないんだ 後は伏せ目も好き ｋｗふぁｊｋｐｓｄ！１！メールきた！！ 302：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もちつけ！！！ 303：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もちつけ！ どんなメール来たんだ？ 305：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ｗｋｔｋ！！！ 306：１ どうしよう。づうしよう メール ではあなたの家で入れ方お教えしますってきた 307：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おお！！！ 309：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします オメ！！ 310：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします よっぽど物壊されるの嫌だったんだろうなYさん 311：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １の家なら物壊しても問題ないもんなｗｗｗｗｗｗ 312：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 変換ミスに突っ込んでやらないっていうｗｗｗｗｗ 返信の安価！！ほら早くﾏﾀﾞｧ?(・∀・ )っ/凵⌒☆ﾁﾝﾁﾝ 314：１ 悪い！！携帯落としてた(；´∀｀) >>318 315：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もちつけｗｗｗｗｗ 「来てくれるんですか！楽しみです！いつ来てくれますか？」 316：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もちつけｗｗｗｗｗ 可愛さに変な安価出しにくいじゃないか！！ 安価 嬉しいです！何時来てくれますか？ 317：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ありがとうございますｖケーキとかも好きですか？ 318：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １の家、紅茶用品ないんだろ？ まだ紅茶初心者なんで用意するものあったら教えてください。ポットとか要りますか？ 319：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします お茶受け用意して待ってます。 320：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞318　GJ！！ １の家なかったもんな！ 321：１ 送った 俺ん家来るのか？Yさんが？うわ！！どうしよう！！！ 322：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 大丈夫！壊しても１の持ちモノだ！ 324：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします だが襲うなよ？ 325：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 襲わないだろ？１だし 326：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします でもうっかり押し倒して…な展開がないと言い切れない… １の不幸体質が何か呼び込みそうで(ﾟωﾟ;A) 327：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 死亡フラグ建てるの上手いから 別のフラグ建てるの上手そうって思うの俺だけか？ 328：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おまおれ　ノ 死亡フラグバッキバッキ折ってるけどなｗｗｗ 周りがｗｗｗｗｗ 329：１ フラグなんて建ててないよ！偶然だよ！！！ なんだよ不幸体質って！！ 確かに姫抱きされるけど！！！ 330：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 普通の奴は偶然でそんなに命の危機に陥らねぇんだよ！！ 332：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 新人の相棒って事は年下だろ？ スルーしっぱなしだったけどｗｗｗｗｗ 333：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 男って事しか知らないもんなｗｗｗ 年上の新人っていうのもいるぞ？ だが年下でも年上でも姫抱きされる１ってｗｗｗｗｗ 334：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします Yさんには姫抱きされた事ないのか？ 335：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします されたいか？ 336：：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おまえらｗｗｗｗｗ 337：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 悪い悪い。１の反応が面白いからついついｗｗｗｗ 338：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 姫抱きに話戻したの１だしｗｗｗ 339：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします Yさんから返事来ないな？ 340：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 今日はもう返って来ないんじゃね？ 341：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします いわゆる、社交辞令って取られたか？ 342：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 忙しい人だって言ってたから今日は無理なんじゃないか？ 344：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もう一回送って置くか？念の為 345：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします さっきから１黙ったままだけどさ？拗ねた？ 346：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします そういえばずっと黙ったままだ 347：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おーい１～？出ておいで～？ 348：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おちた？ 350：１ いる Yさんきた 351：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします は？ 352：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします え？ええ？？工ｴｴｪｪ(´ﾟдﾟ｀)ｪｪｴｴ工 353：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします YさんてあのYさんで間違いないよな？違うYさんじゃないよな？ 354：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なにがどうしてどうなってる？ 355：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします まだ日は高いぞ！夢見てないんだよな？ 何が起こった！！！ 357：１ 様子おかしかったオレ心配して きてくれた くるとちゅうにメールみたらしい 358：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １大丈夫か？一杯一杯なら保守しておくから！！ 後で報告でいいんだぞ！！ 359：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 心配して来てくれるYさん優しい(　；∀；) 360：１ 大丈夫。今キッチンでYさんお茶入れてくれてる まずは、飲んでみて下さいって入れてくれてる 夢じゃない…頬抓っても痛かったから 361：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします まだ物は壊してないか？ 362：１ 真っ白になって壊してない Yさん部屋に通すだけで一杯一杯 あ、声掛けてくれてるから戻る 364：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ここはいいからYさんに集中しろ！！ 365：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 物を壊すなよ！！ 366：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 後で報告ヨロ！！ ここ保守しとくから！ 367：１ ありがと またあとで 368：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします いったか？ 369：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします いったな 370：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １にもれなくやさしいスレ住人ｗｗｗｗｗ 371：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 保護欲が沸いたんだよ。１はおじさんなのにｗｗｗｗ 372：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おじさんなのにな可愛いしなｗｗｗｗｗ 373：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ホモが増えればリア充出来る機会が増える！！！ 374：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 爆発しろ！ 375：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 爆発すろ！！ 377：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 爆発しろ！ってことで保守 378：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ホシュ 379：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 保守　Yさんが以外と１狙いだといいのに 380：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ホシュ　 ＞＞379 手煩わせられてる相手を見舞いに来るって事は嫌いじゃない事は確かだよな？ 381：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 嫌いな相手を心配して家まで行かないよ普通 382：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 助けに行くくらいだからな 383：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします あー！！！な展開してないよなぁ 384：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 逆に自分から恋愛フラグ壊さないよな？大丈夫だよな？ 385：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １だもんな… 387：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 保守 [newpage] 388：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします まだかな？遅いな？ 389：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 紅茶の入れ方ってそんなに時間かかるか？ 340：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします また物壊したのか？ 342：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 壊してても、もうアレから４時間経ってるんだぜ？ 343：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １が心配杉る 344：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします は！！Σ(ﾟДﾟ)また死亡フラグ建ててるんじゃ！！！ 345：１ ただいま！！ 生きてるよ！！ 346：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ｵｶヽ(´∀｀ )ﾉｴﾘｰ!! 347：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 心配したんだからな！！！ 348：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おかえり！！ 物壊さなかったか？ 349：１ ＞＞347 (´▽｀)ｱﾘｶﾞﾄ! ＞＞348 壊してない！！ 350：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なにしてたんだ？遅かったじゃないか？ 351：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 恋愛フラグは壊してないだろうな？ 352：１ 壊してない！！建てた！！！！！ 353：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします はい！！え？なんですと！どういうこと！ 354：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします え？Yさんに建てたんだよな？え？あの１が？？ 355：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします kwskしろ！！ 356：１ 悪い！！報告するな！！ Yさんと両想いになりました/////// 357：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします はいぃぃ！？ 358：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 嬉しいのは判るが経緯をだな！！！ 359：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします どうしてそうなったんだよ！！！ 早く教えろ！！ 360：１ Yさんが家に来たんだ。紅茶セット持って 紅茶入れに来ましたって 俺(　 Д )　ﾟ　ﾟ お邪魔ですか？って聞かれて首振って部屋へお招き 掃除しておいてよかったε=(｡・д・｡)ﾌｰ 362：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします そいや１って子持だったんじゃ？お子さん同伴？ 363：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ああ！！！ 364：１ 単身赴任なんだ俺 子供は田舎でいるんだけどこの前の事でYさんに懐いた 迷惑かけちゃだめって言われてる 365：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ｗｗｗｗｗｗ 366：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なら二人っきりか…よく物壊さなかったなｗｗｗｗ 367：１ ＞＞366 俺がびっくりしてる でだ。 真っ白になったまま俺はYさんが紅茶入れてくれるっていうからチョコンと座って待ってたんだ 俺の家なのにYさんがお茶出させる俺って(￣■￣;)!?ぐるぐるしてた でオマイらのススメでシュテオチた 368：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 入れ方指南だからいいんじゃね？ 369：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 持て来た物壊されたくなかったんだろｗｗｗｗｗｗ 370：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします お･だ･ま･り♪||￣ｰ)b(ｰ￣;) 371：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします そこからどうなった？ 372：１ 出してくれた紅茶黙って飲んでたらYさんが 体調が悪いのですかって聞いて来た 俺一年位体調崩して仕事休んでたから 373：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 体大丈夫なのか？ 374：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もう平気なのか？ 375：１ ＞＞373　＞＞374 もう大丈夫！！見事復活！！！ だから挙動不審な俺が体調不良だって心配してくれるYさんに申し訳なくて 違います！もう直りました！！って拳握って言ったら では、何故私の前で落ち着かないのですか？ 私が　だからどう接していいのかわからないとか？ って 376：１ Yさんも色々と重いモノ背負ってるって知ったのあの時で 結構ヘビーな内容なんだ だからソレを知ったから俺がキョドってるのかって 377：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １が重いっていうくらいに重いんなら聞かない方がいいな… 378：１ ＞＞377 そうしてくれ。聞かれても言うつもりないし 俺は慌ててそんな事無いって否定したら では何故？落ち着かないって問い詰められた 378：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なんて答えたんだ？ 379：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ここで告白したのか！ 380：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 好きだからって答えたのか！！ 381：１ その前にYさんが 私が貴方を好きだからですか？ 気が付いていたから動揺しているのでしょうって 382：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします マジでか！！！！！ 383：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なに！この最初とのテンションの落差！！！ 384：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします おまおれ　ノ Yさんも好きだったんだ！！！よかったな！！ 385：１ え？って聞き返した。空耳って俺が都合よく聞き間違えてるのかって そんな俺にYさんが 私に会う事が嫌でしたら違う人と担当変わって貰いますからって 俺は慌てて違うって言ってた 会いたくなくなんてない！！ただアレは慌てて！！！ 嫌いじゃない！！ってな事言ってたと思う 386：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なんだろムズ痒いっ！！！ 387：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １がどう思ってるか知ってるから会話がバカップルにしか聞こえないｗｗｗｗｗ 389：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 甘酸っぱぁ 390：１ ならどう思っているのですかって聞かれて好きだって答えてた(///∇//) 391：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします よく言った！！！ 392：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします テンパって物壊してた１がﾟ･*:.｡..｡.:*･゜ヽ( ´∀｀)ノ･゜ﾟ･*:.｡..｡.:* 393：１ 勢いで言ってからモジモジ(*ﾉﾉ)ｷｬ Yさんがそれはキスとかそういうもの込みの恋愛感情ですかって聞いてくるから そうだよ！って答えた俺真っ赤 394：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします こっちも真っ赤だよ！！！ 395：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします よかったな！！(〃￣ω￣〃 396：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします と言う事は　あーー！！だったのか？遅かったんだし 397：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします あーー！！したのか？？ 398：１ まだしてないよ！！！ チューだけだよ！！！ 400：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします まだって事は((((oﾟ▽ﾟ)o))) ﾄﾞｷﾄﾞｷ♪ 401：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします チュー////// 403：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします チューしたんだｗｗｗｗｗ 404：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします したいんだｗｗｗ 405：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします どっちがどっちなんだろｗｗｗｗｗ 406：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします なあなあ、チューしたのどっち？ 407：１ おまいら… 照れる俺に顔見せて欲しいっていってチューされた(///ω///) どっちって…俺はどっちでもって言わせるなよ！！！ 408：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 答える１は男前！！！ 409：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 答えてるしｗｗｗｗｗ 410：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします チューされてるんだから押し倒したいのかもよ？ いいのか？押し倒されても？ 411：１ Yさんならって言わせるな！！！！！ 412：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ｗｗｗｗｗ 413：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします １ｗｗｗｗｗｗ 414：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします もうこの展開の早さでゴールインしちゃえ！！！ 415：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします だなｗｗ１も腹括ってるしｗｗｗｗｗ 416：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 壊したら駄目だから襲われておけ！！ 417：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします やさしいんだか鬼なんだかｗｗｗｗｗ 418：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします リア充しておけ！！お前とYさんなら許す！！ 420：１ オマイラ。・°°・(((p(≧□≦)q)))・°° 421：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 不幸体質な１の幸せを祈る！！ 423：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします そう言えば１って不幸体質だったｗｗｗ 424：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 目まぐるしく展開していったからなｗｗｗｗｗ 425：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします またなにかあったら相談に乗ってやるから！！ 426：１ ありがとう！！そしてありがとう！！！ 427：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 幸せになるんだぞ！！！ 429：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 安価少なかったけどなｗｗｗｗｗ 430：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします 最少じゃね？ 431：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします Yさんが凸したからなｗｗｗｗ 433：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします よし〆るか 434：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします >>440なら相棒が絡んで来て１がスレ立てするｗｗｗｗｗｗ 435：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします ＞＞434 ｗｗｗｗｗｗｗ >>440ならYさんが１の建てた死亡フラグを折る 437：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします >>440なら一か月以内に１とYがあーー！！！する 438：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします >>440なら１はまた物を壊す 440：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします >>440なら１は末永くYさんと一緒 441：以下、名無しにかわりましてHEROがお送りします >>440ならYさんがスレ立てる

二度目のシュテちゃん挑戦！虎さんの月さんへの片恋なシュテが見たいなってな訳でやってみた。虎さんは月さんの事情を知っている設定です！！今回も色々迷子。安価なんってどうやってやるんですか！！と叫びながら途中ブッツリと保存し忘れて半分以上消しちゃったというハプニングに凹みつつも完成！！今回も生温かく見守ってください&lt;m(__)m&gt;<br />■ブクマ・評価・タグありがとうございます！！！　ご指摘あった通りに吊り橋とストックホルムは別物なんですがストックホルムでも人質が犯人に恋に落ちた例があったんで使わせていただいてます！！判りにくいんでちょっとだけ改変しました。説明不足で申し訳ありませんでした（；＞＜）　■12/2のDR入りありがとうございます！！

【話を】助けてくれた恩人を好きになった【聞いてくれ】

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春さんから突然のメールが来て３日経つ。 あれから特に何事もなく、しかし俺の心中は穏やかでなく。頭の中は常に春さんとのコラボのことでいっぱいだった。 「比企谷くん、その貧乏ゆすりをやめなさい。不快だわ」 今日も今日とて雪ノ下雪乃の毒舌は冴え渡っている。……いや、俺がおかしいのか。この三日間ずっとこの調子だもんな。 「あ、あぁ……すまん」 「……ヒッキーどしたの？」 由比ヶ浜がケータイをいじる手を止め、こちらをジトっとした目で見てくる。 「いつになく素直ね、ここ最近のあなたは見ていられないわ。どうしたというのかしら」 「ヒッキー、最近さらにキモいよ…」 「まぁ、大丈夫だ」 俺が歌い手をやっていることを言うわけもいかず。結局適当に話を濁した。 ｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀ 「……貧乏揺すりをやめなさい！」 あ、怒られちゃった。 うちのお兄ちゃんととなりの大魔王 「あ、春さんが新曲だしてる…」 結局貧乏揺すりマシーンと化した俺を雪ノ下と由比ヶ浜は鬱陶しく思ったのか、「家に帰りなさい、部長命令よ」の一声で俺は強制送還となった。 やることもないのでとりあえず日課となったボイトレと動画サイトめぐりをしていると、春さんの新曲を見つけたのだ。 「…君の知らない物語か……」 もはやアニソンの域を超えたと言っても過言ではない、supercellによる名曲である。 いつもどおりのある日の事 君は突然立ち上がり言った 今夜星を見に行こう ガチャ。 思わずヘッドフォンを机に乱雑に置く。 （持っていかれた、最初の十五秒で） それはまさしく、春という歌い手の集大成のような。 彼女の持ち味すべてがこの曲に詰まっている。 飲み込まれてしまいそうだった。彼女の放つプレッシャーに。 ……こんなプレッシャーを前にも感じたことがあったが、気のせいか？ 全部聞き終わる頃には俺は憔悴していた。 特にCメロ。やばい。 「お兄ちゃん、春さんの新曲聞いてハァハァしないでよ、キモいよ」 小町がゴミを見るかのような目で俺を見ていたが、そこは許していただきたい。 別にそういう意味じゃないんだからね！ 休日に本屋にでも行こうかと街をフラフラとしていたところ、 「比企谷くん、ひゃっはろー！」 厄日だ。 悪夢だ。 天災だ。 悪魔だ。 その声を聞くと俺は自然に身構えてしまう。そうでもしないとこの人の思うままになってしまいそうだから。 雪ノ下陽乃、うちの部長雪ノ下雪乃の姉で、俺がこの世で２番目くらいに苦手に思っている人だ。 「こんにちは。いい天気ですね、ではさようなら」 「もう、つれないなぁ。こんな綺麗なお姉さんが声をかけたっていうんだから、泣いて喜ぶとかないの？」 「あー、大声で泣きわめいてしまいそうなほどですけどね」 「そんな、泣きわめくほど嬉しいだなんて！お姉さん嬉しいぞぉ、このこのっ！」 ぐいぐいと、だが自然に距離を詰めてくる。なんなの隠密なの？てか近いです！いい匂いだしやわらかい！ 「やめてください…」 「君が嫌がる顔が見たいの…」 「それを言うなら笑った顔とかにしてくださいよ、ただの嗜虐嗜好じゃないですか」 陽乃さんは相変わらずこっちのペースを乱してくる。が、この人にかなうわけでもない。なので、逃亡というのが最善策なのだが。 「で、比企谷くんよ」 ニコッと陽乃さんはその名の通りの太陽のような笑顔を浮かべる。周りの男性たちがついつい見とれてしまうほどのだ。 「今日君とであったのは偶然じゃないんだなー」 「運命とでもおっしゃるんですか？それとも神の采配とでも？俺は無神論者なんですが」 「私の采配だよ」 なんなのだろう。この人は、私の方が神より上とでも言いたいのか。そりゃ天下無敵の大魔王さまだけども。 「今日は君に見て欲しいところがあってね」 「見て欲しいところ…？」 ナチュラルに陽乃さんに手を引かれて歩くこと２０分。 市街地からは少し離れて、喧騒とは無縁の路地に入った。 「ここで俺陽乃さんに闇討ちされたりしないですよね」 「失礼な！……見られたら困るから、ここなのよ」 形の良い唇に立てた人差し指を当てる。それはそのまま俺の口にも当てられ、「このことは秘密ね？」と可愛らしく首をかしげていった。柑橘系の匂いがふと鼻をくすぐった。 いまだ握られっぱなしの右手がやけに熱い。手汗、ひどくないだろうか。 それからまだ１０分位歩き続け、引きこもりな俺の体力が底をつきそうになっていった頃。 「ついたよ！」 そして陽乃さんが見上げたのは周りのビルより一際汚いビル。日当たり最悪でカビの匂いが充満している。 どうしても雪ノ下陽乃のイメージにそぐわないこの場所。 「なんですか、ここ…」 「まぁまぁ入った入った！」 錆び付いたドアがギギィ、と耳障りな音を立てて開いた。 [newpage] ドアをあけて最初に目に入ったのは階段だ。中は思ったほど埃っぽくない。掃除が行き届いているのがわかる。 「さぁさぁ上がって！」 陽乃さんが手を引くままに階段を登る。一体何階分上がったろうか。全く息を切らさない陽乃さんの細い体のどこにそんな体力が秘められているのか。 「ここって……」 「ようこそ比企谷くん」 登りきった先にあったのは、音声スタジオだった。 それもかなり本格的で、ビルの外観からは想像もできないほどに設備は整っている。 中には何人か人が居る。どうやら楽器の調整など行っているようだ。 「陽乃さん、音楽やってるんですか？」 あまりにも意外で驚いた。いや、文化祭などで音楽にもその才能を遺憾なく発揮している姿は目にしているのだが、本格的な趣味になっているとは思っていなかったのだ。 「そだよ、そんな意外？」 「ええまぁ、割と驚いてます」 そっかーとこの人にしては珍しいくらい柔らかく微笑んだ。 「比企谷くん、私の用事っていうのはこのスタジオを見せることだけじゃないんだよ」 陽乃さんがそう言うと中で楽器の調整をしていた女性がこちらに気付いたようで、飛び出てきた。 「ハルさーん！おめでとーですっ、君の知らない物語、再生回数ミリオンですよーっ！」 ん？ 「…君の知らない物語、はるさん、はるのさん、春さん……まさか」 まさか……。 いやなよかんが、する。 ギギギギっと油の切れたロボットのような動きで陽乃さんに目を向ける。彼女は満面の笑みでそこにたっていた。 「説明する手間が省けたね！そうです、雪ノ下陽乃、歌い手としての名前は春。よろしくね、専業主夫さん？」 小町、お兄ちゃんは、大魔王から逃げられないようです。

歌い手のやつです。<br />もう忘れ去られていたらどうしようと思いつつ。<br />今回はhrnさんが登場しますよ( ´▽｀)ﾉ<br /><br />シリーズにしました(°°)

うちのお兄ちゃんととなりの大魔王

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「長兄交換日記」とは、 カラおその二人に四日間、四つのテーマで交換日記をしてもらう企画である。 ずっと心に引っかかっていたことや、 普段はなかなか言うことのできない言葉を、 互いに赤裸々に綴っていくことで、 関係を見直すきっかけになり、 二人の絆がより深まっていく――？ ◇ルール◇ ・次の四テーマで互いに日記を交換する。 「ムカついていること」 「秘密にしていること」 「ごめんなさい」 「ありがとう」 ・日記は恋人がいない一人の場所で渡される。 ・日記を作成する際も一人で書く。 [newpage] ○月×日　カラ松 おそ松へ。 今この瞬間より日常の綴りを交わすことに成った。此れを機会に、依りお互いの深い部分を知ることが出来たら良いと思う。 さて、本日定められし題目は「ムカついていること」だ。唯一無二の愛しい恋人であるお前に何を腹を立てることが有ろうか！　……と言いたい所ではあるが、すまん、正直一つだけ言いたいことがある。今更お前のクズさに異を唱える気は微塵も無いが、此れだけはどうしても我慢ならないから、これを機会に言わせて貰う。 「出先で知り合った男に軽率に着いていって食事やら酒やらを奢って貰うのは辞めて欲しい」。 他人の金での飲食が頗る楽しいのは俺も理解しているし共感する。愛嬌のあるお前のことだ、初対面の人間にも直ぐに気に入られて、食事に誘われたりしているのだろう。だがそれだけに心配だ。誰にでも其の天使の如く愛らしい笑顔を向けて勘違いさせてはいないか？　只でさえパーソナルスペースが狭いお前が、俺の預かり知らぬ所で知らない男にベタベタスキンシップを許していないか？　俺は毎日気が気じゃない。 この間なんて口付けを赦したそうだな？　言語道断！　お前が思っている以上に世の中には怖い人間が蔓延っている。もしかしたら襲われるかもしれない。男はみんな狼！　肝に銘じていて欲しい。 今日はこのくらいにしよう。 お前が綴る字を見るのは久しぶりだな。返事を楽しみにしている。 [newpage] ○月△日　おそ松 おまえの日記よみました。まずさあ、おまえ「日常の綴りを交わすことになった」って何よ。こうかん日記始めるよーでいいじゃん。あと「本日定められし題目」って。テーマでいいじゃん。おまえいちいち言い回しがまわりくどいんだよ！　よみにくい！　ふつーに書いて、ふつーに！　あとあんまりむずかしい漢字つかわないで。綴るとかにちじょう生活でまずつかわなくない？　オレチョロ松によみかたきいちゃったんだけど。ゴミを見るみてーな目で見られちゃったよ？　おにーちゃんにそういうしんどいおもいをさせたくなければ、ふつーによめる文しょうを書いてください！　んで、オレが知らない人とメシとか行くことについてだっけ。別によくない？　おまえしんぱいしすぎなんだって。みんなフツーにいい人ばっかだし。世の中そんなホモだらけでたまるかっつーの。てか、「男はオオカミ」とか言ってっけどオレも男だかんね？　かよわい女の子じゃないんで。そこよろしく。あとキスされたとか言うけどほっぺにだから！　ノーカンでしょ。おまえはいちいちおおげさなんだよ。まあ、でもおまえが気になるなら、これからはちょっとひかえるけどさ。じゃあ次オレのばんな！　オレもおまえにムカついてることあるからな！　まず、おまえオレばっかりみたいに言ってるけど、今もちょいちょい逆ナンまちしてんのオレ知ってっからな！？　オレからすりゃそっちのほうがハラたつわ。なに？　オレだけじゃフマンですか？　ウワキですか？　ちょームカつくんだけど！　オレばっかソクバクしといて自分は女の子ねらってるとかずるくない！？　これなにげにずーっと思ってたかんな！　いいわけがあるならきいてやるけどさ！　あと、さっき書いたけどおまえ言い回しすっげーめんどくさい！　文しょうもだけど口も！　たまに何言ってんのかわかんねー！　あと弟いる前でイチャイチャしようとすんのやめて。こうかん日記なんて初めてだからなにかけばいーかわかんねーや。今日はこんでおわり！ [newpage] ○月□日　カラ松 とりあえず、お前に指摘された点。言い回しが面倒と言われてしまったから、簡潔な文章を心がけるようにする。読みにくさについてはすまなかった。 ただ、漢字はちょっと頑張ってくれ。というか、お前ももう少し漢字頑張って書いて欲しい。ひらがなばかりだと、さすがにちょっと読みにくい。チョロ松が電子辞書持ってるから、借りるといい。それから改行もしてくれるとなお助かる。一続きの文章は読みづらい。 それから、逆ナン待ちの件！　それは誤解だ。あれは別に女性から声を掛けられることを求めて行っているんじゃない。想像してみてくれ、橋で黄昏る俺の姿。最高にクールだろう？　そういうことだ。俺のクールな姿で世の中を平和に導くためにやっていることだ。誤解をさせてしまったなら悪かった。良ければ今度は二人で行こう。おそ松も俺と同じ顔なんだから、きっと画になると思う。その時は俺のパーフェクトファッションを貸してやろう。 それじゃあ今日のテーマについてだ。今日は「秘密にしていること」だったな。 秘密。秘密か。難しいな、俺達は普段からその日起きたことを報告し合っているから、秘密と言えるほどの秘密が思い当たらない。ああでも、秘密というか、一つ伝えたいことはある。 俺達が付き合い始めたのは高校の頃だった。俺から告白して、お前がOKして。そのまま今日までずっと付き合ってきた。この数年間で、俺が一度だけ、お前とのデートの約束をキャンセルしたことがあった。 覚えているか？　高校を出たばかりの頃だ。あの時はオープンしたばかりの水族館に二人で行く予定だった。俺に用事ができたから延期になって、一週間くらい後に改めて行ったんだったよな。 すまん、あの時、本当は用事なんてなかったんだ。俺は水族館に行くのをすごく楽しみにしていたのに、お前があまりにも無関心だから、腹を立ててついあんなことを言ってしまった。用事があるといった手前出かけてしまったが、あの日は結局ゲーセンをうろついただけだった。自分でもバカなことをしたと思ったよ、帰ったらおそ松がパソコンで例の水族館のHPを眺めてて、俺が帰ってきたのを見て慌ててブラウザを閉じていたな。すまん、本当はあの時、すごく楽しみにしていたんだよな。俺がくだらないことで拗ねたせいで先延ばしにしてしまった。本当に今更だけど。あの時は俺も若かったから、どうしても本当のことが言えなくて、実はずっと苦しかったんだ。文字だけど、吐き出せてちょっとほっとしている。 ええと、こんなところだ。すまん。俺も正直どう締めくくっていいのか分からない。返事を待ってる。 [newpage] ○月◇日　おそ松 お前が言うからチョロ松に電子辞書借りてきた。これスゲーな、めっちゃ色々入ってんの！　現代語辞典ってやつちょーおもしろいから、あとで一緒に見ようぜ！　あとたそがれるってのはよく分からねーけどとりあえず遠慮しとく。 あ、改行な！　忘れてないよ！　ほめろ！ 改行するぜ！ そんで、昨日の「お前の秘密」ってやつな。覚えてるよ、水族館。いやーあれね、お兄ちゃん実はちょっと楽しみだったんだよね。あんまり顔に出てなかったかな。でもお前に用事ができたことは仕方ないと思ってたし、その時ショックだったかどうかなんてもう覚えてねーや。だからさ、今お前にすまんって言われてもピンとこないし。まあ気にすんなよ。あの頃はオレも若かったし、オレがもっと素直にしてりゃあ良かった話でもあるわけだからね。 まあ、それでさ。この流れで言うけど、オレもあるわ。秘密。もしかしたらお前スッゲー怒るかもしれないけどさ、でもお前も言ってたみたいにだまってるのってけっこーしんどいじゃん。だから言うな。 付き合いたての頃、お前バイトしてさ、ペアリング買ってきたじゃん。顔真っ赤にしてさ、恋人だから、って。一ヶ月くらいして、オレあれ無くしちゃったじゃん。結局あのまま見つかってない、ってことになってるけど。 ごめん。本当はあれ、無くしたんじゃない。捨てたんだ。 オレさ、お前に告白されたあの頃って、人生最大に「長男」って立場に酔ってたんだよね。そりゃーもう、べろんべろんに酔ってた。オレはお兄ちゃんだから、弟のことはなんでも知ってる。お兄ちゃんだから何が家族のためなのか一番知ってる。本気でそう思ってた。だからお前に告白された時もさ、「あーこいつ分かってねえな」って思ってた。家族のことなんにも考えてねーなーとか、バカなカラ松のことだからブラコンこじらせて勘違いしてるんだろうな、勢いだけで覚悟も何もできてないくせに、とか。そんでそれをそのままお前に言ったら、「そんなこと死ぬほど考えた」って、お前は泣きそうな顔で言った。びっくりした。考えた上で本気で言ってるんだ、ってびっくりしすぎて、それじゃしょうがねえや、断る理由無くなっちゃったって、そんな軽い気持ちでオッケーしちゃったんだ。お前のこと好きでもなんでもなかったのに、勢いでオッケーしちゃった。 でもさしばらくは平気だったんだよね。お前すっげーウブだったから、チューどころか手を繋いだりもしなかったじゃん？　今までよりちょっと一緒に行動することが増えた程度で、だからあの時はまだオレは、気持ちだけはお兄ちゃんでいられたんだよね。でも、ペアリング渡されちゃってさ。「恋人だから」って、お前がすっげー愛のこもったあっつい目で俺のこと見てきてね、オレ頭がつーん！　って殴られた気分だった。その時やっとカラ松が俺のこと兄ちゃんじゃなくて恋人って思ってるんだって分かった。それでも、オレはお前のこと恋人と思えなかった。かと言って、熱い視線で見てくるお前をただの弟とも思えなかった。長男っていうお立ち台にずっとあぐらかいてたのに、オレはオレがお兄ちゃんなのかカラ松の恋人なのか分からなかった。どっちにもなれなかった。ずっと長男だった俺には、自分の立ち位置が分からないってこと、それがものすげーショックで、苦しくて、ペアリング見るたびに胃の中がムカムカして頭がぐるぐるして吐きそうだった。だから捨てた。 あの時のこと、あんまり話してなかったよな。なんで告白オッケーしたのかって、お前は何度も聞いてきたけど、オレは一度も答えなかった。それは、こういうワケです。これがオレの秘密。今更謝るつもりも、許してもらおうなんてつもりもない。でも今はカラ松のことすっげー大好きだよ。これだけは信じて欲しい。 なんかいっぱい書いちゃったな。えっと、変な空気になっちゃったけど、これでおわり。気を抜くと改行忘れちゃうな。気をつけるわ。 [newpage] ○月☆日　カラ松 まず、ちゃんと漢字も調べて書いてくれて、改行もしれてくれてありがとう！　すごく読みやすくなった、さすが俺の兄貴！　最高だ！　GoodJob！ それで、ペアリングの件。そうか、あれ捨ててたんだな。全然見つからなかったから俺ももう半分以上諦めていたけど、そうだったのか。いや、なんというか、全然ショックではないんだ。嘘じゃない。そりゃ物凄く驚いてはいるんだけど、心のどこかで「そうだよな」って納得がいったというか。 俺も付き合い始めた頃の話をする。キスはおろか手さえ繋げなかった俺を、お前はウブだからって理由だと思っていたみたいだが、それは違う。いや本当は半分位は合ってるんだけど、もう半分は違う理由がある。 あの頃のお前、俺に怯えてたんだよ。いつも通りへらへらしてるんだけど、どこかちょっと強ばってた。俺がおそ松に声をかけると、いつも緊張していた。すごく微妙な違いだったし、お前が自覚していたかどうかは分からないけど、俺にはわかった。多分あいつらも何人かは気づいてたかもしれない。 薄々分かってたんだ、お前は俺のこと、そういう意味では好きじゃなかったよな。少なくともあの頃は。今のお前の気持ちを疑う気は少しもないから、そこは信じてくれ。 そんなわけで、俺はお前に触れなかった。お前を怖がらせたかったわけじゃなかったからな。お前が無理をして俺に付き合っているのは分かってたけど、それでも、俺はお前に「別れようか」なんて言えなくて、知らないふりしてずっと付き合わせてた。俺、結構ずるい奴なんだ。嘘でもいいって思ってたんだよ。恋人って立場におそ松が収まっててくれるならなんでもいいと思ってた。それで、その繋がりをより強固なものにしたくて、だからお前にペアリングを贈ったんだ。 俺のためでもお前のためでもない。愛の証明なんかじゃない。意味的に言えば指に付ける首輪みたいなものだった。お前を恋人に縛り付けるために買ったんだ。そうでもしてないと不安だった。 だからかもしれない、おそ松がペアリングを無くした、って言ったとき、ああやっぱり、って思った。指輪って結婚式で交換するくらいだから神聖なものだろう？　それを邪な意思を持って束縛のために使ってしまったから、だから神様が指輪を隠したんだ、バチが当たったんだ、って。 とりあえず、怒ってはいない。むしろ、この件について謝らなければならないのは俺の方だ。ずっとお前を縛り付けていてごめん。俺を好きじゃなかったお前を縛り付けてごめん。 それからもう一つ。おそ松は、「兄なのか恋人なのか分からなかった」と言っていた。その表現に合わせて言うなら、俺はずっと、それこそお前に告白して、お前が頭を悩ませていたその頃から、兄の方のおそ松を消してしまおうとしていた。お前が兄としての立ち振る舞いをしようとするのを邪魔していた。今もだ。今も現在進行形で、お前から兄の立場を奪い去ろうとしている。お前から兄を奪えば、兄じゃなくなれば、俺の「恋人」であるおそ松だけが残ると本気で信じていたんだ。お前の日記を読むまで、この行いに疑問を感じたことなんて一度もなかった。もしかしたら過去のお前を、兄としてのおそ松を苦しめていたのは俺の行いなのかもしれない。 本当にすまない。 ところで、「カラ松のことすっげー大好きだよ」って一文、あとで朗読して録音させてくれ。 [newpage] ○月◎日　おそ松 怯えてた、かあ。うーん、自覚してたかどうかって言われると、言われてみればそーかも？　くらいの感じ。でも確かに、そうなのかも。怯えてた、多分それが一番近い。 確かにオレ、お前に声かけられたときビクッてたわ。デートしようとかチューしようとか言われたらどーしよ！？　っていっつも思ってたもん。結局お前一年くらいまっっったく手ぇ出してこなかったわけだけど！　逆に不安になったわ！ ペアリングの件、怒らないでくれてありがと。うん、これずっと胸に引っかかっててさ。いつかは言わなきゃ、でも言いたくねーなー、ってモヤモヤしてた。言えてよかった。交換日記ってのも悪くないね、こういう意味ではさ。でもねー、お前がどんな意味でくれたリングだとしても、それを知った今でも、あの時リングを捨てたこと、オレは後悔してるよ。お前がオレのためにくれたものを気持ちごと捨てたっていうことに変わりはねーから。だからお互い、このことでウジウジすんのは無しにしよ！　それにほら、今は新しい指輪、お互いはめてるワケだし？ それから。兄を消そうとしてたって話。イマイチぴんとこなかった。兄になろうとするオレを邪魔してたってお前は言うけど、オレ的にはそんなこと思ったこと、一度もなかったよ。オレはお前がガス抜きしてくれてるって思ってた。お前の言葉を借りるなら、カラ松に兄を奪ってもらうと、オレはすげー気が楽になったんだ。あ、オレ、今おにーちゃんじゃない！　おそ松だ！　みたいな。 お前らって、なんかオレのことすげーお兄ちゃん！　みたいに思ってるフシあっけど、全然そんなことねーの。オレってば首突っ込まないほうがいいって分かってんのにわざわざ引っ掻き回したり、逆に手を貸してやんなきゃいけないのに知らんぷりしたり、そのくせ自分がやったこと後悔したり。ガキのころは「ビバ長男！」って思ってたけど、今は時々、長男すんのめんどくせーなって時もある。だからな、お前がオレの代わりに兄ちゃんしてくれたり、オレを「おそ松」に戻してくれると、すげーホッとしたんだ。オレさ、けっこーしょうがないヤツなんだよ。お前に「これだからおそ松は！」って呆れられんの、実はちょっと好きなんだ。おにーちゃんとしてじゃなくて、オレを見てくれてるみたいでさ。お前、いっぱいごめんっていうけど、むしろオレちょー感謝よ？　カラ松大感謝祭よ？ そうそう、今日のテーマってごめんなさいだよな。オレ的にはさ、オレの方がこんな長男でごめんねーって感じだよ。こうやって時々お前が息抜きさせてくれるから、オレは全然反省しないで、いつも適当やって、あいつらの引っ掻き回しちゃいけないシンコクな問題を引っ掻き回しちゃってると思う。いつもお前がフォローしてくれてるんだよな。お前は下心があるから、みたいに言ってるけど、実はこれすげー大変なことだと思う。お前にいっぱい任せちゃってごめんな。本当はお前、負担とかプレッシャーとか大嫌いなのに、兄ちゃん押し付けちゃって、本当にごめん。お前がオレのこと大好きだから、恋人だから、ってことにあぐらかいて、お前に甘えまくってるところは正直あると思う。ごめんなさい。こんなダメ兄ちゃんだけど、「兄弟」としても「恋人」としても、見捨てないでくれるとうれしいです。 って、終わっちゃう終わっちゃう！　この日記もう一日あんじゃん！　あっぶねー！　一人でフライングエンディングしちゃうとこだった！　やべー！ あ、あと昨日お前のサイフから諭吉さん二人連れてった！　倍にして返そうと思ったんだけど負けちった！　許して！　これもごめん！ [newpage] ○月∀日　カラ松 これが最後の日記だ。あっという間だったな。四日間にしてはやたら濃密だったような気もするが、その分実りのある機会だったと思う。 テーマが「秘密」のとき、「普段からその日起きたことを報告し合っている」って、「秘密と言えるほどの秘密なんて思い浮かばない」なんて言ったけど、そんなことなかったな。俺達はお互いの内面的なことに踏み込まないままここまで来てしまったんだな。付き合い始めた頃のお互いのこと、それこそペアリングのこととか、ずっと黙っていたら何処かで綻びが出来ていたかもしれない。交換日記をやって良かった。本当にそう思う。お前がそういうのならこのことはもうチャラだ。今は幸せなんだ、問題ない。 さて、ラストテーマは「ありがとう」だったな。 おそ松。俺を選んでくれてありがとう。俺のこと本当は好きでもなんでもなくて、断る理由がなかった、それがきっかけだったとしても、今日この日まで俺と一緒にいてくれてありがとう。 もう知ってると思うけど、俺は結構身勝手な人間なんだ。例えば付き合い始めたあの頃に、お前が正直に俺のことを「好きじゃない」と言ったとしても絶対に手放さなかったし、仮に今別れようって言われても絶対に許さない。もうお前無しじゃどうにもならない。でも、そんなわがままな俺を受け入れてくれてありがとう。 お前は俺に甘えまくってると言ったが、俺のほうこそお前に甘えまくってる。お前は何でも受け止めて、それでいいって笑ってくれるから、俺はついそれに甘えてしまう。 それに、お前に甘えられるのは、そんなに悪い気はしない。お前はいつも長男様だからな。そんなお前が長男をかなぐり捨てて俺にべったり甘えてくるの、なかなか気分がいい。変な話だよな、兄じゃなくなればいいって思いながら、お前に甘えられて嬉しい理由は「兄だから」なんて。俺も大概めちゃくちゃだ。甘えたいし甘えられたい。うん。わがままだ。でもそれは、多分お前も同じなんだろう？ お互い様だったんだな。甘えまくってるのも甘やかすのも、負担をかけてるのも助けているのも、全部お互い様だったんだ。俺達は勝手に一方的だと思って引け目を感じていたんだな。なんだ、俺達物凄くいいカップルじゃないか！ お前は最高の兄貴だし、最高のダーリンだ。そんなお前の隣に居続けられる日々を幸福に思う。おそ松と共に歩む我が人生、セラヴィ！ ああそうだ財布の件！　気付いてたぞ！　お前は本当に学習しない！　第一お前がそう言って実際に倍になって返ってきた試しがない！　そもそも以前にも同じことをして「もうやらない」って誓わせたばかりだろうが！　クズか！　カリスマクズか！ 本当にこれだからお前は！　しょうがない兄貴だ！ [newpage] 「○月※日　おそ松 これで最後の日記か。早いねー。ほんっと早い。オレ文章書くの得意じゃねーし、四日とかなげーよ！　って正直思ってたけど、けっこうあっという間だったね。 こんな機会だしさ、ちょっと昔の話させて。うっかりで付き合い始めちゃったあの頃の話。あの頃オレがお前のこと好きでもなんでもなかったって言ったし、お前も薄々感づいてたっぽいけど、じゃあオレはいつからお前のことこんなに大好きになっちゃったんだと思う？　わかんねーだろ。これね、実はくっきりハッキリ覚えてるんだよねー。♯年前の、つまりお前に告白されてちょうど一年経った春。お前が全然手ぇ出してこねーもんだから、オレは逆に不安になっちゃって意味わかんなくて、ガマンできなくてお前に言ったんだ。「これなに？」って。「わざわざ恋人にしといて、なんもしねーの？」って。色気もクソもねーよな。今でも笑える。でもお前のリアクションもめっちゃ笑えたわー！　キョトーンとして、ポカーンとして、それから顔真っ赤にしてさあ。「なななな何言ってるんだおそ松～」ってマンガみてーなドモり方して。覚えてる？　 あの時お前、初めて俺の手に触ったんだ。いやガキの頃からカウントすれば何千回も手くらい触ってんだけどさ。なんてゆーの？　こう、好きです！　ってオーラバシバシ出しながら触ったのはあれが初めてだった。そんでオレもオレで、自分で煽ったくせにビビっちゃって、あんときも固まったままだった。そしたらお前、泣きそうな顔して、「したいことたくさんあるけど、今はこれが精一杯だ」って笑った。 あの時は、自分がお前に怯えてることも、お前がそれに気付いてることも知らなかったけど、でもあの言葉は、俺とお前両方に向けた言葉だってのは分かったんだよね。お前だけじゃない、俺もまだお前とどうこうする覚悟が無くて、手を触られたくらいでもう精一杯だった。 お前に覚悟もなにもできてないくせにって言ったけど、覚悟できてないのはオレの方でさ。でもお前はそれをわかってて、それでも待っててくれるんだって伝わってきて。あーこいつめちゃくちゃオレのこと好きなんじゃん！？　って思った。つか、実際そうだったろ？　お前オレのこと大好きだもんな。それ分かったらもう、すーっげえドキドキしてさ！　人に愛されるってスバラシーね！　みたいにこう、世界がキラッキラしてさ！　だからオレもお前のこと愛したいって思った。お前にもこのキラキラ見してやりてー！　って。これが好きってことなんだなって、気付くのにはもーちょいかかったけどさ。 そんなわけで、さ。カラ松。ずーっと言ってなかったけど、俺に「好き」とか「愛」とか、そういうのを教えてくれたのはお前なんだよ。一年遅れだけど、あの時からずーっとオレはお前のことが好きだ。オレに「好き」を教えてくれてありがとう。世界がキラキラするこんな気持ち教えてくれてありがとう。カラ松のこと好きにさせてくれてありがとう。オレのこと、好きになってくれてありがとう。 こないだの日記で録音させてくれって言ったな？　いらねーだろ。聴きたくなったらこれから先何回でも言ってやるから、そーいうのは直接オレに言うこと！ もう日記も終わっちゃうな。これで、本当に最後だ。 世界中でいっちばん大好きなカラ松、オレの最高で最愛のダーリン！　愛してるぜ！」 ばたん、と勢いよくノートを閉じて、おそ松は無言のままノートを差し出した。震える手でそれを受け取るのは、今まで彼の目の前で、彼が読み上げる最後の日記を聴いていた、彼の最愛の弟だ。 「おそ、まつ」 「……」 「あの、……俺も、愛し」 「だああああっ！」 カラ松が紡ごうとした愛の言葉を、激しい奇声が遮った。言葉にならない声を喚き散らして頭を掻き毟るおそ松の顔は羞恥で真っ赤に染まっていて、目元にはうっすら涙も浮かんでいる。 「なにこれ！？　なんで最後の日記だけ朗読しなくちゃいけないの！？　今までみたいにオレの知らねーとこで勝手に読んでくれりゃあいいじゃん！　なんでオレだけこんな羞恥プレイ受けなきゃなんねーの！？　オレこーいうの好きじゃないんですけどお！　スタッフ！　おいこらどっかで見てんだろスタッフゥ！　ぶち殺してやるから出てきやがれ！」 「お、おお落ち着けおそ松！　恥ずかしいのは分かる！　分かるが落ち着け！」 「落ち着いてられっかばかくそうんこばーか！　ていうかお前もニヤニヤしてんじゃねー！」 「おそ松の罵倒はうんこと馬鹿しかないのか……」 殺せねーなら死ぬ、今すぐ死ぬ！　と騒ぎ暴れるおそ松を羽交い締めにしながら、カラ松は緩む頬を抑えられない。一人で書き、一人で読むと定められた文章でなら、彼は素直な言葉を紡いでくれた。願わくば彼の声に乗せて聴きたいとずっと思っていたが、まさか叶うとは思わなかった。 始めは普通に読んでいたおそ松だったが、日記が進むにつれてじわじわと声が震え、ところどころでつっかえ、最後はやけくそのように叫んでいた。その可愛らしい様子を思い出すと、心臓がムズムズとくすぐったくなってしまう。 「だあくそ離せ馬鹿！　オラァスタッフゥゥゥ！」 「あっ、おそ松！」 カラ松の静止を振り切って、おそ松は部屋を飛び出して行ってしまった。野太い怒号が廊下の向こうへと遠ざかっていく。もうこれは追いかけても無駄だろう。溜息をつき、そこでふと手に持ったままだったノートに目を落とす。 本当に良い企画だった。普段はあまり素直に自分の感情を吐露しないおそ松から、素直な言葉がたくさん聞けた。今日朗読された日記の内容を思い出し、溶けてしまいそうな幸福感に包まれる。 思い出を辿るように、これまでの日記を読み返す。読み返しながら、文章を書いたとき、読むとき、返事を待つとき、緊張や不安でずっと忙しなかった鼓動を思い出し、また笑う。 そうだ、そういえば今日の日記の中で、頼めば愛の言葉なんていつでも伝えてやると彼は言っていた。それならばもう一度この日記を朗読してもらって、幸せを繰り返し噛み締めたい。なんなら今までの日記も是非声に乗せて聞かせて欲しい。 そう思いながら最後のページを開いたカラ松は、思わずピタリと手を止めた。 「……おそ松？」 顔を上げる。遠くから、微かにスタッフとおそ松の声が聞こえてくる。 ――ですから、おそ松さんの方には最初から伝えてたじゃないですか！　最終日は朗読になるって……！ ――聞いててもやっぱ無理だって不公平だってこんなん！　なんでオレばっかりこんな恥ずかしいことしなきゃなんなかったの！？　企画からおかしーよね！？ ――で、でも了承したじゃないですか！　それにその、すごくいいラストだったと…… ――んなことどーでもいいわ！ ぎゃあぎゃあと響く大声。弱りきったスタッフの声が哀れで仕方がない。けれど、そんなことよりも、今は最愛の恋人を抱きしめたくて仕方がない。声の方向へと駆け出して、カラ松は手にしたノートを強く抱きしめる。 白紙のページに刻まれた、素直じゃない恋人の素直な声を、永遠に忘れないように。

カラおそが四日間交換日記をする話。<br />イチャイチャさせたかっただけとも言う。<br /><br />お笑い芸人同士で交換日記をする某小説、及びそれを元にしたバラエティ番組のパロディです。詳しいルールは本文中に。<br />※何かの企画というテイで進行します。<br />※台詞付きモブスタッフが背景レベルで登場します。<br /><br />※住み分け、検索避けのため、腐向け作品にはジャンル名タグを付けないようにしています。ご協力ください。

カラおそ交換日記

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6501659#1

あてんしょん！ このお話には以下の要素が含まれています ・ちゃんねる式という掲示板風ＳＳとなっています。 ・作者独自解釈によるオリジナル解釈・設定が組み込まれています。 ・女審神者、女見習いが出ますが夢・恋愛要素は一切ありません。 ・作中の描写上、刀剣男士の流血・怪我表現があります。 ・「本丸乗っ取り」「審神者見習い」などの二次創作要素があります。 ・過度なヘイト・プギャー要素はありません。 以上、これらを前提としたこのお話は本丸内でのことを実際に研修・体験している様子を描いた作品となります。 それでもよいという方はどうぞお進みください。 [newpage] [chapter:見習い来たので体験させてたらギブアップされた] 1 名無しな審神者さん 立ったら話す そこまで派手な展開は無いが、どちらかというと見習いザマァものなのでそういうの苦手な人は戻れ推奨 2 名無しな審神者さん 見習いと聞いて 3 名無しな審神者さん 3get 4 名無しな審神者さん え、何。どういう見習い？ また乗っ取り？ 5 名無しな審神者さん タイトルがいまいちよく分からん 宴会でもやったのか？ 6 名無しな審神者さん >>4 でも今の時期なら遠距離でも本丸運営できるシステムの起動開始記念で期間限定で三日月と小狐ゲット可能だろう？ それなら乗っ取りケースなんてそうそうあるとは思わないが 7 名無しな審神者さん ひとまず１は説明よろしく >>6 審神者に限らずどの業界でもやらかす奴はやらかすよー 8 １ >>4,>>6 見習い乗っ取り未遂事件だったよ まぁ、事件というほどでもなかったし、大した事もされてなかった 多分目的としてはその二人だけでなく他のレア刀剣も一気に欲しかったんじゃないかな？ その分の手間を惜しんだってところでしょう >>7 あいよ といってもスレタイどおりなんだけどね こんのすけ越しに担当さんから「三週間ほど体験させたいのでそちらの本丸で審神者見習いを見てほしい」ってお知らせが来たの そんでこれがまた分かりやすいテンプレどおりのお偉いさんの娘って奴で、嫌な予感が色々とひしひしと感じさせられた でも我が家は呪術とかどーこーできるとこでもなく尚且つ逆ハー本丸といえるようなとこでもないし、勘違いという可能性もあるので迎え入れる事しかできなかった やってきた審神者見習いに私達流の本丸運営とかいろいろ教えた結果、見習いギブアップして逃げ帰った 9 名無しな審神者さん 肝心な箇所をすっ飛ばしてる 10 名無しな審神者さん ＞やってきた審神者見習いに私達流の本丸運営とかいろいろ教えた結果、見習いギブアップして逃げ帰った kwsk 11 名無しな審神者さん そろそろ１のスペック紹介もよろしく 12 名無しな審神者さん どういう風にやったのか気になるな 陰陽術系ならば俺も自信あるんだけど、文章見る限り違うっぽいし 13 １ 私のスペック ・ＪＤ♀、見た目のスペックは多分普通ぐらい ・古参だけど実力的には中堅どころ。現在夜戦ステージ攻略中 ・浦島くん、明石、日本号、物吉くん、髭膝兄弟以外は揃っている ・初期刀は蜂須賀、今の近侍は不動くん ・性格は良くも悪くもマイペース ・術系は知らん。一般人→審神者になった身だ 見習いのスペック ・ＪＫ♀、ふわふわ可愛らしいロリボイン。よこせ ・目当てはレア刀剣、特に注目は打刀～太刀勢 ・ここに来るまで審神者業については色々曖昧にしか把握していなかった ・見た目がそうなら中身もテンプレ。覚悟は緩かった ・呪具は持ち込んでいない。そこは安心した 尚、呪具を持ってきてた場合は防犯用に購入した本丸強化用全方位結界が反応するので即通報予定だった かなり高い買い物だったけど本命は歴史修正主義者が乗り込んできた時の警報用なので、博多くんからはお許しが出ている 23世紀はオカルト関係のものも普通に通販で買えるから助かる 14 名無しな審神者さん mjd！？＞オカルト関係も通販で買える 15 名無しな審神者さん >>14 あー、言っとくと俺らみたいな審神者とか陰陽術や呪術とかガチのオカルトに長けた専門家ぐらいしか買えないぞ だからマイナーではないけどメジャーと言われるほど日の目も浴びてない 大体値段も高いしな！！ 16 名無しな審神者さん さらっと「よこせ」と書いてる辺り、１の乳は貧しいのだと察し 17 名無しな審神者さん ＞古参だけど実力的には中堅どころ。現在夜戦ステージ攻略中 あー、なんとなく読めてきた まだ鍛刀がある三日月・小狐・レア４はともかく、イベント限定かドロップ限定のはそこまで辿り着くかチャンスがくるまで時間かかるからそれが手間か その辺りが見習いの乗っ取りの動機ってところか？ 18 名無しな審神者さん 虎徹兄弟のギスギスは大丈夫なのか、ここ 19 名無しな審神者さん イケメンだけでなくガチムチもイイのが刀剣男士だろうがぁっ！ 何故それが分からない連中が多いのか！！ 20 名無しな審神者さん >>19 おーい、スレチだぞー。気持ちは分かるが落ち着けー 21 １ >>16 別に無いのは無いで構わないが、他人のを見るといいたくなるのが人の性なんだ >>17 お察しの通り。具体的には聞かなかったけどそれが理由っぽかった といってもイベント限定とかのでゲットできてるの博多くんと後藤くんと不動くんだけなんだけどね >>18 蜂須賀が初期刀で昔から色々任せてた事と長曽祢も無闇に挑発する人じゃないんで、表立った揉め事は起きてないよ 個人レベルでの仲は良くないけど本丸に影響させるような事はしてない >>19 すまん、私はどっちも好きだがそれ以上に不動くんが好きだ 22 名無しな審神者さん さらっと告った！！ 23 名無しな審神者さん ショタコンか、この審神者 24 名無しな審神者さん 短刀と脇差だけくん付けしてるし、ありえるな 25 名無しな審神者さん よし、その辺の説明も踏まえた本題説明よろしく 律儀に返信するのはいいけどいい加減入ってくんないとこっちも対応できん 26 １ 了解。さて、まずはどっから語るべきか 大体は>>8で語ったとおりの流れなんで、見習いがやってきたとこから話す 出迎えは私と近侍の不動くんだけの予定だったのだが、好奇心が湧いた三日月がついてきたので計三人 正直良見習いという可能性もあるのでファーストコンタクトは普通にこなしたかった（三日月は良くも悪くもターゲットにされやすい）のだが、どういうリアクションされてもその時はその時だって事にした そんでやってきた見習いはというと、 見習い「これから三週間体験させていただく見習いで～す！　今後ともよろしくお願いしますね！」 実に明るく可愛らしい声とぶりっこで挨拶をしてきた。あまりのテンプレっぷりに拍手を送りたくなった 不動くんはあからさまにうんざりした顔を見せて、三日月はきょとーんとよく分かってない顔をしていた ひとまず私は二人に顔戻せと指示してから、見習いと挨拶 私「審神者の１です、これから三週間よろしく。手加減はする気無いからね」 見習い「はい、精一杯頑張りますね！　ところでそちらの方ってもしかして……」 三日月「ん？　俺か？　俺は三日月宗近、しがない爺だ」 見習い「あの天下五剣の三日月宗近なんですか！！　わぁ、お会いできて嬉しいです！！」 三日月「え、あ、そうか。ふむ、現世の女子は色々あるんだな……？」 私「（いや、そんなあたふたした目線向けられても困る）」 三日月を発見した時の素早さは高速槍かってぐらい早かった 目をきらきら輝かせ、握手してた私から離れて奴に食いついて両手ぎゅっとしたのを見た時は色々つっこみたくなった おかげで基本のんびり屋な三日月おじいちゃんは若い娘の高いテンションに追いつけず困っており、不動くんは目にも入れたくないのかそっぽ向いて甘酒飲んでた 呪具を持ってないだけマシではあったが素で面倒な相手が来たので胃が痛くなるのを感じた ちなみに見習いが来るって話は刀剣男士達には話したけど、乗っ取りに警戒しろって指示は出してない 正直どういう可能性があるか見えなかった事と良識な人だった場合、塩対応して有能な審神者候補を潰す訳にはいかなかったので。奴等はやる時はとことんやる 27 名無しな審神者さん うーわー……なんて分かりやすい 積極的にも程があるというか、バカというか 28 名無しな審神者さん これで呪具をもってないって事はどんだけ自信家だったんだ……？ 29 名無しな審神者さん ＞乗っ取りに警戒しろって指示は出してない え、それ大丈夫なの？ 30 名無しな審神者さん 気のせいか、この三日月は可愛い予感がする おかげでうちの鶴丸と一期が左右につれた 31 １ >>27-28 色々心配してたこっちとしては拍子抜けだったよ、ほんと 割とガチで内戦を覚悟してたというのに…… >>29 上でも出したけどこっちから過度にやりすぎるなんて事はしたくなかったからね それに刀剣男士達も人形じゃないし、向こうの行動の善悪の区別はちゃんとつくよ さて、私達はそのまま話をする為に奥の部屋に移動をする事になった 三日月には悪いが見習いが離れる気配無かったので、そのまま同行してもらった。ちなみにこの間、見習いは三日月と一緒なのに喜んでたけどほかの刀剣はどこかなとうろちょろ視線を動かしていたそうだ そんで私が上座、その左右に不動くんと三日月、そんで対するのは見習いという形でお話開始 私「では三週間、審神者体験ということになるけどまず質問はありますか？」 見習い「えと……刀剣男士の皆さんとの顔合わせは？　自己紹介をしないのは失礼では？」 私「そこは焦らなくても大丈夫。ここでの説明が終わったらいけるから。で、他には無い？」 見習い「え？　えーと、無いです」 あまりにもテンプレすぎて頭痛がしてきたけどひとまず体験でやる事についての説明 ぶっちゃけ他所が何をしてるのかは良く分からんし、私の時代は見習い制度なんかなかったぶっつけ本番だったので同じ事をさせる予定 もちろんいきなり一軍ではなく、レベルの低い二軍～三軍のレベル上げ（出陣・遠征）をお願いするというもの サポートは私と現場の二軍～三軍の刀剣男士。場合によって夜戦担当一軍の様子を参観 そんでもって毎日決まった時間に内番などのお手伝いと見学。面子によっては時間が延びるので頑張れ、というのは伝えた。 そして最後には一日の簡単なレポートを提出させるということ。もちろん分厚くじゃなくて、簡単に一～二行程度でよし。 出陣中に負った傷については度合いによって手入れさせるという感じ 説明聞いてる間、見習いは愛想笑いを頑張ってたけどうんざりしてる様子はあんま隠せてなかった 前途多難だとは思ったが最初はこんなもんかと私も思いあたるとこあったし、やらせたら分かるだろうと片付ける 報告書うんぬんに関してはこっちの担当だし、見習いの段階では教えるが無いので実技だけに特化させることにした この説明の間、三日月が不動くんにツンツンとつついてひそひそ聞いてたけど丸聞こえだった 三日月「ん？　そういえば俺のいる一軍はどうなるのだ？」 不動くん「遠征もしくは内番・家事担当だって言ってたぞ、ひっく」 三日月「あいわかった。あまり得意ではないがやってみよう」 見習い「えっ。やらせてるんですか？」 私「うん」 三日月「昔はここまで多くなかったからなぁ。俺もやってたものだ」 不動くん「洗濯機や乾燥機やらの簡単なのならダメ刀の俺より三日月の方が機械の扱いうめぇぞ」 ちなみに言い忘れていたがこの三日月、そこそこ早めに来た我が本丸の古参 私の本丸だと私が家事万能というわけではないし、人数が増えてきて負担分担目的で覚えられる奴には覚えてもらおう目的で幾つか教えた。難しいのはダメだったけど簡単なのならできるようになったんで、時々やらせてる。……お手伝いレベルではあるけど 尚、不動くんの方は最近来たばかりなので先輩達から習っている最中。酔っ払いながらなので大丈夫かと不安には感じたが、根はかなり頭良い子なのでおじいちゃんをすぐに抜く気配が凄くしている この時の見習いは信じられないといった様子だったけど、私は逆に何故予想できないといった感じだった 32 名無しな審神者さん おじいちゃん、機械使えるの！？ 俺のとこ、未だにゲームの事をぴこぴこと呼ぶぐらいの機械音痴なのに！ 33 名無しな審神者さん 文明の利器は使うべきだよな、やっぱ…… 下手に雰囲気重視にすると痛い目見るのはこっちだ 34 名無しな審神者さん ＞我が本丸の古参 物欲センサーに負け続けているこちらとしては涙が…… 35 名無しな審神者さん >>32 良く読めｗｗ１の三日月もお手伝いレベルで、すぐ不動に抜かれる気配がするって書かれてるぞｗｗｗ 36 名無しな審神者さん あー、質問あるけどいい？ 俺、新人審神者なんだけど１の出した研修内容ってどうなんだ？ 結構経験して来た事ばっかだから間違ってないと思うけど、色んな案件を見てきたから気になって 37 名無しな審神者さん >>36 普通だと思うぞ？ ちなみに俺は重傷になった奴手入れさせたら、色々悲鳴上げられた 誰もが通るチュートリアル・ショックはやっぱり誰の心臓にも悪いようだ 38 名無しな審神者さん >>36 初心者に勧めるって意味だと妥当なとこじゃないかな 私のとこはマップと刀剣の顔ぶれを見せて数日分の出陣ローテ決めさせたのと内番の手伝いと見学、それから手入れと刀装とやれる事はさせたかな 流石に鍛刀は問題になるからさせられなかったけど 39 名無しな審神者さん うちんとこだと最初は一日刀剣達と打ち解けられるようにしたなぁ その後は演錬させて、普段とのギャップを見させた 慣れ出した頃に実戦の方も経験させたが、チュートリアル・ショック体験させちまった 40 名無しな審神者さん 私も>>39と似た感じかな ただその時の演練コメントで「おかえり、おじいちゃん」と書かれて隊長の三日月がレベル５で後高レベルの刀剣で並んでたのを見た時は私と見習い揃って涙が出そうになった 41 名無しな審神者さん 俺は昼戦と夜戦の違いを教えてたかな 夜戦の短刀達の頼もしさったら無いぞー。ただこれ教えてるとき、近侍じゃないのにいち兄が誇らしげにして話してたｗｗｗ 俺の夜戦部隊、みーんな粟田口だからねー 42 名無しな審神者さん あー、見習いだもんな。体験だもんな やらせることっつったら必然的に大体こんな感じになるわな ……逆に何故これで乗っ取りを企もうと考えるんだろうか？ 43 名無しな審神者さん バカやＤＱＮは歴史が始まってから今現在どころか人類が滅ぶ未来まで存在し続けるものだから 44 名無しな審神者さん 和睦は無いのですか、といいたくなるな [newpage] 45 １ そう考えるとある意味本丸暮らしは安定してると色々気楽だと感じてくる さて、その後は一通りの流れを説明と薄っぺらいけど簡単な説明書を見習いに手渡して、その後大広間でご紹介 その時は見習い、眩しい限りのアイドル意識したような笑顔を振りまいたけど反応が実に様々 普通のリアクション、可愛い子きたなーというタイプ、これと暫く一緒かぁと引いてた奴、観察していた奴といった感じ さっきも書いたけど乗っ取り警戒指示は出していなかった為、割かし普通のリアクションばっかで見習いはやや不満そうにしてたが食事の段階で燭台切に声かけられたことで一気にご機嫌になった。あまりにも分かりやすい ちなみに食事の時もちゃっかり三日月の隣に行こうとしたが当人は骨喰の隣に既に移動済み。うちの爺、骨喰大好きだから諦めろ 初日ということで目立った動きはそのぐらいで後はそれぞれ和気藹々 食事の空気を不味くする趣味の奴はいないので、見習い含めてみんなで楽しく食べました とりあえず一日目はそのぐらい 前置きが長くなってしまってすまんけど、こっからが漸く本番 細かく出すとキリが無いので時系列順に大雑把に別けると大体こんなルートとなる ①誰も失敗しないといわない基礎の基礎コース ②審神者なら誰もが通る絶叫コース ③地味だけど性格が出る内番フルコース ④見習いの危機はすぐ傍に ほっとんど見習いの未熟さによる自爆ばっかなんだけど、中々の阿鼻叫喚だった とりあえず④は個人的にオチに持っていきたいんで順番に語る 46 名無しな審神者さん ①から③までが大体想像がつくけど④は何！？ 47 名無しな審神者さん 危機ってどれや。どの刀剣や、思い当たる連中が多すぎて…… 48 名無しな審神者さん ＞危機 三条？ 49 名無しな審神者さん >>48 いや、１の三日月見る限り微妙な気がする あの外見だから誤解されやすいけど、三日月って中身はほわほわマイペースで優しいおじいちゃんだから キレたら怖いってキャラでもないし この様子だと他の三条も近い性質な気がするからなぁ 50 名無しな審神者さん >>48 俺は歌仙を推す 何せうちに来た見習いのダメっぷりにブチギレして徹底的に指導したスパルタ文系だから…… 51 名無しな審神者さん >>50 何をやらかした、之定 52 名無しな審神者さん >>51 ﾃﾞﾓﾃﾞﾓﾀﾞｯﾃと理由つけて逃げようとした見習いの首根っこ捕まえて、一からしごきまくった 乗っ取りではなく甘やかされた困ったちゃんだったけど、歌仙にみっちりやられた為か終わる頃には礼儀正しい良い子になってたよ ちなみにその子、正式に審神者になった後は初期刀を歌仙にしてあっという間に初期刀側と恋人関係になりました これ知った俺の歌仙が花嫁修業と言い出してキラキラしてて、俺どこでストップ入れればいいか悩んでるのが現状 53 名無しな審神者さん 何か色々すごいけどツッコミどころも多い！！ 54 名無しな審神者さん これは風流なのか文系なのか雅なのか 55 名無しな審神者さん >>54 歌仙好みの結末になってるなら全部当てはまるんじゃね？ 56 １ >>52の歌仙凄いな うちにもいるけどそこまでエネルギッシュではないなー、辛口ではあるけど というかなんだかんだで皆結構見習い受け入れてるんだと知って、うちだけじゃなかったんだなと思ってる 57 名無しな審神者さん そりゃ乗っ取りで大騒ぎされてるけどやっぱり新人にはいい感じに行ってほしいし、教えるのも気合入るってもんよ 58 名無しな審神者さん 最初は今までと全く違う生活にびびるだろうけど慣れれば楽しいし 59 名無しな審神者さん 体験してどうしても合わないってなったら、ならなくていいって話にすればいい 戦時中とはいえど、無理させてまで審神者になって共倒れになられるのが一番苦しい そういう人を出させないために戦うお仕事なんだから 60 名無しな審神者さん 何時の時代も地味な事よりも派手な事に目が行くもんよ 良い事悪い事関係なく 61 名無しな審神者さん >>60 だから徳川さん、歴史修正主義者にまで何回も命狙われるんか 62 名無しな審神者さん >>61 徳川さんにとってはまだそいつ等の方がマシだよ 俺らと検非違使が勝手に掃除してくれるから気づかないでいられる 63 名無しな審神者さん 何か……悲しくなってくる会話だな…… 64 １ 徳川さん含めた歴史の色んな人に余計な骨と青いショタコンが行かないよう戦うのが私等の役目だからね 話題もずれてきたのでそろそろ報告行く まずは①の誰も失敗しないといわない基礎の基礎コースについて 何はともあれ絶対教えとかないとやばいと思ったのはロック機能である お気に入り、レア刀、一振り目などを間違って連結・刀解しないように鍵をかけておくシステム。アレが無いとうっかりやらかしてしまう人も少なくないと聞いてたので、その惨劇を防ぐ為に教えることにした ……なんだけど、この話を聞いた見習いは笑い出しそうなのを我慢しながらめっちゃ軽い感じにこう言った 見習い「でも実際人として傍にいるのにそんなバカする人いるんですかー？ｗｗｗ」 真面目に聞いてるフリのつもりだったんだろうけど声が笑ってるせいで煽ってる風に聞こえた 腹の立つ言い方にムッとしたけど傍にいた不動くんのしゃっくりで我に返ったので、冷静に説明 私「割とやってしまうものだよ。審神者が本丸の事をする場合、大体こうだからね」 そう言って出したのは審神者にとってはお馴染み、空中展開目録 ＭＭＯ題材にしたアニメで例えると空中に展開するステータスっぽいもの 審神者は基本これを操作しながら指示を出すものだと見習いに実際に見せながら説明 もちろん鍛刀や手入れといった手間のかかるのは専用の部屋があるけど、その際の操作及び数値・素材などは目録頼り だから気をつけていてもうっかり見逃してしまったり、付け忘れてしまうことは起きるので慢心しないと厳重注意 なんだけど見習いはこの時点で既に飽きたのか半ば聞き流しているのが丸分かり 態度の酷さに思わず不動くんに目線でヘルプ送ったけど、彼は甘酒を飲んでいた 65 名無しな審神者さん ボロ出すの早ぇな、おい うちんとこはもっと強かだったぞ 66 名無しな審神者さん うーわー、リアルに腹立つなぁ 67 名無しな審神者さん 自分は絶対大丈夫と思うなよ うっかり大失敗に繋がるケースとかあるからな おかげで俺は来たばかりだったのでロックし忘れてた江雪兄様を連結に使ってしまった しかもそれが小夜対象だった為、二振り目が来るまで宗三と小夜に恨まれた挙句皆から雷落ちました……orz それ以降一振り目が来たらレア関係なくロックかけるようにしている 68 名無しな審神者さん >>67 お気の毒に 初めて来た奴はロックかけるようにしてるけど、ドタバタしてるとうっかり忘れる時あるもんなー 69 名無しな審神者さん >>67 二度と繰り返さないようにな…… 70 １ >>67 何それ怖い。次からは気をつけよう、マジ 見習いだけど真面目に聞けって怒っても「このぐらいの事で」ってぐちぐち言う始末 前途多難すぎて頭を抱えていて、こりゃ何回言っても分からないだろうなと諦めて次の段階に入ろうとした矢先の事だった 「ふらっとやってきている刀剣もいるから油断は本当にダメだよ……？」 三人しかいないはずの部屋の中に、第四の声が唐突にぼそっと聞こえてきた 何事と思って声の方向、見習いの真後ろを見てみればそこにいたのは何故か髪の毛を貞●ばりに下ろしているにっかり青江 もう本当に見習いのすぐ傍といっていいぐらい至近距離にいたもんだから、●子もどき化した青江に見習いも私も悲鳴を上げた 私＆見習い「「ぎゃああああああああああああああ！？」」 青江「おやおや、そんなに良い声を出すなんて嬉しいなぁ。……どっきり成功って意味でだよ？」 不動くん「ひっく。なぁんでここにいるんだ、青江ぇ？」 青江「三人とも中々来ないから様子を見に来たんだ。そしたら鶴丸から良い事教えてくれたから乗ってみたんだ」 私「あんのドッキリホワイトフード……！！」 要するに鶴丸のいらん悪戯に青江が乗っかった結果、青江の気配無し不意打ちボイスとなったわけである ちなみにうちの青江はマジで気づいたら、いた。多分私がよそ見してる間辺りにドロップされただけなんだろうけど、発見した時は覚えの無い刀がいるって本気でびびった 朝っぱらからホラー体験をさせられ、心臓バクバクする中で髪型を戻した青江が見習いに忠告 青江「それから実際にいるからこそ気をつけた方がいい。霊と違って、人はその場にいるからね？」 深読みすると超怖い台詞を残してくれました 意味をきちんと理解してくれてるかどうかはともかく、見習いは貞●インパクトの恐怖からか青ざめた顔でめっちゃこくこく頷いていた 何でわざわざ言ったのか尋ねたら「彼女が本丸を持った時、無意味な犠牲を減らす為」とのこと。どうやら会話を盗み聞きしていたようだ、というか何時からスタンバイしてた 大体①はこんな感じで終わった。青江が全てを持っていった ちなみにこの時悲鳴が響き渡ったけど誰も来なかったのは、青江と鶴丸が事前に伝達済みだった為。こういう配慮は早いんだよなぁ、こいつら 71 名無しな審神者さん 貞●状態の青江が背後にいつの間にかいるって何それ怖い 72 名無しな審神者さん ＞霊と違って、人はその場にいる ええとこれ、どういう意味……？ 73 名無しな審神者さん >>72 見える聞こえる触れられるって意味だろ 実際にいるからこそうっかりやっちまったら>>67みたいになるってこった 74 名無しな審神者さん 67だけどマジでこの青江の言うとおりだからな 初日のやらかした後の空気とみんなの目はもう、もうトラウマ……orz 二振り目の江雪兄様に慰められた時は本気で救われた！！ 75 名無しな審神者さん >>74 （なでなで 76 名無しな審神者さん >>74 うっかりでやっちまうほど悲しく恐ろしいものはないからな…… 77 名無しな審神者さん 実際に貞●な青江見たいので、一緒に見てた近侍の青江にやらせてみた 思ったよりも様になってたので冗談でドン引きポーズしたら、ほっぺ膨らませて拗ねたのが萌えた 拗ねっぱなしなのでちょっと宥めてくる 78 名無しな審神者さん >>77 宥めてから書き込めよｗｗｗ 79 名無しな審神者さん >>77 お前んとこの青江可愛いなｗｗｗ 80 名無しな審神者さん 鶴丸提案の悪戯をやったってあるけど鶴丸と青江って接点あったっけ？ 81 １ >>79 本丸という最大の接点があるじゃないか 82 １ >>74 そちらの本丸は惨劇が二度と繰り広げられないことを祈る >>77 今度気配をガチ隠させて、誰かの後ろに立たせるというドッキリをさせてみよう ガチ悲鳴が本丸に響き渡るから >>80 接点：本丸 もちろん前から接点ある組で絡むのは多いけど、そうじゃなくても独自にネットワーク作ってたりする さて、続いては②の審神者なら誰もが通る絶叫コース 貞江インパクトでびびった心臓がお互い収まったぐらいで、出陣に関しての研修である 前日に二軍～三軍の出陣をやらせようかって話をしてたけれども、ここまでの不真面目な態度で既に不信感植え付けられてる私 なのでまず夜戦を観戦させてなんとなくの流れを見せようということにした 出陣中の様子は目録を画面代わりにすれば、向こうの様子が映像中継されるので 向かう場所は分かりやすさ＋明石狩り兼ねて三条大橋を選択 面子は不動くん、小夜くん、今剣くん、厚くん、鯰尾くん、骨喰くん 我が本丸の夜戦組一軍 打刀入れようかどうか悩んだけども今回は短刀と脇差の強さを教えるの優先でこの面子に 見習いは昼戦の方が見たかったようだけど、近侍が一期一振になったのでそっちに食いついて上機嫌に。ちょろい 見習い「弟さん達がどんな活躍をするのか楽しみです～！」 一期「私もこうしてゆっくり見るのは久しぶりです」 私「みんな、気合入れてて頼もしいよ。ほら、見習いは楽しむのもいいけどちゃんと学んでね」 見習い「えー……」 一期「真面目に答えるように。浮かれていては何も学べませんよ？」 見習い「はーい、気をつけまーす！」 私には面倒臭げ、一期にはキャワイイぶりっこと実にわっかりやすいこの脳内お花畑だろう見習い 本人的には上手く切り替えてるつもりなんだろーけど誰がどー見てもバッレバレ。一期も手間のかかる子が来たなぁ感覚だったのに気づいてただろうか とりあえず私よりもイケメンに食いつくというのはよーく分かったので、弟達で小さい子の扱いに慣れてる一期に見習いの手綱を任せる。そのために近侍にしたんだし 基本は現場の隊長が指揮をとるとはいえども、進軍・撤退指示などの大事な部分の指揮は審神者の役目なので私は気を引き締める だけどこの時、誰も気づいていなかった 私が初心者にやっちゃいけない審神者ボケをぶちかましてしまっていることに 83 名無しな審神者さん え、審神者ボケ？　どゆこと？？ 84 名無しな審神者さん 見習いが何かもう見ていて、１達に同情したくなってくる 85 名無しな審神者さん 困ったちゃんの面倒を押し付けられるとは哀れ、一期 86 名無しな審神者さん ＞審神者なら誰もが通る絶叫コース ＞初心者にやっちゃいけない審神者ボケ 嫌な予感がひしひしとする 87 名無しな審神者さん うち、まだ見習いとかそういうの来た事無いけど分からんなー 88 名無しな審神者さん 夜戦ってことは実戦だよな？ ってことは…………あ、あー、まさか……？ [newpage] 89 １ かくして三条大橋の眼鏡狩る為の長い道のりが再び始まった といっても遠戦用に銃・石・弓を揃えてるんで相手の刀装やら削ってから、初戦では機動力の速さに任せて一気に切って勝利をかっさらう 安定した出だしに私と一期が見守る中、見習いの方を見てみたら何か絶句して固まっていた 私「どしたの？」 見習い「あ、いや、えと、みんな凄かったというか、迷いが無かったというか、とんでもなかったというか……」 一期「夜戦は短刀と脇差が得意とする戦場です。対する相手は大太刀と薙刀が中心、分はこちらにありますよ」 私「本丸だと見た目相応の子供でも戦場だと頼もしいよ。上手い事積んだり育成すれば昼間でも活躍する時あるし、今の内にじっくり見ておくのおすすめ」 見習い「じっくり！？」 見習いが信じられないといわんばかりに裏返った高い声をあげたので、驚く私と一期 その時、副隊長の骨喰（隊長は不動くんだけどこっちは錬度上げの為）からどうするのか尋ねられた為、進軍命令を出す 賽の目の悪戯は起きず、順調に橋を進む夜戦一軍。その間も起きる骨達との戦闘 サブ画面に映る夜戦一軍それぞれと各刀装の体力を見比べながらまだまだ進めるなーと見ている私 だがその一方で見習いは顔が強張っていき、終いには一期の腕をぎゅっと両手で抱きしめた状態で固まった またぶりっこアピールかなと思ったんだけど、見習いの顔は良く見ると青ざめてしまってて声すら出ないぐらい震えてる まさかの原因不明のガチビビリ発生に戸惑う私。ただの進軍中継だろと彼女と映像を思わず交互に見てしまった そんな時、決定的な出来事が発生 こちらは相次ぐ連戦と憎き敵槍のせいで皆傷だらけの中、厚くんと小夜くんが中傷となったところで真剣必殺発動 厚くん『いくらボコボコにされようが、ここまで近づいちまえばオレの勝ちだ！』 小夜くん『僕を怒らせたんだ……当然だよね！』 二人とも鬼気迫った顔で、殺意剥き出しで襲ってくる敵を逆にやり返す！ 厚くんは矢や銃の傷多いってのに勇猛果敢、敵に凄く近づいたら鎧の隙間に短刀つっこんで瞬殺！ 小夜くんは血だらけ傷だらけなのも構わず、宣言通り相手の腹に短刀ぶっ刺して当然の仕打ちを行う！ なりは小さくても流石は刀剣男士。確実に殺ってくれる！！ 見習い「ひぎゃああああああああああああああああああああ！！！！」 私「あっちょんぶりけ！？」 そして何故かそれ見てた見習いが凄い悲鳴上げたー！！ にっかり貞江以上のボリュームの悲鳴な上、完全に不意打ちだったから私も凄く驚いて変な声出しながらずっこけた 90 名無しな審神者さん ふぁっ！？ 91 名無しな審神者さん どこに怯える要素あったの！？ 92 名無しな審神者さん ＞「あっちょんぶりけ！？」 ●ノコかよ！ 93 名無しな審神者さん え、何これ。見習いどうしてこうなった？？ 94 名無しな審神者さん あー、なるほど。分かった、すっごい分かった これは完全に審神者ボケだな…… 95 名無しな審神者さん とてつもない懐かしさを覚えてきた、自分…… 96 名無しな審神者さん あれ、何かに気づいてる人いる 一体どゆこと？　説明がほしいんだけど 97 名無しな審神者さん １と一期は平気で、見習いだけがびびって、>>95は懐かしいといってる……あ（察し 98 １ 流石にこれはやばいと判断し、夜戦一軍に帰還命令を出してから私は一期にしがみ付いて離れない半泣き状態の見習いに声をかけた 私「一体どうしたの、見習い！？　具合でも悪いの！？」 見習い「何であんたは平気なのよぉ！？」 私「え？　え、何の事？」 見習い「子供が敵殺しまくってるモザイク無しのグロ中継平気って頭おかしい！！」 私「………………へ？」 これ言われた時、理解が追いつかなくて目が点になってしまった そのまま見習いは一期にしがみついた状態のまま、鬱憤爆発させるかのごとく立て続けに早口で言ってくれました 見習い「無駄の無さ過ぎる動きで敵ぐさぐさ刺したり斬ったりして返り血浴びたり、石がぶつかったり矢が刺さって凄く痛い光景なのに皆平気で戦うわ見守るわ、普通の人間じゃ絶対安静の大怪我な筈なのにさっき以上の勢いで敵仕留めてて、何でみんな平然としてんのよぉぉぉぉぉ！！」 ここで気づける人は気づくと思う つまり戦場での刀剣男士と歴史修正主義者のガチの戦にびびったことと、見た目人間の子供にしか見えない夜戦一軍の戦いっぷりにドン引きしてたということ でもって彼等は元は刀といえども、今は肉体を持ってるんで傷つきます流血します。でも人ではないのでよほどの致命傷を受けない限り人よりも怪我にかなり耐えられます だけど傍から見たら人間そのまんまだから、初心者からすれば最悪動けないか動き鈍くなるような大怪我負ってる筈なのに平然と戦う彼等があまりに別次元過ぎて、下手な作り物をはるかに越えるホラーを見せられてる状態だったのだ しかも夜戦だからやってるの小中学生ぐらいの子供な姿の短刀と脇差。自分より年下の子供が命のとりあいしてるから余計にびびったそうだ ……審神者ってチュートリアルで嫌でも重傷→真剣必殺→手入れの流れさせられるもんだから、この現実を初っ端たたきつけられるやん？ その後も大体似たような流れが来る事は少なくないからさ、審神者も当然流血とか大怪我とか慣れていくわけやん？ だからね、完全に感覚が麻痺してしまってて、新入りはこの世界に慣れてないってのをすっかり忘れてた……！！ だってこっちのヤバイ基準は重傷、もしくは腕切り落とされてるかモツとかこぼれてる時だから、見習いの言ったの全部何時もの事でしかなかったから！！ 99 名無しな審神者さん ＞ガチの戦にびびった ＞新入りはこの世界に慣れてない あぁぁぁぁーーーーー！？　そういやそうだった！！ 審神者なら誰もが通る絶叫コースってこーゆーことか！！ 100 名無しな審神者さん うん。普通、一般人はガチの切り合いと流血に耐性なんて無いんだ だけどいつの間にか出来た上、慣れきったのが審神者なんだ…… 101 名無しな審神者さん 嫌でも怪我・流血に慣れきってしまい、流せてしまうようになるのが審神者ボケ……！ やべえ、心当たりしかねえorz 102 名無しな審神者さん １のいう審神者ボケのおかげで昔はダメだったホラー映画の流血シーンもめっちゃ冷静に見れるようになってたこと、多々ある どういう風に作ってるんだろうって解析しはじめた段階で、気づくべきだった…… 103 名無しな審神者さん 見習いに手入れさせた時、ガチのびびりようを見て気づいた俺が通りますよー うん、手入れは覚えておく必要性があるだろうと思って進めたんだけど、俺らの世の中じゃ専門職か現場じゃない限り重傷の人なんて見ないからね 涙目でgkbrしちゃうのは仕方ないんだよ、普通の人は…… 104 名無しな審神者さん ＞ヤバイ＝重傷、腕切り落とされるかモツこぼれてる時 敵も容赦しないし、ボス戦とか検非違使とかだと更にやばい戦いになるもんな うちのたぬきが片手ぶったぎられてやべーって状態でも執念で勝利もぎ取った時は大慌てで手入れしたよ 手入れで治ると分かっててもびびる！！ 105 名無しな審神者さん >>104 凄く気持ち分かる うちの御手杵、感覚が武器寄りでしかも首狩り族だから見た目に反して、もう色々スプラッタ的な意味でやらかしてくれる事多いから…… 106 名無しな審神者さん こうして見るとチュートリアルは本当に偉大だわ アレ一発で色々とこれから先を教えてくれる、冗談抜きで 107 名無しな審神者さん ただし何も知らない新人・見習いからすれば、１のとこの見習いみたいな心境なんだろな…… 108 １ 審神者ボケに気づいた人は急いで現実に戻ろう でないと私みたいな失敗をやらかす羽目になるからな！！ これは完全に配慮が欠けてた私のミスだったので必死に謝って宥めた、一期も付き添ってくれました 最初は見習いパニック状態で泣き続けてたんだけど帰還って事で中継終わった事と私の弱みを握れたと思ったのか、こいつまた調子に乗った 見習い「子供を戦わせるなんて野蛮！　最低！　人でなし！　こんなのが主なんて一期さんもお気の毒ですぅ……」 今なら好感度下げれると思ったのか、私の事あからさまに批判してから一期にすりすり 思った以上に回復早いのと露骨な態度に申し訳なさが一瞬でぶっ飛んで腹立たしさが急速に上がった私だったが、ここは一期の方が強かった 一期「戦で躊躇する方が人でなしですよ」 見習い「え？」 一期「平時、意味の無い殺戮は私達も非道と称します。ですが戦は生きる為の戦いであり、乱世を収める為の道のりそのもの。その道中で怪我をする事など皆、覚悟している事。大事なのは勝利を収めて生還する事です」 見習い「え、でも、この人、弟さんに酷い事」 一期「していませんよ。戦場に最適な刀剣で部隊を組み、出陣させて誰一人欠けさせる事無く帰還させるというのは審神者にとってもっとも大事で重要な使命。主はそれをこなしただけのことです」 見習い「でも子供が戦ってやっぱり……」 一期「先ほど主も仰いましたが夜では私よりも弟達の方が最適です。心配してくださるのはありがたいのですが、私達粟田口を含めて刀剣男士に弱い者は誰一人としておりませんよ」 予想外の反応に戸惑う見習いに対し、一期は穏やかな物腰のままきちんと大事な事を伝える 怒ってなく言い聞かせる風でもなく、ちょっと淡々とだけど何時ものように話すもんだから一期が完全にペースをつかみとる 最後には誇らしげな笑顔を向けられた見習いは言葉に詰まって言い返せなくなり、私の方を八つ当たりで睨みつけてきた でもこの時の私は一期に遠まわしに評価された事と見習いを黙らせてくれた事で心晴れやかだったので、痛くもかゆくも無かった 109 名無しな審神者さん いち兄かっけえ！ さすがはロイヤル！！ 110 名無しな審神者さん ＞刀剣男士に弱い者はいない そうだよな。怪我しまくっても君達は奴等を倒して、歴史を守ってくれてるもんなぁ……！ 111 名無しな審神者さん こうして刀剣達が言ってくれると俺らも頑張れるんだよなぁ 皆の命を預かってる以上、プレッシャーも大きいが頑張りたいって気持ちも上がるもんよ！ 112 名無しな審神者さん ＞誰一人欠けさせる事無く帰還させる うっかり慢心して折っちゃった事あるけど、破壊された時の声聞いた時の罪悪感は無いからな…… うぅ、ごめんよぉ。本当にごめんよぉ、愛染……！　犠牲はもう出さないからな！！ 113 名無しな審神者さん >>112 うわ、それはきつい……！　その後どうなった？　二振り目来た？ 114 名無しな審神者さん >>113 二振り目来た時はもう蛍丸と一緒に泣いて喜んで、大事にしたよ！ もちろん錬度はあげてるよ、今では一振り目抜いた！！ 115 名無しな審神者さん おし、その意気だ。今度は誰も折るなよ！ 116 名無しな審神者さん 油断慢心ダメ絶対 俺達の判断が大事だからこそ、しっかりしないといけない 117 名無しな審神者さん この見習いには一度、うちの今剣を見せてやりたいわ 何故か持ち主の影響が強い子みたいで、ガンガン誉れをとっていく首狩り族だから ……今なら分かる、頼朝さんの苦労が 118 名無しな審神者さん >>117 うわあ、何か目に浮かぶ 審神者ボケ直後だから凄く鮮明に浮かぶ 119 １ うちの一期は弟達の面倒を良く見てくれる自慢のロイヤルです ただ残念な余談になるがこいつ、見習いにしがみつかれてる間一切離れようとしませんでした 何せ、見事なボインが自分から密着しているもんだからな！！ その事をこっそり聞いたら笑顔で黙殺された 照れるどころか悪びれる様子ゼロで流されたので絶対確信犯 120 名無しな審神者さん むっつりエロイヤルじゃねーか 121 名無しな審神者さん オチはつけなくてもええんやで、いち兄…… 122 名無しな審神者さん 大丈夫だ。アダルトネタで物凄く盛り上がるうちの一期と鶴丸に比べればはるかにまともなロイヤルだ 123 名無しな審神者さん 何故エロになると個体差が激しくなるのだろうか、いち兄（ゲンドウ） 124 名無しな審神者さん >>123 元の主の影響と審神者の潜在エロス？ 125 名無しな審神者さん >>124 前者はともかく後者は認めたくねえ！ 126 １ その後、夜戦一軍が帰ってきて中傷以上は手入れして、小傷以下は包帯巻いたりして治療終了。うちは資源少ないし、札の数にも限りあるのでこういう風にしてる 幾ら本人達に問題ない程度の傷でもそのまま放置は流石に無理なんで、気休めの応急処置だけど絆創膏とか包帯とかやってるの 私が手入れしている間、手の空いてる刀剣男士がやってくれてるので助かる。今回は一期だけでなく、丁度手の空いた博多くんにも手伝ってもらった 見習いにも手伝うかと声かけたけど断られた。「流血で精神的にきつい」って言ってたけど汚いの触りたくない面倒臭いって本音が態度で漏れてた 流石にあの直後だから無理強いもしづらかったので、ひとまずまた次の機会という事でその場は流した まぁ、ここでも懲りないバカが見習いだったんだけど 見習い「それにしても治療をケチケチするなんて酷ーい。あーあ、こんな審神者を持って可哀想……」 博多くん「なんば言うてるたい！」 隙あらば私を貶しに来る見習いに博多くんが即雷を落とした 見習い、これは何故怒られるのか分からなかったのと賛成意見もらえると思い込んでたのか凄くびっくりしてた 博多くん「こまか怪我ば一々治しよったらキリのなかやろ！　肝心な時に酷い重傷ば治されん状態ん方のおおじょうする。やけんこういった節約は本丸運営では大事！」 見習い「せ、節約ってそ、その間痛くないの？　幾ら審神者の指示だからって……」 博多くん「俺達はそげな柔な体はしとらん。そいちゃり可哀想っち思うんなら口やなく手ば動かしぇ！」 さすが商人短刀。我が家の財政と資源もきっちり把握してる子なんで、小傷以下だと応急処置で済ます理由をきちんと分かってくれてる良い子 見習いが兄弟に同情してるんじゃなくて私の評価落として自分はその分良い子だってアピールしたいだけなのも一期情報で把握してるんで、博多くん容赦なし 小さいながらも強気な態度で押された見習いは咄嗟に一期に擦り寄ろうとしたんだけど、一期からは首を横に振られて拒否られる。当たり前である 夜戦一軍は博多くんが決めてくれたのと一期がきっちり拒否したおかげでか、必要以上に責め立てる事はしなかった。審神者、安心 同時に応急処置で済ましてるの地味に罪悪感あったんだけど、皆きちんと理解してくれてるってのが分かって内心嬉しかった とりあえず②は大体こんな感じに終わった 127 名無しな審神者さん あぁ、傷の具合によっちゃどうしても優先順位出ちゃうよなぁ…… 出来る限り札を節約したいんだけど、中傷～重傷多いと使わざるを得ない 手入れ時間、凄くかかるから 128 名無しな審神者さん 遠征で稼げるとはいえ、手入れだと結構資源使うからな 大太刀クラスになると時間も量も目玉がぶっ飛ぶ事になるから、手伝い札必須 129 名無しな審神者さん さすが博多。お金に煩い子だからこそ理解している 発言はネタなとこあるけど、さすがしっかり者！ 130 名無しな審神者さん ＞口やなく手ば動かしぇ！ 博多君の言うとおり！　ぐちぐち言うだけなら誰でもできるわ！ 131 名無しな審神者さん いい加減この見習いも学習しろよなぁ。一期にやられたばっかなのに懲りない 132 名無しな審神者さん でも何故応急処置で済ませているのかとか相互理解は凄く大事 うちも１本丸と似たような治療でやってて、一回これは酷いかなって薬研に愚痴ったら 「気にしすぎだ。大将は本当にやばい時、迷わず使ってるだろ？　そうして俺達がピンピンできるようにすんのが大将の役目だ」 と、男らしく励ましてくれた。柄まで通ったぜ、アニキ 133 名無しな審神者さん >>132 相変わらず男前だぜ、薬研ニキ こういう言葉をもらえると俺らも安心する 134 １ >>132 私も柄まで通ったぜ 実はあの後、そちらの薬研と同じ事を骨喰と鯰尾に言われてたりする 「悪いと思っていないのなら応急処置をわざわざしないだろ」とか「重傷の時はすぐ治してくれるじゃないですか！」とか笑顔で言われると、テンション上がる みんな良い子で辛い 135 名無しな審神者さん 刀剣良い子（こくこく 136 名無しな審神者さん ギャップ酷かったり首狩り族いたりロイヤルの個体差酷かったりするけど、基本刀剣は皆良い子 137 名無しな審神者さん そんなに信頼してくれるならこちらも応えないとと気合入るのが審神者だ 138 名無しな審神者さん 嫌な部分が見えるとこもあるけど良いもんもあるぜ、刀剣男士と共に頑張る日々は 新人がその道に落ちていくのを眺めているとニヤニヤできる 139 名無しな審神者さん >>138 ほんとにな！　お気に入りの子が出来ると特にな！ でもお気に入りだけじゃ本丸運営はできないので、刀種関係なく育てましょう でないと夜戦とかイベントとか遠征で悲鳴を上げる事になる 140 名無しな審神者さん >>139 お前、大太刀メインで育ててただろ 141 名無しな審神者さん >>139 何故バレたし [newpage] 142 １ みんな、実に審神者エンジョイしててニヤニヤするけど続き行くよ 次は③地味だけど性格出る内番フルコース。ここまでの流れとタイトルでお察しできると思う 時系列的には②の翌日ね。調子すぐ取り戻してたけど、流石に流血沙汰を予告無く見せちゃったダメージはあったんで内番に直行させるのは酷と判断した 甘ちゃんと不動くんには言われたけど、こういう指導は慣れてないから見逃してほしい とにかくまずは最初の数日使って本丸の基礎の基礎を教え込むのが目的なので、その日は三つの内番をぐるーって見て回ることにした 汚していい動きやすい服装でよろしく、と事前に言ってあったんだけど見習いは今までどおりオシャレなスカート姿で来たもんだから眩暈がした 流石に即ジャージに着替えろって指示。大分渋られたけど、畑仕事の時にしゃがみこんだらパンツ丸見えだって言ったら観念してくれた 準備が出来たところで案内役の私と近侍の不動くんと見習いの三人で出発 とりあえず順番は分かりやすさ重視で馬→手合わせ→畑 まずは本丸の日常で目に見えて分かりやすい馬当番。結構馬はとっているんで、そこそこ数がいる我が本丸 ちなみに私、内番のお手伝いに関しては畑しかしてなくて、馬は様子を見に行くぐらいだからちょっと久しぶりだったりする 今回の馬当番は沖田組こと清光と安定の二人 馬小屋にいる二人の姿を見た途端、うんざりげだった見習いが案の定きゃっぴきゃぴの笑顔になってた 馬小屋の傍に置かれてる藁の山見て、この前不動くんがこの上でぐーすか寝てたので雷落とした記憶を振り返ってたら、またやろうとしてたので首根っこつかんだ。サボりは許さん 見習いはというと馬を初めて見たのか思ったより積極的に質問してた。……私には目もくれず、沖田組の二人に猛烈アピールだったのは言うまでも無い ただ先日の酷い態度と比べると初めて生で馬を見た好奇心も混ざったのか割ときちんとした質疑応答をしてた為、ここは普通に見守った。沖田組は二人とも馬好きだから、戦場や日常での馬に関する扱いを自分から教えられるの知ってるし ……まぁ、案の定見習いは三人での話で盛り上がってる時に私下げやったけど二人に注意されて終わったのだった 143 名無しな審神者さん ＞私下げやったけど二人に注意されて終わった kwsk 144 １ 見習い「そういえば審神者さんは馬当番のお手伝いしないんですか～？」 清光「基本あの人はしないね。サボる奴がいるならそいつがサボらないようにってその日の相方に命じるぐらい？」 見習い「ひっどーい！　皆頑張ってるのにあの女こそサボってるじゃん、私なら絶対しなーい！」 安定「そこは審神者によって違うよ。僕等の中にも馬当番が好きなのもいれば苦手な人もいるからね」 清光「それに内番は俺らの仕事なんだから俺らがやるもんだよ。審神者の仕事は他にたくさんあるし、当たり前の役割分担だよ」 見習い「えー……でもー……」 清光「それと魂胆見え見え」 安定「アピールしたいならもっと別の方法でね？」 大体こんな感じの流れ 清光がハッキリと言ってやった後、安定がやんわり清光の援護に入ったので見習いも不利と判断したのか渋々引き下がってた その光景を見ていた私は相手が悪いと思いました。二人とも普段は穏やかで話しやすいけど戦場だとオラオラ系且つ他人に優しいといえるほどお人好しじゃないし、寧ろ自分に正直な連中だからな。思ったこと割と素直に言うコンビやぞ 145 名無しな審神者さん うん、これは相手が悪かった というかマジでいい加減学習しろ 146 名無しな審神者さん かしゅーちゃんは主大好きっ子な方だけど、割と切羽詰らないと出さない子でもあるからなー 普段は飄々としてるタイプだし。だがそれがいい 147 名無しな審神者さん 安定も普段は落ち着いてるんだよー。戦場や手合わせに出るとガチスイッチ入るだけで 判断力はきちんとあるから、斬ってる時に高揚するタイプというのは分かってるがたまにびびる 148 名無しな審神者さん そしてセットになると女子かと思うようなコンビネーションを出す この前スイーツの雑誌置いてったら二人でめっちゃ盛り上がってて、返してもらおうにも出来なかったねん…… 149 名無しな審神者さん 女子力高いな、そっちの沖田組 私んとこは誉れの取り合いやってる血気盛んコンビだから意外に感じる 150 １ ＞沖田組 エがついたりつかなかったりするロイヤルといい、個体差ここも出るよね さて、その後の③だけど目立ったような事はそれほど無かったよ。というか馬当番の奴も②に比べれば本当に大した事無いし 次は手合わせを見に行ったんだけど、これは私も見習いも間には入れなかった ……何せ長曽祢ＶＳ陸奥守というカードにしてたもんだから、二人ともガチすぎるあまりプレッシャーも半端無かったので見学に徹するしかなかった！ 見習いは声援出そうかどうか一瞬迷ってたけど完全に二人の空気に圧倒されて動けなかった、途中で不動くんから「甘酒飲むか～？」って誘われたのでそっちに逃げてた とりあえず見学しながら「手合わせも相手によって空気が変わる。ただ皆真剣にやっているのは理解し、審神者も慣れるようにする」とは言ったけど、見習い手合わせにもびびってたのでちゃんと聞いていたかどうかは分からない 終わった後は二人と軽く挨拶して、お互いの鍛錬や実戦に活用するためにやってる内番と軽く説明 ここだと見習いは何も言わず、刀剣男士にも反応せず。どうやら二人とも好みではないようで、さっさとこの場から離れたがってた 手合わせのプレッシャー凄かったのは認めるけどそのせいで顔やら態度やら声やらもろに出てたのはどうにかした方がいいと思う。二人が大人でよかったね 151 名無しな審神者さん ＞長曽祢ＶＳ陸奥守 見習い相手にその組み合わせは濃すぎないか！？ 152 名無しな審神者さん 審神者ボケ全開の実戦はともかく、手合わせでもびびるって……うーん、根本的に審神者に向いてない子っぽい？ 153 名無しな審神者さん 粟田口の方がまだ良かったんじゃないかと思ったが、昨日に見習いがやらかしてたからそこは配慮したの？ 154 名無しな審神者さん 虎徹難民としてはぜひとも見たい。実際凄いの？ 155 １ >>151，>>153 ＹＥＳ。流石にあの後だとまたやらかしたら粟田口兄弟からの評判が酷い事になりすぎるのでやめといた。不和はあんまり作りたくない だから内番は進行優先で新撰組＋陸奥守で固めてみたんだけど、その結果がこれだった >>152 冒頭でも書いたけどテンプレな子 こんな地味女より私の方が可愛いから許される～という思考の脳内お花畑なバカ どんだけ甘やかされればこうなるのか逆に気になるぐらいだった >>154 やっぱ昔から因縁あって色々思うところがある同士というのもあって、ガチ度が凄い 実力・勝敗に関しては本丸ごとに異なるけど、それを抜いても真剣度は一、二を争うよ でもって互いに状況把握能力高いから、引きずることは滅多に無いし ラストは畑当番。ここの担当は兼さんと堀川くんの土方組である 丁度できたばかりのたくさんの野菜を収穫している真っ只中だったので、内番経験に丁度良いということで私達三人も手伝うことにした 当然ながら見習いはﾔﾀﾞﾔﾀﾞと凄くごねたんだけど、兼さんに声かけられたら渋々ながらもまーたぶりっこしながら行った。無論兼さんの隣キープして。ブレねえ でも今回も相手が悪かった 兼さんのとこに行くという事は、お世話好きだけど決してサボらせない甘やかさない堀川くんの傍に自ら飛び込んだのと同じだ ……結果、見習いは堀川くんと一緒に上機嫌で野菜収穫をやりきるというとんでもない光景を目の当たりにする事になって、私、戦慄 あの文句言いまくり我侭娘相手に笑顔で対応した挙句、会話だけで相手をやる気にさせる堀川くんの手腕はなんというか、闇討ち暗殺お手の物の真髄というのを思い知った 兼さんに尋ねたら「今回は見習いがちょろすぎただけだ」と言われた。不動くんも甘酒飲みながら頷いてた 156 名無しな審神者さん ファッ！？　何やった堀川！？ 157 名無しな審神者さん ええとつまり堀川の方が何倍も上手であったと…… てっきりまた何時ものパターンかと思ってたけど、何これ？？ 158 名無しな審神者さん あー……豚も煽てりゃ木に登る……？ 159 １ 見習い「あーもう面倒。疲れる。何でこんな事しちゃいけないのよ……（ぐちぐち」 堀川「終わったら休めるから一緒に頑張ろう？　一緒にやればすぐ終わるよ（にっこり微笑み」 見習い「！　あ、で、でもあたし、こういうの初めてで……（面倒臭い→きゅんっ！」 堀川「分かってる。だから重いのは僕達男士が持つから、君は小さいのや軽いのをお願いしていいかな？（首こてしながら普段より少し甘めの声で」 見習い「え、けどどれがどれだかわかんないし……（満更じゃなくなってきた」 堀川「あ、それなら僕がまず色々教えてあげる。これはね……（見習いと距離をつめ、思わず意識しちゃうような近さで対応」 見習い「うん、うん……！（←平常そうにしてるけど実際はどんどんテンション上がり、喜んでるのが見てて超分かる」 という感じでまず優しくマンツーマンスタイル その間、兼さんは堀川くんの意図を読んだのか二人の間には口出しせず、でも堀川くん相手には普段通りの対応 堀川くんは見習い相手に分かりやすく怒る事は絶対にせず、柔らかな物腰で教えながらも彼女がサボりたがってきたらすかさず気づかれないよう逃げ道を塞ぎ、上手に煽てながらやらせていった 脇差って中学生ぐらいの見た目だけどＪＫの見習いからすれば年の近い可愛い系イケメンなんで範囲内、そんな素敵な彼が優しくて温厚で自分に妙な注意一切しないどころか色々声かけてくれるもんだからもうノリノリで野菜収穫頑張った 傍から見ていれば上手い事乗せられて手綱握られているようなもんで、それを予告無しに見せられた私は堀川くんの知らない一面に絶句 この対応について後から聞いたら「先手を打っただけですよ」と笑顔で答えられた この子の事だから初日の時点で見習いの性格把握した上で動いたに違いない >>158 大正解 160 名無しな審神者さん 見習いちょろぉぉぉぉぉっ！！ 161 名無しな審神者さん あー、でも対応としては正しい！ ダメだって言い続けるだけより、やる気にさせるのも大事！！ 162 名無しな審神者さん この紳士な堀川くん見て兼さんも即意図を看破して動くところはさすがや てっきり綺麗なところは兼さん、やばいところは堀川くん担当と思ってたのに 163 名無しな審神者さん >>162 いや、方向性が違うだけで二人とも結構邪道 兼さん、実戦だと結構なんでもありの戦法だし、堀川くんは言うまでもなし 164 名無しな審神者さん つまり文句言われて険悪度が上がる前に先手打って掌の上にしたってわけか…… 見習いの性格分かりやすいから、情報事前にゲットできてれば対応なんざ幾らでも出来るわな 165 名無しな審神者さん アレ、でも脇差って範囲外的な書かれ方してなかった？ 166 １ >>165 多分脇差＝短い刀＝子供と勝手に決め付けてただけだと思う ②の時は審神者ボケインパクトが酷かったからその辺気にする余裕無かったんじゃないかな だから穏やかな日常時に実際に年近くて温和で優しそうなイケメンの男の子に距離つめられて微笑まれたら、そういう先入観ぶっ飛んでメロメロになるよ 審神者は刀剣男士の高レベルっぷりに慣れてるけど、見習いはそうじゃないから…… 167 名無しな審神者さん あー、あいつ等下手な女子より綺麗どころ多いもんな 普通の生活送ってきた身からすりゃ、破壊力抜群だわ 168 名無しな審神者さん 審神者は共同生活してるから嫌でも慣れるけど、刀剣男士って幅広いからねー 正統派に綺麗どころに男前にショタにオヤジにメガネに……需要がいっぱい！ 169 名無しな審神者さん 子供って言っても中学生ぐらい……ってそっか、見習いはまだ高校生か。それなら離れすぎてるわけじゃないな それに堀川君、格好と言動がきっちりしてる方だから脇差の中だと大人びいて見えなくもない 170 名無しな審神者さん 脇差だけでなく打刀や太刀や大太刀とか外見年齢の違い大きいもんね 大太刀だけど子供な蛍ちゃんとか、本体の年齢から爺という三日月までいるし 171 １ 不動くんも云百年生きてるから甘酒ＯＫって言う子だからなー。刀剣の年齢というものは良く分からん ひとまず③の内番フルコースは大体こんな感じで終わり 後は刀装や演錬や遠征とかを一気に教えて、本格的に体験させていくかなーと思っていたんだけどその矢先に④になった この④が直接のギブアップ理由であり、見習いの問題児っぷりが更に発覚した場面である 172 名無しな審神者さん kwsk 173 名無しな審神者さん wktk 174 名無しな審神者さん ＞問題児っぷりが更に発覚 もう既に問題児なのにまだあるのか [newpage] 175 名無しな審神者さん 何かこの子の場合、②だけで十分ギブアップになってそうだけどこの様子だと違うっぽい？ 176 名無しな審神者さん この見習い、何か出来るとは思えないけど持ち前の性格でやらかしそうではあるな 177 名無しな審神者さん ＞④見習いの危機はすぐ傍に 見返してきたら４のタイトルがこれの時点で不吉な匂いしかしない 178 １ 早速④見習いの危機はすぐ傍に、に入るよ。時系列は③終了直後ぐらい 具体的に言うと食事とお風呂も終わり、見習いも上機嫌のまま終わった一日の〆 そんで私と不動くんと見習いの三人で一日の振り返りして、レポートの方をお願いしようとした矢先の事だった 見習い「あのー、審神者さーん」 私「ん、何か気になる事あるの？」 見習い「この本丸、私にくれませんー？ｗｗｗ」 私「は？」 思わず耳を疑った発言をぶちかましてくれた。多分今年一番の間抜け面だった 見習いの方はというと、聞いてもいないのに問題発言の理由をぺらぺら話してくれた 見習い「だってーあのぐらいの仕事なら私でもできそうですし、審神者さんみたいな人じゃなくてもいいですよねー。あんな酷い流血沙汰やらせてるのに全く罪悪感ないし、感覚狂ってる可笑しな人が主じゃかわいそうですよー。あたしだったら絶対させませんし上手くやれる自信ありますー。地味で胸も無い審神者さんなんかよりも私の方がとっても可愛くて注目されますし、私に応援される方が皆も気合入ると思うんですよー。私、あなたみたいにケチケチしすぎる貧乏性じゃありませんしー、皆も怪我無い方がいいでしょうしー。ほらー、さっきの内番でも私の方が刀剣男士と仲良くやってたじゃないですかー。だーかーらー、私の方がぜーったい上手くやれますから、引退してくれませーん？ｗｗｗ」 今思い出すと凄く腹立つけど、聞いてた時はもう空いた口が塞がらないといった感じだった いや、もうどんだけ脳内補正かけてるんだとか、内番で仲良くしてたの堀川くんだけで実際はその堀川くんに上手い事乗せられて手伝いさせられてただけなんだけどっていうツッコミとか、感覚狂ってるのは否定しないけど審神者だと誰もが通る道って教えた筈なんだけどとか、ツッコミどころが山のようにありすぎてね 見た目の可愛さは結構高いのは認めるけど、今までの言動で全てぶち壊しているという自覚無いから脳内お花畑のバカっぷりを披露してるようにしか見えなくて、もうここまでバカ全開でやられると怒りも呆れも笑いも通り越して、対応に困った 179 名無しな審神者さん うわあ うわあ うわあ 180 名無しな審神者さん 世の中なめすぎだろ、この小娘 181 名無しな審神者さん 一体どれを見て、どういう思考に陥ったんだ、これ…… 182 名無しな審神者さん マジで親の顔が見てみたいな もしかしてこれ、親も頭の中くるくるぱーなの？ 183 名無しな審神者さん ＞酷い流血沙汰 中傷程度で酷いというようではまだまだ甘い 脇腹に槍貫通してるとか、大太刀に派手にぶったぎられて中身ポロリしてるとかそのレベルの重傷見ても余裕で肉食える図太さを手に入れてから言え！！ 184 名無しな審神者さん >>183 概ね同意見だけど、それほどの重傷見ても肉食える審神者がいる本丸は少ないぞ 185 名無しな審神者さん そーいや、これ冒頭で乗っ取り未遂系だって話出てたな 186 １ あまりのバカっぷりに絶句して言葉が出ない私をどう勘違いしたのか、見習いは調子に乗ってもう色々言ってくれたよ 「この程度なら私の方が上手くやれる」とか「あんたにはもったいないとずっと思ってた」とか「身の程を知らないバカより私が相応しい」とか「あんたのやり方じゃ皆ついてこなくなる」とか……どの口がほざいてるんだ、ともう何回思ったことか！ 流石にこんなに言われて温厚でいられるほど優しくないんで思い切り怒ろうと思った矢先の事だった 不動くん「つまり、あんたはこの本丸を乗っ取るのが目的か？」 ここまで甘酒片手に静観していた不動くんが口を開けた途端、空気が一瞬で張り詰めた 普段の酔っ払い何処行ったと思うぐらいのシラフで落ち着いてて、でも確実に敵を定めた上での冷たい殺意のこもった声 画面越しに皆の戦闘見てるけど生で食らうのは慣れてないので私は凄くびびった、でもその矛先を向けられた見習いの方が凄くびびってさっきまでぺらぺら喋ってたのに萎縮して口ごもって怯えた目を見せる それを見た不動くん、殺意は引っ込めてくれたけどシラフ状態のまま見習いに言い捨てる 不動くん「なんだ。この程度で怖気つくなんて器が知れてるな、それで乗っ取りとは笑わせる」 見習い「な、なんでそういうのよ！？　あたしは事実を言っただけだし、そもそも女の子脅すなんてサイテー！！」 不動くん「なら逆に聞くが、何で主に謀反を企む裏切り者に優しくしなきゃいけないんだ？」 見習い「は！？　何よ、その言い方！　そもそも昔の方が裏切りとか下克上とかそういうの多かったんだし、今更……」 不動くん「都合の良い言い訳に使うな。どちらも殺意を向けるには十分すぎる、昔も今も」 見習い「あぁもう何が不満よ！　アレの何処が良い訳？！　あんた、頭おかしいんじゃないの！？」 不動くん「おかしいのはあんたの方だろ。騒ぎ立てれば何でもどうにかなると思ったら、大間違いだ」 殺意無くなったのでｷｬﾝｷｬﾝ騒ぐ見習いだったけど、不動くんは動じないどころか全く容赦無く静かな怒りを込めて正論で叩き伏せる 長谷部と本能寺に行った時でも見せなかった一面に私も圧倒されてしまい、一体どこでキレたのかとびびる。この子、審神者ラブ勢じゃないのに……と現実逃避気味に振り返ってしまった いや、見習いにお灸を据えてくれるのは凄く助かるんだけど、その時の不動くんね、ボスマスか真剣必殺か一騎打ちじゃない限り出さないような顔になってて尋常じゃない怒りようだったから本当に怖かった。審神者なのに怖かった 187 名無しな審神者さん 乗っ取りっていわば内部での裏切り・下克上だからな 昔からあるといわれようとも、やられた側からすればブチギレもんだよ 188 名無しな審神者さん 文面だけで分かる不動行光のキレっぷり……！ 189 名無しな審神者さん 見習い、自爆してどん底に落ちるだけだからやめとけと言いたくなる対応 でもいいぞ不動、もっとやれ 190 名無しな審神者さん ＞審神者なのに怖かった だって刀剣男士やで 俺らよりはるかに戦場慣れしていて、前の主の影響ばりばり受けてる連中やで 何より俺らの審神者ボケの最大の元凶なんやで 191 １ 見習いはというと怯んでいるものの手出されてないのと殺意引っ込んでるので、まだｷﾞｬｰｷﾞｬｰ騒いでた。バカもここまで来ると凄いと感心してしまった だけど苛々＋鬱陶しさ＋キレてる理由分かってない等の理由で癇癪を更に酷くして、自ら地雷を踏み込んだ 見習い「なんでそんなイジワルばっか言うのよ！？　元の主の顔が見てみたいわ！！」 いや、小学校の時から教科書で散々見ただろとツッコミ入れたかったけど、無理でした 見習いを睨みつけてた目が更に鋭くなった上、まだ自虐めいてた表情から自虐が抜けてって、小さいながらも戦場に立つ刀剣男士であるのを嫌でも再認識させられた 不動くん「日ノ本でもっとも有名な乗っ取り被害を食らった信長公が俺の大事な元主だよ。だから俺は同じ過ちを繰り返させる気は更々無い」 言葉こそ自虐っていたけどね、この時の不動くんは怒りとかそういうもの通り越してた。さっきの殺意は手加減してたんだってのが良く分かるほどのプレッシャーがあった ほら、本能寺の変って織田信長が家臣の明智光秀に謀反されて命落とした事件で、明智光秀はすぐ豊臣秀吉にやられたとはいえ、そうなるまでは天下人になってたじゃん それって見る方向を変えれば、見習いによる本丸乗っ取り事件と構図が凄く似てるの 天下・本能寺を本丸とすれば、信長は審神者、光秀は審神者見習いのポジションとなるの ……うん、つまりまとめると本丸乗っ取りそのものが不動くんにとって最大の地雷だったというわけである 本能寺の変ずーーーーっと引きずって甘酒で自棄酒してる子からすりゃ、似たようなシチュ食らって見逃すわけが無かった 不動くん、常日頃甘酒で酔っ払ってる卑屈な子だけど、根っこは頭かなりキレる上に人の気持ちも素早く察せれる子だから余計に 192 名無しな審神者さん ＞本能寺の変と本丸乗っ取りの構図似てる 置き換えれば確かに！？ そりゃ不動くんブチギレする！！ 193 名無しな審神者さん あぁ、うん。刀剣男士、元の主慕ってる勢は歴史を変えちゃいけない事に苦悩する奴多いよな それってつまりそんだけ愛された記憶があるわけで、だからこそ葛藤してるんだよな でも大事な過去だって分かってるから、歴史修正主義者と戦える でも後悔は後悔なんで、二度も繰り返したくないって思うよな 元主との死別はやっぱり歴史を変えたいとか、もしもとか考えるぐらいの大きなもんだから ……で、現在でも同じような事が起きればそりゃ阻止に走るわな！！ 194 名無しな審神者さん なるほど、見習いの危機ってこれやったんか 本当にすぐ傍におったな！！ 195 １ 近侍だった為、①～③までの見習いのやらかしたこともばっちり見てきた不動くん、宣言通り容赦も手加減もする気ゼロ 流石に相手が丸腰の女の子ってわけで暴力行為はしなかったけど、その代わり口だと本当にズバズバやった 不動くん「そもそもあんたは色々舐めすぎだ。乗っ取りってどういうことか本気で分かってるのか？　主を裏切り、下克上するという事は自分以外の武将を敵に回すのと同じ。そして裏切られた側からすれば、そいつに甘い顔をする理由が消える。つまり内部に自分の敵を大量に作るというわけだ。俺一人だけの殺意受けて怯んで動けなくなる女がそのプレッシャーに耐え切れるわけがない」 見習い「な、え、ちょ、で、でも、だって」 不動くん「それに俺達だって馬鹿じゃない。あんたはこれまでの間、何をやった？　ただ審神者をバカにして、男に媚びて、仕事に文句を言うだけで何もしていない。そんなダメなとこばっか見せられたら、誰もついていこうとは思わない」 見習い「な、内番！　畑はちゃんと手伝ったわよ！！」 不動くん「堀川に煽てられて漸くやった程度の事を持ち出すな。相手の口車の意図も分からないで乗せられてる時点で、器が知れてるんだよ」 見習い「な、え、そんじゃあいつのやった悪逆非道はいいっていうの！？」 不動くん「戦で怪我をするのは当たり前だ。どんな傷を負ったとしても生きて戻れればどうにでもなる。それに俺達は審神者と仲良しこよしする為にここにいるんじゃない、時間遡行軍と戦う為にいるんだ」 見習い「でも、けど、でも……」 不動くん「これら全てを踏まえた上で、わざわざ乗っ取りなんて考えるってどういう理由があるんだ？　この本丸にいる四十人を越える刀剣男士を納得させられるだけの理由を胸を張って言えるのか？　先に言っておくが外見や年齢は理由にはならないからな」 見習い「そ、それは……」 不動くん「男達にちやほやされたいだけなら、帰れ」 辛口＋正論＋隙無し＋涙目の女の子相手に全く容赦無し。怒涛の指摘に、見習いは完全に降伏 流石にこれ以上はやりすぎになる為、なんとか復活した私が不動くんを主命で下がらせてこの流れは終わらせる そんでも不動くんの言った事は全て事実であり、審神者は甘い考えで出来るものじゃないってのも私の口からも説明 特に審神者ボケ引き起こすぐらいには出陣諸々に慣れなきゃいけないし、刀剣男士が力を貸してくれるのは歴史修正主義者を倒して歴史を守る為なのが大前提にあるからそこを履き違えてはいけない。本丸にいるから実感が湧きにくいだけで実際はとても危険。と色々と。 そしてこれらがどうしても出来ない、無理だと感じるのならば意地をはらず、審神者を辞退する事も勧めておいた 見習いでの体験というのはこういう向き不向きを理解・分析するという側面もあるので、決して禁止というわけじゃない 出来る限り強くない口調を心がけて、焦らせないようにとこれらの事を気をつけて話した ここまで聞いた見習いは私のいう事聞くのをまだ嫌がってたけど、不動くんに散々絞られた後なので反抗はしなかった そんで暫く考え込んだ後、審神者という役目の重みに耐えられないと悟ったのか見習いはギブアップを口にしたのだった というわけで④は大体こんな流れ。不動くんが大体全部もってった 196 名無しな審神者さん うおぉっしゃぁ、不動ＧＪ！！ 本当よくぞ言った！！ 197 名無しな審神者さん ちょっと個人的に耳が痛い部分もあったけど、見習いへの釘刺しには十分だ！！ 198 名無しな審神者さん プギャー、というかかなり真っ当なダメだしに見えるな もうここまでハッキリ言うと見てたこっちもスカッとすんな 199 名無しな審神者さん １もこのタイミングで止めたのはナイス たまに見習いに対してやりすぎて心折ったって話聞くけど、不相応にやりすぎたらアウトだ 200 名無しな審神者さん 俺、不動難民なんだけど……この子、こういうキャラなの？ 201 名無しな審神者さん >>200 いや、この状況だから出たってだけで普段からそういうわけじゃない １も散々書いてるけど基本不動行光は甘酒片手に持って常に酔っ払ってる自称ダメ刀のまんばみたいな卑屈な短刀 本能寺の変の事がトラウマになってんのか節々でそれを連想させる事は言うし、たまにシラフの顔見せる時もあるけど根はかなり頭がキレる ダメ刀自称してるのは、彼自身も言うけど自身が織田信長の愛好した刀だというのに、その愛に応えきれないまま信長が死んでしまった事を引きずってるから ぶっちゃけ本能寺の変で信長死んじゃってやさぐれて自棄酒している森蘭丸と考えればいい 不動行光は信長お気に入りの刀だけど、信長→蘭丸に渡されているエピソードあるし 202 名無しな審神者さん >>202 ＞自棄酒している森蘭丸 なんか想像がめっちゃしやすい！！ 203 名無しな審神者さん あれ、でも薬研も織田信長のお気に入り短刀じゃなかったっけ？ ニキは確か本能寺の変で焼けて無くなったって聞いたけど 204 名無しな審神者さん >>203 そうなんだけど実物の薬研に関しても色んな説がとびかってるからなぁ 史実から探っても決定的といえるものはないし、藤四郎という名前だから混ざってる資料もある オマケに現代では薬研藤四郎の刀の所在は分かってないから、謎が謎を呼ぶ状態 205 名無しな審神者さん >>204 はー、なるほど！　ありがとさん 性格は信長の影響受けてそうだけど、その割には色々雑で前向きな部分が目立つからちょっと気になって 何せ正月に剥き出しの鯛持ってきたからなぁ、アイツ……美味かったけど 206 名無しな審神者さん あの鯛食ったんかい 207 名無しな審神者さん まあ、不動や薬研に限らず刀剣には判明してない部分が多いのも事実だからな 刀剣男士も幾らかなり影響を受けてるからって主と過ごした日々を記録してるわけじゃない、それどころか実際の刀剣の曖昧さを理解した上で動いてる奴もいる この辺彼らの神秘だよなぁ 208 名無しな審神者さん 何せ燭台切とかは関東大震災で燃えて無くなったと思ってたら、実は無くなっておらずミュージアムで大事に保管されていたというのが2015年に判明した凄い話があるしな 209 名無しな審神者さん >>208 これ知った時は本気でびびったよ…… 210 １ 刀剣男士の本体の本体に関しては謎が多い反面、すごい沼となるって話は良く聞くなぁ 私も気になった時に軽く調べたりしてるけど意外な話結構ごろごろ転がってるからね。燭台切のエピソードとかびっくりした さてと流れぶった切って本題の続き、というか後始末について行くよー ギブアップという話になって、見習いは三週間の体験をきりやめて現世に帰る事にした この辺手続きとか契約とかで結構大変だったもののとりあえず日数を省略することは成功。それまでの間は本丸に滞在 ……不動くんに散々絞られたんで大丈夫かと思ったけど、刀剣男士にぶりっこするとこは全く変わってなかったのには呆れたけど 後、私への悪口攻撃が「審神者の仕事は私に向いてない～」「私にはもっと相応しい仕事がある～」系に変わっただけだった。脳内お花畑に加えて鳥頭かよ、と凄く思った でも流石に不動くんの前では大人しくなってたし、彼が来ると慌てて逃げ出すようになったので被害としては大分マシになった その後は特に問題も無く、予定よりも早い日数で見習いとお別れ 見習いは名残惜しまれると思ってたけど皆あっさりしてた事には文句言いたそうだったけど、不動くんにまたやられるのは嫌だったのか粘る事無く帰っていった まぁ、あっさりの理由については不動くんの言ったとおり「文句言うだけで何もしていない子」っていう評判が狭い本丸内でとっくに知れ渡ってたからなんだけど そっからは普通の日常に戻ったよー みんな、長話に付き合ってくれてありがとう 211 名無しな審神者さん おぉ、平穏に終わったのならよかったーﾉｼ 212 名無しな審神者さん 見習い、〆られても態度かわんねーんかい…… 213 名無しな審神者さん >>212 実際に乗っ取りやらかしたり呪具使って悲惨な事にしないただのバカな分、さっさと片付いてよかったってことにしとこうぜ それに五年後十年後苦労すんのは見習いとその周囲であって部外者の俺らが気にする話じゃない 214 名無しな審神者さん 乙ー 体験期間、よくがんばった 刀剣達にも慕われてる良い環境になってんのも伝わったよー 215 名無しな審神者さん しかしこうしてみてると審神者業務きちんとしないとなーってなる 俺、割と丸投げタイプだから怖い 216 名無しな審神者さん >>215 それこそ審神者がそういう方針として出してればきちんとどうにかなるぞー できないから頼むっていうのも立派な指示だからな。その辺お互い理解しあってると案外大丈夫 審神者だからってなんでもかんでも必要以上に抱え込む必要は無いよ、それこそ刀剣達と助け合えばいい かといっておんぶにだっこしてブラック化したら元も子もねーけどな 217 名無しな審神者さん 案外審神者として最低限の事をやっていればいいからね 前にこの辺の理由を蜻蛉切に聞いたら「歴史を守るという途方も無い戦いに投じ、真っ当に続けている時点で仕えるに値する」と言われた事ある チキンだったんでそれ以上は深く聞けなかったけど、これからも頑張ろうって気持ちになった 218 名無しな審神者さん その辺の覚悟とかは当の審神者にとっちゃ跡付けな事多いけどな これもまた慣れだよ、慣れ 219 名無しな審神者さん そういや１って何で不動を近侍にしてたの？ 220 １ うちの刀剣男士にはいっぱいフォローされたけど私はまだ胸晴れるほど立派な審神者じゃないから精進しないとね 今回の体験では見習いに散々振り回されたけど、審神者ボケ筆頭に色々反省点も見つかったから繰り返さないようにするよ >>219 この前のイベントでゲットしたのと夜戦攻略要員増やす為。近侍が錬度上がりやすいから ……んだけど普段と戦場とのギャップとか、長谷部との対話で見えた顔とか見て、一気にツボってお気に入りになったのも理由 今回近侍にしてたのもその辺が理由だけど、まさかこんな連鎖反応を起こすとは思わなかった 221 名無しな審神者さん ＞お気に入り おめでとう、君もまた審神者だ 審神者やってると絶対一人はお気に入りが出てくるもんだ 222 名無しな審神者さん 俺の知り合いの審神者が物吉ゲットした途端、喜びのあまり発狂してたからなー こういう一番を見つけた瞬間も醍醐味よ 223 名無しな審神者さん ＞お気に入り 審神者によっちゃ同じ刀剣男士を育ててるとこあるって聞いたぞ 224 名無しな審神者さん 露骨に贔屓しすぎず、本丸内の輪を崩さないようにしろよー！ 225 １ >>224 分かってるよー お気に入りができたとしても、審神者にとっては刀剣男士みんな大事だからね さてと話も終わったし、そろそろ落ちるわー こっちに夢中になりすぎてたせいか、不動くんが酒もってこいって煩いので行ってくる そのままデイリー消費ついでに大橋で明石越えさせてくるわー 226 名無しな審神者さん 乙 227 名無しな審神者さん お疲れー。明石とれるといいなー 228 名無しな審神者さん 物欲センサーと賽の目の気まぐれにめげるなよー

不動くん入手して沼に落ちました。<br />彼メインの話を書きたいなぁと思った事と、乗っ取り系の話を読んでる際に沸いて出たアイディアを混ぜ合わせて書き殴りました。<br />表紙はこちら（<strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/41763239">illust/41763239</a></strong>）からお借りしました。<br />また本編内の博多弁につきましてはこちら（<a href="/jump.php?http%3A%2F%2Fmonjiro.net%2F" target="_blank">http://monjiro.net/</a>）の変換サイトを使わせていただきました。<br />3/6にDR80位、女性人気32位、3/7にDR37位、女性人気29位になりました！　皆様ありがとうございます！<br /><br />注意<br />※女審神者、女見習いが出ますが恋愛要素は一切ありません。<br />※このお話には「本丸乗っ取り」「審神者見習い」要素があります。<br />※独自の解釈によるオリジナル設定があります。

見習い来たので体験させてたらギブアップされた

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　 「どこ見ても人、人、人だな」 　「ウォール・ローゼ」トロスト区ではこの辺り一番の賑わいを見せている。それもそのはず、シガンシナ区やこのトロスト区のように、壁から突出した街は巨人の脅威と日々向き合っていくことになる。しかし、王政によってその地域に住む人類は「最も勇敢な戦士」として祭り上げられ扇動された。と、訓練兵になり調べ物をしていた時偶然見つけた書物にそう書かれていた。 どういう経緯かはわからないが、その王政の言葉に人類は扇動されるように住みつき、今の繁栄した街並みが送られている。 ――俺なら勇敢な戦士じゃなくてもいいから安全な場所で暮したいと思うけどな―― 　実際問題、王の言葉ってのも怪しいものだ。普通なら自分たちのみが危険にさらされるのだ、反乱が起こっても不思議じゃないと思うんだが、騒動が起こった事実は俺が呼んだ本には書いてなかった。この世界の人と俺の考え方が違うのか？ 　もし仮にこの世界の王が人類全員から崇められ、敬られる存在だとしたらそんなのは神を崇拝する宗教団体のようなもの。王が人々に何か暗示をかけたとしか思えない。それこそ一種の催眠術のような特別な力だとしか思えないんだが、俺の考えはまちがっているのか……？ 　俺は栄えた街並みを目にして前、不思議に思ったことが頭を過った。しかし、はしゃぐクリスタの声で我に返る。 「でしょでしょ！？ 活気に溢れてるよね～」 　トロスト区商業地区に降り立った俺たちは視界を遮る人の波にのまれている。 　商業地区では食料品を売っている市場や、雑貨店、レストラン街、生活用品を主に取り扱っている鍛冶場など多種多様に別れている。しかし区画整理はしっかりとなされている。 　そして今いる場所は商業地区の食料品を取り扱っている市場だ。市場は朝、夕を問わず一日中活気に溢れている。 　耳を澄ませば『ちょっとそこのお姉さん、今日はこのお安くしとくよ。どうだいこの魚！今晩のメインはこれでいこうよ。』など様々な勧誘合戦が繰り広げられている。見ていてちょっと気持ちいい。 前に俺がシガンシナ区を歩いた時もそんな感じの勧誘を受けたことがあるが、あの時と今とでは置かれている状況が異なっている。 　今は落ち着いて街の様子を観察することができる。 「クリスタお腹空いてないか？」 「ううん、別に空いてないよ………」 平然と答えるクリスタだったが、その直後『ぎゅるぅぅうう』っとクリスタのお腹の音が鳴り顔を真っ赤にする。 「あれでも食べるか」 　通りに建つ屋台のような店先に売り出しているのは塩と胡椒で味付けられた焼き鳥だった。 　モモ肉のような小ぶりな肉が木の串に刺さったお馴染みの焼き鳥。俺は現代では食べていたが、ここに来てからは初めて目にする。 　焼き鳥4本分の料金を支払って焼き鳥を受け取る。値段は街の中心地とだけあって少し高めだ。やはりお肉の物価相場が高いのだろう。 「はい、クリスタ」 　クリスタに串を一本渡す。 「え？ここで食べるの？」 　驚いた表情のクリスタ。恐らく食べ歩きをしたことが無いのだろう。領地を持っているくらい本家は貴族相応の家系だから仕方ないか。 　俺はお手本とばかりに焼き鳥の肉にがぶりつく。うん、久しぶりの肉は上手い。 「そうだけど、クリスタは食べ歩きをしたことが無いのか？」 「無い、かな……街に来てもご飯はお店の中で食べてたし、女の子同士だとああいうお店で買いにくいから……いつも美味しそうだなって思ってみてたんだけど」 　女子同士は良い格好を見せようとする風潮があるようだな。それに下品というか行儀が悪いと感じるのだろう……。 「店先で売ってる食品はこうやって食べるのが普通なんだけどな。これはあれだけど、他に果実を一口サイズの大きさに切り分けて串に刺して売ってる所とかあるだろ？そういう所なら女子同士も買いやすいと思うぞ？」 「果物はそのままでしか売られてないよ？ って、これ美味しい！！」 　恐る恐る肉に噛みつくクリスタ。食べた瞬間満面の笑みが零れ思わず俺も見惚れてしまう。 　お腹も空いていたのかバクバクと肉を食べていきあっという間に串だけになる。 「おかわりもあるぞ」 「……う、うん。ありがと…」 　気まずそうに頬を赤らめて俺から焼き鳥を受け取る。別に食い意地があるとか思ってないし、大食いで下品な子だとは思ってないからそんな顔しないでほしい。むしろよく食べる子の方が健康的でいいと思う。 　そして今度はさっきとは違って静かに一口一口噛みしめる様に食べていた。 「それより、さっきクリスタが言ってたことなんだが、果実ってそのままでしか売られてないのか？切ってある物とかもないの？」 「モグモグ………うん。私はそれしか見たこと無いかな。だから買っていって宿舎でご飯の後にみんなで食べてるの」 「そうか…」 　やはり衛生面とかの問題があるのか？確か前に感染症が起こったって聞いたことあるし、生の食品の肌を見せておくのは良くないのかな。もしくは、果実をその場で食べさせる風習が無いのか……前者だとしたら俺が言ったところで店主が実行してくれるわけはないな。 　現代では祭りなどの屋台ではよくミカンやスイカ、バナナなど新鮮な果実が食べやすい大きさに切り分けられ売られていたが、その懐かしい感覚は拝めそうにないな……って俺が祭りに行ったことがあるのかって？バカッ、あるに決まってるだろ。主に小町におつかいとして行ったし、由比ヶ浜……とも2人で行ったことあるしな………。 「外でこんな出来上がったものを歩きながら食べるのは初めてだよ！」 「………そ、そうか、店先で出来上がったものをアツアツの内に食べるのが美味しいんだ」 「そっかぁ、納得だね」 　いかんいかん、また考え事をしていたようだ。この世界に来てから1人で考えることが多くなって駄目だな。もう少し周りを見てないと……。 　クリスタは気に入った様子で他の店で売っている団子なども買って食べ始めた。砂糖などの調味料は高価で貴重な物らしく、甘味食品は全体的に高値で売られていた。 　しかし、こう人が多いと店先の店員の勧誘が凄いな。 　周りの人たちもどれどれといった感じで誘われたりしている。それを見た他の店員は我負けじとお客を呼び込もうとしている。しかし、店の店主たちはそこから値引き合戦が始まってお客を奪い合う。 　利潤率は少ないだろうが生活が懸かっているからお客を大量に呼び込んで利益を出そうとしているのだろう。 　そんな様子を見守りつつ、クリスタが勧誘に呑まれて食品を買っていく内にお腹がいっぱいになったので食品売り場を出る。 　特に美味しかったのは揚げパンだった。小麦を水でこね、発酵させ焼いたパンの中に豆類を煮てサトウキビ糖を加えて練ったものが中に入っていた。いわゆる『あんぱん』なのだが、商品名は『甘饅頭』という味を連想しにくい名前だった。そのせいかお客も少なく並ばずに買うことができたのだが、もう少し人気になれると思うのにネーミングセンスが残念だった。 　そして俺たちが食品売り場を出るとちょうど正午を知らせる鐘の音がトロスト区一帯に響き渡る。 　人々は音に呼応するように昼食へ向けて活動を始める。しかし、食べ歩きが腹を満たした俺たちは波に反するように売り場から離れる。 「次はどうするの？」 「そうだな……」 　俺に聞かれても女子と買い物に出掛けるのなど何年ぶりだ。俺にリードしてほしいなど無理な注文だ。 　悩む俺の目の前に現れたある建物、俺はラッキーと思いながらその中に入る。 「ここは？」 「演劇屋だ。お芝居をするところって言った方がわかりやすいか？」 「へぇ、何のお芝居するの？」 「えっと……なになに？『Schneewittchen』？」 　白雪姫か。確か、白雪姫は元々ドイツで作られた民話らしいからな、この世界観とあってるな。 「どんなお話しなの？」 「まぁ見ればわかる……」 　白雪姫を知らないクリスタは何度も訪ねてくるが、俺は含みを持たせた言い方で開演までじっと待っていた。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 　お昼過ぎ、2人が『白雪姫』を見ている頃、彼女たちがようやく街へと到着した。到着するや否や彼女たちは店先の店主たちの声に反応することなくある人物を探し出す。 　彼女たちのみならず、彼女たちを追ってきた彼らも一緒に街へと入る。 「せっかく街に来たんだしもう少し楽しもうよ」 「そんなこと言ってもアルミン……ミカサの顔見ろよ。殺気立ってるぜ。声かけてみろよ。こっちが殺されるぞ？」 「ったくどうして俺たちまで連れてこられたんだ？」 「ははは……諦めるしかないねライナー」 　エレン、アルミン、ライナー、ベルトルト、彼らは既に疲れた様子で彼女たちの後を見守る。 　活気溢れる人並みに酔っているわけではなく、彼女たちの威圧めいた殺気に押されていた。訓練兵団でもトップの位置にいる彼らでも、こんなに『やばい』と感じる雰囲気を浴びるのは初めての経験。 　命を懸けた立体機動の訓練さながら女性陣2人の表情は鬼気迫るものがあり、何人たりとも彼女たちの手中に入ることを許さない。 　店先の店主たちも彼女たちの雰囲気が普通ではないことを察したのかターゲットを別の人物にあてる。流石長年接客業というモノを経験してきただけあり判断の速さは賞賛に値する。 「ハチマンはあっち側にいるらしい。アニはあっちを探せばいい」 「ならあんたがあっちに行けばいいじゃない。何で逆の方向に行こうとしてんの？」 「それは………」 　語彙力に乏しいミカサにはアニを騙すほどの力は無く、敢え無くミカサの作戦は失敗に終わる。実際に少年があちら側にいるかもしれないが、そんなことを2人が知るよしもなく、激しい心理戦の末に2人は同じ方向に歩く。 「それよりアニはどうしてハチマンを探してるの？あなたは最近ハチマンから離れて過ごしている。まるで逃げるように……それなら後ろの2人といた方がいいと思う」 「そんなことミカサに言う必要あるの？ それにミカサだっていつもハチマンと一緒にいるわけじゃないじゃない。幼馴染のエレンとアルミンと街でも見た方がいいんじゃないの？」 「ハチマンは命の恩人。変な女に騙されないよう私が見守ってあげなきゃいけない」 「それなら私にとってもハチマンは命の恩人だよ。それにハチマンには大きな借りがある。それを返すまで、あいつから離れるわけにはいかない」 　そう、ミカサにとってハチマンは二度も自分の命を救ってくれた命の恩人。そして生きる希望を与えてくれた人。ハチマンといる時間は短いかもしれないが、それでもミカサにとっては想い人であり、家族のエレン以上の存在なのだ。いつも胸ポケットに入れている水色のハンカチ。彼から貰った大切なモノであり、ミカサの疲弊した気持ちを拭ってくれるモノなのだ。 　一方アニの方もハチマンは命の恩人。開拓地で出会い、虐められていたアニを救ったのもハチマン。少年の左眼の下に刻まれた真一文字の傷痕はアニを守るためにつけられた傷痕。経緯は2人だけの秘密であり2人の距離をグッ、と縮めた証なのだ。アニはハチマンと一緒にいてはいけない存在と知りながらもそれでも彼と一緒にいたい。そんな複雑な想いが混沌としながら、様々な葛藤と戦いアニは今日まで過ごしてきた。 　2人にとってハチマンという少年はただ同じ訓練兵というだけではなく、かけがえのない大切な想い人なのだ。2人の気持ちが少年に伝わる日は来るのか。いつ巨人が攻めてくるかわからない危険な時にいつまでも自分の気持ちを押し黙ることに危機感を覚えながら2人は少年を探し続ける。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 　まさか2人の美少女が自分を追いに街まで来ているとは思いもしないハチマンは天使、女神ことクリスタと演劇を堪能していた。否、堪能という言葉に語弊があった……。 　堪能しているが、それは少年が劇を堪能していたのではなく、夢を見て浮かれていた。 「ハチ君、ハチ君！ お芝居終わったよ！」 「んっ！？ あぁ楽しかったかクリスタ？」 「楽しかったかクリスタ、じゃないよもぅ！！ ハチ君寝てたでしょ！？」 「えっ………ね、寝てない…ぞ？」 「うそ……。ならお話の内容話してよ。寝てないならちゃんとわかるよね！？」 　俺の横ではクリスタがお冠状態だ。頬を赤く染めて膨らませている。蛸のようにといえばそれまでだが、蛸の何千倍とクリスタの方が可愛い。 ――白雪姫だろ？ 確か白雪姫が毒りんごを食べて眠りについたところを王子様がやってきて白雪姫にキスをすると白雪姫が目を覚ますって内容だった気が……気障な野郎だな全く―― 「……って話しだろ？」 「えっ、あ、うん。そんな感じだった……と思う………」 「思う。ってクリスタこそちゃんと見てたのか？」 「み、見てたよ！！（ハチ君寝てなかったの？じゃあどうして劇の時ずっとハチ君の頭が私の肩に乗っての？……ハチ君の匂いとか、寝息とかで緊張してお芝居を見るどころじゃなかったなんて言えないよぉ）」 「？？？」 　クリスタは俯きながら考え事を始める。その顔があまりにも恥じらいを含んだもので俺は彼女の考えを理解できなかった。 　実際俺は寝ていたが前に子供の頃白雪姫のアニメを小町と見たことがあり内容は知っていた。ズルいけどおかげでクリスタの機嫌は直ってくれた。 「そ、それより、次どうする！？ まだ帰るには早いし、うーん……」 ――ここで帰るか。なんて言えないよな。前までなら率先して帰る提案をしたんだが、本気にしそうだし―― 「なら、もう少し街を見て歩かないか？ 俺初めて来たからクリスタに案内してほしいな」 「！？……う、うん！そうしよっか！！」 　クリスタの表情が嬉しそうな満面の笑みに変わる。やはりクリスタは笑っているときが一番可愛い。 　演劇屋を出た俺とクリスタは、お昼が過ぎ更に買い物客が溢れた街並みを目にする。 「うわっ、人だらけだな」 「う、うん。そうだね」 　隣でクリスタは身を縮めてもじもじしながら近づいてくる。そして俺の右腕の袖をグイッ、と引っ張ってきたと思ったら上目遣いをしながらこう頼んできた。 「ね、ねぇ、人が多くてはぐれたら大変だからさ、手、繋ご？」 「ガハッッ！」 　クリスタの誘惑発動。ハチマンに1302のダメージ。ハチマンはメロメロ状態になる。俺は『はい』と逆らうこともできずに上擦った声で返事をすると手を伸ばしてくるクリスタの華奢な手を握り締める。 「えへへ、ハチ君の手、おっきいね」 ――何この子可愛すぎる。抱きしめたい―― 　クリスタの純粋無垢な笑顔を見て俺は抱きしめたい衝動に駆られるがグッと堪えて我慢する。しかし、小さな手でも力強くギュッ、と俺の手を握ってくるクリスタの手が可愛すぎて身悶えする。 　しかしいつまでもここに留まっているわけにもいかず俺たちは歩き始める。人の波に逆らうことなく、並に同化して周りの流れに沿いながら歩く。 　手を繋ぎながらだとクリスタの手の温もりと鼓動が伝わってくる。それにクリスタの小さな歩幅に合わせながら歩くため少し歩き速さが遅くなる。俺たちの歩く速さが人の波に追いつかない為端の方に出て一休みしているとそんな俺たちを呼び止めるかのように店先の店主の声が聞こえてきた。 『そこの夫婦お二人さんや。どうだい、日頃の感謝の印に一つ、買っていかないか！？』 　威勢の良いおっちゃんが俺とクリスタの向かってとんでもないことを言ってくる。 「夫婦って俺たちの事か？」 『他に誰がいるってんだ？こんなお似合い夫婦他にいねえよ』 追い打ちをかけるように店主は更にお世辞を言ってくる。さすがは接客業の専門家。客に商品を購入させようと口からさらりと爆弾発言を連発する。案の定クリスタは顔を真っ赤にしながら俯いて「お似合い夫婦……私とハチ君がお似合い……ふふっ」など呟いている。 「俺たちは夫婦じゃないんですけど…」 『おぉ、そうか！なら恋人同士だなっ！ ちょうど恋人同士の男女におすすめのモノがあるんだ。見ていかないかい！？』 　口が達者とはこういう人の事を言うのだろう。口から出まかせじゃないが、店主は適当に話をはぐらかせると店に並ぶ商品を取り出して見せてくる。 『この首飾り、なんとガーネットっていう珍しい鉱物が装飾されてるんだ。今ならなんと5万ユーロ。お買い得ですぜ～』 　どうやらこの店はアクセサリーなどの装飾品を販売している店らしい。今店主が見せてくる首飾りの他に腕輪や指輪、ブローチなどが置かれてある。 　今思えばこの世界にも宝石などの類いがあったのかと疑問にあったのだが、その疑問は一気に晴れた。しかし、その価値は現代に比べ希少価値が含まれており沸騰している。普通のネックレスにトウモロコシの粒一つ程度の鉱石がついただけで50万はぼったくりと言われても仕方ないレベルだ。 　平均的の商人の二か月分の給料がぶっ飛ぶ価格だ。 　周りの人々を見るとほとんどが貧相な格好でこんなアクセサリーや装飾品をつけている人はまずいない。それだけこの世界に置いてお洒落よりも明日を生きる暮らしの方が重要視されているということだ。 「きれ～」 　妄想の世界から帰ってきたクリスタはガーネットのネックレスを見て、目を輝かせながら見つめる。 『一回試しに着けてみるかい？』 「え、良いんですか！？」 『もちろんだとも！！ ほら、彼氏さんがつけておやり』 「俺は彼氏じゃ……「ハチ君、私じゃ似合わないかな？」 　クリスタの視線に思わず胸の高鳴りが身体中に響き渡る。似合わないはずがない。なにせガーネットは1月15日の誕生石。クリスタの誕生日の石なのだ。クリスタのためにある石だといっても過言じゃない。 「に、似合うに決まってるだろ………ほら後ろ向けよ、つけてやるから………」 　女の子にこんな愛おしい表情をされて断るほど無粋な男でなければ鈍感でもない。顔の熱が上昇しているのを感じながら俺は店主からネックレスを受け取るとクリスタの細い首元へそれをまわす。 ガーネットは【真の道を照らす石】と言われている。正しい道を導く者。希望を示してくれる者が持つべきと言われるその石は、他にも愛情を豊かにしてくれたり、未来を育てるという意味も併せ持っている。他にも子育てが上手くいくとかの意味も持っているが、これはクリスタに教えない方がいいだろう。変な誤解を生みかねないからな。 「どう、かな？」 「…………に、似合ってるんじゃないか？」 「もぅ、私が聞いてるんだよ！ でもよかったぁ………」 「何がだ？」 「ハチ君に似合ってるって言ってもらえたから、えへへ」 　ネックレスを付けてあげるとクリスタは俺の方に振り返り照れ笑いを浮かべながら胸元に手をやって見上げてくる。 　白い肌、金色の髪の毛、碧い眼。そして胸元に輝く柘榴色。紅みを帯びた深い赤色がクリスタの中心で異彩を放ちながら輝いている。 　1センチにも満たない小さなモノだが、決して周りに染まることなく自分だけの色を作り上げる。まるで彼女の進む道を暗示しているかのようなそれは、本当に美しかった。 　似合っている。それ以上の言葉が見当たらず、黙っていると店主が俺の横までやってきていて耳元で俺にだけ聞こえる程度に呟いてくる。 『お値段は勉強させていただきますよ。これでどうでしょうか？』 　そう言ってくると店主はへその辺りに指を三本立てていた。つまり三万ユーロ。30万だ。 「はぁ……いいんですか？」 『はい。いいものを見せてもらいましたので。長い間商人をやっておりますが、あれほどお似合いの人はそうそう見かけません。今回はそのお礼も兼ねてこれほどでお譲り致しますが、いかがなものでしょうか？』 　お世辞、でもなさそうだ。素人の俺が見てもあれはクリスタが身に着けるために存在するように見える。それにクリスタもそれを見る表情が生き生きとしている。ここで買わなければ男じゃないってもんだな。 「わかりました。買います」 『ありがとうございます。首飾りを入れる巾着袋はいかがなさいますか？』 「じゃあそれもください」 『かしこまりました』 　最後まで商売がうまいおっちゃんだった。結局、ネックレスの他に巾着袋も買わされ、31万の支払い。 『据え膳食わぬは男の恥、本日は誠にありがとうございましたー』 「ねぇ、ハチ君、据え膳って？」 「ううん何でもないぞ。今あの人が言ったことは忘れるんだ」 　財布が僅かに軽くなり俺たちはおっちゃんの声を背中に感じながら後にする。すっかり日も落ちかけ、訓練基地に帰る馬車も残り本数が少なくなってきた。 「ハチ君、本当にこれ買ってもらっちゃったけど、大丈夫？」 「あぁ、いつもクリスタには助けてもらってるからな。そのお礼だ」 「助けてもらってるのは私の方だよ。あ、でも私ハチ君にお返し何もしてないし……」 「別にお返しが欲しくて買ったんじゃない。そ、その、首飾りが似合ってたからな。ついプレゼントしたくなっただけだ…………」 　反射的にクリスタから顔を背けてしまった。きっと顔が真っ赤になっているに違いない。だがそれは夕陽のせいだ。うん。きっとそうに違いない。 「ハチ君ありがと。すごく嬉しい………ずっと大切にするね！」 「…………お、おぅ」 　やばい、にやけそう……。 　幸せな気持ちになりながら街の中を進み、馬車の場所まで歩こうとしていると、前方に見慣れた人物が血相を変えて歩いてくるのが見えた。 　彼女たちが放つあまりの殺気の強さに俺は思わずクリスタを抱きしめて裏道の方へ追いやる。 「は、ハハハハチくんっ！！！？」 　クリスタの上擦った声が聞こえてくるが、俺はクリスタが声を漏らさないようにクリスタの顔を自分の胸に押し付けて、俺の身体と裏道にはえる建物の壁にクリスタを挟み込む。 「この辺りからハチマンの匂いがする」 「あんたさっきからそればっか言ってるけど、全然見つからないじゃない」 「今度は本当。かなり近い」 　さっきまで俺たちがいた場所をアニとミカサが通り過ぎる。何故か俺の名前を出していたが心当たりがない。 　2人は俺たちに気づくことなく通り過ぎていったが、彼女たちから放出される殺気のような禍々しいオーラが俺の身体を武者震いさせる。 「な、なんだったんだ？」 　人ごみに紛れ彼女たちの姿が見えなくなると俺は額に光る汗を拭う。 　彼女たちが向かった先を見つめていると、後方からドサッ、と何かが地面に落ちる音がした。 「クリスタ？」 「も、もぅ、ハチ君のせいだからね…………ハチ君が急に抱き付いてくるから腰が抜けちゃったよ」 「悪い、ちょっと躓いてな。大丈夫、立てるか？」 　クリスタは荒い吐息を漏らしながら熱を帯びた視線を向けてくる。手を伸ばしてクリスタを立たせようと腕を引っ張るがクリスタは立つことができずに再び地面に膝をつく。 「ご、ごめん、もう少しだけ落ち着くまで待ってくれるかな？」 「……ちょっと身体触るぞ？」 「え？あ、ち、ちょっと、は、ハチ君！？ えぇぇ！？」 　まるで長距離を走った後のように深い息を吐くクリスタを見た俺は、ミカサやアニが戻ってくる前にこの場を離れたかったためクリスタの背中とひざ裏に手を回してクリスタを持ち上げる。 「ちょっと、ハチ君！？ は、恥ずかしいよぉ～！！」 「少し我慢な。ほら行くぞ」 　さすがに街中でお姫様抱っこをするのは目立つ。すれ違う人や店先の店主たちが驚いたような表情をするが、すぐに温かい視線を送り俺たちを見守ってくれる。 「あーお姫様抱っこしてるー！」 「こらっ、指さしちゃいけません！」 　俺たちの事を見た少年が指を指してそんなことを言ってくるから余計に注目を浴びる。クリスタなんて恥ずかしいのか俺の首に両手を伸ばして首元に顔を埋めている。 　時折クリスタの吐息が首筋にかかりくすぐったくなるが、理性の化け物の俺は臆することなく進む。 「うぅぅぅ……ばかぁ………」 　そして相変わらずクリスタは俺の首にまわす腕の力を緩めることなくしがみついては2人の距離を縮めてくる。言葉と行動が合ってないように感じるが、俺は気にしないで街を進んでいると、遠くから叫び声が聞こえてくる。 「クリスタッッ！！！」 「…ユ、ユミル！？ どうしてユミルがここに？」 　クリスタのルームメイトのユミルだ。ユミルは血相を変えて俺たちの元に駆け寄ってきて俺からクリスタを引き離す。 「このケダモノが！ 私の可愛いクリスタを誑かしやがってっ！！！」 「ユ、ユミル、誤解だって、ハチ君は……「クリスタは騙されてるだけだ。きっとこの男はクリスタを誰もいない裏道に連れ込んで卑猥な事を企んでいたに違いない！」 　ガルルルルッ、と牙を剥いて俺を睨むユミル。俺は 「え、う、裏道……卑猥な事………」 　クリスタはさっきの事を思い出したのか、顔を赤くして俯く。 「ほら、クリスタにも思い当たる伏しがあるんだろ？」 「ち、違うよっ！ は、ハチ君は……その、ポカポカしてたし、良い匂いだった…もん…」 　いや、クリスタさん？そんなこと言ったら俺が本当に襲ったみたいじゃないか。誤解を招くようなことは言わないでほしい。良い匂いとか……僕、勘違いしちゃうよ？ 「あー辛かったな、よしよし～こんな奴おいて宿舎に帰るぞ」 「もぅユミル、私を子ども扱いしてー！！ ハチ君も一緒に帰ろ？」 「だめだっ！ こいつは獣。同じ馬車に乗ったらこっちまで犯されたような気持ちになる」 　こいつは俺をどんな人間だと思ってるんだ。俺、こいつにこんなこと言われるようなことしたか？ クリスタに執着しているようにも見えるが、クリスタは訓練兵になってから知り合ったって言ってたから前からの知り合いってわけじゃないだろうし、異常だよな。 　ユミルのクリスタに対する執着心に一塊の疑問を抱きながらこの場は丸く収めるために帰りは別々の時間帯にした。 　ユミルとクリスタが馬車の方へ歩いて行くときに、クリスタが「私ハチ君に据え膳食べられちゃった」なんて爆弾発言をしたもんだから、視界から消えるまでユミルが俺の事を睨んでいたのは言うまでもない。 　俺がクリスタと別れてから1時間後、基地へ戻る最終馬車に乗るとそこにはアニとミカサがいた。もちろん無事に帰れることも無く、目が覚めたら訓練基地についていた。目を覚ますとアルミンが苦笑いを浮かべて「大丈夫？」と手を差し伸べてくれた。 　帰り道、馬車の中の記憶が無くなっていたのはなぜなのだろう。 次回、訓練再会。立体機動操作。

進撃の巨人×俺ガイルクロス作品<br /><br />今回はクリスタデート回<br />本来はアニにもプレゼントを用意していたのですが、文字数が10000字超えたため今度に持ち越しです。

進撃×俺ガイル 13 ~Date~

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　二月二七日――平穏な日常を物語るかのような手帳のカレンダー、そのページをめくると枠の一つを埋める赤い印。もうそんな時期かと驚きつつ、必要なものを考える。タブレットを取り出し調べれば、そこに踊っていたのは桁数の多い数字たち。銀行口座の残金を思い出すと憂鬱になる。一日だけ多い猶予は慰めにもならない。 　どうしても見せてやりたい。そんな気持ちが空回りしていた。 　去年のいつ頃だったか、妹の優花を連れて向かった人形の店。日本人形やこけしからアンティークドールに最近のアニメキャラクターのフィギュアまで何でも揃うその店は浮世離れした不思議な雰囲気――いや実態を持つ、俺のお気に入りの店だった。人の影が見られずともなんだか騒がしい、そんな店の中。人形と視線が合うのは日常茶飯事、明らかに立ち位置の変わっているパペットもまだ序の口で、からくり人形が互いにねじを巻いたり、アイドルみたいな恰好のドールがお迎えを懇願してくることすらある。果てには店主のお婆さんの他に働いている唯一の店員もまた人形なのだからもう何でもありだ。最初に訪れたときこそ何事かと驚いたものだけれど、いつの間にかそれが自然なことだと感じてしまっているのだから慣れとは恐ろしいものである。 そんな賑やかな店内を見て回っていると、不意に優花が立ち止まった。何を見つけたのかと思って見てみれば、そこには綺麗なひな壇が、そしてその上には凛々しく前を見つめるお殿様、そして儚くも芯の通ったような目をした十二単を纏うお姫様が座っていた。三人官女も精巧に作られており、これがどれだけ高級なものであるかは素人目でもすぐに理解できた。男の視点で見ても十分に魅力的な逸品だ。 「ひな人形か……」 　それを見る目はまさにキラキラしていると言うべきもので微笑ましいものがあった。 「こんなに間近で見るのは初めてか？」 「……うん」 　一瞬の沈黙の後、表情を少し曇らせる優花を見て考えたこと。来年のひな祭りにはこういう立派なひな人形を飾ってやりたい。家で、こいつの笑顔を見たい。そして、手帳に印を付けた。それは次の三月三日、ひな祭りの日。 　しかし、二人分の生活費を稼ぎつつ、それでいてあのような立派なひな人形を買うのは俺の稼ぎを考えるとあまり現実的ではなかった。食費を削るわけにもいかず、かといって何か手を打たなければ間違いなく買うことはできない。最悪の場合、最上段に座す二人のみの親王飾りで妥協するという手も無いことはない……が、本当にどうしようもない場合の話だ。あくまで目標はあの日見た三段飾りのひな人形。最初から妥協案に屈したくはなかった。 「ただいま」 「おかえりー」 　家に帰ると優花は学校の宿題に取り掛かっており、すでにそれも終わりかけのようだった。ネクタイを解いて手洗いうがいをした後に夕食の準備に取り掛かると、宿題を終わらせたのかテレビの方から音が聞こえ始めた。 『ひな人形のご用命は……』 　振り返り妹を見ると、ひな人形のCMに食らいつくかのように見入っていた。やはり気になり、夕食を並べてから切り出してみることにした。 「なあ、優花」 「どうしたの？」 「立派なひな人形、見たいよな？」 　うん、と即答すると思ったのだが、予想に反して返事がなかなか帰ってこない。どうしたのかと思っていると、全く考えもしていなかった言葉が飛び出してきた。 「別にいいよ……高いよね、ひな人形って」 「え？ いや、そりゃそうだろうけど」 「お母さんも、高いからって買ってくれなかったもん」 　俯く優花。よく見るとその目元には涙が溜まり、少しずつ下に落ちてじゅうたんを湿らせる。俺のことを気遣ってくれている、いや、俺のことを気遣わなければならないと思っている、そんな姿。 「いや、それがな。手に入るんだよ」 　俯いていた顔が突然上がり、俺を見据える。本当かどうかを目が問いかけ、対して俺はただ頷く。もちろん、嘘。だけど、本当のことに変えるべき嘘だ。改めて決意した――絶対にひな人形を見せると。 [newpage] 　二月二八日――俺はあの日も訪れた人形の店に来ていた。もう一度あのひな人形を確認しておきたかった。それと同等のものが手に入ることは確約できない、でも可能な限りは見劣りしないくらいのものを手に入れたかった。 「いらっしゃい。おや、あんたかい」 「どうも。ちょっとひな人形を探してて」 「ああ、妹さんのだね」 　店主のお婆さんへの挨拶もそこそこにして速足でひな人形の飾られた一画へと向かう。そこにはあの日見た三段飾りのひな人形がある……はずだった。 「あれ」 　思わず声が出てしまった。いや、確かにあの綺麗なひな壇はあった。あったのだが、そこに大事なものが足りない。 「ああ、それは二つ目なんだけどね」 　お婆さんは「あのとき」のひな人形は買われていったと言う。そして同一の品を新たに設置した、らしいのだが。 「それを作った人ね……途中で死んじゃったのさ。だから大事な部分が完成しないままになってしまっていてね」 　仕えるべき者が現れないままにたたずむ三人官女。その目線は確かに前を、俺とお婆さんを見てはいるのものの、その心はどこにあるだろうか。現れることのない主を探して――そう考えると、思い出してしまうものがあった。どれだけ想っても叶わないことがある、この三人もそれは分かっているのかもしれない。 「大切な人がいないって辛いよな」 　この三人官女は……それを感じると、いてもたってもいられなくなる。元々の目的を考えればこれは適切じゃない……だけど、それとは別の話として。 「えっと。ところで、これって売り物かな？」 「ん？ ああ……これかい？ そうだねえ」 　突然切り出した俺にお婆さんは少し面食らったようだが、すぐに驚きの表情をやわらかな微笑みに変えると店の奥に入って行った。しばらく待っていると、休んでいたのであろう店員の女の子と一緒に箱や布を持ってきた。三人官女を丁寧に布に包み箱にしまいこみ、慣れた手つきで人形から取り外した小物を拭く。一瞬、和紙に包まれる三人官女の一人が見えた。その表情は驚いているかのようで……そうして気付けば、白い箱が目の前に置かれていたのだった。 「徒歩で来たんだろう？ 壇は今度持って行かせるからとりあえずこの子たちを連れて行ってあげて」 　代金はいいからと俺に箱を持たせて送り出すお婆さんに感謝しつつ、俺は家路についたのだった。 　出かけたのは夕食の後で、帰る頃にはもう優花は眠っていた。箱をひとまず自室に置き、起こさないように慎重に手洗いも風呂も済ませてからもう一度箱に向かい合う。箱を開き、防虫剤と被せられた和紙を取り出してみると三人官女と目が合った。 「……」 　しばし見つめ合ってみる。穴が空くほどに見てみると、次第に三人官女の表情が変わってくる。一人は恥ずかしそうに目を伏せ、一人は息を飲むように神妙な面持ち、そしてもう一人はただ呆然とするばかりのようだった。ビニール手袋を持ち出して慎重に人形たちを取り出し、綺麗にした机の上に並べてみる。これだけでも実用性重視の殺風景な机の上が華やぐのだから、完全に飾ればその一帯だけ別の時代であるかのようになってしまうのでは？ そう思いながら眺めていると、遂にその口が開いた。 「あの……」 　真ん中に置かれた、座る官女がゆっくりと言葉を発し始める。表情が変わること、そして言葉を発すること。共に普通なら驚いてしまいそうだけれど、何度も店を訪れている身としては予想できることだ。 「どうして、私たちを」 　両脇に立つ二人の目が中央に向く。か細く、震える声。信じられないとばかりに突き刺すかのような声。声質は違えどいつか聞いた感覚。 「何だか、似ているなーって思って」 　座った人形はその言葉の意味を問うように隣と顔を見合わせる。机の上で困惑する三体の美しい人形、なんだか変わった光景。予想しなかった答えはどれだけ簡単な言葉でも理解できない。良くも悪くも。箱から小物を取り出して三人に持たせる。よく考えたら誰にどれを持たせればいいかが分からなかったものの、箱の中にメモらしきものが同封されていた。心の中でもう一度お婆さんに感謝しつつ、メモの通りに持たせていく。向かって左側の官女には器みたいなもの……提下というらしい、右側には神社で手を洗うときに使うものを豪華にした感じの……長柄。そして真ん中の座る人形には島台というらしい置物を。困惑の中でも渡された小物をしっかりと持ち、その姿は雅としか言いようがない。 「似ているというのは、どちらさまにでしょうか？」 「いや、俺の妹に」 　提下を持つ官女の問いへの答え。使えるべき者を永遠に失った官女たちと、もっと甘えていたかった親の去った妹、優花と。二つ重なってしまえば。 「お情けをかけているつもりですか……」 　長柄を持つ官女の言葉は額面通りの問いとは違うように感じられた。確かに、ただ可哀そうに見ただけじゃないかと言われれば言い返せるか自信が無い。とはいえ、そんなに難しく考えたことも無かった。どうしてだろうか。ただやりたいようにやっているだけ、それ以上ではないのかもしれない。 「どうだろう」 　それくらいしか言えなかったが、追及の言葉は帰ってこなかった。 しばらくは無言で向き合っていたものの、次第に三人官女の緊張は和らぎ穏やかな表情を見せてくれるようになった。ただ、問題は残っている。壇の最上段に座す、お殿様とお姫様。優花に見せるひな人形はまだ用意できていない。ただ、目の前の三人官女はぜひ置きたい。となると、彼女たちの上司に相応しいお殿様とお姫様を探さないといけないのだ。見つかるだろうか……そうして思索し続け、気付くと日付が変わっていた。 「おやすみ」 　三人官女に声をかけても返答は無い。ただ、ゆっくりと頷いた。 「どうしましょう……私たちだけでは役目を果たせません」 「妹君のためと言っていましたね。他に手が無ければ、せめて姫様だけでも見せてあげましょう。きっと請け負ってくれるでしょう」 　そう、あの方なら――そうやって俺の方を向き続ける三人官女の話なんて、眠っている俺に聞こえるはずがなかった。 [newpage] 　二月二九日、三月一日――どれだけ探しても見つからない――それが結論だった。比べてみれば、想像以上に出来のいい三人官女。普通に売られているようなひな人形では見劣りしてしまうように感じられてしまう。造形だけでなく、少しひいき目まで出てしまったのかもしれないけれど。とにかく、足で出向ける全ての店を回っても見つからないのだから、そう結論付けざるをえない。手帳を見れば、印の日までもう猶予が無い。結局、嘘になってしまうのだろうか……考えれば考えるほど憂鬱になるが、それでも必死に頭を動かして手段を考えてみる。とはいえそれも芳しい成果を上げることなく、いつの間にか思考の波の一つも立たなくなってしまう。 「お兄ちゃん……」 「ん？ おう」 　優花が心配そうに顔を見つめてくる。顔に疲れでも出ていたのだろうか、見せないようにしようとは思っていたのだけれどそれもできなかったらしい。 「無理しないでね」 　何に、とは言わなかったけれども、薄々勘付いてはいるのだろう。申し訳なさそうにする姿を見ると罪悪感が芽生えてくる。かえって余計な心配まで抱かせるくらいなら、最初からできないことを言うべきじゃなかったのでは？ そう考えると沈み込むばかりだった。 「ごめんな、優花」 「ごめんね、お兄ちゃん」 　思わず口に出た言葉が不意に重なり、耐えきれずに顔を伏せた。あまり見られたくはなかったから。目で見ても、そしてその中身も情けなさでいっぱいで……ただ自分を恨むばかりだ。 部屋で項垂れるばかりで時間が過ぎていく。何度目かも分からない溜め息を吐き、無力感に身を任せる。結局このまま空っぽの最上段を優花の眼前に晒すしかないのだろうか。これじゃああの親と何一つ変わらないじゃないか――そんな自己嫌悪に陥り始めていた頃に、突然その声が静かに、でもはっきりと響いた。 「話を聞いてください」 「え？」 　周囲を見渡しても誰もいない、いるはずもない。いや、それは人間がという話。振り向くと箱が一つ。急いで箱を開け、色々と取り出すと前日と同様にそれらと目が合った。しかしその表情は真剣そのもので、ただ戸惑うばかりのあの日とは全く違った。 「話って……」 「あの店に行って、布を貰ってきてくれませんか？」 「布？」 　突拍子も無い頼み事に今度はこっちが戸惑う番だった。布をどうするのか分からないが、その表情は冗談などではないことを感じるには十分。どのみち考え込んでも埒があかないというのなら、いっそのこと言われるがままの物事に賭けてみるべきなのだろう。 「分かった、すぐ行ってくる」 　一抹の望みを三人官女に託し、駆け出す。まだ何か可能性があるのなら、それに賭けたかった。もし何もしなければ、当日にあの言葉をまた聞くことになるかもしれない。二度と、自分の至らない所のせいで妹に謝らせたくはなかった。 「おや、こんな時間にどうしたんだい」 「その……布を頂けないでしょうか？」 　言ってから気付いたが、お婆さんからしたら意味の分からない頼みだろう。いきなりこんなことを言い出して、はいどうぞといって渡してくれる気はしない。とはいえ布を貰ってきてほしいと言われただけなので詳細も何も無い。思わず考え込んでしまうが、お婆さんはそんな俺の肩をぽんと叩くと、 「ほら、持っておいき」 　箱を差し出してきたのだ。開いて見せられたその箱の中には赤を中心とした暖かい色合いの美しい布の数々が詰められており、思わず息を飲んでしまう。布と交互に見る俺に箱を持たせて後ろを向かせると背中を押し、お婆さんは笑って見せた。 「さ、早く。妹さんとあの子たちによろしくね」 　今用意したにしては早すぎる。まるで最初から全て分かっていたように……もしかしたら、本当に全て分かっているのかもしれない。ありがとうございます、そう一言の礼を言い駆け出した。よくは分からないけれど、早く届けるべきだろう。布をそのまま使うはずはない、何かを行うはずだと。 [newpage] 　三月三日――その、早朝。 「起きてください」 　机に伏してどれくらい経過しただろうか。先日、布を三人官女に渡した後に聞いた言葉は、任せてくださいとのこと。今日への不安が拭えない以上はゆっくり眠れる気もしなかったのだが、大丈夫の一点張りを始めた彼女たちの自信は余程のものらしく、次第に不安も晴れ……結局よく眠れた、と思う。そればかりか、疲れていたのか会社から帰って食事をし終えたらまた眠ってしまった。今や時計の短針は真下を差し、その時は目前に迫っていた。 　なのに、心が穏やかだ。あれほど焦っていたはずなのに。 「おはようございます」 　目の前に三人官女が佇んでいる。その表情もまた穏やかで、しばらくぼんやりと時間が過ぎていく。しばらく時間が経ったころ、三体の人形は俺を部屋の外へと促す。彼女たちを一旦箱に入れて運ぶと、その途中で優花はまだ眠っているのが見えた。そして……いつの間にだろうか。店で見たひな壇が組み上がっていた。優花が部屋に入ったときには無かったはずなのだが。 「夜中のうちにこっそりと訪ねて持ってきてくださいました」 　夜中に来るとは、と思うがそれはともかくこの人形たちがよくこれを組み立てられたものだ。しかも誰にも気付かれることなく。人形が動くのはもう気にすることでもなかったものの、これはさすがに不思議だ。 ひとまずリビングの机に彼女たちを置くと、再び俺と三人官女は向かい合う形になった。その中で、一体の人形が何かを見せてきた。あの布が変わった姿。 「ああ、十二単ってやつか」 　最上段に座すべき姫の衣装。美しい模様の華やかな衣装はきっとその美しい姫の魅力を最大限に引き出すことだろう。だが、それは当の姫がいればの話だ。異質なほどの美しさを感じるその衣装だけが用意されていても。せめて優花が着られるサイズならよかった気もするのだけれど――そう思っていた。 　ところが、彼女たちは予期しない言葉を捧げた。そう、「捧げた」。 「あなた様にこの衣をお召しになって頂きたいのです」 　それまで立っていた二体も突然その膝をつくと、深く敬意を示すかのように五本の指をつき頭を下げる。考えもしなかったことを言われて頭は追いつかず、思わず聞き返す。すると、先ほどの言葉が返ってきた。確かに彼女たちは言っているのだ。俺にこれを着ろと。 「えっと」 　着るも何もひな人形サイズのそれをどうしろというのか、それを男の俺が着て何になるのか。普通ならふざけているのかと怒鳴りたくなるような状況だが、どう見ても三体の人形はそのような様子ではなく、その瞳はまっすぐに俺を見つめていた。あれだけの様子を見せていたこの三人官女が今更冗談を言うとも思えず、こっちが人形のように固まるかのような感覚だ。 「お願いします……あなたの妹君のためにも、どうか」 　もう一度、頭を下げる人形……妹のため、なのか。 「分かった」 　ゆっくりと頷く。それに対して彼女たちは笑顔を見せると、十二単を差し出してきた。 　しかし、着ろと言われてもどうしろと――という所は全く解決していない。とりあえず差し出されるがままに手に取るが、まじまじと見つめてもただの人形用の衣装でしかない。困惑が戻りつつ尋ねるように三人官女を見ようとした、瞬間だった。 「うっ……？」 　ドクン、と心臓が強く脈打った気がした。実際にしたのかは分からない。ただ、意識は心臓ではなく手の上に乗せられた小さな十二単に向く。そこから、何かが体の中に注ぎ込まれているかのような感覚。形容し難い異質の、でも暖かみのあるもの。訳も分からない状況だが、その中で目の前の三人官女はこっちをじっと見つめ続けている。何が起きているんだ――問おうとするものの、途端に信じられないことが起き始める。突然、部屋が少しずつ広くなっていく……いや、違う。地に足を付けているはずなのに、落ちていくかのように錯覚する。服の袖が手にかかったかと思うと直後にかかるものを無くして下に垂れ、引きずるはずのないズボンの裾が床に付く。視界が下から遮られ、部屋の光景が薄暗い視界に書き換えられていく。すると突然、落ちていくような感覚から一転し、何かにつかまれたかのように引き上げられるような感覚……いや、本当に引っ張りあげられていた。下を見れば今まで着ていた服が大きく広がっている。 「何が起きて……」 「大丈夫です。落ち着いてください」 　人形の声が聞こえてくる。気付けば手に持っていたはずの例の十二単は取り落としてしまったのか、手には何も乗っていない……いや、引き上げられて再び部屋が、大きくなった部屋が視界に戻ってきたとき、俺は裸になっていた。目の前にはまた三人官女の姿、それを認識した途端に恥ずかしさで顔が赤くなる。直後、俺と彼女たちの間を何かが遮った。 　あの十二単が。 　十二単が一枚ずつ剥がれていく。紋の入った衣、花の模様の衣、赤、桃、紅、暖かい色の衣の数々が周囲に浮かぶ。そして最後に真紅の袴のようなものと白い衣が表れると、それが飛び出して……開き、背中から羽織らせるように白い衣が包み込んできた。 「あ……」 　うっとりするような触り心地、つい先ほど手に持っていた布の感覚。それが肌に直に触れる。同時に袴が足の下から上がってくる。完全に包まれると、身体が熱くなってくる。 「これ、って」 　全身に浸透してくる暖かさを感じていると、机の端にあるものが視界に入った。それは鏡。優花のもので俺が普段あまり見ることのない小さな鏡には、白い装束と袴を付けた俺の全身が映る。だけど、そこに映る自分がいつもと違う。大きさだけじゃない、心なしかやわらかい印象を受ける。そこへ、また別の衣が背後から被さるように着せられる。桃色の衣に包まれると、ついさっきまでは驚きに支配されていたのが嘘のように落ち着き、そして更にもう一枚に包まれれば夢のようにうっとりと、そして気持ちよさが染みわたってくる。そして、鏡の中に映る自分がその姿を変えていく。明るい色に飾られた自分の顔が少しふっくらとしつつも各パーツは小さく、主張し過ぎないかのようにまとまっていく。そして多少は考えていたとはいえあまり整っていなかった髪はその黒さが煌めいたかと思うと艶のあるものに変わり、そしてどんどん伸びて、伸びて……肩に届き、腰に届き、足の先にすら届くほどになる。そこから更に一枚を纏えば、伸びた髪が持ち上げられ、まとめられ、縛られる。前髪は横に流れ、左右に膨らんだかのような形を作る。ここ数日で何度も見た髪型が、自分の髪で形作られていく。そして残る衣装が着せられ、最後に裳が腰に結ばれる。鏡に映るその姿は…… 「俺が……ひな人形のお姫様に」 　口から出た声は聞き覚えの無い、高く、そして自分で出しておきながら驚くほどに落ち着いた声。幾重にも着飾った下の身体の感覚に意識を向け、足を閉じれば何かがあるはずの場所には何も感じられずに二本の脚は隙間無くまとまった。 「さあ、行きましょう……姫様」 　一人が言うと同時に俺の身体は浮遊したまま動き始めた。その先は……そう優花の部屋、そこにひっそりと組み立てられたあの優美なひな壇。その最上段へと導かれ、その向かって右側に到達すると、ゆっくりとその体が降ろされた。そして足が勝手に動くと優雅に衣装は拡がり、手はまた何かを乗せるように前に出される。するといきなり顔に何かが触れたように錯覚する。思わず目を閉じると、何かが顔に塗られていく。同時に、頭の上と前に出した手の上に何かが乗せられた。おそるおそる目を開けると手の上には扇が。もう鏡は見えないものの、感覚で確かに自分がひな人形になったと分かった。あの日見たようなお姫様に。 「う……ううん」 　小さな声と共に、布団がもぞもぞと動く。ゆっくりと起き上がり、またゆっくりと目を擦り、そしてこっちを見て目が大きく開く。驚きに固まったその表情は次第に光に満ち溢れていく。 「えっ……これって！？」 　そんな笑顔は見た記憶が無かった。最初に会った日から何年経っただろうか。その中で、いくつの笑顔を見ただろうか。一度でも見たかった、本心からの笑顔。俺に見せてくれなかったその輝きが目の前にある。 「あれ、お殿様……」 　でも、それもすぐに曇ってしまうだろう。このひな人形の最上段は未だに欠けている。完成したものではないそれに、何を思うのだろうか。元より動かないようにしていたが、それとは別に体が縛られたかのように感じてしまう。それを悟られないよう、必死に耐える―― 「でもお兄ちゃん、本当に用意してくれたんだ……」 　必要は、無かった。優花の目から涙が出て。でも、その表情は変わらずに笑顔のままだった。 「優花……」 「え？」 　安心からか、つい妹の名前が口に出てしまう。きょろきょろと周囲を見渡した後に、優花は俺に顔を近づける。人形は動かない――そんなことを忘れてしまったのは俺だけじゃない。慌ててももう遅い。 「お兄ちゃん？」 「…………」 　間近に迫る妹の顔。耐えられず僅かに目を逸らす。間違いなく勘付いたはずだ。 「お兄ちゃん……お姫様になったの？」 「……だって」 　笑顔が見たかったなんて素直に言えるはずがなく、言葉に詰まってしまう。そんな俺にどんな顔をするだろうか。怖くなって目を閉じると、くすりとする声が聞こえた。 「ありがとう、お兄ちゃん」 　恐る恐る目を開けると、そこに恐れたものはなく……ただ、幸せがあった。 [newpage] 「ひな人形って、女の子の成長を見守ってくれるんだって」 「ああ、そうだな」 「だったら、お兄ちゃんがひな人形になるのって自然だよね」 「自然……かあ？」 「だって、わたしをいつも見守ってくれてるんだから」 「それじゃあ、俺がいる限りお前結婚できないぞ。ひな人形をずっと出しておくと婚期が遅れるって言うし」 「そうなったらお兄ちゃんにもらってもらうもん。大丈夫だよね？」 　隣に座る優花に聞こえるようにしっかりと溜め息をつく。暖かい春の日差しに機嫌がいいのは分かるが、まさかそんなことを言い出すとは。確かに、血が繋がっていないから問題は無いのだけれど。 　前年のひな祭り以降、優花は俺に遠慮することは少なくなった。その代わりに……かなりアプローチをかけてくるようになった。抑圧されていたのが一気に解放されるとこうなるのかもしれない。まあ、悪い気分はしない……というか嬉しいのだが。かわいいし、かっこいいし。 「こんな日が来るとは思っていませんでした……」 「うう……感激です」 「これ、夢じゃありませんよね？」 　下の段から涙ぐむような声が聞こえてくる。未完の三段飾りは今年、まだ欠けていた最上段についにお殿様を迎えたことにより完成した。本来なら未完のまま終わるはずだったところがまさかの完成となり、昨日から三人官女は泣きっぱなしだ。いや、人形だから涙は出ていないのだが……もし出ていたらおしろいを何度塗り直すことになるのだろうか。 「お二方には感謝してもしきれません……」 「だって、みんなわたしのために去年やってくれてたんだから当然だよ」 　優花が声をかけるとついに三体の人形は言葉にならない声を出し始めてしまった。今、人がいなくてよかったと思う。 完成した三段飾りのひな人形。せっかくということで今年はあの店の入り口近くに飾られており、女の子たちがわいわいとひな壇の前に集まってくるのを何度も見ている。俺はと言うと、当然と言うべきかまたあの十二単を纏ったお姫様として、女の子たちの視線を釘付けにしている。そうなると優花が女の子たちに嫉妬しそうなものだが、そういうわけでもない。何しろ隣にいるのだから、座は安泰と思っていることだろう。 お殿様、と言うには幼い少年の人形となった優花は満足そうな表情でこっちを見ている。少女の面影を残しつつも凛とした顔立ちに思わず顔が赤らんでしまいそうになる。よくよく考えれば、お殿様とお姫様という関係は……そういう関係だ。現実より一歩先に進んでしまった感じがする。 「意外と楽しいね、ひな人形」 「楽しい……楽しい？」 　楽しいの基準がよく分からないが幸せそうだからよしとしよう。あの日見た眩い笑顔を、今日も向けてくれているのだから。 「でもさ、これなら俺がお殿様で優花がお姫様になればよかったんじゃ……」 「このひな人形のお姫様はお兄ちゃんだけだよ」 　いたずらな笑みに、俺もただ笑って返した。もしかして、来年もこんな感じになるだろうか。それを考えると、ここからの一年に気合が入りそうだ。本来年齢も、性別も合わない催しのはずなのに、こうなってしまうとは。そうしていると、また小さな女の子が店にやってくる。きりっとした表情にしようとするが、もしかしたら笑みをこらえきれていないかもしれない。まあ、それは他も同じのはずだけれど。三人官女は大丈夫だろうか。 「わあ……おひなさま、きれいだなあ」 　女の子はキラキラした目でこっちを見ていた。あの日の優花のように。 今日は、楽しいひな祭り。

足りないものがあった。<br />足りないままで終わるはずだった。<br /><br />半年以上の期間を空けての久しぶりの投稿となりました。<br />ひな祭りに間に合わせようと思ったのにどう見ても遅刻です。<br />書きたいものが溜まり過ぎたので消化していきたいと思うのですが、とりあえずまた長い空白にならないことから……<br />あと各種小説書きスキルの強化も。<br /><br />ひな祭りネタはもう一つストックがあるのですがそれはまた来年。<br /><br />(3/7追記)<br />3/5男子に人気ランキング64位でした。感想、評価、ブックマーク感謝です！

未完の三段飾りと兄妹の夢

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1. 朝起きたら知らない人が隣で寝ていたなんて、都市伝説だと思っていた。 有名な話過ぎて、実は誰も経験したことがないような、そんなものだと思っていた。 だからまさか、自分の身に降りかかるなんて、思ってもみなかったんだ。 「………………」 朝日の差し込む自分の部屋のベッドで目覚めたアリババは、目の前に広がる現実を受け入れられずに、その場から動けなかった。 見慣れた部屋、見慣れた天井、見慣れた光景。 いつも通りの爽やかな朝の筈だったのに。 ただ、狭いシングルベッドの隣に無理矢理に身体を寄せて一緒に眠る、見慣れない他人。 しかも、それが女の子ならまだ話はシンプルなのに、隣で寝ているのはアリババよりも大分体格の良い男。 そう。男。 引きつる口元を押さえられずに、アリババはただ今の状況が理解できずに絶句する。 …え、俺、やっちゃった？やっちゃったのか？ 嫌な汗が全身から吹き出るのを感じる。 不安な音を奏で続ける心臓に手をやれば、そこには昨日着ていたシャツの感触。 そこで思い到って、アリババは自分の姿を確認した。 よし、服は着ている。昨日身につけていた物そのままだ。 特にこれといって乱れもない。 そして隣で眠っている相手の出で立ちも確認する。 間違っても何も身に付けていないわけではない。 それだけで間違いは犯していないと判断するには早計だろうが、ひとまずの不安は和らいだ。 さて、昨夜のことを思い出そうか。 そう自分に言い聞かせて、二日酔いで機能停止を訴える頭を動かし始めた。 大学生であるアリババは、昨日講義を終えた後、友達のカシム達と飲みに行って、浴びるほど飲まされて、いつも通りそれで解散した、はずだ。 結構な量を飲まされていたが、自分の部屋も近いから、カシムに送っていこうと言われたけれど、女じゃあるまいし、と辞退した。ような気がする。 それからどうしただろうか。 いつも行く居酒屋からの帰り道。 喧騒の多い街から少し入ったところの集合住宅を抜けて、程なく辿り着くアリババの小さな城。 その途中、どの道を使ったのか全く思い出せない。 酒の失敗談で路上のものを拾って帰るだとかよく耳にする話だが、見ず知らずの他人をどこかで拾って帰ってきたというのだから、全く笑い話にはなりそうもない。 ふつりと途切れた記憶の糸を追いかけるのを諦めて、アリババは恐る恐る豪快な寝息を立てて眠る男の顔を覗き見た。 （…うわー…睫なが…） 紫紺の長い髪がかかってはっきりとは見えないが、すっと通った鼻梁に凛々しい眉毛。 年齢より幼く見られがちなアリババは、華奢な自分の腕と比べて思わず羨ましいと感じてしまうほどにしっかりとしたその体躯。 閉じられた眼が開けばそれは端正な顔立ちだろう。 そんなことを思いながらまじまじと覗き込んでいると、ふとした瞬間にその紫紺の睫で縁取られた両眼が開いた。 「うわぁぁぁ！！」 視線がばっちりぶつかって、アリババは叫びながら飛び退いた。 退けるほどのスペースなど殆ど無いが、背中を壁にぴったりとくっつけて、目覚めた猛獣でも見守るような気持ちで男を見やる。 男は紫紺の睫の下に隠されていた金褐色の瞳を何度か瞬かせる。 それからゆっくりと起き上がって、ひとつ大きなあくびをする。 そして心臓が早鐘を打つアリババに向き直ると、にっこりと笑ってみせた。 「あぁ、おはよう」 口元から零れる低音。 その音にアリババは酷く呼吸が苦しくなった。 「あ…あの…昨日…俺…なにか…しました？」 まるで何事もないかのように、あまりにも普通に接してくる男に、アリババは思わず核心を口にした。 「覚えてないのか？」 「やっぱり俺なんかしたんだぁぁぁぁ」 アリババは想像通りの返答に頭を抱えてその場に突っ伏した。 穴があったら入りたい。 酒の失敗がないわけではないが、こんな大失態は初めてだ。 酒の勢いで見ず知らずの他人に粗相をするなどと。 しかも何度も言うが、相手は男。 もっとシンプルにできなかった自分が腹立たしいと、アリババは自分自身を恥じた。 「……いや、多分君が考えているようなことではないと思うんだが」 だが、頭を抱え込んで呻くアリババの上から降った声は想像以上に優しかった。 「厄介になったのは俺の方だからね。お陰で風邪をひかなくて済んだ」 助かったよ、と言われても、身に覚えのないことに感謝されても全く実感は湧いてこない。 とにかくアリババは今の状況から逃れるために何をしたらいいのかを必死で考えた。 しかし、どう考えても先に粗相をしたのはこちらの方だ。 この部屋まで案内し、部屋の鍵を開けたのは他ならないアリババ自身だろう。 でなければ今頃、この男が言うように路上で寝ているはずである。 そして、酒の残る頭でどれだけ考えても、さっぱりいい考えは浮かばなかった。 ふと、そこで携帯電話の着信音が鳴り響く。 聞き覚えのない音だから、それがアリババのものではないと判る。 目の前の男が己のポケットを漁ると、がむしゃらに音を立てるそれが引っ張り出された。 「あ、どうぞ……」 画面を見てなぜか苦笑いを浮かべる男に応答を促すと、すまないね、と一言告げて、男は携帯電話を耳に当てた。 『シン！あんた今どこにいるんですか！？』 すると、少し距離のあるアリババの耳にすら届く怒声が響いた。 「なんだ、ジャーファルか」 『なんだじゃないでしょう！？今何時だと思ってるんです！？』 その声と同時に男は視線を巡らせて部屋の壁にかかっていた時計を見つけると、あからさまにしまった、という表情を作る。 『今どこにいるんですか？』 「……どこだ？」 電話口でアリババに視線を送って住所を聞いた。 『誰かと一緒なんですか？』 「……あぁ…まぁ……」 言い淀みながら視線だけアリババに向ける。 『あんたって人は……また人様に迷惑かけたんですか！？』 どうにか言い訳をしようとしている男をアリババはぽかんと見守るしか出来なかった。 『判りました、すぐに迎えをやりますから、駅まで出てきてください』 「判ったよ」 『早く来てくださいよ！？あんたがそんなことでどうするんですか！？』 「判った判った、すぐに行くから」 そのまま有無を言わせずに電話を切ってポケットに乱暴に押し込むと、男はこちらに向き直った。 「…というわけで、すまないが、もう行かなくては」 「……あ、はい」 「世話になったよ。ありがとう」 「……いえ、こちらこそ…」 「お詫びに今度食事でもどうかな？」 「え、いや、そんないいですよ」 突然何を言い出すのかと思った。 詫びなければいけないのはこちらの方だというのに。 「そう言わずに。迷惑をかけたのは俺の方だ」 「いや、そんな……俺も悪かったですし……」 「とにかく、お礼がしたい。連絡をくれないか」 頑なに言い張るその男は、何か思いついたようにポケットをまさぐって財布を引っ張り出した。 「ここに連絡してくれ」 そして押し付けられたのは一枚の名刺。 「必ずだよ？」 強く念を押して、男はそのまま部屋を出ていこうとする。 しかし、その寸前でその足を止めて振り返った。 「そうだ、君、名前は？」 「……アリババです」 「そうか、ではアリババくん、またな」 そう言い残してさっさと部屋を出て行ってしまった。 扉の閉まる音がアリババの二日酔いの頭に響く。 「……なんだったんだ」 まだ夢の中にいるような複雑な気持ちを抱えたまま、アリババは急に静かになった自分の部屋に呟いた。 そして手持ち無沙汰になったアリババは改めて自らの手の中の名刺に視線を落とした。 「……………っ！？」 そして、アリババは殴られたような衝撃を全身に感じた。 即座に身体を翻して、自分のベッドの側にある本棚に駆け寄ると、生活感溢れる部屋の中、唯一整然としているその本棚から一冊手に取る。躊躇なく裏表紙をめくると、そこに書いてある羅列をもう一度音読する。 それは見事に名刺に書かれてある内容と一致した。 本当は名刺の名前と見比べなくても解っていたけれど。あまりにも信じられない事実に、確かめずにはいられなかった。 まさか、こんなところで自分の憧れの作家に出会うなんて。 しかも、こんな奇妙な形で。 「……嘘だろ」 アリババは本と名刺を持ったままその場にヘたり込んでしまった。 [newpage] 2. 「ねぇおにいさん、一人？」 不意に降ってきた言葉に気が付いて、シンドバッドは重たい瞼を持ち上げた。 酒の入った充血した視線をふと声がした方へやると、冷気の充満した空気の中、穏やかな微笑みを湛えた少年が佇んでいる。 ふと気付いて辺りを見渡すと、酷く静かな公園のベンチに座って寝ていたようである。 集合住宅の真ん中にあるその場所には、一定の距離を置かれて並ぶ街頭と、カーテンのかかった窓からぽつぽつと漏れる住宅の明かりだけが頼りで、現在地を認識するだけでも少し時間がかかった。 正直、自分が今いる場所がどこの公園なのかも覚えていないのだが、声がした方にもう一度目線をやると、金色の髪をした少年がこちらに微笑みかけていた。 あぁ、綺麗な色だな。 夜の闇にも溶け込まないはっきりとした蜂蜜色の髪を見て、男は酒の入った鈍い思考で素直に思ったものだ。 「夜は冷えるよ？俺ん家近いんだけど、あっためてあげようか？」 夜風に浚われる金糸の下で薄く微笑む頬をまじまじと見やって、シンドバッドは言葉を失った。 普段だったらそんな言葉にはまず耳を貸さなかっただろうに、なぜか彼の声は酷く心地良く男の耳に響いたのだ。 気付けば伸ばされた手を取って、引かれるままに男は歩き出していた。 こんな誘いに乗ったのも、この色と微笑む姿が気に入っただけではない。 どこか影を持つこの少年に興味が湧いたからだろう。 手を引かれて歩く間にも、彼と何か会話をしたような気がするが、内容はよく覚えていない。 アルコールの入った身体に夜風が冷たかった。 少年を追いかける足取りはどこか夢見心地で。 最初はこの少年もただの夢かと思っていたが、少年に引かれる手だけが確かな熱を持って現実味を帯びていた。 辿り着いた先は、集合住宅から少し離れた所にある普通のアパートだった。 覚束ない手つきで鍵を開けて、少年は男を部屋に招き入れた。 さして広くないワンルームの部屋は、生活感に溢れている。 「君は一人暮らしか？」 「そーだよ。おにいさんも一人？」 「そうだな」 「じゃぁ、俺たち一緒だ」 シンドバッドより一回り小さい少年はこちらを見上げてへらっと笑ってみせた。 その顔がどこか悲しそうで、思わず覗き込んでしまう。 髪の色と同じ琥珀の大きな眼をこちらに向けて、彼は薄く笑いを浮かべたままシンドバッドを見詰めていた。 「……君は、」 シンドバッドが物言いたげに口を開いたと同時に、少年は男の首に腕を伸ばしてその身体を引き寄せた。 驚くより先に、彼の腕が酷く心地良いと感じた。まるでそうすることが自然とでもいうように、彼は男と唇を合わせる。 自分のものではない酒の匂いで、この子も酔っているのかと、シンドバッドはその時気付いた。 しかし、その行為を止められなかった。寧ろ増長した。 何度か繰り返し口付けを続けて、だんだんと身体の中の酒とは違う熱がくすぶり始める。 触れる唇を追いかけて、もつれ合うように少年の部屋の奥へと侵入して、簡素な一人用のベッドの端に少年の背を押し付けた。 唇が離れると、涙を滲ませた赤い顔でこちらを見て小さく笑ってみせる。 そして誘うように微かに唇を震わせて、少年は男の首に腕を回した。 それだけで自制心の解けたアルコール入りのシンドバッドの思考は見事に陥落する。 もう一度、今度は強引に彼の唇を貪ると、ぐいとその細い身体の上に伸し掛かった。 シャツの裾から手を侵入させるとくすぐったさからか、軽い声が上がった。 まるで子猫がじゃれ合うような反応に思わずシンドバッドも笑う。 戯れに耳に首に頬にと軽い口付けを落として、他人の体温を感じた。 少年の耳を飾っていたピアスをわざと唇で食んで、軽く舐める。 それがスイッチだったとでもいうように、シンドバッドの首を捕まえていた腕は僅かに力を込めた。 が、次の瞬間、シンドバッドの首にかかっていた重さが突然消える。 それと同時に少年は自分のベッドの上にどさりと頭を落として、容赦なく寝息を立て始めたのだ。 「…………」 痛々しい沈黙の後、男は言い様のない敗北感を味わうことになった。 その後、本来ならどうにかして帰路についても良かった。 彼に悪い夢だと、もし覚えていても事故だと思ってもらって、自分は目の前から姿を消してしまった方が良かったのかもしれない。 しかし、正直のところ、この少年に興味以上の何かが芽生えたことは否めなかった。 もう一度、今度はちゃんとお互いの記憶に残るように話がしたい。そう思ったのも事実で。 たったこれだけの逢瀬でどうしてこんなにも惹かれたのかは判らない。しかし、抗いようのない生まれたばかりの感情を、すぐに殺してしまうことだけはできなかった。 だからこそ、シンドバッドは最高の口実と称して、寝床を借りることにしたのだ。 酒はその人の抑圧している感情を解放するという。 つまり、この少年も寂しいという感情を押さえつけ持て余していたということだろう。 例え人の輪の中にいようと、その中でどうしようもなく孤独を感じることはある。それが祭りの後ならなおさらだ。 だからこそ、その続きが知りたいと思ってしまったのだろう。 興味を持った、というだけなら、もっと違う誘い方もあっただろうに。 ただ、彼のその影に含まれたものを暴き出したいと思ってしまった。 この感情に名前を付けるとしたら、心当たりはひとつしかない。 その回答が正解であると確認するためにも、あの罠に彼がかかってくれることを祈るのみだった。 彼は、期待以上のものを待っているのだろうか。 シンドバッドは小さく頭を振る。 例え答えが間違っていようとも、またあの琥珀色に会いたいと、素直に思った。 これは一種の賭けだったのだ。 そして、シンドバッドの携帯電話の画面に見知らぬ番号が表示された時、男は勝利の味とまた別の暖かい感情に、自分でも初めて見るような笑顔を浮かべていた。 [newpage] 3. 「アリババくん」 アリババが講義を終えて学校の正門へ向かうと、何やら学生達の視線を一身に集めている長身の男がにこやかに声をかけてきた。 別段装いが派手というわけではない。なのにここまで目立つのはその存在感と、学校という場所に酷く似つかわしくない雰囲気だろう。 「……本当に来たんですか」 「ひどいな、約束したじゃないか」 もう一度この男に電話をかけたのは魔が差したとしか言いようがない。 アリババは自分自身にそう言い訳をしていた。 ただ、この奇妙な縁に何か感じたのも嘘ではない。 憧れていた作家とこんな形で出会うということは、誰も予想だにしなかっただろう。 重ねるなら、苦学生であるアリババにとってタダ飯はどういう理由があろうと歓迎できる。 そう何度も自分に言い聞かせて、慣れない番号のボタンを押した。 スリーコール目で応答があって、最初は何を話したものかとしどろもどろだったが、いかんせんシンドバッドがぐいぐいと話を持って行ってしまう。 気付けば日時が決まり、迎えに行くとすら言い出し、今に至るわけだ。 場所を教えてくれれば自分で行けると何度も抗議したが、それでは気が済まないと食い下がられた。 どうにもこの男の押しに弱いのはなぜなのだろうか。 シンドバッドの側に佇むくすんだ銀色の車体は、アリババが見たこともない骨董品のような車だった。 そして男は恭しく助手席のドアを開けてアリババを中に促してみせる。 しかし、身体はすぐには車内に入りたがらなかった。 どうしても二の足を踏んでしまうのは、この状況が異常だとどこかで思っているからなのかもしれない。 それでも、好奇心をむき出しにしてアリババ達を遠巻きに眺める群衆の視線から逃れるためには、この中に身を隠す以外方法が思いつかなかった。 アリババを助手席に収めると、シンドバッドはさっさと運転席に回る。 有無をいわさず発進した車の加速度に思わず身体がすくんだ。 「電話ありがとう。嬉しかったよ」 「これから、どこに行くんですか？」 「約束したじゃないか、食事を奢るよ」 「でも……」 「大丈夫、馴染みの店だから」 にっこりと笑って慣れた仕草でハンドルを切るシンドバッドに、アリババはこれ以上巧い文句を思いつけないまま、視線をフロントガラスに戻して、流れていく風景を見守った。 「あ、あの、シンドバッド、さん」 少しだけ逡巡したあと、意を決してアリババは呼び慣れない名を口にする。 「…本当に、あの、七海の冒険とか書いた…シンドバッドさんなんですか…？」 「嘘なんて吐いてどうするんだ？」 「……そう、なんですけど……その、あまりにもイメージと違うものですから…」 「それはちょっと傷つくなぁ」 「あ、そういう意味じゃなくて………すみません」 後が続かなくて、アリババは俯いてしまう。 しかし、返ってきた声は台詞よりはだいぶ柔らかいものだった。 「冗談だよ。それより、俺のこと知ってるんだ？嬉しいなぁ」 知ってるもなにも、ご本全部持ってます、大ファンです、とは、口が裂けても言えそうにない。 横でハンドルを握り、素直に頬を綻ばせるその姿は、益々アリババの抱いていたイメージとギャップがあった。 「あの、今日はお仕事とか、大丈夫なんですか？」 「あぁ、気にしなくていいよ、今日は完全にオフだから」 唇の端で休日を楽しむ男は気楽に返してくる。 しかし、アリババはこの状況をどういう気構えでいたらいいのか、未だに計りかねている。 座っていた車のシートの座り心地がやけに悪くなった。 取り留めのない会話をしながら、移動することしばらく。 郊外に佇む洋館を改造したような外観の建物に到着した。 車から降りてアリババは建物を降り仰いでただ圧倒される。 外観がとても豪華というわけではないが、どっしりとした構えのその館の存在感に飲まれてしまったのだ。 「……あの、本当にこんなところで食事するんですか？」 「心配いらないよ、奢ると言ったじゃないか」 「そうなんですけど……」 「この店は鶏肉がうまいんだ」 「鶏肉、ですかっ？」 「好きかい？」 「あ、……はい」 「それは良かった」 不意に出てきた好物の単語に子供のような反応を返してしまったアリババは、照れくさくて思わず視線を外した。 まるで小動物を見守るような視線で撫でて、シンドバッドはアリババを手招いた。 「ほら、おいで」 ここまで来て後には退けないと、戸惑う足取りではあるものの、手招きされるままにアリババはゆっくりと店の扉を潜った。 「先生、ご無沙汰してます」 いらっしゃいませ、とスタッフの声がかかると同時に、迎えてくれた一人のウェイターが親しげに声をかけた。 「やぁ、しばらくぶりだな」 シンドバッドの行きつけというのは本当らしい。 その慣れた様子にアリババはその二人のやりとりを見つめる。 「今日はまた違う子をお連れですか？」 「おいおい、滅多なことを言うなよ」 「冗談ですよ。伺ってます、どうぞ」 笑い声混じりのウェイターと親しげに言葉を交わして、二人は店の奥へと促される。 案内されたテーブルを前に、アリババは口元が引き攣るのを感じる。 純白のテーブルクロスがかかった丸いテーブルの上には、まっさらに見えるほど磨かれた銀器とテーブルクロスと同じ色のプレート。 どうにも場違いな空気が否めなくて、アリババは不安そうにシンドバッドに視線をやった。 「……俺、マナーとかよく判らないんですけど……」 「そんなに構えないでくれ。食事を楽しんでくれたらそれでいいんだ」 そうは言ってもこの雰囲気に大学生であるアリババに慣れろという方が無理がある。 しかし、足を踏み入れてしまったのだから、ここは好意に甘えて滅多なことでは食べられないタダ飯を堪能すべきだと頭の中のもう一人の自分が喚いていた。 不躾にならない程度に店内に視線を巡らすと、穏やかな音楽と人のざわめき。 席について食事を楽しむ人達は、誰しもが自分たちの時間を味わっている。 誰の邪魔も入らない、無二の時間とでも言う風に。 自分も、こんなふうに食事を楽しめばいいだけだ。 そう腹を決めて、アリババは引かれた椅子に腰掛けた。 そして、いざ席についてしまうとその通り、どうにかなるもので。 というよりは、シンドバッドのリードが適切だったといった方がいいのかもしれないが、アリババは特に困ることもなく、順調に食事をすることができた。 この店に到着した時にはどうなることかと思ったけれど、むしろ楽しいと思えるほどだった。 メインディッシュは鶏肉のグリルは、さすがシンドバッドが美味いと称しただけのことはあると、アリババもその味を堪能する。 そして途切れることなく交わされるシンドバッドとの他愛のない会話は楽しかった。 シンドバッドの正体が憧れの作家であるという事実に、自然と彼に訊きたいことが増えていく。 物書きというと、もっと個性的で取っつきにくい印象があったが、この男の纏う天真爛漫な雰囲気はとても好感が持てた。 「……でも、どうしてここまで？むしろ俺の方がお詫びしなければいけないのに…‥」 場の雰囲気にようやく慣れてきた所で、アリババは最も訊ねてみたかったことを、ようやくシンドバッドに投げた。 「お詫びの気持ちなんだけど、それだけじゃダメかい？」 「あ、いえ……そういうわけでは……」 「うーんそうだなぁ」 どこか納得が行かないと言葉を濁すアリババに、シンドバッドは焦らすように言葉を濁して、グラスワインを一口飲み込む。 「個人的に君に興味を持った、と言ったら信じてくれるかい？」 どこか含みのある言い方をして、シンドバッドは持っていたグラスをかたん、とテーブルに置いた。 言葉の意味がよく分からないアリババは、咀嚼する口を止められなかった。 動く口と視線だけで、先ほどの言葉の解説を強請ると、シンドバッドは唇の端を持ち上げて、日常会話のような声音でとんでもないことを口にした。 「まぁ、早い話が口説いているんだ」 「……………は？」 ごくん、と、喉を鳴らして口の中のものを飲み込むと、アリババはたっぷり間を開けた後、困惑する視線をにっこりと微笑む男に向ける。 「すっかり絆されてしまってね。あの時見せてくれた顔がまた見たいと思ったんだ。それも、酒の入ってないときにね。そして欲を言うなら、それ以外の顔も見てみたい」 男はその顔のまま矢継ぎ早に追い立てる。 しかしアリババはシンドバッドの言っている言葉の半分も理解していなかった。最初の一言の破壊力が強すぎて、他の言葉が耳に入ってこなかったと言ってもいい。 にっこりと甘く微笑みかける男の表情をまじまじと凝視して、何度か口をぱくぱくと開閉させる。 しかし、気の利いた返答は一切思い浮かぶことはなく、結局狼狽した音で応えるしかなかった。 「か、考えさせてください……！」 予想通りの反応だとでも言うように、シンドバッドの表情が陰ることはなく、彼はアリババが食事をする様を穏やかに見守るだけだった。 「あぁ、焦って返事を貰おうとは思っていない。今日は本当にお詫びなんだ。遠慮なく食べてくれ」 そして、アリババのワイングラスの向こうに、シンドバッドの底の知れない微笑が沈んだ。 end.

実は結構前から妄想していた作家シン様と大学生アリババくんの現パロ。<br />タイトル通りの話です。色々妄想爆発。ギャグの顔したしょうもない話です。<br />現パロは本当に妄想爆発して困ります。現パロシンババもっと欲しい！！冬の寒さでいちゃつくシンババ現パロは一体どこに行ったら読めますか…！！！？■閲覧評価コメタグbkmありがとうございます！！ちょ、RRでとんでもない順位を…頂いてしまいました…！！！！！本当にありがとうございます！！！！この目を疑ったずぇ…////続きももっちょもっちょしたいなと思っております！！！現パロ無限大！！

【現パロ】前略：酔っ払い拾いました。

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　言峰綺礼はファッションモデルだ。 　彼がまだ学生であった時分、街中で声を掛けられ誘われるままに半信半疑で始めたアルバイトである。俗に言う煌びやかな世界を思い描いて期待した訳でも、確固たる目的ないし覚悟があった訳でもない。 　ただ時間の都合が良かったからだとか、そんな記憶にも残らない動機で踏み入れた世界に籍を置いてもう三年か四年目になる。学業の片手間にこなす『アルバイト』であったはずのそれがれっきとした『職業』になったのはいつからだろう、と綺礼はぼんやり考えた。 「……トークショー、ですか」 　綺礼の表情は喜怒哀楽が極端に乏しい。愛想のない、可愛げのない新人だとはよく言われたものだ。 　そのうちに、彼はそういうキャラクターだから、と。本人にその言葉の意味するところは図りかねるものではあるのだが、幸いとファインダー越しに笑えと要求されることも殆どなくなり、だからこそ余計に、服を着替えてカメラに写されるだけのこの仕事は綺礼にとって苦にならなかった。 　──だと言うのに。 　綺礼の眉が僅かに寄る。声のトーンは普段よりも幾分か落ちた。 　それだけで感情の起伏を察せるほどには付き合いの長い彼のマネージャー、遠坂時臣はばつが悪そうに肩を竦めたが、綺礼が内心でほんの少しでも望んだ撤回の言葉はない。 「すまない。私も君が口下手なのは分かっているのだが……」 　ちらりと視線を動かすと、大判のポスターが目に留まる。モデルであったはずの彼が初めて出演した映像作品『戦車男』のものだ。 　思い返すにそれはエイプリルフールに封切られるに相応しい、嘘のような、馬鹿げた純愛ストーリーだった。サイハテの恋めざして遠征開始──と煽られた笑いあり涙ありの映画の詳細はこれから発売されるDVDを確認するのが手っ取り早い。 　そのための記念イベント、キャストによるトークショーが催されるのだそうだ。 　彼らの数少ない方針として仕事を選ばないつもりだ。尤も、仕事を選べるような身分でもないのだからこれを方針と言えるのかは危うかった。 　マネージャーである時臣には全幅の信頼を置いてはいたし、忌憚なく言えばそうでもなければこのような仕事は面倒でやっていられない。今度の件にあっても、時臣曰くセリフも出番も少ない端役とのことだからこそ快く──具体的には、眉を僅かに寄せるだけの抵抗で綺礼は頷いた。 　製作者が何を思って新人に毛が生えた程度の、しかも演技経験の全くない言峰綺礼に白羽の矢を立てたのかは分からない。 　主演の二人はエキストラとして適当にスカウトされた大男に飲料水のCM出演を経てネット投票で選ばれた新人タレント。言葉を選んで良く形容すればそんな話題に事欠かない人選であったが故に、脇を固めるキャストにはことごとく芸歴の長い安定した俳優達が揃っていた。 　つまり、期待の大型新人とその道のベテランに囲まれた綺礼の演技は、お世辞にも達者なものではなかったのだ。 　綺礼だね、と。至極真面目な調子で時臣が呟いたのは、ごく関係者内で行われた打ち上げパーティを兼ねた試写会の後だった。金髪の引き篭もり（時々ストーカー）の世話をする主夫の役──と言うよりは、表情から口調から、何もかもが普段通りの『言峰綺礼』のままだった。本来ならばまず口走らないようなセリフをその口から聞けたのは愉快ではあったけれど。 　それは彼をよく知る時臣だからこそ持ち得る感想であり、やはりどんなに贔屓目でどんなに濃い色眼鏡を通して見たところで、綺礼の演技は、はっきり言って下手くそだった。 　恐らく本人にも、その自覚はあったことだろう。 　閑話休題。 　本人はもちろんのこと時臣においてすら想定外であったのは、件の映画出演を切っ掛けに目に見えて言峰綺礼のファンが大いに増えたことだ。 「まさかイベントにまで呼ばれるとは思わなかったな」 「はあ……」 　葬り去りたい黒歴史と言うほどでは無いにしても。綺礼と時臣の共通の認識はそんな所であった。 　だからこそ、時臣はあれから幾つか打診されている所謂『お芝居の仕事』の存在を綺礼に持ちかけることができないでいる。 「やはり気乗りはしないか？」 「まあ……」 　過度の謙遜もなければ絶対の自信もない、欲もなければ意識もない。そんな綺礼に変わる切っ掛けが何かあれば、と。もしかしたら内心で呟いた時臣は口の端を苦く歪め、笑った。それはマネージャーとしての責務であり、親心のようなものでもあった。 「そう気負うようなものでもないよ、安心しなさい」 　主演の二人はもちろんのこと、脇を飾った豪華キャストの殆どが集められるらしい。これならば綺礼が呼ばれたことにも合点がいくし、不要に彼へスポットが寄せされることもないだろう。 　懸念があるとすれば客の前に直接立つのが初めてだということだが、綺礼に限って緊張でヘマをしたり言葉が出なくなるようなハプニングはまず起こらないと確信できる。 「“英雄王”とはあれからも懇意にして頂いてるんだろ？　ステージでも助けてもらえるさ」 　綺礼の眉根が再三と寄ったのは、彼なりの照れ隠しなのだろうと時臣は解釈した。 　英雄王を自称する引きこもり兼時々ストーカー。演じたのは子役の時代から名を馳せた若くしてのベテラン俳優、ギルガメッシュである。 　綺礼は多くはない出番の撮影の殆どを彼と過ごし、何がその琴線に触れたのは定かで無くも当のギルガメッシュには随分と良くしてもらっているように見えた。 　時臣にとってもこれは僥倖だ。お世辞を抜きにも今をときめく人気俳優の一人であるギルガメッシュとの交際は、これからの綺礼の活動に必ずや良く働くだろうと考えている。 　しかしながら綺礼の脳裏には、先日散々と街中を連れ回されどっぷり終電をすぎるまで酒に付き合わされた末に、戦犯であるギルガメッシュの吐き捨てた一言が過ぎっていた。 　──我が『いいとも』に呼ばれた暁には、必ずやお前を指名してやるから覚悟していろ！ 　あの男はやりかねない。そう思えば思うだけ、綺礼の眉間の皺は深くなった。本来人前に立つような仕事は避けて通れるのならば越したことはないのだから。 　ただ、そんなギルガメッシュとの付き合いを善しとするか悪しとするかと問われれば、綺礼にとってもおそらくは前者である。 　それなりに。綺礼なりに。公私ともに不遜な『英雄王』のことは気に入っていた。 　だけれども、 「一つお尋ねしても」 「うん、どうかしたかい」 「セイバーは」 「え？」 　それは綺礼にとってギルガメッシュの話などよりも余程重要で、時臣は直ぐには理解が及ばなかった。 　セイバー。引きこもりの英雄王が『時々ストーカー』と化す要因である少女の役名だ。 　演じたのはアルトリア。高く纏めて編み込んだ金髪と涼やかな青色の瞳が画面越しに見るよりもずっと印象的だったことは時臣の記憶にも新しい。 　公私においても誠実で清廉。絵に描いたような優等生であり実力も折り紙つきと言う彼女に好感を持つ者は多いだろうと安易に想像ができる。 　──けれども。 「……綺礼？」 　想像の中に綺礼の姿を当て嵌めて、売って余りあるような違和感に時臣は首を傾げた。 　呼ばれて改めてこちらを向いた綺礼の暗い色をした瞳と視線を交わし、数拍の沈黙。 　そうして漸く合点がいったのか、だけれども狼狽の様子は微塵もなく、時臣はいつものように朗らかに笑って見せた。 「ああ、いや。すまない。少し意外だったんだ、君がそう言うことに関心を持つとは思わなかったから」 　冗談を交えて言ったつもりであった。綺礼は僅かに大きく瞬くだけで、何も言わない。それも時臣にしてみれば感情表現の不得手な彼の照れ隠しの一手であるようにも感ぜられ、何とも微笑ましい光景に見えた。 「もちろん彼女も出演予定だ。話せる機会もあるだろう、頑張りなさい」 　アルトリア本人──または彼女の所属事務所の認識はさておき、時臣としては綺礼の自主性を可能な限り尊重してやりたい思いであった。 　そして何より、良く言えば欲がなく、悪く言えば無関心な言峰綺礼と言う男が、外に興味を持ち始めたことが喜ばしかった。 　それがアルトリアと言う少女であったとは文字通り想像にもしなかったが、時臣にとっては更に幸いである。あわよくば、彼女を目指し切磋琢磨し、互いに良い関係になってくれればと。埒もないとは分かりつつも、時臣は表情を綻ばせた。 「ただ、適当なことはしてはいけないよ。相手のためにも、君のためにもならないからな」 　綺礼の性格を思えば老婆心ではあろうが、時臣は上機嫌にそう言い含めた。どんな時でも余裕を持って優雅たれ──時臣の口癖は、こと恋愛においても説得力のあるものと言えよう。 　そうして素直に頷いた綺礼に、マネージャーとしても人生の先輩としても、現段階で言うべきことは何もなかった。 　だからこそ。 　この時のすれ違いに時臣が気付いたのは、事態が二転も三転も迷走し、ほつれた糸がこれ以上ないほどに絡まってしまった後のことであったと言う。

「戦車男が上映される世界においてのナマモノジャンルに分類されるモデル出身で演技が若干大根なきれいくんかわいい」っていう何次元萌えなのかよく分からないものをこじらせた末のアレ。言うまでもなくパロディです。きれいくんかわいいかわいいのでこれから夜の飛行機でゼロカフェ行きます！！試される大地から！！！！！！！（実話）

ネタバレ：マネージャーは衛宮切嗣

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※ちょこっと特殊設定注意！ 六つ子という設定はそのままで学パロですが、チョロ松以外みんな不良で、チョロ松だけビビりに育ってしまいました。実は強いとか、女王様とか、そんなことは一切無く、モブレベルです。兄弟に対して怖い、と思っています。 よろしければ、 スタートゥッ↓↓(十四松的に) ーーーーーーーー 「え、お前ってやっぱり悪魔の松野兄弟の、兄弟なの？？」 こんな同じ質問を聞いたのは、何度目になるだろうか。 悪魔の松野って、なんだよ。いい加減うんざりしながらも答える。 「そうだよ。僕達、六つ子の兄弟なんだ。」 屋上で一緒に昼食を食べていた同級生が、驚きによりパンを喉に詰まらせてしまったようで、盛大に噎せた。 背中をポンポンと叩いてやる。 「大丈夫？」 「ｹﾞﾎｹﾞﾎッ、おまっ、マジかよ！！世にも珍しい五つ子かと思いきや、ダメ押しでさらにもう一人！？」 ダメ押しってどういうことだ。 何で言わなかったんだよ、と聞かれれば、理由はひとつだ。 関わりたくない。 その一点に尽きる。 六つ子の長男、松野おそ松は、この学校トップの不良だ。その喧嘩の強さたるや、最強のチートキャラクター。そう表現するのがぴったりなほど、無敵に強い。 元々運動神経が抜群に良かったのだろう。それが喧嘩に生かされるとは、なんとももったいないことだ。 次に、おそ松の右腕、松野カラ松。 型破りなパワーの持ち主で、ほとんどの喧嘩は一撃必殺。パンチもキックも重い。ワンパンができるマンかよお前は。こいつもチートキャラ。 三男の僕、松野チョロ松。モブ。以上。 四男の松野一松。長男、次男ほどではないが、普通に強い。しかも、相手が降参しても失神しても、裸になって街を回るとか、一発芸しろとか、なかなか解放してくれない。しつこい。 五男の、松野十四松。明るく、野球好きで、みんなからも好かれているが、一番喧嘩と血が大好きなある意味一番ヤバい奴。相手の折れた歯とか記念にとっておいてあるらしい。ヤバい。 最後に、松野トド松。基本的に喧嘩はしないが、売られた喧嘩は絶対に買う。そして必ず勝つ。体力腕力共に平均だが、罠を仕掛けるのが天才的に得意。この前カラ松がトド松の仕掛けた罠に何故か引っ掛かってた。 …とまぁ、兄弟についてざっと語らせてもらったが、心の中では強気に兄弟について言えるが、現実は一言も兄弟については意見できない弱者だ。 不良に無縁な僕は、兄弟たちを見かけると、恐ろしくて会話が出来たもんじゃない。 子供の頃は、普通に仲が良かった記憶がある。 というか、対等だった。僕はお前で、お前は僕。そんな感じだった。 しかし、いつの間にか、兄弟たちは僕には理解できない喧嘩に明け暮れていき、中学に入ってから現在高校一年生に至るまで、まともな会話をした記憶がない。 というか、僕が極力会わない為に、時間をずらしたりしているのだ。部活がある、とか適当な理由を付けて。文芸部という、ほぼ帰宅部に等しい部活に入部して、図書館などで時間を潰す。 いい加減疲れる。でも、そうでもしないと、あいつら荒れて帰ってくるから。 兄弟にはちあわせてしまった、中学校三年生のある日のことだ。 ーーーーーーーー 「ただいまー……」 静かに戸を開けて、中へと入る。 時刻は夜9時。この時間帯はいつも、兄弟たちは2階へ移動し、プロレスやらカードゲームやらをして、そのまま就寝するのだ。 その騒がしさときたら、ご近所からお叱りを受ける程だ。毎夜毎夜ギャハギャハドタドタと喧しい。 僕は一階で両親とテレビを適当に見て、11時くらいになったらこっそりと寝室へ。 兄弟と一緒の部屋で寝るなんて、起きてしまわないか毎回ヒヤヒヤしながら就寝して、兄弟よりも早く起きて学校へ行くのだ。 それが、いつも通りの僕の行動。 だけど、その日は何故か、8時に帰って来たというのに、2階はしんと、静まりかえっていた。 もしかして、もう寝たのかな？やめておけばいいのに、ちょっと気になった僕は、少しだけ戸を開けて、様子を見ようとしてしまった。 部屋の襖に手をかけた、その瞬間。 スパーン！と扉が勢い良く開き、目の前にはおそ松兄さんが。 「……！！ッ、」 突然の出来事に、いつもは目を反らして逃げるのだけど、バッチリおそ松兄さんと目が合って、体は固まってしまった。 「ぁっ、あの、えっと……、」 言葉が出てこない。 「……………………」 おおおそ松兄さん、何も言わねぇし！気まずっ！ 血の気が下がっていくのを感じる。今僕の顔、きっと、真っ青なんじゃないだろうか。 ふと胸の辺りに視線を落とすと、黒い学ランの下に赤いTシャツを着ていた。 まだ着替えていなかったらしい。珍しいなぁ。 そんなことをぼんやり思っていたら、突然強い力で手首を捕まれ、そのまま強引に部屋の中へと引っ張られた。 「あっ、痛っ！」 どうしよう、何か怒らせるようなことをしてしまっただろうか。 中に入ると、そこには全員が集まっていた。 輪になって全員胡座をかいて座っていた。 おそ松兄さんと同じく、学ラン姿のままだ。 その輪に1人分の隙間が空いていて、おそらく今までおそ松兄さんが座っていたのだろう。 全員が、僕を、見つめる。その視線に耐えられず、俯くと、突然の浮遊感。 「わっ！？」 何事かと思ったら、おそ松兄さんがその輪の中へ、どかりと座り込み、なんと、なんと、おそ松兄さんの胡座の上に、ぼ、僕が、乗っかるような、形に。 え、え、ほんとに、なにこれ。パニック。 僕が逃げないようになのか、僕の腰におそ松兄さんの両腕がしっかりと巻き付いている。 僕のすぐ耳元で、後ろにいるおそ松兄さんの吐息がかかって、さらにパニック。 「……チョロ松が、帰って来たぜ。」 久しぶりに、至近距離で聞くおそ松兄さんの声は、随分と低くなっていた。 カラ松と他の兄弟は、笑って頷いた。 「おかえり、チョロ松。」 「……オカエリ、チョロ松兄さん。」 「おかえリンボーダンス！！！！！」 「おかえんなさーい♪」 みんなから、一斉におかえり、と言われる。 どうすれば良いか分からず、口をはくはくさせていると、腰に巻き付いていたおそ松兄さんの手が僕の唇をなぞった。 「……ほら、チョロ松。おかえりって、兄弟が言ったら、お前は何て言うんだっけ……？」 耳元で、囁くように言われて、体がぞわぞわする。 「あ、た、ただいま……」 「うん。おかえり、チョロ松。」 喧嘩慣れしてゴツゴツとした手が、僕の頭を撫でる。 なんだ、なんなんだこれは。なんなんだよ。 改めて兄弟たちをみんな、しばらくみないうちに、随分と個性が出てきたものだと思う。 僕と、同じ顔のはずなのに、全然似てない。 暫しの沈黙。 その間、僕にねっとりとした視線が兄弟から絡み付いていた。 沈黙を破ったのは、おそ松兄さん。 「なぁ、チョロ松。○△高校を受けるって、本当か？」 突然、そんなことを言われる。確かにその通りだが、どこで知ったのだろう。 「う……うん、そうだよ。先生に、進められて…」 「ブラザー。」 次に口を開いたのは、カラ松兄さん。 「その高校は、陰湿なイジメが多いと聞くぞ。弱い者は、強いものに従うしかない、とか。」 「も、もう子供じゃないんだから大丈夫だよ。男だし、自分の身は自分で……」 「えー？守れてなかったよねぇ、僕、チョロ松兄さんがカモられそうになってるの、見かけたよ？」 うっ。痛いとこ突かれた。 食い気味に言ってきたのは、トド松。 実は僕は、帰り道の時などによく怖い不良の奴等にカモられそうになっている。 逃げ足の早さが功を成して今のところ実質的な被害は無い……今のところ、は。 「なぁ、チョロちゃーん。」 おそ松兄さんが、僕の頭に顔を乗せてきた。チョロちゃん言うな。 「俺はさぁ、お前が心配なわけ。俺らと高校が違うと、お前のこと守れないじゃん？」 守る？どういうことだろうか。 僕以外の兄弟は、かの有名な赤塚高校に行くことが決まっている。 不良の巣窟と呼ばれるところだ。 僕はそんなところが嫌だから、○△高校を受けたいというのに！ この兄弟は、邪魔をするというのだろうか。 「考えてもみろよ、①10人の不良→俺達居ない→お前負ける。②100人の不良→俺達居る→お前安全。お前にとってどっちが安全か、一目瞭然だろ？」 なんっっっっだその選択肢！！！！アホか！！！ そもそも、てめぇらと一緒が嫌だからってのが一番の理由だっつーの！！ なーんてことは、言えるはずもなく。 「や、でも、向こうで、友達とか、見つけるし……」 「あ" ？」 あ、やばい、地雷踏んだ。 おそ松兄さんの腕に力が籠る。 「いぁっ、おそ松兄さっ、苦し……！」 「お前の友達だぁ？そんなん、お前と似て、非力で、弱くて、何も出来ないもやしっ子に決まってんだろーが。」 ……！ ひ、酷い。いくらなんでも、そんな言い方は……！ ちょっとした反抗心が芽生え、首を捻って後ろのおそ松兄さんをキッと睨み付けると。 目を細めて獰猛に笑う、おそ松兄さんと目が合った。 背筋が、ゾクリと冷たくなる。 口の隙間からチロリと赤い舌が、自身の唇をなぞったかと思えば。 強い力で、僕はおそ松兄さんに押し倒されていた。 「いった、何すんだよ！」 精一杯の虚勢を張るが、さも楽しそうに覗き込んでくるおそ松兄さんと、無表情の兄弟たちにどうしても恐怖を覚える。 「どうした、図星で怒ったのか。非力で、弱い、チョロ松くん。悔しかったら、お兄ちゃんの腕を振りほどいてみな。」 言わずもがな、僕は押し倒されているのが嫌で、体を総動員してもがいたが、びくともしない。 「うーーーっ！うーーーっ！」 悔しい 悔しい 悔しい 僕はどうしたって、この兄弟に敵う気がしない。 「へへっ、かわいーの。」 屈辱だ。僕は唇を噛み締めていると、おそ松兄さんが僕の顔付近に屈んできた。 「唇そんなに噛むんじゃねーよ。俺が噛むのは、いーんだけどなっ！」 そう言って、いきなり僕の首筋にがぶっと噛み付いた。 「あああああっ！！！」 あまりの出来事に、体は縮こまり、目からはポロポロと涙を溢す。 僕は、あたまからバリバリと、食べられてしまうのではないか。 そんな恐怖が全身を支配する。 「やぁっ、やだぁ、おそ松兄さん、やめてぇ……ひぐっ、食べないでぇ……！」 「ふへへ、どうしよっかなー」 噛んだ辺りをペロリと舐められる。 「ひぅっ！？」 「こら、おそ松。やりすぎだ。チョロ松が怯えている。」 カラ松兄さんがそう嗜めて、おそ松兄さんを僕の上から退かした。 舌打ちひとつしたおそ松兄さんは、また先程と同じような体制(おそ松兄さんの胡座の上に僕が乗る)になった。 僕がグスグス泣いていると、トド松と十四松が頭を撫でてきた。 「おそ松兄さーん。やりすぎだよぉ。」 「チョロ松兄さん！！大丈夫っすか！後で一松兄さんの猫あげる！」 「ﾌﾋﾋ……十四松…僕が目の前に居るのに僕の許可を取らないナチュラルＳ……最高……」 「わかったわかった！お兄ちゃんが悪うございましたー！でも、これでわかっただろ、チョロ松？」 なにが、と問うのさえ、恐ろしい。 「○△高校は、こわーい不良が居て、さっきみたいに押し倒されちゃったら、お前勝てないよ？赤塚高校も不良だらけだろうけど、赤塚高校に入るなら、お兄ちゃんがずっとお前を守ってやるよ。」 どうする？ なんて、五人の目で問われれば。 押し倒される？そんなこと、あるわけがない。 でも、でも。 本当は、拒否なんてさせないくせに、と恨めしく思いながら、僕はほぼ脅されるようにして、赤塚高校への入学が決まったのだった。 そして、現在、赤塚高校一年生、松野チョロ松。 喧嘩はできない、見た目も地味でモブポジションの僕は、本来であるならば、滅多にお目にかかることすらできない不良トップファイブに見向きもされないはずの存在なのだが、血の繋がりという、切っても、切っても、切っても切れない縁があるのだった。 屋上の扉が勢い良く開く。 ゾロゾロと、赤、青、紫、黄色、ピンクのパーカーを学ランの下に着た兄弟たちが、昼食途中の僕たちに向かって歩いてくる。 「チョーロまつぅー、昼寝したいんだけどさぁ、膝枕、貸して。」 にひ、と笑うおそ松兄さんの目には、太陽の光が反射してとても綺麗に映っていた。 「…………うん…。」 あーあ、一緒に昼食食べてた友達、逃げちゃったなー。せっかく出来た友達なのに。 僕は、我が物顔で僕の膝の上で昼寝を始めたおそ松兄さんの鼻を摘まんでやりたい、と思いつつも、仕返しが怖いので、前髪をサラサラと触っただけにした。

六つ子で高校生時代学パロなのですが、全く強くなくてザコポジションのチョロ松と、めちゃくちゃに強い他の兄弟五人の話で、おそチョロっぽいです。兄弟がチョロ松に対して過保護を目指したいですな。

臆病なチョロ松と五人の不良①

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兄弟で言うところの末弟と言うものは、甘えん坊やら家族好きやらブラコやらの確率が高いという見解がある。 しかしそれを裏切るのは廉造の役割だった。 志摩家の、七兄姉の末弟である廉造は甘えん坊と言えば甘えん坊、家族好きと言えば家族好き、ブラコンと言えばブラコン（シスコン）。確かにそうではあるがその度合いは、今は亡き長男を抜き他五名の兄姉の前ではかなり薄い。 逆に言えば、他五名の兄姉から言えば、「何故廉造は家族に対してあんな淡白なんや!!」だ。勘違いしないで欲しい、決して廉造が淡白なわけではない。むしろ一般人に比べればちゃんと家族兄姉愛はある方だ。ただ他五名が異常なくらい家族兄姉愛が強いだけで。 さて、その他五名の兄姉に所属する志摩家四男金造が東京の正十字学園に行って半年以上がたった。 高校生としても祓魔塾生としてもいるわけだから、夏休みといった長期休暇中も金造は実家には帰ってこれなかった。 金造は兄姉の中で最も兄姉を、家族を、更には明陀を愛しているわけで、つまるところそれらが金造の活力へと繋がる。 逆に言えばそれらがなければただのアホに成り下がってしまうのだ。 だから金造は「充電」と称して週２、３度は家に電話をかけてくる。ということはつまり万年ホームシックなのだ。 家族はそんな金造を微笑ましく思っていた。１人を除いて。 「金造に会えんくて寂しいなぁ」 そう切り出したのは次男の柔造であった。 話しかけられた廉造は特に反応もなく「せやなぁ」と呟いて漫画本を捲っている。 「なんやそれだけかい」 「せやかて居ないもんはしゃあないやん」 廉造は肩を竦めた。 金造が家をでるときもそうだったが、兄姉皆で金造に様々な言葉をなげかけた中廉造だけは「いってらっしゃい」の一言だけで、そういえば自分や三男のときも「いってらっしゃい」だけだった気がする。 金造が家を出てから家族内で「金造いんと静かで寂しいなぁ」という話しになってもその会話を廉造が切り出したことはない。 そう、廉造の家でのポジションはアホ、甘えん坊、ちゃらんぽらんの他に異質なクールが混ざっているのだ。 兄姉に対してたまに変にクールな場面が多々あったりするからだ。[newpage] それを少し寂しく感じる柔造である。 「廉造は金造いなくて寂しないんか？」 静かな声で問えば廉造は少し考えた素振りを見せた。 「んー、まぁ殴られんのはええことやな」 しかし口からでたのは柔造の期待していたものとは違った。 「ほな俺先寝るわ」 そしてそのまま廉造は漫画を持って自室に戻ってしまった。 廉造の後ろ姿を見送って柔造は溜め息を吐いた。 なんで廉造あんなクールなんやろう？と考える。坊達といるときや兄姉でふざけあってる時とは違うのだ。 なんだか悲しい。 確かに廉造は甘える時は甘えるが、いざという時こそ甘えてくれないのだ。 それが柔造には悲しくてしょうがない。 他の弟妹達のようにもっと頼ってくれてもいいのにと。 「昔はベタベタしてきたんになぁ」 居間には柔造の呟きだけが零れた。 一方その頃部屋に戻った廉造もため息を吐いていた。 「金兄なぁ」 確かにアホな四男がいないだけで志摩家はだいぶ静か（又は平和）だ。 おかげでこの半年廉造は無駄な傷を作らなくてすんでいるが、その代わり家族達が四男の名前を出すことが格段と多くなった。 その点に関しては廉造も同意見なのだ。 寂しい。 確かにそう思わない訳ではない。思わない訳ではないのだけれど。 「ちょい騒ぎ過ぎちゃう？」 廉造としては寂しくはあるけれどそんなわざわざ口に出して言うほどのことではないのだ。それも何回も。 廉造はもう一度ため息を吐いてベットに移動した。自室といっても男四人女二人兄姉のため、男四人は一つの部屋に突っ込まれている。 つまりは二段ベットが２つ狭い部屋に押し込まれているような部屋なのだ。 あんまり狭いものだから寝る時ぐらいしかこの部屋に居る者はいない。たまに廉造か金造がプレイヤーで音楽を聞いてるぐらいだ。 二段ベットの上段といったら暗黙の了解の如く上の兄達が占領するものだ。この場合は二男三男が上段。四男五男は下段である。 右側の下段が廉造の布団だ。 ふと左側の下段、本来なら金造のベットスペースを見ると、そこは金造が家を出たときのまま整えられていた。 「金兄か」 [newpage]懐かしい。よく下段同士でコソコソ会議を開いたりしてたっけか。内容はまちまちで、どうしたら上段で寝れるかとか明日のおやつは何だとか、風呂当番はどっちだとか、たまに喧嘩に発展して柔兄に何時まで起きてるんだと怒られたこともあった。 そこまで思い出して廉造は首を横にふった。 「俺らしくもないわ」 けれど一度意識してしまうとどうもダメらしい。廉造はなんとなく、そう、悪魔でなんとなく金造の布団に潜り込んだ。 「なんやまだ金兄の匂い残っとるわ」 もう半年以上たつというのに。匂いとはしぶといものだ。 そう、この匂いの持ち主にもう半年以上会ってないのだ。喧嘩もしてない。そう考えるとなんだか急に寂しさが増した気がした。矢張り廉造も志摩の子なのだ。 「…正月には、帰ってくるやろか」 「柔兄！柔兄！ちょぉ早よう来てえな!!」 そろそろ寝るかと柔造が自室に向かうと、三男が廊下に顔を出し小声で柔造を急かした。 「なんやねんいきなり」 「しー！」 それ程大きな声を出したわけでもないのに何故か怒られてしまった。 無言で部屋の中を指差され訝しみながらも中へ入るとそこには、 「!!?」 まず最初に感じた違和感は先に寝ると言っていた筈の廉造がベットにいなかったこと。 次に今は持ち主がいない筈のベットに誰かが寝ていること。 そしてその誰かとは… 「激レアやで激レア、廉造がデレた」 先ほど静かにしろと言っていた筈の三男は今は携帯で末っ子を激写していた。 そう、廉造が、あの兄弟に関してはクールな末っ子が、金造の枕に顔を埋めながら安心しきった顔で眠っているではないか。これをデレた以外のなんと言おうか。 「金造に送ったろ」 ピロリンなんて効果音を漏らす三男を余所目に柔造は布団をかけて廉造の髪を撫でてやった。 「やっぱ俺の弟やなぁ」 「せやねぇ」 例え言葉や態度に出さなくたってみんな家族が大好きなのだ。 二男と三男は五男の寝顔を眺めて暫くほほえんだのであった。 一方その頃 「うえええええ!?嘘やろ俺の布団やんか廉造めっちゃかわええ!!!!!」 「うるさいぞ金造」 「俺ちょっと実家に帰ってくるわ!」 「おう帰れ、そして戻ってくるな」 金造は寮の同室者に煙たがられていたとかいないとか。 終わり

こうだといいなと思って。

言わないだけで

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※注意事項 ・オリジナルのキャラが登場します 　女審神者 ・原作にない設定 　今回のスマホアプリのキャンペーンに便乗、受け取り箱の自己的解釈、など ・刀剣男士の口調及び性格の捏造 　当作品は特に「山姥切国広」が芝原によって多大なる捏造を受けております 以上の点でひとつでも不快に思われた方は、閲覧を控えた方が良いと思われます。 [newpage] 「布を外さないでください」 　震える声ですがるように言われて、山姥切国広は自嘲を浮かべた。 　山姥切は顕現されたばかりの状態ではあったが、少し距離をあけて対峙している少女が己の主ということは本能的に理解している。名乗りをあげた途端、彼女がひゅっと息を詰めたことも、ちゃんと気付いていた。 　おおかた、望んだ刀でなかったことを嘆いているのだろう。写しの刀などに価値があるわけないと。山姥切自身、己の在り方に卑屈な思いを抱いている。だから、彼女が山姥切を不名誉だと思っていたとしても、山姥切はそれを責める気はなかった。 　写しの顔など見たくもないだろう。山姥切は襤褸布の頭巾の部分を指先でつまみ、自嘲すらも隠せてしまうくらいに深く引き下げた。 「安心してくれ、刀としての務めは果たす。いや、写しの刀など頼りにならないか……」 　しかし、こうして顕現された以上、山姥切は写しであろうが何だろうが、刀として敵を斬るだけだ。もしも彼女が山姥切の存在を望んでいないのだとすれば、戦場に出る間もなく消えるかもしれないが。 「そ、そんなことないれすっ！」 　山姥切のほの暗い予想を裏切ったのは、悲鳴のような高い声だった。驚いて顔を上げてみれば、主である少女が焦燥に駆られた表情でこちらを見つめていた。 　目が合う。お互いの視線が交差した瞬間、またしても声が上がった。 「ひやあああああああああああ！」 「お、おい、いきなりどうしたんだ……」 「ごめんなさいわたしなんかが神さまを喚んじゃってごめんなさいぃいいいいい！」 　今度こそ正真正銘の悲鳴で、少女は両手で顔を覆ってその場に蹲ってしまった。 　山姥切が慌てて傍に駆け寄って手を伸ばす。しかし、指先が少しだけ肩に触れただけで、彼女は体勢などお構いなしといったすごい勢いで、部屋の端まで転がっていった。 　ゴンッ、と鈍い音がする。文字どおり転がっていった少女は、壁にぶつかってようやく停止したものの、未だに小刻みに震えているようだった。 　山姥切は手を伸ばしたままの状態で固まり、呆然としながら少女を見つめる。ややあってから少女は緩慢な動きで上体を起こし、深く俯きながら、か細く呟いた。 「ご、ごめんなさい……わたし、人とはなっ、話をするのが、その、苦手で……」 　もはや苦手を通り越して磁石のような反発反応であったが、山姥切はまだ磁石など知りもしなかったし、そんなツッコミを入れる余裕もなかった。 「目も合わせられなくて……きっ、きれいな人は、特に駄目で……！」 「…………は？」 　山姥切は一瞬思考が止まった。きれい、とは。 　部屋を見渡してみると、どうやらここは鍛冶のために用意された場所らしい。刀を打つための道具がそこらじゅうにあった。山姥切は自分がここで分霊として打たれたのかと思ったが、どういうことか炉に火は灯っていない。 　不思議なことは多々あるものの、今確認したいのはこの部屋に己と彼女以外に誰かいるのかどうか。右を見て、左を見て、最後に後ろを振り返る。誰もいない。 　つまり、彼女が「きれいな人」と言って怖がっているのは、山姥切というわけで。 　理解した途端、今度は山姥切が声を上げた。 「き、綺麗とか言うな！」 「きゃああああああああああああ！　やめてくださいこっち来ないで目が潰れてしまいますごめんなさい！」 「審神者さまぁあああ！　だからわたくしもお供しますと申しましたのにっ！！」 　山姥切と少女の不協和音は、引き戸を突き破って部屋に飛び込んできたこんのすけによって終止符を打たれたのであった。 +++++ 　時の政府と歴史修正主義者の戦争。刀の付喪神、刀剣男士。それを従え、付喪神の主として務めを果たす審神者。拠点となる本丸。 　こんのすけという狐の式神からあらかたの説明を受けた後、山姥切は改めて少女を見た。鍛刀部屋の奥にあるわずかな待ち合いのスペースで、こんのすけを両手で掲げながら椅子に座っている少女。こんのすけを抱いている、ではない。掲げている。 　おかげで、少女と向かい合うようにして椅子に座っている山姥切には、視界いっぱいにこんのすけしか見えない。眼前にあるこんのすけの顔は、何かを悟ったように物静かである。 　それを見ていたら山姥切にもだいたいの状況はわかって、説明が終わったころには同じく悟ったような眼差しになっていた。同情よりも同調である。 「もう察していらっしゃると思いますが、審神者さまは対人恐怖症でございます。正しくはコミュニケーション障害、その中でダウナー系に部類されるものです」 「こみゅ？　だうなぁ？　何だそれは」 「簡単に言いますと、他人とうまく会話ができません。どもります。噛みます。喋れば喋るほどに要領を得なくなり、自分自身が混乱します。あと、審神者さまは容姿が整っている方が大層苦手なので、その場合は火に油でございますね」 　どうやら山姥切の容姿は、ただでさえ対人恐怖症でくすぶっていた少女の心に、大量の油を注ぎ込んだらしい。まさかの大炎上だった。 「俺は写しだぞ。容姿が整っているとか、そんなの……」 「そうですね、まずはご自身の顔面偏差値の高さを理解して頂くことから始めましょう」 「が、顔面、何だって？」 「顔面偏差値。人間の顔の良さを判断する基準でございます。この数値が高い方の場合、審神者さまは目を合わせただけで悲鳴を上げます」 「その数値とやらはよくわからないが、悲鳴を上げるほどに主の症状は酷いのか……」 　しみじみと呟くと、こんのすけの背後から「ご、ごめんなさい」と小さい謝罪が聞こえてきた。こんのすけを掲げている両手がプルプルと震えている。 　山姥切はとても不安になった。自分の行く末ではなく、主である少女の将来が。 　こんのすけに聞いたところ、山姥切は初期刀と呼ばれる立場らしい。この本丸で打たれた刀ではなく、時の政府が用意した五振りの打刀。 　要するに、この本丸にはまだ山姥切しかいない。山姥切だけでこの騒ぎである。刀剣男士は見目の美しい者が多いとのことで、写しである山姥切でも主は悲鳴を上げた。 これから刀剣男士は増えていくことだろう。それだけ悲鳴の数も増えるということだ。 　果たして主の喉と精神は持つのか。そんな思いを込めてこんのすけを見つめると、静かに目を伏せられた。大丈夫ではないらしい。 　山姥切は頭巾を深く被り直す。己の生い立ちに憂いを感じている場合ではないようだ。 　その後、鍛刀部屋には姿見の鏡が置かれることになり、すぐ隣には『己の顔面偏差値を自覚せよ』と筆で力強く書かれた標語が貼り出された。 +++++ 　初期刀を顕現したら、まずは出陣させる。指導の流れはそうなっているらしい。 　これがまた大変だった。山姥切が出陣した先は現在確認されている中でもっとも進行し易い場所だったが、山姥切も顕現したばかりである。 　敵部隊は短刀が二体。一体は破壊することができたが、もう一体を中傷にまで追い込んだところで、山姥切が重傷になって退陣した。 　傷だらけの血まみれ。悲惨な姿で本丸に戻ってきた山姥切を見て、主は抱えていたこんのすけを落とした。予想の範囲内だったのかこんのすけは難なく着地していたが。 　手入れ部屋の中で己の刀を刀掛けに置いている最中、襖の向こうからは「手伝い札使います使ってくださいお願いします手伝い札お願いします」と、狂乱した主の声が聞こえてくる。 　手伝い札とやらのおかげで山姥切の手入れはすぐに終わった。己の体が健康な状態に戻ったことを確認してから手入れ部屋を出ると、部屋の前で右往左往していた主とうっかりぶつかってしまった。 　主が驚いた顔でこちらを見上げる。主は山姥切よりも背が低い。だから、頭巾の中がよく見えたことだろう。 「あ」 　それは山姥切の声だったか、はたまた主の声だったか。 　予期せぬ接触に、山姥切が謝る間もなく、主は大きな悲鳴を上げて縁側から落ちた。 +++++ 　主の初の鍛刀は、松葉杖を突きながらの作業になった。縁側から落ちたときに左足を変なふうに捻ったせいである。腰も強打したので、今の主の機動力は老人並だろう。主の足元では、こんのすけが「おいたわしや、審神者さま」と目に涙を浮かべている 　こんのすけの指示に従った資源の量を山姥切が運び込み、準備が整ったところで、鍛刀の式神に主が頭を下げる。これで一度部屋を出てみると、引き戸に備え付けてあるタイマーに、鍛刀でかかる時間が示されているのだ。 　鍛刀部屋は四つあるものの、現在使えるのは二部屋のみ。残りの二部屋は審神者自身が金銭を支払って解放しなければいけないらしい。 　鍛刀部屋というのはその役割上、付喪神を降ろしやすい空間になっている。つまりは刀剣男士を顕現し易い部屋だ。主はあまり霊力の扱いに長けていないようで、山姥切を顕現するときも、わざわざ鍛刀部屋にやってきていたという。 　山姥切が顕現されたのは一番部屋だったが、先ほどこんのすけが突き破ってしまった引き戸がまだ直せていないので、今こうして鍛刀しているのは二番部屋の方である。 　タイマーを見てみれば、二十分。このくらいだったら待っていても構わないだろうに、主は少しだけ間を置いた後、引き戸に触れながら言った。 「手伝い札、お願いします」 　主の心の平穏のため物理的に二メートルほど距離をあけて控えていた山姥切にも、かろうじて聞き拾うことができた。 「おい」 　思わず声をかけると、主は肩を揺らして「ひゃい！」と間の抜けた返事をする。 「ななな何でしょうか、山姥切さま」 　少しどもりはしたが、距離もあるし顔も見ていないので、悲鳴は出てこない。山姥切はこの距離を保ったまま、少しだけ声を張って続けた。 「大丈夫なのか」 「だ、大丈夫、とは」 「……別に無理してすぐに顕現しなくても、二十分くらい待てばいいだろう」 　この主に対して事を急かすのは良くないことだと、山姥切は思った。こんのすけも心配そうに主を見上げている。 　主は引き戸に身を寄せてしばらく沈黙し、やがて、蚊の鳴くような声で告げた。 「頑張ります」 　手伝い札の使用によって、引き戸のタイマーは【完成】の文字を示したのだった。 +++++ 「薬研藤四郎だ。名前はこうだが兄弟たちと違って、俺は戦場育ちでな。雅なことはよくわからんが、戦場じゃ頼りにしてくれていいぜ。ま、仲良くやろうや大将。……大将？」 「ぎゃふん」 「だから無理をするなと言ったのに……！」 「審神者さま！　お気を確かに！！　審神者さまあああああああああ！」 +++++ 　薬研藤四郎を顕現したとき、主の悲鳴が短く済んだのは、ひとえに薬研が子どもの姿をしていたからだろう。それがこんのすけの見解であった。 　山姥切もすぐに納得した。確かに、いくら容姿が整っていたとしてもそれが子どもであれば少しくらいは衝撃が緩和されるだろうし、何より、子どもに対して悲鳴を上げるのを主が無意識に避けたのかもしれない。 　ただし、主は眩暈を起こして沈黙した。こんのすけが懸命に主に声をかけている間に、山姥切は主のコミュニケーション障害について薬研にざっくりと説明する。 　聞き終えて、薬研は労わるような眼差しで主を見やった。 「そりゃあ難儀な病だな。俺も早く大将を支えてやれるよう、尽力するぜ」 「ああ、よろしく頼む」 　短刀であれば少しはマシだとわかっただけでも一歩前進である。主の精神が安定するまで、なるべく短刀を多く集めて顕現するべきだ。 　出陣では不利になるだろうが、致し方あるまい。山姥切がひっそりと考えをめぐらせていると、こんのすけがおずおずといった様子で近寄ってくる。はて、主はどうしたのかと思えば、彼女はひとまず待ち合いの椅子に座って深呼吸しているのが見えた。 「こんのすけ。主は大丈夫なのか」 「はい。最初と比べればずいぶん落ち着かれています」 　あれで「落ち着いている」と称するほどなのだから、世も末である。山姥切は遠い目をしながら一瞬だけ現実逃避した。 「それで、その……おそらく山姥切さまは短刀を集めようと思っていらっしゃいますね？」 「ああ」 「大変申し上げにくいのですが、現時点で受け取り箱に二口の刀が収められております。受け取り箱にある刀は三十日以内に顕現しなければ、霊力の配給不足で自然消滅してしまいますので、なるべく早めに顕現するべきかと」 　その二口の刀種と名前を聞いたとき、山姥切は半ば本気で主の死を覚悟した。 +++++ 　さまざまな理由で、審神者の数が減少しつつあるらしい。 　高齢化による穏やかな退職もあれば、ブラック本丸という恐ろしい結果を生み出した血腥い終わり方もある。とにもかくにも、審神者の数は減りつつあった。 　そこで時の政府は、審神者になるために必要な霊力として定めてある数値を、少しばかり下げてみた。それだけで適性のある人間はまたしても山ほど湧いて出てきて、スカウトに回ってみれば乗り気の声が多く、呆気ないくらい簡単に審神者不足は改善した。 　しかし、霊力が低いということは、今までの審神者と同じ結果を出せる可能性が低くなるということでもある。本丸自体が審神者の霊力を補助する空間とはなっているものの、それで補える部分はあまり多くない。 　せっかく数を取り戻したのに、うまく運営できないからやっぱり辞めます、と臆病風を吹かれては困る。時の政府は頭を抱えた。最悪の場合、ブラック本丸たる悪行が増えるだけの結果で幕を下ろしかねない。 　霊力の底上げはとにかく時間が必要なのだ。審神者自身が長い努力を費やして、じょじょに己の霊力を高めていく。しかし、結果が出るまで悠長に待っていては、リスクを承知で審神者の数を増やした意味がない。 　そういうわけで、時の政府はもうひとつリスクを背負うことにした。初期刀と同時に三日月宗近と小狐丸を審神者に与える、と。特に霊力の高いこの二口が共に成長していけば、誘発されるようにして審神者の霊力も高まっていくだろう。 　三日月宗近と小狐丸は希少価値が高く、滅多にお目にかかれないとされている刀剣男士であったが、あるところにはあるものである。三日月宗近と小狐丸、それぞれ二振り目を所持している審神者に掛け合い、何とか譲り受けることができた。 　とは言え、全員が頷いてくれたわけではない。断られたところもある。二口そろって集まったのはおよそ百五十であり、それは、教習所で良い成績を修めた百五十人の審神者たちに与えられることになった。 　以上が事の顛末である。 +++++ 「あの、その、太刀の刀剣男士さまを二人、いた、頂いてるので、今から顕現しま……」 　待ち合いの椅子から立ち上がったものの、三メートルほど離れたまま主がそんなことを言い出したので、山姥切は勢いよく振り返った。顕現したばかりだというのに薬研もじゅうぶんに事の重大さを理解したようで、山姥切に続いて主を見た。 　あまりに危機迫った心境であったので、すごい剣幕であったことは自覚している。主は「ひい！」と悲鳴を上げて怯んだように身を引き、松葉杖を滑らせ、椅子に逆戻りした。 　思わず主の傍へ駆け寄ろうとして、しかし、山姥切も薬研も寸前で堪える。自分たちが近寄ればもっと悲惨なことになるのが目に見えていた。 　椅子に縋り付くようにして震えている主を遠目に、山姥切は奥歯を噛み締めた。隣では薬研が拳を握り締めながら、「不甲斐ない俺っちを許してくれ、大将……！」と低い声で悔しげに呟いている。子どもの容姿をしているわりにはずいぶんと男気に満ちているようだ。 「……主」 「はひ！」 　返事までもが崩れ始めている。駄目だ、このままでは本当に駄目だ。山姥切は今だけ心を鬼にすることを誓った。 「その太刀の顕現は三十日後だ。それまでは俺と薬研でこの本丸を回す」 　いいな、とは訊かない。異を許さぬ口調で厳しく告げれば、主は壊れたカラクリのように何度も首を縦に振る。こちらに怯えて震える姿は何とも哀れであったが、心を鬼にせねば。 　山姥切と薬研は顔を見合わせ、互いに深く頷く。 　後にこんのすけによって「激闘の短刀狩り」と名付けられる日々の始まりであった。 +++++ 　刀を入手する方法は基本的に二つだ、ひとつは鍛刀。資源を消費して刀を打つ。 　もうひとつは、戦場で刀を拾うこと。敵部隊を殲滅した後、まれに刀が残ることがある。一説として、これは浄化に成功した敵部隊の刀とされているが、真実は未だに判明していない。 　ただ、戦場によって手に入れられる刀が変わってくる。大物を拾おうと思ったら、それなりに先の戦場へ赴かなければならない。しかし、何とも幸運なことに、山姥切が望む短刀は比較的どこでも拾いやすいものだったようで、薬研と共に手前の戦場で錬度を上げている間に自然と数が集まっていった。 　顕現しているのが短刀だけというだけで、他の刀も何度か拾ってはいる。まったくもって申し訳ないが、短刀以外の刀はひとまず受け取り箱で保管しており、ぎりぎりまで顕現しないように取り決めていた。 　そもそも、出陣自体は厚樫山まで進行できている。これは山姥切と薬研の尋常ではない努力の結果とも言えた。とにかく必死だったのだ。短刀を集めるだけなら敵の弱い戦場を回っていればいいのだが、主の立場上、それは許されなかった。 　山姥切の主は、特別枠の百五十人に選ばれて審神者になった。それがどういう立場か。初めて参加した演練で、山姥切は痛感することになったのである。 　演練とは、同じ管理区域にある審神者たちが切磋琢磨するための催しらしい。ただし、山姥切の主を含めた特別枠の新米審神者たちは、しばらくこの百五十人のみで演練の対戦を行う。 　何の苦労もせず最初から三日月宗近と小狐丸を所持していることを、他の審神者が妬む恐れがあるからだ。そうなれば変に絡まれることは火を見るよりも明らかで、さらには乗っ取りの件数を増やしかねない。 　だから、彼らが審神者としてある程度の経験を積んで、周りの声を跳ね除けられるようになるまで、同じ境遇の百五十人だけで腕を磨くことになった。 　演練では傷を負ってもすぐに回復するし、戦闘中にどれだけ追い込まれても刀剣男士が破壊されることはない。有難いことに刀装も壊れないようだ。本物の戦場と比べれば得られるものは少なくなるものの、安全に錬度を上げられる場所である。 　山姥切が主と共に演練に赴いたのは、顕現された翌日のことだった。部隊は五人。山姥切を隊長に、薬研、前田、愛染、小夜。顕現初日に薬研と戦場を駆けずり回って手に入れた短刀たちは、未だ三口のみだった。 　それでも破壊されることがないのなら安心だろうと、気安く演練場に足を踏み入れたのが悪かった。山姥切はもっと考えるべきだった。薬研は片手で顔を覆って天を仰いでいた。 　演練は六人の審神者の総当たり戦で、その組み分けはランダムに決まる。しかし、ここにいるのは特別枠の審神者ばかり。どの部隊にも三日月宗近と小狐丸がいた。 　希少値の高い刀だと聞いたし、太刀は戦力的にも安定している。そんな刀が最初から与えられていれば、誰だってすぐに顕現するに決まっていた。 　結論を言えば、主は良い噂の的にされた。せっかく三日月宗近と小狐丸がいるのに何で連れてきていないのか、まさか本丸で囲っているのではないか、それとも初日で破壊されてしまったのか。そういう声が始終耳に入ってきて、山姥切は内心で舌打ちする。 　馬鹿言え。お前らは主のことを何も知らないからそんなことを軽々しく宛て付けてくるんだろうが、うちの本丸では死活問題だ。こんな美しい刀を二口も顕現してみろ、俺の主は意識を手放して三日は帰ってこない。絶対だ、断言していい。 　そんな怒りを胸に士気を上げていた山姥切の背後では、演練場に入るや否や卒倒した主が、短刀たちに甲斐甲斐しく世話をされているところだった。 　その後、山姥切の怒りも虚しく、対戦結果は全敗。実際に刃を交えてみれば太刀の強さというのが嫌というほどにわかった。足の速さで勝ることはあっても、純粋な力勝負になってしまうともう駄目だ。山姥切と短刀では堪えきれない。 　すべての対戦が終わって主のもとへ戻ると、どこからか笑い声が聞こえてきて、山姥切はくちびるを噛み締める。嘲笑に対する怒りよりも、主への申し訳なさでいっぱいだった。 　昨日、あんな強気で三日月宗近と小狐丸の顕現を止めておいて、この様である。やっぱり自分ではうまくやっていけないから太刀である彼らを顕現して使ってくれと、そう言おうと口を開きかけたとき、先に主が言った。 「あの、おつ、お疲れ様でした。皆さんすごく、その、かっこよかったです」 　無意識のうちに俯いていた顔をばっと上げてみれば、そこには、はにかみながら小さく笑っている主がいた。主の笑顔がすぐに霞んでしまったのは、果たして不可侵領域である二メートルの距離のせいか、はたまた目頭に浮かんだ熱のせいか。 　本丸に帰る途中で、主に聞かれないように薬研が小声で言った。それはもういい笑顔で、今日の演練相手になった審神者の顔を憶えた、と。それに続いて前田と愛染も「強くなってみせます」やら「祭の始まりだな！」やらと、戦意はじゅうぶんなようだった。 「復讐する？」 　小夜のひと言に、山姥切は強い意志を持って是と応えた。 　演練の対戦相手は毎日ランダムで組まれるが、しばらく百五十人で演練を回すのであれば、同じ相手と対峙するのはそう遠くはないだろう。 　主の小さな背中を見つめながら、山姥切たちの心はひとつになった。 　帰ってすぐに怒涛の錬度上げである。短刀集めのために留まっていた序盤の戦場を飛び出して、駆けられるところまで駆け抜けた。進行が困難になれば、その戦場に留まって根気強く敵部隊を斬り捨て続け、検非違使が出てこないうちにさっさと退散する。 　錬度上げの合間、毎日参加した演練では相変わらず負け続きではあったが、その悔しさゆえに焦るなんてことは決してしなかった。自分たちが焦れば、主が急かされる。 　薬研を顕現するとき、主に事を急かすことが良くないことだと山姥切は思った。彼女の足取りはひどく覚束ない。そこでさらに足元を揺るがせるようなことはしたくなかった。 　ゆっくりとだが、一歩ずつ、確かに踏み進んでいかなければ。 　今回の錬度上げは、少しばかり大股に進んでしまったところもあるが、ご愛嬌である。 　そういうわけで、三日月宗近と小狐丸を顕現しようと予定していた日を迎えたころには、山姥切の錬度はすでに天井にぶつかっていたのだった。 +++++ 「こ、この名前、今回の演練相手ってまさか……」 「はっはっは。主が噂していた、太刀絶対殺すまん部隊だなぁ」 「おや、あの可憐な少女が率いる部隊ですか」 「え、ちょ、三日月も小狐丸もあの子のこと憶えてんの？」 「まあな。目が合った途端に倒れたとなれば、よく記憶に残るものよ」 「あの頃は全敗していましたが、はて、これはずいぶんと良い成績で」 「今じゃ錬度カンストした山姥切を筆頭に、鬼みたいな錬度した短刀たちが全員投石兵を装備して、演練相手を一網打尽……特に太刀とか大太刀から率先して潰していくってな……。おかしくね！？　就任してまだ一か月経つか経たないかってくらいの期間でカンストって！」 「それだけ血の滲むような努力をしたということだろう。よきかな、よきかな」 「さて、そろそろ演練の時間ですよ、ぬしさま。腹を括って下され」 「あああいやだあああああ！　絶対に恨まれてるもん俺！　あのとき笑っちゃったし！」 「あれは主が悪いぞ。せいぜい反省することだ」 「素直に謝ってしまえばいいのです。可愛い少女を苛めずにはいられないとは言え申し訳ないことをした、と」 「やめて、それ以上俺の心をえぐらないで！　あの子の山姥切に殺されるから！　薬研に石投げられるから！」 +++++ 　山姥切に続いて間もなく薬研の錬度が上限まで達し、かつて演練場で共に明るい復讐を誓い合った他の短刀たちも同じ場所まで上り詰めたところで、山姥切は思った。もう太刀は必要ないんじゃないかこれ、と。 　主が審神者になり、山姥切が顕現されてから、三十日が経つ。今日は三日月宗近と小狐丸を顕現しようと予定していた日であったが、今の状況を顧みるに、山姥切はこのまま太刀が不在でもやっていけるような気がした。 　怪我がないわけではない。進めば進むほど戦場は困難なものになっていくし、槍が相手になれば山姥切や薬研でも負傷することは多い。それでも、資源は山のように溜まっているし、手伝い札も然り。手入れに困ることはなかった。 　幸い、主が与えてくれたお守りもまだ発動したことはない。山姥切たちは正真正銘、己の実力で生き残ってきていた。 　己の、とは言え、刀装の力も大いに含まれる。山姥切たちは戦場に向かうに当たって、金の投石兵を持つことが多い。投石だけで敵部隊の半分が沈黙したときは、とうとうここまで来たかと、その場にいた全員が遠い目になった。 　そして何より、途中で加入した蛍丸の存在がとてつもない助けとなっている。演練で一度だけ目にしたかの大太刀は短刀と同じくらい幼い容姿をしており、その日の演練部隊であった六人は無言で顔を見合わせた。発見の報告がされている厚樫山を重点的に攻めた結果、無事に蛍丸を手に入れることに。他にも太刀を拾ったが、それは大人しく受け取り箱へ直行である。 　三十日後に必ず。受け取り箱に刀をしまう度、山姥切はそう呟いた。 　お前たちが消滅する前に必ず、自分と短刀たちで基盤を作ってみせるから、それまで待っていてほしい。どうか主に時間を与えてやってくれ。 　そうして今日。三日月宗近と小狐丸を顕現できる最後の日だ。 　山姥切は執務室で主と向かい合って座っている。あれだけ山姥切の顔を恐れてパニックになっていた主も、この三十日の間にずいぶんと成長したもので、今ではこうして手の届く距離にいても悲鳴を上げることはなかった。視線はずっと畳を見ているが。 「……こ、これから、三日月宗近さまと小狐丸さまを、顕現しようと思う」 「ああ」 「だから、その、まんばくんも一緒に来てくれると……うれしいんだけど……」 　何が一番の成長かと言えば、これである。話し方と呼び方だ。刀種が何だろうが主は刀剣男士全員を敬って呼んでいたし、長いこと敬語も外れなかった。それが今や、どもりながらも親しげな口調に、まんばくん、である。 　この達成感が果たして他者に伝わるだろうか。最初はあまりの喜びに頭上では誉桜が舞い、薬研に頼んで宴会を開いたくらいだ。メンバーがほとんど短刀ということもあって、宴会というよりはパーティーだったが、そんな些細なことはどうでもいい。 　要するに、自分たちはやってのけたわけである。主が心を開いてくれた。近付いても大丈夫になった。短刀だったら抱き着くことも可能だ。打刀であり青年の姿をしている山姥切では、せいぜい手に触れるまでが限度ではあったが、それでもいい。うっかりぶつかって悲鳴を上げながら縁側を落ちていった主を思い出せば、幸福すぎる。 　ここで冒頭に戻ろう。山姥切は思った。もう太刀は必要ないんじゃないか、これ。 　正しくは、無理に太刀を顕現する必要はないのではないか、である。太刀は強い戦力になるだろうし、短刀の中には太刀と縁の深い者も多々いる。太刀だけではない。脇差、打刀、大太刀、槍。確か薙刀も拾っただろうか。不必要な刀などひと振りだってありはしない。 　しかし、主の精神を摩耗させてまで、山姥切は彼らを欲しいとは思えなかった。山姥切と短刀だけでも本丸はうまく回っている。今では演練だって負けなしだ。 「そのことなんだが、主」 「……うん」 「もう三日月宗近も小狐丸もいらないんじゃないか」 　さらっと言ってのけると、主は目を丸くした。 　山姥切は必死に手の震えを押し留める。嘘だ、いらない刀なんてない。全員が顕現される資格を持っているし、山姥切だって彼らに会いたいと思っている。 　三日月宗近と小狐丸は、今剣と同じ三条の一派だと聞いた。人間で言うなら家族のようなものだろうか。山姥切も兄に当たる太刀がいるし、粟田口の兄も、小夜の兄も、愛染と蛍丸の保護者とやらだって、全員が太刀だった。 　それらを自ら切り捨てるのは、ひどく恐ろしい行為だ。現に今の山姥切は、己の震えを押し留めることにすべての精神を費やしていた。 　会いたい。三十日後に必ずと約束してきた。彼らに会いたい。手を握り合って、目を合わせて笑い合い、ようこそ、よくこの本丸に来てくれたと。俺たちの主は少し生き辛い性格をしているが、こんなにも素晴らしい人なんだと、全員で喜びを分かち合いたい。 　しかし、それは山姥切のわがままだ。そんなものより主の安寧を優先すべきで、彼女の平和が崩れる恐れがあるのならば、望むべきではない未来だ。 　だから、これでいい。これでいいのだ。山姥切は心を鬼にして、笑ってみせた。 「なあ、もういらないだろう？」 　うまく笑えていたかはあまり自信がない。 　今こんなにも近くにいるはずの主が、霞んでよく見えなかった。 +++++ 　ぱん、と。それは、頬をぶたれたと気付くのにも時間を要するほどに、情けない音だった。 　ついでに力もまったく入っていない。ぶたれたと言うよりは、少し強めに触れられたという感じに近かった気がする。 　今度は山姥切が目を丸くする番だった。今まで主から触れられたことはなかったし、ましてや彼女が怒ったことなんて一度もなかった。 　頭の中が真っ白になって何も考えられず、なけなしの意識を総動員して、かろうじて主へ視線を戻す。山姥切の頬をぶった本人は、青い顔をして口を半開きにしていた。 「……あっ！　ご、ごめっ、まんばくん、ごめんなひゃい！」 「いや、待て、俺は大丈夫だからとりあえず落ち着いてくれ。深呼吸だ、主」 　山姥切はすぐさま我に返って、主に冷静に言い聞かせた。主はパニックがひどいままに喋ると呼吸困難になって倒れる。過呼吸を起こしたこともあるので、今や本丸にいる全員が紙袋を携帯しているほどだ。 　深く息を吸っては吐いてを何度か繰り返し、少しばかり落ち着きを取り戻してから、主は再び口を開く。目はやはり畳を見つめていたが、視線を合わせていない方が主は気楽に会話ができるみたいなので、咎めるつもりはない。 「……何から、言えばいいんだろ。ごめんね、ちょっとだけ、待ってね」 　少しでもうまく話せるようにと、主はしばらく己の頭の中で静かに思考をめぐらせているようだった。その間、山姥切はまるで断頭台に寝そべっている気分である。 　ひどいことを言った。受け取り箱にいる多くの刀をこのまま見捨ててしまえと、主に示唆したのだ。彼女はきっと傷付いている。 「……まんばくんを顕現したとき、わたし、ひどいこと言ったね」 　それは山姥切を断罪する言葉ではなく、過去を振り返ったひと言だった。 「布を外さないでって、お願いしたよね。きれいな人が怖いから。あと、叫んじゃったし、初めて手入れをしたときも、ちょっとぶつかっただけで、びっくりさせちゃったよね」 「……そんなの、主が気に病むことじゃない。仕方のないことだ」 「でも、仕方なくても、まんばくんたちにひどいことしてきたんだよ、わたし。自分勝手に泣き叫んで、迷惑ばっかり……」 　そんなことない、と声を荒げようとした途端、主が顔を上げた。 　初めて参加した演練の、全敗した後に見た笑顔と同じ。恥ずかしさから少しだけ頬が赤く染まっていて、はにかみながら小さく笑っている。 「まんばくんは、いつだって、わたしに合わせて歩いてくれたね。薬研くんたちも、そう。のろまなわたしに合わせて、みんな、一緒に歩いてきてくれた」 　主がゆっくりと控えめに両手を伸ばしてきたので、それが引っ込んでしまわないうちに、山姥切も両手を伸ばして彼女の指先をすくい上げた。 　緊張してすっかり冷えている指先。少しでも己の体温が移ればと思って、しかし、こちらの手もかじかんでいることに気付く。 「ありがとう、まんばくん。みんなのおかげで、わたし、やってこられたんだよ」 「……主」 「さっき、いらないって言ってたのも、わたしのためだって、わかるよ。ごめんね。泣きそうなくらい、辛いことを、笑って言わせちゃったね」 「……俺が勝手にやったことだ」 「だけど、わたしのために、吐いた嘘だったね」 　主はまったく責める色を含ませなかった。それどころか話していくに連れて声音はどんどん柔らかくなっていき、まだわずかに強張っていたはずの笑顔が緩んでいく。 「ねえ、まんばくん。わたし、あんまり噛まなくなったでしょ？　手も、こうやって握れるようになったし、まんばくんと薬研くんたちにだったら、もう叫んだりしない。ゆっくりだけどね、本当にゆっくりだけど、みんなが手を引いてくれるから、わたしもちゃんと、前に進めてるんだよ。だから、大丈夫」 　まんばくん、大丈夫だよ。そう言って主が指先を握り返してくる。 「一度に全員は無理だけど、これから毎日、みんなを、本丸に迎えていこうね」 　ここで山姥切の涙腺は限界に達した。喉の奥底から上り詰めてきた熱が、両の眼からあふれ出していく。嗚咽は出てこなかった。かわりに自然と口の端がかすかに持ち上がり、山姥切は泣きながらほほ笑んだ。 　いつの間にか主の目からも涙がこぼれ落ちていて、お互いの泣き顔を見つめ合って数秒、どちらからともなく笑い声をもらす。 「これからも、よろしくね、まんばくん」 「俺こそ、よろしく頼む」 　どれだけ遅くても、たたらを踏んでも、立ち止まったとしても構わない。これからもこの手をつないで、一緒に歩いていこう。 　気付けば二人の指先には、心地良い温かさが染み渡っていた。 +++++ 「俺の名は三日月宗近。まあ、天下五剣のひとつにして、一番美しいとも言うな。十一世紀の末に生まれた。要するにまあ、じじいさ。ははは。……主？」 「………………」 「主、頼むから息をしてくれ」 「山姥切の旦那、AEDの準備はできてるぜ」 ---------- 書きたいところだけ書き連ねた感が半端ないです。

溜まった仕事を目の前に絶望していたら電波を受信して、書きたいところだけ書き走った話です。<br /><br />前作での評価、タグ、コメント、ブックマーク等、ありがとうござます。<br />今回もまた新しい本丸の話になっています。<br />そろそろあんぱんめんシリーズの方を完結させなければ、と思いつつ、こうやって気ままに新しい話を書き始める悪い子はしまっちゃおうね。<br /><br />皆さんもうお気付きかもしれませんが、私はタイトル命名が壊滅的です。<br />真面目に考え始めたらリアルに考える人になってしまうので、これで許してくださいお願いします。<br />タイトルと本文、共にあまり気にせずさらっと読んで頂けると幸いです。<br /><br />それでは、今回もお目汚し失礼します。

悲鳴が笑顔になるまでの三十日

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注意 1、女体化 2、学生松&喧嘩松(だけどあんまり喧嘩してない) 3、合格組と保留組でそれぞれ、兄妹(チョロのみ女体化)。 4、駄文 おーけーな方はどうぞ→ [newpage] 簡易設定 これを読んでおかないと分かりにくいかと思われます。 『合格組』 【家庭環境】 わりかし金持ちで、両親は現在海外。三人ともひとり暮らし。 おそ松(高３)...わりと遊んでる。喧嘩強い 一松(高２)...チョロ松と同じクラス トド松(高１)...十四松と同じクラス※ただし殆どでない 『保留組』 【家庭環境】 わりかし貧乏。両親他界してるけど、遺産や親戚がいい人たちだったから三人で慎ましく暮らしてる。 カラ松(高３)...喧嘩強い。 チョロ松♀(高２)...喧嘩強いけど、今は辞めた。 十四松(高１)...野球部所属。 [newpage] 高校１年の時だった。 「うわ、よっわ」 ペッ、と唾を地面に吐きそう捨て台詞を吐く。 死屍累々。 そんな言葉が似つかわしいこの惨状のなか、ゴソゴソと気絶している男たちの懐を探る。 カシャカシャと写メを撮り、迷惑料をちゃっかり自分の懐にしまってさっさと退散する、筈だった。 パチパチパチパチ 背後から拍手が聴こえる。 動揺を悟られないよう振り向けば、ニコニコとこの場に似つかわしくない表情の男がいた。 「すごいねぇ、流石あいつの妹ちゃん。助けてあげようかなぁなんて思ってたら自分で全員伸しちゃうんだもん！お見事お見事！」 そういって快活に嗤うその男を、チョロ松は知っていた。 「私に何かご用ですか？おそ松さん」 私が名前を呼べば、何を考えているのか分からない笑顔を浮かべながら近寄ってきた。 この男、松野おそ松は、一見すると体格もそれほど大きくはないがしかしながら侮るなかれ、この辺の地域では負けなしと言われるほど喧嘩の強い、所詮不良と言うやつなのだ。 「足捌き、すごいねそれ。あいつはだいたい殴る方がが多いけど妹ちゃんはまた違うんだ。」 「私はあいつみたいに筋肉ゴリラじゃありませんから。」 「ふーん？」 益々笑みを深めるおそ松に、何を企んでいるのか図りかねる。 彼と私の接点なんぞ、ひとつ年上で、おそ松と喧嘩においてコンビを組んでいる兄のカラ松くらいしかない。 それも、私自身は家以外でカラ松と関わることを極力控えているため、おそ松とも今日が初喋りだ。 「なあ、俺らと一緒に暴れねぇ？お前と俺、たぶん相性ばっちしよ？」 なるほど、喧嘩のお誘いだったのか。 「カラ松いるんだから良いしでしょ？あと、私喧嘩嫌いなんで。」 そういって、足早にその場を去ろうとした。 おそ松の横を過ぎ去ろうとした時、 「いいのかなぁ？」 表現するなら、ニヤニヤという擬音がぴったりなその声。 思わず振り向いてしまった。 「これなーんだ！」 至極愉しげにスマホを私に見せる。 それは映像だった。 そこには喧嘩をして、男どもの財布から金を拝借するまでの一連の私の行動が映っている。 「学級委員長やってて次期生徒会役員が、こーんなことしてるって知ったら、学校の皆どう思うだろうね？」 ただの脅しだった。 そんなものに屈するような私ではないが、いかんせん来年は可愛い弟も入ってくるのだ。野球部のエースとしてたぶんうちの高校にスカウトされるであろう弟のことを思うとここは穏便に済ませたい。 「私に何させたいの？いっとくけど喧嘩はもうやらないって決めてるの。」 「えー！！もったいない！あんなに強いのに！！」 「ただでさえ兄があれなせいでいろいろ不便なのに、これ以上教師に目をつけられたくないの。」 まあ、兄が中身はただのいいやつだというのは教師たちも知っているけれど、それでも喧嘩をしているという事実は変わらない。 そのうえ、姉までも喧嘩をしていると言われれば弟の立場が危うい。 「ん～じゃあさ、俺とエッチ、してよ」 「...は？」 大丈夫か？こいつの頭。 「え、なにその反応！チョロ松ちゃんだったら『最低！』とかいって蹴りくらい入れそうだと思ったのに！」 つまんなぁい！ なんてブーブーいう姿に苛立つ。 どうせ反抗してもこの男の思うつぼだ。 それなら被害は最小限に、かつ、さっさとこの男の興味が逸れるような態度を取るのが一番だ。 「私処女なんだけど」 「あ、やっぱり？」 「やっぱりってなんだやっぱりって！つーか処女みたいな面倒臭いのあんたも嫌だろ」 「いんや？チョロちゃんの処女なら興味あるぜ？」 語尾にハートが付きそうなほどあざとく言われたその内容はただただ糞だった。 「はぁ、もういいよ。処女あんたにやれば言わずにいてくれるんだよな？」 「うん！」 もう、おそ松に対して敬語もくそもなかった。元々この男にそんな高尚な喋り方で接する必要性はなかったな、と思ったからである。 「じゃあ、そのかわり約束してよ。私の兄妹にその事を言わない。それからその事で脅してこない。」 これは守ってよね。 そう言えばあいつは満面の笑みで頷いた。 [newpage] 衝撃の出会いからはや、一年。 私とおそ松の関係は、一言で言えば『セフレ』であった。 「ちょっと、そろそろ起きないと遅刻する」 「...んんっ、いーじゃん、もうちっと寝よ？」 「ちょっと！」 揺り起こそうとすれば逆に手首を掴まれ布団の中へ誘われる。 そのまま、ぎゅっと抱き締められた。 正直まだ眠いため、とても魅力的なお誘いなのだけれども、一応優等生として通っている自分が遅刻など、あってはならない。 「けーち」 起き抜けで呂律の回ってないまま、ぶー垂れるおそ松をわりと可愛いなんて思っている自分に気づいて、その考えを打ち消すようにさっさと身支度を済ませる。 「なーなー、次いつ暇～？」 「さあ？」 着替えながら、そう答えればまたブーブーと文句を言われた。 しょうがないだろ、両親がいないといっても私は兄と妹との三人暮らしだ。あんまり外泊し過ぎると心配されてしまう。 ひとり暮らしできてるおそ松とは違うのだ。 「あ～、来週も無理そうな感じ？」 「うん、あんまり頻繁に外泊したらカラ松たちが心配するから。」 「あっそう、あ～じゃあ来週誰にすっかなぁ」 ズキン、胸に突き刺さる痛みには気付かぬふりをして仕度を済ませる。 わかってる。私とあいつの関係なんて、自分で望んだことのはずだ、それが嫌なら潔く離れていくべきだ。 「洗面所借りるね」 そういって、顔を冷水で洗う。 パチン。 両頬を叩いて鏡の前の自分に向かって心の中で言い聞かせる。 (私は、松野おそ松のことなんて、ちっとも好きじゃない。) そうして、私は自分の血だらけの心を密封したらはい、おしまい。 いつもどおりのチョロ松の完成だ。 「それじゃあね」 「...あ～い」 気の抜けたその声に送り出されて、私はそのまま彼の家を出た。 [newpage] 私が松野おそ松という人物を認識したのは、実は高校ではなく、中学生の時だった。 今とは違い、兄のカラ松と一緒にまだ私が喧嘩に参加していた時だった。 カラ松はアホで天然で、そしてまっすぐな性格だったため、よくいじめっこから、虐められている子達を助けていた。 それが気にくわない奴等から執拗に喧嘩を吹っ掛けられたり、私や弟を人質にしようとする輩が出てきた。当時やんちゃで悪戯大好きな私はカラ松と一緒にそんな奴等を返り討ちにしていた。 そのうち段々喧嘩というものを楽しむようになってきた。 そんなさなか、私たち以外でも強い奴等がいるという噂を聞いた。 別に自分から喧嘩を売る趣味はないけれど強い奴というのには興味を惹かれた。 そして、そんな噂を聞いた数日後ボロボロでカラ松が帰って来た。 私や弟はこの辺じゃもうカラ松に叶うような奴なんていないと思っていたから驚いた。 さらに驚くことにカラ松はその喧嘩をした相手のことを楽しそうに話し出すのだ。今までにないことだった。 「おそ松というんだがな？すごく強いんだ！なんていうか、そう！喧嘩のセンスがピカ一なんだ！」 そういって、キラキラ目を輝かせていた。 カラ松がそこまで言うほどの人間とはどういう人間なんだろうか。 それから、カラ松が高校に入り、その男とつるむようになったころ、私はというともう殆ど喧嘩をしなくなっていた。カラ松はあの男と組むようなっていた上に中学と高校という違いから私がカラ松の妹だと知ってる人が殆どいなくなったからだ。 私は物足りないなんて思っていて、ある日喧嘩に加えさせて貰おうとカラ松をつけた。 そして、そこで見たのは獣のように暴れる兄の姿と、 まるで踊っているかのように、ヒラリと攻撃を交わし、目の前の敵には拳をねじ込み、後ろから襲いかかる敵には綺麗な回し蹴りをキメながら、愉しそうに嗤う男の姿だった。 カラ松が言っていた男だとすぐわかった。 あんなに愉しげに、そしてまるで映画の殺陣を魅せられているような、そんな華麗な動きに私は釘付けだった。 全身の血が沸き立つような、そんな感じ。 あのときから私は既に松野おそ松という男の虜だ。 ******************************************************** (身体だけで充分、なんて思ってたのにな。) 教室の後ろから二番目の席。 そこからぼーっと窓の外を眺める。 そう、あの自分が喧嘩をしているのを見られた日、私は内心歓喜で奮えていた。 だって今までそっと恋い焦がれていた男から喧嘩仲間に誘われただけでなく、女として見られたのだ。それがただの暇潰しだろうと、なんだろうと自分は嬉しかった。 好いた男に自分の初めてを捧げる。 そんな、叶うことないであろう願いまで叶ったのだから。 そのうえ、 「俺たちこっちの相性も抜群じゃね？！ねえねえ、これからもたまにセックスしようぜぇ！」 なんて、好きな男に求められればそりゃあもう拒むことなんかできっこない。 そのままズルズルといまの今まで関係は続いている。 ふと窓から見下ろせば今頃になって登校してきたおそ松の姿があった。 (遅刻しすぎだろ、単位大丈夫なんかな) そんな心配なんてただのセフレの自分がするようなことではないけれど。 [newpage] 「チョロ松ねーさん！！」 廊下を歩いていたら どぉーん！と勢いよく後ろから抱きつかれた。 「ちょ、十四松？！危ないでしょ！！」 「えへ、ごめんなさーい！」 そういいながら無邪気に笑う弟の姿に、毒気を抜かれる。 「姉さん姉さん！中庭いこうよ！」 「いいよ。」 お昼はいつも十四松と一緒だ。 場所はその時々で違う。 今日は中庭か。 そういえば最近子猫が中庭に住み着いてた気がする。 もしいたら、モフモフさせてもらおう。 そう思いながら私たちは中庭へ移動した。 持ってきた二つのお弁当のうち大きい方を十四松に渡す。 よく動き回る十四松に朝から弁当箱を渡してしまうと中がぐちゃぐちゃになるのだ。 「うはー！今日もねーさんのお弁当おいしい！」 「そう？よかった。」 そうして、十四松の訳の分からない話を聞きながら過ごす、それが私の日課だ。 ただこの日は、私が食べ終わる前に十四松が放送で呼ばれた。 「あ！！ヤバイっす！今日野球部のミーティングあるんだった！」 たはーっ！なんて、全然ヤバイ感じをださない十四松にさっさといきなさいと渇をいれる。 「ごめんね、姉さん！」 「いいよ、さっさといきな」 そういうと十四松は持ち前の足の早さでビュンっといなくなった。 ***************************************************** ボッチ飯かぁ、なんて思いながらモグモグと自分の弁当を食べていた。 「にゃぁん」 しばらくすると、足元に子猫がいた。 毛並みのよい三毛猫で、誰か餌を与えているのかとても人間に対して警戒心が薄い。 「可愛いなぁ」 なんて思っていると、くいっと靴下を引っ張られる。 「あ！こら！ダメだよ」 そういうが離そうとしない。 というか、私をどこかに連れていこうとしているみたいだ。 とりあえず、子猫が引っ張る方向に向かって歩きだせば、子猫は噛むのをやめて、てくてくと私の前を先導する。 なんだか猫についていくなんて、ジ○リとかであった気がする、なんて思っていると、 「なーん！」 猫が一声鳴いた。 到着したのかと思い、猫がいるところを見ると、中庭の外れにあるベンチに一人の男が寝そべっていた。 (...あ。) 私はその男を知っていた。 (あれ、同じクラスの松野一松、じゃないの) 偏屈で、人嫌い。 噂ではそういわれていた気がする。実際関わってないからどうなのか知らないけれど。 (なんでこんなところに...っていうか、子猫はなんでこいつの側から離れないんだろう) 「...ねえ、なんか用？」 頭の中でぐるぐると考えていたらいつのまにか起き上がっていた一松と目が合う。 「あ、いや、子猫追っかけてたらここまできたの。」 「ふーん、こいつについてこられたんだ。こいつ警戒心強いから人に追っかけられたらものすごい速さで逃げるのに。」 いやいや、そいつ凄く私にくっついてきたけど？ まあ、そんなことより、この空気、さっさと退散した方が良さそうだ。 「きゅるきゅるきゅる～」 ...なんて思っていたら、盛大に一松の腹が鳴った。 「...お握り、残ってるのあるけどいる？ラップの上から握ったから衛生面は大丈夫だと思う。」 「...具は？」 「ツナマヨ」 「食う」 「はい。」 そういって差し出したお握りを一松はパクリと口に含んだ。 「...うまい」 「そ、ならよかった。」 「これ、あんたが作ったの？」 「うん」 「ふーん」 「ていうか、自分のご飯は？」 「え、ない。買うのめんどいし」 「はぁ？身体に悪いよ？仮にも育ち盛りなのに」 「...なら、あんたが作ってくんない？」 「は？嫌だけど。」 「えー」 「えー、じゃねえよ！いや、私たちほぼはじめて会話したじゃん？そんな奴に飯集るか？！」 「金は出す」 「そういう問題じゃねぇ！！」 「ん～、じゃ、あんたがその辺の不良ぼっこぼっこにできるくらい強いってこと黙っといてやるから」 「は？！」 まて、なんでこいつは知ってるんだ？！ 「あ、高校入ってすぐくらいにあんたが不良数人ぼこぼこにしたの見たことあるから知ってる。」 「脅しかよ」 「脅しじゃないよ、投下交換。金は出すんだしいいじゃん三人分も四人分も変わらないでしょ？」 「まあ、そうだけど...ってなんで私が三人分作ってるってしってんの。」 「あ？カラ松に聞いたから。」 あのばか兄貴のせいかよ！！ つーかこいつなんであいつと知り合いなんだよ！？ 「あ、俺おそ松兄さんの弟だから」 へー、おそ松の弟... 「え？！お、弟？！」 「うん」 なんとびっくり、あいつに弟なんていたのか。 「あともう一人ひとつしたに弟がいる」 「へ、へー」 知らなかった。 一応、一年くらいはセフレとはおえ、あいつと関わっていたのに。 やっぱり、私たちの関係なんてそれくらいの薄っぺらいものだったんだと痛感した。 「じゃ、明日からよろしく。俺ここにいるし」 「ちょ、まだやるなんていってない！」 「え、ばらされたいの？」 「い、嫌だけど。」 「べつに、十四松と一緒にくればいいだろ」 こいつ十四松のことも知ってるのかよ。 「はぁ」 「ヒヒッ、早めに諦めたほうが楽だと思うよ」 「...わかったよ。ただし！残したり文句いったら即やめるからな！」 なんで今まで昼ご飯抜いてたやつがいきなり弁当なんぞ欲しいなんて言い出したのか、しかも可愛いこの弁当とかでなくて、特別かわいくもない私なんかの弁当。 まあ、もうどうでもいいか。 「はいはい」 すくっと立ち上がり、背中を丸めて手をふりながら一松は去っていった。 「ヒヒッ、兄さんの焦った顔、見物だねぇ」 マスクの下でニタニタ笑う男の足取りは心なしか軽かった。

おそ←チョロ♀で、おそ松のことが好きで身体だけの関係でもいいから、なんて思ってセフレになっちゃうような喧嘩の強いチョロ松ちゃんの話。最終的にハピエン。そして、今後少しだけ他カプ出ます。(いつものあのカプです)

【おそチョロ】屑な男に恋したバカ(前編)【女体化】

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≪注意≫ ・現代パロ ・転生ものですが、刀剣男士や審神者についてはさほど触れていません ・長谷部との利害の一致から始まる契約結婚のお話 ・元審神者な女主ですが、前世の記憶なんてない普通の人間です 前回は[[jumpuri:こちら > http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6046560#3]]。 今回はちょっと恋愛っぽくなった気がする（当社比） [newpage] 「長谷部、私はもうだめだ、しぬ」 「辞世の句が詠めたなら介錯してあげましょう」 「する気ないよね、私がそういうの全く分からないって知ってるよね、嫌がらせだよね？」 「愛する妻に軽々しく死んでほしくないだけですよ。この気持ちが伝わらないとは」 「ふーやれやれみたいな顔で首振るのやめてくれる？そんな嘲笑じみた愛情なんて私いらない」 「…………何か悩み事ですか？俺に手伝えることはありますか？頭の治療以外で」 「むきー！！！」 なんてくだらないやり取りが繰り広げられているのは、私と長谷部が暮らすマンションのリビングだ。 長谷部は優雅にコーヒーを傾けつつ新聞に視線を落としている。対して私はソファに寝そべってノートパソコンを叩いているこの状況。 家に仕事は持ち込まない、というルールを破ってのデータ整理中である。 整った容姿に一切の無駄を削ぎ落とした有能さを滲ませる長谷部国重。彼はなんとびっくり私の夫だ。 特別運動をしているわけではないはずなのに均整のとれた体は、しなやかな筋肉に覆われ、私の身体を軽々と持ち上げてしまう。え、なんでそう言えるかって？このソファまで私を運んでくれたのがこのひとだからですね！ せっかくの休日なのにベッドから抜け出せず現実逃避をかましていた私を引っ張り出しやがったのだくそう。 「早く終わらせてプライベートな時間を取り戻してください。休日にまで仕事を引きずるなんてどういうことです」 「……だってさぁ……こんな大きなプロジェクト任されたの初めてなんだもん」 「確かプロジェクトの責任者は、提携会社の社長息子と聞いていたような」 「え、他社のことなのになんで知ってんの。元社員とはいえスパイ活動はいかんよ長谷部くん」 「俺の現在の仕事がなんだか知っていますか」 「五条グループの社長秘書」 「社長は道楽息子ですがその分好奇心が旺盛で、耳聡い」 なるほど、と納得して完成したデータを保存する。 一度だけ写真で見せてもらったことがある長谷部の上司はびっくりするぐらいの美形だった。 五条国永という名前は古めかしい日本人を連想させるけれど、その姿はとにかく白い。肌が白いのは当然のことながら髪も白銀でスーツも白。その上儚げな美貌を持つときたもんだ。 え？日本人？ほんとにこれ日本人？むしろ人間？妖精とか天使じゃなくて？と混乱していたら、苦虫を噛み潰したような顔で長谷部が写真を取り上げたっけ。 徹底して家に仕事を持ち込まない夫であるので、五条社長がどういった人柄なのかはよく知らない。 情報がしっかり管理されているのか社長のスキャンダルのようなものも流れてはこない。……こんだけイケメンなら週刊誌が飛びつきそうなのに不思議だ。 「その社長ってさ、仕事早い？」 「……やる気を出せば、と条件がつきますね。日頃は脱走してばかりの問題児ですよ」 「あはは、長谷部の眉間の皺の原因はそれかぁ」 「貴女が原因のこともありますが？」 「なんだと」 ようやく作業が終わりノートパソコンを閉じると、立ち上がった長谷部がコーヒーを注いでくれる。 不愛想なのにこういった細やかな心遣いができるところが悔しい。できた男だ本当に。 「にがっ」 「気分転換になるでしょう」 「うう……鬼畜教官め」 ずるずるとうつ伏せ状態から起き上がってソファに座り直す。 今日は休みであるためそれぞれ自由に過ごすことが許されているわけだが、こうして二人揃っている場合は一緒に買い物に出ることが多い。 しかし今日は私が仕事を持ち込んでしまったためにすでに午前が潰れている。 ごめん、ほんとごめん長谷部、と呻きながら謝るとぽんと頭の上に乗る手。意外と大きな手に悔しさは増すばかり。 「なんかさぁ」 「はい」 「その提携会社の社長息子、仕事ができるんだかできないんだかよく分からなくて。いやできるんだと思うんだけど」 「そうですか」 「どうも……苦手なんだよねー……」 「珍しいですね。仕事相手に対して好き嫌いを言うことはあまりないでしょうに」 「ふふ、仕事してて嫌いなんて言ったの長谷部ぐらいかなぁ」 「あれはただの駄々でしょう」 「うるさい」 厳しい指導を受ける中、何もかもが上手くいかず行き詰ってしまって、それでも手綱をゆるめない長谷部に感情が爆発してしまったことがある。 自分でもコントロールできない心は嵐のように渦巻いて、泣きながら「長谷部なんて嫌い！」と叫んで書類を叩きつけたことがあった。 随分と失礼で未熟な態度だったと思う。いつもの彼なら烈火のごとく怒り狂うか、流水のごとく静かな蔑みを見せたに違いない。 でも、長谷部は怒らなかった。 私を真っ直ぐに見つめ、「それで？貴女は自分を嫌いになりはしませんか」と問いかけてくれた。 あのとき私が一番許せなかったのは、一人分の仕事すらもこなせない自分自身。 どうにもならない悔しさやもどかしさを、目の前にいた長谷部にぶつけてしまっただけだった。 八つ当たりを嫌がることもなく受け入れ、私の本心を拾い上げてくれたこの男は、いったいどこまで優秀なのか。 いま思い返しても格好良すぎて腹が立つというものである。くそう、ただの契約とはいえ夫にするには優良物件すぎる。 私と長谷部はある意味で仮面夫婦である。え、使い方が違う？うーんなんと言ったらいいんだ。 一人での生活を楽しんでいた私は、年齢もあって親に結婚を望まれるようになった。見合いまでお膳立てされそうだったぐらい。 そして長谷部は集まってくる女性たちの秋波に辟易としていて、虫よけになるものが欲しかった。 そんな二人の利害が一致したため、ルームシェアという形が正しいのだけれど結婚という手順を踏んだのだ。 朝は必ず挨拶をして出かける。週に一回はお互いに作ったお弁当を交換する。 食事は各自で用意するけれど、時間が重なったときには一緒に食べるのも可。 家の中に仕事は持ち込まない。共同の部屋は交代で掃除するけれど、自室は各自で管理。 なんていうシンプルなルールはあるけれど、さして負担にはならない。とても居心地の良い距離。 居心地が、良すぎるくらいだ。 契約であることを忘れて、本当の夫婦や恋人なんじゃないかと錯覚する瞬間がある。 「仕事であまりストレスを溜め込まないでください。八つ当たりを受けるのは俺なので」 「はいはい分かってますよ」 皮肉にも似た言葉は、私への不器用な気遣いだと知っている。 残業続きで遅くなりがちな私に合わせて、長谷部は夕食を取る時間をずらしていることも最近気が付いた。 「ちょうど食べようとしていたところです、タイミングが良いですねまったく」とさも迷惑そうな顔をつくりながら。ちゃんと用意された二人分の食事。 「……ねえ長谷部ー」 「なんですか」 「今晩は、私が夕飯作ろうかな。コーヒーのお礼……って、天気を確認するんじゃない」 「ちなみに何を作ってくださるので？」 「鍋」 その瞬間、鼻で笑った長谷部のことは許さない。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 「おはよう、まだ忙しいスケジュールが続くけど頑張ろう」 「おはようございます。本日もよろしくお願いします」 提携先の社長息子は爽やかな笑顔でうんと頷くと会議室へ先に入って行く。 今回は私が所属する会社と提携相手の会社と共同で取り組む大きなプロジェクトを担当している。 といっても責任者はその社長息子で、私は補佐というか自社のデータを提供し決まった内容を整理するのが役目。 だから全ての会議に参加しないといけないし、社長息子が向かう外回りにも同行する羽目になっている。 外回りが嫌なわけじゃない。この会社で同期として過ごしていた長谷部とは足が棒になりそうなレベルで営業回りをしたことだってある。 会議も白熱するディベート状態になった経験は幾度もあった。だから仕事内容に不満があるわけではないのだ。 「そうだ、会議の後の予定はどうだい？今後の打ち合わせもあるし、どこかでディナーでも」 「すみません、あまり遅くなると家族が心配しますので」 この社長息子、暇さえあれば食事に誘ってくる。私が既婚者と知っているくせに。 たまには気分転換だって必要じゃないか、と笑う社長息子の指にだって高級そうなリングが嵌まっているというのに。 なんですか、不倫もたしなみとか言っちゃうような上流階級ですって？私は一般家庭に生まれ育ったので、そういうのはノーセンキューです！！ 本来ならば横っ面を張り飛ばしているレベルなのだが、相手はお世話になっている会社の社長子息。 いずれは社長の座を譲られることが決まっており、彼の不興を買えばそれは私の会社に多大な迷惑をかける。 だから強く断ることもできず、やんわりと笑顔でいなすぐらいしかできない。 心の中ではいったい何度この男の足をヒールでぐりぐりと踏んづけてやったことか。 隙あらば腰や肩に腕を回そうとしてくるのやめてほしい。抓り上げてやりたい。 （そもそもなんで私なんだ、もっと可愛い子が沢山いるでしょうに！） 社長の息子なのだから、女の子なんてより取り見取りのはず。 長谷部も虫よけのためにと結婚したのに、いまだに積極的に誘いをかけてくる女性はいるらしいし。 そうした倫理観が欠けている女というのはどこにでもいるのだ。ならそういった連中同士で楽しんでいてほしい。私を巻き込むな。 さらに苛立つことに、この男は人の使い方が上手い。 本人の能力としてはそう高くはないと思うのだが、仕事の割り振り方が的確で、どうすればスムーズに進行していくのかをよく分かっている。 だから結果的にプロジェクトは順調に進められていて、社内からの評価は上がるばかり。 彼の補佐を担当できるなんて羨ましい、と女性社員に言われたときには頬が引き攣ったものである。 代わりたいのなら喜んで交代させていただきますけど！？ というわけで、日々私の精神は削られ続けている。 おかげで肌が微妙に荒れてきたし、目の下のくまも濃くなっているような気がする。 （寝たらもう明日がやって来るかと思うとね……眠れないんだよね……） 今朝はいつもより早く起きていた長谷部が「見苦しい」と言い放って蒸しタオルを私の目に押し当てたぐらいだ。 おかげでちょっと目元がすっきりしたよ、ありがとう夫（仮）よ。 「顔色悪いけど、大丈夫？」 「お構いなく」 あんたのせいだ、あんたの。 そう心の中で毒づき、背筋を伸ばして取引相手を迎える。仕事は仕事、きっちりこなさなければ。 頑張って動くのよ、私の表情筋！ ようやく迎えた昼休み。外で食べようか、と誘う社長息子から逃れて私は給湯室に入った。 提携会社の重役であるため、こんな場所まではさすがに追ってはこられないはず。めっちゃ濃いコーヒー淹れようそうしよう。 今日は長谷部とお弁当を交換する日だったのに、私が疲れていることを察知して彼ひとりで二人分用意してしまった。 私としてはありがたいけど、長谷部にとってメリットは何もないんじゃないだろうか。お弁当を交換する理由って愛妻ぶりを見せつけて周囲を牽制するためだったはずなのに。 下手に私の席で食事するとあの男がやって来るかもしれないので、あまり人の通らないビルの裏側に位置する階段に座る。 このあたりまでやって来るのは自社の人間しかいないから、まあ問題はないだろう。 「いただきます」 作ってもらったお弁当なのだからしっかりと感謝して箸を手にとる。 今日もバランスがよく考えられたメニューである。彩りも綺麗だ。……なのに。 「…………食欲が、ない」 なんてことだ。胃がまったく空腹状態を自覚してくれない。 ここで食べられなければ夜遅くまで食事をする時間は取れない。ほぼ社長息子と行動を共にすることになるから、隙を見せるわけにはいかないのに。 「お、見覚えのある弁当だな」 「！」 唐突に聞こえてきた声に座ったまま飛び上がる。な、なに！？と振り返れば見慣れない男がいた。 白銀の髪に真っ白のスーツ。すらりと細身ながらも高い身長。 年齢が分からない容姿は彫刻のように美しく、日本人の造形からはかけ離れているように思えた。 いや、私はこのひとを知っているぞ。 「……五条……社長？」 「おっと、俺の顔を知っているのか。あまり出回っていないはずなんだが」 「あ、えっと」 「なんてな、別に責めているわけじゃない。長谷部の嫁だろう？その弁当、今朝見たのと同じだからな」 にっと笑う五条は儚げな美貌とは裏腹にどうやら陽気なひとであるらしい。 これがあの長谷部の上司、と思っても全く仕事風景の想像がつかない。え、長谷部ってこういうひと苦手じゃなかったっけ？ 「って、え、今朝見た？」 「この曜日はいつも愛妻弁当を持ってくるだろう。毎週どんなものか楽しみにしているんだが、今日は長谷部が作ったものだったそうじゃないか。味気なくてつまらん」 「は、はあ……」 「君の弁当も同じということは、もしかして寝坊でもしたのかい？」 私の隣に腰を下ろした五条社長はにやにやと笑いながら膝に頬杖をつく。あの、階段に座ると白いスーツが汚れますよ。 よその夫婦の弁当事情をチェックしているだなんて物好きな社長だ。そういえば好奇心が強いひとだって長谷部が言っていたような気も。 親しみやすくて良いのかもしれないけど、これは手綱を握るのが大変だろうなぁ。長谷部はよくこの社長の秘書をやっているもので…………。 「あの、長谷部もここに来てるんですか。というか五条社長がどうして当社に」 「商談でな。長谷部の元職場だというし、あいつの嫁さんも勤めていると聞いたら探検したくなるものだろう？」 「いえ私にはまったく分からない感情ですね」 「その遠慮のない物言い、さすが夫婦だ」 「あっ、すみませ」 「いやいや、そのままでいいぞ。堅苦しいのは好きではないのでな」 ひらひらと手を振った五条社長は不意に立ち上がると、しっかり食事はとれよとウインクして去っていった。 ……あの、よその会社を我が物顔で闊歩するのはどうかと思うんですが……。そして長谷部はここに来ているのかどうなのか。 引き抜かれた形だから、さすがに出入りはしにくいと思う。となるとヤキモキしながらビルの外で待っているのかもしれない。 そんな彼の姿を想像しただけてふふっと笑みがこぼれて。 なんだか急にお腹が空いてきたのであった。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 苛々と腕時計を睨んでいた長谷部は、涼しい顔でビルから出てきた上司をぎろりと睨みつける。 待たせたなと片手を挙げる男は悪びれた様子もなく、そのまま後部座席に乗り込んだ。 怒鳴りつけてやりたい気持ちを呑み込み、長谷部は運転席に入って車を発進させる。 「……商談はとっくに終えていたと思うのですが」 「取引相手にふさわしいかどうか調査をな」 「社長自らがすることではないでしょう」 「いやいや、部下の状況を知っておくのも大事なことだぞ」 「は？」 「君の嫁さん、あまり体調が良くはなさそうだ」 「…………は？」 運転中でなかったらハンドルではなく後ろに座る男の首をつかんでいたことだろう。 いま、この男は、なんと言った？ 「真面目そうだがなかなか冗談も通じそうで、良い女性じゃないか。何より驚かせたときの反応が面白い」 「おい鶴丸国永、お前」 「なんだ？いまは五条国永だぞ、へし切長谷部」 「うるさい、俺は長谷部国重だ」 「ははは、そうかそうか。いいじゃないか、君は大事な花を手中に収めることができたんだ。……俺はなぁ、まだまだ蕾でな」 「お前の事情など知ったことか。いいか、あのひとに関わるな」 視線だけで射殺すことができそうな眼差しを受け、鶴丸はひょいと肩をすくめた。 それが会話終了の合図となり、車内には沈黙が下りる。だが長谷部の心が平穏を取り戻すことはなく、ささくれ立ったままだ。 あのひとを鶴丸なぞに見られたことも忌々しいが、何より。 初対面の男が見ても分かるほどに体調が悪いらしい彼女を想うと、気持ちは千々に乱れる。 弱音を吐いてばかりの根性なしに見えるが、ここぞというときには無理や無茶ばかりするのが彼女なのだ。 いまとは違う遠い過去、泣きそうになりながらも必死に立ち続けていた薄い背中を知っている。 もう、あの頃とは違う。ただ見守り、従い、支えることしかできなかったあの頃。 けれどいまは。自分の意思で動くことができる。そのはずだ。 「五条社長」 「うん？」 「今日は定時で上がらせていただきます」 「割といつも時間きっかりじゃないか……。まあいい、今日は許してやろう」 バックミラーごしに鶴丸の薄い唇が弧を描いたのが見える。 しかしそれは見なかった振りで、次の取引先へ向かうべくアクセルを踏み込んだ。 あわよくば、早く仕事を片づけて定時前に上がるために。 [newpage] どうにか今日は早く上がることができそうだ、と安堵の溜息をこぼしながらファイルを閉じる。 といっても定時から二時間は過ぎているわけだけど。……ああやっと家に帰れる。 「お疲れ様、遅くなってしまったから車で送るよ」 「いえ、大丈夫です。夫以外の助手席に乗るつもりはありませんので」 「仲が良いなぁ。結婚してまだ短いんだっけ？最初からそんなに一緒にいると、すぐに倦怠期に入ってしまうよ」 別に常に一緒にいるわけではないし、イチャイチャラブラブしているわけでもないんだけど。 わざわざそう言ってやる必要もないため私はファイルを棚に押し込むと、それでは失礼しますと頭を下げて廊下に出た。 私の後を追いかけてくる足音があって、しつこい男は嫌われるぞこの野郎！と頭の中で悪態をつく。 「男の好意は素直に受け取るものだよ？可愛げがなくなる」 「もともとそんなものは持っていませんので」 「そうかな、そんな君が特別に想ってくれたらさぞ楽しいだろうね」 「何をおっしゃりたいのかよく分かりませんが、奥様を悲しませるような言動は慎むべきかと愚考致します」 「ははは、こんなの家同士が決めた契約だ」 契約。 私と長谷部の結婚も、契約によるもの。でもこの男とは全く違う。 確かに利害の一致によって始まった夫婦生活だったけれど、お互いへの労りや思いやりが根底にはあって。 「妻もそれなりに色々な味見を楽しんでいるようだよ。それが夫婦円満の秘訣だろう？」 「…………私には分かりかねます」 「そう？君の旦那様は分かるんじゃないかな、男はそんなものだよ」 「………………」 お前なんかと一緒にするな、と言ってやりたい。怒りに拳が震え、鼓動が早鐘を打って頭痛が増してくる。 確かに長谷部は私を愛してなんていない。同棲してもいいと思われるぐらいには、気を許してくれているだろうけれど。 長谷部にとって邪魔にならない存在、という程度のものでしかないだろう。 でも彼は。例え契約による婚姻だとしても、私を裏切るようなことはしない。 なんの根拠もないけれど、私はそう信じられた。だから真っ直ぐに軽薄な笑みを浮かべる男を見上げた。 「私の夫を貶めるような発言はやめていただけますか。私も、そして夫も、不貞を働くようなことは決してありません」 「………………。いまどきいるんだね、そういう古臭い人間。逆にそういうのって壊したくなるんだよ、知らないだろう？」 「…ちょっ……なんですか、放し……！！」 ぐいっと腕をつかまれ男の顔が鼻先にまで迫る。 定時を過ぎて二時間も経つ社内。表玄関は施錠されているため、ここは裏口のロビーだ。 最低限の灯りしかついておらず、人影もほぼない。 私の抗議の声は虚しく響くだけで助けを求めても誰にも届かない。 「他の男の身体も知ってみると良いものだよ。もしかすると新しい自分に目覚めるかもしれない」 「そんなわけないでしょう！？」 「けっこう自信あるんだけどな。会議室にでも行こうか、なかなか燃えると思うよ」 「ふざけないで！！！」 振り払おうとしても男の力に敵うはずがない。どうしよう、どうしよう。 真っ白になる思考の中、ふと浮かんだのは彼の姿。素直じゃないけれど、いつだって私を見守り助けてくれていた。 「よそ見はよくないよ」 「！？」 がっと顎をつかまれ、唇に吐息がかかる。 嫌だ、やめて、と頭の中は悲鳴が幾重にもこだますのに、それが音にはならなくて。ただ震える。 こんな男に唇を奪われてしまうなんて、全てを奪われるだなんてそんなのは嫌だ。 もし私が守ってきたものを捧げるとしたら、それはこの男ではない。 触れてほしいと願うのはこの手ではなく、私が求めるのは無骨で不器用なあの大きな手で。 「……っ……長谷部以外にキスも身体もやるもんかあああぁぁぁ！！」 「ガッ！？」 離れられないならばぶつかってしまえばいい、と思考の箍が吹っ飛んだ私は男に頭突きをかましていた。 さすがに予想していなかったのか男の手が離れよろめきながら距離をとる。 額をおさえて呻いた男はしかしすぐに私へ視線を定めた。その眼差しが激怒していて、ひっと息を呑んだ。 「……さすがにおいたが過ぎるんじゃないか……？」 「そ、それはあなたの方でしょう」 「お仕置きが必要だな。せっかく優しくしてやろうと思ったのに」 「どこが！！女にとっては恐怖でしかないわ大馬鹿野郎！！！」 伸びてくる手から逃れようとするのに、足が震えてまともに歩くことすらできない。なけなしの勇気は先ほどの頭痛に乗せてしまった。 もうダメだ、と目を閉じ身体を縮こまらせるものの。 予想外に、優しい温もりに包まれて。 「俺の妻に、何をしている」 響いた凛とした声に、涙が出た。 恐る恐る瞼を押し上げると、見慣れた怜悧な横顔。厳しさを滲ませながらも冷静であるはずの瞳には、初めて見る憤怒が燃えていた。 どうしてここにいるの、なんていま考える必要もないことを思うのは、彼が傍にいてくれる安心感があるからだ。 「へえ、旦那様の登場か。なるほどなかなか見た目が良い」 「あんたよりよっぽどかっこいいわ！雰囲気イケメンの分際で長谷部を評価するんじゃないわ厚かましい！」 「なんだと！？お前こそ誰に口をきいていると」 「身の程を知れ、貴様には彼女は勿体ない。その視界に入れることすら烏滸がましい」 「なっ……」 いやいや何言ってんの？と後になって長谷部の発言に頭を抱えることになるのだが、このときの私は正常ではなかった。 力強く肩を支えてくれる腕にひたすら安堵するばかりで、甘えるように彼の腰に腕を回して縋りついてしまったのだから。 そしてそんな私を柔らかい微笑で受け止め大丈夫だと宥めてくれる夫のイケメンぶりときたら。 ほ、惚れちゃうじゃないか、ばか！！ 「随分と馬鹿にしてくれたが、いいのか？このプロジェクトを壊すことになっても」 「！」 「妻の身と心を守るためならば、この会社がどうなろうと俺は構わん」 「あ、いや、長谷部、私はちょっと構うんだけど」 「どうしてです？」 「無職になっちゃうでしょ！？」 「それならば俺の会社で引き取ります。腹立たしいことに社長も貴女を気に入っている」 「え」 それでは退職届は後日提出しますので、と勝手に話を進めて長谷部は私を抱き寄せ歩き出す。 社長息子とはいえあの男は私の上司じゃないからね？退職届をあの男に出してもなんの意味もないからね？分かってる？ でもその腕に逆らうことなく歩き出した私は、彼の提案を拒む気はなかったのだと思う。 あんなに触られて気持ち悪かったはずなのに。長谷部が触れてくれるとそこからじんわりと温かくなっていく。 それはほっとした気持ちであったり、喜びであったり、とにかく優しい気持ちが広がる感覚で。 知らず彼の肩に甘えるように頭を寄せると、抱き寄せる腕の強さが増したような気がした。 例えそれが仲間や友人に向ける優しさなのだとしても。 私には十分だった。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 家に帰宅するまで彼女はひたすら無言で。けれど細い身体と腕は縋りつくように俺に触れていた。 怖かっただろう。男に無理やり迫られるだなんて、あまりにも理不尽な状況だ。 体調の悪い彼女を迎えるために足を運んでいてよかった。かつての職場であったため、裏口を知っていたのは幸運としか言いようがない。 聞こえてきたかすかな声が彼女のものだ、と気付いた自分には苦笑しか浮かばないが。今回はそれが良かった。 気丈に振る舞ってはいたが、瞳に浮かぶ怯えの色は隠せていない。 あの男もそれが分かっていたからなおも追撃しようとしたのだ。昔ならば斬って捨てたものを。 「大丈夫ですか、温かい飲み物でも淹れましょうか」 「あ……」 ようやく帰り着いてリビングに座らせた彼女は、俺が離れようとすると不安に揺れる眼差しで服をぎゅっとつかむ。 眩暈のようなものを覚えるが、男の欲にさらされ恐怖を覚えたであろう彼女に劣情をぶつけられるはずもない。 どうにか冷静な仮面を顔を貼り付けて、すぐに戻りますよとできるだけ優しい声音で囁いた。 ココアを淹れて戻ると、それを両手で包むようにして受け取った彼女はほっと肩の力を抜く。 距離をとって座ろうかと思ったのだが寂しげにされてしまったため、隣に腰を下ろす。不謹慎だが理性が試されている気がする。 あんな目に遭った後なのに無防備すぎやしないか、と思うものの彼女が信頼してくれている証だ。 男として意識されていないと突き付けられているようでもあるが。しかし、それほど悲観はしていない。 裏口で待機していたあのとき、確かに聞こえた。 「……っ……長谷部以外にキスも身体もやるもんかあああぁぁぁ！！」という叫び。 幻聴かと思った。俺に都合の良い夢でも見ていたんじゃないかと。 しかし駆け付けた先では己の身体を守るために必死に抗う彼女がいて。 抱きしめればほっと安堵し喜びの色を浮かべる表情に、もしやと心が期待を抱く。 （いや、落ち着け。このひとはいつだって鈍い。周囲の感情もそうだが、ご自分の感情に関してはひどい音痴っぷりだ） あの叫びだってきっと無自覚に出たものだろう。むしろ勢いで言ったものだから覚えていない可能性の方が高い。 記憶していたらこんなに大人しくしていないだろう。羞恥に悶絶して転がるか発狂して部屋に閉じこもるぐらいはしそうだ。 まあ、可能性があると分かっただけでもよしとするべきか。 「勝手にすみません」 「……え？」 「退職のこと。俺が口を出すことではないのに」 「あ、そんな。あんな状態じゃもう居続けられないよ、仕方ない。……同僚たちには申し訳ないけど」 「俺にも責任はありますから、そのあたりは迷惑をかけずに済むように口添えしておきます」 「口添え？」 なんのこっちゃ、と不思議そうな彼女には笑顔だけを返す。 どうせ面白がって根掘り葉掘り聞いてくるに違いないのだ、ならば対価として上司には動いてもらおう。 あのボンボンは社長の息子というだけでまだ個人としての大きな力はない。しかし上司は五条グループの総帥だ。 腐っても大企業のトップなのだ、どんなにおかしな男だろうと発言力は大きい。 「新しい職場は厳しいですよ。手加減するつもりはないので、覚悟してください」 暗に同じ職場に引き抜くつもりだ、と告げればぽかんとした顔。 ゆっくりと内容を噛み砕いて理解したのか、彼女はじわじわとその表情に笑みを滲ませた。 「……また長谷部と同じ職場かぁ」 「嫌だとしても無職になるよりはマシでしょう」 「嫌なわけないよ。むしろ……嬉しい」 不意に見せたはにかむような笑顔。それがすぐ隣にあるのだから、俺の心は簡単に揺さぶられた。 常にはないほどに弱々しい彼女は隙だらけで。思わず触れた頬は疲れからか少し乾いている。 撫でる指先を受け入れる彼女は心地良さげに双眸を眇めてみせた。……いかん、このままでは止まらなくなる。 どうにかこうにか彼女の頬から己の右手を引きはがすと、すごく惜しむような表情をされた。 耐久力を試すような行動は慎んでほしい、切実に。 「ねえ長谷部」 「はい？」 「……私こそ、ごめんね。すっごく迷惑かけちゃって」 「迷惑だなんてそんなことあるはずがないでしょう。夫として当然の」 「だってさ、夫だからって好きでもない女のためによその会社のお偉いさんを敵に回すとか」 「は？」 「え？」 きょとんと瞬く悪意のない瞳が、これほど憎らしかったことはないかもしれない。 「俺が、誰にでも、あんなことをするとお思いで？」 「……いやさすがに誰でもってわけじゃ。契約してるとはいえ、本当に好きなわけじゃないでしょ？余計なストレスを減らすために結婚したのに、むしろこれじゃ長谷部の負担を増やしてるなって」 「貴女馬鹿でしょう」 「突然の罵倒！？」 ようやくいつもの調子を取り戻したらしい彼女は、一緒に余計な方向へカッ飛ぶ推進力も復旧させたらしい。 確かに利害の一致による契約を持ちかけたのはこちらだ。だが、だからといってどうでもいい人間と結婚するはずがない。 彼女だって一緒に暮らしても良いと思うぐらいには自分を受け入れていたはずだ。だというのにその言い草はなんだ。 「どうでもいい女のために、帰りを待ち伏せると思いますか？俺が？」 「そ、そうは思わないけど」 「それを言うなら貴女こそ、好きでもない男に職場を変えさせられてさぞ無念だったでしょう」 「なんでそんなこと言うの！？嬉しいって言ったじゃん！」 「俺には同じことを言われた気分だったわけです」 「……あ……そ、そうなの」 急に言葉の勢いを失った彼女は、恐る恐る見上げてくる。 窺うように小首を傾げるのは反則だ。 「……長谷部って、私のこと意外と好き？」 「………………」 「いだ、いだだだだ！すみません調子に乗りました顔が、顔が潰れる！」 「なら貴女も」 「？」 「俺のことを、意外と好きでいてくれていますか」 その問いに硬直した表情は決して怯えや嫌悪からくるものではない。 自覚のなかった感情を目の当たりにして頭が真っ白になった、というのが一番近いだろう。 つまり、裏口で聞いた叫びはほぼ本心に近いものであり、思ったよりも好かれているらしい。 彼女にはいまいち自覚がないようだが、心はとっくにこちらへ向いていると思っていいようだ。 自分も己の感情の機微に疎いと自負しているが彼女ほどではないだろう。 だって俺はちゃんと自覚している。愛しいという感情を。 「あ、あの、えっと、そりゃ嫌いじゃないし、こんな暮らしするぐらいには」 「そうですか、他の男に奪われるぐらいなら先にもらっておきましょうか」 「え」 きっと浮かれている。柄にもなく踊る心のままに、柔らかい唇を奪った。 驚きにまたも硬直した彼女は、しかし怒るでも怯えるでもなく、顔を真っ赤に染め上げた。 「は、はははははしぇべ！！？」 「俺たちはどんな形であれ夫婦です。このぐらいもらってもいいでしょう」 「そ、そりゃ、そう、だけ、ど！でもええっと」 「ほら、こんなことで恥ずかしがってどうするんですか。蜜月が続く夫婦という設定で俺の職場には広まっているんですから、慣れてもらわないと」 「どういう広め方してんの！？無理！無理だからね！？職場でそんないちゃつくとか私にはできないから！！」 「ははは、公私混同はしませんよ勿論」 「ならなんで顔を近づけてくるのさー！！！」 二度目のキスも、三度目のキスも、その先重ねる全て。全部それは自分だけのものだ。 彼女が望んでくれた通り、身も心も根こそぎこの腕に抱いてしまおう。 夫婦という契約はすでに交わされているのだ。時間はいくらでもある。 欲深くなっていく自分は、すっかり人間らしくなってしまったものだ。 浅ましさに苦い気持ちがよぎるものの。 愛しいこのひとを前に、理性というものは無意味なのだと知る。 [newpage] 「ようこそ我が社へ！歓迎するぞ」 「突然のことなのに拾ってくださってありがとうございます」 「いやいや、長谷部をからかうネタが増えるのは喜ばしい。何しろ面白味のない奴でなぁ」 「……そうですか？すごく楽しいひとですけど」 新たな上司となった五条国永の執務室に挨拶のため訪れていた私は、思わずぽろっと言葉を落とした。 相変わらず気さくな社長はほうと眉を上げると、どこか嬉しげに顔を輝かせて笑う。 「君は、長谷部のことが大好きらしいな」 「！？」 「ははは、恥ずかしがる顔も愛嬌がある。なるほど長谷部が惚れる理由も分かる」 「い、いや、長谷部はそれほど私に惚れているわけではないと……」 「知らぬは本人ばかりなり、ってな」 「へ」 「なかなかに面白い夫婦模様が見られそうだ、期待しているぞ」 「は、はあ」 なぜ仕事ぶりではなくそこを期待されなくてはならないのか。 もしや私とんでもないところに就職してしまったんじゃ…？と思うものの、いまさらどうにもならない。 社長息子に頭突きをかました翌日には退職届を提出し、すぐさま受理された。 途中まで私が担当していたプロジェクトは、無事に同僚たちが仕上げ成功させてくれたらしい。なんでかよく分からないけどかつての上司たちにひどく感謝された。 あのボンボンはプロジェクトを投げ出したらしいから、きっとすごく迷惑をかけたはずなのに。その理由である私を責めないってどういうことだろう。 曖昧に濁していたけど、元同僚によると大きな企業の融資が受けられたおかげでなんとか乗り切ったらしい。……まさかそれって……いやまさかね、うん。 そんなこんなで、唐突な転職だったのに円満に全てが片付いた。 私は長谷部の補佐ということで社長秘書の手伝い、みたいな役目を与えられている。 基本的に社長に随行するのは長谷部のみで、私はオフィスに残って雑務をこなす感じだ。 しょっちゅう脱走する社長を凄まじい速さで追いかける長谷部を見送り、帰ってきた二人にお茶を提供したり。 積みあがる書類の分類を手伝ったり、不機嫌になる長谷部に怯える他の社員との橋渡しを担当したり。 やる気のない社長の話し相手になってモチベーションを上げようと試みてみたり。 前の職場よりも賑やかでどこか生活感の漂う新たな場所は、思いの外楽しくて。 厳しい指導を続ける長谷部に叱られることはまだまだあるけれど、とても充実している。 「ああ、鐘が鳴りましたね。それでは社長、俺たちはこれで失礼します」 「おいおい、山積みの書類を放置していくのか」 「あとは社長の決済を待つのみの書類ばかりですので、俺たちにはどうすることもできません」 「社長、ファイトですよー。明日は社長の分もお弁当作ってきますから」 「何、それは本当か」 「俺が心をこめて作ってあげましょう」 「お前のはいらん」 ぶーぶー文句を言いながらもようやく書類に手をつけはじめた社長を見届け、退社する。 今日の夕飯はどうしようかと話しながら歩く帰り道。こうして共に食材の買い出しをするのが常となって。 自然と繋がれるようになった手。縮んだ二人の距離。 隙間もないほどに二人の温もりが重なる日が来るのはいつのことか。 悪戯な上司がその日付について、旧友と賭けていることなど二人は知る由もない。

まさか続くとは。前回はこちら【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6046560">novel/6046560</a></strong>】<br /><br />■現代パロ…というか一応転生もの。でもさして触れていない<br />■刀剣男士や審神者についての説明はほぼありません<br />■親から結婚結婚言われ辟易した女性と、周囲の秋波が鬱陶しかった長谷部の夫婦生活<br />　（つまりはお互いに嫌なものを避けるための手段としての結婚）<br />■さらに番外編もできました【<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6597632">novel/6597632</a></strong>】

続・契約結婚

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6503530#1

ご注意 転生ネタの小説です 勘違い系要素が入ってます ブラック本丸要素が入ってます 乗っ取り要素が入っています 刀剣がなにやら信仰している要素が入ります 刀剣と審神者の間に子供（半神）が生まれています ヤンデレ要素が入っています 許せるかたはどうぞ [newpage] 「「「「「かーまーえー！かーまーえー！」」」」」 「…………」ﾎﾟｲﾎﾟｲﾎﾟｲﾎﾟｲﾎﾟｲ 「「「「「あははは―――っ！！」」」」」 「………五羽丸」 「「「「「はーい！」」」」」 今日のメシはなんだろうな！今日は魚がいいぞ！おれはイノシシが食べたい！この間のイナゴの佃煮もいいぞ！それよりあの木になっている実はなんだ？！ｶﾞﾔｶﾞﾔ ｷｬｯｷｬｯ 煩い、果てしなく煩い。なんでコイツら拾っちゃったんだろう。 俺の名は伽羅。刀の付喪神の大倶利伽羅と審神者の間に生まれた半神だ。 慣れ合いが嫌いな父は母とはそんなポリシー金繰り捨ててラブラブしてまくっている残念な両親の元俺は生まれた。 所謂前世の記憶持ちである俺は母の腹に宿った頃から両親のラブラブっぷりに驚きながらも中てられ続け、しかも前世の記憶から父と母が刀剣乱舞というオンラインゲームに登場していた人物でさらに驚いた。 父としては俺が生まれたことは誤算だったようではあるが、まぁ生まれてしまったモノは仕方がなかっただろう。腹の中に居る俺に嫉妬するのはやめて頂きたかった。 お前に入る（）のは俺だけで良いとか無茶はやめてくれ。 そして生まれた俺を育ててくれたのは両親ではなく母の付喪神たちだった。分かってた。 俺そっちのけで毎日ラブラブ（意味深）していたので関わりは殆どなかったと言っても良い。神様の執着怖い。 あまりのラブラブ（）っぷりに常時死んだ魚の目な俺を同情的だがちゃんと育ててくれた彼らに感謝しきれない。 母の初期刀がよく面倒を見ていてくれたせいか俺もフード系のモノを着て顔を隠す癖がついた。なんか落ち着く。 初の誕生日の日には名前に因んで伽羅を使った香を貰って以来愛用している。 毎年調合を少しずつ変えて俺好みの香を作ってくれてとても嬉しかった。 まぁその間両親は相変わらずラブラブ（）していたがな。苦笑しかでない。 記憶持ちの俺じゃなかったらこんな両親耐えきれなかったぞ。 そんなある日突然ラブラブ（）だった父と母が勝手に引退と称して神隠しに洒落込んだ所為である。ふざけるなバカ両親。 ツッコみ所が満載だが母の付喪神たちもお手上げ状態で「奴らならいつかやると思っていた」とため息交じりに呟いていた。非常に申し訳なさで一杯だった。 仕方なく母の付喪神たちは「大変だとは思うけど頑張れ」とか「本霊から見守っている」とか温かい言葉を頂きながら少しだけ審神者能力のある俺が刀解させてもらった。 そして政府に何か言われる前に俺は本丸から戦場へととんずらした。 背格好は脇差くらいになっていたし付喪神の半神だったお蔭で俺自身と呼べる刀もあり、とりあえずサバイバル生活に困ることはなかった。 因みに父である大倶利伽羅が腕に彫ってある倶利伽羅龍は俺の場合首から背中にかけて彫ってあると言うなんとも不思議模様だ。 適当な時代に本拠地を作り、日々適当に暮らしていた。 村に降りて農業を手伝ったり食い物貰ったり、城下町に降りてバイトしたり何かを買ったり、その日暮らし最高である。定職なんてクソくらえ。 たまに戦場で会うどこかの本丸の付喪神たちは折れそうな奴らが居るときだけ少ない審神者力で手入れしてやって戦場や政府の情報はたまた本丸の情報も貰う。 なんか怪しい雰囲気の本丸ならば昔ご神刀に習った清めの札とか束縛札とか簡易お守りを渡したり、本丸番号の書いてある場所やパソコンの使い方、審神者ちゃんねるで助けを求める方法やこんのすけに通報して貰うことを進言して別れる。 その後絶対に俺に被害が来ないよう縁が結ばれないように要注意な奴らだ。 元気な付喪神はどうでもいい。自分たちで本丸帰れ。 そんな俺だがわりと落し物を拾うことが多い。特性ものひろいってか。俺はポケモンか。 資源は良いとして、弁当だろ？脱ぎ捨てられた服だろ？恋文だろ？春画だろ？えとせとら おい、付喪神共。ちゃんと落とさないようにしろよってか何戦場に持って来てやがる。 一応歴史修正に繋がっても困るので検非違使さんに渡して処分して貰ったり、俺がお焚き上げしたりしている。 最初は恋文と呼ばれる唄が書かれているの文が読めなくって検非違使さんに読んで教えてもらい、お互い気まずい思いをしたこともある。 検非違使さんとの仲は良好です。戦場に居る経緯話したらなんか同情された。 ついでにゲートを潜らないで時代を移動する方法も教えてくれた。超優しい。 まぁこんな感じの身の上話だ。 こんな感じで戦場生活暫くして俺は五羽丸を拾った。 五羽丸とは俺が勝手に呼んでる総称である。 俺と同じく半神で本丸から追い出されたヤツや逃げてきたヤツなど理由は様々。 半神って産まれ辛いはずなのに親は鶴丸国永で全員それぞれ違う本丸の半神たちだ。 驚きを越して恐怖しか起きない繁殖力である。 背格好は全員短刀くらいで、短刀・脇差・打刀・太刀・大太刀とそれぞれ違う驚きもある。 俺は普通に打刀だ。それ以上は特に語ることはないな。何せ、無銘刀なものでね。 最初に拾ったのは太刀のヤツで、森で小汚くぶっ倒れていたのを適当な湖に投げ入れてメシを喰わしたら何故か懐かれた。何故だ。 次に大太刀を拾い「あれ？大太刀」とか思ったがスルーしてたら懐かれ、その後間を開けずに短刀→脇差→打刀とコンプリートした。 因みに俺は奴らを個々で呼ぶときは短刀から順にシロ・ハク・ビャク・アキ・ユキと呼んでいる。漢字にすると全員“白”だ。面倒臭かったとか言わない。 真名を言い当てても言われても困るし、そのうち別れるのだから適当でもいいだろう。 奴らが独り立ちするまで仕方なく面倒をみてやっているだけだ。 しかし五羽も集まれば驚きレンジャー如く煩い喧しい。 思わず遠い目をしてしまうのも仕方ないだろう。 早くこの雛鳥共が独り立ちしてあの静かな日々に戻りたい今日この頃である。 慣れ合うつもりはないからな。 [newpage]よっ。アキだ。俺みたいのが突然来て驚いたか？ 俺の親は付喪神の鶴丸国永と審神者で所謂半神と呼ばれる存在だ。 大事に大事に育ててくれる両親と本丸に居る付喪神たちに囲まれて俺は悪戯しながらもすくすくと育ったそうな。 んである日突然両親から「可愛い子には旅をさせよってことでお前旅に行ってこい」と本丸から放り投げられて驚いたぜ。 一応護身術やら加護札やら色々仕込まれたり持たされたりしたがまぁすぐ力尽きるわな。 半神だからメシを喰わなくっても死にはしないが、普通に腹は減る。 どっかの森で俺は文字道理行き倒れた。 そんな時出逢ったのが大倶利伽羅の子で俺と同じ半神の伽羅だった。 伽羅はぶっ倒れている俺を引っ掴んで湖にぶん投げた。 ぶん投げんのかい！！って思ったが投げ込まれた湖はとても澄んでして、知らず知らずのうちに戦場でため込んでいた穢れを一瞬で祓われた。 ここまで穢れのない湖は中々お目に掛かれないだろうに、なんの躊躇いもなく穢れていた俺をぶち込むなんて凄い奴だ。 しかもメシも食わせてくれて俺はとても嬉しかった。 俺が質問攻めにすればため息交じりにも大倶利伽羅の子で俺と同じ半神であることがわかり、初めて出会う同じ半神にさらに気分は上昇する。 鉄壁の表情筋で滅多に笑わないし、無口な面もあるし、慣れ合いを求めるのも嫌そうだが俺が一緒にいるのに嫌がることはなかった。 そのうち俺と同じく鶴丸国永の子の半神を立て続けに拾っていき、伽羅は「……俺は呪われているのか？」と呟いていて大いに笑わせてもらった。 笑ったら物凄く睨まれたがここここ怖くなんかないんだぜ！ しかし同じ半神でも生まれた環境はかなり違っていた。 俺の次に拾われた大太刀の俺は親から鶴丸国永とは違う大太刀であったため両親から愛されず、嫌々本丸を出てきたらしい。 そもそも分霊でも亜種が生まれるのだから、その子供の刀種が違っても可笑しくないだろうに頭の固い奴らが居たものだ。 逆に短刀は愛され過ぎて本丸を抜け出して来たそうだ。 「過ぎた愛は唯の暴力虐待」と言うのが短刀の俺が産まれた本丸で悟ったことらしい。 やれ外は危ないから行ってはいけない、やれメシを喰うのは喉を詰まらせたら困るからと噛み応えのないものを少量ずつだの確かに恐ろしい。 下の世話まで自分じゃやらせて貰えなかったと語られたときは全員で同情した。 脇差の俺は乗っ取り被害にあったそうで強い呪術に練度が低かった本丸の者達は次々と脱落していき、母親である審神者からせめてお前だけはと戦場に逃がされたらしい。 呪術に下った付喪神たちは審神者に「自分たちの意思ではどうにも太刀打ちできない、政府に拉致られ後ろ盾のない主はせめて夫である鶴丸国永に神隠しをして貰い逃げて欲しい」と言っていたそうな。本当に神隠しされたかは不明。 いつか母の本丸を取り返してみせる！と脇差の俺は日々鍛錬を積んでいる。 打刀の俺は酒の勢いで寝たら（）宿ってしまったやらかしてしまったパターンで生まれたそうで、しかも母親である審神者には別の恋人が居たらしく大変慌てたらしくな。 恋人のほうは鶴丸と審神者が大の親友同士な関係だから酒の勢いはまぁ仕方がないとため息を吐いて許したそうな。なんて心が広い付喪神なんだ。 しかし生まれた打刀の俺はそれはもう気まずかったらしい、気持ちは分かる。 いくら親たちは気にしていないし産まれてしまった子は悪くないスタンスでも子供からしたらそうはいかない。 それに節々になんでお前産まれちゃったの（）的な視線が本丸中から来るので耐えきれず、家出を決行したそうだ。 そんな俺たちだ。うわ、なんか面倒臭い奴らばっかりだな。 伽羅は俺たちをまとめて五羽丸と呼ぶ。 個々ではシロ・ハク・ビャク・アキ・ユキと同じ“白”と言う字で呼ぶ。 生まれや育ちは違えど元を辿れば同じ“鶴丸国永”の子。 変に分けられて一緒に居るよりは同じ括りで接せられるほうが気楽である。 愛されなかった俺も愛され過ぎた俺もこの適度な関係を気に入っている。 名前を貰えなかった俺も貰った名前を捨てた俺も大事に名前を仕舞い込んでしまった俺も伽羅に付けられた名前はとても好きだ。 戦場で出会う折れそうな付喪神たちに施しをしてやる伽羅が好きだ。 なんやかんや俺たちの面倒を見てくれる伽羅が好きだ。 抱き着いたり傍に寄ればいい匂いがする伽羅が好きだ。 悪戯しても最終的に許してくれる伽羅が好きだ。 死んだような目をしていても俺たちは伽羅が大好きだ。 伽羅は自分の話をしてくれない。いつも遠くを見ている。 俺たちが傷つきそうになると自分を呈して助けてくれる。 俺たちが強くなれるように戦い方を教えてくれる。 いつか伽羅が本当に笑ってくれるように俺たちは君に驚きをプレゼントしよう！ さぁ大舞台の始まりだ！  [newpage] 【戦場の】御礼が言いたいから情報はよう！！ＮＯ～【倶利伽羅さん】 1 ななしの審神者さん ここは戦場に現れる倶利伽羅さんの情報交換スレです！ 今まで分かっている情報↓ ・背格好が脇差くらいで持っている刀は打刀 ・大倶利伽羅に似ているが顕現済みの大倶利伽羅からは「同じ存在ではない」とのこと ・服は大倶利伽羅と似ているが中に着ているのは薄めのフード付きパーカー ・よくフード被ってる ・戦闘時はフード脱いでる ・首あたりに龍の彫り物有り ・とりあえず仮名「倶利伽羅さん」で固定 ・刀剣たちが重傷になると現れ、軽傷くらいまで手入れ（！）をしてくれる ・ブラック本丸の刀剣たちには札やお守り渡したり、通報方法を教えてくれる ・中傷以上の元気有り余っている刀剣の元には絶対に現れない ・無茶苦茶強い ・倶利伽羅さんを探している我らの前には決して現れてくれない なんでもいいから情報求む せめて御礼を言わせてくださいぃぃいいいいいいいいいいいいい 倶利伽羅さんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん って奴らのための情報交換だ。 アンチは還れ。荒らしは即無視！ それではいつも通り仲良く情報交換していこうね！ ・ ・ ・ 352 ななしの審神者さん 今日も倶利伽羅さんに会えなかったorz 353 ななしの審神者さん はいはーい！今までの情報を統計した結果、どの時代の戦場にも現れるみたいだよ！ でも数日違う時代に居ることはあるし、同じ日に函館から厚樫山へ行ってることもあった 354 ななしの審神者さん ≫353よくやった！353！ でもその情報は知りたくなかった 355 ななしの審神者さん ≫353アクティブ過ぎだろ、倶利伽羅さん 356 ななしの審神者さん とりあえずテンプレに「どの時代にも現れる」を追加しておこう 357 ななしの審神者さん ≫356賛成 358 ななしの審神者さん ≫356賛成 359 ななしの審神者さん ≫356賛成 360 ななしの審神者さん ≫356賛成 361 ななしの審神者さん ってか流石倶利伽羅さん 背格好は脇差くらいだけど本当に大倶利伽羅と同じように馴れ合うの嫌いだよな 362 ななしの審神者さん こちらに一切情報を漏らさない徹底さ 363 ななしの審神者さん 前に推測してたやつなんだったっけ？倶利伽羅さん身の上関係 364 ななしの審神者さん 1、大倶利伽羅の亜種 2、なんやかんやで大倶利伽羅と審神者が合体 3、大倶利伽羅の写し 4、大倶利伽羅の贋作とかで別の刀剣 5、他の廣光作の刀剣 だったはず 365 ななしの審神者さん 2が異様なんだけど手入れ出来るって点でそれが有力候補なんだよなぁ 徹底して自分の情報を漏らさないのも政府に伝わるの気にしてるみたいに思えるし 366 ななしの審神者さん 俺としては他の廣光作の刀剣押しだな 俺たちが知らないだけで大倶利伽羅に似せた刀剣を造っているかもしれないし、三日月たちみたいに神格高かったらもしかしたら手入れ出来るかもしれないし 367 ななしの審神者さん え？三日月たちって手入れできるの？！ 368 ななしの審神者さん ≫367手入れって言うか自己再生的な？のは頑張れば出来るらしい。頑張れば ただし本霊よりの神格の高いやつだけが出来るらしいけどな けど滅茶苦茶疲れるから例え自分が重傷でも絶対にしたくないって言ってたぞ 369 ななしの審神者さん ≫368それは知らなかった！ 370 ななしの審神者さん ≫368本霊よりの神格の高いやつって殆どおりませんやん 371 ななしの審神者さん じゃあ倶利伽羅さんはもしかしたら俺たちの知らない刀剣で本霊さんかもしれないってことも有りうるのか？ 372 ななしの審神者さん ≫371 373 ななしの審神者さん ≫371 374 ななしの審神者さん ≫371 375 ななしの審神者さん ≫371 376 ななしの審神者さん それは思いつかなかった！！ 377 ななしの審神者さん もしかしたら一番有力候補かもしれないな 本霊だから手入れも出来るし、知識もあるし、情報を漏らしたくない 378 ななしの審神者さん ちょ！聞いて！！昨日！昨日！倶利伽羅さんに私の刀剣たちあったよ！！ エンカウント２回目！ 379 ななしの審神者さん ≫378 kwsk 380 ななしの審神者さん ≫378 kwsk 381 ななしの審神者さん ≫378 kwsk 382 ななしの審神者さん ≫378 kwsk 383 ななしの審神者さん ≫378 kwsk 384 ななしの審神者さん ≫378 kwsk 385 ななしの審神者さん 倶利伽羅さん推測よりも初のエンカウント２回目の方が大事！ 386 ななしの審神者さん はよはよ！ 387 378ことエンカウ みんなの勢いが超怖いっっ スペック簡単に↓ 女審神者20代のパンツは黒 刀剣イベントズ以外は揃ったよ 近侍は雅さん 昨日まで見習い期間中で乗っ取りされかかったって色々バタバタしてたけど倶利伽羅さんのお蔭でなんとかなった！！ありがとう！！ もう１回会って御礼がしたい！！ 388 ななしの審神者さん 女審神者かぁって思ってたら乗っ取り未遂案件であった 389 ななしの審神者さん 倶利伽羅さんの伝説がなんか増えそうな予感 390 ななしの審神者さん 御礼出来なかったんかい！って思ったらそんな場合じゃなかったのね 391 ななしの審神者さん 詳しく話を聴こう 392 エンカウ 詳しく話すよ えっと、見習いが来たのが半月前で担当さんからいきなり「この本丸に見習い送るからそのつもりで」って言われて超ビックリ あんまりにも急だったから最近噂の乗っ取りか？って一応刀剣全員に警戒しておいてって通達したけど不安ばっかりだった 偏見だけでもいけないからって慌てて近侍の歌仙と打ち合わせして見習いにどう教えていくか話し合って気付けば見習い受け入れ当日になってた んでウチに来た見習いはまぁ始めは真面目系だけど後から本性が出てくるパターンの子でこりゃアカンって歌仙と顔を見合わせたときには半分以上の子たちは惑わせられてた しかもありがちな呪物パターンでご神刀ズからは「彼らもなんとか抗おうとしているみたいだが呪物の力が強すぎる。自分たちもなんとか持ち堪えている状態だから主もいつでも逃げれるようにしていて欲しい」って言われちゃった どうやら見習いが使っている呪物が惑わす系じゃなくって刀剣たちから意識を奪う・人形状態にする系のものだったそうで、そもそも呪物に詳しくない者たちが対抗できるほうが少ないって教えてもらった 呪物に負けちゃった子たちもなんとかしようって抵抗してるみたいだけど、それもどうにかできるレベルの抵抗じゃない 見習いに主を傷つけろって命令されて抵抗できる最低ラインだって 一回切るね 393 ななしの審神者さん うわー呪物系とか災厄じゃん 394 ななしの審神者さん 惑わす系じゃなくって意識奪う系かぁ…… 395 ななしの審神者さん エンカウの刀剣たちはエンカウのことが大好きなんだろうな 呪物に下ろうとエンカウに刀を向けないようになんとか抵抗しようとしてるみたいだし 396 ななしの審神者さん 見習い最悪パターンは刀剣たちに自分たちの主を襲わせるパターンだからな 双方のダメージはとてもデカい 397 ななしの審神者さん 審神者は最悪死亡 刀剣は最悪闇堕ち 398 ななしの審神者さん 政府もいい加減乗っ取りが一番戦に効率が悪いって気が付かないのかねぇ 399 エンカウ 私の刀剣たちが頑張ってるんだし私のほうでも呪術をなんとかしよう！って頑張ってみたけどどこに呪物があるのかさっぱりだった こっそり見習いの部屋に入って荷物とか漁ってみたけどそれっぽいのないし、もうダメなのかなって泣いた それでも休めないからまだ見習いに落ちてない子たちに進軍して貰ったんだけど、やっぱり主が注意散漫してると刀剣にもうつるよね、全員重傷になっちゃって絶叫したよ 敵の本陣近くで気づかれる前にって急いで帰還指示出したんだけど、みんなボロボロだから急げない そうしているうちに本陣に居た朔行軍に気付かれてもう駄目だ、主今までありがとうとか言われて誰か助けて！って思ったときにあの方とエンカウントしました 400 ななしの審神者さん そこで切るなし！！ 400げと 401 ななしの審神者さん はよ続き！！ 400おめ 402 ななしの審神者さん 見習いの話も重要だけどここは一応倶利伽羅さんスレだから 403 エンカウ ≫402ごめんごめん！これでも結構短く書いてるんだよ！ 皆さんご存知倶利伽羅さんです。 朔行軍を一撃で倒して行ってくれた姿は本当に格好良かった！ 実は今回進軍して貰ってたメンバーは前に練度が低い頃に間違って厚樫山へ行っちゃったときにも助けて貰って２回目のエンカウントだった 「……………全員重傷とは情けない」 前に倶利伽羅さんに会ったときと同じセルフを言われてみんな悔しそうだったけどそう言われても仕方ないって皆思ったって後で聞いた 見習いに乗っ取られるのも事件だけど本来自分たちは朔行軍との戦いが存在理由で、どんなことがあってもそれ以外のことに気を取られて重傷になるだなんて無様以外何物でもないって、すまない主って言われてこっちも情けない主でごめんねってお互い謝った 倶利伽羅さんは仕方なさそうに全員軽傷～中傷くらいまで簡易手入れしてくれた それで手入れして貰ったお礼に今の戦況がどうとかの話をして、ウチの本丸で起きてる見習い乗っ取りの話もした そしたらさ倶利伽羅さん何かを考えるよな素振りをして近くの林のほうに「五羽丸」ってボソッて呟いたのね え？何？って思ったら 「呼ばれて飛び出た！驚け！五羽丸参上！」 ってチビ鶴丸がババッと出てきた 404 ななしの審神者さん は？ 405 ななしの審神者さん ひ？ 406 ななしの審神者さん ふ？ 407 ななしの審神者さん へ？ 408 ななしの審神者さん ふざけてる場合じゃないから！！ 409 ななしの審神者さん おっと切られた ってかチビ鶴丸ってなんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお 410 ななしの審神者さん 「呼ばれて飛び出た！驚け！五羽丸参上！」 驚いたわ！！ 411 ななしの審神者さん え？倶利伽羅さんに続いて小っちゃい鶴丸登場ですか？！ 412 エンカウ 驚くよねー普通に驚くよねー 「話は聞いていたな」 「おうとも！乗っ取り案件なら俺が一番詳しいからな！」 「……………そうか」 「任せておけ！さあってもう少し詳しい話を聞かせて貰うぞ」 そこから展開は超速かった 五羽丸さん？に分かっている見習いの情報を話したら、五羽丸さんが懐から２つ包帯出して「これを見習いとやらに巻き付けると良い」って渡された １つ目は見習いの目元にくるっと巻き付けてしっかり縛ること ２つ目はその後見習いの指全体に巻き付けて端は縛らず伸ばしておくこと 目元に巻き付けると見習いは暴れるかもしれないけど押さえつけてでも指の包帯は巻かないと後々面倒なことになるって言われた この包帯ってどういう効果があるのって聞きたかったけど…… 「おい！きみ！」 「…………今日は魚だ」 「はぁ？！今日はおれのイノシシのはずだろ？！」 「勝手に着いてきた罰だ…………」 「いーけーずーっ！おれには優しくなーい！」 「…………………喋り過ぎだ」（←この後ボソッ言ってたけど聞き取れなかった 「あっ………………すまん」 倶利伽羅さんがひょいって五羽丸さん抱えて林の方に帰って行っちゃった それで皆が帰って来たら早速見習いに特攻して包帯巻きつけてみたんだよ そしてらね 目に巻き付けた方：ジュジュッて焼き焦げる音と共に見習いが絶叫。呪物に掛かってた刀剣たち意識を取り戻す 指に巻き付けた方：包帯がどんどん赤黒くなって先の方まで染まったら包帯が一瞬で灰になって飛んで行った 指に巻き付けて赤黒く染まって行くあたりで私は三日月に抱き抱えられて前に石切丸と太郎と青江が立って３振りともすごい形相で見習い睨んでた その後政府の私の担当じゃない人がすっごい速さでうちの本丸にスライディング土下座しながらやってきて終了となります 413 ななしの審神者さん 414 ななしの審神者さん 415 ななしの審神者さん 416 ななしの審神者さん 417 ななしの審神者さん 418 ななしの審神者さん 419 ななしの審神者さん 420 ななしの審神者さん 421 ななしの審神者さん 422 ななしの審神者さん 待て 423 ななしの審神者さん ちょ、頭追いつかない 424 ななしの審神者さん 展開は何となく読めてたけど、お待ちになって 425 ななしの審神者さん 五羽丸さん強い 426 ななしの審神者さん 包帯先輩パネェ 427 ななしの審神者さん 多分ご神刀あたりに詳しく聞いてるんだろ？詳細よろしく 428 エンカウ ≫427あんたはエスパーか 包帯について石切丸からの詳細と見習いに起きたことについて青江から解説を貰った 「あの包帯は一度聖水に浸した後に十種類以上の呪いが掛けられているね。一切の穢れを許さない。邪気払いには高級なくらい凄いものだ。清い心、清い行いをしていればあの包帯はなんの意味もなさない、逆に霊力を補足してくれる。ここまでの物を造るなんて余程の知識がないと無理だろう」 「多分あの見習いが持っていた呪物はコンタクトレンズと言うモノじゃないかな？確かどこかの本に目の構造は鏡と同じって書いてあったよ。よく鏡は呪に使われる。そして見習いはあの包帯で呪を払われた。でも目に付けたものを包帯で覆われたら払われるはずの呪はどこに行くんだろうねぇ？あの包帯が吸収すると思ったかい？でもあの包帯は一切の汚れを許さないししっかり縛り付けていたよ。あと指に巻いたあの包帯どうして先まで赤黒くなったら灰になってしまっただろうねぇ。例えば中に溜まっていた穢れがどこかに行ってしまったとか、ね？」 因みに見習いの手は滅茶苦茶焼けた後みたいに火傷が凄かった 私の担当は新しい担当に変わった 見習いの一族、その他数人はどこかの病院に隔離された 429 ななしの審神者さん 包帯先輩パネェっす 430 ななしの審神者さん え？え？目の方は分かったけど指の方が分からない！ 431 ななしの審神者さん 俺分かっちゃった……うわーこれは凄いもの貰ったな、エンカウ 432 ななしの審神者さん 石切丸と青江は結構噛み砕いて言ってくれてるな 本当はもっと構造は複雑だろうに 433 ななしの審神者さん コンタクトレンズとか探しても見つからない訳だよなー 434 ななしの審神者さん 馬鹿な俺氏に分かりやすい説明くれ！ 435 ななしの審神者さん 包帯先輩：穢れダメ！ゼッタイ！清さ100％！ そんな包帯先輩を穢れ100％の見習いの呪物コンタクトレンズ使用中の目に“しっかり”巻き付け縛ります そうすると包帯先輩は穢れを一切許さないマンなので穢れを払おうとします 穢れは外に出ようとしますがここで包帯先輩そんなこと許しません！ 穢れなんか俺は吸収してやんないぜ！とかで見習いの身体の中に穢れは残ります けど包帯先輩穢れゆるないマンだから尚も包帯先輩のターン継続！ずっと俺のターン！ 436 ななしの審神者さん ≫435なんでそんな口調で説明したしｗｗ さぁ今度は手に包帯先輩を巻き付けましょう。このとき大事なことは“縛らない”こと！ あんまり知られてないと思いますが指には『五縁』というものがあります 親指は自分に一番近いご先祖でもある親の縁 人差し指が色々な人たちとの縁 中指は仲間友人たちとの縁 薬指は言わずもがな夫婦の縁 小指が子供の縁 そんな指にわざわざ巻き付け縛らず端を伸ばしておけばどうなるでしょう？ 見習いの身体に押し留められている穢れは外に出たがります 穢れ許さないマンの包帯先輩は端からドンドコ放出していきます 放出していった先ほ縁を辿ります どうだ分かったか？馬鹿 437 馬鹿な俺氏 ≫436≫437先生っ震えが止まりませんっ 438 ななしの審神者さん とっても分かりやすい説明だけどどうしてその口調にしたんだよ 更に怖さがアップしたわ 439 ななしの審神者さん 人を呪わば穴二つどころの騒ぎじゃねぇな 440 ななしの審神者さん そんな凄い包帯ポイポイ渡してくれた五羽丸さん何物？！ 441 ななしの審神者さん ホント五羽丸さん何！？ 442 エンカウ しかも五羽丸さんチラって見えた刀が脇差だったんだって 鶴丸は太刀だし、五羽丸ってそもそも違う名前だよね？ 一体誰なんだろう！？ 443 ななしの審神者さん 倶利伽羅さんに引き続き謎な刀剣が増えたな いやココってただ倶利伽羅さんにお礼言いたいだけのスレなんだけどさ 444 ななしの審神者さん エンカウもし進軍中の会話データとか録音してる派ならちょっと俺にくれないか 確認したいことがあるんだ 捨てアドこれな→kurikarasan.pane@saniwa…… 445 ななしの審神者さん なんだ、なんだ？ 446 ななしの審神者さん 気になることってさっきの会話文であったか？ 447 エンカウ え、まぁ倶利伽羅さんと遭遇中のだけならいいよ 今送るね 448 ななしの審神者さん 倶利伽羅さん本当に何物なんだろうな 449 ななしの審神者さん 手入れは出来る。呪物に詳しい仲間？は居るってすげぇな 450 ななしの審神者さん 呪物に詳しいのか？それなら五羽丸は「乗っ取り案件なら俺が一番詳しい」って言わなくないか？ 451 ななしの審神者さん あ、ホントだ！俺が一番詳しいって言ってるわ 452 ななしの審神者さん “俺が”？“君より”じゃなくってか？ 453 444 気付いたヤツ居るな。よし、一気に書くぞ 俺もその部分が気になってエンカウに会話記録貰ったんだ 五羽丸は「乗っ取り案件は“俺が”一番詳しい」と言ってる それから去り際の今日のメシの話、アレは２人以上いないと成立できない会話だ 「いーけーずーっ！“おれには”優しくなーい！」 “おれには”ってことはもう一振りは絶対に居るんだ それを倶利伽羅さんは喋り過ぎだと言ってる あとボソッと聞き取りずらいけど“ハク”って名前っぽいの呼んでた 耳が良い俺のとこの短刀たちに聞いて貰ったから間違えない それから今までここに情報錯乱すると思って上げてなかったけど、俺の部隊も倶利伽羅さんとちっこい鶴丸みたいな五羽丸っぽいのと遭遇したことがある あのとき倶利伽羅さんはこれも小さい声だったけどその五羽丸のこと“アキ”って呼んでたんだ “ハク”と“アキ”って別の名前だけどどっちも“白”って漢字で書けるんだ もしかして五羽丸って鶴丸が五振りいるんじゃないか？ 例え鶴丸が五振り居なくっても鶯丸とか鳥系の名前を持つ刀剣が居るって考えられると俺は考えている 454 ななしの審神者さん 455 ななしの審神者さん 456 ななしの審神者さん 457 ななしの審神者さん 458 ななしの審神者さん 459 ななしの審神者さん 460 ななしの審神者さん 461 ななしの審神者さん 462 ななしの審神者さん 463 ななしの審神者さん 464 ななしの審神者さん ちょ、五振りとかマジかよ   [newpage] 【おいでませ】黒本丸の唯一神になってますNO,--【伽羅の君】 1 ななしの審神者さん ここは黒本丸の刀剣を引き取った審神者の愚痴スレです。 元々は攻撃的だったり鬱だったりする黒産刀剣たちの相談場所だったけど、最近黒本丸の唯一神として崇められてる通称“伽羅の君”に関する情報交換場所に移行中。 伽羅の君に出会った本丸の方々は唯一神の伽羅の君の悪口を言わなければ比較的良い関係を築くことができます。 また黒本丸に投げ込まれた初期刀と審神者にも大変優しくケアしてくれる素晴らしい方です。あったらアドバイス貰いましょう。 アンチは去れ！荒らしは即ご覚悟！ このスレの情報は俺たちの胃の痛みの解放へと繋がるのだ！ 仲良くキリキリしていこう！ 2 ななしの審神者さん いつも思うけど最後の一行で泣けてくる 3 ななしの審神者さん 言うなって、胃が万年キリキリするのはこのスレのお友達だからさ ・ ・ ・ 621 ななしの審神者さん 伽羅教が本丸中に広まった俺の本丸どうしよう 622 ななしの審神者さん ようこそ伽羅教信者へ 623 ななしの審神者さん おいでよ伽羅教信者、一緒に崇めてれば救われます 624 ななしの審神者さん やーめーてー 俺は宗教団体の一員にはなりたくなーいのー！！ 625 ななしの審神者さん とか言ってきっとこの621はそのうち伽羅教に入教しちまうんだろうな 626 ななしの審神者さん よくあるパターンですね、わかります 627 ななしの審神者さん あのこのスレって伽羅の君って方の情報が解るスレなんですか？ 先日うちで引き取ったの刀剣たちが「あぁ伽羅の君、伽羅の君」って毎日伽羅のお香を焚いて日々祈ってるんですけど…… 628 ななしの審神者さん おや、ご新規さんだね 629 ななしの審神者さん いらっしゃーい！ようこそ！通称胃痛が病まないスレへ 630 ななしの審神者さん 別名伽羅教入教予定者スレとも言う 631 ななしの審神者さん 欲しいのは伽羅の君の情報かな？大体どのスレにも上がってるけど、再度まとめてみるのもいいかもね まとめさんよろしく 632 627こと新規 え、なんかここちょっと他のスレと対応が違う そして思っていたのと違う 633 ななしの審神者さん 新規に優しい胃痛スレだからココ 634 ななしの審神者さん 昔はスレ覗いただけで穢れが凄いって言われてたけど、今じゃスレ覗いただけで悟れそうって言われるスレになってるから 635 ななしの審神者さん ついでに伽羅の香りもするスレも付け加えておけ 636 ななしの審神者さん そうでした、そうでした 637 ななしの審神者さん もう伽羅の香りは生活の一部過ぎて違和感なくなるわー 638 まとめさん はいよ、書き溜めてきたよ 新規に優しいまとめにしておいた↓ 通称“伽羅の君” 戦場で重傷を負うとふらっと現れて手入れしたり、助言をくれたりするお方 見た目は大倶利伽羅だけど身長が脇差位で首に倶利伽羅龍が彫られていらっしゃるよ 出逢った刀剣たちは皆「大倶利伽羅と似ているが全く別物のお方」って言うから大倶利伽羅とは別の神様って考えた方がいいかも なんで“伽羅の君”って呼ばれているかって言うと伽羅の香が彼からしたり、浄化のために伽羅の匂い袋を渡されたりするからそう呼ばれているね 伽羅の君は手入れだけじゃなくってお願いすれば刀解もしてくれるらしい 闇堕ち寸前でもちゃんと本霊に還してくれるから黒本丸の刀剣たちにとって彼は神様だね 彼に貰ったアドバイスで救われた黒本丸の刀剣は数知れず 色んなお札や黒審神者の通報の仕方、はたまた簡易手入れが出来る神気＆霊力が込められた伽羅の香を渡してくれたりするよ あと無理矢理黒本丸にぶち込まれた審神者たちにも優しくって、普通の安全圏な本丸へ保護して貰えるようにしてくれた時もあったね 色々書いたけどとりあえず黒本丸の救世主で彼らの唯一神になってる方って分かれば最初はそれでいいと思うよ 639 ななしの審神者さん うんうん、そんな感じだな 640 ななしの審神者さん 引き取った刀剣は誰なんだ？ 641 新規 え？引き取った刀剣でなんか変わるんですか？ 642 ななしの審神者さん 変わるっていうか、直接伽羅の君にあった刀剣か伽羅の君で命永らえた刀剣かで信仰の仕方変わってくるって言うか 643 ななしの審神者さん 直接会った刀剣たちは彼のカリスマ性やら助言（と言う名の神からのお告げ）に救われて心奪われた伽羅教ガチ勢 命永らえた刀剣たちは伽羅の香に対する絶対の信頼と彼の神気＆霊力に心奪われた伽羅教ガチ勢 644 新規 どっちもガチ勢なんですけど 645 ななしの審神者さん あぁー、直接会った方が恋するガチ勢で命永らえた方が信仰ガチ勢だ 646 ななしの審神者さん 分かるわ―その例え方 647 ななしの審神者さん 毎日悩ましげなため息吐かれると困るよね 唯一神に恋してる自分にため息＆それでもこの恋心が止められないあの方に逢いたいため息ってすごく聞いててごめんって気分になる しかも恐ろしいのがそれが絶対に性欲とかに発展しない点 648 ななしの審神者さん ガチ信仰系も凄まじいけどな 少しでも伽羅の君に対する悪口（それに準じるモノ）を呟けば流血沙汰は当たり前 君たちも付喪神で神様の端くれなのに唯一神作っちゃっていいの？って言うのもアウト 見極め難しいんだよ 649 新規 えっとなんか仲良くできる気がしてこないんですけど…… 650 ななしの審神者さん 大丈夫だ！とりあえず魔法の呪文は「伽羅の君ってどんな方？」だ！ 651 ななしの審神者さん どんな奴はアウト どんな人はギリセーフ 真っ黒本丸からの引き取りなら人はアウトになるから注意 652 ななしの審神者さん そして返事や感想は述べずにとりあえず頷くのが基本 653 ななしの審神者さん 最後に「君もそう思うだろう？」的なことを言われたら笑って頷く 654 ななしの審神者さん 間違えてもそこで返事はしては駄目だ 655 ななしの審神者さん 例え凄い方だと思っていても最初に聞いたときは心底伽羅の君が凄いって思ってないから嘘吐いたことになっちゃうからな 嘘は奴ら伽羅教の刀剣たちが一番嫌がるからとりあえず言質取られないギリギリの“笑って頷く”を徹底すれば大丈夫だ 656 ななしの審神者さん そして最後に伽羅の君を信仰している刀剣が他に居ることを伝えて、刀剣用伽羅の君信仰スレにご案内を掛ける この時、渡す端末はそのスレ以外開けないようにするのを忘れるな 他のスレを開いて闇堕ちした刀剣居るから注意しろ 657 ななしの審神者さん 黒本丸撲滅スレとか刀剣否定系スレとか地雷があるスレも多数あるからな 658 ななしの審神者さん とりあえずこんな感じだ 659 新規 なんか怒涛のコメに色々戸惑いを隠せないです 所々怖い言葉が合ったけどとりあえずアドバイス通り話しかけてみます！ 660 ななしの審神者さん 頑張れ― 661 ななしの審神者さん さて俺は伽羅教の祈りに参加してくるかな 662 ななしの審神者さん 俺も進軍前のいつもの伽羅教信仰に行ってくるとしよう 663 ななしの審神者さん 結局伽羅の君の話を聞いちまえばみんな伽羅の君が絶対唯一神になっちゃうもんなー   [newpage] 【我らの神】絶対唯一神の加護あれNO,---【伽羅の君】 1 ななしの刀剣男士 ここは我らの絶対唯一神であらせられる伽羅の君を崇めるスレです。 伽羅の君に出会った当時の話は勿論、その後の信仰情報を交換するのも良いでしょう。 いつの日にか伽羅の君とまみえるときを願って祈りましょう。 2 ななしの刀剣男士 このスレに来るたびにあの方に近づける気がして嬉しいな いや近づけるって言うのも烏滸がましいって言われてしまうかもしれないけどさ 3 ななしの刀剣男士 わかるわかるー！ 共感できる仲間がいて、一緒に信仰できるってことは嬉しいよね！ あの屑に顕現された時は絶望しかなかったけど、伽羅の君に出会うために顕現できたって思えばあの日々も笑って過ごせるよ！ 4 ななしの刀剣男士 分かりますな 私もあの方に直接お会いすることが出来たのはあの愚図の唯一の良い点でした あの方に直接手入れをして頂いたときは天にも昇る感覚がしましたよ 5 ななしの刀剣男士 なにそれずるーい！ ・ ・ ・ 343 ななしの刀剣男士 あぁ伽羅の君、伽羅の君 344 ななしの刀剣男士 我ら刀剣の祈りを受けとってください 345 ななしの刀剣男士 この信仰が貴方様の糧となることを願っております 346 ななしの刀剣男士 ここが伽羅の君のスレか？ 347 ななしの刀剣男士 おやご新規さんが来たみたいだよ 348 ななしの刀剣男士 なんだかゾクゾクしてしまうね？……信仰心がだよ。 349 ななしの刀剣男士 コテはいらない 伽羅の君とどうやって出逢ったのか その後どうなったのか まぁ伽羅の君の栄光がわかることを書けばいい 350 ななしの刀剣男士 このスレは伽羅の君がどう凄いのか崇めるとこだからな アンタが受けた伽羅の君の施しをできるだけ事細やかに書け 351 ななしの刀剣男士 あぁ本当にここは伽羅の君のスレなんだな 引き取られた審神者に言われた時は本当か疑ったが他にもあの方を知っているモノたちがいると分かって良かった 少しは奴を信用することにしよう 352 ななしの刀剣男士 そうするといいよ 彼らは暫くすれば一緒に伽羅の君を信仰する仲間になる 本丸の刀剣たちも僕たちの教え次第で信仰するようになる 復讐以外でも僕にできたからあなたにもできるはず 353 ななしの刀剣男士 和睦はここにあるのです あぁなんて素晴らしき方なのでしょう 354 ななしの刀剣男士 さてあの方に受けた施しだったな 俺は難民系黒本丸に居た 殆どが闇堕ち寸前だった俺を含めた刀剣たちだったが、ある日伽羅の君と出会ったことで色のない世界から彩のある世界へと変わった 折れそうな俺たちを清らかな湖へと入れ穢れを払い、丁寧に手入れをして頂いた 俺たちの汚らしい話も厭わずに聞いてくださった これ以上生きる希望を持てなかった仲間をあの方の御手で刀解して頂いた あの方からする香りに安らぎを感じた 俺たちの本丸に居る刀剣たちのことも考えて手入れ・刀解出来る程の神気入りの水晶を受け給うことが出来た ご一緒に居た五羽丸様にもお告げを頂き、あの木偶の坊を俺たちの手を使わずに血祭りに上げることができた なんて素晴らしい方なのだろう 俺のちんけな言葉では言い合わらせないほどの素晴らしい方だ 同じ気持ちを持つお前たちにも伝わっただろうか 恐らく伝えたい十分の一も伝えきれていないと思うがすまない 俺にはまだあの方の素晴らしさを語る言葉を知らないのだ 355 ななしの刀剣男士 あぁ拙僧には伝わったぞ その気持ち痛く伝わってきた 356 ななしの刀剣男士 えっと、ぼ、僕たちもあの方を湛える言葉をまだまだ勉強中なんです！ 一緒に考えていきましょう！ 357 ななしの刀剣男士 そうだぜ？ 五羽丸様にも会えたなんてアンタついてるな！ ここに居る連中もあんまり居ないんだよなぁ 358 ななしの刀剣男士 そうなんです！ 五羽丸様は伽羅の君の大切な方みたいだから本当に信仰心のある刀剣たちしかお会いすることができないんだよ！！ あぁ僕も逢ってみたかったです！！ 359 ななしの刀剣男士 確か数振りだけ五羽丸様全員にあった刀剣がいたよね？ 出てこーい！ 360 ななしの刀剣男士 はいはーい！ 僕たち逢わせて頂きました！ 伽羅の君と本当の絆で結ばれている方々で僕たちの信仰心もしっかり認めてくれる素晴らしい方々でした！ね？兼さん！ 361 ななしの刀剣男士 そうだな！国広！ あの豚を駆除する神器も貰えたし、何より器がデケェ！ 俺たちもいつか五羽丸様たちみたいに伽羅の君の御膝元に行けるようになりてぇな！ 362 ななしの刀剣男士 そうなのか、俺が出逢った五羽丸様はお一人ではなかったのだな しかしあの時点で信仰心が認められたと分かって今涙が止まらない 363 ななしの刀剣男士 皆最初はそうだよ 364 ななしの刀剣男士 あぁそろそろ祈りを捧げる時間になりましたね 365 ななしの刀剣男士 おや、私としたことが 祈祷部屋に行って祈祷を上げてこう 366 ななしの刀剣男士 俺たちも行くか 367 ななしの刀剣男士 あぁ伽羅の君、伽羅の君 368 ななしの刀剣男士 我らが唯一神よ   [newpage] 【うちの子】そんな驚きは求めていなかった【帰宅】 1 鶴の嫁御 みんな集合！！ 2 ななしの審神者さん おぉ！久しいじゃないか！姉御！ 3 ななしの審神者さん スレタイのうちの子ってことは雛鶴が帰って来たのか！！ 4 ななしの審神者さん え？なにこのスレ。身内スレなの？ 5 ななしの審神者さん ちょいちょい鶴の姉御がスレ立てしてるスレ主だよ スペック乗っけとくな↓ 鶴の姉御 女審神者 美女とは言わないけど、花があるタイプ 正確はまさしく姉御 最初のスレ立て時はコテ決定時に「姉御」と呼ばれていたが５スレ目くらいで目出度く初鍛刀の鶴丸国永の嫁になり「鶴の嫁御」とコテ変更 スレ民は続けて姉御と呼ぶ奴らが多い 姉御は珍しくも鶴丸との間に男の半神を出産 出産祝いスレでは１スレ全部が祝いの言葉で埋め尽くされるくらい超難産だった その後は生まれてきた子供（このスレでは雛鶴）の成長報告スレとか愚痴スレとかを立てたりしてる感じだな 関連スレはまとめられてるぞ↓ 【そんな驚き】初鍛刀と会話がかみ合わない【いらねぇから！！】 【やっぱり】だからどうしてそうなるの【驚きなのか】 【なんか】悪戯の仕方が変わった【可笑しい】 【そんな驚き】なんで惚れたし！お前はどＭか！？【いらなかった！！】 【なんや】驚きだが結婚します【かんや】 以下略 6 ななしの審神者さん 相変わらず見ていて面白いスレタイである 7 ななしの審神者さん ≫5サンクス！まとめ見てみるわ！ 8 ななしの審神者さん んで？姉御はみんなにお説教された“可愛い子には旅をさせよ”がやっと執着したのか？ 9 ななしの審神者さん 育ち辛い半神の雛鶴がやっと安定期に入ったかと思えば、箱入りはいけない！とか言って本丸から戦場にポイッだもんな 10 ななしの審神者さん せめて万屋とかでバイトさせるとか方法はあっただろうに 11鶴の嫁御 もう、お説教はよしてくれ この２年間散々本丸の皆にもスレの皆にもお説教されたんだ 十分反省してます もう戦場に放り投げたりしないから！！ 12 ななしの審神者さん 分かった分かった 13 ななしの審神者さん こと雛鶴に関すると姉御もダメダメになるｗｗ 14 ななしの審神者さん 初めての自分の子供には親は誰でもダメダメになっちゃうよ 探り探りで親も子と一緒に成長して行くんだからさ ただし姉御は思い切りが良すぎたけど 15 ななしの審神者さん ≫14いいこと言ってるけど締めるとこは締めてるｗｗ 16 ななしの審神者さん んでスレタイの意味はどうしたの？ 17 ななしの審神者さん そんな驚きは求めていなかったとかなんだ？鶴丸並みに成長したとか？ 18 ななしの審神者さん え？あの短刀サイズの雛が太刀サイズまで大きくなっちゃうの？！ 俺はそんなの嫌だぁぁあああああ あのプリティほっぺがｈｓｈｓｐｒｐｒできないなんてぇぇえええええ 19鶴の嫁御 ≫18ぶっ刺すぞ 20 ななしの審神者さん ≫18通報 21 ななしの審神者さん ≫18通報 22 ななしの審神者さん ≫18通報 23 ななしの審神者さん 相変わらずｗｗ息子のことには早いｗｗ姉御であるｗｗｗｗ 24 ななしの審神者さん はいはい、茶番乙 25 ななしの審神者さん で？本題入ろうか 26鶴の嫁御 なにも言わずにコレを見てほしい 【雛鶴×５と脇差サイズのフードを被った大倶利伽羅が映る画像】 27 ななしの審神者さん 28 ななしの審神者さん 29 ななしの審神者さん 30 ななしの審神者さん 31 ななしの審神者さん 32 ななしの審神者さん 33 ななしの審神者さん 34 ななしの審神者さん 35 ななしの審神者さん 36 ななしの審神者さん 37鶴の嫁御 確かに何も言わずにって言ったけど空レスやめい 38 ななしの審神者さん え、ちょ？雛鶴君？分裂したの？ 39 ななしの審神者さん なんで５人も居るの！？ちょ！いつ分裂したの？！ 40 ななしの審神者さん ってか誰！？その脇差サイズの大倶利伽羅って誰？！What？！ しかもなんか死んだ目してるよ？！大丈夫？！ 41 ななしの審神者さん あれ？良く見たら雛鶴×５の持ってる刀種違う！ 42 ななしの審神者さん あ、ホントだ 短刀。脇差。打刀。太刀。大太刀……わーい刀は全種コンプリートだねってんなわけあるかい！！可笑しいだろ！！ 43 ななしの審神者さん ここに薙刀と槍も入ってたらさらにカオスだよ 44 ななしの審神者さん ちゃんと説明してくれ姉御！ 隣に居る光忠が煩いんだ！！ 45 ななしの審神者さん 俺のとこの鶴丸も隣で煩いからはよ！ ついでにその後ろからチラチラみてる大倶利伽羅もいるからお願い！！ 46鶴の嫁御 うん、そのなんていうか簡単に言うと皆半神らしいのよ ウチの子が最初行き倒れてた（まずここで失神しそうだった）ときに大倶利伽羅仮名君が助けてくれて、その後他の４人も拾ったらしい 鶴丸国永の繁殖能力はどうなってるの？滅茶苦茶怖いんだけど それで大倶利伽羅仮名君は雛鶴×５のことをまとめて五羽丸って呼んでるんだわ 鶴丸で５人いるから五羽丸なんだけどちょっと笑った 一応個々で呼ぶときはそれぞれ違う名前で呼んでるみたいなんだけ……… 47 ななしの審神者さん ちょ、姉御そこで切るなし！ 48 ななしの審神者さん 雛鶴行き倒れってそりゃ半神で練度10くらいの子だったらそうなるって！ やっぱり戦場に放り投げちゃダメだっただろ！！ 49 ななしの審神者さん ひぃ！もしかしたら２年前には雛鶴君が死んでたかもしれないと思うと冷や汗出てきた 50 ななしの審神者さん 姉御続きkwsk！ 51 ななしの審神者さん 個々の名前ってなんだよ？ってか五羽丸に笑うｗ 確かに鶴が五羽いるけどｗｗまとめて呼ぶのかｗｗｗ 52鶴の嫁御 ≫51笑ってるけどね、実際会ったら笑えないわよ それぞれ同じ漢字を使って呼び分けてるみたいなんだけど、私たちがその名で呼ぼうとするとめっちゃ殺気飛ばされる。うちの子含めて（） え？うちの子ってそんな子だったっけ？ってなったわ 大倶利伽羅仮名君言い辛いなこの後から栗君で行くわ、栗君に呼ばれるのは嬉しそうなんだけどそれ以外に呼ばれるのは拒否反応が凄まじい 雛鶴たち同士だと「○○の俺」って刀種別に呼び合ってるみたいでいつからウチの子こんなシビアな子になったの 私たちには「俺たち全員五羽丸と呼んでくれ。俺のことはここは実家だしまぁ昔みたいに雛と呼んでもいいが」ってなんか辛い 53 ななしの審神者さん えぇ、俺たちの可愛い雛鶴ちゃんが滅茶苦茶違った方向で成長している 54 ななしの審神者さん 全員呼び名有るのに五羽丸でいいの？いや自分たちの特別な名なんだろうけどさ 55 ななしの審神者さん いや一つの漢字って言ってるからそこまで大層なモンじゃないと思うんだけど 多分“黒”って漢字だったら“くろ”“こく”とかそんな感じだろ？ 栗君も絶対呼び分ける程度にしか使ってないって 56鶴の嫁御 ≫55同じことウチのみかじぃも言ったら抜刀された 57 ななしの審神者さん ファ！？ 58 ななしの審神者さん え？三日月に抜刀？！あのカンスト妖怪じじぃに抜刀？！ 59 ななしの審神者さん せめて殺気だけに留めておきなさい！！ 60鶴の嫁御 ところがどっこい五羽丸はそれを上に行く化け物にだった 「おやおや雛鳥たち、呼び分け程度の名を何故そんなにも大事にするのだ？じじぃがもっと良い呼び名を付けてやろう。さぁこちらにおいで」 ｼｬｷｯ 「呼び分け程度？あぁそんなこと承知さ。だがそれを貴様に言われることじゃないな」 「名を付けられたことのないオレにはどちらも大切な名だ」 「名を捨てたおれにもとてもこの名が大事さ。最高の驚きを君に披露しようか」 「幾らみかじぃでもその言葉は頂けないな、流石の俺もカチンと来たぜ」 「どこから刻まれたい？腕か？足か？舌か？目か？おススメは全部だ」 「…………………五羽丸」 「「「「「はーい！栗！呼んだか？」」」」」ｼｭﾊﾞｯ みかじぃが「おいで」と言った瞬間には全員みかじぃの首元やら腹やら急所に刀突きつけてたの。機動が早いとかいう問題じゃなかったわ。しかも尋常じゃない殺気と瞳孔の開き具合にあのカンストじじぃも冷や汗流してた。 けどそれが一転、栗君が名前を呼ぶだけでシュタッとニコニコ栗君の周りに集合！ 最終的に栗君の両肩に１人ずつ、両腕に１人ずつ、背中に１人栗君に抱えられて部屋まで去って行ったわ 61 ななしの審神者さん 62 ななしの審神者さん 63 ななしの審神者さん 64 ななしの審神者さん 65 ななしの審神者さん 66 ななしの審神者さん 67 ななしの審神者さん 68 ななしの審神者さん 69 ななしの審神者さん 70 ななしの審神者さん なんか雛鶴大人になったのね 71 ななしの審神者さん ≫70これを見てそうコメントできるお前凄いよ 72 ななしの審神者さん もし雛鶴ちゃんにあっても名前には触れないでおこう 73 ななしの審神者さん そうだな、そうしよう。いつ会うか分からんけどな 74 ななしの審神者さん ウチの雛鶴君大好きな一兄が全力で泣いてる だからあれほどすぐに迎えに行けと言ったではないですかぁぁああああってお前普段のロイヤル金繰り捨て過ぎだろ 75 ななしの審神者さん ってか全員半神って超ビックリ集団過ぎるだろ 半神ってそもそも産まれ辛いし育ち難い それが６人（内５名鶴丸父）も居てしかも全員戦場に居たとかヤバいだろ 76 ななしの審神者さん 絶対探してる親居るよね？なんかそんなスレ見たような気がするなぁ 77 ななしの審神者さん 結構前にそんなスレ見た気がするけど覚えてないわ 78 ななしの審神者さん ってかホント栗君何者なの。全員拾ったとか凄すぎない？ 79 ななしの審神者さん 五羽丸君たち名前を付けられなかったとか捨てたとか言ってるけど良い環境に生まれなかった子もいるみたいだな 80鶴の嫁御 ウチにとりあえず２週間は留まるように言ってあるからその間に交流図ろうと思う 因みに今３日目ね？抜刀事件は２日目の昨日起きたわ 昨日の夜に歓迎会も開いてみんなにそれなりに話を聞くようお願いしてさっき集計が終わってスレ立てしたの 色々驚かせる内容があって吃驚したわ 一応載せられる情報上げるわ。何か意見頂戴 五羽丸たちはそれぞれ別本丸の子たちで親は鶴丸国永で、栗君は大倶利伽羅の子 五羽丸たちは鶴丸国永と刀種が違って愛されなかった子、逆に愛され過ぎた子、酒の勢いの所為で生まれたけど母親には別の恋人が居て気まずい思いをしていた子、見習いに生まれた本丸を乗っ取りされてしまった子、そしてウチの子よ 栗君はウチの子から聞き出して「主な育ての親は母親の初期刀らしい」「育ての親たちは栗が刀解した」「栗の親？聞いたことないな」とこの子も中々にヘビーな子ね 隊長は栗君で五羽丸のまとめ役はウチの子 他の情報は他愛もない話ばかりでこの子たち本当に口が堅い！！ ウチの子って菓子につられて攫われる感じの子じゃなかったっけ？！ 81 ななしの審神者さん 結構重たい情報が多いと思ったけど最後で持ってかれたｗｗ 82 ななしの審神者さん 自分の子を菓子につられて攫われる系と言ってやるなｗｗ確かにそんな感じだったけどｗ 83 ななしの審神者さん 愛されなかった子に愛され過ぎた子ってやっぱり育つ環境は本丸それぞれってか 84 ななしの審神者さん 酒の勢いって鶴丸とその審神者何やってるんだ！！ 85 ななしの審神者さん 乗っ取り案件んんんんん。まだあるのかよ、子供にまで被害が行くとか泣けてくる 86 ななしの審神者さん 栗君のお母さんの初期刀ってもしかして山姥切か？栗君フード被ってるし 87 ななしの審神者さん まぁ考えられるのは山姥切か？けど初期刀だけじゃ分からん フード被ってるだけで決めつけるには情報が少な過ぎ 88 ななしの審神者さん 他になんかエピソードないのか？ 89 ななしの審神者さん 姉御なんかくれ、もうちょい日常生活の会話でもいいから雛鶴の成長が知りたい 90鶴の嫁御 成長ねぇ……… 料理は作れるようになってたわ 初日からだったんだけど 「母よ、何点か要望があるんだが」 「アンタそんな硬い口調になったの」 「別にいいじゃないか。それで要望があってだな」 「いいわよ、変な悪戯とかじゃなければ言いなさい」 「母の俺をどう見てたのか分かった。要望はまず料理は自分たちで作るから光忠たちの作る料理はいらない」 「え？一緒に食べないの？本丸一緒に居るのに？」 「食料は自分たちで捕ってくるし作るから問題ない。短刀の俺が俺たち以外の飯だと吐いてしまうからな。まぁ一緒に食べるのは我慢して食わせることも可能だ」 「吐くってどういう状態よ。大丈夫なのその子」 「過剰な愛情は時として暴力となるってことだ。ここ最近でやっと俺たち以外とも嫌悪感持たずに話せるようになったんだぞ」 「本当に大丈夫なのその子」 栗君と五羽丸たちには離れを貸してるからそこの簡易キッチンなら使って良いって一応許可出したわ。光忠たちは雛鶴に料理を振舞う気満々だったから凄く落ち込んでたなぁ 食事は一緒に大広間で食べるようにとのことにして、折角里帰りした雛鶴との接点を少なくするのは嫌だったからそこは押し通されてもらった 91 ななしの審神者さん 短刀の子が愛され過ぎた子なのかな？ 92 ななしの審神者さん 過剰な愛情は時として暴力かぁ 93 ななしの審神者さん 半神ってのもあって大事にし過ぎたんじゃないか？愛され過ぎも大変だってことだな 94 ななしの審神者さん 大変って言葉で済ますには無理がありそうだけどな きっと苦労して育った子なんだろう 95 ななしの審神者さん でもまぁあの料理は真改造！な雛鶴が普通に料理出来るようになって良かったじゃないか 96鶴の嫁御 そうね。あの子たちが作ってた料理がザ☆漢なサバイバル料理もあったけど、普通に合格点上げられる料理だった 97 ななしの審神者さん ザ☆漢なサバイバル料理ｗｗｗｗ 98 ななしの審神者さん そりゃ戦場で生きてたらサバイバル料理が主流になるわｗｗｗ 99 ななしの審神者さん え、やっぱりどこか家とかに住んでた訳じゃないのか 100鶴の嫁御 100貰い！ 定住は基本していなかったらしい 定住して朔行軍に襲われても困るし、歴史修正に繋がっても困るからって基本何拠点かを移動しながら生活していたみたい 他のエピソードはねぇ・・・・・・   [newpage] ちょっとした会話文 「暇だぞ！」 「暇だな！」 「伽羅はどこだ？」 「あっちで寝てるぞ」 「起こそう」 「可哀想だろう」 「んじゃ可哀想じゃない起こし方をしよう」 「どんなんだ、俺」 「どうするんだ、俺」 「近くで起きたくなる話をする」 「たとえば」 「たとえば今日の晩飯の話とか」 「たとえば」 「やりたい悪戯の話とか」 「いいなそれ」 「いいぞそれ」 「伽羅おれは今日混ぜ込みご飯が食べたい」 「おかずはひじきのお浸しは譲れない」 「あと酒もちょっと飲んでみたい」 「朔行軍を縄で釣り上げる悪戯はどうだろう」 「鉄砲の弾を唐辛子の粉末に替えるのはどうだろう」 「……………おまえらもねろ」ｷﾞｭｷﾞｭｷﾞｭｷﾞｭｷﾞｭ 「「「「「ｷｬｯｷｬｯ……ｸﾞｰ」」」」」 「鶴らしくなりたい」 「…………どうした急に」 「いやな、君と一緒にいると俺は鶴みたいに赤く染まることがないと思ってな？」 「…………………」 ・ ・ ・ 「おぉ！太刀の俺！鶴らしくっていいじゃないか！」 「なんのマントだ？それ」 「あ、分かったぞ。伽羅の腰布だろう！それ！」 「なにぃぃいいいい！ずるいぞ！オレ！」 「はははっ！早いものが勝ちさ！どうだ！鶴みたいになっただろう！」 「………………」  [newpage] 簡単人物設定 伽羅 大倶利伽羅と審神者の間に生まれた半神。 歳はそろそろ50歳半ば辺り。20歳を超えた位から数えるのをやめた。 ラブラブ（）な両親のお蔭で死んだ目がデフォルト。 あんな両親で可哀想にと本丸に居る刀剣たちに同情されながらも育つ。 母の初期刀が主に育てていた影響かフードで顔を隠す癖が着いた。曰く落ち着くらしい。 戦闘時は邪魔なので脱ぐ。視界が狭くて戦い辛いとのこと。 服は基本大倶利伽羅と変わらないが中に着ているＴシャツがフード付きのもので、たまに色も替えるお洒落さん。 名前に因んだ伽羅の香はお気に入り。 背格好は脇差位で刀種は打刀。 少し刀解と手入れができるくらいの審神者力有り。 自分に有利なその場凌ぎの生活を送っているがなんやかんや良いように解釈される。 五羽丸を拾い主で一応五羽丸のそれぞれの生い立ちは知っているが、そのうち居なくなると思っているので対して気にしてはいない。 そこを気に入られていることを知らない。 五羽丸には煩いので早く独り立ちしてほしい。 何故か最近神気が上昇していて不思議に思っているが、全ては元ブラック本丸の刀剣たちの信仰心からである。 特性：ものひろい　かんちがい 五羽丸 短刀・脇差・打刀・太刀・大太刀の違う本丸の鶴丸国永と審神者の子である半神。 元々名前があるもの、ないもの、大事にしまっているもの別々だが伽羅に個々で呼ばれる名前を気に入っている。 それぞれ順にシロ・ハク・ビャク・アキ・ユキで漢字は全て“白”。 伽羅から一纏めで見られているがそれが嫌ではなく、むしろ面白くて良いと思っている。 五羽丸と呼べるのも大好きである。 育った環境はそれぞれ違うが同じ鶴丸国永の子の半神として仲良くやっている。 互いには「○○の俺」と刀種で呼び分けている。 個々に付けられた名前は自分で言うか伽羅に呼ばれる以外は許さない。 全員伽羅に出会ってから２年くらいは経っている。 伽羅が信仰されていることを知っているが、それは当然のことだろうスタンス。 重傷で助ける刀剣たちにするのは全て施しだと言う上から目線。 スレ民（伽羅捜索スレ） 伽羅に刀剣たちが重傷を負ったときだけ助けて貰った審神者たち。 縁切りをしっかりされているので２回目のエンカウントは難しい。 今回初めてエンカウが２回目に成功。 しかし成功したのも伽羅がなんかコイツら変に穢れてるなぁっと思って接触したため。 エンカウはもう２度と戦場で伽羅に出会うことはないだろう。 今回五羽丸の推測が上手くいっているが、このあと五羽丸に会うことが中々ないので真相は掴めないままモヤモヤする。 伽羅たちが半神だという考えには至らなかった。 スレ民（黒本丸愚痴スレ） 引き取った刀剣たちが伽羅教だったある意味可哀想な審神者たち。 話を聞いているうちに入教してしまうパターンはよくある。 新規に優しいスレＮＯ.１でよく戸惑われる。 信仰心に嘘があると溝が深まるのでなるべく刺激しない方法を模索中。 昔は開くだけで穢れが漂うスレだったが最近は澄んだ良い香りのする悟りスレになった。 しかし胃痛はいつでも友達である。 スレ民（鶴の嫁御スレ） 姉御肌の審神者と鶴丸国永のお騒がせスレ。 毎度斜め上を行く驚きが待っている。 五羽丸の太刀の実家で、里帰りした我が子がややヤンデレ化していて泣いた。 やっぱり可愛い子に旅をさせよとか思い付いて戦場に出さなければ良かったと猛烈に反省中である。 刀剣スレ民（伽羅教信仰スレ） ただひたすらに伽羅を崇めるだけのスレ。 信仰心が篤く、お前らも一応神様だろというツッコミは受け入れない。 伽羅の君と我らが同じ訳がないだろうが！と抜刀されるから注意。 新規は毎度涙を流すのがお決まり。 祈りの時間はそれぞれ本丸ごとに違うが、誰かが始めれば軽い祈りの時間と化す。 宗教団体が一番怖いと他の刀剣スレから怖がられている。 そして絶対に書き込みをしてはいけないスレと言うか触れてはいけないスレである。 半神 基本産まれ辛いし、育ち辛い。 神格が高すぎても母体が持たないし、神格が低すぎると胎児が持たない。 伽羅の両親は毎日のラブラブ（）で補足した。 鶴丸国永たちはちょうど良い神格だった。 産まれれば盛大に愛され祝われ大事にされるのがデフォ。 絶対に外になんか出さない。子供の頃は不安定だから特に出さない。 五羽丸の短刀の本丸みたいになるのが大体。けどちょっとその本丸は行き過ぎた。 中々生まれることのない子たちなので一般的に半神は知られていない。 物語や書物の存在という認識が高い。 書いてて結構楽しかった。

久しぶりの長編になりました。<br />急に思い付いて休日一日チマチマと書き溜めてたから結構頑張ったと思います。<br />転生とか勘違い系とかそういうネタが好きでごめんなさい！<br />毎日pixiv検索しちゃうのは仕方ないよね？<br />普通の小説も書けるようになりたいけど難しいなー。<br /><br />追記<br />この作品には転生、勘違い、刀剣男士と審神者の子供(半神)、創作刀剣男士(仮)、見習い本丸乗っ取り、ブラック本丸、刀剣男士の宗教・信仰などの要素が含まれております。<br />この追記と注意書きを読んで大丈夫な方はお読み下さい。<br />またこの作品においての苦情等は受けませんのでご了承下さい。

伽羅と五羽丸とその他スレ民

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本丸で過ごしてて、ふと「ほんとうに長い夢だなあ」と思うことがある。痛覚も若干ある気がするし、ほんとうに長くてリアルな夢。 ひょっとしたら現代社会で喪女してたときのほうが夢なのかもしれない。そう考えたらそんな気もするけど、お母さんの顔もお父さんの顔もびっしりばっちり思い出せるからそんなことは別にないのだろう。 私はいつ目覚めるんだろうと思うこともあるけれど、案外この生活が気に入ってたりする。 イケメンが私に対してぐう聖レベルに優しいというなんとも都合のいい夢だけれど、みんなほんとうにいい人だから。 ……いやまあ、いい人っつっても三日月のお爺様とか？そのへんは翁力とイケメンパワーとが混ざりあわさってなんかこうすごい恐いんだけどね？まあでも、そういうのをひっくるめていい夢だと思う。 ーーいい、夢だと思う。 夢。だって、これは夢。いい夢だから。 だから。だから、違う。目の前のこれは、違うのだ。 血の気の引いた顔も、痙攣する指先も、べったりと張り付く赤も。開かない瞼を見てると目の前のその人が冷たくなってしまっているように思えて。違う。違うから。違うのに、違うわけじゃなくて、──どうして。どうして、こうなってしまったんだろうか。 鉛色の空がただ重くそこに在って、私の存在が押し潰されてしまいそうだった。耳鳴りが酷いし、いま自分がどんな表情をしているのか、何を思っているのか、それすらも曖昧だ。そこで気づく。耳鳴りの正体は私の悲鳴だった。 ──ああ、どおりで喉が痛むはずだ。 ──でも、これは夢のはずでしょう？ ＊ 「乱ちゃん！」 主さんに呼び止められて振りかえる。息を切らした主さんは、どうやら走ってここまできたらしい。 はあい、年中無休の社畜の鑑、宝具名はエクスカリバーならぬ「[[rb:約束された勝利の主命 > シュメイトアラバー・ヘシキリ]]」、敏捷EXくらいはありそうな主命厨こと長谷部さんと内番中の乱ちゃんです。うん、そろそろ長谷部さんに殺されそうだね？？？こゎ…。長谷部さんぉこになっちゃぅ……。いやあ怖いわ。っと、それはともかく。 「主、どうかされましたか？」 呼び止められた私よりはやく主さんに寄ってく長谷部さん……こいつ、できる…………！主さんもそんな長谷部さんにドン引きしてる。顔に「お前じゃねえよへし公！」って書いてある気がする。 「あの、はせべさ、」 「なんだ」 「う、ぁ、あの……」 「…………」 「主さんは、私を呼んだんじゃ」 「…………お前はまだ慣れていないだろう。そんな状態で主に粗相をしたらどうする」 「！」 そう言ってふい、とそっぽを向く長谷部さんだが。耳がちょっと赤いので、私を気遣った故の言動であると丸分かりだ。主さんと一緒に「長谷部……！」「長谷部さん……！」と感動していると、慌てたように主さんに何の用件かを促す。んもー照れちゃってー。そして主さんはハッとしたような表情を見せた。 「っあ、み、乱ちゃん！！」 「っひぇい！？」 改めて呼ばれなくてもちゃんと話があるのはわかつてますが？！？！！？ びっくりして悲鳴をあげたら、罰が悪そうな顔で申し訳なさそうに謝ってくる。……い、いや、気にしてないけど。 主さんにこう、謝らせるのってすごい調子狂うんだよな…。なんでかな、やっぱり近所にいたお兄さんにくりそつなお人好しオーラが出てるからかな……。 「ごめん、ほんとごめん！！」 そこで、がっと腕を捕まれる。何事だよと目を白黒させていると、そのまま主さんが走り出して引っ張られる。 前につんのめって転びそうになるのを回避しつつ、なんだよこの状況…と把握できない現状から逃避した。なんだよこの状況。ペロッ…これは、青酸カリ！？みたいな感じになってるよ。ごめん嘘、どんな感じだよそれ。思わずノリで言ったけど、謎にもほどがあった。 廊下を走り抜けて、居住区(と私が勝手に呼んでいる生活スペース)を横切って、食堂やらなんやらも横切ってく。私は当然困惑した。だってこの先には人のあまり来ない、明るさや広さもない裏庭だったから。 「えっ、あ、」 「…っ、後から祟りでもなんでも受けるから、ちょっと我慢してて！」 「えっ」 そういって押し込まれたのは薄暗い倉庫のなかだった。えっ。待って。突っ込みどころがありすぎて乱ちゃんついてけない。祟りってなんだよ物騒だなあ…。私、そんなことできないよ心配しなくても。 ーーなによりも、主さんの苦しそうな、焦ったような、そして怒っているようなーそんな複雑な感情を混ぜこんだような表情が気になった。 なんでこんな所に。……とは、思うものの。主さんが意味もなくこんなことをするとは思いづらい。どうしたんだろうなあと倉庫の隅っこで座りながら考える。 …悪い子はしまっちゃおうねえ～みたいなノリ？いやまさか。ないだろあのひとに限って。あったとしたら乱ちゃん泣いちゃう。善人オーラ溢れる主さんに唐突に閉じ込められるとか、なんだろう主さん実は悪人だったの？演技力たっかいな、みたいな。こいつぁ一本とられたぜ！みたいな。 …………。いったいどうしたんだろう。ああ言っても、主さんは優しい人だ。それは間違いない……と、思う。 でも、倉庫の戸には鍵が掛けられているようで、開けられそうもない。つまり、本当の本当に、閉じ込められている。……いったいどういうことなんだ。乱ちゃんちょっとよくわかんないな。 懐から取り出してぎゅうっと握りしめるのは、主さんに買ってもらった赤いリボンの髪飾り。不安だからかな、変に力が入ってしまう。 そして、結局。私がその暗がりの中から出られたのは、太陽が落ちかけている、夕方ごろだった。そこで私は後悔する。無理にでも外に出ておくべきだった、と。 「わあお。本当にいた」 からからと軽快な音をたてて戸を開けるその人は、見たこともない男の人だった。黒いスーツを着ている。彼は私と目が合うと、嫌な笑みを浮かべる。粘着質で、執着心を丸出しにしたような笑み。 ──ぞわり。 その瞬間、悪寒が背筋を駆け巡る。なにこれ、なにこれなにこれなにこれ。──これは、危ない。危険だ。なけなしの本能がそう叫んでも、身体は怖じ気づいて言うことを聞かずに指先すら動かせない。 「じゃ、行こうか。み、だ、れ、ちゃん」 ハートマークすら付きそうな語調で腕を伸ばしてくる。行くって、どこに。そう問いたいのに、何も喋らせないような威圧感に言葉が出ない。 ていうかそもそも。 私、内番の最中だったんですけど！！？ [newpage] ！似非方言注意！ メリークリスマスと乱ちゃん 「ちょい待ち」 「……？」 「これ、あげますわ」 「……。……く、くま？」 「まあ……。ブッサイクで嫌やったら、」 「っううん、い、嫌じゃない！……かわいい、です(えっなんでそんな罰の悪そうな顔なの？もしかして手作りなの？女子力高くね？？？いらないとか言えねえよ！)」 「……さよか」 「あ、……ありがとう」 「喜んでくれはったんなら、ええよ」 「(眩しいから！！！微笑まないでくれます！？！！！？！)」 「あれ、乱ちゃんか」 「かせんさ、」 「編みぐるみかい？誰かに貰ったのかな？」 「えっと、明石さんに」 「え、明石？」 「え」 「意外だな……。見たところ手作りみたいだし、こういうのは面倒臭がると思ってたんだが」 「そう、なの？」 「ああ、…………そうか、今日は」 「？」 「ふふ、なんでもないよ」 蛍丸とか国俊にあげるために慣れないけど頑張って編みぐるみとかそういうのを手作りしてたら可愛いなって思ったので……。 バレンタインデーと乱ちゃん 「あ、あ、主さん……」 「ん？何かな乱ちゃブフォッ！？！？」 「チョコレート、渡す日、って」 「(ハートチョコレート……だと！？しかも正真正銘女の子から！)」 「い、いりません……でした？」 「(おずおず聞いてくる乱ちゃんまじ尊い)いやいる超いる主めっちゃチョコレート食べたいなー！！！！」 「…………主殿」 「えっ一期お前いつからそこに」 「お覚悟召されよ」ﾆｺｯ 「待て、待て話し合えばわか、」 「あ、お兄ちゃん、」 「なにかな？」 「(うわこいつ変わり身はえー…殺意に塗れた笑顔から慈愛に満ち溢れた微笑み……)」 「お兄ちゃんにも、……チョコレート、が、その」 「…………」 「……あの？」 「」ﾌﾞﾜｯｯｯ 「待て一期！！！！薬研！！！薬研！！！一期が！！！！息してない！！！！！！！」 避けられてた時期もあったぶん不意打ちに弱いお兄ちゃん お雛様と乱ちゃん 「おひめさま……、ですか？」 「ん？ああ…お雛様、だからお姫様でも間違っちゃいねえな」 「かわいい……」 「乱はこういうのが好きなのか？」 「獅子王は好きじゃない、の？」 「えっ、俺？俺はまあ……男だしなあ……」 「そうなんだ。……私は、すき。着物、綺麗です、よね」 「乱もこういうの着てみたらどうだ？」 「え、」 「たぶん似合うと思うぞ、お雛様の格好」 「じゃあ、……獅子王はこっちの人で」 「お内裏様か？」 「うん」 「いいけど…一期に殺されそうだな」 「！？……お兄ちゃん、お揃いだめなのかな」 「いまの、一期に言ったら喜ぶと思うぜ？」 「…………。獅子王がいいかなあ(一期さんだとまた呼吸困難になりそうで心配なんだよね)」 「そうかぁ？」 「ん、」 平安刀だからこういう行事も詳しい獅子王と影ながらギリギリするいち兄。

前回から間とか尺とか急展開とか本当に申し訳ないですすみませんでしたァー！！！(土下座)ついでに投稿時間もアレですね！本当に申し訳ない！！！<br />乱ちゃんがてんやわんやと騒動に巻き込まれつつ初恋を知る話です(最大のネタバレ)<br />そして、元から話の前後が微妙に繋がってないこのシリーズですが、今回はとくにアレなので、あの……ほら、アレです、乱ちゃんがなんとなーく馴染んできたくらいの時間軸かなーと見ていただければ……。<br /><br />また、今回からブラック表現、もしくは不快に感じる描写が増しているかもしれませんので、お気をつけください。例に漏れず<span style="color:#fe3a20;">なんでも美味しく食べれる方向けです</span><br />2P目からは都合上upできなかった季節ものの小話となっております。<br /><br />タイトル表記をミスってたので修正しました(白目)<br />更に誤字を修正しました……(小声)

気づく乱ちゃんと初恋と騒動　前編

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「たっだいま～！」 「戦場に舞い降りし孤高なる情愛の騎士、次男が」 「はいはいただいまただいま～！父さん、母さん、子供たちが帰ったよ！」 「え」 　ガラガラと懐かしい音を立てて、古めかしいガラスの填め込まれた引き戸を開ける。やや時代錯誤な二階建ての家から漂う木の香りと、そこに混ざる人の気配は柔らかく、後ろから射す日の光が玄関の土間に影を作る。ぱたぱたと軽やかに床を擦る音と、ぎいぎいと床を軋ませながら近付く音に、どこかそわそわと落ち着きがなくなる。 「お帰り、おそ松、カラ松、チョロ松」 「お帰りなさい、息子たち」 　顔を出した父、松造と母、松代が、嬉しそうに彼らの名前を呼ぶ。呼ばれた彼らは満面の笑みで声を揃えて言った。 「ただいま！！」 「ほら、上がれ上がれ」 「はーい」 　父と母に促され、おそ松とカラ松、チョロ松の三人は靴を脱ぎ、家の中へと入っていく。 「……」 　そんな彼らの様子を後ろから静かに見つめる『もう一人』を振り返って、チョロ松は声を掛けた。 「ほら、お前も早く来な―――十四松」 「…うん」 　戸惑いながら、十四松は玄関の敷居を一歩跨ぐ。土間で立ち止まり、じっと正面を見ると、十四松は小さく呟いた。 「…おじゃまします」 「何考えてんだよおそ松！？あいつ連れて実家帰るつもり！？」 「あーあーチョロ松うるさいよ、耳元で怒鳴るなって」 　取り調べのための部屋から一歩外に出た途端に始まるチョロ松の詰問に、おそ松は鬱陶しそうに耳を塞ぐ。その態度にチョロ松はますます苛立ちを募らせ、耳を覆っているおそ松の手を引き剥がして怒鳴る。 「お前わかってんのかよ！あいつ超一級戦犯だぞ！？外に出ることだって許可されるわけないし、ましてや実家に連れていくなんて…正気の沙汰じゃない！！」 　がなるチョロ松に、おそ松は面倒臭そうに頭を掻いて溜息を吐く。 「そこは大丈夫だよ、赤塚先生とトト子ちゃんに根回ししてもらうから…つーか、ぶっちゃけあいつの身柄を確保してるって知ってんの俺らと、部下たちと、赤塚先生とトト子ちゃんだけだし。何とでもなる」 「は、ハァ～～～～！！？おま、え、本部と総務への報告義務はどうした！？」 「トト子ちゃんが知ってるから大丈夫で～す。十四松の事と、ついでに有給申請もしてくるから手ェ放してよ～」 　うぇ～んと下手な泣き真似でチョロ松から逃げ出そうとするおそ松。あまりの発言にやや呆然としていたチョロ松の後ろから、カラ松の低く重い声がおそ松にかかる。 「おそ松」 「なぁに、カラちゅん」 「ちゃんと説明しろ」 「…やだって言ったら？」 「…残念だ、俺は兄弟を手に掛けたくはなかった」 「うわああ！！待った！ナックルはやめろ！嘘だから！ちゃんと説明するから！！」 　だからそれ仕舞え！！ポケットからメリケンサックを取り出したカラ松に、おそ松は慌てて弁明する。それを聞いて、カラ松はおそ松をじっとりと半目で睨み付けた。メリケンサックは未だに手の中だ。 　おそ松は、ハァ～と長めの溜息を一つ吐くと、またも頭をがりがりと掻いて二人を見た。 「…お前ら、あいつの話聞いてどう思った？」 「どうって…」 「俺はね、なんか、憐れに思っちゃったんだよね」 　そう言う長男を、弟二人が見つめる。おそ松がゆっくりと足を出す。二人はその後ろに続く。少し背中を丸めて歩くおそ松の足に、迷いは感じられなかった。 「“よいこになりたい”ってさ、どんな風に育てられたらあーなるんだろうな。生まれてこられなかったんじゃなくて、“よいこじゃない”から生まれてこられなかったんだってさ。意味わかんねーな」 「……」 「実は六つ子だったんです！…って言われても実感ないし、同じ顔だとしてもあいつはお前らとは違うからさあ……でも、心の奥底で、『確かにあいつは俺たちだ』って思ってるような感じがあったんだよな～……―――お前らもそうだろ」 　疑問形の形を取らない、確信めいた言葉を振り向きながら放つおそ松に、チョロ松もカラ松も僅かに視線を逸らす。おそ松は続ける。 「もしかしたらさ、【あいつら】は【俺たち】だったのかもしれない。もしかしたら、俺は長男じゃなかったかもしれないし、ここにいるのはカラ松でもチョロ松でもない、【誰か別のもの】だったのかもしれない……“よいこ”なんて、そんなもの誰にもわかんねーんだよ」 「おそ松兄さん…」 　最後にぼそりと呟いた言葉がカラ松とチョロ松の胸に刺さる。“よいこ”なんて曖昧なもの、そんなもので存在の有無を決められるなんて、馬鹿げている。 「…俺だって、どうしたらいいのかわからない。だから、もっと【俺たち】のことをよ～っく知ってる人たちに助けてもらおうってわけよ！」 　わかった？と二人を振り向くおそ松はいつもの食えない笑顔で、弟たちはその理由に揃って溜息を吐いた。 「あ～～～っ！畳！イグサの香り！！堪りませんな～！！」 「ちょっと長男、一人で占領しないでよ、俺が寝らんないでしょ」 「フッ、荘厳なるサンクチュアリに勝るとも劣らない我が実家…そう、まさにエデ」 「息子たち～梨が剥けたわよ～！」 「梨だー！！」 　早々に荷物を置き、揃いのパーカーに身を包んだ三人は居間でゴロゴロと畳の上に転がる。うだうだと畳を堪能する彼らに、松代が大量の梨が乗った皿を持ってやってきた。目の色を変えて皿に飛びつくその姿に、最早『特殊工作軍　鬼の松野三兄弟』の威厳など食べカスほども残っていなかった。 　そんな彼らの輪から外れて部屋の片隅で居心地悪そうに立つ十四松は、松代に与えられた黄色のパーカーの袖をグイグイと伸ばして手慰みしていた。どうしたらいいんだろうかという戸惑いが、十四松から漂う。口元はパカリと開いて笑みを作っているが、その表情は困惑していた。十四松に向かって、松代が声を掛ける。 「ほら、あなたも食べなさいな」 「…い、いいの？です、か？」 「ええ、遠慮してるとこの子たちに全部取られちゃうわよ」 　そう言って朗らかに笑う松代に、意を決して十四松は恐る恐る梨の皿が置いてあるちゃぶ台に近付く。座ろうとせず、立ち尽くす十四松をそれとなく手で招き、おそ松が座らせる。 「ん」 　おそ松がシャクシャクと梨を咀嚼しながら一本のつまようじを差し出す。おずおずとそれを受け取ると、十四松はそっと皿の梨にひとつ差し込んだ。さくりと音を立ててつまようじが差し込まれた梨を持ち上げ、それをじっと見つめる。そして、ゆっくりと口に含んで歯を立てた。 「！」 　シャク、という音と共に口腔に広がる梨の甘みとみずみずしい果汁に、十四松は大きく目を見開いた。 「おいしい？」 「お、オイシイ！あんまーい！ナシ、おれ、初めて食べた…オイシイ！！」 　おいしいおいしいと頬を赤くしながら言う十四松を松代はにこにこと見つめ、おそ松たちは取られてなるものかと押し合い圧し合いしながら梨を奪い合う。 「あ゛っ！？カラ松テメェ、それ俺の梨だぞ！！」 「フッ悪いな兄貴！この間俺の見舞い品を食い尽くしただろう…このかわいこちゃんは俺のモンだぜ！」 「くだらねー喧嘩をするやつらの梨をすかさず奪う俺！ふはははは！！」 「チョロ松お前キャラ見失ってんぞ！！」 　ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人の横で、十四松はむぐむぐと梨を食べる。つまようじに刺さった最初の梨を、それはそれは大切そうにちまちまと食べる十四松の姿に松代は声を掛ける。 「いっぱいあるから、いっぺんに食べちゃっていいのよ」 「えっ、あ、うん…」 　声を掛けられ、食べかけの梨をじっと見つめると、十四松はそれを口に入れてじっくりと味わうようにして噛み締め飲み込んだ。 「おおい、息子たち、ちょっとこっちきて手伝ってくれ」 　梨を食べ尽し、一心地着いたところで松造が庭から呼ぶ声が聞こえた。何かと顔を見合わせ庭に顔を出すと、松造が何やら物を運んでいるのが見えた。つっかけを履き、庭に下りる。 「何やってんの父さん？」 「いや、ずっと先延ばしにしていた物置の整理をしてしまおうと思ってな。要らないものの選別するから、中のものどんどん持ってきてくれ」 　松造が物置を指差し、手伝えと言うと息子三人は揃って嫌そうな顔をした。 「え～？やだよ、俺部屋でぬくぬくしてた～い！カラ松、お前やれ」 　おそ松がカラ松へと視線を投げる。 「フッ…生憎俺はドクターから重たいものを持ってはいけないし激しい動きもNGだと言われているんだ…チョロ松、頼んだ」 　カラ松がチョロ松にジェスチャーで促す。 「俺クソ兄貴どもと違って頭脳派だから選別作業の方やるわ。つーわけで十四松、父さんの手伝いしろ」 「へっ、お、おれッスか！？」 　チョロ松が後ろを振り向き、縁側からそっと様子を窺っていた十四松に声を掛ける。突然名前を呼ばれた十四松は驚きに目を開き、わたわたと手足をバタつかせる。あわあわと慌てふためく十四松に、松造が言う。 「ったく、ようやく帰ってきたと思ったらこの息子たちは…すまんな、頼まれてくれるか？」 　眉を下げ、三人に呆れたような目線を向け、十四松に苦笑しながら頼んでくる松造に、十四松はおずおずと答えた。 「…うん、だいじょーぶ！です！おれ、すっげー力持ちだから！何すればいい？」 「おっ、頼もしいな！じゃあ、取りあえず中に入ってる物全部出しちゃってくれ」 「あいあいさー！」 　松造に向かって敬礼すると十四松は目にも止まらぬ速さで物置へと駆け出し、そしてガチャガチャといくつものガラクタを大量に持ってきた。庭に持ってきた物を下すと、十四松はまたも駆け出し同じように大量のガラクタを持ってきてそれを庭に下す。それなりの大きさの物置で、それなりに物が詰め込まれていたはずだが、十四松の手にかかればたったの四往復しかかからなかった。 「はぁ～…こいつはたまげた」 「これで全部！あとは？おれ、何すればいい？なんでも言って！」 　興奮気味に最後の荷物を置いてから言う十四松に、松造は驚きに目と口を開き、そして朗らかに笑って言った。 「いや、十分だ。あとは選別係に進んで立候補したチョロ松の仕事だ」 「ゲェッ」 　縁側に腰掛けてのんべんだらりとした体勢を取っていたチョロ松の口から心底嫌そうな声が漏れる。そんなチョロ松を、おそ松とカラ松、そして松造がにやにやと笑みを浮かべながら見た。 「だってよチョロちゃん」 「頑張れブラザー！」 「ふざっけんなよ、お前らも道連れじゃ！！」 「残念！俺母さんに買い物頼まれてんだよね！イチ抜けたっ！」 「フッ…北からのwindが俺を呼んでいる…にぃ抜けたっ！」 「あっ！お前らちょ、ま」 　さっさと逃げていく兄二人を追いかける間もなく、チョロ松の手はただ空を切った。チョロ松の肩に、松造がポンと手を置く。 「じゃ、選別するぞ」 「…はぁ～い」 　渋々と物置の物が散乱しているところへ近付くチョロ松。それを見る十四松に、松造は「そうだ」と声を掛ける。 「ほら、お駄賃」 「え…」 「手伝ってくれたからな、これでお菓子でも買ってくるといい」 　そう言うと、松造は十四松の手に500円玉を握らせ、チョロ松と共に選別作業に取り掛かった。 　十四松は右の手の平に乗せられた硬貨を穴が開きそうなほどに見つめると、そっとパーカーのポケットに入れた。 「そ～れゆけ全力ばたんきゅ～こーんやもねんねんころ～り～っと」 「……」 　てくてくと買い物袋を持ちながら歩くおそ松と、その後ろをぺたぺたとスリッパの底を擦りながらついていく十四松。 　松代からの頼まれごとである買い物に行くというおそ松に、「お前も来いよ」と誘われた十四松。初めてのスーパーや商店街に興奮しながらもお使いミッションをクリアした十四松は、おそ松と二人太陽に優しく照らされたアスファルトの道を歩いていく。ぺたぺたと鳴るスリッパが楽しい。おそ松に「いや、靴履けよ」と言われたが、十四松は譲らなかった。 「あ、そーだ。十四松、ちょっと寄りたいとこあんだけど行っていいか？」 　鼻歌をやめたおそ松が思いついたように言う。断る理由も何もない十四松は、こくりと首を縦に振った。 「どこ行くんスか？」 「ん～…いいところ」 　そう言うとおそ松はにっと笑って再び歌いだす。 「これで～いいのだ～、これで～いいのだ～…おっ、あったあった！」 　しばらく歩くと集合住宅の近くの広場へと辿り着いた。おそ松はそこにぽつんと佇む屋台に向かって駆けていく。掛けられていた暖簾を掻き分けおそ松は声を掛けた。 「おーい、チビ太いる～？」 「あん？おっ、おそ松じゃねえか！帰ェッてたのかよ！」 「今朝な～」 　どっこいせとおやじ臭い掛け声と共に椅子に座るおそ松に、チビ太と呼ばれた店主が笑顔で出迎えた。 「取りあえず燗、猪口ふたつね。あと、大根とたまごとがんも」 「昼間っから酒かい、イイご身分だな」 「そーだよ、俺偉いんだよ～」 　にししと笑うおそ松に、チビ太は取り皿におでんを乗せながら「そういやそうだったな」とまた笑った。皿をおそ松の前に置いた所で、チビ太が十四松に気が付く。 「おっ、チョロ松…じゃねえな、カラ松か…？いや、でも眉毛が頼りねぇな、隠し子か？」 「だっはっは！隠し子ね、当たらずとも遠からずってやつだな！」 　チビ太の発言に腹を抱えて笑うおそ松は、十四松に手招きして隣に座らせる。おずおずと座る十四松に、チビ太が問う。 「おう、俺はこのおでん屋の店主のチビ太ってんだ。お前さん名前は？」 「じ、十四松ッス…」 「ふーん…十四松、お前何食う？」 「えっ」 「チビ太のおでんは美味ェぞ～。おすすめは大根、ほんでがんも。あ、あと牛串とーはんぺんとー」 「てやんでぇバーローおそ松！俺のおでんは天下一品！全部おすすめだっつーの！」 　おそ松の発言に怒っているのだか笑っているのだかわからない表情で文句を言うチビ太は、熱燗とお猪口二つを二人の前に置くと取り皿に大根とたまごとはんぺんを乗せ、十四松の前に置いた。 「まずは食え。味のしみた大根を食やあ、その出来におめぇの目はかっぴらくぜ」 　フッと笑いながら腕を組むチビ太。十四松は引っ張りすぎてすっかりと伸びてしまった袖口から手を出し、箸を取った。おでんのだし汁が芯までしみた茶色の大根に、そっと箸を立てると、柔らかく煮られたそれはスッと崩れる。割れ目から湯気が立ち、だし汁がジワリとしみ出してくる。半分に割れたそれをもう半分に割って、十四松は四等分されたうちの一つを口に入れる。 「！！」 　ほくほくとした大根は噛めばほろりと崩れ、じゅわりと汁が十四松の口内に満たされていく。鼻から抜けるだしの香りは優しく、言葉通り十四松の目は大きく見開かれた。 「どうだい、美味ェだろ？」 　言いながら手で鼻を持ち上げるように擦るチビ太の言葉を聞きながら、十四松は夢中で取り皿のおでんを口に入れた。たまごは濃厚な黄身と味の付いた白身の食感がいつまでも噛んでいたい。はんぺんは口の中でじゅわりと溶け、魚の香りがだしと相まって胸の内が暖かくなるようだった。 　幸せそうにはぐはぐとおでんをかきこむ十四松の隣で、おそ松は二つのお猪口に酒を注ぐと小さく一人で乾杯させてぐいとあおった。 「たっだいま～」 「お帰り、買い物ありがとうね」 　チビ太の所でおでんを堪能した二人は、日が傾きかけた頃に家へと戻った。買い物袋を松代に渡すと、おそ松は欠伸をしながら居間へと入っていく。それに続こうとした十四松を、松代が呼び止める。 「ちょっと二階に行ってカラ松を呼んできてくれない？お夕飯の手伝いしてもらいたいの」 　お願いね、と言うと松代はキッチンに引っ込んでしまった。十四松は言われたことを伝えるため、階段を使って二階へと上がっていった。 「あれ」 　部屋の襖を開けると、そこにカラ松の姿はなかった。首を傾げる十四松の耳に、ふとギターの絃を弾く音が聴こえた。開いた窓に寄り、ベランダに出る。はて、音の出処はどこかと耳を澄ませると、どうやら屋根の上から響いているようだった。 　とん、と軽くベランダを蹴って一飛びで屋根の上に立つと、屋根の拝の部分に座ってギターをかき鳴らしているカラ松の後姿が見えた。よくよく耳を澄ますと、呟くように歌うカラ松の歌声が聴こえる。 「Somewhere over the rainbow…Way up high……There's a land that I heard of…Once in a lullaby」 　そのメロディに、十四松はピクリと耳を動かした。聴いたことのある歌だった。優しく絃を弾き、低く深みのある声でカラ松は歌う。 「Somewhere over the rainbow…Skies are blue…And the dreams that you dare to dream…Really do come true…」 　ゆっくりと、ゆっくりと、空に溶けていくようなメロディが風に乗る。橙色の光に照らされたカラ松の背中がどうにも悲し気で、でもとてもとても美しくて、十四松はなんでか知らないが涙が出そうになった。 「Somewhere over the rainbow…Bluebirds fly…Birds fly over the rainbow…Why then, oh why can't I……？」 　絃の震える音と、歌の最後のフレーズが消えていく。音が溶けてなくなっていく感覚が勿体なくて、十四松はそっと目を瞑って余韻に浸る。ザァアと、風が二人の間を駆けていく。 「…虹の向こうには何があると思う」 「！」 　声を掛けられ、十四松はびくりと肩を跳ねさせた。カラ松は座り込んでギターを抱えたまま続ける。 「虹の向こうなんて、誰にもわからないんだ。誰も行ったことがないから。誰も辿り着けないから」 「……」 「信じた夢が全て現実になる、おとぎ話のような国があるのかもしれない。悩みはすべてレモンの雫になって、屋根の上に落ちていく…」 　そんなところがあったら素敵だな、と十四松は思う。鳥のように羽ばたく羽はないから、虹の向こう側は遥か遠い。十四松は、閉じていた口を開いて喉を震わせる。 「…にーさんは、虹の向こうを飛ぶ青い鳥になりたいの？」 「……」 　カラ松は答えない。十四松は言う。 「にーさん、虹を超える鳥になるの。何があるのかなんてわからないなら、鳥になって飛べばいいんだよ。にーさんは、飛べるもの……自由だもの」 「……」 　二人の間に沈黙が落ちる。沈んでいく夕日が赤く燃えて、十四松の目を焼いていく。 「十四松」 「あい」 　カラ松が十四松を呼ぶ。振り返って、掛けていたサングラスを外すと、十四松に笑いかけた。 「…実は、今ブラザーたちに捧げる歌を作っていてな…よかったら、一緒に歌わないか？」 「！！」 　カラ松の誘いに、十四松は大きく目を開く。ここに来てから、十四松の目は驚きと感動でよく開く。十四松は「あい！！」と大きく返事をするとカラ松の傍に駆け寄った。 「にーさん、どんな歌なんですか！」 「フッ…タイトルは『三つ子に生まれたよ』…いや」 　ギターを構えたカラ松は、じゃらんと絃をかき鳴らし、空を見上げながら言った。 「『六つ子に生まれたよ』、だな」 「え～、では、久しぶりの息子たちの帰省に乾杯！」 「カンパーイ！！」 　ガチャンとグラスをぶつけあい、ビールを流し込んでいく男ども。松代は控えめにビールを飲むと、鍋の具を取り皿によそっていく。次々と無くなっていく鍋の中身を、十四松はむぐむぐと口を動かしながら見つめた。 　鍋以外にも机に所狭しと並べられた料理は、各々のタイミングで胃袋に入れられていく。松代は何度も席を立ち鍋の具を足したり、足りなくなりそうな料理やつまみを出していく。腹もくちて、談笑も一心地着いた頃合いに、おそ松がビールの入ったコップを置いて声を発した。 「―――父さん、母さん」 　その声のトーンに、賑やかな空気がガラリと様相を変える。十四松は茶碗と箸を持ったまま固まった。おそ松、カラ松、チョロ松の三人が、松造と松代を静かに見つめる。 「訊きたいことがあるんだ」 「…なんだ？」 　おそ松の真剣な眼差しに怯むでもなく、松造はコップをあおる。空になったコップに、松代がビールを注いだ。 「……俺たちが、本当は【六つ子】だったって話」 　ピタリと、両親の動きが止まる。 「本当なの？」 　チョロ松が尋ねる。十四松の目線は、徐々に下へと向いていく。 「―――どこで、それを？」 　松造の声が響く。厳しく、冷たい声だった。知らず、背中に汗が伝う。 「…こいつ、十四松たちが教えてくれたよ。俺たちは元々【六つ子】で、三人しか出てこられなかったって」 　名前を呼ばれ、十四松はびくりと震えた。手の平にじっとりと汗が滲んでくる。いつも隠れている口元が晒されているから、どんな顔をしていいのかがわからない。 「あなた」 「……」 　松代が松造を呼ぶ。松造は手の中のコップを机に置くと、はあと大きく溜息を吐いた。 「お前たちが元々【六つ子】だったというのは、本当だ」 「！…なんで、黙ってたんだよ」 「あの子たちのことは、父さんと母さんの中に仕舞っておこうと思ったからだ」 　責めるようなおそ松の言葉に、松造は真っ直ぐ見つめながら答えた。 「…元々、全員が無事に生まれてくる可能性はゼロに近かったんだ。お前たち三人が生まれてきてくれたのだって、奇跡に近かった」 「…母さんが父さんに頼んだのよ、誰にも、言わないでって」 　黙っていた松代が松造を庇うように言う。松代は続ける。 「無事に生まれてきてくれたあんたたち三人に、背負わせたくなかったの…ちゃんと、産んであげられなかったのは私だから」 「松代、そういう風に言うなと言っただろう！お前のせいじゃない…仕方のないことだったんだ」 　声を荒げる両親に、おそ松たちは何も言えなかった。父と母の葛藤と、覚悟とは如何程のものだったのか。おそ松たちには知る由もない。おそ松は、一度口を閉じ、再び開いた。 「―――十四松」 　再び呼ばれた自分の名前に、十四松は手の中の茶碗と箸を落とした。あ、と声にならない声が口から洩れる。十四松の首を汗が伝う。恐る恐るおそ松を見ると、おそ松は目で雄弁に語っていた。教えてやれと。お前が何者であるかを、二人の前で言えと。十四松は袖をぐいぐいと引っ張り、殆ど隠れている手をさらに隠しながら声を発した。 「…あ、あっ、あー、あの、おれ、あの」 「？」 　まごつく十四松に、松造と松代が不思議そうに目線を向ける。十四松はごくりと唾を飲み込んで言った。 「お、おれ、【十四松】って言います！と、とーさんと、か、かーさん、が、産めなかった？あ、ちが、出てこられなかった？あの、えと、だめ、だめな子、えと」 　ぐるぐると目を回しながら、額に脂汗を滲ませながら言葉を紡ごうとするが、焦っているのかちっとも言葉になっていない。見かねたチョロ松が、十四松の頭をガシガシと撫でて言う。 「十四松、落ち着いて」 「ち、チョロ松にーさん…」 「大丈夫だから」 　なにが大丈夫なのだろうか。でも、不思議と十四松はその通りだと思った。ゆっくりと息を吸って吐いて深呼吸を繰り返し、十四松は再び松造と松代に向き直って言った。 「……おれ、【十四松】。にーさんたち≪機関≫と敵対関係にある≪組織≫に造られた、じんぞーにんげん。素になったのは、お墓に埋められていた三人の、どれか」 「！」 「な…」 　十四松の口から出た言葉に、松造と松代は目を開き、絶句した。十四松は、言う。 「おれ、【五番目】。三人の中の二番目だから、【五番目】の十四松なんだ」 　ぎゅううと、膝の上で拳を強く強く握りしめる。バクバクと嫌な音を立てる心臓を無視して、十四松は言葉を発する。一言、何かを告げるのがとてもとても苦しい。どうして、真実を伝えるということがこんなにも苦しいのだろうか。 「…いっぱい、人を殺しました。大人も、子供も、男の人も、女の人も。みんなみんな殺してきた。いけないことって、教わったけど…ぼくたちはよいこでいたかったから殺した。ぼくらが生まれてこられなかったのは、『この世に要るよいこ』じゃなかったからって、【先生】はいつも言ってた。だから、よいこでいるために、ぼくらはいっぱい殺しました」 　十四松の目線が、再び下に下がっていく。畳の目を数えられるぐらいに下を注視する。 「ぼくは、頭がおかしいので、人のお顔がわかりません。にーさんたちは、おんなじ顔だからわかるけど、とーさんと、かーさんのお顔はよくわかりません…なんにも、視えない」 　視界が滲む。畳の目がぼやけてきた。喉が震えてうまく言葉が出てこない。 「おっ、おれ、ぼく、わ、わからない、どうしたら、よいこになれるか、わからない。よいこじゃないから、ひと、ころさないと、でも、と、とーさんのおか、おかお、わかんない、かーさんのも、わかんない」 　ぼたり、畳の上に、染みが出来る。十四松は顔が上げられない。ぼたりぼたり、染みが広がっていく。 「よ、よいこじゃないから、だめなんだ…よいこじゃない、から、ふつうになれないんだよ、よいこじゃなきゃ、こ、このよにいられないっ、や、やっぱり、ぼく、ぼく……いきてちゃだめなん」 「十四松」 　そう叫ぶような言葉を遮るように、松代が十四松を抱きしめた。突然のことに、十四松はまた、大きく目を開いた。ぼろりと、大きな涙の粒が頬を流れる。 「十四松…十四松、あんたはよいこよ、とってもよいこ」 「え…」 　自分を抱きしめる松代の言葉に、十四松は声を漏らす。松代の言葉に、松造が続く。 「そうだ、十四松。お前が物置の片付けを手伝ってくれてとても助かった。上三人は適当言って逃げるからな」 「お買い物も行ってくれてありがとうね…母さん、もうけっこういい歳だから、手伝ってくれるとすごく助かるの」 　ぽんぽんと十四松の背中を撫でながら、松代はありがとうと言う。十四松は、ぶるぶると目を震わせる。 「…正直、お前が来たとき、また何か面倒なことに巻き込まれているんだなと思った。おそ松もカラ松もチョロ松も、自分たちで解決できないことがあると直ぐにここに帰ってくるからな」 　そう言われて、上三人は互いに目をやって恥ずかしそうに眉を下げた。仰る通りで。 「お前がどういう風に生まれて、どういう風に生きてきたのか、わしにも母さんにもわからん。でもな、お前が、一生懸命何かを考えているのはようくわかったぞ…十四松、お前はもう、嫌なことはしなくていい」 「！」 「おそ松たちを見てみろ、こいつらはどう見ても世間一般で言う“よいこ”なんかじゃない。機関に入らなかったら、今頃親の脛を齧るどころかむしゃぶりつくすニートになっていただろう」 「さり気無く俺らをディスってくるよな、父さん」 「おそ松兄さんしっ！」 「でも、生きてる。好きなことをして、好きなように考えて、行動して、人生を楽しんでる。“よいこ”じゃなきゃこの世にいられないんだったら、こいつらも今頃墓の中だ」 　松造の言葉に、十四松は動揺した。にーさんたちは、“よいこ”じゃない。でも、人生を楽しんでいる。好きなことをして、息を吸って吐いて、生きている。でも、でも。 「でも、ぼく、わるいこといっぱいした…ううん、わるいことだってわかってるけど、わるいことだって、おもったことない…」 「じゃあ、知っていけばいいんだよ」 「おそ松」 　話を聞いていたおそ松が、会話に加わってくる。コップのビールをあおいで、くつろいだ様子のおそ松は言う。 「悪いことを悪いと思えるように、生きていけばいいんだよ。しんどいこととか、嫌なこととかたっくさんあるけどよ、それでも適当に生きてりゃなんとかなるんだ。心だって同じだよ、【お前ら】は大きな世界を知らないだけ。色んなことを知れば、いろんな感情が生まれる。そーゆー感じでいいんだよ」 「…そうだな、それでいいと思う」 「カラ松にーさん…」 　おそ松の言葉に頷きながら、カラ松は言う。 「正直、俺はお前に部下たちを殺されたことが許せないし、これからも一生許す気はない。……お前が摘み取った命のために、贖罪しろ。人は学習する生き物だ。学べ、そして己の罪を知れ」 　カラ松の言葉は、十四松の心に重く圧し掛かる。許されないことは、苦しい。ただ、カラ松はチャンスをくれた。そのチャンスを生かすも殺すも、十四松の気持ちひとつだ。 「…と、いうわけだから、悪いことがどーのこーのはあんま関係ないと思うよ。ぶっちゃけ、世間一般常識からすると俺たちがやってる仕事だって許されないことのほうが多いだろうしね」 　チョロ松が言う。湯呑に淹れられた茶を啜り、チョロ松は十四松を見つめた。 「不安だっていうなら、俺たちが見ててやるよ。正直、弟みたいな兄貴二人の面倒に比べりゃ楽勝でしょ」 「んだとチョロ松クラァ！」 「やんのかアンクラァ？！」 「うわっ、そういうノリやめろよ！」 　ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人を、十四松は見つめる。学べばいい、わかるようになればいい。許さないと言われたが、その言葉たちにどこか赦されたような気持ちになる。 「十四松」 　松代の声が耳元で聞こえる。柔らかく、温かな声だ。 「今日、一日過ごしてどうだった？」 　松代の問いかけに、十四松の思考は今日の事を振り返る。 　松代に黄色のパーカーをもらった。にーさんたちと色違いのお揃いが嬉しかった。 　生まれて初めて梨を食べた。果物ってものがこんなにおいしいなんて初めて知った。 　松造のお手伝いをしたら、初めてお小遣いをもらった。買い物のときに、使って何かを買おうと思ったけど何となく勿体なくて使えなかった。 　おでん、美味しかった。何かを食べて幸せな気持ちになるなんて、初めてだった。 　お歌を誰かと一緒に歌うのは、とても気持ちがイイのだと知ることができた。 　楽しかった。……とっても楽しかった。薄暗く、なんの色味もない世界が、彩に溢れて美しいと感じた。真っ暗で、一松とトド松しか居なかった十四松の心に、たくさんの色がついていった。たった一日で、十四松の心には様々な色があふれた。十四松は松代に答えた。 「すごく、幸せだった…ぼく、生きてるって、初めて思えた…」 　世界はこんなにも美しく力強いのだと、十四松は思った。おいしいものが食べられて、誰かと会話をして、みんなで笑いあう。当たり前だけど、その当たり前が十四松は嬉しかった。 「十四松、顔を上げて」 　松造に促され、顔を上げる。そして、そこに見えたものに十四松の目がまた震え、視界がぼやけていく。 「十四松、母さんの顔を見てごらん」 「十四松、あなたには、母さんのどんな顔が見える…？」 　二人の言葉に、十四松は声を震わせてつぶやく。 「あ、あ…お、おくち…やさしい形のお口が、あるよ」 「うん」 「はな、おはながある…すごい、ぼくらとそっくりなお鼻が、ある…」 「うん」 「あ、あとね、目、目がね、目があるよ…小さくて、きれいなおめめ…」 「うん」 　十四松の拙い言葉に、松造と松代がうんうんと頷く。十四松は、目の端にいっぱいの涙を溜めて、震える声で言った。 「わ、わかる…あのね、か、かあさん、ぼく…ぼく、かあさんのおかお、わかるよ…と、とうさんのおかおも、わかるよ…！みえる、みえるよ…！」 　そこまで言うと、十四松は耐えきれず、目の端からボロボロと涙を零した。 「あ、う、うあ、ああ、ああああ…うわああああ～！とおさん、かあさぁん！！」 「よいこよいこ…」 「おかえり、十四松…」 　十四松を優しく抱きしめる松代と、松代ごと十四松を抱きしめ、その頭を優しく撫でる松造。そんな二人に縋る様に、わんわんと泣く十四松に、三人の兄たちは目を伏せ、そして優しく微笑んだ。 　パチリと目を開く。泣き疲れて眠ってしまった十四松は、全員が寝静まった深夜に目を覚ました。耳を澄ませ、自分以外の4人の寝息を確認すると、物音を立てないようにこっそりと着替える。洗濯がされたいつものツナギは、嗅いだことのない柔らかな香りがして、それだけでも十四松は幸せな気持ちになった。ツナギのチャックを上まで閉め、いつものスタイルに身を包む。玄関でブーツに足を入れ、靴紐を固く結ぶと静かに立ち上がり、十四松は暗い家を振り返る。こんな言葉がいつか自然と言えるようになると良いな、と密かに憧れていた。 「…行ってきます」 　静かに戸を開き、慎重に戸を閉める。また、ここに戻って来られるように。十四松にはやるべきことがあった。 　吐く息が白くなるほどの外気温に、しかし十四松は今までにない心地よさを感じていた。星がとても綺麗だ。ふと、右の手の平を見つめると黒の油性ペンで歪な花丸が描かれていた。誰が描いてくれたのだろうか。わからないけど、なんだかとても嬉しかった。 「……むつごにうまれたよ～」 　夕方にカラ松と共に作った歌を口ずさみながら、十四松は歩を進めた。 [newpage] 「ただいマッスルマッスル！！」 「！　じ、十四松…！？」 　夜も明けた昼の時間に、十四松は襲撃された所とは別のアジトに辿り着いた。自分たちに宛がわれた部屋へ入ると、ぶつぶつと何事かを呟きながら頭を抱えるトド松と、今にも死んでしまいそうなほどに顔色を失った一松の姿が目に入った。十四松が声を掛けると、二人は勢いよく顔を上げ、そしてその姿を認識すると突進するように十四松に抱き着いた。 「うおっと！」 「十四松…十四松、お前どこに行ってたんだよ…心配したじゃん…」 「兄さん…十四松兄さぁん…！！」 　不安げに肩に顔を埋める一松と、十四松の腹に腕を回し泣きべそをかくトド松に、十四松は苦笑する。 「えへへ、ごめんね一松にーさん、トド松」 「十四松兄さん、あいつらに拉致られたんでしょ！？どこにも怪我してない？大丈夫？」 　ぺたぺたと十四松の身体を触ってどこにも怪我がないかを確認するトド松に、十四松は安心させるように笑う。 「だいじょーぶだよ、トド松。おれ、どこも怪我してないよ！あっ、カラ松にーさんと戦った時の怪我はまだあるけど」 　でもだいじょーぶ！と朗らかに笑う十四松を、一松はぎゅうと抱きしめた。いつものマスクをしていない、呼吸は大丈夫なのだろうか。十四松は頭の片隅で思う。 「…もう、どこにも行っちゃだめだよ十四松。お前の居場所はここなんだから…」 「兄さん…どこにも行かないで、ずうっと一緒にいて…」 「一松にーさん…トド松…」 　ぎゅうぎゅうと十四松を抱きしめる二人に、十四松は微かな安堵と、そして不安を感じる。ここは色味のない世界だけれど、居心地がいい。互いが互いを求めることで、自分たちの存在を保っていられる。暖かな泥の中のように、ズブズブと深みにはまってしまう。 　しかし、十四松はふたりと共に彩りのない世界で朽ちるために戻ってきたわけではない。意を決して、十四松は二人を引き剥がす。 「？　十四松…？」 「どうしたの、兄さん…」 　訝しむふたりを見て、十四松は一度ゆっくりと深呼吸をしてから言った。 「一松、トド松―――ここから逃げよう」 「…は？」 　十四松の言葉に、一松とトド松は揃って目を丸くした。何を言っているのかと責められる前に、十四松は言う。 「ここにいたら、ぼくらはずっとこのままだよ。どこにも行けなくて、何も知らなくて、よいこでないことに怯え続けるだけの生人形…このままじゃ、いけないよ」 「十四松、お前、何言って…」 「一松、ぼくは本気だよ」 「！」 　十四松のいつにない雰囲気と言葉に、一松は息を飲む。誰だ、これは。 「む、無理だよ…【先生】から逃げられるわけないもの…ねえ、どうしちゃったの十四松兄さん？どうして、そんな恐ろしいことを言うの…」 「恐ろしくなんかないよ、トド松。外に出て、よくわかった…ここにいちゃいけない。ぼくらは、ぼくらの足で歩かなきゃ」 　真剣な眼差し、力強い言葉。意思の疎通がきちんとできている、こいつは一体、誰だ。 「で、でも、外に出てどうするの？！どこにも行けないよ！？」 「大丈夫、きっとおそ松にーさんたちが助けてくれるよ」 　その言葉を聞いて、一松は固まった。おそ松兄さん。六つ子の長男。ぼく達の兄さん。兄さん、兄さん、兄さん、兄さん…。 「だから」 　ここを出よう。そう言って笑った瞬間、一松の両手が十四松の首に伸びた。 「がっ…！？」 「いっ、一松兄さん！？」 　突然の兄の行動に驚くトド松の声を無視して、一松はぎりぎりと十四松の頸に力を込めていく。 「ふ、ざけんなよ、十四松ゥ…ここから、出るだと…出てなんになる…？俺たちが、どういう存在か忘れたわけじゃねぇよなぁああ？！」 「い、ちま、づ、う…」 「お前は何だ？俺たちは何だ？！【人造人間】だよ、【人造人間】！！なあ！？人じゃねーんだよ！辛うじて生き物の形してるだけの化け物なんだよ！！」 「は、あ゛、やめ゛」 「い、一松兄さん、やめて、十四松兄さんが死んじゃう！」 　頸を絞め続ける一松に、十四松は抵抗しトド松はやめるよう進言した。しかし、一松の手が緩まる気配はない。 「十四松…十四松ぅうう！お前あいつらに連れてかれて洗脳でもされちまったのかよぉお？！ああ？！俺たちの居場所はここ以外にねーんだよ！！出てくって言うのなら―――お前を殺してやる」 「うっ゛…ぐ、あ…」 　血走った眼で十四松の頸を締め、気道を狭めていく。酸素が届かず力が入らないのか、はたまた兄弟であるから手を出すことができないのか。十四松の抵抗は弱弱しく、一松の手を緩めるには至らない。 「ひ、ひひッ…今更お前一人殺すことに躊躇いなんてあると思ってんのか！？お前の目の前でお前を殺して俺を殺してトド松も殺した！！今更ッ…今更ァアアアア！！」 「あ゛、いぢ…に、さ…」 「やめて！兄さん、兄さんやめてよぉ！！」 　トド松が一松の手を緩めようとするが、一松の手はがっちりと首に巻きつき取れる気配もない。一松は額に青筋を浮かべ、より指先に力を込めた。 「どうせ、どうせお前を殺してもまた次の【お前】が生まれてくるだけなんだ…俺とお前は『造りやすい』からなあ～…ひひひ！俺たちは虫けら以下の命だもんなあ～！！」 「ち、ちが、い゛ちまづ、あ、う」 　一松の言葉への十四松の否定に、一松はますます腕に力を込めた。 「違う！？何が違うっつーんだよ！あ゛あ！？俺も！お前も！所詮生まれてこなかった要らない存在なんだよ…！！」 「あ、あ、お願い、お願い兄さん、やめて、お願い…」 　トド松が一松の腕を掴み、涙目で懇願する。それを一松は一蹴した。 「黙ってろトド松！！…十四松を殺したらおそ松たちを殺す…俺の、僕の弟を誑かしやがって……あんなクソみたいなやつらにぼくのおとうとをわたしてたまるかよぉおお…殺す…殺す…殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやるァアアアアアア、あ、あ、ああ、あ、あぁははははははははははははは！！！！」 「ぐ、あ、ぁ゛あッ……か、ぁっ…」 　小さく、息を吐き出すような音を出し、十四松の腕がだらりと下がった。それを見て、一松は十四松から手を放す。どさりと、重たい音を立てて十四松が床に転がった。 「……」 「じ、十四松兄さん…？」 　トド松が床に転がる十四松を抱き起す。トド松の顔から色が失われていく。トド松は十四松に語り掛ける。 「あ、う、嘘…嘘だよね、ね、兄さん…兄さん起きて…兄さん、ほら、口から泡出てるよ、ふか、拭かなきゃ…」 　ぐいぐいと手が汚れることも気にせずに十四松の口元を拭うトド松を見下ろし、一松は小さく呟いた。 「…死んじゃった」 　その一言に、トド松は手を止め一松を見上げる。目を見開き、口端を歪ませて首を横に振る。 「…し、死んでない…死んでないもん」 　死んでない死んでないと呟きながら首を振るトド松に、しかし一松は淡々と告げる。 「死んだよ。殺したもん」 　容赦のない言葉に、トド松は目に涙を溜める。縋りつくように、十四松に言う。 「兄さん、十四松兄さん…一松兄さんが僕をいじめるよ……起きて、起きて兄さんを叱ってよ…」 「無理だよ、死んでるもん」 　追い打ちをかける一松の言葉に、トド松の涙腺は遂に決壊した。 「あ、あ、ああ、あああああ、ああああああああああああああああ！！！！」 　十四松の身体を抱きしめ、大声で泣くトド松を見、一松は込み上げる何かを堪えるように上を向いて言った。 「かみさま……十四松を、おねがいします」 　トド松の叫び声に掻き消されるような小さな呟きは、薄暗い部屋に広がることなく消えた。 「そいつは聞けねーお願いだな」 　飄々とした声が、後ろから聞こえた。

トド松「神のいない世界に逃げなくちゃ、自由なんてものは存在しない」（※本編にあんまり関係ない発言）<br /><br />第六話、実家編でござい。<br />暖かい気持ちになれるように頑張りました！感想くれたら嬉しいです！←<br />書いてておでん食べたくなったので今日食べました。おでん美味しい大根大好き<br />本編の一人称は全て「わざと」変えております。一応ね<br /><br />また注意事項載っけるの忘れました<br /><br />注意事項<br />・軍人パロです。兄松が軍隊に所属しています。パラレル。ファンタジー<br />・六つ子ではなく三つ子からスタートしてます<br />・一貫したテーマは「兄松VS弟松」<br />・弟松が猟奇的。天使はいません<br />・腐ってません。あしからず<br />・兄松と弟松は仲良くないです<br />・【人造人間】出ます<br />・暴力描写、残酷表現共にございます<br />・十四松は常に狂人というわけではありません<br /><br />以上、何でも大丈夫な方向けの自己責任閲覧小説です<br />注意事項は随時追加予定<br /><br />本編でカラ松が歌っているのはこちらの曲です<br />【<a href="/jump.php?https%3A%2F%2Fwww.bing.com%2Fvideos%2Fsearch%3Fq%3Dover%2Bthe%2Brainbow%26%26view%3Ddetail%26mid%3DDE1EFBA54C476776D791DE1EFBA54C476776D791%26FORM%3DVRDGAR" target="_blank">https://www.bing.com/videos/search?q=over+the+rainbow&amp;&amp;view=detail&amp;mid=DE1EFBA54C476776D791DE1EFBA54C476776D791&amp;FORM=VRDGAR</a>】<br />この曲を聴いて心が抉られるような気持になったあなたは私の友達。世界を浄化しにZONEへ行きませんか（白目）<br /><br />表紙もらった時にマジで職場じゃなかったら泣いてた。さまさん感謝永遠に…！【<strong><a href="https://twitter.com/sa__matsu" target="_blank">twitter/sa__matsu</a></strong>】<br /><br />言わずもがなわしの松垢【<strong><a href="https://twitter.com/nashireo_osmt" target="_blank">twitter/nashireo_osmt</a></strong>】<br /><br />次回は過去編という名の番外編の予定。その後、最終話です。ちゃんちゃん。<br />タグが入りきらねぇので苦肉の策です。

神よ、彩を捨てた僕らを赦したまへ　【第六話】

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今日もいつもの様に野球をして、またまた新記録がでたのでちょっと早いけれど、家に帰ることにした。 とてもお腹が空いていたし、それになんだか家に帰らなきゃいけない、なんとも落ち着かない、うまくいえないけれど、嫌な予感がしたんだ。 「ただいマッスル！マッスル！」 それを振り払うかのように、いつもより大きな声で玄関を開けた。 ガラガラと音を立てて開いた先には、上り框に腰をかけ靴を履いているカラ松兄さんがいた。 「あ………、十四松…。」 帰ってきた僕になぜかびっくりするカラ松兄さん。 いつもだったら僕の大好きな笑顔を浮かべて、おかえりって言ってくれるのに…。 あれれ？座っているカラ松兄さんの横には見なれないボストンバッグで、服装もいつものパーカーでもなく、革ジャンでもなくて、トレンチコートをきっちりと首元までボタンを留めて着込んでいる。 それはまるでこの家を出て行こうとしているみたいで……？ 「兄さん、どこいくの？」 僕の問いにびくりと肩を震わすと、困った目で俺を見上げる。 そのまま無言で立ち上がると僕の大好きな温かい手で、僕の頭をよしよしと撫ぜてくれる。 「兄さん……？」 「この時間なら、誰にも見つからないと思ったんだがな…。」 困った顔をむりやり笑顔にして、僕を撫ぜる手を止めると兄さんは僕に告げた。 「出て行くよ、十四松。」 それは僕が一番聞きたくない言葉だった。 [newpage] あぁ、また夢を見ている。 カラ松兄さんが出て行く時の夢。 熱が出たときにしか見れないカラ松兄さんの夢は、いつも必ずこの夢なんだ。 どうせ見るなら、一緒に野球している時や、歌っている時のが見たい。 カラ松兄さんの笑った顔が見たいのに、必ず出て行く時の夢なんだ。 僕がどんなに引き止めても、謝っても、カラ松兄さんはでていってしまう。 「大丈夫、十四松にはみんながいるから淋しくないさ。」 そんなことを言って、あまりに僕が泣くから、最後は僕をぎゅっと抱きしめて、「十四松にはまた会えるようにがんばるな」ってよくわからない言葉を残して、体を離すと走って出て行ってしまう。 その背中を僕は追うことができない。 必死で足を動かせば追いつくはずなのに、カラ松兄さんの決意が固すぎて、僕は動き出すことすらできないんだ。 カラ松兄さんを追い出す原因になったのはチビ太に兄さんが誘拐された事件だ。 誘拐されたのに放っておいて、夜中にせっかく帰ってきたのに、眠っていたのにうるさかったからなんて理由で、火炙りにされて動けないカラ松兄さんに、みんなで物を投げて怪我をさせた。 次の日もエスパーにゃんこに夢中で一日カラ松兄さんのことを思い出しもせず、病院からボロボロで帰ってきたカラ松兄さんにちゃんと謝りもしなかった。 本当は謝るつもりだったんだ。 でも帰ってきたカラ松兄さんはあまりに普通で、いつもの僕にはよくわからない難しい言葉を使うから、みんなもいつものように謝りもせず、ひどい言葉を投げてしまった。 僕達はいつからカラ松兄さんをいつもの様に扱うようになったんだろう。 僕達のコトを愛してくれていたカラ松兄さんに僕達からの「好きだ」という気持ちを伝えるのをやめてしまったんだろう。 カラ松兄さんが出て行ってからずっと考えているけど、答えはでてこない。 ただわかることは、僕達は僕達を大切に思ってくれていた、そして僕達も愛していたカラ松兄さんを失ってしまったということだけだ。 遠ざかっていく背中に「ごめんなさい。」いくら叫んでも兄さんはけっして振り返ってくれることない。 [newpage] 目を覚ますとぼやけた視界に見慣れた天井。 目覚ましが騒ぎ出したから急いで止めて、布団から抜け出す。 まだ眠っている一松兄さんを起こさないように、枕元に置いてある着替えを抱えて静かに階下に向かう。 冬の朝はまだ暗くて、とても寒い。 でも朝の時間は急ぎ足で駆けていくから、洗面所に飛び込んで着替えと身支度とトイレをさっさと済ませて電気のついている居間に向かう。 開けっ放しの居間を覗くとスーツ姿のチョロ松兄さんとパジャマのままのトド松がいた。 チョロ松兄さんはもう朝食を終らせて、のんびりとお茶を片手に新聞を読んでいた。 トド松はチョロ松兄さんが食べた朝食の片づけをしている。 おはようと声をかけるとトド松が飛んできた。 「十四松兄さん、大丈夫なの？」 おでこに手を当てられた。 寝る前に熱を出しかけていたの、ばれてたんだ。 「もう大丈夫。」 計らなくても自分でわかる。 身体を動かす感じで、もう熱はないと思うんだ。 「うーん、たぶん大丈夫だとは思うけど、無理しないで休んだら？」 「ううん、大丈夫。 　それに急に休んだりしたら、みんな困るから…。」 「そう？ 　じゃあ、朝ごはんもって来るね。」 トド松はチョロ松兄さんの食器を素早くまとめて台所へとパタパタと足音を立てて消えた。 卓袱台のいつもの自分の場所に座る。 「おはよう。 　今日は早いんだね、チョロ松兄さん。」 「おはよう。 　早朝からロケなんだよ。」 「そっか…。 　チョロ松兄さんも大変っすなぁ。」 僕が明るく言うと、チョロ松兄さんは新聞から目を離し僕を見た。 「十四松、あんまり無理はするなよ。」 頭を撫ぜてくれた。 あ、なんかそのしぐさがとってもカラ松兄さんに似てる。 胸の奥がズキズキと痛み出す。 「熱をね…。」 「ん？」 「熱を出すとカラ松兄さんの夢を見れるんだ。 　だから無理するの嫌いじゃないんだ。」 チョロ松兄さんの眉間に深い皺がよる。 「カラ松が聞いたら悲しむぞ。」 「うん。」 わかってるよ。 優しいカラ松兄さん。 俺がカラ松兄さんと会うために、熱を出すまで無理をしてるなんて聞いたらきっとすっごく悲しむね。 ごめんね、カラ松兄さん。 でも僕は無理してでも、カラ松兄さんに会いたくてしょうがないんだ。 「はーい、おまたせ！」 トド松がお盆に朝ごはんを乗せて帰ってきたから、この話はここでおしまい。 カラ松兄さんの話はチョロ松兄さんをしかしないんだ。 他の兄さんやトド松はまだカラ松兄さんがいないことに向き合えてはいない。 僕だってまだ向き合えているわけではなくて、カラ松兄さんを思い出すたびに胸がズキズキ痛むけど、この痛みもカラ松兄さんだから忘れたくないんだ。 だから、チョロ松兄さんとだけ、カラ松兄さんの話をする。 トド松が用意してくれた朝ごはんが卓袱台に並ぶ。 塩鮭に出し巻き卵、豆腐とわかめの味噌汁にあつあつのご飯。 笑顔のトド松にいただきますと手を合わせて、食事を始める。 「こっちが十四松兄さんのお弁当で、こっちがチョロ松兄さんのタレントさん用おにぎりね。」 トド松は二つの可愛いハンカチで包まれたお弁当を卓袱台にのせる。 お礼を述べてお互いありがたくお弁当をいただく。 「十四松兄さんのお弁当は全然いいんだけど、どーして僕がチョロ松兄さんのタレントさんの朝ごはん用におにぎり作らされるんだろうね。」 トド松がそういいながらわざと拗ねてるのがわかるように唇を尖らせた。 「そう言わないでよ。 　あいつ、トド松のおにぎり大好きなんだから…。」 「だいたい、俳優さんだかなんだかしらないけど、わざわざ起こしに行くなんて甘えすぎじゃないの？」 「違うよ。 　やっと甘えてくれるようになったんだよ。」 チョロ松兄さんが担当のタレントさんを思い浮かべたんだろう。 本当に嬉しそうに笑った。 芸能人のマネージャーさんがどんな仕事をしているのか、詳しくはわからないけど、信頼関係を作るっていうのはとっても大事なことなんだろうな。 「僕も手伝ってあげてるんだから、いいかげん、名前を教えてくれてもいいのに…。」 「僕も知りたいっす！」 チョロ松兄さんががんばって仕事してるんだから、僕らだってそのタレントさんを応援してあげたい。 でもなぜかチョロ松兄さんは教えてくれないんだ。 「まだ露出が少なくて、名前を言ってもわかんないんだよ。 　今、撮ってるドラマがもうじき放映されるから、その時には教えるよ、必ず…。」 「絶対だからね！」 「約束だよ、チョロ松兄さん。」 「必ず教えるから…。 　そーいえば一松は寝てたけど、終ったの？」 チョロ松兄さんが話題を変えた。 どうしてそこまでタレントさんの名前を教えてくれないのかは気になるけど、詮索してもこれ以上無駄なんだろうなと頭を一人眠っている一松兄さんのことに切り替える。 「うん、僕が起きるのとすれ違いで布団に倒れこんだよ。 　終った！って呟いてたから、なんとかなったんじゃない？」 「３日は寝てなかったよね？」 「今日、一日起きてこないかもね。」 「好きで書くのと違って、職業にすると大変だよな。」 「でも寝てないのも２日過ぎから、気持ちよくなるんだよねって笑ってたよ、一松兄さん。」 「ドＭ松兄さん、こわッ！」 「ある意味、適正な職業だったのかもな。」 「読んでくれてるといいね。」 誰がとは口には出さない。 だってトド松の目が薄い涙の膜で揺れたのがわかったからだ。 「さて、僕はそろそろ行かないとね。」 チョロ松兄さんはあえてその涙の膜に触れずに立ち上がる。 「あ、僕も！」 茶碗に残ってた最後のご飯を口に詰めると、ごちそうさまをしてお弁当を持って立ち上がる。 チョロ松兄さんの後を追って玄関に向かう。 いつも律儀に見送ってくれるトド松も一緒にだ。 玄関に置いてある通勤かばん（っていってもエナメルバックだけど）にお弁当を入れて靴を履いていると玄関が力なく開いた。 あくびをしながら眠そうな顔で帰ってきたのはおそ松兄さんだ。 「おぉ、二人はちょうど出勤？」 僕達を見て、いつもの笑顔を浮かべる。 「おそ松兄さん、おかえりなさい。」 「ただいま～！」 僕も笑顔で挨拶をするとおそ松兄さんが抱きついてきた。 お酒と香水の匂いがふんわりと鼻に届く。 「ちょ！酒臭い体で十四松兄さんに触んな！」 「えーーー！トドちゃん、冷たいっ。」 怒られたおそ松兄さんは僕から身体を離して玄関にあがると今度はトド松に後ろから抱きついた。 トド松はそれには文句を言わずに、二人していってらっしゃーいと手を振ってくれた。 僕とチョロ松兄さんはいってきますと元気に玄関のドアを開けた。 [newpage] 冬の朝は寒いより、痛い。 吐く息が真っ白だ。 せっかく一緒に出たんだから車で送っていこうというチョロ松兄さんの申し出を断って、愛用の自転車に跨った。 チョロ松兄さんに手を振ってから、よいしょと自転車を漕ぎ出す。 口から出るのはカラ松兄さんと一緒に歌った思いでの歌達だ。 一緒に歌えないのが辛くて、カラ松兄さんがいなくなってすぐの頃は口ずさむことすらできなかった。 でも辛くても涙が出ても忘れたくなくて、僕は歌うんだ。 カラ松兄さんが出て行ってもう一年が立つ。 僕達には出て行ったことを事実と飲み込んで消化するのに多くの時間が必要だった。 最初に動いたのはチョロ松兄さんだった。 自分の本当にしたい仕事をすると言い出して、求人雑誌なんて頼らずに、片っ端から芸能事務所に電話を掛け雑用でもなんでもするので雇ってくれと頼み込んだらしい。 何十件目かに小さな事務所に、しかもバイトで採用された。 そして半年後には無事正社員に昇格してもらえて、今は休みなく働いている。 本当にしたい仕事だったんだろう、毎日がとても楽しそうだ。 次に動いたのは僕だった。 家にいるとどうしてもカラ松兄さんを思い出すし、外で野球をしてもカラ松兄さんを思い出してしまう。 だって僕の野球に一番付き合ってくれたのはカラ松兄さんだったからだ。 一人でハローワークに行って、野球ができる仕事がしたいなんて無茶を言ったら、ここから駅二つ離れた商店街のパン屋さんを紹介された。 赤塚よりは少し都会の駅近くの大きな商店街は野球チームを作っていて商店街の名物にしたかったらしいが、どうにも弱かったらしい。 パン屋の仕事以外に週３回の野球練習と月１回の試合に出ないといけないのが条件で、僕はパン屋さんの就職面接なのに、野球のユニフォームを着ていって打撃とピッチングと肩の強さを見てもらい無事合格した。 野球もできるし、パン屋さんに仕事は僕にあっていたみたいでとても楽しい。 朝はちょっと早いのが大変だけど、夜は早く帰れるし、野球も沢山できるよ。 僕の次に動いたのはトド松だった。 最初は放っておくと食事すらしない一松兄さんを心配して料理を始めたんだ。 台所に立つようになって、カラ松兄さんが母さんの手伝いをいろいろしていたことを知って、カラ松兄さんの変わりに母さんの家事をいろいろ手伝いだした。 最初は失敗ばっかりだったけど、今ではほとんどの家事を完璧にこなせるようになっているし、家事だけではなく、週３日は服屋さんでバイトもしている。 一松兄さんは一番カラ松兄さんに甘えていたから、なかなか動くことができなかった。 日々溜まっていく想いに向き合うことすらできないでいた一松兄さんに、チョロ松兄さんは「ここに吐き出せばいいよ。」と一台のノートＰＣを与えた。 想いを小説という形に吐き出した一松兄さんの作品はネットに上げると瞬く間に有名になって、気付いたら大手の出版社から声を掛けられて小説家になっていた。 出版された本を読んだトド松が「こんなのただのラブレターだからね！」って言いながら号泣していた。 最後まで変わらなかったのはおそ松兄さんだった。 カラ松兄さんがいなくなっても、僕達は仕事を始めても、前と変わらない生活としていた。 パチンコに行ったり、競馬に行ったり、ニート生活を満喫していたけど、時折遅くまで帰ってこないことがあって、みんな口には出さないけど、カラ松兄さんを探しているんだろうなと思ってはいた。 そんなおそ松兄さんも３ヶ月前からどうしても頼まれたと会員制のＢＡＲで働き始めた。 一度だけ僕達も特別に連れてってもらったけど、テレビで見たことがあるような有名人とか、見るからに金持ちそうな人とかが溢れているすごい所だった。 でもそこで笑って接客しているおそ松兄さんはとてもかっこよかった。 この一年カラ松兄さんからはまったく連絡はない。 本当は探したい。 仕事なんてしないで、探しに行きたい。 でも僕は出て行くカラ松兄さんの背中を見てしまったから…。 あの決意に満ちた背中を追うことなんて僕にはとても許されていないんだ。 みんながいるから淋しくないってカラ松兄さんは言った。 うん、カラ松兄さんがいた時は、そこにカラ松兄さんがいなくても淋しくなかった。 でも今はちゃんと淋しくなれたよ。 カラ松兄さんが僕達の元に帰ってこない。 その事実がたまらなく淋しい。 淋しいよ、カラ松兄さん。 [newpage] 歌を歌いながら自転車を漕いで20分程でパン屋さんのある商店街のアーケードが見えてくる。 全長300メートルもある大きな商店街の真ん中に僕の働くパン屋さんはあるんだ。 あと少しで着くのにちょうど商店街に入る前の信号で捕まってしまった。 ここの信号は大きな道に面しているため、少し長い。 でもそれを利用して、入り口に大きな液晶モニターが付いている。 商店街の営業中は商店街のＣＭなんかを流しているんだけど、その他の時間帯は普通にテレビが流れたりしている。 ぼんやりと液晶に目をやると 「仮面ライダー　ナイト」 あ、新作の仮面ライダーのＣＭが流れ出した。 カラ松兄さんがいた頃はよく二人で見たんだ。 他のみんなにはいい年してってバカにされたけど、ヒーローはいつになってもかっこいいんだ。 でもやっぱりカラ松兄さんがいなくなってからは、見なくなってしまっていた。 ちょうど再来週から新しい仮面ライダーのシリーズが始まるんだ。 真っ黒と真っ白の造形はいたってシンプルな仮面ライダーが並んでポーズをとっている。 ちょっとわくわくしちゃうぐらいかっこいい！ 白い仮面ライダーが決め台詞を言った後、黒い仮面ライダーも人差し指を突きつけて決め台詞を吐いた。 「静寂と孤独に支配された深淵に沈むがいい。」 僕は耳を疑った。 どこかで聞いたことのあるようなセリフ。 いや、それよりもその声は、聞きたくて聞きたくてしょうがなかったあの優しい声だったんだ。 液晶画面が仮面ライダーのスーツをから、人間に変わる。 学ランに赤いパーカーを着たやんちゃそうな男の子の横に、牧師さんが着るような襟の詰まった白いシャツを着て笑顔を浮かべるその人は！ 「カラ松兄さん！！！！」 ずっと会いたくて会いたくてしょうがなかった、僕の大好きなカラ松兄さんだった。 [newpage] 事務所が用意してくれたさほど日当たりもセキュリティもよくないワンルームマンションの下の駐車場に車を止めると、合鍵で中に入る。 インターホンは押さない。 きっとまだまだ起きてはいないだろう。 部屋まで着くと遠慮などまったくせず、合鍵で開けると中に入った。 案の定、10畳程のワンルームの窓を頭に置いてあるベッドに彼はまだ夢の中だ。 その寝顔を見た瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。 なんでこいつはこんな可愛い状態で寝ているんだ。 一人で寝るのはなかなか慣れないのはわかるよ、わかるんだ。 でもいい年した成人男性が自分で作ったネコのぬいぐるみを抱いて寝るなんて可愛いことするんじゃない！ 僕はスマホを取り出すと無音カメラのアプリを起動して静かに写真を撮った。 と同時にLINEにメッセージが届いた。 十四松からだ。 『カラ松兄さん、見つけた！！！！！』 やはり十四松が一番に見つけたな。 見つけたら誰にも言わずに僕にだけ教えて欲しいと言ったのをちゃんと覚えていて、個別にLINEを送ってきたのは大いにほめて上げないとな。 でもその前に起こさないと時間がやばいか？ 「出るまで一時間切ってるぞ！ 　起きろ～！」 可愛らしい寝顔を壊すのはもったいないが優しく肩を揺する。 『カラ松兄さん、仮面ライダー！！！！！』 その間にも興奮したように！マークの多いメッセージが届く。 さっき撮った寝顔を写真をご褒美に添付して 『僕の担当俳優　松野カラ松』 『今度、仮面ライダーナイトのブラックナイト役でデビューするよ』 そう打ち込む。 『うわぁぁぁぁぁ！ 　カラ松兄さん、かわぃぃぃぃぃぃい！』 驚くとこそこか？ すぐに返ってきたメッセージに思わず突っ込みたくなるがそこは触れずに 『放映までみんなに内緒にして驚かせたいからもうしばらく秘密ににしておいてくれる？』 と送るとすぐにOKのスタンプが返ってきた。 ほっとしてスマホから目を離すとカラ松がちゃんと起きてはいたけど 「なんでもう食べてるんだよ。」 「お腹空いたから？」 僕の持ち物から勝手に取り出したおにぎりを食べながら首を傾げられた。 やめろ、きょとんとするな、可愛いから！ トド松が作ってくれたおにぎりを嬉しそうに食べてるカラ松の写真も撮るともう一度LINEに貼り付け 『仕事が終った頃にカラ松から連絡させるよ』 『まじっすか！』 『まじだよ 　仕事がんばってね』 『がんばりマッスルマッスル！』 レスポンスの速さに笑いながらひさしぶりに聞いたマッスルマッスルにほっとしながら、LINEを落として、味わいながらおにぎりを頬張ってるカラ松にペットボトルのお茶を差し出す。 「十四松にバレたよ。」 「そっか。 　喜んでくれてるだろうか？」 「すっごく興奮してた。 　今日、仕事が終った頃、電話してあげてよ。」 「あぁ、わかった。」 凛々しい眉をへにゃんと下げて、ふにゃんとカラ松が笑んだ。 あぁぁぁぁ、くっそ可愛い！ 僕の担当俳優、マジでくそ可愛いんですけど？？ 叫びだしたい気持ちを抑えて 「さぁ、とっとと食べて、さっさとシャワー浴びてこいよ。」 マネージャーらしい言葉を吐くとカラ松がこくんと頷いておにぎりの最後の一口を頬張り立ち上げるとシャワーに向かう。 僕はその背中を眺めながら、今日も一日がんばるぞっと気合を入れた。 END 後は設定的ななにかなので、興味のあるかただけどうぞ [newpage] 設定的ななにか 松野おそ松 カラ松がいなくなった事に生活態度を変えない事で最後まで抵抗したが カラ松を探している時に知り合った伝説の情報屋に見初められ、その跡を告ぐ為に現在修行中。 バーテンダーは情報屋の仮の姿である。 カラ松が仮面ライダーを演じることもチョロ松がマネージメントしていることも知っているが 接触をはかってくるまで待ちの状態。 松野チョロ松 カラ松がいなくなった事に責任を感じ、一番最初に動き出した。 カラ松に恥じないように、自分の手で自分の一番したい仕事を手に入れた。 タレント数10人程度の小さな事務所だがバイトでがんばっていた。 その半年後、社長がオーディション会場で目をつけたカラ松をスカウトしてきて 無事に受かったカラ松の担当マネージャーとなると同時に正社員に昇格。 現在カラ松と二人暮らしを実現させようと企み中。 松野一松 カラ松がいなくなった事をいつまでも受け入れなかったが、チョロ松に与えられたノートPCに 自分の想いを小説にして綴り、他人に公開する事によっていなくなった現実を受け入れる努力を始めた。 小説投稿サイトのランキングのトップを何度もとったことで、 大手出版社から誘いを受け、本名で作家デビューを果たしている。 処女作の女子高生と既婚高校教師の許されざる恋を描いた「赤い糸」は10万部のヒット作となった。 悲恋ばかりを書いているのと担当者の意向で何度か顔写真を公開させられ「薄幸の美青年作家」と言われているのは 本人もまったく納得はしていない。 松野十四松 カラ松が出て行くときに立ち会ってしまったため、トラウマを抱えてしまっているがチョロ松の次に動き出した。 野球ができる仕事という条件で選んだ職場だが、持ち前の体力と明るさですっかり仕事場にもなじみ 商店街のマスコット的人気を得ている。 十四松が加入したことにより商店街の野球チームはめきめきと実力をつけ、社会人野球大会で優勝するのは もう少し未来の話である。 松野トド松 カラ松が出て行ったことにより開いた隙間を元相棒のプライドと共になんとか埋めようとがんばっている。 一松の世話を焼いたり、カラ松がしていた家事を全て請け負うようになった。 性格的にも向いていたのか、家事能力はどこにだしても恥ずかしくないものとなり、空いた時間を利用して アパレルショップでバイトもしている。 いわゆるカリスマ店員と呼ばれてるらしく、ツィッターのフォロワーは現在あと少しで１万人を超えようとしている。 松野カラ松 カラ松事変後、夕焼けに５人並ぶ綺麗な景色が焼きついて５人いれば自分はいなくても大丈夫だと 年齢的にも最後のチャンスだろうと小さい頃からの夢だった仮面ライダーになるために家を出た。 高校の演劇部で一緒だった、劇団を立ち上げた先輩を頼り、半年程ニートですり減らした演劇魂を鍛えなおし オーディションに臨み、無事に合格した。 その時に知り合った芸能事務所の社長に言い包められ現在の事務所に在籍を決め、チョロ松と再会した。 仮面ライダーナイトの第一回目の放映とともに一度家に帰るつもりでいる。 チョロ松が二人暮らしを画策しているのはまったく気付いてはいない。 [newpage] 仮面ライダーナイト　設定資料 本作品では「悪魔祓い」をモチーフに「家族愛」をテーマにおいている。 ２号ライダーの位置づけはなく、主役のライダーを「ホワイトナイト」「ブラックナイト」二人にして第１話から登場させている。 シンプルな仮面ライダーのデザインでホワイトナイトは白、ブラックナイトは黒を基本に手と足と顔の一部にお互いの色が差し色で入っている。 基本的には同じデザインだが背中の部分は大きく異なっている。 ホワイトナイトは天使の羽をモチーフとした飾りが付き、ブラックナイトは膝丈までのマントをまとっている。 キーアイテムとなる「フォックスアロー」によってフォームチェンジをするが、最初の６色はシンプルに差し色の部分と羽とマントの色のみ変化する。 またお互いが同じ空間にいないと変身できないのも大きな特徴である。 なぜなら「ホワイトナイト」に変身するにはハルに憑依している白狐（ハクコ）を「ブラックナイト」に変身するにはアキに憑依している黒狐（クロコ）をベルトに変化させる必要があるからなのだ。 敵は人間の身体を乗っ取り意のままに操ることができる憑鬼（ヒョウキ）と呼ばれる存在である。 登場人物 皇　明（スメラギ　アキ）17歳　演者　伊達晋太郎 本作品の主人公の一人、ホワイトナイトに変身する。 私立　皇　学園　高等部に通う高校２年生。 10年前に両親が亡くなってから、上の兄、晴に育ててもらって感謝もしているが、反抗期はなかなか収まらず事あるごとに衝突している。 性格は明るく社交的でなんでも首を突っ込まないと気がすまないタイプで、晴が憑鬼祓いを隠れて行っていた現場にも顔を出して、逆に襲われホワイトナイトに変身する羽目になってしまった。 基本的な服装は皇　学園の学ランだが、中にお気に入りの赤いパーカーを着ている。 皇　晴（スメラギ　ハル）25歳　演者　松野カラ松 本作品の主人公の一人、ブラックナイトに変身する。 皇教会の牧師で、隣接する私立　皇　学園のスクールカウンセラーもしている。 内密に憑鬼祓いも受けており、親譲りの祓う力はなかなかにして強力で信頼されている。 また10年前に両親を目の前で憑鬼に殺されており、残った幼い弟妹を自分の力で育てた事あり、極度のブラシスコン患っている。 性格は温和で優しく正義感にも熱いのだが、なぜか人の感情がうまく理解できずデリカシーを欠くこともあり 弟妹から怒られることも多い。 弟妹に隠れて憑鬼祓いを行っていたが明を巻き込んでしまい、助けるためにブラックナイトに変身した。 基本的な服装はノーマンカラーの腰まである白シャツに細身の寒色系のパンツを合わせている。 胸には大き目の金色の十字架を掛けている。 皇　雪（スメラギ　ユキ）14歳　演者　盛岡　理沙 本作品のメインヒロインで明と晴の妹にあたる。 記憶の残らないほど幼い頃に両親をなくしたが、二人の兄に大事に育てられたおかげで優しく素直に育っている。 ただこちらも反抗期の為、晴には少々当たりがきつい。 基本的な服装は皇　学園のセーラー服。明のように着崩したりはせずきちんと着ている。 こんな所まで読んでいただきありがとうございます。 途中から「僕が考えたカラ松にさせたい仮面ライダー」になってしまっていますね……。 いや、カラ松に仮面ライダー似合うのではないかと妄想しだしたらまったく止まらなくなりました。 ちなみに仮面ライダーの新シリーズは秋口にはじまりますが、冬の寒い中、十四松が叫ぶシーンが浮かんで止まらなくて勝手に冬に変更しちゃっております。ご了承くださいませ。

カラ松がカラ松事変後、なにも言わずに家を出た後の残された兄弟達の話です。<br />バンプのRAYを聴いているとどうしてもカラ松が姿を消した後の十四松の歌に聞こえてしょうがなかったのです。<br />今頃、カラ松事変の話です。<br />しかも何番煎じのネタが多々含まれておりますので、ご注意ください。<br />あいかわらずのカラ松に夢見すぎて、頭がおかしくなってますｗ<br /><br />カラ松は最後の方にちょこっとだけでてきますが、本当にちょこっとだけです。<br />一応タグにカラ松愛されいれておきます！<br />本人はそのつもりで書きましたｗ<br /><br />3/19　追記<br />3/6　DR　28位　女子に人気　22位　3/7　DR　12位　女子に人気　45位　いただきました。本当にありがとうございます！ブクマも1000超え、評価もコメントも沢山いただきありがとうございます。スタンプも憧れの続きを全裸待機タグもありがとうございます。とってもうれしいです～<br />アンケートも沢山お答えありがとうございます！ぎっりぎりおそ松兄さんが逃げ切ったようなので、続きはたぶんおそカラになると思います。おそ松兄さんよかったねぇ。続きはどこに需要があるかわからないのに、書き出した「オカマバーで働く次男とお客さんな長男」の話の後になると思いますのでのんびり待っていただいたらいいなと思ってます。<br /><br />もうちょい早くに追記書きたかったんですが、ごっつい風邪を引いておりまして死ぬかと思いました。今年の風邪はすっごいです＞＜みなさまもお気をつけくださいませ。ダメ全裸待機…

次男が家を出た後の話

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6504074#1

【異界に】すみません人違いです【誘拐】 注意 ・某掲示板形式 ・しかし書いてる奴はほとんど本家を見ない人間 ・時間、IDの表示はケータイから見づらいしめんどくさいから省略 ・スレの進み具合と時間の流れのバランスが圧倒的におかしい。見逃して。 ・一応腐向けではないつもりだが、脳みそ腐ってる奴が書いてる。 ・書いてる奴がホラークラッシャーなせいで全然怖くない ・ホラー詐欺。もはやほのぼのホラーという謎な物体 ・キャラ崩壊感否めない 以上を許せる方向け。閲覧は自己責任。 [newpage] 【異界に】すみません人違いです【誘拐】 1 番目の松 もういい加減にしてほしい… 2 番目の松 神隠しかと開いたら、あれ、意外に落ち着いてる？ 3 番目の松 スレタイってことは１は今異界から打ってんの？ 4 番目の松 釣りだろ 5 番目の松 確かに釣り多いよな、異界トリップ 6 番目の松 またひとり闇にのまれてしまったのか… 7 番目の松 スレ立てたのはここ以外繋がらないからか？なんてオカ板あるあるなんだ 8 番目の松 いい加減にってことは>>１はよくこういうのある系？ 9 番目の松 っていうか釣りじゃなかったら>>１は大丈夫なのか？ 10 紫 コテこれで。 思った以上に人いて引いたわー…。暇なの？ありがたいけど。 残念ながら>>７の言うとおり。 神隠し（？）に会う→メール・電話×→オカ板 こんなあるあるはいらない。 >>８ 何回かこういうことあった。いつもはひとりだし気がついたらなんとかなってたけど、今回は様子違うし兄弟も一緒だからスレ立てた。 あと>>６は男？ゲロ吐くほどイラついたから、男なら化粧して下だけ脱いで夕飯作ってる母親に後ろから「ごめん…」って意味深に声かけて。女子なら許す 11 ６ 男だけどなんで！！？ 12 番目の松 この>>１は鬼か 13 番目の松 家庭内会議の予感 14 番目の松 一体>>６の何が紫をそれほどまでにイラつかせたのか 15 番目の松 話変える。 兄弟と巻き込まれたっぽいけど一緒にいるのか？ はぐれたとかだったらヤバいぞ？ 16 番目の松 軌道修正乙 17 番目の松 そういや神隠し中だっけ？紫余裕そうだから忘れるわ 18 紫 >>14 書き込みが苦手な奴に似てて思い出したから 大丈夫、はぐれてないよ。今は二人で景色やばいとこに閉じ込められてる？感じで、さっきからずっとツッコミまくってる。 自分より騒いでる人見るとなんか冷静になるわ… 19 番目の松 >>自分より騒いでる人見るとなんか冷静になるわ… あるある 20 15 とりあえずはぐれてないならよかった。 やばいとこって言うけどスレ覗くのは問題ない感じ？ 21 番目の松 それよりもツッコミまくってる兄弟が気になる。 あと、>>6へのの理由が思った以上に理不尽だったwドンマイw 22 番目の松 兄かな？弟かな？ 23 6 ・゜・(ノД`)・゜・ 24 番目の松 小さい弟だと俺得 25 番目の松 ショタコンかよ 26 番目の松 ちがいますぅ～小さい男の子ってのが好きなんですぅ～ 27 番目の松 ショタコンじゃねぇかwww 28 紫 >>26 残念でした～、僕が弟でした～ｍ９(^д^)プギャwwwww 兄さんそろそろうるさいしスペックでも書かせることにする。 >>20 閉じ込められてるだけで今のところ何にもないしへーき 29 番目の松 急に紫のテンションが上がってワロタw 30 番目の松 そういやスペックまだだったな 31 26 いや、まだだ、まだ紫がショタという可能性が残っている…！！ 32 番目の松 無理だろwwww諦めろwwwww 33 番目の松 >>６を変態に仕立て上げようとしたやつだぞ。そんなショタ嫌だ 34 番目の松 書く余裕あるなら、ついでに経緯も書いてくれ 35 紫 >>34 わかった。それは僕が書く。といってもほとんど中身ないけど。 >>31 ふぇえ…ここどこぉ？（20代男性） おら、満足かよ変態 笑 36 31 おげぇえええええ 37 番目の松 のりのいい紫w 38 番目の松 ショタコンにはきつい仕打ち 39 番目の松 成人男性の「ふぇえ」はキツイw 40 番目の松 いや、ボクっ子兄さん呼びの紫なら俺は全然大丈夫だな！！ むしろ… …ふぅ 41 緑 もげろ 42 番目の松 いまのどこにヌく要素がってはえぇええええ 43 番目の松 それより>>41のコテ 44 番目の松 >>43 45 番目の松 >>43 46 番目の松 >>43 47 番目の松 >>43 ひゅんってした 48 番目の松 ごめんなさいすみませんゆるしてくださいじょうだんだったんですすみません 49 緑 >>48 (^^) お察しのとおり、紫の兄です。紫に言われてスペックまとめたから載せますね。 50 番目の松 兄ｷﾀー(ﾟ∀ﾟ)ー！！！ 51 番目の松 ｷﾀ━(ﾟ∀ﾟ)━！！！ 52 番目の松 兄だ！！！！ 53 番目の松 紫と共に異界にトリップ中という兄か！！ 54 番目の松 ツッコミいれまくっていたという兄か！！ 55 番目の松 ツッコミwwwwww緑は落ち着いた？w 56 番目の松 兄の口調は優しそうだがが＞36は許さないスタンス 57 番目の松 それな。かつてこれほどまでに恐ろしい(^^)を見たことがあるだろうか 58 番目の松 ﾍﾟﾛッ…これは！ブラコンの味 59 緑 やめて、ブラコンとか吐く。 はい、スペック 紫（スレ主） 成人済みニート。自分のこと燃えないゴミとか言っちゃうダウナー系男子。自己否定意識が強いフリして他人に「ああそうだよゴミだよお前！」と罵られたいだけの変態。存在がSM。自称目を離すと何しでかすかわからない犯罪予備軍。実際は兄弟思いの優しい面もある。別に霊感が強いわけじゃない（本人談）本人曰くこれが初めてじゃないらしい。は？聞いてないんだけど？ 緑（俺） 成人済みニート。紫の兄。兄弟の中では一番ふつう。真面目常識人。ホラー体験は初ですっごいびっくりした。っていうか事前告知してくれないとこのあと用事あったらどうすんだよ。 >>55 とりあえず一通りツッコミきったかな。 60 番目の松ｈ お前ら兄弟はなぜすぐ吐くの？wwwww 61 番目の松 最後一文に緑のツッコミに対する異常な使命感を垣間見た 62 番目の松 二人共成人済みニートとか親御さん泣くだろwww 63 番目の松 ブーメラン乙 64 番目の松 は？俺の弟は働いてるし？？ 65 番目の松 お前はニートなんじゃねーかwwwwww 66 番目の松 っていうか緑wwwニートにこのあとの予定とかないだろwwwwww 67 番目の松 それなw事前告知とかwwwwwwホラーになに求めてんだよwwwwww そうだホラーじゃん 68 番目の松 ∑はっ！！ 69 番目の松 ∑はっ！！ 70 番目の松 ∑(゜д゜)はっ！！ 71 紫 そうだよ地味にホラーだよ。何も起こってないけど今のところ。 72 番目の松 あ、紫おかえり！！ 73 番目の松 おかえり！！経緯かけたか？ 74 紫 一応。兄さんと話してたから遅くなっただけで特に中身無いけど。 昼頃に起きた僕は飯もそこそこに、天気がいいからいつもどおり猫に会いに出かけた。起きたら誰もいなかったから、ほかの兄弟もたぶんそれぞれ出かけてた。 夕方頃、最近子猫が生まれた奴に会いに路地裏に向かった。 その途中、予感？みたいなのがよぎった。零感だけどこう何度もさらわれてると前兆というか前触れというかそういうのがなんとなくわかるようになるんだよね。で、あ、これまたかよ…と思ってたら 「あれ、紫？」 て声がした。慌てて振り向くと緑兄さんがいた。さっき聞いたら、緑兄さんは橋本にゃーっていう地下アイドルのイベント帰りにたまたま通りかかったらしい。本能的にこれは捕まえとかないとダメかもしれないとおもって手首を思いっきり掴んだ 緑「は！？おまえなに！？」 紫「なんか、たぶん、離したらはぐれる」 緑「はぁ！！？」 で視界がぐるんって回った。と思ったらなんかすっごい悪趣味なでかい箱の中みたいなのに閉じ込められていた。歩いて回れるくらいのましかくな部屋っぽいんだけど、扉も窓もない。こんなあからさまに閉じ込められたのは初めて。兄さんはひたすらツッコミ始めた。 うん、なんか面倒なことになった。スレたてる。←ココ 75 番目の松 確かに手がかりっぽいのとかないなぁ～ 76 番目の松 わかったのは、急だったってことと紫が猫好きで緑がドルおたってことだな 77 番目の松 紫が猫好きとかかわいいな 78 番目の松 橋本ニャーって誰？ 79 緑 地上に舞い降りた天使。 80 番目の松 はええよこええよ 81 番目の松 緑さんガチ勢で理解 82 番目の松 でも紫は緑離さなくて正解だったかもな 83 番目の松 なんで？紫が巻き込んだ可能性もあるくない？ 84 番目の松 仮に紫だけ連れて行かれたとして、緑は目の前で弟が消えるわけだろ？パニックになるけど緑零感らしいからどうしようもなくなって大事になってたんじゃないか？ それに、紫から見える範囲にいたってことは、今回の原因のやつのテリトリー内だった可能性が圧倒的に高いじゃん？それではぐれたり、中途半端に異界に置き去りにされるの考えたらこうして一緒にいるほうがお互い安心じゃない？ 85 番目の松 確かに。それに、紫がこうして落ち着いてるのも兄がいるからかもしれないしな。 緑には悪いが、巻き込まれてくれてよかった。 86 番目の松 ところで、紫は緑となんの話してたの？ 87 番目の松 確かに気になる 88 紫 緑「は！？お前今までにもこんな目あってたの？なんで言わないの？末っ子といいみんな言わなぎじゃない？」 僕「いやこれは言わないのが普通じゃん？」 緑「なんで？そんなん 面白すぎじゃん！！うわーお前は話してくれるとおもってたのに」 紫「え、なんていうの、『今日神隠しにあってさー』って？」 緑「なにそれ電波じゃん。こっわ。」 僕「」 改めて思ったわ、この人が常識人なわけがない。 89 番目の松 紫遊ばれてるじゃんwwwwww 90 番目の松 緑はやはり常識人じゃなかった（歓喜） 91 緑 普段ふざける上がいないからはしゃいじゃっただけだよw 92 紫 いるよねー、上の兄貴がいなくなってやんちゃし出すやつー 93 番目の松 おい緑ぃー紫すねちゃったじゃんかwwww 94 番目の松 ちょっと緑ぃ～ 95 緑 ごめんごめんwwwwww でもこんな目にあってたのに隠してたのは怒ってるから(^^) 96 番目の松 97 番目の松 98 番目の松 99 緑 まぁ、それは帰ったらほかのやつらにも怒られてね 100 紫 黙っててくれたりは…？ 101 緑 しません。 102 番目の松 即レスwwwwww 紫は100おめでとうwwwwww 103 番目の松 うん、まぁ、緑が怒るのも最もだわ 104 番目の松 そりゃ心配するわな。 105 緑 ほんとにね！だから>>84とか>>85の言うとおり、巻き込んでくれてよかった。 106 紫 上のやつら怒らせるとほんと怖いんだけど… でも、言っとくけどここまで妙なとこに来たことはなかったからね？もっと全然ペラッペラなやつだったからね 107 番目の松 まあまあ、心配してくれるなんて愛されてんじゃん 108 紫 はっ、こんなゴミに愛とかナイワー 109 緑 愛って言われると気持ち悪い 110 番目の松 なんだよこの兄弟wwwww 111 番目の松 あのさー・・・・兄弟ついでにいい？？ 112 番目の松 おう、どうした？ 113 番目の松 なんだなんだ？ 114 番目の松 みんな気づいてるかと思うけど… 兄弟何人いんの？ 115 番目の松 はっ！！！ 116 番目の松 確かに言われてみれば！！ 117 番目の松 実は俺も気になってた。 118 番目の松 兄と末っ子が出てきたから少なくとも４人。４人！？ 119 番目の松 多くね？ 120 紫 うちは六人兄弟 121 番目の松 六人！？多っ！！！ 122 番目の松 六人！！！！！！！やべぇ！！！ 123 番目の松 なんか釣臭くなってきたな 124 番目の松 こんだけポンポン出てくるなら兄弟たちのスペもくれ 125 番目の松 まだ釣りって言ってる人いるよ 126 番目の松 釣りだーっつってなんかあったら嫌だし、それなら応援して最後なんだ釣りかよwって笑えたほうがいい オカ板ってそんなもんだろ 127 番目の松 いや、流石に兄弟六人って。そうそういなくない？ 128 緑 そんなあなたに俺たちの現状をどうぞつ【画像】 129 番目の松 ぎやああああああああああああ 130 番目の松 あああああああああ 131 番目の松 ちょ突然んんあああああ 132 番目の松 いきなりはらめえあああああああああ 133 番目の松 突然はヤメロ！！！！！ 134 番目の松 え？何？画像見れないポンコツな俺に誰か説明を 135 番目の松 たぶん部屋の一角の写真なんだけど肉塊と白い、骨？みたいなのが床にめっちゃ落ちてる。スプラッターっての？そんな感じ。で、黒い壁にびっしりなんか書いてある。 136 番目の松 壁よく見たら小さい子が描く落書きみたいなのじゃね？あの形もなにもとれてないのに人がにやっとしてるのだけはわかって不気味な絵。それが隙間もないほどかかれてる 137 番目の松 うわ！ほんとだ！！なんかもうめっちゃこっちみてるよおおおおおおお 138 番目の松 なにそれKOEEEEEEEEE 139 番目の松 そんなみんなに解析結果 安心しろ無事 H・O・N・M・O・N・O 140 番目の松 うわあああああああああああああああああ 141 番目の松 安心できるかああああああああああああ 142 紫 阿鼻wwwwww叫喚wwwwwwwwwwww 143 番目の松 紫爆笑とか…お前は鬼かよ 144 番目の松 緑も！いきなり恐怖画像、ダメ絶対！ 145 緑 え？でもこれで釣りだなんだとうるさい奴は消えたでしょ？ 146 番目の松 ここには鬼畜しかいないのかな？？ 147 番目の松 これを『悪趣味』で片付ける紫スゲェわ 148 番目の松 この中で平然とスレ見てるとかお前らの心のタフさなんなの 149 番目の松 あらためて体調とか大丈夫か？俺なら絶対気分悪くなる… 150 番目の松 むしろ今画面越しの俺が気分悪い 151 番目の松 それな 152 番目の松 うわぁー俺がいっぱいいるなー 153 紫 別に平然とではないよ。それなりに焦ったからスレ立てたんじゃん。 >>149 体調は二人共問題ない。とはいえ居心地は良くないよねふつーに。 154 番目の松 だよなだよなだよな！！！！ 155 番目の松 うんうん、早くそんなとこ出ようぜ！！ 156 番目の松 今はなんともなくてもこれから体調とかに来るかもしんねえし、気をつけろよ 157 番目の松 優しい人が多いスレだな 158 緑 みんなありがとう。 脱出を考えたいんだけど、思い当たることも無いし、手がかりもない。 僕は体験するのも初めてだけど、オカ板を覗いたこともないんだ。 だからなにしたらいいか教えてくれないかな？ 159 番目の松 あれ、急に緑がジェントルに見えてきたぞ？ん？ 160 番目の松 あれおかしいな？(つд⊂)ｺﾞｼｺﾞｼ 161 紫 眼科おすすめしとくね 162 番目の松 実弟が辛辣w 163 緑 あ゛あ゛？僕はいつでも紳士だろうが？？ 164 番目の松 そ、そうですね！ （紳士はあ゛あ゛とか使わないって誰か教えてあげて） 165 番目の松 緑さんマジ紳士！ （元ヤンなのかな？） 166 番目の松 （緑さんまじこえー） 167 番目の松 （ｼｯ！！） 168 番目の松 と、とにかく！オカルト慣れしてないふたりのために今からやるべきこと考えたらいいんじゃね！！ 169 番目の松 軌道修正GJ！！まじありがと！ 170 紫 質問・今からすべきこと >>180～>>185 171 番目の松 突然の安価！！！！！ 172 番目の松 安価はいい案だと思う！思うぞ！？だが急すぎw 173 紫 １回やってみたかったんだよね 174 番目の松 しかも結構近い！ 175 番目の松 安価で確認事項とか危機感なさすぎじゃね？ 176 番目の松 いいじゃん、適当に投げかけるとキリがないだろうし 177 番目の松 もめんなよ。既に安価かけられてんだから何言っても今更だろ 178 番目の松 お、そろそろか？ 安価ならほか兄弟のスペック 179 番目の松 安価ならパンツのいろ 180 番目の松 安価なら時間の狂いないか確認 181 番目の松 安価なら部屋の中探索 182 番目の松 安価ならいまの持ち物教えて 183 番目の松 安価なら紫がいつも攫われた時の様子教えて 184 番目の松 安価なら攫われる心当たりないか 185 番目の松 安価なら>>178 186 番目の松 安価ならあらためて霊感スペ 187 番目の松 安価ならケータイの充電は大丈夫かどうか 188 番目の松 決まったな 189 番目の松 誰かまとめお願い 190番目の松 >>179空気嫁 191 まとめ 言われると思って！！ 【質問】 ・時間の狂いはないか ・持ち物はなにか ・紫が言う「いつも攫われる時」の様子はどんなのか ・攫われる心当たりはないか ・ケータイの充電は大丈夫か 【意見】 ・兄弟のスペック晒す ・部屋の探索をする ・あらためて霊感スペ晒す 充電と霊感は安価外れてたけど確認すべきかなと思って追加してみた！ 192 番目の松 >>190まとめあざっす！！ 193番目の松 >>190㌧くす 194 緑 >>190ありがとう とりあえずすぐわかるのから >>時間の狂い いちおう、ケータイの時計は二人共動いてる。チャンネルの時間も表示されてる。17時42分。合ってる？ >>霊感スペ 僕も紫も零感。見えない、聞こえない、感じない、祓えるわけがない >>ケータイの充電 さっきっから使ってるけどほとんど減る様子がないから今のとこ大丈夫。少しでも減るスピードが変わったらどっちかの電源落とすつもりだし、充電器もあるし、今は気を紛らわすためにもスレみることにした。 持ち物確認してくる 195 番目の松 >>気を紛らわすために…　今緑たちがいる状況を一瞬で思い出した。 196 番目の松 そうだよな…あそこに居るとか気分滅入るよな…俺なら発狂する 197 番目の松 時計は狂ってなさそうだな 198 緑 確認してきた >>持ち物 【僕】 ケータイ 財布 充電器×２ キンブレ ニャーちゃんグッズ（CD、チラシ、ブロマイド、団扇、Tシャツ） 500の水（半分残ってる状態） 【紫】 ケータイ 猫じゃらし イリコ >>197 時計あってそうでよかった。逆にいうと、狂うことがあるってこと…？ 199 番目の松 緑の持ち物wwwイベント帰りだもんなwwwww 200 番目の松 それに対して紫よ…身軽杉… あ。200ゲト 201 番目の松 神隠し系だと時間止まったり、ゆっくり時間過ぎたりすることがあるよ >>200おめでとー 202 紫 >>いつも攫われる時の様子 真っ白でもっと殺風景なところに連れて行かれる。え、何？って思ってる間に気がついたら元の場所に戻されてる感じ >>201 なにそれこ 203 番目の松 ほんとに全然違うな… 204 番目の松 じゃぁあんま参考になんねぇか…。 205 番目の松 あれ、まって誤送信？ 206 番目の松 ほんとだ！ってか途中送信じゃね！？ 207 番目の松 マジだ！！！ 208 番目の松 紫！？緑！！？おいどうした！！！！！？ [newpage] 209 番目の松 やべぇ、あがってこねぇ… 210 番目の松 紫！！緑！！ 211 紫 ごめんwちょっとピンチだったwwwwwwwww 212 番目の松 紫ぃぃぃぃいいい！！！おかえりいぃいい！！！！！ 213 番目の松 紫だ！！！！！ 214 番目の松 紫―！！ってピンチだったやつの草の数じゃねぇ 215 番目の松 マジで何があったんだよ 216 紫 いやぁ… いきなりスプラッタなあいつが動き出した。 217 番目の松 218 番目の松 219 番目の松 220 番目の松 い、いやあああああああああああうごいたあああああああ！！！！！ 221 番目の松 うごいたあああああああ！！！？ 222 紫 で、緑兄さんがキンブレで撃退wwwwwwwwwwwwww にゃんにゃんにゃんげっとぉ！！！！ 223 番目の松 224 番目の松 225 番目の松 え、ええ？222オメデトウ？ 226 番目の松 頭が追いつかないよ 222おめでとう 227 番目の松 同じく 228 番目の松 ちょっと詳細くれない？ 229 紫 きれぎれだけど今あったこと 兄さんと話しながら202の書き込みを書いてるとき、背後でべしゃって音がした。 兄さんも僕もそんな音が立つ動きはしていない。嫌な予感に恐る恐る兄さんと振り返ると、 ギリギリ人？の形したそいつが起き上がっていた。 「「ぎやあああああああああああああああああああああああ」」 230 番目の松 いやああああああああああ 231 番目の松 ぎやあああああああああああああ出たああああああああ 232 紫 僕「ままままってまってまって、動くのかよお前！！！！？」 緑「足元おぼつかないなら寝てて！！？」 僕「おぼつかないっていうか足！？足なのその肉塊！！？」 緑「ええっと、タケシ君？シンジ君？おめめ覚めちゃったけどもう一回おやすみしよっか～！！」 僕「名前の覚えが悪い保育園園長みたいな寝かし方だなおい」 緑「さーごろーんしようか、リョウ君？マサル君？」 奴「あ゛あ゛あ゛あ゛」 緑・僕「「返事したああああああああああ」」 233 番目の松 馬鹿かよ！！さっさと逃げろよ！！！！ 234 番目の松 緑はなんで名前あてようと必死なの？？馬鹿なの！？ 235 番目の松 紫も律儀にツッコんでんなよ 236 紫 僕らの必死な説得も意味がなくスプラッタはずりずりと近寄ってきた 僕「ちょおおおおお！マサル君（仮）にじり寄ってくるんですけど！！？」 緑「まってまってマサル君（仮）一旦話し合おう！？足そんななってんじゃん？っていうか足どこだよ！！？どうやって動いてんだそれ！！！？」 僕「マサル君（仮）腹からいろいろ出ちゃってるから！！」 緑「しまおう！！！？一旦しまおうそれ！！？」 説得しながらも距離を取る僕ら。 しかしマサル君（仮）は無常にもスピードアップして追いかけてきた。 「あ゛あ゛あ゛あ゛」 「「ぎゃあああああ」」 以降部屋をぐるぐる走りながらマサル君（仮）と全力鬼ごっこ 237 番目の松 マサル君（仮）wwwとかいってらんねぇこええええええええええええ 238 番目の松 スプラッタ顔負けの人間に追い掛け回されるとかトラウマ 239 番目の松 ここからどうやったら>>222につながるのか 240 紫 ここで状況付け加えるけど、僕らがマサル君（仮）と追いかけっこをはじめる直前、緑兄さんは確認のために広げた荷物を片付けているところだったんだよね。 だから中途半端に荷物詰め込んだリュックサックを抱えて逃げる羽目になった、んだけど… 兄さんの荷物から一枚の紙がとんだ。 緑「あ、にゃーちゃん！！！」 一瞬写真みたいに見えたからたぶんブロマイド。そいいつはひらひらと後ろへ飛んで行き、地面に着地。 クシャァ 「「あ」」 マサル君（仮）が踏んだ。 241 番目の松 あ 242 番目の松 え 243 番目の松 これ、俺読めてきたぞ… 244 番目の松 奇遇だな、俺もだ 245 番目の松 ドルおた緑の推しブロマイドを踏んだということはつまり… 246 紫 お察しのとおり、緑兄さんマ　ジ　ギ　レ　 「何晒しとんのじゃおどれえええええ！！！！」 目にも止まらスピードでキンブレを荷物から抜き取るとマサル君（仮）に投げた。それは轟音を立てながらマサル君（仮）を吹き飛ばし貫ぬき、壁にめり込んだ。 僕「マサルくぅぅぅん！！！！？」 マサル君（仮）はキンブレで壁に縫い止めら、動かなくなった。 ちなみに踏まれたブロマイドはなんでか無事で緑と感動の再会をはたしたよね。 247 番目の松 マサル君！！！！！！ 248 番目の松 キンブレって壁に刺さるようなものだったっけ（混乱） 249 番目の松 い、異界だからじゃないかな…？ 250 番目の松 オタク怒らせるとこええ 251 番目の松 （あらためて緑だけは怒らせないようにしようぜ…） 252 番目の松 （ラジャー） 253 番目の松 （了解） 254 番目の松 なにはともあれ！無事で良かった！！ 255 番目の松 そうだな！ほっとした！ 256 緑 >>254、255 ありがとう 取り乱しちゃったけど、落ち着いたよ。 マサル君（仮）ほど動けそうなものは転がってないし、ひとまず安価の消化再開するね 257 番目の松 気は抜くなよ、マサル君（仮）的なもの以外にも何かあるかもしれないからな 258 番目の松 ほんまそれ。背後は気をつけとけよ 259 番目の松 ところで安価何が残ってたっけ？ 260 まとめ そこで俺の出番！！ 【済】 ・時間の狂いはないか →今のところなし ・持ち物はなにか →【緑】ケータイ・財布・充電器×２・キンブレ・ニャーちゃんグッズ（CD、チラシ、ブロマイド、団扇、Tシャツ）・500の水（半分残ってる状態） 【紫】ケータイ・猫じゃらし・イリコ ・紫が言う「いつも攫われる時」の様子はどんなのか →「真っ白でもっと殺風景なところに連れて行かれる。え、何？って思ってる間に気がついたら元の場所に戻されてる感じ」 ・ケータイの充電は大丈夫か →今のとこ減る様子がない。少しでも減るスピードが変わったらどちらかの電源落とす ・あらためて霊感スペ晒す →二人共零感。見えない、聞こえない、感じない、祓えるわけがない 【未】 ・兄弟のスペック晒す ・攫われる心当たりはないか ・部屋の探索をする 261 番目の松 このまとめ、できる… 262 番目の松 まとめ㌧クス 263 緑 まとめありがとう。 心当たり考えたけど、ここ最近はいつもどおりの生活だったから僕は特にないなぁ。 264 紫 あ、心当たりじゃないけど、 265 番目の松 お？なんだなんだ？ 266 番目の松 手がかりか？ 267 紫 見た目とかはかなり違うけど、感覚的には最近連れてかれた時に似てる気がする。 匂いっていうか、空気の肌ざわりっていうか 268 番目の松 感じ方が動物みたいだなw 269 番目の松 もしかしたら最近のも同じ奴が原因とかか？ 270 番目の松 ずっと目をつけてて、いよいよ手を出してきた的な 271 番目の松 >>270可能性としてはありそう 紫、最近ってどんぐらい？ 272 紫 一週間前とその三日前とさらにその五日前 273 番目の松 思った以上に高頻度だった件wwwww 274緑 おま、そんな頻度で… 275 番目の松 お兄ちゃん絶句 276 番目の松 お説教追加かな～？ 277 紫 げっ…… 278 番目の松 こんだけ高頻度だと、いよいよ品定めしてた線考えられるな 279 番目の松 幽霊にストーカーからの監禁？ 280 番目の松 それなんてバットエンド 281 番目の松 >>280やめろ縁起悪い 282 番目の松 バットエンドなわけねぇだろ。ふたり揃って脱出して家帰るハッピーエンドに決まってんだろ。ばかか。 283 280 すまん。軽率だった 284 紫 そのまえに、多分ストーカーじゃないんじゃない…？ 攫われた時に「マチガエタ」って聞こえるときがたまにあるんだよね。 で、一週間前のときも言ってた気がするから 285 番目の松 は 286 番目の松 え 287 紫 だからもしかして、毎回誰かと間違えてんじゃないかなって言いたかったんだけど 288 番目の松 おいいいいいい！！！！！！！１１ 289 番目の松 紫！！！！！！！！ 290 紫 え、なに…？ 291 番目の松 おまえはあああああああああああそういうことはもっとはよいえ！！！！！ 292 番目の松 ∑はっ！！ ここでスレタイだああああああ！！！ 293 番目の松 うわまじだスレタイにヒントあった！！ 294 番目の松 もおおおおおおお… 攫われた理由それだよ、もう絶対それだよ！！ 一週間前にも間違えて、今日も間違えたんだよ！！ 295 番目の松 ストーカーじゃなくて人違いか… 296 番目の松 そうなるとその幽霊はもう４回も間違えて紫をさらってるのかよ…とんだおっちょこちょいだな。 297 番目の松 うわぁ俺ならキレるわ 298 番目の松 あ、それじゃね？ 299　番目の松 え、どういうこと 300 紫 話全然理解できないからマジ置き去りで暇だし300げとしとく 301 番目の松 紫お前はwwwww 300オメ 302 番目の松 300オメ 303 番目の松 紫オメ で>>298はなに思いついたんだよ 304 298 だからさ、紫さらった奴って既に3回間違えてるんだろ？で、今日も間違えてさらっちゃってさ、普通ならいらってするだろ。ストレスたまるし、嫌がらせでもしてやろうかって俺ならなる。そこでこの悪趣味背景… もしかして：逆恨み 305 番目の松 そ　れ　だ 306 番目の松 SO・RE・DA 307 番目の松 もしかしなくても：逆恨み 308 番目の松 ありうる！！大いにありうる！！！！！！！ 309 紫 は？俺のせいじゃなくない？ いい迷惑なんだけど 310 番目の松 もっともだなwwww 311 番目の松 でも誰と間違えてんだろうな？ 312 緑 たぶんなんだけど…兄弟の誰かじゃないかな？俺たち六人みんな年も近くて、顔もそっくりで、幼馴染ですら見分けつかないほどだから 313 番目の松 お、緑！ってか兄弟六人いてみんなそんなに似とるんかw 314 番目の松 ということはやはり兄弟たちのスペックですね 315 番目の松 やっとか… 316 番目の松 120あたりから待機してた俺に抜かりはない 317 番目の松 気ぃ長すぎwwwww 318 番目の松 まさか脱いでないだろうな 319 番目の松 いや、脱ぐ要素ないだろwww 320 番目の松 ここで脱ぐやつは一体何を期待してるやつだよwwww 321 紫 僕は脱いだ 322 番目の松 よお、変態、って紫 323 番目の松 なぜ脱いだ。なぜ脱いだ…！？ 324 番目の松 おま、危機感持てよ！！異界でフル○ンとか何かあっても守れねぇんだぞ！！！ 325 番目の松 その状況でマサル君（仮）二号が来たらどうすんだよ！！！！！？はよ穿け！！ 326 紫 パンツとズボン履いた。別に君らに言われたからじゃないから。緑兄さんに泣きながら罵られたからだから。 >>325 次はマサル君じゃなくてタケシ君かもしれないだろ。決めつけんなよ 327 番目の松 名前とか心底どうでもいいんだよwwwwwww 328 番目の松 緑泣いたんか… 329 番目の松 そら泣くだろ…ふたりっきりで閉じ込められた弟が目を離した隙にフル○ンだぞ 330 番目の松 嫌すぎるwwwwwwwwwwwwww 嫌すぎる。 331 紫 なんか脱ぐ流れかなと思って。 緑「兄弟のスペどうすっておいいいいいいいいいいいいいつ脱いだ！！？なぜ脱いだ！！？こんな閉鎖空間で弟の息子と対面しなきゃなんないとかなんの地獄！？」 紫「甥っ子だね」 緑「だれがうまいこと言えと！？さっさとしまえ！！」 横腹蹴られた。ひどくね？ 332 番目の松 「甥っ子だね」じゃねぇよwwwwwww 333 番目の松 なんだろう紫のこの芸人魂 334 番目の松 もーやだこの子 33 5 緑 僕のほうがやだよ… ざっくりほかの兄弟のスペック 長男→メンタル小五。人の財布から金を抜いてパチンコと競馬に使うクズ。 次男→厨二病ナルシスト。優しいんだかポンコツなんだか。イジられ不憫枠。紫が前の方で言ってた苦手な奴はこいつ。よく胸ぐらをつかんでいる 三男→僕 四男→紫 五男→明るい狂人。人かどうかわからなくなってきた。スベろうが引かれようがボケ倒す。 六男→女子会に呼ばれる系男子。心がないんじゃないかってくらいドライ。あざとい。 恥ずかしながら全員２０代童貞ニート 多胎児が多くて年も顔も身長もみんな似てる。顔面レベルは普通ぐらいかな。 336 番目の松 全員ニート、だと 337 番目の松 やばすぎだろwwwお前んちの経済事情どうなってんのwwwwww 338 番目の松 全員20代童貞ニートという情報が強すぎて 339 番目の松 それな。ほかの情報入ってこない 340 番目の松 読み直したけど、それぞれも濃いなwwww五男は人か疑われるってどういうことだよ 341 番目の松 紫の嫌いな奴って自分の兄貴かよ 342 紫 嫌いじゃない苦手 343 番目の松 ん゛ん゛っ 344 番目の松 紫はツンデレか！？ツンデレなのか！！？ 345 番目の松 体型じゃなくて身長ってかいたのは意図的？ 346 緑 体型は少し違うんだよね がっちり筋肉ついてるのが次男と五男 ちょっと鍛えてるのが六男 平均体型が長男 若干筋肉付きにくいのが僕 ちょっとだけお腹ぷにってるのが紫 っていや、兄弟の話広げるより誰に間違われてどうやって出るかじゃない？ 347 番目の松 はっ！すまん！！兄弟面白すぎてwww 348 番目の松 んーでもこのスペックじゃ誰が狙われるとかわかんねぇな…霊感あるやつとかいない？ 349 番目の松 あと、二週間前くらいになんか罰当たりなことしたやつとか 350 番目の松 なんでニ週間前？ 351 番目の松 紫が今回と同じと思われるやつに最初に攫われたのがだいたいニ週間前だろ。 352 番目の松 あ、そっか 353 緑 正直存在が罰当たりみたいなやつらばっかりだしなぁ～ 霊感とかも兄弟で話したことないからわからないけど、末っ子は怖がりで未だに夜中トイレついてきてって起こされる 354 番目の松 末っ子一人でトイレ行けないとかかわいい！！！！！！！！！！！！！ 355 番目の松 お前さてはいつぞやのショタコンだな 356　354 なぜバレた 357 番目の松 なぜバレないと思った ってかよく思い出せ、末っ子も２０代童貞ヤローだ 358 番目の松 存在が罰当たりとかwwwwwwwwどんな兄弟だよ 359 番目の松 あれ、まって、兄弟と間違ってさらわれてるって仮説が合ってたらさ、ほかの兄弟もやばいんじゃない？ さらに誰かさらわれるかもしれないし、目的の奴を見つけて危害を加える可能性もあるよな 360 番目の松 361 緑 362 紫 363 番目の松 364 番目の松 365 番目の松 え、脱出するだけじゃダメじゃん、原因倒さなきゃじゃん 366 緑 どうしよおれたち除霊とかむり 367 紫 え、ほかのやつになんかあるのいやなんだけど 368 359 ごめん！！混乱させたよな！可能性の話だから！まだ全部かも知れない話 ただ行動起こすなら急いだほうがいいのかなって思っただけだから！ 369 番目の松 確かに可能性の話だし、焦りすぎる必要はないだろうけど、頭の隅に置いておかないとならないだろうな 370 番目の松 そうだな、落ち着いて、できること考えようぜ 371 紫 とりあえず安価に出てた部屋の中探索することにした 372 番目の松 おー、いってら！！ 373 番目の松 マサル君（仮）に気をつけろよ 374 番目の松 これで扉とか見つかったら少しは状況変わるんだけどな 375 番目の松 どうでもいいけど俺のしたの名前まさるだからちょっと複雑 376 番目の松 マサル君（本物）だ！！！！！ 377 番目の松 ほんとどうでもいいwwwwww 378 番目の松 スレ立てしてから結構時間たってるし、なんか手がかりでてきてくれ～ 379 番目の松 手段が何もないまま恐怖感だけ煽られてくのって相当しんどいよなぁ ほんとちょっとでもヒントあって欲しい 380 番目の松 このまま出れなかったらって思うと俺なら発狂する。 381 番目の松 ずっと閉じ込められるかもしれないしその間に兄弟傷つくかもしれない。なのに何もできないって、実は超ホラーな状況なんじゃ… 382 番目の松 不安あおるのやめろ！！こういうときネガティブになるのよくないだろ 383 382 いや、煽ってるつもりないし。むしろこのスレここまで危機感なさすぎだろ 384 番目の松 もめるな。俺たちの言い争いでスレ消費とかしてる場合じゃねぇんだよ 385 紫 やめて、俺たちのために争わないで！！ 386 番目の松 紫おかえり！！ 387 番目の松 当の本人がこれだよ 388 紫 ここで悲報 部屋回ってみたけど扉も窓もない。壁、床、天井と肉塊、壁の絵しかない。 389 番目の松 あ～…まじかぁ…… 390 番目の松 ほんとに箱みたいなとこなんだな 391 紫 壁とか床とかも確認したけど、壊せそうな薄さのところは全然ない もしかして、詰んだ…？ 392 番目の松 絶対あきらめんな！！まだなんかあるはずだ！！ 393 番目の松 たとえば、壁の絵だったり肉塊だったりを調べたらエピソード出てくるかも 394 番目の松 攫われた路地裏でもとになりそうな事件起きてないかとかな 395 番目の松 そうだよ！俺ら調べて見るから！！！！ 396 桃 やぁっと見つけた！！ 397 番目の松 え

小説初投稿。まさかの某掲示板風。<br />気力があれば続きます。<br /><br />私「一松はホラーでも人違いで攫われるとおもうんだ」<br />友人「よし、書いて」<br />私「おっけー」<br />ってノリで書いた。見切り発車良くない。<br /><br />某テーマパークのホラー/ナイ/トでチ/ャ/ッキーのアトラクションを淡々と歩き、後ろから叫びながら激突してきた見知らぬJK二人を「大丈夫ですか～」と受け止め、結果JKに裾を掴まれたままラストまでエスコート。そんなホラークラッシャーが書いたホラーです。怖いはずがない。<br />ほのぼのホラーとかコメディホラーとかギャグホラーとかなんかそういう謎物体なんだよ多分。<br /><br />2016/03/06<br />ブックマーク、評価ありがとうございます！！<br />タグまでくださって本当に感謝です！<br />続き頑張らせていただきます…！<br /><br />2016/03/07<br />タグwwwwwwあれは役得だった<br /><br />2016年02月29日～2016年03月06日付の[小説] ルーキーランキング 2 位に入りました！<br />2016年03月07日付の[小説] デイリーランキング 93 位に入りました！<br />ありがとうございます！！

【異界に】すみません人違いです【誘拐】

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※注意※ ・酷い ・書いてる人間が腐ってるのでちょっと怪しい ・支離滅裂 ・捏造に捏造を重ね捏造しまくってもはや誰おま状態 ・酷い ・ほんの少しの痛々しい表現 ・無駄に長い ・酷い とりあえずなんでもいい人はどうぞ！！！！ [newpage] ちょっと聞いてくれよ。 俺の弟、ああ、二番目の弟な。次男次男。その弟の話なんだけど。俺さぁ、かれこれ二十年以上も狭い家でほぼ毎日顔つき合わせてるような弟の事は、ほとんど何でも知ってるし、分かってんだよね。これでも俺長男様だしぃ？けど、どうしてもわかんねえ事が、一つだけあるんだよ。頭すっからかんのからっぽな弟の、理解ができない事が一つ。 なあ、話していいか？ [chapter:カウントダウン] んじゃあ話すけどさ。ん？返事してない？知らねーよ、もう話すって決めたもん。 ……で、カラ松だよ、カラ松の話。 小学生の頃の出来事なんだけど、まだ俺達は兄弟の見分けがついてなかったんだよ。しょうがなくね？だって自分と同じ顔が五つも目の前に並んでんだぜ？しかも俺達にはまだ個性なんか無くて、誰が誰でも一緒みたいなとこあったからなぁ。だからお互いに呼び間違えとかがすげえよくあったんだよ。つーか日常茶飯事。一日一回間違えても当たり前、みたいな。当然俺もよーく間違えたね。いや、長男っつってもあの頃の俺達にとっちゃ生まれた順とか誰が上とかどうでもよかったから、俺自身長男とか気にしてなかったよ。……それで、こっちからしたら確かに名前とか間違えても、自分だって間違えられてるしって感じでさ、罪悪感とか皆無だったんだよね。いやマジで。謝ったことねぇもん、名前呼び間違えた程度で。 でもさ、カラ松だけは違ったんだよね。 あいつ、いっちばん名前間違えられててさ、一時期ほんとに呼び間違えられるばかりで、誰もカラ松の名前ちゃんと呼ばなかった時があったんだよ。たまに誰かが「カラ松」っつっても別のヤツに向かって言ってたりな。とにかく間違いがカラ松に集中してたころがあってさ。でも誰も気づかなかったし気にしなかったんだよ。 んでさ、ある時俺が呼んだんだよ。 「チョロ松」って。 そう言って肩叩いたんだけど返事が無くて、どうしたんだって思ったら。 そいつ、カラ松だったんだよ。 まあそこまでならよくある話なんだよ。いや、俺達の間で、だぜ？まあよくある事なんだよ。 そん時、全員パジャマ姿で布団敷いて、寝る前の時間で好き勝手やってたんだ。つまり全員その場に居たんだわ。 んで、本物のチョロ松が「僕はこっちだよ」って言ったんだ。 こっちとしちゃ「え、じゃあこいつ誰だよ。一松？十四松？トド松？」って感じでさ。恐ろしい事に、選択肢に「カラ松」が無かったんだよ。そんな事に気付きもしないで暢気にまた間違えたーなんて言ってたらさ、ずっと手置いてたカラ松の肩から、変な音したんだよ。 ぱぁん って。 は？なんだこれ何の音？ってパニックになって、全員がわらわらしてたら、目の前のカラ松が倒れたんだよ。 右肩抑えて。 どうしたんだ、何があった。そんな風に、俺達がカラ松取り囲んで顔覗き込んだらさ。あいつ、顔色真っ白にしておきながら能面みたいな無表情で虚ろな目してた。 正直ゾッとしたね。 んで、何があったってよくよく調べたら、カラ松その一瞬で肩脱臼してたんだよね。 おかしいだろ？だって俺はただ肩を軽く叩いて、手を置いてただけだ。そんなんで脱臼なんてする筈ないのにさ。 けどその頃の俺達は何も出来なくて、訳のわからない恐怖に襲われて泣きながら松代と松造呼んでさ。てんやわんや。何が一番怖かったって肩を嵌めるまでの間ずっと、カラ松が何も喋らなかったことだな。 驚く事に、悲鳴すら上げなかった。痛かったろうに。 まあ、とにかくそんな事があって、俺達完全にびびってカラ松に触れなくなったんだよね。またなんかあるんじゃねえかって。完全原因不明の事件は、幼い俺達には処理出来なくて、結局なあなあにして無理矢理忘れたフリして終わらせたんだわ。 つってもやっぱり、いつまでも目え逸らし続けるなんて事出来ないんだよ。 次に事件が起きたのは、確か中学校入ってすぐだったかな。 先に言っちゃうと、カラ松ってストレスとか溜め込むタイプで、何でもかんでも黙って我慢するタイプなんだ。だから、そのストレスがカラ松の許容範囲を越えた瞬間、文字通り爆発すんだよ。 比喩でも何でもなく、ほんとうに爆発するんだ。 初めて肩が外れた時も、名前を呼ばれない、存在を認識されないストレスが溜まりに溜まって破裂したのが原因だった。 不思議だろ？そんなファンタジーの世界みたいな事ある訳ねえだろ！って思うだろ？ けど実際目の前で起こったんだから信じるしかねえよなぁ。 でも、その頃の俺達はそんな事知らなかった、分かんなかったんだよ。 だから二度目の爆発が起きた。 原因は何だったかな、ちょうどその頃位から、段々と六つ子の中での個性が現れ始めててさ。最初はトド松だっけ？急に俺達以外とつるみだしたんだよ。 したらもう、芋づる式？ 一松は徐々に引っ込み思案に、十四松は気弱な部分が全面に出てきて、チョロ松は少し暴力的になり出したんだ。ん？今とはイメージ違う？まあな。今の性格に全員が落ち着いたのは高校の頃だったからな。まあ全然落ち着かねえけど。とにかく第一次思春期、みてーな感じで。思春期に一も二もあんのか知らねぇけど。 で、だ。そうなりゃ俺も変わるだろ？つか、俺は弟達が変わって、長男を押し付けられる様になったのが嫌で拗ねてたってところだな。要するに反抗期。チョロ松と似た感じですぐ手が出るようになった。二人で散々喧嘩もしたし。お互いでも、ほかの奴でも。そんなこんなであれよあれよと俺達は変わってった。 んじゃカラ松はどうなったってのが問題なんだけどさ。 あいつ、変わらなかったんだよ。 いや、変わったんだけど、なんて言や良いのかねぇ……あぁ、そう、びっくりするほどいい子ちゃんになったんだよ。 言われた事はその通りにこなして、周りに求められるままに行動してさ。要するに自分が無かったんだよね、カラ松。 ……それも、多分俺達のせいだった。 みんなが変わる中で、元々自意識の薄かったカラ松は誰よりも六つ子の型から外れる事が出来なくて、自分じゃどうしようもなくなって、変わる事も停滞する事も選べずに言われるがまま望まれる「カラ松」を作り上げた。今思えばカラ松が素の自分出さなくなったのこの時からだな。とゆうより寧ろ「素」ってのがわかんなくなってんな、ありゃ。 じゃあ自分を出せずにそもそも自分が分からなくなって、求められなきゃ動けなくなった人間って、どうなると思う？ 当然、ストレス溜まって何時か爆発するだろ。 なんだったかな。確か学校終わって、俺とチョロ松が居間で大喧嘩してた時があって。十四松と一松が部屋の隅っこでお互い抱き合って縮こまって震えててさ、トド松は嫌悪感丸出しでこっち睨みながらちゃっかり家具の裏の安全圏に隠れてたんだよ。 普段ならそんくらいさすがに気づくぜ？でも俺もチョロ松も、揃いも揃って周り見えなくなってとにかくこいつぶっ殺してやるって位キレてたんだよね。理由？知らねぇ知らねぇ！一々喧嘩する理由なんか覚えてねー！ ……まあ、そんな事があって、だ。 もう殴って蹴って髪引っ掴んで頭突き食らわせて床に叩きつけて口汚く罵り合って……多分地獄絵図みたいなだったと思うよ。それだけ暴れまくって家具も倒れてしっちゃかめっちゃか。 んで、そんな中タイミングの悪い男、カラ松がご帰宅ってな。 センコーの手伝いほいほい引き受けてたから、カラ松が一番帰り遅かったんだよ。 あいつ、襖開けて中の惨状見て絶句してたね。 そらそうだよな、兄と弟が血塗れんなって殴り合って、それを見て震える弟二人に隠れる弟一人。まず状況のみ込めねぇわな。 でも、カラ松はいい子ちゃんだったんだよ。 六つ子の、一番目と三番目が喧嘩しててそれより下が怯えてたら、二番目の自分が兄として止めなければ。って、思っちゃったんだよ。ポンコツカラ松君は。 案の定というか、カラ松は間に割って入ってきた。 「二人ともやめろ！一松達が怯えてるだろ！」 って。 けどさぁ、その頃の俺だってまだまだガキよ？そんな事言われて止められる筈ないだろ？ 俺もチョロ松も、イライラMAXでブチギレ状態だったからさ、思わず「うるせえ！」「お前に関係ねぇだろ！」って突き飛ばしちゃったんだわ。 本気の全力で。 いくら子供っつっても育ち盛りの中学生で、男兄弟の中育って喧嘩ばっかしてた奴が二人、揃って全力で突き飛ばしたらさ、同い年の人ひとり位、簡単に吹っ飛ぶんだよね。 カラ松はそのまま飛ばされて、部屋の壁に叩きつけられた。 運が悪い事に、なんて言えないけど、その時のカラ松はストレスやら何やらで、すごい痩せて体重が軽くなってたんだよ。だから余計に強く身体打ってさ。結構酷い音がしたんだわ。でも喧嘩を止められなくて、冷静さ欠いた馬鹿二人は殴り合いを続けた。 そしたら音がした。 ぱぁん って。 そしたらさ、それまで全然止められなかった罵声も拳もピタリと止まったね。 だって俺達にとってその音って、ある意味トラウマになってたからさ。 チョロ松見たら真っ青になってて、小さく震えながら目見開いてて、まあ酷い顔してたね。でも、多分俺も同じ顔してた。 ひ、って誰かの悲鳴が聞こえて、恐る恐る後ろ振り返ったんだよ。したらさ。 カラ松、血塗れんなってんの。 左手からダラダラ血流してて。 俺そん時呼吸の仕方が一瞬わかんなくなってさ、喉からひゅって変な音したわ。 何より怖かったのがさ。 あいつやっぱり、怖いほどの無表情だったんだよ。 それからは、もう、阿鼻叫喚？ まず真っ先にトド松が悲鳴上げてカラ松に駆け寄った。まあ、しばらく離れてたとはいえ大事な相棒が血塗れになってたらな、取り乱すわな。酷かったぜ？わんわん泣きながら言葉にならない声で叫び続けて、カラ松抱き締めて離さねえの。そんで一松が頭抱えて喚き出して。十四松は妙に冷静になって救急車呼んでて。チョロ松はその場で崩れ落ちて支離滅裂な事ぶつぶつ呟いててさ。酷かったよ、ほんと。 ん？俺？ それがさ、なっさけねー事に、一切動けなかったよ。 気づいたら病院で、弟達と一緒に手術室の前に居た。 松代と松造も居たんだけど、もうほとんど記憶が無くてよ。なんとなくカラ松が死ぬのかと思って、罪悪感とか諸々でごちゃごちゃになって、俺立ったまま手術室が開くまで泣いてたね。 結果としては、カラ松は左腕にどでかい裂傷と、左手の小指に小さい火傷みたいなのを負った。 医者曰く、傷自体は即死に至るようなものでは無いみたいだったけど、もし処置が遅れてたら出血多量で最悪……って状態だったらしい。 ほんと、心底死ななくてよかったって安心したね。 同時に恐ろしくもなった。 だってカラ松、何も言わなかったんだよ。 病室で、俺達兄弟が見舞いに行ったらさ、怒りもせず文句も言わず涙すら流さないで、ただ笑ってたんだ。 あいつ、本当に生きた人間なのか、ちょっと疑ったわ。 …今も、カラ松の左手見ると腕に薄い傷痕と、小指に良く見ないと分かんない程度の火傷の痕が残ってる。 で、だ。 それ以降チョロ松はびっくりするほど大人しくなった。口は悪かったし態度も悪かったけど喧嘩は減ったな。あと分かりづらくカラ松に過保護になった。じみーに家で隣キープしてさ。段々おかしくなったのか、六つ子の中の双子なんてその頃から言い始めたんだよ。半身とか片割れとか言い合ってんの。馬鹿じゃねえのって思ってたけど、カラ松もカラ松でそれを認めてたから、何も言えなかったね。実際驚く事に、二人とも離れた場所にいながら片方の危機に気づいたりしてたし。テレパシーっての？知らねぇけど。 トド松もそうだな。いや、双子云々じゃなくて。こっちはこっちで家でも学校でもカラ松の側にいて、カラ松に近づく奴に過剰反応してたよ。特に俺とチョロ松が近づこうものならひっでえ形相で睨みつけて威嚇してきやがる。家ん中でカラ松挟んでのトド松チョロ松の睨み合いなんて、日常茶飯事になってよー。今じゃ想像つかないべ？ 一松はカラ松と全然関わらなくなった。結構カラ松に懐いてた方だったのに、途端に話さなくなった。それでカラ松が寝てる時にだけ近寄ってじっとしてんの。たまに手握ったり頭撫でたりして、カラ松が起きたら逃げてくんだよ。これも今じゃ考えらんねーだろ？ 十四松は……十四松はやばかった。天使なんて言われてるような十四松が、虚ろな目して毎日毎日ひたすら勉強ばっか。野球？ないない！休みの日でも図書館に閉館までいてただただ勉強！ほとんど会話なんてしなかったし、正直怖くて触れられなかった。カラ松だけが果敢にも自分から絡みに言ってたけど、それ以外の奴らは俺含めて全く近寄らなかった。びっくりするだろ？でも、その反動なんだろうな、今の十四松がいるのは。高校入ってからだもん、あいつが狂ったの。信じらんねーだろうけど、アレで十四松って中学高校って成績学年一位だったんだぜ？そうなった理由は分かんねーけど、元々天才だったし。素質はあったんだろうよ。だからこそ狂ったんだろうな。 俺は……変わんなかったよ。 それまで通り喧嘩三昧！ちょっとあしらいとかに慣れて上手く立ち回れる様になったけど、やっぱり根本は変わらずに暴れてた。 なんでって……現実逃避？ 俺は変わらなかったよ。 カラ松はそんな俺に何も言わなかった。 ただ、怪我して帰ってくる俺に「おかえり」っつって黙って手当するだけで、何も言わなかった。 …………あー、ホントはこの後も色々あったんだけど……時間無いしパス！！何よりめんどくせえ！！！ 簡単に言えば、なんだかんだあってカラ松が爆発する原因とそうなる予兆がある事が分かってなんだかんだあって反抗期やら何やらを挟みなんだかんだあって今の俺達が出来上がりました！！過去編終わり！！ ……だめ？えー、良くね？分かるだろーなんとなく！ わぁったよ！説明すりゃいいんだろ！ ったくめんどくせーな。つか小、中学校の話ちゃんとしただけお兄ちゃんを褒めて欲しいくらいだわ。ほとんど関係ない話だった？へーへー悪うござんした。うるせえ三男だなあったく。ほんとにめんどくせーから何があったかは話さねぇかんな。 えーっと。カラ松の話な。あいつ爆発すんの。 原因はさっきも言ったけど、ストレス溜めすぎ。よく聞く｢ストレス溜めすぎて爆発する｣ってのがカラ松の場合比喩でもなくマジで身体が爆発しちまうんだよ。 んで、ある時それが分かったんだけど…ん？なんで分かったかって？カラ松本人から聞いたんだよ。 「なんでお前爆発すんのー」って聞いたら「よく分からないが、嫌な事とか悲しい事……まあ全部ひっくるめてストレスが溜まったら自然と爆発するんだ」って言われた。ま、実際はもっと酷い状況で聞いたからこんな暢気なやり取りじゃ無かったけどな。カラ松ボロっボロに泣いてたし。 そんなこんなで、原因ストレスって分かったんだわ。したらさ、当然「カラ松にストレス溜めさせなきゃ爆発は未然に防げるんじゃね！？」ってなるだろ？だから俺達はカラ松の事観察して、爆発防止の手立てを考えたわけよ。 で、観察していくうちに、あいつちゃんとエマージェンシー出してた事に、漸く気づいたんだよね。ちゃんと、ストレス溜まってます悲しいです苦しいです辛いです助けてくださいって、カラ松なりにサイン出してたんだよ。ひでえ兄弟だろ？ずっと一緒に暮らしておきながら、それに気づいたの高二の頃だぜ？おっせーよな。五人も居て一人の悲鳴に気づくのに十七年もかかるなんて、びっくりだよな。 ……そう、サイン。これ、実は三段階あるんだよ。 まずは第一段階、まだストレスが溜まり始めたばかりって頃は少しぼーっとしてる事が増える。 次に第二段階、ちょっと苦しくなってきたって頃は、不自然なくらいずっと笑って過ごすようになる。 そんでもって第三段階、やばいやばいもうそろそろ抱えきれないってなってきたら、スッと表情が消える。口数が減って、虚ろな目をするようになる。 で、ここまで来ても誰も助けてくれなくて自分でもストレス解消出来ないでいると、最終段階として爆発する。 これが、ポンコツカラ松の選んだ救済信号を出す回りくどい方法な。 これが分かってからは、なるべくカラ松の表情に気を配って、やばいなって時にカラ松甘やかしてやる事でストレスを取り除いてた。結構大変なんだぜー？気づいたら第三段階突入しちゃってるなんてことがザラにあったかんね。あいつ無駄に感情隠すの得意だから困るよ。手っ取り早く、泣いてくれりゃこっちももっと早く助けてやれんだけどな。 カラ松は泣かないのかって？ いや？結構あいつ涙脆いぜ？なんかありゃすーぐ涙目になる。 ……ただ、自分の気持ちに鈍感になり過ぎちゃったから、自分で苦しいとか悲しいとか判断出来なくて、そういう理由では泣けないんだよ。カラ松が泣くのは急に殴られて状況が理解出来ない時だったり、身体が痛い時だったり、恐怖を感じた時だけなんだよ。身体の痛みは感じても、所謂「心の痛み」に気づけない。だから俺達が言う「イタイ」の意味も分かんねぇんだ。 そうしたのも、俺達のせいで、そうなった責任も、俺達にあるんだけどな。 あーもう、話戻すぞ！ とにかく爆発させない対策は見出したけど、それを見つけるまでにカラ松は、さっき話した二回分含めて五回爆発してんだわ。 一回目は肩が外れて、二回目に左腕が大きく裂けて、三回目には右の太腿が焼けて、四回目には右頬が裂けて、五回目には左脚の骨が折れた。 俺達は、いつかカラ松は、自分で爆発して死んじまうんじゃねえかって思った。そう考えただけでゾッとしたね。 しかも対策見つけたって発見遅れて爆発した事もあったし。確か二回くらい。右の掌に幾つもの小さい裂け目が入ったのと、背中に火傷負ったの。傷はぜーんぶ痕になってカラ松の身体に残ってんだよ。俺達がカラ松を助けられなかった分だけ、傷が全部。 あー、なんで助けたとか助けられなかったみたいな言い方するのかって？ まあ確かにストレス解消を手伝うくらいで救済とかは大袈裟……か？ でもこれであってんのよ。正しいの。カラ松のストレス、カラ松を苦しめてる原因って全部俺達だもん。あいつが優しすぎるからついつい甘えて嫌な事とか押し付けちまって、カラ松の事追い詰めちゃってる。だから、償いとして負の感情に溺れて押し潰されそうになってるカラ松を、俺達が助けなきゃいけないんだ。 ………………助けなきゃいけなかったんだ。 カラ松、成人してから全然ストレス溜めてる様子がなかったんだよ。 俺ら馬鹿だからさ、カラ松も大人になって感情のコントロールできるようになったんだなって思って、それまでも酷かったとはいえ、気持ち控えめだったカラ松への当たりに、容赦が無くなった。やっとカラ松が爆発する事は無くなったんだって思ってた。 そんな事無かったけどな。 もう、カラ松の心は壊れかけだったんだよ。 それまで無意識とはいえ、ストレスを感じてそれを表面に出せていたのが、出来なくなってたんだ。それに気づかないでどんどん俺達はカラ松を傷つけた。 それでさ、事件が起きた。 カラ松事変。 …………………………もう、言い訳のしようがないんだよ。 言い逃れ出来ない、大罪を犯したんだよ。 相手はチビ太だからって助けにも行かず梨の誘惑に負けてカラ松のこと忘れ去って、あまつさえ眠りを邪魔されたからって、あいつに、上から、モノを……投げつけた。 しかも！俺達はそれすら忘れて猫探しに必死になってカラ松のことなんてまるで最初からいなかったみたいにその時本当に記憶から消えたみたいに振舞ってハッピーエンドで終わらせたんだ！！ は、はは、笑えねえよ！！ 全然笑えねえ！そりゃ一松だって大事だ、当たり前だろ俺達全員誰もあの日した事が間違ってたなんて思っちゃいねえ！！ けど！！ キレイに終わらせられるわけねぇだろ……あの場にはカラ松はいなかった。誰もカラ松の事なんか気にしなかった誰も誰も誰も誰も誰も！！！！！！！！ その後もだ！！！ …………………… ……………………………… 俺達は、大罪人なんだよ。 だから裁かれなきゃいけない。 怪我をしていたから、熱も出してたから、カラ松を隔離してたし、カラ松も部屋から出てこなかったから、顔も合わせなかったし会話もしなかった、だから。 だから、気づけなかった気づかなかった。 ……なんて言い訳通じないって分かってんだよ。 俺達を裁くのは神じゃねえ。神じゃこの罪は裁けない。 断裁を下すのはコイツじゃなきゃいけないんだ。 「なぁ、ここまで話したぜ。ぐっちゃぐちゃで文脈なんて知ったこっちゃねぇって分かりづらいしっちゃかめっちゃかな言葉並べて全部話した」 「だからさ、デカパン博士よぉ」 「……どうにかしてこのバカ、救ってくれよ」 [newpage] 六つ子が、研究所を訪ねてきた。 全員が全員、血の気のない真っ青を通り越して真っ白な顔をしてた。 まるで生気の感じられない、まさに絶望といった表情。 ただ事ではないとすぐに招き入れた。 すると長男のおそ松が急に語り出した。 止めはしなかったしする気も無く、途中何度か質問をしながら話を聞いた。 その間他の子たちはガタガタ震えて泣きじゃくっていた。 恐らく三男の子は落ち着いて長男の話に小言を入れていたが、魂が抜け落ちた様な顔をしていて、少し心配になる。 長男は、気丈に振舞っていながらも声は震えており作った笑みは酷い有様だ。 そうして話し終えた長男は言った。 「どうにかしてこのバカ、救ってくれよ」 と。 おそ松の腕の中には、腹から真っ赤な血を流して死人のように眠る 松野カラ松その人がいた。

「ぱあん」<br /><br />■松野次男、松野カラ松はストレスが溜まると感情ではなく身体が爆発してしまう特異体質なのだ！！<br /><br />■もう開き直りますけどカラ松girlの私はカラ松事変は忘れられないし「お前wwwまだカラ松事変ネタ書いてんのかよwwwと言われようとも引きずるのぉおおおお！！！！！！！！<br />■どうやら私は幸せな話が書けないようだ。どうにも指が勝手にカラ松を不幸にしていくんだ……好きな子いぢめたい……<br /><br />■前作のブクマ&amp;評価ありがとうございます！<br />■アンケート、おそカラが一番多かったんで、おそカラ書こう！……と思ってたらこっちが先に仕上がりました。はい。多分アンケート取っておきながら溜まってるやつ書く前にまた新しい話書き始めて中途半端なやつが溜まっていく……ダメ人間です。前々作の続きも止まってしまってます。ダメ人間です……！<br /><br />■ネタは、浮かんでくるんですよ。そりゃもうポンポンポンポン書きたいのが増えてくんですよ。けどそれと執筆スピードと実力が比例しないんですよ。どなたか私に文才と絵心分けてくださいませんかね……<br /><br />■うぉあ1000users入り、ありがとうございます。コメントも毎日にやにやしながら読んでおります。

残念ながらカウントダウンは始まっています

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「大丈夫です。……大丈夫、です。」 どこがどう大丈夫なのか説明してみろ！と喉もとまで出かかった言葉を飲み込み、ケイネスはぐっと顎を引いた。落ち着け。今ここで私が怒ることに何の意味があるというのだ。ディルムッドは明らかに何か言いたそうにしていることが分かるが、それを口にしようとはしない。先ほどまで自分の胸元にすがりついてめそめそ泣いていたのに、それでもまだ隠し通したいことらしい。自分には言えないことだろうか。 自分には、言えない―――？ だったら、どうしてここに来た？書類上ではもう赤の他人となってしまった自分に？しかも、私にとって息子とは、離婚と家庭の崩壊の原因となった男であるとディルムッド自身も良く知っているはずだ。息子は私に何の弁明もしなかった。だからこそ、わたしは息子に愛情と憎しみを併せ持ちながら接してきたし、妻がディルムッドと共に手を取り合って出て行ってからもずいぶん長く息子を恨んでいたのだ。なのに、どうしておまえは戻ってきた―――？ まさか、別れた父親を慕って尋ねてきたということは、ディルムッドに関してはあり得ない。だとするならば、わざわざ自分を憎む男の前に現われなければならない理由はなんだろう。離婚した当初は、ソラウが子どもたちの顔を見せに一年に一度でも訪ねてきてくれたら、と淡い期待を抱いていたが、それも自分にとってはすぎた願いだったらしい。ソラウも、子どもたちもそれから一度だって会うことはなかったのだから。私は、ソラウの住んでいる場所も知らない。ソラウには携帯電話の番号もとっくに変えられてしまっていたし、こちらからは連絡の付けようがなかったのだ。 探偵でも雇えば、いや、自分の力だけでも探そうとすれば探せたはずだ。探そうとしなかっただけだ。もう一度、家族に会う勇気を持てなかったのは自分のせいなのだ。 それなのに、何年も会っていなかったディルムッドが自分に会いに来た。もしかして、と小さな期待の灯が胸にともる。ソラウが、自分のことを心配して息子をこちらによこしたのではないのかと。だったら、ソラウがここに来てくれればよかったのに、と思ったが、ある可能性に気づき、ケイネスはぞっとした。もしや、ソラウが病気か何かで危険な状態にあるのではないか、と。だから、それを自分に伝えに来た？ 「ソラウはっ……、元気にしているのか」 みっともなく声が震えてしまう。ソラウ、ソラウ、ソラウ、まさか。ああ、そんな。どうか、杞憂であってくれ。 「……えっ、あ、母は、元気、です。」 思ってもいないことを聞かれた、という風に、動揺しながらディルムッドが答える。どうしてそんなにおまえが動揺するんだ。信用できずに、もう一度確かめるように問うた。 「本当に…？みんな、元気でやっているのか」 「ええ、もちろんです。母も、ウェイバーも、元気にしていますよ」 「……そうか、……よかった」 はっきりした返答に、今度こそ肩から力が抜けた。そうか、元気か。よかった。本当によかった。ウェイバーも、もうずいぶん大きくなっただろう。もう中学生になっているはずだ。ソラウは、まだ自分の心の中にあるように綺麗でいるだろうか。ケイネスは、ずいぶん久しぶりに心の中が温かく満たされていくのを感じていた。 [newpage] 父が、自分のことを本気で心配してくれるとでも思ったのか、ディルムッド。おまえはやはり、とんでもない恥知らずだ。おまえが、父に心配されるような立場だったことなどありはしない。 小さな期待を抱き始めて、それを一瞬のうちに地面にたたきつけられるかのようなショックに返答が少し遅れてしまった。動揺して言葉がうまく出てこない。確かめるようにもう一度言葉を重ねられて、ディルムッドの心は引き裂かれそうなほどに軋んだが、今度は上手く応えることができたようだ。こわばった父の体から力がぬけてゆくのがわかった。 「……そうか、……よかった」 あなたはまだ、そんな風に言えるのか。自分を捨てて行った女のことを。自分の息子と肉欲の関係を結んでいる女のことを！どうしてそんなに満たされた顔ができる？あの人は貴方のことなどなんとも思っていないのに！かつての妻を思うケイネスの、儚げでいまにも砕け散ってしまいそうな微笑みに、ディルムッドはそう思わずにいられなかった。どうしてこの愛情を、自分だけがもらうことを許されていないのだろう。どうして、どうして！ この荒れ狂う感情のままに、なにもかも壊してしまいたい。そんな破壊衝動がこみ上げてくる。でも、この感情をここでぶちまけることはしてはならない。ましてや、感情のままにこの人を傷つけることなど許されることではない。落ち着け、ディルムッド。落ち着け。 感情を鎮めようと、深く息を静かに吐き出した。 [newpage] それにしても、とディルムッドは回想する。父は、こんなにも小さかったか？いや、父は伸長こそ低いわけではない。しっかり１８０センチはある。むしろ、背の高いほうだろう。それなのに、今はずいぶんと小さく見える。自分が成長したからだろうか？それでも、先ほど並んで歩いてみたが、まだ身長はいくらか自分の方が低かったようにも思える。 ああ、そうか。とディルムッドは納得する。痩せている。自分がおぼえていたころの父よりも、この人はずっとやせ細ってしまっている。胸に抱かれたとき、スーツの厚い布越しからでも骨格が分かってしまうような痩せ具合だ。身長は自分の方が低いのに体重は２０～２５キロぐらい違うんじゃないだろうか。痩せすぎだ。この人の方こそ、大丈夫なのかと心配になる。朝になっても、机に向かったまま動かずに事切れている父の姿を想像し、ディルムッドはぞっとした。 「アーチ、ボルトさん、こそ、お体の方は大丈夫なのですか」 ピクリ、と父の方眉が跳ね上がる。「アーチボルトさん」と呼んだことが気に障ったのだろうか。父と呼ぶにはどうしてもはばかられ、かといって他人行儀にロード・エルメロイと呼ぶのも気が引けてそう呼んだのだが、その一瞬、一瞬だけだったが父親の顔が泣きそうに歪んだのがわかった。でも、それは気のせいかと思うくらい早く父親の表情からかき消えた。代わりに、憎々しげな表情もあらわに薄い唇が冷たい言葉を紡いだ。 「貴様には関係のないことだろう。用がないならとっとと帰ったらどうだ」 関係がない？確かに自分は、この人とは何の関係もない人間だ。自分とこの人は、母を通してしか繋がることができない。この人と母との関係がなくなった今、この人と自分の間にはなにもないのだ。そう思うと、体の奥底から怒りが込み上げてきた。なにに対する怒りなのかはわからない。父を裏切った母に対するものなのか、自分を愛してくれない父に対してなのか、それとも、自分自身に対してなのか。わからない。考えるよりも先に手が出ていた。 父が椅子から転がり落ち、信じられない、といった表情でこちらを見上げてくる。 どうしていいのかわからなかった。 ただ、父を父として愛し、そして、愛されたかっただけなのに。

誰も期待してないけど、どんどん投稿するよ！<br />タグ登録、ブックマーク、評価、デイリーランキング入りありがとうございます。<br /><br />タグ　誰か！幸せを下さい！！　この父親と息子が幸せにならないなんて嘘だっ！＞だが断る！<br /><br />という内容になってしまいました。<br />私が悪いんじゃないもん。ディルムッドとケイネス先生が悪いんだもん。<br />でも、ハッピーエンドにしたいんですよ。本当に。だけど、幸せそうなケイネス先生を想像すると必ずこの先に不幸が待ち受けてるようにしか思えないんだよ。幸せなケイネス×ソラウも好きなのに、私が書くと全部夢オチですよ。なぜ。

エルメロイ一家は解散しました。　４

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「主、荷物が届いております」 「わお、受け取ったの一期だったか。ありがとうありがとう、さ、それを大人しく私によこしなさい」 「……その態度、やはりこれも婚活とやらに関係する荷物か」 手にもった段ボールを親の仇の用な目でにらみつける一期一振。端正な顔をゆがませその口から出てきた「婚活」という言葉の響きに、こちらへの嘲りが含まれている気がするのだが、きっとそれは気のせいではない。 「イケメンの口から婚活なんて縁のない単語を聴きたくない！それはただの洋服だから、必要物資！婚活、関係ない！」 それは婚活パーティーに来ていくために買ったカジュアルドレスなのだが、そんな事を言ってしまえば彼はどこで覚えたのかネットの返品処理を済ませようとするに決まっている。 廊下で「それをよこせ」「いえ、だめです」と無意味な応酬繰り返している私たちの姿はもはやこの本丸の日常と化していた。私たちの横を通る他の刀剣たちも、何を言うでもなく素通りだ。 一体どうして私の婚活を邪魔するのだ。 「あのね、一期。私、結婚した所で審神者止めてこの本丸ほったらかしたりとかしないよ？ちゃんとこの仕事に理解ある人と一緒になりたいと思ってるし」 「そういう、事では……」 なにかを言おうと口を開いた一期だったが、コホンっと一つ咳払いをした後、バカにしたような憐みを含んだような顔を此方に向けてきた。お前、その顔、弟に向けてみろ！ 「と、とにかく、主の様なかたにそのような条件のそろった相手が見つかるとは思えませんな」 「ひっど。だから婚活してんでしょうが！！そう簡単に相手が見つかるわけないって私だってわかってるわよ！！」 結局、婚活であると言ってしまったけれど仕方がない。 だって、切羽詰まっているのだ。このイケメンの神様には絶対にわからない。結婚適齢期の女の気持ちが！ 「とにかく、私の邪魔をしないで！」 私が審神者になったのは大学を卒業してすぐだ。 必死こいて戦い、本丸を運営し、ふと気が付けば幼馴染が結婚していた。おめでとう、なんて祝っていると次々と友人たちが結婚していく。そして気が付く、私、このままでいいのか、と。 審神者という仕事に誇りを持っている。だが、この仕事、本丸からまったくでない。出かけて演練、万屋、遠出で政府である。刀剣以外と出会わない。年の近い男性との出会いの場がまったくない。 演練で審神者とは出会うが、審神者相手に出会いを求めてダメになった時に、審神者中に噂が広がるのも嫌だ。となると本当に誰とも出会わないのだ。 自然に出会いを待っていたところで、私に春はこない。だから私はみずから勝利を掴みに行くことにしたのだ。 婚活サイトに登録してみたり、婚活パーティに参加してみたり。本丸内にいるからいいやと思ってほったらかしてた身なりも、普段から化粧をするなどと整えて、準備を進めていたのだ。私がそうやって姿をきちんとし始めたことは刀剣たちからも好評だった。燭台切や歌仙からはかっこよく決まってる、雅だと彼らたちから最上級の褒め言葉も貰えたし、短刀たちからも可愛いですと言って貰えた。もう可愛いなんて年齢じゃないけれど、褒められればうれしい。短刀だって見た目は幼いけれど何百年も前に生まれているのだから、私なんて子供みたいなものなのかななんて。 私は、婚活に前向きであることを言っていなかったが、隠してはいなかったのだ。 だから、応援してもらえると思った。 審神者を続けていいと言ってくれるような、そういった相手を私は探していた。まず政府がこの戦いを辞めさせてくれるとは思わなかったし、私自身も戦いを辞め刀剣たちと離れるつもりなんてなかったから。もちろん、まだ初めてちょっとしかたってないから簡単に相手が見つかるとは思っていない。でも少しでも早く見つかるよう、彼等に協力を、というかアドバイスを求めてみたのだ。とりあえず近場にいた、一期一振を筆頭とする粟田口集団に。 「男受けするのって、どういう感じだと思う？！」 まあ、それが間違いだったんだけど。 「神様には分からないだろうけど、人間は歳をとるの、いつかは死ぬの。その時に一人なんていやよ。誰かを好きになって、その人との間に子供がいれば理想だけれど、家族がちゃんとあったっていう思いを胸に死にたいのよ」 「死ぬための結婚ですか。それなら」 「そうじゃないけど！とにかく出会いを求めて行かないと女はあっという間に賞味期限切れってのが世間のいうところなのよ！私いくつだと思ってるの、そろそろやばいんだって」 「やばいやばいとそんな口のきき方しているうちは無理かと」 馬鹿にしたような視線を送る刀剣男士一期一振は私の婚活になぜか反対している筆頭だ。筆頭というか最近は彼にばかり反対されている気がする。何でだろうか。審神者が結婚することに問題はないはずだ。知り合いの審神者だって結婚したけれど本丸の運営はちゃんとしているし。この仕事に理解ある相手探しはそりゃ苦労するだろう。だからこそ刀剣にも協力してほしかったのだけれど。 「くっ、そうかもしれないけど」 この仕事が相手探しのハードルになっている事は間違いないのだが、私の方にも問題はある。私の性格？ちがうちがう。それもあるかもしれないけれど。 「あのねえ、相手が見つからないのは、あなたたちのせいもあるんだからね」 といってもこれは完全に八つ当たりだ。 「ほう？」 「あなたたちが、無駄に見た目が良いせいで、私の目が肥えちゃったのよ」 「はあ」 抜ける声が馬鹿にした音だった。私だって馬鹿なことを言っているのは分かっている。 審神者の結婚が遅くなる理由の一つに、刀剣男士たちがある。 彼等を見てほしい。どいつもこいつもそろって顔が整っている。これで性格が悪いなら話しは別だが、性格の悪い刀剣が居るだろうか。いないのだ。 性格に難ありだったり、過去にいろいろあったりの刀剣たちばかりではあるが、では性格自体が悪いのかと問われればそれは否である。 顔良し、正確良しそんな人たちに日々囲まれてごらんなさい。人間の男を見る目がどうしたって厳しくなってしまうのだ。 こんなことを言えばまた一期の馬鹿にした声と言葉が飛んでくるんだろうなと思ったのだがそれがない。 不思議に思って彼を見上げれば、なんだか満足げな顔。 「いや、何でそんな嬉しそうなの」 「嬉しい？いいえいいえ、そんな事はありません」 「いや絶対に嬉しそう」 「そうですなあ。それではいつまでたっても主は人間の男との結婚はダメそうですな」 「ダメときたか！」 この一期だって、厭味ったらしい事を言うようになってしまったけれど、性格が悪いわけではないのだ。……だよね？最近不安になってきた。 届いた荷物は返してくれないまま、彼はすたすたと執務室へと向かってしまう。執務室のパソコンから返品処理をしようとしている事に気が付いた私は慌てて後を追う。もともと執務室へ行くつもりではあったのだが。 執務室までの廊下でも、荷物を返してもらうためのやり取りは忘れない。 「だいたいなんで一期は私の婚活反対なのよ」 「なぜ、の理由が分からぬうちは永遠に反対ですな。分かったところで反対なのに変わりはありませんが」 「えええ、何よそれ」 一期の言う意味が分からず不満の声を上げる。歩幅が一期とは合わないので小走りになってしまう。それが癪なので私は一期の服の裾を引っ張りながら歩くのだ。 「そ、そもそも。主の様なかたに、人間の相手など見つかるわけもありません」 「私のようなって、どういうことよ」 「男受けを求めて露出の高い服を着てみたり、化粧をしてみたり」 「いや、それ一期だって褒めてくれてたじゃん。か、可愛って言ってくれてたじゃん」 私が見た目を気にしだしたときも近侍は一期が務めていた。その一期がまず一番に私の事を褒めてくれたのだ。弟たちを褒め慣れているからだろうか。甘やかな声は私の心を優しく撫でたというのに。 「それは、まさか他の男の為とは思いもよらず……ではなく。とにかく、そのような浅はかな理由で取り繕ったところで、まともな男が寄ってくるはずもない」 「一理あるけど、まず出会いを求めてかないとなのよ私は！いつかある良い出会いの為にも、数撃っとかなきゃまずいでしょ」 「そういうところがっ」 丁度執務室の前まで来たところで、一期は思い切り振り返ってきたのだ。苛立った顔で。 最近の一期一振は百面相だななんて思っていたけれど、この顔は初めて見た。 「というか、主さま。そう言うのならなぜ、政府の合コンにお越しにならないのでしょう」 不思議な力で、誰も触っていないのにスパーンと障子が勢いよく開く。 私も一期も驚いて執務室の方に勢いよく顔を向けた。一期はあっちこっち首を動かして忙しいなあ。 「こんのすけ？なに、それ。政府の合コン？なにそれ」 「なにそれ、ではありませんよ。毎月送っているではありませんか」 「はっ？」 一期の後ろにいた私だけれど、彼を押しのけて執務室に入る。座布団の上にちょこんと座っているこんのすけの前に、私も膝をついて座るのだ。 「え、政府が合コンって、そんなことしてるの？」 「してますよ。政府の男性職員も嫁不足ですからね」 「嫁不足、え、なんでなんで」 政府の役員と言えば公務員。このご時世、合コン行けばモテるんじゃないか？ 「政府の、歴史修正主義者に対応する課の者たちはですね、たしかに給与は他よりよいのですけど、不規則勤務ですし。審神者とか歴史修正主義者とか怪しい物をなかなか一般の方に理解してもらうのは難しいのですよ。理解できない仕事をしている人と、結婚してくれる女性はおりません」 「た、たしかに」 「それに、政府の職員は、臨時で審神者をすることもあるので、刀剣男士への理解もありますし、彼等の顔を見て落ち込む事もないのです」 「は？どういうこと」 「なんと申しますか、刀剣男士の見目により自信を無くす職員は早々にこの課を離れていくので、それなりに見た目の良い者、もしくはそうした事を気にしない心の広い物が残るのです。本来なら優良物件、女性からは引く手あまたの筈のものたちが大勢、政府では余ってます」 「なるほど。それで、政府主催の合コンってわけか。え、私そんなの初めて知ったんですけど」 「そんなはずはありませんよ？ある程度の年齢の未婚の審神者には男女問わず送られておりますから。政府主催ですから、会費も何もいりません、明後日開かれますから、主さまも参加なさってください。あなた様ならすぐにでも相手は見つかりますよ」 こんのすけの話を食い入るように聞いていたのだが、背後からつぶやきが聞こえたのだ。 「くだきつねめ、余計なことを……」と。 背後にいるのは一期一振しかいない。余計な事、つまり彼は政府主催の合コンを知っていたというわけだ。 「もしかして、一期、そのお知らせとやらを隠してたわね」 今日、荷物を受け取ったのが一期だったように、この本丸では手紙や荷物など、たいていの物の受け取りを刀剣たちがおこなっている。こいつ中身勝手に見たのか。 キッと睨んでみると一瞬たじろぎはしたのだが、それもつかの間あっという間にいつもの皮肉な笑み。 「主には必要ないと思ったまで」 「ちょっと、それを決めるのは私だし、一期がどうこうしていいものじゃないでしょ」 反省の色がちっとも見えない。悪いことをしたら謝りなさいと、常々弟たちに言い聞かせている人物とは思えない態度である。そもそも悪いと思ってないのかもしれない。 「丁度、パーティー用のドレスも届いた事だし、こんのすけ、私、その合コン参加するから！」 「主！？」 「かしこまりました。ではそのように伝えます。当日また迎えに上がりますね。っと忘れる所でした、次の任務の指令です。では私はこれで」 ぺこっと首を動かしたこんのすけはあっという間に消えてしまう。 さて、出会いに希望が持てたところで後ろに立っている一期一振様である。 立ち上がって彼を見れば苦虫を噛んだ顔。 「ねえ、一期。一応聞くけど、いままでの合コンのお知らせは？」 「……破いて跡形もなく燃やしてあります。先日の焼き芋の時にも使用しました」 「はっ、あのときか！おいしかった……じゃなくって、なんでっ！？」 「言いたく、ありませんな」 言わないと言い出した一期一振は梃子でも動かない。 「過ぎたことだからその事はもういいわ。とりあえずその荷物渡しなさい」 「嫌です」 そう、こうなった一期一振は梃子でも動かない。彼はとっても頑固であるから。 だが残念なことに私は彼の主である。何より強力な最終手段があるというのに、彼はそれを分かっていて譲らないのだ。 「一期一振、主命です。それを私によこしなさい」 そう言ってしまえば私の勝ちだ。 ものっすごく嫌そうな顔で、しぶしぶ渡されたその中身は婚活用のカジュアルドレス。 これを着れば、彼ならきっと褒めてくれたであろう、そんなドレス。 「政府男子、ハイスペックすぎてびっくりした」 「ああ、無事に帰ってきたみたいだね、よかったよかった」 政府の合コンから返ってきた私を迎えたのは歌仙だった。初期刀だからだろうか、なんだか心配をかけてしまったようで、お母さんみたいな対応をされてしまった。 「主が無事に帰ってきたって、一期一振に伝えてきてくれないか」 「りょーかい！主さん、おかえり！」 「愛染ただいま！え、一期にって、何で」 歌仙の横でいっしょに私を待っていてくれたらしい愛染に疑問を口にすると、愛染もそして歌仙も変な顔をしていた。 「手がかかるのは一期一振だけじゃなかった。そうだった、君も手がかるんだ」 「え、なになに、何の話？」 「あーっと、そのうち分かるだろ。じゃ、俺は先行くから」 詳細を教えてくれぬまま、愛染はさっさと私の前からいなくなってしまう。 話しが見えないので歌仙に聞こうと思ったのだけれど、歌仙もちゃんとは言ってくれなかった。 「それより、いい相手は見つかったのかい？」 「まあ、みんないい人だったし、わりと私も好意的に受け止められてたかな」 「へえ。まあ、そうだろうね」 「ん？なになに、私モテるって？嬉しい事言ってくれるねえ」 冗談のつもりで言ったのだけれど、歌仙は大きくうなずくのだ。これまでの人生で、モテた記憶のない私はびっくりである。 「君は確かに少しガサツなところがあるけれど、見た目も性格も悪くはないからね。普通にしていればとっくに嫁の行先もあっただろうさ」 「え、そうなの？なんか、歌仙に言われると照れる」 「僕のいう事に心動かされなくていいから」 何に呆れられたのかは分からないけれどため息をつかれてしまう。最近、呆れられることが多いな。 「で、いい相手は？」 「まあ、初めての参加だったからそんなすぐに見つかりはしない、よ」 自分で言っていてむなしくなる。 たしかに合コンの相手はとても良い人ばかりだったし、私もまあ、モテたのだろう。話していて楽しい人はいた。尊敬できそうな人もいたけれど、じゃあ結婚とかそういう話になるのか、ずっと一緒に居たいと思えるのかといえばそれはやはり違うのだ。 新調したばかりのドレスをきゅっとつかむ。 だめだだめだ。後ろ向きになってしまった人間の所に良い相手なんて表れるわけが無いのだから。 「ところで」 「ん？」 歌仙がゆっくりと歩きだしたので私もそれに並んで歩いていく。 「その雅な姿を、一期一振にはみせたのかい？」 「姿を見られたら全力で馬鹿にされると分かっていたので、見せてません」 「はは、だろうね。きっと君のその姿を見たら、彼は合コンとやらに行かせはしなかっただろう」 何だか楽しそうに話す歌仙。私の姿を見たら？そんなの関係なく、彼は私の婚活を邪魔してくるのに。 一期が何を考えているのかは分からないけれど、私の婚活の邪魔をしないでほしいのだ。 私は、いい人と結婚して、できれば子供がほしくて、苦労しつつも年を取って死んでいく。そういう未来を望んでいるのだ。そういう未来が人としてあたりまえに望むべきものなのだ。 だからそう望むことを邪魔しないでほしい。 あの美しい人は、人ではないのだから、人である私の未来の邪魔をしないでほしい。 彼が優しく微笑むだけで、私の横に立つだけで、私の未来の邪魔をする。 水飲みたいと私が言ったから、私と歌仙が向かうのは台所だ。水をもらって湯を浴びて、さっさと寝て明日に備えよう。 そう思っているところに聞こえてくる駆け足。 短刀の物ではないそれは、こちらへ向かってきていた。 「主っ！？」 あれ、内番のジャージじゃないんだ。もう寝る時間だよ？なんて思いながら一期を見る。 一期は、頭の先からつま先までを確認するかのように私の事を見ていた。なんだろうか？何か変だったのだろうか？そう思って首をかしげた瞬間、一期の顔に朱がさした。なぜ。 彼は上着を脱ぎながら、私の方へ近づいてくるとその上着を強引に私の肩にかけてきた。 「なぜ、そんな薄着をっ。いくらなんでも露出が多すぎます！」 「ええー。ふつうだよ普通」 「そんなかっこうで他の男の前に出ただなんて、信じられません」 「いや、なぜ。ちょっと歌仙も一期になにか言ってやってよ」 ぷりぷりと怒り出した一期に辟易して歌仙に助けを求めたけれど、苦笑した後『あとは二人で話し合いな』なんて言って部屋へ戻ってしまった。ちょっと、どういうことよ。 「あの、一期」 「ああ、嫌なんです。あなたがこの本丸から出るのは」 「いや、出ないって。結婚しても審神者はつづけるし、子供ができたらその子がこの本丸引き継ぐってのも……」 「その子供は、誰との子ですか」 「はあ？そんなの、結婚した相手に決まってる……っ」 話の途中で両肩を一期に捕まれる。痛くはないが、その力は強い。 「引き継ぐって何ですか、子供って何ですか」 「え、だっていつか私が死んだあとこの本丸を継ぐ人がいないと一期たちだって消えちゃうじゃん。いやでしょ？そう前に言ってたじゃない」 私が婚活に焦った理由。子供はできたらでいいとは思うけれど、それでも子供が欲しいと思った。 それはなぜか？この本丸の為だ。 「言ってた？何をです」 「一期が、言ってたんだよ。この本丸にいることができて幸せですって。だから、わたし、この本丸ができるだけ長く続く事が有るようにって思って」 「それで、子供。それで結婚、それで婚活ですか」 攻め立てる様に一つ一つを確認された。それにこくこくと頷くしかできない。私の肩を掴む一期の手にさらに力が込められたからだ。 はーっという長い溜息を彼が吐いた。今度は何に呆れているのだろうか。皆目見当がつかない。 いいかげん、私に触れる手を放してほしいと思って身じろいでみたのだが、それを許さないとでもいうのか、彼はキッと私を睨む。 「この本丸を長く続けるというのなら、あなたがずっとこの本丸の主であればいいだけの話」 「いや、そんなの無理」 「無理？そのような事はありません。私たちと、いや私とずっといればいい。もともと人と我々の間を取り持つ審神者の力をもつのだから、我々に近づくことだって不可能ではない」 何だか異様な空気が私と一期の間には流れている気がするのだ。なぜだ、何の話をしていてこんな空気にならねばならないのだ。……なにって。婚活ですよ。婚活。私の結婚の話だ。 「あなたがこの本丸を離れると言う未来は永遠に来ない。あなたが人間と結婚することも、人の子をなすことも」 「ちょっと、なにを言ってるのよ」 「あなたこそ、私の心を振り回すのはやめていただきたい！」 「はぁ！？」 私がいつ一期を振りまわしたというのだ。彼に振り回されているのはずっと私の方だと言うのに。 「もともと美しいあなただったのに、その衣装や化粧で何処までも美しくなる。それはとても喜ばしい事ではあるが、私からどんどんと離れていくようで気にくわない。それが私の為だと言うのならともかく、他の男の為？人間のため？許しがたいですな」 「は、はあっ？！」 「人間の男にはもったいない方だ。あなたの心、その姿、そして魂とそのすべてが私を揺さぶりとらえて離さないと言うのに、なぜあなたは他を見るのです」 私の肩を掴んだ手が離れ、彼はその手を私の頬を包むように添える。 彼の金の瞳に映る私の顔は、絶対に真っ赤。だからその目を見たくなんてないのに、その瞳からとろりと溶け出す甘いそれを見つけたくて仕方がない。どこからともかく現れた甘いそれは、私へゆっくりしみこむのだ。 ダメだと分かってそれを貰ってしまう。 だめだだめだ、私はこれを受け取ってはダメ、求めてはダメ。だってそんな事をしてしまえば，私は人として生きられなくなってしまう。 結婚して、子供を産んで、年を取って、いつか死ぬ。 そうした未来を歩むため、まず私は人間と出会って結婚しなければならない。つまり婚活せねばならないと言うのに。 「主、主。他の人間など求めんでください。主、主。婚活などというものはやめてください」 「嫌よ、一期。邪魔をしないで」 一期が私の婚活の邪魔をする理由は、言ってくれなきゃわからない。言ってくれるまで私は分からないと言い続ける。 それまでは私は婚活を止めない。 けれども、私の心を撫でる甘いそれは時々受け取ってしまう。 だから私の婚活なんて結局失敗に終わるのだ。だって彼が邪魔をする。 「主、こちらを見て下さい。人間の男など、あなたにふさわしくないのです。主のような方に人間の男が見つかる筈もない」 前にも聞いたなその台詞、どうしてもう一歩先が言えないのだろうか。 私も自分からは決して言いたくないけれど、言えないうちは構ってもらえるから。 私に未来は永遠に来ない。人としての未来なんて、彼といられるのならば……

勢いだけの話し。いつもどおり！！<br />あほな感じが増している気がしてならない。

婚活審神者に未来はない

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「俺、今日はお前を恋人扱いするから」 午前九時、少し前。 ニートである俺達なら普段寝ている可能性の高い時間だが、今日は違う。気温がぐっと下がるという天気予報にならいしっかりと防寒対策をした俺達は早朝に家を出て今、寒空の下肩を並べて立っていた。 場所は海の側にある某テーマパーク入園口前。以前参加した結婚式の二次会のビンゴ大会でカラ松が当てたペアチケットはそれぞれが一枚ずつしっかりと手に握っている。 平日の朝にも関わらずそれなりに賑わう場所で、俺は高らかにそう宣言した。目を丸めて不思議そうに俺の顔を見つめたカラ松は直後にきょろきょろと周囲へ視線を彷徨わせる。 「何」 「いや、随分でかい声で言うから」 「誰も気にしてねぇしたいして聞こえてもねーよ。それよりわかった？ 俺の言ったこと」 大事な事なので二回言っても良かったが取り敢えずはそう確認した。しかしカラ松はまるで表情を変えずにぽかんと俺の顔を眺めている。 「……なぁ、なんか言ってくれる？」 「ああ、すまない。ビックリして」 人の気持ちを知ってか知らずか、カラ松は淡々とそう返してくる。こいつがこうだろうと思って冒頭の発言をしたのだがさも驚きましたと言わんばかりの顔をされると流石に少しばかり落ち込んだ。なんだよ初デートに浮かれてるのは俺だけかよと拗ねたくなる。 二人きりで出掛けるのは何もこれが初めてではないけれど、恋人になって言わばデートという名目で出掛けるのは正真正銘これが初めてで俺なんか昨夜よく眠れなかったにも関わらず早朝には目が覚める位には楽しみにしていたというのに。 「なんだよ、意識してんのは俺だけかよ……」 「いや、そうじゃなくて」 唇を尖らせてぼそりと漏らせばカラ松は目線を逸らし、ようやく照れているような表情を見せた。そしてふにゃりと顔全体の筋肉を緩める。 「俺は元々恋人扱いするつもりだったし、されるつもりだったから。改めて宣言されて、少し驚いただけだ」 そう言うカラ松の顔はこれ以上なく嬉しそうで今度は俺の方がぽかんと間抜けな顔を晒してしまう。直後にカッと体温が上がり顔が熱くなった。 そんな顔でそんな風に言われてしまえば拗ねていたことなど忘れ去って落ちていた気分も簡単に浮上する。心配せずともカラ松は今日のこれをデートだとちゃんと認識してくれていたようだ。 「あーそう……」 「任せろ、トド松に散々叩き込まれてきたからな。ルートはバッチリだ」 「え、お前トド松に言ったの？」 「？ ああ、言ったぞ」 驚く俺を尻目にし、さも当然と言わんばかりにカラ松は頷いた。しかしそれ以上に俺とカラ松が二人でテーマパークに行くと知った上でトド松がアドバイスをしたらしい事に驚く。 「僕も行く！ とか言わなかったのアイツ」 「いや、土産は指定されたけどな。ほらこれ、知らなかったけど集めてるらしい」 画像フォルダから一枚の写真を呼び出したカラ松はスマホの画面をこちらに向ける。そこにはこのテーマパークのキャラクターをモチーフにしたミニカーらしき物が写し出されていた。 「へぇ……俺も知らなかったわ」 「ふっ、全く秘密主義の子猫ちゃんだぜうちのプリティボーイは」 「アイツほんと変なとこ秘密主義だからな」 画面を眺めつつ、つい感心してしまう。本当に何事にしてもよく知っているやつだ、うちの末弟は。その情報を俺達兄弟に流さないのがたまにキズだけれど。 「……で、言ったのか？」 「ん？ ……ああ、いや、話してない」 同じ言葉でも含む意味が違うことをカラ松はすぐに感じ取ったようで首を横に振って見せた。流石に俺達が付き合いだしてこれがデートだと言うことまでは話していないらしい。 それにしては今日のカラ松はまともな格好をしている。青いタートルネックのセーターも黒いスキニーデニムも確か以前トド松と買い物に行った際に選んでもらった物だろう。パンツと同色のファー付きダウンも自分で選んだ物では無い筈だ。 加えて、俺の今日の格好も同じくトド松コーディネートだ。朝起きたらこれを着ろと言わんばかりに箪笥の前に畳んで置かれていたのを二人してなんの疑問もなく着てきたが、カラ松が話したのではないのなら何故こんなにも用意周到だったのだろう。 「トド松は勘がいいからな。気づいているのかもしれない」 パークの地図を眺めるカラ松はそう言いながらも焦っている様子は微塵もない。昔からよく行動を共にしていたトド松のことを信頼しているのだろう。 俺としてもこの関係が兄弟にバレるのはやぶさかではないが、もう少し二人の秘密というものを持っていたい気もする。だから既にバレているにしても話すのはまだ先でいいかと、自分の中でそう結論付けた。 「あ、そろそろ開くぞ。まずはファストパス取りに競歩だからな」 地図の一箇所を示して笑うカラ松に、俺も笑って頷いた。 恋人扱い宣言までしたのは自分だと言うのに、誰よりこの初デートに現実味を感じていないのは他でもない俺なのだろう。 今目の前で笑っているカラ松が恋人として隣に並んでくれている未来など、少し前まではまるで想像もできなかったのだから。 [newpage] ◆◆◆◆◆◆ 松野家次男、松野カラ松。五人いる弟の中で最も近い位置にいたそいつは、いつしか俺の特別になっていた。 初めて疑問を持ったのは中学の終わり頃。その疑問の答えが見つかったのは、高校一年になってすぐ。 「はは……マジかよ笑えねー……」 脳裏を埋め尽くすカラ松の様々な顔、そして掌を覆う生温い液体に乾いた笑いと泣きそうな声が漏れた。 これでもう言い逃れはできない。この感情がなんなのか、わからないと逃げることもできなくなってしまった。 よりによって同性。よりによって兄弟。もっと言えば六つ子で顔まで自分と同じだというのに。 俺が長男であいつは次男。イタズラするのによく連んでいたのはチョロ松だが、色んな意味で一番距離が近かったのは間違いなくカラ松だ。 兄弟愛だと思っていたし、そう信じたかった。けれど頭の中であいつの淫らな姿を想像し、それをネタにこうしてオナニーまでできてしまったのだからもうその言い訳は通用しない。 誰もいない部屋で膝を抱え、ぐっと掌を握りしめる。こみ上げてくる熱いものはそうしてどうにか押し込めた。 「俺、長男、なのになぁ……」 呟いた言葉は思った以上に自分自身を責め立てる。 だってこんなの許されない。俺は皆の兄ちゃんなのに、こんな気持ちを抱いて許される筈がない。 おそ松兄さん、と俺を呼ぶカラ松の笑顔が好きだ。さっきの妄想なんかよりずっとずっと。なのにこの湧き上がる熱もそう簡単には消えてくれない。 「……でも俺、長男だからな」 自分に言い聞かせるようにそう言って、ティッシュで手を拭いジーパンのジッパーを上げた。 両手で頬をパチンと叩いて立ち上がり、姿見の前へ移動する。 同じ顔だ。カラ松とも、他の四人の兄弟達とも。そして俺はその同じ顔をした六つ子の長男、松野おそ松。 この気持ちを消すことが難しいのなら、せめて隠し通そうと誓った。兄弟達の前では変わらずお気楽能天気な長男で在れるように。 そうすれば、この恋が叶うことはなくともあの笑顔は失われない。俺の名を呼ぶ愛しい声が消えることだってないだろう。 そうして俺はその気持ちに蓋をした。様々なものを全て捨てて恋人になるよりもあいつの唯一の兄であることを選んだ俺に、カラ松を恋人扱いする未来なんて想像することすらできはしなかった。 ◆◆◆◆◆◆ 「平日だから人少なくて良かったな。あまり並ばずに済むし」 園内マップを広げて次の目的地までの道を確認しているカラ松はホッとしたようにそう言った。人気アトラクションのファストパスを取ってからいくつかアトラクションに並んだが、確かにどれもあまり時間がかからなかったように思う。 その隣で俺は首から下げたニンジンを鼻にぶっ刺したような風貌のキャラクターのバケットからひたすらポップコーンを摘んでいる。キャラメルでコーティングされたそれは甘ったるいかと思いきやクセになる味で口に運ぶ手が止まらない。 「ニートの特権だろ、平日休日関係なしってな。ん」 「あ、サンキュ」 さっきからマップを手放さないカラ松の口元にごそっと取ったポップコーンを差し出せば拒否することなく口が開かれる。歩きながらなので二個ほど地面に落ちてしまったが掃除係のお兄さんが片してくれると信じて無視した。 「それ似合うな」 「は、これ？」 「ああ、可愛い」 「そりゃどーも、って嬉しくねーわ流石に」 バケットを指して言うカラ松に乾いた笑いを漏らす。カップで買っても良かったのだが首から下げれるし追加で買えば足してもらえるしで選んだだけのことだ。可愛さを狙ったわけでは決してない。 「ついでに耳も買ってやろうか？」 「冗談。つかお前もれなく道連れだかんな？」 「はは、いいじゃないか折角だし」 楽しそうな様子のカラ松はわかりやすく浮かれていた。勿論俺も例外ではないのだが、こうして屈託なく笑うカラ松を見ていると来て良かったと改めて思う。 「あ、ちょっとトイレ行ってきていい？」 「じゃあそこで待ってるから」 すぐそばにあるベンチを指したカラ松と別れトイレに入ると流石夢の国、こんな細部まで幻想的にデザインされていることに感心した。 しかし、わかってはいたがカップルもしくは女同士の組み合わせが多い。男性のみのグループも見かけるが二人というのはやはり珍しいみたいだ。 だからどうというわけではないし、周囲の目を気にして初デートを台無しにするつもりも毛頭ない。カラ松を散々に甘やかして今まで我慢した分も存分にイチャイチャするのだから。 でも流石に手は繋げないかな、なんて思いながら手を洗って外に出るとベンチにカラ松の姿は無かった。どこへ行ったのかと辺りを見渡せばカラ松は少し離れた場所からこちらへと歩いてくる。向こうも俺に気づくと小走りで駆け寄ってきた。 「早かったな、待たせてすまない」 「んーん、けどどこ行ってたの？」 「喉が渇いたから。飲むだろ？」 そう言って差し出されたジュースカップは中身が三分の一程減っているらしく少しだけ軽い。カラ松の手にもう一つがないところを見ると一個で充分だと判断したのだろう。 「おー、あんがと」 「さぁ行こう。目的地はすぐそこだぞ」 あ、と思うよりも前に自然に手を握られる。軽く引かれる力に逆らわずにいれば、その手は暫くして今度も自然と離れていった。 他人から見てギリギリ不自然に思わない間隔。それをこいつがわかってやっているのかはわからないが、おそらく意識はしているのだろう。 今飲んでいるジュースだって季節柄ココアやポタージュでも良かった筈なのに、ポップコーンで乾いた喉を潤すように冷たいのは的確に今俺が望むものを感じ取ったからなのだろう。 本当にこいつの隣は心地いい。気遣いが押し付けがましくないし、自ら望んでそうしていることがありありとわかるからだと思う。 こんなん俺じゃなくても惚れるわ。流石密かにモテる過去を持つ男だわ、と脳裏に浮かんだ思い出につい足が止まりかけた。 「どうしたおそ松」 それに気づいたカラ松も足を止めて振り返る。不思議そうにこちらを見つめるカラ松にへらっと笑いかけ、今度は俺から数歩先にある右手へ飛びついた。 「なんでもねーよ」 そんな俺に驚いたらしいカラ松だが、すぐに笑って向こうからも握り返してくれる。例え周囲から気味悪がられようと、はたまた仲の良い兄弟だと思われようと、今間違いなく俺達はその辺のイチャつくバカップルと同じなのだ。 誰が惚れてようとこいつは俺のものなのだと、叶うならば声を大にして言って回りたいと、俺は割と本気でそう思っていた。 [newpage] ◆◆◆◆◆◆ 「あのね、私カラ松君のことが好きなの」 突然そんな事を告げられた俺の目は見開かれ、手にしていた焼きそばパンは膝の上へぽとりと落ちた。 目の前にいるのはクラスメイトの女の子。控えめで大人しい性格だが可愛い顔立ちをしているその子は俯いて、少し恥ずかしそうにそう言った。 話したい事があると昼休みに呼び出された時は正直この手の話を想像したが、まさかその対象が自分でなくカラ松だとは思わなかった。というか何故俺に言う。俺たちはそれぞれ赤と青のパーカーを学ランの下に着込んでいるのでカラ松と間違えたなんてオチではないだろうが。 「え、あ、そう……え、マジで？」 なんとか普通を装おうとしたが無理だった。ぎこちなく笑い焼きそばパンを拾いながら聞き返すと頬をほんのり赤く染めた彼女は小さく頷いて見せる。 カラ松があれで結構モテるのは知っていた。けれどこうして面と向かって告げられたのは初めてでつい動揺してしまう。 「その、カラ松君が出てる舞台観に行ってる内に……好きに、なっちゃって」 「は、ははー、そう……いやー我が弟ながら隅に置けないわ」 へらへら笑いながらも内心では、だから何で俺に言うの!? と叫んでいた。クラスメイトの密かな恋心を聞いてどんな反応するのが正解かなんて俺わからないんですけど。相手がカラ松だと言うなら尚更だ。 「でも、私カラ松君とあまり話したことないし、どっちかって言えばおそ松君の方がよく話すから……あの……」 言いにくそうに言葉尻を濁す彼女の様子を見て、そこまで鈍くない俺は疑問の答えをすぐに察した。 成る程、と納得してしまえば動揺も消えて心がすっと冷えていく。彼女から視線を外し、あー、と間延びした声を上げた。 「俺に協力して欲しいとか、そういう……？」 「っ……協力、っていうか……話を、聞けるだけでもいいの。カラ松君のこと、おそ松君なら沢山知ってるだろうから、って……」 咎められたと思ったのか、彼女は泣きそうになりながら必死に言葉を紡ぎ出した。そんな健気な様を見せられて、今泣きたいのは俺の方だってのに。 好きな奴を思って頬を染め、目を潤ませる彼女の姿は俺から見ても可愛いと思う。これだけ想われてる奴は幸せだな、とも。 けれどその対象はカラ松だ。俺が禁忌の恋心を抱き、その気持ちに必死に蓋をしている最中の相手でもある。 知っていた筈なのに、彼女が酷く羨ましい。異性であるだけでこんなにも簡単に想いを口にできるのだ。家族でないだけで、同じ顔でないだけで。 こうして俺に話すまでも相当の勇気がいっただろうことは見当がつく。けれど俺はその勇気を持つことさえも許されないのだから。 いーなぁ、と思ったそれがそのまま口に出そうになった。どうにか飲み込んで乾いた口内を湿らせ、表情が剥がれ落ちていただろう顔に再び笑顔を貼り付ける。 「いーよ、それ位なら」 「ほんと！？」 「うん。つっても俺あいつの好みとかイマイチわかんないけどね」 それでもいいと喜んだ彼女は目尻の涙を指で掬い、まるで花のように笑った。 恋をすること自体が罪で、想いを口に出せない俺に。そうすることに何の問題も持たない彼女が、何も知らずに協力を仰いでいる。そんな現状がおかしくて、俺の笑顔は歪に崩れた。 「ああ、でも」 俺はそこまで出来た人間じゃない。仲の良いクラスメイトのお願いとか大体は聞き入れちゃうけど、これは無理。 女の子を泣かせる趣味なんてないけど、今の俺の立場なら大抵のことは許される。だってこれは、言わば自己防衛だ。 「カラ松、確か好きな子いたよ」 そうしてなんの躊躇いもなくするりと口から漏れた嘘に、その時俺の心は少しも痛みはしなかった。 ◆◆◆◆◆◆ （このタイミングでやなこと思い出した……） 画面に映し出された写真を見上げ、脳裏を巡った過去の苦い思い出に思わず肩を落とし、眉間に皺を寄せる。 いくら自分にも理由があったとは言え、例の彼女には相当酷いことをした。カラ松には他に好きな子がいるなんて嘘を吐き、挙げ句の果てにはカラ松だと偽って自分とチョロ松の写真を渡したのだから。 しかもそれを後生大事に結婚するまで持っていたというのだから本当に頭が上がらない。今からでもお祝儀を上乗せしにいきたい気持ちになる。 「どうしたんだおそ松。写真買うのか？」 「いや、買わねーよこんなん……」 画面には身体が落下する恐怖に顔を歪ませた俺とカラ松が必死に互いの手を掴み合っている様が映し出されている。正直に言えば少し欲しいがこんな物持って帰って兄弟に見つかった日には何を言われどれだけ笑われるかわからない。 カラ松も同じ事を思ったのか名残惜しそうに画面を眺めつつもそれを買おうとはしなかった。その横顔を眺めつつ更に嫌な記憶が蘇る。 あの時咄嗟に吐いた嘘に自分自身が捕らわれた記憶。カラ松の好きな子を捏造して伝えたはいいものの、ふとそれが本当だったらどうしようという不安に駆られたのだ。 適当に告げた名前は当時カラ松と同じ演劇部に所属していた子のもので、端から見ても二人は相当仲が良かったように思う。だからこそ彼女に信じさせることができたのだが、本当にカラ松の気持ちがその子に向かっていたらと考えると急に怖くなったのだ。 結局その後本人に確認した際きっぱり否定されたのだが、今思い出してもあまり良い思い出ではない。 「おそ松、次はあっちだ。山の方」 「はいはい……ん？」 手招きするカラ松の後方に見えた姿にふと足を止める。5歳位だろうか、幼い女の子がこのテーマパークの人気キャラであるクマを抱いて一人不安そうに立ち尽くしていた。 今にも泣き出しそうな表情を見るにおそらく迷子だろう。どうするべきか悩んでいる間に俺の視線の先に気づいたのか、カラ松がその子の元へと駆け寄った。 「やぁレディ、可憐なお嬢さんがこんなところに一人とは、魔法の海も厄介なイタズラをしたものだ」 足元に跪き前髪を手で払いながらそんな事を言うカラ松の頭にチョップを落とす。こんな小さい子相手に痛いカラ松語録を披露しても困惑させるばかりでツッコミは帰ってこないしあばらを痛めてもくれないだろう。 思った通り女の子は更に困り顔になっておろおろと視線を彷徨わせている。このままでは二人揃って不審者になってしまうので、俺も腰をかがめてその子の顔を覗き込みにっこりと笑った。 「ごめんねーコイツちょっと日本語がヘタなの。君お母さんとお父さんは？」 「……パパはおしごと。ママは、」 そこで言葉を区切ってキョロキョロと周囲を見渡す女の子の目には次第に涙が浮かんでくる。やはりはぐれてしまったのだろう。俺を見上げたカラ松と視線を交わし、一つ頷いてから今にも泣き出してしまいそうなその子の頭を撫でる。 「ママ見つかんない？ じゃあお兄ちゃん達とママ見つけてくれるとこ行こうか」 「ママを見つけてくれるところ？」 「ああ、ここは魔法の海だからな。ママもすぐに見つかるぞ」 二人で笑いかければ少し安心したのか、女の子は涙を引っ込めて俺たちの顔を交互に眺めた。大きな目を丸めてジッと見つめた後、やがてぽつりと呟きを漏らす。 「お兄ちゃんたちおんなじ顔……」 不思議そうに首を傾げてそう言われ、今度は俺とカラ松が目を丸めた。今更顔が同じ事を指摘される事もそうありはしないので忘れていたが、端から見れば俺たちは見分けるのも難しい程同じ顔をしている。小さいこの子からすればそれは不思議なことなのだろう。 「そうだよ、お兄ちゃん達双子なんだ」 「双子？」 「そう、ママのお腹の中から一緒だったの。だから同じ顔なんだよ」 この子がどこまで理解できるか分からなかったが小さいながらもどうにか納得したようで今度は興味深げな視線を向けられた。本当は双子じゃなくて六つ子なんだけどね、と余計に混乱を招きそうな事実は言わないでおく。 「じゃあ行こうかリトルレディ」 立ち上がったカラ松が手を差し出すと女の子は恐る恐る小さな手をそこに乗せた。俺はマップを開いて迷子センターの場所を確認するが、いまいちどこにあるのかがよくわからない。 「おそ松、近くのキャストに預けた方がいいだろうか？」 「あー、そうだな。不審者扱いされる前にそうすっか」 雑に折り畳んだマップをジーンズのポケットに突っ込んで辺りを見渡すが、近くにいたキャストはどうやら別の対応をしているらしく忙しそうだ。せめて誰とも話していない人をと視線を巡らせていると女の子は手にしたクマをすっと俺に差し出してくる。 「ん？」 「お兄ちゃんこれ持って」 「え、お兄ちゃんが持つの？」 意図がわからずも取り敢えず受け取ると、今度は空いた手がそのままこちらに向けられた。驚いてその手を見つめ返すと女の子は小さな手をひらひらとゆすり始める。 「お兄ちゃんとも手、繋ぐ」 言われたそれを飲み込む前に俺の手は小さなそれに捕まった。どうやらあまり物怖じしないらしい女の子は満足そうに微笑んでいる。 「ははっ、こりゃ将来は沢山の男を泣かせそうだ」 「ああ、トト子ちゃんも吃驚な大物になるな」 そうして俺たちは三人で手を繋いで暇そうなキャストを探しに周辺を歩く。結果、キャストと話している間に母親が見つかって無事女の子を引き渡すことに成功した。 「本当にすみません、ご迷惑おかけしました」 「いえ、ほんとすぐだったんで」 丁寧に頭を下げる母親にへらりと笑い返し、女の子の手に再びクマを抱かせてやる。 「もうママから離れちゃダメだぞ」 「うん！」 嬉しそうに笑う顔を見てつい頭を撫でているとまるで妹でもできたような感覚に陥る。弟が五人もいる身で贅沢かとは思うが、やっぱり一人くらいは女の子がいても良かったなと今更ながらに考えた。 「そうだ、お兄ちゃんのポケットは魔法のポケットなんだ」 「え、まほう？」 「そう、一度叩いてみるといい」 突然カラ松がそんなことを言い出して何事かと思ったが、女の子は目の前のポケットをキラキラとした目で見つめ言われるままに一度ぽすん、と叩く。するとそこから棒付きの飴を一つ取り出したカラ松はそれを女の子の目の前に差し出した。 「わー、お兄ちゃん凄い！」 「フッ。良い一日を、リトルプリンセス」 赤いルビーのようなそれを嬉しそうに眺めた女の子は最後まで頭を下げ続けた母親に手を引かれて人ごみの中へと消えていった。それを見送ってから俺はすす、とカラ松に近付いてさっき女の子がそうしたようにポケットを叩いてみる。 「ん、なんだ？」 「ありゃ、もう出てこねーの？ 魔法のポケット」 「あれは弟……主に十四松用だ」 「えー、兄ちゃんには？」 ぐずるようにそう言えばカラ松は途端に眉間に皺を寄せ、わかりやすく嫌そうな顔をした。そして踵を返しすたすたと歩いて行ってしまう。 「ちょ、無視とか酷くない！？」 「口寂しいなら喫煙所行くぞ」 「ちぇ、冷てぇの」 唇を尖らせて拗ねてみせるがそろそろ口寂しくなってきたのは確かだ。素直に背中を追って横に並ぶと、カラ松は一度横目でこちらを伺ってから何故かふいと顔を逸らす。 「カラ松？」 「……今日は恋人扱いするって言った」 「へ？」 ぼそりと漏れたそれはどうにか耳に届いたが一瞬意味がわからなくて間抜けな声を上げてしまった。だが、やがてカラ松の心情を悟ってつい柄にもなく照れてしまう。 今日は飽くまで恋人として、それは俺も同じ気持ちだ。お互いに今後兄弟をやめるつもりは毛頭ないけれど、初デートの今日くらいは浸っていたかったのだろう。 恥ずかしい奴。そう思いつつ嬉しいと感じている自分がいるのも事実だ。だから俺はカラ松の腕に絡みついて不機嫌そうな顔を至近距離から覗き込んだ。 「じゃあ口寂しい恋人にはちゅーじゃね？」 「ばか、ちゅーとか言うな恥ずかしい」 大丈夫、この程度は仲の良い兄弟が戯れているようにしか見えない。カラ松もそれをわかっているのか俺の手を振り払おうとはしなかった。 不機嫌な顔にさした微かに嬉しそうな色に満足して、俺は喫煙所の目前でようやくその腕を離した。 [newpage] ◆◆◆◆◆◆ 「兄さん、これ」 ある日の午後、出かけていた筈のカラ松が帰ってきて差し出したのは一枚の白い封筒だった。パチンコに負け早々に手持ちをスった俺は不機嫌を隠さずに封筒を睨みつける。 無視しようかとも思ったがこうして渡してくるということはこの手紙は俺宛なのだろう。受け取って確認するとそこには確かに俺の名前があった。けれどその横にカラ松の名前も並んでいる。 送り主を見てすぐにその意味を理解した俺はパチンコで負けたことなど忘れて勢いよく身体を起こした。 「おお、あいつらか。ほんとに結婚すんだな」 それが結婚式の招待状であるということは封を開けなくてもわかった。以前当人から連絡を受けていたし、招待状も送ると聞かされていたからだ。 新郎の方は高校の頃一緒に馬鹿をやっていた奴でそいつが結婚とかマジかよと驚いた記憶がある。そしてその相手にも。 新郎に並んで記された名前は高校の頃、カラ松のことが好きだと俺に相談をもちかけてきた彼女のものだった。俺が騙し、偽ったことにより恋心を殺してしまった相手でもある。 何にせよ共に高校時代を過ごした友人同士の結婚式だ。悩むところはあれど参加することをすぐに決めてカラ松にペンを持ってくるように頼む。こういう返事は早い方がいいだろう。 しかし本当に感慨深い。あれだけカラ松に恋い焦がれていた彼女もこうして他の男性と新たに恋をして結婚に至るまでの気持ちを育てていったのだ。 単純に羨ましいと、そう思う。こうして変わりゆく気持ちもあるのに俺の気持ちは少しも他へは向いてくれないから。 長年拗らせた想いは変わるどころか日々重くなっていく。少しも表に出さぬよう心がけているそれは内で燻っている分余計に消える気配を見せない。 こうして友達一人の運命を無理にねじ曲げてまで自分の気持ちを優先させたというのに、想いを昇華させることすらできないでいる。今更になって彼女への罪悪感が僅かに胸に蘇った。 けれど、彼女は今幸せなのだろう。新たな恋に俺のようなお邪魔虫がいなくて本当に良かった。こうして結婚の報告を受けたことで、少しは俺も救われる。 「ん、あった？」 カラ松からペンを受けとり出席の文字に丸をつける。その他の礼儀を調べたり昔のことを話したりと、カラ松との会話は途切れることがなかった。 こうして共に過ごすだけで、共に過ごすだけが幸せだと、いつか俺もそう思えるようになるのだろうか。ぼんやりと、そんなことを頭の片隅で考えていた。 ◆◆◆◆◆◆ 「ダメだ気持ち悪ぃ」 「俺もだ。あんなところ五分もいたら死ぬ」 揃って喫煙所から出る頃にはすっかり日が暮れていた。太陽が隠れた所為で昼間より一段と冷え込み身体がぶらりと震える。 口寂しいからと喫煙所に入ったはいいものの換気が使用人数に追いついていない空間は煙が充満していて喫煙者といえど長時間滞在するのは困難なほどに煙たかった。その証拠に俺もカラ松も早々に根を上げてそそくさと退散してきたところだ。 「そりゃこんなとこ来てまで吸うなってのもわかるけどさー、あんな喫煙者は纏めて燻しますみたいな部屋にすることなくない？」 「まぁ仕方がないさ。ちょっとそこ座って待っててくれ」 言われる前にすぐ側にあったベンチに座り込んだ俺を置いてカラ松はどこかへ歩いて行ってしまう。トイレだろうかと思いつつぼんやりと待っていると次第に指先が冷えて痛くなってきた。 流石に遅いんじゃないかと携帯を取り出したところでようやく人混みの向こうに見慣れた姿を見つける。俺と目が合って微笑んだカラ松は湯気がのぼるカップを二つ手にしていた。 「煙草がダメならこっちだろ、ほら」 差し出されたそれを受け取ると、中身は深い赤に鮮やかなオレンジが浮かんだホットワインだった。冷えた指先がじんわりと熱を取り戻していく感覚に思わず目を細める。 「うあーあったけぇー。てか一緒に行ったのに」 「トイレのついでだ」 「あ、そ」 それ以上は追求せずに温かいそれを一口啜る。ほんのり甘く感じるのは気の所為だろうか。 ワインなんて滅多に飲まないけれど冷たい風が吹き荒ぶ中で飲むこれは癖になりそうだ。見ればカラ松も頬を赤く染めて美味しそうに口にしている。 「そろそろじっとしてるのも辛くなってきたな。時間もあるし、次行くか」 「あと何乗ってないっけ……ん？」 ホットワインを半分ほど飲んでから既にくしゃくしゃになったマップを開こうとして、ふと周囲の人が大分と減っている事に気付いた。すっかり暗くなったとはいえ閉園まではまだ時間がある。 疑問に思ったそれを口に出そうとしたと同時、離れた場所から賑やかな音楽と大きな音が鳴り響いた。それがショーのそれであることはすぐに思い当たる。しかし、代わりに他の疑問が脳裏に浮かんだ。 「……なぁ、俺ら今日一回もショー見てなくね？」 「見てないな」 「後なんだっけ、これ、ネズミがドラム叩くやつ、こんなんお前好きじゃん。見なくてよかったの？」 今日の園内を巡るスケジュールはほぼカラ松に任せていたので今の今まですっかり忘れていたが、事前に軽く調べた時にこれはカラ松が好きそうだと目をつけていたのだ。忘れてたけど。 演劇やミュージカルといった類が好きなこいつなら絶対に見たいって言い出すと思っていたのに。 今からでも間に合うのかはわからないが見れるものなら見ておこうとスケジュールを確認しようとした途端、マップはカラ松の手に奪われる。 「んあ、なに？」 「それもう今日のは終わってるから。ていうか抽選してないからそもそも見れない」 「抽選なんていんの？ 知ってたなら言えよ」 「……いいんだよ、今日は」 視線を逸らしたカラ松はそうとだけ言って残りのワインを飲み干した。さっきよりも頬が赤いのは寒さではなくアルコールの所為だろう。 けれどその表情に微かな照れが見え隠れして、俺は一つの可能性に行き当たる。今朝、こいつは俺に何と言っただろうか。 恋人扱い。俺が宣言したそれを、カラ松は当然だと言った。そして自分も、俺に対してそうすると。 今日一日のカラ松は完璧に俺をエスコートしていた。事前にトド松に教えられた通り無駄のないように園内を回り、一つでも多くのアトラクションに乗れるようにと。更には細かな気配りまで端々に覗かせて。 気づいてないわけではなかった。でもまさかそれが自分の望みを捨ててまで形成されていただなんて思いもしなかったのだ。 「っ、バッカじゃねーの！」 「え、おそ松？」 「来い！」 カップをゴミ箱に投げ捨ててカラ松の腕を掴み力任せに引っ張った。その勢いのまま走り出したかったが場所が場所なので早歩きで我慢する。 バカじゃねーのって、バカは俺だ。今日一日、少しもこいつのことを恋人扱いできてなかった。俺ばかりが良い気にされて、甘やかされて。 「おいおそ松、どこに行くんだ！」 「うるせぇ黙ってついて来い！ 俺だってなぁ、ちったぁ調べてきたんだっての！」 忘れてたけど、とは内心に留めてひたすらに目的地を目指す。今日一日中俺の事ばかり考えていたこいつに、俺だってそうなのだと思い知らせる為に。 [newpage] ◆◆◆◆◆◆ 途端、表情からはらっと笑顔が剥がれ落ちたのがわかった。そんな物まで出されては最早へらへら笑って誤魔化しても無駄、ということなのだろう。 旧友二人の結婚を祝い二次会ではたらふく飲んで騒いで、気分良く家路に着く筈だったのに。急に真剣な顔と声で俺を責めだしたカラ松が取り出した一枚の写真がそうすることを許してはくれなかった。 「……もう一度聞く。なんで協力するフリなんてしたんだ」 おお、怖い声。元が低いから迫力あるねぇ、なんて暢気なことを考えながら煙草を一本咥え火をつけた。 電柱に預けた身体が重い。冷静なフリはしているが内心はどうしようもない程に動揺している。まさか今更こんなものを出してこられるなんて思ってもみなかったのだ。 カラ松の言う通り、その写真に映っているのは俺とチョロ松で間違いない。それをそうと知っていて彼女に渡したのも事実だ。 協力するフリと言ってしまえばそうなのだろう。けれど本当はフリであってもそんなことしたくなかった。何が悲しくて自分の恋敵に協力を仰がれ素直に受けてやらねばならないのか。 カラ松に好きな人がいると嘯いてカラ松だと偽り俺とチョロ松の写真を渡した。その程度可愛いもんじゃないかと、あの頃何百回と自分に言い聞かせた言い訳を再び思い返す。 煙を吐き出し、少し落ち着いてくると怒りを露わにするカラ松に沸々と苛立ちが募り始めた。何も知らないくせに、俺の気持ちなんて知らないくせに、お前はそうやって友人とはいえ赤の他人の為に家族である俺を責めるのか。 何も、知らないくせに。 「お前はさ、なんでだと思うわけ？」 だからつい、そんな風に煽るような言葉を口にしてしまった。いけない、このままでは言わなくてもいい事まで口に出してしまう。 落ち着かなければ。何の為にこんなにも長い間心を抑えつけてきたと思っている。家族であること、兄弟であること。 そして、こいつの唯一の兄である為に、今まで口を噤んできたんじゃなかったのか。 けれどカラ松の怒りは収まらない。そして遂に俺の地雷を踏み抜く一言がカラ松の口から発せられた。 「っ……兄さんにとってはおふざけでも、あっちは真剣だったんだぞ！」 瞬時に指先が冷え、全身の血が抜け落ちたような感覚に見舞われる。その直後、一気に頭まで血がのぼる様がまざまざと感じられた。 おふざけ？俺のそれらの行動が？ それこそふざけるな。こっちがどれだけ真剣に、そして心を痛めてまでそんなことをした理由を、お前は少しも知らないくせに。 確かに隠し続けてきた。知られないように努力してきた。それでも何も知らないカラ松にこの気持ちをおふざけだなんて嘘でも言ってほしくはなかった。 口に咥えた煙草から、長い灰がぽとりと落ちる。 「あのさ、さっきからあれこれ言ってっけど」 駄目だ、やめろ、全部終わるぞ。 そんな声が頭の奥の方で響く。けれどカラ松に伸ばした手は理性では止められない。胸倉を掴み壁に叩きつけて、驚くカラ松の顔の真横に煙草をぐしゃりと押し付けた。 「じゃあ、お前は知ってんの？ 俺が、どんな気持ちであんな相談受けてたか」 ああ、もう。こんなことを口走ってしまったら多分後には引けなくなる。 どちらにせよ無理だ。既に綻んだ部分からは俺の感情が漏れ出してしまっている。 突然のことに泣き出してしまったカラ松を目前にして尚更取り繕うのは難しい。どれだけ気持ちを掻き混ぜられても、怒りを覚えても、この目の前の存在が大好きで愛しくて堪らないのだから。 どれだけ恋い焦がれてもこの想いは叶わない。どころか口にすることすら許されない。 そんな絶望に打ちひしがれている最中で恋敵が現れて、その子が可愛い女の子で、俺なんかよりずっとずっとカラ松の隣にはお似合いで。 憎しみすら抱いた相手に協力してなんて言われて、その通りにできると思うか。そうできない俺は、そんなにも酷い人間かな。 「俺には、できなかったよ」 だってカラ松。俺はお前を、ずっとずっと、自分でも呆れちまう位、一途に想ってきたんだから。 ◆◆◆◆◆◆ 「よっしゃ誰もいねぇ、ラッキー！」 「ここは……？」 狭い螺旋階段を駆け上がり辿り着いたのは見晴らしの良い塔の屋上だった。遠目にではあるがショーも観れる上運が良ければ人もまばらだと聞いていたが完全に当たりである。 塀から覗き込めば夜の園内が様々な色に輝いている様が見渡せた。息を整えつつカラ松の手を引いたまま塀の傍まで行き、ショーで賑わう水上を見せつけるように指をさす。 「ほら、途中からで悪ぃけど。眺めよくて二人きりで見れそうな場所、ちゃんと調べてきたんだからな」 カラ松はまだ呆然としていて、塔から見える光景を目を丸めたまま眺めている。やがて数度の瞬きの後、今度は目を細めて眩しそうな笑顔を浮かべ塀から身を乗り出した。 「すごい……凄いぞおそ松！ 物凄く綺麗だ！ ほら、ショーも全体が良く見える！」 いっそ園内の装飾より輝かしいその笑顔で振り向かれ、俺は年甲斐もなく胸を弾ませた。今日一日俺の為にずっと格好つけていたカラ松の飾っていない無邪気なそれは、俺が一番大好きな顔だった。 「気に入った？」 「当たり前だ！ こんな、こんな綺麗な景色を見せて貰えるなんて……」 そこで言葉を切ったカラ松は視線を景色に投げたまま、口も閉じずに暫し固まる。どうかしたのかと顔を覗き込めば、今度はぎゅっと口を結んでその顔は伏せられてしまった。 「カラ松？」 まだショーは終わっていない。なのにカラ松の視線は床へと落ちたままだ。名前を呼んでも返事はない。 ふと、塀に置かれたカラ松の手が、微かに震えていることに気付く。その震えが寒さからきたものではないということは、床に落ちた水滴が物語っていた。 考えるより先に身体が動く。カラ松の腕を取り頭を肩口に押し付けて、背中へ回した手に力を籠める。頭に置いた手で髪を撫でながら、耳元にそっと口を寄せた。 「ん、どうした？」 「っ……ごめ、ちが……」 「いいよゆっくりで。ほら、ここ誰もいねーし」 上手く言葉を紡げないカラ松を安心させるようにリズム良く背中を叩く。昔はこいつに限らず泣いている弟達によくこうしてやったなとぼんやり思い返しながらそうしていると、俺のコートをぎゅっと掴んだカラ松は小さく首を横に振った。 「ごめん……ごめん、違うんだ」 「何謝られてんのかわかんないよ」 「俺……ほんとは少し不安だった」 掠れた声で告げられたそれに今度は俺が目を丸めた。どういうことかと先を促したい気持ちをぐっと堪えてカラ松のペースに合わせて待つ。 身長もほぼ同じなので胸に抱いてやれないのが悔しいが、必死に俺にしがみつくカラ松の顔が近いのは嬉しい。泣き顔でなければもっと良かったと思ったところでカラ松は顔を上げた。 「気持ちが通じたこと、おそ松のこと、疑っていたわけじゃない。でも、漠然とした不安だけはどうしても消えなくて……あまりにも夢のような展開に、心が順応してくれなくて……」 目も顔も真っ赤にして震えながらそんな事を言うカラ松は、まだ涙を流している。そして俺はそんなカラ松に底知れぬ愛しさを感じつつも、その気持ちが痛い程理解できた。 だってこんな未来少しも想像できなかった。しまい込んで抑えつけて、そうして殺すしかないのだと信じて疑わなかった過去。 それは互いが知るところではなかったとはいえ、俺たちが共通して抱いていた気持ちだ。 「でも今日、おそ松が俺を恋人扱いするって言ってくれて、勿論俺もそうするつもりだったし、されるのかなって期待もあったけど……凄く、嬉しかったんだ」 今朝のことを思い出したのか、カラ松は本当に嬉しそうに微笑んだ。あっさり受け止めたように見えて内心ではそんな風に思っていたのだと知り、俺はまた驚かされる。 すぐ傍にあるカラ松の目が、真っ直ぐ俺に向けられた。既に冷えてしまったワインで暖めた筈の指先が頬に触れ、こつりと互いの額が距離をなくす。 「それだけで、俺には余りある程の幸福だった。なのにこんな……っ」 言葉尻はひゅっという音と共にカラ松の喉に戻っていった。再び感極まったのかカラ松は俺の目前であるというのに大粒の涙を隠そうともしない。 よく泣く奴だ。泣かせているのはいつも俺だけど。 泣きながら、カラ松は俺がカラ松の喜びそうなことをきちんと考えていたのが堪らなく嬉しかったのだと言った。今朝言った言葉が嘘ではないのだと、疑っていたわけではないと前置いて、それでも嬉しかったのだと。 今日カラ松が俺にしてくれた甘い対応に比べほんの些細なことであるのに、こんなにも喜びそして感動してくれるのか。それ程までに、こいつは俺のことが好きなのか。 そう思うと胸が熱くなる。そしてカラ松は涙を流す目で俺を見て瞬き、次いでふっ、と小さな笑いを漏らした。 「なんでお前まで泣くんだ、おそ松」 「ええ？ 泣いてないよ俺。お前のじゃない？」 「はは、確かにこれだけ近かったらどっちの涙かわからないな」 泣きながら、でも笑いながら、俺たちは引っ付けた額をそれでも離そうとはしなかった。折角綺麗に見えるベストポジションに連れてきたというのにショーはもう終盤に差し掛かっている。 「なぁカラ松、不安にさせてごめん。お互い片想い長過ぎて、不安なのわかってたのに」 「謝るなよ、おそ松が悪いわけじゃない」 「いや、俺が悪いわ。お前は言ったのに、俺は言ってなかった」 涙で濡れた頬を包み、カラ松にだけ、カラ松にしか聞こえないように囁いた。そうせずとも周りには誰一人としていないというのに。 「好きだよ、カラ松。ずっとずっと、お前だけを想ってた」 途端、蕩けるように崩れた顔もきっと俺にしか見えていない。それなのに欲張りな俺はカラ松からも俺しか見えないようにと、顔に触れる手を離そうとはしなかった。 「これからは毎日言うよ。片想い期間より長い間、ずっと」 そうしてお互いの好きを当たり前にしていこう。疑ったり不安に思うことが馬鹿らしいと思えるくらい、そうなれるまで言い続けよう。 「……ああ、俺も言うよ、毎日」 カラ松の手が重ねられ、冷たい筈のそこがじんわりと暖かかった。ショーのフィナーレを飾る盛大な音楽を遠くに聴きながら、俺たちは笑い合って、そしてようやく互いの唇を触れさせる。 俺とカラ松の初めてのキスは、どちらのものかわからない涙のせいで少しだけしょっぱかった。 [newpage] 「お前さーリクエスト聞いたなら売ってる場所も聞いとけよな。すっかり遅くなっちゃったじゃん」 「す、すまない……そこまで気が回らなかった」 閉園時間を少し回ってテーマパークを後にした俺たちは最寄りの駅に向かいゆっくりと歩いている。 結局ショーはあまり見れなかったが人気のないあの場所で散々引っ付いてキスをして、心は満たされたが気付いたら閉園が三十分後に迫っていた。 そこでトド松に頼まれていたお土産の件を思い出したカラ松は途端に兄の顔に戻り、例のミニカーを探すべく二人して園内を駆けずり回ってようやく今である。どうにか無事に買えたそれは一応家族全員にと買ったクッキーの缶と共にカラ松の持つ袋の中に入っている。 「帰ったらネチネチ言われんだろーな。お土産買っちゃったからバレバレだし」 「でもトド松だけにというのもな……素直に券が二枚しかなかったと謝ろう」 「チョロ松あたりがうるせーぞきっと。あー帰りたくねー」 大きく伸びをしながらそう言うと、並んで歩いていた筈のカラ松が立ち止まっていたことに数歩進んでから気づく。振り返ると、いやに真剣な顔をしたカラ松は真っ直ぐに俺のことを見据えていた。 「カラ松？」 「……家に帰るまでが遠足です、って格言知ってるか、おそ松」 いやそれ格言じゃなくない？ と茶化すのも躊躇われる程表情を硬くしたカラ松に俺は言葉を飲み込んだ。代わりに首を傾げるとカラ松は一度俯いて、開いた距離を一歩ずつゆっくりと近付いてくる。 「つまり、家に帰るまでは初デートなわけであって……」 硬い表情に照れが見えて俺は頬を緩ませた。辺りには同じくテーマパーク帰りの人影があるが、手でも繋いで帰りたいと言われれば断りはしない。この際人の目なんて気にするつもりは毛頭なかった。 だから俺は近寄ってくるカラ松に手を伸ばしたのだが、その手は掴まれることなくスルーされる。あれ、と思う間にすぐ傍まで身体を寄せたカラ松は、手の代わりに俺のコートの裾をぎゅっと握った。 「俺も帰りたくないって言ったら……どうする？」 刹那、一旦身体中の全ての機能が止まったかに思えた。そして次の瞬間、冷たい風に晒された顔が頭の先まで一気に茹だる。 本日初キスを済ませたばかりの恋人から告げられた、朝までの初デート延長希望。 その意味を理解した頃にはカラ松の顔も俺と同様、真っ赤に染まりきってしまっていた。

<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6300156">novel/6300156</a></strong>←この話の続編です。<br />長年両片想いをしてようやく恋人になったおそカラの初デート話の合間に前作のおそ松視点があります。<br /><br />長くなってしまったので切りましたがもう一作続きます。<br />そちらは成人向け作品となる予定です。春コミ終わったら書きます…。<br /><br />※舞台が某テーマパークっぽいかもしれませんが捏造だらけで間違いだらけです多分。<br />※松野家もといおそカラに多大に夢を見ています。<br /><br />表紙はこちらからお借りしました。<strong><a href="https://www.pixiv.net/artworks/50059373">illust/50059373</a></strong><br /><br />ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー<br /><br />複数のランキングに入れて頂いたようです。<br />流れで前作も読んで頂けているようで嬉しいです。<br />沢山の評価とブクマ本当に有難うございます！

呆れるほどに一途だったのは。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6504711#1

「こんにちはーっ！」 　執務室を開け放っての第一声。明るく元気なその声に、中にいた鉄道員たちが顔を上げて挨拶を返す。 「こんにちは、クダリさん」 「今日も元気そうッすね！」 「うん、僕元気！　ノボリはいる？」 「まだトレイン出てませんから、いると思いますよ」 　すっかり顔なじみになった鉄道員たちが、本来なら理由がある客人以外いれないはずの執務室を指さす。ありがとうと礼をいって、クダリはいつも通りにドアをノックしてのぞき込んだ。そこでぱちくりと目を瞬く。 　白いシャツ姿で、見慣れた男性が机に突っ伏している。そーっと抜き足差し足忍び足で傍によってのぞきこむと、自分の片腕を枕にしてペンを持ったまま、ノボリがすうすうと寝息を立てていた。眠っている姿は安らかな幼子に近く、いつもの無表情が嘘のようだ。 　元のように抜き足差し足忍び足で戻ってくると、音が出来るだけしないようにドアを閉め、くるりとその様子を眺めていた鉄道員たちに振り向いた。 「ノボリ、寝てる。疲れてる？」 「あー……ここ最近仕事が立て込んでるからかな」 「上の要望でバトルトレイン増設の話も出てますからね」 「今の状態だったら無理やろ、そんなの」 「まったくだね。先日もノボリさん倒れかかったし」 「ノボリ、倒れたの！？」 「あ、いや。ちょっと倒れかかっただけです。お疲れだったようなので、そのときは無理を言って休ませましたけど」 　クダリがつかみかかりそうな勢いで鉄道員の腕をつかむ。慌てて首を振る相手の態度に一度はほっとしたクダリだが、執務室を振り返って心配そうな顔をした。 　初めて彼に出会ってから、何かあるたびに、むしろ何もなくても毎日会いに来ていた相手だ。顔が似ているからという親近感以上に、純粋に彼といるのが楽しいというのに、倒れかかったと聞いたら不安を感じずにはいられない。 　クダリが初めてギアステーションを訪れてから、すでに三ヶ月が過ぎている。その間に何度もバトルトレインに挑戦したし、休みの日には遊びに行こうと提案した。実際にノボリには休みがほとんど無く、申し訳なさそうに断られてしまって未だその提案は実現していないけれど。 　彼が仕事中の間や暇な時間は他の挑戦者に混じってバトルし、その中をやすやすとまっすぐに突き抜けてクダリはノボリに会いに行く。他のチャレンジャーに羨ましがられたりもしたが、好奇心旺盛でわりとフレンドリーなクダリはトレーナーの中にも友人を作ってアドバイスをしたり、一緒に作戦を考えたりと交流は良好。それはトレーナーだけにとどまらず、あるときには仲良くなった鉄道員と一緒に迷子の捜索を手伝ったりもした。 　そうしてすっかりギアステーションにとけこんで、クダリの存在は何でもない日常になっている。 　のだが。 　一方、ノボリは連日忙しいと口をきく暇すらもないスケジュールだとは聞いた。さすがに鉄道員でもないクダリが、気を遣うことはできても仕事を手伝うわけにはいかない。 　心配そうな顔のままクダリは呟く。 「そういえば最近ずっと疲れた顔してた……」 「……見ただけじゃわからない気がしますけど」 　さすがクダリさんですね、と褒められたような気がしたけど、イマイチ意味がわからなかったので首を傾げる。鉄道員は、いつも仏頂面で考えていることが読みとりにくいノボリの感情を読み取るクダリが単純にすごいと思っていったのだが、お互いに『？』を出し合って意思の疎通は終わった。 　どうにか、その負担を軽くしてやることは出来ないだろうか。せめて、今休んでいるのを引きのばしてやりたい。 「あ」 　脳裏にひらめいた考えを次の瞬間にはすっかりそれを決定事項にして、心配だなぁとかバトルトレインの線路がどうとかと話し合っている鉄道員たちにクダリは声をかけた。 「ねえねえ、ノボリって、いつもバトルするとき何て言うの？」 　こっそりと再び執務室に入って、今鳴りだしては困る机の上の無線機をはじめに取った。そのままポケットに押し込む。 　彼が起きないように極限まで声を潜めて、少しだけ隈の浮かぶノボリの頬を撫でる。 「ノボリ。ゆっくり休んでね」 　自分が来ていた上着を脱いで彼にそっとかけると、椅子の背にかかっている彼のコートを手に取り、帽子をかぶった。 「えー、こほん。ノボリ。ノボリ。僕はノボリ。……じゃない。わたくしはサブウェイマスターのノボリと申します」 　にこりと笑って、改めて表情を作り直すと、クダリはその場で踵に重心を合わせてくるりと回った。口元は控えめに抑えて、帽子のつばを握る。 「さあ、行きましょう。バトルに」 「ん……。……？」 　枕代わりにしてぎし、と固まってしまった腕をゆっくりほどき、ノボリは眠ってしまったのかとあくびをかみ殺しながら体を起こした。体を伸ばそうとして、肩に見慣れない上着が掛かっているのに気づく。 「？　誰のでしょう……。ああ、クダリでしょうか」 　このところ毎日遊びに来る友人を思い浮かべ、苦笑してノボリは卓上の時計に目をやった。 　目をやって―― 「……え？」 　認識できない空白。二度、三度と文字盤から時間を読み取り直し。 　一拍を置いてけたたましく椅子を倒しながら立ち上がった。ばっと室内を振り返ってみるが、自分が作業する前に脱いだはずのコートも帽子もない。トレインに挑戦者が来たとき連絡を受ける無線機さえなくなっていた。 「なんッ……！　てことでしょうか！」 　誰の仕業などと、考える必要もない。 　バタンッ、と勢いよく事務室のドアが開くとその場にいたもの全員が驚いて入口を振り返った。 「クダリはどこですッ！？」 　入ってきたのは彼らが敬愛する唯一無二のボス。ただしトレードマークの帽子もコートも身につけていない。駆け込んできた勢いは怒鳴り込むに近く、傍にいた見習いが体をすくめた。 「アレ？　ボス、サッキバトルトレイン出発シタンジャ」 「クダリはッ！？」 　疑問に重ねるように怒声がかぶせられ、肩をすくめてキャメロンはあたりにいる同僚に目を向けた。 「さっき、事務室に来たときには出会いましたけど？」 　とカズマサ。 「ノボリサンガ寝テルト、言イニ来タノハ聞キマシタ」 　これはシンゲン。 「……さきほど、ホームに向かうボスを見ましたけど」 　小さく手を挙げたのはジャッキーだ。 「どこでですッ！？」 「シングルトレインのホームです。出発する少し前ですから、三十分ほど前ですね」 　ノボリは大きくため息をついて顔を手で覆うと、再びドアを勢いよく開けて飛び出していった。「一体何事カナ？」と興味津々でキャメロンが後に続く。続こうとしたカズマサの襟首をラムセスが掴んで止め、代わりにジャッキーが事務室を抜け出ていった。 「……大丈夫かいな？」 「何がだい？　クラウド」 　トトメスに聞かれ、クラウドは考え込んでから肩をすくめた。何がと聞かれてしまえば、確かになんのことかわからない。 「どうにかなるさ」 　ラムセスが未だに揺れ動くドアを手で止め、袖から出した時計で時刻を見た。 　シングルトレインがもうすぐ戻ってくる時間だ。 　バタバタと構内に足音が反響する。いつもなら注意する立場だというのにそんなこともすっかり頭から抜け落ちていた。その勢いと形相にびっくりして、目撃者が風のように去るノボリを見送る。 「ドウナルノカナ？」 「どうでしょう」 　特に制止の声もなく、キャメロンとジャッキーが対照的な顔でそれぞれ呟いた。 　シングルトレインのホームにたどり着くと同時、電車が滑り込んでくる。完全停止するタイミングで乗車口を捕まえた。 　まず出てきたのは挑戦者。前回のように悔しがっている構図ではなく、楽しむだけ楽しんだとでも言いたげな笑顔で車内に手を振り、かけだしていく。 　そして中からいつかのようにコートを翻して黒い男が出てくる。相手が走ってきたこちらに気づき、平坦に務められていた口元がゆるんで顔が明るくなった。 　それがスイッチになったのかどうか、ノボリのかろうじて引き絞っていた糸がぷつんと切れた。 「あ、ノボ――」 「な、に……をしてるんですかあなたはッ！」 　軽い調子で手を挙げようとしていた彼を、帽子ごと頭の上から殴りつけた。ごん、と鈍い音がした。 「～～っ！」 　衝撃に涙目になって頭を抑える友人、自分の拳もかなり痛かったが怒りで痛みに悶絶する気にもならなかった。 　いきなり始まったケンカに、通りすがりの客が気にした風の視線を寄越してくる。それがすぐに、同じ顔が並んでいることに気づいてぎょっとした表情になった。 　シャツ姿のままクダリにつかみかかったノボリを引き留めたのは、あとから追いついてきたキャメロンとジャッキーだ。いつになく声を荒げているボスの両腕をふたりして掴み、落ち着いてといったん引き離す。部下の拘束をいつになく乱暴な仕草で振り払って、しかしさすがに再度つかみかかるようなことはしない。 「どうしてそんなことをしたんです？　前のように、勘違いされたなんて事はないでしょう？」 「ノボリ……疲れてたから。倒れかけたって聞いた……少し代わってあげたら、休めるかなって……」 　遊びでないことはクダリの表情からわかっていた。それでも腹の虫は収まらない。クダリがいった言葉はつまり自分を心配して、気遣ってくれたということで、それはとても有り難い。けれど。 　だが。 「いくら顔が似ていても、強さがあったとしても、ここのサブウェイマスターはわたくしなんですよ！？」 　それだけは、ギアステーション及びバトルサブウェイを預かる身として、譲れないプライドなのだ。 　痛みに泣きながらおろおろとしていたクダリも、ノボリの言葉に驚いて目を見開き、帽子を取って申し訳なさそうに顔をうつむかせた。 「……ごめんなさい」 　それが叱られた犬のようにと形容するには激しい落ち込みようで、今にも本当に泣き出して涙をボロボロとこぼしてしまいそうなものだから、ノボリはのど元まで出かかっていたその他の言葉を呑みこんだ。 　ノボリが口をつぐみ、クダリが肩をふるわせるわずかな間。周りの様子を窺っていたキャメロンがすかさず口を開いた。 「ボス、トリアエズ一度戻ッタ方ガ」 「あ……え、ええ。そうですね……」 　周囲の視線が集中していることにようやく気づき、ノボリはいつもの癖で帽子のつばを引き下ろそうとして空ぶった手を、所帯なさげに彷徨わせて踵を返した。 「クダリ。あなたもこちらへ」 「……」 　いつもの元気のいい返事は来なかったが、コートを脱ぎながらクダリもついて歩き出した。 　執務室にクダリを招き入れて、鉄道員たちにあとの処理をまかせると、ノボリは閉めた扉にもたれかかり息をついた。 　顔を上げると、所帯なさげにコートと帽子を抱きかかえたままクダリが突っ立っている。いつもなら自分の部屋かというぐらい気を抜いてソファに腰掛けているのに。 「どうぞお座りなさい。ああ、コートもお預かりします。帽子は頭が軽くて妙なのでかぶらせて頂きますね」 　何も言わないが差し出されたコートを受け取って壁に掛ける。無線機も今は沈黙したままだ。わかりやすいように机の上に出して、帽子をかぶり直した。ちょっと見ると、手の中が空になったにも関わらず、クダリは床に目を落として座ろうとはしない。 「クダリ」 　ぴくりと肩が動く。だがそれだけ。 　少しきつく言い過ぎただろうかと、帰ってくる合間に冷えた頭を回転させて考える。クダリは子どもっぽいが頭脳まで子どもな訳ではない。ノボリの言葉を明確に理解しているからこその反応だろうと思った。 　頭が冷えてくると、被った迷惑はそれほどでもなく、悪戯でもないからそれほどカッカすることでもないなと思えてくる。クダリの目的は自分を休ませることだったのだから、それは純粋に有り難い。 　そこだけは、きちんと伝えるべきだ。 「クダリ」 　再度名を呼ぶと、叱られるのを恐れた犬のような顔でおそるおそるクダリが顔を上げた。それがすぐに驚いた顔に変わったのは見えなかった。 　同じ背丈、同じ細い体格の体を抱きしめ、本当の兄弟のようにその頭を撫でてやる。温度、感触、伝わってくる鼓動の音まで自分たちは同じだった。 　兄弟が、双子がいたらこんな気持ちなのだろうかと思いながら、ノボリは彼の頭を抱き寄せて弟のような友人にそっと声をかけた。 「……あなたの気持ちは嬉しいです。わたくしのことを気遣ってくれたのでございましょう？　ありがとうございます」 「僕、迷惑かけた……」 「いいえ、いいえ。立場上わたくしはあなたを叱らなければなりませんが、それが終われば素の人間同士です。そしてわたくしは、あなたのお心遣いに感謝しております」 「僕のこと、嫌いにならない？」 「なりませんとも。先程は、わたくしも失礼いたしました。痛かったでしょう？」 「ううん。平気……」 　体を離すと、少しだけ睫毛に残っていた涙を払って、クダリは元のようににぱっと笑った。ノボリはしない笑い方。相手がクダリだという証の笑い方。 　初めは、自分とよく似た顔が全然別の態度を取ることに違和感があったが、それも徐々に薄れてきている。どうあってもクダリはノボリではないし、ノボリはクダリではない。これが当たり前で、きちんと自分たちは違うところがある。それを「似ている」の一言ですませずに理解すれば、何のことはない。 「……そういえばクダリ。あなた、先程のバトルはどうなったのです？」 「んー？　勝ったよ？」 「どうでした？」 「けっこう楽しかった、けど、そこまで強くなかった」 「そうですか……」 　改めてソファに座るのを促し、お茶を出してついでのように聞くと、そんなたくましい返事。お茶菓子を探して戸棚を開きながら、ふとノボリは思った。 　振り返ると、お茶を注いだ湯飲みを持ったクダリが、顔を緩めてお茶をすすっていた。シングルトレインの最終戦をまかせても構わないぐらいの実力者。年は確か自分と同じ。就職しているわけでもないようで、このあたりには旅行できたようなことをいっていた。現在どこに住んでいるのかは知らないが、毎日のようにギアステーションへ遊びに来ていることを考えると困窮しているわけではないだろう。 　端的に言えば、暇なのだろうと思う。 「？」 　自分を見たまま動きを止めたノボリに気づいて、クダリは首を傾げた。 　それでもなお彼の顔を見つめたまま二度三度と目を瞬いて、ノボリは直球に思い立ったことを口にした。 「クダリ」 「うん？」 「あなた。ここで働きませんか？」 　ぱちくりと、クダリが大きく目を見開いて瞳を丸くした。 「わたくしの右腕……いえ、半身として。実は前々からバトルトレインの数を増やそうという意見が出ておりまして。それがダブルトレインの話だったのですが、今まではわたくしの手が足りないので断り続けていたのです。ですが、それはサブウェイマスターがもう一人いるのなら事足ります。クダリ、確かあなたダブルが得意だと仰っていましたね？」 「うん。バトル好き。ダブル好き。勝つのはもっと好き」 「以前拝見したあなたの技量とポケモンを愛する心があるのなら、十分あなたも務めることが出来ます。クダリ。わたくしと同じ立場で同じ仕事をする、サブウェイマスターになりませんか？　いいえ。ぜひ、なっていただけませんか？」 「僕が……？　僕が、いいの？　僕でもなれる？」 「ええ……。ただし、並大抵ものものではありません。強さを求めてやってくるトレーナーに立ちふさがるとおり抜けるべき壁としてここで頂点に君臨する。ただ戦っていればいいというわけではない。それはつらいことも苦しいこともあるでしょう。ですが……」 　体をクダリに向け直し、礼儀正しく胸に手を当て、ノボリは相手の目を真っ直ぐに見た。同じ色の瞳。それが対面で何度も瞬かれる。そこへ向けて、ありったけの思いを込めて言葉を紡ぐ。 「あなたがもしそれでもいいというなら……それを誇りに思うサブウェイマスターを、わたくしと共にやりませんか」 　湯飲みを持ったまま半分ぐらいぽかんとしていたクダリは、徐々に言葉を呑みこむにつれその顔に明らかな喜びの色を浮かべていった。口元が限界近くまで笑みのカタチにつり上がり、湯飲みをテーブルにどん、と置くと弾けるように立ち上がる。眩しい笑顔で両腕を広げ、クダリはうれしさいっぱいの声で叫んだ。 「うん！　やる！　僕、ノボリと一緒にサブウェイマスターする！」 　それがシングルトレインに並列するダブルトレイン創立、そのダブルの支配者となる白きサブウェイマスターの誕生だった。 「わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します」 「僕、クダリ！　ノボリと一緒にサブウェイマスターしてる！」

■前編が予想以上に好評だったのでｇｋｂｒ。クダリがサブマスになるまで。……こんな簡単になれるのかな（＾＾；<br />■ノボリに間違えられるクダリが書きたかったので満足。コートが翻るシーンに気合い入れた。書いたの前編だけど。前編（<strong><a href="https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=643602">novel/643602</a></strong>）<br />■12/2付RR12位ありがとうございます！(´∀｀*)タグを付けていただけるなんてホントにありがたいですなぁ…。ブクマ・評価・コメ等ほんと嬉しいです＞＜

もしも双子じゃなかったら【後編】

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ゆっくりと意識が浮上していく。温かいものに包まれ幸せを実感しながら目覚める朝。 だけど瞼の向こうはまだ薄暗さを感じている。きっと起きなければならない時間ではないはず。 郁は瞼をまだ下ろしたまま手探りで時計を探したが、いつもある場所にそれがない。 ない、ない。どこにあるの？ 無意識で止めて、どこか布団に丸め込んじゃったってやつ？ 郁は慌てて目を開け、上半身を起こして枕もとを見た。 そこは見慣れない風景…壁しかなかった。 ここ、どこ！ 一瞬自分がどこにいるのかわからなくなっていたが、隣で寝息を立てている堂上が目に入った。 ああ…特殊部隊の飲み会の後、そのまま予約していたホテルに泊まったんだ。 それと同時に昨日の情事が思い出され、思わずシーツを類寄せ頭を抱えた。 うわっ――――‼ あたし、昨日色々とやらかした感が半端ないんだけど‼ 感情が揺り動かされすぎて、泣きながら好きだと何度も何度も堂上に抱きついた、ような気がする。 いや、実際にしたのだろう。 夢であって欲しいが自分の体についている徴と、見た時に思い出された感覚が、夢じゃないことを知らしめている。 なんだって、あんな…。 堂上の出張やシフト変更により久しぶりに肌を合わすことになった昨日は、何度も求められ、応えて。 眠る前の記憶がなく自分が何も着ていないのは、きっと意識を飛ばしたに違いない。 今まで抗争のあとであっても、あそこまで感情の揺れがあったことはなかったのに。 嫉妬してくれたのだろうか。 ゆっくりと顔を起こし、堂上を見た。 顔を半分郁の方に向け、固く瞼は閉じられている。 上下する胸の動きは、堂上がまだ目覚めないことを知らせてくれていた。 堂上教官…。 あたし、幸せです…。 珍しい堂上の寝顔を見ながら、郁は昨日の出来事を思い出していた。 午前中は図書館業務で配架をしている途中だった。不意に声を掛けられ振り向くと何度かリファレンスを行ったことがある、利用者の男性だった。 「こんにちは。今日は何をお探しですか？」 郁はいつも通りの対応をしたつもりだが、男性は言葉を言い淀んだ。 その様子に首を傾げる郁だが、自分にはその男性の態度に心当たりがない。気が付かないうちに何か失礼をしたのかと不安になりながら、声を掛けた。 「すみません。何か不手際でもありましたでしょうか？」 それには大きく反応して、違います！とすぐに返事が返ってきたことに郁は安堵した。堂上が午後に一週間の出張から帰ってくるのが嬉しくて、浮かれていたかと心配したからだ。もし、そうなら手塚に嫌味を言われることになり、堂上に渋い顔をさせてしまう。出来ているかどうかはともかく、郁としてはそれだけは避けたいと今日は朝から必死で平常心を保とうとしているのだ。 でも違うなら、何だろうかと疑問は大きくなった。 何かを決心した男性は、勢いよく郁に小さな封筒を差し出した。 目の前に差し出された封筒を反動で受け取れば、よくギフトカードなどに使われる可愛らしいものだった。 「あのー、これは？」 意味が分からず聞き直そうとした瞬間に男性は後ずさり、「貰ってください」と逃げ出した。 「ちょっと、待ってください！」 郁の言葉は男性に届くことなく、その場には郁と渡された封筒だけになった。一体何だったのだろうか。 封筒の裏表を見るが、何も書かれていない。取りあえず渡された封筒をこのままにしておくことも出来ず、小牧に相談するために郁は歩き始めた。 えーと、今小牧教官はどのあたりかな？きょろきょろとしていると、後ろから声を掛けられた。 「笠原さん、先ほど渡されたものは何かな？」 小牧教官…一体、どこからっ。あなたの前世は忍者か何か？ 足音立てずに背後からやって来て、あの一瞬の出来事をどこで見ていたというのか。 いや、感心している場合じゃない。 なんだか、怖いです。小牧教官…。 にっこりと笑うその表情に、郁は引き攣りながら封筒を差し出した。 怒っているわけじゃない。だけど、どうして受け取ったの？と言わんばかりのオーラが漂っている。 いきなり押し付けるように渡されて、しかもこれが何を意味するものなのかわからないものを、不躾に受け取れませんと、突き返すとか。そんな失礼なことを利用者にしていいわけがない。そんなことは、小牧教官なら当然わかっていますよね？ そう言いたいのをぐっと我慢して、窺うように聞いてみた。 「受け取ってはいけないものだったのですか？」 郁にわかるように小牧がため息をついた。 な、なんで、溜息！最良の選択だと思ったのに！ 個人宛のプレゼントならともかく、宛名のない封筒ですよ？どうすれば、良かったのよ！ 心で悪態をつきながら、それでも無意識にやってはいけないことをしたのだろうかと少し不安になった。 小牧は封筒の裏表を確認して、「なるほどね」と独り言のように言ったあとすぐに、封筒を郁に返した。 「この判断は午後に帰ってくる堂上に任せるから、自分で説明して渡すように」 「えっ！そんなに駄目なものだったんですか？どうしよう…。堂上教官に怒られる…」 この一週間、堂上によくやったと褒められたい一心で、いつも以上に気合入れて仕事に取り組んでいただけに、郁の萎れ方は半端なかった。 小牧は失笑しながらも、フォローを兼ねて言った。 「怒られるのとは、違うかな。でも、早めに解決してね」 解決…？ 全くもって、意味が分からない。小牧教官が直接答えをくれた例がないのは仕方ないとしても、せめてヒントぐらい教えてくれても…。 ――あの様子だと、教えてくれるわけないか。 郁は封筒を暫く眺めていたが、起きてしまったことはくよくよ悩んでも仕方ない。 午後は名誉挽回とばかりに気合を入れなおすことにした。 午後の内勤。手は動くものの、郁はこの宛てのない封筒のことを堂上に伝えようかと悩んでいた。正直に話すしかないと思っているが、何故駄目なのかさえわからない状態で話して、上手く伝えることが出来るのだろうか？ 窺うように小牧を見るが、郁の視線に気づいているはずなのに、やっぱり小牧の背中はなにも語らない。 自分で答えを見つけろと言われているのはわかるが、それでも少しでも堂上に怒られたくない郁としては、ちょっとぐらい教えてくれても…と思わずにはいられない。時間は一刻、一刻と過ぎている。本当ならばそれが嬉しいはずなのに、答えが見つからない今は、少しでも時間が遅くなってくれればいいとさえ、思ってしまう。 手塚なら、何か教えてくれるかな？ 期待を込めて手塚を見る。ビクッと肩が揺れるが、こっちを見ようとしない。 クソッ！ どうやら手塚にも小牧から口止めされているようだ。 何だっていうのよ！！ 注意散漫で変換ミスをやらかしながらも、何とか本日分の書類を終えることが出来た。時計を見ればもう堂上が帰ってくる時間だ。結局答えは分からずしまい。いよいよ怒られる心の準備が必要になってきた。 覚悟を決めよう…。 「笠原さん、堂上は少し遅れて帰ってくるらしい。直接荷物置いたら、飲み会に来るって」 「そう、ですか。わかりました！」 明らかにホッとしている郁を見て小牧は、堂上が不憫に思えた。 絶対にあの封筒がどういう意味を持っているのか、わかってない。手塚でさえ、気づいていたというのに。 だが、仕方ない。この一端は堂上が起こしているのだから、自業自得というべきか。 堂上と夜を一緒に過ごすことになった郁は、小牧の目から見ても綺麗になった。二人をよく知る隊の人間であれば、堂上がどれだけ郁を大事にしているのかがわかるだけに、どれだけ郁がどれだけ活躍し耳目を集めても、直接言い寄る勇者はいない。だが、利用者となれば別だ。 柴崎のように線引きが上手い女性なら問題ないが、自分がどんな目で見られているのか自覚がない郁は、ここで指導しておかなければ、きっとこれからも同じことを繰り返すだろう。 それは堂上の気持ちがわかるだけに、避けたいものだ。 笠原さんは、封筒のことをどのタイミングで言い出すかなー。 聞いた堂上がどんな行動に出るのかがわかるだけに、小牧は心で郁を労った。 『頑張れ』 郁は飲み会がスタートしても、堂上に会いたさと、会ったら説明をしなければならないもどかしさで、落ち着かない。 お酒の準備を整えて、各自で飲み始めた時に堂上はやってきた。 来た―――！！ 郁に緊張が走る。氷で薄まったサワーを一気に飲んで、勢いをつけた。 「お、お疲れ様です！堂上教官」 「ああ、お疲れ」 「堂上、お疲れ」 「堂上二正お疲れ様です。ビールどうぞ」 少しどもった声に堂上にちらりと見られるが、そのことから気を逸らせるために、目の前に皿を並べた。 「堂上教官、これ食べてください」 まずは腹こしらえをしてもらって、落ち着いてから言った方がきっと怒られないはず！ ない知恵を絞って、必死に脳内で計画を立てていたというのに、いきなりそれを小牧に崩された。 「あ、堂上…笠原さんから重大な報告があるから、ちゃんと聞けよ」 こーまーきーきょーかん――――‼ あなたは、悪魔ですか、鬼ですか、魔王ですか！ 堂上がどういうことかと聞き返す前に、覚悟を決めて勢いよく話し始めた。 「重大な報告とか…そんなんじゃなくて、ただ宛名のない封筒を受け取っただけです」 「宛名のない封筒？」 「そうです！中身も開けてませんし、大したことでは…」 必死になって言い訳をしている郁の声に反応した、酔っ払いたちはそれに茶々を入れ始めた。 「ああ、あれだろ。笠原がラブレター貰ったとかという」 「ラブレターじゃありません！！」 「堂上がいない隙を見計らうとか、大した奴だ」 「そんなんじゃ、ないです！宛名もないのに、どうしてそんなことがわかるんですかっ！」 「中々のイケメンだったよな」 「業務課の女たちが、騒いでた」 「堂上、放っておいたら姫さんとられるぞー」 「そうだ、そうだ。一週間も放っておかれて、可哀そうに」 「だから、人の話を聞けっつーのッ！！」 その叫びを聞いて、隊員たちは大笑いした。 「堂上！姫さんわかってねーぞ」 「大変だな。堂上も…」 郁は訳が分からない。 だが隣の堂上から不穏なオーラを感じて、ここは一旦逃げるべきかと腰を上げた。 「郁？どこへ行くんだ？」 いつも以上の堂上の低い声に、郁は今すぐ立ち去らなければやばいという警戒音が鳴り響く。 今すぐ、今すぐここを立ち去るんだ！ 「あー、その…堂上教官のお酒を貰いに行こうかと」 一気に走り出す勢いでその場を立ったのに、一歩も動けない。 何で…。 「言い訳はゆっくりと二人の時に聞いてやる。行くぞ」 腰に廻された太い腕に逃げることを阻まれ、拉致されるように外に連れていかれた。 終わった…。 二人で一緒に幸せな夜を過ごせるはずだったのに！いきなり説教とか…。 小牧教官の、みんなのバカヤロ―――ッ！ ホテルについてすぐに「説明！」と命令され、ベッドの上でいきなり正座する羽目になった。逃げ場はないので、しどろもどろになりながらも説明をする。 胡坐をかき黙って目を瞑って聞いていた堂上が、いきなりぐわっと目を開けて 「お前はもっと自覚を持て、少しは警戒しろ」と人差し指を勢いよく郁のおでこにあて、言い放った。 「はいっ！！」 姿勢を伸ばし敬礼付きで返事をしたというのに、何故あたしは今、こんなことになっているのでしょう？ 気が付けば身ぐるみ剥がされ、ブラとショーツだけになっていた。 「郁、逃げられるとか思うなよ？」 その言葉の通りあたしに言い訳の時間も、逃げ場はなく、息つくまもなく何度も何度も高みへと昇らされた。 後ろから突かれながら堂上の荒々しい息とともに、零れてくる声はいつも以上に饒舌だった。 「郁、可愛い」 「お前は俺のだ」 「他の男に隙を見せるな」 ずっとあたしの方が好きなんだと思っていた。だけど、こんなにも思われていたことが嬉しくて、何度も名前を呼び、好きだと伝えて意識を失った。 寝ていると眉間にシワ、ないんだ。 このまま暫く見ていたいな。 「郁…」 「堂上教官…？」 「なんだ」 返ってきた声に一瞬目覚めたのかと思ったが、堂上の瞼は上がらない。 もしかして、寝言？ あたしはよくお酒に酔うと寝言を言うらしいというのは、柴崎から聞いた。それを聞いて、顔から火が出るほど恥ずかしかったが、あたしの気持ちがバレバレだったのは、これも原因なのかと納得したぐらいだ。 今なら答えてくれるかな？好きな女とは言われたことはあった。 その後「あたしのこといつから好きでしたか」と聞いて、「お前より早かったことは確実だ」と言われた。 それに対して、不満はない。ちゃんと好きでいてくれると態度で示してくれるし、教官が甘い言葉をシレットいうタイプでないこともわかっている。だけど、言われたら嬉しい。 睦ごとの時にあれだけ饒舌だったのだから、もしかして…。 試すだけでも、価値があるよね？ 堂上の耳元に口を寄せ囁いてみた。 「あたしのこと、好きですか？」 「あぁ、好き…だ…」 囁くように返された声に、言葉に、郁は悶えた。 きょーかん―――！…反則っです。 そのまま郁は、ベッドにダイブするように沈んだ。 ああ、幸せすぎる…。 堂上の答えが本当に寝言だったのか、わざとだったのか。郁が知るのは、二人が夫婦として暮らすことになったとある日であった。

いつもコメント＆ブックマークなどありがとうございます。<br /><br />寝言と言えば郁ちゃんですが、今回は堂上教官に言って貰いましょう！<br />ということで。<br /><br />堂上教官の嫉妬（大好物）とともに、<br />ありきたりな話ですが、気分転換に書きたくなったので。

寝言

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6505023#1

「――カラ松、大事な話があるんだ」 おそ松がそう言ったとき、カラ松はちょうど鏡を片手に、今日の夕飯は何だろうなと思っていたところだった。何も食い意地が張っているだけではなくて、まぁ張っていることは否定はしないけれど――手間のかかるメニューなら、マミーの手伝いをしないとな、と思ったからだ。 料理ができるわけではないカラ松でも、運んだり分けたり、くらいの手伝いならできる。 まぁそんなわけで、物思いに耽っていたのだが、そんなカラ松の空想をぶち破る勢いで声をかけてきた長男は、いつもとどこか違っているように見えた。 いつもふざけたり、おどけたりとそんなところの多いおそ松だが、今は真剣な声音に表情――こちらを見る兄に、ドキンと心臓がひとつ跳ねる。 場所は自宅の居間なのだけれども。 少女漫画も真っ青な、そんな効果音を鳴らした心臓を押さえ、カラ松はおそ松を見上げた。 カッコいいな、と思ったのと同時に、何だか少しもやっとした気持ちになる。 ちなみにカッコいいと思ったのは、兄としてだけではなくて。 カラ松はこの六つ子の兄に、恋心を抱いている。それはもう、随分前から。けれどそれは、おそ松も知っていることだ。なぜなら約一年ほど前から、カラ松はおそ松とお付き合いなるものをしているのだから。 「話？なんの話だ？」 そう尋ねたカラ松に、おそ松は少し躊躇った後、いや、と首を振った。 「今じゃなくて――、一週間後でもいい？」 そのときに話すから、と。 そう言われて、わかったととりあえずは頷いたけれど。 緊張が解けたかのようにホッとしたような顔のおそ松が、よかったと口にする。 「じゃあ俺、ちょっと出かけてくるわ」 そう言って出て行ったおそ松に、ああ、と返事をして、首を傾げる。 何だろう。何かがいつもと違うような――だけど考えてもわからなかったので、とりあえずは気にしないことにした。 物事を深く考えるのは得意ではない。何だかもやっとしたのも、気のせいかなぁなんて思っていたのだ。 しかしそんなことを考えていたカラ松は、次の日には嫌でも自分の考えが間違っていたことを思い知らされる。 次の日の夕方、一番早く帰ってきたのはトド松だった。 「ねぇねぇ誰かいる？あ、カラ松兄さん。ただいま」 玄関を入ってきて、居間に入るなりそう言うトド松に、お帰りと告げる。 今日は寒いし、外に出かけるのもなぁなんて思っていたカラ松は、家に一人で、もう少ししたら母松代に頼まれた夕飯の材料の買い出しに行く予定だった。 しかし。 「聞いてよカラ松兄さん。おそ松兄さんがさぁ」 外が寒かったのだろう、いそいそと炬燵に入って、はぁあったかい、と表情を緩めたトド松は、そうだと顔を上げて、こちらを見上げた。 ――おそ松兄さんが。 その名前だけで、わかりやすいほどに大きく跳ねた心臓に、自分でも呆れてしまいながらも、話を聞こうと耳を傾ける。 「今日街中で――あ、今日僕も女の子たちと出かけてて、おそ松兄さんを見かけたんだけど――それがさ、知らない女の人と並んでんの！」 嬉しそうな顔しちゃってさぁ、と続けるトド松に、一瞬わけがわからなくて、え、と随分乾いた声が漏れる。 ――知らない女の人と並んで ――嬉しそうな顔 頭の中を駆け巡る言葉に呆然としていたカラ松の耳に、トド松が自分を呼ぶ声が聞こえる。 「カラ松兄さん？」 どうかした？と尋ねられて、あ、いや、と慌てて首を振った。 兄弟たちには、自分と兄のことは言っていない。いつかは言わなければと思っているが、なかなか勇気が出ないし、そもそも人前でいちゃつくわけにもいかないし、家で二人きりにでもならない限りは、自分と兄はごくごく普通の兄弟と何ら変わりないのだ。それでも、ゆっくりと愛を育んできた、と思っていた。――少なくとも、自分は。 脳内に、楽しげに笑い合うおそ松と知らない女の子の姿が浮かんで、それがやけにリアルで、カラ松はもう何も言えなくなってしまった。 「たっだいま～っスル、マッスル！」 元気よく飛び込んできた十四松の声、そして入ってきた十四松本人、そして続いて入ってきた一松が、トド松とカラ松を見て、不思議そうな顔をした。 「どうしたの？二人そろって！」 野球バットを持って、どれだけ激しく動いたのか泥だらけの十四松からバットを受け取り、とりあえずお風呂に入らないと、と声をかけようとしたカラ松に、そうだ！と十四松は叫んだ。 「おそ松兄さんがねぇ、すごく深刻ムードで歩いてたよ！」 え、とカラ松が聞き返すよりも先に、ああ、と一松が続ける。 「俺も見た。なんか女っぽい可愛い袋持って歩いてるとこ。珍しく真面目な顔してたけど」 何なんだろうね、あれ、と言う二人に、カラ松はもはやその声も耳に入っていなかった。 次々に入ってくる弟たちからの情報。そしてカラ松の頭の中では、ある一つの答えが導き出されていた。 「ただいま～…って何、どうしたの？みんなそろって」 ハロワに行っていたらしいチョロ松が帰ってくるなり、居間で固まっている四人を見て、わずかに眉を寄せてそう尋ねる。 認めたくないけど。 ――大事な話、女の人と楽しげに笑い合っていた、女っぽい可愛い袋、真剣な、顔。 そこから導き出される答えは、おそらく一つ。 「プロポーズ…」 ぼそり、と呟いたカラ松に、みんなが、え、と驚いたようにこちらを見た。 「何でもない。気にしないでくれ」 そう言って笑うと、カラ松は一つ息を吐いた。そして。 「なぁブラザーたち。恋の道は人それぞれだ。無闇に周りがあれこれ聞くのはよくないんじゃないか？」 そう言うと、若干気まずそうにトド松と一松が顔を見合わせ、十四松とチョロ松はわかっていない顔をしたが、玄関から聞こえた母のただいま〜という声を合図に、その場は解散となった。 結局その日、おそ松は夜遅くなっても帰って来ず、その日を境に毎日朝早くから夜遅くまで帰って来ないようになった。 好きな人を信じるのは難しい。それが特に同性で兄で六つ子で、と何重苦もあるとなおさら。 カラ松には、確信に近い予想があった。 兄は自分に話があると言った。それも大事な話が。 それは、好きな人が出来たからその人と付き合いたい、いや何だったら結婚したい。だから別れてくれないか――そんなことではないだろうか。 そう思えば、今までの兄の言動に納得がいく。何もこの昨日、今日だけのことではなくて。 そもそも、告白からしてめちゃくちゃだったのだ。自分と兄は。 約一年前。 カラ松がおそ松に告白したのは、本当に偶然のことだった。 いや、告白と呼んでいいのかわからないような、そんな偶然の出来事だった。 「行ってきま～す」 そう言って、元気よく出かけて行った十四松とトド松の声は、今でもはっきり覚えている。確か、珍しくトド松の買い物に十四松がついていくという予定だったはずだ。 そしていつも通りハロワに行ったチョロ松に、一松は猫のところ。 おそ松は最近パチンコに負けたから今日は馬に会いに行くと言っていた。どっちも一緒じゃねぇかこのクソ長男、とチョロ松の罵る声に、カラ松も笑って、そしてみんなを見送って。 さぁ自分も出かけようかと思ったけれど、天気はいいのにどうにも出かける気分にならない。 カラ松ガールとの逢瀬、とみんなには公言してはばからない日課も、何だか気が進まず、カラ松はぼんやりとついたままの居間のテレビを見つめていた。 自分のこのどんよりと重たい気持ちには、心当たりがある。 何なら、これは最近始まったことではなくて、それこそ十年以上拗らせている病のようなものだ。 風邪やケガなら、ある程度時間が経てば治る。けれどこれは治らない。多分、一生。 カラ松ガールとの逢瀬だって、実現するわけがなかった。なぜなら、カラ松が好きな相手は、可愛いらしい目がクリッとした女の子でもなければ、スレンダーな大人美人のお姉さんでもない。そしてもちろん昼下がりの人妻、でもなくて。 クズでニートのどうしようもなくめんどくさい、我が家の長男なのだから。 いつからだったのだろう、と思い返してみても、はっきりとは思い出せない。それくらい長い間、カラ松はこの病と付き合ってきていた。 いわゆる恋煩い。口にすることなど絶対に出来ない。 だって、うまくいく想像が出来ないのだ。 えっとドン引きされるか、もしくは大丈夫かと心配されるか、俺も好きだよ、兄弟としてだけど――と、気を遣われるか。 あらゆるパターンのリアクションは思い浮かんでも、俺もだよ、とおそ松が微笑んでくれる絵だけは、どうしても想像出来なかった。 だって、同性で兄弟で六つ子でって、一体何の冗談だといっそ笑ってしまいそうなほどだ。これ以上の難条件を言えと言われる方が難しいだろう。 それでも。いくら自分に無理だ諦めろと言い聞かせてみても、気持ちは一向に無くならず、むしろ年々膨らんできている気さえする。 無邪気に何のてらいもなく、自分に触れるおそ松に、その明るい顔で笑いかけられるたびに、カラ松の心臓は壊れそうなほどに大きく鳴り響いているのだ。いつか聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいに。 そしていつかは、この家から離れなければと思うのに、それが一向に実行できていない。 側にいたい。離れたくない。だけど離れたい。苦しい。辛い。好きだ。 相反する気持ちがせめぎ合い、自分の心なのに思い通りにならない感情に、時折叫び出したくなることがある。だからカラ松はこうしてたまに一人になり、鏡に向かって言い聞かせるのだ。 お前の好きな相手は六つ子の兄。叶うはずなんてない。諦めろ。 諦められないなら、せめて気持ちを抑えて忘れて見ないふりを―― 「――無理だ」 けれど今日に限ってそれが上手くいかなかった。いつもなら、こうなったときは、みんなが帰ってくるまでには何とか気持ちが持ち直しているのに、全く上手くいかない。 ――好きだ。どうしようもなく。 思わずボロ、と溢れた涙を拭う余裕すらなく、カラ松は唇を震わせて、そっと声に出してみた。 「――好きだ。おそ松」 嘘偽りなく想う気持ちと、長年恋い焦がれて止まない兄の名前を口にしたところで、何となく心のもやが晴れた気がした。 やはり声に出したらすっきりするというのは本当らしい。愚痴でも悩みでも、例え答えが出なくても、口にするだけで気持ちが晴れるものだと、どこかで聞いたことがある。 恋心も同じようなものなのだろうか。それはわからなかったけれど、少なくとも今の自分には効果的だったようだ。 幾分軽くなった気持ちで、さぁ出かけるかと鏡を置いて立ち上がろうと顔を上げる。そして、完全に固まった。 「え、な…んで、」 そこには見間違えようもない顔。 おそ松が、呆然とした表情でこちらを見て立っていた。 ――何で。嘘だ。いつから。 聞きたいことはたくさんあるのに、一つも言葉にはならず、結局サァッと全身から血の気が引くのを感じながら、カラ松は震える手をもう片方の手で押さえ、何とか口を開いた。 「どう、したんだ？随分早いな」 いつも通りを心がけた声音は、震えないようにするのが精一杯で、目を合わせることさえ出来ない。 未だに目を見張って自分を見ていたおそ松は、カラ松の声にハッとしたようにこちらを見て、ああ、と答えた。 「財布、忘れたから」 ああ、そうか。 確かにタンスの上には、おそ松の赤い財布が乗っていて、それは確か昨日、あんまりにもギャンブルに負け続けるおそ松に、キレたチョロ松が、ここに隠してやると言って、十四松に肩車してもらって乗せていたものだ。それを見て、自分も笑っていたのに。なのになんで。それを思い出す余裕もないくらいに。 それくらいに自分は―― 「すまない、おそ松。用を思い出したから出かけてくる」 やけに冷静な声が出て、さっと片手を上げたカラ松は、そのまま、ああ、とポカンとしたまま返事をしたおそ松を置いて居間を出た。 そして全力で駆け出す。しかし、脱出は叶わなかった。なぜなら。 「――って待てコラァ！何なかったことにしてんだこのクソ次男！」 居間を飛び出してきたおそ松に、背後からタックルをかまされ、あえなくカラ松の逃亡劇は二秒で終わりを告げた。 足の速さでは、チョロ松が一番、次いでおそ松、カラ松。 そして力ならカラ松とおそ松は五分五分だが、いざという時には結局負けてしまう。 敵わないのだ、この兄には。 ボロボロととめどなく溢れる涙を拭う余裕もなく、文句を言おうとしたらしく、手を伸ばしてきたおそ松は、カラ松の顔を掴んで、ギョッとしたように目を見張った。 「カラ松、」 「離してくれ」 ヒュッと、自分が息をのむ音がする。どんどん冷えていく廊下で。もうすぐ春なのに、今日はまだ寒い。そして自分のこの恋にも、春なんて来ない。わかっているから。 「おそ松が聞かなかったことにしてくれたら、俺は何も言わなかったことにするし、もうさっきみたいなことは二度と言わない。全部消してみせる。だからお願いだおそ松、さっきのことは――」 「やだね」 短く答えたおそ松に、え、と声が漏れた。長い付き合いだ。声だけでわかる。これは、絶対言うことを聞かないときの声だ。かなり頑なでめんどくさいやつだ。でも、なんで。 「カラ松」 自分を呼ぶおそ松が、頬を両手で挟んで、無理矢理に目を合わせられる。嫌だと首を振っても、振り切ることも出来ない。敵わない。 その事実にまた、涙が溢れる。 けれど、合わさった目尻から溢れた涙をそっと拭ったおそ松は、やがてふにゃりと柔らかく笑うと、カラ松をギュウと抱きしめてきた。 「だってさ。やっと両想いなのに、なんで忘れなきゃいけないの？」 ――絶対なかったことになんて、してやんない。 耳元に響くその甘い声に、頭が上手く働かない。 嘘だ、とか、なんで、とか。 そんな言葉にもならない声に、おそ松はまた笑って、目を合わせてきて。 好きだよカラ松、とそう言われて、誰もいない廊下で、初めてキスをした。自分の涙でちょっとしょっぱい、多分一生忘れられない、そんなキス。 結局そのあと付き合うようになったけれど、おそ松とのキスも抱きしめられることも手を繋ぐこともそれ以上も。慣れることなど出来なかった。 好きで好きで一緒にいられるだけで、信じられないくらい嬉しくて。 夢じゃないかと何度も思った。 毎朝目覚めて、もしこれが夢でも受け入れようとも思った。だってもう、分不相応なくらいの幸せを、自分はおそ松にもらったのだ。これ以上なんてバチが当たるし、これが夢でも仕方ない。そりゃあ、ずっと続けばいいと、思ってはいたけれど。 「――幸せだったな」 長い回想を終え、幸せに浸る気持ちを噛み締めて、カラ松はそっと鏡を持ち直した。 ここ最近は、鏡を持つことはあまりなくなっていたけれど、もう一度自分に言い聞かせなくてはと思ったのだ。 時刻は日付が変わったところ。みんなは寝静まり、兄はまだ帰ってきていない。 自分も寝るつもりだったけれど、何となく寝付けなくて、何度も寝返りを打つうちに諦めて、こうして居間の炬燵に入り、鏡を見つめていたのだ。深夜に鏡を見るなんて、なかなかシュールな絵だし、ちょっとホラーみたいだなんて思わなくもないけれど。 だけどこれは、自分へ言い聞かせるためだから。また弟に知られれば、イタイとか言われそうだけど、それでも今の自分には必要な気がした。 だけどもう寝ようかな。おそ松と顔を合わせるのも辛いし。 そう思っていたところで、ふいに玄関でガタリと音がした。 少し驚いて、けれどそのあとシーンと物音がしなくなったので、恐る恐る玄関へと向かう。 うちに帰ってくるのは、あとは兄だけだ。まさか泥棒なんてことはないだろうけど―― 「おそ松！？」 そんなことを思いながら覗いた先には、玄関にもたれるように、靴も脱がずに眠りこけている兄の姿があった。 「なんでこんなところで寝て――ああもう、風邪ひくぞ」 言いたいことはたくさんあったが、今はとりあえず兄が風邪を引いてはいけないと、靴を脱がせ、自分にもたれかからせるようにして、無理矢理に廊下を歩く。 そして居間へとついたところで、ぐらりとバランスを崩し、炬燵の方へと倒れ込んだ。 「う、わ――…っ」 炬燵の机の端で頭を打たなかったのは奇跡だ。 そのまま二人して倒れ込み、炬燵布団に顔を突っ込み、うう、と呻いたカラ松は、そのままうっすらと目を開けたおそ松が、ぼんやりとした表情で起き上がり、自分をじっと見下ろしているのを見ていた。 「おそ松？起きたなら布団で――」 ふいに、へらりと笑った兄がこちらへ手を伸ばす。そしてギュッと抱きしめられて。 「――ふふ。もうすぐだから待っててね」 「…え？」 そして聞き返す間も無くそのまま崩れるように倒れ、寝入ってしまったおそ松に、カラ松は呆然としたまま、兄の寝顔を見つめていた。 寝ぼけていたのだろう。待ってて、という言葉は好きな相手に向かっての言葉なのか。 起きているときだって、年相応とは言えないけれど、それでもそこそこ凛々しい顔をするときもある兄の、無防備な寝顔。 まるで何も知らないように。 ――この寝顔を、他の人に見せるのか。 無防備な笑顔も悪戯っぽく笑う顔も、拗ねたように唇を尖らせた顔も、時折何か考え込むように、ぼんやりとタバコをふかす横顔も。 「あ、――ダメだ」 ギュウ、と胸を押さえて、一つ息を吸い込む。 もう少しなのだ。気持ちを抑え込むのに、もう少しだけ時間がかかる。 明日で約束の一週間だ。 あと少し。だけど、兄の無防備な寝顔を見てしまったら、何だか決意が緩んでしまった。 ――ああ、好きだなぁ。 そう思って、そんな自分に呆れてしまった。 今日で終わり。日付が変わったから、本当はもうダメなのだけれど。 「それはご愛嬌ってことで、ちょっと許してくれないか？」 聞こえないことがわかっているから、そう言って。 多分今の自分は、誰にも見せられない顔をしているんだろうなぁと思いながら。 これで終わりにするから。だから今だけ。 「――好きだったよ。おそ松」 今日、自分はこの恋を殺す。 そのために、一度だけ。 そっと触れた唇は、少しカサついていて、なんだかちょっと涙が出た。 「――カラ松さぁ、おそ松兄さんと何かあった？」 チョロ松がそう言ったとき、カラ松は雑誌を見ていたところだったが、ん？と顔を上げた。 ファッション雑誌、と見せかけて、中には就職情報誌を挟んでいる。 よく学生がやる、教科書の下に漫画、の逆バージョンだ。急に就職情報誌なんて見ていたら、どうしたんだと兄弟たちに質問攻めにあいそうなので。 単純だと言われるかもしれないが、さすがにおそ松と他の女の子がいちゃつくところを横で見ていられるほど、神経は太くない。 この機会にフリーターでもいいから働いて家を出るかな――なんて思いながら、雑誌を眺めていたわけだが。 チョロ松に、おそ松のことを聞かれたとき、カラ松の心は自然と落ち着いていて、自分でも驚くほどに冷静な対応ができた。 ――これもひとえに、この一週間いろいろ悩み抜き、そして昨日気持ちに折り合いをつけた結果だろう。 そうでなくては、自分はきっと動揺して、かなりえらいことになっていた気がする。 「いや、何もない。どうしてだ？」 そう尋ねると、いやだってさ、とチョロ松はため息混じりに、答えた。 「前まであんなに一緒にいたくせに、最近全然でしょ？正直いちゃつかれても迷惑だけど、よそよそしいのも、それはそれで鬱陶しいっていうか」 かなり難易度の高いことを言ってくる弟に苦笑しつつも、心配してくれていることがわかるので、嬉しく思いながらも、カラ松は口を開いた。 「心配かけてごめんな。だけど大丈夫だ。喧嘩してるわけでもなくて――」 言いかけて、あれ、とそこで思い至る。 「チョロ松、もしかして俺と兄さんのこと――」 ああ、と気づいたような顔で、チョロ松は頷くと。 「まぁね。てか、あれで隠せてると思う方がどうかしてるよ。あれだけチラチラ見てたら嫌でも――ってまぁそれはいいんだけどさ」 いやよくないけど、うざいけど、と言いながらも、でもまぁ愚痴とか相談くらいなら聞くけど？と照れくさそうに言ってくれたチョロ松に、カラ松は思わず笑みを浮かべた。 ――優しいな。本当に。 こうして自分のことを、そしておそ松のことも気遣ってくれている、この口調は少しきついけれど優しい弟に、嬉しくも申し訳なく思いながら。 「ありがとう――でも、もういいんだ。諦めることにしたから」 静かにそう言ったカラ松に、一拍置いて、え、とチョロ松は呆気にとられたようにこちらを見た。 「――え、ちょっと待って。諦めるって何を？あのクソバカ長男の、ギャンブル癖とかどうしようもないとことか精神年齢の低さなら、もう諦めるしかないって僕も思ってたとこだけど」 そういうことじゃなく？と聞かれて、ああ、とカラ松は頷いた。 「兄さんを好きでいるのを諦める。この一週間でやっと決心がついたんだ」 自分でもびっくりするくらいの落ち着いた静かな声で話すことが出来た。 え、ちょっと待って。マジで意味わかんない。 混乱気味にそう言うチョロ松に、カラ松はこの一週間のことを口にした。 一週間後に大事な話があると言われたこと。トド松たちが見たおそ松の姿。寝ぼけたおそ松の言葉。 それで導き出した答え。 「おそ松兄さんには、好きな人が出来たんだと思う。その人と結婚するための指輪か何かのプレゼントを買ったり一緒にいるところを、トド松たちは見たんじゃないかな。大事な話っていうのは、そのために俺と別れたいっていうことだろう」 ――今日も朝から出かけて行ったしな。おそらく女性を連れてくるんじゃないかと思ってるんだが、と。 そうカラ松が口にすると、チョロ松はポカンと口を開いて―― 「いや、何言ってんのカラ松」 そう、呆気に取られたような顔で言った。 「何ってだから、」 「いやいいよ！マジで頼むから、そんな恐ろしいこと冗談でも口にしないでよ…自分が何言ってるのかわかってるの？」 呆然とした弟にそう言われても、カラ松はなぜチョロ松がそんな風に言うのかわからず首を傾げた。 「いや、冗談じゃないぞ？俺は、兄さんを好きでいることをやめたんだ。だから今日の話もちゃんと冷静に落ち着いて聞いて、受け入れて――」 「へ〜え。随分楽しそうな話してるね」 唐突に割り込んできた声に、驚いて顔を上げる。そこには。 「なんかいろいろ聞こえてきたけど、全部俺の聞き間違いってことでいい？カラ松」 自分を指定してそう言って来たおそ松が、襖を開けて立っていた。 こちらを見下ろすその顔は、いつも通りの屈託のない笑顔だ。しかし。 （――あれ？） わずかばかりの違和感に、カラ松はおそ松の顔を見上げた。 一人で、女性らしき人を連れて来なかったこともだが、この違和感の正体は。 「いや、聞き間違いじゃない。俺はこの一週間いろいろ考えて、ちゃんと兄さんの恋を祝福する決意を――」 言いかけた言葉は、最後まで発することは出来なかった。 なぜか伸ばされた手に、腕を掴まれ勢いよく引かれて。 「う、わ――、…！？」 そのまま抱え上げられて、視界が反転する。 「ちょ、おそ松、」 「いいから黙って」 ピシャリと言われた声は、およそ兄らしくもなく低くて、そして同時にカラ松は、自分の違和感が当たっていたことに気付いた。 兄は、怒っている。それはもう、ものすごく。おそらくこれは、過去でいうとたった一度だけ、壮絶な兄弟喧嘩をくりひろげた高校時代。それと同じくらいに。だけど、なぜ？ 混乱状態のカラ松を抱え上げてスタスタと歩きながら、おそ松は思い出したように口を開いた。ただし、チョロ松に向かって。 「チョロ松、」 「あ〜はいはい。わかってるよ。適当なとこであいつら連れて出かけるから。とりあえず二階には上がらない」 まるで心得た、とでもいうような調子でチョロ松はそう答えて。 部屋を出る間際、無理やりに体を捻って振り返った先のチョロ松は、あ〜あとでも言いたげな表情で、一つため息を吐いていた。 全くわからない。なぜこうなったのか。 抱えられたまま、階段を上り、二階の部屋に着くと、そのまま部屋の中央にあるソファに投げ出された。 柔らかなソファは、勢いよく着地してもそれほど痛くはないが、それよりも驚きの方が大きい。 「おそ松、」 呼びかけようとして、その顔を見たカラ松は、一つ息をのんだ。 さっき自分が思ったことは間違いだった。高校時代の比じゃない。めちゃくちゃに怒っている。これは。 静かに淡々と怒るおそ松、なんてものをほとんど見たことがないけど、これは―― 「なぁ、カラ松」 ふいに呼びかけられ、そしてその指先が頰に触れた。 反射的に体が跳ねそうになったけれど、何とかこらえて兄の顔を見つめ返す。 「さっきの、何。どういうこと？」 お兄ちゃんにもわかるように説明してよ、と。 そう言う兄の顔は、笑っているのに目が全然笑っていない。けれど、言わなければ。 ぐっと唇を噛みしめて、口を開く。 そもそもなぜ自分がこんなに怒られているのか、さっぱりわからないのに。 「…言葉のままの意味だ。兄さんは、好きな人が出来て、その人と結婚したいんだろう？だからプレゼントを買ったり、街中で一緒にいたり…だから俺は、もう兄さんのことを諦めようと思ったんだ。一年も付き合ってくれたから、もう――」 ひ、と。 思わず唇から声が漏れた。 手首を掴まれて。そのまま強く握られた。 痛みよりもわけがわからない恐怖心が、こみ上げてきて息をのむ。 「…へ～え。ふ～ん。…なるほどね」 そう言ったおそ松は、にっこりとそれはもう満面の笑みで笑うと。 「そっか。カラ松はいい奴だもんな。大事な兄ちゃんのためなら、自分の気持ちを殺すなんて、朝飯前だよなぁ？あ、違うか。そもそも俺への気持ちなんて、そこまで強くなかったってことか。そりゃそうだよな。そんな簡単に諦められるようなもんだもんな――…っ！？」 ぐ、と。兄が呻く。 気付けばその額に、勢いよく頭突きをかましていた。 「いい～…てぇ…！」 呻くおそ松を尻目に、立ち上がり、そして叫ぶ。 「～ふざけるな…！そんな簡単に諦めるわけないだろ！ずっと好きで、兄さんも同じ気持ちだってわかってホントに嬉しくて…だけど諦めなきゃって思って、」 ――辛くて辛くて。 両想いなんて夢かもしれないとずっと思っていた。そしてそれが本当に夢だったんだと思ったときに、何とか自分に言い聞かせた。 ああ、やっぱりと。そんな幸せなこと、あるわけなかったんだ。 兄さんは優しいから。俺に合わせてくれていた部分もあるかもしれない。それでも幸せだった。この一年は、本当に。 「だから…この先ずっと、俺はこの思い出だけを覚えて生きていこうと思って…でも、本当は嫌だ。兄さんも、兄さんの好きな人のこともホントは祝福なんてしたくない。結婚式なんて出たくないし笑顔なんて絶対作れない。嫌だ…！」 ボロボロと溢れる涙を拭うこともできずに、一緒に溢れる言葉も抑えきれない。 だけどもう無理だった。こんな自分は知らない。 ああ、だけど言うつもりなんてなかったのに。 もうダメだ、とさらに溢れそうになった涙を拭おうと上げた手を、ふいにぐいと掴まれた。 「――やっと言ったな」 え、と目を見張る先には、にやりと笑った兄の顔。 「それが聞きたかった」 そのまま手を引かれ、バランスを崩し、倒れ込む。 ちゃんと支えられたからか、ぽすんと間抜けな音がした。混乱状態のカラ松の頭には、いくつものクエッションマークが浮かぶ。そんなカラ松の背中に手を回すと、おそ松は、長く長く息を吐いた。 「――あのさぁ、カラ松」 なんだ、と答える声は、情けないくらいに鼻声で。 「お前の言ってるそれ、全部勘違いだから」 「……え？」 ぽかんと口を開けたカラ松の顔に、思わずと言った感じで吹き出したおそ松は、いやでもさ、と続ける。 「な～んでそんな勘違いしちゃうかなぁ…いやまぁ俺も悪かったけどさ」 呆気にとられたままのカラ松の耳に届いたおそ松の言葉をまとめると。 トド松の目撃情報は、確かに一部正しい。ジュエリーショップのショーウィンドウで店員の女性と並ぶおそ松の姿を見た、というのが正しいらしい。 そして一松、トド松が見たのは、買ったアクセサリーの入った袋を持って、真剣な顔で歩くおそ松の姿。 「――で、なんでこれで俺が心変わりしたってことになるのかなぁ」 ため息交じりでそう言うおそ松の言っていることは段々わかってきたが、カラ松は言いたいことが一つあった。 「…あの、兄さん。ちょっと離してくれないか」 なぜか先ほどから、おそ松はカラ松の体を後ろからがっちりホールドして全く離してくれないのだ。 しかも、うーんそれはちょっと無理だなぁと流されてしまい、そのままで話が進む。 「で、その送り先だけどさ。何好きな人って。お前に決まってんじゃん」 あっさりと言われて、種明かしをされたらこんなに呆気ないものなのに。 「そもそもさ、今日で俺ら付き合って一年でしょ？記念日だからいろいろ考えてたんだよね。それをなんで心変わりなんてことになるんだよ、もう」 あ～あ、兄ちゃん傷ついたなぁ、と言いながら、まぁでもなぁと背後で苦笑した気配がして。 「誤解させちゃった俺にも原因あるよね。この一週間いろいろ夢中で、全然余裕なかったからさ。ごめんな、カラ松」 くるりと体を反転させられ、見つめられて。 ――あ、と声を発する間もなく。 頬に手を添えられ、距離が一気に詰められて。 「お前はさ、すげぇ優しいからもし俺が他の奴のとこ行きそうになっても、俺の幸せとか考えて、動けなくなっちゃうだろ？ま、絶対そんなことないんだけどさ」 俺、お前のことホント愛しちゃってるからさ、と。 そう言いながら、じっと見つめれて、その目の奥にある熱に気付いて、動けなくなる。 「だけど、俺はお前の本音を聞きたかったわけ。いい子でも優しくもなくていいから、俺のこともっと欲しがってよ。そしたらもう、一生お前のこと離さないよ」 こくり、と。 自分の喉が小さく音を立てるのを聞きながら。 「俺、は…」 ――怖い、怖い。 自分のこのワガママな本音を言うのが。だけど。 このとろりと蕩けるような目で自分を見つめてくれる兄を見ていると、何だかもう、言ってもいいような、そんな気がして。 一つ息を吐いてから、そっと口を開いた。 「――俺は、おそ松のことが好きだ。好きじゃ足りないくらい、愛してる。他の誰にも渡したくない。もう絶対、おそ松の寝顔も笑った顔も、怒った顔も拗ねた顔も、全部全部渡したくなんか――」 ぼふん、と音がしそうなほどに赤くなったカラ松を、ふは、と笑ったおそ松が抱きしめて。 「あ～…なんなの、もう。カラ松お前、可愛すぎ」 耳元で笑う声が、くすぐったい。 そこで、あれ、と気がついた。 「…え、おそ松、これ…」 いつの間にか。 気付けば左手の薬指に僅かな重みがあって。 バッと顔を上げて、驚いて目を見張って、自分の指と兄の顔を見比べて。 「これ…」 そこには、キラリと光るシルバーの指輪。シンプルで、けれど品のいい指輪が嵌っていて。 「ふっふっふ…いやぁ苦労したよ～」 カラ松、俺すげぇ頑張ったよ、褒めてと。 ゴロゴロと喉を鳴らすように、唐突に甘えてくる兄に、わけがわからないながらも、とりあえず受け止めて。 「いやぁこの一週間、慣れない労働で体はいてぇし、お前に全然会えないし触れないしさ。まぁそのせいでいろいろ誤解させちゃったけど」 ごめんな、と。 そう言われて、ハッと思い出したのは。 数日前の夜、寝ぼけたおそ松に言われた言葉。 ――ふふ。もうすぐだから待っててね。 「これの、ことだったのか…？」 わかればこんなに幸せで、甘い、そんな感覚。 「あ～俺そんなこと言ってたんだ」 早く言いたくて、だけど我慢してたし、やっぱり緊張してたしね、と。 「あ～でもやっぱちょっとカッコつけてたかも、俺。お前にいいとこ見せたくて」 ギュ、と抱き着いてくるおそ松は、柔らかく笑って。 「だけどそのせいでお前はいろいろ考えちゃったんだよなぁ」 ごめんな、と。 「いや、それは俺が…って、おそ松？」 なぜかそのまま体重をかけられて、倒れ込んだ先の視線は、天井と兄。 ―――んんん？ と混乱するカラ松に、おそ松はにっこりと笑って。 「いや～思ったんだけどね、俺。やっぱり最大の問題は、カラ松に俺の愛が伝わってないことだと思うんだよね」 え、と答えるよりも先に。 「だからここは、改めて愛を確かめ合うべきだと思うんだよね」 「え…え、」 「ホントはさ、今日は記念日デートしようと思っていろいろ準備してたんだけど。でも、」 ――もっと大事なことがあるよね？と。 そう言って満面の笑みの兄は、やっぱりカラ松には一生敵わないような気がして。 「…って、いやおそ松、下にブラザーたちが…、」 「大丈夫、大丈夫。人払いしといたから」 あははと笑うおそ松に、さっきのチョロ松の顔が浮かんで、やっと意味がわかり。 ああ、やっぱりこの人には一生敵わない。 そう思い、カラ松はもう絶対にこの兄を怒らせないようにしようと心に誓ったのだった――…。 「…で、大事な話ってのは…？」 「え、もう付き合って一年だし、そろそろ家出て同棲したいと思ってさ」 指輪だけでなくいろいろ準備していたらしい兄の手際のよさに、カラ松が完全にフリーズするのは、その次の日の話。 ．

盛大な勘違いを繰り広げたカラ松が、おそ松兄さんと幸せになるまでの話。<br />糖度は高めな気がします…

勘違いは彼の特権なので

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☆あてんしょーん お読みになる前に！ キャプションの赤字はお読みいただけましたか？ まったくもって問題ない！という方だけ次のページへお進みくださいませ。 [newpage] 「怖いもんなんてありゃあしねえよ。俺が守ってやるからよ！」 何でもできると信じて疑わなかったあの頃。 病に伏した親友が死ぬのが怖いと病院のベッドで泣いた日、俺は笑って自信満々にそう告げた。 俺たちが生まれた日、同じ病院にいて、隣同士の保育器で、家まで隣同士だった俺たちはまるで双子のように育った。 笑う時も怒る時も泣く時も喧嘩する時も謝る時も一緒。 好きな事も好きな物も好きな食べ物も一緒。ただ嫌いな食べ物は違う。俺はピーマンが嫌いで親友はブロッコリーが嫌いだった。 性格は俺の方が少しだけ外向的で親友は内向的だったけど、一緒にいて楽しかったのはやっぱり親友だった。 趣味も好みも似通った俺たちに決定的な違いを一つ挙げるとするならば、親友が人よりも病弱という一点だろう。 だがその一点が俺と親友の永遠の別れを呼んだのだ。 「…嗚呼、怖いな。本当はこんなにも怖いものなんだな、死っていうのは」 凍えるような冷たい銀色の絨毯の上に仰向けで転がる。 視界を遮るもののない空はどこまでもどこまでも青く、蒼く、碧かった。 青い空に渦巻く白い雲は今にも俺を吸い込んでしまうんじゃないかって、馬鹿な想像を、した。 ああ、俺は本当に馬鹿だ。 怖いと言って泣いた親友を、病気から守ってやると出来もしないことを簡単に言った俺。 くしゃりと顔を歪ませて泣きそうな顔で「ありがとう」と言った親友は何を想っただろう。 そうして、あれほど豪語しておいて何もできず守れず立ち尽くすしかできなかった俺を、最期の瞬間、あいつは何を想ったのだろう。 段々と冷たくなっていく俺の身体から、最後の最後、熱い滴が顔を濡らし、じゅわりと一瞬、雪を溶かした。 意識を完全に失う寸前、どこか遠くで鳥の声が聞こえたような気がした。 ＊ それが人間として生きた俺が覚えているすべて。 死んだのだ、俺は。俺は間違いなく死んだのだと、そう、思っていた。 だけど俺はそれが当たり前の行動のように気づいたら目を開け身体を動かしていた。 生きている者としての動作に何故か俺は何の疑問も抱かなかった。 そして、俺の目が眼前の人物を捉えた瞬間、俺がこれから生涯“守っていく”御人だと確信した。 心が躍る、魂が震える。言い聞かせる必要性なんてない。それが俺が生まれた意味。俺の持つ全てでこのお方を、俺は。 声に出し、音にして生み、言の葉として生かし、俺はこの命を抱えて生きて行く。 「前田藤四郎と申します。末永くお仕えします」 ―――今度こそ、貴方を、主君を、守って御覧にいれます。 ＊ 二度目の人生―――どうやら刃生は人ではなく刀の付喪神のようだった。 目覚めた俺が無意識の内に紡いだ声も言葉も俺のものではなかった。 低くなった身長、高くなった声。言葉にすれば乱雑な言葉遣いではなく、臣下らしい敬語。 理由は分からなかった。だが、何故、どうして、と考えたのは一瞬だった。 次の瞬間には“守る”べく主君の為に強くならなければという思いでいっぱいになった。 “俺”という人間の人生に上書きするように吉光が一振り“前田藤四郎”の来歴が頭の中を埋めて行く。 「前田」 思考の海に潜る俺の耳に凛と響いたのは、ぱっと見た瞬間今の俺とよく似た背恰好の平野藤四郎だった。 主君―――審神者と呼ばれる者達の中でレアな短刀と言われる平野藤四郎は、何と俺よりも先に主君に仕えていたのだ。 鍛刀する為に主君に付き従っていたらしい平野が俺を呼んだと、主君は喜んでいた。 泣いて喜ぶ主君に、前田藤四郎なら幾らでも拾ったり鍛刀で得られるだろうにと失礼ながら俺は内心首を傾げたのだが話しを聞いて納得した。 そもそも主君は粟田口の刀剣を呼ぼうとして鍛刀していたらしい。 主君は珍しい事に短刀難民と呼ばれる方だった。事実俺が来るまでは平野ただ一振りしか短刀がいない。 短刀以外の粟田口の刀は揃っているというのだからとんだ難民である。 出陣しても脇差以上の刀しか見つけられず、鍛刀すれば短刀レシピにも関わらず短刀は絶対にでない。 一期一振の気にしないでくれという言葉にいつまでも甘えられないと一念発起して本日十度目で漸く顕現したのが俺だった。 「平野」 背恰好がよく似た平野が俺へ手を差し出していた。 今の俺と同じぐらいの掌が目の前にある。 呼ばれて、呼び返して、顔を上げて。目が合った平野がにこりと控えめに笑った。 初期の頃からいるという平野。顕現したての俺とは全てが違う。 雄々しく、眩しく、そして強く。 大切な主君を守るという立派な役目につく兄弟刀は背丈は同じぐらいなのにとても大きくみえた。 ぼうっと平野を見つめる俺に、彼は自信を覗かせる声で言葉を紡いだ。 「共に主さまをお護り致しましょう」 まもる。ああ、俺は、もう一度、誰かをまもるチャンスを与えられたのか。 守りたかった親友ではないけれど、だからといって主君と重ねる気なんてないけれど。 俺が此処に呼ばれた理由があるならば、どうか大切な誰かを守る為に呼ばれたのだと、そう思わせてほしい。 平野の小さく、だが俺には大きい掌に吸い込まれるように手を伸ばす。 俺の手は今度こそ空を切らず、馬鹿げた空想にならず、その熱に触れた。 「ええ。共に主君をお守り致しましょう」 双子ではない双子のような兄弟刀。 今度は君と共に、主君を。 まもって、守って、護りましょう。 ＊ 人生で刀を持ったことは一度もなく、ましてや生死を賭けた場所に行くなど過去にはなかった。 轟音、呻り声、迸る殺気、敵陣と自陣の緊張感。 どれもこれも初めてのもの経験だった。 だが“前田藤四郎”を鞘から抜き取り握った瞬間、どうするべきかどう動くべきか瞬時に理解した。 遡行軍の怒号が耳を劈く。どくどくとけたたましい音を立てているのは己の心臓。 嗚呼、 「前田」 俺の手を握る平野の手がするりと離れて行く。 「平野」 平野はもう俺を見ていなかった。俺も、平野から視線を逸らしていた。 それでも分かる互いの表情。 きっと、平野は笑っている。 嗚呼だって、 「主さまの御期待に応えるような結果を残しましょう」 「ええ、主君の為に全力を尽くしましょう」 俺も笑っているのだから。 ＊ 人で経験したことは一度もない事を今しようとしている。 一歩誤れば命を落としてしまう戦場で、俺は今、笑っている。 不思議と怖くはなかった。あの手が俺の手を握っていてくれたから。 不思議と戦えると思った。あの声が俺を呼んでくれたから。 震える身体と忙しない心臓は武者震いからだった。 平野とは別方向へと疾走しているはずなのに、まるですぐ傍にいるような感覚だった。 風を切り、人では嗅ぎ分けられないだろう敵の臭いを嗅ぎ、火の気に目を細め、熱風に心躍る。 軽やかな身体が大地を蹴り、気付いていない遡行軍の懐へ入れば“僕”の間合いだ。 「とう！」 きらりと光る“前田藤四郎”で敵の首を突き刺す。 生々しい肉の感触をまざまざと感じ、ぞわりと背筋が粟立つ。命の灯火が消える瞬間を目の前で感じる。 ずるりと音を立てて抜き取った本体に付着した赤い、血。 支えを失って俺に向かって倒れてくる敵を避けて、前を見る。 敵の慟哭が鼓膜を揺らし、ビリビリと肌に刺す。 ―――嗚呼俺は今、戦場にいる。 それを強く実感している俺に落ち着いた声が届く。 「前田。まだ終わっていませんよ」 「ええ、平野。分かっています。…早く終わらせて主君にご報告しなければ」 まるで平野の呼吸が傍にあるような錯覚。 本体を握り直し、俺は駆けて行く。 声だけが隣で響き、けれど平野の姿は俺の背後。 互いに背を向けて俺たちは戦った。 「帰還したらお茶にしましょう」 「平野。今度は僕が主君にお茶を淹れる番であること、覚えていますか」 「では前田。今日は主さまの床の準備は僕の番であることを覚えていますか」 「覚えていますが平野に任せると、いつも主君をお待たせする羽目になりますから今日も僕が」 「そういう前田こそお茶を淹れると濃いめだったり薄味だったりするではないですか。だから今日もお茶は僕が」 「…それでは平野。僕に美味しいお茶の淹れ方を教えていただけますか」 「それならば前田。僕に素早い床の整え方を教えていただけますか」 「気が向けば、お教えしましょう」 「ならば僕もその気になればお伝えしましょう」 他愛のない軽口に、くすりと先に笑ったのは果たしてどちらだったか。 トン、と軽く平野の背に当たる。 背中越しに伝わる熱と呼吸が俺を引き締める。 戦闘中なのに俺たちは一度もお互いを顧みない。それでも何故か俺たちは互いの状況がよく分かるのだ。 「平野。右を」 「前田。左を」 視線の先には倒すべき敵。 会話を交わす相手は背中合わせ。けれども俺と平野は同時に刀を強く握った。 くるり。 どちらかが合図を出したわけではないのに、同じタイミングで俺たちは踊るように回って躍り出る。 やるべきことは同じ。駆けて敵の懐へ潜り込み、素早く息の根を止める。 同じ動作を同じタイミングで的確に。特別真似た訳でも参考にした訳でもないが、俺と平野の戦い方はとても似ていたようで。 まるで鏡を見ているようだったと、部隊の仲間は後にそう語った。驚いた顔で、さすがは兄弟だなと誰かが言い、そうでしょうと兄は嬉しそうに頷いたのが印象的だった。 血の臭いが色濃く残る静かになった戦場で、俺はすぅっと目を細めた。 「どうやら生き残ったようです」 そうして、カチン、と本体を鞘に収める音だけが辺りに鳴り響いたのだった。 「前田」 「平野」 「帰還しましょう。主さまがお待ちです」 「そうしましょう。主君をお待たせする訳には参りません」 そうして俺たちは何を言う訳でもなく、当然のように互いの手を取り合った。 ＊ 「前田の」 呼び止められて振り返れば、片手を挙げた鶴丸が立っていた。 盆を持った俺を見て、珍しそうに眼を瞠る。 「平野に及第点を貰ったのかい？」 「いいえ、今日もいつもの通りに」 苦笑しながらゆるりと首を横に振る。俺の淹れる茶に平野がダメだしするのはこの本丸では周知のことだった。 それ故に俺は未だに主君にお茶を淹れたことがない。 つい先程も平野から茶が薄い、温いと落第点を頂戴したところだった。 茶を淹れる。簡単なことだと思ったが中々どうして上手くいかない。適度な濃さで適度な温度で出すにはどうすれば良いのやら。 思わず嘆息すれば、目の前に立つ鶴丸がくつくつと喉を鳴らした。 何かと目を向ければ笑みを隠しもしない鶴丸は面白そうに口の端を持ち上げた。 「ああ、いや。まるで昨日の平野を見ているようだと思ってな。きみ、昨日平野に落第点を与えたそうじゃないか」 「…平野は丁寧過ぎていけません。あれでは主君がいつまで経ってもお休みになれませんでしたから」 主君が休みたい時に素早く床を整えるべきである。だというのに平野はゆっくり準備をするのだから、見兼ねて代わったのだ。 さすがに船を漕ぐ主君をそのまま待たせするわけにはいかない。 「それで、盆を持って何処へ行くんだ？」 「いち兄の所です。お茶の淹れ方を特訓してもらう約束なので」 「ほぅ？だが茶なら鶯丸の方が良いんじゃないか？」 「………最初はそのつもりでしたが、主君から僕があまりにも平野とばかり一緒にいるのでいち兄が微笑ましく思う反面寂しがってるとお聞きしたものですから」 「…あー…まあ確かにきみ達何時も一緒だものな。一期も邪魔したくないと言いながら、きみを構い倒したくて仕方がないって顔はしていたな」 「そうでしたか。それはいち兄には申し訳ない事をしました…」 そんなに俺は平野といるだろうかと、鶴丸に言われ内心考え込む。確かに他の刀剣達よりも一緒にいるとは思うが、邪魔したくないと思う程だろうか。 連々と思い返してみれば、嗚呼成程。気付けばいつも隣に平野がいたように思える。 時折感じる兄の視線は「仲良きことは美しきことかな」という微笑ましいものだと思っていたが、意訳すれば「仲間にいれて」だったか。 そういえば茶の淹れ方を特訓したいので付き合って欲しいと兄にお願いしに行った時、ぱあああっと表情が輝いて見えたような。そして心なしか桜が舞っていたような。 あれは兄として頼られて嬉しいという意味と、心置きなく弟を構えるという意味でもあったのだろうか。 何というか物凄く罪悪感を感じてしまうのは何故だろう。そう思う程に兄と触れ合っていない所為か。 粟田口で部屋は同じだが日中は平野と一緒か主君の傍。寝るときは川の字だが、トイレに起きる俺は出入り口側を陣取り、その隣を平野が陣取るから必然的に一期とは離れてしまう。 眠る前のちょっとしたおしゃべりも茶の淹れ方や床の整え方のプチ反省会が開かれているので正直寝るときですら一期と話をしない。 精々話にヒートアップしだす俺たちを「お前たち、もう寝なさい」と窘めるぐらいだ。生憎あれを会話とは呼べないだろうが、そのぐらいしかないのである。 待ちわびた弟が顕現して泣いて出迎えてくれた兄に対してあまりにも塩対応過ぎるのではないか。気付きもしなかったが、さすがにこれは酷いと俺自身も思う。 むむむ、と百面相していた俺を眺めていた鶴丸がプッと噴き出した。 「そう気に病むな。きみ達はどこか無意識の内に互いに互いを引き寄せて一緒にいるのが自然になっているのだろうな。一期のことはあれだ、偶にそうやって頼ってやれば喜ぶ。重く捉えず“兄”に甘えたいと思った時に甘えればいいんじゃないか？」 柔らかく目を細めた鶴丸の言葉に俺はゆっくりと頷いた。 俺は知らなかったが、俺が兄に頼みごとをしたその日、鶯丸に茶のことについて聞きに行っていたようだ。自分の知識だけで問題ないか、どうアドバイスすればいいのか。 こっそり懐に忍ばせてあるらしいメモ帳にはそれはもうびっしりと俺にアドバイスする為の言葉が書かれてあった。 更に、実は平野も兄に素早く丁寧な床の整え方の特訓をお願いしていたらしい。少しずつ早くなってきたような気はしていたがそういうことのようだ。 いつも一緒にいる俺たちがお互いに内緒で兄に特訓を申し出た。 当の一期は嬉しくて嬉しくて仕方がないと、実に三十回程、鶴丸に同じ話をしていた。最初は良かったなと笑っていた鶴丸の表情が引き攣ったのは果たして何度目であったのだろう。 そうして、耳にタコができたと実に二十回程、鶴丸が鶯丸に溜息を吐きながら零していたことを、鶯丸は特別気にすることはなかった。彼はただマイペースに茶を飲んでいた。 「しかしきみ達ほんとうにいつも一緒だな」 感慨深げに鶴丸が紡ぐ。 俺は、僕は、“　　　”であり“前田藤四郎”で。 守りたかった過去を持つ俺と、守るために今が在る僕。 一緒にいながら守れなかった親友を持つ俺は、末永く仕える主君を今度は似通う平野と一緒に僕は。 「僕たちは主君を守って、護って、まもるために共に在りますから」 この手を繋ぎ僕たちは歩き、 この手を離して刀を振りかざし、 再び繋いだこの手で僕たちは僕たちの大切なものを守って、護るのだ。 俺たちが共に剣をとり双剣の如く切り開き、まもった先にあるものは。 鶴丸殿、と俺は呼ぶ。 その、未来で待っているはずのものは。 「守るは主君を、護るは僕たちを、そして守って、護って、守護した未来を待ち受けるは和平の世」 鶴丸殿、と僕は呼ぶ。 この世は、 「平和が一番と言います」 その為に俺は、僕は、彼と共に手を取り合って。 ―――さあ今日も、護って御覧にいれましょう。 （了） ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 前田は守って、平野は護るイメージ。 ああいう似たような言葉を掛けあう話を書くのが好きですなー。 以前軽口を叩く平野と前田はいいぞーというのを見て成程確かにこれはよいものですと思ってしまった。良いものですな。 ただいち兄的には彼らの距離感が微笑ましく羨ましく寂しく思っていたらと思う。骨喰鯰尾コンビとはまた違う彼らだけの空気が羨ましく思いながら眺めていたら私が楽しい。 その輪にいれて！とはさすがに言えないのは兄としての矜持でしょうな。 しょっちゅう彼らは手をつなぐので、自分も手をつなぎたいとか思っちゃういち兄はどうでしょう。（どうもしない） 前田も平野も単品でも好きですが、なんというかセットにしたくなります。 ところで実は平野の中も…おっとお茶の時間のようです。これにて失礼！ 拙い短い話をお読みいただきましてありがとうございました！

展示が決まったと聞いて思わず滾って書いた。単品だよ。いつものように抽象的で、ぼくはおれは…！もっと人に伝わり易い話を書きたいものです。<br />お隣県なので展示が始まったら絶対に見に行く所存です。<br /><br />さてさてタグを見ておや…と思われた方がいるやもしれませんね。成り代わりはもう書かないと言ったなあれこそがry…はいはいﾃﾝﾌﾟﾚﾃﾝﾌﾟﾚ。<br />しかし難しいー…。前書いたものよりも中の人感は出ているとは思いますが無理やり感が半端ない。<br /><br />あれです。考えるな感じろ…！って感じです。<br />他の刀剣の影の薄いこと薄いこと。<br /><br />とある粟田口の短刀の成り代わりっぽい話です。<br /><br /><span style="color:#fe3a20;">☆注意！<br /><br />・どう足掻いても成り代わりっぽい仕上がり<br />・口調、性格、設定、色々捏造しております<br />・登場する刀剣ものすごい少ない<br />・成り代わりっぽいものとかないわーという方は読むのをお勧めしません<br />・なんか全体的にふわっとした仕上がり。かなり考えるな感じろ…！を押しつけています<br />・わりと無理くり感半端ない<br />・もうなんでもいいよ！お前の残念さは既に知ってるさ、だからほら僕に余すところなく全部見せてごらん…？（話を）<br /></span><br />という注意を全部クリアした方だけお読みいただけるとこれ幸いです。<br /><br />追記<br />何やらランキングにお邪魔していたようで…！<br />ブクマにコメント、スタンプ、フォロー、評価ありがとうございます！<br />お返しできずすみません。この場をお借りしてお礼申し上げます。

守って、護って、まもりましょう

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